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特開2024-160610超音波診断装置及び送信ビーム形成方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024160610
(43)【公開日】2024-11-14
(54)【発明の名称】超音波診断装置及び送信ビーム形成方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 8/14 20060101AFI20241107BHJP
【FI】
A61B8/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023075809
(22)【出願日】2023-05-01
(71)【出願人】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久津 将則
【テーマコード(参考)】
4C601
【Fターム(参考)】
4C601DE08
4C601DE14
4C601EE04
4C601HH05
4C601HH22
4C601HH25
(57)【要約】
【課題】第1送信重み付け方式の弱点を第2送信重み付け方式で補う。
【解決手段】送信開口46は、中間部46a、第1端部46b及び第2端部46cからなる。中間部46aに供給される複数の送信信号に対して、送信電圧を可変する主送信重み付け方式が適用される。第1端部46b及び第2端部46cに供給される複数の送信信号の電圧は、いずれも、一定値Vminであり、それらの送信信号に対して、送信パルス幅又は波数を可変する副送信重み付け方式が適用される。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動素子アレイと、
前記振動素子アレイに設定された送信開口に対して送信信号列を供給する送信回路と、
前記送信信号列を構成する各送信信号の生成を制御する制御部と、
を含み、
前記送信開口は、第1部分及び第2部分を有し、
前記制御部は、前記第1部分に供給される複数の送信信号に対して第1送信重み付け方式を適用し、前記第2部分に供給される複数の送信信号に対して前記第1送信重み付け方式とは異なる第2送信重み付け方式を適用する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
請求項1記載の超音波診断装置において、
前記第1部分は、前記送信開口における中間部であり、
前記第2部分は、前記送信開口において前記中間部の両側にある第1端部及び第2端部である、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項3】
請求項2記載の超音波診断装置において、
前記第1送信重み付け方式は、送信電圧を可変する送信重み付け方式であり、
前記第2送信重み付け方式は、送信電圧以外の送信パラメータを可変する送信重み付け方式である、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項4】
請求項3記載の超音波診断装置において、
前記第1送信重み付け方式では、第1送信電圧からそれより低い第2送信電圧までの範囲にわたって送信電圧が可変され、
前記第1端部及び前記第2端部に供給される複数の送信信号の電圧はいずれも前記第2送信電圧であり、
前記第1端部及び前記第2端部に供給される複数の送信信号の波形が前記第2送信重み付け方式に従って設定される、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項5】
請求項4記載の超音波診断装置において、
前記送信開口は、前記中間部と前記第1端部の間の第1境界と、前記中間部と前記第2端部の間の第2境界と、を有し、
前記制御部は、前記送信開口に対応する凸型の音圧分布が前記第1境界及び前記第2境界において実質的に連続するように、前記送信電圧の可変及び前記送信波形の可変を制御する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項6】
請求項3記載の超音波診断装置において、
前記送信電圧以外の送信パラメータはパルス幅であり、
前記制御部は、前記第2送信重み付け方式の適用に当たって前記各送信信号のパルス幅を可変する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項7】
請求項3記載の超音波診断装置において、
前記送信電圧以外の送信パラメータは波数であり、
前記制御部は、前記第2送信重み付け方式の適用に当たって前記各送信信号の波数を可変する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項8】
請求項2記載の超音波診断装置において、
前記制御部は、
前記送信信号列の代表送信電圧が閾値よりも高い場合に、前記送信開口それ全体に供給される複数の送信信号に対して前記第1送信重み付け方式を適用し、
前記代表送信電圧が前記閾値よりも低い場合に、前記中間部に供給される複数の送信信号に対して前記第1送信重み付け方式を適用し、且つ、前記第1端部及び前記第2端部に供給される複数の送信信号に対して前記第2送信重み付け方式を適用する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項9】
送信ビーム形成用の送信信号列を生成する生成工程と、
振動素子アレイに設定された送信開口に対して前記送信信号列を供給する供給工程と、
を含み、
前記送信開口は、第1部分及び第2部分を有し、
前記生成工程では、前記第1部分に供給される複数の送信信号に対して第1送信重み付け方式が適用され、前記第2部分に供給される複数の送信信号に対して前記第1送信重み付け方式とは異なる第2送信重み付け方式が適用される、
ことを特徴とする送信ビーム形成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、超音波診断装置及び送信ビーム形成方法に関し、特に、送信信号列の生成に関する。
【背景技術】
【0002】
被検者の超音波検査では超音波診断装置が使用される。超音波診断装置は、振動素子アレイを備えた超音波プローブを有する。超音波の送信時に、振動素子アレイに対して送信開口が設定され、送信開口を構成する振動素子列に対して送信信号列が供給される。これにより送信開口から生体内へ送信ビームが放射される。
【0003】
良好な形態を有する送信ビームを形成するために、具体的には、例えば、不要なサイドローブを低減し、送信ビーム幅を深さ方向にわたって均一化するために、送信アポダイゼーションが実施される。すなわち、送信開口内において所望の音圧分布が生じるように、送信開口内の各振動素子から放射される超音波のパワーが調整される。本願明細書においては、送信アポダイゼーションを送信重み付け又は単に重み付けと称する。
【0004】
一般的な送信重み付け方式として、送信電圧を可変する重み付け方式が知られている。その方式では、送信開口に供給される各送信信号の電圧が重みカーブに従って定められる。
【0005】
特許文献1、2には、PWM(Pulse Width Modulation)により、送信重み付けを行う方式が開示されている。なお、特許文献3には、コントラストハーモニックイメージング(CHI)を実施する超音波診断装置が開示されている。CHIでは、造影剤であるバブルを破裂させないため、あるいは、バブルを必要以上に破裂させないため、送信信号列それ全体の電圧が引き下げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第6,135,963号明細書
【特許文献2】米国公開2020/0393420号公報
【特許文献3】特開2005-319177号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
送信重み付けに当たって、1つの送信重み付け方式のみを用いた場合、理想的な音圧分布を形成できない場合がある。例えば、送信電圧を可変する送信重み付け方式を実行する場合において、送信回路等に由来する制約から、低い送信電圧を正しく生成できないこともある。そのような場合、理想的な音圧分布を形成できなくなる。
【0008】
本開示の目的は、送信ビームの形成に当たって、生体内において理想的な又は適正な音圧分布を生じさせることにある。あるいは、本開示の目的は、第1送信重み付け方式の弱点を第2送信重み付け方式で補うことにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示に係る超音波診断装置は、振動素子アレイと、前記振動素子アレイに設定された送信開口に対して送信信号列を供給する送信回路と、前記送信信号列を構成する各送信信号の生成を制御する制御部と、を含み、前記送信開口は、第1部分及び第2部分を有し、前記制御部は、前記第1部分に供給される複数の送信信号に対して第1送信重み付け方式を適用し、前記第2部分に供給される複数の送信信号に対して前記第1送信重み付け方式とは異なる第2送信重み付け方式を適用する、ことを特徴とする。
【0010】
本開示に係る超音波診断装置は、送信ビーム形成用の送信信号列を生成する生成工程と、振動素子アレイに設定された送信開口に対して前記送信信号列を供給する供給工程と、を含み、前記送信開口は、第1部分及び第2部分を有し、前記生成工程では、前記第1部分に供給される複数の送信信号に対して第1送信重み付け方式が適用され、前記第2部分に供給される複数の送信信号に対して前記第1送信重み付け方式とは異なる第2送信重み付け方式が適用される、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、送信ビームの形成に当たって、生体内において理想的な又は適正な音圧分布が生じる。あるいは、本開示によれば、第1送信重み付け方式の弱点を第2送信重み付け方式で補える。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施形態に係る超音波診断装置を示すブロック図である。
図2】実施形態に係る送信重み付け方法を示す図である。
図3】複数の周波数特性を示す図である。
図4】複数の音圧波形を示す図である。
図5】3つの送信信号の第1例を示す図である。
図6】3つの送信信号の第2例を示す図である。
図7】実施形態に係る送受信制御を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、実施形態を図面に基づいて説明する。
【0014】
(1)実施形態の概要
実施形態に係る超音波診断装置は、振動素子アレイ、送信回路、及び、制御部を有する。送信回路は、振動素子アレイに設定された送信開口に対して送信信号列を供給する。制御部は、送信信号列を構成する各送信信号の生成を制御する。送信開口は、第1部分及び第2部分を有する。制御部は、第1部分に供給される複数の送信信号に対して第1送信重み付け方式を適用し、第2部分に供給される複数の送信信号に対して第1送信重み付け方式とは異なる第2送信重み付け方式を適用する。
【0015】
上記構成によれば、第2部分に対して第1送信重み付け方式を適用することが困難であっても、第2部分に対して第2送信重み付け方式を適用できる。よって、送信開口によって形成される音圧分布を適正化できる。これにより、例えば、不要なサイドローブを低減でき、送信ビーム幅を深さ方向にわたって均一化できる。
【0016】
実施形態において、第1部分は、送信開口における中間部であり、第2部分は、送信開口において中間部の両側にある第1端部及び第2端部である。実施形態において、第1送信重み付け方式は、送信電圧(第1送信パラメータ)を可変する重み付け方式であり、第2送信重み付け方式は、送信電圧以外の送信パラメータ(第2送信パラメータ)を可変する重み付け方式である。
【0017】
送信電圧を可変する送信重み付け方式を用いる場合、送信開口における両端部に供給する複数の送信信号の電圧を低くすることが求められる。その場合、安定的に生成することが可能な電圧範囲を下回る電圧の生成が求められることもある。両端部に供給される複数の送信信号に対して送信電圧の可変によらない、つまり送信電圧以外の送信パラメータを可変する第2送信重み付け方式を適用すれば、送信開口それ全体にわたって理想的な音圧分布を実現し得る。
【0018】
実施形態において、第1送信重み付け方式では、第1送信電圧からそれより低い第2送信電圧までの範囲にわたって送信電圧が可変される。第1端部及び第2端部に供給される複数の送信信号の電圧はいずれも第2送信電圧である。第1端部及び第2端部に供給される複数の送信信号の波形が第2送信重み付け方式に従って設定される。
【0019】
第1送信電圧は、例えば、ユーザーにより指定された又は自動的に決定された送信電圧(最大送信電圧)である。第2送信電圧は、例えば、送信回路の特性等を考慮して事前に決定された最小送信電圧である。第1端部及び第2端部に供給される複数の送信信号の電圧が第2送信電圧に固定された上で、当該複数の送信信号に対して、送信電圧以外のパラメータを可変する送信重み付けが適用される。
【0020】
なお、第1端部及び第2端部に供給される複数の送信信号の電圧は第2送信電圧に固定されるが、第2送信電圧は第1送信重み付け方式に従って設定されたものであるので、第1端部及び第2端部に供給される複数の送信信号に対して、第1送信重み付け方式及び第2重み付け方式の両方が適用される、と理解することも可能である。
【0021】
実施形態において、送信開口は、中間部と第1端部の間の第1境界と、中間部と第2端部の間の第2境界と、を有する。制御部は、送信開口に対応する凸型の音圧分布(音圧カーブ)が第1境界及び第2境界において実質的に連続するように、送信電圧の可変及び送信波形の可変を制御する。
【0022】
実施形態において、第2送信パラメータはパルス幅である。制御部は、第2重み付け方式の適用に当たって各送信信号のパルス幅を可変する。あるいは、第2送信パタメータは波数である。送信制御部は、第2送信重み付け方式の適用に当たって各送信信号の波数を可変する。パルス幅の可変及び波数の可変により、振動素子アレイから放射される超音波パルスのパワーが変化する。波数は、1つの送信信号を構成する波の数である。
【0023】
実施形態において、制御部は、送信信号列の代表送信電圧が閾値よりも高い場合に、送信開口それ全体に供給される複数の送信信号に対して第1送信重み付け方式を適用する。代表送信電圧が閾値よりも低い場合に、中間部に供給される複数の送信信号に対して第1送信重み付け方式を適用し、且つ、第1端部及び第2端部に供給される複数の送信信号に対して第2送信重み付け方式を適用する。
【0024】
上記構成によれば、第1送信重み付け方式だけを用いて適正な音圧分布を形成できる場合には、送信制御が簡易化される。一方、第1送信重み付け方式だけでは適正な音圧分布を形成できない場合には第2送信重み付け方式を併用して適正な音圧分布を形成できる。代表送信電圧は、例えば、ユーザーにより指定される又は自動的に決定される送信電圧(最大送信電圧)である。他の電圧を代表送信電圧として定めてもよい。あるいは、送信モード又は送信条件に応じて、第1送信重み付け方式だけを使用するか、第1送信重み付け方式及び第2送信重み付け方式の両方を使用するか、が判断されてもよい。
【0025】
実施形態に係る送信ビーム形成方法は、送信ビーム形成用の送信信号列を生成する生成工程と、振動素子アレイに設定された送信開口に対して前記送信信号列を供給する供給工程と、を含む。送信開口は、第1部分及び第2部分を有する。生成工程では、第1部分に供給される複数の送信信号に対して第1送信重み付け方式が適用され、第2部分に供給される複数の送信信号に対して第1送信重み付け方式とは異なる第2送信重み付け方式が適用される。
【0026】
送信開口それ全体に対して第1送信重み付け方式及び第2送信重み付け方式を適用した場合には、送信制御がかなり複雑になる。それに比べて、送信開口の一部に対して第1送信重み付け方式及び第2送信重み付け方式を限定的に適用した場合には、送信制御が簡易になる。送信電圧の可変は一般に容易であるので、実施形態においては、第1送信重み付け方式として電圧可変方式が採用されている。第2送信重み付け方式として電圧可変方式以外の方式が採用される。
【0027】
(2)実施形態の詳細
図1には、実施形態に係る超音波診断装置の構成例が示されている。この超音波診断装置は、被検者の超音波検査で用いられる。超音波診断装置は、幾つかの送受信モード(動作モード)を備えている。その中には、被検者内に注入された造影剤を画像化するコントラストハーモニックイメージング(CHI)モードが含まれる。
【0028】
超音波プローブ10は、振動素子アレイ12を有する。振動素子アレイ12は、複数の振動素子12aにより構成される。振動素子アレイ12により超音波ビームが形成され、超音波ビームが電子走査される。電子走査方式として、電子リニア走査方式、電子セクタ走査方式、等が知られている。電子リニア走査方式では、振動素子アレイ12に対して開口(送信開口、受信開口)が設定され、その開口が電子的に走査される。電子セクタ走査方式では、振動素子アレイ12それ全体に対して開口(送信開口、受信開口)が設定される。
【0029】
送信回路14は、送信ビームフォーマーとして機能する電子回路である。送信回路14は、複数の送信信号を並列的に出力する複数の送信器16により構成される。
【0030】
各送信器16は、同一の構成を有する。各送信器16は、実施形態において、波形生成制御器18、波形メモリ20、重みメモリ22、遅延量メモリ24、波形生成器26、DAC28、及び、リニアアンプ30、を有する。波形メモリ20内には、送信波形が格納される。送信重み付けにおいて、複数の送信波形を使用する場合、それらの送信波形が波形メモリ20内に事前に格納される。重みメモリ22には、重みが格納される。具体的には、重みとして電圧値が格納される。重みメモリ22に、重みとして、後述するパルス幅(デューティ)や波数が格納されてもよい。遅延量メモリ24には、遅延量が格納される。波形生成制御器18は、各メモリ20,22,24への各データの書き込みを制御している。
【0031】
波形生成器26は、波形メモリ20から読み出された波形データに対して、重みメモリ22から読み出された重みを適用し、且つ、遅延量メモリ24から読み出された遅延量を適用することにより、送信信号を生成する。重みの適用は、通常、送信電圧の設定である。デューティや波数の可変によって送信信号を重み付けする場合、指定された重みに対応する波形データが波形メモリ20から読み出される。
【0032】
DAC28は、デジタル信号をアナログ信号に変換するコンバータである。DAC28には、デジタル信号としての送信信号が入力される。DAC28からアナログ信号としての送信信号が出力される。リニアアンプ30は、送信信号を増幅する。増幅後の送信信号が、その送信信号に対応する振動素子12aへ供給される。
【0033】
複数の送信器16は、送信開口に供給する複数の送信信号に対して重み付けを適用する機能を有する。各送信器16において、重み付けに関係している部分は、波形生成制御器18、波形メモリ20、重みメモリ22、波形生成器26である。後述する送受信制御部44も重み付けに関与している。それらの構成の内で、波形生成制御器18及び送受信制御部が、送信重み付けの観点から見て、制御部又は制御手段に相当する。
【0034】
受信時において、受信開口から並列的に出力された複数の受信信号が受信回路32に送られる。受信回路32は受信ビームフォーマーとして機能する電子回路であり、それは複数の受信器を有する。各受信器は、プリアンプ、ADC、遅延器等を有する。受信回路32は、複数の遅延器から出力された複数の受信信号を加算する加算器を有する。すなわち、受信回路32において、複数の受信信号に対して整相加算が適用され、これにより受信ビームデータが生成される。
【0035】
超音波ビームの電子走査に伴ってビームデータ列が生成され、ビームデータ列がビームデータ処理部34に入力される。ビームデータ処理部34は、検波器、対数変換器、等を有する。画像形成部36は、ビームデータ処理部34から出力されたビームデータ列に基づいて超音波画像を形成する。超音波画像は例えばBモード断層画像である。画像形成部36は、例えばデジタルスキャンコンバータ(DSC)を有する。表示器40には、超音波画像が表示される。
【0036】
主制御部42は、プログラムを実行するCPUにより構成される。主制御部42により図1に示されている各構成要素の動作が制御される。主制御部42は、送受信制御部44として機能する。送受信制御部44は、複数の送信器16の動作を制御する。具体的には、複数の送信器16内に設けられた複数の波形生成制御器18の動作を制御しており、それらの制御を通じて複数の送信信号に対して送信重み付けを適用している。また、実施形態に係る送受信制御部44は、複数の送信波形を生成する機能、重み分布を演算する機能、及び、遅延値分布を演算する機能、を有している。
【0037】
上記のCHIモードを含むハーモニックイメージングモードにおいては、例えばPI(パルスインバージョン)法に従って、送信開口に対して、正相送信信号列及び逆相送信信号列が順次供給される。正相送信信号列及び逆相送信信号列は位相反転関係にある。それら2つの送信信号列に対して同じ送信重み付けが適用される。2回の送受信により得られた2つのビームデータの加算により、基本波成分が抑圧され且つ高調波成分が抽出される。PI法以外の方法により高調波成分が抽出されてもよい。
【0038】
図2には、実施形態に係る送信重み付け方法が示されている。Cは開口中心を示している。横軸は振動素子の位置iを示している。振動素子アレイ12に対して送信開口46が設定される。
【0039】
送信回路は、電圧を適正に生成できる電圧範囲を有し、その電圧範囲の下限Vminを下回る電圧を生成することはできず又はそのような低電圧の生成は回避されるべきである。主送信重み付け方式(第1送信重み付け方式)として電圧可変方式を選択する場合、上記の電圧範囲を考慮すべきである。
【0040】
そこで、実施形態においては、送信開口が中間部46a、第1端部46b及び第2端部46cに区分されている。そして、中間部46aに対しては送信電圧の可変を行う主送信重み付け方式が適用され、第1端部46b及び第2端部46cに対しては、送信電圧を一定にする条件の下で、送信電圧(第1送信パラメータ)以外の送信パラメータ(第2送信パラメータ)の可変を行う副送信重み付け方式が適用されている。中間部46aと第1端部46bの間が第1境界51aであり、中間部46aと第2端部46cの間が第2境界51bである。
【0041】
図2には、主送信重み付け方式に従う重み分布としての送信電圧分布(第1送信パラメータ分布)52、及び、副送信重み付け方式に従う第2送信パラメータ分布54が示されている。送信電圧分布52は、送信開口46それ全体にわたって適用されるものである。第2送信パラメータ分布54は、第1端部46b及び第2端部46cに対して限定的に適用されるものである。第2送信パラメータは、送信電圧以外のパラメータであって、振動素子アレイから送信される超音波パルスの振幅に影響を与えるパラメータであり、例えば、後述するデューティ(パルス幅)又は波数である。第2送信パラメータは、補完的な重みと言い得る。
【0042】
具体的に説明すると、送信電圧分布52は、中間部46aに適用される部分52a、第1端部46bに適用される部分52b、及び、第2端部46cに適用される部分52c、からなる。部分52aは、理想的な重み分布48に従う部分である。部分52b及び部分52cは、それぞれ、下限Vminに相当する一定電圧を有する部分である。送信電圧分布52は具体的には以下のように表現される。
【数1】
【0043】
このような送信電圧分布52を採用することにより、第1端部46b及び第2端部46cに対して、下限Vminよりも小さな電圧が設定されてしまうことを回避できる。
【0044】
第2送信パラメータ分布54は、第1端部46bに対して適用される部分54a、及び、第2端部46cに対して適用される部分54bからなる。部分54a及び部分54bは、いずれも、理想的な重み分布48に従う部分又は理想的な重み分布を補完的に実現する部分と言い得る。
【0045】
実施形態によれば、主送信重み付け方式及び副送信重み付け方式の併用により、換言すれば、送信電圧分布52及び第2送信パラメータ分布54の組み合わせにより、送信開口から放射される超音波の音圧分布を理想的な重み分布48に近付けることが可能である。境界51a,51bにおいて、実際の音圧分布が滑らかに繋がるように、送信重み付け制御が実施される。
【0046】
図3及び図4を用いて第2送信パラメータの可変による重みの実現例を説明する。この例では、第2送信パラメータは、例えば、波数である。図3は、複数の送信信号が有する複数の周波数特性(信号帯域)58,60,62を示す図である。横軸は周波数軸であり、縦軸はパワー軸である。符号56は振動素子アレイの周波数特性(通過帯域)を示している。複数の送信信号を振動素子アレイに供給した場合、複数の信号帯域58,60,62に対して通過帯域56が作用する。
【0047】
その結果、図4に示される3つの音圧信号が生成される。横軸は時間軸であり、縦軸は振幅軸(音圧軸)である。音圧信号68は、図3に示した信号帯域58に対応するものであり、音圧信号70は、図3に示した信号帯域60に対応するものであり、音圧信号72は、図3に示した信号帯域62に対応するものである。図3及び図4に示すように、信号帯域(具体的には信号帯域幅)の可変により、音圧波形の振幅を操作できる。つまり信号帯域幅の可変により送信重み付けを行える。
【0048】
図5には、図2に示した送信開口46における3つの位置A,B,Cに供給される3つの送信信号の第1例が示されている。
【0049】
図5に示す第1例では、副送信重み付け方式としてパルス幅可変方式が採用されている。位置Aに供給される送信信号74Aは、正パルス76及び負パルス78を有し、正パルス76の高さは+V1であり、負パルス78の高さは-V1である。+V1(及び-V1)は、ユーザーにより指定された又は自動的に設定された送信電圧(最高送信電圧)である。正パルス76及び負パルス78の幅はいずれもt1である。
【0050】
位置Bに供給される送信信号74Bは、正パルス80及び負パルス82を有し、正パルス80の高さは+Vmin(<+V1)あり、負パルス82の高さは-Vminである。正パルス80及び負パルス82の幅はいずれもt1である。
【0051】
位置Cに供給される送信信号74Cは、正パルス84及び負パルス86を有し、正パルス84の高さはVminあり、負パルス86の高さは-Vminである。正パルス84及び負パルス86の幅はいずれもt2(<t1)である。
【0052】
端部においては、境界から末端にかけて、電圧Vminが維持されつつ、パルス幅が徐々に小さくされており、つまり、デューティが徐々に小さくされている。これにより、端部においても適正な重み付けを実現できる。
【0053】
図6には、図2に示した送信開口46における3つの位置A,B,Cに供給される3つの送信信号の第2例が示されている。
【0054】
図6に示す第2例では、副送信重み付け方式として波数可変方式が採用されている。位置Aに供給される送信信号88Aは2つの波からなる。つまり、波数mは2である。正側の振幅は+V1であり、負側の振幅は-V1である。位置Bに供給される送信信号88Bも2つの波からなる。つまり、波数mは2である。正側の振幅は+Vmin(<V1)であり、負側の振幅は-Vminである。位置Cに供給される送信信号88Cが1つの波からなる。つまり、波数mは1である。正側の振幅は+Vminであり、負側の振幅は-Vminである。波数mとして、小数値を伴う数値が設定され得る。
【0055】
端部においては、境界から末端にかけて、電圧Vminが維持されつつ、波数が徐々に小さくされ、換言すれば、徐々に広帯域化されている。これにより、端部においても適正な重み付けが実現されている。
【0056】
図7には、図1に示した超音波診断装置の動作例が示されている。S10では、送信信号列における代表送信電圧が閾値と比較される。代表送信電圧は、例えば、ユーザーにより指定された送信電圧であり、あるいは、プリセットされた送信電圧である。代表送信電圧が閾値よりも高い場合、つまり通常送信の場合、S12において、送信開口それ全体に適用される送信重み付け方式として送信電圧可変方式が選択される。その上で、S18において、超音波の送受信が開始される。
【0057】
一方、S10において、代表送信電圧が閾値よりも低いと判断された場合、つまり、低電圧送信が判断された場合、S14において、理想的な重み分布及び最低送信電圧(下限)に従って、送信開口内における中間部、第1端部及び第2端部が特定される。S16においては、中間部に適用される主送信重み付け方式として送信電圧(第1送信パラメータ)可変方式が選択され、第1端部及び第2端部に適用される副送信重み付け方式として第2送信パラメータ可変方式が選択される。その上で、S18において、超音波の送受信が開始される。
【0058】
S10において、送受信モード(動作モード)に応じて、通常送信又は低電圧送信が判定されてもよい。例えば、CHIモードにおいては、低電圧送信が判定され、その他のモードにおいては、通常送信が判定されてもよい。
【0059】
主送信重み付け方式として電圧可変方式以外の方式が採用されてもよい。副送信重み付け方式としてデューティ及び波数以外の送信パラメータを可変する方式が採用されてもよい。送信開口内に低電圧送信を行う部分とそれ以外の部分とが設定される場合に上記実施形態に係る送信重み付け方法を適用し得る。その場合に、端部以外の部分が低電圧送信を行う部分であってもよい。
【符号の説明】
【0060】
10 超音波プローブ、12 振動素子アレイ、14 送信回路、16 送信器、32 受信回路、42 主制御部、44 送受信制御部、46 送信開口、46a 中間部、46b 第1端部、46c 第2端部、48 理想的な重み分布、52 電圧分布、54 波形パラメータ分布。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7