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特開2024-160696化学強化用ガラス、化学強化ガラス、電子機器及び化学強化ガラスの製造方法
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  • 特開-化学強化用ガラス、化学強化ガラス、電子機器及び化学強化ガラスの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024160696
(43)【公開日】2024-11-14
(54)【発明の名称】化学強化用ガラス、化学強化ガラス、電子機器及び化学強化ガラスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03C 21/00 20060101AFI20241107BHJP
   C03C 3/097 20060101ALI20241107BHJP
   C03C 3/095 20060101ALI20241107BHJP
   C03C 3/091 20060101ALI20241107BHJP
   C03C 3/093 20060101ALI20241107BHJP
   C03C 3/083 20060101ALI20241107BHJP
   C03C 3/085 20060101ALI20241107BHJP
   C03C 3/087 20060101ALI20241107BHJP
   G09F 9/00 20060101ALI20241107BHJP
【FI】
C03C21/00 101
C03C3/097
C03C3/095
C03C3/091
C03C3/093
C03C3/083
C03C3/085
C03C3/087
G09F9/00 302
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024071340
(22)【出願日】2024-04-25
(31)【優先権主張番号】P 2023075767
(32)【優先日】2023-05-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 広樹
(72)【発明者】
【氏名】▲橋▼本 篤人
(72)【発明者】
【氏名】関谷 要
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 誠二
【テーマコード(参考)】
4G059
4G062
5G435
【Fターム(参考)】
4G059AA01
4G059AA08
4G059AC16
4G059AC30
4G059HB03
4G059HB08
4G059HB13
4G059HB14
4G059HB15
4G059HB23
4G062AA01
4G062BB01
4G062CC10
4G062DA06
4G062DA07
4G062DB03
4G062DB04
4G062DC01
4G062DC02
4G062DC03
4G062DD01
4G062DD02
4G062DD03
4G062DE01
4G062DE02
4G062DE03
4G062DF01
4G062EA01
4G062EA02
4G062EA03
4G062EA04
4G062EA10
4G062EB01
4G062EB02
4G062EB03
4G062EB04
4G062EC01
4G062EC02
4G062EC03
4G062EC04
4G062ED01
4G062ED02
4G062ED03
4G062EE01
4G062EE02
4G062EE03
4G062EF01
4G062EF02
4G062EF03
4G062EG01
4G062EG02
4G062EG03
4G062FA01
4G062FA10
4G062FB01
4G062FB02
4G062FB03
4G062FC01
4G062FC02
4G062FC03
4G062FD01
4G062FE01
4G062FE02
4G062FE03
4G062FF01
4G062FG01
4G062FH01
4G062FJ01
4G062FJ02
4G062FJ03
4G062FK01
4G062FL01
4G062GA01
4G062GA10
4G062GB01
4G062GC01
4G062GD01
4G062GE01
4G062HH01
4G062HH03
4G062HH05
4G062HH07
4G062HH09
4G062HH11
4G062HH12
4G062HH13
4G062HH15
4G062HH17
4G062HH20
4G062JJ01
4G062JJ03
4G062JJ05
4G062JJ07
4G062JJ10
4G062KK01
4G062KK03
4G062KK05
4G062KK07
4G062KK10
4G062MM27
4G062NN33
4G062NN40
5G435AA07
5G435AA16
5G435BB05
5G435EE12
5G435GG43
5G435HH05
5G435HH20
(57)【要約】
【課題】本発明は、電子機器等のディスプレイのカバーガラスに用いた際に、ディスプレイの異常発光現象を抑制できる化学強化用ガラス及び化学強化ガラスを提供することを目的とする。
【解決手段】特定の組成範囲を有し、Alの含有量に対するLiO、NaO及びKOの含有量の合計の比(RO/Al)が式(A)0.8≦(RO/Al)≦30を満たす化学強化用ガラス、下記で定義されるK-DOLが4.2μm以上、またはK-CSareaが4000Pa・m以上であり、かつ、表面抵抗率が11[logΩ/sq]以上である化学強化ガラス。
K-CS(MPa):ガラス表面応力計により測定されるガラス表面における圧縮応力値
K-DOL(μm):カリウムイオンによる圧縮応力層のガラス表面からの深さの値
K-CSarea(Pa・m):K-CSとK-DOLの積
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物基準のモル百分率表示で、
SiOを50%以上、
を0~10%
Alを1~30%、
を0~10%、
を0~10%、
LiOを0~25%、
NaOを0~25%、
Oを0~25%、
MgOを0~10%、
CaOを0~10%、
SrOを0~10%、
BaOを0~10%、
ZnOを0~10%、
ZrOを0~5%、
TiOを0~5%、
SnOを0~5%、
Feを0~0.5%含有し、
Alの含有量に対するLiO、NaO及びKOの含有量の合計の比(RO/Al)が下記式(A)を満たす化学強化用ガラス。
(A)0.8≦(RO/Al)≦30
【請求項2】
酸化物基準のモル百分率表示で、
LiOを7~12%、
NaOを1.5~6%、
Oを0~1.5%含有する、請求項1に記載の化学強化用ガラス。
【請求項3】
下記で定義されるK-DOLが4.2μm以上であり、かつ、
表面抵抗率が11[logΩ/sq]以上である化学強化ガラス。
K-DOL(μm):カリウムイオンによる圧縮応力層のガラス表面からの深さの値
【請求項4】
下記で定義されるK-CSareaが4000Pa・m以上であり、かつ、
表面抵抗率が11[logΩ/sq]以上である化学強化ガラス。
K-CSarea(Pa・m):K-CSとK-DOLの積
K-CS(MPa):ガラス表面応力計により測定されるガラス表面における圧縮応力値
K-DOL(μm):カリウムイオンによる圧縮応力層のガラス表面からの深さの値
【請求項5】
前記K-CSが800MPa以上である、請求項4に記載の化学強化ガラス。
【請求項6】
ガラス表面から深さ3μmにおけるKO濃度であるKO@3μmの、板厚中心におけるKO濃度であるKO@centerに対する比率が5.3以上であり、
表面抵抗率が11[logΩ/sq]以上である化学強化ガラス。
【請求項7】
ガラス表面から深さ5μmにおけるLiO濃度であるLiO@5μmの、板厚中心におけるLiO濃度であるLiO@centerに対する比率が0.85以下であり、
表面抵抗率が11[logΩ/sq]以上である化学強化ガラス。
【請求項8】
下記で定義されるYの値が9.4以上である、請求項3に記載の化学強化ガラス。
Y=0.00018x+4.319×10-7+8.5
:K-CSとK-DOLの積K-CSarea(Pa・m)
:Na-CSとNa-DOLの積Na-CSarea(Pa・m)
K-CS(MPa):ガラス表面応力計により測定されるガラス表面における圧縮応力値
K-DOL(μm):カリウムイオンによる圧縮応力層のガラス表面からの深さの値
Na-CS(MPa):散乱光光弾性応力計で測定されるガラス表面における圧縮応力値
Na-DOL(μm):Naイオンによる圧縮応力層のガラス表面からの深さの値
【請求項9】
請求項1若しくは2に記載の化学強化用ガラス又は請求項3~8のいずれか1項に記載の化学強化ガラスを備える電子機器。
【請求項10】
化学強化用ガラスを第1溶融塩組成物に接触させる第1イオン交換処理と、
前記第1イオン交換処理後に、前記化学強化用ガラスに第2溶融塩組成物を接触させる第2イオン交換処理と、を含む、化学強化ガラスの製造方法であって、
前記第2溶融塩組成物は、KNOの含有量が94質量%以上、リチウムイオンの含有量が300質量ppm未満である、化学強化ガラスの製造方法。
【請求項11】
前記第2イオン交換処理における前記第2溶融塩組成物の温度が380℃~450℃であり、前記化学強化用ガラスに前記第2溶融塩組成物を接触させる時間が60分間以上である、請求項10に記載の化学強化ガラスの製造方法。
【請求項12】
前記第2溶融塩組成物は、NaNOを0~5質量%含む、請求項10又は11に記載の化学強化ガラスの製造方法。
【請求項13】
化学強化用ガラスにイオン交換処理を行って化学強化ガラスを得ることを含む化学強化ガラスの製造方法であって、
下記で定義されるK-DOLが4.2μm以上であり、かつ、
表面抵抗率が11[logΩ/sq]以上の化学強化ガラスを得る、化学強化ガラスの製造方法。
K-DOL(μm):カリウムイオンによる圧縮応力層のガラス表面からの深さの値
【請求項14】
化学強化用ガラスにイオン交換処理を行って化学強化ガラスを得ることを含む化学強化ガラスの製造方法であって、
下記で定義されるK-CSareaが4000Pa・m以上であり、かつ、
表面抵抗率が11[logΩ/sq]以上の化学強化ガラスを得る、化学強化ガラスの製造方法。
K-CSarea(Pa・m):CSとK-DOLの積
CS(MPa):ガラス表面における圧縮応力値
K-DOL(μm):カリウムイオンによる圧縮応力層のガラス表面からの深さの値
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学強化用ガラス、化学強化ガラス、電子機器及び化学強化ガラスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯端末のカバーガラス等には、化学強化ガラスが用いられている。化学強化ガラスは、ガラスを硝酸ナトリウムなどの溶融塩組成物に接触させて、ガラス中に含まれるアルカリ金属イオンと、溶融塩組成物に含まれるよりイオン半径の大きいアルカリ金属イオンとの間でイオン交換を生じさせ、ガラスの表面部分に圧縮応力層を形成したものである。
【0003】
特許文献1には、化学強化されたカバーガラスの表面抵抗率が低いほど、カバーガラス上に形成される防汚層の耐久性が高いことが開示されている。表面抵抗率はガラス表面の電気伝導度と相関があり、表面抵抗率が小さい状態は、ガラス表面の電気伝導度が高いことを表す。つまり、ガラス表面の電気伝導度を高くすることが、防汚層の耐久性を向上させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2021/010376号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、携帯端末等の電子機器について、有機ELディスプレイ(OLED)の一部分が意図せず持続的に発光するという「異常発光現象」が発生することが問題となっている。異常発光現象は、ディスプレイを長時間擦ることで生じる静電気帯電と関係がある考えられる。
【0006】
特許文献1は、化学強化ガラスの表面抵抗率と、その表面に形成される防汚層の密着性との関係に着目したものであるが、異常発光現象に関しては何ら検討されていない。
【0007】
本発明は、電子機器等のディスプレイのカバーガラスに用いた際に、ディスプレイの異常発光現象を抑制できる化学強化用ガラス及び化学強化ガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、異常発光現象は、静電気帯電により電荷移動が生じやすいことと関係していると考え、ガラスの電気抵抗(以下、単に「抵抗」という場合がある。)が異常発光現象の発現しやすさと関連していることを見出した。より具体的には、ガラスの電気抵抗が比較的大きいほど、異常発光現象を抑制しやすいことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本開示は、以下に関する。
1.酸化物基準のモル百分率表示で、
SiOを50%以上、
を0~10%
Alを1~30%、
を0~10%、
を0~10%、
LiOを0~25%、
NaOを0~25%、
Oを0~25%、
MgOを0~10%、
CaOを0~10%、
SrOを0~10%、
BaOを0~10%、
ZnOを0~10%、
ZrOを0~5%、
TiOを0~5%、
SnOを0~5%、
Feを0~0.5%含有し、
Alの含有量に対するLiO、NaO及びKOの含有量の合計の比(RO/Al)が下記式(A)を満たす化学強化用ガラス。
(A)0.8≦(RO/Al)≦30
2.酸化物基準のモル百分率表示で、
LiOを7~12%、
NaOを1.5~6%、
Oを0~1.5%含有する、前記1に記載の化学強化用ガラス。
3.下記で定義されるK-DOLが4.2μm以上であり、かつ、
表面抵抗率が11[logΩ/sq]以上である化学強化ガラス。
K-DOL(μm):カリウムイオンによる圧縮応力層のガラス表面からの深さの値
4.下記で定義されるK-CSareaが4000Pa・m以上であり、かつ、
表面抵抗率が11[logΩ/sq]以上である化学強化ガラス。
K-CSarea(Pa・m):K-CSとK-DOLの積
K-CS(MPa):ガラス表面応力計により測定されるガラス表面における圧縮応力値
K-DOL(μm):カリウムイオンによる圧縮応力層のガラス表面からの深さの値
5.前記K-CSが800MPa以上である、前記4に記載の化学強化ガラス。
6.ガラス表面から深さ3μmにおけるKO濃度であるKO@3μmの、板厚中心におけるKO濃度であるKO@centerに対する比率が5.3以上であり、
表面抵抗率が11[logΩ/sq]以上である化学強化ガラス。
7.ガラス表面から深さ5μmにおけるLiO濃度であるLiO@5μmの、板厚中心におけるLiO濃度であるLiO@centerに対する比率が0.85以下であり、
表面抵抗率が11[logΩ/sq]以上である化学強化ガラス。
8.下記で定義されるYの値が9.4以上である、前記3~7のいずれか1に記載の化学強化ガラス。
Y=0.00018x+4.319×10-7+8.5
:K-CSとK-DOLの積K-CSarea(Pa・m)
:Na-CSとNa-DOLの積Na-CSarea(Pa・m)
K-CS(MPa):ガラス表面応力計により測定されるガラス表面における圧縮応力値
K-DOL(μm):カリウムイオンによる圧縮応力層のガラス表面からの深さの値
Na-CS(MPa):散乱光光弾性応力計で測定されるガラス表面における圧縮応力値
Na-DOL(μm):Naイオンによる圧縮応力層のガラス表面からの深さの値
9.前記1若しくは2に記載の化学強化用ガラス又は前記3~8のいずれか1に記載の化学強化ガラスを備える電子機器。
10.化学強化用ガラスを第1溶融塩組成物に接触させる第1イオン交換処理と、
前記第1イオン交換処理後に、前記化学強化用ガラスに第2溶融塩組成物を接触させる第2イオン交換処理と、を含む、化学強化ガラスの製造方法であって、
前記第2溶融塩組成物は、KNOの含有量が94質量%以上、リチウムイオンの含有量が300質量ppm未満である、化学強化ガラスの製造方法。
11.前記第2イオン交換処理における前記第2溶融塩組成物の温度が380℃~450℃であり、前記化学強化用ガラスに前記第2溶融塩組成物を接触させる時間が60分間以上である、前記10に記載の化学強化ガラスの製造方法。
12.前記第2溶融塩組成物は、NaNOを0~5質量%含む、前記10又は11に記載の化学強化ガラスの製造方法。
13.化学強化用ガラスにイオン交換処理を行って化学強化ガラスを得ることを含む化学強化ガラスの製造方法であって、
下記で定義されるK-DOLが4.2μm以上であり、かつ、
表面抵抗率が11[logΩ/sq]以上の化学強化ガラスを得る、化学強化ガラスの製造方法。
K-DOL(μm):カリウムイオンによる圧縮応力層のガラス表面からの深さの値
14.化学強化用ガラスにイオン交換処理を行って化学強化ガラスを得ることを含む化学強化ガラスの製造方法であって、
下記で定義されるK-CSareaが4000Pa・m以上であり、かつ、
表面抵抗率が11[logΩ/sq]以上の化学強化ガラスを得る、化学強化ガラスの製造方法。
K-CSarea(Pa・m):CSとK-DOLの積
CS(MPa):ガラス表面における圧縮応力値
K-DOL(μm):カリウムイオンによる圧縮応力層のガラス表面からの深さの値
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、電子機器等のディスプレイのカバーガラスに用いた際に、ディスプレイの異常発光現象を抑制できる化学強化ガラスを提供できる。また、化学強化により高抵抗な化学強化ガラスを得やすい化学強化用ガラスを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、異常発光現象について模式的に説明する図である。
図2図2は、表面抵抗率と体積抵抗率との関係を示す図である。
図3図3は、Yの値と体積抵抗率(実測値)との関係を示す図である。
図4図4は、表層のKOプロファイルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書において数値範囲を示す「~」とは、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。また、本明細書において、ガラスの組成(各成分の含有量)について、特に断らない限り、酸化物基準のモル百分率表示で表し、モル%を単に「%」と表記する。
また、本明細書において「実質的に含有しない」とは、原材料等に含まれる不純物レベル以下である、つまり意図的に加えたものではないことをいう。具体的には、たとえば0.1%未満である。
【0013】
本明細書において「非晶質ガラス」とは、粉末X線回折法によって、結晶を示す回折ピークが認められないガラスをいう。「結晶化ガラス」は、「非晶質ガラス」を加熱処理して、結晶を析出させたものであり、結晶を含有する。本明細書においては、「非晶質ガラス」と「結晶化ガラス」とを合わせて「ガラス」ということがある。また、加熱処理によって結晶化ガラスとなる非晶質ガラスを、「結晶化ガラスの母ガラス」ということがある。
以下において、「化学強化ガラス」は、化学強化処理を施した後のガラスを指し、「化学強化用ガラス」は、化学強化処理を施す前のガラスを指す。
【0014】
<応力測定方法>
近年、スマートフォンなどのカバーガラス向けに、ガラス内部のリチウムイオンをナトリウムイオンと交換し(Li-Na交換)、その後更にガラスの表層部において、ガラス内部のナトリウムイオンをカリウムイオンに交換する(Na-K交換)、2段階以上の化学強化を実施したガラスが主流になっている。
【0015】
このような化学強化ガラスの応力プロファイルを非破壊で取得するには、例えば散乱光光弾性応力計(Scattered Light Photoelastic Stress Meter、以下、SLPとも略す)やガラス表面応力計(Film Stress Measurment,以下、FSMとも略す)などが併用され得る。
【0016】
散乱光光弾性応力計(SLP)を用いる方法では、ガラス表層から数十μm以上のガラス内部において、Li-Na交換に由来した圧縮応力を測定できる。
【0017】
一方、ガラス表面応力計(FSM)を用いる方法では、ガラス表面から数十μm以下の、ガラス表層部において、Na-K交換に由来した圧縮応力を測定できる(例えば、国際公開第2018/056121号、国際公開第2017/115811号)。
【0018】
従って、2段化学強化ガラスにおける、ガラス表層と内部における応力プロファイルとしては、SLP及びFSMの情報を合成したものが用いられることがある。
【0019】
本発明においては、主に散乱光光弾性応力計(SLP)により測定された応力プロファイルを用いている。なお、本明細書において圧縮応力CS、引張応力CT、圧縮応力層深さDOCなどと称した場合、SLP応力プロファイルにおける値を意味する。
【0020】
散乱光光弾性応力計とは、レーザ光の偏光位相差を該レーザ光の波長に対して1波長以上可変する偏光位相差可変部材と、該偏光位相差を可変されたレーザ光が強化ガラスに入射されたことにより発する散乱光を所定の時間間隔で複数回撮像し複数の画像を取得する撮像素子と、該複数の画像を用いて前記散乱光の周期的な輝度変化を測定し該輝度変化の位相変化を算出し、該位相変化に基づき前記強化ガラスの表面からの深さ方向の応力分布を算出する演算部と、を有する応力測定装置である。
【0021】
散乱光光弾性応力計を用いる応力プロファイルの測定方法としては、国際公開第2018/056121号に記載の方法が挙げられる。散乱光光弾性応力計としては、例えば、折原製作所製のSLP-1000、SLP-2000が挙げられる。これらの散乱光光弾性応力計に付属ソフトウェアSlpIV_up3(Ver.2019.01.10.001)を組み合わせると高精度の応力測定が可能である。
【0022】
<K-DOL、K-CS、K-CSarea>
本明細書における「K-DOL」とは、ガラス表面から数十μm以下のガラス表層部における、Na-K交換に由来する、カリウムイオン起因の圧縮応力層深さである。K-DOLは、カリウムイオン濃度が板厚中央部のカリウムイオン濃度と等しくなる深さで近似できる数値である。また、ガラス表面応力計(FSM)によって測定される圧縮応力層深さの測定限界値としても測定できる。
「K-CS」とは、FSMで測定される深さ0μmにおけるカリウムイオン起因の圧縮応力値である。
「K-CSarea」とは、K-CSとK-DOLの積である。
【0023】
<Na-DOL、Na-CS、Na-CSarea>
本明細書における「Na-DOL」とは、ガラス表層から数十μm以上のガラス内部における、Li-Na交換に由来する、Naイオン起因の圧縮応力層深さである。Na-DOLは、Naイオンによって発生する圧縮応力の大きさが0になる深さである。
「Na-CS」とは、SLPで測定される深さ0μmにおけるNaイオン起因の圧縮応力値である。
「Na-CSarea」とは、Na-CSとNa-DOLの積である。
【0024】
<CTave>
本明細書における「CTave」(MPa)は、下式により求められる。CTaveは引張応力の平均値に相当する値であり、引張応力領域の応力値を積分し、引張応力領域の長さで除した値である。
CTave=ICT/LCT
ICT:引張応力の積分値(Pa・m)
CT:引張応力領域の板厚方向長さ(μm)
【0025】
<CS
本明細書における「CS」とは、ガラス表面からの深さx(μm)における圧縮応力値(MPa)である。この数値はSLPで測定した値である。
【0026】
<KO濃度、NaO濃度>
本明細書において、深さx(μm)におけるKO濃度、NaO濃度は、EPMA(Electron Probe Micro Analyzer、電子線マイクロアナライザー)により、板厚方向の断面における濃度を測定する。EPMAの測定は、具体的には例えば以下のように行う。
【0027】
まず、ガラス試料をエポキシ樹脂で包埋し、第1の主面および第1の主面に対向する第2の主面に対して垂直方向に機械研磨して断面試料を作製する。研磨後の断面にCコートを施し、EPMA(JEOL社製:JXA-8500F)を用いて測定を行う。加速電圧は15kV、プローブ電流は30nA、積算時間は1000msec./pointとして1μm間隔でKO又はNaOのX線強度のラインプロファイルを取得する。得られたKO濃度プロファイル又はNaO濃度プロファイルについて、板厚中央部(0.5×t)±25μm(板厚をtμmとする)の平均カウントを母組成として、全板厚のカウントをモル%に比例換算して算出する。
【0028】
<LiO濃度>
本明細書において、深さx(μm)におけるLiO濃度は、GD-OES(Glow Discharge Optical Emission Spectroscopy)により、板厚方向の断面における濃度を測定する。GD-OESの測定は、具体的には例えば以下のように行う。
まず、ガラス試料を洗浄によって清浄な状態にする。マーカス型高周波グロー放電発光分析装置(HORIBA製作所社製、GD-Profiler2)を用いて測定を行う。放電条件40W(定電力モード)、Ar圧力200Pa、放電モードパルススパッタモード(デューティサイクル0.25DS)、放電範囲4mmφという条件のもとスパッタ時間に対する発光スペクトルを取得する。得られたLi濃度を未強化基板での濃度で規格化した後基板に含まれるLiO濃度に比例換算する。測定後の放電痕深さを表面粗度計で測定し、スパッタ時間を0.00025μm刻みで測定深さに換算する。さらにプロファイルを0.25μmの幅で中心化移動平均法(Centerd Moving Average)を用いて平滑化する。
【0029】
<化学強化ガラス>
化学強化処理は、大きなイオン半径の金属イオン(典型的には、ナトリウムイオンまたはカリウムイオン)を含む金属塩(例えば、硝酸ナトリウムや硝酸カリウム)の融液に浸漬、塗布又は噴霧する等の方法で、ガラスを金属塩に接触させ、ガラス中の小さなイオン半径の金属イオン(典型的には、リチウムイオンまたはナトリウムイオン)と金属塩中の大きなイオン半径の金属イオン(典型的には、リチウムイオンに対してはナトリウムイオンまたはカリウムイオンであり、ナトリウムイオンに対してはカリウムイオン)とを置換させる処理である。
【0030】
<異常発光現象とガラスの電気抵抗の関係>
先述の通り、携帯端末等の電子機器について、ディスプレイの一部分が意図せず持続的に発光するという「異常発光現象」が発生することが問題となっている。この現象は、特にPI-OLED(ポリイミド基板を用いた有機ELディスプレイ)において生じることが知られている。異常発光現象は、典型的には、電子機器のディスプレイを指で長時間擦り続けた後に生じ得ることが知られている。発光はディスプレイの端部(周縁部)や孔部分の近傍において生じやすいとされ、発光は短時間ではなく長時間(長い場合には1~2日程度)持続するとされる。
【0031】
また、本発明者らはこれらのことから、異常発光現象を抑制するためには、カバーガラスに用いられるガラスの電気抵抗を比較的高くすることが有効であることを見出した。その上で、本発明者らは、化学強化プロセスによって化学強化ガラスの電気抵抗を比較的高くできること、また、ガラス組成を適切な範囲に調整することで電気抵抗の高い化学強化ガラスを得やすいことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0032】
本明細書においては、カバーガラスの電気抵抗を表面抵抗率又は体積抵抗率で評価する。ここで、表面抵抗率は、ガラスの1cmあたりの表面抵抗の値である。ガラスのある主面における表面抵抗率は、当該主面方向と平行な方向の電荷の移動しやすさと相関し、表面抵抗率が高いほど主面方向と平行な方向に電荷が流れにくいことを意味する。よって、表面抵抗率はガラスの板厚にほとんど相関しない値である。また、体積抵抗率は、ガラスの1cmあたりの体積抵抗値である。ガラスの体積抵抗率は、ガラスの一方の主面からそれに対向するもう一方の主面までの間(以下、単に板厚方向という場合がある)の電荷の移動しやすさと相関し、体積抵抗率が高いほど板厚方向に電荷が流れにくいことを意味する
【0033】
図2に、母組成と板厚が同じである板状の化学強化用ガラスについて、異なる複数の条件で化学強化処理を行った際の化学強化ガラスの表面抵抗率と体積抵抗率の関係を示す。この図から、第1には、化学強化プロセスが化学強化ガラスの電気抵抗に影響し得ることが読み取れる。すなわち、化学強化プロセスの条件、ないしはそれにより得られる化学強化ガラスの特性を適切に制御することで化学強化ガラスの電気抵抗を高くし得ることがわかる。また、本発明者らによる検討の結果、次の(I)、(II)のような場合には、化学強化ガラスの電気抵抗が大きくなる方向に寄与すると考えられる。
(I)ガラス表面近傍において、複数種の異なるアルカリ金属イオンが均等に近い割合でより混在した状態にある。
(II)ガラス表面近傍において、比較的サイズの大きいアルカリ金属イオンが、化学強化処理によってより多く導入された状態にある。
【0034】
加えて、図2からは、表面抵抗率と体積抵抗率との間には正の相関があることがわかる。化学強化ガラスの表面近傍が比較的高抵抗になっている状態で、主面方向と平行な方向に電荷が移動するとき、主面の表面近傍では電荷が移動し難く、電荷は主面から比較的深い部分を迂回すると考えられる。この場合に表面抵抗率を測定すると、電荷は主面近傍から深部に移動するときと、深部から主面近傍に戻るときとで、高抵抗部分を2回通過すると考えられる。また、体積抵抗率を測定する際も同様に、電荷は一方の主面近傍の高抵抗部分と、もう一方の主面近傍の高抵抗部分とを通り、高抵抗部分を2回通過すると考えられる。これらから、表面抵抗率と体積抵抗率との間に直線的な正の相関があることを説明可能である。そしてこれらのことから、比較的高抵抗な化学強化ガラスによれば、ディスプレイ主面と平行な方向及び板厚方向の両方向について電荷の移動を抑制でき、これが異常発光現象の抑制に寄与すると言える。
【0035】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施できる。例えば、本明細書において例示される複数の実施形態について、各実施形態の好ましい態様を互いに組み合わせたり、各実施形態の一部を別の実施形態の好適態様に置換したりしてもよい。
【0036】
本実施形態の化学強化用ガラスは、以下に説明する第1実施形態及び第2実施形態の化学強化用ガラスを含む。
【0037】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態に係る化学強化用ガラスは、
酸化物基準のモル百分率表示で、
SiOを50%以上、
を0~10%
Alを1~30%、
を0~10%、
を0~10%、
LiOを0~25%、
NaOを0~25%、
Oを0~25%、
MgOを0~10%、
CaOを0~10%、
SrOを0~10%、
BaOを0~10%、
ZnOを0~10%、
ZrOを0~5%、
TiOを0~5%、
SnOを0~5%、
Feを0~0.5%含有し、
Alの含有量に対するLiO、NaO及びKOの含有量の合計の比(RO/Al)が下記式(A)を満たす。
(A)0.8≦(RO/Al)≦30
【0038】
第1実施形態に係る化学強化用ガラスは、上記組成を有することで、ガラス自体が比較的高抵抗なものとなりやすく、かつ、化学強化した際に高抵抗な化学強化ガラスを得やすい。
【0039】
第1実施形態に係る化学強化用ガラスは、表面抵抗率、体積抵抗率を高くする観点と、ガラスの強度を向上させるために必要な圧縮応力をガラスに導入する観点から、酸化物基準のモル百分率表示で、LiOを7~12%、NaOを1.5~6%、KOを0~1.5%含有することが好ましい。
【0040】
以下、第1実施形態に係る化学強化用ガラスのより好ましい組成について、詳細に説明する。ガラス組成について、必須でない成分の好ましい含有量の下限は0%である。
【0041】
本実施形態に係る化学強化用ガラスにおいて、SiOはガラスのネットワーク構造を形成する成分である。また、化学的耐久性を上げる成分である。
SiOの含有量は50%以上であり、52%以上が好ましく、56%以上がより好ましく、60%以上がさらに好ましく、64%以上が特に好ましく、68%以上が最も好ましい。一方、溶融性を良くするためにSiOの含有量は75%未満であり、73%以下が好ましく、72%以下がより好ましく、71%以下がさらに好ましく、70%以下が特に好ましく、69%以下が最も好ましい。
【0042】
は、化学強化用ガラスまたは化学強化ガラスのチッピング耐性を向上させ、また溶融性を向上させる成分であり、含有してもよい。Bを含有する場合の含有量は、溶融性を向上するために、好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは1%以上、さらに好ましくは2%以上である。一方、Bの含有量が多すぎると溶融時に脈理が発生したり、分相しやすくなったりして化学強化用ガラスの品質が低下しやすいため10%以下が好ましい。Bの含有量は、より好ましくは8%以下、さらに好ましくは6%以下であり、特に好ましくは4%以下である。
【0043】
Alは化学強化による表面圧縮応力を大きくする成分であり、必須である。
Alの含有量は1%以上であり、以下順に、3%以上、5%以上、7%以上、9%以上、11%以上が好ましく、12%以上がより好ましく、13%以上がさらに好ましく、14%以上が特に好ましく、15%以上が最も好ましい。一方、Alの含有量は、ガラスの失透温度が高くなりすぎないために30%以下であり、27%以下が好ましく、24%以下がより好ましく、21%以下がさらに好ましく、19%以下が特に好ましく、18%以下が最も好ましい。
【0044】
は必須ではないが、化学強化による圧縮応力層を大きくする成分であり、含有してもよい。また、Pは化学強化処理時にカリウムイオンの拡散を促進し得る成分であるため、高抵抗な化学強化ガラスを得る観点ではPを含有することが好ましい。Pは結晶化ガラスにおいて結晶化を促進し得る成分でもある。
を含有する場合の含有量は、0.5%以上が好ましく、1%以上がより好ましく、1.5%以上がさらに好ましく、2%以上が特に好ましく、2.5%以上が最も好ましい。
一方、P含有量が多すぎると、溶融時に分相しやすくなり、また耐酸性が著しく低下するので、Pの含有量は、10%以下であり、8%以下が好ましく、6%以下がより好ましく、5%以下がさらに好ましく、4%以下が特に好ましく、3%以下が最も好ましい。
【0045】
は必須ではないが、化学強化ガラスが破壊した時に破片が飛散しにくくする効果のある成分であり、含有してもよい。
を含有する場合の含有量は、0.5%以上が好ましく、1%以上がより好ましく、1.5%以上がさらに好ましく、2%以上が特に好ましく、2.5%以上が最も好ましい。
一方、溶融時の失透を抑制するために、Yの含有量は10%以下であり、8%以下が好ましく、6%以下がより好ましく、4%以下がさらに好ましく、3.5%以下が特に好ましく、3%以下が最も好ましい。
【0046】
LiO、NaO及びKOは表面抵抗率、体積抵抗率を高くする効果と、ガラスの強度を向上させるために必要な圧縮応力を適切にガラスに導入するためにガラスのイオン交換特性を調整する効果を持つ成分である。本実施形態におけるガラスはLiO、NaO及びKOの含有量の合計は表面抵抗率、体積抵抗率を高くする観点、化学強化処理により圧縮応力を導入する観点から0%超であり、10%以上が好ましく、11%以上がより好ましく、12%以上がさらに好ましく、14%以上が特に好ましく、16%以上が最も好ましい。LiO、NaO及びKOの含有量の合計はガラス成型時の失透特性を低減する観点から35%以下が好ましく、30%以下がより好ましく、25%以下がさらに好ましく、20%以下が特に好ましく、19%以下が最も好ましい。
【0047】
本実施形態に係るガラスにおいて、Alの含有量に対するLiO、NaO及びKOの含有量の合計の比(RO/Al)は、下記式(A)を満たす。
(A)0.8≦(RO/Al)≦30
(RO/Al)が上記式(A)を満たすことは、Alの含有量がアルカリ金属酸化物の含有量に対して比較的多いか、比較的少ないことを意味する。これにより、表面抵抗率、体積抵抗率を高くするという効果を得られる。
【0048】
(RO/Al)が上記式(A)を満たす場合、(RO/Al)は0.8以上であり、0.84以上が好ましく、0.88以上がより好ましく、0.92以上がさらに好ましく、0.96以上が特に好ましく、1.0以上が最も好ましい。一方、(RO/Al)は30以下であり、以下順に、25以下、20以下、10以下、5以下、2以下、が好ましく、1.8以下がより好ましく、1.5以下がさらに好ましく、1.0以下がよりさらに好ましい。
【0049】
LiOは、イオン交換により圧縮応力を形成させる成分である。
LiOは必須ではないが、含有する場合の含有量は3%以上が好ましく、5%以上がより好ましく、7%以上がさらに好ましく、8%以上がよりさらに好ましく、9%以上が特に好ましく、10%以上が最も好ましい。一方、ガラスを安定にするためにLiOの含有量は、25%以下であり、22%以下が好ましく、20%以下がより好ましく、18%以下がさらに好ましく、16%以下が特に好ましく、14%以下がさらに特に好ましく、12%以下が最も好ましい。
【0050】
NaOは、ガラスの溶融性を向上させる成分である。
NaOは必須ではないが、含有する場合の含有量は1%以上が好ましく、1.5%以上がより好ましく、2%以上がさらに好ましく、3%以上がよりさらに好ましく、4%以上が特に好ましく、5%以上が最も好ましい。NaOは多すぎると化学強化特性が低下するため、NaOの含有量は25%以下が好ましく、20%以下がより好ましく、15%以下がさらに好ましく、12%以下が特に好ましく、10%以下がさらに特に好ましく、6%以下が最も好ましい。
【0051】
Oは、必須ではないが、NaOと同じくガラスの溶融温度を下げる成分であり、含有してもよい。
Oを含有する場合の含有量は、0.1%以上が好ましく、0.5%以上がより好ましく、1%以上がさらに好ましく、1.5%以上が特に好ましく、2%以上が最も好ましい。KOは多すぎると化学強化特性が低下する、または化学的耐久性が低下するため、その含有量は10%以下が好ましく、8%以下がより好ましく、6%以下がさらに好ましく、5%以下が特に好ましく、4%以下がさらに特に好ましく、1.5%以下が最も好ましい。
【0052】
NaOおよびKOの合計の含有量NaO+KOは、ガラス原料の溶融性を向上するために2%以上が好ましく、3%以上がより好ましく、4%以上がさらに好ましく、5%以上が特に好ましく、6%以上が最も好ましい。NaO+KOは20%以下が好ましく、15%以下がより好ましく、12%以下がさらに好ましく、10%以下が特に好ましく、8%以下が最も好ましい。
【0053】
BaO、SrO、MgO、CaOおよびZnOは、いずれもガラスの溶融性を向上する成分であり含有してもよい。BaO、SrO、MgO、CaOおよびZnOのいずれか1種以上を含有する場合、これらの含有量の合計は、0.5%以上が好ましく、1%以上がより好ましく、1.5%以上がさらに好ましく、2%以上が特に好ましく、2.5%以上が最も好ましい。一方、イオン交換速度を一定以上に保つ観点から、これらの含有量の合計は10%以下が好ましく、8%以下がより好ましく、7%以下がさらに好ましく、6%以下が特に好ましく、5%以下が最も好ましい。
【0054】
MgOは必須ではないが、ガラスを安定化させる成分であり、機械的強度と耐薬品性を高める成分でもあるため、Al含有量が比較的少ない等の場合には、含有することが好ましい。
MgOの含有量は、0.5%以上が好ましく、1%以上がより好ましく、2%以上がさらに好ましく、3%以上が特に好ましく、4%以上が最も好ましい。
一方、MgOを添加し過ぎるとガラスの粘性が下がり失透または分相が起こりやすくなる。MgOの含有量は、10%以下であり、9%以下が好ましく、8%以下がより好ましく、7%以下がさらに好ましく、6%以下が特に好ましく、5%以下が最も好ましい。
【0055】
CaOは必須ではないが、ガラスの溶融性を向上させる成分であり、含有してもよい。
CaOの含有量は、0.5%以上が好ましく、1%以上がより好ましく、2%以上がさらに好ましく、3%以上が特に好ましく、4%以上が最も好ましい。
一方、CaOの含有量が過剰であると化学強化処理時に圧縮応力値を大きくしにくくなる。CaOの含有量は、10%以下であり、9%以下が好ましく、8%以下がより好ましく、7%以下がさらに好ましく、6%以下が特に好ましく、5%以下が最も好ましい。
【0056】
SrOは必須ではないが、ガラスの溶融性を向上させる成分であり、含有してもよい。
SrOの含有量は、0.5%以上が好ましく、1%以上がより好ましく、2%以上がさらに好ましく、3%以上が特に好ましく、4%以上が最も好ましい。
一方、SrOの含有量が過剰であると化学強化処理時に圧縮応力値を大きくしにくくなる。SrOの含有量は、10%以下であり、9%以下が好ましく、8%以下がより好ましく、7%以下がさらに好ましく、6%以下が特に好ましく、5%以下が最も好ましい。
【0057】
BaOは必須ではないが、ガラスの溶融性を向上させる成分であり、含有してもよい。
BaOの含有量は、0.5%以上が好ましく、1%以上がより好ましく、2%以上がさらに好ましく、3%以上が特に好ましく、4%以上が最も好ましい。
一方、BaOの含有量が過剰であると化学強化処理時に圧縮応力値を大きくしにくくなる。BaOの含有量は、10%以下であり、9%以下が好ましく、8%以下がより好ましく、7%以下がさらに好ましく、6%以下が特に好ましく、5%以下が最も好ましい。
【0058】
ZnOは必須ではないが、ガラスの溶融性を向上させる成分であり、含有してもよい。
ZnOの含有量は、0.5%以上が好ましく、1%以上がより好ましく、2%以上がさらに好ましく、3%以上が特に好ましく、4%以上が最も好ましい。
一方、ZnOの含有量が過剰であると化学強化処理時に圧縮応力値を大きくしにくくなる。ZnOの含有量は、10%以下であり、9%以下が好ましく、8%以下がより好ましく、7%以下がさらに好ましく、6%以下が特に好ましく、5%以下が最も好ましい。
【0059】
ZrOは必須ではないが、機械的強度と化学的耐久性を高める成分であり、CSを著しく向上させるため、含有することが好ましい。
ZrOの含有量は、0.2%以上が好ましく、0.5%以上がより好ましく、1%以上がさらに好ましく、2%以上が特に好ましく、2.5%以上が最も好ましい。
一方、溶融時の失透を抑制するために、ZrOの含有量は5%以下が好ましく、4.7%以下が好ましく、4.4%以下がより好ましく、4%以下がさらに好ましく、3.7%以下が特に好ましく、3.5%以下が最も好ましい。
【0060】
TiOは必須ではないが、ガラスのソラリゼーションを抑制する成分であり、また、結晶化ガラスを得る場合に結晶化を促進し得る成分であり、含有してもよい。TiOを含有する場合の含有量は、0.1%以上が好ましく、0.5%以上がより好ましく、1%以上がさらに好ましく、1.5%以上が特に好ましく、2%以上が最も好ましい。一方、溶融時の失透を抑制するために、TiOの含有量は5%以下が好ましく、4.7%以下が好ましく、4.4%以下がより好ましく、4%以下がさらに好ましく、3.7%以下が特に好ましく、3.5%以下が最も好ましい。
【0061】
SnOは必須ではないが、ガラス製造時の清澄剤として作用する作用があり、また、結晶化ガラスを得る場合に結晶核の生成を促成する作用があるため、含有してもよい。SnOを含有する場合の含有量は、0.02%以上が好ましく、0.05%以上がより好ましく、0.08%以上がさらに好ましく、0.1%以上が特に好ましく、0,12%以上が最も好ましい。一方、溶融時の失透を抑制するために、SnOの含有量は5%以下が好ましく、3%以下が好ましく、2%以下がより好ましく、1%以下がさらに好ましく、0.5%以下が特に好ましく、0.3%以下が最も好ましい。
【0062】
La、NbおよびTaは、いずれも化学強化ガラスが破壊した時に破片が飛散しにくくする成分であり、屈折率を高くするために、含有させてもよい。これらを含有する場合、La、NbおよびTaの含有量の合計(以下、La+Nb+Ta)は好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは1%以上、さらに好ましくは1.5%以上であり、特に好ましくは2%以上である。また、溶融時にガラスが失透しにくくなるために、La+Nb+Taは4%以下が好ましく、より好ましくは3%以下、さらに好ましくは2%以下であり、特に好ましくは1%以下である。
【0063】
また、CeOを含有してもよい。CeOはガラスを酸化することで着色を抑える場合がある。CeOを含有する場合の含有量は0.03%以上が好ましく、0.05%以上がより好ましく、0.07%以上がさらに好ましい。CeOの含有量は、透明性を高くするために1.5%以下が好ましく、1.0%以下がより好ましい。
【0064】
化学強化ガラスを着色して使用する際は、所望の化学強化特性の達成を阻害しない範囲において着色成分を添加してもよい。着色成分としては、例えば、Co、MnO、Fe、NiO、CuO、Cr、V、Bi、SeO、Er、Ndが挙げられる。
【0065】
Feを含有する場合、その含有量は0.5%以下である。着色成分の含有量は、合計で1%以下の範囲が好ましい。ガラスの可視光透過率をより高くしたい場合は、これらの成分は実質的に含有しないことが好ましい。
【0066】
紫外光の照射に対する耐候性を高めるために、HfO、Nb、Tiを添加してもよい。紫外光照射に対する耐候性を高める目的で添加する場合には、他の特性に影響を抑えるために、HfO、NbおよびTiの含有量の合計は1%以下が好ましく、0.5%以下がさらに好ましく、0.1%以下がより好ましい。
【0067】
また、ガラスの溶融の際の清澄剤等として、SO、塩化物、フッ化物を適宜含有してもよい。清澄剤として機能する成分の含有量の合計は、添加しすぎると強化特性、結晶化挙動に影響をおよぼすため、酸化物基準の質量%表示で、2%以下が好ましく、より好ましくは1%以下であり、さらに好ましくは0.5%以下である。下限は特に制限されないが、典型的には、酸化物基準の質量%表示で、合計で0.05%以上が好ましい。
【0068】
清澄剤としてSOを用いる場合のSOの含有量は、少なすぎると効果が見られないため、酸化物基準の質量%表示で、0.01%以上が好ましく、より好ましくは0.05%以上であり、さらに好ましくは0.1%以上である。また、清澄剤としてSOを用いる場合のSOの含有量は、酸化物基準の質量%表示で、1%以下が好ましく、より好ましくは0.8%以下であり、さらに好ましくは0.6%以下である。
【0069】
清澄剤としてClを用いる場合のClの含有量は、添加しすぎると強化特性などの物性に影響をおよぼすため、酸化物基準の質量%表示で、1%以下が好ましく、0.8%以下がより好ましく、0.6%以下がさらに好ましい。また、清澄剤としてClを用いる場合のClの含有量は、少なすぎると効果が見られないため、酸化物基準の質量%表示で、0.05%以上が好ましく、より好ましくは0.1%以上であり、さらに好ましくは0.2%以上である。
【0070】
Asは含有しないことが好ましい。Asを含有する場合は、0.3%以下が好ましく、0.1%以下がより好ましく、含有しないことが最も好ましい。
【0071】
第1実施形態に係る化学強化用ガラスは、非晶質ガラスであってもよく、結晶化ガラスであってもよい。
【0072】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態に係る化学強化用ガラスは、母組成が酸化物基準のモル%表示で、SiOを40~70%、LiOを10~35%、Alを1~15%、含有することが好ましい。
【0073】
第2実施形態に係る化学強化用ガラスの一態様としては、酸化物基準のモル%表示で、
SiOを40~70%、
LiOを10~35%、
Alを1~15%、
を0.5~5%、
ZrOを0.5~5%、
を0~10%、
NaOを0~3%、
Oを0~1%、
SnOを0~4%、含有することが好ましい。本明細書において、かかる組成の結晶化ガラスを「本結晶化ガラスx」ともいう。
【0074】
第2実施形態に係る化学強化用ガラスの別の一態様としては、酸化物基準のモル%表示で、
SiOを50~70%、
LiOを15~30%、
Alを1~10%、
を0.5~5%、
ZrOを0.5~8%、
MgOを0.1~10%、
を0~5%
を0~10%、
NaOを0~3%、
Oを0~1%、
SnOを0~2%、含有することが好ましい。本明細書において、かかる組成の結晶化ガラスを「本結晶化ガラスy」ともいう。
【0075】
本明細書において、本結晶化ガラスx及び本結晶化ガラスyを含む本実施形態の結晶化ガラスを本結晶化ガラスとも総称する。本結晶化ガラスは、酸化物基準のモル%表示で、SiO、Al、PおよびBの総量が60~80%であることが好ましい。SiO、Al、PおよびBは、ガラスの網目形成成分(以下、NWFとも略す)である。これらNWFの総量が多いことで、ガラスの強度が高くなる。それによって結晶化ガラスの破壊靱性値を大きくすることから、NWFの総量は60%以上が好ましく、63%以上がより好ましく、65%以上が特に好ましい。しかしNWFが多すぎるガラスは溶融温度が高くなるなど、製造が困難になるから85%以下が好ましく、80%以下がより好ましく、75%以下がより好ましい。
【0076】
本結晶化ガラスは、LiO、NaOおよびKOの総量のNWFすなわち、SiO、Al、PおよびBの総量に対する比が0.20~0.60であることが好ましい。
【0077】
LiO、NaOおよびKOは網目修飾成分であり、NWFに対する比率を低下させることは、ネットワーク中の隙間を増やすため、耐衝撃性を向上させる。そのため、LiO、NaOおよびKOの総量のNWFに対する比率は0.60以下が好ましく、0.55以下がより好ましく、0.50以下が特に好ましい。一方、これらは化学強化の際に必要な成分なので、化学強化特性を高くするために、LiO、NaOおよびKOの総量のNWFに対する比率は0.20以上が好ましく、0.25以上がより好ましく、0.30以上が特に好ましい。
以下、このガラス組成を説明する。
【0078】
本非晶質ガラスにおいて、SiOはガラスのネットワーク構造を形成する成分である。また、化学的耐久性を上げる成分であり、SiOの含有量は45%以上が好ましい。SiOの含有量は、より好ましくは48%以上、さらに好ましくは50%以上、特に好ましくは52%以上、極めて好ましくは54%以上である。一方、溶融性を良くするためにSiOの含有量は70%以下が好ましく、より好ましくは68%以下、さらに好ましくは66%以下、特に好ましくは64%以下である。
【0079】
Alは化学強化による表面圧縮応力を大きくする成分であり、必須である。Alの含有量は好ましくは1%以上であり、より好ましくは2%以上、さらに好ましくは以下順に3%以上、5%以上、5.5%以上、6%以上、特に好ましくは6.5%以上、最も好ましくは7%以上である。一方、Alの含有量は、ガラスの失透温度が高くなりすぎないために15%以下が好ましく、12%以下がより好ましく、10%以下がさらに好ましく、9%以下が特に好ましく、8%以下が最も好ましい。
【0080】
LiOは、イオン交換により表面圧縮応力を形成させる成分であり、主結晶の構成成分でるため必須である。LiOの含有量は、好ましくは10%以上、より好ましくは14%以上、より好ましくは15%以上、さらに好ましくは18%以上、特に好ましくは20%以上、最も好ましくは22%以上である。一方、ガラスを安定にするためにLiOの含有量は、35%以下が好ましく、より好ましくは32%以下、さらに好ましくは30%以下、特に好ましくは28%以下、最も好ましくは26%以下である。
【0081】
NaOは、ガラスの溶融性を向上させる成分である。NaOは必須ではないが、含有する場合は好ましくは0.5%以上、より好ましくは1%以上であり、特に好ましくは2%以上である。NaOは多すぎると主結晶であるLiPOなどの結晶が析出しにくくなり、または化学強化特性が低下するため、NaOの含有量は10%以下が好ましく、9%以下がより好ましく、8%以下がさらに好ましく、7%以下が特に好ましい。
【0082】
Oは、NaOと同じくガラスの溶融温度を下げる成分であり、含有してもよい。KOを含有する場合の含有量は、好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは1%以上、さらに好ましくは1.5%以上、特に好ましくは2%以上である。KOは多すぎると化学強化特性が低下する、または化学的耐久性が低下するため、好ましくは5%以下、より好ましくは4%以下、さらに好ましくは3%以下、特に好ましくは2%以下、最も好ましくは1%以下である。
【0083】
NaOおよびKOの合計の含有量NaO+KOはガラス原料の溶融性を向上するために1%以上が好ましく、2%以上がより好ましい。
【0084】
また、LiO、NaOおよびKOの含有量の合計(以下、RO)に対するKO含有量の比KO/ROは0.2以下であると、化学強化特性を高くし、化学的耐久性を高くできるので好ましい。KO/ROは0.15以下がより好ましく、0.10以下がさらに好ましい。
【0085】
なお、ROは10%以上が好ましく、15%以上がより好ましく、20%以上がさらに好ましい。また、ROは29%以下が好ましく、26%以下がより好ましい。
【0086】
は、LiPO結晶の構成成分であり、必須である。Pの含有量は、結晶化を促進するために、好ましくは0.5%以上、より好ましくは1%以上、さらに好ましくは1.5%以上、特に好ましくは2%以上、極めて好ましくは2.5%以上である。一方、P含有量が多すぎると、溶融時に分相しやすくなり、また耐酸性が著しく低下するので、Pの含有量は、好ましくは5%以下、より好ましくは4.8%以下、さらに好ましくは4.5%以下、特に好ましくは4.2%以下である。
【0087】
ZrOは、機械的強度と化学的耐久性を高める成分であり、CSを著しく向上させるため、含有することが好ましい。ZrOの含有量は、好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは1%以上、さらに好ましくは1.5%以上、特に好ましくは2%以上であり、最も好ましくは2.5%以上である。一方、溶融時の失透を抑制するために、ZrOは8%以下が好ましく、7.5%以下がより好ましく、7%以下がさらに好ましく、6%以下が特に好ましい。ZrOの含有量が多すぎると失透温度の上昇により粘性が低下する。かかる粘性の低下により成形性が悪化するのを抑制するため、成形粘性が低い場合は、ZrOの含有量は5%以下が好ましく、4.5%以下がより好ましく、3.5%以下がさらに好ましい。
【0088】
また、ZrO/ROは、化学的耐久性を高くするためには、0.02以上が好ましく、0.03以上がより好ましく、0.04以上がさらに好ましく、0.1以上が特に好ましく、0.15以上が最も好ましい。結晶化後の透明性を高くするためには、ZrO/ROは、0.6以下が好ましく、0.5以下がより好ましく、0.4以下がさらに好ましく、0.3以下が特に好ましい。
【0089】
MgOは、ガラスを安定化させる成分であり、機械的強度と耐薬品性を高める成分でもあるため、Al含有量が比較的少ない等の場合には、含有することが好ましい。MgOの含有量は、好ましくは1%以上、より好ましくは2%以上、さらに好ましくは3%以上、とくに好ましくは4%以上である。一方、MgOを添加し過ぎるとガラスの粘性が下がり失透または分相が起こりやすくなるため、MgOの含有量は、10%以下が好ましく、より好ましくは9%以下、さらに好ましくは8%以下、特に好ましくは7%以下である。
【0090】
TiOは結晶化を促進し得る成分であり、含有してもよい。TiOは必須ではないが、含有する場合は、好ましくは0.2%以上であり、より好ましくは0.5%以上である。一方、溶融時の失透を抑制するために、TiOの含有量は4%以下が好ましく、2%以下がより好ましく、1%以下がさらに好ましい。
【0091】
SnOは結晶核の生成を促成する作用があり、含有してもよい。SnOは必須ではないが、含有する場合、好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは1%以上、さらに好ましくは1.5%以上、特に好ましくは2%以上である。一方、溶融時の失透を抑制するために、SnOの含有量は6%以下が好ましく、5%以下がより好ましく、4%以下がさらに好ましく、3%以下が特に好ましい。
【0092】
は化学強化ガラスが破壊した時に破片が飛散しにくくする効果のある成分であり、含有させてよい。Yの含有量は、好ましくは1%以上、より好ましくは1.5%以上、さらに好ましくは2%以上、特に好ましくは2.5%以上、極めて好ましくは3%以上である。一方、溶融時の失透を抑制するために、Yの含有量は5%以下が好ましく、4%以下がより好ましい。
【0093】
は、化学強化用ガラスまたは化学強化ガラスのチッピング耐性を向上させ、また溶融性を向上させる成分であり、含有してもよい。Bを含有する場合の含有量は、溶融性を向上するために、好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは1%以上、さらに好ましくは2%以上である。一方、Bの含有量が多すぎると溶融時に脈理が発生したり、分相しやすくなったりして化学強化用ガラスの品質が低下しやすいため5%以下が好ましい。Bの含有量は、より好ましくは4%以下、さらに好ましくは3%以下であり、特に好ましくは2%以下である。
【0094】
BaO、SrO、MgO、CaOおよびZnOは、いずれもガラスの溶融性を向上する成分であり含有してもよい。これらの成分を含有させる場合、BaO、SrO、MgO、CaOおよびZnOの含有量の合計(以下、BaO+SrO+MgO+CaO+ZnO)は好ましくは0.5%以上、より好ましくは1%以上、さらに好ましくは1.5%以上、特に好ましくは2%以上である。一方、イオン交換速度が低下するため、BaO+SrO+MgO+CaO+ZnOは8%以下が好ましく、6%以下がより好ましく、5%以下がさらに好ましく、4%以下が特に好ましい。
【0095】
このうちBaO、SrO、ZnOは、残留ガラスの屈折率を向上させて析出結晶相に近づけることにより結晶化ガラスの光透過率を向上して、ヘーズ値を下げるために含有してもよい。その場合、BaO、SrOおよびZnOの含有量の合計(以下、BaO+SrO+ZnO)は0.3%以上が好ましく、0.5%以上がより好ましく、0.7%以上がさらに好ましく、1%以上が特に好ましい。一方で、これらの成分は、イオン交換速度を低下させる場合がある。化学強化特性を良くするために、BaO+SrO+ZnOは2.5%以下が好ましく、2%以下がより好ましく、1.7%以下がさらに好ましく、1.5%以下が特に好ましい。
【0096】
La、NbおよびTaは、いずれも化学強化ガラスが破壊した時に破片が飛散しにくくする成分であり、屈折率を高くするために、含有させてもよい。これらを含有する場合、La、NbおよびTaの含有量の合計(以下、La+Nb+Ta)は好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは1%以上、さらに好ましくは1.5%以上であり、特に好ましくは2%以上である。また、溶融時にガラスが失透しにくくなるために、La+Nb+Taは4%以下が好ましく、より好ましくは3%以下、さらに好ましくは2%以下であり、特に好ましくは1%以下である。
【0097】
また、CeOを含有してもよい。CeOはガラスを酸化することで着色を抑える場合がある。CeOを含有する場合の含有量は0.03%以上が好ましく、0.05%以上がより好ましく、0.07%以上がさらに好ましい。CeOの含有量は、透明性を高くするために1.5%以下が好ましく、1.0%以下がより好ましい。
【0098】
強化ガラスを着色して使用する際は、所望の化学強化特性の達成を阻害しない範囲において着色成分を添加してもよい。着色成分としては、例えば、Co、MnO、Fe、NiO、CuO、Cr、V、Bi、SeO、Er、Ndが挙げられる。
【0099】
着色成分の含有量は、合計で1%以下の範囲が好ましい。ガラスの可視光透過率をより高くしたい場合は、これらの成分は実質的に含有しないことが好ましい。
【0100】
また、ガラスの溶融の際の清澄剤等として、SO、塩化物、フッ化物を適宜含有してもよい。Asは含有しないことが好ましい。Asを含有する場合は、0.3%以下が好ましく、0.1%以下がより好ましく、含有しないことが最も好ましい。
【0101】
第2実施形態に係る化学強化用ガラスは、結晶化ガラスであることが好ましい。
【0102】
ここで、第1実施形態及び第2実施形態の化学強化用ガラスが結晶化ガラスである場合は、結晶化ガラスの結晶相とガラス相の組成を合計した組成が上述の範囲内にあることが好ましい。結晶化ガラスの組成は、結晶化ガラスを融点以上の温度で熱処理を行い、ガラス化したものを分析することで求められる。ガラス組成を分析する手法としては蛍光X線分析法が挙げられる。
【0103】
第1実施形態及び第2実施形態の化学強化用ガラスが結晶化ガラスである場合、結晶種は特に限定されないが、例えばケイ酸リチウム結晶、アルミノケイ酸リチウム結晶、リン酸リチウム結晶からなる群から選ばれる1以上の結晶を含有することが好ましい。ケイ酸リチウム結晶としては、メタケイ酸リチウム結晶、ジケイ酸リチウム結晶等が好ましい。リン酸リチウム結晶としては、オルトリン酸リチウム結晶等が好ましい。アルミノケイ酸リチウム結晶としては、β-スポジュメン結晶、ペタライト結晶等が好ましい。
【0104】
第1実施形態及び第2実施形態の化学強化用ガラスが結晶化ガラスである場合、結晶化ガラスの結晶化率は特に限定されないが、機械的強度を高くするために10%以上が好ましく、15%以上がより好ましく、20%以上がさらに好ましく、25%以上が特に好ましい。また、透明性を高くするために、70%以下が好ましく、60%以下がより好ましく、50%以下が特に好ましい。結晶化率が小さいことは、加熱して曲げ成形等しやすい点でも優れている。結晶化率は、X線回折強度からリートベルト法で算出できる。リートベルト法については、日本結晶学会「結晶解析ハンドブック」編集委員会編、「結晶解析ハンドブック」(共立出版 1999年刊、p492~499)に記載されている。
【0105】
本実施形態の化学強化ガラスは、以下に説明する第3実施形態~第6実施形態の化学強化ガラスを含む。
【0106】
(第3実施形態)
本発明の第3実施形態に係る化学強化ガラスは、下記で定義されるK-DOLが4.2μm以上であり、かつ、表面抵抗率が11[logΩ/sq]以上である。
K-DOL(μm):カリウムイオンによる圧縮応力層のガラス表面からの深さの値
【0107】
上述の通り、比較的サイズの大きいカリウムイオンに起因する圧縮応力層が形成された化学強化ガラスは、高抵抗になりやすいと考えられる。ここで、K-DOLが比較的大きいことは、カリウムイオンに起因する圧縮応力層の深さが比較的大きいことを意味する。すなわち、第3実施形態に係る化学強化ガラスによれば、カリウムイオンに起因する高抵抗な圧縮応力層が深く形成されているため、表面抵抗率の大きい化学強化ガラスが得られる。
【0108】
第3実施形態に係る化学強化ガラスにおいて、K-DOLは4.2μm以上であり、5.0μm以上が好ましく、6.0μm以上がより好ましく、8.0μm以上がさらに好ましく、10.0μm以上が特に好ましく、12.0μm以上が最も好ましい。一方で、Naイオンによる深層応力を高く保つ観点から、K-DOLは30μm以下が好ましく、25μm以下がより好ましく、20μm以下がさらに好ましく、18μm以下が特に好ましく、15μm以下が最も好ましい。
【0109】
第3実施形態に係る化学強化ガラスにおいて、表面抵抗率は11[logΩ/sq]以上であり、11.5[logΩ/sq]以上が好ましく、12[logΩ/sq]以上がより好ましい。
【0110】
(第4実施態様)
本発明の第4実施形態に係る化学強化ガラスは、下記で定義されるK-CSareaが4000Pa・m以上であり、かつ、表面抵抗率が11[logΩ/sq]以上である。
K-CSarea(Pa・m):K-CSとK-DOLの積
K-CS(MPa):ガラス表面応力計により測定されるガラス表面における圧縮応力値
K-DOL(μm):カリウムイオンによる圧縮応力層のガラス表面からの深さの値
【0111】
上述の通り、比較的サイズの大きいカリウムイオンに起因する圧縮応力層が形成された化学強化ガラスは、高抵抗になりやすいと考えられる。ここで、K-CSareaが比較的大きいことは、カリウムイオンに起因する圧縮応力の総量がより大きいことを意味する。すなわち、第4実施形態に係る化学強化ガラスによれば、カリウムイオンに起因する圧縮応力の総量が大きいため、表面抵抗率の大きい化学強化ガラスが得られる。
【0112】
第4実施形態に係る化学強化ガラスにおいて、K-CSareaは4000Pa・m以上であり、以下順に、4100Pa・m以上、4700Pa・m以上、5000Pa・m以上が好ましく、6000Pa・m以上がより好ましく、10000Pa・m以上が最も好ましい。一方で、Naイオンによる深層応力を高く保つ観点から、K-CSareaは50000Pa・m以下が好ましく、40000P・m以下がより好ましく、30000・Pa・m以下がさらに好ましく、20000Pa・m以下が特に好ましく、18000Pa・m以下が最も好ましい。
【0113】
第4実施形態に係る化学強化ガラスにおいて、表面抵抗率は11[logΩ/sq]以上であり、11.5[logΩ/sq]以上が好ましく、12[logΩ/sq]以上がより好ましい。
【0114】
(第5実施形態)
本発明の第5実施形態に係る化学強化ガラスは、ガラス表面から深さ3μmにおけるKO濃度であるKO@3μmの、板厚中心部におけるKO濃度であるKO@centerに対する比率が5.3以上であり、表面抵抗率が11[logΩ/sq]以上である。
【0115】
O@3μmのKO@centerに対する比率が5.3以上であることは、深さ3μmまでの範囲においてカリウムイオンの総量が比較的多いことを意味する。すなわち、第5実施形態に係る化学強化ガラスによれば、カリウムイオンに起因する高抵抗な圧縮応力層が十分に形成されており、表面抵抗率の大きい化学強化ガラスが得られる。
【0116】
第5実施形態に係る化学強化ガラスにおいて、KO@3μmのKO@centerに対する比率は5.3以上であり、5.5以上が好ましく、6.0以上がより好ましく、6.5以上がさらに好ましい。一方で、Naイオンによる深層応力を高く保つ観点から、かかる値は20以下が好ましく、18以下がより好ましく、15以下がさらに好ましく、12以下が特に好ましく、11以下が最も好ましい。
【0117】
第5実施形態に係る化学強化ガラスにおいて、表面抵抗率は11[logΩ/sq]以上であり、11.5[logΩ/sq]以上が好ましく、12[logΩ/sq]以上がより好ましい。表面抵抗率の上限は特に限定されない。
【0118】
(第6実施形態)
本発明の第6実施形態に係る化学強化ガラスは、ガラス表面から深さ5μmのLiO濃度と板厚中心部におけるLiO濃度の比率が0.85以下であり、表面抵抗率が11[logΩ/sq]以上である。
【0119】
ガラス表面から深さ5μmのLiO濃度であるLiO@5μmの、板厚中心部におけるLiO濃度であるLiO@centerに対する比率が0.85以下であることは、深さ5μmまでの範囲においてリチウムイオンの総量が比較的少ないことを意味する。リチウムイオンはアルカリ金属イオンの中では比較的サイズが小さい。そのため、化学強化ガラスの表層にリチウムイオンが存在する場合、周囲に別のアルカリ金属イオンが存在すれば混合アルカリ効果による高抵抗化の可能性はあるものの、置換されたアルカリ金属イオンのサイズによる効果は得られにくく、むしろ抵抗を下げてしまう方向に働き得ると考えられる。これに対し、第6実施形態に係る化学強化ガラスによれば、表層に含有されるリチウムイオンの量が少なく、置換されたアルカリ金属イオンのサイズによる効果を十分に得られる。これにより、高抵抗な圧縮応力層が形成された、表面抵抗率の大きい化学強化ガラスが得られる。
【0120】
第6実施形態に係る化学強化ガラスにおいて、LiO@5μmのLiO@centerに対する比率は0.85以下であり、0.84以下が好ましく、0.82以下がより好ましく、0.80以下がさらに好ましく、0.77以下が最も好ましい。一方で、イオン交換によってガラス内部に深くNaイオンを導入する特性を向上させる観点から、かかる値は0以上が好ましく、0.1以上がより好ましく、0.2以上がさらに好ましく、0.3以上が特に好ましく、0.4以上が最も好ましい。
【0121】
第6実施形態に係る化学強化ガラスにおいて、表面抵抗率は11[logΩ/sq]以上であり、11.5[logΩ/sq]以上が好ましく、12[logΩ/sq]以上がより好ましい。表面抵抗率の上限は特に限定されない。
【0122】
本実施形態に係る化学強化ガラスは、下記で定義されるYの値が9.4以上であることが好ましい。
Y=0.000208x+4.3×10-7+8.8
:K-CSとK-DOLの積K-CSarea(Pa・m)
:Na-CSとNa-DOLの積Na-CSarea(Pa・m)
K-CS(MPa):ガラス表面応力計により測定されるガラス表面における圧縮応力値
K-DOL(μm):カリウムイオンによる圧縮応力層のガラス表面からの深さの値
Na-CS(MPa):散乱光光弾性応力計で測定されるガラス表面における圧縮応力値
Na-DOL(μm):Naイオンによる圧縮応力層のガラス表面からの深さの値
【0123】
図3は、本発明の実施例における化学強化ガラスのYの値と体積抵抗率の実測値との関係を示す図である。本発明者らは、図3に示すように、上記Yの値が化学強化ガラスの体積抵抗率とよく相関し、Yの値が大きいほど、化学強化ガラスの体積抵抗率も大きくなる傾向があることを見出した。すなわち、本実施形態においては、Yの値が比較的大きいことで、体積抵抗率の大きい化学強化ガラスが得られる。そして、Yの値を大きくするためには、K-CSarea(x)を大きくすること、Na-CSarea(x)を大きくすることがそれぞれ有効であり、特に、xを大きくすることがより有効であることがわかる。
【0124】
Yの値は9.4以上であることが好ましく、9.6以上であることが好ましく、9.8以上がより好ましく、10以上がさらに好ましく、10.3以上がよりさらに好ましく、10.6以上が特に好ましく、10.9以上が最も好ましい。Yの値の上限は特に限定されない。
【0125】
は、K-CSとK-DOLの積K-CSarea(Pa・m)を表す。K-CSareaは4000Pa・m以上が好ましく、以下順に、4100Pa・m以上、4700Pa・m以上、5000Pa・m以上がより好ましく、6000Pa・m以上がよりさらに好ましく、10000Pa・m以上が特に好ましい。一方で、Naイオンによる深層応力を高く保つ観点から、K-CSareaは50000Pa・m以下が好ましく、40000Pa・m以下がより好ましく、30000Pa・m以下がさらに好ましく、20000Pa・m以下が特に好ましく、18000Pa・m以下が最も好ましい。
【0126】
は、Na-CSとNa-DOLの積Na-CSarea(Pa・m)を表す。Na-CSareaは落下強度を高める観点から、ガラスの厚さがt(mm)である場合、(10000×t+1000)Pa・m以上が好ましく、(10000×t+6000)Pa・m以上がより好ましく、(10000×t+16000)Pa・m以上がさらに好ましく、(10000×t+26000)Pa・m以上が特に好ましく、(10000×t+31000)Pa・m以上が最も好ましい。一方で、ガラスの持つ応力をCTリミットの引張応力に抑える観点から、Na-CSareaは(140000×t+2000)Pa・m以下が好ましく、(140000×t-8000)Pa・m以下がより好ましく、(140000×t-18000)Pa・m以下がさらに好ましく、(140000×t-28000)Pa・m以下が特に好ましく、(140000×t-30000)Pa・m以下が最も好ましい。
【0127】
ガラス物品の表面部分に圧縮応力層を形成すると、ガラス物品中心部には、表面の圧縮応力の総量に応じた引張応力(以下、CTとも略す。)が必然的に発生する。この引張応力値が大きくなりすぎると、ガラス物品が破壊する際に激しく割れて破片が飛散する。CTがその閾値(以下、CTリミットとも略す。)を超えると加傷時の破砕数が爆発的に増加する。
【0128】
したがって化学強化ガラスは、表面の圧縮応力を大きくし、より深い部分にまで圧縮応力層を形成する一方で、CTリミットを超えないように、表層の圧縮応力の総量が設計される(例えば、米国特許第9,487,434号明細書、米国特許出願公開第2017/355640号明細書、米国特許第9,593,042号明細書又は特表2019-513663号公報)。
【0129】
(化学強化ガラス)
上記各実施形態に係る化学強化ガラスのより好ましい態様として、以下が挙げられる。
【0130】
K-CS(MPa)は、曲げ強度を高める観点から、800MPa以上が好ましく、850MPa以上がより好ましく、900MPa以上がさらに好ましく、950MPa以上が特に好ましく、1000MPa以上が最も好ましい。
【0131】
Na-DOL(μm)は、落下強度を高める観点から、ガラスの厚さがt(mm)である場合、(50×t-15)μm以上が好ましく、(50×t+25)μm以上がより好ましく、(50×t+45)μm以上がさらに好ましく、(50×t+65)μm以上が特に好ましく、(50×t+85)μm以上が最も好ましい。一方、Na-DOLは、ガラスの持つ応力をCTリミット以下の引張応力に抑える観点から、(100×t+95)μm以下が好ましく、(100×t+90)μm以下がより好ましく、(100×t+88)μm以下がさらに好ましく、(100×t+86)μm以下が特に好ましく、(100×t+84)μm以下が最も好ましい。
【0132】
Na-CS(MPa)は、落下強度を高める観点から、150MPa以上が好ましく、200MPa以上がより好ましく、250MPa以上がさらに好ましく、280MPa以上が特に好ましく、300MPa以上が最も好ましい。一方、Na-CSは、ガラスの持つ応力をCTリミット以下の引張応力に抑える観点から、650MPa以下が好ましく、600MPa以下がより好ましく、580MPa以下がさらに好ましく、550MPa以下が特に好ましく、520MPa以下が最も好ましい。
【0133】
ガラス表面からの深さ1μmにおける圧縮応力値CS(MPa)は、曲げ強度を高める観点から、700MPa以上が好ましく、750MPa以上がより好ましく、800MPa以上がさらに好ましく、850MPa以上が特に好ましく、900MPa以上が最も好ましい。
【0134】
ガラス表面からの深さ2μmにおける圧縮応力値CS(MPa)は、曲げ強度を高める観点から、550MPa以上が好ましく、600MPa以上がより好ましく、650MPa以上がさらに好ましく、700MPa以上が特に好ましく、750MPa以上が最も好ましい。
【0135】
ガラス表面からの深さ50μmにおける圧縮応力値CS50(MPa)は、落下強度を高める観点から、ガラスの厚さがt(mm)である場合、(140×t)MPa以上が好ましく、(140×t+20)MPa以上がより好ましく、(140×t+30)MPa以上がさらに好ましく、(140×t+40)MPa以上が特に好ましく、(140×t+50)MPa以上が最も好ましい。
【0136】
ガラス表面からの深さ90μmにおける圧縮応力値CS90(MPa)は、落下強度を高める観点から、ガラスの厚さがt(mm)である場合、(40×t)MPa以上が好ましく、(40×t+5)MPa以上がより好ましく、(40×t+10)MPa以上がさらに好ましく、(40×t+20)MPa以上が特に好ましく、(40×t+30)MPa以上が最も好ましい。
【0137】
CTave(MPa)は、上述の方法で求められる、引張応力の平均値に相当する値である。CTaveは、落下強度を高める観点から、ガラスの板厚がt(mm)である場合、(-50×t+88)MPa以上が好ましく、(-50×t+90)MPa以上がより好ましく、(-50×t+91)MPa以上がさらに好ましく、(-50×t+92)MPa以上が最も好ましい。一方、CTaveは、ガラスの持つ応力をCTリミット以下の引張応力に抑える観点から、式(1)により求められるCTAの値を下回ることが好ましい。
【0138】
【数1】
【0139】
t:板厚(mm)
K1c:破壊靱性値(MPa・m1/2
CTAからCTaveの値を引いた値が1MPa以上になることが好ましく、2MPa以上がより好ましく、3MPa以上が最も好ましい。
【0140】
ICT(Pa・m)は、引張応力の積分値を表す。ICTは、落下強度を高める観点から、ガラスの板厚がt(mm)である場合、(32235×t+1000)Pa・m以上が好ましく、(32235×t+2000)Pa・m以上がより好ましく、32235×t+3000)Pa・m以上がさらに好ましく、32235×t+4000)Pa・m以上が特に好ましく、(32235×t+5000Pa・m以上が最も好ましい。一方、ICTは、ガラスの持つCTリミット以下の引張応力に抑える観点から、(32235×t+27000)Pa・m以下が好ましく、(32235×t+25000)Pa・m以下が好ましく、(32235×t+23000)Pa・m以下がさらに好ましく、(32235×t+20000)Pa・m以下が特に好ましく、(32235×t+15000)Pa・m以下が最も好ましい。
【0141】
(化学強化用ガラス及び化学強化ガラス)
上記各実施形態に係る化学強化用ガラス及び化学強化ガラスについて説明する。
【0142】
化学強化用ガラス又は化学強化ガラスの形状は特に限定されないが、典型的には板状であり、平板状でもよく曲面状でもよい。また、厚さの異なる部分があってもよい。
【0143】
化学強化用ガラス又は化学強化ガラスが板状の場合、その厚さ(t)は、3000μm以下が好ましく、より好ましくは、以下段階的に、2000μm以下、1600μm以下、1500μm以下、1100μm以下、900μm以下、800μm以下、700μm以下である。また、当該厚さ(t)は、化学強化処理による十分な強度が得られるために、好ましくは300μm以上であり、より好ましくは400μm以上であり、さらに好ましくは500μm以上である。
【0144】
本発明の実施形態に係る化学強化用ガラスは、化学強化処理によって高い電気抵抗を有する化学強化ガラスを得やすく、異常発光現象を抑制できる化学強化ガラスを得るのに好適である。また、本発明の実施形態に係る化学強化ガラスは、高い電気抵抗を有することで異常発光現象を抑制できるので、携帯電話、スマートフォン等のモバイル機器等の電子機器に用いられるカバーガラスとして、特に有用である。さらには、携帯を目的としない、テレビ、パーソナルコンピュータ、タッチパネル等の電子機器のカバーガラス、エレベータ壁面、家屋やビル等の建築物の壁面(全面ディスプレイ)にも有用である。また、窓ガラス等の建築用資材、テーブルトップ、自動車や飛行機等の内装等やそれらのカバーガラスとして、また曲面形状を有する筺体等にも有用である。すなわち、本発明は、本発明の実施形態に係る化学強化用ガラス又は本発明の実施形態に係る化学強化ガラスを備える電子機器に関する。
【0145】
(化学強化用ガラス及び化学強化ガラスの製造方法)
本実施形態に係る化学強化用ガラス及び化学強化ガラスの製造方法を説明する。
例えば、板状の化学強化用ガラスを製造する場合、上述した組成のガラスが得られるように、ガラス原料を適宜調合し、ガラス溶融窯で加熱溶融する。その後、バブリング、撹拌、清澄剤の添加等によりガラスを均質化し、所定の厚さのガラス板に成形し、徐冷して、化学強化用ガラスを得る。またはブロック状に成形して徐冷した後に切断する方法で板状に成形して化学強化用ガラスを得てもよい。化学強化用ガラスが結晶化ガラスである場合には、さらに結晶化のための熱処理工程等を含んでもよい。
【0146】
板状に成形する方法としては、例えば、フロート法、プレス法、フュージョン法及びダウンドロー法が挙げられる。特に、大型のガラス板を製造する場合は、フロート法が好ましい。また、フロート法以外の連続成形法、たとえば、フュージョン法及びダウンドロー法も好ましい。
【0147】
化学強化用ガラスに対しイオン交換処理を行うことで、化学強化ガラスが得られる。例えば、上述した第3実施形態~第6実施形態に係るガラスの製造方法としては、第1実施形態又は第2実施形態に係る化学強化用ガラスを用いて化学強化ガラスを製造すること、又は、以下に説明する好ましい化学強化プロセスにより化学強化を行って化学強化ガラスを製造することがそれぞれ好ましく、第1実施形態又は第2実施形態に係るガラスの組成を母組成とし、かつ、以下に説明する好ましい化学強化プロセスにより化学強化を行って化学強化ガラスを製造することがより好ましい。
【0148】
本実施形態において、2段階のイオン交換処理を行うことが好ましい。ただし、1段階のイオン交換処理や3段階以上のイオン交換処理を行って上述した各実施形態に係る化学強化ガラスを得ることを何ら妨げるものではない。
2段階のイオン交換処理を行う場合、第1イオン交換処理により化学強化用ガラス中の第1アルカリ金属イオンと、第1溶融塩組成物中の第2アルカリ金属イオンと、が交換される。また、第2イオン交換処理では、化学強化用ガラス中の第2アルカリ金属イオンと、第2溶融塩組成物中の第3アルカリ金属イオンと、が交換される。
【0149】
本明細書において、「溶融塩組成物」とは、溶融塩を含有する組成物をさす。溶融塩組成物に含まれる溶融塩としては、例えば、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、塩化物などが挙げられる。硝酸塩としては、例えば、硝酸リチウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸セシウム、硝酸ルビジウム、硝酸銀などが挙げられる。硫酸塩としては、例えば、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸セシウム、硫酸ルビジウム、硫酸銀などが挙げられる。塩化物としては、例えば、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化セシウム、塩化ルビジウム、塩化銀などが挙げられる。これらの溶融塩は単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0150】
溶融塩組成物としては、硝酸塩を母体とするものが好ましく、より好ましくは硝酸ナトリウムまたは硝酸カリウムを主成分とするものである。ここで「主成分とする」とは溶融塩組成物における含有量が80質量%以上であることを指す。
【0151】
本実施形態に係る化学強化ガラスの製造方法は、例えば、化学強化用ガラスを第1溶融塩組成物に接触させる第1イオン交換処理と、前記第1イオン交換処理後に、前記化学強化用ガラスに第2溶融塩組成物を接触させる第2イオン交換処理と、を含む、化学強化ガラスの製造方法であって、前記第2溶融塩組成物は、硝酸カリウム(KNO)の含有量が94質量%以上、リチウムイオンの含有量が300質量ppm未満含む。
【0152】
上記製造方法において、第2イオン交換処理における第2溶融塩組成物の温度が380℃~450℃であり、かつ化学強化用ガラスに第2溶融塩組成物を接触させる時間が60分間以上であることが好ましい。
【0153】
上記製造方法において、第2溶融塩組成物は、硝酸ナトリウム(NaNO)を0~5質量%含むことが好ましい。
【0154】
本実施形態に係る化学強化ガラスの製造方法は、例えば、化学強化用ガラスにイオン交換処理を行って化学強化ガラスを得ることを含む化学強化ガラスの製造方法であって、K-DOLが4.2μm以上であり、かつ、表面抵抗率が11[logΩ/sq]以上の化学強化ガラスを得る、化学強化ガラスの製造方法であってもよい。
【0155】
本実施形態に係る化学強化ガラスの製造方法は、また例えば、化学強化用ガラスにイオン交換処理を行って化学強化ガラスを得ることを含む化学強化ガラスの製造方法であって、K-CSareaが4000Pa・m以上であり、かつ、表面抵抗率が11[logΩ/sq]以上の化学強化ガラスを得る、化学強化ガラスの製造方法であってもよい。
【0156】
以下、第1イオン交換処理及び第2イオン交換処理について詳述する。
【0157】
<<第1イオン交換処理>>
一実施形態において、第1イオン交換処理において、第1アルカリ金属イオンを含有する化学強化用ガラスを、第1アルカリ金属イオンよりイオン半径の大きい第2アルカリ金属イオンを含有する第1溶融塩組成物と接触させてイオン交換させることが好ましい。本実施形態においては、第1イオン交換処理により、第2アルカリ金属イオンが化学強化用ガラス中に導入される。
【0158】
第1イオン交換処理に用いる第1溶融塩組成物の組成は、本発明の効果を損なわない限り特に限定されないが、一実施形態として、化学強化用ガラスに含まれる第1アルカリ金属イオンよりイオン半径の大きい第2アルカリ金属イオンを含有することが好ましい。第1溶融塩組成物は、さらに第2アルカリ金属イオンよりイオン半径の大きい第3アルカリ金属イオンを含有することが好ましい。
【0159】
一実施形態として、第1アルカリ金属イオンがリチウムイオンである場合、第2アルカリ金属イオンとしてはナトリウムイオンが好ましく、第3アルカリ金属イオンとしては、カリウムイオンが好ましい。
【0160】
第1イオン溶融塩組成物に用いられるナトリウムイオンを含有する溶融塩としては、例えば、硝酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、塩化ナトリウムが挙げられ、これらの中でも硝酸ナトリウムが好ましい。
【0161】
一実施形態として、第1溶融塩組成物が硝酸ナトリウムを含有する場合、その含有量は20質量%以上100質量%以下であることが好ましい。ここで、該含有量の下限については、より好ましくは25質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上である。また、該含有量の上限については、より好ましくは80質量%以下、さらに好ましくは60質量%以下である。
【0162】
第1溶融塩組成物に用いられるカリウムイオンを含有する溶融塩としては、例えば、硝酸カリウム、硫酸カリウム、塩化カリウムが挙げられ、これらの中でも硝酸カリウムが好ましい。
【0163】
一実施形態として、第1溶融塩組成物が硝酸カリウムを含有する場合、その含有量は20質量%以上80質量%以下であることが好ましい。ここで、該含有量の下限については、より好ましくは30質量%以上、さらに好ましくは40質量%以上、最も好ましくは50質量%以上である。また、該含有量の上限については、より好ましくは70質量%以下、さらに好ましくは60質量%以下である。
【0164】
第1イオン交換処理においては、化学強化用ガラスを好ましくは380℃以上の第1溶融塩組成物に接触させることが好ましい。第1溶融塩組成物の温度が380℃以上であると、イオン交換が進行しやすい。より好ましくは400℃以上、さらに好ましくは410℃以上、特に好ましくは420℃以上である。また、第1溶融塩組成物の温度は、蒸発による危険性、溶融塩組成物の組成変化の観点から、通常450℃以下である。
【0165】
第1イオン交換処理においては、第1溶融塩組成物に化学強化用ガラスを接触させる時間は、0.5時間以上であると表面圧縮応力が大きくなるので好ましい。接触時間は、より好ましくは1時間以上である。接触時間が長すぎると、生産性が下がるだけでなく、緩和現象により圧縮応力が低下する場合がある。そのため、接触時間は通常8時間以下である。
【0166】
第1イオン交換処理は、一段階の処理としてもよいし、または2以上の異なる条件で2段階以上の処理(多段強化)としてもよい。
【0167】
<<第2イオン交換処理>>
第2イオン交換処理は、第1イオン交換処理後、化学強化用ガラスに第1溶融塩組成物とは異なる成分比率を有する第2溶融塩組成物を接触させてイオン交換する工程である。
【0168】
本製造方法では、第2イオン交換処理において、第2溶融塩組成物は第2アルカリ金属イオンよりイオン半径の大きい第3アルカリ金属イオンを含有することが好ましい。第2溶融塩組成物において、第1アルカリ金属イオンの含有量は比較的少ないことが好ましい。
【0169】
一実施形態として、第2アルカリ金属イオンがナトリウムイオンである場合、第3アルカリ金属イオンとしてはカリウムイオンが好ましく、第1アルカリ金属イオンはリチウムイオンであることが好ましい。
【0170】
第2溶融塩組成物に用いられるカリウムイオンを含有する溶融塩としては、例えば、硝酸カリウム、硫酸カリウム、塩化カリウムが挙げられ、これらの中でも硝酸カリウムが好ましい。
【0171】
一実施形態として、第2溶融塩組成物が硝酸カリウム(KNO)を含有する場合、その含有量は94質量%以上であることが好ましい。ここで、該含有量の下限については、より好ましくは96質量%以上、さらに好ましくは98質量%以上である。また、該含有量の上限については、100質量%であってもよいが、好ましくは99.5質量%以下、より好ましくは99質量%以下である。第2溶融塩組成物が硝酸カリウムを含有する場合に、その含有量が比較的多いことで、化学強化ガラスにおいて置換されたアルカリ金属イオンのサイズによる高抵抗化効果を得やすくなり、本実施形態に係る化学強化ガラスを得るのに好適である。
【0172】
第2溶融塩組成物はリチウムイオン及びナトリウムイオンの少なくとも一方を含有する場合がある。第2溶融塩組成物に用いられるリチウムイオンを含有する溶融塩としては、例えば、硝酸リチウム、硫酸リチウム、塩化リチウムが挙げられ、これらの中でも硝酸リチウムが好ましい。第2溶融塩組成物に用いられるナトリウムイオンを含有する組成物としては、例えば、硝酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、塩化ナトリウムが挙げられ、これらの中でも硝酸ナトリウムが好ましい。
【0173】
第2溶融塩組成物において、リチウムイオンの含有量は300質量ppm未満が好ましく、以下順に、200質量ppm以下、100質量ppm以下、80質量ppm以下がより好ましく、60質量ppm以下がさらに好ましい。これにより、化学強化ガラスの表層にリチウムイオンが入り込んで抵抗が比較的低くなってしまうのを抑制できる。リチウムイオンの含有量は0質量ppmであってもよいが、化学強化ガラスの量産性の観点から、40質量ppm以上であってもよい。第2溶融塩組成物が硝酸リチウム(LiNO)を含有する場合、第2溶融塩組成物におけるリチウムイオンの含有量が上記の好ましい範囲となるようにするのが好ましい。
【0174】
第2溶融塩組成物が硝酸ナトリウム(NaNO)を含有する場合、その含有量は0.5質量%以上であることが好ましく、より好ましくは1質量%以上、さらに好ましくは1.5質量%以上である。また、表層応力を高く保つ観点から、5質量%以下であることが好ましく、より好ましくは4質量%以下、さらに好ましくは3質量%以下である。
【0175】
第2イオン交換処理において、化学強化用ガラスを450℃以下の第2溶融塩組成物に接触させることが好ましい。第2溶融塩組成物の温度が450℃以下であるとで、溶融塩組成物の変化を抑制できる。第2溶融塩組成物の温度はより好ましくは440℃以下、さらに好ましくは430℃以下、特に好ましくは420℃以下である。また、第2溶融塩組成物の温度は、イオン交換を加速する観点から、380℃以上であることが好ましく、より好ましくは390℃以上であり、さらに好ましくは400℃以上である。
【0176】
第2イオン交換処理においては、第2溶融塩組成物に化学強化用ガラスを接触させる時間(処理時間)は、安定的にイオン交換を行う観点から60分間以上が好ましく、90分間以上がより好ましく、120分間以上がさらに好ましい。一方、第2イオン交換処理における接触時間は、接触時間が長すぎると、生産性が下がる観点から、好ましくは300分間以下、より好ましくは240分間以下、さらに好ましくは180分間以下である。
【実施例0177】
以下、本発明を実施例によって説明するが、本発明はこれに限定されない。
<非晶質ガラス及び結晶化ガラスの作製>
酸化物基準のモル百分率表示で示した下記組成となるようにガラス原料を調合し、ガラスとして400gになるように秤量した。ついで、混合した原料を白金るつぼに入れ、1500~1700℃の電気炉に投入して3時間程度溶融し、脱泡し、均質化した。硝材AのK1cは0.8(MPa・m1/2)であった。
硝材A:SiO 66%、Al 11%、Y 0.5%、ZrO 1.3%、LiO 11%、NaO 5.5%、KO 1.5%、MgOを3%、その他成分0.3%。硝材AのAlの含有量に対するLiO、NaO及びKOの含有量の合計の比(RO/Al)は1.6である。
硝材B:SiO 65%、Al 16%、P 1.2%、LiO 7.5%、NaO 5%、KO 0.5%、MgOを0.5%、CaO 1.3%、B 3%。硝材BのAlの含有量に対するLiO、NaO及びKOの含有量の合計の比(RO/Al)は0.8である。
硝材C:SiO 70%、Al 11.5%、P 0.3%、LiO 9%、NaO 2.5%、KO 0.2%、MgOを0.8%、CaO 2.6%、ZrO 0.1%、B 3%。硝材CのAlの含有量に対するLiO、NaO及びKOの含有量の合計の比(RO/Al)は1.0である。
【0178】
得られた溶融ガラスを金属型に流し込み、ガラス転移点より50℃程度高い温度に1時間保持した後、0.5℃/分の速度で室温まで冷却し、ガラスブロックを得た。得られた溶融ガラスを型に流し込み、ガラス転移点(714℃)付近の温度に約1時間保持した後、0.5℃/分の速度で室温まで冷却してガラスブロックを得た。
【0179】
得られたガラスブロックを切断、研削し、最後に両面を鏡面研磨して、120mm×60mmで板厚0.70mmのガラス板(化学強化用ガラス)を得た。
【0180】
<化学強化処理および化学強化ガラスの評価>
上記で得られたガラス板を用いて、表1及び2に示す条件で溶融塩組成物に浸漬させて、第1イオン交換処理及び第2イオン交換処理を施し、例1~16の化学強化ガラスを得た。例1、2、5、6、13~15、17及び18は実施例であり、例3、4、7~12及び16は比較例である。得られた化学強化ガラスを以下の方法により評価した。
【0181】
[散乱光光弾性応力計による応力測定]
散乱光光弾性応力計(折原製作所製SLP-2000)を用いて、国際公開第2018/056121号に記載の方法により化学強化ガラスの応力を測定した。また、散乱光光弾性応力計(折原製作所製SLP-2000)の付属ソフト[SlpV(Ver.2019.11.07.001)]を用いて、応力プロファイルを算出した。
【0182】
応力プロファイルを得るために使用した関数はσ(x)=[a×erfc(a×x)+a×erfc(a×x)+a]である。a=1~5)はフィッティングパラメータであり、erfcは相補誤差関数である。相補誤差関数は下記式によって定義される。
【0183】
【数2】
【0184】
本明細書における評価では、得られた生データと上記の関数の残差二乗和を最小化することで、フィッティングパラメータを最適化した。測定処理条件は単発とし、測定領域処理調整項目は表面でエッジ法を、内部表面端は6.0μmを、内部左右端は自動を、内部深部端は自動(サンプル膜厚中央)を、そして位相曲線のサンプル厚さ中央迄延長はフィッティング曲線を、それぞれ指定選択した。
【0185】
ガラス表面から数十μm以下のガラス表層部における応力は、ガラス表面応力計(折原製作所製FSM6000-UV)を用いて、国際公開第2018/056121号、国際公開第2017/115811号に記載の方法により測定した。
【0186】
また、同時に断面方向のアルカリ金属イオンの濃度分布(ナトリウムイオン、カリウムイオン及びリチウムイオン)の測定をEPMA(Electron Probe Micro Analyzer、電子線マイクロアナライザー)で行い、得られた応力プロファイルと矛盾がないことを確認した。
【0187】
また、上記の測定結果及び得られた応力プロファイルから、K-CS、K-DOL、K-CSarea、Na-CS、Na-DOL、Na-CSarea、CS、CS、CS50、CS90、CTmax、CTave、ICTの値を得た。結果を表1及び2に示す。
【0188】
<抵抗率の測定>
各例の化学強化ガラスについて、以下の方法で表面抵抗率及び体積抵抗率を測定した。(ガラスサンプルの準備及び成膜工程)
ガラスサンプルは120mm×60mm×0.7mmのガラスサンプルを用いた。表面抵抗率測定前に次の手順で成膜を実施した。スパッタリング装置を用いて120×60×0.7mmのガラスサンプルに成膜を行った。成膜のターゲットには白金ターゲットを用い、アルゴンを導入して30nmの白金をガラス表面に成膜した。成膜の際は、JISR3256:1998年に基づく60mm□のパターニングを実施した。(表面抵抗率)
表面抵抗率は、以下の方法で測定した。
測定装置は超微小電流計を用いた。
表面抵抗率の測定はJIS C2141:1992及びおよびJIS R3256:1998に準拠し、三端子法で測定した。
印加電圧は 100V、電圧印加後180秒後の値を測定した。放電時間は3秒間とした。(体積抵抗率)体積抵抗率は、以下の方法で測定した。
測定装置は超微小電流計を用いた。
ガラスサンプルは120×60×0.7mmのガラスサンプルを用いた。
測定は JIS C2141:1992及びおよびJIS R3256:1998に準拠し、三端子法で測定した。
印加電圧は 100V、電圧印加後180秒後の値を測定した。放電時間は3秒間とした。
【0189】
結果を表1及び2に示す。また、図2は、各例の化学強化ガラスについて、表面抵抗率及び体積抵抗率との関係を示す図である。図3は、各例の化学強化ガラスについて、体積抵抗率の実測値とYの値との関係を示す図である。Yの値は下記式で定義される。
Y=-0.5984x+0.00018x+4.319×10-7+8.5
:化学強化処理時の最終のイオン交換処理に用いた溶融塩におけるLiNO濃度(質量%)
:K-CSとK-DOLの積K-CSarea(Pa・m)
:Na-CSとNa-DOLの積Na-CSarea(Pa・m)
【0190】
<KO濃度、LiO濃度>
上述の方法で深さx(μm)におけるKO濃度及び深さx(μm)におけるLiO濃度を測定した。この結果からKO@3μm、KO@center、LiO@5μm及びLiO@centerを求めた。結果を表1及び2に示す。
また、図4に、例1、2、4及び5の表層のKOプロファイルを示す。図4に示すように、カリウムイオンの表層3μmにおける濃度はサンプルごとに変化しており、表1及び2に示すように、表層3μmにおけるカリウムイオン面抵抗率や体積抵抗率に相関関係が存在することを確認できる。
【0191】
表1及び2における各表記の説明を下記に示す。
K-CS:FSMで測定される深さ0μmにおけるカリウムイオン起因の圧縮応力値(MPa)
K-DOL:カリウムイオンによる圧縮応力層のガラス表面からの深さの値(μm)
K-CS area:CS×K-DOL(Pa・m)
Na-CS:SLPで測定される深さ0μmにおけるNaイオン起因の圧縮応力値(MPa)
Na-DOL:ナトリウムイオンによる圧縮応力層のガラス表面からの深さの値(μm)
Na-CS area:Na-CS×Na-DOL(Pa・m)
CS:Xμm深さにおける圧縮応力値(MPa)CTave=ICT/LCT(MPa)
ICT:引張応力の積分値(Pa・m)
CT:引張応力領域の板厚方向長さ(μm)
CTmax:最大引張応力
O@3μm:表面から3μm深さにおけるKO濃度(mol%)
O@center:板厚中心部におけるKO濃度(mol%)
LiO@3μm:表面から3μm深さにおけるLiO濃度(mol%)
LiO@center:板厚中心部におけるLiO濃度(mol%)
【0192】
【表1】
【0193】
【表2】
【0194】
表1及び2に示すように、K-DOLが4.2μm以上である、例1、2、5、6、13~15、17及び18は、比較例に比して表面抵抗率が大きく、11[logΩ/sq]以上であった。
【0195】
K-CSareaが4000Pa・m以上である、例1、2、5、6、13~15、17及び18は、比較例に比して表面抵抗率が大きく、11[logΩ/sq]以上であった。
【0196】
ガラス表面から深さ3μmにおけるKO濃度であるKO@3μmの、板厚中心におけるKO濃度であるKO@centerに対する比率が5.5以上である例1、2、5、17及び18は、比較例に比して表面抵抗率が大きく、11[logΩ/sq]以上であった。
【0197】
ガラス表面から深さ5μmにおけるLiO濃度であるLiO@5μmの、板厚中心におけるLiO濃度であるLiO@centerに対する比率が0.85以下である、例1、5、17及び18は、比較例に比して表面抵抗率が大きく、11[logΩ/sq]以上であった。
【符号の説明】
【0198】
10 OLEDディスプレイ
11 カバーガラス
12 電荷
13 OLED発光素子
14 ポリイミド基板
15 陰極
16 TFTアレイ
図1
図2
図3
図4