(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024160825
(43)【公開日】2024-11-15
(54)【発明の名称】装置及び変形解析方法
(51)【国際特許分類】
G06F 30/23 20200101AFI20241108BHJP
【FI】
G06F30/23
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023076231
(22)【出願日】2023-05-02
(71)【出願人】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100164471
【弁理士】
【氏名又は名称】岡野 大和
(74)【代理人】
【識別番号】100176728
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】松本 安弘
(72)【発明者】
【氏名】涌井 一清
(72)【発明者】
【氏名】玉松 潤一郎
(72)【発明者】
【氏名】岩波 基
【テーマコード(参考)】
5B146
【Fターム(参考)】
5B146AA04
5B146DJ02
5B146DJ08
(57)【要約】
【課題】簡易かつ精度の高い3次元有限要素法モデルを生成する装置を提供する。
【解決手段】複数の鋼製セグメント継手の形状、及びボルトの、複数の鋼製セグメント継手を締結しているボルト締結部の形状の入力を受けるデータ入力部10と、境界条件の入力を受ける条件入力部20と、データ入力部10に入力された形状、及び境界条件から、3次元有限要素法モデルを生成するモデル生成部30と、生成された3次元有限要素法モデルを出力するモデル出力部40と、を備え、モデル生成部30は、ボルト締結部の剛性を、軸方向及びせん断方向に変形するばねでモデル化し、ばねの両節点間の変位と、複数の鋼製セグメント継手に形成されているボルトを挿入可能なボルト孔の縁の変位とを同一にした上で、ボルトの初期締付力を荷重でモデル化し、複数の鋼製セグメント継手同士の間の接触を継手間接触力でモデル化する、装置が提供される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の鋼製セグメント継手の形状、及びボルトの、前記複数の鋼製セグメント継手を締結しているボルト締結部の形状の入力を受けるデータ入力部と、
前記複数の鋼製セグメント継手への作用、前記ボルトの初期締付力、及び支持条件を含む境界条件の入力を受ける条件入力部と、
前記データ入力部に入力された、前記複数の鋼製セグメント継手の形状、前記ボルト締結部の形状、及び前記条件入力部に入力された前記境界条件から、3次元有限要素法モデルを生成するモデル生成部と、
前記モデル生成部により生成された前記3次元有限要素法モデルを出力するモデル出力部と、
を備え、
前記モデル生成部は、
前記ボルト締結部の剛性を、軸方向及びせん断方向に変形するばねでモデル化し、
前記ばねの両節点間の変位と、前記複数の鋼製セグメント継手に形成されている前記ボルトを挿入可能なボルト孔の縁の変位とを同一にした上で、前記ボルトの初期締付力を荷重でモデル化し、
前記複数の鋼製セグメント継手同士の間の接触を継手間接触力でモデル化する、
装置。
【請求項2】
前記モデル生成部は、前記ボルトの初期締付力を、前記ばねの両節点への集中荷重でモデル化する、
請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記複数の鋼製セグメント継手は、ワッシャを介して、前記ボルトによって締結され、
前記モデル生成部は、前記ボルトの初期締付力を、前記複数の鋼製セグメント継手の、対応するワッシャに接触している範囲への分布荷重でモデル化する、
請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記継手間接触力は、摩擦力を含む、
請求項1~3のいずれか一項に記載の装置。
【請求項5】
複数の鋼製セグメント継手の形状、及びボルトの、前記複数の鋼製セグメント継手を締結しているボルト締結部の形状を装置に入力することと、
前記複数の鋼製セグメント継手への作用、前記ボルトの初期締付力、及び支持条件を含む境界条件を前記装置に入力することと、
前記複数の鋼製セグメント継手の形状、前記ボルト締結部の形状、及び前記境界条件から、3次元有限要素法モデルを前記装置により生成することと、
前記3次元有限要素法モデルに基づいて、前記複数の鋼製セグメント継手の変形解析を有限要素法ソルバにより行うことと、
を含み、
前記3次元有限要素法モデルを生成することが、
前記ボルト締結部の剛性を、軸方向及びせん断方向に変形するばねでモデル化することと、
前記ばねの両節点間の変位と、前記複数の鋼製セグメント継手に形成されている前記ボルトを挿入可能なボルト孔の縁の変位とを同一にした上で、前記ボルトの初期締付力を荷重でモデル化することと、
前記複数の鋼製セグメント継手同士の間の接触を継手間接触力でモデル化することと、
を含む、
鋼製セグメント継手の変形解析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、装置及び変形解析方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年,社会インフラの劣化対策が強く求められるようになり、電気通信、鉄道、水道などのために建設されてきたシールドトンネルに対する維持管理技術の需要が高まっている。比較的古いシールドトンネルには鋼製セグメントの一次覆工の内面無筋コンクリートの二次覆工が設けられる構造形式がみられる。
【0003】
この構造形式では,通常,設計においては二次覆工の構造性能を評価しない。しかし建設後の残存耐力評価においては、二次覆工も含めた評価が有効と考えられる。なぜなら二次覆工の応力状態の評価を可能とすることで、二次覆工のひび割れから、当該ひび割れ近傍の一次覆工で、目視点検できない一次覆工の腐食により、一次覆工で降伏応力が負荷されたことを推定する等の応用が期待できるためである。
【0004】
ここで、広く用いられている、はり-ばねモデルによる計算法による解析例がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】藤本育雄,中島信,木村定雄,小泉淳,「はり-ばねモデル計算法による断面力算定に関する一考察」,トンネル工学研究論文・報告集第8巻,1998年11月,報告(39),p. 307-312
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一次覆工と二次覆工との間の相互作用は、覆工間ばねによってモデル化され得る。しかしながら、覆工間の相互作用のモデル化に制約が多いため、二次覆工の応力状態の再現に課題があった。特に、はりばねモデルの覆工間ばねでは、鋼とコンクリートとの間の力の伝達の表現が難しかった。
【0007】
この問題は自由度の高いモデル化が可能な3次元有限要素法により解決できると考えられる。しかし鋼製セグメントのシールドトンネル自体の3次元有限要素法による解析例が少ない。また、Izumi S, Yokoyama T, Iwasaki A, Sakai S, Three-dimensional finite element analysis of tightening and loosening mechanism of threaded fastener, Eng. Fail. Anal. 12(4), 604 - 615, 2005.には、ねじ山までモデル化した詳細モデルが記載されている。一方で、必要な精度を確保しつつ計算時間を短縮するためモデルをどれだけ簡易化してもよいかも明らかでない。
【0008】
そこで本開示は、簡易かつ精度の高い3次元有限要素法モデルを生成する装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一実施形態に係る装置は、複数の鋼製セグメント継手の形状、及びボルトの、前記複数の鋼製セグメント継手を締結しているボルト締結部の形状の入力を受けるデータ入力部と、
前記複数の鋼製セグメント継手への作用、前記ボルトの初期締付力、及び支持条件を含む境界条件の入力を受ける条件入力部と、
前記データ入力部に入力された、前記複数の鋼製セグメント継手の形状、前記ボルト締結部の形状、及び前記条件入力部に入力された前記境界条件から、3次元有限要素法モデルを生成するモデル生成部と、
前記モデル生成部により生成された前記3次元有限要素法モデルを出力するモデル出力部と、
を備え、
前記モデル生成部は、
前記ボルト締結部の剛性を、軸方向及びせん断方向に変形するばねでモデル化し、
前記ばねの両節点間の変位と、前記複数の鋼製セグメント継手に形成されている前記ボルトを挿入可能なボルト孔の縁の変位とを同一にした上で、前記ボルトの初期締付力を荷重でモデル化し、
前記複数の鋼製セグメント継手同士の間の接触を継手間接触力でモデル化する。
【0010】
一実施形態に係る変形解析方法は、複数の鋼製セグメント継手の形状、及びボルトの、前記複数の鋼製セグメント継手を締結しているボルト締結部の形状を装置に入力することと、
前記複数の鋼製セグメント継手への作用、前記ボルトの初期締付力、及び支持条件を含む境界条件を前記装置に入力することと、
前記複数の鋼製セグメント継手の形状、前記ボルト締結部の形状、及び前記境界条件から、3次元有限要素法モデルを前記装置により生成することと、
前記3次元有限要素法モデルに基づいて、前記複数の鋼製セグメント継手の変形解析を有限要素法ソルバにより行うことと、
を含み、
前記3次元有限要素法モデルを生成することが、
前記ボルト締結部の剛性を、軸方向及びせん断方向に変形するばねでモデル化することと、
前記ばねの両節点間の変位と、前記複数の鋼製セグメント継手に形成されている前記ボルトを挿入可能なボルト孔の縁の変位とを同一にした上で、前記ボルトの初期締付力を荷重でモデル化することと、
前記複数の鋼製セグメント継手同士の間の接触を継手間接触力でモデル化することと、
を含む。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、簡易かつ精度の高い3次元有限要素法モデルを生成する装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本開示の一実施形態に係る装置の概略構成を示すブロック図である。
【
図2】ボルトで締結される2つの鋼製セグメントを示す図である。
【
図3】多数の鋼製セグメントで構成される一次覆工の例を示す図である。
【
図4】モデル生成部が生成する3次元有限要素法モデルの例を示す図である。
【
図5】3次元有限要素法モデルにおいて、ボルトの初期締付力を、ばねの両節点への集中荷重でモデル化する例を示す図である。
【
図6】3次元有限要素法モデルにおいて、ボルトの初期締付力を、ボルト頭部側の鋼製セグメント継手の、対応するワッシャに接触している範囲への分布荷重でモデル化する例を示す図である。
【
図7】
図1の装置及び有限要素法ソルバが実行する、鋼製セグメント継手の変形解析方法を説明するためのフローチャートである。
【
図8】
図1の装置のモデル生成部が作成した3次元有限要素法モデルを示す図である。
【
図9】ボルトで締結されているとともに正の曲げが発生している状態である、2つの鋼製セグメント継手を示す図である。
【
図10】ボルト軸力増分と作用モーメントとの関係について、解析結果及び実験値を示す図である。
【
図11】継手回転角と作用モーメントとの関係について、解析結果及び実験値を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示の実施形態について説明する。
【0014】
(装置について)
図1を参照して、本開示の実施形態に係る装置1の概要を説明する。装置1は、データ入力部10と、条件入力部20と、モデル生成部30と、モデル出力部40と、を備える。装置1は、記憶部50を備えてもよい。モデル出力部40は、有限要素法ソルバ100に3次元有限要素法モデルを出力する。有限要素法ソルバ100は変形解析を行う。
【0015】
装置1は、例えばサーバ装置等のコンピュータである。装置1は、ネットワークを介して有限要素法ソルバ100と通信可能である。
【0016】
データ入力部10は、複数の鋼製セグメント継手の形状と、ボルトのボルト締結部の形状の入力を受ける。ボルト締結部は、複数の鋼製セグメント継手を締結している部分である。以下、
図2を参照して、これら形状の例を説明する。
【0017】
図2は、ボルト210で締結される2つの鋼製セグメント継手220a,220bを示す。具体的に、鋼製セグメント継手220a,220bは平板状である。鋼製セグメント継手220a,220bの厚さ方向には、ボルト孔が形成される。ボルト孔は貫通孔であってよい。ボルト孔の半径は、例えば8mmであってよい。ボルト孔の内面にネジが切られていてよい。この場合に、ネジの形状は入力されなくてもよい。
【0018】
ボルト210はボルト孔及びナット230を通る。ここで、ナット230が締め付けられていて、ナット230とボルト210の頭部とが、鋼製セグメント継手220a,220bを締結していてよい。なお、ここではボルト210及びナット230の全体を示しているが、ボルト210及びナット230における、鋼製セグメント継手220a,220bと接触する領域の近傍のみの形状が、ボルト締結部の形状として入力されてもよい。また、ボルト210及びナット230のネジ部の形状は入力されなくてもよい。
【0019】
データ入力部10には、より複雑な形状が入力されてもよい。例えばデータ入力部10は、
図3に示される円筒状の一次覆工310の3次元有限要素法モデルを生成することができる。さらに二次覆工320,三次覆工等が存在してもよい。二次覆工320は無筋コンクリートで構成されてもよい。一次覆工320は、鋼製セグメント継手311a,311b,311cを含む多数の鋼製セグメント継手で構成される。鋼製セグメント継手311aは、一次覆工310の周方向で隣接する鋼製セグメント311bと、ボルトで締結されてよい。鋼製セグメント継手311aは、一次覆工310の軸線方向で隣接する鋼製セグメント継手311cと、ボルトで締結されてよい。これらのボルトは、鋼製セグメント継手311a,311b,311cに埋設されてよい。鋼製セグメント継手311aの長手方向両縁は、鋼製セグメント継手311cの長手方向両縁に対して、一次覆工310の周方向において、ずれていてもよい。
【0020】
図1に示される条件入力部20は、複数の鋼製セグメント継手への作用、ボルトの初期締付力、及び支持条件を含む境界条件の入力を受ける。
【0021】
条件入力部20に入力される複数の鋼製セグメント継手への作用は、土圧、水圧等の死荷重を含んでよい。当該作用は構造物に一様に加わらなくてもよい。例えば、鋼製セグメント継手の下方には、上方より大きな土圧が負荷されてよい。
【0022】
条件入力部20に入力されるボルトの初期締付力について説明する。
図2に示されるナット230が締められている場合に、ボルト210には軸線方向に引張られる軸力が働き、ボルト210が伸びる。ボルト210が伸びているときに、ボルト210には復元力が働く。復元力によって、鋼製セグメント継手220a,220bが締結される。初期締付力として、この復元力が入力されてよい。ボルトの初期締付力は、ボルト毎に異なっていてもよい。
【0023】
条件入力部20に入力される支持条件は、隣接する鋼製セグメント同士の境界部の挙動を決定する条件である。具体的には、隣接する鋼製セグメント同士がボルト(ピン)で締結されている条件が指定され得る。隣接する鋼製セグメント同士の接触面が接着(固定)されている条件も指定され得る。
【0024】
モデル生成部30は、データ入力部10に入力された、複数の鋼製セグメント継手の形状、ボルト締結部の形状、及び条件入力部20に入力された境界条件から、3次元有限要素法モデルを生成する。
【0025】
モデル生成部30は、ボルト締結部の剛性を、軸方向及びせん断方向に変形するばねでモデル化する。
図4に示される例では、ボルト締結部の剛性が、軸方向に変形する第1ばね410と、せん断方向に変形する複数の第2ばねと、でモデル化されてもよい。第1ばね410は、ボルトの軸が存在する位置に配置されてよい。第2ばねは、第1ばね410の軸方向中心を通るとともに第1ばね410に直交する平面に、配置されてよい。第2ばねは、異なる方向を向く2つのばねで構成されてよい。当該2つのばねは、互いに直交してよい。
【0026】
モデル生成部30は、ばねの両節点間の変位と、複数の鋼製セグメント継手に形成されているボルトを挿入可能なボルト孔の縁の変位と、を同一にする。具体的には、
図4に示されるように、ボルトの軸に配置され、軸方向に変形する第1ばね410の上端の軸方向位置と、ボルト孔の上縁の軸方向位置とが同一であってよい。さらに、第1ばね410の下端の軸方向位置と、ボルト孔の下縁の軸方向位置とが同一であってよい。またさらに、ボルト孔の縁のせん断方向変位の大きさが、第2ばねのひずみに比例してよい。
【0027】
モデル生成部30は、ボルトの初期締付力を荷重でモデル化する。
【0028】
モデル生成部30は、ボルトの初期締付力を、ばねの両節点への集中荷重でモデル化してよい。具体的には、
図5に示されるように、初期締付力が、第1ばね510の2つの節点510p(1つのみ図示されている)に載荷される集中荷重でモデル化されてよい。これにより、生成される3次元有限要素法モデルがより簡潔になり、ひいては有限要素法ソルバ100による変形解析のコストが低減され得る。
【0029】
複数の鋼製セグメント継手が、1つ以上のワッシャを介して、ボルトによって締結されている場合がある。例えば
図6に示されるように、半径16mmの第1ワッシャ630が、ボルト頭部と、鋼製セグメント継手620の外表面と、に当接している場合がある。このような場合に、モデル生成部30は、ボルトのボルト頭部による初期締付力を、鋼製セグメント継手において第1ワッシャ630に接触している範囲に加わる分布荷重でモデル化してよい。具体的に、ボルト頭部による初期締付力が、ボルト頭部側の鋼製セグメント継手の外表面(例えば外表面を形成するメッシュ)において、第1ワッシャ630が当接する範囲に負荷される分布荷重でモデル化されてよい。これにより、ボルト孔620h周辺の変形が、ボルトの初期締付力が集中荷重でモデル化された場合よりも小さくなり、ボルト孔620h周辺の降伏挙動が実際の挙動により近くなり得る。
【0030】
第2ワッシャが、ナット側の鋼製セグメント継手の外表面に存在する場合に、ナットによる初期締付力が、鋼製セグメント継手において第2ワッシャに接触している範囲に加わる分布荷重でモデル化されてよい。
【0031】
モデル生成部30は、
図2に示されるように、複数の鋼製セグメント継手220a,220b同士の間の接触を継手間接触力でモデル化してよい。継手間接触力により、鋼製セグメント継手220a,220b同士の競り合いが表現される。継手間接触力は、複数の鋼製セグメント継手220a,220bの接触面に直交する方向を向いていてよい。また継手間接触力は、摩擦力を含んでよい。
【0032】
モデル生成部30は、データ入力部10に入力された複数の鋼製セグメント継手220a,220bの形状、及びボルト210のボルト締結部の形状によって定義された解析領域を、有限要素で隙間なく分割する。メッシュ分割パターンがあらかじめ用意されていてよい。自動要素分割のアルゴリズムに基づく方法を用いて、自動的に要素が生成されてよい。要素の大きさは、要求される解析の精度に基づいて決められてよい。
【0033】
モデル出力部40は、モデル生成部30により生成された3次元有限要素法モデルを、有限要素法ソルバ100に出力する。モデル出力部40は、有線又は無線通信によって、3次元有限要素法モデルを有限要素法ソルバ100に出力してよい。モデル出力部40は、記憶媒体を用いて、3次元有限要素法モデルを有限要素法ソルバ100に出力してよい。
【0034】
記憶部50は、データ入力部10に入力された複数の鋼製セグメント継手220a,220bの形状、及びボルト210のボルト締結部の形状と、条件入力部20に入力された境界条件と、モデル生成部30が生成した3次元有限要素法モデルと、を記憶する。装置1は、これらの情報を、ネットワークを介して、クラウドのストレージに記憶することもできる。この構成では、記憶部50を省くこともできる。
【0035】
有限要素法ソルバ100は、3次元有限要素法モデルに基づいて、複数の鋼製セグメント継手220a,220bの変形解析を行う。変形解析の結果、ボルト210の軸力及び伸び量、鋼製セグメント継手220a,220bの回転角等が算出される。
【0036】
本実施形態によれば、モデル生成部30が、ボルト締結部の剛性を、軸方向及びせん断方向に変形するばね(第1ばね及び第2ばね)でモデル化する。モデル生成部30は、第1ばね410の両節点間の変位と、複数の鋼製セグメント継手220a,220bに形成されているボルト210を挿入可能なボルト孔の縁の変位とを同一にした上で、ボルト210の初期締付力を荷重でモデル化する。モデル生成部30は、複数の鋼製セグメント継手220a,220b同士の間の接触を継手間接触力でモデル化する。これらの構成によって、装置1は、簡易かつ精度の高い3次元有限要素法モデルを生成することができる。
【0037】
(鋼製セグメント継手の変形解析方法について)
次に、本実施形態において、装置1及び有限要素法ソルバ100により実行される鋼製セグメント継手の変形解析方法を、
図7のフローチャートを参照して説明する。
【0038】
ステップS100において、複数の鋼製セグメント継手の形状、及びボルトの、複数の鋼製セグメント継手を締結しているボルト締結部の形状が装置1に入力される。より具体的には、装置1のデータ入力部10(
図1参照)に、
図2に示される、2つの鋼製セグメント継手220a,220bの形状が入力される。また、データ入力部10に、2つの鋼製セグメント継手220a,220bを締結するボルト210における、鋼製セグメント継手220a,220bと接触する領域の近傍の形状が入力される。
【0039】
ステップS101において、複数の鋼製セグメント継手への作用、ボルトの初期締付力、及び支持条件を含む境界条件が装置1に入力される。より具体的には、装置1の条件入力部20に、複数の鋼製セグメント継手への作用として、土圧、水圧等が入力される。条件入力部20に、ボルトの初期締付力として、鋼製セグメント継手220a,220bに締結されたボルトの復元力が入力される。条件入力部20に、境界条件の支持条件として、隣接する鋼製セグメント継手220a,220b同士がボルトで締結されている状態が入力される。
【0040】
ステップS102において、複数の鋼製セグメント継手の形状、前記ボルト締結部の形状、及び前記境界条件から、3次元有限要素法モデルが装置1により生成される。ここで装置1は、ボルト締結部の剛性を、軸方向に変形する第1ばね410(
図4参照)及びせん断方向に変形する第2ばねでモデル化する。装置1は、第1ばね410の両節点間の変位と、複数の鋼製セグメント継手220a,220b(
図2参照)に形成されているボルト210を挿入可能なボルト孔の縁の変位とを同一にした上で、ボルト210の初期締付力を荷重でモデル化する。装置1は、複数の鋼製セグメント継手220a,220b同士の間の接触を継手間接触力でモデル化する。
【0041】
ステップS103において、有限要素法ソルバ100は、3次元有限要素法モデルに基づいて、複数の鋼製セグメント継手220a,220bの変形解析を行う。変形解析の結果、ボルト軸力、ボルト孔周辺に作用するモーメント、鋼製セグメント継手に回転角等が算出される。ステップS103の後、方法が終了する。
【実施例0042】
本開示の実施形態に係る装置1によって、鋼製セグメント継手曲げ試験を、モデル化し変形解析したので、以下に説明する。当該試験は、村上博智, 小泉淳, シールド工事用セグメントのセグメント継手の挙動について, 土木学会論文報告集, vol. 1980, no. 296, pp. 73-86, 1980. に従う。以下、当該試験を説明する。
【0043】
当該試験では、
図8に示されるように、2つの鋼製セグメント継手820a,820bが存在する。一方の鋼製セグメント継手820aは、水平方向に延在する角柱状の第1部分820a1と、第1部分820a1から上方に延在する第2部分820a2と、で構成される。第1部分820a1において、上面820au及び底面は、側面820asよりも広い。他方の鋼製セグメント継手820bの形状は、鋼製セグメント継手820bの形状と同様である。
【0044】
後述される力(偏心荷重)Pが加えられる前には、鋼製セグメント継手820aの第2部分820a2における、第1部分820a1とは反対側の端面820at(
図9参照)が、鋼製セグメント継手820bの第2部分820b2における、第1部分820b1とは反対側の端面820btと当接している。これら端面820at,820btの間は、ボルト910によって締結されている。以下、鋼製セグメント継手820aの第1部分820a1及び鋼製セグメント継手820bの第1部分820b1の側面視で、これら端面820at,820btがなす角度を、継手回転角度θという。
【0045】
鋼製セグメント継手820aの第1部分820a1の底面は、第2部分820a2近傍において、床に固定される。鋼製セグメント継手820bの第1部分820b1の底面は、第2部分820b2近傍において、床に固定される。
【0046】
鋼製セグメント継手820aの第1部分820a1の上端部と、鋼製セグメント継手820bの第1部分820b1の上端部とに、鋼製セグメント継手820a,820bの長手方向外側から、油圧ジャッキによって、力(偏心荷重)Pが加えられる。この状態では、鋼製セグメント継手820a,820bに、下方に凸になる曲げ(正の曲げ)が発生している。この状態で、継手回転角度θと、ボルト910の軸力と、継手回転角度θを発生させる作用モーメントと、を計測した。
【0047】
以下、本開示の実施形態に係る装置1が作成した3次元有限要素法モデルについて説明する。装置1のモデル生成部30は、2つの鋼製セグメント継手820a,820bそれぞれを、長手方向において、7つのメッシュに分割した。実施例モデル1では、モデル生成部30が、ボルト910の初期締付力を、ばねの両節点への集中荷重でモデル化した。実施例モデル2では、モデル生成部30が、ボルト910の初期締付力を、ボルト孔を中心としてワッシャの直径に等しい円のうちボルト孔を除いた面積に分布する分布荷重でモデル化した。
【0048】
作成した3次元有限要素法モデルに基づいて、複数の鋼製セグメント継手の変形解析を有限要素法ソルバにより行い、継手回転角度θと、ボルト910の軸力と、継手回転角度θを発生させる作用モーメントと、を取得した。有限要素法ソルバは、ダッソー・システムズ社のAbaqusを用いた。
【0049】
図10に、ボルト910の軸力増分と、作用モーメントとの関係を示す。また、
図11に、継手回転角度θと、作用モーメントとの関係を示す。
【0050】
図10及び
図11から、本開示の実施形態に係る装置1が作成した実施例モデル1及び実施例モデル2は、実験値を精度良く再現できていることがわかった。
【0051】
図10から、実施例モデル2では、実施例モデル1よりもボルト910の軸力が増加し始める作用モーメントが小さくなっていることがわかり、ボルト孔周辺の降伏を実験結果の降伏開始に近づけることができた。
【0052】
図11から、ボルト孔周辺の降伏開始後の継手回転角の増加は、実施例モデル1及び2で実験値よりも大きくなっていることがわかるが(最大約3割)、簡易3次元有限要素法モデルとして実用上問題ないと考えられる。