(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024160922
(43)【公開日】2024-11-15
(54)【発明の名称】コンピュータプログラム、情報処理装置、及び情報処理方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/66 20060101AFI20241108BHJP
G01N 25/18 20060101ALI20241108BHJP
G01K 17/00 20060101ALI20241108BHJP
【FI】
H01L21/66 T
G01N25/18 L
G01K17/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023186871
(22)【出願日】2023-10-31
(31)【優先権主張番号】P 2023076138
(32)【優先日】2023-05-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000219967
【氏名又は名称】東京エレクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】岡 信介
(72)【発明者】
【氏名】佐竹 大輔
(72)【発明者】
【氏名】安部 拓真
(72)【発明者】
【氏名】和田 暢弘
【テーマコード(参考)】
2G040
4M106
【Fターム(参考)】
2G040AA01
2G040AB08
2G040BA01
2G040CA02
2G040DA03
2G040DA06
2G040DA15
2G040EA02
2G040EB02
2G040ZA08
4M106AA01
4M106CA31
4M106DH13
4M106DH15
4M106DH44
4M106DH45
4M106DH46
4M106DJ02
4M106DJ20
4M106DJ27
(57)【要約】
【課題】検査機において測定した熱流束に基づき、実機での基板温度の面内分布を推定できるコンピュータプログラム、情報処理装置、及び情報処理方法の提供。
【解決手段】熱源及び基板載置台を収容する検査チャンバを備えた検査機から、前記基板載置台に載置された基板について基板温度の面内分布を時系列的に計測して得られる温度データを取得し、取得した温度データに基づき、前記基板載置台における熱流束の面内分布を算出し、算出した熱流束の面内分布に基づき、実機における熱現象を模擬する熱回路モデルを用いて、前記基板載置台が実機に搭載された場合における基板温度の面内分布を推定する処理をコンピュータに実行させる。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱源及び基板載置台を収容する検査チャンバを備えた検査機から、前記基板載置台に載置された基板について基板温度の面内分布を時系列的に計測して得られる温度データを取得し、
取得した温度データに基づき、前記基板載置台における熱流束の面内分布を算出し、
算出した熱流束の面内分布に基づき、実機における熱現象を模擬する熱回路モデルを用いて、前記基板載置台が実機に搭載された場合における基板温度の面内分布を推定する
処理をコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラム。
【請求項2】
推定した基板温度の面内分布に基づき、前記基板載置台の良否を判定する
処理を前記コンピュータに実行させるための請求項1記載のコンピュータプログラム。
【請求項3】
前記温度データに基づき、前記基板への入熱に伴う基板温度の上昇速度を算出し、
算出した上昇速度の最大値を特定し、
特定した最大値に基づき前記基板への熱流束を算出する
処理を前記コンピュータに実行させるための請求項1記載のコンピュータプログラム。
【請求項4】
前記基板載置台に基板を吸着させた状態にて、前記熱源により前記検査チャンバ内の温度を上昇させ、
前記検査チャンバ内の温度を上昇させた後に、前記基板載置台による前記基板の吸着を解消することによって、前記基板温度を上昇させる
処理を前記コンピュータに実行させるための請求項3記載のコンピュータプログラム。
【請求項5】
前記熱源は、ヒータ付きウェハであり、
前記温度データとして、赤外線カメラを用いて計測される基板温度の面内分布の温度データを取得する
処理を前記コンピュータに実行させるための請求項1記載のコンピュータプログラム。
【請求項6】
処理部と、通信部とを備える情報処理装置であって、
前記通信部は、
熱源及び基板載置台を収容する検査チャンバを備えた検査機から、前記基板載置台に載置された基板について基板温度の面内分布を時系列的に計測して得られる温度データを取得し、
前記処理部は、
前記通信部より取得した温度データに基づき、前記基板載置台における熱流束の面内分布を算出し、
算出した熱流束の面内分布に基づき、実機における熱現象を模擬する熱回路モデルを用いて、前記基板載置台が実機に搭載された場合における基板温度の面内分布を推定する
情報処理装置。
【請求項7】
熱源及び基板載置台を収容する検査チャンバを備えた検査機から、前記基板載置台に載置された基板について基板温度の面内分布を時系列的に計測して得られる温度データを取得し、
取得した温度データに基づき、前記基板載置台における熱流束の面内分布を算出し、
算出した熱流束の面内分布に基づき、実機における熱現象を模擬する熱回路モデルを用いて、前記基板載置台が実機に搭載された場合における基板温度の面内分布を推定する
処理をコンピュータにより実行する情報処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、コンピュータプログラム、情報処理装置、及び情報処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、プラズマからの入熱量と、被処理体及びヒータ間の熱抵抗とを算出し、算出した入熱量及び熱抵抗を用いて、被処理体が目標温度となるヒータの設定温度を算出するプラズマ処理装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、検査機において測定した熱流束に基づき、実機での基板温度の面内分布を推定できるコンピュータプログラム、情報処理装置、及び情報処理方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一形態に係るコンピュータプログラムは、熱源及び基板載置台を収容する検査チャンバを備えた検査機から、前記基板載置台に載置された基板について基板温度の面内分布を時系列的に計測して得られる温度データを取得し、取得した温度データに基づき、前記基板載置台における熱流束の面内分布を算出し、算出した熱流束の面内分布に基づき、実機における熱現象を模擬する熱回路モデルを用いて、前記基板載置台が実機に搭載された場合における基板温度の面内分布を推定する処理をコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラムである。
【発明の効果】
【0006】
本開示によれば、検査機において測定した熱流束に基づき、実機での基板温度の面内分布を推定できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】プラズマ処理システムの構成例を示す概略図である。
【
図2】基板温度の調整機構を説明する説明図である。
【
図4B】基板温度の上昇速度の時間変化を示すグラフである。
【
図6】実施の形態1において処理部が実行する処理の手順を説明するフローチャートである。
【
図7】実施の形態2において処理部が実行する処理の手順を説明するフローチャートである。
【
図8】実施の形態3における検査機の構成例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明をその実施の形態を示す図面に基づいて具体的に説明する。
(実施の形態1)
図1はプラズマ処理システム1の構成例を示す概略図である。一実施形態において、プラズマ処理システム1は、プラズマ処理装置1a及び制御部1bを含む。プラズマ処理装置1aは、プラズマ処理チャンバ10、ガス供給部20、RF(Radio Frequency)電力供給部30及び排気システム40を含む。また、プラズマ処理装置1aは、支持部11及び上部電極シャワーヘッド12を含む。支持部11は、プラズマ処理チャンバ10内のプラズマ処理空間10sの下部領域に配置される。上部電極シャワーヘッド12は、支持部11の上方に配置され、プラズマ処理チャンバ10の天部(ceiling)の一部として機能し得る。
【0009】
支持部11は、プラズマ処理空間10sにおいて基板Wを支持するように構成される。一実施形態において、支持部11は、下部電極111、静電チャック112、及びエッジリング113を含む。静電チャック112は、下部電極111上に配置され、静電チャック112の上面で基板Wを支持するように構成される。エッジリング113は、下部電極111の周縁部上面において基板Wを囲むように配置される。また、図示は省略するが、一実施形態において、支持部11は、静電チャック112及び基板Wのうち少なくとも1つをターゲット温度に調節するように構成される温調モジュールを含んでもよい。温調モジュールは、ヒータ、流路、又はこれらの組み合わせを含んでもよい。流路には、冷媒、伝熱ガスのような温調流体が流れる。
【0010】
上部電極シャワーヘッド12は、ガス供給部20からの1又はそれ以上の処理ガスをプラズマ処理空間10sに供給するように構成される。一実施形態において、上部電極シャワーヘッド12は、ガス入口12a、ガス拡散室12b、及び複数のガス出口12cを有する。ガス入口12aは、ガス供給部20及びガス拡散室12bと流体連通している。複数のガス出口12cは、ガス拡散室12b及びプラズマ処理空間10sと流体連通している。一実施形態において、上部電極シャワーヘッド12は、1又はそれ以上の処理ガスをガス入口12aからガス拡散室12b及び複数のガス出口12cを介してプラズマ処理空間10sに供給するように構成される。
【0011】
ガス供給部20は、1又はそれ以上のガスソース21及び1又はそれ以上の流量制御器22を含んでもよい。一実施形態において、ガス供給部20は、1又はそれ以上の処理ガスを、それぞれに対応のガスソース21からそれぞれに対応の流量制御器22を介してガス入口12aに供給するように構成される。各流量制御器22は、例えばマスフローコントローラ又は圧力制御式の流量制御器を含んでもよい。さらに、ガス供給部20は、1又はそれ以上の処理ガスの流量を変調又はパルス化する1又はそれ以上の流量変調デバイスを含んでもよい。
【0012】
RF電力供給部30は、RF電力、例えば1又はそれ以上のRF信号を、下部電極111、上部電極シャワーヘッド12、又は、下部電極111及び上部電極シャワーヘッド12の双方のような1又はそれ以上の電極に供給するように構成される。これにより、プラズマ処理空間10sに供給された1又はそれ以上の処理ガスからプラズマが生成される。従って、RF電力供給部30は、プラズマ処理チャンバにおいて1又はそれ以上の処理ガスからプラズマを生成するように構成されるプラズマ生成部の少なくとも一部として機能し得る。一実施形態において、RF電力供給部30は、2つのRF生成部31a,31b及び2つの整合回路32a,32bを含む。一実施形態において、RF電力供給部30は、第1のRF信号を第1のRF生成部31aから第1の整合回路32aを介して下部電極111に供給するように構成される。例えば、第1のRF信号は、27MHz~100MHzの範囲内の周波数を有してもよい。
【0013】
また、一実施形態において、RF電力供給部30は、第2のRF信号を第2のRF生成部31bから第2の整合回路32bを介して下部電極111に供給するように構成される。例えば、第2のRF信号は、400kHz~13.56MHzの範囲内の周波数を有してもよい。代わりに、第2のRF生成部31bに代えて、DC(Direct Current)パルス生成部を用いてもよい。
【0014】
さらに、図示は省略するが、本開示においては他の実施形態が考えられる。例えば、代替実施形態において、RF電力供給部30は、第1のRF信号をRF生成部から下部電極111に供給し、第2のRF信号を他のRF生成部から下部電極111に供給し、第3のRF信号をさらに他のRF生成部から下部電極111に供給するように構成されてもよい。加えて、他の代替実施形態において、DC電圧が上部電極シャワーヘッド12に印加されてもよい。
【0015】
またさらに、種々の実施形態において、1又はそれ以上のRF信号(即ち、第1のRF信号、第2のRF信号等)の振幅がパルス化又は変調されてもよい。振幅変調は、オン状態とオフ状態との間、あるいは、2又はそれ以上の異なるオン状態の間でRF信号振幅をパルス化することを含んでもよい。
【0016】
排気システム40は、例えばプラズマ処理チャンバ10の底部に設けられた排気口10eに接続され得る。排気システム40は、圧力弁及び真空ポンプを含んでもよい。真空ポンプは、ターボ分子ポンプ、粗引きポンプ又はこれらの組み合わせを含んでもよい。
【0017】
一実施形態において、制御部1bは、本開示において述べられる種々の工程をプラズマ処理装置1aに実行させるコンピュータ実行可能な命令を処理する。制御部1bは、ここで述べられる種々の工程を実行するようにプラズマ処理装置1aの各要素を制御するように構成され得る。一実施形態において、制御部1bの一部又は全てがプラズマ処理装置1aに含まれてもよい。制御部1bは、例えばコンピュータ51を含んでもよい。コンピュータ51は、例えば、処理部(CPU:Central Processing Unit)511、記憶部512、及び通信インターフェース513を含んでもよい。処理部511は、記憶部512に格納されたプログラムに基づいて種々の制御動作を行うように構成され得る。記憶部512は、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、又はこれらの組み合わせを含んでもよい。通信インターフェース513は、LAN(Local Area Network)等の通信回線を介してプラズマ処理装置1aとの間で通信してもよい。
【0018】
記憶部512には、処理部511により実行される各種のコンピュータプログラムが記憶されてもよい。記憶部512に記憶されるコンピュータプログラムは、例えば、検査チャンバで測定した熱流束に基づき、熱回路モデルを用いて、実機における基板温度を推定する処理を処理部511に実行させるためのコンピュータプログラムPGを含む。コンピュータプログラムPGは、記録媒体RMや通信により提供される。コンピュータプログラムPGは、単一のコンピュータプログラムであってもよく、複数のコンピュータプログラムにより構成されるプログラム群であってもよい。また、コンピュータプログラムPGは、既存のライブラリを部分的に用いるものであってもよい。
【0019】
本実施の形態において、プラズマ処理装置1aは基板処理装置の一例である。プラズマ処理装置1aは、例えば、エッチング装置、イオン注入装置、プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)装置、アッシング装置などを含む。基板処理装置は、プラズマ処理装置1a以外の装置として、例えば露光装置などを含む。
【0020】
図2は基板温度の調整機構を説明する説明図である。プラズマ処理装置1aの支持部11は、下部電極111及び静電チャック112を備える。本実施の形態において、下部電極111は静電チャック112を冷却する冷却基台として機能し、静電チャック112は処理対象の基板Wが載置される基板載置台として機能する。
【0021】
下部電極111の内部には冷媒流路62が形成されている。冷媒流路62はひと続きの流路であり、その一端は入口配管61に連通し、他端は出口配管63に連通する。冷媒流路62には、プラズマ処理チャンバ10の外部に設けられたチラーユニット60から入口配管61を介して冷媒が供給される。冷媒にはブラインなどの媒体が用いられる。冷媒の温度はチラーユニット60によって制御される。チラーユニット60から供給される冷媒は、入口配管61を通じて下部電極111内部の冷媒流路62に流れ、出口配管63を通じてチラーユニット60に還流する。冷媒が流れる流路の1又は複数箇所には、温度センサ64が設けられる。本例では下部電極111内に温度センサ64を設けた例を示すが、下部電極111外の出口配管63に温度センサ64を設けてもよい。温度センサ64は、設置場所における冷媒の温度を時系列的に測定し、得られた温度データを制御部1bへ出力する。
【0022】
静電チャック112の上面には、複数の凸部112aと凹部112bとが設けられている。凸部112aは上向きに突出する微小な円柱形状を有し、その上面によって処理対象の基板Wを支持する。
図2では、凸部112aの形状を明確に示すために、実際のサイズよりも誇張して大きく描いている。基板Wと静電チャック112との間に生じる空隙(凹部112b)には、ガス吐出口72が設けられている。ガス吐出口72にはガス供給ライン71が接続されている。ガス吐出口72は、ガス供給ライン71を通じてガス供給機構70より供給される伝熱ガスを基板Wと静電チャック112との間の空隙(凹部112b)へ吐出する。本実施の形態において、伝熱ガスはヘリウムガスである。代替的に、伝熱ガスはアルゴンガスなどの他の不活性ガスであってもよい。ガス供給機構70は、流量制御器や圧力制御器を備えており、凹部112bに流れる伝熱ガスの流量及びガス圧を制御する。
【0023】
静電チャック112の内部には吸着電極81が設けられる。吸着電極81には直流電源80より所要の電圧(HV:High Voltage)が印加され、基板Wを静電チャック112に吸着させる。電圧印加により確実に静電吸着させるために、プラズマ処理チャンバ10を介して、基板Wをグランドに接続してもよい。
【0024】
プラズマ処理装置1aは、チラーユニット60が供給する冷媒の温度やガス供給機構70が供給する伝熱ガスのガス圧を制御することによって、静電チャック112に載置された基板Wの温度を制御することが可能である。本実施の形態では、基板Wの温度変化を観察するために、基板Wに代えて、温度測定ウェハWt(以下、温測ウェハWtという)を用いる。温測ウェハWtは、例えば、熱電対付きウェハ、センサやメモリ等の測定デバイスを内蔵したウェハである。温測ウェハWtは、ウェハ表面上の複数の点の温度を計測してもよく、代表点の温度を計測してもよい。以下では、温測ウェハWtが計測する温度を単に基板温度とも記載する。
【0025】
下部電極111及び静電チャック112は、接着層110により接合される。接着層110の材料として、熱伝導が高い接着剤を用いることができる。下部電極111の冷却基台としての機能に着目した場合、接着層110は、下部電極111(冷却基台)と静電チャック112(基板載置台)との間に介在する冷却層として機能する。また、接着層110の材料として、電気抵抗が高い接着剤を使用し、下部電極111と静電チャック112とを電気的に絶縁する機能を持たせてもよい。熱伝導及び電気抵抗が高い接着剤として、例えば、シリコーン系材料、アクリルベース若しくはアクレラートベースのアクリル系材料、又はポリイミドシリカ系材料を含む有機系接着剤等を用いることができる。
【0026】
本来であれば、実機に搭載された場合に基板に入射する熱流束と同じ熱流束を印加し、その時の基板温度の面内分布を測定して、良否判定する検査を行うべきであるが、同じ面内分布の熱流束を実現することは困難である。そのため、静電チャックの凸部の形状や接着層の厚さの面内分布にスペックを設けて、良否判定を行っている。ただ、これらの項目と基板温度との関係を高精度で求めることは困難である。
【0027】
このため、基板温度の面内分布の予測値と実測値とは必ずしも一致せず、良品と判定された静電チャック112を用いたとしても、エッチング中の基板温度が不良と判定されるケースも存在する。
【0028】
これに対し、本実施の形態では、基板面内の複数の計測ポイントで熱流束と基板温度とを実測し、熱回路モデルを用いて、任意の分布で大きなエネルギーの熱流束の状態での基板温度を推定する方法を提案する。
【0029】
図3は検査環境の構成例を示す模式図である。実施の形態では、出荷前の支持部11を検査するために、検査チャンバ10tを備えた検査機1tが用意される。検査チャンバ10tの内部には、検査対象の支持部11が収容される。本実施の形態では、検査対象の支持部11は、接着層110、下部電極111、及び静電チャック112を含んだ構成とするが、更に、エッジリング113を含んだ構成であってもよい。
【0030】
検査チャンバ10tは、熱源であるヒータ11tを備える。ヒータ11tには、SiCヒータ、ランプヒータなどの適宜のヒータが用いられる。検査チャンバ10tには上述した制御部1bが接続される。検査機1tは、実機と同様に、チラーユニット60、ガス供給機構70、直流電源80等を備える。検査機1tは、制御部1bからの制御によって、実機であるプラズマ処理装置1aの挙動を模擬する。すなわち、検査機1tの直流電源80は、静電チャック112内部の吸着電極81にHVを印加することにより、静電チャック112の上面に温測ウェハWtを吸着させる。また、検査機1tのガス供給機構70は、ガス供給ライン71を通じて、温測ウェハWtと静電チャック112との間の空隙(凹部112b)に伝熱ガスを供給する。更に、検査機1tのチラーユニット60は、入口配管61を通じて、下部電極111内部の冷媒流路62に冷媒を流し、出口配管63を通じて冷媒を回収することで、下部電極111を冷却する。冷媒の温度は、冷媒流路62又は出口配管63に設置される温度センサ64によって計測される。
【0031】
検査チャンバ10tに収容された支持部11は、ヒータ11tからの入熱によって温度が上昇すると共に、下部電極111(冷却基台)によって冷却され、その温度が調整される。静電チャック112には温測ウェハWtが載置され、面内の複数の計測ポイントのそれぞれで基板温度Twf_test が計測される。
【0032】
温測ウェハWtによって複数の計測ポイントで計測される基板温度(面内分布)をTwf_test とし、冷却基台の温度(面内分布)をTal_test (以下、基台温度Tal_test という)としたとき、両者の関係は、それぞれの計測ポイントで以下の数1によって表される。なお、基台温度Tal_test については一様とみなし、各計測ポイントの基台温度Tal_test を温度センサ64で計測される冷媒の温度で代用してもよい。
【0033】
【0034】
ここで、qtestは熱源(ヒータ11t)から各計測ポイントへの熱流束であり、RESC は基板から冷媒に至る伝熱経路全体の熱抵抗である。熱抵抗RESC は、静電チャック112(凹部112b及び伝熱ガスを含む)における熱抵抗、接着層110における熱抵抗、及び下部電極111における熱抵抗を含む。基台温度Tal_test は下部電極111(冷却基台)の温度である。基台温度Tal_test は冷媒温度によって代用される。
【0035】
数1は検査機1tでの基板温度Twf_test と基台温度Tal_test との関係を表している。実機(プラズマ処理装置1a)での基板温度Twf_etch と基台温度Tal_etch との関係についても同様である。実機での基板温度Twf_etch と基台温度Tal_etch との関係を表す熱回路モデルは、数2により記述される。
【0036】
【0037】
検査機1tで検査した支持部11は、実機に搭載されることを想定しているため、数1及び数2における熱抵抗RESC は共通である。また、数2に現れるqetchは、均一なエッチング特性が要求されるエッチング条件での熱流束を表している。基台温度Tal_etch は、下部電極111(冷却基台)の温度であり、冷媒温度によって代用される。
【0038】
実機での各計測ポイントに対応した基板温度Twf_etch は、数1及び数2から熱抵抗RESC を消去した以下の数3により推定される。
【0039】
【0040】
本実施の形態では、計測ポイント毎に、検査機1tで計測した基板温度Twf_test に基づき、熱源から静電チャック112への熱流束qtestを推定し、事前に求めておいたqetchを代表値として用い、かつ数3を利用して実機における基板温度Twf_etch を推定する。計測ポイント毎に、実機における基板温度Twf_etch を推定することで、基板温度Twf_etch の面内分布が得られる。
【0041】
以下、熱流束の推定方法について説明する。
図4Aは基板温度の時間変化を示すグラフであり、
図4Bは基板温度の上昇速度の時間変化を示すグラフである。
図4A及び
図4Bは、時刻T1でRF電力供給部30からRF電力の供給を開始し、プラズマ処理空間10sにプラズマを生成させたときの基板温度T
wf及びその上昇速度dT
wf/dtの時間変化を示している。すなわち、
図4A及び
図4Bは実機での温度変化を表している。
図4A及び
図4Bの横軸は時刻、
図4Aの縦軸は基板温度T
wf、
図4Bの縦軸は基板温度T
wfの上昇速度dT
wf/dtを表す。
【0042】
時刻T1でRF電力供給部30よりRF電力の供給を開始した場合、プラズマ処理空間10sではプラズマが成長し、プラズマから基板Wへの熱流束qINは増加する。このとき、基板温度Twfは徐々に増加するものの、基板Wと静電チャック112との温度差は小さく、基板Wから静電チャック112への熱流束qOUT は略ゼロである。この間、正味の熱流束Δq(=qIN-qOUT )は増加する。
【0043】
時刻T2でプラズマ処理空間10sにおけるプラズマが安定した場合、プラズマから基板Wへの熱流束q
INは飽和する。一方、基板Wと静電チャック112との温度差は大きく、基板Wから静電チャック112への熱流束q
OUT は増加する。この間、基板温度T
wfの上昇速度dT
wf/dtは徐々に下降し、正味の熱流束Δq(=q
IN-q
OUT )は減少する。したがって、
図4Bに示すように、基板温度T
wfの上昇速度dT
wf/dtは時刻T2で最大となる。
【0044】
時刻T3で基板Wと静電チャック112との温度差が飽和し、基板温度Twfの上昇速度がゼロとなった場合、基板Wから静電チャック112への熱流束qOUT は飽和する。よって、時刻T3以降、正味の熱流束Δq(=qIN-qOUT )はゼロとなる。
【0045】
図5は熱流束の算出方法を説明する説明図である。基板温度の上昇速度は、基板Wへの正味の熱流束Δq(=q
IN-q
OUT )に比例するので、数4のように記述できる。
【0046】
【0047】
ここで、qINは熱源から基板Wへの熱流束であり、qOUT は基板Wから静電チャック112への熱流束である。Cは基板Wの単位面積当たりの熱容量を表す。
【0048】
数4より、基板Wから静電チャック112への熱流束qOUT がゼロのとき、基板温度の上昇速度は最大となることが分かる。本実施の形態では、qOUT がゼロとなる状況下で基板温度の上昇速度の最大値を検出することにより、基板Wへの熱流束qINを推定する。すなわち、基板Wの熱容量Cが既知である場合、検出した基板温度の上昇速度の最大値を次に示す数5に代入することにより、熱流束qINを推定できる。
【0049】
【0050】
一方、冷却基台(下部電極111)から冷媒への熱流束qc は、冷媒の温度変化から求めることができる。冷媒を通じて排出される熱量QOUT は、QOUT =(冷媒の比熱)×(冷媒の流量)×(冷媒の温度上昇)によって表される。ここで、冷媒の比熱は既知であり、冷媒の流量は設定値として与えられる。冷媒の温度上昇は、温度センサ64より出力される温度データに基づき計算される。熱流束qc は、QOUT を基板Wの面積及びエッジリング113の面積の和で除算することにより計算される。
【0051】
本願発明者らは、基板温度の上昇速度から求めた熱流束qINと、冷媒の温度変化から求めた熱流束qc との差は僅か数%であることを確認した。このことは、基板Wから冷媒に至る伝熱経路全体の熱流束(数3のqetch 及びqtest)は、基板温度の上昇速度から算出される熱流束qINや冷媒の温度変化から算出されるqc によって代用可能であることを示している。
【0052】
以上の考察に基づき、本実施の形態では、実機での温度の挙動を検査機1tにおいて模擬し、検査機1tから得られる温度データを基に、支持部11を実機に搭載した場合の基板温度の面内分布を推定する。
【0053】
以下、処理部511が実行する処理の手順について説明する。
図6は実施の形態1において処理部511が実行する処理の手順を説明するフローチャートである。検査時の測定条件を整えるために、処理部511による処理に先立ち、以下の準備工程が実施される。検査対象の支持部11は、検査機1tが備える検査チャンバ10tの内部に収容される。検査チャンバ10t内の真空度やチラー温度(冷媒の温度)は測定条件に合わせて適宜設定される。静電チャック112内の吸着電極81には所要の電圧(HV)が印加され、温測ウェハWtを静電チャック112に吸着させる。電圧印加により確実に静電吸着させるために、検査チャンバ10tを介して、温測ウェハWtをグランドに接続してもよい。静電チャック112の凹部112bは真空に保持される(減圧される)。
【0054】
以上の準備工程を終えた後、処理部511は、記憶部512からコンピュータプログラムPGを読み出して実行することにより、以下の処理を行う。
【0055】
処理部511は、通信インターフェース513を通じて検査機1tに指示を与えることにより、ヒータ11tをオンする(ステップS101)。処理部511は、通信インターフェース513を通じて、温測ウェハWtにより計測される温度データを取得する(ステップS102)。以下では、検査機1tにおいて温測ウェハWtが計測する温度を基板温度Twf_test とも記載する。実施の形態において、温測ウェハWtより得られる温度データは、温測ウェハWtにおける面内の複数の計測ポイントで計測される分布データである。なお、処理部511は、温度センサ64により計測される冷媒の温度データを随時取得するものとする。
【0056】
処理部511は、取得した温度データに基づいて温測ウェハWtの温度が安定したか否かを判断する(ステップS103)。例えば、温測ウェハWtの温度の時間変化が閾値未満となった場合、温測ウェハWtの温度が安定したと判断できる。代替的に、処理部511は、ヒータ11tをオンしてからの経過時間を計時し、経過時間が設定時間を超えた場合、温測ウェハWtの温度が安定したと判断してもよい。温測ウェハWtの温度が安定していない場合(S103:NO)、処理部511は、温測ウェハWtの温度が安定するまで待機する。
【0057】
温測ウェハWtの温度が安定したと判断した場合(S103:YES)、処理部511は、静電チャック112に印加するHVをオフにして、静電チャック112への温測ウェハWtの吸着を解除する(ステップS104)。静電チャック112への吸着が解除された場合、温測ウェハWtから静電チャック112への熱流束がゼロとなるため、温測ウェハWtの温度は急激に上昇する。このステップS104の操作によって、
図4Bに示す時刻T1~T2の振る舞い(温度上昇速度の急上昇)を検査チャンバ10tにおいて実現することができる。処理部511は、この時の温度データを取得する。なお、温測ウェハWtの温度は、温測ウェハWtの耐熱温度を超えることがないように条件が設定されることが好ましく、温測ウェハWtの温度上昇速度は想定した値に達することが好ましい。
【0058】
処理部511は、温測ウェハWtの温度急上昇を確認した後、静電チャック112にHVを印加し、温測ウェハWtを静電チャック112に吸着させる(ステップS105)。静電チャック112に印加されるHVの大きさは適宜設定される。
【0059】
処理部511は、通信インターフェース513を通じて検査機1tを制御し、実機で温度を推定するプロセスと同じHV及び伝熱ガス圧で温測ウェハWtにより計測される温度データを取得する(ステップS106)。
【0060】
処理部511は、温測ウェハWtの温度の時系列変化に基づいて、温測ウェハWtの温度上昇速度を算出する(ステップS107)。処理部511は、温度上昇速度の最大値を特定し、特定した最大値を基に温測ウェハWtへの熱流束qINを算出する(ステップS108)。処理部511は、数5を用いて熱流束qINを算出することができる。数5に含まれる基板温度Twfには温測ウェハWtにより計測される温度が用いられ、温測ウェハWtの熱容量Cは既知であるとする。温測ウェハWtより得られる温度データは、温測ウェハWtの面内の分布データであるため、ステップS108で各計測ポイントに対応して熱流束qINを算出することにより、温測ウェハWtの面内における熱流束qINの分布を求めることができる。
【0061】
処理部511は、数3を利用して、プロセス中の基板温度T
wf_etch を推定する(ステップS109)。ここで、数3の右辺におけるq
testにはステップS108で算出したq
INが用いられ、T
wf_test ,T
al_test には検査機1tにおいて温度ウェハWtにより計測される温度、温度センサ64により計測される温度が用いられる。q
etchには熱流束が用いられ、T
al_etch にはエッチング中の基板温度が安定したときの基台温度が用いられる。熱流束q
etchは、実機においてプラズマを使用して
図4Aのように温度上昇させたときの温度曲線から求められる。熱流束q
etchは、静電チャック112の個体差の影響を受けないので、代表的な値を用いることができる。
【0062】
処理部511は、ステップS109で推定した基板温度Twf_etch に基づき、静電チャック112の良否を判定する(ステップS110)。処理部511は、例えば、推定した基板温度Twf_etch の面内の値と、均一なエッチング特性を実現するときの基板温度との差が少なければ良品と判定し、差が多ければ不良品と判定する。
【0063】
処理部511は、ステップS110での判定結果を出力する(ステップS111)。処理部511は、例えば、通信インターフェース513を通じて、ユーザが携帯する携帯端末に判定結果を通知する。コンピュータ51が液晶ディスプレイ等の表示部を備える場合、処理部511は、表示部に判定結果を表示してもよい。
【0064】
以上のように、本実施の形態では、静電チャック112が実機に搭載された場合における基板温度の面内分布を推定することができ、その面内分布に基づき静電チャック112が良品であるか否かを判定できる。その結果、良品と判定された静電チャック112を顧客に納品することができ、不良品の取り付け、取り外しなどの現場作業者の無駄な工数を削減することができ、顧客の信頼低下が抑えられる。
【0065】
(実施の形態2)
実施の形態2では、検査機1tにおける熱源として、プラズマ、ランプヒータ、シャッター付きヒータ等を用いた構成について説明する。
【0066】
検査機1tにおける熱源として、プラズマ、ランプヒータ、シャッター付きヒータ等を用いた場合、熱流束が瞬時に安定する。そのため、処理部511は、温測ウェハWtの温度が安定するまで待機することなく、温度推定処理を行う。
【0067】
図7は実施の形態2において処理部511が実行する処理の手順を説明するフローチャートである。検査時の測定条件を整えるために、処理部511による処理に先立ち、以下の準備工程が実施される。検査対象の支持部11は、検査機1tが備える検査チャンバ10tの内部に収容される。検査チャンバ10t内の真空度やチラー温度(冷媒の温度)は測定条件に合わせて適宜設定される。静電チャック112内の吸着電極81には所要の電圧(HV)が印加され、温測ウェハWtを静電チャック112に吸着させる。電圧印加により確実に静電吸着させるために、検査チャンバ10tを介して、温測ウェハWtをグランドに接続してもよい。静電チャック112の凹部112bは真空に保持される(減圧される)。
【0068】
以上の準備工程を終えた後、処理部511は、記憶部512からコンピュータプログラムPGを読み出して実行することにより、以下の処理を行う。
【0069】
処理部511は、通信インターフェース513を通じて、温測ウェハWtにより計測される温度データを取得する(ステップS201)。以下では、検査機1tにおいて温測ウェハWtが計測する温度を基板温度Twf_test とも記載する。実施の形態において、温測ウェハWtより得られる温度データは、温測ウェハWtにおける面内の複数の計測ポイントで計測される分布データである。なお、処理部511は、温度センサ64により計測される冷媒の温度データを随時取得するものとする。
【0070】
処理部511は、温測ウェハWtへの入熱をオンする(ステップS202)。処理部511は、例えば、検査チャンバ10t内でプラズマを生成させることにより、温測ウェハWtへの入熱をオンする。代替的に、処理部511は、ランプヒータをオン、若しくは、シャッター付きランプのシャッターをオープンして、温測ウェハWtへの入熱をオンしてもよい。処理部511は、この時の温度データを取得する。
【0071】
処理部511は、温測ウェハWtの温度急上昇を確認した後、温度ウェハWtへの入熱をオフにする(ステップS203)。処理部511は、例えば、検査チャンバ10t内でのプラズマの生成を停止させることにより、温測ウェハWtへの入熱をオフにする。代替的に、処理部511は、ランプヒータをオフ、若しくは、シャッター付きランプのシャッターをクローズして、温測ウェハWtへの入熱をオフにしてもよい。
【0072】
処理部511は、通信インターフェース513を通じて検査機1tを制御し、実機で温度を推定するプロセスと同じHV及び伝熱ガス圧で入熱をオンし、温測ウェハWtにより計測される温度データを取得する(ステップS204)。
【0073】
処理部511は、温測ウェハWtの温度の時系列変化に基づいて、温測ウェハWtの温度上昇速度を算出する(ステップS205)。処理部511は、温度上昇速度の最大値を特定し、特定した最大値を基に温測ウェハWtへの熱流束qINを算出する(ステップS206)。処理部511は、実施の形態1と同様の手法を用いて、温測ウェハWtの面内における熱流束qINの分布を求めることができる。
【0074】
処理部511は、数3を利用して、プロセス中の基板温度Twf_etch を推定する(ステップS207)。処理部511は、実施の形態1と同様の手法を用いて、プロセス中の基板温度Twf_etch を推定することができる。
【0075】
処理部511は、ステップS207で推定した基板温度Twf_etch に基づき、静電チャック112の良否を判定する(ステップS208)。処理部511は、実施の形態1と同様の手法を用いて、静電チャック112の良否を判定できる。
【0076】
処理部511は、ステップS208での判定結果を出力する(ステップ209)。処理部511は、例えば、通信インターフェース513を通じて、ユーザが携帯する携帯端末に判定結果を通知する。コンピュータ51が液晶ディスプレイ等の表示部を備える場合、処理部511は、表示部に判定結果を表示してもよい。
【0077】
(実施の形態3)
実施の形態3では、検査機1tにおける熱源としてヒータ付きウェハ、温度計測手段として赤外線カメラ(IRカメラ)を用いた構成について説明する。
【0078】
図8は実施の形態3における検査機1tの構成例を示す模式図である。実施の形態3における検査機1tは、検査対象の支持部11(出荷前の支持部11)が収容される検査チャンバ10tと、対象物(後述のヒータ付きウェハWh)の温度分布を計測する赤外線カメラ13とを備える。
図8では、接着層110、下部電極111、及び静電チャック112を備えた支持部11を示しているが、支持部11は、更に、エッジリング113を含んだ構成であってもよい。
【0079】
検査チャンバ10tは、その天面にGe窓10wを備える。Ge窓10wは温度計測用の窓である。Ge窓10wには、赤外線に対して良好な透過性を有するゲルマニウム(germanium)の単結晶が用いられる。ゲルマニウムは、2~20μmの幅広い透過波長域を有し、耐圧性が高いため、検査機1tにおける温度計測用の窓の材料として好適である。
【0080】
赤外線カメラ13は、Ge窓10wと対向するように、検査チャンバ10tの外部に設けられる。赤外線カメラ13は、マトリクス状に配置された複数の赤外線検知素子(イメージセンサ)を備えており、各素子で検知した赤外線の強度を基に対象物の温度を計測し、計測した温度に応じて色を割り当てることで、対象物表面の温度分布を可視化する。赤外線カメラ13は、対象物表面の温度分布を可視化することで得られる赤外線画像を処理部511へ出力する。
【0081】
本実施の形態では、赤外線カメラ13は、対象物表面の温度分布を示す赤外線画像を出力する構成としたが、対象物表面から発せられる熱の分布を示す熱画像(サーモグラフィ)を出力する構成であってもよい。この場合、処理部511は、赤外線カメラ13から出力される熱画像を取得し、取得した熱画像に基づき対象物の温度分布を計算すればよい。
【0082】
検査チャンバ10tに収容される支持部11の上面には、ヒータ付きウェハWhが載置される。ヒータ付きウェハWhは、例えば、基材、下部絶縁膜、ヒータパターン、上部絶縁膜をこの順に積層して構成される。基材は、セラミックスなどにより形成される。下部絶縁膜及び上部絶縁膜は、絶縁材料を溶射することによって形成される。ヒータパターンは、タングステンやアルミニウムなどの抵抗材料を溶射することによって形成される。ヒータパターンのパターン形状は面内の温度分布が所望の温度分布となるように適宜設計される。ヒータ付きウェハWhは、図に示していない直流電源からヒータパターンに電流を流すことによって加熱される。ヒータパターンを抵抗材料の溶射によって形成することで、ヒータ部分の厚みを薄く形成することができ、熱容量を小さくすることができる。この結果、優れた昇温速度を実現できる。
【0083】
実施の形態3では、ヒータ付きウェハWhの表面温度を赤外線カメラ13により計測し、得られた温度を検査時の基板温度Twf_test に用いて、プロセス中における基板温度Twf_etch を推定する。推定手法の概要は以下の通りである。
【0084】
処理部511は、静電チャック112への入熱が可能な検査機1tにおいて、検査時の熱流速q
testを実測し、エッチング中の熱流速q
etchとの比q
etch/q
testを求める。エッチング中の熱流束q
etchについては個々に実測するのではなく、代表的なエッチングチャンバで事前に求めておけばよい。処理部511は、検査時の基板温度T
wf_test のデータを赤外線カメラ13より取得する。処理部511は、熱流束の比q
etch/q
testと、検査時の基板温度T
wf_test とを数1に代入することにより、実機(プラズマ処理装置1a)での基板温度T
wf_etch を推定する。なお、基板温度
wf_etch を推理する際に処理部511が実行する処理の手順は、実施の形態2(
図7のフローチャート)と同様であるため、その詳細な説明を省略する。
【0085】
上記の手法では、検査時の熱流速qtestの計測を複数回行ったとしても、そのバラツキを低減することができ、検査時の熱流速qtestを正確に求めることが可能である。その結果、エッチング中の基板温度Twf_etch をより精度良く推定することが可能である。実験の結果、基板温度Twf_etch の予測値と実測値との差は、面内において-1.3~1.1℃の範囲に収めることが可能となった。
【0086】
今回開示された実施形態は、全ての点において例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上述した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0087】
各実施形態に記載した事項は相互に組み合わせることが可能である。また、特許請求の範囲に記載した独立請求項及び従属請求項は、引用形式に関わらず全てのあらゆる組み合わせにおいて、相互に組み合わせることが可能である。さらに、特許請求の範囲には他の2以上のクレームを引用するクレームを記載する形式(マルチクレーム形式)を用いているが、これに限るものではない。マルチクレームを少なくとも一つ引用するマルチクレーム(マルチマルチクレーム)を記載する形式を用いて記載してもよい。
【符号の説明】
【0088】
1 プラズマ処理システム
1a プラズマ処理装置
1b 制御部
64 温度センサ
110 接着層
111 下部電極
112 静電チャック
511 処理部
512 記憶部
513 通信インターフェース
Wt 温度測定ウェハ