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2024-161053黒鉛粒子と硫化物固体電解質とを含んだ負極合材の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024161053
(43)【公開日】2024-11-15
(54)【発明の名称】黒鉛粒子と硫化物固体電解質とを含んだ負極合材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/1393 20100101AFI20241108BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20241108BHJP
【FI】
H01M4/1393
H01M4/62 Z
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024140941
(22)【出願日】2024-08-22
(62)【分割の表示】P 2020180460の分割
【原出願日】2020-10-28
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136825
【弁理士】
【氏名又は名称】辻川 典範
(72)【発明者】
【氏名】高梨 昌二
(57)【要約】
【課題】高い放電容量を実現することが可能な全固体電池用の負極合材の製造方法を提供する。
【解決手段】負極合材の製造方法であって、リチウム、硫黄、及びリンから構成されたイオン伝導性化合物からなる2次凝集体の形態を有する硫化物全固体電解質と、黒鉛粒子とを所定の配合割合となるようにそれぞれ秤取る工程と、前記秤取った黒鉛粒子の全量と、前記秤取った硫化物全固体電解質のうちの20質量%以上40質量%以下の範囲内の量とを5分間以上の混合時間で乾式混合する工程と、前記乾式混合された混合物に、前記秤取った硫化物全固体電解質の残りを20質量%以上40質量%以下の範囲内の量ずつ投入して各々1分間以内の混合時間で乾式混合する工程とからなる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム、硫黄、及びリンから構成されたイオン伝導性化合物からなる2次凝集体の形態を有する硫化物全固体電解質と、黒鉛粒子とを所定の配合割合となるようにそれぞれ秤取る工程と、前記秤取った黒鉛粒子の全量と、前記秤取った硫化物全固体電解質のうちの20質量%以上40質量%以下の範囲内の量とを5分間以上の混合時間で乾式混合する工程と、前記乾式混合された混合物に、前記秤取った硫化物全固体電解質の残りを20質量%以上40質量%以下の範囲内の量ずつ投入して各々1分間以内の混合時間で乾式混合する工程とからなる負極合材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黒鉛粒子と硫化物固体電解質とを含んだ負極合材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、タブレット端末、ノート型パソコン等の電子機器においては、近年ますます高性能化や高機能化が進められており、これに伴いこれら電子機器に搭載される二次電池には更なる小型軽量化や高容量化への要望が高まっている。このような状況の下、リチウム二次電池に代表される非水系電解質(液系)二次電池は、ニッケルカドミウム電池やニッケル水素電池に比べて電池電圧が高く、エネルギー密度も高くできることから、上記の電子機器の分野で急速に普及している。
【0003】
また、非水系電解質二次電池は、昨今の環境問題を背景に、電気自動車やハイブリッド自動車のモータ駆動用電源の用途においても主流になっている。しかしながら、非水系電解質二次電池は、一般的に可燃性の有機溶媒を含んでいるため、該二次電池に熱暴走等の異常が生じた際に発火する等の安全性の問題を抱えており、その早急な改善が望まれている。かかる安全性の問題を改善する技術のひとつとして、有機溶媒を用いた電解質に代えて固体電解質を用いる全固体型リチウム二次電池の研究開発が活発に進められている。
【0004】
上記の全固体型リチウム二次電池の主な構成は、正極活物質及び固体電解質を含んだ正極合材(層)、In金属やLi-In合金又はカーボンを用いた負極材及び固体電解質を含んだ負極合材(層)、並びにこれら正極合材と負極合材との間に設けられた固体電解質(層)からなる積層された3層構造を有している。上記の構成材料に含まれる固体電解質は、酸化物系と硫化物系とに大別することができ、前者の酸化物系の代表例としては、LiLaZr12やLiLaNb12を挙げることができる。
【0005】
しかし、酸化物系の固体電解質は、つぶれ性に劣るため、全固体型リチウム二次電池の製造に際して粉状の原料を圧縮して成形する圧粉成形工程において、緻密な組織が得られなくなることがあった。また、酸化物系の固体電解質は、高イオン伝導性を発現させるには高温条件下での焼結処理を必要とするなどの課題も抱えていた。これに対して、硫化物系の固体電解質は上記の酸化物系の固体電解質の課題は特に有しておらず、とりわけ特許文献1に開示されているようなLiPS相、Li相、又はLiPS相を有する代表的な硫化物系の固体電解質(以降、LPSとも称する)は、硫化物特有の柔軟性や粘着性を有しているため、上記圧粉成形時に容易に変形させることができる。更に、硫化物系の固体電解質は組成によっては熱処理を施さなくても高イオン伝導性が得られるという利点も有しているため、酸化物系よりも有望な材料として期待されている。
【0006】
上記LPSは五硫化二リンと硫化リチウムを原料に用いて合成した合成物であり、その合成方法としては、不活性ガスを充填した遊星ボールミル(メカニカルミリング装置)を用いて長時間に亘るボールの衝撃による熱で反応合成させる方法か、更に必要に応じて熱処理することにより結晶相(準安定相)を析出させる方法が一般的に用いられている。また、特許文献2には、上記の方法により合成したLPSを用いて負極合材を作製する場合は、コスト面で有利で且つ電気化学的な作用によりイオンを挿入及び脱離可能な黒鉛(グラファイト)粒子を活物質として配合する技術が開示されている。この技術は、黒鉛粒子とLPS粒子とを機械的に混合し、得られた混合粉末を圧粉成形することで負極合材層として利用するものである。なお、負極合材層中に含まれるLPSは、Liイオンの伝導パスの役割を担っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2013-155087号公報
【特許文献2】特開2014-203545号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の全固体型リチウムイオン電池(以下、全固体電池とも称する)においては、高容量化の観点から負極合材中の黒鉛粒子の含有量を多くすることが好ましいと考えられる。その理由は、黒鉛粒子の含有量が多いと正極から移動してきたLiイオンを負極においてより多く受け入れることができるからである。しかしながら、黒鉛粒子を多く含むように負極合材を調製すると、黒鉛粒子の種類によっては、黒鉛粒子とLPS粒子とを均一に混合させることが困難になることがあった。
【0009】
特に、乾式法により負極合材を調製する場合は黒鉛粒子及びLPS粒子の混合性が不十分になりやすく、その混合性の良否によって電池特性の優劣が左右されることがあった。従って、上記の混合性を改善しない限り、単純に黒鉛粒子の含有量を多くしただけではLPSの伝導パスとしての役割を十分に発揮させることができず、所望の放電容量が得られないことがあった。本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、高い放電容量を実現することが可能な全固体電池用の負極合材の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明に係る全固体電池用の負極合材の製造方法は、リチウム、硫黄、及びリンから構成されたイオン伝導性化合物からなる2次凝集体の形態を有する硫化物全固体電解質と、黒鉛粒子とを所定の配合割合となるようにそれぞれ秤取る工程と、前記秤取った黒鉛粒子の全量と、前記秤取った硫化物全固体電解質のうちの20質量%以上40質量%以下の範囲内の量とを5分間以上の混合時間で乾式混合する工程と、前記乾式混合された混合物に、前記秤取った硫化物全固体電解質の残りを20質量%以上40質量%以下の範囲内の量ずつ投入して各々1分間以内の混合時間で乾式混合する工程とからなることを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高い初期充放電容量を有すると共にサイクル試験における容量維持率に優れた全固体電池を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施例で用いた電池評価用セルの写真である。
図2図1の電池評価用セルの筺体部を取り除いたときの斜視図である。
図3】筺体部が取り除かれた電池評価用セルの模式的な縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.全固体電池用負極合材
以下、本発明の実施形態に係る全固体電池用の負極合材について説明する。この負極合材は、黒鉛粒子とイオン伝導性を有する硫化物固体電解質とを含んでおり、この負極合材を圧粉成形して得た負極合材層中の空隙率が3%以下である。ここで負極合材層中の空隙率は下記の方法で求めることができる。すなわち、圧粉成形した負極合材層の断面をCP(Cross Section Polisher)装置を用いて加工し、これにより鏡面仕上げされた断面のうち任意に選んだ5つの視野をSEMにより撮像する。得られた各視野のSEM画像を二値化処理することで空隙部とそれ以外の部分とを区分し、各視野のSEM画像の全面積に対して該空隙部の占める面積の比を求め、得られた面積の比を5つの視野で平均する。これにより空隙率を求めることができる。
【0014】
上記のように、負極合材中の空隙率を3%以下に抑えることにより、該負極合材層を有する全固体電池の初期充放電容量を高めることが可能になるうえ、サイクル試験における容量維持率を高めることができる。すなわち、全固体電池の充放電の際、Liイオンは、負極合材内においてイオン伝導パスとしての役割を担うLPSを経由しながら移動することで黒鉛粒子の結晶層内に挿入したり結晶層から離脱したりする。このため、黒鉛粒子とその周囲のLPS粒子との接触が少なくなると、それらの界面(黒鉛粒子/LPS界面と表現することがある)に存在する空隙の割合が増えていき、負極合材層中の空隙率が3%を超えると、黒鉛粒子とLPS粒子との接触面積が小さくなりすぎてLiイオンの良好な移動が妨げられ、黒鉛粒子内にLiイオンが挿入離脱されにくくなる。すなわち、充放電に寄与しない黒鉛粒子が負極合材層内に過度に存在することになり、充放電容量が大幅に低下してしまう。
【0015】
上記のように、黒鉛粒子/LPS界面に空隙が生じる原因としては、負極合材を調製する場合に行なう黒鉛粒子とLPS粒子との混合が不十分であるため、圧粉成形時に黒鉛粒子の周囲にLPS粒子が十分に充填されないことによるものと考えられる。すなわち、一般にLPS粒子は流動性が非常に悪いため、黒鉛粒子とLPS粒子とを混合して負極合材を作製する際、均一な混合を得ることが難しい。
【0016】
上記のような状況のもと、黒鉛粒子/LPS界面に空隙ができるだけ生じないようにして負極合材層中の空隙率を3%以下に抑えるべく鋭意研究を重ねたところ、LPS粒子として微細粒子及び微細粒子よりも大径の粒子の少なくとも2種類の粒子を配合したものを用いることで、上記の黒鉛粒子とLPS粒子との混合性が改善され、空隙率を抑えうることを見出した。具体的には、上記負極合材を構成するLPS粒子として、LPS粒子の全量のうち、平均粒子径2μ以上5μm以下の微細粒子の割合が20質量%以上40質量%以下であり、かつ平均粒子径40μm以上60μm以下の大径粒子の割合が20質量%以上40質量%以下であるように配合することで空隙率を抑えることが可能になる。
【0017】
上記のように、少なくとも2~5μmの微細粒子と40~60μm大径粒子とが配合されたLPS粒子を用いることにより、圧粉成形したときに黒鉛粒子とLPS粒子との接触状態が良好となり、黒鉛粒子/LPS界面に空隙が生じにくくなるので負極合材層中の空隙率を3%以下にすることができる。これにより、負極合材層を構成する黒鉛粒子と固体電解質粒子との界面の接触面積が十分に確保されるので、負極合材層中に無数のイオン伝導パスが形成され、黒鉛粒子の利用率を高めることができる。その結果、全固体電池の充放電容量を高めることができるうえ、サイクル試験時の放電容量維持率も向上させることが可能になる。
【0018】
本発明の実施形態の負極合材においては、更に、該負極合材を構成する黒鉛粒子の平均扁平率を0以上0.3未満に、粒度分布D50を8μm以上13μm以下に、BET値を1m/g以上3m/g以下に規定するのが好ましい。これら要件を満たす黒鉛粒子を用いることにより、圧粉成形したときに黒鉛粒子とLPS粒子との接触状態をより一層向上させることができる。
【0019】
黒鉛粒子の形状に関する特性である上記の平均扁平率が0.3以上であると、いびつな形状の黒鉛粒子が多く含まれることになるので、圧粉成形により負極合材層を形成する際にLPS粒子のスムーズな流動が妨げられ、黒鉛粒子の周囲に部分的にLPS粒子が充填されない空隙が生じやすくなる。逆に、黒鉛粒子の平均扁平率がゼロに近づくほど形状はいびつな形状から真球状になるため、LPS粒子の流動性が悪くても黒鉛粒子の周囲へのLPS粒子の充填性が改善される。
【0020】
なお、黒鉛粒子の平均扁平率は下記式1により求めることができる。ここで、fは平均扁平率、aは単粒子の長半径、bは単粒子の短半径である。これら半径は、黒鉛粒子群の断面若しくは表面のうち任意に選んだ5つの視野をSEMにより撮像し、各SEM画像から任意に選んだ5個の黒鉛粒子の長半径及び短半径を計測してそれぞれ平均することで求めたものである。
[式1]
f=1-b/a
【0021】
黒鉛粒子の平均粒径に関する特性である上記の粒度分布D50が8μm未満であると、黒鉛粒子が細かすぎるためにLPS粒子と混合した際に分散性が低下し、黒鉛粒子の周囲に空隙が生じやすくなる。すなわち、黒鉛粒子が過度に細かくなると黒鉛粒子同士が凝集しやすくなるので、LPS粒子との接触面積が不足してイオン伝導しないLPS粒子やLiイオンを挿入離脱しない黒鉛粒子が増加してしまう。逆に粒度分布D50が13μmを超えると、負極合材層の単位厚さに対する黒鉛粒子の個数が減少するため、充放電容量が低下してしまう。なお、黒鉛粒子の粒度分布D50は、液体中に分散させた黒鉛粒子にレーザーを照射し、屈折・散乱光を得ることにより求められるレーザー回折法を用いた。
【0022】
黒鉛粒子の比表面積に関する特性であるBET値が1m/g未満であると、負極合材の作製のために行なう混合時に黒鉛粒子がLPS粒子との接触する機会が減るので混ざり具合が悪くなり、黒鉛粒子の表面にLPS粒子が付着しにくくなるため圧粉成形時に黒鉛粒子/LPS界面に空隙が生じやすくなる。逆に、BET値が3m/gを超えると、黒鉛粒子の表面にガス成分や水分が過度に吸着して電池特性を不安定にさせる要因を生じやすく、高容量が得られなくなるおそれがある。なお、BET値はガス吸着法(窒素吸着法)によるBET式を用いて得られる。
【0023】
上記の黒鉛粒子の性状である平均扁平率、粒度分布D50、及びBET値を規定することだけで、負極合材層中の空隙率5%以下を達成することができるが、全固体電池の特性をより高めるには空隙率を3%以下にするのが望ましく、上記の黒鉛粒子の性状を規定するだけでは空隙率3%以下を達成するのは困難であった。なお、空隙率を5%から3%に低減するのは数値的には僅かではあるが、負極合材層中の空隙は主に黒鉛粒子/LPS界面に生じる空隙であり、空隙の大きさも5~10μm程度のものが多いため、空隙率を5%から3%に下げるのは一般的には極めて困難であった。
【0024】
例えば、真球状の黒鉛粒子を用いても界面に小さな空隙が残留することがあるため、前述したLPS粒子の流動性が悪いこと以外に黒鉛粒子とLPS粒子との混合性が悪くなる要因があると考えて鋭意研究を重ねたところ、負極合材を作製するために黒鉛粒子とLPS粒子とを混合する際、黒鉛粒子の表面にLPSが付着しないことがある点に着目した。すなわち、黒鉛粒子とLPS粒子との混合後に、粒子同士がミクロ的に分離してしまうことがあり、これが空隙率の低減を妨げている原因と考えた。
【0025】
そこで黒鉛粒子の性状だけでなく、黒鉛粒子の表面に付着しやすいLPSについて本発明者は更に研究をすすめたところ、LPS粒子は後述するメカニカルミリング法による合成では、粒径60~100μm程度の2次凝集体の形態で生成されるため、これが黒鉛粒子の表面への付着や黒鉛粒子との混合が不十分になる原因であるという知見を得た。この場合、2次凝集体の形態のLPS粒子を解砕することで混合性を高めうると考えられるが、LPSの2次凝集体は単粒子を得るために機械的な混合又は解砕を行なうと劣化しやすく、例えば混合時間が長くなるとイオン伝導度が大幅に低下することがあった。
【0026】
そこで、解砕時間を変えることで作製した、互いに粒径の異なる2種類のLPS粒子を用意し、これらを黒鉛粒子と混合することで負極合材を作製したところ、負極合材層中の空隙率を3%以下に低減することが可能になった。すなわち、黒鉛粒子/LPS界面に生じる空隙は体積的には僅かな量であるため、その隙間に入り込むLPS粒子は負極合材として配合するLPS粒子の全量である必要はない。また、黒鉛粒子の表面に付着するには、該黒鉛粒子の表面に形成されている凹凸面に沿ってLPS粒子が付着する場合はLPS粒子は微粉末の方が好ましいが、この場合も黒鉛粒子の表面積の1層分を覆う量があればよい。
【0027】
よって、例えば解砕中の黒鉛粒子にLPS粒子を少なくとも2回に分けて段階的に投入することによって、長時間混合することで得たより微細なLPS粒子と、混合を短時間で済ますことで得た劣化の少ない大径のLPS粒子とを黒鉛粒子に混ぜ合わせることができる。これにより、混合によるダメージを受けたLPS粒子の含有量を少なく抑えつつ黒鉛粒子/LPS界面における空隙率が抑えられた負極合材層を作製することができる。
【0028】
具体的には、負極合材として用いるLPS粒子の全量のうち、より微粉化が進んだ平均粒子径2μm以上5μm以下の微細粒子が20質量%以上40質量%以下含まれ、混合によるダメージの少ない平均粒子径40μm以上60μm以下の大径粒子が20質量%以上40質量%以下含まれるようにすることが好ましい。このように、それぞれ所定の粒度範囲を有する微細粒子と大径粒子とをそれぞれ所定の含有率で含むLPS粒子を黒鉛粒子に配合した負極合材を用いることで、圧粉成形後の負極合材層の空隙率を3%以下に抑えることができ、初期充放電容量等の電池特性に優れた全固体電池のセルを作製することができる。
【0029】
1.負極合材層の製造方法
次に、本発明に係る負極合材層の製造方法の実施形態について、LPS粒子の原料に硫化リチウムと五硫化二リンを用いる場合を例に挙げて説明する。
【0030】
1.1黒鉛粒子
負極合材を構成する黒鉛粒子には天然黒鉛又は人造黒鉛を使用することができるが、人造黒鉛であれば上述した平均扁平率、粒度分布D50及びBET値の特性を容易に満たすので好ましく、MCMB(Meso-Carbon MicroBeads:球状炭素材粒子)が特に好ましい。一方、一般的には天然黒鉛は形状が球状でないために扁平率に劣り、粒度分布D50が幅広く、BET値が高いことからLPS粒子との混合性が改善されないことが多い。なお、黒鉛粒子の表面に、充放電時のLiイオンの挿入離脱を上げるために非晶質炭素を設けてもよい。これにより、負極合材の混合時にLPS粒子が黒鉛粒子の表面に付着しやすくなり、より高い充放電容量を得ることも可能になる。
【0031】
1.2LPS粒子
(1)硫化リチウム(LiS)
負極合材を構成するLPS粒子の一方の原料となる硫化リチウム(LiS)には特に制約はないが、工業的に製造された市販品を用いるのが好ましく、純度が99%以上であるものが特に好ましい。硫化リチウムは、例えば特許第3528866号に記載されている方法で製造することができる。この製造方法は、反応容器内に装入した水酸化リチウム及び非プロトン性有機溶媒からなる仕込み液中に硫化水素を吹き込むことで、該水酸化リチウムと該硫化水素とを反応させて水硫化リチウムを生成した後、得られた水硫化リチウムを含む反応液を脱硫化水素化処理して硫化リチウムを製造する方法である。
【0032】
(2)五硫化二リン(P
負極合材を構成するLPS粒子のもう一方の原料となる硫化リンには特に制約はないが、市販されている工業的に製造された五硫化二リン(P)を用いるのが好ましい。この五硫化二リンは純度が99%以上であるのが好ましい。
【0033】
(3)配合割合
一般的な高イオン伝導性硫化物を生成する際は、出発原料として用いる上記の硫化リチウム及び五硫化二リンの合計に対する硫化リチウムの配合割合を30~95モル%の範囲内となるように調整するのが好ましい。具体的な配合割合は、その用途によって適宜定められるが、例えば硫化リチウムと五硫化二リンとの配合割合をモル基準で70:30となるように配合した出発原料を用いて作製した70LiS-30P固体電解質のように、硫化リチウムの配合割合が70モル%以下では、高イオン伝導性硫化物がガラス質になるうえ、高イオン伝導性硫化物の生成に際して熱処理を施す必要が生じる。また、大気雰囲気中では不安定であるため、合成時や保管時等において取り扱いが難しくなる。従って、該高イオン伝導性硫化物であるLPSの出発原料における硫化リチウムの配合割合は、75~80モル%の範囲内であることが好ましい。
【0034】
(4)LPS合成
上記の配合割合で配合した出発原料としての硫化リチウムと五硫化二リンとを合成することでLPSを得ることができる。この合成にはメカニカルミリング法を用いるのが好ましい。メカニカルミリング法は、混合装置が有するミリング容器に被処理粉末と共に該粉末に物理的に作用するメディアである多数の金属製又はセラミック製のボールを装入し、このミリング容器の回転や振動に伴って運動する該メディアにより該粉末に混合、撹拌、衝撃等の物理的な力を加えることで処理を行なう加工法である。
【0035】
このメカニカルミリング法に用いる混合装置には、該被処理粉末に対して均一な混合、撹拌等の作用を施す上記メディアをミリング容器内に装入して混合できるものであれば特に限定はなく、遊星ボールミル、回転ボールミル、アトライター等の一般的な粉体混合装置を用いることができるが、これらの中では遊星ボールミルが特に好ましい。遊星ボールミルは、遊星運動によるランダムなボールの動きが、被処理粉末の均一な混合を促進すると共に該粉末に対して大きな反応エネルギーを与えるので、合成反応を促進させる駆動力を極めて効率よく付与できるからである。
【0036】
このように、メカニカルミリング法は、複数の出発原料粉末を先ず混合し、得られた混合粉末に対して次に熱処理する2段階の加工法とは異なり、急激に運動するボールの衝撃により熱を生じさせ、これにより複数の出発原料粉末に対して、均一な混合と局所的に急激に起こる化学反応とを同時並行的に行なうことができるので、特別な高イオン伝導体を生成するのに適している。
【0037】
上記のメカニカルミリング法においては、ミリング容器内の雰囲気を制御することが好ましく、例えばSUS製容器の内面がZrOで覆われた構造のミリング容器内に出発原料を充填する場合は、該ミリング容器内は不活性ガス雰囲気にするのが望ましい。このため、ミリング容器内への充填作業は、Arガス、Nガス、Heガス等の不活性ガスで満たされたグローブボックス内で行なうのが望ましい。しかしながら、このグローブボックス内にメカニカルミリング装置本体を入れることは通常はできないため、充填後はミリング容器をグローブボックス内から取り出し、外気雰囲気に晒された環境下で混合等のミリングを行なうことになる。そのため、ミリング容器の蓋部は、好ましくはシリコーン製のパッキンによりミリング容器内を気密に封止できる構造であるのが好ましい。
【0038】
上記のようにミリング容器内を気密に封止するのが好ましい理由は、硫化物は大気に触れると直ちに劣化が始まり、特に水分に対しては非常に弱く、ミリング容器内のガスに僅かでも水分が含まれていれば分解が起こってHSガスが発生するからである。そのため、ミリング容器中を満たす不活性ガスは、乾燥した状態でミリング容器中に封入し且つ外部に漏れ出さないように上記のようにパッキンで気密封止するのが好ましい。なお、ガスが外部に漏れ出す状態は外気中の水分を含んだ大気がミリング容器内に侵入する状態にあるともいえる。上記のようにミリング容器内に乾燥した不活性ガスを封入するため、上記の充填作業を行なうグローブボックス内の露点は、好適には-70℃dp以下に、より好適には-80℃dp(水分量0.5ppm)以下に管理することが好ましい。
【0039】
1.3圧粉成形
上記の黒鉛粒子及びLPS粒子を混合して得た負極合材を圧粉成形することによって全固体電池用の負極合材層を作製することができる。この負極合材の圧粉成形では、正極合材、固体電解質、及び負極合材をこの順に3層に積層し、積層方向に加圧することで3層構造の圧粉体を同時に成形することが好ましい。この負極合材の圧粉成形では成形性が良好であることが望まれるが、本発明の実施形態の負極合材中には樹脂類のバインダーを含まないため、この成形性の良否はLPS粒子が有する粘着性に依存することになる。
【0040】
このLPS粒子が有する粘着性の特性を十分に発揮させるため、上記黒鉛粒子とLPS粒子との混合では、これら黒鉛粒子とLPS粒子との合計100質量部に対して黒鉛粒子が50質量部以上70質量部以下の割合で配合することが好ましい。これにより、黒鉛粒子とLPS粒子との圧粉成形に際して、欠損やクラックのない保形性に優れた圧粉体を成形することができる。
【0041】
これに対して、上記黒鉛粒子とLPS粒子との合計100質量部に対して70質量部を超える量の黒鉛粒子が負極合材に配合されると、上記の保形性が低下してクラック等が生じるおそれがある。このように圧粉体にクラックが生じると、抵抗上昇の原因になるため充放電容量が低下するおそれがある。逆に、上記黒鉛粒子とLPS粒子との合計100質量部に対して黒鉛粒子の配合割合が50質量部未満では、圧粉成形後に得られる負極合材層中の黒鉛粒子由来のカーボンの含有量が少なすぎるため、正極活物質から送られてくるLiイオンを十分に受け入れることができなくなり、この場合も充放電容量が低下するおそれがある。この場合の対策として、負極合材層の厚みを増やすことでカーボン量を補填することが考えられるが、負極合材層の厚みを増すとその分だけ抵抗になるため好ましい対応策とはいえない。
【0042】
ところで、前述したように、好ましくはメカニカルミリング法により合成した直後のLPS粒子は、平均粒子径が0.5~2μmの1次粒子群が凝集してできた平均粒子径60~100μmの2次凝集体(2次粒子)の形態を有している。この2次凝集体からなるLPS粒子と黒鉛粒子との混合法には、乾式混合法を採用するのが好ましい。その理由は、湿式混合法では混合に用いる溶媒とLPSとが激しく反応して変質するおそれがあるのに対して、乾式混合法ではこのような問題が特に生じないからである。なお、合成後のLPS粒子は混合時に生じる摩擦や衝撃に弱く、また、MCMBも力が加わると粉砕されたり歪みが生じたりして電池特性が低下するおそれがあるので、これらLPS粒子や黒鉛粒子に極力ダメージを与えない混合法が好ましい。そのため、後述する乳鉢を用いた手混合が好ましいが、LPS粒子の作製時と同様に遊星ボールミル等のメカニカルミリング法で混合する場合は、最小の回転数でできるだけ短時間で混合するのが望ましい。
【0043】
上記のダメージを与えにくい点においてより好ましい混合法は乳鉢を用いた混合法であり、混合時に粉体に加える力や混合時間を適宜調整することでダメージをほとんど与えずに混合することができる。但し、上記の所望の配合割合でそれぞれ秤取ったLPS粒子と黒鉛粒子とを乳鉢に加えて乳棒にて10分間以上の混合を行なうと、LPS粒子は容易に解砕されて微粉化されるものの、この解砕によりダメージを受けてしまう。このようにLPS粒子がダメージを受けると、LPSが本来有する硫化物特有の粘着性が低下し、バインダーとしての機能が発揮されにくくなるため、負極合材層を成形したときに黒鉛粒子とLPS粒子との界面に多くの空隙が生じるおそれがある。また、LPS自体のイオン伝導度が低下するため、これを用いて作製した負極合材層の抵抗が上昇し、電池容量が低下するおそれがある。更に、LPS粒子は微粉化されると活性が上がるために、環境下にある微量の水分や酸素により劣化が進むため、保存性が低下し、作り置くことができない。
【0044】
そこで、本発明の実施形態においては、以下の方法で乳鉢を用いてLPS粒子と黒鉛粒子との混合を行う。すなわち、先ず、上記の所望の配合割合となるようにLPS粒子及び黒鉛粒子をそれぞれ秤取る。次に、この秤取った黒鉛粒子の全量と、上記の秤取ったLPS粒子の全量のうちの20質量%以上40質量%以下の量とを乳鉢に装入し、押し付けないように留意しながら全体的に均一に混合されるように乳棒を用いて1分間当たり30~120回転程度の速度で1回目の混合を行なう。LPS粒子の2次凝集体は、5分ほど乳棒で混合することで簡単に解砕され、2μm以上5μm以下程度の粒径を有する1次粒子や2次凝集体(2次粒子)が得られるので、この1回目の混合は5分間かけて行なう。
【0045】
これにより、黒鉛粒子の表面にLPS粒子が付着しやすくなるので、該表面をLPS粒子で覆うことができる。なお、この1回目の混合による解砕では、LPS粒子が多少のダメージを受けることになるが、このデメリットよりも黒鉛粒子/LPS界面の空隙率の減少によるメリットの方が容量を高めることへの効果が高い。但し、上記にて秤取ったLPS粒子の全体量に対する微細粒子の割合をできるだけ少なくすることで、上記ダメージによる悪影響が空隙に充填されるものにのみ限定されるようにしている。
【0046】
上記の1回目の混合後は、上記の秤取ったLPS粒子の残りの全てを20質量%以上40質量%以下の範囲内の量ずつ上記の1回目の混合が完了した乳鉢内の混合物に添加する。そして、この添加の度に上記と同様の混合方法で乳棒で1分間かけて混合を行なう。このように、2回目以降の混合の際に添加されるLPS粒子は、混合時間が短いためダメージを受けにくく、よってこの2回目以降の混合時に添加されるLPS粒子が負極合材層の特性等に悪影響を及ぼすことはほとんどない。但し混合時間が短いので解砕を十分に進めることができず、結果的にLPS粒子の粒径は2次凝集体が僅かに解砕された程度の40μm以上60μm以下程度になる。
【0047】
すなわち、本発明の実施形態の負極合材の製造方法は、1回目の5分間の混合により粒子径2μm以上5μm以下の微細なLPS粒子を形成すると共に、この微細なLPS粒子で黒鉛粒子の表面を覆い、2回目以降の各々1分間の混合によりダメージの少ない粒子径40μm以上60μm以下の比較的大径のLPS粒子を上記の微細なLPS粒子で表面が覆われた黒鉛粒子と混合する。これにより、微細なLPS粒子による黒鉛粒子/LPS界面の空隙への充填性の改善と、粘着性が維持された比較的大径のLPS粒子による圧粉成形時の緻密化との相乗効果で、該圧粉成形により形成される負極合材層内の空隙率を3%以下に抑えることができ、その結果、高容量の全固体電池を作製することができる。
【0048】
なお、上記のLPS粒子の2次凝集体の平均粒子径(平均凝集径とも称する)は、任意に選んだ5つの視野をSEMにより撮像し、各SEM画像から任意に選んだ5個の2次凝集体の外径を計測して平均することで求めたものである。一般的なレーザーを照射し、屈折・散乱光を得ることにより求められるレーザー回折法は、用いる水又は有機溶媒の多くがLPSと化学反応を起こし変質するために用いることができないからである。BET値から粒径を算出することも可能だが、取扱っている最中にLPSが劣化する等の問題がある。
【0049】
上記の負極合材を、該負極合材に用いたLPS粒子からなる固体電解質及び別途用意した正極合材と共に積層することで作製される全固体電池の充放電容量を評価する場合は、評価用の負極合材、正極合材、及び固体電解質の試料を圧粉成形して得られる圧粉体の形態にして測定する。各試料から圧粉成形した圧粉体の厚さは、該圧粉成形時の保形性(圧粉時の割れ、クラックのないこと)、抵抗とのバランスを考慮して、正極合材層及び負極合材層の厚さは各々100~200μm程度、固体電解質層の厚さは300~500μm程度が好ましい。
【0050】
上記の負極合材から負極合材層を形成する場合は、例えば内径10mmの金型内に上記の負極合材を充填し、2~4kN程度の圧力で厚み方向に加圧することで仮の圧粉成形を行なった後、高圧で圧粉成形を行なう。この高圧の圧粉成形の際、下から正極合材、固体電解質、及び負極合材の順に積層させ、この積層方向に40kNで加圧することで3層同時に圧粉成形することができる。これにより3層の一体構造の圧粉体を得ることができる。このようにして成形した3層の一体構造の圧粉体を市販の電池セルケース(密閉型:大気非暴露)に入れて組み込むことにより全固体電池を製造することができる。次に、下記に示す実施例及び比較例に基づいて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例0051】
[実施例1]
(LPSの合成)
フリッチュ社製のメカニカルミリング装置(PL-7)に装着される付属のミリング容器(容量45ml:内壁ZrO製)内にZrOボール(ボール径4mm)を合計80g装入し、100℃で真空乾燥させておいた。この乾燥したミリング容器をAr雰囲気のグローブボックス(-80℃dp)内に入れて、更に一昼夜かけて乾燥させた。
【0052】
このグローブボックス内のミリング容器内に、純正化学株式会社製の硫化リチウム(LiS)0.3828gと、シグマアルドリッチ社製の五硫化二リン(P)0.6172gとを装入して密封した。この場合、硫化リチウムと五硫化二リンとのモル基準の配合割合は、LiS:P=75:25となる。該密封後はミリング容器をグローブボックス内から取り出し、ドライルーム(雰囲気温度22℃:-45℃dp)内に設置した上記フリッチュ社製のメカニカルミリング装置(PL-7)に装着した後、510rpmで20時間かけてメカニカルミリングを行なった。このメカニカルミリングの完了後、ミリング容器を上記のグローブボックス内に戻し、該ミリング容器の蓋を開封して合成により生成された粉粒体の形態のLPSを取り出し、100メッシュの篩を通す。
【0053】
得られた篩下のLPS粒子を株式会社堀場製作所製の大気非暴露ラマン分光分析装置(顕微レーザーラマン分光分析装置LabRAM HR-800、光源:Ar+レーザー(514nm励起)、励起高出力:0.2mW、測定範囲:100~4000cm-1)により分析したところ、LiPS相を含んでいることが確認できた。また、上記メカニカルミリング法で合成したLPS粒子を乳鉢を用いて混合したときの解砕具合を確認するため、篩下のLPS粒子から120mgをサンプリングして6つの試料に小分けし、それらのうち5つの試料を別々に乳鉢に装入し、それぞれ1分間、3分間、5分間、10分間、及び20分間かけて乳鉢で解砕した。その後、これら5つの試料及び未解砕の1つの試料の合計6つの試料の各々について、SEM画像内の任意の5個の凝集径(2次粒子径)の平均値を求めた。
【0054】
その結果、合成した状態のままの未解砕の試料は平均粒径が89μm、解砕時間1分間の試料は平均粒径が53μm、解砕時間3分間の試料は平均粒径が19μm、解砕時間5分間の試料は平均粒径が3μmであった。一方、解砕時間10分間の試料は微粉化した粉末が再凝集しており、平均粒径は21μmに達していた。解砕時間20分間の試料は上記の解砕時間10分間のものと同様に再凝集しており平均粒径は26μmであった。
【0055】
(負極合材の作製)
Ar雰囲気としたグローブボックス(-80℃dp)中の乳鉢に、粒子の平均扁平率が0.03、粒度分布D50が10.2μm、BET値が1.2m/gである栄炭電子材料有限公司製の黒鉛粒子(PG11A)80mgを装入し、更に上記の篩下のLPS粒子20mgを装入した後、粒子を押し付けないように留意しながら乳棒を用いて1分間当たり60回の回転速度で5分間かけて1回目の混合を行った。次に、この1回目の混合済みの乳鉢内の混合物に、上記の篩下のLPS粒子20mgを装入し、乳鉢を用いた同様の混合方法で1分間かけて2回目の混合を行った。このLPS粒子20mgの装入及び1分間の混合を更に2回繰り返して3及び4回目の混合を行った。これにより、黒鉛粒子とLPS粒子とが質量基準で50:50で配合された中間製品としての粉粒体状の負極合材を作製した。
【0056】
(正極合材の作製)
予め公知技術で作製しておいたリチウムニッケル複合酸化物粉末を正極材活物質として用いた。すなわち、Niを主成分とする酸化ニッケル粉末と、水酸化リチウムとを混合して焼成することにより、Li1.090Ni0.76Co0.14Al0.10で表される正極材活物質となるリチウムニッケル複合酸化物の粉粒体(以下、NCA粒子という)を作製した。得られたNCA粒子の平均粒径をレーザー回折法により測定したところ10.6μmであった。また、BET法により比表面積を測定したところ0.16m/gであった。このNCA粒子120mgと、上記の篩下のLPS粒子80mgとをAr雰囲気としたグローブボックス(-80℃dp)中の乳鉢に入れて、粒子を押し付けないように留意しながら乳棒を用いて1分間当たり60回の回転速度で10分間かけて緩やかに混合した。
【0057】
(圧粉体の作製)
Ar雰囲気のグローブボックス(-80℃dp)内において、内径10mmの円筒形金型内に上記の篩下のLPSの粉粒体を60mg装入し、2kNで仮成形して固体電解質層を作製した。この固体電解質層の上に上記にて作製した粉粒体状の負極合材を15mg積層し、再度2kNで仮成形した。得られた2層構造の圧粉体を裏がえし、固体電解質層の両面のうち上記にて仮成形した負極合材層側とは反対側に上記にて作製した正極合材の粉粒体を20mg堆積させた後、40kNで本成形した。これにより、正極合材層/固体電解質層(SE層)/負極合材層からなる3層一体構造の圧粉体を作製した。この圧粉体を、図1及び図2に示すような宝泉株式会社製の密閉型の電池評価用セル(KP-solidCell)内に収容し、7Nmのトルクで拘束することで評価用セルを組み立てた。この評価用セルは、図3に示すように、負極合材層11、固体電解質層(SE層)12、及び正極合材層13からなる一体構造の圧粉体10が、筒状の絶縁管20内において上部電極21及び下部電極22によって積層方向に所定の拘束力で押圧できるようになっている。
【0058】
(電池特性の評価及び負極合材層の空隙率の測定)
得られた評価用セルの端子を北斗電工株式会社製の充放電装置(HJ-SD8)に接続し、電圧範囲を2.37~4.17V_CC(0.1C=19mAh/g)として初期放電容量を求めたところ、124mAh/gであった。また、サイクル試験による放電容量維持率として、初期充放電時と同様な条件で充放電を20回繰り返し、初期放電後と20回繰り返し後との間での容量の変化を調べたところ92%であった。この電池特性の評価を行なった後、負極合材層の空隙率を前述した要領で5視野のSEM画像の平均により求めたところ、2.4%であった。
【0059】
[実施例2]
1回目及び3回目の混合に20mgに代えて30mgのLPS粒子を装入し、4回目の混合を行わなかったこと以外は実施例1と同様にして黒鉛粒子とLPS粒子とが質量基準で50:50で配合された中間製品としての負極合材を作製し、これを用いて実施例1と同様にして正極合材層/固体電解質層(SE層)/負極合材層からなる3層一体構造の圧粉体を作製した。更に、この圧粉体を実施例1と同様に密閉型電池セル内に収容して評価用セルを組み立てた後、実施例1と同様にして電池特性の評価と負極合材層の空隙率の測定を行なった。その結果、初期放電容量は123mAh/g、放電容量維持率は91%、負極合材層の空隙率は2.6%であった。
【0060】
[実施例3]
平均扁平率が0.24、粒度分布D50が8.7μm、BET値が1.2m/gである栄炭電子材料有限公司製の黒鉛粒子(PW8A)を用いた以外は実施例1と同様にして黒鉛粒子とLPS粒子とが質量基準で50:50で配合された中間製品としての負極合材を作製し、これを用いて実施例1と同様にして正極合材層/固体電解質層(SE層)/負極合材層からなる3層一体構造の圧粉体を作製した。更に、この圧粉体を実施例1と同様に密閉型電池セル内に収容して評価用セルを組み立てた後、実施例1と同様にして電池特性の評価と負極合材層の空隙率の測定とを行なった。その結果、初期放電容量は120mAh/g、放電容量維持率は90%、負極合材層の空隙率は2.9%であった。
【0061】
[比較例1]
平均扁平率が0.42、粒度分布D50が5.3μm、BET値が2.4m/gである栄炭電子材料有限公司製の黒鉛粒子(AC1)80mgと、実施例1で用いた篩下のLPS粒子80mgとを乳鉢に装入して乳棒を用いた同様の混合方法で10分間かけて1回だけ混合した以外は実施例1と同様にして黒鉛粒子とLPS粒子とが質量基準で50:50で配合された中間製品としての負極合材を作製し、これを用いて実施例1と同様にして正極合材層/固体電解質層(SE層)/負極合材層からなる3層一体構造の圧粉体を作製した。更に、この圧粉体を実施例1と同様に密閉型電池セル内に収容して評価用セルを組み立てた後、実施例1と同様にして電池特性の評価と負極合材層の空隙率の測定を行なった。その結果、初期放電容量は104mAh/g、放電容量維持率は79%、負極合材層の空隙率は6.7%であった。
【0062】
[比較例2]
黒鉛粒子(AC1)に代えて平均扁平率が0.37、粒度分布D50が11.8μm、BET値が4.4m/gである大阪ガスケミカル製の黒鉛粒子(OMAC-R)を用いた以外は比較例1と同様にして黒鉛粒子とLPS粒子とが質量基準で50:50で配合された中間製品としての負極合材を作製し、これを用いて実施例1と同様にして正極合材層/固体電解質層(SE層)/負極合材層からなる3層一体構造の圧粉体を作製した。更に、この圧粉体を実施例1と同様に密閉型電池セル内に収容して評価用セルを組み立てた後、実施例1と同様にして電池特性の評価と負極合材層の空隙率の測定を行なった。その結果、初期放電容量は105mAh/g、放電容量維持率は80%、負極合材層の空隙率は5.3%であった。上記の実施例1~3及び比較例1~2の測定結果を下記表1にまとめて示した。
【0063】
【表1】
【符号の説明】
【0064】
10 圧粉体
11 負極合材層
12 固体電解質層(SE層)
13 正極合材層
20 絶縁管
21 上部電極
22 下部電極
図1
図2
図3