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特開2024-161088焼結体及びその製造方法、歯科補綴材、並びに前歯用義歯
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024161088
(43)【公開日】2024-11-15
(54)【発明の名称】焼結体及びその製造方法、歯科補綴材、並びに前歯用義歯
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/486 20060101AFI20241108BHJP
   A61K 6/818 20200101ALI20241108BHJP
   A61K 6/822 20200101ALI20241108BHJP
   A61C 5/70 20170101ALI20241108BHJP
   A61C 13/083 20060101ALI20241108BHJP
【FI】
C04B35/486
A61K6/818
A61K6/822
A61C5/70
A61C13/083
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024143405
(22)【出願日】2024-08-23
(62)【分割の表示】P 2023548509の分割
【原出願日】2022-09-15
(31)【優先権主張番号】P 2021150878
(32)【優先日】2021-09-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100211018
【弁理士】
【氏名又は名称】財部 俊正
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(72)【発明者】
【氏名】畦地 翔
(72)【発明者】
【氏名】樋口 祐哉
(72)【発明者】
【氏名】藤崎 浩之
(72)【発明者】
【氏名】永山 仁士
(72)【発明者】
【氏名】河村 清隆
(57)【要約】
【課題】歯科補綴材、特に前歯用義歯として要求される透光性及び機械的強度を満たす焼結体を提供すること。
【解決手段】安定化元素を含む安定化ジルコニアをマトリックスとして含み、該安定化元素の含有量が4.0mol%を超え5.8mol%以下であり、平均結晶粒径が2.5μm以下であり、結晶粒径差が0.10μm以下であり、なおかつ、正方晶プライム相率が70%以上であり、光透過率が45%超であり、二軸曲げ強度が650MPa以上であること、を特徴とする焼結体を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
安定化元素を含む安定化ジルコニアをマトリックスとして含み、
該安定化元素の含有量が4.0mol%を超え5.8mol%以下であり、平均結晶粒径が2.5μm以下であり、結晶粒径差が0.10μm以下であり、なおかつ、正方晶プライム相率が70%以上であり、光透過率が45%超であり、二軸曲げ強度が650MPa以上であること、を特徴とする焼結体。
【請求項2】
前記安定化元素が、イットリウム、カルシウム及びマグネシウムの群から選ばれる1以上である、請求項1に記載の焼結体。
【請求項3】
未固溶の安定化元素を含まない、請求項1又は2に記載の焼結体。
【請求項4】
正方晶プライム相を主相とする安定化ジルコニアをマトリックスとする、請求項1又は2に記載の焼結体。
【請求項5】
ワイブル係数が4.0以上である、請求項1又は2に記載の焼結体。
【請求項6】
安定化元素の含有量が異なる2以上の安定化ジルコニアを含む仮焼体であり、当該仮焼体における安定化元素の含有量が4.0mol%を超え5.8mol%以下であり、なおかつ、1300℃における単位温度当たりの熱収縮率の変化速度が0.07%℃-1以下であり、1500℃における単位温度当たりの熱収縮率の変化速度が0.02%℃-1以上であり、さらに、前記安定化元素の含有量が異なる2以上の安定化ジルコニアにおける前記安定化元素の含有量がそれぞれ8.0mol%以下であること、を特徴とする仮焼体を以下の条件で焼結する工程を有する、焼結体の製造方法。
焼結方法:常圧焼結
焼結雰囲気:酸化雰囲気
焼結温度:1450℃以上1650℃以下
焼結時間:3分以上30分以下
昇温速度:(室温から1050℃)
150℃/分以上、かつ、350℃/分以下
(1050℃から焼結温度)
30℃/分以上、かつ、150℃/分以下
降温速度:(焼結温度から900℃)
30℃/分以上、かつ、300℃/分以下
【請求項7】
請求項1又は2に記載の焼結体を含む、歯科補綴材。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の焼結体を含む、前歯用義歯。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ジルコニアを主成分とする粉末組成物、仮焼体、焼結体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クラウンやブリッジ等の歯科補綴材用途に適用される、ジルコニアをマトリックス(母材)とする焼結体は、自然歯と同等な審美性が要求される。この要求に応えるため、安定化元素の含有量の増加による焼結体の透光性の向上が検討されている(特許文献1)。
【0003】
しかしながら、ジルコニアをマトリックスとする焼結体は、安定化元素の含有量の増加に伴い、機械的強度が著しく低下する。これに対し、安定化元素の含有量が異なる結晶粒子を焼結体中に含むことで、機械的強度の低下が生じうるとされる安定化元素の含有量であるにも関わらず、歯科補綴材で要求される高い機械的強度を満足し得る焼結体が開示されている(特許文献2)。
【0004】
一方で、特許文献1及び2に記載の焼結体は、最高温度での保持時間が2時間と、昇温、保持及び降温に7時間以上を要する焼結(以下、「通常焼結」ともいう。)により製造されている。そのため、これらの焼結体の製造には長い焼結時間が必要であった。
【0005】
近年、通常焼結と比べて焼結に要する時間が短い焼結方法、いわゆる短時間焼結、を適用して作製された焼結体を使用した歯科治療、いわゆるチェアサイド治療が検討されている。チェアサイド治療により、患者の通院負担が低減されることが期待されている。
【0006】
特許文献3では、短時間焼結により得られる焼結体として、安定化元素の含有量が4mol%~6mol%のジルコニアをマトリックスとし、未固溶のイットリアを含む焼結体が開示されている。また、特許文献4では、短時間焼結により得られる焼結体として、4mol%~5.5mol%のジルコニアをマトリックスとし、コントラスト比が0.68~0.70である焼結体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】日本国特開2015-143178号公報
【特許文献2】日本国特開2021-059489号公報
【特許文献3】国際公開2018/056330号
【特許文献4】日本国特開2020-033338号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
未固溶のイットリアを含むため、特許文献3の焼結体は機械的強度が十分ではない。また、特許文献4では、イットリア含有量を高くした焼結体を短時間焼結で作製しても、得られる焼結体は、前歯用義歯として適用できる透光性を有しておらず、更には、通常焼結で得られるイットリア含有量が4mol%の焼結体と同程度の透光性であった。本開示は、安定化元素の含有量が高いジルコニアをマトリックスとし、なおかつ、短時間焼結で、歯科補綴材、特に前歯用義歯として要求される透光性及び機械的強度を満たす焼結体が得られる、粉末組成物及び仮焼体、並びに、それらの製造方法、の少なくともいずれかを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、安定化元素の含有量が高いジルコニアをマトリックスとする粉末及び仮焼体の焼結について検討した。その結果、安定化元素の含有量が高いジルコニアをマトリックスとする粉末及び仮焼体は、短時間焼結を単に適用しても、通常焼結で得られる焼結体と同等の透光性を有する焼結体、更には前歯用義歯として適用され得る特性を有した焼結体、は得られにくいことを見出した。さらに、本発明者らは、焼結前半の焼結挙動が、短時間焼結における緻密化への影響が大きいことを見出した。
【0010】
これらの知見を基に、粉末及び仮焼体を構成する各粒子の表面活性に着目した結果、表面活性の異なる粒子を特定の関係となるように共存させ、その粒子同士の界面の状態を変化させることを着想した。そして、これにより、焼結前半の焼結挙動が制御できることを見出した。その結果、チェアサイド治療に適用され得る焼結方法を適用した場合であっても、安定化元素の含有量が高いジルコニアをマトリックスとし、なおかつ、歯科補綴材、特に前歯用義歯で要求される透光性を満たす焼結体が得られる、本開示の粉末組成物及び仮焼体を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は特許請求の範囲のとおりであり、また、本開示の要旨は以下のとおりである。
[1] 安定化元素の含有量が異なる2以上の安定化ジルコニアを含み、安定化元素の含有量が4.0mol%を超え5.8mol%以下であり、なおかつ、1300℃における単位温度当たりの熱収縮率の変化速度が0.07%℃―1以下であり、さらに、前記安定化ジルコニアの安定化元素の含有量が8.0mol%以下であること、を特徴とする粉末組成物。
[2] 前記安定化ジルコニアが、安定化元素の含有量が1.0mol%以上5.0mol%以下である第1の安定化ジルコニアと、安定化元素の含有量が3.0mol%以上8.0mol%以下である第2の安定化ジルコニアと、を含む上記[1]に記載の粉末組成物。
[3] 1500℃における単位温度当たりの熱収縮率の変化速度が0.02%℃―1以上である、上記[1]又は[2]に記載の粉末組成物。
[4] 前記安定化元素が、イットリウム、カルシウム及びマグネシウムの群から選ばれる1以上である、上記[1]乃至[3]のいずれかひとつに記載の粉末組成物。
[5] BET比表面積が8m/g以上13m/g以下である、上記[1]乃至[4]のいずれかひとつに記載の粉末組成物。
[6] 結晶相に占める正方晶及び立方晶の割合が65%以上である、上記[1]乃至[5]のいずれかひとつに記載の粉末組成物。
[7] 安定化元素の含有量が異なる2以上の安定化ジルコニアを含み、安定化元素の含有量が4.0mol%を超え5.8mol%以下であり、なおかつ、1300℃における単位温度当たりの熱収縮率の変化速度が0.07%℃―1以下であり、さらに、前記安定化ジルコニアの安定化元素の含有量が8.0mol%以下であること、を特徴とする仮焼体。
[8] 前記安定化ジルコニアが、安定化元素の含有量が1.0mol%以上5.0mol%以下である第1の安定化ジルコニアと、安定化元素の含有量が3.0mol%以上8.0mol%以下である第2の安定化ジルコニアと、を含む上記[7]に記載の仮焼体。
[9] 1500℃における単位温度当たりの熱収縮率の変化速度が0.02%℃―1以上である、上記[7]又は[8]に記載の仮焼体。
[10] 前記安定化元素が、イットリウム、カルシウム及びマグネシウムの群から選ばれる1以上である上記[7]乃至[9]のいずれかひとつに記載の仮焼体。
[11] 結晶相に占める正方晶及び立方晶の割合が75%以上である、上記[7]乃至[10]のいずれかひとつに記載の仮焼体。
[12] [1]乃至[6]のいずれかひとつに記載の粉末組成物、若しくは、上記[7]乃至[11]のいずれかひとつに記載の仮焼体を使用することを特徴とする焼結体の製造方法。
[13] 上記[1]乃至[6]のいずれかひとつに記載の粉末組成物が焼結した状態の焼結体。
[14] 上記[7]乃至[11]のいずれかひとつに記載の仮焼体が焼結した状態の焼結体。
[15] 安定化元素を含むジルコニアをマトリックスとし、該安定化元素の含有量が4.0mol%を超え5.8mol%以下であり、平均結晶粒径が2.5μm以下であり、結晶粒径差が0.10μm以下であり、なおかつ、正方晶プライム相率が70%以上であること、を特徴とする焼結体。
【発明の効果】
【0012】
本開示により、安定化元素の含有量が高いジルコニアをマトリックスとし、なおかつ、短時間焼結で、歯科補綴材、特に前歯用義歯で要求される透光性を満たす焼結体が得られる、粉末組成物及び仮焼体、並びに、それらの製造方法、の少なくともいずれかを提供するという目的を達する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】STEM-EDS測定に使用されるTEM観察図の一例である。
図2】STEM-EDS測定に使用されるTEM観察図の一例である。
図3】実施例2で得られた粉末組成物の安定化元素量の頻度分布を示すグラフである。
図4】実施例11で得られた仮焼体の安定化元素量の頻度分布を示すグラフである。
図5】比較例9で得られた仮焼体の安定化元素量の頻度分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本開示の粉末組成物について、実施形態の例を示して説明する。本実施形態における用語の定義は以下のとおりである。
【0015】
「組成物」とは、一定の組成を有する物質であり、例えば、粉末、顆粒、成形体、仮焼体及び焼結体の群から選ばれる1以上が挙げられる。「ジルコニア組成物」とは、本質的にジルコニアからなる組成物、更にはジルコニアをマトリックス(母材)とする組成物である。
【0016】
「粉末」とは、粉末粒子(粉末状の粒子)の集合体で、なおかつ、流動性を有する組成物である。「ジルコニア粉末」とは、本質的にジルコニアからなる粉末、更にはジルコニアをマトリックス(母材)とする粉末である。また、「粉末組成物」とは、特徴の異なる粉末から構成される組成物であり、特に、組成の異なる粉末を含む組成物である。
【0017】
「顆粒粉末」とは、粉末粒子の凝集物の集合体で、なおかつ、流動性を有する組成物であり、特に粉末粒子が緩慢凝集した状態の組成物である。「ジルコニア顆粒粉末」とは、本質的にジルコニアからなる顆粒粉末、更にはジルコニアをマトリックス(母材)とする顆粒粉末である。
【0018】
「成形体」とは、物理的な力で凝集した粉末粒子から構成された一定の形状を有する組成物であり、特に、該形状の付与後(例えば成形後)に熱処理が施されていない状態の組成物である。「ジルコニア成形体」とは、本質的にジルコニアからなる成形体、更にはジルコニアをマトリックス(母材)とする成形体である。また、成形体は「圧粉体」と互換的に使用される。
【0019】
「仮焼体」とは、融着粒子から構成された一定の形状を有する組成物であり、焼結温度未満の温度で熱処理された状態の組成物である。「ジルコニア仮焼体」とは、本質的にジルコニアからなる仮焼体、更にはジルコニアをマトリックス(母材)とする仮焼体である。
【0020】
「焼結体」とは、結晶粒子から構成された一定の形状を有する組成物であり、焼結温度以上の温度で熱処理された状態の組成物である。「ジルコニア焼結体」とは、本質的にジルコニアからなる焼結体、更にはジルコニアをマトリックス(母材)とする焼結体である。
【0021】
「安定化元素」とは、ジルコニアに固溶することでジルコニアの結晶相を安定化する機能を有する元素である。
【0022】
組成物(例:粉末組成物、仮焼体、焼結体)における安定化元素の含有量(mol%;以下、「安定化元素量」ともいう)は、組成物中のZrO換算したジルコニウム及び酸化物換算した安定化元素の合計に対する、酸化物換算した安定化元素のモル割合である。例えば安定化元素としてイットリウムのみを含む場合、安定化元素量(イットリウム量)は、組成物中のZrO換算したジルコニウム及び酸化物換算したイットリウム(つまり、イットリア:Y)の合計に対する、イットリア(Y)のモル比率である。
【0023】
「単位温度当たりの熱収縮率の変化量(以下、「熱収縮率の変化速度」又は「ΔV」ともいう。)」とは、組成物に固有の物性であり、特定の温度における単位温度当たりの該組成物の熱収縮率の変化量である。本実施形態における熱収縮率の変化速度は以下の式から求められる。
【0024】
ΔV = ΔL/ΔT
= {|L(T2)-L(T1)|}/(T2-T1)
上式において、ΔVは熱収縮率の変化速度[%℃-1]、ΔTは温度T1と温度T2の差[℃]であり、T2-T1=3±0.5[℃]である。ΔLは、温度T1における熱収縮率(L(T1))と温度T2における熱収縮率(L(T2))の差[%]である。
【0025】
また、温度Tにおける熱収縮率L(T)[%]は、昇温過程の熱収縮量(l-l)の測定結果を用い、式(1)より求められる。
【0026】
【数1】
【0027】
式(1)において、L(T)は温度Tにおける熱収縮率[%]、lは温度Tにおける成形体の長さ[mm]、lは加熱処理前の成形体の長さ[mm]、Tは測定温度[℃]、Tは測定開始時の温度[℃]、及び、βは係数(11.1×10-6-1)である。
【0028】
熱収縮量は、一般的な熱膨張計(例えば、TD5000SE、NETZSCH社製)を使用した熱収縮量測定により得られる。熱収縮量測定の条件として、以下の条件が挙げられる。
【0029】
雰囲気 : 大気流通下(100mL/min)
昇温速度 : 20℃/min
最高到達温度 : 1600℃
測定試料 :成形体
直径 6mm
長さ 15±2mm
形状 円柱状
標準試料 :アルミナ
直径 6mm
長さ (測定試料の長さ)-(1.5±0.5)mm
形状 円柱状
【0030】
測定試料として供する成形体は、粉末試料を金型に充填し、圧力19.6MPaで一軸成形した後、圧力196MPaでCIP処理して、得られる成形体又はこれを仮焼した仮焼体であればよい。また、成形体が成形助剤を含む場合、測定に先立ち、測定試料(成形体)を、大気雰囲気、700℃、1時間で熱処理してもよい。
【0031】
熱収縮量の測定に際し、測定試料は、測定試料の長さ方向に対して荷重0.01kg重を加えた状態で昇温すればよい。昇温開始後、3秒毎に各温度T及び該温度における測定試料の長さ(l)を測定し、上記の式(1)からL(T)を求める。ΔT=3±0.5℃の関係を満たす2つの温度T1,T2におけるL(T)からΔLを導出する。
【0032】
熱収縮量の測定は、標準試料としてアルミナを使用する。一般的な熱分析解析ソフト(例えば、TD5000SE用解析ソフト Ver.5.0.2、NETZSCH社製)を用いて、標準試料の熱膨張を補正すればよい。
【0033】
「BET比表面積」は、JIS R 1626に準じ、吸着ガスに窒素を使用したBET多点法(5点)により測定すればよい。BET比表面積の具体的な測定条件として以下の条件が例示できる。
【0034】
吸着媒体 :N
吸着温度 :-196℃
前処理条件 :大気雰囲気、250℃で1時間以上の脱気処理
【0035】
BET比表面積は、一般的な装置(例えば、トライスターII 320、島津製作所製)を使用して測定することができる。
【0036】
「正方晶及び立方晶率(以下、「T+C相率」ともいう。)」とは、結晶相に占める正方晶及び立方晶の合計割合であり、組成物の粉末X線回折(以下、「XRD」ともいう。)パターンから、式(2)により求められる値である。
【0037】
T+C=[I(111)+I(111)]/[I(111)+I(11-1)+I(111)+I(111)] (2)
式(2)において、fT+Cは正方晶及び立方晶率、I(111)は正方晶(111)面の面積強度、I(111)は立方晶(111)面の面積強度、I(111)は単斜晶(111)面の面積強度、I(11-1)は単斜晶(11-1)面の面積強度である。
【0038】
各結晶面の面積強度は、平滑化処理及びバックグラウンド除去処理後のXRDパターンを、分割擬Voigt関数によりプロファイルフィッティングすることで、求めることができる。平滑化処理やバックグラウンド処理、及び、面積強度の算出などのXRDパターンの解析は、X線回折装置付属の解析プログラム(例えば、統合粉末X線解析ソフトウェアPDXL Ver.2.2、RIGAKU社製)を使用して行うことができる。
【0039】
本実施形態におけるXRDパターンは、以下の条件によるXRD測定により得られることが好ましい。
線源 : CuKα線(λ=0.15418nm)
測定モード : 連続スキャン
スキャンスピード : 2°/分
測定範囲 : 2θ=26°~33°
2θ=72°~76°
加速電圧・電流 : 40mA・40kV
発散縦制限スリット: 10mm
発散/入射スリット: 1°
受光スリット : open
検出器 : 半導体検出器(D/teX Ultra)
フィルター : Niフィルター
ゴニオメータ半径 : 185mm
【0040】
XRD測定は、一般的なX線回折装置(例えば、Ultima IV、RIGAKU社製)を使用して行うことができる。なお、組成物が仮焼体である場合は、その表面をJIS R 6001-2に準じた粒度#400のサンドペーパーを用いて研磨した後、粒度3μmのダイヤモンド研磨剤を用いてラップ研磨を行った表面についてXRD測定を行えばよい。組成物が焼結体である場合は、その表面を表面粗さRa≦0.02μmまで研磨し、該表面についてXRD測定を行えばよい。
【0041】
上述のXRD測定において測定されるジルコニアの各結晶面に相当するXRDピークとして、以下の2θにピークトップを有するXRDピークであることが挙げられる。
単斜晶(111)面に相当するXRDピーク : 2θ=31±0.5°
単斜晶(11-1)面に相当するXRDピーク: 2θ=28±0.5°
正方晶(111)面に相当するXRDピーク : 2θ=30±0.5°
立方晶(111)面に相当するXRDピーク : 2θ=30±0.5°
【0042】
正方晶(111)面に相当するXRDピーク、及び、立方晶(111)面に相当するXRDピークは、重複したひとつのピークとして測定される。そのため、上式におけるI(111)+I(111)は、2θ=30±0.5°にピークトップを有する1つのXRDピークの面積強度から求めればよい。
【0043】
「正方晶プライム相率(以下、「T’相率」ともいう。)」は、結晶相に占める正方晶プライム相の割合であり、また、「立方晶率(以下、「C相率」ともいう。)」は、結晶相に占める立方晶の割合である。これらは、焼結体の表面のXRDパターンから、式(3)及び式(4)により求められる値である。
【0044】
T’=[It’(004)+It’(400)]/[I(004)+I(400)+It’(004)+It’(400)+I(400)] (3)
=[I(400)]/[I(004)+I(400)+It’(004)+It’(400)+I(400)] (4)
式(3)及び式(4)において、fT’はT’相率、fはC相率、It’(004)は正方晶プライム(004)面の面積強度、It’(400)は正方晶プライム(400)面の面積強度、I(004)は正方晶(004)面の面積強度、I(400)は正方晶(400)面の面積強度、及びI(400)は立方晶(400)面の面積強度である。
【0045】
XRDパターン及び各結晶面の面積強度は、式(2)において説明した方法と同様な方法で求めればよい。
【0046】
上述のXRD測定において測定される各結晶面に相当するXRDピークとして、以下の2θにピークトップを有するXRDピークであることが挙げられる。
正方晶(004)面に相当するXRDピーク : 2θ=72.9±0.1°
正方晶プライム(004)面に相当するXRDピーク: 2θ=73.3±0.1°
正方晶プライム(400)面に相当するXRDピーク : 2θ=73.9±0.1°
正方晶(400)面に相当するXRDピーク : 2θ=74.3±0.1°
立方晶(400)面に相当するXRDピーク : 2θ=73.7±0.05°
【0047】
「平均粒子径」は、湿式法で測定される粉末又は粉末組成物の体積粒子径分布におけるD50であり、一般的な装置(例えば、MT3300EXII、マイクロトラック・ベル社製)を使用して測定することができる。測定試料としては、超音波処理などの分散処理により緩慢凝集を除去した粉末を純水に分散させ、スラリーとしたものを使用すればよい。湿式法による体積粒子径分布の測定は、スラリーをpH=3.0~6.0にして測定することが好ましい。
【0048】
「平均顆粒径」は、乾式法で測定される顆粒粉末の体積粒子径分布におけるD50であり、一般的な装置(例えば、MT3100II、マイクロトラック・ベル社製)を使用して測定することができる。測定試料は、超音波処理などの分散処理を施さず、緩慢凝集の状態の顆粒粉末をそのまま使用すればよい。
【0049】
「平均結晶粒径」は、焼結体を構成する結晶粒子の個数を基準にした平均径であり、焼結体の表面から、焼結体厚み方向に表面から1%の領域を走査型電子顕微鏡(以下、「SEM」ともいう。)観察して得られるSEM観察図を画像解析することで得られる。すなわち、焼結体断面を観察試料とし、該焼結体の表面から、焼結体厚み方向に表面から1%までのいずれかの領域をSEM観察して、SEM観察図を得る。
【0050】
SEM観察は一般的な走査型電子顕微鏡(例えば、JSM―IT500LA、日本電子株式会社製)により行えばよい。画像解析する結晶粒子(SEM観察図において結晶粒界が途切れずに観察される結晶粒子(後述))の数が450±50個となるように、SEM観察は、観察倍率を適宜設定して行えばよい。SEM観察個所の相違による、観察される結晶粒子のバラツキを抑制するため、2以上、好ましくは3以上5以下のSEM観察図によって観察される結晶粒子の合計が上述の結晶粒子数となるように、SEM観察図を得ることが好ましい。SEM観察の条件として、以下の条件が例示できる。
加速電圧 :15kV
観察倍率 :5000倍~10000倍
【0051】
測定に先立ち、測定試料は、焼結体断面を表面粗さRa≦0.02μmとなるように鏡面研磨した後、焼結温度より100℃低い温度で30分間熱エッチングすればよい。
【0052】
SEM観察図の画像解析は、画像解析ソフト(例えば、Mac-View Ver.5、MOUNTECH社製)により行えばよい。具体的には、SEM観察図において結晶粒界が途切れずに観察される結晶粒子を抽出し、抽出した結晶粒子毎の面積[μm]を求める。求まった面積から、これと等しい面積を有する円の直径[μm]を換算し、得られる直径(heywood径;以下、「円相当径」ともいう。)を結晶粒子の結晶粒径とみなせばよい。抽出した結晶粒子の円相当径の平均値をもって、焼結体の平均結晶粒径とすればよい。
【0053】
「成形体密度」は、成形体の実測密度[g/cm]であり、体積をノギスで測定して寸法から求められる成形体の体積[cm]に対する、天秤を使用した質量測定で得られる該成形体の質量[g]である。
【0054】
「仮焼体密度」は、仮焼体の実測密度[g/cm]であり、体積をノギスで測定して寸法から求められる仮焼体の体積[cm]に対する、天秤を使用した質量測定で得られる該仮焼体の質量[g]である。
【0055】
「ビッカース硬度」は、ダイヤモンド製の正四角錘の圧子を備えた一般的なビッカース試験機(例えば、Q30A、Qness社製)を使用して測定される値である。測定は、圧子を静的に測定試料表面に押し込み、測定試料表面に形成した押込み痕の対角長さを計測する。得られた対角長さを使用して、式(5)からビッカース硬度を求めればよい。
【0056】
Hv=F/{d/2sin(α/2)} (5)
【0057】
式(5)において、Hvはビッカース硬度(HV)、Fは測定荷重(1kgf)、dは押込み痕の対角長さ(mm)、及び、αは圧子の対面角(136°)である。
【0058】
ビッカース硬度の測定条件として、以下の条件が挙げられる。
測定試料 : 厚み3.0±0.5mmの円板状
測定荷重 : 1kgf
【0059】
測定に先立ち、測定試料は#800の耐水研磨紙で測定面を研磨し0.1mmを超える凹凸を除去し、前処理とすればよい。
【0060】
「光透過率」は、試料厚さ1mmの測定試料について、JIS K 7361-1に準じて測定される全光線透過率である。光透過率は、測定試料として、試料厚さ1mm、かつ、両面の表面粗さRa≦0.02μmである円板状の焼結体を使用し、測定装置として、光源にD65光源を備えたヘーズメータ(例えば、ヘーズメータ NDH4000、日本電色社製)を使用して測定すればよい。
【0061】
「二軸曲げ強度」は、JIS T 6526に準じた二点曲げ試験により求められる値である。二軸曲げ強度の測定は、直径14.5mm±0.5mm、厚さ1.25mm±0.05mmの円板状の焼結体を測定試料として使用し、支持円半径6mm、圧子半径0.7mmとして10回測定した平均値をもって焼結体の二軸曲げ強度とすればよい。
【0062】
「ワイブル係数」は、JIS R 1625に準じた方法により算出される値である。具体的には、直径14.5mm±0.5mm、厚さ1.25mm±0.05mmの円板状の焼結体を測定試料として使用し、支持円半径6mm、圧子半径0.7mmとして二軸曲げ強度の測定を15回行う。その後、得られた測定強度を昇順で順位付けする。n番目に低い測定強度σをσとすればよく、例えば、1番目に低い測定強度σはσ、2番目に低い測定強度σはσ、・・・15番目に低い測定強度σはσ15とすればよい。次に、昇順に順位付けしたデータを用いて、ln(1/ln(1-F))を縦軸に、ln(σ)を横軸にプロットすることで回帰直線を求め、該回帰直線の傾きをワイブル係数とすればよい。ここで、iは昇順に順位付けしたときの順位、σは測定強度及びFは累積破壊確率であり、Fは以下の式により求めればよい。下式において、Nは測定試料の数である。
【0063】
{F=(i-0.3)/(N+0.4)}
【0064】
「常圧焼結」とは、焼結時に被焼結物(成形体や仮焼体など)に対して外的な力を加えずに加熱することにより焼結する方法である。「焼結温度」とは、焼結時の最高到達温度であり、「焼結時間」は該焼結温度を保持する時間である。
【0065】
本実施形態の粉末組成物は、安定化元素の含有量が異なる2以上の安定化ジルコニアを含み、粉末組成物における安定化元素の含有量が4.0mol%を超え5.8mol%以下であり、なおかつ、1300℃における単位温度当たりの熱収縮率の変化速度が0.07%℃―1以下であり、さらに、前記2以上の安定化ジルコニアの安定化元素の含有量がそれぞれ8.0mol%以下であること、を特徴とする粉末組成物である。粉末組成物は、安定化ジルコニアの粉末組成物であってよい。粉末組成物に占める2以上の安定化ジルコニアの合計比率は、焼結体の光透過率を十分に高くする観点から、90質量%以上、95質量%以上、又は、98質量%以上であってもよく、また、100質量%以下又は100質量%未満であってもよい。
【0066】
本実施形態の粉末組成物は、安定化元素の含有量が、それぞれ、8.0mol%以下である第1の安定化ジルコニア及び第2の安定化ジルコニアを含む。該第1の安定化ジルコニアと該第2の安定化ジルコニアは互いに安定化元素の含有量が異なる。例えば、第1の安定化ジルコニア及び第2の安定化ジルコニアの安定化元素の含有量はそれぞれ8.0mol%以下であってよい。第1の安定化ジルコニア及び第2の安定化ジルコニアの合計に対する安定化元素の含有量が4.0mol%を超え5.8mol%以下であってよい。粉末組成物の1300℃における単位温度当たりの熱収縮率の変化速度は0.02%℃―1以上であってよい。
【0067】
本実施形態の粉末組成物は、安定化元素の含有量(以下、安定化元素の含有量を「安定化元素量」ともいい、安定化元素がイットリウム等である場合、それぞれ、「イットリウム量」等ともいう。)が異なる2以上の安定化ジルコニア(例えば、第1の安定化ジルコニア及び第2の安定化ジルコニア)を含む。これにより、表面活性の異なる粒子(粉末粒子)が共存した粉末組成物となる。安定化元素量が異なる安定化ジルコニアを含まない粉末組成物は、仮にΔV1300(後述)を満たす場合であっても、短時間焼結では前歯用義歯に適した透光性を有する焼結体を得ることができない。
【0068】
本実施形態の粉末組成物が、安定化元素量が異なる2以上の安定化ジルコニアを含むことは、粉末組成物のSTEM-EDSにより確認できる。
【0069】
安定化元素量が異なる安定化ジルコニアを含まない粉末組成物をSTEM-EDSで測定した場合、粉末粒子の安定化元素量の分布幅は±1.0mol%未満(すなわち、粉末粒子の安定化元素量の最大値と最小値の差が2.0mol%未満)である。この場合、安定化元素量の分布形状は単分散であってよい。これに対し、本実施形態の粉末組成物は、安定化元素量の分布幅が±1.0mol%以上である(すなわち、粉末粒子の安定化元素量の最大値と最小値の差が2.0mol%以上である)こと、及び、安定化元素量の分布形状がマルチモーダル(例えば、バイモーダル)であること、の少なくともいずれかである。本実施形態の粉末組成物は、粉末粒子の安定化元素量の分布幅が±1.0mol%以上であり、且つ、安定化元素量の分布形状がマルチモーダルであることが好ましい。また、本実施形態の粉末組成物は、その安定化元素量分布における分布形状がバイモーダルであることが好ましい。
【0070】
STEM-EDS測定は、粉末組成物のTEM観察図およびSTEM-EDS元素マップから求めればよい。すなわち、TEM観察図において、粉末粒子同士が重なりなく観察されるジルコニアの粉末粒子を選定する。選定する粉末粒子の数は20±10個であればよく、複数のTEM観察図(例えば3±2枚)を使用してもよい。選定された粉末粒子において、STEM-EDS元素マップの各測定点のEDSスペクトルを積算して、該粉末粒子のEDSスペクトルを得る。
【0071】
次に、得られたEDSスペクトルについて、相対感度係数を用いて、ジルコニウムのピーク強度と安定化元素のピーク強度から、ジルコニウムと安定化元素の合計に対する安定化元素のモル割合(モル比)を算出する。相対感度係数は、STEM-EDS装置に固有の値であるため、測定に使用したSTEM-EDS装置における値を用いればよい。またこの値は、該装置のマニュアル等により確認することができる。得られたモル割合を用いてジルコニウム及び安定化元素をそれぞれ酸化物換算することにより、安定化元素量が求められる。安定化元素量とは、酸化物換算したジルコニウムと酸化物換算した安定化元素の合計に対する、酸化物換算した安定化元素のモル比率(mol%)である。
【0072】
例えば、安定化元素がイットリウムである場合、粉末粒子のジルコニウム(Zr)のピーク強度及びイットリウム(Y)のピーク強度を求め、ジルコニウムのピーク強度に対するイットリウムのピーク強度の比を算出する。得られたジルコニウムのピーク強度に対するイットリウムのピーク強度の比から、相対感度係数を用いて補正し、ジルコニウムに対するイットリウムのモル割合を求める。得られたモル割合を用いて、ジルコニウム及びイットリウムをそれぞれ酸化物換算する。このようにして、該粉末粒子のイットリウム量、すなわち、該粉末粒子のZrO換算したジルコニウム、及び、Y換算したイットリウム、の合計に対する、Y換算したイットリウムのモル割合[mol%]、を求めればよい。十分な数のジルコニアの粉末粒子(例えば、20±10個)の安定化元素量を求め、その最大値と最小値との差をもって、粉末組成物の安定化元素量の分布幅とすればよい。また、粉末粒子の安定化元素量と、該安定化元素量の粉末粒子の頻度と、の関係をプロットしたグラフ又はヒストグラム等により、安定化元素量の分布形状を確認すればよい。
【0073】
本実施形態において、STEM-EDS測定は、一般的な透過型電子顕微鏡(例えば、TEM:JEM-2100F、日本電子株式会社製)、及び、エネルギー分散型X線分光器(例えば、JED-2300T、日本電子株式会社製)を使用して行えばよい。TEM観察条件としては以下の条件が挙げられる。
【0074】
加速電圧 :200kV
観察倍率 :50,000倍~500,0000倍
【0075】
前処理として、粉末組成物を乳鉢で解砕した後、超音波処理等の分散処理により緩慢凝集を除去した粉末をアセトンに分散させることでスラリーとし、該スラリーをコロジオン膜上で乾燥すればよい。
【0076】
図1及び図2は、STEM-EDS測定に使用されるTEM観察図の例である。図1及び図2に示すように、重なりなく観察されるそれぞれの粉末粒子の曲線で囲まれた部分において測定を行って安定化元素量を求めることができる。図1及び図2中の三桁の番号は、ナンバリングである。必要に応じて複数のTEM観察図を用いて、20±10個の粉末粒子の組成を測定すればよい。
【0077】
このように、本実施形態の粉末組成物は、STEM-EDS測定において測定される、ジルコニアの粉末粒子の安定化元素の含有量の最大値と最小値との差(分布幅)が2.0mol%以上であること(安定化元素量の分布幅が中央値±1.0mol%以上であること)をもって、安定化元素量が異なる2以上の安定化ジルコニアを含むこと、が確認できる。例えば、粉末組成物のSTEM-EDS測定において、安定化元素量の最小値が2mol%、及び、最大値が5mol%である場合、第1の安定化ジルコニアの安定化元素量が2mol%及び第2の安定化ジルコニアの安定化元素量が5mol%となり、安定化元素量の差は3mol%となる。従って、当該粉末組成物は安定化元素量が異なる2以上の安定化ジルコニアを含むこと、が確認できる。
【0078】
なお、本実施形態の粉末組成物は安定化元素量が異なる安定化ジルコニアを均一に分散している(すなわち、第1の安定化ジルコニアと第2の安定化ジルコニアの分布が均一な状態である)ことが好ましい。例えば、安定化元素量が互いに異なる複数の安定化ジルコニア粒子が高い均一性で分布していることが好ましい。均一か否かは、STEM-EDS測定による安定化元素量の測定を、異なるTEM観察図を用いて複数回(例えば3回以上)繰り返して行い、各回の測定で得られる安定化元素量の最大値と最小値との差のばらつきを求めることで評価できる。すなわち、STEM-EDS測定することによって得られる、安定化元素量の測定値の最大値と最小値との差のばらつき(複数回の測定のばらつき)が十分に小さい場合(例えば、±1mol%未満、更には±0.8mol%未満)、均一に分布しているとみなすことができる。
【0079】
本実施形態の粉末組成物は、安定化元素の含有量が互いに異なる2種以上の安定化ジルコニアを含む粉末組成物であってよく、安定化元素の含有量が互いに異なる2種の安定化ジルコニアを含む粉末組成物、であってもよい。また、安定化元素の含有量が互いに異なる2種以上の安定化ジルコニアの粉末を含む粉末組成物であってよく、安定化元素の含有量が互いに異なる2種類の安定化ジルコニアの粉末を含む粉末組成物であってもよい。、また、第1の安定化ジルコニア及び第2の安定化ジルコニアを含む、安定化ジルコニアの粉末組成物であってよく、第1の安定化ジルコニアの粉末及び第2の安定化ジルコニアの粉末を含む、ジルコニアの粉末組成物であってもよい。また、安定化元素の含有量が互いに異なる2種以上の安定化ジルコニアの粉末の混合物であってよい。
【0080】
粉末組成物における安定化元素量を微調整するため、本実施形態の粉末組成物は、安定化元素の含有量が互いに異なる3以上又は4以上、或いは、6以下又は5以下の安定化ジルコニア(例えば、粒子)を含んでいてもよい。3以上の安定化ジルコニアを含む場合、安定化元素の含有量が異なる3以上の安定化ジルコニアを含んでいればよく、3の安定化ジルコニアは、それぞれ、安定化元素の含有量が異なることが好ましい。
【0081】
本実施形態の粉末組成物に含まれる、各安定化ジルコニアの安定化元素量は8.0mol%以下である。例えば、粉末組成物が、第1の安定化ジルコニアと第2の安定化ジルコニアを含む場合、第1の安定化ジルコニアと第2の安定化ジルコニアのそれぞれの安定化元素量は8.0mol%以下である。すなわち、本実施形態の粉末組成物は安定化元素量が8.0mol%超の安定化ジルコニアを含まない(第1の安定化ジルコニア及び第2の安定化ジルコニアの安定化元素含有量が8.0mol%以下である。)。短時間焼結により適した粉末組成物とするため、本実施形態の粉末組成物は、安定化元素量が8.0mol%超の安定化ジルコニアを含まず、更には、安定化元素量が8.0mol%以上、また更には7.5mol%以上、の安定化ジルコニアを含まないことが好ましい。安定化元素量が8.0mol%超の安定化ジルコニアを含む粉末組成物は、仮にΔV1300(後述)を満たす場合であっても、短時間焼結では前歯用義歯に適した透光性を有する焼結体を得ることができない。
【0082】
本実施形態の粉末組成物は、安定化元素量が1.0mol%以上5.0mol%以下である第1の安定化ジルコニアと、安定化元素量が3.0mol%以上8.0mol%以下である第2の安定化ジルコニアと、を含むことが好ましい。また、第1の安定化ジルコニア及び第2の安定化ジルコニアは、それぞれ、安定化元素量が異なる安定化ジルコニアの粉末であってもよい。なお、本実施形態の粉末組成物において、安定化元素量が低い安定化ジルコニアを「第1の安定化ジルコニア」、及び、安定化元素の含有量が高い安定化ジルコニアを「第2の安定化ジルコニア」としている。「第1」及び「第2」は、安定化元素量が異なる2つの安定化ジルコニアを便宜的に区別するものための文言であり、順列等を意味するものではない。
【0083】
第1の安定化ジルコニア(安定化元素の含有量が低い安定化ジルコニア)は、安定化元素の含有量が1.0mol%以上、1.3mol%以上、1.5mol%以上、1.8mol%以上、2.0mol%以上又は2.3mol%以上であり、かつ、5.0mol%以下、4.5mol%以下、4.2mol%以下、4.0mol%又は3.5mol%以下であることが好ましい。
【0084】
第2の安定化ジルコニア(安定化元素の含有量が高い安定化ジルコニア)は、安定化元素の含有量が3.0mol%以上、3.5mol%以上、4.0mol%、4.5mol%以上又は5.0mol%以上であり、かつ、8.0mol%以下、7.5mol%以下、7.0mol%以下、6.8mol%、6.5mol%以下又は6.3mol%以下であることが好ましい。焼結前半のΔVが小さい第1の安定化ジルコニアと、焼結前半のΔVが大きい第2の安定化ジルコニアを含むことで、粉末組成物は、第1の安定化ジルコニアと第2の安定化ジルコニアとの相乗的な効果を奏したΔVを有する。その結果、粉末組成物としての安定化元素量が高いにも関わらず、焼結前半における粉末組成物のΔVが抑制されやすくなる。
【0085】
第1の安定化ジルコニアの安定化元素の含有量を低下させること、又は、粉末組成物の第1の安定化ジルコニアの含有量を増加させることにより、粉末組成物の焼結前半におけるΔVを抑制しやすくなる。
【0086】
表面活性の異なる粒子(粉末粒子)を共存させるため、第1の安定化ジルコニアと第2の安定化ジルコニアとは、安定化元素量が互いに異なっていればよい。
【0087】
第1の安定化ジルコニアと第2の安定化ジルコニアの安定化元素量の差(以下、「安定化元素差」ともいう。)は、1.5mol%以上、2.0mol%以上、2.5mol%以上又は3.0mol%以上であり、また、5.0mol%以下、4.5mol%以下、4.0mol%以下又は3.5mol%以下であることが好ましい。
【0088】
本実施形態の粉末組成物に含まれる第1の安定化ジルコニアと第2の安定化ジルコニアの割合は、上述の構成を満たせば任意であり、第1の安定化ジルコニア:第2の安定化ジルコニアとして、1質量%:99質量%から99質量%:1質量%、20質量%:80質量%から80質量%:20質量%、又は、35質量%:65質量%から65質量%:35質量%、45質量%:55質量%から55質量%:45質量%であることが挙げられる。
【0089】
第1の安定化ジルコニアと第2の安定化ジルコニアは、それぞれ粉末粒子であってよい。すなわち、粉末組成物は、第1の安定化ジルコニア粒子と第2の安定化ジルコニア粒子を含んでよい。粉末組成物は3種以上の安定化ジルコニア(安定化ジルコニア粒子)を含んでもよい。
【0090】
短時間焼結における緻密化が促進されやすくなるため、第1の安定化ジルコニアのBET比表面積は、第2の安定化ジルコニアのBET比表面積以上であることが好ましく、第1の安定化ジルコニアのBET比表面積が、第2の安定化ジルコニアのBET比表面積よりも0m/g以上、更には1.5m/g以上、また更には2.0m/g以上大きいことが好ましい。BET比表面積の差を必要以上に大きくする必要は無く、例えば、第1の安定化ジルコニアのBET比表面積と、第2の安定化ジルコニアのBET比表面積との差は8.0m/g以下、6.0m/g以下又は3.5m/g以下であることが例示できる。
【0091】
また、第1の安定化ジルコニアのBET比表面積として8m/g以上、10m/g以上、12m/g以上、14m/g以上であり、また、16m/g以下又は15m/g以下であることが例示できる。
【0092】
本実施形態の粉末組成物の安定化元素量(すなわち、粉末組成物としての安定化元素の含有量)は、4.0mol%を超え5.8mol%以下である。安定化元素量が4.0mol%以下であると、前歯用義歯に要求される透光性を満たす焼結体が短時間焼結では得られない。一方、安定化元素の含有量が5.8mol%を超えると、前歯用義歯に要求される透光性を満たす焼結体を短時間焼結で安定的に製造することが困難となる。本実施形態の粉末組成物の安定化元素量は、4.0mol%超、4.2mol%以上、4.4mol%以上、4.5mol%以上、4.7mol%以上、4.8mol%以上又は5.0mol%以上であることが好ましく、また、5.8mol%以下、5.7mol%以下又は5.5mol%以下であることが好ましい。本実施形態において、粉末組成物の安定化元素量はICP分析により求めればよい。
【0093】
本実施形態の粉末組成物は、未固溶の安定化元素を含まないことが好ましい。「未固溶の安定化元素を含まない」とは、上述のXRD測定及びXRDパターンの解析において、安定化元素の化合物(例えば、イットリア(Y)など安定化元素の酸化物)に由来するXRDピークが確認されない状態であり、本実施形態の粉末組成物の効果を損なわない程度の未固溶の安定化元素を含むことは許容され得る。
【0094】
安定化元素は、イットリウム(Y)、カルシウム(Ca)及びマグネシウム(Mg)の群から選ばれる1以上であることが好ましい。イットリウム、カルシウム及びマグネシウムは、ジルコニアを着色せずに安定化元素として機能する。安定化元素はイットリウムを含むこと、更にはイットリウムのみであることが挙げられる。
【0095】
本実施形態の粉末組成物の好ましいイットリウム量は、4.0mol%超、4.2mol%以上、4.4mol%以上、4.5mol%以上、4.7mol%以上、4.8mol%以上又は5.0mol%以上であり、かつ、5.8mol%以下、5.7mol%以下又は5.5mol%以下であることが挙げられる。
【0096】
ΔVを微調整するため、本実施形態の粉末組成物は、添加元素として、アルミニウム、ゲルマニウム、ケイ素及びランタンからなる群より選ばれる1種以上を含んでよく、アルミニウム、ゲルマニウム及びケイ素からなる群より選ばれる1種以上を含んでよく、アルミニウム及びゲルマニウムからなる群より選ばれる1種以上を含んでよく、アルミニウム、を含んでいてもよい。添加元素を含む場合、本実施形態の粉末組成物は、添加元素を含み、なおかつ、安定化元素を含有するジルコニアをマトリックスとする粉末組成物、とみなしてもよい。添加元素は、粉末組成物に酸化物として含まれていてよい。なお、本実施形態の粉末組成物は、添加元素を含まなくてもよい(すなわち、添加元素の含有量が組成分析の測定限界値以下であってもよい)。
【0097】
添加元素の酸化物換算の含有量(以下、「添加元素量」ともいい、添加元素がアルミニウム等である場合の添加元素量を「アルミニウム量」等ともいう。)は、0質量%以上、0質量%超又は0.001質量%以上であり、かつ、0.2質量%未満、0.1質量%以下、0.05質量%未満、0.03質量%以下、0.01質量%以下又は0.005質量%以下であることが例示できる。
【0098】
例えば、安定化元素としてイットリウムを含有し、添加元素としてアルミニウムを含み、ジルコニアをマトリックスとする組成物において、安定化元素量(イットリウム量)は、ZrO換算したジルコニウム、及び、Y換算したイットリウムの合計に対する、Y換算したイットリウムのモル割合[mol%]であり、{Y[mol]/(ZrO+Y)[mol]}×100から求められる。また、該組成物における添加元素量(アルミニウム量)は、ZrO換算したジルコニウム、Y換算したイットリウム、及び、Al換算したアルミニウムの合計に対する、Al換算したアルミニウムの質量割合[質量%]であり、次式で求められる。
{Al[g]/(ZrO+Y+Al)[g]}×100
【0099】
本実施形態の粉末組成物は、その効果が損なわれない範囲であれば、ジルコニアを着色する機能を有する元素(以下、「着色元素」ともいう。)を含んでいてもよい。着色元素は、ジルコニアの相変態を抑制する機能を有する元素であってもよく、ジルコニアの相変態を抑制する機能を有さない元素であってもよい。具体的な着色元素として、遷移金属元素及びランタノイド系希土類元素の少なくともいずれか、更にはジルコニウム及びハフニウム以外の遷移金属元素、並びに、ランタン以外のランタノイド系希土類元素の少なくともいずれかが例示でき、好ましくは鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、ユーロピウム(Eu)、ガドリウム(Gd)、テルビウム(Tb)、エルビウム(Er)及びイッテルビウム(Yb)の群から選ばれる1以上、更には鉄、コバルト、マンガン、チタン、プラセオジム、ネオジム、テルビウム及びエルビウムの群から選ばれる1以上、また更には鉄、コバルト、チタン、テルビウム及びエルビウムの群から選ばれる1以上が挙げられる。
【0100】
本実施形態の粉末組成物は、ハフニア(HfO)等、不可避不純物を含んでもよい。不可避不純物としてのハフニアの含有量は、原料鉱石や製造方法により大きく異なるが、例えば、2.0質量%以下であることが例示できる。本実施形態において、含有量や密度の算出等、組成に関連する値の算出は、ハフニアをジルコニア(ZrO)とみなして計算すればよい。
【0101】
本実施形態の粉末組成物の1300℃における単位温度当たりの熱収縮率変化の速度(以下、「ΔV1300」ともいう。)は0.07%℃-1以下であり、0.07%℃-1未満、0.065%℃-1以下又は0.06%℃-1以下であることが好ましい。上述の構成に加え、なおかつ、このようなΔV1300を満たすことにより、本実施形態の粉末組成物を短時間焼結した場合であっても、前歯用義歯に適した透光性を有する焼結体が得られる。なお、1300℃はジルコニアの熱収縮が進行する温度域である。そのため、ΔV1300は0%℃-1超であり、更には、0.02%℃-1以上、0.04%℃-1以上又は0.05%℃-1以上であることが挙げられる。
【0102】
本実施形態の粉末組成物の1500℃における単位温度当たりの熱収縮率変化の速度(以下、「ΔV1500」ともいう。)は、0.02%℃-1以上又は0.03%℃-1以上であることが好ましい。これにより、短時間焼結における緻密化がより促進されやすくなる。ΔV1500は、0.05%℃-1以下又は0.04%℃-1以下であることが挙げられる。ΔV1500は、0.05%℃-1以下であることで、該粉末組成物を短時間焼結に供した場合に高い透光性を有する焼結体が安定的に得られやすくなる。
【0103】
短時間焼結により適した焼結性を有しすくなるため、ΔV1300とΔV1500は相違すること、すなわち、熱収縮率の変化速度が一定ではないこと、が好ましい。さらに、ΔV1300はΔV1500より大きいこと(ΔV1300>ΔV1500の関係を満足すること)が好ましく、(ΔV1300-ΔV1500)が0.05%℃-1以下、更には0.045%℃-1以下であること、また、ΔV1300-ΔV1500が0%℃-1以上、更には0%℃-1超、また更には0.010%℃-1以上、また更には0.020%℃-1以上であることが好ましい。
【0104】
ΔV1300及びΔV1500は、粉末組成物の組成等の影響を間接的に受ける。例えば、安定化元素量の減少(又は増加)及び添加元素量の減少(又は増加)により、ΔV1300が遅くなる傾向(又は速くなる傾向)がある。また、第1の安定化ジルコニアのBET比表面積の減少(又は増加)若しくは安定化元素量の減少(又は増加)により、ΔV1300が遅くなる傾向(又は速くなる傾向)がある。また、第2の安定化ジルコニアのBET比表面積の減少(又は増加)により、ΔV1500が速くなる傾向(又は遅くなる傾向)がある。これらを調整することでΔV1300及びΔV1500を適宜制御すればよい。
【0105】
本実施形態の粉末組成物は、BET比表面積が8m/g以上13m/g以下であることが好ましい。本実施形態の粉末組成物の安定化元素量において、BET比表面積がこの範囲を満たすことで、上述のΔV1300を満たしやすくなる。BET比表面積は、8m/g以上、9m/g以上、9.5m/g以上又は10m/g以上であり、また、13m/g以下、12m/g以下又は11m/g以下であることが好ましい。
【0106】
本実施形態の粉末組成物のT+C相率は、65%以上、75%以上、80%以上又は90%以上であることが好ましい。また、T+C相率は95%以下又は93%以下であることが挙げられる。
【0107】
本実施形態の粉末組成物の平均粒子径は、0.35μm以上、0.40μm以上であり、また、0.50μm以下又は0.45μm以下であることがより好ましい。
【0108】
流れ性を改善するため、本実施形態の粉末組成物は顆粒粉末であってもよい。顆粒粉末の平均顆粒径は、30μm以上、40μm以上又は50μm以上であり、また、80μm以下又は60μm以下であること、が例示できる。また、顆粒粉末の嵩密度は、1.00g/cm以上又は1.10g/cm以上であり、また、1.40g/cm以下又は1.30g/cm以下であることが挙げられる。
【0109】
本実施形態の粉末組成物の製造方法について説明する。
【0110】
本実施形態の粉末組成物は上述の特徴を有していれば、製造方法は任意である。本実施形態の粉末組成物の好ましい製造方法として、安定化元素の含有量が異なる2以上の安定化ジルコニアの粉末を混合する工程、を有する、粉末組成物の製造方法、が挙げられる。
【0111】
安定化元素の含有量が互いに異なる2種以上の安定化ジルコニアの粉末を混合する工程(以下、「混合工程」ともいう。)に供する安定化ジルコニアの粉末は、例えば、上述した、第1の安定化ジルコニアの粉末と、第2の安定化ジルコニアの粉末と、であってよい。
【0112】
安定化ジルコニアの各粉末は、本実施形態の粉末組成物と同様なBET比表面積を有していることが好ましい。これに加えて、安定化ジルコニアの各粉末同士の、BET比表面積は互いに異なることがより好ましい。第1の安定化ジルコニアの粉末のBET比表面積は、第2の安定化ジルコニアの粉末のBET比表面積以上であることがさらに好ましい。具体的には、第1の安定化ジルコニアの粉末のBET比表面積が、第2の安定化ジルコニアの粉末のBET比表面積よりも、例えば0m/g以上、好ましくは1.5m/g以上、より好ましくは2.0m/g以上大きい。また、第1の安定化ジルコニアの粉末のBET比表面積と、第2の安定化ジルコニアの粉末のBET比表面積と、の差は、6.0m/g以下であってよく、5.0m/g以下であってもよい。
【0113】
粉末組成物の製造方法で出発原料として使用する安定化ジルコニアの各粉末の安定化元素量が既知の場合は、上述のSTEM-EDS測定に替えて、安定化ジルコニアの各粉末の安定化元素量と混合比から、粉末組成物に含まれる各安定化ジルコニアの安定化元素量を算出してもよい。
【0114】
STEM-EDS測定で求められる安定化元素量の最大値と最小値の差(分布幅、方法I)は、安定化ジルコニアの各粉末の安定化元素量の差(方法II)よりも大きくなる傾向にある。これは、方法IIの差は、それぞれの粉末の安定化元素量の平均値の差として求められるのに対し、方法Iの差は、各粉末の混合物における最大値と最小値として求められることによる。方法I及び方法IIのそれぞれで求められる差の少なくとも一方が、2.0mol%以上であれば、安定化元素量が互いに異なる2種以上の安定化ジルコニアを含むと判断できる。方法I及び方法IIのそれぞれで求められる差の少なくとも一方は、2.5mol%以上、2.5mol%を超え、又は3.0mol%以上であってよい。これによって、得られる焼結体の光透過率及び二軸曲げ強度を十分に高くすることができる。方法I及び方法IIのそれぞれで求められる差の少なくとも一方は、6.0mol%以下、5.0mol%以下、又は4.0mol%以下であってよい。方法I及び方法IIのそれぞれで求められる差の少なくとも一方は、2.0~6.0mol%であってよい。当該数値範囲の上限及び/又は下限は、上述の数値で置き換えることができる。
【0115】
混合工程に供する安定化ジルコニアの粉末の製造方法は任意である。当該製造方法としては、例えば、ジルコニアゾル、及び安定化元素源、を含む組成物(以下、「ゾル組成物」ともいう。)を、熱処理して仮焼粉末を得る粉末仮焼工程、並びに、該仮焼粉末を粉砕する粉末粉砕工程、を含むジルコニア粉末の製造方法、が挙げられる。
【0116】
ジルコニアゾルは、二酸化ジルコニウムが水和及び架橋したゾルであり、水熱合成法及び加水分解法の少なくともいずれかで得られるジルコニアゾルであることが好ましく、加水分解法で得られるジルコニアゾルであることがより好ましい。
【0117】
安定化元素源(以下、安定化元素がイットリウム等であるときは「イットリウム源」等ともいう。)は、安定化元素を含む化合物であればよく、安定化元素の酸化物、水酸化物、オキシ水酸化物、ハロゲン化物、硫酸塩、硝酸塩及び酢酸塩の群から選ばれる1以上、好ましくは安定化元素の酸化物、水酸化物、オキシ水酸化物及び塩化物、より好ましくは安定化元素の酸化物、水酸化物及び塩化物の少なくともいずれか、が挙げられる。例えば、イットリウム源として、酸化イットリウム(イットリア)、水酸化イットリウム及び塩化イットリウムの群から選ばれる1以上、好ましくは酸化イットリウム及び塩化イットリウムの少なくともいずれか、が挙げられる。
【0118】
安定化元素源の含有量は、目的とする安定化ジルコニアにおける安定化元素量と同様な量であればよく、上述の安定化元素量と同等の量が挙げられる。
【0119】
ゾル組成物は、ジルコニアゾル及び安定化元素源を含んでいればよく、ジルコニアゾル及び安定化元素源を含む水溶液が例示できる。
【0120】
粉末仮焼工程では、ゾル組成物を熱処理する。これにより、安定化ジルコニアの粉末の前駆体である仮焼粉末が得られる。
【0121】
粉末仮焼工程の熱処理において、熱処理条件は、粉末仮焼工程に供するゾル組成物の量、目的とする仮焼粉末のBET比表面積及び仮焼に供する焼成炉の特性に応じて適宜設定すればよい。例えば、熱処理温度は、高いほど(又は低いほど)BET比表面積は低下する傾向(又は増加する傾向)がある。熱処理温度は、例えば、950℃以上、1000℃以上、1020℃以上又は1100℃以上であり、かつ、1250℃以下、1200℃以下、1180℃以下又は1150℃以下、が挙げられる。熱処理温度での保持時間は1時間以上8時間以下、更には、2時間以上6時間以下が例示できる。しかしながら、熱処理温度に対し、保持時間は仮焼粉末のBET比表面積に与える影響が小さい。熱処理は一般的な焼成炉を使用して行えばよい。
【0122】
熱処理の雰囲気は任意であり、酸化雰囲気、還元雰囲気、不活性雰囲気及び真空雰囲気の群から選ばれる1以上が例示でき、酸化雰囲気であることが好ましく、大気雰囲気であることがより好ましい。
【0123】
粉末粉砕工程において、粉砕方法は、目的とする粒子径を有する粉末が得られる方法であれば任意である。粉砕方法は、湿式粉砕及び乾式粉砕の少なくともいずれかであればよく、湿式粉砕であることが好ましい。好ましい粉砕方法として、ボールミル粉砕が例示できる。また、粉砕条件は粉砕方法及び目的とする粒子径に応じて適宜設定すればよい。例えば、粉砕時間を長くすることで、粒子径は小さくなる傾向がある。
【0124】
本実施形態の製造方法では、混合工程において、安定化元素の含有量が異なる2以上の安定化ジルコニアの粉末を混合する。混合方法は、安定化ジルコニアの粉末が均一に混合する方法であればよく、乾式混合及び湿式混合の少なくともいずれかが例示でき、湿式混合であることが好ましく、水溶媒中で混合することがより好ましい。
【0125】
安定化ジルコニアの粉末が均一に混合されやすいため、好ましい混合方法として、安定化ジルコニアの粉末を含むスラリーとし、これを混合する方法が挙げられる。
【0126】
また、BET比表面積が小さい安定化ジルコニアの粉末を含むスラリーに対して、BET比表面積が大きい安定化ジルコニアの粉末を含むスラリーを添加し、これを混合する方法、が挙げられる。このような混合方法とすることで、安定化ジルコニアの粉末を含むスラリーが均一に混合されやすくなり、短時間焼結により適したΔVを満たしやすくなる。
【0127】
混合は、撹拌所要動力0.005kW/m以上又は0.01kW/m以上であればよく、更には0.1kW/m以上又は0.3kW/m以上であることが好ましい。このような撹拌所要動力を適用した混合により、本実施形態の粉末組成物を繰り返し製造した場合の性状のバラツキが抑制されやすくなる。これにより、粉末組成物の短時間焼結により得られる焼結体のワイブル係数が高くなりやすい。撹拌所要動力は必要以上に高くする必要はなく、1.0kW/m以下又は0.7kW/m以下であることが例示できる。
【0128】
混合時間は、混合工程に供する粉末の量により適宜設定すればよいが、例えば、0.5時間以上12時間以下が挙げられる。
【0129】
安定化ジルコニアの粉末の混合割合は、該安定化ジルコニア及び目的とする粉末組成物の安定化元素量により適宜調整すればよく、第1の安定化ジルコニアの粉末:第2の安定化ジルコニアの粉末として、1質量%:99質量%から99質量%:1質量%、20質量%:80質量%から80質量%:20質量%、又は、35質量%:65質量%から65質量%:35質量%、45質量%:55質量%から55質量%:45質量%であることが挙げられる。
【0130】
粉末組成物の安定化元素量を微調整するため、混合工程において、安定化元素量が異なる3種以上又は4種以上、また、6種以下又は5種以下の安定化ジルコニアを混合してもよい。
【0131】
混合工程では、更に添加元素源を混合してもよい。これにより、添加元素を含む粉末組成物が得られる。添加元素源(以下、添加元素がアルミニウム等である場合は「アルミニウム源」等ともいう。)は、添加元素及びその化合物の少なくともいずれかであり、添加元素の酸化物及びその前駆体の少なくともいずれかであることが好ましく、添加元素の酸化物であることがより好ましい。例えば、アルミニウム源は、アルミナ及びその前駆体の少なくともいずれか、好ましくはアルミナ、より好ましくはα-アルミナが挙げられる。
【0132】
添加元素源の混合量は、目的とする粉末組成物における添加元素量と同様な量であればよく、上述の添加元素量と同等の量が挙げられる。
【0133】
混合工程では、更に着色元素源を混合してもよい。着色元素源は、着色元素を含む化合物であり、好ましくは着色元素の酸化物及びその前駆体の少なくともいずれか、より好ましくは着色元素の酸化物である。着色元素源の混合量は、目的とする焼結体の色調となる量であればよい。
【0134】
混合工程において、添加元素源及び着色元素源の少なくともいずれか(以下、「添加元素源等」ともいう。)の混合に加え、又は、添加元素源等の混合に替えて、添加元素及び着色元素の少なくともいずれかを含有する安定化ジルコニアを供してもよい。
【0135】
本実施形態の製造方法は、混合工程後、粉末組成物を顆粒化する顆粒化工程を有していてもよい。顆粒化は、ジルコニア粉末が緩慢凝集した状態となる方法であればよく、噴霧造粒などの造粒法が例示できる。
【0136】
顆粒化工程において、本実施形態の粉末組成物と、結合剤と混合させ、顆粒化してもよい。結合剤を含むことで、顆粒粉末を成形して得られる成形体の保形性が高くなる。顆粒粉末が含む結合剤は、セラミックスの成形に使用される公知のものを使用することができ、有機結合剤であることが好ましい。有機結合剤として、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラート、ワックス及びアクリル樹脂の群から選ばれる1種以上、好ましくはポリビニルアルコール及びアクリル樹脂の1種以上であり、より好ましくはアクリル樹脂である。本実施形態において、アクリル樹脂は、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルの少なくともいずれかを含む重合体である。具体的なアクリル樹脂として、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、アクリル酸共重合体及びメタクリル酸共重合体の群から選ばれる1種以上、並びに、これらの誘導体、が例示できる。
【0137】
次に、本開示の仮焼体について実施形態の一例を示して説明する。
【0138】
本実施形態の仮焼体は、安定化元素の含有量が互いに異なる2以上の安定化ジルコニアを含み、仮焼体における安定化元素の含有量が4.0mol%を超え5.8mol%以下であり、なおかつ、1300℃における単位温度当たりの熱収縮率の変化速度が0.07%℃―1以下であり、さらに、前記2以上の安定化ジルコニアの安定化元素の含有量がそれぞれ8.0mol%以下であること、を特徴とする仮焼体、である。仮焼体は、安定化ジルコニアの仮焼体であってよい。仮焼体における2以上の安定化ジルコニアの合計比率は、焼結体の光透過率を十分に高くする観点から、90質量%以上であってよく、95質量%以上であってよく、98質量%以上であってもよく、また、100質量%以下又は100質量%未満であればよい。本実施形態の仮焼体により、短時間焼結であっても、前歯用義歯として求められる透光性を満足する焼結体が得られる。
【0139】
本実施形態の仮焼体は、安定化元素の含有量が、それぞれ、8.0mol%以下である第1の安定化ジルコニア及び第2の安定化ジルコニアを含んでよい。該第1の安定化ジルコニアと該第2の安定化ジルコニアは互いに安定化元素の含有量が異なる。例えば、第1の安定化ジルコニア及び第2の安定化ジルコニアの安定化元素の含有量はそれぞれ8.0mol%以下であってよい。仮焼体における安定化元素の含有量は4.0mol%を超え5.8mol%以下であってよい。仮焼体の1300℃における単位温度当たりの熱収縮率の変化速度は0.02%℃―1以上であってよい。
【0140】
本実施形態の仮焼体は、安定化元素の含有量が異なる2以上の安定化ジルコニアを含む。本実施形態の仮焼体が安定化元素の含有量が異なる2以上の安定化ジルコニアを含むことは、平均粒子径が0.40μm以上0.50μm以下となるように仮焼体を乾式粉砕した粉末を使用すること以外は、本実施形態の粉末組成物と同様な方法のSTEM-EDSにより測定することができる。安定化元素量の分布幅が±1.5mol%以上であること、及び、安定化元素量の分布形状がマルチモーダル(例えば、バイモーダル)であること、の少なくともいずれかである仮焼体は、安定化元素量が異なる2以上の安定化ジルコニアを含む。本実施形態の仮焼体は、その安定化元素量分布における分布形状がバイモーダルであることが好ましい。
【0141】
本実施形態の仮焼体のBET比表面積は、5m/g以上又は6m/g以上であり、また、8m/g以下又は7m/g以下であることが好ましい。
【0142】
本実施形態の仮焼体のT+C相率は、75%以上、80%以上、90%以上、95%以上又は98%以上であり、また、100%以下又は99%以下であることが好ましい。
【0143】
本実施形態の仮焼体の仮焼体密度は、2.95g/cm以上又は3.00g/cm以上であり、かつ、3.50g/cm以下、3.30g/cm以下又は3.15g/cm以下であることが挙げられる。
【0144】
CAM加工等、形状加工における欠陥が生じにくくなるため、本実施形態の仮焼体のビッカース硬度は、35kgf/mm以上又は40kgf/mm以上であり、かつ、100kgf/mm以下、80kgf/mm以下、70kgf/mm以下、55kgf/mm以下、50kgf/mm以下、又は47kgf/mm以下であることが好ましい。
【0145】
仮焼体が融着粒子から構成されている点、及び、上述した点以外、本実施形態の仮焼体の特徴は、本実施形態の粉末組成物と同様であることが挙げられる。
【0146】
次に、本実施形態の仮焼体の製造方法について説明する。
【0147】
本実施形態の仮焼体の製造方法は任意であるが、本実施形態の粉末組成物を含む成形体を仮焼する工程、を有する仮焼体の製造方法、が挙げられる。
【0148】
本実施形態の粉末組成物を含む成形体を仮焼する工程(以下、「仮焼工程」ともいう。)に供する成形体は、本実施形態の粉末組成物が成形された状態の成形体であることが好ましい。
【0149】
成形体の形状は、立方体状、直方体状、多面体状、柱状、円柱状、円板状及び略球状の群から選ばれる少なくとも1つが例示できる。成形体は、焼結による熱収縮を考慮した上で、歯科補綴材形状などの、目的とする仮焼体又は焼結体と同様な形状であればよい。
【0150】
成形体密度は、2.80g/cm以上、2.95g/cm以上又は3.00g/cm以上であり、かつ、3.50g/cm以下、3.40g/cm以下、3.30g/cm以下、3.20g/cm以下又は3.15g/cm以下であることが挙げられる。
【0151】
本実施形態において、成形体の製造方法は任意であり、公知のセラミックスの成形方法を適用することができる。成形方法として、例えば、一軸プレス、冷間静水圧プレス、スリップキャスティング及び射出成形の群から選ばれる1以上が例示できる。簡便であるため、成形方法は、少なくともスリップキャスティング以外であることが好ましく、更には一軸プレス及び冷間静水圧プレスの少なくともいずれかであることが好ましく、一軸プレス後、冷間静水圧プレスを行うことがより好ましい。一軸プレスの圧力は15MPa以上150MPa以下、及び、冷間静水圧プレスの圧力は90MPa以上400MPa以下を例示することができ、成形における圧力が高くなるほど成形体密度が高くなりやすい。
【0152】
成形体が結合剤を含む場合、仮焼に先立ち、結合剤を除去する工程、いわゆる脱バインダー工程、を有していてもよい。結合剤の除去方法は任意であるが、大気雰囲気、400℃以上900℃未満、の熱処理が例示できる。
【0153】
仮焼は、ジルコニアが焼結に至らない温度での熱処理であればよい。仮焼条件として、以下の条件が挙げられる。
仮焼雰囲気 :酸化雰囲気、好ましくは大気雰囲気
仮焼温度 :950℃以上又は1000℃以上、かつ、
1150℃以下又は1100℃以下
仮焼時間 :0.5時間以上又は1時間以上、かつ、
5時間以下又は3時間以下
【0154】
次に、本実施形態の粉末組成物及び仮焼体の少なくともいずれか(以下、「本実施形態の粉末組成物等」ともいう。)を使用する焼結体の製造方法について説明する。
【0155】
本実施形態の粉末組成物は、これを仮焼することで前歯用義歯の前駆体に適した仮焼体を製造することができる。本実施形態の粉末組成物等は、これを焼結することで前歯用義歯に適した焼結体を製造することができる。特に、本実施形態の粉末組成物等により、該焼結が短時間焼結である場合であっても、従来の焼結方法(例えば、通常焼結)で得られる焼結体と同等な透光性に基づく審美性を有する焼結体を製造することができる。
【0156】
本実施形態の粉末組成物等を使用した焼結体の製造方法は、これを任意の焼結方法で焼結することで焼結体が得られる。焼結工程における焼結は、セラミックスの焼結方法として公知の焼結方法、例えば、常圧焼結、加圧焼結及び真空焼結の群から選ばれる1つ以上、が適用できる。歯科補綴材の製造に広く適用されているため、焼結方法は、常圧焼結であることが好ましく、常圧焼結のみであること、すなわち、加圧焼結や真空焼結を使用しない焼結方法であること、がより好ましい。本実施形態の粉末組成物等からは、焼結方法が常圧焼結のみである場合、いわゆる常圧焼結体として、焼結体が得られる。
【0157】
特に好ましい焼結方法は、大気雰囲気における常圧焼結であり、なおかつ、焼結時間は7時間以下、好ましくは5時間以下、より好ましくは3時間以下、更に好ましくは1時間以下である。また更には、異なる昇温速度により焼結温度まで昇温する焼結(例えば、2段階の昇温速度で昇温する焼結)であることが好ましい。
【0158】
好ましい焼結条件として、以下の条件が例示できる。
焼結方法:常圧焼結
焼結雰囲気:酸化雰囲気、好ましくは大気雰囲気
焼結温度:1450℃以上、1500℃以上又は1550℃以上であり、かつ、1650℃以下、1620℃以下又は1600℃以下
焼結時間:3分以上、5分以上、7分以上又は8分以上であり、かつ、
30分以下、20分以下又は15分以下
昇温速度:(室温から1050℃)
150℃/分以上、200℃/分以上又は250℃/分以上、かつ、
350℃/分以下又は300℃/分以下
(1050℃から焼結温度)
30℃/分以上、40℃/分以上又は50℃/分以上、かつ、
150℃/分以下、70℃/分以下又は60℃/分以下
降温速度:(焼結温度から900℃)
30℃/分以上、40℃/分以上又は60℃/分以上、かつ、
300℃/分以下、100℃/分以下又は65℃/分以下
【0159】
粉末組成物を焼結する場合は、焼結に先立ち、該粉末組成物を任意の方法で成形体とすればよい。また、仮焼体を焼結する場合は焼結に先立ち、焼結に供する仮焼体を任意の形状に加工してもよい。仮焼体は、CAD/CAM等の加工により任意の形状とすることができ、これにより任意形状の焼結体が得られやすくなる。
【0160】
次に、本実施形態の粉末組成物等を焼結して得られる焼結体の一例として、以下、本実施形態の粉末組成物等を短時間焼結して得られる焼結体(以下、「本実施形態の焼結体」ともいう。)を例にして説明する。
【0161】
本実施形態の焼結体は、安定化元素を含む安定化ジルコニアをマトリックスとして含み、該安定化元素の含有量が4.0mol%を超え5.8mol%以下であり、平均結晶粒径が2.5μm以下であり、なおかつ、正方晶プライム相率が70%以上であること、を特徴とする。上記焼結体は、安定化元素の含有量が4.0mol%を超え5.8mol%以下であり、結晶粒径差が0.10μm以下であり、なおかつ、正方晶プライム相率が70%以上であってもよい。焼結体は、ジルコニアをマトリックスとするジルコニア焼結体(ジルコニアの焼結体)であってよい。
【0162】
安定化元素は、イットリウム、カルシウム及びマグネシウムの群から選ばれる1以上であることが好ましく、イットリウムであることがより好ましい。
【0163】
本実施形態の焼結体において、安定化元素はジルコニアに固溶しており、好ましくは本実施形態の焼結体は、未固溶の安定化元素を含まないことがより好ましい。
【0164】
焼結体又はマトリックスにおける安定化元素量は、4.0mol%を超え5.8mol%以下であり、4.0mol%超、4.2mol%以上、4.4mol%以上、4.5mol%以上、4.7mol%以上、4.8mol%以上又は5.0mol%以上であり、また、5.8mol%以下、5.7mol%以下又は5.5mol%以下であることが好ましい。
【0165】
本実施形態において、焼結体及びマトリックスにおける安定化元素量はICP分析により求めればよい。
【0166】
本実施形態の焼結体の平均結晶粒径は2.5μm以下、2.0μm以下、1.8μm以下、1.5μm以下、1.3μm以下又は1.3μm未満であることが好ましい。また、当該平均結晶粒径は0.7μm以上、0.8μm以上、1.0μm以上又は1.2μm以上であればよい。
【0167】
本実施形態の焼結体の結晶粒径差は、0.10μm以下であり、0.10μm未満、0.09μm以下、0.07μm以下、0.05μm以下又は0.04μm以下であることが好ましい。また、結晶粒径差は0μm以上又は0.005μm以上であることが挙げられる。このような結晶粒子径は、本実施形態の粉末組成物等を短時間焼結することにより得られる結晶粒子の状態であると考えられる。
【0168】
「結晶粒径差」は、焼結体を構成する結晶粒子の状態を示す指標であり、具体的には、焼結体表面を構成する結晶粒子と、焼結体内部を構成する結晶粒子との相違を示す指標である。
【0169】
結晶粒径差は、焼結体を厚み方向に沿って切断して得られる切断面のSEM観察図を画像解析して求めることができる。具体的には、まず、焼結体の全体厚みを100%としたときに、厚み方向に表面~1%の間(表面部)の任意の領域においてSEM観察を行う。このようにして得られるSEM観察図を画像解析し、焼結体の表面部を構成する結晶粒子の円相当径の平均値(以下、「表面粒径」と称する。)を求める。また、焼結体の厚み方向に、表面から40%~60%の間の任意の領域においてSEM観察を行う。このようにして得られるSEM観察図を画像解析し、表面粒径と同様な方法で焼結体内部を構成する結晶粒子の円相当径の平均値(以下、「内部粒径」とする。)を求める。焼結体の表面部に含まれる結晶粒子及び焼結体の内部に含まれる結晶粒子の測定個数は、それぞれ450±50個とする。必要に応じて、複数のSEM観察図を使用して円相当径を測定してよい。このようにして求められる表面粒径と内部粒径との差の絶対値が結晶粒径差である。
【0170】
表面粒径及び内部粒径は、画像解析ソフト(例えば、Mac-View Ver.5、MOUNTECH社製)による解析で得られる。表面粒径及び内部粒径の差の絶対値を求め、これを結晶粒径差とすればよい。
【0171】
本実施形態の焼結体のT’相率は、70%以上、80%以上又は90%以上であることが好ましい。また、当該T’相率は、100%以下又は99%以下であることが挙げられる。
【0172】
本実施形態の焼結体の光透過率は、45%超、46%以上、又は、47%以上であることが好ましい。光透過率がこの値を有することで、前歯用義歯をはじめとする歯科補綴材等、特に高い透光性が必要とされる歯科補綴材への適用が可能となる。本実施形態の焼結体の安定化元素量の範囲における光透過率は52%以下、51%以下、又は、50%以下であることが例示できる。
【0173】
本実施形態の焼結体のC相率は、30%未満、10%以下、5%以下、1%以下又は0.5%以下であることが好ましい。本実施形態の焼結体はC相を含んでいなくてもよく(C相率が0%であってもよく)、本実施形態の焼結体のC相率は0%以上であればよい。
【0174】
本実施形態の焼結体の二軸曲げ強度は、650MPa以上、700MPa以上、720MPa以上、740MPa以上、770MPa以上、790MPa以上又は800MPa以上であることが好ましい。このような二軸曲げ強度を満足することで、本実施形態の焼結体が、より小さい形状の歯科用補綴物としても適用され得る。二軸曲げ強度は高いほど好ましい。本実施形態の安定化元素量を満足する場合、二軸曲げ強度は、1000MPa以下、900MPa以下、850MPa以下、又は、800MPa以下であることが例示できる。
【0175】
本実施形態の焼結体のワイブル係数は、4.0以上、5.0以上、又は、6.0以上であることが例示できる。ワイブル係数は高いほど好ましいが、本実施形態の安定化元素量を満足する場合、ワイブル係数は、15.0以下、又は、12.0以下であることが例示できる。
【0176】
以上、本開示の幾つかの実施形態を説明したが、本開示は上記各実施形態に何ら限定されるものではない。例えば、上記各実施形態で具体的に記載された上限値及び下限値を任意に組み合わせた数値範囲も、本開示に含まれる。また、上限値及び/又は下限値を、以下に説明する実施例の値で置換したものも本開示に含まれる。
【実施例0177】
以下、実施例及び比較例を参照して本開示の内容を詳細に説明する。しかしながら、本開示は、実施例に限定されるものではない。
【0178】
(結晶相、正方晶+立方晶率、正方晶プライム相率、立方晶率)
結晶相は、X線回折装置(装置名:Ultima IV、RIGAKU社製)を使用し、以下の条件によるXRD測定により同定した。
線源 : CuKα線(λ=0.15418nm)
測定モード : 連続スキャン
スキャンスピード : 2°/分
測定範囲 : 2θ=26°~33°
2θ=72°~76°
加速電圧・電流 : 40mA・40kV
発散縦制限スリット: 10mm
発散/入射スリット: 1°
受光スリット : open
検出器 : 半導体検出器(D/teX Ultra)
フィルター : Niフィルター
ゴニオメータ半径 : 185mm
【0179】
結晶相の同定は、X線回折装置付属の解析プログラム(プログラム名:統合粉末X線解析ソフトウェアPDXL Ver.2.2、RIGAKU社製)を使用して平滑化処理及びバックグラウンド除去処理し、当該処理後のXRDパターンを、分割擬Voigt関数によりプロファイルフィッティングすることで行った。
【0180】
正方晶+立方晶率、立方晶率及び正方晶プライム相率は、本実施形態の粉末組成物、仮焼体、及び焼結体の表面のXRDパターンから、式(2)、式(4)及び式(3)により求めた。
【0181】
(組成分析)
組成物の組成はICP分析で測定した。
【0182】
(安定化元素量:Y[mol%])
安定化元素量(酸化物換算のイットリウムのmol%)は、粉末組成物又は仮焼体のSTEM-EDS測定により、上述の方法で求めた。STEM-EDS測定は、透過型電子顕微鏡(装置名:JEM-2100F、日本電子株式会社製)、及び、エネルギー分散型X線分光器(装置名:JED-2300T、日本電子株式会社製)を使用し、以下の条件で測定した。なお、測定する粉末粒子の個数が20±10個となるように、複数のSTEM観察図を使用した。
加速電圧 :200kV
観察倍率 :400,000倍
【0183】
STEM-EDS測定の前処理として、粉末組成物を乳鉢で解砕した。その後、超音波処理により緩慢凝集を解いた粉末をアセトン中に分散させてスラリーを調製した。該スラリーをコロジオン膜上で乾燥させて測定用試料を得た。仮焼体の場合は、仮焼体を乳鉢で乾式粉砕したこと以外、粉末組成物と同様な方法で測定用試料を得た。
【0184】
(BET比表面積)
BET比表面積は、自動比表面積自動測定装置(装置名:トライスターII 320、島津製作所製)を使用し、JIS R 1626に準じ、以下の条件による、BET多点法(5点)により測定した。
吸着媒体 :N
吸着温度 :-196℃
前処理条件 :大気雰囲気、250℃で1時間以上の脱気処理
【0185】
(平均粒子径)
平均粒子径は、マイクロトラック粒度分布計(装置名:MT3300EXII、マイクロトラック・ベル社製)を使用し、レーザー回折・散乱法による粒度分布測定により測定した。測定条件を以下に示す。
光源 :半導体レーザー(波長:780nm)
電圧 :3mW
測定試料 :粉砕スラリー
ジルコニアの屈折率 :2.17
溶媒(水)の屈折率 :1.333
計算モード :HRA
【0186】
前処理として、試料粉末を蒸留水に懸濁させてスラリーとした後、これを超音波ホモジナイザー(装置名:US-150T、日本精機製作所製)を用いて3分間分散処理した。
【0187】
(熱収縮率の変化速度:ΔV)
粉末組成物及び仮焼体のΔV(ΔV1300及びΔV1500)は、熱膨張計(装置名:TD5000SE、NETZSCH社製)、及び、標準試料としてアルミナを用い、上述の方法により求めた。標準試料の熱膨張補正には、熱分析解析ソフト(ソフト名:TD5000SE用解析ソフト Ver.5.0.2、NETZSCH社製)を用いた。
【0188】
粉末組成物及び仮焼体のΔVは、以下の手順で測定した。粉末組成物のΔVについては、粉末組成物を金型に充填し、圧力19.6MPaで一軸成形した後、圧力196MPaでCIP処理して、直径6mm、長さ15±2mmの円柱状の成形体Aを得た。成形体Aを、大気雰囲気、700℃で1時間処理したものを粉末組成物のΔV測定用の測定試料とした。仮焼体のΔVについては、成形体Aを1000℃で1時間仮焼したものを仮焼体のΔV測定用の測定試料とした。測定条件を以下に示す。
雰囲気 : 大気流通下(100mL/min)
昇温速度 : 20℃/min
最高到達温度 : 1600℃
【0189】
を30℃とし、昇温を開始してから成形体の長さ(l)を3秒毎に測定した。T1,T2を含む各温度Tにおける熱収縮率L(T)は上述の式(1)より求めた。ΔV1300の測定において、T1は1300℃、及び、T2は1303℃とした。また、ΔV1500の測定において、T1は1500℃、及び、T2は1503℃とした。表2及び表3には、ΔV1300とΔV1500の差を示した。
【0190】
(成形体密度)
成形体試料の質量を天秤で測定し、また、体積をノギスで測定して寸法から求めた。得られた質量及び体積から成形体密度を求めた。
【0191】
(仮焼体密度)
仮焼体試料の質量を天秤で測定し、また、体積をノギスで測定して寸法から求めた。得られた質量及び体積から仮焼体密度を求めた。
【0192】
(ビッカース硬度)
ビッカース硬度は、ビッカース試験機(装置名:Q30A、Qness社製)を使用し、以下の条件で、圧子を静的に測定試料表面に押し込み、測定試料表面に形成した押込み痕の対角長さを計測した。得られた対角長さを使用して、式(5)からを求めた。
測定試料 : 厚み3.0±0.5mmの円板状
測定荷重 : 1kgf
【0193】
測定に先立ち、測定試料は#800の耐水研磨紙で測定面を0.1mm研磨した仮焼体を使用した。
【0194】
(平均結晶粒径、及び、結晶粒径差)
平均結晶粒径、及び、結晶粒径差(=|表面粒径-内部粒径|)は、SEM(装置名:JSM―IT500LA、日本電子株式会社製)、及び、画像解析ソフト(ソフト名:Mac-View Ver.5、MOUNTECH社製)を使用し、上述の方法で求めた。
【0195】
SEM観察の条件は以下のとおりである。平均結晶粒径、表面粒径及び内部粒径は、それぞれ450±50個の結晶粒子を測定して求めた。それぞれの測定には、複数のSEM観察図を使用した。
加速電圧 :15kV
観察倍率 :5000倍
【0196】
測定に先立ち、測定試料は、焼結体断面を表面粗さRa≦0.02μmとなるように研磨した後、焼結温度より100℃低い温度で30分間熱エッチングした。
【0197】
画像解析ソフトに取り込んだSEM観察図について、該ソフト上で結晶粒子の粒界をトレースすることで、結晶粒界が途切れていない結晶粒子を抽出した。抽出後、該画像解析ソフトで、結晶粒子の面積、及び、円相当径を求め、平均結晶粒径、並びに、表面粒径及び内部粒径を求めた。得られた表面粒径及び内部粒径の差の絶対値を求め、結晶粒径差とした。なお、これらの値は画像解析ソフトにより処理して求めた。また、平均結晶粒径及び表面粒径は焼結体表面から20μmの領域(焼結体表面から、厚み方向に1%の領域)を観察したSEM観察図を、内部粒径は焼結体表面から800μmの領域(焼結体表面から、厚み方向に40%の領域)の観察したSEM観察図を使用した。
【0198】
(光透過率)
光透過率(全光線透過率)は、ヘーズメータ(装置名:NDH4000、日本電色社製)を用い、D65光源を使用して、JIS K 7361-1に準拠した方法によって測定した。測定試料は、表面粗さRa≦0.02μmとなるように両面研磨した、厚み1mmの円板状の焼結体を使用した。
【0199】
(光透過率比)
光透過率比は、通常焼結体(後述)の光透過率[%]に対する、短時間焼結体(後述)の光透過率[%]の割合を求めた。
【0200】
(二軸曲げ強度)
二軸曲げ強度は、JIS T 6526に準じた方法によって測定した。測定は10回行い、その平均値を求めた。測定は、直径14.5mm±0.5mm、厚さ1.25mm±0.05mmの円板状の焼結体試料について行い、支持円半径6mm、圧子半径0.7mmとして実施した。クロスヘッドスピードは0.5mm/minとした。
【0201】
(ワイブル係数)
ワイブル係数は、JIS R 1625に準じた方法により算出した。直径14.5mm±0.5mm、厚さ1.25mm±0.05mmの円状の焼結体を測定試料として使用し、支持円半径6mm、圧子半径0.7mmとして二軸曲げ強度の測定を15回行い、得られた測定値を用いて、上述の算出方法により求めた。
【0202】
<粉末組成物の製造>
[実施例1]
オキシ塩化ジルコニウム水溶液を加水分解して得られた水和ジルコニアゾルに、イットリウム量が2.5mol%となるようにイットリア(Y)を混合し、乾燥した。その後、大気雰囲気中、1160℃で2時間熱処理して、イットリウム量が2.5mol%であるイットリウムを含むジルコニア(イットリウム安定化ジルコニア)をマトリックスとする仮焼粉末を得た。得られた仮焼粉末及び純水を混合し、直径2mmのビーズを粉砕媒体に使用してボールミルで18時間粉砕し、イットリウム量が2.5mol%であるジルコニアをマトリックスとし、BET比表面積は11.9m/gである粉末(イットリウム安定化ジルコニアの粉末)を含むスラリーを得、これを実施例1のスラリーAとした。
【0203】
イットリウム量を5.5mol%となるようにイットリウムを混合したこと、及び、10時間粉砕したこと以外はスラリーAと同様な方法によって、イットリウム量が5.5mol%であるジルコニア(イットリウム安定化ジルコニア)をマトリックスとし、BET比表面積が9.7m/gである粉末を含むスラリーを得た。これを実施例1のスラリーBとした。スラリーAに含まれる粉末のBET比表面積は、スラリーBに含まれる粉末のBET比表面積より2.2m/g大きかった。
【0204】
粉末組成物におけるイットリウム量が4.5mol%となるように、撹拌しているスラリーBに、スラリーAを添加及び混合した。その後、空気流通下、110℃で乾燥して、イットリウム量が4.5mol%であるジルコニア(イットリウム安定化ジルコニア)をマトリックスとし、BET比表面積が10.4m/gである粉末組成物を得た。当該粉末組成物に含まれる2つの安定化ジルコニア(2つのスラリーに含まれる安定化ジルコニア粉末)の安定化元素量の差は3.0mol%であった。
【0205】
[実施例2]
粉末組成物におけるイットリウム量が5.2mol%となるように、スラリーBにスラリーAを添加及び混合した。これ以外は実施例1と同様な方法で、イットリウム量が5.2mol%であるジルコニア(イットリウム安定化ジルコニア)をマトリックス(主成分)とし、BET比表面積が9.9m/gである粉末組成物を得た。当該粉末組成物に含まれる2つの安定化ジルコニアの安定化元素量の差は3.0mol%であった。
【0206】
[実施例3]
水和ジルコニアゾルとイットリアとの混合物を乾燥後、大気雰囲気中、1125℃で6時間熱処理したこと、及び、ボールミルによる粉砕時間を8時間にした。これ以外は、実施例1と同様な方法で、イットリウム量が2.5mol%であるジルコニア(イットリウム安定化ジルコニア)をマトリックスとし、BET比表面積が9.7m/gである粉末を含むスラリーを得た。これを実施例3のスラリーAとした。スラリーAに含まれる粉末のBET比表面積は、実施例1のスラリーBに含まれる粉末のBET比表面積と等しかった。
【0207】
粉末組成物におけるイットリウム量が5.2mol%となるように、実施例1のスラリーBに実施例3のスラリーAを添加及び混合した。これ以外は実施例1と同様な方法で、イットリウム量が5.2mol%であるジルコニア(イットリウム安定化ジルコニア)をマトリックスとし、BET比表面積が9.7m/gである粉末組成物を得た。当該粉末組成物に含まれる2つの安定化ジルコニアの安定化元素量の差は3.0mol%であった。
【0208】
[実施例4]
水和ジルコニアゾルとイットリアとの混合物を乾燥後、大気雰囲気中、1045℃で6時間熱処理したこと、及び、ボールミルによる粉砕時間を7時間にした。これ以外は、実施例1と同様な方法により、イットリウム量が2.5mol%であるジルコニア(イットリウム安定化ジルコニア)をマトリックスとし、BET比表面積が14.4m/gである粉末を含むスラリーを得た。これを実施例4のスラリーAとした。スラリーAに含まれる粉末のBET比表面積は、実施例1のスラリーBに含まれる粉末のBET比表面積より4.7m/g大きかった。
【0209】
粉末組成物におけるイットリウム量が5.2mol%となるように、実施例1のスラリーBに実施例4のスラリーAを添加及び混合したこと以外は、実施例1と同様な方法で、イットリウム量が5.2mol%であるジルコニア(イットリウム安定化ジルコニア)をマトリックスとし、BET比表面積が10.2m/gである粉末組成物を得た。当該粉末組成物に含まれる2つの安定化ジルコニアの安定化元素量の差は3.0mol%であった。
【0210】
[実施例5]
粉末組成物におけるイットリウム量が5.4mol%となるように、スラリーBにスラリーAを添加及び混合した。これ以外は実施例1と同様な方法で、イットリウム量が5.4mol%であるジルコニアをマトリックスとし、BET比表面積は9.8m/gである粉末組成物を得た。当該粉末組成物に含まれる2つの安定化ジルコニアの安定化元素量の差は3.0mol%であった。
【0211】
[実施例6]
水和ジルコニアゾルとイットリアとの混合物を乾燥後、大気雰囲気中、1145℃で熱処理した。これ以外は、実施例1と同様な方法で、イットリウム量が5.5mol%であるジルコニア(イットリウム安定化ジルコニア)をマトリックスとし、BET比表面積が10.8m/gである粉末を含むスラリーを得た。これを実施例6のスラリーBとした。スラリーAは実施例4のスラリーAを使用した。該スラリーAに含まれる粉末のBET比表面積は、スラリーBに含まれる粉末のBET比表面積より3.6m/g大きかった。
【0212】
粉末組成物におけるイットリウム量が5.2mol%となるように、上記スラリーBに実施例4のスラリーAを添加及び混合したこと以外は、実施例1と同様な方法で、イットリウム量が5.2mol%であるジルコニアをマトリックス(イットリウム安定化ジルコニア)とし、BET比表面積が11.2m/gである粉末組成物を得た。当該粉末組成物に含まれる2つの安定化ジルコニアの安定化元素量の差は、3.0mol%であった。
【0213】
[実施例7]
イットリウム安定化ジルコニアにおけるイットリウム量が1.5mol%となるようにイットリアを混合した。これ以外は、実施例1のスラリーAと同様な方法により、イットリウム量が1.5mol%であるジルコニアをマトリックスとし、BET比表面積が11.9m/gである粉末(イットリウム安定化ジルコニアの粉末)を含むスラリーを得た。これを実施例7のスラリーAとした。スラリーBは実施例1のスラリーBを使用した。実施例7のスラリーAに含まれる粉末のBET比表面積は、実施例1のスラリーBに含まれる粉末のBET比表面積より2.2m/g大きかった。
【0214】
粉末組成物におけるイットリウム量が5.2mol%となるように、該スラリーBにスラリーAを添加及び混合したこと以外は実施例1と同様な方法で、イットリウム量が5.2mol%であるジルコニア(イットリウム安定化ジルコニア)をマトリックスとし、BET比表面積は9.9m/gである粉末組成物を得た。また、当該粉末組成物に含まれる2つの安定化ジルコニアの安定化元素量の差は、4.0mol%であった。
【0215】
[実施例8]
イットリウム安定化ジルコニアにおけるイットリウム量が6.5mol%となるようにイットリアを混合した。これ以外は、実施例1のスラリーBと同様な方法により、イットリウム量が6.5mol%であるジルコニアをマトリックスとし、BET比表面積が10.3m/gである粉末(イットリウム安定化ジルコニアの粉末)を含むスラリーを得た。これを実施例8のスラリーBとした。スラリーAは実施例1のスラリーAを使用した。実施例1のスラリーAに含まれる粉末のBET比表面積は、実施例8のスラリーBに含まれる粉末のBET比表面積より1.6m/g大きかった。
【0216】
粉末組成物におけるイットリウム量が5.2mol%となるように、該スラリーBにスラリーAを添加及び混合した。これ以外は、実施例1と同様な方法で、イットリウム量が5.2mol%であるジルコニアをマトリックスとし、BET比表面積は10.8m/gである粉末組成物を得た。当該粉末組成物に含まれる2つの安定化ジルコニアの安定化元素量の差は、4.0mol%であった。
【0217】
[実施例9]
実施例1のスラリーA及びスラリーBを用いて、粉末組成物におけるイットリウム量が5.0mol%となるように、撹拌しているスラリーBにスラリーAを添加して、混合スラリーを得た。該混合スラリーを撹拌所要動力0.5kW/mで0.5時間混合した後、乾燥した。このようにして、イットリウム量が5.0mol%であるジルコニア(イットリウム安定化ジルコニア)をマトリックスとし、BET比表面積が10.1m/gである粉末組成物を得た。当該粉末組成物に含まれる2つの安定化ジルコニアの安定化元素量の差は、3.0mol%であった。
【0218】
[実施例10]
実施例1のスラリーA及びスラリーBを用いて、粉末組成物におけるイットリウム量が5.0mol%となるように、撹拌しているスラリーBにスラリーAを添加して、混合スラリーを得た。該混合スラリーを撹拌所要動力0.01kW/mで0.5時間混合した後、乾燥した。このようにして、イットリウム量が5.0mol%であるジルコニア(イットリウム安定化ジルコニア)をマトリックスとし、BET比表面積が10.1m/gである粉末組成物を得た。当該粉末組成物に含まれる2つの安定化ジルコニアの安定化元素量の差は、3.0mol%であった。
【0219】
[比較例1]
オキシ塩化ジルコニウム水溶液を加水分解反応して得られた水和ジルコニアゾルと、イットリウム量が2.5mol%となるようにイットリアとを混合し、乾燥した。得られた乾燥物を、大気雰囲気中、1160℃で2時間熱処理して、イットリウム量が2.5mol%であるイットリウムを含むジルコニアをマトリックスとする粉末を得た。得られた粉末、α-アルミナ及び純水を混合した。混合は、2mmのビーズを粉砕媒体としたボールミルにより8時間の粉砕混合を行った。これによって、イットリウム量が2.5mol%であるジルコニアをマトリックスとし、0.05質量%のアルミナを含有し、BET比表面積が10.0m/gである粉末(アルミナ含有イットリウム安定化ジルコニアの粉末)を含むスラリーを得た。これを比較例1のスラリーAとした。
【0220】
イットリウム安定化ジルコニアにおけるイットリウム量を5.5mol%としたこと、及び、ボールミルによる粉砕混合時間を10時間にしたこと以外は、スラリーAと同様な方法によって、イットリウム量が5.5mol%であるジルコニアをマトリックスとし、0.05質量%のアルミナを含有し、BET比表面積が10.0m/gである粉末を含むスラリーを得た。これを比較例1のスラリーBとした。スラリーAに含まれる粉末のBET比表面積は、スラリーBに含まれる粉末のBET比表面積と等しかった。
【0221】
粉末組成物におけるイットリウム量が4.0mol%となるように、スラリーAとスラリーBを混合した後、乾燥した。このようにして、イットリウム量が4.0mol%であるジルコニアをマトリックスとし、0.05質量%のアルミナを含有し、BET比表面積が10.0m/gである粉末組成物を得た。当該粉末組成物に含まれる安定化ジルコニアの安定化元素量の差は3.0mol%であった。
【0222】
[比較例2]
イットリウム安定化ジルコニアにおけるイットリウム量が1.5mol%となるようにイットリアを混合したこと、及び、1130℃で熱処理した。これ以外は、比較例1のスラリーAと同様な方法で、イットリウム量が1.5mol%であるジルコニアをマトリックスとし、アルミナ含有量が0.05質量%であり、BET比表面積が11.4m/gである粉末を含むスラリーを得た。これを比較例2のスラリーAとした。このスラリーAに含まれる粉末のBET比表面積は、比較例1のスラリーBに含まれる粉末のBET比表面積より1.4m/g大きかった。
【0223】
得られたスラリーAを使用したこと以外は、比較例1と同様な方法で、スラリーAとスラリーBを混合した。このようにして、イットリウム量が5.2mol%であるジルコニアをマトリックスとし、0.05質量%のアルミナを含有し、BET比表面積が10.1m/gである粉末組成物を得た。当該粉末組成物に含まれる安定化ジルコニアの安定化元素量の差は4.0mol%であった。
【0224】
[比較例3]
特開2021-059489号公報の実施例12と同様な方法で比較例3の粉末組成物を得た。すなわち、イットリウム安定化ジルコニアにおけるイットリウム量が2.0mol%となるようにイットリアを混合し、α-アルミナを混合しなかった。これ以外は、比較例1のスラリーAと同様な方法で、イットリウム量が2.0mol%であるジルコニアをマトリックスとし、BET比表面積が10.2m/gである粉末を含むスラリーを得た。これを比較例3のスラリーAとした。このスラリーAに含まれる粉末のBET比表面積は、比較例3のスラリーBに含まれる粉末のBET比表面積より2.2m/g小さかった。
【0225】
イットリウム安定化ジルコニアにおけるイットリウム量が8.5mol%となるようにイットリアを混合したこと、熱処理温度を1130℃としたこと、及び、α-アルミナを混合しなかったこと以外は、比較例1のスラリーBと同様な方法で、スラリーを調製した。これによって、イットリウム量が8.5mol%であるジルコニアをマトリックスとし、BET比表面積が12.4m/gである粉末を含むスラリーを得た。これを比較例3のスラリーBとした。
【0226】
得られたスラリーA及びスラリーBを使用した。このこと以外は、比較例1と同様な方法で、イットリウム量が5.2mol%であるジルコニアをマトリックスとし、BET比表面積が11.3m/gである粉末組成物を得た。当該粉末組成物に含まれる安定化ジルコニアの安定化元素量の差は6.5mol%であった。
【0227】
[比較例4]
比較例1のスラリーBと同様な方法により、イットリウム量が5.5mol%であるジルコニアをマトリックスとし、BET比表面積が10.0m/gである粉末を含むスラリーを得た。これを比較例4のスラリーBとした。
【0228】
得られたスラリーBを乾燥して、イットリウム量が5.5mol%であるジルコニアをマトリックスとし、0.05質量%のアルミナを含有し、BET比表面積が10.0m/gである粉末(アルミナ含有イットリウム安定化ジルコニアの粉末)を得た。これを比較例4の粉末(粉末組成物)とした。
【0229】
[比較例5]
α-アルミナを混合しなかったこと以外は、比較例1のスラリーBと同様な方法で、イットリウム量が5.5mol%であるジルコニアをマトリックスとし、BET比表面積が10.0m/gである粉末を含むスラリーを得た。これを比較例5のスラリーBとした。
【0230】
得られたスラリーBを乾燥して、イットリウム量が5.5mol%であるジルコニアをマトリックスとし、BET比表面積が10.0m/gである粉末(イットリウム安定化ジルコニアの粉末)を得た。これを比較例5の粉末(粉末組成物)とした。
【0231】
[比較例6]
α-アルミナを混合しなかったこと、及び、仮焼温度を1140℃としたこと以外は、比較例1のスラリーAと同様な方法で、イットリウム量が2.5mol%であるジルコニアをマトリックスとし、BET比表面積が11.3m/gである粉末を含むスラリーを得た。これを比較例6のスラリーAとした。
【0232】
イットリウム安定化ジルコニアにおけるイットリウム量が7.5mol%となるようにイットリアを混合したこと、及び、α-アルミナを混合しなかったこと以外は、比較例1のスラリーBと同様な方法でスラリーを調製した。これによって、イットリウム量が7.5mol%であるジルコニアをマトリックスとし、BET比表面積が11.9m/gである粉末を含むスラリーを得た。これを比較例6のスラリーBとした。スラリーAに含まれる粉末のBET比表面積は、スラリーBに含まれる粉末のBET比表面積より0.6m/g小さかった。
【0233】
得られたスラリーA及びスラリーBを使用したこと、並びに、イットリウム量が6.0mol%となるように両スラリーを混合したこと以外は、比較例1と同様な方法で、イットリウム量が6.0mol%であるジルコニアをマトリックスとし、BET比表面積が11.6m/gである粉末組成物を得た。これを比較例6の粉末組成物とした。当該粉末組成物に含まれる安定化ジルコニアの安定化元素量の差は5.0mol%であった。
【0234】
各実施例及び各比較例で調製した各スラリーに含まれる粉末における安定化元素量(Y:mol%)と、安定化元素量の差(Yの差)を表1に示す。各実施例及び各比較例で得られた粉末組成物における安定化元素量(Yのmol%)、添加元素の酸化物換算の含有量及び性状を表2に示す。
【0235】
【表1】
【0236】
【表2】
【0237】
実施例2乃至4、6乃至8は、いずれも粉末組成物の安定化元素量(イットリウム量)が等しい。実施例2に対し、実施例4は、イットリウム量が2.5mol%であるイットリウム含有ジルコニアのBET比表面積が高く、また、粉末組成物のΔV1300及びΔV1500が速いこと、が確認できる。さらに、実施例2に対し、よりBET比表面積の低いイットリア含有量が2.5mol%であるイットリア含有ジルコニアを含む実施例3は、得られる粉末組成物のBET比表面積も低いが、実施例2に対してΔV1500が速くなった。実施例4と比較例2の対比より、アルミナを含有することでΔV1300が速くなることが確認できる。
【0238】
実施例2に対し、実施例7は、イットリウム量が低い方のイットリウム含有ジルコニアのイットリウム量が低い。この場合に、実施例7の方が実施例2よりもΔV1300及びΔV1500が遅いこと、が確認できる。実施例2に対し、実施例8はイットリウム量が高いイットリウム含有ジルコニアのイットリウム量が6.5mol%で実施例2と比べると高く、ΔV1300及びΔV1500が速いこと、が確認できる。
【0239】
実施例4に対し、実施例6は、イットリウム量が5.5mol%であるイットリウム含有ジルコニアのBET比表面積が高く、粉末組成物のΔV1300が速く、ΔV1500が遅いこと、が確認できる。
【0240】
<STEM-EDSによる安定化元素量の測定>
実施例2で得られた粉末組成物の安定化元素量を、STEM-EDS測定によって求めた(n=1)。具体的には、重なりのない10個の粉末粒子の組成を測定して、安定化元素量のデータ区間(階級区間)を0.1mol%としたときの頻度を求めた。測定結果は、図3に示すとおりであった。イットリウム含有ジルコニアの粉末粒子のイットリウム量の最大値は6.5mol%であり、最小値は2.7mol%であった。したがって、イットリウム量の最大値と最小値との差(分布幅)は3.8mol%であった。このことから、実施例2で得られた粉末組成物は、安定化元素量が互いに異なる2以上の安定化ジルコニアを含むこと、を確認できた。
【0241】
実施例2で得られた粉末組成物の、STEM-EDS測定をさらに2回行った(n=2,n=3)。各回の測定は、それぞれ別の粉末粒子を用いて行った。これらの測定は、n=1の場合と同様に行った。
【0242】
イットリウム量の分布幅(最大値と最小値との差)は、n=1では3.8mol%、n=2では4.4mol%、及びn=3では3.7mol%であった。これらの結果から、実施例2の粉末組成物は、分布幅のばらつきが十分に小さいことが確認できた。したがって、実施例2の粉末組成物では、イットリウム量が互いに異なる安定化ジルコニア粒子が高い均一性で分散していることが確認できた。
【0243】
実施例2の粉末組成物と同じ手順で、比較例5で得られた粉末組成物のSTEM-EDS測定を行った(n=1のみ)。その結果、ジルコニアの粉末粒子のイットリウム量の最大値は6.4mol%であり、最小値は4.9mol%であった。このように、イットリウム量の最大値と最小値との差(分布幅)は1.5mol%であった。表1に示す比較例5のYの差も0mol%であることから、比較例5で得られた粉末組成物は、安定化元素量が異なる2以上の安定化ジルコニアを含まないこと、を確認できた。
【0244】
<仮焼体の製造>
[実施例11~17、比較例7及び比較例9]
実施例2及び5~10、並びに、比較例2、3及び5と同様な方法で得られた粉末組成物を、それぞれ、直径25mmの金型に充填し、49MPaの圧力で一軸加圧プレス成形及び圧力196MPaでCIP処理して成形体を得た。得られた成形体を、大気雰囲気中、仮焼温度1000℃で1時間仮焼し、実施例11~17の仮焼体、並びに、比較例7及至9の仮焼体を得た。各実施例及び各比較例で用いた粉末組成物と、仮焼体の性状を表3に示す。
【0245】
【表3】
【0246】
実施例2のΔV1300は0.058%℃-1であり、実施例11のΔV1300は0.060%℃-1である。このことから、粉末組成物と、該粉末組成物を仮焼した仮焼体は、同等のΔV1300を有することが確認できる。実施例11の仮焼体はT+C相率が100%である。このことから、熱処理によって、粉末組成物と比べてT+C相率が高くなることが確認できる。実施例12乃至17と、前駆体である実施例5乃至10は、同等のΔV1300を有することが確認できる。実施例13乃至17の仮焼体はT+C相率が100%であることが確認できる。
【0247】
各実施例の仮焼体は、CAM加工等、形状加工に適したビッカース硬度を有することが確認できる。
【0248】
<STEM-EDSによる安定化元素量(イットリウム量)の測定>
実施例11で得られた仮焼体を乳鉢で乾式粉砕し、実施例2の粉末組成物と同様にして、STEM-EDS測定で仮焼体におけるイットリウム量を測定した。測定結果は図4に示すとおりであった。安定化ジルコニアの粉末粒子のイットリウム量の最大値は6.2mol%であり、最小値は2.9mol%であった。したがって、イットリウム量の最大値と最小値との差(分布幅)は3.3mol%であった。このことから、実施例11で得られた仮焼体は、安定化元素量が異なる2以上の安定化ジルコニアを含むこと、を確認できた。
【0249】
実施例11と同様にして、比較例9で得られた仮焼体のイットリウム量を測定した。測定結果は図5に示すとおりであった。安定化ジルコニアの粉末粒子のイットリウム量の最大値は6.5mol%であり、最小値は5.0mol%であった。したがって、イットリウム量の最大値と最小値との差(分布幅)は1.5mol%であった。表1に示す比較例5のYの差も0mol%であることから、比較例9で得られた仮焼体は、安定化元素量が異なる2以上の安定化ジルコニアを含まないこと、を確認できた。
【0250】
<焼結体の製造>
[実施例18~27、及び、比較例10~15]
実施例1~10で得られた粉末組成物、並びに、比較例1乃至6で得られた粉末組成物及び粉末を、それぞれ、直径25mmの金型に充填し、49MPaの圧力で一軸加圧プレス成形及び圧力196MPaでCIP処理して成形体を得た。
【0251】
得られた各成形体を、大気雰囲気中、仮焼温度1000℃で1時間仮焼し、それぞれ、仮焼体を得た。得られた仮焼体を、それぞれ、大気雰囲気中、室温から1050℃まで昇温速度250℃/分、及び、1050℃から1580℃まで50℃/分で昇温した。昇温後、焼結温度1580℃で8分間保持した後に、60℃/分で900℃まで降温した。その後、焼結体を焼結炉から取り出し(以下、「短時間焼結プログラム」ともいう。)、実施例18乃至27、及び、比較例10乃至15の焼結体(以下、「短時間焼結体」ともいう。)を得た。
【0252】
また、同様の手順で得られた仮焼体を、大気雰囲気、昇温速度600℃/時間、焼結温度1500℃で2時間焼結することで、焼結体(以下、「通常焼結体」ともいう。)を得た。このようにして得られた通常焼結体の光透過率に対する、短時間焼結体の光透過率の割合(光透過率比)[%]を求めた。結果を表4に示す。
【0253】
【表4】
【0254】
比較例10の通常焼結体は光透過率が低かったが、それ以外の通常焼結体は、全て光透過率が45%を超えていることが確認できる。
【0255】
各実施例の焼結体(短時間焼結体)の光透過率はいずれも45%を超えており、前歯用義歯として適用できる透光性を有することが確認できる。一方、各比較例の焼結体(短時間焼結体)は、いずれも光透過率が45%以下であり、前歯用義歯として要求される透光性を有していなかった。
【0256】
イットリウム量が4.0mol%である比較例10は、ΔV1300が0.07%℃-1を超えるにも関わらず、通常焼結体と短時間焼結体とで透光性が変化しないことが確認できた。しかしながら、比較例10は、通常焼結体においても光透過率が45%以下であり、前歯用義歯として適用できる透光性を有していなかった。
【0257】
ΔV1300が0.07%℃-1を超える比較例2の粉末組成物から得られた比較例11の短時間焼結体は、通常焼結体に対して透光性が大きく低下し、前歯用義歯として適用できる透光性を有さないことが確認できる。
【0258】
イットリウム量が8.0mol%を超える安定化ジルコニアを含む比較例3の粉末組成物、安定化元素の含有量が異なる2以上の安定化ジルコニアを含まない比較例5の粉末、及び、安定化元素量(イットリウム量)が5.8mol%以上の比較例6の粉末組成物は、ΔV1300が0.07%℃-1以下である。それにも関わらず、これらの粉末組成物を用いた比較例12,14,15では、いずれも、通常焼結体に対し、短時間焼結体の透光性が大きく低下した。したがって、前歯用義歯として適用できる透光性が得られないことが確認できた。
【0259】
実施例19乃至27、及び、比較例10乃至14で得られた短時間焼結体の評価結果を表5に示す。
【0260】
【表5】
【0261】
表5に示す各実施例の焼結体の平均結晶粒径は、いずれも2.5μm以下であり、結晶粒径差も小さかった。これらは、いずれも、正方晶プライム相を主相とする安定化ジルコニアをマトリックスとする焼結体であった。すなわち、結晶相が正方晶プライム相からなる安定化ジルコニアの焼結体であることが確認できる。実施例19の焼結体は、二軸曲げ強度が745MPaであった。各実施例の焼結体は、結晶粒径差が0.10μm以下であることが確認できた。実施例21乃至26の焼結体は、二軸曲げ強度が800MPa以上であるため、JIS T 6526に基づく4歯以上の連結ブリッジにも適応可能であることが確認できた。
【0262】
実施例26の焼結体のワイブル係数は8.0、実施例27の焼結体のワイブル係数は3.2であった。このように、粉末組成物を調製する際に撹拌所要動力を好ましい範囲とした実施例26の焼結体の方が、実施例27の焼結体よりもワイブル係数を高くすることができた。
【0263】
令和3年9月16日に出願された日本国特許出願2021-150878号の明細書、特許請求の範囲及び要約書の全内容をここに引用し、本開示の明細書の開示として、取り入れる。
図1
図2
図3
図4
図5