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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024161267
(43)【公開日】2024-11-15
(54)【発明の名称】積層造形用粉末
(51)【国際特許分類】
   B28B 1/30 20060101AFI20241108BHJP
   C04B 35/622 20060101ALI20241108BHJP
   B33Y 80/00 20150101ALI20241108BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20241108BHJP
   B33Y 40/20 20200101ALI20241108BHJP
   B33Y 70/10 20200101ALI20241108BHJP
【FI】
B28B1/30
C04B35/622
B33Y80/00
B33Y10/00
B33Y40/20
B33Y70/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】23
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024153965
(22)【出願日】2024-09-06
(62)【分割の表示】P 2024522146の分割
【原出願日】2023-12-20
(31)【優先権主張番号】P 2022208468
(32)【優先日】2022-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2022208408
(32)【優先日】2022-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【識別番号】100202418
【弁理士】
【氏名又は名称】河原 肇
(74)【代理人】
【識別番号】100210697
【弁理士】
【氏名又は名称】日浅 里美
(72)【発明者】
【氏名】山田 裕介
(72)【発明者】
【氏名】都築 宏
(72)【発明者】
【氏名】杉本 洋輝
(57)【要約】
【課題】均一な粉末層を形成し得る良好な敷設性と、バインダー適用から焼結処理までの間に形状を維持できる形状安定性とを両立する適度な流動性、及び粉末材料間にバインダーが入り込むことができ、かつ、焼結時の低収縮率を実現する適度なかさ密度を有する積層造形用粉末の提供。
【解決手段】無機酸化物粉末である積層造形用粉末であって、D10が1.0~4.0μmであり、D50が5.5~9.0μmであり、D90が20.0~40.0μmであり、粒径16.8~60.0μmの粒子の体積割合が15.0~22.0体積%である積層造形用粉末。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機酸化物粉末である積層造形用粉末であって、
D10が1.0~4.0μmであり、D50が5.5~9.0μmであり、D90が20.0~40.0μmであり、
粒径16.8~60.0μmの粒子の体積割合が15.0~22.0体積%である積層造形用粉末。
【請求項2】
粒径2.0μm以上の粒子の体積割合が90.0~100体積%である請求項1に記載の積層造形用粉末。
【請求項3】
D50とD10との比(D50/D10)が2.0~2.2であり、
D90とD10との比(D90/D10)が6.0~8.0である、
請求項1に記載の積層造形用粉末。
【請求項4】
BET比表面積が0.1~10.0m/gである請求項1~3のいずれか1項に記載の積層造形用粉末。
【請求項5】
形状が球状である請求項1~3のいずれか1項に記載の積層造形用粉末。
【請求項6】
アルミナである請求項1~3のいずれか1項に記載の積層造形用粉末。
【請求項7】
98MPaの圧力下でのプレス成形かさ密度が2.52~2.54g/cmである請求項6に記載の積層造形用粉末。
【請求項8】
D50が9.0~25.0μmである粗粒無機酸化物粉末(A)と、
D50が前記粗粒無機酸化物粉末(A)より小さい微粒無機酸化物粉末(B)と
を含み、
前記粗粒無機酸化物粉末(A)と前記微粒無機酸化物粉末(B)の合計体積に対する前記粗粒無機酸化物粉末(A)の体積割合が9.5~29.0体積%である積層造形用粉末。
【請求項9】
前記粗粒無機酸化物粉末(A)の前記微粒無機酸化物粉末(B)に対する粒径体積比率が0.26~1.15である請求項8に記載の積層造形用粉末。
【請求項10】
前記粗粒無機酸化物粉末(A)のD50(D50)と、前記微粒無機酸化物粉末(B)のD50(D50)において、D50-D50≧3.5μmを満たす請求項8又は9に記載の積層造形用粉末。
【請求項11】
D50が9.0~25.0μmである粗粒無機酸化物粉末(A)と、
D50が前記粗粒無機酸化物粉末(A)より小さい微粒無機酸化物粉末(B)と
を含み、
前記粗粒無機酸化物粉末(A)の前記微粒無機酸化物粉末(B)に対する粒径体積比率が0.26~1.15である積層造形用粉末。
【請求項12】
前記粗粒無機酸化物粉末(A)と前記微粒無機酸化物粉末(B)の合計体積に対する前記粗粒無機酸化物粉末(A)の体積割合が9.5~29.0体積%である請求項11に記載の積層造形用粉末。
【請求項13】
前記粗粒無機酸化物粉末(A)のD50(D50)と、前記微粒無機酸化物粉末(B)のD50(D50)において、D50-D50≧3.5μmを満たす請求項11又は12に記載の積層造形用粉末。
【請求項14】
前記微粒無機酸化物粉末(B)のD50が5.0~8.0μmである、請求項8又は11に記載の積層造形用粉末。
【請求項15】
前記粗粒無機酸化物粉末(A)のD50とD10との比(D50/D10)が1.5~3.5であり、
前記粗粒無機酸化物粉末(A)のD90とD10との比(D90/D10)が4.0~7.0である、
請求項8又は11に記載の積層造形用粉末。
【請求項16】
前記粗粒無機酸化物粉末(A)と前記微粒無機酸化物粉末(B)の形状がいずれも球状である請求項8又は11に記載の積層造形用粉末。
【請求項17】
前記粗粒無機酸化物粉末(A)と前記微粒無機酸化物粉末(B)がいずれもアルミナである請求項8又は11に記載の積層造形用粉末。
【請求項18】
98MPaの圧力下でのプレス成形かさ密度が2.52~2.54g/cmである請求項17に記載の積層造形用粉末。
【請求項19】
バインダージェット法に用いる請求項1~3、8、9、11及び12のいずれか一項に記載の積層造形用粉末。
【請求項20】
請求項1~3、8、9、11及び12のいずれか一項に記載の積層造形用粉末の焼結体。
【請求項21】
請求項1~3、8、9、11及び12のいずれか一項に記載の積層造形用粉末に対してバインダーを含む液体を適用して、3次元積層造形体を形成することを含む、バインダージェット式積層造形体の製造方法。
【請求項22】
請求項1~3、8、9、11及び12のいずれか一項に記載の積層造形用粉末に対してバインダーを含む液体を適用して、3次元積層造形体を形成すること、及び
前記3次元積層造形体に、焼結処理を行うこと
を含む、焼結体の製造方法。
【請求項23】
D10が1.0~4.0μmであり、D50が5.5~9.0μmであり、D90が20.0~40.0μmであり、
粒径16.8~60.0μmの粒子の体積割合が15.0~22.0体積%であるアルミナ粉末。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の内容は、積層造形用粉末、その焼結体、及びバインダージェット式積層造形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、アディティブマニュファクチャリング(AM:Additive Manufacturing)技術、3Dプリンティング技術などと称される加工方法が注目されている。これは、目的とする造形体を、その3次元形状のデータに基づいて断面形状を作製し、積層することにより得る技術である。アディティブマニュファクチャリング技術としては、造形ステージにおいて粉末材料にバインダーを噴射して選択的に造形するバインダージェット式(特許文献1)、光硬化性樹脂などをインクジェットノズルから噴射して選択的に造形するマテリアルジェット式、金属粉末などを敷き詰めたパウダーベッドにレーザー又は電子ビームを照射して、選択的に溶融させて造形するパウダーベッド溶融式、液状の光硬化性樹脂と無機粉末とを混合したスラリーに光を照射して造形する光造形法(特許文献2)等の加工方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-117069号公報
【特許文献2】特開2021-11050号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
バインダージェット法は、「3Dインクジェット粉末プリント」という用語でも知られている。この方法は、例えば粉末材料をローラーを用いて造形ステージに供給し、均一な粉末層を形成する工程と、インクジェットプリントヘッドによって、粉末層に液状バインダーを適用し、粉末層の一部を選択的に結合する工程とを有する。これらの工程を繰り返すことにより、目的とする3次元積層造形体を得ることができる。その後、3次元積層造形体は、必要に応じて焼結処理に付される。バインダージェット法では、得られる3次元積層造形体に空隙などの構成材料の分布が不均一である構造が生じる場合がある。これを抑制するために、積層造形用粉末は、造形ステージに円滑に供給でき、均一に敷き詰めることのできる良好な敷設性を有することが望ましい。加えて、積層造形用粉末を高密度で充填することにより、均一性の高い3次元積層造形体を得ることができると考えられる。良好な敷設性と高密度での充填を達成するためには、粉末材料の流動性を高めることが有用である。一方で、バインダー適用時には、粉末層が乱れないこと、及び粉末材料間にバインダーが入り込むことができることも求められる。さらに、焼結時の収縮率が低いことも望まれる。
【0005】
本開示は、積層造形用粉末として、均一な粉末層を形成し得る良好な敷設性と、バインダーの適用から焼結処理までの間に形状を維持できる形状安定性とを両立する適度な流動性、及び粉末材料間にバインダーが入り込むことができ、かつ、焼結時の低収縮率を実現する適度なかさ密度を有する材料を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、積層造形用粉末において、比較的粒径の大きい粒子の体積割合を特定の範囲に制御することにより、積層造形用粉末の流動性とかさ密度を適切な範囲に制御できることを見出した。さらに、本発明者らは、異なる粒度分布を有する2種類の無機酸化物粉末を所定の割合で配合することにより、粉末材料の流動性とかさ密度を適切な範囲に制御できることを見出した。
【0007】
本開示の内容は以下の事項に関する。
[1]
無機酸化物粉末である積層造形用粉末であって、
D10が1.0~4.0μmであり、D50が5.5~9.0μmであり、D90が20.0~40.0μmであり、
粒径16.8~60.0μmの粒子の体積割合が15.0~22.0体積%である積層造形用粉末。
[2]
粒径2.0μm以上の粒子の体積割合が90.0~100体積%である[1]に記載の積層造形用粉末。
[3]
D50とD10との比(D50/D10)が2.0~2.2であり、
D90とD10との比(D90/D10)が6.0~8.0である、
[1]又は[2]に記載の積層造形用粉末。
[4]
BET比表面積が0.1~10.0m/gである[1]~[3]のいずれかに記載の積層造形用粉末。
[5]
形状が球状である[1]~[4]のいずれかに記載の積層造形用粉末。
[6]
アルミナである[1]~[5]のいずれかに記載の積層造形用粉末。
[7]
98MPaの圧力下でのプレス成形かさ密度が2.52~2.54g/cmである[6]に記載の積層造形用粉末。
[8]
バインダージェット法に用いる[1]~[7]のいずれかに記載の積層造形用粉末。
[9]
[1]~[7]のいずれかに記載の積層造形用粉末の焼結体。
[10]
[1]~[7]のいずれかに記載の積層造形用粉末に対してバインダーを含む液体を適用して、3次元積層造形体を形成することを含む、バインダージェット式積層造形体の製造方法。
[11]
[1]~[7]のいずれかに記載の積層造形用粉末に対してバインダーを含む液体を適用して、3次元積層造形体を形成すること、及び
前記3次元積層造形体に、焼結処理を行うこと
を含む、焼結体の製造方法。
[12]
D50が9.0~25.0μmである粗粒無機酸化物粉末(A)と、
D50が前記粗粒無機酸化物粉末(A)より小さい微粒無機酸化物粉末(B)と
を含み、
前記粗粒無機酸化物粉末(A)と前記微粒無機酸化物粉末(B)の合計体積に対する前記粗粒無機酸化物粉末(A)の体積割合が9.5~29.0体積%である積層造形用粉末。
[13]
前記粗粒無機酸化物粉末(A)の前記微粒無機酸化物粉末(B)に対する粒径体積比率が0.26~1.15である[12]に記載の積層造形用粉末。
[14]
前記粗粒無機酸化物粉末(A)のD50(D50)と、前記微粒無機酸化物粉末(B)のD50(D50)において、D50-D50≧3.5μmを満たす[12]又は[13]に記載の積層造形用粉末。
[15]
D50が9.0~25.0μmである粗粒無機酸化物粉末(A)と、
D50が前記粗粒無機酸化物粉末(A)より小さい微粒無機酸化物粉末(B)と
を含み、
前記粗粒無機酸化物粉末(A)の前記微粒無機酸化物粉末(B)に対する粒径体積比率が0.26~1.15である積層造形用粉末。
[16]
前記粗粒無機酸化物粉末(A)と前記微粒無機酸化物粉末(B)の合計体積に対する前記粗粒無機酸化物粉末(A)の体積割合が9.5~29.0体積%である[15]に記載の積層造形用粉末。
[17]
前記粗粒無機酸化物粉末(A)のD50(D50)と、前記微粒無機酸化物粉末(B)のD50(D50)において、D50-D50≧3.5μmを満たす[15]又は[16]に記載の積層造形用粉末。
[18]
前記微粒無機酸化物粉末(B)のD50が5.0~8.0μmである、[12]~[17]のいずれかに記載の積層造形用粉末。
[19]
前記粗粒無機酸化物粉末(A)のD50とD10との比(D50/D10)が1.5~3.5であり、
前記粗粒無機酸化物粉末(A)のD90とD10との比(D90/D10)が4.0~7.0である、
[12]~[18]のいずれかに記載の積層造形用粉末。
[20]
前記粗粒無機酸化物粉末(A)と前記微粒無機酸化物粉末(B)の形状がいずれも球状である[12]~[19]のいずれかに記載の積層造形用粉末。
[21]
前記粗粒無機酸化物粉末(A)と前記微粒無機酸化物粉末(B)がいずれもアルミナである[12]~[20]のいずれかに記載の積層造形用粉末。
[22]
98MPaの圧力下でのプレス成形かさ密度が2.52~2.54g/cmである[21]に記載の積層造形用粉末。
[23]
バインダージェット法に用いる[12]~[22]のいずれかに記載の積層造形用粉末。
[24]
[12]~[23]のいずれかに記載の積層造形用粉末の焼結体。
[25]
[12]~[23]のいずれかに記載の積層造形用粉末に対してバインダーを含む液体を適用して、3次元積層造形体を形成することを含む、バインダージェット式積層造形体の製造方法。
[26]
[12]~[23]のいずれかに記載の積層造形用粉末に対してバインダーを含む液体を適用して、3次元積層造形体を形成すること、及び
前記3次元積層造形体に、焼結処理を行うこと
を含む、焼結体の製造方法。
[27]
D10が1.0~4.0μmであり、D50が5.5~9.0μmであり、D90が20.0~40.0μmであり、
粒径16.8~60.0μmの粒子の体積割合が15.0~22.0体積%であるアルミナ粉末。
[28]
粒径2.0μm以上の粒子の体積割合が90.0~100体積%である[27]に記載のアルミナ粉末。
[29]
D50とD10との比(D50/D10)が2.0~2.2であり、
D90とD10との比(D90/D10)が6.0~8.0である、
[27]又は[28]に記載のアルミナ粉末。
[30]
BET比表面積が0.1~10.0m/gである[27]~[29]のいずれかに記載のアルミナ粉末。
[31]
形状が球状である[27]~[30]のいずれかに記載のアルミナ粉末。
[32]
98MPaの圧力下でのプレス成形かさ密度が2.52~2.54g/cmである[27]~[31]のいずれかに記載のアルミナ粉末。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、均一な粉末層を形成し得る良好な敷設性と、バインダーの適用から焼結処理までの間に形状を維持できる形状安定性とを両立する適度な流動性、及び粉末材料間にバインダーが入り込むことができ、かつ、焼結時の低収縮率を実現する適度なかさ密度を有する積層造形用粉末を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は本発明の代表的な例を示したものであり、それらに限定されるものではない。
【0010】
本明細書では、数値範囲について「~」を使用する場合には、両端の数値は、それぞれ上限値及び下限値であり、数値範囲に含まれる。上限値又は下限値が複数記載されている場合は、上限値と下限値の全ての組み合わせから数値範囲を作ることができる。同様に、複数の数値範囲が記載されている場合は、それらの数値範囲から上限値と下限値を個別に選択して組み合わせることで、別個の数値範囲を作ることができる。
【0011】
本明細書においてD10、D50、及びD90はそれぞれ、電気抵抗法式粒子径分布測定装置(ベックマン・コールター社、マルチサイザー4)を用いてアパチャーサイズを100μmとして測定した体積基準累積粒度分布における10%粒子径、50%粒子径、及び90%粒子径である。
【0012】
本明細書においてプレス成形かさ密度とは、円形の型枠内に試料を詰め、市販のプレス機にて所定の圧力下で加圧して成形した成形体の密度を意味する。プレス成形かさ密度は、ローラー等により粉末の薄層を形成した場合の粉末層のかさ密度の指標となる値である。
【0013】
本明細書において安息角は、JIS R 9301-2-2:1999(アルミナ粉末-第2部:物性測定方法-2:安息角)にて測定し、算出した値である。
【0014】
本明細書においてBET比表面積は、JIS R 1626:1996(ファインセラミックス粉体の気体吸着BET法による比表面積の測定方法)の「6.2 流動法 (3.5)一点法」に準拠して測定し、算出した値である。測定は、前処理としてサンプルを180℃に加熱し、20分間窒素ガスを流した後、吸着質として窒素ガスを用いて行う。
【0015】
本明細書において円形度は、粒子の投影図の面積をS、周囲長をLとしたときに、5000個の粒子について下記式(1)により算出される値の平均値である。
4πS/L (1)
【0016】
本明細書において粗粒無機酸化物粉末(A)及び微粒無機酸化物粉末(B)の体積割合は、以下のとおり材料の仕込み質量と真密度から算出した値である。配合した粗粒無機酸化物粉末(A)の質量/粗粒無機酸化物粉末(A)の真密度から粗粒無機酸化物粉末(A)の体積VAを求める。配合した微粒無機酸化物粉末(B)の質量/微粒無機酸化物粉末(B)の真密度から微粒無機酸化物粉末(B)の体積VBを求める。これらの値を用い、VA/(VA+VB)から粗粒無機酸化物粉末(A)の体積割合を求め、VB/(VA+VB)から微粒無機酸化物粉末(B)の体積割合を求める。
【0017】
本明細書において粒径体積比率は、下記式(2)により算出される値である。
(粗粒無機酸化物粉末(A)の体積割合×粗粒無機酸化物粉末(A)のD50)/(微粒無機酸化物粉末(B)の体積割合×微粒無機酸化物粉末(B)のD50) (2)
【0018】
<積層造形用粉末>
積層造形用粉末は、無機酸化物粉末であり、そのD10は1.0~4.0μmであり、D50は5.5~9.0μmであり、D90は20.0~40.0μmである。積層造形用粉末において、粒径16.8~60.0μmの粒子の体積割合は15.0~22.0体積%である。本発明者らは、D50が5.5~9.0μmである積層造形用粉末において、粒径16.8~60.0μmの粒子が、積層造形用粉末の流動性とかさ密度の向上に寄与することを見出した。したがって、粒径16.8~60.0μmの粒子の体積割合を特定の範囲に制御することにより、粉末材料の流動性とかさ密度の良好なバランスを達成できることを見出した。
【0019】
積層造形用粉末のD50は、5.5μm以上であり、好ましくは6.0μm以上であり、より好ましくは6.5μm以上である。積層造形用粉末のD50は、9.0μm以下であり、好ましくは8.5μm以下であり、より好ましくは8.0μm以下である。積層造形用粉末のD50は、5.5~9.0μmであり、好ましくは6.0~8.5μmであり、より好ましくは6.5~8.0μmである。積層造形用粉末のD50が5.5μm以上であれば、積層造形用粉末により形成された粉末層の形状安定性が良好であり、かつ、焼結時の収縮率を低減することができる。積層造形用粉末のD50が9.0μm以下であれば、かさ密度と流動性を適切な範囲とすることができる。
【0020】
積層造形用粉末のD10は、1.0μm以上であり、好ましくは2.0μm以上であり、より好ましくは3.0μm以上である。積層造形用粉末のD10は、4.0μm以下であり、好ましくは3.8μm以下であり、より好ましくは3.6μm以下である。積層造形用粉末のD10は、1.0~4.0μmであり、好ましくは2.0~3.8μmであり、より好ましくは3.0~3.6μmである。積層造形用粉末のD10が1.0μm以上であれば、焼結時の収縮率を低減することができる。積層造形用粉末のD10が4.0μm以下であれば、かさ密度と流動性を適切な範囲とすることができる。
【0021】
積層造形用粉末のD90は、20.0μm以上であり、好ましくは20.5μm以上であり、より好ましくは21.0μm以上である。積層造形用粉末のD90は、40.0μm以下であり、好ましくは30.0μm以下であり、より好ましくは25.0μm以下である。積層造形用粉末のD90は、20.0~40.0μmであり、好ましくは20.5~30.0μmであり、より好ましくは21.0~25.0μmである。積層造形用粉末のD90が20.0μm以上であれば、積層造形用粉末により形成された粉末層の形状安定性が良好である。積層造形用粉末のD90が40.0μm以下であれば、積層造形用粉末により形成された粉末層の均一性が良好である。
【0022】
積層造形用粉末における粒径16.8~60.0μmの粒子の体積割合は、15.0~体積%以上であり、好ましくは15.5体積%以上であり、より好ましくは16.0体積%以上である。積層造形用粉末における粒径16.8~60.0μmの粒子の体積割合は、22.0体積%以下であり、好ましくは21.0体積%以下であり、より好ましくは20.0体積%以下である。積層造形用粉末における粒径16.8~60.0μmの粒子の体積割合は、15.0~22.0体積%であり、好ましくは15.5~21.0体積%であり、より好ましくは16.0~20.0体積%である。粒径16.8~60.0μmの粒子の体積割合が上記範囲であれば、積層造形用粉末の適度な流動性が期待できる。積層造形用粉末における粒径16.8~60.0μmの粒子の体積割合は、電気抵抗法式粒子径分布測定装置(ベックマン・コールター社、マルチサイザー4)を用いてアパチャーサイズを100μmとして測定し、決定される値である。
【0023】
積層造形用粉末における粒径2.0μm以上の粒子の体積割合は、好ましくは90.0~100体積%であり、より好ましくは93.0~100体積%であり、更に好ましくは95.0~100体積%である。粒径2.0μm以上の粒子の体積割合が90.0体積%以上であれば、焼結時の収縮率を低減することができる。積層造形用粉末における粒径2.0μm以上の粒子の体積割合は、レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社、MT3300EXII)によって決定される値である。
【0024】
積層造形用粉末のD50とD10との比(D50/D10)は、好ましくは2.0~2.2である。D50/D10が上記範囲であれば、積層造形用粉末として、均一な粉末層を形成し得る良好な敷設性と、バインダーの適用から焼結処理までの間に形状を維持できる形状安定性とを両立する適度な流動性が期待できる。
【0025】
積層造形用粉末のD90とD10との比(D90/D10)は、好ましくは6.0以上であり、より好ましくは6.2以上であり、更に好ましくは6.5以上である。積層造形用粉末のD90とD10との比(D90/D10)は、好ましくは8.0以下であり、より好ましくは7.5以下であり、更に好ましくは7.0以下である。積層造形用粉末のD90とD10との比(D90/D10)は、好ましくは6.0~8.0であり、より好ましくは6.2~7.5であり、更に好ましくは6.5~7.0である。D90/D10が8.0以下であれば、粉末の粒度分布が一定の範囲に収まっていることで粗粒の周囲に微粒が適度に配置され、流動性を適切にできる。D90/D10が6.0以上であれば、粗粒間に微粒が適度に配置され、かさ密度を適切にできる。
【0026】
積層造形用粉末のD90とD50との比(D90/D50)は、好ましくは2.8~3.6であり、より好ましくは2.9~3.5であり、更に好ましくは3.2~3.4である。D90/D50が3.6以下であれば、粉末の粒度分布が一定の範囲に収まっていることで粗粒の周囲に微粒が適度に配置され、流動性を適切にできる。D90/D50が2.8以上であれば、粗粒間に微粒が適度に配置され、かさ密度を適切にできる。
【0027】
積層造形用粉末の安息角は、好ましくは55~58度であり、より好ましくは56~57度である。安息角は、粉末の流動性を示す指標の1つである。積層造形用粉末の安息角が55度以上であれば、積層造形用粉末により形成された粉末層の形状安定性が良好である。積層造形用粉末の安息角が58度以下であれば、積層造形用粉末を造形ステージに円滑に供給し、均一に敷き詰めることができる。
【0028】
積層造形用粉末のBET比表面積は、好ましくは0.1m/g以上であり、より好ましくは0.2m/g以上である。積層造形用粉末のBET比表面積は、好ましくは10.0m/g以下であり、より好ましくは5.0m/g以下であり、更に好ましくは2.0m/g以下である。積層造形用粉末のBET比表面積は、好ましくは0.1~10.0m/gであり、より好ましくは0.1~5.0m/gであり、更に好ましくは0.2~2.0m/gである。BET比表面積が0.1m/g以上であれば、積層造形用粉末により形成された粉末層の形状安定性が良好である。BET比表面積が10.0m/g以下であれば、積層造形用粉末を造形ステージに円滑に供給し、均一に敷き詰めることができる。
【0029】
積層造形用粉末の形状は、特に限定されない。例えば、球状、楕円体、鱗片状、不定形等が挙げられる。中でも、適切なかさ密度が得られやすいため、球状が好ましい。この観点から積層造形用粉末の円形度は、好ましくは0.80以上であり、より好ましくは0.90以上であり、更に好ましくは0.95以上である。積層造形用粉末の円形度の上限は、特に制限されないが、例えば、1.00、又は0.99としてよい。円形度が0.80以上であれば、プレス成形かさ密度を高くすることができる。
【0030】
積層造形用粉末は、好ましくはシリカ、アルミナ、ジルコニア、及びチタニアから選択される少なくとも一種であり、より好ましくはアルミナであり、より好ましくは球状アルミナである。アルミナは、熱伝導性、融点、及び硬度が高く、安価であり、酸及びアルカリに強い点で好ましい。積層造形用粉末中のアルミナの体積割合は、好ましくは50体積%以上、より好ましくは60体積%以上、更に好ましくは80体積%以上である。積層造形用粉末中のアルミナの体積割合の上限は、特に限定されない。例えば、100体積%、98体積%、又は95体積%としてよい。
【0031】
積層造形用粉末がアルミナである場合、積層造形用粉末の98MPaの圧力下でのプレス成形かさ密度は、好ましくは2.52~2.54g/cmである。積層造形用粉末の98MPaの圧力下でのプレス成形かさ密度が2.52g/cm以上であれば、焼結時の寸法安定性が良好である。積層造形用粉末の98MPaの圧力下でのプレス成形かさ密度が2.54g/cm以下であれば、バインダー適用時にバインダーが粉末材料間に入り込みやすく、造形体及び焼結体の強度を十分にできる。
【0032】
積層造形用粉末は、良好な敷設性及び粉末層の形状安定性、並びに適切なかさ密度を有するため、バインダージェット法に好適に用いられる。積層造形用粉末は、粉末材料を敷き詰めたパウダーベッドにレーザー又は電子ビームを照射して、選択的に溶融させて造形するパウダーベッド溶融法、及び他の粉末積層造形法にも適用することができる。
【0033】
積層造形用粉末は、積層造形法以外の他の用途にも適用することができる。積層造形用粉末は、例えば、放熱塗料、遮熱塗料及び耐摩耗性塗料等の塗料中のフィラー、接着性を有する熱伝導性樹脂組成物中のフィラー、並びに大気中で硬化する機能を有する熱伝導性コーティング材料中のフィラーとして使用することができる。
【0034】
一実施態様の無機酸化物粉末は、D10が1.0~4.0μmであり、D50が5.5~9.0μmであり、D90が20.0~40.0μmであり、粒径16.8~60.0μmの粒子の体積割合が15.0~22.0体積%であるアルミナ粉末である。
【0035】
<積層造形用粉末の製造方法>
積層造形用粉末は、例えば、積層造形用粉末の粒度分布が所定の範囲となるように、異なる粒度分布を有する複数の無機酸化物粉末を混合することにより製造することができる。ふるい分け等により積層造形用粉末の粒度分布を調整してもよい。積層造形用粉末の粒度分布は、配合する無機酸化物粉末の種類(粒度分布)及び配合量を選択することにより、適切な範囲に調整することができる。材料の混合方法は特に限定されず、例えば、材料を乾式混合又は湿式混合する方法が挙げられる。混合は、手動で行ってもよいし、ブレンダーを使用してもよい。
【0036】
より具体的な積層造形用粉末の製造方法として、例えば、以下に示す粗粒無機酸化物粉末(A)と、D50が粗粒無機酸化物粉末(A)より小さい微粒無機酸化物粉末(B)とを混合する方法が挙げられる。
【0037】
[粗粒無機酸化物粉末(A)]
好ましく用いられる粗粒無機酸化物粉末(A)のD50は、9.0~25.0μmであり、より好ましくは12.0~20.0μmであり、更に好ましくは14.0~18.0μmである。粗粒無機酸化物粉末(A)のD10は、好ましくは1.0~8.0μmであり、より好ましくは2.0~7.5μmであり、更に好ましくは3.0~7.0μmである。粗粒無機酸化物粉末(A)のD90は、好ましくは28.0~40.0μmであり、より好ましくは28.5~38.0μmであり、更に好ましくは29.0~36.0μmである。
【0038】
粗粒無機酸化物粉末(A)のD50とD10との比(D50/D10)は、好ましくは1.5~3.5であり、より好ましくは1.7~3.2であり、更に好ましくは2.0~3.0である。粗粒無機酸化物粉末(A)のD90とD10との比(D90/D10)は、好ましくは3.5~9.0であり、より好ましくは4.0~7.0であり、更に好ましくは4.5~6.0である。粗粒無機酸化物粉末(A)のD90とD50との比(D90/D50)は、好ましくは1.7~2.3であり、より好ましくは1.8~2.2であり、更に好ましくは1.9~2.0である。
【0039】
粗粒無機酸化物粉末(A)の形状は、特に限定されない。例えば、球状、楕円体、鱗片状、不定形等が挙げられる。中でも、適切なかさ密度が得られやすいため、球状が好ましい。
【0040】
粗粒無機酸化物粉末(A)は、好ましくはシリカ、アルミナ、ジルコニア、及びチタニアから選択される少なくとも一種であり、より好ましくはアルミナであり、更に好ましくは球状アルミナである。粗粒無機酸化物粉末(A)中のアルミナの体積割合は、好ましくは50体積%以上、より好ましくは60体積%以上、更に好ましくは80体積%以上である。粗粒無機酸化物粉末(A)中のアルミナの体積割合の上限は、特に限定されない。例えば、100体積%、98体積%、又は95体積%としてよい。
【0041】
[微粒無機酸化物粉末(B)]
微粒無機酸化物粉末(B)のD50は、粗粒無機酸化物粉末(A)のD50より小さい。好ましく用いられる微粒無機酸化物粉末(B)のD50は、5.0~8.0μmであり、より好ましくは5.5~7.8μmであり、更に好ましくは6.0~7.5μmである。微粒無機酸化物粉末(B)のD10は、好ましくは1.0~4.0μmであり、より好ましくは2.0~3.8μmであり、更に好ましくは2.5~3.5μmである。微粒無機酸化物粉末(B)のD90は、好ましくは9.0~25.0μmであり、より好ましくは12.0~24.0μmであり、更に好ましくは14.0~23.0μmである。
【0042】
微粒無機酸化物粉末(B)のD50とD10との比(D50/D10)は、好ましくは1.5~5.0であり、より好ましくは1.7~4.0であり、更に好ましくは1.8~3.0である。微粒無機酸化物粉末(B)のD90とD10との比(D90/D10)は、好ましくは3.5~9.0であり、より好ましくは4.5~8.0であり、更に好ましくは5.5~7.0である。微粒無機酸化物粉末(B)のD90とD50との比(D90/D50)は、好ましくは2.5~3.5であり、より好ましくは2.8~3.2であり、更に好ましくは2.7~2.9である。
【0043】
微粒無機酸化物粉末(B)の形状は、特に限定されない。例えば、球状、楕円体、鱗片状、不定形等が挙げられる。中でも、適切なかさ密度が得られやすいため、球状が好ましい。
【0044】
微粒無機酸化物粉末(B)は、好ましくはシリカ、アルミナ、ジルコニア、及びチタニアから選択される少なくとも一種であり、より好ましくはアルミナであり、更に好ましくは球状アルミナである。微粒無機酸化物粉末(B)中のアルミナの体積割合は、好ましくは50体積%以上、より好ましくは60体積%以上、更に好ましくは80体積%以上である。微粒無機酸化物粉末(B)中のアルミナの体積割合の上限は、特に限定されない。例えば、100体積%、98体積%、又は95体積%としてよい。
【0045】
粗粒無機酸化物粉末(A)と微粒無機酸化物粉末(B)の合計体積に対する粗粒無機酸化物粉末(A)の体積割合は、積層造形用粉末の粒度分布が適切な範囲となるように選択されるが、例えば9.5~29.0体積%としてよい。
【0046】
<積層造形用粉末>
粉末材料をローラー等により広げる粉末積層造形法においては、材料のプレス成形かさ密度が重要である。D50がより小さい無機酸化物粉末は、D50がより大きい無機酸化物粉末に比べてかさ密度が低く、流動性が低い傾向がある。本発明者らは、D50が粗粒無機酸化物粉末(A)より小さい微粒無機酸化物粉末(B)に対して、少量の粗粒無機酸化物粉末(A)を配合することで、粉末材料の流動性とかさ密度の良好なバランスを達成できることを見出した。これは、粗粒の隙間に微粒を充填してかさ密度を高めようとする従来の粉末材料の設計思想とは全く異なるものである。
【0047】
粗粒無機酸化物粉末(A)のD50(D50)と、微粒無機酸化物粉末(B)のD50(D50)において、積層造形用粉末は、D50-D50≧3.5μmを満たすことが好ましい。この範囲であると、粗粒無機酸化物粉末(A)と微粒無機酸化物粉末(B)のそれぞれの粒子の優れた点が効果を発揮し、流動性とかさ密度のバランスのよい粉末が得られる。同様の観点からD50-D50≧5.5μmがより好ましく、D50-D50≧7.5μmがさらに好ましい。D50-D50の上限は、12.0μm、15.0μm、又は19.0μmとしてよい。
【0048】
第1の実施態様において、積層造形用粉末は、D50が9.0~25.0μmである粗粒無機酸化物粉末(A)と、D50が粗粒無機酸化物粉末(A)より小さい微粒無機酸化物粉末(B)とを含み、粗粒無機酸化物粉末(A)と微粒無機酸化物粉末(B)の合計体積に対する粗粒無機酸化物粉末(A)の体積割合は9.5~29.0体積%である。
【0049】
この実施態様において、粗粒無機酸化物粉末(A)と微粒無機酸化物粉末(B)の合計体積に対する粗粒無機酸化物粉末(A)の体積割合は、9.5~29.0体積%であり、好ましくは10.5~20.0体積%であり、より好ましくは11.6~15.0体積%である。粗粒無機酸化物粉末(A)と微粒無機酸化物粉末(B)の合計体積に対する粗粒無機酸化物粉末(A)の体積割合は、9.5体積%以上であり、好ましくは10.5体積%以上であり、より好ましくは11.6体積%以上である。粗粒無機酸化物粉末(A)と微粒無機酸化物粉末(B)の合計体積に対する粗粒無機酸化物粉末(A)の体積割合は、29.0体積%以下であり、好ましくは20.0体積%以下であり、より好ましくは15.0体積%以下である。上記体積割合が9.5体積%以上であれば、かさ密度を高くし、積層造形用粉末として適切な範囲とすることができる。上記体積割合が29.0体積%以下であれば、流動性を抑え、積層造形用粉末として適切な範囲とすることができる。
【0050】
この実施態様において、粗粒無機酸化物粉末(A)の微粒無機酸化物粉末(B)に対する粒径体積比率は、好ましくは0.26~1.15であり、より好ましくは0.27~0.74であり、更に好ましくは0.29~0.32である。粗粒無機酸化物粉末(A)の微粒無機酸化物粉末(B)に対する粒径体積比率は、好ましくは0.26以上であり、より好ましくは0.27以上であり、更に好ましくは0.29以上である。粗粒無機酸化物粉末(A)の微粒無機酸化物粉末(B)に対する粒径体積比率は、好ましくは1.15以下であり、より好ましくは0.74以下であり、更に好ましくは0.32以下である。上記粒径体積比率が0.26以上であれば、かさ密度を高くし、積層造形用粉末として適切な範囲とすることができる。粒径体積比率が1.15以下であれば、流動性を抑え、積層造形用粉末として適切な範囲とすることができる。
【0051】
第2の実施態様において、積層造形用粉末は、D50が9.0~25.0μmである粗粒無機酸化物粉末(A)と、D50が粗粒無機酸化物粉末(A)より小さい微粒無機酸化物粉末(B)とを含み、粗粒無機酸化物粉末(A)の微粒無機酸化物粉末(B)に対する粒径体積比率は0.26~1.15である。
【0052】
この実施態様において、粗粒無機酸化物粉末(A)の微粒無機酸化物粉末(B)に対する粒径体積比率は、0.26~1.15であり、好ましくは0.27~0.74であり、より好ましくは0.29~0.32である。粗粒無機酸化物粉末(A)の微粒無機酸化物粉末(B)に対する粒径体積比率は、0.26以上であり、好ましくは0.27以上であり、より好ましくは0.29以上である。粗粒無機酸化物粉末(A)の微粒無機酸化物粉末(B)に対する粒径体積比率は、1.15以下であり、好ましくは0.74以下であり、より好ましくは0.32以下である。上記粒径体積比率が0.26以上であれば、かさ密度を高くし、積層造形用粉末として適切な範囲とすることができる。粒径体積比率が1.15以下であれば、流動性を抑え、積層造形用粉末として適切な範囲とすることができる。
【0053】
この実施態様において、粗粒無機酸化物粉末(A)と微粒無機酸化物粉末(B)の合計体積に対する粗粒無機酸化物粉末(A)の体積割合は、好ましくは9.5~29.0体積%であり、より好ましくは10.5~20.0体積%であり、更に好ましくは12.0~15.0体積%である。粗粒無機酸化物粉末(A)と微粒無機酸化物粉末(B)の合計体積に対する粗粒無機酸化物粉末(A)の体積割合は、好ましくは9.5体積%以上であり、より好ましくは10.5体積%以上であり、更に好ましくは12.0体積%以上である。粗粒無機酸化物粉末(A)と微粒無機酸化物粉末(B)の合計体積に対する粗粒無機酸化物粉末(A)の体積割合は、好ましくは29.0体積%以下であり、より好ましくは20.0体積%以下であり、更に好ましくは15.0体積%以下である。上記体積割合が9.5体積%以上であれば、かさ密度を高くし、積層造形用粉末として適切な範囲とすることができる。体積割合が29.0体積%以下であれば、流動性を抑え、積層造形用粉末として適切な範囲とすることができる。
【0054】
積層造形用粉末のD50は、好ましくは5.5~9.0μmであり、より好ましくは6.0~8.5μmであり、更に好ましくは6.5~8.0μmである。積層造形用粉末のD50が5.5μm以上であれば、積層造形用粉末により形成された粉末層の形状安定性がより良好であり、かつ、焼結時の収縮率を低減することができる。積層造形用粉末のD50が9.0μm以下であれば、かさ密度と流動性を適切な範囲とすることができる。
【0055】
積層造形用粉末のD10は、好ましくは1.0~4.0μmであり、より好ましくは2.0~3.8μmであり、更に好ましくは3.0~3.6μmである。積層造形用粉末のD10が1.0μm以上であれば、焼結時の収縮率を低減することができる。積層造形用粉末のD10が4.0μm以下であれば、かさ密度と流動性を適切な範囲とすることができる。
【0056】
積層造形用粉末のD90は、好ましくは20.0~40.0μmであり、より好ましくは20.5~30.0μmであり、更に好ましくは21.0~25.0μmである。積層造形用粉末のD90が20.0μm以上であれば、積層造形用粉末により形成された粉末層の形状安定性がより良好である。積層造形用粉末のD90が40.0μm以下であれば、積層造形用粉末により形成された粉末層の均一性がより良好である。
【0057】
積層造形用粉末における粒径16.8~60.0μmの粒子の体積割合は、好ましくは15.0~26.0体積%であり、より好ましくは15.0~22.0体積%であり、更に好ましくは16.0~20.0体積%である。粒径16.8~60.0μmの粒子の体積割合が上記範囲であれば、粉末材料の適度な流動性が期待できる。積層造形用粉末における粒径16.8~60.0μmの粒子の体積割合は、電気抵抗法式粒子径分布測定装置(ベックマン・コールター社、マルチサイザー4)を用いてアパチャーサイズを100μmとして測定し、決定される値である。
【0058】
積層造形用粉末における粒径2.0μm以上の粒子の体積割合は、好ましくは90.0~100体積%であり、より好ましくは93.0~100体積%であり、更に好ましくは95.0~100体積%である。粒径2.0μm以上の粒子の体積割合が90.0体積%以上であれば、焼結時の収縮率を低減することができる。積層造形用粉末における粒径2.0μm以上の粒子の体積割合は、レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社、MT3300EXII)によって決定される値である。
【0059】
積層造形用粉末のD50とD10との比(D50/D10)は、好ましくは2.0~2.2である。D50/D10が上記範囲であれば、積層造形用粉末として、均一な粉末層を形成し得る良好な敷設性と、バインダーの適用から焼結処理までの間に形状を維持できる形状安定性とを両立する適度な流動性が期待できる。
【0060】
積層造形用粉末のD90とD10との比(D90/D10)は、好ましくは6.0~8.0であり、より好ましくは6.2~7.5であり、更に好ましくは6.5~7.0である。D90/D10が8.0以下であれば、粉末の粒度分布が一定の範囲に収まっていることで粗粒の周囲に微粒が適度に配置され、流動性を適切にできる。D90/D10が6.0以上であれば、粗粒間に微粒が適度に配置され、かさ密度を適切にできる。
【0061】
積層造形用粉末のD90とD50との比(D90/D50)は、好ましくは2.8~3.6であり、より好ましくは2.9~3.5であり、更に好ましくは3.2~3.4である。D90/D50が3.6以下であれば、粉末の粒度分布が一定の範囲に収まっていることで粗粒の周囲に微粒が適度に配置され、流動性を適切にできる。D90/D50が2.8以上であれば、粗粒間に微粒が適度に配置され、かさ密度を適切にできる。
【0062】
積層造形用粉末の安息角は、好ましくは55~58度であり、より好ましくは56~57度である。安息角は、粉末の流動性を示す指標の1つである。積層造形用粉末の安息角が55度以上であれば、積層造形用粉末により形成された粉末層の形状安定性が良好である。積層造形用粉末の安息角が58度以下であれば、積層造形用粉末を造形ステージに円滑に供給し、均一に敷き詰めることができる。
【0063】
積層造形用粉末のBET比表面積は、好ましくは0.1~10.0m/gであり、より好ましくは0.1~5.0m/gであり、更に好ましくは0.2~2.0m/gである。BET比表面積が0.1m/g以上であれば、積層造形用粉末により形成された粉末層の形状安定性が良好である。BET比表面積が10.0m/g以下であれば、積層造形用粉末を造形ステージに円滑に供給し、均一に敷き詰めることができる。
【0064】
積層造形用粉末の形状は、特に限定されない。例えば、球状、楕円体、鱗片状、不定形等が挙げられる。中でも、適切なかさ密度が得られやすいため、球状が好ましい。この観点から積層造形用粉末の円形度は、好ましくは0.80以上であり、より好ましくは0.90以上であり、更に好ましくは0.95以上である。積層造形用粉末の円形度の上限は、特に制限されないが、例えば、1.00、又は0.99としてよい。円形度が0.80以上であれば、プレス成形かさ密度を高くすることができる。
【0065】
積層造形用粉末は、好ましくはシリカ、アルミナ、ジルコニア、及びチタニアから選択される少なくとも一種であり、より好ましくはアルミナであり、より好ましくは球状アルミナである。アルミナは、熱伝導性、融点、及び硬度が高く、安価であり、酸及びアルカリに強い点で好ましい。積層造形用粉末中のアルミナの体積割合は、好ましくは50体積%以上、より好ましくは60体積%以上、更に好ましくは80体積%以上である。積層造形用粉末中のアルミナの体積割合の上限は、特に限定されない。例えば、100体積%、98体積%、又は95体積%としてよい。
【0066】
積層造形用粉末がアルミナである場合、積層造形用粉末の98MPaの圧力下でのプレス成形かさ密度は、好ましくは2.52~2.54g/cmである。積層造形用粉末の98MPaの圧力下でのプレス成形かさ密度が2.52g/cm以上であれば、焼結時の寸法安定性が良好である。積層造形用粉末の98MPaの圧力下でのプレス成形かさ密度が2.54g/cm以下であれば、バインダー適用時にバインダーが粉末材料間に入り込みやすく、造形体及び焼結体の強度を十分にできる。
【0067】
積層造形用粉末は、良好な敷設性及び粉末層の形状安定性、並びに適切なかさ密度を有するため、バインダージェット法に好適に用いられる。積層造形用粉末は、粉末材料を敷き詰めたパウダーベッドにレーザー又は電子ビームを照射して、選択的に溶融させて造形するパウダーベッド溶融法、及び他の粉末積層造形法にも適用することができる。
【0068】
積層造形用粉末は、積層造形法以外の他の用途にも適用することができる。積層造形用粉末は、例えば、放熱塗料、遮熱塗料及び耐摩耗性塗料等の塗料中のフィラー、接着性を有する熱伝導性樹脂組成物中のフィラー、並びに大気中で硬化する機能を有する熱伝導性コーティング材料中のフィラーとして使用することができる。
【0069】
[粗粒無機酸化物粉末(A)]
粗粒無機酸化物粉末(A)のD50は、9.0μm以上であり、好ましくは12.0μm以上であり、より好ましくは14.0μm以上である。粗粒無機酸化物粉末(A)のD50は、25.0μm以下であり、好ましくは20.0μm以下であり、より好ましくは18.0μm以下である。粗粒無機酸化物粉末(A)のD50は、9.0~25.0μmであり、好ましくは12.0~20.0μmであり、より好ましくは14.0~18.0μmである。粗粒無機酸化物粉末(A)のD50が9.0μm以上であれば、積層造形用粉末を高密度で充填しやすくなる。粗粒無機酸化物粉末(A)のD50が25.0μm以下であれば、積層造形用粉末の安息角を適切な範囲に制御することができる。
【0070】
粗粒無機酸化物粉末(A)のD10は、好ましくは1.0~8.0μmであり、より好ましくは2.0~7.5μmであり、更に好ましくは3.0~7.0μmである。粗粒無機酸化物粉末(A)のD10が1.0μm以上であれば、焼結時の収縮率を低減することができる。粗粒無機酸化物粉末(A)のD10が8.0μm以下であれば、粉末材料の適度な流動性が期待できる。
【0071】
粗粒無機酸化物粉末(A)のD90は、好ましくは28.0~40.0μmであり、より好ましくは28.5~38.0μmであり、更に好ましくは29.0~36.0μmである。粗粒無機酸化物粉末(A)のD90が28.0μm以上であれば、積層造形用粉末により形成された造形体の密度を高くでき、形状安定性がより良好である。粗粒無機酸化物粉末(A)のD90が40.0μm以下であれば、積層造形用粉末により形成された粉末層の均一性がより良好である。
【0072】
粗粒無機酸化物粉末(A)のD50とD10との比(D50/D10)は、好ましくは1.5以上であり、より好ましくは1.7以上であり、更に好ましくは2.0以上である。粗粒無機酸化物粉末(A)のD50とD10との比(D50/D10)は、好ましくは3.5以下であり、より好ましくは3.2以下であり、更に好ましくは3.0以下である。粗粒無機酸化物粉末(A)のD50とD10との比(D50/D10)は、好ましくは1.5~3.5であり、より好ましくは1.7~3.2であり、更に好ましくは2.0~3.0である。D50/D10が上記範囲であれば、プレス成形かさ密度の向上が期待できる。
【0073】
粗粒無機酸化物粉末(A)のD90とD10との比(D90/D10)は、好ましくは4.0以上であり、より好ましくは4.5以上であり、更に好ましくは5.0以上である。粗粒無機酸化物粉末(A)のD90とD10との比(D90/D10)は、好ましくは7.0以下であり、より好ましくは6.0以下であり、更に好ましくは5.5以下である。粗粒無機酸化物粉末(A)のD90とD10との比(D90/D10)は、好ましくは4.0~7.0であり、より好ましくは4.5~6.0であり、更に好ましくは5.0~5.5である。D90/D10が上記範囲であれば、粒度分布が一定の範囲に収まるため積層造形用粉末の母材として使いやすく、かさ密度及び流動性をバランスよく向上させることができる。
【0074】
粗粒無機酸化物粉末(A)のD90とD50との比(D90/D50)は、好ましくは1.7~2.3であり、より好ましくは1.8~2.2であり、更に好ましくは1.9~2.0である。D90/D50が上記範囲であれば、積層造形用粉末の流動性を適切な範囲にすることができる。
【0075】
粗粒無機酸化物粉末(A)の形状は、特に限定されない。例えば、球状、楕円体、鱗片状、不定形等が挙げられる。中でも、適切なかさ密度が得られやすいため、球状が好ましい。
【0076】
粗粒無機酸化物粉末(A)は、好ましくはシリカ、アルミナ、ジルコニア、及びチタニアから選択される少なくとも一種であり、より好ましくはアルミナであり、更に好ましくは球状アルミナである。粗粒無機酸化物粉末(A)中のアルミナの体積割合は、好ましくは50体積%以上、より好ましくは60体積%以上、更に好ましくは80体積%以上である。粗粒無機酸化物粉末(A)中のアルミナの体積割合の上限は、特に限定されない。例えば、100体積%、98体積%、又は95体積%としてよい。
【0077】
[微粒無機酸化物粉末(B)]
微粒無機酸化物粉末(B)のD50は、粗粒無機酸化物粉末(A)のD50より小さい。微粒無機酸化物粉末(B)のD50は、好ましくは5.0μm以上であり、より好ましくは5.5μm以上であり、更に好ましくは6.0μm以上である。微粒無機酸化物粉末(B)のD50は、好ましくは8.0μm以下であり、より好ましくは7.8μm以下であり、更に好ましくは7.5μm以下である。微粒無機酸化物粉末(B)のD50は、好ましくは5.0~8.0μmであり、より好ましくは5.5~7.8μmであり、更に好ましくは6.0~7.5μmである。微粒無機酸化物粉末(B)のD50が5.0μm以上であれば、積層造形用粉末を高密度で充填しやすくなる。微粒無機酸化物粉末(B)のD50が8.0μm以下であれば、積層造形粉末の安息角を高め流動性を抑えることができる。
【0078】
微粒無機酸化物粉末(B)のD10は、好ましくは1.0~4.0μmであり、より好ましくは2.0~3.8μmであり、更に好ましくは2.5~3.5μmである。微粒無機酸化物粉末(B)のD10が上記範囲であれば、微粒無機酸化物粉末(B)がベアリングとして働き(ベアリング効果)、流動性を適切な範囲にすることが期待できる。
【0079】
微粒無機酸化物粉末(B)のD90は、好ましくは9.0~25.0μmであり、より好ましくは12.0~24.0μmであり、更に好ましくは14.0~23.0μmである。微粒無機酸化物粉末(B)のD90が上記範囲であれば、積層造形用粉末の適度な流動性が期待できる。
【0080】
微粒無機酸化物粉末(B)のD50とD10との比(D50/D10)は、好ましくは1.5~5.0であり、より好ましくは1.7~4.0であり、更に好ましくは1.8~3.0である。D50/D10が上記範囲であれば、微粒無機酸化物粉末(B)同士の凝集の抑制効果が期待でき、積層造形用粉末のかさ密度を向上させることができる。
【0081】
微粒無機酸化物粉末(B)のD90とD10との比(D90/D10)は、好ましくは3.5~9.0であり、より好ましくは4.5~8.0であり、更に好ましくは5.5~7.0である。D90/D10が上記範囲であれば、粒度分布が一定の範囲に収まるため積層造形用粉末の母材として使いやすく、かさ密度及び流動性をバランスよく向上させることができる。
【0082】
微粒無機酸化物粉末(B)のD90とD50との比(D90/D50)は、好ましくは2.5~3.5であり、より好ましくは2.8~3.2であり、更に好ましくは2.7~2.9である。D90/D50が上記範囲であれば、積層造形用粉末の流動性を適切な範囲にすることができる。
【0083】
微粒無機酸化物粉末(B)の形状は、特に限定されない。例えば、球状、楕円体、鱗片状、不定形等が挙げられる。中でも、適切なかさ密度が得られやすいため、球状が好ましい。
【0084】
微粒無機酸化物粉末(B)は、好ましくはシリカ、アルミナ、ジルコニア、及びチタニアから選択される少なくとも一種であり、より好ましくはアルミナであり、更に好ましくは球状アルミナである。微粒無機酸化物粉末(B)中のアルミナの体積割合は、好ましくは50体積%以上、より好ましくは60体積%以上、更に好ましくは80体積%以上である。微粒無機酸化物粉末(B)中のアルミナの体積割合の上限は、特に限定されない。例えば、100体積%、98体積%、又は95体積%としてよい。
【0085】
<積層造形用粉末の製造方法>
積層造形用粉末は、粗粒無機酸化物粉末(A)と、微粒無機酸化物粉末(B)とを混合することにより製造することができる。材料の混合方法は特に限定されず、例えば、粗粒無機酸化物粉末(A)と、微粒無機酸化物粉末(B)とを乾式混合又は湿式混合する方法が挙げられる。混合は、手動で行ってもよいし、ブレンダーを使用してもよい。
【0086】
<3次元積層造形体の製造方法>
3次元積層造形体は、積層造形用粉末を公知の粉末積層造形法により加工することで製造することができる。粉末積層造形法としては、例えば、バインダージェット法、及びパウダーベッド溶融法が挙げられる。粉末積層造形法は、一般的に、以下の工程を含む。
(1)粉末積層造形装置の造形ステージに積層造形用粉末を供給する工程
(2)供給された積層造形用粉末を、ローラー等により均一に薄く広げ、積層造形用粉末の薄層を形成する工程
(3)形成された積層造形用粉末の薄層に、レーザー若しくは電子ビームを照射し、又はバインダーを含む液体を適用して、積層造形用粉末を結合する工程
(4)固化した積層造形用粉末の上に、新たな積層造形用粉末を供給する工程
以降、工程(2)~(4)を繰り返すことで、目的の3次元積層造形体を製造することができる。
【0087】
バインダーを含む液体を適用する方法としては、バインダーを含む液体を吐出する方法が好ましい。バインダーを含む液体を吐出する方法としては、特に制限はなく、例えば、ディスペンサ方式、スプレー方式、及びインクジェット方式が挙げられる。中でも、液滴の定量性が良好であり、大面積を塗布可能であることからインクジェット方式が好ましい。
【0088】
インクジェット法を用いる場合、バインダーを含む液体は、液体を吐出するノズルを有するインクジェットヘッドにより適用することができる。インクジェットヘッドとしては、公知のインクジェットプリンターにおけるインクジェットヘッドを好適に使用することができ、例えば、産業用インクジェットRICOH MH/GHシリーズ(株式会社リコー)が挙げられる。
【0089】
バインダーとしては、特に制限されないが、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリビニルブチラール、アクリル系樹脂、ポリアミド等の公知のバインダーを用いることができる。バインダーは、適当な溶媒により、粘度を調整して用いることができる。
【0090】
<焼結体の製造方法>
3次元積層造形体を公知の焼結方法によって焼結することにより、焼結体を製造することができる。焼結処理の前に、脱脂処理を行うことが好ましい。具体的な焼結体の製造方法を以下に例示する。
【0091】
3次元積層造形体を焼結炉に入れ、脱脂処理温度まで炉内の温度を昇温する。脱脂処理温度は、例えば、500~700℃の範囲で適宜設定することができる。その後、脱脂処理温度にて0.5~4時間炉内温度を保持して、有機成分を燃焼させる(脱脂処理)。脱脂時間は、バインダーの種類、及び3次元積層造形体中の有機成分比率に応じて設定することができる。次に、焼結処理温度まで炉内の温度を昇温する。焼結処理温度は、例えば、900~1300℃の範囲で適宜設定することができる。その後、焼結処理温度にて1~7時間炉内温度を保持して、3次元積層造形体を焼結させることで、焼結体が得られる(焼結処理)。焼結温度及び焼結時間は、無機酸化物粉末の種類に応じて設定することができる。
【実施例0092】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0093】
<使用材料>
粗粒無機酸化物粉末(A):球状アルミナ(昭和電工株式会製アルナビーズ(商標)/CB):真密度 3.95g/m
粗粒無機酸化物粉末(B):球状アルミナ(昭和電工株式会製アルナビーズ(商標)/CB):真密度 3.95g/m
【0094】
<評価方法>
(かさ密度)
かさ密度は、98MPaの圧力下でのプレス成形かさ密度から評価した。具体的には、円形の型枠(内径30mm)内に試料を詰め、市販のプレス機にて98MPaの圧力下で成形体を作製した。得られた成形体の密度を、98MPaの圧力下でのプレス成形かさ密度として決定した。プレス成形かさ密度が2.52g/cm以上であると、3次元積層造形体の密度が高くなるため、焼結時の収縮率が低くなり、優れる。2.54g/cm以下であると、バインダー適用時に、粉末材料間にバインダーが入り込むことができ、優れる。すなわち、プレス成形かさ密度が2.52~2.54g/cmの場合、かさ密度は良好であると評価した。
【0095】
(円形度)
面積Sと周囲長Lの測定は、マルバーンパナリティカル社製、FPIA-3000を使用して行った。前処理として、装置の測定範囲の関係上、試料約10gを直径200mmの金篩(目開き25μm)の中に入れ、シャワー水で25μmより大きい粒子を取り除いた。篩下の試料をプラスチック容器に移し替え、測定試料とした。測定条件はLPF/HPF標準(20倍レンズ)、及び明視野とし、測定溶媒として同社製のパーティクルシースを使用した。有効解析個数が5000個となるよう、50mLビーカーに測定試料を2g計り、純水を用いて装置に投入し、測定した。測定後のデータ処理として、一画面上で複数粒あるものは削除し、平均円形度を算出した。
【0096】
(流動性)
流動性は、安息角から評価した。安息角が55度以上であればバインダーの適用から焼結処理までの間に形状を維持できる形状安定性(流動性)に優れる。58度以下であれば、造形ステージに円滑に供給でき、均一に敷き詰めることのできる敷設性(流動性)に優れる。すなわち、安息角が55~58度の場合、流動性は良好であると評価した。
【0097】
[実施例1]
表1に記載の粒径及び粒径比を有する、粗粒無機酸化物粉末(A)と、微粒無機酸化物粉末(B)とを、粗粒無機酸化物粉末(A)と微粒無機酸化物粉末(B)の合計体積に対する粗粒無機酸化物粉末(A)の体積割合が11.1体積%となるような比率でロッキングミキサーを用いて混合し、積層造形用粉末を得た。得られた積層造形用粉末の粒度分布、BET比表面積、円形度、流動性(安息角)、及びプレス成形かさ密度を評価した。結果を表2に示す。
【0098】
[実施例2~6、比較例1~16]
粗粒無機酸化物粉末(A)及び微粒無機酸化物粉末(B)、並びに粗粒無機酸化物粉末(A)と微粒無機酸化物粉末(B)の合計体積に対する粗粒無機酸化物粉末(A)の体積割合を表1に記載のとおりとした以外は実施例1と同様に積層造形用粉末を得た。得られた積層造形用粉末の粒度分布、BET比表面積、円形度、流動性(安息角)、及びプレス成形かさ密度を評価した。結果を表2に示す。なお、未評価のものは「‐」を記載する。
【0099】
【表1-1】
【表1-2】
【0100】
【表2-1】
【表2-2】
【0101】
実施例1~6は、安息角が55~58度の範囲であり、適度な流動性を有するため、バインダージェット法に用いた場合、積層造形用粉末の薄層を形成する際には均一な粉末層を形成でき、かつ、バインダー適用から焼結処理までの間には形状を維持できると考えられる。加えて、実施例1~6は、プレス成形かさ密度が2.52~2.54g/cmの範囲であり、適度なプレス成形かさ密度を有するため、バインダージェット法に用いた場合、バインダーが粉末材料間に入り込むことができ、かつ、焼結時の低収縮率を実現できると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0102】
一実施態様の積層造形用粉末を用いることで、敷き詰めた粉末材料に液状バインダーを噴射して固形化する積層造形方式(バインダージェット法)において、空隙の少ない造形体を作ることができ、造形体焼結処理時の加熱収縮を低減する効果が期待できる。