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2024-161436ポリマレイミド樹脂、硬化性組成物、硬化物、プリプレグ、回路基板、ビルドアップフィルム、半導体封止材及び半導体装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024161436
(43)【公開日】2024-11-19
(54)【発明の名称】ポリマレイミド樹脂、硬化性組成物、硬化物、プリプレグ、回路基板、ビルドアップフィルム、半導体封止材及び半導体装置
(51)【国際特許分類】
   C08G 61/02 20060101AFI20241112BHJP
   C08F 299/02 20060101ALI20241112BHJP
   H01L 23/29 20060101ALI20241112BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
C08G61/02
C08F299/02
H01L23/30 R
H05K1/03 610H
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024133217
(22)【出願日】2024-08-08
(62)【分割の表示】P 2022104042の分割
【原出願日】2022-06-28
(71)【出願人】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177426
【弁理士】
【氏名又は名称】粟野 晴夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141601
【弁理士】
【氏名又は名称】貴志 浩充
(72)【発明者】
【氏名】青山 和賢
(72)【発明者】
【氏名】橋本 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】岡本 竜也
(72)【発明者】
【氏名】下野 智弘
(57)【要約】      (修正有)
【課題】溶剤に対する高い溶解性を有し、かつ硬化時において低誘電正接及び高耐熱性を示すポリマレイミド樹脂、硬化性組成物及びその硬化物、プリプレグ、回路基板、ビルドアップフィルム、半導体封止材並びに半導体装置を提供する。
【解決手段】下記一般式(1a)で表される部分構造単位を有するポリマレイミド樹脂と、特定構造のマレイミド多量体化合物と、を含有するポリマレイミド樹脂混合物。

【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1a)で表される部分構造単位を有するポリマレイミド樹脂成分と、
下記一般式(2)で表されるマレイミド多量体化合物と、を含有するポリマレイミド樹脂混合物であって、
前記ポリマレイミド樹脂成分の総量に対して、以下の一般式(a-1)で表される芳香族アミン化合物(A)と、ベンジルエーテル骨格を有する化合物(B)と、無水マレイン酸と、を反応原料(1)とするポリマレイミド樹脂を1~99質量%含有し、
ポリマレイミド樹脂混合物の総量に対して、前記マレイミド多量体化合物を80質量%以下含有する、ポリマレイミド樹脂混合物。
【化1】
(上記一般式(1a)中、R11は水素原子又は炭素原子数1~18の炭化水素基を表し、R12は炭素原子数1~18の炭化水素基を表し、R13はそれぞれ独立して、炭素原子数1~18の炭化水素基を表し、mは2を表し、mは0以上4以下の整数を表し、nは平均繰り返し単位数を表す。)
【化2】
(上記一般式(2)中、R21及びR25はそれぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1~18の炭化水素基を表し、R22及びR24はそれぞれ独立して、炭素原子数1~18の炭化水素基を表し、m21は2を表し、m23は3を表し、n21は1以上5以下の整数を表す。)
【化3】
(上記一般式(a-1)中、Ra1及びRa2はそれぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1~6のアルキル基を表し、Rは炭素原子数1~18の炭化水素基を表し、R及びRはそれぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1~18の炭化水素基を表す。)
【請求項2】
前記芳香族アミン化合物(A)と、前記ベンジルエーテル骨格を有する化合物(B)との配合割合は、前記芳香族アミン化合物(A)1モルに対して、前記ベンジルエーテル骨格を有する化合物(B)中のメチレンオキシ部のモル割合として、0.001~1モルである、請求項1に記載のポリマレイミド樹脂混合物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のポリマレイミド樹脂混合物を含有する、硬化性組成物。
【請求項4】
請求項3に記載の硬化性組成物の硬化物。
【請求項5】
補強基材、及び、前記補強基材に含浸した請求項3に記載の硬化性組成物の半硬化物を有するプリプレグ。
【請求項6】
請求項5に記載のプリプレグ、及び、銅箔を有する積層体である回路基板。
【請求項7】
請求項3に記載の硬化性組成物を含有するビルドアップフィルム。
【請求項8】
請求項3に記載の硬化性組成物を含有する半導体封止材。
【請求項9】
請求項8に記載の半導体封止材の硬化物を含む半導体装置。
【請求項10】
以下の工程(1)及び(2)を含む、請求項1に記載のポリマレイミド樹脂混合物の製造方法。
工程(1):反応原料(2)として、前記一般式(a-1)で表される芳香族アミン化合物(A)と、ベンジルエーテル骨格を有する化合物(B)とを反応させて、中間体アミン化合物(C)を含む化合物を得る工程;
工程(2):反応原料(3)として、前記工程(1)で得られた中間体アミン化合物(C)を含む化合物と、無水マレイン酸とを反応させて、ポリマレイミド樹脂混合物を得る工程。
【請求項11】
前記芳香族アミン化合物(A)と、前記ベンジルエーテル骨格を有する化合物(B)との配合割合は、前記芳香族アミン化合物(A)1モルに対して、前記ベンジルエーテル骨格を有する化合物(B)中のメチレンオキシ部のモル割合として、0.001~1モルである、請求項10に記載のポリマレイミド樹脂混合物の製造方法。
【請求項12】
前記芳香族アミン化合物(A)との反応点は、前記ベンジルエーテル骨格を有する化合物(B)に含まれるベンジルエーテル骨格を有する化合物(B)中のメチレンオキシ部である、請求項10又は11に記載のポリマレイミド樹脂混合物の製造方法。
【請求項13】
前記工程(1)において、前記芳香族アミン化合物(A)と、前記ベンジルエーテル骨格を有する化合物(B)とを酸触媒下で反応させ、反応温度は、100~300℃の範囲である、請求項10又は11に記載のポリマレイミド樹脂混合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ポリマレイミド樹脂、硬化性組成物、硬化物、プリプレグ、回路基板、ビルドアップフィルム、半導体封止材及び半導体装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エポキシ系樹脂又はBT(ビスマレイミド-トリアジン)系樹脂などの熱硬化性樹脂をガラスクロスに含浸、加熱乾燥して得られるプリプレグ、該プリプレグを加熱硬化した積層板、及び当該積層板と該プリプレグとを組み合わせて加熱硬化した多層板が、電子機器用の回路基板材料として広く使用されている。中でも、半導体を実装するためのインターポーザの役割を果たすプリント配線板の一種であるパッケージ基板は、薄型化が進み、実装時のパッケージ基板の反りが問題となることから、実装時のパッケージ基板の反りを抑制するため、高耐熱性を発現する材料が求められている。
また、近年、信号の高速化及び高周波数化が進み、これらの環境下で十分に低い誘電率を維持し、かつ十分に低い誘電正接を発現する硬化物を形成しうる熱硬化性組成物の提供が望まれている。特に最近では各種電材用途、とりわけ先端材料用途においては、耐熱性、誘電特性に代表される性能の向上、及びこれらを兼備する材料、組成物が求められている。
【0003】
このような要求に対し、耐熱性、低誘電特性を兼備する材料としてマレイミド樹脂が注目されている。特に、プリント基板用材料に使用するマレイミド樹脂としては、ファインパターン加工性、寸法安定性、耐熱性又は高周波電気特性にかかわる性能向上が要求される。例えば、特許文献1及び2には、新規なマレイミド樹脂を使用した硬化性樹脂組成物の硬化物が、耐熱性及び低誘電率を示す技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-176190号公報
【特許文献2】特開2020-176191号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般的には、周波数が上がるほど伝送損失は増大するため、高周波領域における伝送損失の低減が求められる。しかし、特許文献1及び2の技術では、既に現在利用されている周波数帯(数百MHz~3GHzの範囲)での誘電特性のみしか検討されておらず、いわゆるSub6の周波数帯を利用する第5世代移動通信システム(5G)用の技術に対応できるか否かを検討していない。
また、耐熱性及び低誘電率を示すマレイミド樹脂には、熱硬化性樹脂としての扱いやすさ(作業性)も求められるため、主要な溶剤に対する優れた溶解性が特に必要となる。上記特許文献1のマレイミド樹脂は、無置換のアニリンを使用しているため、当該アニリン由来の芳香環の電子密度が低く、キシレンホルマリン樹脂との反応性が低くなりやすい。また、上記特許文献1の技術は、無置換のアニリンを使用している。アニリン芳香環上、アミノ基のオルト位およびパラ位に3つの反応点を有するため、3次元的な結合形成反応が進行しやすく、分子量制御が困難となりやすい。さらに、3次元的な結合が形成されたマレイミド樹脂は、マレイミド基近傍の立体障害が大きくなりやすく、硬化反応において未反応のマレイミド基の残存が懸念される。実際、無置換のアニリンを使用した特許文献1のマレイミド樹脂では耐熱性が不十分である。また、特許文献2の芳香族アミン樹脂中のアニリン環は、2位と6位がアルキル基に置換された構造であるため、芳香族アミン樹脂の生成時には副生物としてメチレンビス(2,6-ジアルキルアニリン)が生じることになる。メチレンビス(2,6-ジアルキルアニリン)由来のマレイミド化物は低分子量体で結晶性が高い傾向にあることから、溶媒に対する溶解性を低下するという新たな問題が生じる。しかし、特許文献2の技術では、溶剤に対する溶解性については一切検討されていない。
そこで、本開示が解決しようとする技術的課題は、溶剤に対する高い溶解性を有し、かつ硬化時において低誘電正接及び高耐熱性を示すポリマレイミド樹脂、当該ポリマレイミド樹脂を含有する硬化性組成物及びその硬化物、プリプレグ、回路基板、ビルドアップフィルム、半導体封止材並びに半導体装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上述した課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、所定の化学構造を有するポリマレイミド樹脂を用いることにより、溶剤に対する高い溶解性を有し、かつ硬化時において低誘電正接及び高耐熱性を示すポリマレイミド樹脂、当該ポリマレイミド樹脂を含有する硬化性組成物及びその硬化物が得られることを見いだし、以下のポリマレイミド樹脂を完成するに至った。
本開示は、下記一般式(1)で表される部分構造と、前記一般式(1)で表される部分構造と化学結合される一般式(T-1)で表される部分構造と、前記一般式(1)で表される部分構造と化学結合される一般式(T-2)で表される部分構造と、を有するポリマレイミド樹脂である。
【化1】
(上記一般式(1)中、R13はそれぞれ独立して、炭素原子数1~18の炭化水素基を表し、mは0以上4以下の整数を表し、nは平均繰り返し単位数を表し、2つの*はそれぞれ結合手を表し、一方の結合手が下記一般式(T-1)中のL13又はL14の位置で化学結合され、他方の結合手が下記一般式(T-2)中のL11又はL12の位置で化学結合されることを表す。)
【化2】
(上記一般式(T-1)又は(T-2)中、R11及びR15はそれぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1~18の炭化水素基を表し、
12及びR14はそれぞれ独立して、炭素原子数1~18の炭化水素基を表し、
11~L14はそれぞれ独立して、結合手又は水素原子を表し、L11又はL12の位置において一般式(1)で表される部分構造と化学結合され、かつL13又はL14の位置において一般式(1)で表される部分構造と化学結合され、また、一般式(1)で表される部分構造と化学結合しないL11~L14は、水素原子であり、
及びmはそれぞれ2を表す。)
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、溶剤に対する高い溶解性を有し、かつ硬化時において低誘電正接及び高い耐熱性を示すポリマレイミド樹脂、当該ポリマレイミド樹脂を含有する硬化性組成物及びその硬化物、プリプレグ、回路基板、ビルドアップフィルム、半導体封止材並びに半導体装置を提供しうる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、中間体アミン化合物(c-1)のFD-MSスペクトルチャートを示す。
図2図2は、中間体アミン化合物(c-1)の13C―NMRチャートを示す。
図3図3は、ポリマレイミド樹脂(A-1)のGPCチャートを示す。
図4図4は、ポリマレイミド樹脂(A-1)のFD-MSスペクトルチャートを示す。
図5図5は、ポリマレイミド樹脂(A-1)の13C―NMRチャートを示す。
図6図6は、中間体アミン化合物(c-2)のFD-MSスペクトルチャートを示す。
図7図7は、中間体アミン化合物(c-2)の13C―NMRチャートを示す。
図8図8は、ポリマレイミド樹脂(A-2)のGPCチャートを示す。
図9図9は、ポリマレイミド樹脂(A-2)のFD-MSスペクトルチャートを示す。
図10図10は、ポリマレイミド樹脂(A-2)の13C―NMRチャートを示す。
図11図11は、比較用中間体アミン化合物(c1)のFD-MSスペクトルチャートを示す。
図12図12は、比較用中間体アミン化合物(c1)の13C―NMRチャートを示す。
図13図13は、比較用マレイミド化合物(1)のGPCチャートを示す。
図14図14は、比較用マレイミド化合物(1)のFD-MSスペクトルチャートを示す。
図15図15は、比較用マレイミド化合物(1)の13C―NMRチャートを示す。
図16図16は、比較用中間体アミン化合物(c2)のFD-MSスペクトルチャートを示す。
図17図17は、比較用中間体アミン化合物(c2)の13C―NMRチャートを示す。
図18図18は、比較用マレイミド化合物(2)のFD-MSスペクトルチャートを示す。
図19図19は、比較用マレイミド化合物(2)の13C―NMRチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態(「本実施形態」と称する。)について詳細に説明するが、本開示は以下の記載に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0010】
<用語>
本明細書において特段の記載が無い限り、以下の用語を適用できる。
本明細書における「反応原料」とは、化合又は分解といった化学反応により目的の化合物を得るために用いられ、目的の化合物の化学構造を部分的に構成する化合物をいい、溶媒、触媒といった、化学反応の助剤の役割を担う物質は除外される。本明細書では特に、「反応原料」とは、目的のポリマレイミド樹脂又はその前駆体化合物(例、芳香族アミン化合物(A)同士がベンジルエーテル骨格を有する化合物(B)由来の構造単位を介して連結された中間体アミン化合物(C))を化学反応により得るための前駆体をいう。
本明細書における「構造単位」とは、反応又は重合時に形成される化学構造の単位をいい、換言すると、反応又は重合よりに形成される生成化合物において、当該反応又は重合に関与する化学結合の構造以外の部分構造をいい、いわゆる残基をいう。また、重合の場合は繰り返し単位とも称する。
本明細書における「芳香族基」は、炭素原子数3~30の芳香族環を有することが好ましく、炭素原子数4~26の芳香族環を有することがより好ましい。そして、本明細書における「芳香族基」は、当該芳香族基中の芳香族環の水素原子が、置換基、例えば、炭素原子数1~10のアルキル基、炭素原子数1~10のアルコキシ基又はハロゲン原子に置換されてもよい。また、「芳香族基」は、複素芳香族を含み、「芳香族基」中の-CH-又は-CH=が互いに隣接しないよう、-O-、-S-又は-N=に置換されてもよい。
当該芳香族環の種類は、例えば、単環芳香族環、縮環芳香族環又は環集合芳香族環等が挙げられる。前記単環芳香族環としては、例えば、ベンゼン、フラン、ピロール、チオフェン、イミダゾール、ピラゾール、オキサゾール、イソキサゾール、チアゾール、イソチアゾール、ピリジン、ピリミジン、ピリダジン、ピラジン、トリアジン等が挙げられる。前記縮環芳香族環としては、例えば、ナフタレン、アントラセン、フェナレン、フェナントレン、キノリン、イソキノリン、キナゾリン、フタラジン、プテリジン、クマリン、インドール、ベンゾイミダゾール、ベンゾフラン、アクリジン等が挙げられる。前記環集合芳香族環としては、例えば、ビフェニル、ビナフタレン、ビピリジン、ビチオフェン、フェニルピリジン、フェニルチオフェン、テルフェニル、ジフェニルチオフェン、クアテルフェニル等が挙げられる。また、当該芳香族基中の芳香族環の水素原子が、例えば、炭素原子数1~10のアルキル基、炭素原子数1~10のアルコキシ基又はハロゲン原子に置換されてもよい。なお、一価の芳香族基とは、「芳香族基」中の水素原子を1つ除いた基をいう。
本明細書における「アルキル基」は、直鎖状、分岐状又は環状のいずれでもよく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、tert-ペンチル基、ネオペンチル基、1,2-ジメチルプロピル基、n-ヘキシル基、イソヘキシル基、(n-)ヘプチル基、(n-)オクチル基、(n-)ノニル基、(n-)デシル基、(n-)ウンデシル基、(n-)ドデシル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基、ノルボルニル基又はアダマンチル基が挙げられる。
本明細書における「シクロアルキル基」は、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基、ノルボルニル基又はアダマンチル基等が挙げられる。
本明細書における「アルキルチオ基」は、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、ブチルチオ基、オクチルチオ基又は2-エチルヘキシルチオ基が挙げられる。
本明細書における「アルケニル基」は、エチニル基、1-プロピニル基、2-プロピニル基、2-ブチニル基、ペンチニル基、ヘキシニル基、ビニル基、アリル基又はイソプロペニル基等が挙げられる。なお、「アルケニレン基」は、前記「アルケニル基」から任意の水素原子を1つ除いた二価の基が挙げられる。
本明細書における「アルコキシ基」は、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、2-エチルヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基又はノニルオキシ基等が挙げられる。
本明細書における「アリール基」は、例えば、フェニル基、ナフチル基、フェナレニル基、フェナントレニル基、アントリル基、アズレニル基、インデニル基、インダニル基、テトラリニル基等が挙げられる。また、当該「アリール基」は、当該アリール基中の芳香族環の水素原子が、例えば、炭素原子数1~10のアルキル基、炭素原子数1~10のアルコキシ基又はハロゲン原子に置換されてもよい。
本明細書における「アラルキル基」としては、例えば、ベンジル基、ジフェニルメチル基、ビフェニル基、ナフチルメチル基等が挙げられる。当該アラルキル基中の芳香族環の水素原子が、例えば、炭素原子数1~10のアルキル基、炭素原子数1~10のアルコキシ基又はハロゲン原子に置換されてもよい。
本明細書における「アリールオキシ基」は、フェノキシ基、ナフチルオキシ基、アンスリルオキシ基、フェナントリルオキシ基又はピレニルオキシ基等が挙げられる。
本明細書における「アリールチオ基」は、フェニルチオ基、ナフチルチオ基、アンスリルチオ基、フェナントリルチオ基又はピレニルチオ基等のアリールチオ基が挙げられる。
本明細書における「ハロゲン原子」は、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子等が挙げられる。
本明細書における「アルキレン基」は、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、1-メチルメチレン基、1,1-ジメチルメチレン基、1-メチルエチレン基、1,1-ジメチルエチレン基、1,2-ジメチルエチレン基、プロピレン基、ブチレン基、1-メチルプロピレン基、2-メチルプロピレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、ヘプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基、ウンデシレン基、ドデシレン基等が挙げられる。
本明細書における「アルキレンオキシ基」は、例えば、オキシメチレン基、オキシエチレン基、オキシプロピレン基、オキシ(1-メチルメチレン)基、オキシ(1,1-ジメチルメチレン)基、オキシ(1-メチルエチレン)基、オキシ(1,1-ジメチルエチレン)基、オキシ(1,2-ジメチルエチレン)基、オキシブチレン基、オキシ(1-メチルプロピレン)基、オキシ(2-メチルプロピレン)基、オキシペンチレン基、オキシヘキシレン基、オキシヘプチレン基、オキシオクチレン基、オキシノニレン基、オキシデシレン基、オキシウンデシレン基、オキシドデシレン基等が挙げられる。
本明細書における「炭化水素基」は、一価の基であり、直鎖状、分岐状又は環状の飽和炭化水素、不飽和炭化水素、あるいは芳香族基を含む。例えば、「炭化水素基」は、アルキル基(例えば、上記アルキル基)、アルケニル基(例えば、上記アルケニル基)、アリール基(例えば、上記アリール基)、アリールオキシ基(例えば、上記アリールオキシ基)、アラルキル基(例えば、上記アラルキル基)及びアルコキシ基(例えば、上記アルコキシ基)からなる群から選択される1種の基であり、かつ当該基中の1以上の-CH-が、互いに隣接しないよう、-O-、-C(=O)-又は-S-に置換されてもよく、あるいは当該アルキル基中の1以上の-CH-CH-が、互いに隣接しないよう、-CH=CH-に置換されてもよい。
【0011】
<ポリマレイミド樹脂>
本実施形態にかかるポリマレイミド樹脂は、下記一般式(1)で表される部分構造と、前記一般式(1)で表される部分構造と化学結合される一般式(T-1)で表される部分構造と、前記一般式(1)で表される部分構造と化学結合される一般式(T-2)で表される部分構造と、を有するポリマレイミド樹脂である。
【化3】
(上記一般式(1)中、R13はそれぞれ独立して、炭素原子数1~18の炭化水素基を表し、mは0以上4以下の整数を表し、nは平均繰り返し単位数を表し、2つの*はそれぞれ結合手を表し、一方の結合手が下記一般式(T-1)中のL13又はL14の位置で化学結合され、他方の結合手が下記一般式(T-2)中のL11又はL12の位置で化学結合されることを表す。)
【化4】
(上記一般式(T-1)又は(T-2)中、R11及びR15はそれぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1~18の炭化水素基を表し、
12及びR14はそれぞれ独立して、炭素原子数1~18の炭化水素基を表し、
11~L14はそれぞれ独立して、結合手又は水素原子を表し、但し、L11又はL12の位置において一般式(1)で表される部分構造と化学結合され、かつL13又はL14の位置において一般式(1)で表される部分構造と化学結合され、また、一般式(1)で表される部分構造と化学結合しないL11~L14は、水素原子であり、
は2を表し、mは2を表す。)
これにより、溶剤に対する高い溶解性を有し、かつ硬化時において低誘電正接及び高耐熱性を示す。本実施形態のポリマレイミド樹脂の化学構造は、マレイミド基が結合されたベンゼン環のオルト位及びパラ位にそれぞれ結合サイトを1つしか有していないため、直鎖状に鎖が伸長するポリマレイミド樹脂が得られることから分子量制御が容易であり、耐熱性や低誘電特性と溶剤溶解性の両立が可能となる。
【0012】
上記一般式(1)において、2つの*はそれぞれ結合手を表す。そして、2つの結合手のうち一方の結合手は、上記一般式(T-1)中のL13又はL14の位置で化学結合される。また、他方の結合手は、上記一般式(T-2)中のL11又はL12の位置で化学結合される。したがって、本実施形態のポリマレイミド樹脂は、一般式(T-1)で表される部分構造と一般式(T-2)で表される部分構造とが一般式(1)で表される部分構造により連結された構造単位を有し、一般式(T-1)及び一般式(T-2)中のベンゼン環上のマレイミド基に対するパラ位又は1つのオルト位において、一般式(1)で表される部分構造が化学結合されている。
なお、上記一般式(1)中、nが2以上である場合、複数存在するR13は互いに同一であっても、又は異なっていてもよい。mが2以上である場合、複数存在するR13は互いに同一であっても、又は異なっていてもよい。
【0013】
上記一般式(1)中、R13はそれぞれ独立して、炭素原子数1~18の炭化水素基を表し、炭素原子数1~12の炭化水素基を表すことが好ましく、炭素原子数1~6の炭化水素基を表すことがより好ましい。また、mが2以上の整数である場合、複数存在するR13は互いに同一であっても、又は異なっていてもよい。一般式(1)中の好ましいR13としては、直鎖状のアルキル基が好ましく、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、tert-ペンチル基又はネオペンチル基であることがより好ましい。
なお、一般式(1)中のR13が結合したベンゼン環は、ベンジルエーテル骨格を有する化合物(B)のベンゼン環でありうる。
【0014】
上記一般式(1)中、mは0以上4以下の整数を表し、2以下の整数であることが好ましく、2であることが更に好ましい。なお、一般式(1)中のR13が結合されたベンゼン環において、1位及び3位がメチレン基により結合されている場合、4位及び6位にR13がそれぞれ結合されていることが好ましい。
上記一般式(1)中、nは平均繰り返し単位数を表し、得られるポリマレイミド樹脂の粘度の観点から、好ましくは0以上50以下、好ましくは0以上30以下、好ましくは0以上15以下である。当該平均繰り返し単位数は、後述の実施例の欄に示す通り、仕込み比又はNMRなどから算出することができる。
【0015】
本実施形態におけるポリマレイミド樹脂は、当該ポリマレイミド樹脂の総量(100質量%)に対して、一般式(1)で表される部分構造を1~99質量%含有することが好ましく、3~97質量%含有することがより好ましく、5~95質量%含有することがさらに好ましい。
【0016】
上記一般式(T-1)中、R15はそれぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1~18の炭化水素基を表し、好ましくは水素原子又は炭素原子数1~12の炭化水素基、より好ましくは水素原子又は炭素原子数1~6の炭化水素基を表す。特に好ましいR15としては、水素原子又は炭素原子数1~6の直鎖状のアルキル基でありうる。mが2であるため、2つのR15は互いに同一であっても、又は異なっていてもよい。
上記一般式(T-1)中、R14はそれぞれ独立して、炭素原子数1~18の炭化水素基を表し、好ましくは炭素原子数1~12の炭化水素基、より好ましくは炭素原子数1~6の炭化水素基を表す。特に好ましいR14としては、炭素原子数1~6の直鎖状のアルキル基でありうる。
上記一般式(T-1)又は上記一般式(T-2)のベンゼン環のオルト位(6位)において、一般式(1)で表される部分構造との結合部位を許容することにより、溶剤に対するより高い溶解性を有し、かつ硬化時においてより優れた低誘電正接及び高耐熱性を示す。なお、一般式(T-1)中のR14が結合したベンゼン環は、芳香族アミン化合物(A)のベンゼン環でありうる。
上記一般式(T-1)中、L13又はL14はそれぞれ独立して、結合手又は水素原子を表す。但し、L13又はL14の少なくとも一方の位置において一般式(1)で表される部分構造と一般式(T-1)で表される部分構造とは化学結合される。また、一般式(1)で表される部分構造と化学結合しないL13又はL14は、水素原子である。なお、L13及びL14の2か所それぞれに対して一般式(1)で表される部分構造が化学結合されてもよい。
【0017】
上記一般式(T-2)中、R11はそれぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1~18の炭化水素基を表し、好ましくは水素原子又は炭素原子数1~12の炭化水素基、より好ましくは水素原子又は炭素原子数1~6の炭化水素基を表す。好ましいR11としては、水素原子又は炭素原子数1~6の直鎖状のアルキル基でありうる。mが2であるため、2つのR11は互いに同一であっても、又は異なっていてもよい。
上記一般式(T-2)中、R12はそれぞれ独立して、炭素原子数1~18の炭化水素基を表し、好ましくは炭素原子数1~12の炭化水素基、より好ましくは炭素原子数1~6の炭化水素基を表す。好ましいR12としては、炭素原子数1~6の直鎖状のアルキル基を表す。
なお、一般式(T-2)中のR12が結合したベンゼン環は、芳香族アミン化合物(A)のベンゼン環でありうる。
上記一般式(T-2)中、L11又はL12はそれぞれ独立して、結合手又は水素原子を表す。但し、L11又はL12の少なくとも一方の位置において一般式(1)で表される部分構造と一般式(T-2)で表される部分構造とは化学結合される。また、一般式(1)で表される部分構造と化学結合しないL11又はL12は、水素原子である。なお、L11及びL12の2か所それぞれに対して一般式(1)で表される部分構造が化学結合されてもよい。
【0018】
本実施形態におけるポリマレイミド樹脂は、当該ポリマレイミド樹脂の総量(100質量%)に対して、一般式(T-1)で表される部分構造を1~99質量%含有することが好ましく、3~97質量%含有することがより好ましく、5~95質量%含有することがさらに好ましい。
本実施形態におけるポリマレイミド樹脂は、当該ポリマレイミド樹脂の総量(100質量%)に対して、一般式(T-2)で表される部分構造を1~99質量%含有することが好ましく、3~97質量%含有することがより好ましく、5~95質量%含有することがさらに好ましい。
【0019】
本実施形態のポリマレイミド樹脂は、下記一般式(a-1)で表される芳香族アミン化合物(A)(以下、単に芳香族アミン化合物(A)とも称する。)と、ベンジルエーテル骨格を有する化合物(B)と、無水マレイン酸とを反応原料(1)とすることが好ましい。
【化5】
(上記一般式(a-1)中、Ra1及びRa2はそれぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1~6のアルキル基を表し、Rは炭素原子数1~18の炭化水素基を表し、R及びRはそれぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1~18の炭化水素基を表す。)
【0020】
また、本実施形態のポリマレイミド樹脂は、芳香族アミン化合物(A)同士がベンジルエーテル骨格を有する化合物(B)由来の構造単位を介して連結された中間体アミン化合物(C)と、無水マレイン酸とを反応原料(2)とすることが好ましい。さらには、前記中間体アミン化合物(C)は、芳香族アミン化合物(A)と、ベンジルエーテル骨格を有する化合物(B)と、を反応原料(3)とする化合物であることが好ましい。
換言すると、本実施形態における中間体アミン化合物(C)は、アミノ基が結合された芳香環を有する芳香族アミン化合物(A)の構造単位と、ベンジルエーテル骨格を有する化合物(B)由来の構造単位とが化学結合により連結された構造単位を有することが好ましい。そして、本実施形態におけるポリマレイミド樹脂は、前記中間体アミン化合物(C)の芳香環に結合したアミノ基がN-置換マレイミド環に置換された構造を有する。なお、本明細書における「アミノ基」は、-NHの水素原子がさらに炭素原子数1~6のアルキル基で置換された置換アミノ基も含む。
したがって、本実施形態における「ポリマレイミド樹脂」と、当該「ポリマレイミド樹脂」の前駆体である「中間体アミン化合物(C)」とは、芳香環に結合したアミノ基がN-置換マレイミド環に置き換わっている点が異なる重合体化合物である。
なお、上記芳香族アミン化合物(A)の構造単位とは、芳香族アミン化合物(A)の芳香環から少なくとも1つの水素原子を取り除いた基をいう。例えば、芳香族アミン化合物(A)が後述の一般式(a-1)で表される場合、一般式(a-1)のベンゼン環から少なくとも1つの水素原子を取り除いた基を芳香族アミン化合物(A)の構造単位という。また、上記ベンジルエーテル骨格を有する化合物(B)由来の構造単位とは、ベンジルエーテル骨格を有する化合物(B)中の末端基以外の-(CHO)-が、-(CH)-に置換され、かつベンゼン環に直接結合された-(CHO)-Rが全て-(CH)-に置換された基をいう。なお、前記Rは、水素原子又は炭素原子数1~18の炭化水素基を表す。
本実施形態において、特定位置に置換基を有する芳香環構造を有する芳香族アミノ化合物(A)を反応原料としていることから、後述のベンジルエーテル骨格を有する化合物(B)との反応部位を制御しやすくなるため、均質な化学構造、かつ、鎖状ポリマレイミド樹脂が得られやすくなり、その結果、溶剤への優れた溶解性や硬化時における高耐熱性及び低誘電正接性を示すポリマレイミド樹脂を提供しうる。
【0021】
以下、ポリマレイミド樹脂の反応原料(1)の構成成分である、一般式(a-1)で表される芳香族アミン化合物(A)と、ベンジルエーテル骨格を有する化合物(B)と、無水マレイン酸について説明した後、ポリマレイミド樹脂の別の好ましい形態及びポリマレイミド樹脂の製造方法について説明する。
【0022】
-一般式(a-1)で表される芳香族アミン化合物(A)-
本実施形態における芳香族アミン化合物(A)は、以下の一般式(a-1)で表されるように、アミノ基が結合された芳香環を有し、かつ前記芳香環のオルト位の一つに炭素原子数1~18の炭化水素基が結合された構造を必須とする。
【化6】
(上記一般式(a-1)中、Ra1及びRa2はそれぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1~6のアルキル基を表し、Rは炭素原子数1~18の炭化水素基を表し、R及びRはそれぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1~18の炭化水素基を表す。)
【0023】
本実施形態の芳香族アミン化合物(A)において、当該芳香族アミン化合物(A)の芳香環の1以上2以下の水素原子に置換されてもよい炭化水素基(R,R)としては、直鎖、分岐状又は環状の炭素原子数1~18の炭化水素基が挙げられ、直鎖又は分岐状の炭素原子数1~12の炭化水素基が好ましく、直鎖又は分岐状の炭素原子数1~6のアルキル基がより好ましい。上記一般式(a-1)に記載の通り、芳香環のオルト位とパラ位のそれぞれ1つにベンジルエーテル骨格を有する化合物(B)との結合部位を有する。
上記一般式(a-1)中、Rは炭素原子数1~18の炭化水素基を表し、炭素原子数1~12の炭化水素基が好ましく、炭素原子数1~6の炭化水素基がより好ましい。
上記一般式(a-1)中、Rは水素原子又は炭素原子数1~18の炭化水素基を表し、炭素原子数1~12の炭化水素基が好ましく、炭素原子数1~6の炭化水素基がより好ましい。
上記一般式(a-1)中、Rは水素原子又は炭素原子数1~18の炭化水素基を表し、炭素原子数1~12の炭化水素基が好ましく、炭素原子数1~6の炭化水素基がより好ましい。
【0024】
また、芳香族アミン化合物(A)の芳香環に置換される炭化水素基(例えばアルキル基)の数を1以上にすることにより、後述のベンジルエーテル骨格を有する化合物(B)と反応部位を制御しやすくなるため、特定の化学構造を有するポリマレイミド樹脂が得られやすくなる。その結果、ポリマレイミド樹脂の硬化物において、溶剤溶解性、耐熱性及び優れた高周波電気特性を発揮しやすくなる。
特に、芳香族アミン化合物(A)のオルト位(近接位)への置換基(R)を導入していることから、当該芳香族アミン化合物(A)由来のアミノ基をマレイミド化した後において、アニリン骨格の芳香環平面とマレイミドの含窒素五員環平面とからなる二面角が大きくなることでマレイミド基由来の結晶性が崩れやすくなり、溶解性が向上すると考えられる。
【0025】
本実施形態において、芳香族アミン化合物(A)を構成するベンゼン環中の炭素原子のうち、最も大きいHOMOの電子密度(ヒュッケル係数)を有する炭素原子が1以上無置換である(水素原子に置換されている)ことが好ましい。そのため、本実施形態の一般式(a-1)で表される芳香族アミン化合物(A)としては、2、4、6位のいずれか2つが水素原子に置換されていることが好ましい。本実施形態の一般式(a-1)で表される芳香族アミン化合物(A)の特に好ましい形態としては、2位がアルキル基に置換され、かつ4位及び6位が水素原子である。
これにより、後述のベンジルエーテル骨格を有する化合物(B)から形成されるカチオノイド試剤によるArS反応及び分子設計を制御しやすくなる。その結果、ポリマレイミド樹脂の硬化物において、溶剤溶解性、耐熱性及び優れた高周波電気特性を発揮しやすくなる。特に、一般式(a-1)のベンゼン環の4,6位を水素原子で置換することにより、直鎖状に分子が伸長したポリマレイミド樹脂(又は中間体アミン樹脂)を得ることができる。
【0026】
本実施形態の芳香族アミン化合物(A)の具体例としては、例えば、o-トルイジン、2-エチルアニリン、2-プロピルアニリン、2-ブチルアニリン、2-シクロブチルアニリン、2-シクロペンチルアニリン、2-シクロヘキシルアニリン、ジメチルアニリン(2,3-キシリジン、2,4-キシリジン若しくは2,5-キシリジン)、ジエチルアニリン(2,3-ジエチルアニリン、2,4-ジエチルアニリン若しくは2,5-ジエチルアニリン)、ジイソプロピルアニリン(2,3-ジイソプロピルアニリン、2,4-ジイソプロピルアニリン若しくは2,5-ジイソプロピルアニリン)、エチルメチルアニリン(例えば、2,3位、2,4位若しくは2,5位のいずれか一方がメチル基であり、他方がエチル基であるエチルメチルアニリン)、メチルイソプロピルアニリン(例えば、2,3位、2,4位若しくは2,5位のいずれか一方がメチル基であり、他方がイソプロピル基であるメチルイソプロピルアニリン)、あるいはエチルブチルアニリン(例えば、2,3位、2,4位若しくは2,5位のいずれか一方がエチル基であり、他方がブチル基であるエチルブチルアニリン)等を用いることができる。また前記ブチルは、n-ブチル,tert-ブチル及びsec-ブチルを含む。なお、本実施形態における芳香族アミン化合物(A)は、単独で用いても、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
例えば、N-フェニルマレイミドのように、無置換のベンゼン環にマレイミド基が直接結合する化学構造の場合、ベンゼン環とマレイミドの5員環が、同一平面上に並んだ状態が安定なため、スタッキングしやすくなり、高い結晶性が発現してしまう。そのため、溶剤溶解性が劣る原因となる。これに対して、本開示の場合、例えば、2-エチルアニリンのように、ベンゼン環に対する置換基として、アルキル基(例えば、エチル基)を有する場合、エチル基の立体障害からベンゼン環とマレイミドの5員環とがねじれた配座をとり、スタッキングしにくくなることから結晶性が低下し、溶剤溶解性が向上し、好ましい態様となる。但し、立体障害が大きすぎる場合あるいはアルキル基の置換位置によっては、マレイミド化の合成時における反応性を阻害することや、硬化物を作製する際にマレイミド基の硬化性が悪化することも懸念されるため、例えば、炭素原子数1~6の炭化水素基を有する芳香族アミン化合物(A)を使用することが好ましい。
なお、本実施形態において、上記一般式(a-1)で表される芳香族アミン化合物(A)は、単独で用いても、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
-ベンジルエーテル骨格を有する化合物(B)-
本実施形態におけるベンジルエーテル骨格を有する化合物(B)は、化合物単体であっても混合物であってもよい。本実施形態におけるベンジルエーテル骨格を有する化合物(B)が化合物単体である場合、後述の式(b)で表される部分構造を有する化合物であることが好ましく、後述の式(b-1)で表される化合物であることがより好ましく、後述の式(b-2)で表される化合物であることがさらに好ましい。
一方、本実施形態におけるベンジルエーテル骨格を有する化合物(B)が混合物である場合、下記の式(b)で表される部分構造を有する化合物及び/又は下記の式(b-1)で表されるベンジルエーテル骨格を有する化合物を含む混合物だけでなく、下記一般式(b-3)で表される部分構造を有する成分が全体の95質量%以上100質量%以下を占有する混合物であることが好ましい。
本実施形態におけるベンジルエーテル骨格を有する化合物(B)は、下記の式(b)で表されるベンジルエーテル骨格を有している化合物であることが好ましい。
【化7】
(上記一般式(b)中、Rb3はそれぞれ独立して、炭素原子数1~18のアルキル基を表し、mb2は0以上4以下の整数を表し、j及びjはそれぞれ独立して、0以上4以下の整数であり、j+j≧1であり、k及びkはそれぞれ独立して、0又は1であり、*は他の原子との結合を表す。)
本実施形態におけるベンジルエーテル骨格を有する化合物(B)は、アルキルベンゼンとホルムアルデヒドとを酸触媒下で反応した生成物であることが好ましい。
【0029】
--ベンジルエーテル骨格を有する化合物(B)の物性--
本実施形態におけるベンジルエーテル骨格を有する化合物(B)は、上記式(b)で表されるベンジルエーテル骨格を有し、かつ以下の物性値を少なくとも1つ満たすことが好ましい。これにより、より優れた、溶剤溶解性、耐熱性及び誘電特性を発揮しうる樹脂を合成しうる。
本実施形態におけるベンジルエーテル骨格を有する化合物(B)の数平均分子量(Mn)の上限は、1200以下であることが好ましく、800以下であることがより好ましく、500以下であることがさらに好ましい。ベンジルエーテル骨格を有する化合物(B)の数平均分子量(Mn)の下限は、200以上であることが好ましく、240以上であることがより好ましく、250以上であることがさらに好ましい。
本実施形態におけるベンジルエーテル骨格を有する化合物(B)の含酸素率の上限は、15質量%以下であることが好ましく、13質量%以下であることがより好ましく、12質量%以下であることがさらに好ましい。ベンジルエーテル骨格を有する化合物(B)の含酸素率の下限は、4質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましく、7質量%以上であることがさらに好ましい。
本実施形態におけるベンジルエーテル骨格を有する化合物(B)の比重の上限は、1.2未満であることが好ましく、より好ましくは1.15未満、さらに好ましくは1.10未満である。当該ベンジルエーテル骨格を有する化合物(B)の比重の下限は、1.0以上であることが好ましく、より好ましくは1.01以上、さらに好ましくは1.02以上である。
本実施形態におけるベンジルエーテル骨格を有する化合物(B)の粘度(75℃)の上限は、1500mPa・s以下であることが好ましく、より好ましくは1000mPa・s以下、さらに好ましくは900mPa・s以下である。ベンジルエーテル骨格を有する化合物(B)の粘度(75℃)の下限は、好ましくは30mPa・s以上、より好ましくは50mPa・s以上、さらに好ましくは70mPa・s以上である。
本実施形態におけるベンジルエーテル骨格を有する化合物(B)の間接粘度(20℃)の上限は、1000mPa・s以下であることが好ましく、より好ましくは800mPa・s以下、さらに好ましくは500mPa・s以下である。ベンジルエーテル骨格を有する化合物(B)の間接粘度(20℃)の下限は、好ましくは10mPa・s以上、より好ましくは20mPa・s以上、さらに好ましくは30mPa・s以上である。
本実施形態におけるベンジルエーテル骨格を有する化合物(B)の水酸基価は、好ましくは16~50(mgKOH/g)、より好ましくは18~40(mgKOH/g)、さらに好ましくは22~35(mgKOH/g)である。
【0030】
--ベンジルエーテル骨格を有する化合物(B)の好ましい形態--
本開示のポリマレイミド樹脂の反応原料(1)であるベンジルエーテル骨格を有する化合物(B)の一例は、下記式(b-1)で表される構造単位を有する化合物であることが好ましい。
【化8】
(上記一般式(b―1)中、Rb1はそれぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1~11のアルキル基を表し、当該アルキル基中の1以上の-CH-は、互いに隣接しないよう-O-又は-C(=O)-に置換されてもよく、
b2及びRb3はそれぞれ独立して、炭素原子数1~18の炭化水素基を表し、
はそれぞれ独立して、炭素原子数1~11のアルキレン基を表し、当該アルキレン基中の1以上の-CH-は、互いに隣接しないよう-O-に置換されてもよく、
は、単結合又は炭素原子数1~11のアルキレン基を表し、当該アルキレン基中の1以上の-CH-は、互いに隣接しないよう-O-又は-(C=O)-に置換されてもよく、
はそれぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1~11の炭化水素基を表し、
kは0以上20以下の整数を表し、
b1及びmb2はそれぞれ独立して、0以上4以下の整数を表し、
b1又はLの少なくともいずれか一方に、-CHO-基を有する。)
【0031】
上記一般式(b-1)中のRb1は、水素原子又は炭素原子数1~11の炭化水素基を表すことが好ましく、水素原子又は炭素原子数1~9の炭化水素基を表すことがより好ましく、当該炭化水素基中の1以上の-CH-は、互いに隣接しないよう-O-に置換されてもよい。好ましいRb1は、水素原子、炭素原子数1~9のアルキル基、炭素原子数1~9のアルコキシ基、炭素原子数1~9のヒドロキシアルキル基、-(CHO)p1-C(=O)-Rb4、-(CHO)p1-Rb4、-(CHO)p1-(CHp2-Rb4、-(CHp3-(CHO)p1-(CHp2-Rb4、-(OCHq1-Rb4、-(OCHq1-(CHq2-Rb4及び-(CHq3-(OCHq1-(CHq2-Rb4からなる群から選択される1種であることが好ましい。ここで前記Rb4は、水素原子又は炭素原子数1~5のアルキル基を表す。また、前記p1~p3及び前記q1~q3はそれぞれ独立して、1~11の整数を表すことが好ましく、より好ましくは1~6の整数、さらに好ましくは1~3の整数、特に好ましくは1~2の整数である。
さらには、Rb1又はLの少なくともいずれか一方に、-CHO-基を有することが好ましく、Rb1及びLの両方に、-CHO-基を有することがより好ましい。
【0032】
上記一般式(b-1)中のRb2及びRb3はそれぞれ独立して、一般式(1)中のR13に対応しうる。したがって、上記一般式(b-1)中のRb2及びRb3は、一般式(1)と同様に、それぞれ独立して、炭素原子数1~18のアルキル基を表すことが好ましく、より好ましくは炭素原子数1~12のアルキル基、さらに好ましくは炭素原子数1~6のアルキル基を表す。また、mb1が2以上の整数である場合、2以上のRb2は、互いに同一であっても、あるいはそれぞれ別の基であってもよい。同様に、mb2が2以上の整数である場合、2以上のRb3は、互いに同一であっても、あるいはそれぞれ別の基であってもよい。
【0033】
上記一般式(b-1)中、Lはそれぞれ独立して、好ましくは炭素原子数1~11のアルキレン基、より好ましくは炭素原子数1~9のアルキレン基を表し、当該アルキレン基中の1以上の-CH-は、互いに隣接しないよう-O-に置換されてもよい。具体的には、Lは、炭素原子数1~11のアルキレン基、炭素原子数1~11のアルキレンオキシ基、-(CHO)p1-C(=O)-Rb4、-(CHO)p1-Rb4、-(CHO)p1-(CHp2-、-(CHp3-(CHO)p1-(CHp2-、-(OCHq1-、-(OCHq1-(CHq2-及び-(CHq3-(OCHq1-(CHq2-からなる群から選択される1種であることが好ましい。また、前記p1~p3及び前記q1~q3はそれぞれ独立して、1~11の整数を表すことが好ましく、より好ましくは1~6の整数、さらに好ましくは1~3の整数、特に好ましくは1~2の整数である。
【0034】
上記一般式(b-1)中、Lはそれぞれ独立して、好ましくは単結合又は炭素原子数1~11のアルキレン基、より好ましくは単結合又は炭素原子数1~9のアルキレン基を表し、当該アルキレン基中の1以上の-CH-は、互いに隣接しないよう-O-に置換されてもよい。具体的には、Lは、単結合、炭素原子数1~11のアルキレン基、炭素原子数1~11のアルキレンオキシ基、-(CHO)p1-C(=O)-、-(CHO)p1-、-(CHO)p1-(CHp2-、-(CHp3-(CHO)p1-(CHp2-、-(OCHq1-、-(OCHq1-(CHq2-及び-(CHq3-(OCHq1-(CHq2-からなる群から選択される1種であることが好ましい。また、前記p1~p3及び前記q1~q3はそれぞれ独立して、1~11の整数を表すことが好ましく、より好ましくは1~6の整数、さらに好ましくは1~3の整数、特に好ましくは1~2の整数である。
さらには、Rb1又はLの少なくともいずれか一方に、-CHO-基を有することが好ましく、Rb1及びLの両方に、-CHO-基を有することがより好ましい。
【0035】
上記一般式(b-1)中のZは、水素原子又は炭素原子数1~11のアルキル基を表すことが好ましく、水素原子又は炭素原子数1~9のアルキル基を表すことがより好ましい。
【0036】
上記一般式(b-1)中、kは、0~20の整数であることが好ましく、より好ましくは0~15の整数、さらに好ましくは0~10の整数である。なお、kが2以上の場合、複数存在するLは、互いに同一の基であっても、あるいは異なる基であってもよい。
【0037】
本実施形態のベンジルエーテル骨格を有する化合物(B)の好ましい形態としては、以下の一般式(b-2)で表される構造単位を有する化合物でありうる。
【化9】
(上記一般式(b―2)中、Rb1はそれぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1~11のアルキル基を表し、当該アルキル基中の1以上の-CH-は、互いに隣接しないよう-O-又は-C(=O)-に置換されてもよく、
b2及びRb3はそれぞれ独立して、炭素原子数1~18のアルキル基を表し、
はそれぞれ独立して、炭素原子数1~11のアルキレン基を表し、当該アルキレン基中の1以上の-CH-は、互いに隣接しないよう-O-に置換されてもよく、
は、単結合又は炭素原子数1~11のアルキレン基を表し、当該アルキレン基中の1以上の-CH-は、互いに隣接しないよう-O-又は-(C=O)-に置換されてもよく、
はそれぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1~11のアルキル基を表し、
kは0以上20以下の整数を表し、
b1及びmb2はそれぞれ独立して、0以上4以下の整数を表し、
b1又はLの少なくともいずれか一方に、-CHO-基を有する。)
上記一般式(b―2)中、Rb1、Rb2及びRb3、L、L、Z、k、並びにmb1及びmb2の好ましい形態は、上記一般式(b―1)と同様である。
【0038】
本実施形態におけるベンジルエーテル骨格を有する化合物(B)は、単独で用いても、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよく、また、互いに異なるベンジルエーテル骨格を有する化合物(B)を2種以上含有する混合物であってもよい。
なお、本明細書では説明の便宜上、用語「ベンジルエーテル骨格を有する化合物(B)」のうち、互いに異なるベンジルエーテル骨格を有する化合物(B)を2種以上含有する混合物を、ベンジルエーテル骨格を有する混合物(B)と称する。したがって、「ベンジルエーテル骨格を有する化合物(B)」とは、1種の化合物だけを表す場合だけでなく、ベンジルエーテル骨格を有する混合物(B)も包含する。
【0039】
本実施形態のベンジルエーテル骨格を有する混合物(B)は、以下の一般式(b-3)で表される部分構造:
【化10】
(上記一般式(b-3)中、L及びLは連結基であり、それぞれ独立して、-CH-、-CHO-CH-、-(CHO)-CH-及び-(CHO)-CH-からなる群から選択される1種の基であり、*は他の原子との結合を表す。)を有する成分がベンジルエーテル骨格を有する混合物(B)全体の95質量%以上100質量%以下を占有することが好ましい。
本実施形態のベンジルエーテル骨格を有する混合物(B)は、上記一般式(b-3)で表される部分構造を有する成分がベンジルエーテル骨格を有する混合物(B)全体の95質量%以上100質量%以下を占有し、かつ以下の(I)又は(II)の要件を満たすことが好ましい。
(I)上記一般式(b-3)で表される部分構造を有する成分を構成する一分子当たりの連結基の数(L及びLの合計数)が、1.1以上2.4以下である。
(II)上記一般式(b-3)で表される部分構造を有する成分を構成する分子の末端に結合されている末端基の数が、前記分子1つあたり、0.5以上1.5以下である。
【0040】
本実施形態において、上記一般式(b-3)で表される部分構造を有する成分を構成する分子の連結基(L及びL)としては、-CH-、-CHO-CH-、-(CHO)-CH-及び-(CHO)-CH-からなる群から選択される1種の基が挙げられる。
ベンジルエーテル骨格を有する混合物(B)全体において、上記一般式(b-3)で表されるベンジルエーテル骨格を有する一分子当たりの以下の連結基(L及びLの合計数)の数が、以下の(1)~(4)の組成であることが好ましい。
(1)連結基「-CH-」の数は、0.65以上1.4以下であることが好ましい。
(2)連結基「-CHO-CH-」の数は、0.07以上0.2以下であることが好ましく、0.08以上0.14以下であることがより好ましい。
(3)連結基「-(CHO)-CH-」の数は、0.10以上0.8以下であることが好ましく、0.2以上0.8以下であることがより好ましい。別の形態では、0.41超0.8以下であることが好ましい。
(4)連結基「-(CHO)-CH-」の数は、0.05以上0.65以下であることが好ましく、0.09以上0.6以下であることが好ましく、0.10以上0.55以下であることがさらに好ましい。
【0041】
本実施形態のベンジルエーテル骨格を有する混合物(B)において、-CH-OH、-CHO-CH、-(CHO)-CH、-(CHO)-CH及び-(CHO)-COHからなる群から選択される1種以上の基を、上記一般式(b-3)で表される部分構造を有する成分を構成する分子の末端に結合されている末端基として有することが好ましい。
そして、ベンジルエーテル骨格を有する混合物(B)全体において、上記一般式(b-3)で表されるベンジルエーテル骨格を有し、かつ一分子当たりの末端基の数が、0.5以上1.5以下であることが好ましい。
ベンジルエーテル骨格を有する混合物(B)全体において、ベンジルエーテル骨格を有する一分子当たりの以下の末端基の数が、以下の(5)~(10)の組成であることが好ましい。
(5)末端基「-CH-OH」の数は、0.17以上0.4以下であることが好ましく、0.18以上0.25以下であることがより好ましい。
(6)末端基「-CHO-CH」の数は、0.17以上0.7以下であることが好ましく、0.18以上0.44以下であることがより好ましい。
(7)末端基「-(CHO)-CH」の数は、0.08以上0.6以下であることが好ましく、0.09以上0.3以下であることが好ましい。
(8)末端基「-(CHO)-CH」の数は、実質的に含んでいないことが好ましく、0.3以下であることがより好ましく、0.2以下であることがさらに好ましい。
(9)末端基「-(CHO)-COH」の数は、0以上0.1以下であることが好ましく、0.01以上0.1以下であることがより好ましい。
本実施形態のベンジルエーテル骨格を有する混合物(B)において、連結基の化学構造及びその数、並びに末端基の化学構造及びその数は、後述の実施例の欄に示す通り、NMRから算出する、あるいは製造メーカのカタログを参照することができる。
【0042】
本実施形態において、ベンジルエーテル骨格を有する化合物(B)は合成品でも市販品でもよく、市販されているベンジルエーテル骨格を有する化合物(B)としては、例えば、フドー株式会社製のキシレン樹脂(商標名:ニカノール(Y-50、Y-100、Y-300、Y-1000、LLL、LL、L又はH))が好ましい。
本実施形態において、ポリマレイミド樹脂の総量(100質量%)に対して、ベンジルエーテル骨格を有する化合物(B)の構造単位は1~99質量%含有することが好ましく、5~95質量%含有することがより好ましい。上記ベンジルエーテル骨格を有する化合物(B)の構造単位とは、上記一般式(1)で表される基をいう。
【0043】
-無水マレイン酸-
本実施形態において、無水マレイン酸は、ポリマレイミド樹脂の反応原料(1)の必須成分であり、後述のポリマレイミド樹脂の製造方法の欄で説明する通り、芳香族アミン化合物(A)に由来するアミノ基をマレイミド化する反応に使用される。
【0044】
<ポリマレイミド樹脂の物性>
本開示のポリマレイミド樹脂の数平均分子量(Mn)は、200~1500の範囲であることが好ましく、300~800の範囲であることがより好ましい。また、ポリマレイミド樹脂の重量平均分子量(Mw)は280~2000の範囲であることが好ましく、330~1200の範囲であることがより好ましい。
本開示のポリマレイミド樹脂は、溶剤溶解性、耐熱性及び低誘電正接に優れる点から、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定から算出される分子量分布(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))が1.01~4.0の範囲であることが好ましく、より好ましくは、1.05~2.0であり、更に好ましくは、1.10~1.8である。なお、GPC測定から得られるGPCチャートより、分子量分布が広範囲にわたり、高分子量成分が多い場合には、可撓性に寄与する高分子量成分の割合が多くなるため、従来のマレイミドを使用した硬化物と比較して、脆性が抑えられ、可撓性や柔軟性に優れた硬化物を得ることができ、好ましい態様となる。
なお、本実施形態のポリマレイミド樹脂の数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))は、ゲル浸透クロマトグラフィー(以下、「GPC」と略記する。)を用いて、後述する実施例に記載の測定条件で測定したものである。
【0045】
<ポリマレイミド樹脂の製造方法>
以下、本開示のポリマレイミド樹脂の製造方法について説明する。
本実施形態のポリマレイミド樹脂は、その製法は特に限定されず、上記一般式(1)で表される部分構造と、前記一般式(1)で表される部分構造と化学結合される上記一般式(T-1)で表される部分構造と、前記一般式(1)で表される部分構造と化学結合される上記一般式(T-2)で表される部分構造とを有する限りどのように製造されたものでもよい。本実施形態のポリマレイミド樹脂の製造方法の好ましい態様としては、下記一般式(a-1)で表される芳香族アミン化合物(A)(以下、単に芳香族アミン化合物(A)とも称する。)と、ベンジルエーテル骨格を有する化合物(B)と、無水マレイン酸とを反応原料(1)として使用することが好ましい。
【化11】
(上記一般式(a-1)中、Ra1及びRa2はそれぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1~6のアルキル基を表し、Rは炭素原子数1~18の炭化水素基を表し、R及びRはそれぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1~18の炭化水素基を表す。)
【0046】
本開示のポリマレイミド樹脂の製造方法の具体的な態様としては、例えば、以下の工程(1)及び(2)を含む製造方法が挙げられる。
工程(1):反応原料(2)として、上記一般式(a-1)で表される芳香族アミン化合物(A)と、ベンジルエーテル骨格を有する化合物(B)とを反応させて、本実施形態における中間体アミン化合物(C)を得る工程;
工程(2):反応原料(3)として、上記工程(1)で得られた中間体アミン化合物(C)と、無水マレイン酸とを反応させて、本開示のポリマレイミド樹脂を得る工程。
具体的には、本実施形態のポリマレイミド樹脂の製造方法は、上記一般式(a-1)で表される芳香族アミン化合物(A)と、ベンジルエーテル骨格を有する化合物(B)とを固体酸触媒下で反応させる工程(1)(架橋工程とも称する。)と、前記工程(1)により生成した中間体アミン化合物(C)と無水マレイン酸とを縮合させる工程(2)(縮合工程とも称する。)を有することが好ましい。
【0047】
以下、本開示のポリマレイミド樹脂を製造する方法の各工程について順に説明する。
<<工程(1):中間体アミン化合物(C)の製造工程>>
以下に、本実施形態における中間体アミン化合物(C)の製造工程について説明する。
本実施形態における工程(1)は、特に制限されないが、例えば、上述した芳香族アミン化合物(A)と、上述したベンジルエーテル骨格を有する化合物(B)(例えば、ニカノール等の)と、必要に応じて添加されるその他の化合物とを、酸触媒の存在下で反応させる工程である。これにより、中間体アミン化合物(C)が生成されうる。
【0048】
前記芳香族アミン化合物(A)と、前記ベンジルエーテル骨格を有する化合物(B)との配合割合としては、得られる硬化物の製造時の成形性、硬化性の物性バランスを考慮すると、前記芳香族アミン化合物(A)1モルに対して、前記ベンジルエーテル骨格を有する化合物(B)のモル割合として、0.001~1モルが好ましく、0.1~0.5モルがより好ましい。
また、ベンジルエーテル骨格を有する化合物(B)として上記のベンジルエーテル骨格を有する混合物(B)などの混合物を使用する場合、芳香族アミン化合物(A)との反応点は、当該混合物に含まれるベンジルエーテル骨格を有する化合物(B)中のメチレンオキシ部(例えば、ベンジルエーテル部(Ph-CHO-CH-)、ベンジルアルコール部(Ph-CHO-H)又はメチレンオキシ部(-CH-O-))でありうる。また、これら各反応点の合計数を1とした場合、芳香族アミン化合物(A)の配合量は等量以上10倍以下であることが好ましく、例えば、前記各反応点の合計数1モルに対して、芳香族アミン化合物(A)の配合量は1~10モルであることが好ましい。
【0049】
また、上記反応を実施する具体的方法としては、全原料を一括装入し、そのまま所定の温度で反応させるか、又は、芳香族アミン化合物(A)若しくはベンジルエーテル骨格を有する化合物(B)の一方と酸触媒とを装入し、所定の温度に保ちつつ、芳香族アミン化合物(A)若しくはベンジルエーテル骨格を有する化合物(B)の他方を滴下させながら反応させる方法が一般的である。この際、滴下時間は、通常、0.1~12時間であり、6時間以下が好ましい。反応後、溶媒を使用した場合は、必要により、溶媒と未反応物を留去させて、前記中間体アミン化合物(C)を得ることができ、溶媒を使用しない場合は、未反応物を留去することによって目的物である前記中間体アミン化合物(C)を得ることができる。
【0050】
本実施形態の工程(1)に用いる酸触媒としては、有機酸、無機酸又は固体酸のいずれでも使用できる。上記有機酸としては、例えば、メタンスルホン酸若しくはフルオロメタンスルホン酸等の脂肪族スルホン酸;3-モルホリノプロパンスルホン酸、ピペラジン-1,4-ビス(2-エタンスルホン酸)、10-カンファースルホン酸、4-クロロベンゼンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸若しくはトリフルオロメタンスルホン酸等の芳香族スルホン酸;リン酸ジメチル若しくはリン酸ジエチル等のアルキルリン酸;硫酸ジメチル、硫酸ジエチル、ラウリル硫酸等のアルキル硫酸;硫酸フェニル、フルオリド硫酸フェニル等の芳香族硫酸;シュウ酸等の種々の酸が挙げられる。
上記無機酸としては、リン酸、塩酸、硫酸、硝酸又はホウ酸等が挙げられる。上記固体酸としては、活性白土、酸性白土、アルミナ、シリカアルミナ、ゼオライト、層状珪酸塩、ヘテロポリ塩酸又は強酸性イオン交換樹脂等が挙げられる。当該層状珪酸塩としては、ディッカイト、ナクライト、カオリナイト、アノーキサイト、メタハロイサイト、ハロイサイトなどのカオリン族、クリソタイル、リザルダイト、アンチゴライト等の蛇紋石族、モンモリロナイト、ザウコナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、テニオライト、ヘクトライト、スチーブンサイト等のスメクタイト族、バーミキュライト等のバーミキュライト族、雲母、イライト、セリサイト、海緑石等の雲母族、アタパルジャイト、セピオライト、パリゴルスカイト、ベントナイト、パイロフィライト、タルク、緑泥石群が挙げられる。これら層状珪酸塩は混合層を形成していてもよい。また、上記酸触媒は1種を単独で用いてもよく、あるいは2種以上組み合わせて用いてもよい。
上記工程(1)における反応後、濾過により簡便に触媒除去が可能な固体酸がハンドリンク性の観点からも好ましく、他の酸を用いるときは、反応後、塩基による中和と水による洗浄を行うことが好ましい。
なお、上記塩基としては、特に制限されることはなく、有機塩基あるいは無機塩であってもよい。当該有機塩基としては、ナトリウムメトキシド、リチウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、リチウムエトキシド、ナトリウムターシャリーブトキシド、カリウムターシャリーブトキシド等のアルカリ金属アルコキシド類;トリエチルアミン、エチルジイソプロピルアミン等のトリアルキルアミン;N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジエチルアニリン等の炭素数1から4のアルキル基を有するアニリン誘導体;ピリジン、2,6-ルチジン等の、炭素原子数1~4のアルキル置換基を有していてもよいピリジン誘導体;1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン等の含窒素複素環化合物等を挙げることができる。一方、上記無機塩基としては、ナトリウムハイドライド、リチウムハイドライド等のアルカリ金属水素化物;カルシウムハイドライド等のアルカリ土類金属水素化物;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等のアルカリ金属若しくはアルカリ土類金属の炭酸塩又は炭酸水素塩;フッ化カリウム、フッ化セシウム、ヨウ化カリウム等のアルカリ金属又はアルカリ土類金属のハロゲン化化合物;を挙げることができる。これらの塩基は1種を単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0051】
本実施形態において、酸触媒の配合量は、仕込む原料(ベンジルエーテル骨格を有する化合物(B)及び芳香族アミン化合物(A))の総量100質量部に対して、酸触媒を0.1~50質量部の範囲で配合されるが、ハンドリング性と経済性の点から、1~20質量部の範囲が好ましい。反応温度は、通常100~300℃の範囲であればよいが、異性体構造の生成を抑制し、熱分解等の副反応を避けるためには120~250℃の範囲が好ましい。
【0052】
本実施形態の工程(1)において、ベンジルエーテル骨格を有する化合物(B)と、芳香族アミン化合物(A)との混合物反応時間、すなわち架橋反応の時間としては、短時間では反応が完全に進行せず、また長時間にすると生成物の熱分解反応等の副反応が起こることから、前記反応温度条件下で、通常は、のべ1~60時間の範囲であるが、好ましくは、のべ1~20時間の範囲である。
本実施形態における中間体アミン化合物(C)の製造方法においては、芳香族アミン化合物(A)又はその誘導体が溶剤を兼ねるため、必ずしも他の溶剤は用いなくても良いが、溶剤を用いることも可能である。例えば、ベンジルエーテル骨格を有する化合物(B)としてニカノールLを原料として反応させる場合には、トルエン、キシレン、又はクロロベンゼン等の共沸脱水可能な溶剤を用いて、必要により触媒等に含まれる水分を共沸脱水させた後、溶媒を留去してから、上記反応温度の範囲で反応を行う方法を採用してもよい。
【0053】
上記工程(1)により得られる中間体アミン化合物(C)は、下記一般式(1)で表される部分構造と、前記一般式(1)で表される部分構造と化学結合される一般式(t-1)で表される部分構造と、前記一般式(1)で表される部分構造と化学結合される一般式(t-2)で表される部分構造と、を有することが好ましい。
【化12】
(上記一般式(1)中、R13はそれぞれ独立して、炭素原子数1~18の炭化水素基を表し、mは0以上4以下の整数を表し、nは平均繰り返し単位数を表し、2つの*はそれぞれ結合手を表し、一方の結合手が下記一般式(t-1)中のL13又はL14の位置で化学結合され、他方の結合手が下記一般式(t-2)中のL11又はL12の位置で化学結合されることを表す。)
【化13】
(上記一般式(t-1)又は(t-2)中、R11及びR15はそれぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1~18の炭化水素基を表し、
12及びR14はそれぞれ独立して、炭素原子数1~18の炭化水素基を表し、
11~L14はそれぞれ独立して、結合手を表し、L11又はL12の位置において一般式(1)で表される部分構造と化学結合され、かつL13又はL14の位置において一般式(1)で表される部分構造と化学結合され、
は0以上2以下の整数を表し、mは0以上2以下の整数を表す。)
上記一般式(1)中の「R13、m及びn」は、上述した一般式(1)中の「R13、m及びn」と同義である。また、一般式(t-1)及び一般式(t-2)中の「L11、L12、L13、L13、R11、R12、R14、R15、m及びm」は、一般式(T-1)及び(T-2)中の「L11、L12、L13、L13、R11、R12、R14、R15、m及びm」と同義である。
【0054】
本実施形態において、中間体アミン化合物(C)のアミン当量としては、160~1200g/当量であることが好ましく、より好ましくは180~600g/当量である。
なお、本明細書における中間体アミン化合物(C)のアミン当量の測定は、JIS K 0070(1992)に規定される中和滴定法に準拠した方法で測定した値とする。
【0055】
<<工程(2):マレイミド化>>
本実施形態における工程(2)は、工程(1)で得られた中間体アミン化合物(C)と、無水マレイン酸とを反応させる工程である。中間体アミン化合物(C)のアミノ基がマレイミド化反応により、前記アミノ基がN-置換マレイミド環に置換された化学構造を形成することができるため、本開示のポリマレイミド樹脂が得られる。
本実施形態において、工程(1)により得られた、上記一般式(1)で表される部分構造と一般式(t-1)で表される部分構造と一般式(t-2)で表される部分構造とを有する中間体アミン化合物(C)を反応器に仕込み、適当な溶媒に溶解した後、触媒の存在下で無水マレイン酸と反応させる。そして反応後、水洗等により未反応の無水マレイン酸又は他の不純物を除去し、減圧によって溶媒を除くことにより目的物であるポリマレイミド樹脂を得ることができる。また、必要により反応時に脱水剤を用いてもよい。
【0056】
本実施形態の工程(2)において使用される有機溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、アセトフェノン等のケトン類、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチル-2-ピロリドン、アセトニトリル、スルホラン等の非プロトン性溶媒、ジオキサン、テトラヒドロフラン等の環状エーテル類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系溶媒等が挙げられ、またこれらは単独で用いても混合して用いてもよい。
【0057】
本実施形態の工程(2)において、中間体アミン化合物(C)と無水マレイン酸との混合比率としては、中間体アミン化合物(C)のアミノ当量に対する無水マレイン酸の当量比を、1~5の範囲に配合することが好ましく、より好ましくは1~3で仕込み、中間体アミン化合物(C)と無水マレイン酸との合計量に対して、0.1~10の質量比、好ましくは0.2~5の質量比の有機溶媒中で反応させることが好ましい態様となる。
【0058】
本実施形態の工程(2)において使用可能な触媒としては、ニッケル、コバルト、ナトリウム、カルシウム、鉄、リチウム、マンガン等の酢酸塩、塩化物、臭化物、硫酸塩、硝酸塩等の無機塩、リン酸、塩酸、硫酸のような無機酸、シュウ酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、フルオロメタンスルホン酸等の有機酸、活性白土、酸性白土、シリカアルミナ、ゼオライト、強酸性イオン交換樹脂のような固体酸、ヘテロポリ塩酸等を挙げることができるが、特にトルエンスルホン酸が好ましく用いられる。
【0059】
本実施形態の工程(2)に用いる脱水剤としては、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸のような低級脂肪族カルボン酸無水物、五酸化リン、酸化カルシウム、酸化バリウム等の酸化物、硫酸等の無機酸、モレキュラーシーブ等の多孔性セラミック等が挙げられるが、好ましくは無水酢酸を用いることができる。
本実施形態の工程(2)において使用される触媒、脱水剤の使用量の制限は特にないが、通常、中間体アミン化合物(C)のアミノ基(-NH)1当量に対し、触媒は0.0001~1モル、好ましくは0.01~0.3モル、脱水剤は1~3モル、好ましくは1~1.5モルで使用することができる。
本実施形態の工程(2)において、マレイミド化の反応条件としては、上記中間体アミン化合物(C)と無水マレイン酸を仕込み、10~100℃、好ましくは30~60℃の温度範囲で、0.5~12時間、好ましくは1~4時間反応させた後、前記触媒を加えて、90~130℃、好ましくは105~120℃の温度範囲で、1~24時間、好ましくは1~10時間反応させることができる。
【0060】
<ポリマレイミド樹脂混合物>
本開示は、下記一般式(1a)で表される部分構造単位を有するポリマレイミド樹脂成分と、下記一般式(2)で表されるマレイミド多量体化合物と、を含有するポリマレイミド樹脂混合物であって、前記ポリマレイミド樹脂成分の総量に対して、上記ポリマレイミド樹脂を1~99質量%含有し、
ポリマレイミド樹脂混合物の総量に対して、前記マレイミド多量体化合物を80質量%以下含有する、ポリマレイミド樹脂混合物である。
【化14】
(上記一般式(1a)中、R11は水素原子又は炭素原子数1~18の炭化水素基を表し、R12は炭素原子数1~18の炭化水素基を表し、R13はそれぞれ独立して、炭素原子数1~18のアルキル基を表し、mは0以上2以下の整数を表し、mは0以上4以下の整数を表し、nは平均繰り返し単位数を表す。)
【化15】
(上記一般式(2)中、R21及びR25はそれぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1~18の炭化水素基を表し、R22及びR24はそれぞれ独立して、炭素原子数1~18の炭化水素基を表し、m21は2を表し、m23は3を表し、n21は1以上5以下の整数を表す。)
これにより、溶剤に対する高い溶解性を有し、かつ硬化時において低誘電正接及び高い耐熱性を示す。また、一般式(2)で表されるマレイミド多量体化合物において、n21が1であるダイマーは結晶性が高く、n21が2以上であるトリマー、テトラマーになるにつれ、溶解性が改善する傾向を示す。なお、一般式(T-1)又は一般式(T-2)で表される部分構造における置換基(R11又はR15、R12又はR14)の数と位置とを本願発明のように設定することにより、溶解性が優れるトリマー、テトラマーの割合を増やしうる。
上記一般式(1a)中の「R11、R12、R13、n、m及びm」は、上述した一般式(1)又は一般式(T-1)中の「R11、R12、R13、n、m及びm」と同義である。
また、一般式(2)中の「R21及びR25」はそれぞれ独立して、一般式(T-1)及び一般式(T-2)中の「R11又はR15」と同義である。一般式(2)中の「R22及びR24」はそれぞれ独立して、一般式(T-1)及び一般式(T-2)中の「R12又はR14」と同義である。
【0061】
[硬化性組成物の調製]
本開示の硬化性組成物は、上述したポリマレイミド樹脂を含有することが好ましい。本実施形態のポリマレイミド樹脂が、溶剤溶解性、誘電正接及び耐熱性に優れ、さらに、加熱溶融時の流動性、ハンドリング性、寸法安定性、低吸湿性、耐脆性、及び、低誘電率に寄与できるため、前記ポリマレイミド樹脂を含有する硬化性組成物より得られる硬化物は、溶剤溶解性、誘電特性及び耐熱性に優れる。
【0062】
本開示の硬化性組成物は、硬化剤を含有してもよく、さらに必要に応じて、硬化促進剤、シランカップリング剤、離型剤、顔料、乳化剤、非ハロゲン系難燃剤、無機充填材等の種々の配合剤を添加することができる。また、本開示の目的を損なわない範囲であれば、前記ポリマレイミド樹脂以外に、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、活性エステル樹脂、シアネート樹脂等を適宜配合することも可能である。
【0063】
[硬化物]
本開示の硬化物は、前記硬化性組成物により得られることが好ましい。前記硬化物は、前記硬化性組成物を硬化反応させて得ることができる。前記硬化性組成物は、上述した各成分を均一に混合することにより得られ、従来知られている方法と同様の方法で容易に硬化物とすることができる。前記硬化物としては、積層物、注型物、接着層、塗膜、フィルム等の成形硬化物が挙げられる。
【0064】
[半導体封止材料]
本開示は、本実施形態の硬化性組成物を含有する半導体封止材料である。本実施形態の硬化性組成物を用いて得られる半導体封止材料は、本開示のポリマレイミド化合物を使用することにより、吸湿性、低誘電正接性率又は寸法安定性が改善されているため、製造工程における加工性や成形性、耐リフロー性に優れ、好ましい態様となる。
前記半導体封止材料に用いられる本実施形態の硬化性組成物には、無機充填剤を含有することができる。なお、前記無機充填剤の充填率としては、本実施形態の硬化性組成物100質量部に対して、例えば、無機充填剤を0.5~1200質量部の範囲で用いることができる。また、当該無機充填剤としては、例えば、硫酸バリウム、チタン酸バリウム、無定形シリカ、結晶性シリカ、ノイブルグ珪土、溶融シリカ、球状シリカ、タルク、クレー、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、等を挙げることができる。
【0065】
前記半導体封止材料を得る方法としては、本実施形態の硬化性組成物に、更に任意成分である添加剤とを必要に応じて、押出機、ニ-ダ、ロ-ル等を用いて均一になるまで充分に溶融混合する方法などが挙げられる。
【0066】
[半導体装置]
本開示は、前記半導体封止材料の硬化物を含む半導体装置である。本実施形態の硬化性組成物を用いて得られる半導体封止材料を用いて得られる半導体装置は、本開示のポリマレイミド化合物を使用するため、低粘度で流動性に優れ、更に、吸湿性、熱時弾性率又は金属材料との接着性が改善されているため、製造工程における加工性や成形性、耐リフロー性に優れ、好ましい態様となる。
【0067】
前記半導体装置を得る方法としては、前記半導体封止材料を注型、または、トランスファー成形機、射出成形機などを用いて成形し、さらに室温(20℃)~250℃の温度範囲で、加熱硬化する方法が挙げられる。
【0068】
[プリプレグ]
本開示は、補強基材、及び、前記補強基材に含浸した本実施形態の硬化性組成物の半硬化物を有するプリプレグである。上記硬化性組成物からプリプレグを得る方法としては、後述する有機溶媒を配合して、ワニス化した硬化性組成物を、補強基材(紙、ガラス布、ガラス不織布、アラミド紙、アラミド布、ガラスマット、ガラスロービング布など)に含浸したのち、用いた溶媒種に応じた加熱温度、好ましくは50~170℃で加熱することによって、前記硬化性組成物を半硬化(あるいは未硬化)してプリプレグを得る方法が挙げられる。この時用いる硬化性組成物と補強基材の質量割合としては、特に限定されないが、通常、プリプレグ中の樹脂分が20~60質量%となるように調製することが好ましい。
本実施形態において、硬化性組成物の半硬化物は、加熱温度及び加熱時間を調整して、硬化反応を完了させずに途中で停止させることによって得られる。また、例えば、半硬化物は、例えば85%以下5%以上の硬化度でありうる。一方、本実施形態における硬化物は、半硬化物より高い硬化度を有しうる。
なお、当該半硬化物の硬化度は、硬化性組成物を加熱する際の硬化発熱量と、その半硬化物の硬化発熱量をDSCにより測定し、以下の式から算出できる。
硬化度(%)=[1-(半硬化物の硬化発熱量/硬化性組成物の硬化発熱量)]×100
【0069】
プリプレグの製造に用いる有機溶媒としては、例えば、メチルエチルケトン、アセトン、ジメチルホルムアミド、メチルイソブチルケトン、メトキシプロパノール、シクロヘキサノン、メチルセロソルブ、エチルジグリコールアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等が挙げられ、その選択や適正な使用量は用途によって適宜選択し得るが、例えば、下記のようにプリプレグからプリント回路基板をさらに製造する場合には、メチルエチルケトン、アセトン、ジメチルホルムアミド等の沸点が160℃以下の極性溶媒を用いることが好ましく、また、不揮発分が40~80質量%となる割合で用いることが好ましい。
【0070】
[回路基板]
本開示は、前記プリプレグ、及び、銅箔の積層体である回路基板である。本実施形態の硬化性組成物からプリント回路基板を得る方法としては、上記プリプレグを、常法により積層し、適宜銅箔を重ねて、1~10MPaの加圧下に170~300℃で10分~3時間、加熱圧着させる方法が挙げられる。
【0071】
[ビルドアップフィルム]
本開示は、本実施形態の硬化性組成物を含有するビルドアップフィルムである。本実施形態のビルドアップフィルムを製造する方法としては、上記硬化性組成物を、支持フィルム上に塗布し、硬化性組成物層を形成させて多層プリント配線板用の接着フィルムとすることにより製造する方法が挙げられる。
【0072】
硬化性組成物からビルドアップフィルムを製造する場合、該フィルムは、真空ラミネート法におけるラミネートの温度条件(通常70~140℃)で軟化し、回路基板のラミネートと同時に、回路基板に存在するビアホール、あるいは、スルーホール内の樹脂充填が可能な流動性(樹脂流れ)を示すことが肝要であり、このような特性を発現するよう上記各成分を配合することが好ましい。
【0073】
ここで、多層プリント配線板のスルーホールの直径は、通常0.1~0.5mm、深さは通常0.1~1.2mmであり、通常この範囲で樹脂充填を可能とするのが好ましい。なお回路基板の両面をラミネートする場合はスルーホールの1/2程度充填されることが望ましい。
【0074】
上記した接着フィルムを製造する方法は、具体的には、ワニス状の上記硬化性組成物を調製した後、支持フィルム(Y)の表面に、このワニス状の組成物を塗布し、更に加熱、あるいは熱風吹きつけ等により有機溶媒を乾燥させて硬化性組成物からなる組成物層(X)を形成させることにより製造することができる。
【0075】
形成される組成物層(X)の厚さは、通常、導体層の厚さ以上とすることが好ましい。回路基板が有する導体層の厚さは通常5~70μmの範囲であるので、樹脂組成物層の厚さは10~100μmの厚みを有するのが好ましい。
【0076】
なお、本実施形態における組成物層(X)は、後述する保護フィルムで保護されていてもよい。保護フィルムで保護することにより、樹脂組成物層表面へのゴミ等の付着やキズを防止することができる。
【0077】
上記した支持フィルム(Y)及び保護フィルムは、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート(以下「PET」と略称することがある。)、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリカーボネート、ポリイミド、更には離型紙や銅箔、アルミニウム箔等の金属箔などを挙げることができる。なお、支持フィルム及び保護フィルムはマッド処理、コロナ処理の他、離型処理を施してあってもよい。
【0078】
支持フィルムの厚さは特に限定されないが、通常10~150μmであり、好ましくは25~50μmの範囲で用いられる。また保護フィルムの厚さは1~40μmとするのが好ましい。
【0079】
上記した支持フィルム(Y)は、回路基板にラミネートした後に、或いは加熱硬化することにより絶縁層を形成した後に、剥離される。接着フィルムを加熱硬化した後に支持フィルム(Y)を剥離すれば、硬化工程でのゴミ等の付着を防ぐことができる。硬化後に剥離する場合、通常、支持フィルムには予め離型処理が施される。
【0080】
<耐熱材料及び電子材料>
本開示のポリマレイミド樹脂を含有する硬化性組成物により得られる硬化物が、低吸湿性を示し、かつ耐熱性及び誘電特性に優れることから、耐熱部材又は電子部材に好適に使用可能である。特に、プリプレグ、回路基板、半導体封止材、半導体装置、ビルドアップフィルム、ビルドアップ基板、導電性ペーストを用いた接着剤やレジスト材料などに好適に使用できる。また、繊維強化樹脂のマトリクス樹脂にも好適に使用でき、高耐熱性のプリプレグとして特に適している。また、前記硬化性組成物に含まれる前記インダン骨格を有するマレイミドは、各種溶剤への優れた溶解性を示すことから塗料化が可能である。こうして得られる耐熱部材や電子部材は、各種用途に好適に使用可能であり、例えば、産業用機械部品、一般機械部品、自動車・鉄道・車両等部品、宇宙・航空関連部品、電子・電気部品、建築材料、容器・包装部材、生活用品、スポーツ・レジャー用品、風力発電用筐体部材等が挙げられるが、これらに限定される物ではない。
【実施例0081】
本発明を実施例、比較例により具体的に説明する。尚、合成したポリマレイミド樹脂の物性測定は以下の通り実施し、表1に示した。
【0082】
(1)アミン当量
以下の測定法により、中間体アミン化合物(c-1)~(c-2)及び中間体アミン化合物(c1)~(c2)のアミン当量を測定した。
500mL共栓付き三角フラスコに、試料である上記各中間体アミン化合物を約2.5g、ピリジン7.5g、無水酢酸2.5g、トリフェニルホスフィン7.5gを精秤後、冷却管を装着し120℃に設定したオイルバスにて150分加熱還流する。
冷却後、蒸留水5.0mL、プロピレングリコールモノメチルエーテル100mL、テトラヒドロフラン75mLを加え、0.5mol/L水酸化カリウム-エタノール溶液で電位差滴定法により滴定した。同様の方法で空試験を行なって補正した。
アミン当量(g/当量)=(S×2,000)/(Blank-A)
S:試料の量(g)
A:0.5mol/L水酸化カリウム-エタノール溶液の消費量(mL)
Blank:空試験における0.5mol/L水酸化カリウム-エタノール溶液の消費量(mL)
【0083】
(2)GPC測定
以下の測定装置、測定条件を用いて、実施例及び比較例で得られたポリマレイミド樹脂についての、数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、及び分子量分布(Mw/Mn)を算出した。
「測定装置」
東ソー株式会社製「HLC-8320 GPC」
「測定条件」
カラム:東ソー株式会社製ガードカラム「HXL-L」+東ソー株式会社製「TSK-GEL G2000HXL」+東ソー株式会社製「TSK-GEL G2000HXL」+東ソー株式会社製「TSK-GEL G3000HXL」+東ソー株式会社製「TSK-GEL G4000HXL」
検出器:RI(示差屈折計)
データ処理:東ソー株式会社製「GPCワークステーション EcoSEC-WorkStation」
測定条件:カラム温度 40℃
展開溶媒 テトラヒドロフラン
流速 1.0ml/分
標準:前記「GPCワークステーション EcoSEC-WorkStation」の測定マニュアルに準拠して、分子量が既知の下記の単分散ポリスチレンを用いた。
(使用ポリスチレン)
東ソー株式会社製「A-500」
東ソー株式会社製「A-1000」
東ソー株式会社製「A-2500」
東ソー株式会社製「A-5000」
東ソー株式会社製「F-1」
東ソー株式会社製「F-2」
東ソー株式会社製「F-4」
東ソー株式会社製「F-10」
東ソー株式会社製「F-20」
東ソー株式会社製「F-40」
東ソー株式会社製「F-80」
東ソー株式会社製「F-128」
試料:合成例で得られたポリマレイミド樹脂の樹脂固形分換算で1.0質量%のテトラヒドロフラン溶液をマイクロフィルターでろ過したもの(50μl)。
【0084】
(3)NMR測定
H-NMR測定>
H-NMR:JEOL RESONANCE製「JNM-ECA600」
磁場強度:600MHz
積算回数:32回
溶媒:DMSO-d
13C-NMR測定>
13C-NMR:JEOL RESONANCE製「JNM-ECA600」
磁場強度:125MHz
積算回数:1000回
溶媒:CDCL3
試料濃度:12質量%
前記13C―NMRチャートの結果より、目的生成物由来のピークが確認でき、各反応における目的生成物が得られたことを確認した。
【0085】
(4)ポリマレイミド樹脂の合成
<実施例1>ポリマレイミド樹脂(A-1)の合成
(I)中間体アミン化合物(c-1)の合成
温度計、冷却管、ディーンスタークトラップ及び攪拌機を取り付けたフラスコに、2-エチルアニリン400g(3.3mol)、ベンジルエーテル骨格を有する化合物(B)(ニカノールL、フドー株式会社製)127g、トルエン193g及び活性白土53gを仕込み、攪拌しながら120℃まで昇温し、30分間ホールドした。その後、150℃まで昇温し3時間ホールドした。ホールド終了後、30分かけて200℃まで昇温させ、10時間ホールドした。ホールド終了後、トルエン193gで希釈し、濾過により活性白土を濾別した。濾液は加熱減圧により溶剤及び過剰の2-エチルアニリンを留去し、中間体アミン化合物(c-1)を得た(アミン当量209g/当量)。得られた中間体アミン化合物(c-1)のMS及び13C-NMRを図1及び図2に示す。
(II)マレイミド化
温度計、冷却管、ディーンスタークトラップ及び攪拌機を取り付けた2Lフラスコに無水マレイン酸73.2g(126mol、1.3当量)、トルエン461gを仕込み室温で攪拌した。次に中間体アミン化合物(c-1)209g(1当量)とDMF57.7gとの混合溶液を1時間かけて滴下し、その後2時間反応させた。その反応液にp-トルエンスルホン酸一水和物9.72gを加え、反応液を加熱し還流下で共沸してくる水とトルエンとを冷却・分離した後、115℃まで加熱し還流下で共沸してくる水とトルエンとを冷却・分離した後、トルエンだけを系内に戻して脱水反応を5時間行った。室温まで空冷後、室温まで空冷後、減圧濃縮し褐色溶液を酢酸エチル600gに溶解させイオン交換水200gで3回、2質量%炭酸水素ナトリウム水溶液150gで3回洗浄し、硫酸ナトリウムを加え乾燥後、減圧濃縮し得られた反応物を80℃で4時間真空乾燥を行い、ポリマレイミド樹脂(A-1)を含有する生成物を得た。
当該ポリマレイミド樹脂(A-1)のGPCチャートを図3に、FD-MSスペクトルを図4に、13C-NMRスペクトル結果を図5に示す。
【0086】
<実施例2>ポリマレイミド樹脂(A-2)の合成
実施例1の2-エチルアニリンの代わりに、2,3-ジメチルアニリン400g(3.3mol)へと変更した以外は、実施例1の(I)と同様に反応を行い、中間体アミン化合物(c-2)を調製した後、実施例1の(II)と同様に反応を行って当該中間体アミン化合物(c-2)をマレイミド化して目的物であるポリマレイミド樹脂(A-2)を得た。また、中間体アミン化合物(c-2)のアミン当量は216(g/当量)であった。得られた中間体アミン化合物(c-1)のMS及び13C-NMRを図6及び図7に示す。そして、当該ポリマレイミド樹脂(A-2)のGPCチャートを図8に、FD-MSスペクトルを図9に、13C-NMRスペクトル結果を図10に示す。
【0087】
<比較例1>比較用マレイミド化合物(1)の合成
実施例1の2-エチルアニリンの代わりに、2-エチル-6-メチルアニリン447.0g(3.3mol)へと変更した以外は、実施例1の(I)と同様に反応を行い、比較用中間体アミン化合物(c1)を調製した後、実施例1の(II)と同様に反応を行って当該比較用中間体アミン化合物(c1)をマレイミド化して目的物である比較用マレイミド化合物(1)を得た(アミン当量210g/当量)。
得られた比較用中間体アミン化合物(c1)のMS及び13C-NMRを図11及び図12に示す。そして、当該比較用マレイミド化合物(1)のGPCチャートを図13に、FD-MSスペクトルを図14に、13C-NMRスペクトル結果を図15に示す。
【0088】
<比較例2>比較用マレイミド化合物(2)の合成
実施例1の2-エチルアニリンの代わりに、アニリン307.4g(3.3mol)へと変更した以外は、実施例1の(I)と同様に反応を行い、比較用中間体アミン化合物(c2)を調製した後、実施例1の(II)と同様に反応を行って当該比較用中間体アミン化合物(c2)をマレイミド化して目的物である比較用マレイミド化合物(2)を得た。また、比較用中間体アミン化合物(c2)のアミン当量は、201(g/当量)であった。得られた比較用中間体アミン化合物(c2)のMS及び13C-NMRを図16及び図17に示す。そして、当該比較用マレイミド化合物(2)のFD-MSスペクトルを図18に、13C-NMRスペクトル結果を図19に示す。
【0089】
<実施例3~4及び比較例3~5>
<<硬化性組成物の調製及び硬化物の作製>>
上記実施例1~2で得られたポリマレイミド樹脂(A-1)~(A-2)と、上記比較例1~2で得られた比較用マレイミド化合物(1)~(2)と、以下の式(i):
【化16】
で表される比較用マレイミド化合物(3)(「BMI-5100」大和化成工業株式会社製)と、反応性二重結合を有するポリフェニレンエーテル化合物(1)(「SA-9000」、SABIC社製、Mw:1700)と、触媒としてDCPO(「パークミルD」、日油株式会社製、Dicumyl Peroxide)と、を以下の表1に示す割合で配合し、実施例3~4及び比較例3~5の硬化性組成物を調製した。
【0090】
次いで、実施例3~4及び比較例3~5の硬化性組成物を以下の硬化条件を用いて硬化することにより、実施例3~4及び比較例3~5の硬化物を作製した。そして、下記の方法により、誘電正接、耐熱性及び溶剤溶解性の物性評価を行った。その結果を表1に示す。
<<硬化条件>>
真空プレスを用いて200℃で2時間の後、250℃で2時間加熱硬化
成型後板厚:1.3mm
【0091】
<<誘電正接の測定>>
JIS-C-6481に準拠し、アジレント・テクノロジー株式会社製ネットワークアナライザ「E8362C」を用い空洞共振法にて、絶乾後23℃、湿度50%の室内に24時間保管した後の試験片の10GHzでの誘電正接を測定した。
なお、誘電正接の値は0.0025以下を良好とする。
【0092】
<<耐熱性(DMA Tg)の測定>>
粘弾性測定装置(レオメトリック社製「固体粘弾性測定装置RSAII」、レクタンギュラーテンション法:周波数1Hz、昇温速度3℃/分)を用いて、実施例3~4及び比較例3~5の硬化物の弾性率変化が最大となる(Tanδ変化率が最も大きい)温度ガラス転移温度(Tg)として評価した。なお、Tgの値は耐熱性の観点から230℃以上を良好とする。
【0093】
<<溶剤溶解性>>
ポリマレイミド化合物(A-1)~(A-2)、比較用マレイミド化合物(1)~(3)について、不揮発分60質量%となるようにメチルエチルケトン(MEK)溶液を調製し、析出までの日数を測定した。また、DMF(ジメチルホルムアミド)などと比較して低沸点で残溶を抑制できる観点から回路基板用途において汎用使用される溶剤として、MEKを選択した。なお、析出しない状態を維持する日数については30日以上を良好とする。
【0094】
【表1】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19