(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024161561
(43)【公開日】2024-11-19
(54)【発明の名称】形状測定機の校正方法
(51)【国際特許分類】
G01B 5/00 20060101AFI20241112BHJP
【FI】
G01B5/00 P
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024139598
(22)【出願日】2024-08-21
(62)【分割の表示】P 2021025088の分割
【原出願日】2021-02-19
(71)【出願人】
【識別番号】000151494
【氏名又は名称】株式会社東京精密
(74)【代理人】
【識別番号】110003535
【氏名又は名称】スプリング弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】川田 善之
(57)【要約】 (修正有)
【課題】回転テーブルが搭載される形状測定機において、形状測定機の直動機構の少なくとも1軸を原点復帰したときであっても、精度を保ちながら少ない工程で回転テーブルを校正する。
【解決手段】形状測定機の校正方法において、移動体の原点復帰により原点位置を設定する初期設定の第1のステップと、移動体の原点位置の初期値に対応する回転テーブルの中心位置の初期値を求める第2のステップと、移動体を駆動後に移動体の直動軸を原点に復帰させる第3のステップと、移動体の原点復帰に応じて移動体の中心位置を更新する第4のステップを備える。第4のステップでは、1つまたは2つの周方向位置で回転テーブルに配設された直径既知の基準球の中心位置を求め、基準球についての1点または2点の中心位置から回転テーブルの中心位置を求め、第2のステップで得た回転テーブルの中心位置を更新する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
定盤とこの定盤に対して直動可能な少なくとも1軸を備えた移動体と、前記定盤に対して回転自在な回転テーブルとを含む形状測定機の校正方法において、
前記移動体を駆動後に前記移動体の少なくとも1軸を原点に復帰させる原点復帰のステップと、
前記移動体の原点復帰に応じて前記回転テーブルの予め記憶された中心位置を更新するステップと、を備え、
前記中心位置を更新するステップは、前記回転テーブルを回転駆動して前記回転テーブルの少なくとも2つの周方向位置で、前記回転テーブル表面近傍に配設され、その直径が予め測定又は記憶された基準球の中心位置を求めるステップと、
前記基準球についての少なくとも2点の中心位置から前記回転テーブルの中心位置を求め、前記予め記憶された中心位置を更新するステップを含む、ことを特徴とする形状測定機の校正方法。
【請求項2】
前記基準球の中心位置を求めるステップは、前記回転テーブルを駆動して回転対称にある2つの周方向位置において、測定プローブを、前記基準球の前記原点復帰の前の予め記憶された中心位置に基づき、前記基準球に接近させて、前記基準球の中心位置を求めるステップである、請求項1に記載の形状測定機の校正方法。
【請求項3】
前記基準球の中心位置を求めるステップは、前記回転テーブルを駆動して異なる3つ以上の周方向位置において、測定プローブを、前記基準球の前記原点復帰前の予め記憶された中心位置に基づき、前記基準球に接近させて、前記基準球の中心位置を求めるステップである、請求項1に記載の形状測定機の校正方法。
【請求項4】
前記原点復帰のステップの後、前記中心位置を更新するステップの前に、前記基準球を前記回転テーブル表面の近傍に配設するステップを有し、
前記基準球の中心位置を求めるステップは、前記回転テーブルを駆動して回転対称にある2つの周方向位置において前記基準球の中心位置を求めるステップである、請求項1に記載の形状測定機の校正方法。
【請求項5】
定盤とこの定盤に対して直動可能な少なくとも1軸を備えた移動体と、前記定盤に対して回転自在な回転テーブルとを含む形状測定機の校正方法において、
前記移動体を駆動後に前記移動体の少なくとも1軸を原点に復帰させる原点復帰のステップと、
前記移動体の原点復帰に応じて、前記回転テーブルの予め記憶された中心位置を更新するステップと、を備え、
前記中心位置を更新するステップは、前記回転テーブルを回転駆動して前記回転テーブルの周方向の基準位置1点において、前記回転テーブル表面近傍に配設され、その直径が予め測定又は記憶された基準球の中心位置を求めるステップと、
求めた前記中心位置と、前記基準位置で測定された前記原点復帰前の前記基準球の中心位置とから前記回転テーブルの中心位置を求め、前記予め記憶された中心位置を更新するステップを含む、ことを特徴とする形状測定機の校正方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークの形状・寸法を測定する形状測定機の校正方法に係り、特に回転テーブルを有する形状測定機に好適な校正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
測定対象のワークの外径や内径等を高精度に測定するために、先端が球状のプローブをワークに当接、または、光学式プローブなどを接近させて非接触で測定する、三次元測定可能な形状測定機が多用される。このような形状測定機では、定盤上に水平面内のX軸方向、X軸方向に直交するY軸方向、およびX、Y軸方向の双方に直交する上下方向のZ軸方向に動く移動体がそれぞれ用意され、前記プローブは、これらの移動体に接続されており、X軸、Y軸、Z軸方向に移動可能となっている。ワークは、上記定盤上に載置される。ワークが回転対称性を有する場合には、ワークの軸を自身のZ軸に一致させて載置可能な回転テーブルまたはθテーブルを前記定盤上に取り付けて測定することで、測定に要する時間を低減している。
【0003】
ところで、X、Y、Z軸方向の移動体および回転テーブルでは、その導入時において各軸を調整し、原点を設定する。これらテーブルは、長期の稼働後の環境変化等でまたは電源切断により、原点が移動する可能性がある。形状測定機を再起動する時に、一旦、X、Y、Z軸方向の移動体を原点復帰させると、回転テーブルでは原点が数十μmもの位置ずれを生じる場合がある。そのため、長期使用後の原点復帰動作や電源切断後の再起動時には、形状測定機の導入時と同様の校正が必要であった。
【0004】
形状測定機を導入する時と同様の校正は、多大な時間と工数を要するものであり、高精度を維持しつつ校正の簡略化または短縮化が求められている。回転テーブルにおける上記不具合を解消するために、従来種々の方法が提案されている。例えば、特許文献1に記載の座標測定機用ロータリテーブル(回転テーブル)では、ワークを取り付ける治具をロータリテーブルから取り外すことなく、ロータリテーブルの校正を実行している。
【0005】
具体的には、ロータリテーブルの回転中心近傍に第1の基準球を、第1の基準球とは高さが異なる位置に第2の基準球をそれぞれ設けた後、それらの回転中心を求め、一方の基準球の回転中心をロータリテーブルの回転中心に暫定的に設定する。それとともに2個の基準球の回転中心を通る直線の傾きを、ロータリテーブルの傾きとする。さらに第3の基準球をワークの治具を回避した位置に設け、その回転中心を求める。環境変化等で新たな校正が必要になったときに、第3の基準球の回転中心をその都度求め、先に求めておいた第3の基準球の回転中心との差から、暫定的に設定したロータリテーブルの回転中心を補正している。
【0006】
回転テーブルの他の校正方法が、特許文献2に開示されている。この公報に記載の三次元測定機では、回転テーブルの座標系を登録するために、少なくとも3点の角度位置で回転テーブルの表面の基準点の座標位置を測定する。測定に用いる校正治具は、接触部として3個の同径の球体を有するとともに支柱及び基台を支持部として有し、プローブの先端球に3点で同時に接することが可能である。測定時には、回転テーブルの表面に校正治具を設置してプローブを校正治具に接近させ、プローブの先端球が3個の球体と同時に接触した状態で、座標位置を読み取っている。
【0007】
形状測定装置の原点校正を高精度に実行する原点ゲージの例が、特許文献3に開示されている。この公報に記載の原点ゲージは、台座部と、台座部の上方に第1基準球と第2基準球を設置している。台座部は円板形状であって、台座部の中心軸上に第1の基準球の中心を配置する。第2の基準球の中心は、台座部の中心軸からずれた位置にある。第1の基準球及び第2の基準球の相対位置関係は、既知である。測定プローブを外径測定姿勢にして第1の基準球を測定し、その結果に基づいて外径測定姿勢の原点を校正する。さらにプローブを内径測定姿勢にして第2の基準球を測定し、その結果に基づいて内径測定姿勢の原点を校正する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平6-249641号公報
【特許文献2】特開2012-83192号公報
【特許文献3】特開2017-15437号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載の従来のロータリテーブルでは、被測定物(ワーク)をロータリテーブルに固定する治具をロータリテーブルから撤去することなく、ロータリテーブルの校正をすることが可能である。したがって、温度変化等によりロータリテーブルの中心位置もしくはその指示値が変化しても、ロータリテーブルの中心位置を正確に校正することができる。
【0010】
しかしながら、この公報に記載のロータリテーブルは、再度の校正のために、基準球を3か所以上の位置で測定しなければならず、校正の工数が増加する。また、この公報に記載のロータリテーブル校正は予め、ロータリテーブル上の第3の基準球の回転中心を求めることが必須である。この校正では、回転中心を求めるためには、3か所以上の複数位置で測定せねばならず、校正の工数が増大する。さらに、この公報に記載のロータリテーブル校正は、ワークの計測中であっても第3の基準球をロータリテーブルに固定保持する必要があり、そのような場所をロータリテーブル上に得られない可能性の大きい一般のワークの測定には、本方法を適用できない。
【0011】
特許文献2には、回転テーブルの座標系を登録するために、3点以上の角度位置で回転テーブルの座標位置の基準位置を測定することが記載されている。この公報では、通常初期状態で回転テーブルに対して実行する校正についてのみ記載されており、ワークの一連の測定後または新たなワークの測定のために回転テーブルの座標系をチェックするために、形状測定機に搭載された回転テーブルを校正して測定精度を向上させることを考慮していない。すなわち、回転テーブルが形状測定機に搭載されている場合に、温度変化等により形状測定機が備える直動機構の原点が変化する。それにより、形状測定機に搭載された回転テーブルの原点位置が変化させられるが、そのような事態への対処方法については考慮されていない。また、ワークを保持するための治具と基準球との干渉も考慮されておらず、校正のために治具を取り外すなどすれば、治具の重量が例えば、60kg以上ともなれば、簡単に取り外しや再設置はできず、多大な工数の増加につながる。特に再設置には、回転テーブルのネジ穴と治具のネジ位置を合わせることに非常に時間を要することが一般である。また、この公報では、基準球を3つ回転テーブル上に設置せねばならず、上記の干渉が発生する要因にもなっている。さらに公報に記載の方法は、回転テーブルのテーブル面の近傍と遠方の両方の位置での測定がされず、回転テーブルが歳差運動(すりこぎ運動)している場合には、回転軸が大きく振れるため、この手法では大きな誤差となる。つまり、高精度で高価な回転テーブル用の校正方法である。
【0012】
特許文献3には、校正時に測定用プローブを取り付けるアームが伸びすぎて、アームのたわみが測定に影響するのを防止するために、アームを伸ばさない状態で校正することが開示されている。しかしながらこの公報に記載の原点ゲージにおいても、形状測定装置がワークを測定した後に温度変化や起動/停止の繰り返し等でその直動部の原点位置が変化し、形状測定装置に搭載される円板形状の台座部の原点位置を変化させることについては、考慮されていない。もしくは、変化した原点位置を、精度を保ちながら少ない工程および時間で校正することについて考慮していない。
【0013】
本発明は上記従来技術の不具合に鑑みなされたものであり、その目的は回転テーブルが搭載された形状測定機において、形状測定機の直動機構である、例えば三次元測定機の少なくとも1軸を原点復帰したときであっても、校正の精度を保ちながら少ない工程または時間で回転テーブルを校正することにある。本発明の他の目的は、この目的に加え、回転テーブル上にワーク保持用の治具が搭載されたままで、回転テーブルの校正を可能にすることにある。本発明のさらに他の目的は、これらの目的に加え、低精度で安価な回転テーブルでも回転中心軸を高精度に求めることにある。そして本発明では、上記各目的の少なくともいずれかを達成することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成する本発明の特徴は、定盤とこの定盤に対して直動可能な少なくとも1軸を備えた移動体と前記定盤に対して回転自在な回転テーブルとを含む形状測定機の校正方法が、前記移動体の原点復帰により原点の初期値を設定する初期設定の第1のステップと、前記移動体の原点位置の初期値に対応する前記回転テーブルの中心位置の初期値および前記回転テーブルの回転軸を求め記憶する初期設定の第2のステップと、前記移動体を駆動後に前記移動体の少なくとも1軸を原点に復帰させる原点復帰の第3のステップと、前記移動体の原点復帰に応じて前記回転テーブルの中心位置を更新する第4のステップを備え、前記第4のステップは、前記回転テーブルを回転駆動して前記回転テーブルの少なくとも2つの周方向位置で、前記回転テーブル表面近傍に配設された直径既知の基準球の中心位置を求めるステップと、前記基準球についての少なくとも2点の中心位置から前記回転テーブルの中心位置を求め、前記第2のステップで記憶された回転テーブルの中心位置の初期値を更新するステップを含むことにある。
【0015】
そしてこの特徴において、前記移動体は互いに直交する3軸方向に移動自在な(X、Y、Z)移動体であり、前記回転テーブルは、前記(X、Y、Z)移動体が備える3軸の内の1軸またはこれら3軸のいずれとも異なる1軸周りに回転自在に設けられているのが好ましい。
【0016】
さらに、前記第2のステップ実行後であって前記第3のステップ実行前に、直径既知の前記基準球を前記回転テーブル表面の近傍に配設するとともにその中心位置の初期値を求めて記憶し、前記第4のステップ実行時に、前記回転テーブルを駆動して回転対称にある2つの周方向位置において前記基準球の中心位置を求め、その際記憶された前記基準球の中心位置の初期値に基づいて測定プローブを接近させ配置して前記基準球の中心位置を求め、求めた2つの中心位置に基づいて前記回転テーブルの新たな中心位置を求め、前記第2のステップで求めた回転テーブルの中心位置を新たな中心位置で更新し記憶することが望ましい。
【0017】
また、前記第2のステップ実行後であって前記第3のステップ実行前に、直径既知の前記基準球を前記回転テーブル表面の近傍に配設するとともにその中心位置の初期値を求めて記憶し、前記第4のステップ実行時に、前記回転テーブルを駆動して異なる3つ以上の周方向位置において前記基準球の中心位置を求め、その際記憶された前記基準球の中心位置の初期値に基づいて測定プローブを接近させ配置して前記基準球の中心位置を求め、前記基準球の求めた3つ以上の中心位置に基づいて前記回転テーブルの新たな中心位置を求め、前記第2のステップで求めた回転テーブルの中心位置をこの新たな中心位置で更新するようにしてもよい。
【0018】
さらにまた、前記第3のステップ実行後に、直径既知の前記基準球を前記回転テーブル表面の近傍に配設し、前記第4のステップ実行時に、前記回転テーブルを駆動して回転対称にある2つの周方向位置において前記基準球の中心位置を求め、求めた2つの中心位置から前記回転テーブルの新たな中心位置を求め、前記第2のステップで求めた回転テーブルの中心位置を新たな中心位置で更新する、または前記第4のステップ実行後に前記基準球を前記回転テーブルから取り外すようにしてもよい。
【0019】
上記特徴において、前記第2のステップは、前記基準球を前記回転テーブルに配設し、この回転テーブルの周方向の基準位置で前記基準球の中心位置の初期値を測定し記憶することを含み、前記第4のステップは、前記回転テーブルの周方向少なくとも異なる2点の代わりに前記回転テーブルの周方向の基準位置(1か所)で前記基準球の中心位置を新たに求め、前記第2のステップで求めた回転テーブルの中心位置をこの新たな中心位置で更新するものであるようにすることも可能である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、形状測定機に付設された回転テーブルの校正方法において、事前に、高精度に回転軸を求めるようにしており、形状測定機の移動体である直動機構の原点復帰後に、回転テーブルの中心位置の校正を少ない測定回数で実現できる。また、回転中心近傍に基準球を設置した場合には1回、回転テーブルの周辺に設置した場合には2回で、回転テーブルの校正を完了することができる。すなわち、従来基準球の中心位置を3回以上測定しないと正確な回転テーブルの中心位置の校正が不可能であったが、1回ないし2回の測定でも実現できる。1回あたりの校正に要する時間が低減したので、頻繁な校正も可能であり、常に高精度な測定値を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明に係る回転テーブルを備えた形状測定機の一実施例の斜視図である。
【
図2】本発明に係る回転テーブルの校正方法の一実施例における、ステップ1、2を説明するための図である。
【
図3】本発明に係る回転テーブルの校正方法の一実施例および他の実施例における、ステップ3、4を説明するための図である。
【
図4】本発明に係る回転テーブルの校正方法のさらに他の実施例における、ステップ3、4を説明するための図である。
【
図5】本発明に係る回転テーブルの校正方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る形状測定機のいくつかの実施例を、図面を用いて説明する。
図1は、本発明に係る回転テーブル180を備えた三次元形状測定機(三次元測定機、形状測定機とも称す)100の斜視図である。本実施例の三次元測定機100は、堅牢に構成された定盤150上に回転テーブル(ロータリテーブルとも称す)180がθ方向に回転自在に設けられている。θ方向は、詳細を後述するが、一般にはZ軸周りの方向である。
【0023】
定盤150の上面端部には、前後方向に延びる案内レール等からなるY軸ガイド140、170が設けられており、このY軸ガイド140、170には、上下方向に延びるYキャリッジ130、160が直動自在に係止している。そして、2つのYキャリッジ130、160はその上端部をX軸ガイド110で接続されており、Yキャリッジ160とYキャリッジ130が同期して動くことを可能にしている。
【0024】
X軸ガイド110は、ほぼ水平に配置されており、先端部にプローブホルダ190を取り付けたZキャリッジ120が、X軸方向に移動自在に取り付けられている。ここでX軸方向は、三次元測定機100の幅方向であり、Zキャリッジ120は、X軸方向に直交するZ軸方向に移動可能に構成されている。
【0025】
Zキャリッジ120に設けられたプローブホルダ190の先端には、三次元測定機100の測定対象および測定内容に応じたプローブ192が取り付けられており、Zキャリッジ120により上下方向、すなわちX軸及びY軸に直交する方向に移動可能になっている。この
図1では、プローブ192は、先端に球状の当接手段を持つ水平面内で十字に配置されたプローブである。
【0026】
以上のように構成した三次元測定機100では、Yキャリッジ130、160、Zキャリッジ120およびX軸ガイド110、Y軸ガイド140、170等は、この三次元測定機100の直動可能な移動体を構成する。そして、移動体は、X移動体、Y移動体、Z移動体を含むことになる。本実施例では三次元測定機を例にとり説明しているので、3軸方向に移動可能な構成であるが、以下の説明は1軸方向にしか動くことができない移動体を持つ測定機にも適用できる。
【0027】
三次元測定機100に取り付けられた回転テーブル180には、ワークWが搭載可能である。ワークWは、図示しない治具等を用いて回転テーブルに固定して取り付けられる。一般にワークWが回転対称な構成である場合に、回転テーブル180を使用するのが便利であり、この
図1においても一点鎖線で示すワークWは、例えばベベルギアである。ベベルギアの場合には、円周を歯数で割った角度(ピッチ)ごとに同一の状態が出現するので、回転テーブル180をピッチ分だけ回転させて形状を測定及び確認する。測定結果は、制御・演算装置210に送られ、制御・演算装置210が有する記憶手段に記憶され、ワークWの品質評価に供される。
【0028】
ところで、三次元測定機100を用いて精密測定するためには、その精度を保証するために、種々の段階で機器の校正を実行する。一般的には、三次元測定機100を導入したとき、1年に1回または数か月に1回程度の定期校正時、バッチ処理等の場合のバッチ終了時もしくはバッチ開始時、三次元測定機100による測定が完了して電源を遮断した後に再開する時に、三次元測定機100を校正する。
【0029】
従来三次元測定機100の校正においては、機器導入時はもちろんのこと、その他の校正時においても、以下に第1のステップ及び第2のステップとして示す、機器導入時と同様の校正作業を実行していた。機器導入時の校正は機器を立ち上げるために必要なものであるから、多大な時間を費やすのもやむを得ない。しかし、機器を導入した後に機器を稼働した後の校正は、できるだけ短時間で高精度に実現することが望まれる。そこで、機器導入時に実行した校正結果を利用して、短縮した校正の実現を図った。その結果、以下に示す第3のステップと第4のステップとして示す校正を実行することで、校正時間の短縮化と校正工程の簡易化を図りながら、校正精度を維持できた。以下に各ステップの内容を詳細に説明する。以下では、接触式のプローブについて説明するが、非接触のプローブでも同様である。つまり、接触式のプローブでは、基準球に近接及び当接させる必要があるが、光学式などの非接触のプローブでは、基準球の表面にプローブを接近させ、レーザー光などを基準球に照射するなどして測定を行うが基本的な回転テーブルの校正としての違いはない。
【0030】
<校正の第1のステップ>
校正の第1、第2のステップは、機器導入時の初期校正や年に1回の定期校正時、使用環境が大幅に変化した場合等に実行する校正である。
図2を用いて本ステップを説明する。
図2(a)は、三次元測定機100に搭載される回転テーブル180の部分のみを取り上げた斜視図であり、
図2(b)は三次元測定機100が備えるプローブ192を用いて、第1、第2の基準球S
R1、S
R2の中心の軌跡222、224からそれぞれの軌跡の中心位置Ω
1、Ω
2を求める様子を示す模式斜視図である。
図2(c)は、第1、第2の基準球S
R1、S
R2の詳細を示す図である。
【0031】
校正の第1のステップでは、回転テーブル180を除いた、主として(X、Y、Z)の3次元直動機構部の原点復帰を実行し、原点位置を設定する。三次元測定機100は、
図1に示したように、Xキャリッジを兼ねるZキャリッジ120がX軸ガイド110を左右に移動することにより、X方向位置を定め、Yキャリッジ130、160がY軸ガイド140、170を前後に移動することによりY方向位置を定める。また、Zキャリッジ120内をプローブホルダ190が昇降して移動することによりZ方向位置を定める。その際、各キャリッジ120、130、160およびプローブホルダ190の移動量は、図示しないインクレメンタル方式の計測手段、例えばリニアスケール等を用いて計測される。原点復帰の際には、図示しない原点センサの位置まで各軸を移動させることにより原点位置を定める。この原点の設定は従来通りなので、説明を省略する。
【0032】
<校正の第2のステップ>
三次元測定機100の直交する3軸(X、Y、Z軸)の原点復帰を完了したら、三次元測定機100に搭載した回転テーブル180の初期校正を実行する。回転テーブル180の初期校正においては、回転テーブル180上の2か所に、いずれも事前の測定または製作設計値などにより直径が既知の第1、第2の基準球SR1、SR2を上端部に有する校正治具12、14を取り外し可能に固定して取り付ける。校正治具12には、回転テーブル180の上面からの高さがZ1となるように、直径φDR1の基準球SR1が取り付けられる。同様に、校正治具14には、回転テーブル180の上面からの高さがZ2となるように、直径φDR2の基準球SR2が取り付けられる。
【0033】
直径φDR1とφDR2は、ほぼ同じ大きさであってもよいし異なっていてもよい。一方、高さZ1は、第1の基準球SR1をできるだけ回転テーブル180の近傍に配置するため、低くなっており、高さZ2は、第2の基準球SR2をできるだけ回転テーブル180から離すために、測定対象ワークWの高さかそれ以上であることが望ましい。ただし、測定対象ワークWが巨大な場合には、第2の基準球SR2の測定において、測定プローブ22が当接した際にたわまない等の剛性が保証される高さにする。なお、測定プローブ22が非接触の場合は、この限りではない。高さZ1とZ2は、この回転テーブル180の回転中心Oを通る回転軸ARを定めるのに用いられる。また、第1、第2の基準球SR1、SR2の回転テーブル180の回転中心Oからの距離が大きければ大きいほど、回転テーブル180の中心位置O及び回転テーブルの回転軸ARを正確に校正できることが期待される。つまり、本発明では、高さの異なる2つの基準球を測定することで、歳差運動のある安価な回転テーブルの回転軸に対しても、その影響を小さくして校正されることが期待される。
【0034】
回転テーブル180は回転軸AR周りに回転自在であるので、三次元測定機100の定盤150の上面であって回転テーブル180が載置される位置の近傍を、回転テーブル180の回転の基準位置0(°)とする。基準位置からの回転テーブルの回転量(角度)をθとする。角度θにおける第1の基準球SR1と第2の基準球SR2の三次元測定機100に固定した座標系における位置を、それぞれ(X1、Y1、Z1)、(X2、Y2、Z2)とする。ここで、第1、第2の基準球SR1、SR2の位置とは、それぞれの基準球SR1、SR2の中心位置ω1、ω2を意味する。
【0035】
図2(b)に示すように、回転テーブル180を回転させて、複数位置で第1、第2の基準球S
R1、S
R2の中心位置ω
1、ω
2を求める。測定位置数は、少なくとも3か所以上であり、望ましくは6~12か所程度である。測定位置の周方向角度θの間隔は、ほぼ等間隔とすると測定誤差を低減できる。第1の基準球S
R1の中心位置ω
1は、空間表示でπ
1i(i=1、…n:nは測定点数)で表され、第2の基準球S
R2の中心位置ω
2は、空間表示でπ
2i(i=1、…m:mは測定点数)で表される。測定点群π
1iからは、第1の基準球S
R1の中心位置ω
1の軌跡222が求まり、測定点群π
2iからは、第2の基準球S
R2の中心位置ω
2の軌跡224が求まる。離散点の軌跡222を円弧近似することにより、第1の基準球S
R1が作る円の中心位置Ω
1が求められ、同様に離散点の軌跡224を円弧近似することにより第2の基準球S
R2が作る円の中心位置Ω
2が得られる。ここで、Z
1が十分小さければ、Ω
1を回転中心Oとすることができる。また、Z
1が既知であれば、Ω
1のZ方向成分(すなわちΩz)からZ
1を差し引いたΩ
1‘(Ω
X,Ω
Y,Ω
Z-Z
1)が回転中心になる。さらに一般的には、2つの円の中心位置Ω
1、Ω
2を直線で結び、その直線が回転テーブル180の上面と交差する点が、回転テーブル180の回転中心Oになる。求めた回転中心Oは、基準回転中心O(X
R0、Y
R0、Z
R0)として、制御・演算装置210に記憶される。
【0036】
校正工程において、第1、第2の基準球S
R1、S
R2の中心位置ω
1、ω
2を求める際には、当接型の測定プローブ22を用いる場合には
図2(a)に示すように、基準球S
R1、S
R2の周囲に測定プローブ22を当接させ、基準球S
R1、S
R2の周囲の3点以上の点で測定プローブ22の座標を計測することにより求まる。ここで、基準球S
R1、S
R2の中心位置ω
1、ω
2は、予め知られた直径値(直径固定フィット)を利用して、求めても良いが、プローブ22の直径が誤差を含むことも想定されるので、基準球S
R1、S
R2の表面を4点以上あるいは倣い測定で基準球S
R1、S
R2の表面を万遍なく多点測定し、直径フリーフィットで基準球S
R1、S
R2の中心座標を求める方が好ましい。
測定プローブ22の直径と基準球S
R1、S
R2の直径φD
R1、φD
R2を既知とすることで、これにより後述する人手を介さない自動測定が可能になり、測定の効率化が図られる。なお、上記校正の第1、第2のステップは、予めプログラミングすることにより、自動測定が可能である。校正の第2のステップが終了したら、第1、第2の基準球S
R1、S
R2は回転テーブル180から取り外される。これにより、ワークWの三次元測定を支障なく実行することが可能になる。
【0037】
<校正の第3のステップ>
以降の校正ステップでは、第3の基準球SR3を使用する。第3の基準球SR3の設置は手動に頼らざるを得ないが、第3の基準球SR3を用いた位置測定に関しては自動測定と手動測定の両方法が可能である。第3の基準球SR3は、第1の基準球SR1と同一であってもよいが、その直径φdR3(=φD)は事前の測定または製作設計値などにより、既知である。初めに、校正の第2のステップに連続して行う、第3の基準球SR3の初期位置測定について説明する。
【0038】
図3は、第3の基準球S
R3を用いて自動で校正する場合を説明する図であり、同図(a)は、第3の基準球S
R3を設置した状態を示す模式斜視図である。同図(b)は、回転テーブル180の中心Oから第3の基準球S
R3までの距離を示す図であり、距離のx-y平面成分Lを示している。同図(c)は、第3の基準球S
R3の測定位置を示す図である。
【0039】
回転テーブル180の回転中心Oから偏心した位置であって、できるだけ回転テーブル180の上面に近接して、第3の基準球SR3を有する第3の校正治具16を設定する。第3の校正治具16の設定要件は、基準球SR3の回転テーブルにおける半径方向位置及び高さが第1の校正治具12とほぼ同様であることにあるので、第3の校正治具16を第1の校正治具12で兼用してもよい。第3の校正治具16が設定されたので、回転テーブル180の回転の基準位置θ0を、三次元測定機100の定盤150に設定する。この基準位置をθ0=0°とする。基準位置は、任意位置に設定可能である。
【0040】
次に回転テーブル180を回転して、基準位置0°に設定し、第3の基準球SR3の中心位置P(x、y、z)を計測する。得られた第3の基準球SR3の中心位置をP0(X1、Y1、Z1)として、制御・演算装置210に記憶する。
【0041】
次に、ワークWの測定を所定回繰り返した後や測定環境が変化した後等に、三次元測定機100が備える各軸のインクレメンタル方式の計測器の原点を確認および修正するために、三次元測定機100に対して原点復帰の動作を実行する。これは、通常電源切断前後や、ワークWの1バッチ分の計測が終了して一段落した後等に実行する、日常的な校正(以下日常校正とも称す)である。なお、原点復帰は必ずしも三次元測定機100の3軸すべてについて実行する必要はなく、移動頻度の高かった1軸についてだけ原点復帰させてもよい。
【0042】
<校正の第4のステップ>
三次元測定機100の少なくとも1軸について原点復帰させると、回転テーブル180の原点復帰した軸に関する成分が不明となる。例えば、測定終了直後の原点復帰前の回転テーブル180の中心位置O(a1,YR0,ZR0)をX軸原点復帰すると、回転テーブル180の中心位置のX座標はa1とは異なる値になる。ただし、原点復帰や環境変化による中心座標の変化は、自動測定時にプローブを近接及び当接が不可能になるほどにはずれることはない。
【0043】
第3の基準球SR3を、回転テーブル180の上面近傍で、中心から偏心した位置に取り付ける。基準球SR3をワークWの測定に影響を及ぼさない回転テーブル180上に配置できれば、初期校正状態と同一状態であるから最も好ましい。つまり、回転テーブル上面近傍では、回転テーブルの回転による歳差運動などの誤差要因が小さいことが期待されるため、正確に回転テーブルの回転中心位置Oを求められることが期待される。しかしながらそのように基準球SR3を配置することが困難な場合には、再現性高く第3の基準球SR3を配置できる位置に取り外し可能に設定することが現実的である。また、第3の基準球SR3を第1の基準球SR1で兼用することも可能であり、その場合、第1の基準球SR1の測定結果の一部を第3の基準球SR3の初期値とすれば工程数を少なくすることができる。
【0044】
以下は、自動校正の場合を示す。第3の基準球SR3の中心座標を測定するために、三次元測定機100に記憶している第3の基準球SR3の想定位置に基づいて、測定プローブ22を自動で移動させる。第3の基準球SR3を用いた校正開始前に第3の基準球SR3の中心位置Pとして利用できるのは、初期校正時に得た回転テーブル180の回転中心Oと第3の基準球SR3の回転中心位置ω3からの距離Lおよび基準球SR3の高さ方向位置である。これより、第3の基準球SR3の想定中心位置P(X,Y,Z)は、
X=XR0+LCOS(θ-θ0)、Y=YR0+LSIN(θ-θ0)、Z=Z1
と表すことができる。
【0045】
ここで、L、θは
図3(b)に示すように、それぞれ第3の基準球S
R3の回転テーブル180の回転中心Oからの距離のx-y平面成分および回転テーブル180の回転角度である。θ
0は、初期校正時に第3の基準球S
R3の中心位置Pを測定した角度位置であり、初期校正時に基準位置(0°)で測定していたのであれば、θ
0は0°である。また、回転テーブル180の高さ方向には、ワークWの測定前後で変化がないものとしている。回転テーブル180の回転角度θを変化させて三次元測定機100の制御・演算装置210が第3の基準球S
R3の想定位置を演算および記憶し、以下の測定を実行する。
【0046】
回転テーブル180の回転角度θが回転対称となる2点に測定プローブ22を接近及び当接させ、第3の基準球SR3の中心位置Pを測定する。得られる2点の座標は、P1(X2,Y2,Z2)、P2(X3,Y3,Z3)である。この各点の座標値は、原点復帰後の測定値である。なお、回転テーブル180の測定点を異なる3点以上とすれば、回転テーブル180の回転方向(θを変えた)の測定位置は、回転対称な2点を含む必要はない。回転対称な2点とするのは、測定回数を最小にする場合であるから、測定回数もしくは測定時間を減らす要求が高い場合には2点の測定で済む回転対称な2点での測定とし、回転対称位置を設定するのに多大な作業を必要とするときには、任意の異なる3点以上で測定するのがよい。
【0047】
回転対称な2点における第3の基準球SR3の中心位置P1、P2が求められたので、幾何学的関係から回転テーブル180の中心Oが求められる。すなわち校正後の回転テーブル180の回転中心O(XR1、YR1、ZR1)の各軸成分は、
XR1=(X2+X3)/2、YR1=(Y2+Y3)/2、ZR1=(Z2+Z3)/2
となり、これらの値を制御・演算装置210に記憶し、以後のワークWの測定に用いる。なお、回転テーブル180の中心から偏心した位置に基準球SR3を設置すれば、回転テーブル180の回転対称位置で基準球SR3を測定するだけでよい。つまり、周方向位置2か所だけの測定で済むようになる。またこの測定では、基準球SR3を倣い測定することが基準球SR3の中心を求める際にばらつきを抑えられるので望ましい。
【0048】
回転テーブル180は、三次元測定において、X軸方向、Y軸方向、Z軸方向に移動(直動)するものの、全体としては各軸に対して傾きを変えて移動することはない。したがって、回転テーブル180の回転軸ARは、そのベクトル方向を変化させることはなく、これは原点復帰作業により影響されない。回転テーブル180の中心座標Oの校正が完了したので、第3の基準球SR3を回転テーブル180から必要に応じて取り外し、ワークWを回転テーブル180に載置して、三次元測定機100による測定を開始する。ここで第3の基準球SR3を取り外す必要があるのは、ワークWと干渉する場合等である。
【0049】
以上が自動校正の場合であるが、手動校正する他の実施例を以下に説明する。自動校正でも手動校正でも、この日常校正前に第3の基準球SR3を回転テーブル180に取り付ける、および日常校正後に回転テーブル180から取り外すのは同じである。ただし手動の場合、第3の基準球SR3を取り付ける時期は、三次元測定機100の原点復帰作業後でもよい。手動校正が自動校正と異なる主要な点は、第3の基準球SR3に測定プローブ22を接近させる動作においてである。
手動校正では測定プローブ22が第3の基準球SR3に接近するのを目視等で確認できるので、測定プローブ22が接触式プローブの場合には、オペレータがジョイスティックを用いてプローブ22を操作し、第3の基準球SR3の表面へ測定プローブ22の表面を当接させる。測定プローブ22が光学式等の非接触式プローブの場合には、目視でプローブ22を第3の基準球SR3の表面に近接させる。
また、3点以上の測定であれば回転対称位置を正確に求める必要もないので、熟練者であれば自動校正と同程度の測定時間で実行できる。測定プローブ22を第3の基準球SR3に当接させた以後の測定および回転テーブル180の中心位置Oの演算は、上記実施例と同様に行われる。
【0050】
第3の基準球S
R3を用いて日常校正を自動で行う、さらに他の実施例を、
図4を用いて以下に説明する。ここで、
図4(a)は日常校正前の状態を示し、
図4(b)は日常校正中の状態を示す。本実施例が初めに示した実施例と異なるのは、第3の基準球S
R3を初期校正後も取り外すことなくワークWの測定が可能な場合に適用することにある。具体的には、第3の基準球S
R3を、回転テーブル180の中心Oまたはその近傍に配置する。可能な限りの近傍に設置することで、この基準球S
R3の中心座標の変化は、原点復帰や環境変化による回転中心の変化と見なすことができる。つまり、回転中心から離れた位置に基準球S
R3を設置すると、回転中心の変化以外の回転テーブル180の熱膨張などの誤差要因により、基準球S
R3の位置が変化するので、正確には測定できない。また、この測定において、倣い測定は多点の測定点を取り込むため、ばらつきを極力排除した正確な中心座標を得るのに極めて有効である。そして、ワークWやワーク固定治具等と干渉せず、いつでも第3の基準球S
R3を用いた日常校正が実施可能になっている。また、この測定においても、測定のばらつきの影響を抑えるため倣い測定が望ましいのは言うまでもない。
【0051】
温度ドリフト等で三次元測定機100の少なくとも1軸を原点復帰させた後の日常校正において、初期校正時に測定した位置で第3の基準球SR3の中心位置Pを測定するだけで、回転テーブル180の中心位置Oを求める。原則自動校正であるので、初めの実施例と同様に、測定プローブ22を接近させる第3の基準球SR3の想定位置が必要となる。第3の基準球SR3の想定位置(1つの基準位置)として、初期測定で測定した中心位置P0(X1、Y1、Z1)を用いる。回転テーブル180の回転角度θを、第3の基準球SR3を用いて初期校正した角度位置θ0に設定する。この回転角度θ0で測定プローブを用いて第3の基準球SR3の中心位置P1(X2、Y2、Z2)を測定する。制御・演算装置210は、初期校正時の中心位置P0(X1、Y1、Z1)と原点復帰動作があった後の中心位置P1(X2、Y2、Z2)、および初期校正時の回転テーブルの中心位置O(XR0、YR0、ZR0)から、校正後の回転テーブル180の回転中心位置O(XR1、YR1、ZR1)を、次式で演算する。
XR1=XR0+(X2-X1)、YR1=YR0+(Y2-Y1)、ZR1=ZR0+(Z2-Z1)
回転テーブル180の回転軸ARは、上述と同様の理由で初期校正時と同一ベクトルである。これらの測定及び演算値を制御・演算装置210に記憶し、以後、ワークWの三次元測定を実行する。
【0052】
上記各実施例を踏まえた、本発明に係る校正方法のフローチャートを、
図5に示す。このフローチャートでは、三次元測定機100の(X、Y、Z)軸の少なくとも1軸について原点復帰させる場合を例にとるが、温度ドリフト等でインクレメンタル方式の測定機の原点が変化した場合に校正を実行する場合も同様である。なお、このフローチャートでは、ステップS544がステップS540の後にも設けられているが、ステップS522の後でも良い。
【0053】
三次元測定機100が導入されると、最初に初期設定が実行される。なお、ここでは初期設定を最初の導入時の場合について示すが、装置の大幅な変更や年に一度の定期検査等で実行する校正も初期設定に含まれる。ステップS502において、回転テーブル180に、径が既知の第1、第2の基準球SR1,SR2を設置する。第1の基準球SR1は回転テーブル180の上面に近接し、第2の基準球SR2は回転テーブル180から上方に離れた位置に設置する。
【0054】
次いで、回転テーブル180を回転し、回転角度θの複数か所、好ましくは6~12か所で第1、第2の基準球SR1、SR2の中心位置ω1、ω2を測定する(ステップS504)。第1、第2の基準球SR1、SR2の中心位置ω1、ω2の測定値π1i、π2iから第1、第2の基準球SR1、SR2の軌跡円222、224を近似し、軌跡円の中心位置Ω1、Ω2を制御・演算装置210が演算して求める(ステップS506)。2点Ω1、Ω2を通る直線が回転テーブル180の上面と交差する点を、回転テーブル180の回転中心O(XR0,YR0,ZR0)として演算して、記憶する(ステップS508)。基準球SR1が十分回転テーブル180に接近している場合は、Ω1の中心座標を回転中心O(XR0,YR0,ZR0)としても差支えない。このとき、2点Ω1、Ω2を通る直線のベクトルを、回転テーブル180の回転軸ベクトルARとして記憶する。以後の校正においては、回転軸ベクトルARは、不変として取り扱う。回転テーブル180の初期校正作業が終了したので、測定の邪魔になる第1、第2の基準球SR1、SR2を回転テーブル180から取り外す(ステップS510)。以上のステップS502~S510が、本発明で述べる初期校正である。
【0055】
次に、ステップS512で、直径既知の第3の基準球SR3を準備する。第3の基準球SR3は、第1の基準球SR1と同一のものであってもよい。第3の基準球SR3は日常校正に用いるものであり、この第3の基準球SR3を用いた校正の方法の違いにより、3つの方法に大別される。その区分の一つが、第3の基準球SR3を常設できるか否かである(ステップS514)。第3の基準球SR3を回転テーブル180上に常設できる場合はステップS516に進む。回転テーブル180の上面にはワークWが載置されるので、第3の基準球SR3を回転テーブル180上に常設できない場合が多い。その場合は、ステップS530に進む。
【0056】
日常校正を簡略に実行するか時間をかけて正確にする実行するか(ステップS516)で2つ目の区分がある。自動化のために正確な校正を期する場合には本発明の最初の実施例に相当し、自動化に必要な準備のために、日常校正の前にデータ取得をする。具体的にはステップS520に進み、回転テーブル180上であって回転テーブル180に接近してかつ回転中心Oから外れた位置に、第3の基準球SR3を配設する。第3の基準球SR3を回転テーブル180の任意の回転角度θ0の位置で測定し、制御・演算装置210に記憶する(ステップS522)。ステップS520は、日常校正の準備段階を構成する。
【0057】
ステップS530は、三次元測定機100の本来の使用法である、ワークWの測定である。厳密にはステップS530は、回転テーブル180の校正には含まれない。上述したように、日常校正は、ワークの1バッチまたは数バッチ終了後、1日の作業開始時等に、三次元測定機100が備える(X,Y,Z)軸の原点復帰に伴い実行される。以下ステップS540~S550が、本実施例における日常校正を構成する。
【0058】
原点復帰をする場合には、ステップS540に進み、(X,Y,Z)軸の少なくとも1軸を原点復帰させる。自動校正のためには測定プローブ22を第3の基準球SR3の近接まで接近させる必要があるが、第3の基準球SR3の位置は原点復帰により正確な位置となっていないので、ステップS522で記憶したデータを使用し、前述の想定中心位置Pとして演算する(ステップS544)。
【0059】
接触型の測定プローブ22では、測定プローブを第3の基準球SR3に当接させて第3の基準球SR3の中心位置Pを測定する。非接触型では第3の基準球SR3の近傍での出力から第3の基準球SR3の中心位置を検出する。回転テーブルの回転角度θに関して、回転対称な2か所の位置で、第3の基準球SR3の回転中心位置P1、P2を測定する(ステップS546)。
【0060】
回転対称な回転角度θで測定された第3の基準球SR3の回転中心位置P1、P2から、回転テーブル180の中心位置Oを、(P1+P2)/2として演算し、制御・演算装置210に記憶する(ステップS548)。以後のワークWの測定では、この回転テーブル180の中心位置O(XR1、YR1,ZR1)を基準に測定を実行する。
【0061】
ステップS514において、第3の基準球SR3の非常設を選択すると、上記2番目の実施例になり、ステップS530に進む。ステップS530ではワークWについて三次元測定する。ワークWの測定が終了したまたは測定作業を開始するときに、X移動体、Y移動体、Z移動体の少なくとも1軸の移動体が原点復帰される(ステップS570)と、日常校正を実行するためにステップS572に進む。自動校正の場合と同様に、第3の基準球SR3を回転テーブル180上に設置し(ステップS572)、第3の基準球SR3の中心位置P1、P2を回転対称な2つの回転角度θで測定する(ステップS574)。回転テーブル180の中心位置Oを、(P1+P2)/2として演算し、制御・演算装置210に記憶する(ステップS576)。その際、回転中心軸ベクトルARは変更しない。その後、回転テーブル180から第3の基準球SR3を取り外す(ステップS578)。ステップS572~S578は、この実施例における日常校正を構成する。
【0062】
ステップS516において、第3の基準球SR3を用いた測定が1回の簡易校正を選択すると、上記最後の例に相当し、ステップS526に進む。初めの2つの実施例とは異なり、第3の基準球SR3を回転テーブル180の回転中心0またはその近傍に設置する。次に、回転テーブル180の任意の回転角度θ0で第3の基準球SR3の中心位置P1(X1,Y1,Z1)を測定し、制御・演算装置210に記憶する(ステップS528)。ワークWの測定(ステップS530)が終了後に、(X,Y,Z)テーブルの少なくとも1軸を原点復帰(ステップS560)させ、先に第3の基準球SR3の中心位置P1を測定したのと同一の回転角度θ0で、第3の基準球SR3の中心位置P2(X2,Y2,Z2)を測定し制御・演算装置210に記憶する(ステップS562)。次いで、これらのデータを用いて、制御・演算装置210が、回転テーブルの中心O(XR1,YR1,ZR1)を、XR1=XR0+(X2-X1)等の式を用いて演算し記憶する(ステップS564)。これで日常校正は終了する。本例では、ステップS560~ステップS564が日常校正を構成する。
【0063】
以上説明したように、本発明の各実施例によれば、少ない時間または少ない工数で日常校正を容易に実施でき、常時、高品質な三次元測定を可能にする。また、第1の基準球と第3の基準球は同一のものを使用可能なので、新たに構成用の治具等を不要とし、校正装置が簡単になる。さらに、測定対象ワークの種類に応じた三次元測定機の校正も可能であるし、逆にあらゆるワークの種類に対して1種類の校正治具だけを使用して三次元測定機を校正することもできる。
【符号の説明】
【0064】
12…(第1の)校正治具、14…(第2の)校正治具、16…(第3の)校正治具、22…測定プローブ、100…三次元測定機、110…X軸ガイド、120…Zキャリッジ、130…Yキャリッジ、140…Y軸ガイド、150…定盤、160…Yキャリッジ、170…Y軸ガイド、180…回転テーブル(ロータリテーブル)、190…プローブホルダ、192…プローブ、210…制御・演算装置、222…(第1の基準球の)中心の軌跡、224…(第2の基準球の)中心の軌跡、AR…(回転テーブルの)回転中心軸(ベクトル)、dR1、dR2…(第1、第2の基準球の)直径、D…(第3の基準球の)直径、O…回転中心(位置)、L…(中心Oからの)距離(x-y平面成分)、P、P1、P2…(第3の基準球の)中心位置、SR1、SR2、SR3…基準球、W…ワーク、π1i、π2i…(計測した第1、第2の基準球の)中心、ω1、ω2…(第1、第2の)基準球の中心位置、Ω1、Ω2…(第1、第2の基準球の中心)軌跡の中心位置