(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024161663
(43)【公開日】2024-11-20
(54)【発明の名称】嵩高繊維シートの製造方法及び嵩高繊維シート
(51)【国際特許分類】
D21H 11/18 20060101AFI20241113BHJP
D21H 19/34 20060101ALI20241113BHJP
【FI】
D21H11/18
D21H19/34
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023076498
(22)【出願日】2023-05-08
(71)【出願人】
【識別番号】000199979
【氏名又は名称】川上産業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森島 敏之
(72)【発明者】
【氏名】小瀬 亮太
(72)【発明者】
【氏名】青木 迅
【テーマコード(参考)】
4L055
【Fターム(参考)】
4L055AF09
4L055AF46
4L055AG45
4L055AG94
4L055AJ01
4L055BE08
4L055EA08
4L055EA16
4L055EA25
4L055FA16
4L055GA05
4L055GA21
4L055GA23
4L055GA50
(57)【要約】
【課題】繊維シートに機械的外力を作用させることなく、嵩高繊維シートを製造する方法を提供する。
【解決手段】水を含浸させる工程を経て湿潤状態とされた繊維シートに、セルロースナノファイバー分散液を塗布し、しかる後に、当該繊維シートを乾燥させる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維シートに水を含浸させる工程を経て湿潤状態とされた前記繊維シートに、セルロースナノファイバー分散液を塗布し、しかる後に、当該繊維シートを乾燥させることを特徴とする嵩高繊維シートの製造方法。
【請求項2】
前記繊維シートとして、セルロースを主成分とするパルプ繊維を抄紙して得られる紙を用いる請求項1に記載の嵩高繊維シートの製造方法。
【請求項3】
前記セルロースナノファイバー分散液として、0.01~15重量%の割合でセルロースナノファイバーを水に分散させることによって調製された分散液を用いる請求項1又は2に記載の嵩高繊維シートの製造方法。
【請求項4】
繊維シートの表面が部分的にセルロースナノファイバーで覆われており、前記セルロースナノファイバーが、前記繊維シートの少なくとも表層の繊維間の隙間を埋めるようにして、当該繊維に比べて密に凝集していることを特徴とする嵩高繊維シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、嵩高繊維シートの製造方法及び嵩高繊維シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ロールから巻き出された繊維シートに水を散布して湿潤状態とし、次いで、一対のエンボスロール間で挟圧するというように、繊維シートに機械的外力を作用させることによって、凹凸が賦形された嵩高繊維シートが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記背景技術とは全く異なる観点から、繊維シートに機械的外力を作用させることなく、嵩高繊維シートを製造する方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る嵩高繊維シートの製造方法は、繊維シートに水を含浸させる工程を経て湿潤状態とされた前記繊維シートに、セルロースナノファイバー分散液を塗布し、しかる後に、当該繊維シートを乾燥させる方法としてある。
【0006】
また、本発明に係る嵩高繊維シートは、繊維シートの表面が部分的にセルロースナノファイバーで覆われており、前記セルロースナノファイバーが、前記繊維シートの少なくとも表層の繊維間の隙間を埋めるようにして、当該繊維に比べて密に凝集している構成としてある。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、繊維シートに機械的外力を作用させることなく、嵩高繊維シートを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施形態に係る嵩高繊維シートの製造方法により製造された嵩高繊維シートの一例について、その表面を示す写真である。
【
図2】本発明の実施形態に係る嵩高繊維シートの製造方法により製造された嵩高繊維シートの一例について、その裏面を示す写真である。
【
図3】
図1及び
図2の嵩高繊維シートを製造するにあたり、セルロースナノファイバー分散液を塗布するパターンを示す写真である。
【
図4】本発明の実施形態に係る嵩高繊維シートの製造方法により製造された嵩高繊維シートの他の一例について、その表面を示す写真である。
【
図5】本発明の実施形態に係る嵩高繊維シートの製造方法により製造された嵩高繊維シートの他の一例について、その裏面を示す写真である。
【
図6】
図4及び
図5の嵩高繊維シートを製造するにあたり、セルロースナノファイバー分散液を塗布するパターンを示す写真である。
【
図7】本発明の実施形態に係る嵩高繊維シートの製造方法において、繊維シートに用いた上質紙のSEM画像である。
【
図8】本発明の実施形態に係る嵩高繊維シートの製造方法において、湿潤状態とされた上質紙のSEM画像である。
【
図9】本発明の実施形態に係る嵩高繊維シートの製造方法において、湿潤状態とされた上質紙にセルロースナノファイバー分散液を塗布した部分のSEM画像である。
【
図10】本発明の実施形態に係る嵩高繊維シートの製造方法において、湿潤状態とされた上質紙にセルロースナノファイバー分散液を塗布した部分と塗布しない部分との境界部のSEM画像である。
【
図11】本発明の実施形態に係る嵩高繊維シートの製造方法において、セルロースナノファイバー分散液を塗布した部分の乾燥後のSEM画像である。
【
図12】本発明の実施形態に係る嵩高繊維シートの製造方法において、セルロースナノファイバー分散液を塗布しない部分の乾燥後のSEM画像である。
【
図13】本発明の実施形態に係る嵩高繊維シートの製造方法において、セルロースナノファイバー分散液を塗布した部分と塗布しない部分との境界部の乾燥後のSEM画像である。
【
図14】本発明の実施形態に係る嵩高繊維シートの製造方法において、セルロースナノファイバー分散液を塗布した部分と塗布しない部分とが視野に入るように倍率を下げた、これらの部分の乾燥後のSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の好ましい実施形態について説明する。
【0010】
本実施形態にあっては、繊維シートに水を含浸させる工程を経てから、繊維シートに機械的外力を作用させることなく、繊維シートに凹凸形状を付与することによって、嵩高繊維シートを製造する。
【0011】
繊維シートとしては、植物繊維その他の繊維を膠着させた紙などを例示することができるが、セルロースを主成分とするパルプ繊維を抄紙して得られた紙を用いるのが好ましい。そのなかでも、叩解されたパルプ繊維を含む紙料を機械抄きした洋紙を用いるのが好ましく、より好ましくは非塗工紙、特に好ましくは上質紙である。
【0012】
繊維シートに水を含浸させるには、繊維シートに水を散布したり、繊維シートを水に浸漬させたりするなどすればよい。繊維シートに水を含浸させることによって、繊維間結合が弱まりつつ、水を含んで膨張した湿潤状態となるが、必要に応じて減圧脱水するなどして、繊維シートの含水量を適宜調整してもよい。
【0013】
次いで、このような工程を経ることによって湿潤状態とされ、必要十分な量の水を含んで繊維どうしの結び付きが弱められた繊維シートに、セルロースナノファイバー分散液を塗布する。セルロースナノファイバー分散液を塗布するにあたっては、例えば、線状、散点状、又はこれらの組み合わせによる任意のパターンで塗布することができる。
【0014】
セルロースナノファイバーは、一般に、直径が3~100nm、アスペクト比が100以上の極細の繊維状に解繊された植物由来の天然素材である。本実施形態で用いるセルロースナノファイバー分散液としては、0.01~15重量%の割合でセルロースナノファイバーを水に分散させることによって調製された分散液を用いるのが好ましく、より好ましい割合は0.1~10重量%であり、特に好ましい割合は0.5~2重量%である。
【0015】
本実施形態によれば、湿潤状態とされた繊維シートにセルロースナノファイバー分散液を塗布し、しかる後に、当該繊維シートを乾燥させることによって、繊維シートに凹凸形状を付与することができる。走査電子顕微鏡による画像(SEM画像)を参照しつつ、その原理について以下に考察する。
【0016】
ここで、
図7は、繊維シートに用いた上質紙のSEM画像、
図8は、湿潤状態の上質紙のSEM画像、
図9は、湿潤状態の上質紙にセルロースナノファイバー分散液を塗布した部分のSEM画像、
図10は、湿潤状態の上質紙にセルロースナノファイバー分散液を塗布した部分と塗布しない部分との境界部のSEM画像、
図11は、セルロースナノファイバー分散液を塗布した部分の乾燥後のSEM画像、
図12は、セルロースナノファイバー分散液を塗布しない部分の乾燥後のSEM画像、
図13は、セルロースナノファイバー分散液を塗布した部分と塗布しない部分との境界部の乾燥後のSEM画像、
図14は、セルロースナノファイバー分散液を塗布した部分と塗布しない部分とが視野に入るように倍率を下げた、これらの部分の乾燥後のSEM画像である。
【0017】
図7と
図8との対比から、湿潤状態の上質紙にあっては、パルプ繊維が浮き上がっているように観察されることから、繊維どうしの結び付きが弱まっていることが確認できる。また、
図9と
図10との対比から、セルロースナノファイバー分散液を塗布した部分では、パルプ繊維がセルロースナノファイバーで覆われていることが確認でき、パルプ繊維ネットワークの空隙には、セルロースナノファイバーが侵入していると推測される。そして、
図9~
図13を対比すると、乾燥後のセルロースナノファイバーは、少なくとも表層のパルプ繊維間の隙間を埋めるようにして、パルプ繊維に比べて密に凝集していることが確認できる。さらに、
図14から、セルロースナノファイバー分散液を塗布した部分と、繊維シートの表面とを明瞭に区別することができ、このことは、セルロースナノファイバー分散液を塗布した後も繊維シートの表面上に、セルロースナノファイバー分散液を塗布したパターンが維持されていることを示している。
【0018】
これらのことから、セルロースナノファイバーは、乾燥するにつれてパルプ繊維よりも高密度に凝集し、パルプ繊維がこれに引き摺られるように寄せ集められた結果、セルロースナノファイバー分散液を塗布した部分が、塗布しない部分よりも大きく収縮し、その収縮率の違いから繊維シートに部分的な撓みが生じることによって、凹凸形状が付与されると考えられる。
【0019】
本実施形態において、このようにして凹凸形状を付与することによって製造される嵩高繊維シートは、繊維シートの表面が部分的にセルロースナノファイバーで覆われており、セルロースナノファイバーが、繊維シートの少なくとも表層の繊維間の隙間を埋めるようにして、当該繊維に比べて密に凝集している。そして、セルロースナノファイバーで覆われた部分が撓んだ、嵩高な凹凸形状を有しており、その嵩高さを利用した緩衝材としての用途に用いる外、壁紙などの化粧材や、包装材としての用途に用いるなど、種々の用途が期待される。さらに、繊維シートとして、セルロースを主成分とするパルプ繊維を抄紙して得られた紙を用いれば、セルロースナノファイバーを水に分散させることによって調製された分散液を用いることと相俟って、生分解性を有することから意図しない環境流出による廃棄時の環境負荷が難分解性石油系プラスチックよりも小さく、また、セルロースを主体とする単一素材からなることから、古紙として回収してリサイクルに供することもでき、その際、異物を除去する手間を低減することもできる。
【実施例0020】
次に、具体的な実施例を挙げて、本発明をより詳細に説明する。
【0021】
[実施例1]
上質紙を水に2分間浸漬した後に、30秒減圧脱水した。次いで、湿潤状態とされた上質紙に、2重量%の割合でセルロースナノファイバーを水に分散させることによって調製されたセルロースナノファイバー分散液を、
図3に示すように、縦横直線状の格子状に塗布した。しかる後に、当該上質紙を乾燥させて、
図1及び
図2に示す嵩高繊維シートを得た。
【0022】
[実施例2]
セルロースナノファイバー分散液を、
図6に示すように、散点状に塗布した以外は実施例1と同様にして、
図4及び
図5に示す嵩高繊維シートを得た。
【0023】
以上、本発明について、好ましい実施形態を示して説明したが、本発明は、前述した実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の範囲で種々の変更実施が可能であることは言うまでもない。
前記セルロースナノファイバー分散液として、0.01~15重量%の割合でセルロースナノファイバーを水に分散させることによって調製された分散液を用いる請求項1又は2に記載の嵩高繊維シートの製造方法。
前記セルロースナノファイバー分散液として、0.01~15重量%の割合でセルロースナノファイバーを水に分散させることによって調製された分散液を用いる請求項1又は2に記載の嵩高繊維シートの製造方法。
セルロースを主成分とするパルプ繊維を抄紙して得られた紙からなる繊維シートに水を含浸させる工程を経て湿潤状態とされた前記繊維シートに、線状、散点状、又はこれらの組み合わせによるパターンでセルロースナノファイバー分散液を塗布し、しかる後に、当該繊維シートを乾燥させ、前記セルロースナノファイバー分散液を塗布した部分が、塗布しない部分よりも大きく収縮し、その収縮率の違いから前記繊維シートに撓みが生じることによって、嵩高な凹凸形状を付することを特徴とする嵩高繊維シートの製造方法。
線状、散点状、又はこれらの組み合わせによるパターンで、セルロースを主成分とするパルプ繊維を抄紙して得られた紙からなる繊維シートの表面が部分的にセルロースナノファイバーで覆われており、前記セルロースナノファイバーが、前記繊維シートの少なくとも表層のパルプ繊維間の隙間を埋めるようにして、当該パルプ繊維に比べて密に凝集し、前記セルロースナノファイバーで覆われた部分が撓んだ、嵩高な凹凸形状を有していることを特徴とする嵩高繊維シート。