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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024161667
(43)【公開日】2024-11-20
(54)【発明の名称】ウイルス不活化用組成物
(51)【国際特許分類】
   C12N 9/36 20060101AFI20241113BHJP
   A23L 33/17 20160101ALI20241113BHJP
   A01P 1/00 20060101ALI20241113BHJP
   A01N 63/50 20200101ALI20241113BHJP
   A61P 31/14 20060101ALN20241113BHJP
   A61K 38/46 20060101ALN20241113BHJP
【FI】
C12N9/36
A23L33/17
A01P1/00
A01N63/50 100
A61P31/14
A61K38/46
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023076514
(22)【出願日】2023-05-08
(71)【出願人】
【識別番号】504196300
【氏名又は名称】国立大学法人東京海洋大学
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健次郎
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 肇
(72)【発明者】
【氏名】山口 奈月
【テーマコード(参考)】
4B018
4C084
4H011
【Fターム(参考)】
4B018LB10
4B018MD07
4B018MD08
4B018MD90
4B018ME14
4B018MF04
4B018MF10
4B018MF12
4C084DC22
4C084ZB33
4H011AA04
4H011BB19
4H011DH06
(57)【要約】      (修正有)
【課題】本発明の目的は、効果的にウイルスを不活化できる薬剤を提供することである。
【解決手段】前記課題は、本発明の2-メルカプトエタノール、メルカプトエチルアミン、ジチオスレトール、及びトリス(2-カルボキシエチル)ホスフィンヒドロクロリドからなる群から選択される還元剤により還元された還元リゾチームを有効成分として含む、ウイルス不活化用組成物によって解決することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2-メルカプトエタノール、メルカプトエチルアミン、ジチオスレトール、及びトリス(2-カルボキシエチル)ホスフィンヒドロクロリドからなる群から選択される還元剤により還元された還元リゾチームを有効成分として含む、ウイルス不活化用組成物。
【請求項2】
前記還元リゾチームが還元剤及び熱処理による還元リゾチームである、請求項1に記載のウイルス不活化用組成物。
【請求項3】
リゾチームを、2-メルカプトエタノール、メルカプトエチルアミン、ジチオスレトール、及びトリス(2-カルボキシエチル)ホスフィンヒドロクロリドからなる群から選択される還元剤で処理する工程を含む、還元リゾチームの製造方法。
【請求項4】
還元剤で処理されたリゾチームを、熱処理する工程を更に含む、請求項3に記載の還元リゾチームの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウイルス不活化用組成物に関する。本発明によれば、ノロウイルスなどのウイルスを効果的に不活化することができる。
【背景技術】
【0002】
ノロウイルスは、ヒトに対する感染性が高く、食中毒又はウイルス性急性胃腸炎を引き起こすことが知られている。現在、ノロウイルスに対する有効な抗ウイルス剤が開発されていないため、有効な予防法及び治療法が確立されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2015/125961号
【特許文献2】国際公開第2016/017784号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、リゾチームを加熱変性することによって、ノロウイルスを不活化できることを見出した(特許文献1及び2)。しかしながら、更に効果的なウイルスを不活化できる薬剤の開発が期待されていた。
従って、本発明の目的は、効果的にウイルスを不活化できる薬剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、効果的にウイルスを不活化できる薬剤について、鋭意研究した結果、驚くべきことに、リゾチームを還元剤で還元することにより、還元リゾチームが効果的にウイルス、特にはノロウイルスを不活化できることを見出した。
本発明は、こうした知見に基づくものである。
従って、本発明は、
[1]2-メルカプトエタノール、メルカプトエチルアミン、ジチオスレトール、及びトリス(2-カルボキシエチル)ホスフィンヒドロクロリドからなる群から選択される還元剤により還元された還元リゾチームを有効成分として含む、ウイルス不活化用組成物、
[2]前還元リゾチームが還元剤及び熱処理による還元リゾチームである、[1]に記載のウイルス不活化用組成物、
[3]リゾチームを、2-メルカプトエタノール、メルカプトエチルアミン、ジチオスレトール、及びトリス(2-カルボキシエチル)ホスフィンヒドロクロリドからなる群から選択される還元剤で処理する工程を含む、還元リゾチームの製造方法、及び
[4]還元剤で処理されたリゾチームを、熱処理する工程を更に含む、[3]に記載の還元リゾチームの製造方法、
に関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明のウイルス不活化用組成物によれば、ノロウイルスなどのウイルスを効果的に不活化することができる。本発明のウイルス不活化用組成物は限定されるものではないが、塩を含む水溶液中で凝集、又は白濁しない。従って、塩を含む食品におけるウイルス不活化に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】卵白リゾチームを2-メルカプトエタノールで処理した還元リゾチームのウイルス不活化効果を示したグラフである。
図2】卵白リゾチームをトリス(2-カルボキシエチル)ホスフィンヒドロクロリドで処理した還元リゾチームのウイルス不活化効果を示したグラフである。
図3】卵白リゾチームを2-メルカプトエタノール処理及び加熱処理した還元リゾチームのウイルス不活化効果を示したグラフである。
図4】トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィンヒドロクロリド処理された還元リゾチームが、塩を含む溶液中で、凝集及び白濁しないことを示したグラフである。
図5】トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィンヒドロクロリド処理された還元リゾチームの塩を含む溶液中でのウイルス不活化効果を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[1]ウイルス不活化組成物
本発明のウイルス不活化組成物は、還元リゾチームを有効成分として含む。
【0009】
《還元リゾチーム》
本発明の組成物の有効成分である還元リゾチームは、還元剤の処理により還元されたリゾチームである。還元リゾチームに用いられるリゾチームは、限定されるものではないが、C型リゾチーム(ニワトリ型リゾチーム)、G型リゾチーム(グース型リゾチーム)、又は無脊椎動物リゾチームが挙げられる。C型リゾチームとしては、ニワトリ、キジ、アヒルなどの小型の鳥類、哺乳類、魚類、又は昆虫類のリゾチームが挙げられる。G型リゾチームとしては、ガン、ハクチョウ、又は走鳥類などの大型の鳥類のリゾチームが挙げられる。無脊椎動物リゾチームとしては、貝類などのリゾチームが挙げられる。具体的なC型リゾチームとしては、卵白リゾチーム(配列番号1)、又はヒトリゾチーム(配列番号2)が挙げられる。
【0010】
(還元剤)
還元剤としては、2-メルカプトエタノール、メルカプトエチルアミン-HCl(Mercaptoethylamine-HCl)、ジチオスレトール((Dithiothreitol;DTT)、又はトリス(2-カルボキシエチル)ホスフィンヒドロクロリド(Tris(2-carboxyethyl)phosphine Hydrochloride)が挙げられる。還元剤による処理は、後述の「還元リゾチームの製造方法」に記載の方法に従って行うことができる。
【0011】
(熱処理)
本発明の還元リゾチームは、限定されるものではないが還元剤による還元の後に、好ましくは熱処理する。熱処理は、後述の「還元リゾチームの製造方法」に記載の方法に従って行うことができる。
【0012】
《ウイルス》
本発明のウイルス不活化組成物が対象とするウイルスは、本発明の効果が得られる限りにおいて、特に限定されるものではないが、特にはエンベロープを有さないRNAウイルスが挙げられる。エンベロープを有さないRNAウイルスとしては、カリシウイルス、エンテロウイルス、ライノウイルス、へパトウイルス、パレコウイルス、コブウイルス、カルディオウイルス、アフソウイルス、エルボウイルス、テスコウイルスが挙げられる。カリシウイルス科のウイルスとしては、ベシウイルス、ラゴウイルス、ノロウイルス、サポウイルス、又はネボウイルスが挙げられる。
例えば、ノロウイルスには、G1、GII、GIII、GIV、及びGVの5つの遺伝子型が知られており、G1、GII、及びGIVの3つの遺伝子型のノロウイルスが、ヒトに感染する。GIIIは、ウシ又はヒツジに感染し、GVはマウスに感染する。またGIIはヒト以外にブタに感染する。本発明のウイルス不活化組成物は、これらのウイルスを不活化することができる。
【0013】
本明細書において「ウイルス不活化活性」とは、ウイルスを抑制できる限りにおいて特に限定されるものではないが、例えば後述の実施例で示すように、還元リゾチームと、ウイルス(例えば、ノロウイルス)とを接触させた後に、ノロウイルスのプラク形成数を減少させる活性が挙げられる。プラク形成数の減少率は、限定されるものではないが、例えば80%以下であり、好ましくは50%以下であり、より好ましくは20%以下であり、更に好ましくは10%以下である。
【0014】
(抗ウイルス組成物)
本発明のウイルス不活化組成物は、生体外でノロウイルスを不活化する抗ウイルス組成物として用いることができる。例えば、生体外で食品のウイルスを不活化したり、ウイルスの含まれている汚染物(例えば、吐しゃ物)のウイルスを不活化することができる。食品のウイルスを不活化する場合、従来の熱処理されたリゾチームは、塩を含む水溶液中では凝集、又は白濁することがあった。本発明の還元リゾチームは、塩を含む水溶液中で、凝集又は白濁することがなく、塩を含む食品においても、有効に用いることができる。
生体外で本発明のウイルス不活化組成物を使用する場合、例えば、噴霧可能な粘度の液剤とし、トリガースプレーヤー、スクイズ容器、エアゾル容器等のスプレー容器に充填することにより、手指、食品、調理器具、住居環境、嘔吐物、排泄物等へ該ノロウイルス不活化剤を含む液滴を噴霧することにより、ノロウイルスの不活化を手軽に行うことができる。ノロウイルス不活化剤を含む液剤に、不活化の対象物(例えば、手指、食品、医療機器、医療器具、調理器具、住居環境)を浸すことにより、ノロウイルスの不活化を手軽に行うこともできる。また、ノロウイルス不活化剤を含む液剤を湿潤させたシートとして使用することができる。さらに、ローション、クリーム等とすることにより皮膚外用剤として使用することができ、これにより、ノロウイルスが手指に付着してもその場で不活化し、ノロウイルスが経口感染することを防止する感染予防薬として使用することができる。
また、本発明の抗ウイルス組成物は、魚類又は貝類などの養殖において、用いることができる。
【0015】
(医薬組成物)
本発明のウイルス不活化組成物は、生体内で医薬組成物として用いることができる。医薬組成物の投与剤型としては、特に限定がなく、例えば、散剤、細粒剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、懸濁剤、エマルジョン剤、シロップ剤、エキス剤、若しくは丸剤等の経口剤、又は注射剤、外用液剤、軟膏剤、坐剤、局所投与のクリーム、若しくは点眼剤などの非経口剤を挙げることができるが、経口剤が好ましい。
経口剤は、例えば、ゼラチン、アルギン酸ナトリウム、澱粉、コーンスターチ、白糖、乳糖、ブドウ糖、マンニット、カルボキシメチルセルロース、デキストリン、ポリビニルピロリデン、結晶セルロース、大豆レシチン、ショ糖、脂肪酸エステル、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ポリエチレングリコール、ケイ酸マグネシウム、無水ケイ酸、又は合成ケイ酸アルミニウムなどの賦形剤、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、流動性促進剤、希釈剤、保存剤、着色剤、香料、矯味剤、安定化剤、保湿剤、防腐剤、又は酸化防止剤等を用いて、常法に従って製造することができる。
【0016】
(その他の成分)
医薬組成物は、その他の成分を含有することができる。前記その他の成分としては、例えば、食用油脂、水、グリセリン脂肪酸エステル、蔗糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、グリセリン有機酸脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等の乳化剤、ローカストビーンガム、カラギーナン、アルギン酸類、ペクチン、キサンタンガム、結晶セルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、寒天、グルコマンナン、ゼラチン、澱粉、又は化工澱粉等の増粘安定剤、食塩、又は塩化カリウム等の塩味剤、酢酸、乳酸、又はグルコン酸等の酸味料、糖類又は糖アルコール類、ステビア、又はアスパルテーム等の甘味料、ベータカロチン、カラメル、又は紅麹色素等の着色料、トコフェロール、又は茶抽出物等の酸化防止剤、着香料、pH調整剤、食品保存料、又は日持ち向上剤等の食品素材や食品添加物を挙げることができる。また、各種ビタミンやコエンザイムQ、植物ステロール、又は乳脂坊球皮膜等の機能素材を含有させることも可能である。
【0017】
《含有量》
本発明のウイルス不活化組成物における、還元リゾチームの含有量は、本発明の効果が得られる限りにおいて特に限定されるものではないが、例えば生体外で使用する場合は、1~100重量%程度含むウイルス不活化組成物を、適宜希釈して使用すればよい。
生体内投与する場合は、成人の場合、還元リゾチームとして1日当たり10mg~4g、より好ましくは20mg~2g摂取できる還元リゾチームをウイルス不活化組成物中に含有できればよい。具体的には、還元リゾチームはウイルス不活化組成物中、0.1~100質量%であることが好ましく、0.5~99質量%であることが好ましく、1~80質量%であることが最も好ましい。
【0018】
本発明のウイルス不活化組成物の投与対象は、特に限定されるものではないが、ヒト、イヌ、ネコ、ウサギ、ハムスター、モルモット、及びリス等のペット;牛及び豚等の家畜;マウス、ラット等の実験動物;並びに魚類又は貝類などが挙げられる。
【0019】
[2]還元リゾチームの製造方法
本発明の還元リゾチームの製造方法は、リゾチームを、還元剤で処理する工程を含む。還元剤としては、2-メルカプトエタノール、メルカプトエチルアミン-HCl(Mercaptoethylamine-HCl)、ジチオスレトール((Dithiothreitol;DTT)、又はトリス(2-カルボキシエチル)ホスフィンヒドロクロリド(Tris(2-carboxyethyl)phosphine Hydrochloride)が挙げられる。本発明の還元リゾチームの製造方法は、好ましくは、還元剤で処理されたリゾチームを、熱処理する工程を含む。
【0020】
《還元剤処理工程》
本発明の還元リゾチームの製造方法は、リゾチームを、前記還元剤で処理する工程を含む。
本発明の製造方法に用いるリゾチームの種類は、特に限定されないが、例えばC型リゾチーム(ニワトリ型リゾチーム)、G型リゾチーム(グース型リゾチーム)、又は無脊椎動物リゾチームが挙げられるが、好ましくはC型リゾチームである。C型リゾチームとしては、卵白リゾチーム(配列番号1)又はヒトリゾチーム(配列番号2)が挙げられる。前記リゾチームを溶媒に溶解し、還元剤によって処理する。溶解液は、還元剤が作用できるものである限りにおいて、限定されるものではないが、例えば滅菌蒸留水、リン酸緩衝液、トリス緩衝液、などを用いることができる。
溶媒中のリゾチームの濃度も、還元剤が作用できる限りにおいて特に限定されるものではないが、例えば0.1~10w/v%であり、ある態様では0.5~5重量%であり、ある態様では1~3重量%である。
【0021】
還元剤の濃度は、リゾチームのジスルフィド結合が開裂され、本発明の効果が得られる限りにおいて、特に限定されるものではない。それぞれの還元剤のジスルフィド結合を開裂する能力は、強弱がある。従って、それぞれの還元剤によって、濃度を調節して、適当な濃度で用いればよい。当業者であれば、本発明の実施例に基づいて、適当な濃度を選択することができる。例えば、2-MEであれば、例えば5~40容量%、ある態様では10~30容量%、ある態様では、15~25容量%の濃度で処理することによって、還元リゾチームを得ることができる。また、TCEP-HCLであれば、例えば0.005~1M、ある態様では0.01~0.5M、ある態様では0.05~0.3M、ある態様では、0.05~0.2Mの濃度で処理することによって、還元リゾチームを得ることができる。
還元剤の処理時間も、本発明の効果が得られる限りにおいて、特に限定されないが、下限は例えば10秒以上であり、ある態様では1分以上であり、ある態様では5分以上であり、ある態様では10分以上であり、ある態様では30分以上である。上限は、例えば10時間以下であり、ある態様では5時間以下であり、ある態様では3時間以下であり、ある態様では2時間以下であり、ある態様では1時間以下である。前記上限と下限とは、組み合わせて好適な範囲とすることができる。
還元剤の処理温度も、還元剤が作用する温度である限りにおいて、限定されるものではないが、例えば5~50℃であり、ある態様では10~40℃であり、ある態様では20~30℃である。
【0022】
《熱処理工程》
本発明の還元リゾチームの製造方法は、限定されるものではないが、好ましくは還元剤の処理の前又は後に、熱処理を行う。熱処理を行うことによって、還元剤で処理したリゾチームのウイルス不活化作用を向上させることができる。
熱処理は、前記還元剤処理を行ったリゾチームに、そのまま熱を付与すればよい。熱処理の温度は、本発明の効果が得られる限りにおいて、特に限定されるものではないが、例えば上限は、150℃以下であり、好ましくは140℃以下であり、より好ましくは130℃以下であり、更に好ましくは125℃以下である。下限は、60℃以上であり、好ましくは70℃以上であり、より好ましくは80℃以上であり、より好ましくは90℃以上であり、更に好ましくは95℃以上である。前記、上限と下限とは、組み合わせて好適な範囲とすることができる。
熱処理の時間も、本発明の効果が得られる限りにおいて、特に限定されるものではないが、例えば下限は例えば1分以上であり、ある態様では5分以上であり、ある態様では10分以上であり、ある態様では20分以上であり、ある態様では30分以上である。上限は、例えば5時間以下であり、ある態様では3時間以下であり、ある態様では2時間以下であり、ある態様では1時間以下であり、ある態様では50分以下である。前記上限と下限とは、組み合わせて好適な範囲とすることができる。
また、本発明の効果が得られるように、当業者であれば、温度と時間とを適宜選択できる。すなわち、本発明の効果を得るために、温度が低いときは、時間を長くすればよく、温度が高いときは、短い時間で処理すればよい。しかし、高い温度絵長時間処理しすぎると、リゾチームの効果が得られないことがあることに注意すべきである。
【0023】
《作用》
本発明に用いる還元リゾチームが、優れたウイルス不活化効果を示すメカニズムは、詳細に解析されているわけではない。しかしながら以下のように推定することができる。
リゾチーム(特に、C型リゾチーム)には、タンパク質の前半部分にヘリックス、β-シート、ヘリックスの構造を有している。還元剤により立体構造がほぐれることにより、前記の構造が、露出し、抗ウイルス作用が増強されると推定される。しかしながら、本発明はこの推定により限定されるものではない。
【実施例0024】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0025】
《実施例1》
本実施例では、卵白リゾチームを2-メルカプトエタノールで処理した還元リゾチームを作製し、ウイルス不活化効果を検討した。
リゾチーム粉末(富士フィルム和光純薬)を2w/v%濃度となるように滅菌蒸留水に溶解した。2w/v%リゾチーム溶液(富士フィルム和光純薬)20μLに2-メルカプトエタノール(富士フィルム和光純薬)を4.8μL添加し、1分又は60分間還元反応を行い、還元リゾチームを得た。
【0026】
ウイルス不活化効果は、以下のように確認した。
ウイルスはHuman norovirus(HuNoV)の代替ウイルスであるMurine norovirus strain 1((MNV-1) By Dr. Herbert W Virgin from Washington University)を使用した。MNV-1のウイルス液は、以下の通り調製した。RAW264.7を、5%FBS)と100×Penicillin-Streptomycinを1%添加したD-MEM培地に播種し、37℃、5%CO条件下で培養した。コンフルエントの状態のRAW264.7にMNV-1を接種し、37℃、5%CO条件下で3日間インキュベートした。細胞変性を確認後、凍結融解を4回行い、8,000×gで20分間遠心分離した。得られた上清をMNV-1液として以降の実験で使用した。MNV-1液は実験に供するまで-80℃で保存した。
【0027】
前記24.8μLの還元リゾチーム液を、20μLのMNV-1液と混和し、60分間室温で放置した。反応後、すみやかにDMEMで10倍ずつ段階希釈し、プラークアッセイに供し、感染価を測定した。なお、コントロールとして20μLの滅菌蒸留水および4.8μLの2-メルカプトエタノールを用い、同様に感染価を測定した。
図1に示すように、2-メルカプトエタノールで還元された還元リゾチームは、60分の還元処理で、MNV-1の感染価を1.7logPFU/mL減少させることができた。
【0028】
《実施例2》
本実施例では、卵白リゾチームをトリス(2-カルボキシエチル)ホスフィンヒドロクロリド(TCEP-HCL)で処理した還元リゾチームを作製し、ウイルス不活化効果を検討した。
2-メルカプトエタノール4.8μLに代えて、4μLのTCEP-HCL溶液(10M)を用いたことを除いては、実施例1の操作を繰り返した。
図2に示すように、TCEP-HCLで還元された還元リゾチームは、60分の還元処理で、MNV-1の感染価を検出限界以下まで減少させることができた。
【0029】
《実施例3》
本実施例では、卵白リゾチームを2-メルカプトエタノールで処理し、更に加熱処理した還元リゾチームを作製し、ウイルス不活化効果を検討した。
2%リゾチーム溶液70μLに、2-メルカプトエタノール(富士フィルム和光純薬)を14μL添加し、室温で60分間静置して、還元反応を行った。その後、還元したリゾチームを、サーマルサイクラーを用いて99℃で40分間加熱することによって、還元リゾチームを得た。
得られた還元リゾチームを、等量のMNV-1液と混和し、60分間室温で放置した。反応後、すみやかにDMEMで10倍ずつ段階希釈し、プラークアッセイに供し、感染価を測定した。なお、陰性コントロールとして70μLの滅菌蒸留水および14μLの2-メルカプトエタノールを用い、同様に感染価を測定した。また、実施例1で得られた2-ME処理(60分)した還元リゾチーム、及び実施例2で得られたTCEP-HCL処理(60分)した還元リゾチームも同様に感染価を測定した。
図3に示すように、2-ME処理及び加熱処理で還元された還元リゾチームは、MNV-1の感染価を検出限界以下まで減少させることができた。
【0030】
《実施例4》
本実施例では、卵白リゾチームをTCEP-HCLで処理した還元リゾチームの塩を含む溶液中での凝集又は白濁を検討した。
70μLの2%リゾチーム溶液に、14μLのTCEP-HCL(2M)を添加し、60分間室温で静置して、還元を行った。その後、3.8%人工海水と等量曝露し、15分間室温で静置した。吸光度計を用い、660nmの吸光度を測定し、濁りの有無を確認した。熱変性リゾチームを噴霧乾燥させた粉末リゾチーム(PL)を白濁が生じるポジティブコントロール、PBSを白濁生じないネガティブコントロールとして、同様の吸光度を想定した。TCEP-HCL処理の還元リゾチームは、人工海水中で白濁を生じなかった。
【0031】
《実施例5》
本実施例では、塩を含む溶液中での還元リゾチームのウイルス不活化効果を検討した。
6logPFU/mL程度のMNV-1と、3.8%の人工海水を1:9で混合し、MNV-1で汚染した人工海水を作成した。14μLのTCEP-HCLにより、60分間還元反応を行った2%リゾチーム溶液70μLと、汚染した人口海水70μLを等量混和し、室温で60分間静置した。反応後、すみやかにDMEMで10倍ずつ段階希釈し、プラークアッセイに供し、感染価を測定した。なお、コントロールとして70μLの滅菌蒸留水および14μLのTCEP-HCLを用い、同様に感染価を測定した。
図5に示すように、TCEP-HClで還元したリゾチームは、海水中のMNV-1を検出限界以下まで不活化した。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明のウイルス不活化用組成物は、食品中などのウイルス(特には、ノロウイルス)を効果的に不活化することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
2024161667000001.xml