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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024161695
(43)【公開日】2024-11-20
(54)【発明の名称】レゾルバインシュレータ成形金型
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/27 20060101AFI20241113BHJP
   B29C 45/37 20060101ALI20241113BHJP
   B29C 33/12 20060101ALI20241113BHJP
【FI】
B29C45/27
B29C45/37
B29C33/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023076608
(22)【出願日】2023-05-08
(71)【出願人】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】土門 晃大
【テーマコード(参考)】
4F202
【Fターム(参考)】
4F202AD03
4F202AH33
4F202AR12
4F202CA11
4F202CB01
4F202CB12
4F202CK02
4F202CK06
4F202CQ01
(57)【要約】
【課題】ティース巻線部の薄肉化が進んでも、充填不良が生じない、レゾルバインシュレータ成形金型を提供する。
【解決手段】レゾルバインシュレータ成形金型1は、ランナー構造3と、成形品キャビティ5を有している。スプル7は、端子台保護カバー成形キャビティ部13から離れて対向する位置に配置される一端部に樹脂注入口23を有し、樹脂注入口23からランナー接続部25までの通路方向が、端子台保護カバー成形キャビティ部13に向かう方向に延びている。ランナー9は、ランナー接続部25から延び、端子台側ゲート19に接続される端子台側ランナー部27と、ランナー接続部25から延び、インシュレータ側ゲート21に接続されるインシュレータ側ランナー部29と、を有している。端子台側ランナー部27の断面積は、インシュレータ側ランナー部29の断面積より広い設定にしている。
【選択図】図3A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステータコアをインサート品とするレゾルバインシュレータの射出成形に用いられるレゾルバインシュレータ成形金型であって、
溶融絶縁性樹脂が注入されるスプルと、前記スプルに注入した前記溶融絶縁性樹脂を成形品キャビティへ送り込む通路であるランナーと、を有するランナー構造を有し、
前記成形品キャビティは、
前記レゾルバインシュレータの端子台保護カバー部を成形する端子台保護カバー成形キャビティ部と、
前記端子台保護カバー成形キャビティ部と連通し、前記レゾルバインシュレータのインシュレータ本体部及びティース巻線部を成形するインシュレータ成形キャビティ部と、を有しており、
前記スプルは、
前記端子台保護カバー成形キャビティ部から離れて対向する位置に配置される一端部に樹脂注入口を有し、他端部にランナー接続部を有し、
前記樹脂注入口から前記ランナー接続部までの通路方向が、前記端子台保護カバー成形キャビティ部に向かう方向に延びており、
前記ランナーは、
前記ランナー接続部から延び、前記端子台保護カバー成形キャビティ部に形成された端子台側ゲートに接続される端子台側ランナー部と、
前記ランナー接続部から延び、前記インシュレータ成形キャビティ部に形成されたインシュレータ側ゲートに接続されるインシュレータ側ランナー部と、を有しており、
前記端子台側ランナー部の断面積は、前記インシュレータ側ランナー部の断面積より広い
ことを特徴とするレゾルバインシュレータ成形金型。
【請求項2】
前記インシュレータ側ランナー部の断面積は、前記端子台側ランナー部の断面積の70%以下である
ことを特徴とする請求項1に記載のレゾルバインシュレータ成形金型。
【請求項3】
前記スプルが延びる方向を第1方向とし、前記第1方向と直交する方向を第2方向としたとき、
前記端子台側ランナー部は、
前記ランナー接続部から前記第2方向に延びる端子台側第2方向ランナー部と、
前記端子台側第2方向ランナー部から前記端子台側ゲートまで前記第1方向に延びる端子台側第1方向ランナー部を有しており、
前記インシュレータ側ランナー部は、
前記ランナー接続部から前記第2方向に延びるインシュレータ側第2方向ランナー部と、前記インシュレータ側第2方向ランナー部から前記インシュレータ側ゲートまで前記第1方向に延びるインシュレータ側第1方向ランナー部を有しており、
前記端子台側第2方向ランナー部の断面積は、前記インシュレータ側第2方向ランナー部の断面積より広い
ことを特徴とする請求項1に記載のレゾルバインシュレータ成形金型。
【請求項4】
前記インシュレータ側第2方向ランナー部は、
前記スプルの前記ランナー接続部と接続された第1ランナー部と、
前記第1ランナー部と接続され、前記インシュレータ成形キャビティ部の環状キャビティ部の中心部に対向する位置に配置された樹脂溜部と、
前記樹脂溜部から前記インシュレータ側第1方向ランナー部との接続部まで前記第2方向に延びる第2ランナー部と、を有する
ことを特徴とする請求項3に記載のレゾルバインシュレータ成形金型。
【請求項5】
前記インシュレータ側ゲートは、前記端子台側ゲートから離れた遠位位置に形成されている
ことを特徴とする請求項1に記載のレゾルバインシュレータ成形金型。
【請求項6】
前記インシュレータ側ゲートは、前記インシュレータ成形キャビティ部の環状キャビティ部の周方向に等間隔に複数形成されている
ことを特徴とする請求項1に記載のレゾルバインシュレータ成形金型。
【請求項7】
前記インシュレータ本体部は、直径5cm以上15cm以下の円環状である
ことを特徴とする請求項1に記載のレゾルバインシュレータ成形金型。
【請求項8】
前記ティース巻線部の厚み寸法は、0.5mm以上1.0mm以下である
ことを特徴とする請求項1に記載のレゾルバインシュレータ成形金型。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レゾルバインシュレータ成形金型に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ロータのステータに対する回転角を検出し、モータや発電機などの回転電機の回転角を検出するレゾルバが知られている(例えば、特許文献1)。
【0003】
レゾルバのステータは、ステータコアと、ステータ巻線と、端子台と、レゾルバインシュレータとから構成されている。ステータコアは、環状部の内周面に周方向に配列された複数のティースを有している。端子台は、複数のティースに巻き付けられるステータ巻線(コイル線)の接続端子が設けられている。
【0004】
レゾルバインシュレータは、ステータコアをインサート品として射出成形されるものである。レゾルバインシュレータは、インシュレータ部と、端子台保護カバー部と、を一体に有している。インシュレータ部は、ステータコアの各ティースの外周に沿って環状に形成されるインシュレータ本体部の厚みよりもコイル絶縁部になるティース巻線部の厚みが薄く構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-193507号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
レゾルバインシュレータを射出成形により成形する場合、厚みの薄い薄肉部(具体的には、上記ティース巻線部を成形するキャビティ部)に、樹脂が到達しない充填不良(ショートショット)が発生しやすい、という課題が存在する。
【0007】
本発明の目的は、ティース巻線部の薄肉化が進んでも、充填不良が生じない、レゾルバインシュレータ成形金型を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のレゾルバインシュレータ成形金型は、ステータコアをインサート品とするレゾルバインシュレータの射出成形に用いられるものであり、溶融絶縁性樹脂が注入されるスプルと、前記スプルに注入した前記溶融絶縁性樹脂を成形品キャビティへ送り込む通路であるランナーと、を有するランナー構造を有している。そして、前記成形品キャビティは、前記レゾルバインシュレータの端子台保護カバー部を成形する端子台保護カバー成形キャビティ部と、前記端子台保護カバー成形キャビティ部と連通し、前記レゾルバインシュレータのインシュレータ本体部及びティース巻線部を成形するインシュレータ成形キャビティ部と、を有しており、前記スプルは、前記端子台保護カバー成形キャビティ部から離れて対向する位置に配置される一端部に樹脂注入口を有し、他端部にランナー接続部を有し、前記樹脂注入口から前記ランナー接続部までの通路方向が、前記端子台保護カバー成形キャビティ部に向かう方向に延びており、前記ランナーは、前記ランナー接続部から延び、前記端子台保護カバー成形キャビティ部に形成された端子台側ゲートに接続される端子台側ランナー部と、前記ランナー接続部から延び、前記インシュレータ成形キャビティ部に形成されたインシュレータ側ゲートに接続されるインシュレータ側ランナー部と、を有しており、前記端子台側ランナー部の断面積は、前記インシュレータ側ランナー部の断面積より広い。
【発明の効果】
【0009】
このように構成することで、ティース巻線部の薄肉化が進んでも、充填不良が生じない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施の形態のレゾルバインシュレータ成形金型で成形されたレゾルバインシュレータを備えたレゾルバの模式図である。
図2】射出成形機のブロック図である。
図3A】第1の実施の形態のレゾルバインシュレータ成形金型の側面図である。
図3B】第1の実施の形態のレゾルバインシュレータ成形金型の平面図である。
図4図3Bに示したIV-IV線の部分拡大断面図である。
図5】解析No.1-1(a=4.5、b=8.4)の場合のシミュレーション結果を示す図である。
図6】解析No.1-2(a=5.7、b=8.4)の場合のシミュレーション結果を示す図である。
図7A】解析No.1-3(a=7.0、b=8.4)の場合のシミュレーション結果を示す図である。
図7B】解析No.1-3で充填不良が生じた部分の拡大図である。
図8A】解析No.1-4(a=9.3、b=8.4)の場合のシミュレーション結果を示す図である。
図8B】解析No.1-4で充填不良が生じた部分の拡大図である。
図9A】第2の実施の形態のレゾルバインシュレータ成形金型の側面図である。
図9B】第2の実施の形態のレゾルバインシュレータ成形金型の平面図である。
図10】解析No.2-1(a=4.5、b=8.4)の場合のシミュレーション結果を示す図である。
図11】解析No.2-2(a=5.7、b=8.4)の場合のシミュレーション結果を示す図である。
図12】解析No.2-3(a=7.0、b=8.4)の場合のシミュレーション結果を示す図である。
図13A】解析No.2-4(a=9.3、b=8.4)の場合のシミュレーション結果を示す図である。
図13B】解析No.2-4で充填不良が生じた部分の拡大図である。
図14A】参考形態のレゾルバインシュレータ成形金型の側面図である。
図14B】参考形態のレゾルバインシュレータ成形金型の平面図である。
図15】参考解析の場合のシミュレーション結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のレゾルバインシュレータ成形金型の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0012】
<レゾルバインシュレータ>
図1は、本実施の形態のレゾルバインシュレータ成形金型で成形されたレゾルバインシュレータを備えたレゾルバの模式図である。
【0013】
レゾルバRSVは、ロータROTのステータSTAに対する回転角を検出し、モータや発電機などの回転電機(図示せず)の回転角を検出するものである。
【0014】
ステータSTAは、ステータコアSCOと、ステータ巻線SWRと、端子台TBLと、レゾルバインシュレータRILとから構成されている。
【0015】
ステータコアSCOは、鋼板でできた円環状の部材である。ステータコアSCOは、環状部の内周面に周方向に配列された複数のティースTETを有している。端子台TBLは、複数のティースTETに巻き付けられるステータ巻線SWR(コイル線)の接続端子が設けられている。
【0016】
レゾルバインシュレータRILは、ステータコアSCOをインサート品として射出成形されるものである。レゾルバインシュレータRILは、インシュレータ部ISLと、端子台保護カバー部TBCと、を一体に有している。インシュレータ部ISLは、インシュレータ本体部ISL1と、ティース巻線部ISL2とを有している。
【0017】
インシュレータ本体部ISL1は、ステータコアSCOの各ティースTETの外周に沿って環状に形成される部分であり、直径5cm以上15cm以下の円環状である。ティース巻線部ISL2は、コイル絶縁部になる部分である。ティース巻線部ISL2の厚みは、インシュレータ本体部ISL1の厚みよりも薄く構成されている。具体的には、ティース巻線部ISL2の厚み寸法は、0.5mm以上1.0mm以下である。
【0018】
本実施の形態のレゾルバインシュレータ成形金型は、ステータコアSCOをインサート品として、レゾルバインシュレータRILを射出成形により成形するための成形金型に関するものである。
【0019】
<射出成形機>
次に、本実施の形態のレゾルバインシュレータ成形金型を用いてレゾルバインシュレータを成形する射出成形機について説明する。
【0020】
図2は、射出成形機のブロック図である。図2に示すように、射出成形機IMは、制御部CTRと、型締めユニットMCUと、射出ユニットIJUとを備えている。制御部CTRは、設定された成形条件で型締めユニットMCU及び射出ユニットIJUを制御する装置である。型締めユニットMCU内には、後述のレゾルバインシュレータ成形金型1が固定されており、制御部CTRに制御されて、レゾルバインシュレータ成形金型1の開閉等を行う。射出ユニットIUは、制御部CTRに制御されて、レゾルバインシュレータ成形金型1に溶融絶縁性樹脂MREを注入する。
【0021】
<レゾルバインシュレータ成形金型(第1の実施の形態)>
図3Aは、第1の実施の形態のレゾルバインシュレータ成形金型の側面図であり、図3Bは、レゾルバインシュレータ成形金型の平面図である。
【0022】
レゾルバインシュレータ成形金型1は、複数のプレートから構成されているが、図3A及び図3Bにおいては、説明の便宜上、特に区別することなく、一体のものとして説明する。レゾルバインシュレータ成形金型1は、内部に、ランナー構造3と、成形品キャビティ5とが形成されている。図3Bに示すように、レゾルバインシュレータ成形金型1のランナー構造3及び成形品キャビティ5は、平面視で、レゾルバインシュレータ成形金型1の中心を通る仮想中心線IL1を通る仮想面に対して対称に配置されている。
【0023】
ランナー構造3は、射出ユニットIJUから射出された溶融絶縁性樹脂MREが通過する通路であり、スプル7と、ランナー9と、ゲート11を有している。射出ユニットIJUから射出された溶融絶縁性樹脂MREは、スプル7から、ランナー9を経由して、成形品キャビティ5に形成されたゲート11(端子台側ゲート19及びインシュレータ側ゲート21)に到達し、成形品キャビティ5内に送り込まれる。
【0024】
本明細書においては、図3Aに示すように、スプル7が延びる方向を第1方向D1とし、第1方向と直交する方向を第2方向D2とする。なお、図3Bに示すように、第2方向D2は、成形品キャビティ5の幅方向に沿う方向である幅方向W、及び、長手方向に沿う方向である長手方向Lを含むものである。
【0025】
成形品キャビティ5は、端子台保護カバー成形キャビティ部13と、インシュレータ成形キャビティ部15とを有している。端子台保護カバー成形キャビティ部13は、レゾルバインシュレータRILの端子台保護カバー部TBCを成形する部分である。インシュレータ成形キャビティ部15は、端子台保護カバー成形キャビティ部13と連通し、レゾルバインシュレータRILのインシュレータ本体部ISL1及びティース巻線部ISL2を成形する部分である。
【0026】
インシュレータ成形キャビティ部15は、インシュレータ本体部ISL1を成形する環状キャビティ部16と、ティース巻線部ISL2を成形するティースキャビティ部17を有している。環状キャビティ部16は、第1方向D1に延びる仮想中心線IL2を中心にした円環状を呈している。ティースキャビティ部17は、環状キャビティ部16の内周に周方向に複数配列されている。ティースキャビティ部17は、環状キャビティ部16から第2方向D2に延びる巻線部キャビティ部17Aと、巻線部キャビティ部17Aの先端から第1方向D1に延びる先端部17Bを有している。本実施の形態では、ティースキャビティ部17の巻線部キャビティ部17Aと先端部17Bが最も厚みの薄い部分であり、溶融絶縁性樹脂MREが到達しない充填不良(ショートショット)が発生しやすい箇所である。
【0027】
ゲート11は、端子台側ゲート19と、インシュレータ側ゲート21とを有している。
【0028】
端子台側ゲート19は、端子台保護カバー成形キャビティ部13の上面に形成されている。本実施の形態では、端子台側ゲート19は、図3Bに示すように、平面視で、仮想中心線IL1を挟んで対称な位置に2つ形成されている。
【0029】
インシュレータ側ゲート21は、インシュレータ成形キャビティ部15の環状キャビティ部16の上面に形成されている。本実施の形態では、インシュレータ側ゲート21は、端子台側ゲート19から離れた遠位位置に、平面視で、仮想中心線IL1を挟んで対称な位置に2つ形成されている。
【0030】
スプル7は、一端部に樹脂注入口23を有し、他端部にランナー接続部25を有している。スプル7は、一端部の樹脂注入口23を、端子台保護カバー成形キャビティ部13から離れて対向する位置に配置し、樹脂注入口23から他端部のランナー接続部25までの通路方向が、端子台保護カバー成形キャビティ部13に向かう方向(第1方向D1)に延びている。
【0031】
ランナー9は、端子台側ランナー部27と、インシュレータ側ランナー部29とを有している。
【0032】
端子台側ランナー部27は、ランナー接続部25から延び、端子台保護カバー成形キャビティ部13に形成された端子台側ゲート19に接続されている。さらに詳細には、端子台側ランナー部27は、端子台側第2方向ランナー部31と、端子台側第1方向ランナー部33を有している。端子台側第2方向ランナー部31は、ランナー接続部25から、平面視で仮想中心線IL1に沿って第2方向D2に延びている。端子台側第1方向ランナー部33は、2つの端子台側ゲート19に対応して、2本形成されており、それぞれ、端子台側第2方向ランナー部31の先端部近傍に形成された接続部34から端子台側ゲート19まで第1方向D1に延びている。
【0033】
インシュレータ側ランナー部29は、ランナー接続部25から延び、インシュレータ成形キャビティ部15に形成されたインシュレータ側ゲート21に接続されている。さらに詳細には、インシュレータ側ランナー部29は、インシュレータ側第2方向ランナー部35と、インシュレータ側第1方向ランナー部37を有している。
【0034】
インシュレータ側第2方向ランナー部35は、ランナー接続部25から第2方向D2に延びる部分であり、第1ランナー部39と、樹脂溜部41と、第2ランナー部43とを有している。第1ランナー部39は、スプル7のランナー接続部25と接続された部分である。本実施の形態では、第1ランナー部39は、2本形成されており、それぞれ、幅方向Wに延びる幅方向部分39Aと、湾曲部分39Bと、長手方向部分39Cを有し、端子台側第2方向ランナー部31を囲むように配置されている。
【0035】
樹脂溜部41は、第1ランナー部39と接続され、インシュレータ成形キャビティ部15の環状キャビティ部16の中心部に対向する位置(すなわち、仮想中心線IL2が通る位置)に配置されている。樹脂溜部41は、第2ランナー部43への樹脂の充填を遅らせるために設けられる。
【0036】
第2ランナー部43は、2本形成されており、樹脂溜部41からインシュレータ側第1方向ランナー部37との接続部38まで第2方向D2に延びている。インシュレータ側第1方向ランナー部37は、2つのインシュレータ側ゲート21に対応して、2本形成されており、それぞれ、接続部38からインシュレータ側ゲート21まで第1方向D1に延びている。
【0037】
[樹脂流動解析シミュレーション(ゲート数:計4つ)]
図4は、図3Bに示したIV-IV線の部分拡大断面図である。図4に示すように、本実施の形態では、端子台側第2方向ランナー部31及びインシュレータ側第2方向ランナー部35の断面形状は、台形形状を呈している。
【0038】
本例では、コンピュータを用いた樹脂流動解析シミュレーション(Autodesk社製Moldflow)により、端子台側ランナー部27(本例では、具体的には、端子台側第2方向ランナー部31)の断面積b[mm]を固定値にして、インシュレータ側ランナー部29(本例では、具体的には、インシュレータ側第2方向ランナー部35の第1ランナー部39)の断面積a[mm]を変化させて、ティースキャビティ部17の充填不良の有無を確認した。
【0039】
図5は、a=4.5、b=8.4の場合のシミュレーション結果を示す図であり(解析No.1-1)、図6は、a=5.7、b=8.4の場合のシミュレーション結果を示す図であり(解析No.1-2)、図7Aは、a=7.0、b=8.4の場合のシミュレーション結果を示す図であり(解析No.1-3)、図7Bは、解析No.1-3で充填不良が生じた部分の拡大図であり、図8Aは、a=9.3、b=8.4の場合のシミュレーション結果を示す図であり(解析No.1-4)、図8Bは、解析No.1-4で充填不良が生じた部分の拡大図である。
【0040】
図5図6図7A図8Aでは、レゾルバインシュレータ成形金型1のランナー構造3及び成形品キャビティ5のみを示している。また、図5図6図7A図8Aでは、溶融絶縁性樹脂MREをグレー色で示しており、射出ユニットIJUから射出された溶融絶縁性樹脂MREがランナー構造3を通り、成形品キャビティ5に送り込まれる様子(射出から0.2秒後、0.4秒後、0.8秒後、最終までの様子)が示されている。
【0041】
シミュレーション結果によると、解析No.1-1及び解析No.1-2の場合は、充填不良は生じなかった。これに対して、解析No.1-3及び解析No.1-4の場合は、図7B及び図8Bに示すように、ティースキャビティ部17に充填不良が生じた。図7B及び図8Bにおいて、破線で囲った部分が、充填不良が生じた部分である。
【0042】
<レゾルバインシュレータ成形金型(第2の実施の形態)>
図9A及び図9Bは、第2の実施の形態のレゾルバインシュレータ成形金型を示す図である。第1の実施の形態と共通する部分については、図3A及び図3Bに付した符号に100を加えた数の符号を付して、その説明を省略する。
【0043】
第2の実施の形態のレゾルバインシュレータ成形金型101は、第1の実施の形態と異なり、インシュレータ側ゲート121が、インシュレータ成形キャビティ部115の環状キャビティ部116の周方向に等間隔に複数(具体的には、7つ)形成されている。そして、それに合わせて、インシュレータ側第2方向ランナー部135の第2ランナー部143が、樹脂溜部141から、放射状に7本延びている。
【0044】
[樹脂流動解析シミュレーション(ゲート数:計9つ)]
ゲート数4の場合と同様、コンピュータを用いた樹脂流動解析シミュレーションにより、端子台側ランナー部127(本例では、具体的には、端子台側第2方向ランナー部131)の断面積b[mm]を固定値にして、インシュレータ側ランナー部129(本例では、具体的には、インシュレータ側第2方向ランナー部135)の断面積a[mm]を変化させて、ティースキャビティ部17の充填不良の有無を確認した。
【0045】
図10は、a=4.5、b=8.4の場合のシミュレーション結果を示す図であり(解析No.2-1)、図11は、a=5.7、b=8.4の場合のシミュレーション結果を示す図であり(解析No.2-2)、図12は、a=7.0、b=8.4の場合のシミュレーション結果を示す図であり(解析No.2-3)、図13Aは、a=9.3、b=8.4の場合のシミュレーション結果を示す図であり(解析No.2-4)、図13Bは、解析No.2-4で充填不良が生じた部分の拡大図である。
【0046】
図10図11図12図13Aでは、レゾルバインシュレータ成形金型101のランナー構造103及び成形品キャビティ105のみを示している。また、図10図11図12図13Aでは、溶融絶縁性樹脂MREをグレー色で示しており、射出ユニットIJUから射出された溶融絶縁性樹脂MREがランナー構造103を通り、成形品キャビティ105に送り込まれる様子(射出から0.2秒後、0.4秒後、0.8秒後、最終までの様子)が示されている。
【0047】
シミュレーション結果によると、解析No.2-1乃至解析No.2-3の場合は、充填不良は生じなかった。これに対して、解析No.2-4の場合は、図13Bに示すように、ティースキャビティ部117に充填不良が生じた。図13Bにおいて、破線で囲った部分が、充填不良が生じた部分である。
【0048】
<レゾルバインシュレータ成形金型(参考形態)>
図14A及び図14Bは、比較例の参考形態のレゾルバインシュレータ成形金型を示す図である。第1の実施の形態と共通する部分については、図3A及び図3Bに付した符号に200を加えた数の符号を付して、その説明を省略する。
【0049】
参考形態のレゾルバインシュレータ成形金型201は、第1の実施の形態や第2の実施の形態と異なり、インシュレータ側ランナー部及びインシュレータ側ゲートを有していない。すなわち、溶融絶縁性樹脂MREは、全て端子台側ゲート219から端子台保護カバー成形キャビティ部213に入ってから、インシュレータ成形キャビティ部215に送り込まれることになる。
【0050】
[樹脂流動解析シミュレーション(ゲート数:計2つ)]
参考形態では、インシュレータ側ランナー部を有していないため、端子台側ランナー部227の断面積b[mm]を固定値の8.4[mm]にして、ティースキャビティ部17の充填不良の有無を確認した。
【0051】
図15は、参考形態の場合のシミュレーション結果を示す図である(参考解析)。図15では、レゾルバインシュレータ成形金型201のランナー構造203及び成形品キャビティ205のみを示している。また、図15では、溶融絶縁性樹脂MREをグレー色で示しており、射出ユニットIJUから射出された溶融絶縁性樹脂MREがランナー構造203を通り、成形品キャビティ205に送り込まれる様子(射出から0.2秒後、0.4秒後、0.8秒後、最終までの様子)が示されている。シミュレーション結果によると、参考形態の場合は、最終段階において充填不良は生じなかった。
【0052】
<シミュレーション結果まとめ>
表1は、参考解析(ゲートの数:計2つ)、解析No.1-1~1-4(ゲートの数:計4つ)、及び、解析No.2-1~2~4(ゲートの数:計9つ)のシミュレーション結果をまとめた表である。表1には、解析No.1-1~1-4、及び、解析No.2-1~2~4について、断面積b[mm]に対する断面積a[mm]の比率[%](すなわち、a/b×100[%])、及び、充填不良の有無(無:〇 有:×)を併記した。
【0053】
【表1】
表1によると、ゲート数4つ(解析No.1-1~1-4)の場合には、断面積b[mm]に対する断面積a[mm]の比率が、67.9[%]~83.3[%]の間に境界が存在する。また、ゲート数9つ(解析No.2-1~2-4)の場合には、断面積b[mm]に対する断面積a[mm]の比率が、83.3[%]~110.7[%]の間に境界が存在する。
【0054】
以上のシミュレーション結果から、発明者らは、次のように結論付けた。
【0055】
(1)溶融絶縁性樹脂MREは、ゲートから成形品キャビティに送り込まれてから、厚みの厚い部分へ優先的に流れ、より薄い部分へ徐々に充填されていくことがわかった。そして、複数の経路から溶融絶縁性樹脂MREを送り込む場合、溶融絶縁性樹脂MREの到達時間の時間差によって、先に到達していた部分の溶融絶縁性樹脂MREの固化が進んでしまい、末端まで溶融絶縁性樹脂MREが流れ込めず、充填不良が発生することがわかった。
【0056】
(2)本実施の形態では、端子台保護カバー成形キャビティ部13,113の充填を先に進めて、端子台保護カバー成形キャビティ部13,113の充填率が60%程度を超えてから、インシュレータ成形キャビティ部15,115側の充填が開始されるようにすると、ティースキャビティ部17,117に溶融絶縁性樹脂MREが充填され、充填不良が生じにくい。
【0057】
(3)端子台側ランナー部の断面積が、インシュレータ側ランナー部の断面積より広い設定の場合、特に、断面積b[mm]に対する断面積a[mm]の比率が70[%]以下(すなわち、インシュレータ側ランナー部の断面積が、端子台側ランナー部の断面積の70[%]以下)である場合に、充填不良が生じにくい。
【0058】
(4)参考解析の場合も充填不良が生じなかったが、各シミュレーション結果の射出から0.8秒後の図を比較すると明らかなように、参考解析の場合は、ゲート数が4つの場合(解析No.1-1~1-4)やゲート数が9つ(解析No.2-1~2-4)の場合と比べて、充填時間に時間がかかる。また、参考解析の場合は、溶融絶縁性樹脂MREが、全て端子台側ゲート219から端子台保護カバー成形キャビティ部213に入ってから、インシュレータ成形キャビティ部215に送り込まれるため、ゲート数が4つの場合(解析No.1-1~1-4)やゲート数が9つ(解析No.2-1~2-4)の形態の場合と比べて、射出ユニットIJUの充填圧力が上がってしまう。そのため、充填時間や充填圧力の観点から、参考形態よりも、第1の実施の形態(ゲート数が4つ)及び第2の実施の形態(ゲート数が9つ)の方が有利である。
【0059】
<レゾルバインシュレータ成形金型の作用>
以下、本実施の形態のレゾルバインシュレータ成形金型の作用を説明する。
【0060】
第1の実施の形態及び第2の実施の形態のレゾルバインシュレータ成形金型1,101は、スプル7,107が端子台保護カバー成形キャビティ部13,113と対向する位置に配置されている。また、端子台側ランナー部27,127の断面積を、インシュレータ側ランナー部29,129の断面積より広い設定にしている。
【0061】
これにより、インシュレータ成形キャビティ部15,115よりも先に、端子台保護カバー成形キャビティ部13,113の充填が開始される。そして、端子台保護カバー成形キャビティ部13,113の充填が先に進み、時間差で、遅れてインシュレータ成形キャビティ部15,115の充填が進む。そのため、溶融絶縁性樹脂MREの固化が進んでしまう前に、充填圧力が高い状態で、インシュレータ成形キャビティ部15,115の末端(ティースキャビティ部17,117)まで溶融絶縁性樹脂MREを到達させることができる。したがって、ティース巻線部の薄肉化が進んでも、充填不良が生じない、レゾルバインシュレータ成形金型を提供することができる。
【0062】
端子台側ランナー部27,127が、ランナー接続部25,125から第2方向D2に延びる端子台側第2方向ランナー部31,131と、端子台側第2方向ランナー部31,131から端子台側ゲート19,119まで第1方向D1に延びる端子台側第1方向ランナー部33,133を有しており、インシュレータ側ランナー部29,129が、ランナー接続部25,125から第2方向D2に延びるインシュレータ側第2方向ランナー部35,135と、インシュレータ側第2方向ランナー部35,135からインシュレータ側ゲート21,121まで第1方向D1に延びるインシュレータ側第1方向ランナー部37,137を有している場合には、端子台側第2方向ランナー部31,131の断面積を、インシュレータ側第2方向ランナー部35,135の断面積より広い設定にする。なお、発明者らによる検討によれば、インシュレータ側ランナー部の断面積は、端子台側ランナー部の断面積の70%以下であることが好ましい。
【0063】
インシュレータ側第2方向ランナー部35,135は、スプル7,107のランナー接続部25,125と接続された第1ランナー部39,139と、第1ランナー部39,139と接続され、インシュレータ成形キャビティ部の環状キャビティ部16,116の中心部に対向する位置に配置された樹脂溜部41,141と、樹脂溜部41,141からインシュレータ側第1方向ランナー部37,137との接続部38,138まで第2方向に延びる第2ランナー部43,143と、を有することが好ましい。そして、第1の実施の形態では、インシュレータ側ゲート21は、端子台側ゲート19から離れた遠位位置に形成している。第2の実施の形態では、インシュレータ側ゲート121は、インシュレータ成形キャビティ部の環状キャビティ部116の周方向に等間隔に複数形成している。このようにすることで、インシュレータ側ゲート21,121から均等な量の溶融絶縁性樹脂MREを成形品キャビティ内に送り込むことができる。
【0064】
本発明のレゾルバインシュレータ成形金型1,101は、インシュレータ本体部ISL1が、直径5cm以上15cm以下の円環状である場合にその効果が顕著である。また、ティース巻線部ISL2の厚み寸法が、0.5mm以上1.0mm以下である場合にその効果が顕著である。
【0065】
以上、本発明の実施の形態について具体的に説明したが、本発明はこれらの実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で変更が可能であるのは勿論である。
【0066】
例えば、上記第1の実施の形態では、インシュレータ側ゲートを2つ形成したが、平面視で仮想中心線IL1を通る仮想面に対して対称に配置すればよく、仮想中心線IL1上に1つ形成したり、さらに複数のインシュレータ側ゲートを形成したりしてもよい。
【0067】
また、上記実施の形態では、端子台側第2方向ランナー部31及びインシュレータ側第2方向ランナー部35は、台形形状を呈していたが、円形状や他の多角形状を呈していてもよいのはもちろんである。
【0068】
溶融絶縁性樹脂MREについて、熱により溶融し、かつ絶縁性である樹脂であれば特に限定されないが、例えば、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリイミド樹脂などを利用可能である。
【符号の説明】
【0069】
1 レゾルバインシュレータ成形金型
3 ランナー構造
5 成形品キャビティ
7 スプル
9 ランナー
11 ゲート
13 端子台保護カバー成形キャビティ部
15 インシュレータ成形キャビティ部
16 環状キャビティ部
17 ティースキャビティ部
17A 巻線部キャビティ部
17B 先端部
19 端子台側ゲート
21 インシュレータ側ゲート
23 樹脂注入口
25 ランナー接続部
27 端子台側ランナー部
29 インシュレータ側ランナー部
31 端子台側第2方向ランナー部
33 端子台側第1方向ランナー部
35 インシュレータ側第2方向ランナー部
37 インシュレータ側第1方向ランナー部
39 第1ランナー部
41 樹脂溜部
43 第2ランナー部
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8A
図8B
図9A
図9B
図10
図11
図12
図13A
図13B
図14A
図14B
図15