(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024161744
(43)【公開日】2024-11-20
(54)【発明の名称】光制御デバイスおよびその駆動方法
(51)【国際特許分類】
G02F 1/295 20060101AFI20241113BHJP
【FI】
G02F1/295
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023076727
(22)【出願日】2023-05-08
(71)【出願人】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】難波 正和
(72)【発明者】
【氏名】柴崎 純一
(72)【発明者】
【氏名】宮本 裕司
(72)【発明者】
【氏名】三浦 雅人
(72)【発明者】
【氏名】平野 芳邦
【テーマコード(参考)】
2K102
【Fターム(参考)】
2K102AA21
2K102BA07
2K102BB04
2K102BC04
2K102BD01
2K102CA20
2K102DA04
2K102DC08
2K102DD01
2K102DD03
2K102EA02
2K102EA12
2K102EA17
2K102EA19
2K102EA21
2K102EB01
2K102EB20
(57)【要約】
【課題】導波路を増加させたときの回路規模の増大を抑制できる光制御デバイスを提供する。
【解決手段】光制御デバイス1は、光を入力する光入力部3と、複数の導波路9を有して当該複数の導波路9を通過する光の位相が制御される位相制御部5と、位相が制御された光を出力する光出力端7と、位相制御部5を駆動させる駆動回路部2と、を備え、駆動回路部2は、位相制御部5の導波路9ごとに設けられた位相制御分割電極21と、複数の位相制御分割電極21のそれぞれに平面視において重なるように形成された共通電極25と、を備え、それぞれの位相制御分割電極21は、導波路9に沿った一方向に並んで互いに離間して絶縁された複数の制御電極Eからなり、平面視において、複数の位相制御分割電極21全体における複数の制御電極Eは、導波路9に沿った一方向を行とし、且つ、複数の導波路9が並ぶ方向を列とするマトリクスに配置されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光を入力する光入力部と、複数の導波路を有して当該複数の導波路を通過する光の位相が制御される位相制御部と、位相が制御された光を出力する光出力端と、前記位相制御部を駆動させる駆動回路部と、を備える光制御デバイスであって、
前記駆動回路部は、
前記位相制御部の導波路ごとに設けられた位相制御分割電極と、
複数の前記位相制御分割電極のそれぞれに平面視において重なるように形成された共通電極と、を備え、
それぞれの前記位相制御分割電極は、導波路に沿った一方向に並んで互いに離間して絶縁された複数の制御電極からなり、
平面視において、複数の前記位相制御分割電極全体における複数の制御電極は、導波路に沿った一方向を行とし、且つ、複数の導波路が並ぶ方向を列とするマトリクスに配置されていることを特徴とする光制御デバイス。
【請求項2】
複数の前記位相制御分割電極は導波路に沿った全長がそれぞれ等しく、
平面視において、前記マトリクスの行に配置されたすべての制御電極は、導波路に沿った長さがそれぞれ異なり、且つ、前記マトリクスの列に配置されたすべての制御電極は、導波路に沿った長さがそれぞれ同じであり、前記制御電極の長さが短いものほど前記光出力端の側または前記光入力部の側に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の光制御デバイス。
【請求項3】
前記制御電極の長さが最短のものを単位電極として、前記単位電極以外の制御電極は、前記単位電極の長さを2のべき乗倍した長さを有することを特徴とする請求項2に記載の光制御デバイス。
【請求項4】
前記駆動回路部は、
制御周期ごとに、位相制御をする場合、前記複数の導波路のそれぞれにおいて前記複数の制御電極の少なくとも1つを選択し、選択した制御電極を駆動するTTLレベルの駆動信号をそれぞれ生成する制御回路部と、
前記制御電極ごとに設けられ、入力する前記駆動信号が示す電圧を一時的に保持する一時記憶部と、
前記制御電極ごとに設けられ、前記一時記憶部に保持された電圧に基づいて位相制御電圧を当該制御電極に印加するドライバ回路と、を備えることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の光制御デバイス。
【請求項5】
複数の前記一時記憶部は、
前記制御電極ごとに設けられ、前記制御電極を駆動する駆動信号が示す電圧を第1書き込み信号に応じて保持する第1メモリと、
前記制御電極ごとに設けられ、前記第1メモリが保持する電圧を第2書き込み信号に応じて保持する第2メモリと、を備え、
前記ドライバ回路は、前記第2メモリが保持する電圧、または当該電圧をレベルシフトした所定電圧を前記位相制御電圧として当該制御電極に印加し、
前記制御回路部は、
前記駆動信号を生成し、前記マトリクスの列ごとに前記第1メモリへ前記駆動信号をそれぞれ出力する駆動信号発生回路と、
前記マトリクスの行ごとに前記第1メモリへ前記第1書き込み信号を出力することで当該導波路を選択する導波路選択回路と、
すべての前記第2メモリへ前記第2書き込み信号を出力することですべての前記第2メモリがそれぞれ保持する電圧を前記制御周期ごとに書き換えるドライブ信号書き換え回路と、を備えることを特徴とする請求項4に記載の光制御デバイス。
【請求項6】
複数の前記一時記憶部は、
前記マトリクスの列ごとに設けられ、当該マトリクスの列において各行にそれぞれに対応した複数の制御電極を駆動する複数の駆動信号が示す複数の電圧をクロック信号の立ち上がりごとにそれぞれ保持し、保持される複数の電圧に対応した複数の出力を有するシフトレジスタと、
前記制御電極ごとに設けられ、前記シフトレジスタが保持する複数の電圧のいずれかに対応した出力に接続されて当該複数の電圧のいずれかを書き込み信号に応じて保持するメモリと、を備え、
前記ドライバ回路は、前記メモリが保持する電圧、または当該電圧をレベルシフトした所定電圧を前記位相制御電圧として当該制御電極に印加し、
前記制御回路部は、
前記マトリクスの行ごと且つ列ごとに駆動信号を生成し、生成した駆動信号を複数の前記シフトレジスタへそれぞれ出力する駆動信号発生回路と、
複数の前記シフトレジスタへ共通のクロック信号を出力するクロック発生回路と、
すべての前記メモリへ前記書き込み信号を出力することですべての前記メモリがそれぞれ保持する電圧を前記制御周期ごとに書き換えるドライブ信号書き換え回路と、を備えることを特徴とする請求項4に記載の光制御デバイス。
【請求項7】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の光制御デバイスを駆動する光制御デバイスの駆動方法であって、
前記光制御デバイスの前記駆動回路部は、制御回路部と、前記制御電極ごとに設けられた一時記憶部およびドライバ回路を有し、
前記光制御デバイスは、制御周期ごとに、
前記制御回路部によって、位相制御をする場合、前記複数の導波路のそれぞれにおいて前記複数の制御電極の少なくとも1つを選択し、選択した制御電極を駆動するTTLレベルの駆動信号をそれぞれ生成する工程と、
前記複数の一時記憶部のそれぞれによって、入力する前記駆動信号が示す電圧を一時的に保持する工程と、
前記複数のドライバ回路のそれぞれによって、前記一時記憶部に保持された電圧に基づいて位相制御電圧を当該制御電極に印加する工程と、を有することを特徴とする光制御デバイスの駆動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光制御デバイスおよびその駆動方法に係り、特に、電気光学材料を用いた位相制御部を備える光制御デバイスおよびその駆動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
空間光通信や奥行センサ、レーダー、LiDAR(Light Detection And Ranging)、立体ディスプレイなどへの応用に向け、光ビームパターンを制御する光制御デバイスの研究開発が進められている。このうち、光の位相制御と多光束干渉を基本原理とする光フェーズドアレイ(Optical Phased Array; 以下、OPA)は、機械的な走査なしに光ビームを掃引できるため、小型・軽量な光制御デバイスに応用できるものと期待されている(例えば特許文献1、非特許文献1参照)。
【0003】
OPAは、光を入力する部分(光入力部)と、光位相の制御部(位相制御部)と、位相が制御された光の出力部(光出力部)と、を備える光路を複数用い、出力光の回折・干渉効果によって光ビームパターンを得るデバイスである。例えば
図12に示す光導波路型OPA101では、光入力部103と、光ビームスプリッタ部104と、位相制御部105と、光出力部としてのマルチ光導波路部106と、を備えている。マルチ光導波路部106は、光出力端107を備える光導波路108を複数併置した構造を適用している。なお、
図12では導波路108として光導波路コアのみ図示しており、コア周囲のクラッド層の図示を省略している。
【0004】
位相制御部105には、例えば外部電圧の印加等により屈折率が変化する材料が使用される。例えば液晶材料や電気光学材料、あるいは、熱光学材料が位相制御部の材料に利用されることが知られている(例えば特許文献2、特許文献3、非特許文献2参照)。このうち、電気光学(Electro Optics:EO)材料には、その屈折率nが、外部から印加される電界強度Eにより、次の式(1)にしたがって変化する性質があり、この現象はEO効果と呼ばれている。ここで、r33はEO効果の大きさを示す物性値であってEO係数と呼ばれている。また、n0は外部電圧印加のない場合の屈折率を示す。
【0005】
n=n0-0.5・n0
3・r33・E … (1)
【0006】
例えばEO材料よりも屈折率が低い材料によって、線状のEO材料の周囲を取り囲めば、中心のEO材料を導波路(導波路コア:位相制御器)として機能させることができる。さらにEO材料もしくはそれを取り囲む材料の上面と下面に、それぞれ電極として機能する導電性薄膜を配置した位相制御部を形成すれば、光導波路にかかる電界強度を制御することが可能となる。
【0007】
また、長さがLである位相制御部に入射した波長λの光は、位相制御部において、外部電圧が印加されない場合、光の位相が、次の式(2)に示す位相φ0だけ変化する。これに対して、位相制御部の電圧を印加するための電極(位相制御電極)に外部電圧が印加される場合、光の位相が、次の式(3)に示す位相φEに変化する。ここで、Eは外部電圧によりEO材料に生じる電界強度を示す。r33はEO係数を示し、n0は外部電圧印加のない場合の屈折率を示す。
【0008】
φ0=2π・n0・L/λ [rad] … (2)
φE=2π・(n0-0.5・r33・n0
3・E)・L/λ [rad] … (3)
【0009】
したがって、外部電圧の大きさによる位相変化量の違いを用いることで、位相制御部による光位相の制御が可能である。たとえば全ての位相制御部への入射光の位相が同一であるとき、隣接する位相制御部の電界強度がΔEだけ異なるように印加電圧を選ぶことにより、隣接する光出力端における光の位相差を、次の式(4)に示す位相差Δφとすることができる。
【0010】
Δφ=π・r33・n0
3・ΔE・L/λ [rad] … (4)
【0011】
図12の光導波路型OPA101は、複数の光出力端107が直線上に配置されており、複数の光出力端107から、複数の光出力端107が配列される方向(x方向)と基板110の面内において直交する方向(z方向)を基準として、角度θだけ傾斜した方向へ光ビームを出射する。この角度θは、所定条件のときに次の式(5)に示す角度θで表すことができる。ここで、所定条件は、光出力端107が間隔Pで直線状に配置されており、隣接する光出力端107間の位相差がΔφである、という条件である。
【0012】
θ = sin-1(Δφ/2π・λ/p) [rad] … (5)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許第5093740号明細書
【特許文献2】特許第2579426号公報
【特許文献3】特許第5285120号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Paul F. McManamon, et al., “A Review of Phased Array Steering for Narrow-Band Electrooptical Systems”, Proceedings of the IEEE, 2009, July, Vol.97,No.6,p.1078-1096pp.1078-1096(2009).
【非特許文献2】Guangzhen Luo et. al., “1024-channel Passive Optical Phased Array with High Angular Resolution”, Asia Communications and Photonics Conference 2021, T3D.5 (2021).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
図12に示す光導波路型OPA101のようなマルチ光導波路部とEO位相制御器を用いた光フェーズドアレイでは、光出射端107から離れた場所での光ビームの広がり角は次の式(6)に従う。
【0016】
Ψ = sin-1 [1.22λ/((N-1)・d)] … (6)
【0017】
ここで、λは光の波長、Nは導波路の本数、dは導波路ピッチをそれぞれ示す。このため、広がり角(スポット径に比例)の小さな、細い光ビームを作り出すには、導波路ピッチdが一定の条件において、導波路数を増やすことが必要になる。導波路数が増えると、導波路数に対応した位相制御器を駆動するための信号線が多くなり、これらを光フェーズドアレイチップの外部に取り出さなければならない。例えば、1024本の導波路アレイを用いた光フェーズドアレイが報告されている(非特許文献2参照)。なお、非特許文献2に記載された光フェーズドアレイは、熱光学効果材料を用いている。
【0018】
EO効果を用いた位相制御部を持つ光フェーズドアレイにおいても、光ビームの広がり角を小さくするには、同じく導波路数を増加する必要がある。このような位相制御器としての多数の導波路についての位相シフトを行うには、
図13や
図14に示すようにマトリクス制御が有効になると考えられる。EO効果を用いた位相制御部は、図示しない複数の導波路(位相制御器)と、導波路ごと(行ごと)に設けられた上部制御電極121と、下部電極125とを備えており、導波路には上下の電極間の電界が印加される。位相制御部を駆動させる駆動回路部は、位相制御部制御信号発生器141や行選択回路143を備える。マトリクス制御では、位相制御部制御信号発生器141が制御信号(デジタル信号)を生成し、行選択回路143が各導波路を選択する制御を行い、制御信号に基づくデータが各位相制御器に書き込まれることで、導波路に電界が印加される。
【0019】
ここでは、EO効果を用いた位相制御部を持つ光フェーズドアレイなので、個々の光導波路を伝搬する光の位相制御を、前記した式(4)に従って電界強度Eで行うことを想定する。また、複数の導波路(位相制御器)の位相を個別に制御するために、個々の導波路の上部制御電極121に、振幅を変えた電圧をそれぞれ印加するものとする。このような場合、位相制御部制御信号発生器141は、個々の導波路の位相を制御するための振幅を変えた電圧を順次生成する必要があるため、デジタルで振幅信号を作り出す。加えて、駆動回路部の途中に、デジタル振幅信号をアナログの電圧振幅に変換するデジタル-アナログ(DA)変換器が必要となる。
【0020】
図13に示す駆動回路部においては、位相制御部制御信号発生器141が生成したデジタル信号は、DA変換器171によってアナログ信号に変換される。このアナログ信号は、行選択回路143によって制御されるスイッチSWと、一時記憶部としてのメモリ150と、レベルシフタとしてのドライバ160とを介して各上部制御電極121に電圧V1~V8として印加される。
一方、
図14に示す駆動回路部においては、位相制御部制御信号発生器141が生成したデジタル信号は、ビット数と同じ本数の配線181と、行選択回路143によって制御されるスイッチSWと、を介してビット数と同じ本数の配線182に送られた後に、DA変換器172によってアナログ信号に変換される。このアナログ信号は、メモリ150と、ドライバ160とを介して各上部制御電極121に電圧V1~V8として印加される。
【0021】
図13に示す駆動回路部は、DA変換器171が1つで済むものの、アナログ電圧に変換したのちの振幅値は、一般的なデジタル信号の振幅3.3Vなどと比べると高い電圧値となる。そのため、配線容量などで消費される無効な電力が増加する。また、小さな振幅でメモリ150まで書き込みその後段に増幅器を置く方法も考えられるが、途中の配線への飛び込みノイズなどで、波形がくずれてしまう虞がある。
【0022】
図14に示す駆動回路部は、デジタル信号が導波路の位相制御部直前まで送信されるが、そこでDA変換し振幅信号とすることが必要となるため、回路規模が大きくなり導波路のピッチを狭めることができない。
図13や
図14に示すいずれの場合も、導波路数を増やすと、回路規模が複雑性を増し大きくなるため、装置を小型化することが困難となる。
【0023】
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、導波路を増加させたときの回路規模の増大を抑制できる光制御デバイスおよびその駆動方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
前記課題を解決するために、本発明に係る光制御デバイスは、光を入力する光入力部と、複数の導波路を有して当該複数の導波路を通過する光の位相が制御される位相制御部と、位相が制御された光を出力する光出力端と、前記位相制御部を駆動させる駆動回路部と、を備える光制御デバイスであって、前記駆動回路部は、前記位相制御部の導波路ごとに設けられた位相制御分割電極と、複数の前記位相制御分割電極のそれぞれに平面視において重なるように形成された共通電極と、を備え、それぞれの前記位相制御分割電極は、導波路に沿った一方向に並んで互いに離間して絶縁された複数の制御電極からなり、平面視において、複数の前記位相制御分割電極全体における複数の制御電極は、導波路に沿った一方向を行とし、且つ、複数の導波路が並ぶ方向を列とするマトリクスに配置されていることとした。
【0025】
かかる構成によれば、光制御デバイスは、導波路ごとに設けられたそれぞれの位相制御分割電極が、導波路に沿って分割された複数の制御電極からなり、全体として、マトリクスに配置されており、各制御電極を独立に駆動させることができる。この構造により、光制御デバイスは、電圧の振幅値を変調することなく一定の電圧を印加する制御電極の組み合わせを変更し、位相制御部の等価的な長さを変えることで位相制御を行うことができる。また、光制御デバイスは、一定の電圧を印加する制御電極の組み合わせを変更するデジタル信号として発生させる位相制御信号のためのDA変換器が不要なため、簡便な構造にすることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、導波路を増加させたときの回路規模の増大を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】第1実施形態に係る光制御デバイスの構成を示す模式図である。
【
図2】第1実施形態に係る光制御デバイスの概略断面図である。
【
図3】第1実施形態に係る光制御デバイスの駆動回路部の構成例を示す模式図である。
【
図4】各制御電極に配置された駆動素子の構成例を示す模式図である。
【
図5】
図3の駆動素子に係る信号のタイミングチャートである。
【
図6】駆動素子および制御電極の動作を模式的に示すタイミングチャートである。
【
図7】マトリクスの行が4であるときに書き込むデータのタイミングチャートの一例である。
【
図8】(a)~(d)は、駆動素子のメモリ構成の説明図である。
【
図9】第2実施形態に係る光制御デバイスの駆動回路部の構成例を示す模式図である。
【
図10】マトリクスの行が4であるときに書き込むデータのタイミングチャートの一例である。
【
図11】(a)~(d)は、
図9のシフトレジスタの説明図である。
【
図12】従来のマルチ光導波路と位相制御器を用いた光フェースアレイの一例を示す概略模式図である。
【
図13】従来技術の一例の課題を説明する図である。
【
図14】従来技術の他の例の課題を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
(第1実施形態)
[光制御デバイスの構造の概要]
まず、
図1および
図2を参照して第1実施形態に係る光制御デバイス1の構造の概要について説明する。参照する図面において、光制御デバイス1の幅方向をx軸、光制御デバイス1の高さ方向をy軸、光制御デバイス1の奥行き方向をz軸とする。また、一例として、導波路アレイを8本の導波路で表しているが、導波路アレイは、実際には、16本、32本、64本、…のようにより多くの本数の導波路で構成される。導波路を便宜上、
図1において上から、チャンネル1、チャンネル2、…と呼ぶ。なお、
図1では導波路9,8a,8bとして光導波路コアのみ図示しており、コア周囲のクラッド層の図示を省略している。
図2は、光制御デバイス1のチャンネル1の導波路に沿ってz方向に切り出したときのyz断面の要部を示す模式図である。
図2は、位相制御部5を含み、位相制御に必要なサイズの一部分を示している。
【0029】
図1に示すように、光制御デバイス1は、光入力部3と、光ビームスプリッタ部4と、位相制御部5と、マルチ光導波路部6と、光出力端7と、駆動回路部2と、を備えている。光入力部3は、光を入力する。光ビームスプリッタ部4は、入射光を複数チャンネルに分離する。位相制御部5は、複数の導波路9を有して当該複数の導波路9を通過する光の位相が制御される。光出力端7は、位相が制御された光を出力する。駆動回路部2は、位相制御部5を駆動させる。駆動回路部2は、位相制御分割電極21と、共通電極25と、を備えている。位相制御分割電極21は、位相制御部5の導波路9ごとに設けられている。共通電極25は、複数の位相制御分割電極21のそれぞれに高さ方向を異ならせ平面視において重なるように基板10の上に形成されている。それぞれの位相制御分割電極21は、導波路9に沿った一方向に並んで互いに離間して絶縁された複数の制御電極からなる。平面視において、複数の位相制御分割電極21全体における複数の制御電極は、導波路9に沿った一方向を行とし、且つ、複数の導波路9が並ぶ方向を列とするマトリクスに配置されている。
【0030】
位相制御分割電極21と、共通電極25とは、位相制御部5の導波路9に電圧を印加する上下の一対の電極である。本実施形態では、一例として上下一対の下部電極を共通電極25とし、上部電極を位相制御分割電極21としている。位相制御分割電極21は、光の伝搬する方向(z方向)へ沿って所定の長さでm本(例えば4本)に分割されている。
【0031】
図1では、1つの導波路ごとに、
図1における上から順に1行目、2行目、…、n行目とし、
図1における右から左へ順に1列目、2列目、…、m列目と規定し、マトリクスに配置されている各制御電極を一般化してE
m,nと表記している。例えば、一番上の行の一番右端の制御電極をE
1,1と表記する。各制御電極E
m,nには、駆動回路部2から一定の電圧をON/OFFする制御がなされる。
【0032】
複数の位相制御分割電極21は導波路9に沿った全長がそれぞれ等しい。平面視において、マトリクスの所定の行に配置されたすべての制御電極Em,nは、導波路9に沿った長さがそれぞれ異なる。また、平面視において、マトリクスの所定の列に配置されたすべての制御電極Em,nは、導波路9に沿った長さがそれぞれ同じである。また、本実施形態では、制御電極Em,nの長さが短いものほど光出力端7の側に配置されている。
【0033】
ここで、位相制御分割電極21の全長Lは、制御電極E
m,n間の隙間の長さを含まず、複数の制御電極E
m,nを隙間なく繋げたときの長さである。また、
図1に示すLは、位相制御分割電極21を各制御電極E
m,nに分割する前の長さを意味する。位相制御分割電極21の全長Lは、1つの位相制御分割電極21を構成するすべての制御電極E
m,nに、制御用の所定電圧を印加したときに、電圧を印加していないときと比べ、導波路9を通過する光の位相差が2πになる長さであることが好ましい。なお、制御電極E
m,n間の隙間や、隣り合う位相制御分割電極21の間には、例えば空気が介在しているが、表面の保護や絶縁のために絶縁保護膜を配置してもよい。
【0034】
本実施形態では、光制御デバイス1は、制御電極Em,nの長さが最短のものを単位電極として、単位電極以外の制御電極Em,nは、単位電極の長さを2のべき乗倍した長さを有する。すなわち、m,nを行、列をそれぞれ示す任意の自然数として第n行目において(各導波路において)、(m+1)列目の制御電極Em+1,nの長さは、m列目の制御電極Em,nの長さの2倍になるように設定されている。
【0035】
図1に示す例では、第n行目において位相制御分割電極21が、制御電極E
1,n~E
4,nまで4分割されている。具体的には、制御電極E
1,nを単位電極として、導波路9に沿った制御電極E
1,nの長さがUであるものとすると、制御電極E
2,nの長さは2U、制御電極E
3,nの長さは4U、制御電極E
4,nの長さは8Uと表される。また、これら制御電極E
1,n~E
4,nの組み合わせによって、トータルの電極長さは、最短Uから最長15U(全長L)のいずれかで表される。したがって、これらの制御電極E
1,n~E
4,nへの電圧を印加する組み合わせにより、第n行目の位相制御分割電極21に対応した1本の導波路9に対して実質的に電圧を印加するトータルの距離(トータルの電極長さ)が4ビットで制御できる。光制御デバイス1の駆動回路部2は、この組み合わせにより、導波路を伝搬する光の位相シフト量を前記した式(2)に従い制御する。
また、本実施形態では、制御電極E
m,nの長さが短いものほど光出力端7の側に配置されているので、通常のビット配置と同様であり、制御電極E
1,n~E
4,nの組み合わせに応じたビット列を直感的に把握し易くなっている。
【0036】
[導波路に沿った各部の構成]
次に、位相制御部5の導波路9が例えばEOポリマー導波路であるものとして、導波路に沿った各部の構成について
図1および
図2を参照して説明する。また、この導波路9をSi
3N
4導波路8a,8bと区別するときには、EOポリマー導波路9と表記し、区別しない場合、単に導波路9と表記する。
【0037】
光ビームスプリッタ部4は、複数のSi3N4導波路8aを有し、マルチ光導波路部6は、複数のSi3N4導波路8bを有している。複数のSi3N4導波路8bは、位相制御された光をそれぞれ導波する。複数のSi3N4導波路8bは、複数のSi3N4導波路8aの延長線上にそれぞれ設けられている。
【0038】
図1および
図2に示すように、複数の位相制御分割電極21は、Si
3N
4導波路8aとSi
3N
4導波路8bとの間の領域に、高さを異ならせてEOポリマー導波路9に沿ってそれぞれ形成されている。また、光制御デバイス1は、
図2の入力側光結合部11および出力側光結合部12に示すように、EOポリマー導波路9の高さと、Si
3N
4導波路8a,8bの高さと、は異ならせており、
図1に示すように、EOポリマー導波路9と、Si
3N
4導波路8a,8bと、が平面視において重なる領域を有している。
【0039】
光入力部3は、外部から光制御デバイス1に光を入力するための要素である。光入力部3へ光を入力する光源は、コヒーレンス性が優れ、偏波を整えられるレーザーがよいが、LED(発光ダイオード)やSLD(スーパールミネッセントダイオード)を用いてもよい。本実施形態では、光入力部3は、Si3N4導波路8a,8bと同時に作製されるため、これら導波路と同様に、Si3N4で作製されている。
【0040】
光ビームスプリッタ部4は、光入力部3から入力した光を、位相制御部5を構成するEOポリマー導波路9の本数分だけ光を等強度で分配する要素である。本実施形態では、1×2MMIをカスケード状に配置して8本の導波路に光分配する。分配方法としては、1×2MMIを用いるほか、1入力8分岐の多モード干渉(1x8MMI)を用いてもよい。
【0041】
位相制御部5のEOポリマー導波路9の上部には、チャンネルごとに位相制御分割電極21が、上部クラッド15cを介して配置されている。EOポリマー導波路9の下方には、各チャンネル共通の共通電極25が中間クラッド15aおよび下部クラッド15bを介して配置されている。
【0042】
EOポリマー導波路9を構成するEOポリマーとしては、例えば、ポリメチルメタクリレート(PMMA)系に、非線形応答を発現する有機色素を分散配合させたポリマー材料を使用できる。そのほかEO色素としてDisperse redなどを適用することが可能である。
図2に示す入力側光結合部11および出力側光結合部12において、Si
3N
4導波路8a,8bは、平面視における幅が端面に向かって先細りのテーパ状に形成されることが好ましい。なお、使用波長域を1.3~1.6μmの通信帯域の用途に限れば、Si
3N
4導波路8a、Si
3N
4導波路8bを、それぞれSi導波路に置き換えて用いてもよい。
【0043】
位相制御分割電極21は、EOポリマー導波路9の上側にEOポリマー導波路9から間隔を空けて上部クラッド15cを介して配置されている。位相制御分割電極21は、例えば複数(例えば8個)のEOポリマー導波路9それぞれに個別の電圧を印加するために設けられた電極である。位相制御分割電極21は、長手方向をz方向として、長手方向には位相制御に必要な長さを有している。
【0044】
共通電極25は平板状の電極である。共通電極25は、例えば複数(例えば8個)のEOポリマー導波路9にとって共通の電極であり、ここではグランドに接地されている(
図1)参照)。共通電極25は、EOポリマー導波路9の下側に高さを異ならせて対向する位置に下部クラッド15bを介して配置されている。位相制御分割電極21や共通電極25に用いる材料としては、Ti、Cr、Au、Cu、Alの金属電極、または、ZnO、ITO(Indium Tin Oxide:インジウム-スズ酸化物)、IZO(Indium Zinc Oxide:インジウム亜鉛酸化物)などの透明電極を選択できる。
【0045】
クラッド15は、この光制御デバイス1の製造時に例えば3つの異なる工程でそれぞれ積層される中間クラッド15aと、下部クラッド15bと、上部クラッド15cと、を備えている。下部クラッド15bは、Si3N4導波路8a,8bの下方に配置されている。上部クラッド15cは、Si3N4導波路8a,8bの上方に配置されている。中間クラッド15aは、下部クラッド15bと上部クラッド15cとの間に配置されている。なお、中間クラッド15aと、下部クラッド15bと、上部クラッド15cとを区別しない場合、単にクラッド15と呼称する。
【0046】
クラッド15の材料としては、その屈折率がEOポリマーの屈折率よりも小さく、EOポリマーの屈折率との屈折率差がなるべく大きな材料が良い。そのような材料として、例えばSiO2(屈折率1.48)を用いることができる。
基板10は、各層を支持できる機械的強度があるものを使用することができるが、各層との線膨張係数値の差が小さいものを選ぶのが望ましい。例えば、Si基板などが望ましい。
【0047】
[駆動回路部の各部の構成]
次に、駆動回路部2の各部の構成について
図3および
図4を参照(適宜
図1および
図2参照)して説明する。
図3は、第1実施形態に係る光制御デバイスの駆動回路部の構成例を示す模式図である。
図4は、各制御電極に配置された駆動素子の構成例を示す模式図である。なお、
図3では、行の総数を8とし、かつ、列の総数を4とした場合のアレイ構造を例示しており、光制御デバイス1の光ビームスプリッタ部4、位相制御部5の導波路9、共通電極25等の図示を省略している。
【0048】
駆動回路部2は、光フェーズドアレイ、特に位相制御部5の各導波路9を駆動させる回路部である。
図3に示すように、駆動回路部2は、位相制御分割電極21を構成する制御電極E
1,1~E
4,8のほかに、制御回路部40と、複数の駆動素子30と、を備えている。
制御回路部40は、制御周期ごとに、位相制御をする場合、複数の導波路9のそれぞれにおいて複数の制御電極E
m,nの少なくとも1つを選択し、選択した制御電極E
m,nを駆動するTTL(Transistor-Transistor Logic)レベルの駆動信号S
mをそれぞれ生成する。なお、TTLレベルの信号は、5Vや3.3Vなどの比較的低い電圧の信号である。また、制御回路部40が、全く位相制御をしない場合(光ビームを偏向せずに出力する場合)、すべての制御電極E
m,nが選択されないので、すべての制御電極E
m,nの電位は0Vになる。
【0049】
制御回路部40は、駆動信号発生回路41と、導波路選択回路43と、ドライブ信号書き換え回路45と、を備えている。駆動信号発生回路41、導波路選択回路43、およびドライブ信号書き換え回路45からの信号はTTLレベルの信号である。また、図示はしていないが、駆動回路部2は、駆動信号発生回路41、導波路選択回路43、ドライブ信号書き換え回路45をそれぞれ同期や制御する回路も備えている。
【0050】
駆動回路部2のこれらの回路群の配置レイアウトは、図示したものに限定されるものではない。配置レイアウトは、所望の導波路数にあわせて、配線の数、長さ、他の配線との交差する程度などを考慮して、配線による浮遊容量を極力低減することが好ましい。
なお、駆動回路部2のこれらの回路群は、例えば半導体集積回路(駆動回路LSI)として形成することができる。この駆動回路LSIに、例えば、予め別に作製しておいたマルチチャネル光導波路(光フェーズドアレイ部)を後付けすることで光制御デバイス1を製造することが可能である。
【0051】
制御回路部40は、
図3に示すように、駆動信号発生回路41からの列ごとの信号線S
1,S
2,S
3,S
4(以下、一般化してS
mと表記する)と、導波路選択回路43からの行ごとの信号線LE1
1,LE1
2, LE1
3,LE1
4,…,LE1
8(以下、一般化してLE1
nと表記する)と、ドライブ信号書き換え回路45からの全行共通の信号線LE2とでマトリクスにされている。
【0052】
以下では、信号線Smによって送られる信号を信号Smと表記する。信号線と信号に同じ記号を用いるのは、信号名を表記するだけでどの信号線によって送られる信号であるのかを直感的に把握できるようにするためである。同様に、信号線LE1nによって送られる信号を信号LE1nと表記する。信号線LE2によって送られる信号を信号LE2と表記する。
【0053】
駆動回路部2において、複数の駆動素子30がマトリクス状に並べられている。この駆動素子30は、制御電極E
m,nごとに設けられている。各駆動素子30は、
図4に示すように、一時記憶部50と、ドライバ(ドライバ回路)60と、を備えている。
一時記憶部50は、制御電極E
m,nごとに設けられ、入力する駆動信号S
mが示す電圧を一時的に保持するものである。
ドライバ60は、制御電極E
m,nごとに設けられ、一時記憶部50に保持された電圧に基づいて位相制御電圧を当該制御電極E
m,nに印加するものである。
【0054】
図4に示す例では、一時記憶部50は、第1メモリ51と、第2メモリ52と、を備えている。
第1メモリ51は、制御電極E
m,nごとに設けられ、制御電極E
m,nを駆動する駆動信号S
mが示す電圧を第1書き込み信号LE1
nに応じて保持するものである。第1メモリ51は、駆動信号発生回路41からの第1書き込み信号LE1
nによって、駆動信号S
mを受け取り保持する。制御電極E
m,nに設けられた第1メモリ51がその都度保持する信号(電圧の記憶データ)を信号M1
m,nと表記する。
第2メモリ52は、制御電極E
m,nごとに設けられ、第1メモリ51が保持する電圧を第2書き込み信号LE2に応じて保持するものである。第2メモリ52は、第1メモリ51から出力された信号M1
m,nを第2書き込み信号LE2によって保持する。
ドライバ60は、第2メモリ52が保持する電圧、または当該電圧をレベルシフトした所定電圧を位相制御電圧として当該制御電極E
m,nに印加するものである。ドライバ60は、例えば、第2メモリ52からの出力を、位相制御に必要な電圧まで昇圧する増幅器である。または、位相制御に必要な電圧がTTLレベルである場合、ドライバ60による昇圧は不要である。例えば、EOポリマー導波路9を構成するEOポリマーのEO係数によっては、位相制御がTTLレベルで十分できる場合がある。このような場合、ドライバ60は、電圧印加を高速に行うためのバッファーである。
【0055】
図3および
図4に示す例では、駆動信号発生回路41は、駆動信号S
mを生成し、マトリクスの列ごとに、各駆動素子30の第1メモリ51へ駆動信号S
mをそれぞれ出力する。また、導波路選択回路43が、マトリクスの行ごとに、各駆動素子30の第1メモリ51へ第1書き込み信号LE1を出力することで当該導波路9を選択する。
ドライブ信号書き換え回路45は、すべての駆動素子30の第2メモリ52へ第2書き込み信号LE2を出力することで、すべての第2メモリ52がそれぞれ保持する電圧を制御周期ごとに書き換える。
なお、説明の都合上、
図3において下に示す駆動信号発生回路41を、
図4において左に示している。また、
図3において左に示す導波路選択回路43を、
図4において左下に示している。さらに、
図3において右に示すドライブ信号書き換え回路45を、
図4において右下に示している。
【0056】
[光制御デバイスの駆動方法]
<概要>
次に、光制御デバイス1の駆動方法について
図3および
図4を参照(適宜
図1および
図2参照)して説明する。光制御デバイスの駆動方法は、光制御デバイス1の制御周期ごとに、信号生成工程と、電圧保持工程と、電圧印加工程と、を有している。
信号生成工程にて、制御回路部40は、位相制御をする場合、複数の導波路9のそれぞれにおいて複数の制御電極E
m,nの少なくとも1つを選択し、選択した制御電極E
m,nを駆動するTTLレベルの駆動信号S
mをそれぞれ生成する。
電圧保持工程にて、複数の一時記憶部50のそれぞれは、入力する駆動信号S
mが示す電圧を一時的に保持する。
電圧印加工程にて、複数のドライバ60のそれぞれは、一時記憶部50に保持された電圧に基づいて位相制御電圧を当該制御電極E
m,nに印加する。
【0057】
<1つの駆動素子の基本動作>
次に、
図3に示す駆動素子30の基本動作について
図5のタイミングチャートを参照(適宜
図1乃至
図4参照)して説明する。1つの駆動素子30は、基本動作として、概ね以下の工程A1~工程A7を実行する。なお、
図5中のA1~A6は、工程A1~工程A6に対応し、
図5中のA3は、工程A7(繰り返し)に対応している。
【0058】
(工程A1)第1書き込み信号LE1nがONのとき、第1メモリ51に駆動信号Smによるデータが書き込まれ、データは保持される。
(工程A2)第1メモリ51は、第1書き込み信号LE1nがOFFになってもデータを保持し続け、第1メモリ51の出力する信号M1m,nが出力を維持する。
(工程A3)第2メモリ52は、第2書き込み信号LE2がONになったとき、第1メモリ51に保持されているデータ(信号M1m,n)を受け取り、保持する。
(工程A4)第2メモリ52は、第2書き込み信号LE2がOFFになってもデータ(信号M1m,n)を保持し、ドライバ60に信号M1m,nを出力し続ける。
(工程A5)ドライバ60は、信号M1m,nを昇圧した出力(位相制御電圧)で制御電極Em,nを制御する。
工程A4~工程A5の間は、第2メモリ52とドライバ60により、制御電極Em,nは駆動信号Smにて制御された状態になる。
(工程A6)工程A4~工程A5が実行されている間に、工程A1および工程A2の操作を繰り返し、次の駆動信号のデータで、第1メモリ51の内容を書き換える。この間も工程A4で書き込まれたデータによってドライバ60は出力を続ける。
(工程A7)次に工程A3を行い、ドライバ60へ送るデータを書き換える。
【0059】
<駆動素子アレイの位相制御動作>
次に、マトリクス状に並べられた複数の駆動素子30による位相制御動作について
図3および
図6を参照(適宜、その他の図面参照)して説明する。
図6は、駆動素子および制御電極の動作を模式的に示すタイミングチャートである。
図6の横軸は時間軸を示しておいる。縦軸は、上下に分かれており、上半分は、マトリクスのm列の第1行~第8行に設けられた各第1メモリ51のデータ保持状況(信号M1
m,1~信号M1
m,8)を示す。縦軸の下半分は、マトリクスのm列の第1行~第8行に設けられた各制御電極に印加される電圧(ドライバ60の出力)を示す。
【0060】
駆動回路部2では、制御回路部40によって、期間T1
Rと期間T2
Rの2つの期間で制御を行う。例えば、期間T1
Rでは、行ごとに(nごとに)順番に、導波路選択回路43により信号線LE1
nをONして、各制御電極E
1,n、E
2,n、…、E
4,nに設けられた各駆動素子30のそれぞれの第1メモリ51に同時に駆動信号S
1、S
2、…、S
4によりデータ(信号M1
m,n)を書き込む。この期間T1
Rの様子は、
図6の縦軸の上半分に階段状に第1のハッチングで示されている。このとき、
図6の縦軸の下半分に示すように、各駆動素子30の第2メモリ52は、前の期間T1
R-1のドライバ60の出力を保持している。
【0061】
次に、期間T2
Rにドライブ信号書き換え回路45からの信号線LE2をONして、それぞれの駆動素子30内の第2メモリ52を、期間T1
Rに書き込んだ第1メモリ51の出力信号M1
m,nで一斉に書き換え、ドライバ60を制御する。この期間T2
Rの様子は、
図6の縦軸の上半分に矩形状に第2のハッチングで示されている。この第2メモリ52によるドライバ60の制御は、期間T2
Rが終了し、期間T1
R+1に入っても、次の期間T2
R+1に再びドライブ信号書き換え回路45からの信号線LE2がONされるまで状態を保持し続ける。この期間T2
Rおよび期間T1
R+1の様子は、
図6の縦軸の下半分に第1のハッチングで示されている。
【0062】
なお、
図6の例では、期間T1
R以前の期間T2
R-1において、同様に、ドライブ信号書き換え回路45からの信号線LE2をONして、それぞれの駆動素子30内の第2メモリ52を、期間T1
R-1に書き込んだ第1メモリ51の出力信号M1
m,nで一斉に書き換えを行っている。
【0063】
次いで、期間T2
Rが終了し、期間T1
R+1に入ると、再び導波路選択回路43により、行ごとに順番にそれぞれの駆動素子30の第1メモリ51のデータの書き換えを行う。この期間T1
R+1の様子は、
図6の縦軸の上半分に階段状に第3のハッチングで示されている。
【0064】
次の期間T2
R+1で、ドライブ信号書き換え回路45からの信号線LE2がONされ、期間T1
R+1に第1メモリ51に書き込まれたデータで第2メモリ52の書き換えを行う。この期間T2
R+1の様子は、
図6の縦軸の上半分に矩形状に第2のハッチングで示されている。このとき、各制御電極E
m,1、E
m,2、…、E
m,8に新たな位相制御電圧が印加される。この期間T2
R+1および期間T1
R+2の様子は、
図6の縦軸の下半分に第3のハッチングで示されている。
【0065】
次いで、期間T2
R+1が終了し、期間T1
R+2に入ると、再び導波路選択回路43により、行ごとに順番にそれぞれの駆動素子30の第1メモリ51のデータの書き換えを行う。この期間T1
R+2の様子は、
図6の縦軸の上半分に階段状に第4のハッチングで示されている。
【0066】
これらを繰り返すことで、時分割で、それぞれの導波路の位相制御を変えていくことができる。この間、光入力部3(
図1参照)へ光が連続的に入射されていれば、期間T2
Rごとに連続的に各導波路9を伝搬する光の位相が制御され、各導波路9間の位相差により、光出力端7からの光ビームは偏向が制御される。
【0067】
[メモリに書き込むデータの例]
次に、第1書き込み信号LE1や第2書き込み信号LE2と、メモリに書き込むデータの例について
図7のタイミングチャートを参照(適宜、
図3乃至
図6参照)して説明する。
図7は、
図3の制御回路部40においてマトリクスの行の総数が一例として4であるものとして、m列目における第1行目~第4行目の駆動素子30の第1メモリ51および制御電極の電圧のタイミングチャートを示す。ここでは、各行の第1メモリ51にそれぞれ1,0,1,0を書き込む場合を例示した。
【0068】
例えば、期間T1Rでは、第1行目の駆動素子30の第1メモリ51には、導波路選択回路43からの第1行目の信号線LE11によって送られる第1書き込み信号LE11がONのとき、この時点の駆動信号Smである信号M1m,1で示す電圧データ「1」を書き込む。第2行目の駆動素子30の第1メモリ51には、第1書き込み信号LE12がONのとき、この時点の駆動信号Smである信号M1m,2で示す電圧データ「0」を書き込む。
第3行目の駆動素子30の第1メモリ51には、第1書き込み信号LE13がONのとき、この時点の駆動信号Smである信号M1m,3で示す電圧データ「1」を書き込む。
第4行目の駆動素子30の第1メモリ51には、第1書き込み信号LE14がONのとき、この時点の駆動信号Smである信号M1m,4で示す電圧データ「0」を書き込む。
【0069】
次に、期間T2Rに、ドライブ信号書き換え回路45からの第2書き込み信号LE2をONして、第1行目~第4行目の駆動素子30内の第2メモリ52に、期間T1Rに書き込んだ第1メモリ51の出力信号M1m,1~M1m,4、すなわち、データ1,0,1,0を一斉に書き込む(上書きする)。これにより、各第2メモリ52にドライバ60を介して、それぞれ接続されていた制御電極Em,1、Em,2、Em,3、Em,4にデータ1,0,1,0に相当する電圧が印加される。なお、タイミングチャートは、どのメモリにどんな値を保持するのかを示す条件によって変わるものである。
【0070】
[駆動素子の構成例]
次に、駆動素子の構成例について
図8(a)~
図8(d)を参照して説明する。
図8(a)では、説明の都合により、
図3の制御回路部40において簡易的に3行2列分の駆動素子30を配置している。
図8(b)は、Dラッチ回路(ゲーテッドDラッチ回路)のシンボルを示し、
図8(c)はDラッチ回路の論理回路図を示し、
図8(d)は、Dラッチ回路の真理値表を示す。
【0071】
駆動素子30は、前記したように、一時記憶部50と、ドライバ60と、を備え、一時記憶部50は、第1メモリ51と、第2メモリ52と、を備えている。このうち、第1メモリ51および第2メモリ52は、
図8(a)に示すように、Dラッチ回路を2段接続して構成することができる。
【0072】
第1メモリ51として機能する1段目のDラッチ回路は、データ入力D1に駆動信号発生回路41からの駆動信号Smが入力される。
1段目のDラッチ回路は、ラッチイネーブル入力LE1に導波路選択回路43の信号線LE1nが接続される。なお、ラッチイネーブル入力の記号LE1は、Latch Enableの略であり、また、信号線LE1nからの信号LE1nが入力されることを表している。
1段目のDラッチ回路の出力端子Q1には、第2メモリ52として機能する2段目のDラッチ回路のデータ入力D2が接続されている。
2段目のDラッチ回路は、ラッチイネーブル入力LE2にドライブ信号書き換え回路45の信号線LE2が接続されている。なお、ラッチイネーブル入力の記号LE2は、Latch Enableの略であり、また、信号線LE2からの信号LE2が入力されることを表している。2段目のDラッチ回路の出力端子Q2には、ドライバ60が接続されている。
本実施形態の駆動回路部40は、一時記憶部50として例えばDラッチ回路を2段接続した簡易な回路を用いた駆動素子30をマトリクス状に配置することで構成することができる。
【0073】
[光制御デバイスの動作]
次に、光制御デバイスの動作について、
図1および
図2を参照して説明する。光入力部3へ、光ファイバーなどから入射したコヒーレント光は、光ビームスプリッタ部4により、所望の本数の導波路に分配される。分配された光はSi
3N
4導波路8aをz方向に進み、入力側光結合部11において、Si
3N
4導波路8aから位相制御部のEOポリマー導波路9へ進入する。EOポリマー導波路9を進んだ光は、出力側光結合部12において、マルチ光導波路部6のSi
3N
4導波路8bへ光結合されて、Si
3N
4導波路8bを進み、光出力端7から空間へ放射される。それぞれのチャンネルの導波路を通って放射された光は空間を伝搬する上で干渉および回折により、光出力端7から遠く離れたところで1本の光ビームとして観察される。
【0074】
光制御デバイス1において、共通電極25に対して各チャンネル共通の電位(0Vまたは接地電位)を印加すると共に、各位相制御分割電極21に対して各チャンネル別にEOポリマー膜の屈折率を制御するための電圧をそれぞれ印加すると、位相制御部5において、チャンネルごとに光の位相を変調することができる。電圧に対するEOポリマー膜内での位相差Δφは、前記した式(4)に従う。式(4)にしたがって各導波路間の位相を制御することで、光出力端7から放射される光ビームを偏向することができる。本実施形態の光制御デバイス1は、zx面内でz方向からx方向の側へ傾斜するように光ビームを偏向することができる。
【0075】
前記実施形態で説明したように、光制御デバイス1は、位相制御部5に電圧を印加する上下一対の電極のうち片方(位相制御分割電極21)を光の伝搬方向に長さを変えて分割した複数の制御電極Em,nを有する構造としている。前記した式(4)によれば、電圧を印加したときの位相シフト量は位相制御部の長さLにも比例する。そのため、これら分割した長さの違う制御電極Em,nのうち電圧を印加する制御電極Em,nの組み合わせを変えることにより、位相のシフト量を制御することができる。すなわち、位相制御分割電極21において駆動させる制御電極Em,nの個数を変化させると、導波路に沿った方向において実質的に機能する電極の長さが変化する。光制御デバイス1は、複数の制御電極Em,nがマトリクスに配置されているので、同様に駆動させる制御電極Em,nに同様の外部電圧を印加しながら各導波路に沿った方向における実質的な電極の長さを変化させることで、隣接する光出力端における光の位相差を制御できる。
【0076】
また、光制御デバイス1は、駆動回路部2側では、デジタル信号として発生させた位相制御信号のDA変換器が不要なため、簡便な構造にすることができる。また、光制御デバイス1は、位相制御部5の各制御電極Em,nに対応する駆動素子30の最終段回路の直前まで、5Vや3.3Vなどの低いTTLレベルの信号で制御できるため、高速化や低消費電力につながる効果を奏する。
【0077】
(第2実施形態)
[光制御デバイスの構成]
次に、第2実施形態に係る光制御デバイスについて説明する。第2実施形態に係る光制御デバイスは、駆動回路部の構成が第1実施形態に係る光制御デバイスと相違している。以下では、第1実施形態と相違する駆動回路部について
図9を参照して説明する。なお、
図8(a)に示す構成と同じ構成には同じ符号を付して説明を省略する。
【0078】
第2実施形態に係る光制御デバイスの駆動回路部2は、複数の一時記憶部50Bとして、シフトレジスタ51Bと、メモリ52Bと、を備えている。
シフトレジスタ51Bは、マトリクスの列ごとに設けられ、当該マトリクスの列において各行にそれぞれに対応した複数の制御電極Em,nを駆動する複数の駆動信号Smが示す複数の電圧をクロック信号の立ち上がりごとにそれぞれ保持し、保持される複数の電圧に対応した複数の出力を有する。
メモリ52Bは、制御電極Em,nごとに設けられ、シフトレジスタ51Bが保持する複数の電圧のいずれかに対応した出力に接続されて当該複数の電圧のいずれかを書き込み信号LEに応じて保持する。
ドライバ60Bは、メモリ52Bが保持する電圧、または当該電圧をレベルシフトした所定電圧を位相制御電圧として当該制御電極Em,nに印加する。
【0079】
制御回路部40Bは、駆動信号発生回路41Bと、クロック発生回路47と、ドライブ信号書き換え回路45と、を備えている。制御回路部40Bは、
図9に示すように、駆動信号発生回路41Bからの列ごとの信号線S
1,S
2,…,S
m(以下、一般化してS
mと表記する)と、クロック発生回路47からの全列共通の信号線CKと、ドライブ信号書き換え回路45からの全行共通の信号線LEとでマトリクスにされている。
【0080】
なお、以下では、説明の都合上、信号線Smによって送られる信号を信号Smと表記する。また、信号線CKによって送られる信号をクロック信号CKと表記し、クロック信号CKが送られるシフトレジスタ51Bのクロック入力を、クロック入力CKと表記する。また、信号線LEによって送られる信号を信号LEと表記し、信号LEが送られるDラッチ回路(メモリ52B)のラッチイネーブル入力を、ラッチイネーブル入力LEと表記する。
【0081】
駆動信号発生回路41Bは、マトリクスの行ごと且つ列ごとに駆動信号Smを生成し、生成した駆動信号Smを複数のシフトレジスタ51Bへそれぞれ出力する。
クロック発生回路47は、複数のシフトレジスタ51Bへ共通のクロック信号CKを出力する。
ドライブ信号書き換え回路45は、すべてのメモリ52Bへ書き込み信号LEを出力することですべてのメモリ52Bがそれぞれ保持する電圧を制御周期ごとに書き換える。
【0082】
図9に示す第2実施形態に係る光制御デバイスの駆動回路部2は、マトリクスにおけるm個の列が並んだ方向(
図9において横)にm個のシフトレジスタ51Bを備える。
各シフトレジスタ51Bのデータ入力SIには、駆動信号発生回路41Bからの信号線S
1~S
mが接続されている。
各シフトレジスタ51Bのクロック入力CKには、クロック発生回路47が共通に接続されている。
各シフトレジスタ51Bは、複数の出力として、マトリクスにおけるn個の行が並んだ方向(
図9において縦)にn行分の出力端子Q
1,1~Q
1,n(1列目のシフトレジスタの場合)を備える。シフトレジスタ51Bの出力端子Q
1,1~Q
m,nには、それぞれメモリ52Bが接続されている。なお、以下では、出力端子Q
1,1~Q
1,nに対応させて、各行の出力に保持されるデータを出力データQ
1,1~Q
1,nと表記する。
【0083】
以下、メモリ52Bは、例えばDラッチ回路で構成されるものとして説明する。Dラッチ回路の出力端子Qにはドライバ60Bが接続されている。m列n行に設けられた各ドライバ60Bは、各制御電極E1,1~Em,nに接続される。各Dラッチ回路のラッチイネーブル入力LEには、ドライブ信号書き換え回路45が共通に接続される。
【0084】
[光制御デバイスの駆動方法]
次に、第2実施形態に係る光制御デバイスの駆動方法として、信号の書き込み期間や書き込み方法について
図9を参照(適宜
図1~
図3参照)して説明する。ここでは、すべての制御電極E
1,1~E
m,nに所定の電圧を印加するためにすべての一時記憶部50Bに所定のデータが書き込まれる書き込み期間をフェーズと呼ぶ。また、初めのデータについての書き込み期間をフェーズP1、次に新たなデータについての書き込み期間をフェーズP2、次の書き込み期間をフェーズP3、…のように表記する。
【0085】
フェーズP1では、各Dラッチ回路のラッチイネーブル入力LEには、ドライブ信号書き換え回路45からLE信号としてLow信号が与えられる。以下、n個の行について順次行う処理を識別子k(k=0~(n-1))で識別する。
駆動信号発生回路41Bは、まず、識別子kを0として、マトリクスの第n行目におけるm列分の出力データQ1,n~Qm,nにあたる駆動信号S1~Smをそれぞれ生成し、各シフトレジスタ51Bのデータ入力SIへそれぞれ入力する。
【0086】
次に、クロック発生回路47がクロック信号CKをLowからHighへ切り替えるタイミング(クロック信号の立ち上がり部)で、各シフトレジスタ51Bの1行目の出力端子Q1,1~Qm,1に、第n行目におけるm列分の出力データQ1,n~Qm,nが書き込まれ保持される。この後、クロック発生回路47は、クロック信号CKを、HighからLowへ切り替える。
【0087】
次に、駆動信号発生回路41Bは、識別子kを1として、マトリクスの第(n-1)行目におけるm列分の出力データQ1,n-1~Qm,n-1にあたる駆動信号S1~Smをそれぞれ生成し、各シフトレジスタ51Bのデータ入力SIへそれぞれ入力する。
次にクロック信号CKがLowからHighへ切り替わるタイミングで、各シフトレジスタ51Bにおいて1行目の出力端子Q1,1~Qm,1に保持されていたデータQ1,n~Qm,nは、それぞれ、2行目の出力端子Q1,2~Qm,2へと送られ保持される。また同時に、1行目の出力端子Q1,1~Qm,1には、新たに第(n-1)行目におけるm列分の出力データQ1,n-1~Qm,n-1が書き込まれ保持される。
【0088】
このように駆動信号発生回路41Bは、識別子kをインクリメントして、第(n-k)の行にあたる駆動信号S1~Smを次々に発生させ、その都度、クロック信号CKをLowからHgihへ切り替える動作を繰り返す。これにより、最初に(識別子kが0のときに)各シフトレジスタ51Bの1行目の出力端子Q1,1~Qm,1に書き込んだ、第n行目におけるm列分の出力データQ1,n~Qm,nは、クロック信号CKの立ち上げがn回終了するとき(識別子kがn-1のときに)、各シフトレジスタ51Bにおける意図した行の出力端子(n行目の出力端子)Q1,n~Qm,nに移動し保持される。また同時に、m個のシフトレジスタ51Bのすべての出力端子Q1,1~Qm,nに所定のデータの書き込みが完了する。
【0089】
すべてのシフトレジスタ51Bのすべての出力に所定のデータが書き込まれると(フェーズP1が終了すると)、ドライブ信号書き換え回路45から、すべてのDラッチ回路のラッチイネーブル入力LEへLE信号としてHigh信号が出力される。そして、各Dラッチ回路の出力端子Qには、シフトレジスタ51Bに保持されているデータが出力され、LE信号がHighからLowへ切り替わっても次にLowからHighへ切り替わるまで当該データは保持され出力を続ける。その出力は、反転または非反転の(
図9では非反転)のバッファーないし増幅器を経て各制御電極E
1,1~E
m,nに電圧が印加される。
【0090】
また、各Dラッチ回路の出力端子Qに、シフトレジスタ51Bに保持されているデータが出力されているときに、ドライブ信号書き換え回路45からのLE信号がHighからLowへ切り替わった時点で、各シフトレジスタ51Bへの新たなデータの書き込みを始める(フェーズP2を開始する)。
【0091】
[タイミングチャートの具体例]
図10は、
図9の制御回路部40Bにおいてマトリクスの行の総数nが4であるものとして、第1列目のシフトレジスタ51B(シフトレジスタ1)とDラッチ回路(メモリ52B)および制御電極の電圧のタイミングチャートを示す。ここでは、最初にQ
1,1、Q
1,2、Q
1,3、Q
1,4にそれぞれ0,1,0,1を書き込んで、次に1,0,1,0に書き換える場合を例示した。なお、
図10では下付きを解除している。
【0092】
例えばフェーズP1において、シフトレジスタ1のデータ入力SIには、Q1,4データとして「1」、Q1,3データとして「0」、Q1,2データとして「1」、Q1,1データとして「0」を、この順番に入力される。これらのデータをフェーズP1におけるP1データと呼ぶ。最初にQ1,4データとして書き込んだ、第4行目のデータ「1」は、クロック信号CKの立ち上げが4回終了するとき、シフトレジスタ1の4行目の出力端子Q1,4に移動し保持されることが分かる。また、このとき同時に出力端子Q1,1に「0」、出力端子Q1,2に「1」、出力端子Q1,3に「0」が保持されることが分かる。
【0093】
ここで、シフトレジスタ1のデータ入力SIにQ1,4データとして「1」を書き込み始めた時刻からカウントして、カウント開始後にクロック信号CKの立ち上げが4回起こるまでの期間が、フェーズP1におけるP1データ書き込み期間である。このP1データ書き込み期間が終了すると、Dラッチ回路のラッチイネーブル入力LEは、LowからHighへ切り替わる。そして、シフトレジスタ1の出力端子Q1,1、Q1,2、Q1,3、Q1,4にそれぞれ接続されていた各Dラッチ回路の出力端子Qには、シフトレジスタ1の出力端子Q1,1、Q1,2、Q1,3、Q1,4に保持されているデータが出力される。これにより、シフトレジスタ1の出力端子Q1,1、Q1,2、Q1,3、Q1,4にDラッチ回路を介してそれぞれ接続されていた制御電極E1,1、E1,2、E1,3、E1,4にデータ0,1,0,1に相当する電圧が印加される。
【0094】
ここで、Dラッチ回路のラッチイネーブル入力LEがLowからHighへ切り替わった時刻からカウントして、カウント開始後にLE信号がHighからLowへ切り替わった後に再びLowからHighへ切り替わった時刻までの期間が、P1データによる制御電極E1,1、E1,2、E1,3、E1,4への電圧印加期間である。
続いてフェーズP2において、シフトレジスタ1のデータ入力SIには、Q1,4データとして「0」、Q1,3データとして「1」、Q1,2データとして「0」、Q1,1データとして「1」を、この順番に入力される。これらのデータをフェーズP2におけるP2データと呼ぶ。P2データの書き込み手順は、P1データの書き込み手順と同様なので、これ以上の説明を省略する。
【0095】
なお、P2データ書き込み期間は、フェーズP2における同様の期間のことである。このP2データ書き込み期間の後には、P2データによる制御電極E
1,1、E
1,2、E
1,3、E
1,4への電圧印加期間が存在するが
図10では図示を省略している。また、タイミングチャートは、どのメモリにどんな値を保持するのかを示す条件によって変わるものである。
【0096】
[シフトレジスタの構成例]
次に、シフトレジスタの構成例について
図11(a)~
図11(d)を参照して説明する。ここでは、
図9の制御回路部40Bにおいてマトリクスの行の総数nが4であるものとして、第1列目のシフトレジスタ51B(シフトレジスタ1)の構成例を説明する。
シフトレジスタ1は、
図11(a)に示すように、Dフリップフロップを4段接続して構成することができる。
図11(b)は、Dフリップフロップのシンボルを示し、
図11(c)はDフリップフロップの論理回路図を示す。
図11(d)は、
図11(a)に示すシフトレジスタの真理値表を示す。なお、シフトレジスタは、Dフリップフロップを5段以上接続して構成することもできる。
【0097】
第2実施形態に係る光制御デバイスの駆動回路部2は、第1実施形態と比べて以下の効果を奏する。
図8(a)に示す駆動回路部2では、駆動信号発生回路41からの信号線S
mの1本当たり、n行分(n個)のDラッチ回路におけるそれぞれのデータ入力D
1へ接続される。一方、第2実施形態は、駆動信号発生回路41からの信号線S
mの1本当たり、1つのSI入力分の駆動負荷で済むため、駆動信号発生回路41の最終段の出力素子における駆動負荷が1/nに低減できる。
図8(a)に示す駆動回路部2では、駆動信号発生回路41からの配線が、導波路選択回路43からのn本の信号線LE1
nをまたいでいる。一方、第2実施形態は、駆動信号発生回路41を、各列のシフトレジスタ51BのSI入力近傍に配置することで、またぐ配線数を格段に少なくし、容量性負荷を低減できる。さらに、第2実施形態は、配線長自体も短くすることができるため、配線抵抗も下げることができる。そのため、駆動信号発生回路41の駆動負荷を少なくすることができ、よりいっそう、高速・低消費電力化が可能となる。
【0098】
以上、本発明の各実施形態に係る光制御デバイスおよびその駆動方法について説明したが、本発明の趣旨はこれらの記載に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて広く解釈されなければならない。また、これらの記載に基づいて種々変更、改変などしたものも本発明の趣旨に含まれることはいうまでもない。
【0099】
例えば、各実施形態では、位相制御分割電極21において、制御電極Em,nの長さが短いものほど光出力端7の側に配置されていることとしたが、制御電極Em,nの長さが短いものほど光入力部3の側に配置されるように構成することもできる。
また、各実施形態では、上下一対の下部電極を共通電極25とし、上部電極を位相制御分割電極21としたが、上部電極を共通電極25とし、下部電極を位相制御分割電極21とすることもできる。位相制御分割電極21を下部電極とする場合、隣り合う位相制御分割電極21の間に絶縁保護膜を配置する。
駆動回路部2に、別に作製した導波路を後付けすることができる。
また、各実施形態では、導波路9がEOポリマー導波路であるハイブリッド型の導波路であるものとしたが、これに限らず、導波路9を含めて光入力部3から光出射端7まで全部Si3N4導波路で形成することもできる。
さらに、各実施形態では、光がz方向に出射しz方向からx方向へ偏向できるような光出力端7としたが、これに限らない。例えば光出力端の導波路にグレーティングを刻み、y方向に光を出射できるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0100】
1 光制御デバイス
2 駆動回路部
3 光入力部
4 光ビームスプリッタ部
5 位相制御部
6 マルチ光導波路部
7 光出力端
8a,8b Si3N4導波路
9 EOポリマー導波路(導波路)
10 基板
11 入力側光結合部
12 出力側光結合部
15 クラッド
15a 中間クラッド
15b 下部クラッド
15c 上部クラッド
21 位相制御分割電極
25 共通電極
30 駆動素子
40,40B 制御回路部
41,41B 駆動信号発生回路
43 導波路選択回路
45 ドライブ信号書き換え回路
47 クロック発生回路
50,50B 一時記憶部
51 第1メモリ
51B シフトレジスタ
52 第2メモリ
52B メモリ
60,60B ドライバ(ドライバ回路)
E1,1~E4,1 制御電極