(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024161848
(43)【公開日】2024-11-20
(54)【発明の名称】ホルムアミドの製造方法、ホルムアミド合成用触媒、ホルムアミド合成用触媒含有液
(51)【国際特許分類】
C07C 231/10 20060101AFI20241113BHJP
C07C 233/02 20060101ALI20241113BHJP
B01J 23/80 20060101ALI20241113BHJP
【FI】
C07C231/10
C07C233/02
B01J23/80 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023076950
(22)【出願日】2023-05-08
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2021年度国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「クリーンエネルギー分野における革新的技術の国際共同研究開発事業/革新的水素製造・利用の要素技術開発/ビスメタル固体触媒によるホルメート経由型化学品製造の国際共同研究開発 」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】今 喜裕
(72)【発明者】
【氏名】鶴見 翔太
(72)【発明者】
【氏名】藤谷 忠博
【テーマコード(参考)】
4G169
4H006
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169BB02A
4G169BB02B
4G169BB04A
4G169BB04B
4G169BC31A
4G169BC31B
4G169BC35A
4G169BC35B
4G169CB25
4G169CB72
4G169CB77
4G169DA05
4G169EA02Y
4G169EB18Y
4G169EC22Y
4G169EC25
4G169FA01
4G169FA02
4G169FB09
4G169FB30
4G169FB44
4G169FB70
4H006AA02
4H006AC53
4H006BA05
4H006BA55
4H006BB15
4H006BC10
4H006BC11
4H006BE14
4H006BE20
4H006BE41
4H006BV11
(57)【要約】
【課題】簡便、低コストで、大量製造プロセスに適したホルムアミドの製造方法を提供すること、および当該方法に用いる触媒、触媒含有液を提供することである。
【解決手段】二酸化炭素、水素およびアンモニアを原料に用いて、ホルムアミドを製造する方法であって、前記二酸化炭素と、前記水素と、前記アンモニアとを、酸化亜鉛に、銅金属を担持させた固体触媒およびエチレングリコールの存在下で反応させる、ホルムアミドの製造方法である。この反応は、1MPa以下の圧力下、100-160℃の温度下で行うとよい。そして、ホルムアミド合成用触媒は、銅が酸化亜鉛に担持されている固体触媒であって、触媒含有液として、固体触媒と、エチレングリコールとを含むものである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化炭素、水素およびアンモニアを原料に用いて、ホルムアミドを製造する方法であって、
前記二酸化炭素と、前記水素と、前記アンモニアとを、酸化亜鉛に、銅金属を担持させた固体触媒およびエチレングリコールの存在下で反応させることを特徴とするホルムアミドの製造方法。
【請求項2】
前記固体触媒として、前記銅金属が、固体触媒全体の質量に対し、10-40%の割合で含まれる固体触媒を使用する、請求項1に記載のホルムアミドの製造方法。
【請求項3】
1MPa以下の圧力下で反応させる、請求項1または請求項2に記載のホルムアミドの製造方法。
【請求項4】
100-160℃の温度下で反応させる、請求項1または請求項2に記載のホルムアミドの製造方法。
【請求項5】
二酸化炭素、水素およびアンモニアを原料としてホルムアミドを製造するための触媒であって、銅金属が酸化亜鉛に担持されている固体触媒であることを特徴とする、ホルムアミド合成用触媒。
【請求項6】
前記触媒は、前記銅金属が、固体触媒全体の質量に対し、10-40%の割合で含まれる固体触媒である、請求項5に記載のホルムアミド合成用触媒。
【請求項7】
請求項5または請求項6に記載のホルムアミド合成用触媒と、エチレングリコールとを含む、ホルムアミド合成用触媒含有液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素から触媒を作用させることでホルムアミドを製造するホルムアミドの製造方法に関する。より詳しくは、銅金属を含む固体触媒およびジオール類の存在下において、二酸化炭素と水素とアンモニアとを共存させて反応させることにより、ホルムアミドを選択的に製造する方法に関する。また、ホルムアミドの合成用の触媒、当該触媒を含むホルムアミド合成用触媒含有液に関する。
【背景技術】
【0002】
ホルムアミド(N,N-ジヒドロホルムアミド)は、医農薬や各種有機薬品の中間原料、溶剤などに用いられる機能化学品であり、カルボニル構造に直接窒素原子が接続し、その窒素上に水素原子が2個置換された構造を示す。ホルムアミドの製造例として、ギ酸メチルをアンモニアに作用させる方法、メタクリル酸メチルの副生としてヒドロキシイソ酪酸アミドとギ酸メチルの交換反応による方法といった工業的に知られている製造方法のほか、一酸化炭素を原料に、アンモニアとアルカリ触媒から製造する方法(特許文献1)が知られている。
また、他の方法として、二酸化炭素を出発物質とする直接的なホルムアミドの合成技術がある。このホルムアミドの合成例としては、二酸化炭素とアンモニアボラン錯体および水酸化アンモニウムを作用させる2段階によるホルムアミドの製造法が知られている(非特許文献1)。
【0003】
また、二酸化炭素、水素およびアンモニアから、各種遷移金属の均一系触媒を用い、ホスフィンと組み合わせて各種アルコールの存在下、ホルムアミドを製造する方法(特許文献2)が知られている。
【0004】
一方、不均一系の触媒である固体触媒を用いて実施する二酸化炭素、水素、およびアンモニアからのホルムアミドの製造法としては、金を含む担持触媒による製造法が知られている(特許文献3)。
【0005】
また、ホルムアミドではないが、ジメチルアンモニウムジメチルカーバメートを原料として銅の固体触媒を用いて、6MPa以上の高圧下でN,N-ジメチルホルムアミドを製造する方法が知られている(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2002-534492号公報
【特許文献2】特開昭52-87112号公報
【特許文献3】特表2014-523448号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Bo Zhang et al., Eur. J. Org. Chem. 2018, 14, pp.1739-1743.
【非特許文献2】Jinli Liu et al., Chem. Commun. 2010, 46, pp.5770-5772.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記した、ギ酸メチルを用いる反応では、ギ酸エステルを経る二段階で目的物を合成するため、エネルギー効率が悪い。また、特許文献1に記載の方法では、毒性の高い一酸化炭素を用いるため、安全性の観点から好ましくない。
そして、非特許文献1に記載の方法は、窒素源に用いるアンモニアボラン錯体の製造に工程を必要とし、そのプロセスも煩雑である。また、反応後のボランを含む共生成物とホルムアミドを分離する工程も必要であり、共生成物の処理にコストもかかる。そして、特許文献2に記載の方法では、均一系の触媒反応を用いることから、連続的な合成へと展開できないほか、触媒を生成物と分離する工程が必要となる。したがって、これらの方法は、化学品の大量製造プロセスには適用しないものである。
一方、特許文献3に記載の方法によれば、不均一系の触媒反応を用いているものの、触媒には高価な金を必要とすることから、製造コストがかかり、やはり大量製造プロセスには適用できない。
そして、非特許文献2に記載の方法は、安価な銅の固体触媒を用いて、ホルムアミドを製造するものであるが、高圧での反応であり、原料に用いるアンモニウムカーバメートの製造に工程を要するほか、より反応性が低いアンモニアを原料に用いるものではない。
【0009】
本発明の課題は、簡便、低コストで、大量製造プロセスに適したホルムアミドの製造方法および当該方法に用いる触媒、触媒含有液の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究した結果、電子状態を安定化しつつ還元性能を持つ酸化亜鉛に、原料と作用して還元反応を促進する部位として銅を組み込んだ固体触媒を用い、二酸化炭素、水素およびアンモニアを作用させ、さらに固体触媒上に二酸化炭素が接触しやすいように最適なジオール系添加剤を加え反応を実施することで、安価かつ簡便にホルムアミドを得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
具体的には、本発明は、下記のホルムアミドの製造方法、ホルムアミド合成用触媒、ホルムアミド合成用触媒含有液に関する。
(1)二酸化炭素、水素およびアンモニアを原料に用い、ホルムアミドを製造する方法であって、前記二酸化炭素と、前記水素と、前記アンモニアとを、酸化亜鉛に、銅金属を担持させた固体触媒およびエチレングリコールの存在下で反応させるホルムアミドの製造方法。
(2)前記固体触媒として、前記銅金属が、固体触媒全体の質量に対し、10-40%の割合で含まれる固体触媒を使用する、前記(1)に記載のホルムアミドの製造方法。
(3)1MPa以下の圧力下で反応させる、前記(1)又は前記(2)に記載のホルムアミドの製造方法。
(4)100-160℃の温度下で反応させる、前記(1)又は前記(2)に記載のホルムアミドの製造方法。
(5)二酸化炭素、水素およびアンモニアを原料としてホルムアミドを製造するための触媒であって、銅金属が酸化亜鉛に担持されている固体触媒であることを特徴とする、ホルムアミド合成用触媒。
(6)前記触媒は、前記銅金属が、固体触媒全体の質量に対し、10-40%の割合で含まれる固体触媒である、前記(5)に記載のホルムアミド合成用触媒。
(7)前記(5)または前記(6)に記載のホルムアミド合成用触媒と、エチレングリコールとを含む、ホルムアミド合成用触媒含有液。
なお、本明細書において数値範囲を示す場合は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味として使用される。また、本明細書において、ホルムアミドとは、N,N-ジヒドロホルムアミドを意味しており、窒素上に水素以外が置換した他のホルムアミド類とは、明確に区別される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、簡便、低コストで、大量製造プロセスに適したホルムアミドの製造方法を提供することができる。また、当該方法に用いる触媒や触媒含有液を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】作製した10%酸化銅担持酸化亜鉛のXRDスペクトル(500℃の焼成前と焼成後)である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下において、本発明の実施の形態について詳しく説明する。また、%濃度は質量%を示すものとする。
本実施形態は、二酸化炭素、水素およびアンモニアを原料に用いて、ホルムアミドを製造する方法であって、これらの原料に、電子状態を安定化しつつ還元性能を持つ酸化亜鉛に、原料と作用し還元反応を促進する部位として銅を一定比率にて混合させた固体触媒(Cu/ZnO)を作用させること、また、エチレングリコールを作用させることによりホルムアミドが得られる方法である。この方法は、反応器内に、固体触媒とエチレングリコール、さらに二酸化炭素、水素およびアンモニアなどの原料を導入し、加熱することで、脱水を伴い容易にホルムアミドが得られるものである。反応に用いる固体触媒は、銅金属が酸化亜鉛上に担持されたものであり、触媒を構成する金属成分に亜鉛と銅といった安価な金属を用いている。そして、固体触媒を用いていることから反応後の分離工程も不要なため、フロー合成など大量合成に適応する不均一系反応によりホルムアミドを製造できる。さらに、本実施形態で用いる固体触媒は、再使用ができない遷移金属錯体触媒とは違って、例えば、100℃で1晩乾燥後、500℃で2時間空気存在下にて焼成し、のち500℃で2時間水素還元処理等することにより、再使用が可能である。
【0015】
本実施形態において使用される酸化亜鉛は六方晶系ウルツ鉱型の結晶構造を有し、比表面積として10平方メートル以上あることが好ましい。担持する銅は、担持できる形状であればどのような銅の化合物を用いても良いが、固体触媒の全体質量に対し、それぞれ0.1-60%担持したものが用いられ、より好ましくは活性の点から10-40%担持したものが用いられる。その使用量はアンモニア0.1ミリモル前後(0.08-0.12ミリモル)に対して1-200mg、より好ましくは50-100mgの範囲から選ばれる。
【0016】
本実施形態の製造法において用いられる原料の二酸化炭素は、固体状、液体状、または気体状で使用することができる。入手や取り扱いが容易なことから、気体状のものを用いるとよい。また、気体状の場合は、工業的に広範に利用される二酸化炭素を含むガス混合物(例えば、水蒸気との混合ガスなど)を使用することもできる。水素および二酸化炭素は、窒素または希ガスを含有していても良いし、その他の不活性なガスを含有していても良い。
【0017】
二酸化炭素の水素化は、液相において、好ましくは20-160℃の範囲の温度および0.1-1MPa(絶対圧)の範囲の全圧でおこなわれ、その際、全圧は、好ましくは少なくとも0.5MPa(絶対圧)であり、高いほど反応性が高まる。また、設備コストとの兼ね合いから、特に好ましくは1MPa(絶対圧)である。反応温度について、好ましくは100-160℃、特に好ましくは生成するホルムアミドが熱で分解しやすいという理由から、120-140℃である。このような低圧、低温の温和な条件で反応を行うことができる。
【0018】
反応器中の二酸化炭素の分圧は、好ましくは0.25-0.75MPaであり、特に反応性の観点から0.50-0.75MPaがより好ましい。水素の分圧は、好ましくは0.25-0.75MPaであり、特に反応性の観点から0.50-0.75MPaがより好ましい。
【0019】
反応器の供給物中の二酸化炭素の水素に対するモル比の値は、好ましくは0.3-3であり、より好ましくは0.5-1である。この反応は、まず二酸化炭素と水素が反応してぎ酸が生成し、その後、アンモニア付加と脱水が起きることでホルムアミドが生成するものである。ここで、二酸化炭素と水素は1:1で理論上反応していると考えられ、二酸化炭素と水素のモル比はその前後にある程度幅を持たせた比とすればよく、モル比を1としても良い。
【0020】
反応器の供給物中の二酸化炭素のアンモニアに対するモル比の値は、好ましくは1-100であり,より好ましくは10-30である。アンモニアが二酸化炭素と容易に反応してカルバミン酸アンモニウム塩を生成する反応過程を阻害するため、二酸化炭素を多めに原料として用いるとよい。
【0021】
使用するアンモニアは、窒素や希ガスで希釈されて反応器へ導入されても良く、その場合の希釈比率はガス全体に対するアンモニアの含有量が1-10体積%の範囲が好ましい。
【0022】
使用するアンモニアは、有機溶媒に溶解された状態で使用されても良く、溶液全体に対するアンモニアの含有量が0.01-2モル/Lの範囲が好ましく、0.5-1モル/Lの範囲がより好ましい。
【0023】
本実施形態の製造法においては、有機溶媒を使用することもできる。その場合、一般的な有機溶媒は全て用いることができ、より好ましくは、非プロトン性極性溶媒である、アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル類を用いることができる。これらは単独で使用しても、2種以上を混合して使用してもよい。その使用量は基質(アンモニア)に対して質量比0.1-1000倍、好ましくは1-100倍の範囲から選ばれる。なお、有機溶媒は使用しなくてもよく、使用しない方が、効率的に反応が進行するので好ましい。
【0024】
例えば、本実施形態の方法は、耐圧反応器に固体触媒を導入後、予め調製したアンモニアのエチレングリコール溶液を導入し、そこに二酸化炭素と水素をそれぞれ所定の圧力にて導入し、所定の温度で反応を行うものである。この場合、固体触媒はエチレングリコールに混合分散させた触媒含有液となり、このようにすることで、二酸化炭素をエチレングリコールに溶解させつつ固体触媒への接触機会を増やすことで反応を促進できる。そして、反応終了後、蒸留、またはクロマト分離によって、得られたホルムアミドを分離し、取り出すことができる。
【0025】
本実施形態の製造法における反応時間は、用いる触媒の量や反応温度等により左右され、一概に定めることはできないが、通常は1-72時間の範囲で、好ましくは2-5時間の範囲で行われる。
このように、本実施形態によれば、反応後分離が煩雑な窒素源となる化合物、再使用ができない遷移金属錯体触媒、および高価な貴金属担持型固体触媒を使用することなく、比較的簡易な操作で得られる安価な固体触媒を用いて、二酸化炭素、水素、およびアンモニアから、1MPa以下、160℃以下の低圧、低温の温和な条件にてホルムアミドを製造することができる。
【実施例0026】
以下、実施例により本実施形態を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に制限されるものではない。
【0027】
(実施例1)
(触媒の調製)
ビーカーに、硝酸銅(富士フィルム和光純薬株式会社製)6gと硝酸亜鉛(富士フィルム和光純薬株式会社製)52gの水溶液(200mL)と炭酸カリウム(富士フィルム和光純薬株式会社製)33gの塩基水溶液(200mL)とを加え、銅と亜鉛の酸化物として沈殿させた。沈殿物をろ過後、100℃のオーブンで一晩乾燥したのち、500℃で2時間焼成し、10%酸化銅担持酸化亜鉛(20g)を得た。得られた触媒は、粉末X線回折法(XRD)により(
図1)、株式会社リガク製MiniFlex(登録商標)600を用いて2θの範囲20から80°にて測定し、酸化亜鉛が六方晶系ウルツ鉱型結晶構造で銅を担持していることを確認した。触媒はミニプレス機を用い、室温1トンにて圧縮・破砕したのち、ふるいによって355-710マイクロメートルの粒子径のものを選別して用いた。
【0028】
(実施例2)
硝酸銅22gと硝酸亜鉛32gの水溶液とした以外は実施例1と同様の方法、条件で触媒を調製し、40%酸化銅担持酸化亜鉛(15g)を得た。
【0029】
(実施例3)
(ホルムアミドの合成)
触媒の前処理として、実施例1で調製した10%酸化銅担持酸化亜鉛に水素処理をして、10%銅担持酸化亜鉛(Cu/ZnO)を作製した。水素処理は、500℃、2時間、マイクロトラックベル社製ベルキャット(登録商標)IIに10体積%水素をふくむ窒素ガスを毎分50mLで吹き込むことにより行った。
次いで、密栓可能なオートクレーブ(耐圧ガラス工業株式会社製、TVS-N2型ポータブルリアクター、容積12mL)に、ガラス製試験管(容積7.5mL)を入れ、当該ガラス製試験管に水素処理した10%銅担持酸化亜鉛100mgを導入した。そこへ、予めエチレングリコール(富士フィルム和光純薬株式会社製)に濃度0.89モル/Lでアンモニアを溶解させた溶液0.1mL(すなわち0.089ミリモル分のアンモニア)を導入し、二酸化炭素(岩谷瓦斯株式会社製)を分圧0.5MPa(2.45ミリモル、二酸化炭素のアンモニアに対するモル比は27.5)、水素(太陽日酸株式会社製)を分圧0.5MPa(2.45ミリモル、二酸化炭素の水素に対するモル比は1)にてオートクレーブ内に、圧力ゲージ及び弁付きガスラインを用いて封入したのち、120℃で3時間、加熱攪拌した。なお、濃度0.89モル/Lのアンモニア含有エチレングリコール液は、アンモニアとして、5体積%アンモニアが混入されたヘリウムガス(太陽日酸株式会社製)をエチレングリコールに1晩の間、毎分50mLで吹き込むことにより、調製した。
反応後、液相クロマトグラフィー測定(株式会社島津製作所製、LC―20AD)を以下の条件により行った。
40℃、10mMりん酸水溶液(富士フィルム和光純薬株式会社製)で展開し、TSKgelODS100V(東ソー株式会社製)をカラムに使用し、UV(株式会社島津製作所製、SPD-20A)の波長200nmにてピークを検出し、標準品による検量線との比較から収率を算出した。ホルムアミドの収率は0.97%であった。
【0030】
なお、収率は液相クロマトグラフィーにより分析した結果を元に、以下の計算式により計算した。
収率(%)=(目的化合物のモル数/使用したアンモニアのモル数)×100
また、特に断り書きがない限り、以下の実施例及び比較例において、実施例3と重複する試薬(化合物)および方法は、同じ試薬および方法を用いた。
【0031】
(実施例4)
10%銅担持酸化亜鉛(実施例1)の代わりに、40%銅担持酸化亜鉛(Cu/ZnO)(実施例2)を用いた以外は実施例3と同様の方法、条件で反応を行った。その結果、ホルムアミドの収率は0.71%であった。
【0032】
(実施例5-9)
反応温度を100-160℃の範囲で変更した以外は実施例3と同様の方法、条件で反応を行った。その結果、ホルムアミドの収率は0.26-1.38%であった。結果を表1に示す。
【0033】
【0034】
(実施例10-13)
10%銅担持酸化亜鉛(Cu/ZnO)の触媒量を10-200mgの範囲で変更した以外は実施例7(反応温度140℃)と同様の方法、条件で反応を行った。その結果、ホルムアミドの収率は0.49-1.10%であった。結果を表2に示す。
【0035】
【0036】
(実施例14)
反応時間を72時間にした以外は実施例3と同様の方法、条件で反応を行った。その結果、ホルムアミドの収率は0.87%であった。
【0037】
(比較例1)
10%銅担持酸化亜鉛を加えない以外は実施例3と同様の方法、条件で反応を行った。その結果、ホルムアミドの収率は0%であった。
【0038】
(比較例2)
エチレングリコールへアンモニアを溶解させた溶液を用いる代わりにエタノール(富士フィルム和光純薬株式会社製)のアンモニア0.1モル/L溶液を0.1mL加えた以外は実施例7と同様の条件で反応を行った。その結果、ホルムアミドの収率は0%であった。
【0039】
(比較例3)
エチレングリコールへアンモニアを溶解させた溶液を用いる代わりに、予め調製した1,2-プロパンジオール(富士フィルム和光純薬株式会社製)のアンモニア0.1モル/L溶液を0.1mL加えた以外は実施例7と同様の方法、条件で反応を行った。その結果、ホルムアミドの収率は0%であった。
【0040】
(比較例4)
エチレングリコールへアンモニアを溶解させた溶液を用いる代わりに、予め調製した1,3-プロパンジオール(富士フィルム和光純薬株式会社製)のアンモニア0.1モル/L溶液を0.1mL加えた以外は実施例7と同様の方法、条件で反応を行った。その結果、ホルムアミドの収率は0%であった。
【0041】
(比較例5)
エチレングリコールへアンモニアを溶解させた溶液を用いる代わりに、予め調製した1,4-ブタンジオール(富士フィルム和光純薬株式会社製)のアンモニア0.1モル/L溶液を0.1mL加えた以外は実施例7と同様の方法、条件で反応を行った。その結果、ホルムアミドの収率は0%であった。
【0042】
(比較例6)
10%銅担持酸化亜鉛の代わりに、同じ銅を活性点とする均一系触媒で、入手容易なカルボニル系の配位子を有する銅錯体として、銅(II)アセチルアセトナト錯体(シグマアルドリッチ社製)を100mg(銅の当量として、10%銅担持酸化亜鉛の2.4倍)加えた以外は実施例7と同様の方法、条件で反応を行った。その結果、ホルムアミドの収率は0%であった。
【0043】
(比較例7)
10%銅担持酸化亜鉛の代わりに、同じ銅を活性点とする均一系触媒で、入手容易なジアミノ二座配位子を有する銅錯体として、ビス(1,3―プロパンジアミン)銅(II)ジクロリド錯体(東京化成工業株式会社製)を100mg(銅の当量として、10%銅担持酸化亜鉛の2.2倍)加えた以外は実施例7と同様の方法、条件で反応を行った。その結果、ホルムアミドの収率は0%であった。
【0044】
(比較例8)
10%銅担持酸化亜鉛(実施例1)の代わりに、同じ銅を活性点とする均一系触媒で、入手容易かつ安定性の高い芳香環配位子による錯体として、ジクロロ(1,10―フェナントロリン)銅(II)錯体(東京化成工業株式会社製)を100mg(銅の当量として、10%銅担持酸化亜鉛の2.0倍)加えた以外は実施例7と同様の方法、条件で反応を行った。その結果、ホルムアミドの収率は0%であった。
【0045】
以上の実施例や比較例の結果をまとめると、以下のようなことが言える。
(1)二酸化炭素、水素およびアンモニアを原料に用いて、ホルムアミドを製造する方法であって、前記原料の混合系において、酸化亜鉛に、銅を担持させた固体触媒をエチレングリコールと共に用いることでホルムアミドを製造することができる。
(2)使用する固体触媒の量は、アンモニア0.089(約0.1)ミリモルに対し、10-200mgが好ましく、50-100mgがより好ましい。
(3)使用する固体触媒における銅の、酸化亜鉛への混合割合は、10-40%の割合が好ましい。
(4)前記反応器内の温度について、100-160℃、特に、120-140℃が好ましい。
ホルムアミドは、医農薬や各種有機薬品の中間原料、溶剤などに用いられる機能化学品である。そして、本発明によれば、反応後分離が煩雑な窒素源となる化合物、再使用ができない遷移金属錯体触媒、および高価な貴金属固体触媒を使用することなく、比較的簡易な操作で得られる安価な固体触媒を用い、二酸化炭素、水素、およびアンモニアからホルムアミドを製造できる。よって、本発明は、医農薬や各種有機薬品の中間原料、溶剤の製造を中心に利用可能性がある。