(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024161850
(43)【公開日】2024-11-20
(54)【発明の名称】ケイ素化合物、光塩基発生剤、複合膜形成用材料、多層部材及び多層部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 77/26 20060101AFI20241113BHJP
C08G 77/20 20060101ALI20241113BHJP
C08L 83/08 20060101ALI20241113BHJP
C08F 299/08 20060101ALI20241113BHJP
C08F 290/14 20060101ALI20241113BHJP
B32B 9/00 20060101ALI20241113BHJP
B32B 9/04 20060101ALI20241113BHJP
C09D 183/04 20060101ALI20241113BHJP
【FI】
C08G77/26
C08G77/20
C08L83/08
C08F299/08
C08F290/14
B32B9/00 A
B32B9/04
C09D183/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023076952
(22)【出願日】2023-05-08
(71)【出願人】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】有光 晃二
【テーマコード(参考)】
4F100
4J002
4J038
4J127
4J246
【Fターム(参考)】
4F100AA20A
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4F100AK45C
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4J246GC26
4J246HA25
4J246HA26
4J246HA32
4J246HA69
(57)【要約】
【課題】紫外光等の活性エネルギー線を照射した際にゾルゲル反応及びラジカル重合が進行可能な新規のケイ素化合物を提供する。
【解決手段】ケイ素原子とラジカル重合性官能基とを含む第1の構成単位と、ケイ素原子と光照射により塩基を発生させる光塩基発生基とを含む第2の構成単位と、を含み、主鎖にシロキサン結合を有するケイ素化合物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ素原子とラジカル重合性官能基とを含む第1の構成単位と、
ケイ素原子と光照射により塩基を発生させる光塩基発生基とを含む第2の構成単位と、
を含み、主鎖にシロキサン結合を有するケイ素化合物。
【請求項2】
前記第1の構成単位は、以下の一般式(X)で表される構成単位を含む請求項1に記載のケイ素化合物。
【化1】
一般式(X)中、R
1は、水素原子又は1価の置換基であり、R
2は、単結合又は2価の連結基である。
【請求項3】
前記第2の構成単位は、以下の一般式(Y)で表される構成単位を含む請求項1に記載のケイ素化合物。
【化2】
一般式(Y)中、R
3は、水素原子又は1価の置換基であり、R
4は、光塩基発生基である1価の置換基である。
【請求項4】
光塩基発生基は、窒素原子を環構造内に含む含窒素複素環を含む請求項1に記載のケイ素化合物。
【請求項5】
前記第2の構成単位は、以下の一般式(Y-1)で表される構成単位及び以下の一般式(Y-4)で表される構成単位の少なくとも一方を含む請求項1に記載のケイ素化合物。
【化3】
一般式(Y-1)中、R
5は、2価の連結基であり、R
6は、水素原子又は1価の連結基であり、R
7は、脱炭酸反応により遊離する遊離基であり、R
5及びR
6は、互いに結合して環構造を形成してもよく、一般式(Y-4)中、R
5は、2価の連結基であり、R
6は、水素原子又は1価の連結基であり、R
11~R
14は、それぞれ独立に、水素原子又は1価の置換基であり、R
5及びR
6は、互いに結合して環構造を形成してもよい。
【請求項6】
請求項1~請求項5のいずれか1項に記載のケイ素化合物を含む光塩基発生剤。
【請求項7】
請求項1~請求項5のいずれか1項に記載のケイ素化合物と、
ラジカル重合性官能基を含む重合性化合物(但し、前記ケイ素化合物を除く)と、
光ラジカル重合開始剤と、
を含む複合膜形成用材料。
【請求項8】
前記重合性化合物は、(メタ)アクリロイル基を2つ以上含む請求項7に記載の複合膜形成用材料。
【請求項9】
表面に有機材料を含む基材と、
前記基材上に形成された、ラジカル重合性官能基を含む重合性化合物を硬化してなる有機膜と、
前記有機膜上に形成された、請求項1~請求項5のいずれか1項に記載のケイ素化合物を硬化してなる無機膜と、
を備える多層部材。
【請求項10】
表面に有機材料を含む基材を準備する工程と、
前記基材の表面上に、請求項6に記載の複合膜形成用材料を付与する工程と、
前記付与された複合膜形成用材料に活性エネルギー線を照射することで前記基材の表面上に、ラジカル重合性官能基を含む重合性化合物を硬化してなる有機膜と、前記ケイ素化合物を硬化してなる無機膜と、を前記基材、前記有機膜及び前記無機膜の順番で形成する工程と、
を含む多層部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケイ素化合物、光塩基発生剤、複合膜形成用材料、多層部材及び多層部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無機材料から形成される部材、部品等(例えば、自動車、鉄道等の車両を構成する部材、部品等)について、軽量化等を目的として有機材料から形成される部材、部品等への置き換えが検討されている。しかし、有機材料は、無機材料よりも軟らかく傷が発生しやすい。
【0003】
軽量化及び耐傷性を両立する観点では、有機材料から形成される部材等の表面に硬い皮膜を形成する技術が提案されている。例えば、特許文献1では、ラジカル重合性官能基、フルオロアルキル基及びアルコキシシリル基を備えた有機ケイ素化合物(A)を含む膜形成成分と、紫外光が照射された場合に塩基とラジカルとを発生させる光塩基発生剤と、を有し、前記膜形成成分を100質量部とした場合に、前記光塩基発生剤の含有量が0.1~50質量部である、コーティング剤が提案されている。特許文献1によると、このようなコーティング剤を用いることで、樹脂からなる基材との密着性に優れ、かつ、傷に対する耐久性の高いコーティング膜を簡素な作業により形成することができる。
【0004】
しかし、特許文献1のコーティング剤に含まれる光塩基発生剤は、アニオンとカチオンとがイオン結合によって結合してなるイオン型の光塩基発生剤である。イオン型光塩基発生剤においては、アニオンとカチオンとが結合した状態と、遊離酸と遊離塩基とが分離した状態とが化学平衡にあるため、コーティング剤中には、光が照射されていない場合であっても微量の遊離塩基が存在し得る。そのため、特許文献1のコーティング剤は、イオン型光塩基発生剤から遊離した微量の遊離塩基により、暗所においても膜形成成分のゾルゲル反応が徐々に進行しやすいという問題があった。
【0005】
特許文献2では、ラジカル重合性官能基と、アルコキシシリル基とを備えた有機ケイ素化合物を含む膜形成成分と、紫外光が照射された場合に塩基とラジカルとを発生させることができるように構成された膜硬化成分と、が含まれており、前記膜硬化成分には、分子構造中にイオン結合を有しない非イオン型光塩基発生剤が含まれており、前記非イオン型光塩基発生剤の含有量は、100質量部の前記有機ケイ素化合物に対して0.1質量部以上50質量部以下である、コーティング剤が提案されている。特許文献2のコーティング剤では、光塩基発生剤は、分子構造中にイオン結合を有しないため、暗所における塩基の遊離を抑制することができる。そのため、コーティング剤の保存安定性を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2020-033530号公報
【特許文献2】国際公開第2022/102732号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2のコーティング剤では、膜硬化成分に紫外光が照射された場合に当該膜硬化成分から塩基を発生させ、膜硬化成分から発生した塩基は、有機ケイ素化合物に含まれるアルコキシシリル基の反応触媒となることにより、有機ケイ素化合物同士のゾルゲル反応による硬化を進行させることができる。また、膜硬化成分から発生したラジカルは、有機ケイ素化合物に含まれるラジカル重合性官能基と反応し、これらの官能基のラジカル重合を進行させることができる。特許文献2以外の手法においても、紫外光等の活性エネルギー線を照射した際にゾルゲル反応及びラジカル重合が進行可能な新規のケイ素化合物が求められている。
【0008】
本開示は、紫外光等の活性エネルギー線を照射した際にゾルゲル反応及びラジカル重合が進行可能な新規のケイ素化合物、並びに当該ケイ素化合物を用いる光塩基発生剤、複合膜形成用材料、多層部材及び多層部材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための具体的手段は以下の通りである。
<1> ケイ素原子とラジカル重合性官能基とを含む第1の構成単位と、
ケイ素原子と光照射により塩基を発生させる光塩基発生基とを含む第2の構成単位と、
を含み、主鎖にシロキサン結合を有するケイ素化合物。
<2> 前記第1の構成単位は、以下の一般式(X)で表される構成単位を含む<1>に記載のケイ素化合物。
【0010】
【0011】
一般式(X)中、R1は、水素原子又は1価の置換基であり、R2は、単結合又は2価の連結基である。
<3> 前記第2の構成単位は、以下の一般式(Y)で表される構成単位を含む<1>又は<2>に記載のケイ素化合物。
【0012】
【0013】
一般式(Y)中、R3は、水素原子又は1価の置換基であり、R4は、光塩基発生基である1価の置換基である。
<4> 光塩基発生基は、窒素原子を環構造内に含む含窒素複素環を含む<1>~<3>のいずれか1つに記載のケイ素化合物。
<5> 前記第2の構成単位は、以下の一般式(Y-1)で表される構成単位及び以下の一般式(Y-4)で表される構成単位の少なくとも一方を含む<1>~<4>のいずれか1つに記載のケイ素化合物。
【0014】
【0015】
一般式(Y-1)中、R5は、2価の連結基であり、R6は、水素原子又は1価の連結基であり、R7は、脱炭酸反応により遊離する遊離基であり、R5及びR6は、互いに結合して環構造を形成してもよく、一般式(Y-4)中、R5は、2価の連結基であり、R6は、水素原子又は1価の連結基であり、R11~R14は、それぞれ独立に、水素原子又は1価の置換基であり、R5及びR6は、互いに結合して環構造を形成してもよい。
<6> <1>~<5>のいずれか1つに記載のケイ素化合物を含む光塩基発生剤。
<7> <1>~<5>のいずれか1つに記載のケイ素化合物と、
ラジカル重合性官能基を含む重合性化合物(但し、前記ケイ素化合物を除く)と、
光ラジカル重合開始剤と、
を含む複合膜形成用材料。
<8> 前記重合性化合物は、(メタ)アクリロイル基を2つ以上含む<7>に記載の複合膜形成用材料。
<9> 表面に有機材料を含む基材と、
前記基材上に形成された、ラジカル重合性官能基を含む重合性化合物を硬化してなる有機膜と、
前記有機膜上に形成された、<1>~<5>のいずれか1つに記載のケイ素化合物を硬化してなる無機膜と、
を備える多層部材。
<10> 表面に有機材料を含む基材を準備する工程と、
前記基材の表面上に、<7>又は<8>に記載の複合膜形成用材料を付与する工程と、
前記付与された複合膜形成用材料に活性エネルギー線を照射することで前記基材の表面上に、ラジカル重合性官能基を含む重合性化合物を硬化してなる有機膜と、前記ケイ素化合物を硬化してなる無機膜と、を前記基材、前記有機膜及び前記無機膜の順番で形成する工程と、
を含む多層部材の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明の一形態によれば、紫外光等の活性エネルギー線を照射した際にゾルゲル反応及びラジカル重合が進行可能な新規のケイ素化合物、並びに当該ケイ素化合物を用いる光塩基発生剤、複合膜形成用材料、多層部材及び多層部材の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本開示において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において、各成分には、該当する物質が複数種含まれていてもよい。組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合、各成分の含有率は、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計の含有率を意味する。
【0018】
[ケイ素化合物]
本開示のケイ素化合物は、ケイ素原子とラジカル重合性官能基とを含む第1の構成単位と、ケイ素原子と光照射により塩基を発生させる光塩基発生基とを含む第2の構成単位と、を含み、主鎖にシロキサン結合を有する。
【0019】
本開示のケイ素化合物は、紫外光等の活性エネルギー線を照射した際にゾルゲル反応及びラジカル重合が進行可能な新規のケイ素化合物である。当該ケイ素化合物に紫外光等の活性エネルギー線が照射されることで、光塩基発生基から塩基が発生し、発生した塩基の作用、及び反応促進のための加熱によりケイ素化合物同士のゾルゲル反応による硬化を進行させることができる。さらに、光ラジカル重合開始剤等とケイ素化合物を併用することで、紫外光等の活性エネルギー線によってラジカルが発生し、発生したラジカルは、ケイ素化合物に含まれるラジカル重合性官能基と反応し、ラジカル重合を進行させることができる。
【0020】
例えば、光塩基発生剤と、当該重合性化合物と、アルコキシシリル基とラジカル重合性官能基とを含むが、光塩基発生基を含まないケイ素化合物(従来のケイ素化合物ともいう)とを含むコーティング剤は、有機基材のコーティング層の形成に用いられる。ここで、有機基材、前述の重合性化合物及び従来のケイ素化合物の順となるように重合性化合物及び従来のケイ素化合物を偏析させ、光照射により重合性化合物のラジカル重合、並びに、従来のケイ素化合物のラジカル重合及びゾルゲル反応を進行させることで有機基材、重合性化合物から形成された有機膜及び従来のケイ素化合物から形成された無機膜がこの順で積層された多層部材を得ることができる。
【0021】
しかし、有機基材上に重合性化合物及び従来のケイ素化合物を偏析させ、光照射により反応を進行させる際に、光塩基発生剤は重合性化合物側にも遍在する。そのため、従来のケイ素化合物側の光塩基発生剤が少なくなってしまい、塩基の作用によるゾルゲル反応が進行しにくくなるという問題がある。その結果、形成される無機膜の強度が低下したり、ゾルゲル反応を促進するためにより高温での加熱が必要となることで、有機基材に悪影響を及ぼしたりするおそれがある。
【0022】
一方、本開示のケイ素化合物をラジカル重合性官能基を含む重合性化合物(但し、前記ケイ素化合物を除く)と併用した場合、形成される無機膜の強度が向上し、低温でのゾルゲル反応が可能となる。この理由は以下のように推測される。本開示は以下の推測に限定されない。
【0023】
有機基材、前述の重合性化合物及び本開示のケイ素化合物の順となるように重合性化合物及びケイ素化合物を偏析させ、光照射により重合性化合物のラジカル重合、並びに、ケイ素化合物のラジカル重合及びゾルゲル反応を進行させることで有機基材、重合性化合物から形成された有機膜及びケイ素化合物から形成された無機膜がこの順で積層された多層部材を得ることができる。
【0024】
有機基材上に重合性化合物及び本開示のケイ素化合物を偏析させ、光照射により反応を進行させる際、光塩基発生基がケイ素化合物に結合しているため、ケイ素化合物側に光塩基発生基が偏在する。そのため、光照射時に本開示のケイ素化合物側にて塩基が偏って発生し、塩基の作用によるゾルゲル反応が進行しやすくなる。その結果、形成される無機膜の強度が向上し、さらに、より低温での加熱によりゾルゲル反応が促進するため、有機基材への加熱による悪影響も抑制可能である。
【0025】
本開示のケイ素化合物の用途は特に限定されず、例えば、光塩基発生剤、無機膜形成用材料、複合膜形成用材料等に用いてもよい。複合膜としては、有機材料から形成される有機膜と無機材料から形成される無機膜とが順に積層された構造を有する膜、有機材料及び無機材料の混合物から形成される膜などが挙げられる。
【0026】
(第1の構成単位)
本開示のケイ素化合物は、ケイ素原子とラジカル重合性官能基とを含む第1の構成単位を含む。
【0027】
第1の構成単位はケイ素原子を含み、好ましくは、アルコキシシリル基(Si-OR、Rはアルキル基)、シラノール基(Si-OH)又はシロキサン結合(Si-O-Si)を含むことが好ましい。また、第1の構成単位として、アルコキシシリル基とラジカル重合性官能基とを含む構成単位を含むことが好ましい。
【0028】
本開示において、ラジカル重合性官能基はラジカル重合により重合可能な官能基であればよい。ラジカル重合性官能基としては、例えば、アクリロイル基又はメタクリロイル基である(メタ)アクリロイル基が挙げられる。
【0029】
第1の構成単位は、以下の一般式(X)で表される構成単位を含むことが好ましい。第1の構成単位は、一般式(X)で表される構成単位を1種含んでいてもよく、一般式(X)で表される構成単位を2種以上含んでいてもよい。
【0030】
【0031】
一般式(X)中、R1は、水素原子又は1価の置換基であり、R2は、単結合又は2価の連結基である。
R1における1価の置換基としては、例えば、アルキル基、ケイ素原子を含む1価の置換基等が挙げられる。
R1がアルキル基である場合、アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられる。
R1がケイ素原子を含む1価の置換基であることで、アルコキシシランオリゴマー、アルコキシシランポリマー等のアルコキシシランの縮合生成物に含まれる部分構造が本開示のケイ素化合物に形成されていてもよく、あるいは、本開示のケイ素化合物は、かご型構造を有するシルセスキオキサン、はしご型構造を有するシルセスキオキサン、ランダム構造を有するシルセスキオキサン等であってもよい。
【0032】
R2における2価の置換基としては、炭化水素基であってもよく、主鎖中にエステル結合、エーテル結合、アミド結合又はウレタン結合を有する炭化水素基であってもよい。炭化水素基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基等の炭素数1~6の炭化水素基が挙げられる。
【0033】
第1の構成単位全体における一般式(X)で表される構成単位の割合は、50モル%~100モル%であってもよく、70モル%~100モル%であってもよく、90モル%~100モル%であってもよい。
【0034】
(第2の構成単位)
本開示のケイ素化合物は、ケイ素原子と光照射により塩基を発生させる光塩基発生基とを含む第2の構成単位を含む。
【0035】
第2の構成単位はケイ素原子を含み、好ましくは、アルコキシシリル基(Si-OR、Rはアルキル基)、シラノール基(Si-OH)又はシロキサン結合(Si-O-Si)を含むことが好ましい。また、第2の構成単位として、アルコキシシリル基と光塩基発生基とを含む構成単位を含むことが好ましい。
【0036】
本開示において、光塩基発生基は、紫外光等の活性エネルギー線が照射されることで、塩基を発生可能な構造を有していれば特に限定されない。光塩基発生基の例としては後述する通りであるが、光塩基発生剤は例示した構造に限定されない。
【0037】
第2の構成単位は、以下の一般式(Y)で表される構成単位を含むことが好ましい。第2の構成単位は、一般式(Y)で表される構成単位を1種含んでいてもよく、一般式(Y)で表される構成単位を2種以上含んでいてもよい。
【0038】
【0039】
一般式(Y)中、R3は、水素原子又は1価の置換基であり、R4は、光塩基発生基である1価の置換基である。
R3の好ましい態様は、一般式(X)におけるR1の好ましい態様と同様である。
【0040】
R4は、光塩基発生基である1価の置換基である。光塩基発生基は、光照射により化学構造が変化してケイ素化合物から塩基を遊離させる置換基であってもよく、光照射により光塩基発生基の構造の一部が遊離することで、ケイ素化合物自体を塩基に変換する置換基であってもよい。
光塩基発生基は、光照射により化学構造が変化してケイ素化合物から塩基を遊離させる置換基である場合、遊離する塩基に対応する構造が、直接一般式(Y)中のケイ素原子に結合していてもよく、2価の連結基を介して一般式(Y)中のケイ素原子に結合していてもよい。
【0041】
光塩基発生基は、光照射により光塩基発生基の構造の一部が遊離することで、ケイ素化合物自体を塩基に変換する置換基である場合、R4は、光照射による脱炭酸反応により二酸化炭素とともに遊離化合物を発生させる1価の置換基であってもよく、光照射によりクマリンを遊離させる1価の置換基であってもよい。二酸化炭素とともに遊離する前述の遊離化合物からラジカル化合物がさらに発生してもよい。
【0042】
光塩基発生基としては、窒素原子を含む窒素含有基であってもよく、例えば、窒素原子を環構造内に含む含窒素複素環であってもよい。
【0043】
窒素原子を環構造内に含む含窒素複素環としては、ピペリジン環、ピリジン環、イミダゾール環、ピロール環等が挙げられる。
【0044】
R4が光照射による脱炭酸反応により二酸化炭素とともに遊離化合物を発生させる1価の置換基である場合、第2の構成単位は、以下の一般式(Y-1)で表される構成単位を含むことが好ましい。
【0045】
【0046】
一般式(Y-1)中、R5は、2価の連結基であり、R6は、水素原子又は1価の連結基であり、R7は、脱炭酸反応により遊離する遊離基である。R5及びR6は、互いに結合して環構造を形成してもよく、例えば、互いに結合してピペリジン環を形成してもよい。
本開示において、遊離基とは、ケイ素化合物のR7の構造に対応し、光照射により遊離して遊離化合物、ラジカル化合物等を発生させる構造である。
【0047】
一般式(Y-1)で表される構成単位は、以下の一般式(Y-2)で表される構成単位及び以下の一般式(Y-3)で表される構成単位の少なくとも一方であってもよい。
【0048】
【0049】
一般式(Y-2)中、R5aは、2価の連結基であり、R7は、脱炭酸反応により遊離する遊離基である。
一般式(Y-3)中、R5は、2価の連結基であり、R7は、脱炭酸反応により遊離する遊離基である。
【0050】
一般式(Y-1)及び(Y-3)において、R5は、2価の連結基であり、炭素数2~10の炭化水素基であることが好ましく、炭素数2~5の炭化水素基であることがより好ましく、炭素数3の炭化水素基(例えば、トリメチレン基)であることがさらに好ましい。
【0051】
一般式(Y-2)において、R5aは、2価の連結基であり、炭素数2~10の炭化水素基にエステル結合、アミド結合又はウレタン結合が結合した構造であることが好ましく、炭素数2~5の炭化水素基にエステル結合、アミド結合又はウレタン結合が結合した構造であることがより好ましく、炭素数3の炭化水素基(例えば、トリメチレン基)にエステル結合、アミド結合又はウレタン結合が結合した構造であることがさらに好ましい。
【0052】
一般式(Y-2)で表される構成単位の具体例としては、以下の一般式(Y-2A)で表される構成単位が挙げられ、さらに、光照射時に発生する塩基の構造を以下に示す。
一般式(Y-3)で表される構成単位の具体例としては、以下の一般式(Y-3A)で表される構成単位が挙げられ、さらに、光照射時に発生する塩基の構造を以下に示す。
【0053】
【0054】
一般式(Y-2)で表される構成単位又は一般式(Y-3)で表される構成単位は、光照射により、二酸化炭素とともに遊離する前述の遊離化合物からラジカル化合物をさらに発生させる構成単位であってもよい。
ラジカル化合物を発生させる一般式(Y-2)で表される構成単位の具体例としては、以下の一般式(Y-2B)で表される構成単位が挙げられ、さらに、光照射時に発生する塩基及びラジカル化合物の構造を以下に示す。
ラジカル化合物を発生させる一般式(Y-3)で表される構成単位の具体例としては、以下の一般式(Y-3B)で表される構成単位が挙げられ、さらに、光照射時に発生する塩基及びラジカル化合物の構造を以下に示す。
【0055】
【0056】
R4が光照射によりクマリンを遊離させる1価の置換基である場合、第2の構成単位は、以下の一般式(Y-4)で表される構成単位を含むことが好ましい。
【0057】
【0058】
一般式(Y-4)中、R5は、2価の連結基であり、R6は、水素原子又は1価の連結基であり、R11~R14は、それぞれ独立に、水素原子又は1価の置換基である。R5及びR6は、互いに結合して環構造を形成してもよく、例えば、互いに結合してピペリジン環を形成してもよい。
一般式(Y-4)における好ましいR5及びR6は、一般式(Y-1)における好ましいR5及びR6と同様である。
【0059】
R11~R14における1価の置換基としては、電子求引性基又は電子供与性基が挙げられる。
電子供与性基としては、アルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ジアルキルアミノ基、ジアリールアミノ基、アルキルアリールアミノ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、-NHCOR(Rは置換基を有していてもよい炭化水素基である。)、-OCOR(Rは置換基を有していてもよい炭化水素基である。)等が挙げられる。
電子求引性基としては、カルボキシ基、シアノ基、アルデヒド基、エステル基、ニトロ基、ハロゲン原子、フェニル基、アシル基、スルホン基等が挙げられる。
【0060】
一般式(Y-4)で表される構成単位は、以下の一般式(Y-5)で表される構成単位及び以下の一般式(Y-6)で表される構成単位の少なくとも一方であってもよい。
【0061】
【0062】
一般式(Y-5)中、R5aは、2価の連結基であり、R11~R14は、それぞれ独立に、水素原子又は1価の置換基である。
一般式(Y-6)中、R5は、2価の連結基であり、R11~R14は、それぞれ独立に、水素原子又は1価の置換基である。
一般式(Y-5)における好ましいR5a及びR11~R14は、一般式(Y-2)における好ましいR5aと同様である。
一般式(Y-6)における好ましいR5及びR11~R14は、一般式(Y-3)における好ましいR5と同様である。
【0063】
一般式(Y-5)で表される構成単位の具体例としては、以下の一般式(Y-5A)で表される構成単位が挙げられ、さらに、光照射時に発生する塩基の構造を以下に示す。
一般式(Y-6)で表される構成単位の具体例としては、以下の一般式(Y-6A)で表される構成単位が挙げられ、さらに、光照射時に発生する塩基の構造を以下に示す。
なお、以下の一般式(Y-5A)及び一般式(Y-6A)では、R11~R14が水素原子である例を示しているが、本開示はこれに限定されず、当該4つの水素原子は、それぞれ独立に、電子求引性基又は電子供与性基であってもよい。
【0064】
【0065】
第2の構成単位全体における一般式(Y)で表される構成単位の割合は、50モル%~100モル%であってもよく、70モル%~100モル%であってもよく、90モル%~100モル%であってもよい。
【0066】
本開示のケイ素化合物は、第1の構成単位又は第2の構成単位以外の構成単位を含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。
第1の構成単位及び第2の構成単位の合計に対する第1の構成単位の割合は、30モル%~90モル%であってもよく、50モル%~85モル%であってもよく、70モル%~80モル%であってもよい。
【0067】
[複合膜形成用材料]
本開示の複合膜形成用材料は、前述の本開示のケイ素化合物と、ラジカル重合性官能基を含む重合性化合物(但し、前記ケイ素化合物を除く)と、光ラジカル重合開始剤と、を含む。
【0068】
本開示の複合膜形成用材料は、ケイ素化合物から形成される無機膜と、重合性化合物から形成される有機膜とを含む複合膜の形成に好適に用いられる。具体的には、有機基材等の基材に前述の重合性化合物及び本開示のケイ素化合物の順となるように重合性化合物及びケイ素化合物を偏析させ、光照射により重合性化合物のラジカル重合、並びに、ケイ素化合物のラジカル重合及びゾルゲル反応を進行させる。これにより、有機基材、重合性化合物から形成された有機膜及びケイ素化合物から形成された無機膜がこの順で積層された多層部材を得ることができる。
【0069】
ケイ素化合物の含有率は、ケイ素化合物、重合性化合物(但し、前記ケイ素化合物を除く)及び光ラジカル重合開始剤の合計量に対し、30質量%~80質量%であってもよく、40質量%~60質量%であってもよい。
【0070】
(重合性化合物)
本開示の複合膜形成用材料は、ラジカル重合性官能基を含む重合性化合物(但し、前記ケイ素化合物を除く。)を含む。重合性化合物は、光ラジカル重合開始剤等から発生したラジカルによってラジカル重合し、有機膜を形成することができる。また、重合性化合物は、ケイ素化合物に含まれるラジカル重合性官能基と反応し、ケイ素化合物に結合することができる。そのため、基材上に重合性化合物及びケイ素化合物を偏析させた際にも、重合性化合物とケイ素化合物との界面で両者が結合し、無機膜と有機膜との密着性に優れる。
【0071】
重合性化合物としては、(メタ)アクリロイル基を1つ以上含む化合物が挙げられ、(メタ)アクリロイル基を2つ以上含む化合物が好ましい。
重合性化合物は、(メタ)アクリロイル基を1つ~6つ含む化合物であってもよく、(メタ)アクリロイル基を2つ~4つ含む化合物であってもよく、(メタ)アクリロイル基を2つ又は3つ含む化合物であってもよい。
また、重合性化合物としては、1種の化合物を単独で使用してもよく、(メタ)アクリロイル基の数が同じ化合物を2種以上組み合わせて使用してもよく、(メタ)アクリロイル基の数が異なる化合物を2種以上組み合わせて使用してもよい。
例えば、(メタ)アクリロイル基を1つ含む化合物を使用する場合、(メタ)アクリロイル基を2つ~6つ含む化合物と組み合わせて使用してもよい。
【0072】
重合性化合物としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、1-メチルエチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-メチルプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等のモノエステル;1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸エチレンオキシド変性ジ(メタ)アクリレート等のジエステル;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸エチレンオキシド変性トリ(メタ)アクリレート等の、アクリロイル基を3つ以上備えたエステル等が挙げられる。
重合性化合物は、前述の化合物モノマーであってもよく、1種又は2種以上の化合物モノマーを予め重合させたオリゴマーであってもよい。
【0073】
重合性化合物の含有量は、質量比においてケイ素化合物の0.1倍~1000倍であることが好ましく、1倍~100倍であることがより好ましく、1倍~10倍であることがさらに好ましく、1倍~5倍であることが特に好ましく、2倍~3倍であることが最も好ましい。この場合には、無機膜による硬さ向上の効果と有機膜による密着性向上及び柔軟性向上の効果とをバランスよく得ることができる。
【0074】
(光ラジカル重合開始剤)
本開示の複合膜形成用材料は、光ラジカル重合開始剤を含む。
【0075】
光ラジカル重合開始剤は、複合膜形成用材料に紫外光等の活性エネルギー線を照射した際にラジカルを発生させることが可能な化合物であれば特に限定されない。光ラジカル重合開始剤としては、例えば、アセトフェノン系化合物、ベンゾフェノン系化合物、α-ケトエステル系化合物、フォスフィンオキサイド系化合物、ベンゾイン化合物、チタノセン系化合物、アセトフェノン/ベンゾフェノンハイブリッド系光開始剤、オキシムエステル系光重合開始剤、カンファーキノン等が挙げられる。
光ラジカル重合開始剤としては、1種の化合物を使用してもよいし、2種以上の化合物を併用してもよい。
【0076】
アセトフェノン系化合物としては、例えば、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、1-〔4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル〕-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン、2-メチル-1-〔4-(メチルチオ)フェニル〕-2-モルフォリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタン-1-オン、ジエトキシアセトフェノン、オリゴ{2-ヒドロキシ-2-メチル-1-〔4-(1-メチルビニル)フェニル〕プロパノン}、2-ヒドロキシ-1-{4-〔4-(2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオニル)ベンジル〕フェニル}-2-メチルプロパン-1-オン等が挙げられる。
【0077】
ベンゾフェノン系化合物としては、例えば、ベンゾフェノン、4-フェニルベンゾフェノン、2,4,6-トリメチルベンゾフェノン、4-ベンゾイル-4’-メチルジフェニルスルファイド等が挙げられる。α-ケトエステル系化合物としては、例えば、メチルベンゾイルフォルメート、オキシフェニル酢酸の2-(2-オキソ-2-フェニルアセトキシエトキシ)エチルエステル、オキシフェニル酢酸の2-(2-ヒドロキシエトキシ)エチルエステル等が挙げられる。
【0078】
フォスフィンオキサイド系化合物としては、例えば、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルフォスフィンオキサイド等が挙げられる。ベンゾイン化合物としては、例えば、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等が挙げられる。アセトフェノン/ベンゾフェノンハイブリッド系光開始剤としては、例えば、1-〔4-(4-ベンゾイルフェニルスルファニル)フェニル〕-2-メチル-2-(4-メチルフェニルスルフィニル)プロパン-1-オン等が挙げられる。オキシムエステル系光重合開始剤としては、例えば、2-(O-ベンゾイルオキシム)-1-〔4-(フェニルチオ)〕-1,2-オクタンジオン等が挙げられる。
【0079】
光ラジカル重合開始剤の含有率は、ケイ素化合物、重合性化合物(但し、前記ケイ素化合物を除く)及び光ラジカル重合開始剤の合計量に対し、0.5質量%~10質量%であってもよく、1質量%~5質量%であってもよい。
【0080】
本開示の複合膜形成用材料は、前述の本開示のケイ素化合物、ラジカル重合性官能基を含む重合性化合物又は光ラジカル重合開始剤以外のその他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、特に限定されず、例えば、溶媒、本開示のケイ素化合物以外のケイ素化合物、紫外線吸収剤、ラジカル捕捉剤、ヒンダードアミン系光安定剤等の光安定剤、レベリング剤、脱泡剤、増感剤、充填材、顔料、染料などが挙げられる。
【0081】
前述の本開示のケイ素化合物、ラジカル重合性官能基を含む重合性化合物及び光ラジカル重合開始剤の合計含有率は、本開示の複合膜形成用材料の固形分全量に対し、50質量%~100質量%であってもよく、70質量%~100質量%であってもよく、90質量%~100質量%であってもよい。
【0082】
[多層部材]
本開示の多層部材は、表面に有機材料を含む基材と、前記基材上に形成された、ラジカル重合性官能基を含む重合性化合物を硬化してなる有機膜と、前記有機膜上に形成された、前述の本開示のケイ素化合物を硬化してなる無機膜と、を備える。本開示の多層部材は、前述の本開示の複合膜形成用材料を用いることで製造することができる。
【0083】
(基材)
本開示の多層部材は、表面に有機材料を含む基材(有機基材ともいう。)を備える。基材は、有機基材の材質としては、特に限定されず、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂、ポリスチレン、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリオレフィン等が挙げられる。中でも、耐候性、強度、透明性等の観点から、ポリカーボネートが好ましい。
【0084】
本開示の多層部材は、有機基材上に形成された、ラジカル重合性官能基を含む重合性化合物を硬化してなる有機膜と、有機膜上に形成された、前述の本開示のケイ素化合物を硬化してなる無機膜と、を備える。有機基材上に有機膜が形成されていることで有機膜は有機基材との密着性に優れる。さらに、重合性化合物は、ケイ素化合物に含まれるラジカル重合性官能基と反応し、ケイ素化合物に結合することができる。そのため、有機基材上に重合性化合物及びケイ素化合物を偏析させて有機膜及び無機膜を形成させた際に、重合性化合物とケイ素化合物との界面で有機膜と無機膜とが結合する。そのため、無機膜の密着性も良好である。また、有機膜上に無機膜が形成されていることで、多層部材は耐傷性にも優れている。
【0085】
有機膜の厚さは、特に限定されず、例えば、1μm~50μmであってもよく、2μm~20μmであってもよく、2μm~10μmであってもよい。
本開示において、厚さとは最大厚さを意味し、例えば、各層の厚さは、例えば、走査電子顕微鏡(SEM)を用い、多層部材の断面図から求めることができる。
【0086】
無機層の厚さは、特に限定されず、例えば、1μm~50μmであってもよく、2μm~20μmであってもよく、2μm~10μmであってもよい。
有機層の厚さ(μm)に対する無機層(μm)の厚さの比率は、0.1~10であってもよく、0.2~3であってもよく、0.4~2であってもよい。
【0087】
[多層部材の製造方法]
本開示の多層部材の製造方法は、表面に有機材料を含む基材を準備する工程と、前記基材の表面上に、本開示の複合膜形成用材料を付与する工程と、前記付与された複合膜形成用材料に活性エネルギー線を照射することで前記基材の表面上に、ラジカル重合性官能基を含む重合性化合物を硬化してなる有機膜と、本開示のケイ素化合物を硬化してなる無機膜と、を前記基材、前記有機膜及び前記無機膜の順番で形成する工程と、を含む方法である。
【0088】
表面に有機材料を含む基材を準備する工程では、前述の材質を有する有機基材を準備すればよい。
【0089】
有機基材の表面上に本開示の複合膜形成用材料を付与する工程にて、付与方法は特に限定されない。スピンコーター、エアーナイフコーター、ブレードコーター、バーコーター、グラビアコーター、ロールコーター、ロールナイフコーター、カーテンコーター、ダイコーター、ナイフコーター、スクリーンコーター、マイヤーバーコーター、キスコーター等の各種コーター、又はアプリケーター等の塗工手段を利用して、複合膜形成用材料を有機基材に塗工するか、あるいは有機基材を複合膜形成用材料に浸漬することにより、有機基材に複合膜形成用材料を付着させればよい。
【0090】
有機基材の表面上に本開示の複合膜形成用材料を付与した後、必要に応じて付与された複合膜形成用材料を乾燥させてもよい。また、ケイ素化合物の表面上への偏析を促進させる観点から、有機基材上に付与された複合膜形成用材料を加熱してもよい。加熱条件は特に限定されず、例えば、60℃~100℃で1時間~10時間であってもよい。
【0091】
前記付与された複合膜形成用材料に活性エネルギー線を照射する。これにより、有機基材の表面上に、ラジカル重合性官能基を含む重合性化合物を硬化してなる有機膜と、本開示のケイ素化合物を硬化してなる無機膜と、を前記有機基材、前記有機膜及び前記無機膜の順番で形成する。
【0092】
複合膜形成用材料に照射される紫外光等の活性エネルギー線の波長は、特に制限されず、例えば、紫外域~可視光域の波長であってもよい。複合膜形成用材料に照射される活性エネルギー線の波長は、10nm以上であってもよく、200nm以上であってもよく、300nm以上であってもよい。また、複合膜形成用材料に照射される活性エネルギー線の波長は、600nm以下であってもよく、500nm以下であってもよく、400nm以下であってもよい。
【0093】
複合膜形成用材料に照射される光照射量は、例えば、100mJ/cm2~20000mJ/cm2であることが好ましく、1000mJ/cm2~15000mJ/cm2であることがより好ましく、3000mJ/cm2~12000mJ/cm2であることがさらに好ましい。
【実施例0094】
以下に実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって制限されるものではない。
【0095】
[実施例1]
<化合物(1)の製造>
4,5-ジメトキシ-2-ニトロベンジルアルコール(NV-OH)を原料として以下のようにして化合物(1)を製造した。
【0096】
(NV-npの合成)
NV-OH 10g(47mmol)、乾燥THF 200mL及びトリエチルアミン5.6g(55mmol)を500mLナスフラスコに加えた後、p-ニトロベンゾイルクロリド(np-Cl)10g(52mmol)を乾燥THF 18mLに溶かした溶液を氷浴下でゆっくり滴下し、14.5時間、室温で攪拌した。エバポレーターを用いて溶媒を蒸発留去した後、得られた固体をクロロホルムに溶かし、5質量%HCl水溶液、飽和NaHCO3水溶液、飽和NaCl水溶液で2回ずつ洗浄した。エバポレーターを用いて溶媒を蒸発留去することで、橙色固体(NV-np、粗収量19g)を得た。NV-npを得る反応は以下に示す通りである。
【0097】
【0098】
(NV-pipOHの合成)
TLCにより、原料スポットの消失及び新たなスポットの出現が見られたため、再結晶による精製操作は行わずに次の反応を行った。500 mLナスフラスコにNV-np 19g(49mmol)、乾燥THF 175mL及び4-ヒドロキシピペリジン(pipOH)12g(120mmol)を加え、3時間、加熱還流をした。エバポレーターを用いて溶媒を蒸発留去した後、得られた固体をクロロホルムに溶かし、5質量%HCl水溶液、飽和NaHCO3水溶液、飽和NaCl水溶液で2回ずつ洗浄した。エバポレーターを用いて溶媒を蒸発留去した後、得られた固体を酢酸エチルで再結晶をすることで、淡黄色固体(NV-pipOH、収量9.0g、収率60%)を得た。同定は1H-NMR、13C-NMR、質量分析及び元素分析で行った。NV-pipOHを得る反応は以下に示す通りである。NV-pipOHのNMR帰属、質量・元素分析結果、融点、収率、性状を表1に示す。
【0099】
【0100】
【0101】
(S(NV-pip)-Mの合成)
NV-pipOH 3.0g(8.8mmol)、3-(トリメトキシシリル)プロピルイソシアナート(TS-NCO)2.2g(11mmol)、乾燥THF 70mLを加えた300mL二口フラスコを窒素置換した後、ジラウリン酸ジブチルすず(DBTDL)を3滴加え、60℃で攪拌をした。攪拌開始から2時間40分後にTS-NCO 0.54g(2.6mmol)を2mLの乾燥THFに溶かした溶液を追加し、さらに60℃で20分、攪拌を続けた。エバポレーターを用いて溶媒を蒸発留去した後、シリカゲルクロマトグラフィーで精製を行った。具体的には、200gのシリカゲルを内径5.3cmのカラムに高さ20cmで充填し、1200mLの酢酸エチル/ヘキサン/TEOS=75/25/1(v/v/v)混合溶液、1200mLの酢酸エチル/ヘキサン=75/25(v/v)混合溶液を順にカラムに通した。その後試料をチャージし、シリカゲルクロマトグラフィーを行った(Rf=0.37,hexane/ethyl acetate=75/25、v/v)。しかしこれでは精製が不十分だったため、ジエチルエーテルで洗浄、吸引ろ過をすることで、淡黄色固体(S(NV-pip)-M、収量3.3g、収率68%)を得た。S(NV-pip)-Mを得る反応は以下に示す通りである。同定は1H-NMR、13C-NMR、質量分析及び元素分析で行った。S(NV-pip)-Mの帰属、質量・元素分析結果、融点、収率、性状を表2に示す。
【0102】
【0103】
【0104】
(S(NV-pip)-Oの合成)
三口フラスコにアクリル酸3-(トリメトキシシリル)プロピル(TSA)4.4g(19mmol)、乾燥MeOH 2.0mL及び乾燥THF 1.8mLに溶解させたS(NV-pip)-M 2.6g(4.7mmol)を加え、10分間、氷浴中で攪拌した。その後イオン交換水0.32g(27mmol)、36質量%HCl水溶液0.25g(2.5mmol)を加えて窒素フロー(300mL/N2)をしながら10分間、室温で攪拌した。さらに25分、70℃で攪拌した。反応後、良溶媒にTHF、貧溶媒にシクロヘキサンを用いた再沈殿で精製し、黄色粘性液体(S(NV-pip)-O、収量4.6g、Mw=3.1×103、Mw/Mn=1.4、x/y=78/22)を得た。化合物(1)であるS(NV-pip)-Oを得る反応は以下に示す通りである。同定は1H-NMR及びGPCで行い、共重合比は1H-NMRで算出した。
【0105】
【0106】
[実施例2]
<化合物(2)の製造>
4,5-ジメトキシ-2-ニトロベンジルアルコール(NV-OH)を原料として以下のようにして化合物(2)を製造した。
【0107】
(S(NV-NH2)-Mの合成)
NV-OH 3.5g(16 mmol)、TS-NCO 3.4g(16mmol)、乾燥THF 90mLを加えた二口フラスコを窒素置換した後、DBTDLを1滴加え、2時間、60℃で攪拌した。エバポレーター及び油回転真空ポンプを用いて溶媒を蒸発留去した後、得られた固体をジエチルエーテルで洗浄、吸引ろ過をすることで、黄色固体(S(NV-NH2)-M、収量4.6g、収率66%)を得た。S(NV-NH2)-Mを得る反応は以下に示す通りである。同定は1H-NMR、質量分析及び元素分析で行った。S(NV-NH2)-MのNMR帰属、質量・元素分析結果、融点、収率、性状を表3に示す。
【0108】
【0109】
【0110】
(S(NV-NH2)-Oの合成)
200mL四口フラスコにTSA 4.8g(21mmol)、(乾燥MeOH+乾燥EtOAc)=(2.1+0.5)mLの混合溶媒に溶解させたS(NV-NH2)-M 2.2g(5.2mmol)を加え、10分間、氷浴中で攪拌した。その後超純水0.36g(30mmol)、36質量%HCl水溶液0.27g(2.7mmol)を加えて窒素フロー(300mL/N2)をしながら10分間、室温で攪拌した。さらに25分、70℃で攪拌した。反応後、良溶媒にTHF、貧溶媒にシクロヘキサンを用いた再沈殿で精製し、黄色粘性液体(S(NV-NH2)-O、収量4.0g、Mw=1.7×103、Mw/Mn=1.7、x/y=79/21)を得た。化合物(2)であるS(NV-NH2)-Oを得る反応は以下に示す通りである。同定は1H-NMR、29Si-NMR及びGPCで行い、共重合比は1H-NMRで算出した。
【0111】
【0112】
(複合膜形成用材料の調製)
ケイ素化合物である化合物(1)0.05g、重合性化合物であるトリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)0.05g及び光ラジカル重合開始剤であるOmnirad819(ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド)0.003gを四塩化炭素(CCl4)0.20gに添加して混合液(複合膜形成用材料)を調製した。
【0113】
(複合部材の作製)
ポリカーボネートを材質とする基板(PC基板)に上記の調製した混合液を塗布し、塗膜を乾燥させた後、化合物(1)の表面偏析を誘起するために、80℃で5時間加熱を行った。これにより、PC基板側から、重合性化合物、ケイ素化合物をこの順に偏在させた。PC基板上の加熱後塗膜に365nmの紫外光を10J/cm2の条件で照射し、ラジカル重合反応及びゾルゲル反応を進行させた。さらなる反応促進のため、光照射後に光照射後の塗膜を120℃で10分間加熱した。以上により、PC基板上に重合性化合物から形成された有機膜及びケイ素化合物から形成された無機膜をこの順に備える複合部材を作製した。
【0114】
複合部材において、無機膜の表面偏析を確認するためにSEM-EDS(走査型電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分光法)による膜断面の元素マッピングを行った。SEM画像を確認すると、PC基板上に複数の層が形成されていることが確認できた。さらに、元素マッピングの結果、炭素元素が基材及び基材上に多く存在し、かつ、ケイ素元素が複合部材の表面付近に偏在していることが確認できた。これらの結果から、PC基板上に重合性化合物から形成された有機膜及びケイ素化合物から形成された無機膜がこの順に形成されていることが推測される。また、有機膜と無機膜とは明確な界面を有さずに結合しており、有機膜の厚さは4μm~7μmであり、無機膜の厚さは7μm~4μmであり、合計膜厚は11μmであった。
【0115】
[比較例1]
化合物(1)の替わりにアクリル酸3-(トリメトキシシリル)プロピルの縮合生成物(PTSA)を使用し、複合膜形成用材料の調製及び複合部材の作製を行った。
PTSA0.05g、以下に示すピペリジン骨格を有する光塩基発生剤0.003g、トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)0.05g及びOmnirad819(ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド)0.003gを四塩化炭素(CCl4)0.2mLに添加して混合液(複合膜形成用材料)を調製した。
比較例1にて調製した混合液を用いたこと以外は実施例1と同様の手順で複合部材を作製した。
【0116】
【0117】
(ゾルゲル反応の進行評価)
実施例1の複合部材及び比較例1の複合部材について、表面偏析した無機膜のゾルゲル反応の進行を確認するため、無機膜表面に対してFT-IR測定(ATR法)を行った。前述の(複合部材の作製)における光照射前の加熱後塗膜におけるSi-O-Si(1015cm-1)のピーク高さに対して複合部材作製後の無機膜におけるSi-O-Siのピーク高さがどの程度増加しているかによってゾルゲル反応の進行度合を評価した。
【0118】
実施例1では、光照射前の加熱後塗膜におけるSi-O-Siのピーク高さに対する複合部材作製後の無機膜におけるSi-O-Siのピーク高さの増加率は31%であった。
一方、比較例では、前述のピーク高さの増加率は11%であった。
この結果から、同一条件での無機膜の作製において、実施例1の方が、ゾルゲル反応がより進行していることが分かった。
【0119】
(鉛筆硬度の評価)
実施例1の複合部材及び比較例1の複合部材について、表面偏析した無機膜の鉛筆硬度を測定した。実施例1では無機膜の鉛筆硬度はHBであり、PC基板の鉛筆硬度(2B)よりも高かった。比較例1では無機膜の鉛筆硬度は6Bであり、実施例1の無機膜及びPC基板の鉛筆硬度よりも低かった。
以上の結果から、実施例1の複合膜形成用材料は比較例1の複合膜形成用材料よりもゾルゲル反応が進行しやすく、硬度に優れる無機膜が得られることが分かった。