(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024161885
(43)【公開日】2024-11-20
(54)【発明の名称】片末端無置換ポリチオフェンの製造方法およびチオフェン化合物
(51)【国際特許分類】
C08G 61/12 20060101AFI20241113BHJP
C01B 33/149 20060101ALI20241113BHJP
【FI】
C08G61/12
C01B33/149
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024018235
(22)【出願日】2024-02-09
(31)【優先権主張番号】P 2023076621
(32)【優先日】2023-05-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】592218300
【氏名又は名称】学校法人神奈川大学
(71)【出願人】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】横澤 勉
(72)【発明者】
【氏名】江原 和也
【テーマコード(参考)】
4G072
4J032
【Fターム(参考)】
4G072AA25
4G072AA28
4G072AA41
4G072BB05
4G072CC02
4G072EE07
4G072GG02
4G072GG03
4G072HH18
4G072HH30
4G072LL14
4G072MM01
4G072PP14
4G072QQ06
4G072RR05
4G072RR12
4G072UU07
4J032BA04
4J032BB01
4J032BC03
4J032CG06
(57)【要約】 (修正有)
【課題】両末端を選択的に修飾したポリチオフェンやブロックコポリマーの合成原料として好適に利用可能であり、汎用有機溶媒に可溶な片末端無置換ポリチオフェンの製造方法を提供すること。
【解決手段】金属触媒の存在下、下記式(2)で示されるヨードベンゼン化合物をイニシエーターとし、下記式(1)で示されるチオフェン化合物を重合させる、下記式(3)で示される片末端無置換ポリチオフェンの製造方法。
(R
1~R
5は、それぞれ独立して、水素原子、フッ素原子、塩素原子、または炭素数1~5のアルキル基を表す。Xは、ハロゲンを表し、Yは、酸素原子を3つ以上有する1価の有機基を表す。nは、自然数を表す。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属触媒の存在下、下記式(2)
【化1】
(式中、R
1~R
5は、それぞれ独立して、水素原子、フッ素原子、塩素原子、または炭素数1~5のアルキル基を表す。)
で示されるヨードベンゼン化合物をイニシエーターとし、下記式(1)
【化2】
(式中、Xは、ハロゲンを表し、Yは、酸素原子を3つ以上有する1価の有機基を表す。)
で示されるチオフェン化合物を重合させる、下記式(3)
【化3】
(式中、nは、自然数を表し、R
1~R
5およびYは、前記と同じ意味を表す。)
で示される片末端無置換ポリチオフェンの製造方法。
【請求項2】
前記式(2)で示されるヨードベンゼン化合物、リン酸カリウム、および金属触媒を混合して混合物Aを調製し、
得られた前記混合物A、水および水溶性有機溶媒を混合して調製した混合物Bと、前記式(1)で示されるチオフェン化合物の溶液とを混合し、当該チオフェン化合物を重合させる請求項1記載の片末端無置換ポリチオフェンの製造方法。
【請求項3】
前記Yが、メトキシエトキシエトキシメチル基である請求項1記載の片末端無置換ポリチオフェンの製造方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項記載の製造方法で得られた前記式(3)で示される片末端無置換ポリチオフェンと、下記式(4)
【化4】
で示されるビニルフェニルボロン酸ピナコールエステル化合物とを、金属触媒の存在下で反応させる、下記式(5)
【化5】
(式中、R
1~R
5、Yおよびnは、前記と同じ意味を表す。)
で示されるポリチオフェンの製造方法。
【請求項5】
前記式(4)で示されるビニルフェニルボロン酸ピナコールエステル化合物を、前記式(1)で示されるチオフェン化合物を重合させた溶液中に添加する請求項4記載のポリチオフェンの製造方法。
【請求項6】
請求項4記載の製造方法で得られた前記式(5)で示されるポリチオフェンに、白金触媒を用いて、HSi(OR
8)
3(式中、R
8は、炭素数1~6のアルキル基を表す。)を反応させる下記式(6)で示される片末端トリアルコキシシリル基含有ポリチオフェンの製造方法。
【化6】
(式中、R
1~R
8、Yおよびnは、前記と同じ意味を表す。)
【請求項7】
請求項6記載の製造方法で得られた前記式(6)で示される片末端トリアルコキシシリル基含有ポリチオフェンを金属酸化物粒子と反応させる表面ポリチオフェン修飾金属酸化物粒子の製造方法。
【請求項8】
下記式(3)で示され、数平均分子量が1,000~100,000、かつ、分子量分布1.3以下のポリチオフェン。
【化7】
(式中、nは、自然数を表し、R
1~R
5は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、または炭素数1~5のアルキル基を表し、Yは、酸素原子を3つ以上有する1価の有機基を表す。)
【請求項9】
下記式(5)で示され、数平均分子量1,000~100,000、かつ、分子量分布1.3以下であるポリチオフェン。
【化8】
(式中、nは、自然数を表し、R
1~R
5は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、または炭素数1~5のアルキル基を表し、Yは、酸素原子を3つ以上有する1価の有機基を表す。)
【請求項10】
前記Yが、メトキシエトキシエトキシメチル基である請求項8または9記載のポリチオフェン。
【請求項11】
式(1)で示されるチオフェン化合物。
【化9】
(式中、Xは、ハロゲンを表し、Yは、酸素原子を3つ以上有する1価の有機基を表す。)
【請求項12】
下記式(6)で示され、数平均分子量1,000~100,000の片末端トリアルコキシシリル基含有ポリチオフェン。
【化10】
(式中、nは、自然数を表し、R
1~R
5は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、または炭素数1~5のアルキル基を表し、R
8は、炭素数1~6のアルキル基を表し、Yは、酸素原子を3つ以上有する1価の有機基を表す。)
【請求項13】
金属酸化物粒子の表面に、請求項12記載の片末端トリアルコキシシリル基含有ポリチオフェンが付着している表面修飾金属酸化物微粒子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、片末端無置換ポリチオフェンの製造方法およびチオフェン化合物に関し、さらに詳述すると、両末端が修飾されたポリチオフェンやブロックコポリマーを合成するための原料として好適に利用可能な片末端無置換ポリチオフェン化合物の製造方法およびそれに用いるチオフェン化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
有機材料の耐熱性、力学特性、電気的特性を向上させるために、シリカゲルや酸化チタンなどの無機微粒子を有機高分子と混ぜたハイブリッド材料(ナノコンポジット)がよく研究されている。しかし、有機材料と無機材料はそもそも性質が大きく異なるので、上記ハイブリット材料では、それほど多くの無機微粒子を有機材料中に導入できない、有機材料中にきれいに無機微粒子を分散させるのが難しい、時間が経つと有機材料中で無機微粒子が凝集する、などが問題となっている。
【0003】
そこで、これらの問題を解決するため無機微粒子表面を有機低分子化合物や有機高分子で修飾することが行われてきた。有機高分子で修飾する場合は、(1)無機表面に開始部位を導入してそこからリビング重合を行う、(2)リビングポリマー末端に無機物と結合できる官能基(例えば、-Si(OR)3、-PO3H、-COOH、-SHなど)を導入して無機微粒子表面に反応させる、という2つの方法が主に行われている。例えば、後者の方法で、鎖状および多分岐芳香族ポリアミド末端に-Si(OR)3基を導入して表面修飾したシリカ微粒子を芳香族ポリイミドに加えると、耐熱性が上がり、従来の未修飾シリカを加える場合に比べて透明性が向上することが明らかとなっている(特許文献1~3)。
【0004】
このように、シリカ粒子を有機高分子で修飾することは、ハイブリッド材料を開発する上で重要である。特に、ポリチオフェン、ポリアニリンなどの導電性高分子は、太陽電池、電界効果型トランジスタ、発光素子やセンサー等への適用可能性について研究されてきている一方、これらの導電性高分子は着色しているため、透明なシリカ粒子をこれらの導電性高分子で修飾することは新たな高透明性導電性ハイブリッド材料を開発することにつながる。
【0005】
ところで、ハイブリッド材料を得るためには、ポリマー末端を制御し、シリカ粒子に修飾できるようにする必要がある。この点、これまで側鎖に3-ヘキシルチオフェンを用いて片末端を封止したポリチオフェンは製造されている(非特許文献1~3)が、得られるポリチオフェンは、アルコールに代表される汎用溶媒への溶解性が乏しく、種々の材料に応用することは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2017/130905号
【特許文献2】特開2018-123295号公報
【特許文献3】特開2018-127599号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Macromolecules, 2004, 37, 1169-1171.
【非特許文献2】Macromol. Rapid Commun., 2004, 25, 1663-1666.
【非特許文献3】J. Am. Chem. Soc., 2005, 127, 17542-17547.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、両末端を選択的に修飾したポリチオフェンやブロックコポリマーの合成原料として好適に利用可能であり、汎用有機溶媒に可溶な片末端無置換ポリチオフェンの製造方法、およびその製造に利用可能であるとともに、精製後も安定的に保存でき、テトラヒドロフラン等の水性有機溶媒に可溶なチオフェン化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、5位にボロン酸エステル基を有するチオフェン化合物を、ヨードベンゼン化合物をイニシエーターとして重合することで、片末端の2位が置換されていないポリチオフェンが得られることを見出すとともに、この片末端無置換ポリチオフェンを用いることで、末端修飾ポリチオフェンやブロックコポリマーを効率的に合成できることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、
1. 金属触媒の存在下、下記式(2)
【化1】
(式中、R
1~R
5は、それぞれ独立して、水素原子、フッ素原子、塩素原子または炭素数1~5のアルキル基を表す。)
で示されるヨードベンゼン化合物をイニシエーターとし、下記式(1)
【化2】
(式中、Xは、ハロゲンを表し、Yは、酸素原子を3つ以上有する1価の有機基を表す。)
で示されるチオフェン化合物を重合させる、下記式(3)
【化3】
(式中、nは、自然数を表し、R
1~R
5およびYは、前記と同じ意味を表す。)
で示される片末端無置換ポリチオフェンの製造方法、
2. 前記式(2)で示されるヨードベンゼン化合物、リン酸カリウム、および金属触媒を混合して混合物Aを調製し、
得られた前記混合物A、水および水溶性有機溶媒を混合して調製した混合物Bと、前記式(1)で示されるチオフェン化合物の溶液とを混合し、当該チオフェン化合物を重合させる1の片末端無置換ポリチオフェンの製造方法、
3. 前記Yが、メトキシエトキシエトキシメチル基である1の片末端無置換ポリチオフェンの製造方法、
4. 1~3のいずれかの製造方法で得られた前記式(3)で示される片末端無置換ポリチオフェンと、下記式(4)
【化4】
で示されるビニルフェニルボロン酸ピナコールエステル化合物とを、金属触媒の存在下で反応させる、下記式(5)
【化5】
(式中、R
1~R
5、Yおよびnは、前記と同じ意味を表す。)
で示されるポリチオフェンの製造方法、
5. 前記式(4)で示されるビニルフェニルボロン酸ピナコールエステル化合物を、前記式(1)で示されるチオフェン化合物を重合させた溶液中に添加する4のポリチオフェンの製造方法、
6. 4の製造方法で得られた前記式(5)で示されるポリチオフェンに、白金触媒を用いて、HSi(OR
8)
3(式中、R
8は、炭素数1~6のアルキル基を表す。)を反応させる下記式(6)で示される片末端トリアルコキシシリル基含有ポリチオフェンの製造方法、
【化6】
(式中、R
1~R
8、Yおよびnは、前記と同じ意味を表す。)
7. 6の製造方法で得られた前記式(6)で示される片末端トリアルコキシシリル基含有ポリチオフェンを金属酸化物粒子と反応させる表面ポリチオフェン修飾金属酸化物粒子の製造方法、
8. 下記式(3)で示され、数平均分子量が1,000~100,000、かつ、分子量分布1.3以下のポリチオフェン、
【化7】
(式中、nは、自然数を表し、R
1~R
5は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、または炭素数1~5のアルキル基を表し、Yは、酸素原子を3つ以上有する1価の有機基を表す。)
9. 下記式(5)で示され、数平均分子量1,000~100,000、かつ、分子量分布1.3以下であるポリチオフェン、
【化8】
(式中、nは、自然数を表し、R
1~R
5は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、または炭素数1~5のアルキル基を表し、Yは、酸素原子を3つ以上有する1価の有機基を表す。)
10. 前記Yが、メトキシエトキシエトキシメチル基である8または9のポリチオフェン、
11. 式(1)で示されるチオフェン化合物、
【化9】
(式中、Xは、ハロゲンを表し、Yは、酸素原子を3つ以上有する1価の有機基を表す。)
12. 下記式(6)で示され、数平均分子量1,000~100,000の片末端トリアルコキシシリル基含有ポリチオフェン、
【化10】
(式中、nは、自然数を表し、R
1~R
5は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、または炭素数1~5のアルキル基を表し、R
8は、炭素数1~6のアルキル基を表し、Yは、酸素原子を3つ以上有する1価の有機基を表す。)
13. 金属酸化物粒子の表面に、12の片末端トリアルコキシシリル基含有ポリチオフェンが付着している表面修飾金属酸化物微粒子
を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、効率的に片末端無置換ポリチオフェンを得ることができる。この片末端無置換ポリチオフェンを用いることで、置換されていない末端をさらに修飾したポリチオフェンやブロックコポリマーを効率的に製造できるのみならず、無機微粒子の表面修飾材料として有用な末端にシリル基を有するポリチオフェンに誘導することもできる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明についてさらに詳しく説明する。
[1]片末端無置換ポリチオフェンの製造方法
本発明に係る、下記式(3)で示される片末無置換ポリチオフェン(以下、「ポリチオフェン(3)」という。)の製造方法は、金属触媒の存在下、下記式(2)で示されるヨードベンゼン化合物(以下、「化合物(2)」という。)をイニシエーターとして、下記式(1)で示されるチオフェン化合物(以下、「チオフェン化合物(1)」という。)を重合させることを特徴とする。
【0013】
【0014】
上記各式において、R1~R5は、それぞれ独立して、水素原子、フッ素原子、塩素原子、または炭素数1~5のアルキル基を表し、Xは、ハロゲンを表し、Yは、酸素原子を3つ以上有する1価の有機基を表し、nは、自然数、好ましくは2以上の整数を表す。
【0015】
R1~R5の炭素数1~5のアルキル基としては、直鎖、分岐のいずれでもよく、その具体例としては、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、s-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル等が挙げられる。
特に、R1~R5としては、炭素数1~3のアルキル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
【0016】
Xのハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられるが、反応性を考慮すると、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が好ましく、臭素原子がより好ましい。
Yの有機基としては、ポリエーテル基が好ましく、末端が水酸基、炭素数1~10のアルコキシ基またはフェノキシ基であり、チオフェン骨格と炭素原子で結合する有機基がより好ましい。より具体的には、-R6-O-((CH2)rO)q-R7基で表され、rが、2または3で同一置換基内ではすべて同じであり、qが、2以上の整数であり、R6が、炭素数1~5のアルキレン基であり、R7が、水素原子、炭素数1~10のアルキル基、またはフェニル基であって、炭素数の合計、すなわちrとqの積とR6およびR7中の炭素数の和が、5~20の置換基等が挙げられる。
上記炭素数1~5のアルキレン基は、直鎖、分岐のいずれでもよく、その具体例としては、メチレン、エチレン、トリメチレン、プロピレン基等が挙げられるが、メチレン基が好ましい。
上記炭素数1~10のアルキル基は、直鎖、分岐のいずれでもよく、その具体例としては、上記R1~R5の炭素数1~5のアルキル基で例示した基に加え、n-ヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチル、n-ノニル、n-デシル基等が挙げられる。
特に、Yの有機基としては、チオフェン骨格と炭素原子で結合する炭素数5~10のポリエーテル基が好適であり、メトキシエトキシエトキシメチル基がより一層好ましい。
【0017】
化合物(2)の具体例としては、ヨードベンゼン、2-ヨードトルエン、4-ヨードトルエン等が挙げられる。
化合物(2)の使用量は、特に限定されるものではないが、基質であるチオフェン化合物(1)1モルに対し、0.002~0.2モル倍の範囲が好ましく、その後の重合反応の選択性および反応効率を考慮すると、0.001~0.3モル倍の範囲がより好ましく、0.05~0.2モル倍の範囲がより一層好ましい。
【0018】
本発明で用いる金属触媒としては、例えばR.D. McCullough, Adv.Mater., 1998, 10(2), 93-116およびその引用文献に列挙されているような、位置選択的重合に好適に使用されるパラジウム触媒またはニッケル触媒を用いることができる。
その具体例としては、ビス(トリフェニルホスフィノ)パラジウムジクロリド(Pd(PPh3)Cl2)、酢酸パラジウム(II)(Pd(OAc)2)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(Pd(PPh3)4)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)ニッケル(Ni(PPh3)4)、ニッケル(II)アセチルアセトネート(Ni(acac)2)、ジクロロ(2,2’-ビピリジン)ニッケル、ジブロモビス(トリフェニルホスフィン)ニッケル(Ni(PPh3)2Br2)が挙げられる。
また、配位子含有ニッケルおよびパラジウム触媒を用いることもでき、その具体例としては、トリ-t-ブチルホスフィン、トリアダマンチルホスフィン、1,3-ビス(2,4,6-トリメチルフェニル)イミダゾリジニウムクロリド、1,3-ビス(2,6-ジイソプロピルフェニル)イミダゾリジニウムクロリドまたは1,3-ジアダマンチルイミダゾリジニウムクロリドを含有するニッケルおよびパラジウム触媒や、クロロ(2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2’,6’-ジメトキシ-1,1’-ビフェニル)[2-(2’-アミノ-1,1’-ビフェニル)]パラジウム(II)(SPhos Pd G2)、(2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2’,6’-ジメトキシビフェニル)[2-(2’-アミノ-1,1’-ビフェニル)]パラジウム(II)メタンスルホン酸(SPhos Pd G3)等が挙げられる。なお、配位子が上記されたものの組み合わせからなるニッケルおよびパラジウム触媒も同様に用いることができる。
【0019】
特に、本発明においては、パラジウム触媒が好適に用いられ、中でも反応性の観点からSPhos Pd G2、SPhos Pd G3がより好ましく、SPhos Pd G2がより一層好ましい。
【0020】
金属触媒の使用量は、特に限定されるものではないが、チオフェン化合物(1)の量に基づいて、典型的には0.1~20mol%であり、好ましくは0.5~20mol%、より好ましくは1~10mol%の範囲である。
【0021】
なお、本発明の製造方法では、触媒効果を促進するため、反応系内に2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2’,6’-ジメトキシビフェニル(SPhos)を添加することが好ましい。その添加量は、チオフェン化合物(1)の量に基づいて、典型的には0.2~40mol%であり、好ましくは1.0~40mol%、より好ましくは2.0~20mol%の範囲である。
さらに、本発明の製造方法では、反応系内にリン酸三カリウムを添加することが好ましい。その添加量は、チオフェン化合物(1)1モルに対し、典型的には1~50モル倍であり、好ましくは2~25モル倍、より好ましくは5~15モル倍の範囲である。
【0022】
重合反応に用いられる溶媒は、反応に悪影響を及ぼさない限り特に限定されるものではなく、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、シクロヘキサン等の飽和脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレン、o-エチルトルエン、m-エチルトルエン、p-エチルトルエン等の芳香族炭化水素類;ジメチルエーテル、エチルメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ブチルメチルエーテル、t-ブチルメチルエーテル、ジブチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、ジフェニルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、2-メチルテトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等のエーテル類などが挙げられる。これらは単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。中でも、水溶性有機溶媒が好ましく、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等がより好ましい。
【0023】
本発明の製造方法では、使用する金属触媒を活性させるために、含水系で反応を行うことが好ましく、この場合、使用する溶媒の添加の後、水、特に、純水を添加することがより好ましい。
【0024】
重合反応の温度は、特に限定されるものではないが、脱離基の反応性を考慮すると、-20~80℃程度が好ましく、-10~70℃程度が好ましく、-5~60℃程度がより好ましい。
重合反応後、塩酸等の酸でクエンチすることで、ポリチオフェン(3)が得られる。
この場合、酸の濃度は、特に限定されるものではなく、通常、1~12M程度、好ましくは3~10M程度、より好ましくは4~7M程度である。
酸によるクエンチ後は、常法に従って後処理および精製をすることで純粋なポリチオフェン(3)を得ることができる。
このポリチオフェン(3)は、数平均分子量1,000~100,000、かつ、分子量分布1.3以下という特徴を有している。なお、数平均分子量は、GPCによるポリスチレン換算値(以下同様)である。
【0025】
本発明の製造方法において、イニシエーターである化合物(2)、チオフェン化合物(1)、金属触媒、溶媒等の添加順序は任意であるが、下記の手法を用いることが好ましい。
すなわち、化合物(2)、リン酸三カリウム、およびパラジウム触媒等の金属触媒を混合して混合物Aを調製し、得られた混合物A、水および水溶性有機溶媒を混合して調製した混合物Bと、チオフェン化合物(1)の溶液とを混合し、チオフェン化合物(1)を重合させる手法である。
この場合、混合物AおよびBの調製法、並びに混合物Bとチオフェン化合物(1)の溶液との混合法も任意であるが、化合物(2)、リン酸三カリウムおよび金属触媒を混合して調製した混合物Aに、水溶性有機溶媒を加えた後、水を滴下して混合物Bを調製し、この混合物Bを、チオフェン化合物(1)の水溶性有機溶媒溶液に添加して、チオフェン化合物(1)を重合させる手法が好適である。
【0026】
なお、化合物(2)および金属触媒は、市販品を用いても、従来公知の方法によって製造したものを用いてもよい。
チオフェン化合物(1)は、実施例で詳述するように、下記式(A)で表される2-ハロゲン化チオフェン化合物を式(B)で表される化合物に誘導した後、これをN-メチルイミノ二酢酸と反応させて得ることができる。
【0027】
【化12】
(式中、XおよびYは、上記と同じ意味を表す。)
【0028】
[2]両末端修飾ポリチオフェンの合成
上記製造方法で得られたポリチオフェン(3)は、その末端に残存するチオフェン環の2位水素原子を足掛かりに、修飾することが可能である。
例えば、ポリチオフェン(3)を、金属触媒存在下、式(4)で表されるビニルフェニルボロン酸ピナコールエステル化合物(以下「化合物(4)」という。)とカップリング反応させ、式(5)で示される両末端修飾ポリチオフェン(以下、「ポリチオフェン(5)」という。)を得ることができる。この場合、ポリチオフェン(5)も、数平均分子量1,000~100,000、かつ、分子量分布1.3以下という特徴を有している。
【0029】
【化13】
(式中、R
1~R
5、Yおよびnは、上記と同じ意味を表す。)
【0030】
金属触媒の具体例としては、配位子含有ニッケルおよびパラジウム触媒が挙げられるが、パラジウム触媒が好ましい。
これらの触媒の具体例としては、上記重合反応で例示した触媒と同様のものが挙げられるが、カップリング反応においても、反応性の観点からSPhos Pd G2、SPhos Pd G3がより好ましく、SPhos Pd G2がより一層好ましい。
触媒の使用量は、いわゆる触媒量でよく、原料であるポリチオフェン(3)に対し、40モル%以下が好ましく、20モル%以下がより好ましい。
なお、上記カップリング反応は、ポリチオフェン(3)を単離せず、チオフェン化合物(1)を重合させた溶液中に化合物(4)を直接添加して行うこともでき、この場合、カプリング反応に用いられる金属触媒を新たに添加しなくともよい。
【0031】
また、カップリング反応時にも系内にリン酸三カリウムを添加することが好ましい。その添加量は、原料であるポリチオフェン(3)1モルに対し、典型的には0.1~10モル倍であり、好ましくは0.5~5モル倍、より好ましくは1~3モル倍の範囲である。
【0032】
上記カップリング反応では塩基を用いることもできる。その具体例としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、燐酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸セシウム等の無機塩基;メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、プロピルアミン、ジプロピルアミン、トリプロピルアミン、イソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、トリイソプロピルアミン、ブチルアミン、ジブチルアミン、トリブチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、ピリジン、イミダゾール、キノリン、コリジン、ピロリジン、ピペリジン、モルフォリン、N-メチルモルフォリン等のアミン類;酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸リチウム等が挙げられる。
塩基を用いる場合、その使用量は特に限定されるものではないが、原料であるポリチオフェン(3)1モルに対し、1~10モル倍程度が好ましい。
【0033】
反応溶媒としては、当該反応条件下で安定であって、反応に悪影響を及ぼさないものであれば特に限定されるものではなく、例えば、水;メタノール、エタノール等のアルコール類;トリエチルアミン等のアミン類;ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等の非プロトン性極性有機溶媒;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチルt-ブチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、THF、1,4-ジオキサン等のエーテル類;ペンタン、へキサン、ヘプタン、石油エーテル等の脂肪族炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、ニトロベンゼン、テトラリン等の芳香族炭化水素類、クロロホルム、ジクロロメタン、四塩化炭素、ジクロロエタン等のハロゲン系炭化水素類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル等の低級脂肪酸エステル類、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル等のニトリル類などが使用できる。これらの溶媒は、反応の起こり易さなどを考慮して適宜選択することができ、1種単独で用いても2種以上混合して用いてもよい。
なお、上記溶媒は、適当な脱水剤や乾燥剤を用いて水を含有しない溶媒として用いることもできる。
【0034】
反応温度は、-100℃から使用する反応溶媒の沸点までを採用できるが、-50~200℃が好ましく、20~150℃がより好ましい。
反応時間は、通常、0.1~1,000時間程度であるが、0.5~100時間が好ましい。
反応終了後は、常法に従って後処理および必要に応じて精製することで、ポリチオフェン(5)を得ることができる。
【0035】
[3]末端にシリル基を有するポリチオフェンの合成
上記製造方法で得られたポリチオフェン(5)は、末端アルケニル基を足掛かりに、末端にトリアルコキシシリル基等のシリル基を有するポリチオフェン化合物へと誘導することが可能である。
例えば、ポリチオフェン(5)を、白金触媒存在下、HSi(OR8)3(式中、R8は、炭素数1~6のアルキル基を表す。)で示されるトリアルコキシシランとヒドロシリル化反応させて、下記式(6)で示される片末端トリアルコキシシリル基含有ポリチオフェン(以下、「ポリチオフェン(6)という。」を得ることができる。この場合、ポリチオフェン(6)も、数平均分子量1,000~100,000、かつ、分子量分布1.3以下という特徴を有している。
【0036】
【化14】
(式中、R
1~R
8、Yおよびnは、上記と同じ意味を表す。)
【0037】
上記R8の炭素数1~6のアルキル基の具体例としては、直鎖、分岐のいずれでもよく、その具体例としては、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、s-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシル基等が挙げられる。
特に、R1~R5としては、炭素数1~3のアルキル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
トリアルコキシシランの具体例としては、トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、トリn-プロポキシシラン、トリi-プロポキシシラン等が挙げられる。
【0038】
白金触媒の具体例としては、塩化白金酸、白金-1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン錯体、テトラキストリフェニルホスフィン白金、ジクロロビストリフェニルホスフィン白金、ジクロロビスアセトニトリル白金、ジクロロビスベンゾニトリル白金、ジクロロシクロオクタジエン白金、白金-活性炭等が挙げられる。
【0039】
白金触媒の使用量は、例えば、ポリチオフェン(6)1モルに対して、0.0001~2モルが好ましく、0.01~1モルがより好ましい。
【0040】
反応温度は特に限定されないが、0~100℃が好ましく、10~50℃がより好ましく、反応時間も特に限定されないが、0.1~10時間が好ましく、0.2~5時間がより好ましい。反応雰囲気は窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気とすることが好ましい。
反応後は、蒸留、再沈殿精製等により、目的物を回収することができる。
【0041】
上記反応には溶媒を用いることもできる。溶媒としては、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒、アセトニトリル、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン等の非プロトン性極性溶媒等が挙げられ、これらの溶媒は1種を単独で使用してもよく、あるいは2種以上を混合して使用してもよい。
【0042】
[4]表面修飾金属酸化物微粒子
上記製造方法で得られたポリチオフェン(6)は、その末端トリアルコキシシリル基を利用して金属酸化物の表面処理剤として利用することができ、その結果、表面がポリチオフェンで修飾された金属酸化物微粒子を得ることができる。
金属酸化物粒子としては、特に限定されるものではなく、SiO2、SnO2、TiO2、WO3、ZnO、ZrO2、In2O3、Sb2O5等の従来公知の各種金属酸化物から、その用途等に応じて適宜選択して用いることができる。なお、汎用性と透明性の観点から、SiO2が好ましい。
金属酸化物微粒子の大きさは特に限定されないが、汎用性の観点から、5nm~10μmが好ましく、弾性率の観点から10nm~10μmがより好ましく、透明性の観点から、10~100nmがより一層好ましく、10~50nmがさらに好ましい。
【0043】
金属酸化物粒子表面をポリチオフェン(6)で修飾する方法としては、公知の方法を採用することができ、例えば、金属酸化物粒子の分散液中に、ポリチオフェン(6)を添加後、50~80℃に加熱し、1~10時間処理する方法が挙げられる。
【実施例0044】
以下、合成例および実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。なお、実施例で用いた各測定装置は以下のとおりである。
[GPC]
装置:Shodex GPC-101(昭和電工(株)製)
カラム:Shodex KF-804L 2本(昭和電工(株)製)
カラム温度:40℃
溶媒:クロロホルム 1mL/分
検出器:UV(254nm)、RI
検量線:標準ポリスチレン
[1H-NMR]
装置:JEOL ECA-500 and ECA-600
[13C-NMR]
装置:JEOL ECA-500 and ECA-600
[IR]
装置:JASCO FT/IR-410
[TG-DTA]
装置:Seiko Instruments Inc. TG/DTA 6200
[MALDI-TOFF]
装置:AXIMA-CFR plus Shimadzu/Kratos
Reflection ion mode:レーザー(λ=337nm)
Matrix:1,8-dihydroxy-9[10H]-anthracenone
【0045】
【0046】
反応は100mLナスフラスコを用いて行った。
フラスコに、ジエチレングリコールモノメチルエーテル6.1661g(51.3mmol)、水酸化ナトリウム2.765g(69.1mmol)を加えて、0℃で撹拌した。別途用意した50mLナスフラスコに、p-トルエンスルホニルクロリド7.810g(50.0mmol)、THF30mLを加えて撹拌し、先に調製した100mLナスフラスコ内の溶液に加えた。室温で20時間撹拌した後、1M塩酸を加え、塩化メチレンで抽出し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄して、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。ろ過し、減圧下で溶媒を留去して、無色透明液体として化合物(a)12.288g(粗収率109%)を得た。化合物(a)の各種スペクトルデータを以下に示す。
【0047】
1H NMR(600MHz, CDCl3) δ 7.80(d, J=8.4Hz, 2H), 7.34(d, J=7.8Hz, 2H), 4.17(t, J=5.1Hz, 2H), 3.69(t, J=4.8Hz, 2H), 3.58(t, J=4.5Hz, 2H), 3.48(t, J=4.5Hz, 2H), 3.35(s, 2H),2.45(s, 2H)
13C NMR(150MHz, CDCl3) δ 144.7, 132.7, 129.6, 127.7, 71.6, 70.4, 69.1, 68.4, 58.8,21.4
IR (neat) 2881, 1598, 1452, 1358, 1292, 1177, 1111, 1018, 923, 817, 777, 664, 555 cm-1.
【0048】
【0049】
反応は50mLナスフラスコを用いて行った。
フラスコに、3-チオフェンメタノール2.9029g(25.4mmol)、化合物(a)8.391g(30.6mmol)、テトラブチルアンモニウムブロミド(TBAB)0.8221g(2.55mmol)、細かく砕いた水酸化カリウム5.7150g(101.9mmol)、水1mLを加えて撹拌した。水酸化カリウムがある程度溶けた後に、THF25mLを加えた。室温で45.5時間撹拌した後、水を加え、塩化メチレンで抽出し、飽和炭酸水素ナトリウムで洗浄して、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。ろ過し、減圧下で溶媒を留去して得られた粗生成物を、カラムクロマトグラフィー(SiO2;酢酸エチル/ヘキサン=1/1(v/v))で精製し、薄黄色液体として化合物(b)5.1321g(収率90%)を得た。化合物(b)の各種スペクトルデータを以下に示す。
【0050】
1H NMR (600MHz, CDCl3) δ 7.29(dd, J=4.8 and 3.0Hz, 1H), 7.22(s, 1H), 7.08(d, J=4.8Hz, 1H), 4.58(s, 2H), 3.68-3.63 (m, 6H), 3.56(t, J=4.5Hz, 2H), 3.39(s, 3H)
13C NMR (150MHz,CDCl3) δ 139.3, 127.2, 125.8, 122.7, 71.8, 70.5, 70.4, 69.2, 58.9
IR (neat) 2873, 1350, 1103, 856, 781 cm-1.
【0051】
【0052】
反応は褐色100mLナスフラスコを用い、アルミホイルを巻いて行った。
フラスコに化合物(b)5.022g(23.2mmol)、THF70mLを加え、0℃で撹拌した。そこに、N-ブロモスクシンイミド3.9230g(22.0mmol)を加え、0℃で16.5時間撹拌した後、水を加え、減圧下でTHFを留去し、ヘキサンで抽出し、10%チオ硫酸ナトリウム水溶液で洗浄して、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。ろ過し、減圧下で溶媒を留去して得られた粗生成物を、リボンヒーターを用いて125-130℃で蒸留し、透明液体として化合物(c)5.4637g(収率84%)を得た。化合物(c)の各種スペクトルデータを以下に示す。
【0053】
1H NMR (400MHz, CDCl3) δ 7.24 (d, J=8.8Hz, 1H), 7.00(d, J=5.6Hz, 1H), 4.51(s, 2H), 3.66-3.64(m, 6H), 3.56(t, J=4.6Hz, 2H), 3.39(s, 3H)
13C NMR (100MHz, CDCl3) δ 138.0, 128.0,125.7, 110.9, 71.7, 70.3, 69.2, 66.9, 58.8
IR (neat) 3103, 2873, 1456, 1416, 1350, 1120, 1106, 992, 826, 734, 690 cm-1.
【0054】
【0055】
反応は三方コックを備えた20mLナスフラスコを用いてアルゴン雰囲気下、窒素気流下で行った。フラスコにジイソプロピルアミン0.285mL(2.03mmol)、THF5.5mLを加え、-78℃で撹拌した。そこに、2.76M n-ブチルリチウムヘキサン溶液0.675mL(1.86mmol)を滴下し、-78℃で45分間撹拌し、LDAを合成した。三方コックを備えた10mLのナシフラスコにアルゴン雰囲気下、窒素気流下で化合物(c)0.5024g(1.70mmol)を加え、アルゴンで置換し、窒素気流下でTHF2.76mLを加え、-78℃で撹拌した。-78℃のLDA溶液に化合物(c)の溶液を20分間かけて滴下した。-78℃で45分間撹拌後、窒素気流下でトリメチルボレート0.93mL(4.05mmol)を滴下し、室温に戻し、41時間撹拌した。1M塩酸6mLを加え、15分間撹拌し、分液ロートを用い、有機層と水層を分離し、有機層を飽和塩化アンモニウム水溶液で洗浄した。合わせた水層をエーテルで抽出し、合わせた有機層を飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄した。無水硫酸ナトリウムで乾燥、ろ過し、減圧下で溶媒を留去して化合物(d)の粗生成物0.5346g(収率93%)を得た。化合物(d)の各種スペクトルデータを以下に示す。
【0056】
1H NMR (400MHz, DMSO-d6) δ 8.37(s, 2H), 7.56(s, 1H), 4.40(s, 2H), 3.54-3.50(m, 6H), 3.42(t, J=5.0Hz, 2H), 3.23(s, 3H)
13C NMR (100MHz, DMSO-d6) δ 138.5, 128.7, 127.2, 110.3, 71.3, 69.7, 69.7, 69.3, 66.2, 58.1;
IR (neat) 3232, 2872, 2364, 2257, 1448, 1280, 1198, 1029, 992, 928, 883, 825, 730, 647, 549 cm-1.
【0057】
【0058】
反応は三方コックを備えた100mLナスフラスコを用いてアルゴン雰囲気下、窒素気流下で行った。
フラスコに化合物(d)4.066g(10.2mmol)、N-メチルイミノ二酢酸4.4974g(30.6mmol)、4Aモレキュラーシーブ4.6gを加えた。アルゴンで置換し、窒素気流下で乾燥DMF120mLを加え、120℃で26時間撹拌後、室温にしてから水を加え、ろ過により4Aモレキュラーシーブスを除去した。溶液を分液ロートに注ぎ、1M塩酸を加え、クロロホルムで抽出し、飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄して、無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。ろ過し、減圧下で溶媒を留去して得られた粗生成物をカラムクロマトグラフィー(SiO2;酢酸エチル)で精製し、白色固体2.5454g(収率56%、mp62-63℃)を得た。化合物(e)の1H-NMRスペクトルデータを以下に示す。
【0059】
1H NMR (400MHz, DMSO-d6) δ 7.14(s, 1H), 4.40(s, 1H), 4.38-4.33(d, J=17.2Hz, 2H), 4.16-4.12(d, J=17.2Hz, 2H), 3.54-3.50(m, 6H), 3.44-3.41(m, 2H), 3.23(s, 3H), 2.67(s, 3H).
【0060】
[実施例2]片末端無置換ポリチオフェン(f)の合成
【化20】
【0061】
反応は三方コックを備えた20mLナスフラスコを用いて行った。
フラスコに、化合物(e)44.5mg(0.099mmol)を加え、アルゴンで置換し、窒素気流下で乾燥THF8.5mLを加え、脱気後アルゴンで置換し、45℃で撹拌した。
別途用意した三方コックを備えた5mLナシフラスコに、2-ヨードトルエン2.09mg(0.0096mmol)、リン酸三カリウム214.0mg(1.01mmol)、SPhos3.67mg(0.0089mmol)、SPhos Pd G2 3.63mg(0.0050mmol)を加えてアルゴンで置換した(混合物A)。その中に、窒素気流下で乾燥THF1.0mL、蒸留水0.36mLを加え、脱気後アルゴンで置換し、50℃で2時間撹拌した(混合物B)。窒素気流下でカニューラを用い、化合物(e)の溶液に混合物Bを加え、45℃で19時間撹拌した。6M塩酸を加え、クロロホルムで抽出し、飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄して、無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。ろ過し、減圧下で溶媒を留去して得られた粗生成物を、沈殿精製(クロロホルム/ヘキサン、エーテル)で精製し、黒赤色固体として片末端無置換ポリチオフェン(f)19.1mg(収率87%)を得た。得られた生成物のGPCを測定した(Mn=5,060,Mw/Mn=1.16)。片末端無置換ポリチオフェン(f)の1H-NMRスペクトルデータを以下に示す。
【0062】
1H NMR (400MHz, CDCl3) δ 7.44-7.42(m, 1H), 7.25(m, n H), 7.24-7.23(m, 3H), 4.67 (s, 2n H), 3.74-3.63(m, 6n H), 3.57-3.54(m, 2n H), 3.37(s, 3n H), 2.49(s, 3H).
【0063】
[実施例3]両末端修飾ポリチオフェン(g)の合成
【化21】
【0064】
反応は三方コックを備えた20mLナスフラスコを用いて行った。
フラスコに、化合物(e)45.0mg(0.10mmol)を加え、アルゴンで置換し、窒素気流下で乾燥THF8.5mLを加え、脱気後アルゴンで置換して45℃で撹拌した。
別途用意した三方コックを備えた5mLナシフラスコに、2-ヨードトルエン2.76mg(0.012mmol)、リン酸三カリウム212.0mg(1.00mmol)、SPhos3.31mg(0.0080mmol)、SPhos Pd G2 3.82mg(0.0053mmol)を加えてアルゴンで置換した(混合物A)。窒素気流下で、乾燥THF1.0mL、蒸留水0.36mLを加え、脱気後アルゴンで置換し、50℃で2時間撹拌した(混合物B)。窒素気流下でカニューラを用い、化合物(e)の溶液に混合物Bを加え、45℃で21.5時間撹拌して重合反応を行った。
【0065】
さらに、別途用意した三方コックを備えた5mlナシフラスコに、4-ビニルフェニルボロン酸ピナコールエステル24.55mg(0.11mmol)、リン酸三カリウム42mg(0.20mmol)を加えてアルゴンで置換した。窒素気流下で乾燥THF2.0mL、蒸留水0.2mLを加え、脱気後アルゴンで置換し、45℃で撹拌した。この溶液を、窒素気流下でカニューラを用い、先の重合反応後の溶液に加え、45℃で一晩撹拌した。6M塩酸を加え、クロロホルムで抽出し、飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄して、無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。ろ過し、減圧下で溶媒を留去して得られた粗生成物を沈殿精製(クロロホルム/ヘキサン、エーテル)で精製し、赤白色固体として両末端修飾ポリチオフェン(g)19.7mg(収率88%)を得た。得られた生成物のGPCとMALDI-TOF MSを測定した(Mn=5,020,Mw/Mn=1.17)。その結果、目的とする、両末端が封止され、分子量分布が狭いポリチオフェンが得られたことが確認された。両末端修飾ポリチオフェン(g)の1H-NMRスペクトルデータを以下に示す。
【0066】
1H NMR (400MHz, CDCl3) δ 7.54-7.51 (d, J=8.0Hz, 2H), 7.48-7.46(d, J=8.0Hz, 2H), 7.44-7.41(m, 1H), 7.25 (m, n H), 7.23-7.22 (m, 3H), 6.78-6.72 (dd, J=10.8 and 17.8Hz, 1H), 5.83-5.79(d, J=18.0Hz, 1H), 5.32-5.29(d, J=11.2Hz, 1H), 4.66(s, 2n H), 3.74-3.67(m, 6n H), 3.57-3.55(m, 2n H), 3.37(s, 3n H), 2.49(s, 3H).
【0067】
[実施例4]トリエトキシシラン付きポリチオフェン(h)の合成
【化22】
【0068】
反応は減圧乾燥下、ヒートガンで加熱した三方コックを備えた10mLナスフラスコを用いてグローブボックスで行った。フラスコにH2PtCl6・6H2O5.8mg(0.011mmol)を加えた。別途用意したバイアルに両末端修飾ポリチオフェン(g)25.3mg(0.011mmol)、乾燥THF5mlを加えた。前者のフラスコに後者の溶液、HSi(OEt)30.22ml(1.07mmol)を加え、室温で30分間撹拌した。フラスコをグローブボックスから取り出し、55℃で5時間撹拌した。減圧下で溶媒を留去し、窒素気流下で良溶媒乾燥THF、貧溶媒乾燥ヘキサンで沈殿精製を行い、目的のトリエトキシシラン付きポリチオフェン(h)17.5mg(収率65%)を得た。トリエトキシシラン付きポリチオフェン(h)の1H-NMRスペクトルデータを以下に示す。
【0069】
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 7.48-7.46 (d, J = 8.0 Hz, 2 H), 7.44-7.42 (m, 1 H), 7.25 (s, n H), 7.23-7.22 (m, 5 H), 7.13 (s, 1 H), 4.69-4.67 (m, 2n H), 4.53 (m, 2 H), 3.74-3.67 (m, 6n H), 3.74-3.67 (m, 6 H), 3.58-3.55 (m 2n H), 3.38-3.36 (s, 3n H), 2.73-2.65 (m, 2 H) 2.50 (s, 3 H), 1.31-1.26 (m,9 H), 0.90-0.83 (m, 2 H).
【0070】
[実施例5]ポリチオフェン付シリカゾル(j)の合成
MT-ST(日産化学(株)製メタノールシリカゾル)10gに1.3-ジメチルイミダゾリジノン(以下DMI)12gを添加し、エバポレータを用いて、メタノールを除去し、DMAIゾル(i)を得た。
次に、実施例4で作製したトリエトキシシラン付きポリチオフェン(h)60mgを溶解させたTHF溶液1mlを添加し、エバポレータを用いて、THFを除去した。その後、70℃で5時間加熱させ、目的のポリチオフェンDMIゾル(j)を得た。なおトリエトキシシラン付きポリチオフェン(h)THF溶液とポリチオフェンDMIゾル(j)のメタノール溶解性を確認した結果、トリエトキシシラン付きポリチオフェン(h)THF溶液は沈殿したが、ポリチオフェンDMIゾル(j)は沈殿がみられず、シリカ粒子表面にトリエトキシシラン付きポリチオフェン(h)が反応したことを確認した。