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特開2024-161991フォトンカウンティングCT装置および物質分解方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024161991
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】フォトンカウンティングCT装置および物質分解方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 6/03 20060101AFI20241114BHJP
   A61B 6/42 20240101ALI20241114BHJP
【FI】
A61B6/03 350H
A61B6/03 320Q
A61B6/03 373
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023077106
(22)【出願日】2023-05-09
(71)【出願人】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】横井 一磨
【テーマコード(参考)】
4C093
【Fターム(参考)】
4C093AA22
4C093CA35
4C093EA07
4C093FC12
4C093FC30
(57)【要約】
【課題】X線の線質の差異によって変化するパイルアップの影響を低減可能なフォトンカウンティングCT装置および物質分解方法を提供する。
【解決手段】フォトンカウンティングCT装置であって、既知の物質である第1基底物質と第2基底物質とを組み合わせた較正部材を透過するX線のエネルギースペクトルを、前記第1基底物質の厚さと前記第2基底物質の厚さを変えながら基準となるX線量で取得して較正データとして予め記憶する記憶部と、前記較正部材を透過するX線のエネルギースペクトルを、前記第1基底物質の厚さと前記第2基底物質の厚さとX線量を変えながら取得して、エネルギービン毎のX線光子数とX線量との関係を示す補正テーブルを作成する補正テーブル作成部と、前記較正データと前記補正テーブルに基づいて、物質毎に分解された断層画像を生成する画像生成部を備えることを特徴とする。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体にX線を照射するX線源と、前記X線を検出して前記X線の光子エネルギーに対応する信号を出力する光子計数型検出器と、前記光子計数型検出器が出力する信号に基づいて前記被検体の断層画像を生成する画像生成部を備えるフォトンカウンティングCT装置であって、
既知の物質である第1基底物質と第2基底物質とを組み合わせた較正部材を透過するX線のエネルギースペクトルを、前記第1基底物質の厚さと前記第2基底物質の厚さを変えながら基準となるX線量で取得して較正データとして予め記憶する記憶部と、
前記較正部材を透過するX線のエネルギースペクトルを、前記第1基底物質の厚さと前記第2基底物質の厚さとX線量を変えながら取得して、エネルギービン毎のX線光子数とX線量との関係を示す補正テーブルを作成する補正テーブル作成部と、
前記較正データと前記補正テーブルに基づいて、物質毎に分解された断層画像を生成する画像生成部を備えることを特徴とするフォトンカウンティングCT装置。
【請求項2】
請求項1に記載のフォトンカウンティングCT装置であって、
前記画像生成部は、前記補正テーブルとリファレンスデータに基づいて前記較正データを補正し、補正後の較正データを用いて前記被検体の投影データを物質分解することを特徴とするフォトンカウンティングCT装置。
【請求項3】
請求項1に記載のフォトンカウンティングCT装置であって、
前記画像生成部は、前記補正テーブルとリファレンスデータに基づいて前記被検体の投影データを補正し、補正後の投影データを、前記較正データを用いて物質分解することを特徴とするフォトンカウンティングCT装置。
【請求項4】
請求項1に記載のフォトンカウンティングCT装置であって、
前記補正テーブル作成部は、X線量の経時的な変動の範囲において、前記較正部材を透過するX線のエネルギースペクトルを取得することを特徴とするフォトンカウンティングCT装置。
【請求項5】
被検体にX線を照射するX線源と、前記X線を検出して前記X線の光子エネルギーに対応する信号を出力する光子計数型検出器と、前記光子計数型検出器が出力する信号に基づいて前記被検体の断層画像を生成する画像生成部を備えるフォトンカウンティングCT装置による物質分解方法であって、
既知の物質である第1基底物質と第2基底物質とを組み合わせた較正部材を透過するX線のエネルギースペクトルを、前記第1基底物質の厚さと前記第2基底物質の厚さを変えながら基準となるX線量で取得して較正データとして予め記憶するステップと、
前記較正部材を透過するX線のエネルギースペクトルを、前記第1基底物質の厚さと前記第2基底物質の厚さとX線量を変えながら取得して、エネルギービン毎のX線光子数とX線量との関係を示す補正テーブルを作成するステップと、
前記較正データと前記補正テーブルに基づいて、物質毎に分解された断層画像を生成するステップを備えることを特徴とする物質分解方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光子計数型検出器を備えるX線CT(Computed Tomography)装置であるフォトンカウンティングCT装置および物質分解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
X線CT装置は、被検体へのX線の照射と被検体を透過するX線の検出とを複数の投影角度において実施することによって取得される複数の投影データを用いて、被検体の断層画像を生成する装置である。X線の検出に光子計数型検出器を用いるフォトンカウンティングCT装置では、組成の異なる物質に分解された断層画像、例えば血管造影に用いられるヨード造影剤と軟組織とに分解された断層画像が得られる。
【0003】
被検体に照射されるX線の線量は経時的に変動し、X線量の経時的な変動はX線CT装置が生成する断層画像にアーチファクトを生じさせる。そこで、被検体を通過しないX線を検出するリファレンス検出器によって取得されるX線量の経時的な変動を含むリファレンスデータを用いて投影データを補正することにより断層画像のアーチファクトが抑制される。フォトンカウンティングCT装置では、X線の線量率が増えるほどパイルアップの量も多くなるので、リファレンスデータによる投影データの補正にはパイルアップによるスペクトル変化の把握(較正)が必要となる。
【0004】
特許文献1には、X線の線量率を変化させたときにリファレンス検出器の検出信号がどのように変化するかを予め取得し、取得されたデータに基づいてパイルアップによる検出誤差を補正するフォトンカウンティングCT装置が開示される。すなわち、X線の線量率が増加すると、パイルアップの量が多くなることによってリファレンス検出器の検出信号が低下するので、線量率の増加に対する検出信号の低下の程度が、パイルアップによる検出誤差の補正に用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6564330号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら特許文献1は、X線の線質の差異によってパイルアップの量が変化することに対する配慮がなされていない。光子計数型検出器の各チャネルに入射するX線は、被検体の中の透過経路に応じて線量率が変化するとともに線質も変化する。パイルアップの量は線量率だけでなく線質の変化によっても増減するので、線質の変化の影響が含まれていないと物質分解の精度が低下する。
【0007】
そこで、本発明は、X線の線質の差異によって変化するパイルアップの影響を低減可能なフォトンカウンティングCT装置および物質分解方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために本発明は、被検体にX線を照射するX線源と、前記X線を検出して前記X線の光子エネルギーに対応する信号を出力する光子計数型検出器と、前記光子計数型検出器が出力する信号に基づいて前記被検体の断層画像を生成する画像生成部を備えるフォトンカウンティングCT装置であって、既知の物質である第1基底物質と第2基底物質とを組み合わせた較正部材を透過するX線のエネルギースペクトルを、前記第1基底物質の厚さと前記第2基底物質の厚さを変えながら基準となるX線量で取得して較正データとして予め記憶する記憶部と、前記較正部材を透過するX線のエネルギースペクトルを、前記第1基底物質の厚さと前記第2基底物質の厚さとX線量を変えながら取得して、エネルギービン毎のX線光子数とX線量との関係を示す補正テーブルを作成する補正テーブル作成部と、前記較正データと前記補正テーブルに基づいて、物質毎に分解された断層画像を生成する画像生成部を備えることを特徴とする。
【0009】
また本発明は、被検体にX線を照射するX線源と、前記X線を検出して前記X線の光子エネルギーに対応する信号を出力する光子計数型検出器と、前記光子計数型検出器が出力する信号に基づいて前記被検体の断層画像を生成する画像生成部を備えるフォトンカウンティングCT装置による物質分解方法であって、既知の物質である第1基底物質と第2基底物質とを組み合わせた較正部材を透過するX線のエネルギースペクトルを、前記第1基底物質の厚さと前記第2基底物質の厚さを変えながら基準となるX線量で取得して較正データとして予め記憶するステップと、前記較正部材を透過するX線のエネルギースペクトルを、前記第1基底物質の厚さと前記第2基底物質の厚さとX線量を変えながら取得して、エネルギービン毎のX線光子数とX線量との関係を示す補正テーブルを作成するステップと、前記較正データと前記補正テーブルに基づいて、物質毎に分解された断層画像を生成するステップを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、X線の線質の差異によって変化するパイルアップの影響を低減可能なフォトンカウンティングCT装置および物質分解方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】PCCT装置の全体構成を示す図である。
図2】複数のエネルギービンに分けられるX線の一例を示す図である。
図3】光子計数型検出器の較正について説明する図である。
図4】補正テーブルを作成する処理の流れの一例を示す図である。
図5】補正テーブルの一例について説明する図である。
図6】物質毎に分解された断層画像を生成する処理の流れの一例を示す図である。
図7】物質分解の処理の流れの一例を示す図である。
図8】リファレンスデータに基づく較正データの補正について説明する図である。
図9】物質分解の処理の流れの他の例を示す図である。
図10】被検体の推定厚さを求める処理について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明のフォトンカウンティングCT装置および物質分解方法の実施形態を説明する。なお、以下の説明及び添付図面において、同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【実施例0013】
図1に本実施例のフォトンカウンティングCT装置101の全体構成図を示す。なお、紙面の横方向をX軸、縦方向をY軸、XY面に直交する方向をZ軸とする。フォトンカウンティングCT装置101は、ガントリ102、X線管103、ボウタイフィルタ104、寝台105、検出器パネル107、演算装置108、入力装置109、表示装置110を備える。
【0014】
被検体106は寝台105に載せられ、ガントリ102に設けられる開口部112の中に配置される。X線管103から放射されたX線111は、ボウタイフィルタ104により被検体106の大きさに適したビーム形状に成形されて被検体106に照射され、被検体106を透過したのち検出器パネル107に検出される。X線管103と検出器パネル107は、被検体106を挟んで対向配置されるようにガントリ102に取り付けられ、ガントリ102の回転駆動部により被検体106の周りを回転させられる。X線管103からのX線照射と検出器パネル107でのX線計測が両者の回転とともに繰り返されることにより、様々な投影角度での投影データが取得される。
【0015】
取得された投影データが演算装置108にて画像再構成処理されることにより、被検体106の断層画像が生成され、表示装置110に表示される。また被検体106を載せた寝台105とガントリ102とがZ軸方向に相対的に移動しながら投影データが取得されると、被検体106のボリューム画像が生成される。なお、X線管103から照射されるX線量や、ガントリ102の回転速度、ガントリ102と寝台105との相対移動速度は、入力装置109を介して操作者が入力するスキャン条件に基づいて設定される。また演算装置108は一般的なコンピュータ装置と同様のハードウェア構成であり、CPU(Central Processing Unit)やメモリ、HDD(Hard Disk Drive)等を備え、投影データ等に対する補正処理や各部の制御を行う。
【0016】
検出器パネル107は、複数の検出素子PがX線管103のX線焦点を中心とした円弧形状に配置されて構成される。また検出器パネル107の端部には、被検体106を透過しないX線を検出するリファレンス検出器107Rが設けられる。リファレンス検出器107Rで得られるリファレンスデータには被検体106に照射されるX線量の経時的な変動が含まれるので、リファレンスデータは、X線量の経時的な変動の補正に用いられる。
【0017】
検出素子Pが光子計数型検出器である場合、入射するX線光子は個々に計数されるとともに、X線光子のエネルギーが計測される。図2には、T1~T2、T2~T3、T3~の三つのエネルギービンbin1、bin2、bin3に分けられて計数されたX線光子数が示される。
【0018】
光子計数型検出器を備えるフォトンカウンティングCT装置101では、被検体106の投影データに関する光子エネルギースペクトルが取得できるので、組成の異なる物質が分解された医用画像や複数のエネルギー成分に分けられた医用画像を生成できる。なお組成の異なる物質に分解された医用画像等を得るには、組成や厚さが既知の物質である複数の基底物質の組み合わせを光子計数型検出器で計測したときの出力と光子エネルギーとの関係を検出器素子毎に予め較正する必要がある。
【0019】
図3を用いて、光子計数型検出器の較正について説明する。光子計数型検出器の較正には、組成と厚さが既知の複数の基底物質を組み合わせた較正部材300が用いられる。較正部材300には、例えば第1基底物質301と第2基底物質302とを組み合わせたものであって、基底物質毎に複数の異なる厚さの板が用いられる。例えば第1基底物質301の厚さがJ種類、第2基底物質302の厚さがK種類であれば、J×K種類の較正部材300が用いられ、較正部材300のそれぞれを透過したX線のエネルギースペクトルが較正データ303として検出器素子毎に取得される。図3ではJ=3、K=3であるので、9種類のエネルギースペクトルが較正データ303として示される。取得された較正データ303は、演算装置108の記憶部に記憶され、被検体106の投影データの較正に用いられる。
【0020】
なお較正部材300に照射されるX線量が増えるとパイルアップの量が多くなるため、較正部材300を透過したX線のエネルギースペクトルはX線量によっても変化する。そこで本発明では、較正部材300に照射されるX線量を変えながら取得されるエネルギースペクトルに基づいて、較正データ303や被検体106の投影データの補正に用いられる補正テーブルを作成する。
【0021】
図4を用いて、補正テーブルを作成する処理の流れの一例についてステップ毎に説明する。
【0022】
(S401)
第1基底物質301と第2基底物質302の組み合わせである較正部材300が開口部112に設定される。第1基底物質301と第2基底物質302の組成と厚さは既知であり、例えば第1基底物質301にはアクリルが、第2基底物質302にはアルミニウムが用いられる。
【0023】
(S402)
演算装置108による制御によって、S401にて設定された較正部材300を透過したX線のエネルギースペクトルが、基準のX線量で取得される。より具体的には、ガントリ102を静止させた状態で、基準値である管電流が設定されたX線管103から較正部材300にX線が照射され、較正部材300を透過したX線が検出器パネル107によって検出されることにより、エネルギースペクトルが検出素子毎に取得される。取得されたエネルギースペクトルは較正データ303として記憶部に記憶される。なお、リファレンス検出器107Rでは、較正部材300を透過しないX線が検出され、較正データ303に対応付けられて記憶部に記憶される。
【0024】
(S403)
演算装置108による制御によって、S401にて設定された較正部材300を透過したX線のエネルギースペクトルが、基準から変動させたX線量で取得される。より具体的には、基準値とは異なる管電流が設定されたX線管103からのX線照射と、検出器パネル107によるX線検出により、エネルギースペクトルが検出素子毎に取得される。リファレンス検出器107Rでは、S402と同様に、較正部材300を透過しないX線が検出される。S403において設定される管電流は、X線量の経時的な変動に相当する範囲、例えば管電流の基準値が300mAであるとき、295mA~305mAの範囲が好ましい。管電流が、X線量の経時的な変動に相当する範囲に設定されることにより、X線量の経時的な変動をより正確に補正することができる。
【0025】
(S404)
演算装置108は、S402とS403にて取得されたエネルギースペクトルを用いて、補正テーブルを作成する。補正テーブルは、エネルギービン毎のX線光子数とX線量との関係を示すものである。作成された補正テーブルは記憶部に記憶される。
【0026】
図5を用いて、補正テーブルの一例について説明する。図5に例示される補正テーブルは、縦軸に補正係数、横軸にカウント実現値を有する。なおカウント実現値は、S402やS403にて設定された管電流でのX線照射がなされたときのX線光子数の実測値である。また補正係数は、各カウント実現値において計数されたX線光子数を、カウント実現値が基準値であるときのX線光子数で除した値であり、エネルギービン毎に求められる。すなわち、カウント実現値が基準値であるとき補正係数は1を示し、カウント実現値が微増値であるとき補正係数は1より大きい値を、カウント実現値が微減値であるとき補正係数は1より小さい値を示す。
【0027】
なお補正テーブルは、検出素子毎に較正部材300の種類の数だけ作成される。また補正テーブルは、異なる管電流にて計数された各X線光子数を直線近似した式や2次曲線で近似した式であっても良い。
【0028】
(S405)
演算装置108は、全ての較正部材300に対してエネルギースペクトルを取得したか否かを判定する。全ての較正部材300に対してエネルギースペクトルが取得されていれば処理の流れは終了となり、そうでなければS401へ処理が戻され、別の較正部材300が設定される。
【0029】
図4を用いて説明した処理の流れによって、較正部材300を透過するX線のエネルギースペクトルが、既知の物質である第1基底物質301の厚さと第2基底物質302の厚さと較正部材300に照射されるX線量とを変えながら取得される。そして取得されたエネルギースペクトルに基づいて、較正データ303と補正テーブルが記憶部に記憶され、被検体106の物質分解に用いられる。
【0030】
図6を用いて、較正データ303と補正テーブルに基づいて、物質毎に分解された断層画像を生成する処理の流れの一例についてステップ毎に説明する。
【0031】
(S601)
演算装置108による制御によって、被検体106の投影データが取得される。より具体的には、ガントリ102を回転させた状態で、X線管103から被検体106にX線が照射され、被検体106を透過したX線が検出器パネル107によって検出されることにより、様々な投影角度での投影データが取得される。なお被検体106の投影データは、複数のエネルギービンに分けられて取得される。また被検体106の投影データとともにリファレンスデータが取得される。被検体106を透過しないX線を検出することで得られるリファレンスデータには、被検体106に照射されるX線量の経時的な変動が含まれる。
【0032】
(S602)
演算装置108は、記憶部から読み出される較正データ303と補正テーブルに基づいて、S601にて取得された被検体106の投影データを複数の物質、例えば第1基底物質301と第2基底物質302に分解する。
【0033】
図7を用いて、S602の処理の流れの一例についてステップ毎に説明する。
【0034】
(S701)
演算装置108は、S601にて取得されたリファレンスデータと補正テーブルに基づいて、較正データ303を補正する。例えば、図8に示すように、リファレンスデータが303mAであった場合、補正テーブルからエネルギービンAの補正係数C_AとエネルギービンBの補正係数C_Bが求められ、補正係数C_AやC_Bに基づいて較正データ303が補正される。すなわち基準のX線量で取得された較正データ303のエネルギービンAのX線光子数にC_Aが乗じられ、エネルギービンBのX線光子数にC_Bが乗じられることにより、補正された較正データが算出される。
【0035】
(S702)
演算装置108は、S701にて補正された較正データを用いて、被検体106の投影データを物質分解する。具体的には、まず補正後の較正データの中から被検体106の投影データのエネルギースペクトルに最も近いエネルギースペクトルが選択される。そして選択されたエネルギースペクトルに対応する第1基底物質301の厚さと第2基底物質302の厚さによって物質分解され、第1基底物質301の投影データと第2基底物質302の投影データが生成される。
【0036】
図7を用いて説明した処理の流れによって、リファレンスデータと補正テーブルに基づいて補正された較正データを用いて被検体106の投影データが物質分解される。リファレンスデータと補正テーブルに基づいて補正された較正データが物質分解に用いられるので、X線量の経時的な変動やX線の線質の差異によって変化するパイルアップの影響が低減され、物質分解の精度を向上できる。なお、S602の較正データ303と補正テーブルに基づく物質分解は、図7の処理の流れに限定されない。
【0037】
図9を用いて、S602の処理の流れの他の例についてステップ毎に説明する。
【0038】
(S901)
演算装置108は、S601にて取得されたリファレンスデータと補正テーブルに基づいて、被検体106の投影データを補正する。具体的には、まず較正データ303において第2基底物質302の厚さがゼロのデータを用いて、図10に示されるような第1基底物質301の厚さと全X線光子数との関係が求められる。次に図10に例示される関係と、被検体106の投影データとを対比することにより、被検体106の推定厚さT_estが算出される。そして、推定厚さT_estにおける補正テーブルからリファレンスデータに対する補正係数がエネルギービン毎に求められ、求められた補正係数に基づいて被検体106の投影データが補正される。すなわち、X線量の経時的な変動を含む被検体106の投影データがエネルギービン毎に補正係数で除されることにより、基準のX線量に相当する被検体106の投影データが算出される。
【0039】
(S902)
演算装置108は、較正データ303を用いて、S901にて補正された投影データを物質分解する。具体的には、まず較正データ303の中から、S901にて補正された投影データのエネルギースペクトルに最も近いエネルギースペクトルが選択される。そして選択されたエネルギースペクトルに対応する第1基底物質301の厚さと第2基底物質302の厚さによって物質分解され、第1基底物質301の投影データと第2基底物質302の投影データが生成される。
【0040】
図9を用いて説明した処理の流れによって、リファレンスデータと補正テーブルに基づいて補正された被検体106の投影データが較正データ303に基づいて物質分解される。リファレンスデータと補正テーブルに基づいて補正された被検体106の投影データが物質分解に用いられるので、X線量の経時的な変動やX線の線質の差異によって変化するパイルアップの影響が低減され、物質分解の精度を向上できる。また図7を用いて説明した処理の流れに比べ、演算装置108が使用するメモリ容量が小さく、演算時間を短縮できる。図6の説明に戻る。
【0041】
(S603)
演算装置108は、S602にて物質分解された投影データを用いて、物質毎の断層画像を再構成する。すなわち、第1基底物質301の断層画像と第2基底物質302の断層画像が再構成される。
【0042】
図6を用いて説明した処理の流れによって、較正データ303と補正テーブルに基づいて物質分解された投影データを用いて、被検体106の断層画像が物質毎に生成される。物質分解に較正データ303と補正テーブルが用いられるので、X線の線質の差異によって変化するパイルアップの影響が低減され、高精度に物質分解された断層画像を生成できる。
【0043】
以上、本発明のフォトンカウンティングCT装置および物質分解方法の実施例について説明した。なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施例に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせても良い。さらに、上記実施例に示される全構成要素からいくつかの構成要素を削除しても良い。
【符号の説明】
【0044】
101:フォトンカウンティングCT装置、102:ガントリ、103:X線管、104:ボウタイフィルタ、105:寝台、106:被検体、107:検出器パネル、107R:リファレンス検出器、108:演算装置、109:入力装置、110:表示装置、111:X線、112:開口部、300:較正部材300:第1基底物質301:第2基底物質302:較正データ、P:検出素子
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10