(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024162024
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】ブロック共重合体、組成物及び成形品並びにそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 81/00 20060101AFI20241114BHJP
C08L 81/02 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
C08G81/00
C08L81/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023077167
(22)【出願日】2023-05-09
(71)【出願人】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100214673
【弁理士】
【氏名又は名称】菅谷 英史
(74)【代理人】
【識別番号】100186646
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】東田 和樹
(72)【発明者】
【氏名】奈良 早織
【テーマコード(参考)】
4J002
4J031
【Fターム(参考)】
4J002AA012
4J002AA01X
4J002CN011
4J002CN01W
4J002GB01
4J002GN00
4J002GQ00
4J002HA09
4J031AA49
4J031AA55
4J031AA58
4J031AB04
4J031AC11
4J031AD01
4J031AE02
4J031AE03
4J031AF18
4J031AF19
4J031AF23
(57)【要約】
【課題】種々の共重合成分を適用可能かつ簡便にポリアリーレンスルフィド樹脂部位を含むブロック共重合体を製造する方法、並びに、ブロック共重合体、組成物及び成形品を提供すること。
【解決手段】環状ポリアリーレンスルフィド(A)を原料とするポリアリーレンスルフィドブロックと、ポリアリーレンスルフィド以外の熱可塑性樹脂(B)を原料とする他のブロックとを含むブロック共重合体であって、前記ポリアリーレンスルフィド以外の熱可塑性樹脂(B)が、環状構造を有さないものである、ブロック共重合体。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状ポリアリーレンスルフィド(A)を原料とするポリアリーレンスルフィドブロックと、ポリアリーレンスルフィド以外の熱可塑性樹脂(B)を原料とする他のブロックとを含むブロック共重合体であって、
前記ポリアリーレンスルフィド以外の熱可塑性樹脂(B)が、環状構造を有さないものである、ブロック共重合体。
【請求項2】
前記ポリアリーレンスルフィド以外の熱可塑性樹脂(B)が、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエーテル系樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1記載のブロック共重合体。
【請求項3】
前記環状ポリアリーレンスルフィド(A)が4~40量体である、請求項1又は2記載のブロック共重合体。
【請求項4】
前記環状ポリアリーレンスルフィド(A)を原料とするポリアリーレンスルフィドブロックと、前記ポリアリーレンスルフィド以外の熱可塑性樹脂(B)を原料とする他のブロックとの質量比が、1/0.1~1/1000の範囲である、ブロック共重合体。
【請求項5】
環状ポリアリーレンスルフィド(A)と、ポリアリーレンスルフィド樹脂以外の熱可塑性樹脂(B)とを必須成分として配合し、環状ポリアリーレンスルフィド(A)の融点及びポリアリーレンスルフィド以外の熱可塑性樹脂(B)の流動温度以上で溶融混練する工程を有する、ブロック共重合体の製造方法であって、
前記ポリアリーレンスルフィド以外の熱可塑性樹脂(B)の配合量が、環状ポリアリーレンスルフィド(A)1質量部に対して0.1~1000質量部であることを特徴とする、ブロック共重合体の製造方法。
【請求項6】
前記ポリアリーレンスルフィド以外の熱可塑性樹脂(B)が、環状構造を有さないものである、請求項5記載のブロック共重合体の製造方法。
【請求項7】
前記ポリアリーレンスルフィド以外の熱可塑性樹脂(B)が、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項5又は6記載のブロック共重合体の製造方法。
【請求項8】
前記環状ポリアリーレンスルフィド(A)が4~40量体である、請求項5又は6記載のブロック共重合体の製造方法。
【請求項9】
請求項1又は2記載のブロック共重合体と他の材料とを含有する、ブロック共重合体組成物。
【請求項10】
請求項5又は6記載のブロック共重合体の製造方法により得られたブロック共重合体と、他の材料とを配合し、溶融混練する工程を有する、ブロック共重合体組成物の製造方法。
【請求項11】
環状ポリアリーレンスルフィド(A)と、ポリアリーレンスルフィド以外の熱可塑性樹脂(B)と、他の材料を配合し、溶融混練する工程を有する、ブロック共重合体組成物の製造方法。
【請求項12】
請求項1又は2記載のブロック共重合体を溶融成形してなる、成形品。
【請求項13】
請求項9記載のブロック共重合体組成物を溶融成形してなる、成形品。
【請求項14】
請求項5又は6記載のブロック共重合体の製造方法により得られたブロック共重合体を、溶融成形する工程を有する、成形品の製造方法。
【請求項15】
請求項10又は11記載のブロック共重合体組成物の製造方法により得られたブロック共重合体組成物を、溶融成形する工程を有する、成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブロック共重合体、組成物及び成形品並びにそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高分子材料は様々な分野、用途において幅広く使用されており、その用途は、日常用品はもとより、自動車、航空機、エレクトロニクスデバイス、メディカルデバイス等、あらゆる産業分野にわたっている。これは、高分子材料が、その一次構造から高次構造の制御によって、各分野、用途のニーズに柔軟に対応し得たことが理由の一つである。中でも、ポリフェニレンスルフィド(以下、PPS)樹脂に代表されるポリアリーレンスルフィド(以下、PAS)は、優れた耐熱性、難燃性、耐薬品性、寸法安定性、剛性及び電気絶縁性など、エンジニアリングプラスチックとして好適な性質を有していることから、射出成形用途を中心として、各種自動車部品、機械部品、電気・電子部品などの用途に使用されている。
【0003】
PAS樹脂はポリアミド樹脂やポリブチレンテレフタレート樹脂等のエンジニアリングプラスチックと比べて、靱性や、成形加工性、接着やメッキといった二次加工性の面で劣っており、それらの改善のために種々の方法が検討されてきた。例えば、PAS樹脂と他の樹脂をブレンドするポリマーアロイ技術は、各々の樹脂の長所を引き出し、短所を補い合うことにより、単一の樹脂に比べて優れた特性を発揮させることができる技術である。しかしながら、PAS樹脂は他の樹脂との相溶性が著しく低く、物性の改善効果は十分ではなかった。相溶性を促進する方法としてスピノーダル分解を用いて相分離させたポリフェニレンスルフィド樹脂組成物も開示されているが(特許文献1、2等参照)、相構造が熱硬化や結晶化により固定されているため、経時や再溶融によって変化し得ることから、成形品や最終製品における物性の制御が困難であった。
【0004】
PAS樹脂と他の樹脂の構造の固定化に関してはPAS樹脂と他の樹脂とを化学的に結合させた共重合体が有効である。これまでに共重合成分としては、例えば、ポリサルホン(特許文献3等参照)、ポリカーボネート(特許文献4等参照)、全芳香族ポリエーテル(特許文献5等参照)、ポリエーテルエーテルケトン(特許文献6等参照)、芳香族ポリエステル(特許文献7等参照)、環状化合物(特許文献8等参照)等が開示されている。しかしながら、いずれもモノマー原料を重合することにより共重合体を得るため、PAS樹脂の重合条件に適用できるモノマー原料や、各共重合成分の導入比率に制限があった。また、重合反応条件の調整や、副生するホモポリマーの除去等の精製等について、多くの手間や設備導入が必要であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開2009/041335号パンフレット
【特許文献2】特開2008-231249
【特許文献3】特開昭61-225218号公報
【特許文献4】特開平6-220183号公報
【特許文献5】特開2004-168834号公報
【特許文献6】特開平2-228325号公報
【特許文献7】特開平11-222527号公報
【特許文献8】国際公開2014/136448号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、種々の共重合成分を適用可能かつ簡便にPAS樹脂部位を含むブロック共重合体を製造する方法、並びに、ブロック共重合体、組成物及び成形品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、環状PASと、ポリアリーレンスルフィド以外の熱可塑性樹脂と必須成分として、溶融混練することで、簡便にPASブロック共重合体が製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本開示は、環状PAS(A)を原料とするPASブロックと、PAS以外の熱可塑性樹脂(B)を原料とする他のブロックとを含むブロック共重合体であって、
前記PAS以外の熱可塑性樹脂(B)が、環状構造を有さないものである、ブロック共重合体に関する。
【0009】
また、本開示は、環状PAS(A)と、PAS以外の熱可塑性樹脂(B)とを必須成分として配合し、環状PAS(A)の融点及びPAS以外の熱可塑性樹脂(B)の流動温度以上で溶融混練する工程を有する、ブロック共重合体の製造方法であって、
前記PAS以外の熱可塑性樹脂(B)の配合量が、環状PAS(A)1質量部に対して0.1~1000質量部であることを特徴とする、ブロック共重合体の製造方法に関する。
【0010】
また、本開示は、前記記載のブロック共重合体と他の材料とを含有する、ブロック共重合体組成物に関する。
【0011】
また、本開示は、前記記載のブロック共重合体の製造方法により得られたブロック共重合体と、他の材料とを配合し、溶融混練する工程を有する、ブロック共重合体組成物の製造方法に関する。
【0012】
また、本開示は、前記記載のブロック共重合体を溶融成形してなる成形品に関する。
【0013】
また、本開示は、前記記載のブロック共重合体組成物の製造方法により得られたブロック共重合体組成物を、溶融成形する工程を有する成形品の製造方法に関する。
【0014】
尚、本開示において、繰り返し単位4~40(4量体~40量体の混合物)を有する化合物を「オリゴマー」と称することがある。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、種々の共重合成分を適用可能かつ簡便にPAS樹脂部位を含むブロック共重合体を製造する方法、並びに、ブロック共重合体、組成物及び成形品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施例1の樹脂組成物の走査電子顕微鏡観察により得た画像である。相分離構造が観察されず、均一状態である。
【0017】
【
図2】比較例1の樹脂組成物の走査電子顕微鏡観察により得た画像である。海島状の相分離構造が観察される。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明の範囲はここで説明する一実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更ができる。また、特定のパラメータについて、複数の上限値及び下限値が記載されている場合、これらの上限値及び下限値の内、任意の上限値と下限値とを組み合わせて好適な数値範囲とすることができる。
【0019】
<ブロック共重合体>
本実施形態に係るブロック共重合体は、環状PAS(A)を原料とするPASブロックと、PAS以外の熱可塑性樹脂(B)を原料とする他のブロックとを含むブロック共重合体であって、前記PAS以外の熱可塑性樹脂(B)が、環状構造を有さないものであることを特徴とする、以下、説明する。
【0020】
前記環PAS(A)を原料とするポリアリーレンスルフィドブロック(以下、PASブロック)は、環状PAS(A)に由来する繰り返し単位を有するブロックである。
【0021】
前記PAS以外の熱可塑性樹脂(B)を原料とする他のブロック(以下、単に「他のブロック」という)は、PAS以外であり、かつ、環状構造を有さないの熱可塑性樹脂に由来する繰り返し単位を有するブロックである。
【0022】
本実施形態に係るブロック共重合体において、PASブロックと他のブロックは、各ブロックの繰り返し単位に由来する末端構造同士が直接連結していてもよいし、各ブロックの繰り返し単位以外の構造を介して連結されていてもよい。また、各ブロックの繰り返し数は特に限定されず、同一のブロックを繰り返す部位が構造中に存在しても良い。
【0023】
本実施形態に係るブロック共重合体において、前記PASブロックと他のブロックの含有される比率は特に限定されないが、例えば、PASブロック対他のブロックの質量比率が、1/0.1以上が例示でき、1/0.5以上が好ましく、1/1以上がより好ましい。また、1/1000以下が例示でき、1/800が好ましく、1/600がより好ましく、1/400が更に好ましい。
【0024】
・環状PAS(A)
本実施形態に係るブロック共重合体において、PASブロックの原料となる環状PAS(A)(以下、「(A)成分」という)は、芳香族環と硫黄原子とが結合した構造を繰り返し単位とする環状の樹脂構造を有するものであり、具体的には、下記一般式(1)
【0025】
【化1】
(式中、R
1及びR
2は、それぞれ独立して水素原子、炭素原子数1~4の範囲のアルキル基、ニトロ基、アミノ基、フェニル基、メトキシ基、エトキシ基を表す。)で表される構造部位を繰り返し単位とするポリマーである。
【0026】
ここで、前記一般式(1)で表される構造部位は、特に該式中のR1及びR2は、PASブロックの呈するの機械的強度の点から水素原子であることが好ましく、その場合、下記式(2)で表されるパラ位で結合するものである。
【0027】
【0028】
また、前記(A)成分は、前記一般式(1)や(2)で表される構造部位のみならず、下記の構造式(3)~(6)
【0029】
【化3】
で表される構造部位を、前記一般式(1)と一般式(2)で表される構造部位との合計の30モル%以下で含んでいてもよい。特に本開示では上記一般式(3)~(6)で表される構造部位は10モル%以下であることが、PASブロックが呈するの耐熱性、機械的強度の点から好ましい。前記(A)成分中に、上記一般式(3)~(6)で表される構造部位を含む場合、それらの結合様式としては、ランダム共重合体、ブロック共重合体の何れであってもよい。
【0030】
また、前記(A)成分は、その分子構造中に、ナフチルスルフィド結合などを有していてもよいが、他の構造部位との合計モル数に対して、3モル%以下が好ましく、特に1モル%以下であることが好ましい。
【0031】
前記(A)成分の前記一般式(1)に代表される構造部位の繰り返し数は、本発明の効果を損ねない限り特に限定されないが、反応性に優れる観点から、4~40量体であることが好ましく、より好ましくは5~25量体、更に好ましくは6~17量体である。また、前記(A)成分は単一の繰り返し数を有する環状PASでもよいし、異なる繰り返し数を有する環状PASの混合物のいずれでも良い。なお、前記一般式(1)に代表される構造部位の繰り返し数は、NMRおよび質量分析による構造解析から求めることができる。
【0032】
前記(A)成分の重量平均分子量としては、本発明の効果を損ねない限り特に限定されないが、PASブロックが呈する反応性に優れる観点から、200以上が好ましく。400以上がより好ましく、600以上が更に好ましい。同様の観点から、3000以下であることが好ましく、2500以下であることがより好ましく、1700以下であることが更に好ましい。尚、本開示における重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによって求めることができる。
【0033】
(環状PAS(A)の製造方法)
前記の構造及び性質を有する(A)成分の製造方法は、本発明の効果を損ねない限り特に限定されないが、例えば、有機極性溶媒中で、ポリハロ芳香族化合物と、(i)アルカリ金属硫化物又は(ii)アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物と、を反応させて、少なくとも、PAS樹脂、環状PAS、鎖状PASオリゴマー、アルカリ金属ハロゲン化物及び有機極性溶媒を含む粗反応混合物を得る工程(1)、前記粗反応混合物から、固液分離により固相成分を除去して、少なくとも、環状PAS及び鎖状PASオリゴマーを含む液相成分を得る工程(2)、前記液相成分から環状PASを得る工程(3)を有する方法などにより製造することができる。
【0034】
-工程(1)-
工程(1)は、有機極性溶媒中で、ポリハロ芳香族化合物と、(i)アルカリ金属硫化物又は(ii)アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物と、を反応させて、少なくとも、PAS樹脂、環状PAS、鎖状PASオリゴマー、アルカリ金属ハロゲン化物及び有機極性溶媒を含む粗反応混合物を得る工程である。
【0035】
前記ポリハロ芳香族化合物としては、例えば、芳香族環に直接結合した2個以上のハロゲン原子を有するハロゲン化芳香族化合物であり、具体的には、p-ジクロルベンゼン、o-ジクロルベンゼン、m-ジクロルベンゼン、トリクロルベンゼン、テトラクロルベンゼン、ジブロムベンゼン、ジヨードベンゼン、トリブロムベンゼン、ジブロムナフタレン、トリヨードベンゼン、ジクロルジフェニルベンゼン、ジブロムジフェニルベンゼン、ジクロルベンゾフェノン、ジブロムベンゾフェノン、ジクロルジフェニルエーテル、ジブロムジフェニルエーテル、ジクロルジフェニルスルフィド、ジブロムジフェニルスルフィド、ジクロルビフェニル、ジブロムビフェニルなどのジハロ芳香族化合物及びこれらの混合物が挙げられ、これらの化合物をブロック共重合してもよい。これらの中でも好ましいのはジハロゲン化ベンゼン類であり、特に好ましいのはp-ジクロルベンゼンを80モル%以上含むものである。
【0036】
ニトロ基を有するポリハロ芳香族化合物としては、例えば、2,4-ジニトロクロルベンゼン、2,5-ジクロルニトロベンゼンなどのモノ又はジハロニトロベンゼン類;2-ニトロ-4,4’-ジクロルジフェニルエーテルなどのジハロニトロジフェニルエーテル類;3,3’-ジニトロ-4,4’-ジクロルジフェニルスルホンなどのジハロニトロジフェニルスルホン類;2,5-ジクロル-3-ニトロピリジン、2-クロル-3,5-ジニトロピリジンなどのモノ又はジハロニトロピリジン類;あるいは各種ジハロニトロナフタレン類などが挙げられる。
【0037】
また、前記製造方法においては、アルカリ金属硫化物又はアルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物(以下、スルフィド化剤ということがある)を原料として用いる。
【0038】
前記アルカリ金属硫化物としては、硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウム及びこれらの混合物が含まれる。前記アルカリ金属硫化物は、水和物あるいは水性混合物あるいは無水物として使用することができる。また、アルカリ金属硫化物はアルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物との反応によっても導くことができる。尚、通常、アルカリ金属硫化物中に微量存在するアルカリ金属水硫化物、チオ硫酸アルカリ金属と反応させるために、少量のアルカリ金属水酸化物を加えても差し支えない。
【0039】
前記アルカリ金属水硫化物としては、硫化水素リチウム、硫化水素ナトリウム、硫化水素ルビジウム、硫化水素セシウム及びこれらの混合物が含まれる。かかるアルカリ金属水硫化物は、水和物あるいは水性混合物あるいは無水物として使用することができる。
【0040】
前記アルカリ金属水硫化物は前記アルカリ金属水酸化物と伴に用いる。前記アルカリ金属水酸化物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウムなどが挙げられるが、これらはそれぞれ単独で用いても良いし、2種以上を混合して用いても良い。これらの中でも、入手が容易なことから水酸化リチウムと水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムが好ましく、特に水酸化ナトリウムが好ましい。
【0041】
前記製造方法は、原料として含水スルフィド化剤を用いることもでき、その場合、少なくとも非プロトン性極性溶媒の存在下で、含水スルフィド化剤を脱水する工程を経て、PAS樹脂の重合反応に供することが好ましい。また、非プロトン性極性溶媒の仕込み量が少ない場合、例えば、スルフィド化剤の硫黄原子1モルに対して1モル未満の場合、ポリハロ芳香族化合物の存在下で、含水スルフィド化剤と、非プロトン性極性溶媒とを、脱水させることが好ましい。
【0042】
含水スルフィド化剤の脱水工程は、少なくとも非プロトン性極性溶媒と、含水スルフィド化剤として含水アルカリ金属硫化物又は含水アルカリ水硫化物及びアルカリ金属水酸化物を、蒸留装置が設けられた反応容器に仕込み、水が共沸により除去される温度、具体的には、300℃以下の範囲、好ましくは80~220℃の範囲、より好ましくは100~200℃の範囲にまで加熱して、蒸留により水を系外に排出することにより行う。脱水工程では、重合反応を行う系内の水分量が、スルフィド化剤の硫黄原子1モルに対して、5モル以下、より好ましくは、0.01~2.0モルの範囲となるまで脱水することが好ましい。
【0043】
前記有機極性溶媒としては、ホルムアミド、アセトアミド、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、テトラメチル尿素、N-メチル-2-ピロリドン、2-ピロリドン、N-メチル-ε-カプロラクタム、ε-カプロラクタム、ヘキサメチルホスホルアミド、N-ジメチルプロピレン尿素、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン酸などのアミド、尿素及びラクタム類;スルホラン、ジメチルスルホランなどのスルホラン類;ベンゾニトリルなどのニトリル類;メチルフェニルケトンなどのケトン類及びこれらの混合物を挙げることができ、これらの中でもN-メチル-2-ピロリドン、2-ピロリドン、N-メチル-ε-カプロラクタム、ε-カプロラクタム、ヘキサメチルホスホルアミド、N-ジメチルプロピレン尿素、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン酸の脂肪族系環状構造を有するアミドが好ましく、N-メチル-2-ピロリドンが更に好ましい。
【0044】
PAS重合工程におけるPAS樹脂の重合反応は、これらの有機極性溶媒の存在下、スルフィド化剤として前記アルカリ金属硫化物と、ポリハロ芳香族化合物とを反応させる。又は、PAS樹脂の重合反応は、これらの有機極性溶媒の存在下、スルフィド化剤として前記アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物と、ポリハロ芳香族化合物とを反応させる。重合条件は一般に、温度200~330℃の範囲であり、圧力は重合溶媒及び重合モノマーであるポリハロ芳香族化合物を実質的に液相に保持するような範囲であるべきであり、一般には0.1~20MPaの範囲、好ましくは0.1~2MPaの範囲より選択される。ポリハロ芳香族化合物の仕込量は、前記スルフィド化剤の硫黄原子1モルに対して、0.2モル~5.0モルの範囲、好ましくは0.8~1.3モルの範囲、更に好ましくは0.9~1.1モルの範囲となるよう調整する。また、非プロトン性極性溶媒の仕込量は、スルフィド化剤の硫黄原子1モルに対して、1.0~6.0モルの範囲、好ましくは2.5~4.5モルの範囲となるよう調整する。尚、重合反応は少量の水の存在下に行うことが好ましく、その割合は、重合方法や得られるポリマーの分子量や生産性との兼ね合いで適宜調整することが好ましい。具体的には、スルフィド化剤の硫黄原子1モルに対して2.0モル以下、好ましくは1.6モル以下の範囲となるよう脱水操作を行うが、更にポリハロ芳香族化合物の存在下で脱水操作を行う場合(例えば、下記具体的態様における「5)」の方法)においては0.9モル以下、好ましくは0.05~0.3モル、より好ましくは0.01~0.02モル以下の範囲となるよう脱水操作を行えばよい。
【0045】
前記した非プロトン性極性溶媒の存在下、スルフィド化剤とポリハロ芳香族化合物とを重合させる具体的態様としては、例えば、
1)アルカリ金属カルボン酸塩又はハロゲン化リチウムなどの重合助剤を使用する方法、
2)芳香族ポリハロゲン化合物などの分岐剤を使用する方法、
3)少量の水の存在下に重合反応を行い次いで水を追加して更に重合する方法、
4)アルカリ金属硫化物と芳香族ジハロゲン化合物との反応中に、反応釜の気相部分を冷却して反応釜内の気相の一部を凝縮させ液相に還流させる方法、
5)ポリハロ芳香族化合物の存在下、アルカリ金属硫化物、又は含水アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物と、脂肪族環状構造を有するアミド、尿素又はラクタムとを、脱水させながら反応させて固形のアルカリ金属硫化物を含むスラリーを製造する工程、前記スラリーを製造した後、更にNMPなどの極性有機溶媒を加え、水を留去して脱水を行う工程、次いで、脱水工程を経て得られたスラリー中で、ポリハロ芳香族化合物と、アルカリ金属水硫化物と、前記脂肪族環状構造を有するアミド、尿素又はラクタムの加水分解物のアルカリ金属塩とを、NMPなどの極性有機溶媒1モルに対して反応系内に現存する水分量が0.02モル以下で反応させて重合を行う工程を必須の製造工程として有するPAS樹脂の製造方法、が挙げられる。
【0046】
このように、有機極性溶媒中で、ジハロ芳香族化合物と、(i)アルカリ金属硫化物又は(ii)アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物と、を重合反応させることにより、生成物として、PAS樹脂、環状PASや鎖状PASオリゴマーなどの混合物が得られる。反応後に含まれる物質としては、その他に、例えば、アルカリ金属含有無機塩、カルボキシアルキルアミノ基含有化合物、末端SH基含有化合物などの副生成物や未反応原料、水が含まれていても良い。
【0047】
-工程(2)-
工程(2)は、粗反応混合物から、固液分離により固相成分を除去して、少なくとも、環状PAS及び鎖状PASオリゴマーを含む液相成分を得る工程である。
【0048】
前記固液分離には大きく分けて、後述するフラッシュ法とクウェンチ法の2種類があり、クウェンチ法が好ましい。
【0049】
クウェンチ法は、粗反応混合物を除冷して粒子状のPAS樹脂を分離する方法であり、一般的に、粗反応混合物を高温高圧の状態から徐々に冷却して反応系内のPAS樹脂を晶析させた後に、濾別などにより固液分離することでPAS樹脂を含む固形分を顆粒として分離する方法である。一般的に高分子の分子量が大きくなるにつれて高分子間の相互作用が強くなるため、溶媒への溶解性は悪くなる。したがって、本工程ではPAS樹脂は析出して固形物となり、環状PASやオリゴマーは溶媒に溶解したままとなる。クウェンチでの冷却時間には特に制限は無いが、通常0.1℃/分~3℃/分が好ましい範囲である。また、徐冷工程の全行程において同一速度で徐冷する必要もなく、PAS樹脂の顆粒状物が晶析するまでは0.1℃/分~1℃/分の範囲とし、その後は1℃/分以上の速度で冷却する方法なども好ましい。最終的には70℃以上、好ましくは100℃以上かつ、200℃以下まで冷却し、その後、固液分離することでPAS樹脂を含む固形分を除去することが好ましい。クウェンチ法における固液分離は、濾過やスクリューデカンターなどの遠心分離機を用いて分離した後、得られた濾過残渣に直接水を加えスラリー化したのち、固液分離を繰り返し行う方法や、得られた濾過残渣を非酸化性雰囲気下で加熱して、残存する溶媒を除去する方法などが挙げられる。
【0050】
その際、必要に応じて、該粗反応混合物中の有機極性溶媒の一部もしくは大部分を蒸留によって除去する工程を有していてもよく、当該工程を行った後に、該粗反応混合物を濾過による固液分離操作を行って固相成分を除去してもよい。また、該粗反応混合物に対し、又は、好ましくは、固液分離した後に得られた固形分(スラリー)に対し、水又は有機極性溶媒を接触させることにより洗浄する工程を有していてもよい。
【0051】
-工程(3)-
工程(3)は、前記液相成分から環状PASを得る工程である。液相成分から環状PASを得る方法は、本発明の効果を損ねない限り、特に限定されず公知の方法を用いることができる。例えば、加熱により有機極性溶媒を除去した後、有機溶媒や水を用いて残渣を洗浄し、更に有機溶媒を用いて環状PASを抽出及び精製する方法(特開2020-007490号公報参照)や、膜を利用して有機極性溶媒を除去した後、有機溶媒や水を用いて残渣を洗浄し、更に有機溶媒を用いて環状PASを抽出及び精製する方法等が挙げられる。
【0052】
有機極性溶媒を除去する際、不揮発分の割合が20~100質量%、好ましくは20~99.99質量%、更に好ましくは30~90質量%の範囲となるよう溶剤を除去することが望ましい。加熱による溶剤の除去を行う際の温度は用いる溶剤の特性に依存するため一意的には限定できないが、通常、20~150℃、好ましくは40~120℃の範囲が選択できる。また、溶剤の除去を行う圧力は常圧以下が好ましく、これにより溶剤の除去をより低温で行うことが可能になる。
【0053】
このようにして得られた環状PASの純度は好ましくは90質量%以上、より好ましくは96質量%以上、更に好ましくは98質量%以上から、好ましくは100質量%以下、より好ましくは99.99質量%以下の範囲である。かかる範囲において、共重合体を製造する際の反応効率に優れ、かつ、副生物を低減できる。
【0054】
・ポリアリーレンスルフィド以外の熱可塑性樹脂(B)
本実施形態に係るブロック共重合体において、他のブロックの原料としてPAS以外の熱可塑性樹脂(B)(以下、「(B)成分」という)を用いる。当該(B)成分としては、本発明の効果を損ねない限り特に限定されず、PAS樹脂以外であれば公知の熱可塑性樹脂を用いることができる。また、(A)成分との反応性の観点から、構造中に反応性官能基(例えば、酸素原子又は窒素原子を含む官能基)を有するものや、熱分解により反応性官能基又は重合性官能基を末端に生成するものが好ましく、例えば、酸無水物基,エポキシ基、アミノ基、エステル基、アミド基、水酸基、カルボキシル基、酸塩化物基、イソシアネート基、ビニル基等を含有するモノマーを用いて縮合重合や付加重合、開環重合して得られる熱可塑性樹脂を挙げることができる。
【0055】
本実施形態に適応できる(B)成分としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(4-メチル-1-ペンテン)、ポリ(1-ブテン)等のポリオレフィン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂;ポリアミド-6(ナイロン-6)、ポリアミド-66(ナイロン-66)、ポリメタキシレンアジパミド等のポリアミド系樹脂;エチレン・ビニルエステル共重合体、エチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体等のエチレン・不飽和エステル系共重合体;エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体又はそのアイオノマー樹脂;ポリ(メタ)アクリル酸エステル樹脂等のポリ(メタ)アクリル系樹脂;ポリスチレン系樹脂;ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルスルフィドスルホン樹脂、ポリエーテルスルフィド樹脂、ポリフェニルエーテル樹脂等のポリエーテル系樹脂;ポリカーボネート系樹脂;ポリ酢酸ビニル系樹脂;ポリアクリロニトリル系樹脂;熱可塑性エラストマー;液晶ポリマー(LCP)等が挙げられる。また、目的に応じて、これらの熱可塑性樹脂のうちから選択される1種を単独で用いてよいし、2種以上を組み合わせて用いてよいし、共重合体でもよい。特に、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂を用いることが好ましい。
【0056】
また、本実施形態に適用できる(B)成分としては、環状構造を有さない熱可塑性樹脂であることが、得られる共重合体の機械的特性や加工性の観点から好ましい。尚、(B)成分は構造中に分岐構造を有していてもよい。
【0057】
本実施形態に適用できる(B)成分の性質は、本発明の効果を損ねない限り特に限定されないが、例えば、結晶性樹脂の場合には融点が80℃以上であることが好ましく、100℃以上であることがより好ましい。同様に、非晶性樹脂の場合にはガラス転移点が80℃以上であることが好ましく、100℃以上であることがより好ましい。かかる範囲において、溶融混練時の分解が抑制され、また、(A)成分との相溶性に優れるため、反応効率に優れる。
【0058】
<ブロック共重合体の製造方法>
本実施形態に係るブロック共重合体の製造方法は、環状PAS(A)と、PAS以外の熱可塑性樹脂(B)とを必須成分として配合し、環状PAS(A)の融点及びPAS以外の熱可塑性樹脂(B)の流動温度以上で溶融混練する工程を有する、ブロック共重合体の製造方法であって、前記PAS以外の熱可塑性樹脂(B)の配合量が、環状PAS(A)1質量部に対して0.1~1000質量部であることを特徴とする。以下、詳述する。
【0059】
本実施形態に係るブロック共重合体の製造方法は、前記(A)成分と(B)成分とを必須成分として配合し、(A)成分の融点、及び、(B)成分の流動温度以上の温度範囲で溶融混練する工程を有する。尚、本開示において流動温度とは、加熱により軟化流動した状態になる温度(結晶性樹脂の場合には融点、ないし、非結晶性樹脂の場合にはガラス転移点であってよい。)である。本実施形態で用いるブロック共重合体を製造する方法としては、特に限定されないが、必須成分と必要に応じて任意成分を配合して、溶融混練する方法、より詳しくは、必要に応じてタンブラー又はヘンシェルミキサー等で均一に乾式混合し、次いで、二軸押出機に投入して溶融混練する方法が挙げられる。
【0060】
(B)成分の配合量は、前記(A)成分1質量部に対して0.1質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましく、3質量部以上が更に好ましく、5質量部以上が特に好ましい。また、1000質量部以下が好ましく、800質量部以下がより好ましく、400質量部以下が更に好ましく、100質量部以下が特に好ましい。かかる範囲において、溶融混練時の反応性に優れ、また、得られるブロック共重合体が優れた加工性や機械的特性を呈する。
【0061】
溶融混練は、樹脂温度が(A)成分の融点、及び、(B)成分の流動温度以上となる温度範囲、好ましくは該温度+10℃以上となる温度範囲、より好ましくは該温度+10℃以上、更に好ましくは該温度+20℃以上から、好ましくは該温度+100℃以下、より好ましくは該温度+50℃以下までの範囲の温度に加熱して行うことができる。(A)成分の融点、及び、(B)成分の流動温度以上で溶融混練することで、各必須成分が十分に混練中に流動するため、加工性及び反応効率に優れる。
【0062】
前記溶融混練機としては分散性や生産性の観点から二軸混練押出機が好ましく、例えば、樹脂成分の吐出量5~500(kg/hr)の範囲と、スクリュー回転数50~500(rpm)の範囲とを適宜調整しながら溶融混練することが好ましく、それらの比率(吐出量/スクリュー回転数)が0.02~5(kg/hr/rpm)の範囲となる条件下に溶融混練することが更に好ましい。また、溶融混練機への各成分の添加、混合は同時に行ってもよいし、分割して行っても良い。
【0063】
本実施形態に係るブロック共重合体の製造方法は、該溶融混練後に、公知の方法、例えば、溶融状態の樹脂組成物をストランド状に押出成形した後、ペレット、チップ、顆粒、粉末などの形態に加工してから、必要に応じて100~150℃の温度範囲で予備乾燥を施すことが好ましい。
【0064】
本開示のブロック共重合体の製造方法は、溶融混練する工程において、(A)成分と、(B)成分との少なくとも一部が共重合体を形成する。この共重合体は、後続の溶融成形工程や使用環境においても維持される。共重合体を形成する理由は必ずしも明らかではないが、以下のメカニズムによるものと推測される。すなわち、上記(A)成分と上記(B)成分を必須成分として配合し、溶融混練することによって、まず、(A)成分が開環し、それに伴い反応性官能基を有する末端が形成される。当該反応性官能基が、(B)成分を構成する反応性官能基と反応して結合を形成することで、共重合体が形成される。(A)成分由来の反応性官能基は、(B)成分の末端に存在する反応性官能基と反応する場合もあるし、(B)成分の主鎖中の反応性官能基と反応する場合もあると考えられる。他のメカニズムとして、溶融混練中に(B)成分の一部が熱分解して反応性官能基や重合性官能基が生じ、そこに(A)成分由来の反応性官能基が結合を形成することで、共重合体が形成される。尚、前記メカニズムはあくまで推測のものであり、他の理由により本発明の効果が奏される場合であっても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0065】
本開示の製造方法によってブロック共重合体が製造されていることは、例えば、示差走査熱量計や動的粘弾性測定によるガラス転移点の測定や、走査型電子顕微鏡(SEM)等による相状態の観察、フーリエ変換赤外分光装置や核磁気共鳴装置等を用いた化学構造の同定等、公知の方法で確認することができる。例えば、示査走査熱量計を用いる場合には、共重合体であれば単一のガラス転移点が観測されるため昇温する際のガラス転移点を測定して確認することができる。
【0066】
以上の工程を経て得られたブロック共重合体は、そのまま溶融成形することもできるし、更に下記に示すような材料(以下、単に「他の材料」ということがある)と配合して、更に溶融混練することでブロック共重合体組成物(以下、単に「組成物」ということがある)を製造することもできる。
【0067】
<ブロック共重合体組成物、ブロック共重合体組成物の製造方法>
本実施形態に係る樹脂組成物は、ブロック共重合体と他の材料とを含有するしてなる。また、本実施形態に係る樹脂組成物の製造方法は、前記記載のブロック共重合体の製造方法により得られたブロック共重合体と、他の材料とを配合し、溶融混練する工程を有することを特徴とする。また、本発明の他の実施形態の一つとしては、環状PAS(A)と、PAS以外の熱可塑性樹脂(B)と、他の材料を配合し、溶融混練する工程を有する樹脂組成物の製造方法に係るものである。以下、詳述する。
【0068】
本実施形態に係る組成物は、機械的特性を更に高める観点から、必要に応じて、シランカップリング剤を任意成分として配合することができる。シランカップリング剤としては、本発明の効果を損ねなければ特に限定されないが、カルボキシ基と反応する官能基、例えば、エポキシ基、イソシアナト基、アミノ基又は水酸基を有するシランカップリング剤が好ましいものとして挙げられる。このようなシランカップリング剤としては、例えば、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシ基含有アルコキシシラン化合物、γ-イソシアナトプロピルトリメトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルメチルジメトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルメチルジエトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルエチルジメトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルエチルジエトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルトリクロロシラン等のイソシアナト基含有アルコキシシラン化合物、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ基含有アルコキシシラン化合物、γ-ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-ヒドロキシプロピルトリエトキシシラン等の水酸基含有アルコキシシラン化合物が挙げられる。
【0069】
シランカップリング剤の配合量は、本発明の効果を損ねなければその添加量は特に限定されないが、前記ブロック共重合100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上から、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下までの範囲である。かかる範囲において、樹脂組成物が良好な成形性、特に離形性を有し、かつ成形品の機械的強度が向上するため好ましい。
【0070】
本実施形態に係る組成物は、機械的を更に高める観点から、必要に応じて、充填剤を任意成分として配合することができる。ここで、無機充填剤としては本発明の効果を損なうものでなければ公知慣用の材料を用いることもでき、例えば、粒状や板状のものなど、様々な形状の充填剤が挙げられる。例えば、ガラス繊維、炭素繊維、シランガラス繊維、セラミック繊維、アラミド繊維、金属繊維、チタン酸カリウム、炭化珪素、珪酸カルシウム、ワラストナイト等の繊維、天然繊維等の繊維状充填剤が使用でき、またガラスビーズ、ガラスフレーク、硫酸バリウム、クレー、パイロフィライト、ベントナイト、セリサイト、マイカ、タルク、アタパルジャイト、フェライト、珪酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ゼオライト、ミルドファイバー、硫酸カルシウム等の非繊維状充填剤使用できる。尚、これらの無機充填剤については、表面処理をすることも可能であり、必要に応じて、エポキシ系化合物、イソシアネート系化合物、シラン系化合物、チタネート系化合物、ボラン処理、セラミックコート等を施すことができる。
【0071】
無機充填剤の含有量は、特に限定はされないが、より優れた機械的特性や寸法安定性の観点から、前記ブロック共重合100質量部に対して5質量部以上であることが好ましく、10量部以上であることがより好ましく、20質量部以上であることが更に好ましい。また、より優れた樹脂組成物の流動性や加工性、成形品表面の平滑性を得る観点から、前記ブロック共重合100質量部に対して350質量部以下であることがより好ましく、300質量部以下であることが更に好ましく、250質量部以下であることが特に好ましい。
【0072】
本実施形態に係る組成物は、上記成分に加えて、更に耐冷熱衝撃性や耐衝撃性を向上させる目的で、熱可塑性エラストマーを任意成分として配合することができる。当該熱可塑性エラストマーとしては、ポリオレフィン系エラストマー、弗素系エラストマー又はシリコーン系エラストマーが挙げられ、このうちポリオレフィン系エラストマーが好ましいものとして挙げられる。これらの熱可塑性エラストマーの配合量は、前記ブロック共重合100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは1質量部以上から、好ましくは20質量部以下、より好ましくは10質量部以下までの範囲である。かかる範囲において、成形性及び機械的特性、特に、耐衝撃性に優れた成形品が得られる。
【0073】
例えば、前記ポリオレフィン系エラストマーとしては、α-オレフィンの単独重合体、又は2以上のα-オレフィンの共重合体、1又は2以上のα-オレフィンと、官能基を有するビニル重合性化合物との共重合体が挙げられ、この際、前記α-オレフィンとしては、エチレン、プロピレン、1-ブテン等の炭素原子数が2以上から8以下までの範囲のα-オレフィンが挙げられる。また、前記官能基としては、カルボキシ基、酸無水物基(-C(=O)OC(=O)-)、エポキシ基、アミノ基、水酸基、メルカプト基、イソシアネート基、オキサゾリン基等が挙げられる。そして、前記官能基を有するビニル重合性化合物としては、酢酸ビニル;(メタ)アクリル酸等のα,β-不飽和カルボン酸;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル等のα,β-不飽和カルボン酸のアルキルエステル;アイオノマー等のα,β-不飽和カルボン酸の金属塩(金属としてはナトリウムなどのアルカリ金属、カルシウムなどのアルカリ土類金属、亜鉛等);グリシジルメタクリレート等のα,β-不飽和カルボン酸のグリシジルエステル等;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等のα,β-不飽和ジカルボン酸;前記α,β-不飽和ジカルボン酸の誘導体(モノエステル、ジエステル、酸無水物)等の1種又は2種以上が挙げられる。上述の熱可塑性エラストマーは、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0074】
更に、本実施形態に係る組成物は、上記成分に加えて、更に用途に応じて、適宜、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリスルフォン樹脂、ポリエーテルスルフォン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ四フッ化エチレン樹脂、ポリ二フッ化エチレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、液晶ポリマー等の合成樹脂(以下、単に合成樹脂という)を任意成分として配合することができる。特に、フッ素系樹脂を配合すると摺動性がより向上するため好ましい。本開示において前記合成樹脂は必須成分ではないが、配合する場合、その配合の割合は本発明の効果を損ねなければ特に限定されるものではなく、また、それぞれの目的に応じて異なり、一概に規定することはできないが、本開示に係る樹脂組成物中に配合する合成樹脂の割合として、例えばブロック共重合100質量部に対し5質量部以上の範囲であり、15質量部以下の範囲の程度が挙げられる。換言すれば、ブロック共重合と合成樹脂との合計に対してブロック共重合の割合は質量基準で、好ましくは(100/115)以上の範囲であり、より好ましくは(100/105)以上の範囲である。
【0075】
また本実施形態に係る組成物は、その他にも着色剤、帯電防止剤、酸化防止剤、耐熱安定剤、紫外線安定剤、紫外線吸収剤、発泡剤、難燃剤、難燃助剤、防錆剤、及び離型剤(ステアリン酸やモンタン酸を含む炭素原子数18~30の脂肪酸の金属塩やエステル、ポリエチレン等のポリオレフィン系ワックスなど)等の公知慣用の添加剤を必要に応じ、任意成分として配合してもよい。これらの添加剤は必須成分ではなく、例えば、ブロック共重合100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上の範囲であり、そして、好ましくは1000質量部以下、より好ましくは100質量部以下、更に好ましくは10質量部以下の範囲で、本発明の効果を損なわないよう目的や用途に応じて適宜調整して用いればよい。
【0076】
本実施形態に係る組成物の製造方法は、前記記載のブロック共重合体の製造方法により得られたブロック共重合体と、上記の任意成分とを配合し、溶融混練する工程を有する。溶融混練は、上記記載のブロック共重合体の製造方法と同様に行うことができる。すなわち、前記ブロック共重合体と、上記の任意成分である他の成分とを配合し、ブロック共重合体の融点以上の温度範囲で溶融混練する工程を有する。
【0077】
また、本開示の他の実施形態の一つとしては、前記(A)成分と、前記(B)成分と、更に上記の任意成分である他の成分とを配合し、溶融混練する工程を有するブロック共重合体組成物の製造方法に係るものである。例えば、上記の任意成分のうち、充填剤や添加剤を配合することで、工程を削減しながら機械的特性や加工性に優れるブロック共重合体組成物を得ることができる。
【0078】
また、例えば、必要に応じて任意成分として繊維状充填剤を添加する場合は、前記二軸混練押出機のサイドフィーダーから該押出機内に投入することが分散性の観点から好ましい。かかるサイドフィーダーの位置は、前記二軸混練押出機のスクリュー全長に対する、該押出機樹脂投入部(トップフィーダー)から該サイドフィーダーまでの距離の比率が、0.1以上であることが好ましく、0.3以上であることがより好ましい。また、かかる比率は0.9以下であることが好ましく、0.7以下であることがより好ましい。
【0079】
<成形品、成形品の製造方法>
本実施形態に係る成形品は前記ブロック共重合体又は前記組成物を溶融成形してなる。また、本実施形態に係る成形品の製造方法は、前記ブロック共重合体又は前記組成物を溶融成形する工程を有する。以下、詳述する。
【0080】
本実施形態に係るブロック共重合体やブロック共重合組成物は、射出成形、圧縮成形、コンポジット、シート、パイプなどの押出成形、引抜成形、ブロー成形、トランスファー成形など各種成形に供することが可能であるが、特に離形性にも優れるため射出成形用途に適している。射出成形にて成形する場合、各種成形条件は特に限定されず、通常一般的な方法にて成形することができる。例えば、射出成形機内で、樹脂温度が前記ブロック共重合体又は前記組成物の融点以上となる温度範囲、好ましくは該温度+10℃以上の温度範囲、より好ましくは該温度+10℃~該温度+100℃の温度範囲、更に好ましくは該温度+20~該温度+50℃の温度範囲で前記組成物を溶融する工程を経た後、樹脂吐出口よりを金型内に注入して成形すればよい。その際、金型温度も公知の温度範囲、例えば、室温(23℃)~300℃、好ましくは130~190℃に設定すればよい。
【0081】
<用途>
本実施形態に係るブロック共重合体は、通常の樹脂と同様に、組成物や成形品のマトリクス樹脂として用いることができる。その他、相溶化剤としても用いることができ、特に、PAS樹脂組成物に配合することで、他樹脂との優れた相溶効果を呈する。当該用途として用いる場合、PAS樹脂100質量部に対して、0.01~10質量部の範囲で配合することが好ましい。かかる範囲を超えて配合する場合、機械的性質に乏しくなる可能性があり、かかる範囲未満である場合には相溶化剤としての機能を十分に発揮できない。
【0082】
また、本実施形態のブロック共重合体、樹脂組成物及び成形体は、自動車部品用途や電気電子部品用途、水廻り用途などの各種部品に好適である。具体的には、例えば、箱型の電気・電子部品集積モジュール用保護・支持部材・複数の個別半導体又はモジュール、センサ、LEDランプ、コネクタ、ソケット、抵抗器、リレーケース、スイッチ、コイルボビン、コンデンサ、バリコンケース、光ピックアップ、発振子、各種端子板、変成器、プラグ、プリント基板、チューナ、スピーカ、マイクロフォン、ヘッドフォン、小型モーター、磁気ヘッドベース、パワーモジュール、端子台、半導体、液晶、FDDキャリッジ、FDDシャーシ、モーターブラッシュホルダ、パラボラアンテナ、コンピュータ関連部品等に代表される電気・電子部品;VTR部品、テレビ部品、アイロン、ヘアードライヤ、炊飯器部品、電子レンジ部品、音響部品、オーディオ・レーザディスク・コンパクトディスク・DVDディスク・ブルーレイディスク等の音声・映像機器部品、照明部品、冷蔵庫部品、エアコン部品、タイプライタ部品、ワードプロセッサ部品、あるいは給湯機や風呂の湯量、温度センサなどの水回り機器部品等に代表される家庭、事務電気製品部品;オフィスコンピュータ関連部品、電話器関連部品、ファクシミリ関連部品、複写機関連部品、洗浄用治具、モーター部品、ライタ、タイプライタなどに代表される機械関連部品:顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計等に代表される光学機器、精密機械関連部品;オルタネーターターミナル、オルタネーターコネクタ、ブラシホルダー、スリップリング、ICレギュレータ、ライトディマ用ポテンシオメーターベース、リレーブロック、インヒビタースイッチ、排気ガスバルブ等の各種バルブ、燃料関係・排気系・吸気系各種パイプ、エアーインテークノズルスノーケル、インテークマニホールド、エンジン冷却水ジョイント、キャブレターメインボディ、キャブレタースペーサ、排気ガスセンサ、冷却水センサ、油温センサ、ブレーキパットウェアーセンサ、スロットルポジションセンサ、クランクシャフトポジションセンサ、温度センサ、エアーフローメータ、ブレーキパッド摩耗センサ、エアコン用サーモスタットベース、暖房温風フローコントロールバルブ、ラジエーターモーター用ブラッシュホルダ、ウォーターポンプインペラ、タービンベイン、ワイパーモーター関係部品、デュストリビュータ、スタータースイッチ、イグニッションコイル及びそのボビン、モーターインシュレータ、モーターロータ、モーターコア、スターターリレ、トランスミッション用ワイヤーハーネス、ウィンドウォッシャーノズル、エアコンパネルスイッチ基板、燃料関係電磁気弁用コイル、ヒューズ用コネクタ、ホーンターミナル、電装部品絶縁板、ステップモーターロータ、ランプソケット、ランプリフレクタ、ランプハウジング、ブレーキピストン、ソレノイドボビン、エンジンオイルフィルタ、点火装置ケース等の自動車・車両関連部品が挙げられ、その他各種用途にも適用可能である。
【実施例0083】
以下、実施例、比較例を用いて説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。尚、以下、特に断りが無い場合「%」や「部」は質量基準とする。
【0084】
<実施例1~3及び比較例1>
表1に記載する組成成分及び配合量にしたがい、各材料を配合した。その後、株式会社日本製鋼所製ベント付2軸押出機「TEX-30α(製品名)」にこれら配合材料を投入し、樹脂成分吐出量30kg/hr、スクリュー回転数200rpm、設定樹脂温度320℃で溶融混練して樹脂組成物のペレットを得た。予め均一に混合しトップフィーダーから投入して、樹脂組成物のペレット得た。得られた樹脂組成物のペレットを用いて下記の試験を行った。
【0085】
<参考例1~3>
表1に記載する材料を単体で用いて、下記の試験を行った。
【0086】
<評価>
【0087】
(1)DSC測定
各実施例、比較例、参考例のペレット又は材料を340℃でプレスしたのち、急冷することによって非晶性を示すフィルムを作製した。得られたフィルムを試験片として、示差走査熱量計(Perkin Elmer社製「DSC8500」)を用いて、以下の条件で測定した。昇温速度20℃/minで30℃から330℃まで昇温し、3分保持してから、降温速度20℃/minで330℃から30℃まで冷却し、再び昇温速度20℃/minで30℃から330℃まで昇温した。一度目の昇温の際に、ガラス転移点(Tg、℃)と融点(Tm、℃)を測定し、降温の際に、結晶化温度(Tmc、℃)を測定した。結果を表1に示す。
【0088】
(2)相状態の評価
(1)で作成した各フィルムの表面について、走査電子顕微鏡(SEM)装置(日本電子株式会社製「JSM-6360A」)を用いて2000倍で観察し、相状態を評価した。
【0089】
【0090】
尚、表1中の配合成分の配合比率は下記のものを用いた。
【0091】
・環状PAS:6~17量体の混合物
・鎖状PAS:重量平均分子量15000
・PA6T:ソルベイスペシャルティポリマーズジャパン株式会社製「A6000」、310℃
【0092】
(製造例1) 環状PASの製造
圧力計、温度計、コンデンサ-を連結した撹拌翼及び底弁付き150Lオートクレーブに、フレーク状硫化ソーダ(60.3重量%Na2S)19.413kg(150モル)と、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)45.0kg(454モル)を仕込んだ。窒素気流下攪拌しながら209℃まで昇温して、水4.644kgを留出させた(残存する水分量は硫化ソーダ1モル当り1.13モル)。その後、オートクレーブを密閉して180℃まで冷却し、p-ジクロロベンゼン21.631kg(147モル)及びNMP18.0kg(182モル)を仕込んだ。液温150℃で窒素ガスを用いてゲージ圧で0.1MPaに加圧して昇温を開始した。液温240℃まで135分かけて昇温し30分保持した。その後40分かけて液温250℃まで昇温し73分保持して反応を完結させた。その後、オートクレーブを冷却した。100℃でオートクレーブの底弁を開き、反応スラリーを150L平板濾過機に移送し120℃で加圧濾過し、NMP48.0kgを加え、再度加圧ケーキ洗浄濾過した。回収したNMP濾液の重量は80.0kgであった。
得られたNMP濾液に水を添加して水スラリー化したあと、固液分離と水洗浄を2回繰り返し、その後120℃熱風乾燥機で4時間乾燥して粉体を得た。得られた粉体にクロロホルムを加えて、65℃で1時間攪拌した。室温まで冷却した後、濾過し、濾過後の残渣に25℃のクロロホルムを加えて洗浄し、濾液除去後の固形分を120℃熱風乾燥機で4時間乾燥して、環状PASを得た。
【0093】
(製造例2) 鎖状PASの製造
圧力計、温度計、コンデンサを連結した撹拌翼及び底弁付き150Lオートクレーブに、45%水硫化ソーダ(47.55重量%NaSH)14.148kg、48%苛性ソーダ(48.8重量%NaOH)9.541kgと、NMP38.0kgを仕込んだ。窒素気流下攪拌しながら209℃まで昇温して、水12.150kgを留出させた(残存する水分量はNaSH1モル当り1.13モル)。その後、オートクレーブを密閉して180℃まで冷却し、パラジクロロベンゼン17.874kg及びNMP16.0kgを仕込んだ。液温150℃で窒素ガスを用いてゲージ圧で0.1MPaに加圧して昇温を開始した。昇温して260℃になった時点でオートクレーブ上部を散水することで冷却しながら、260℃で2時間反応した。オートクレーブ上部を冷却中、液温が下がらないように一定に保持した。次に降温させると共にオートクレーブ上部の冷却を止めた。反応中の最高圧力は、0.87MPaであった。反応後、冷却し、100℃で底弁を開き、反応スラリーを150L平板濾過機に移送し120℃で加圧濾過した。得られたケーキに70℃温水50kgを加え撹拌したのち、濾過し、更に温水25kgを加え濾過した。次に温水25kgを加え1時間撹拌し、濾過したのち、温水25kgを加え濾過する操作を2回繰り返した。得られたケーキを、熱風循環乾燥機を用いて120℃で15時間乾燥し、鎖状PASを得た。
【0094】
表1から、実施例の組成物は、単一のガラス転移点、融点、結晶化温度を有することが示された。また、当該熱的性質は、原料である環状PASとポリアミドとは相違する温度であったことから、実施例の組成物が共重合体を形成していることが示唆された。比較例1の鎖状PASを用いた組成物は、用いた原料に由来してそれぞれの2つずつガラス転移点、融点、結晶化温度を有したことから、共重合体を形成せず、単なるアロイであることが示唆された。