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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024162115
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】送信装置及び受信装置
(51)【国際特許分類】
   H04J 99/00 20090101AFI20241114BHJP
   H03M 13/45 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
H04J99/00 100
H03M13/45
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023077340
(22)【出願日】2023-05-09
(71)【出願人】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】小泉 雄貴
(72)【発明者】
【氏名】小島 政明
(72)【発明者】
【氏名】亀井 雅
【テーマコード(参考)】
5J065
【Fターム(参考)】
5J065AC02
5J065AD03
5J065AG05
(57)【要約】
【課題】信号分離手法SICと比較して、非線形伝送路における復号性能を向上する。
【解決手段】送信装置は、主信号とパイロット信号とを同一周波数帯で直交変調し、時分割多重して、LDM信号として送信する。受信装置は、主信号とパイロット信号とを同一周波数帯で直交変調し、時分割多重したLDM信号を受信し、UL信号の復号結果に応じて、パイロット信号処理部で得られた、非線形歪を考慮した基準点を選択し、選択した基準点を用いてLL信号の復号をする。別な態様の受信装置は、主信号とパイロット信号とを同一周波数帯で直交変調し、時分割多重したLDM信号を受信し、パイロット信号処理部で得られた、非線形歪を考慮した基準点を用いて、UL信号の復号とユークリッド距離を計算し、UL信号の復号結果に応じて、計算したユークリッド距離を選択し、ユークリッド距離を用いてLL信号の復号をする。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2系統の伝送路符号化方式の変調信号をそれぞれ高階層及び低階層とし、2系統の前記変調信号を異なるレベルで電力を調整し合成して、主信号として出力する主信号生成部と、
ARIB STD―B44に準拠した手法で高階層用パイロット信号及び低階層用パイロット信号を生成し、前記高階層用パイロット信号と前記低階層用パイロット信号とを合成して、パイロット信号として出力するパイロット信号生成部と、
前記主信号と前記パイロット信号とを同一周波数帯で直交変調し、時分割多重する直交変調/時分割多重部と、
を備えた送信装置。
【請求項2】
前記主信号生成部は、入力された高階層用伝送情報及び低階層用伝送情報をそれぞれ誤り訂正符号化する高階層用及び低階層用の誤り訂正符号化部と、誤り訂正符号化された、前記高階層用伝送情報及び前記低階層用伝送情報を、それぞれ設定した変調方式でマッピングする高階層用及び低階層用のマッピング部と、マッピングされた、前記高階層用伝送情報及び前記低階層用伝送情報を、インジェクションレベルに応じて電力比を調整する高階層用及び低階層用の電力調整部と、電力比が調整された、前記高階層用伝送情報及び前記低階層用伝送情報を合成して前記主信号として出力する合成部と、を備えた請求項1に記載の送信装置。
【請求項3】
高階層用と低階層用の2系統の伝送路符号化方式の変調信号を異なる電力で合成した主信号と、高階層用パイロット信号及び低階層用パイロット信号を合成したパイロット信号とを同一周波数帯で直交変調したLDM信号を受信し、該LDM信号に直交復調処理を施してLDMシンボル及びパイロット信号を抽出する直交復調部と、
前記LDMシンボルについて、高階層用のシンボルとみなし、前記LDMシンボルが取りうる全てのシンボル位置又は高階層用として予め定めた変調方式に従うシンボル位置を示す基準点を用いて対数尤度比を計算し、該対数尤度比を示す高階層信号を生成する、高階層用の対数尤度比計算部と、
前記高階層信号に対して、高階層用として予め定めた誤り訂正復号処理を施し、前記高階層信号の復号ビットを生成する、高階層用の誤り訂正復号部と、
前記パイロット信号を取得し、平均処理を施し、非線形歪の影響を考慮した基準点を取得するパイロット信号処理部と、
前記高階層信号の復号ビットに基づいて、前記パイロット信号から得られた前記基準点から、受信した前記LDMシンボルにおける低階層用のシンボルが取りうるシンボル位置を示す基準点を選択することにより、前記高階層信号の復号ビットに応じて低階層復号用の対数尤度比の計算に用いる基準点を決定する基準点選択部と、
前記基準点選択部により決定した前記基準点に基づいて、前記高階層信号に対応する受信した前記LDMシンボルに対する対数尤度比を計算し、該対数尤度比を示す低階層信号を生成する低階層用の対数尤度比計算部と、
前記低階層信号に対して、低階層用として予め定めた誤り訂正復号処理を施し、前記低階層信号の復号ビットを生成する低階層用の誤り訂正復号部と、
を備えた受信装置。
【請求項4】
前記基準点選択部は、高階層用の誤り訂正復号部によって、先に復号された前記復号ビットに基づいて、前記低階層復号用の対数尤度比計算における基準点を前記パイロット信号より得られる基準点から選択し、前記低階層用の対数尤度比計算部へ通知する、請求項3に記載の受信装置。
【請求項5】
高階層用と低階層用の2系統の伝送路符号化方式の変調信号を異なる電力で合成した主信号と、高階層用パイロット信号及び低階層用パイロット信号を合成したパイロット信号とを同一周波数帯で直交変調したLDM信号を受信し、該LDM信号に直交復調処理を施してLDMシンボル及び前記パイロット信号を抽出する直交復調部と、
前記パイロット信号を取得し、平均処理を施し、非線形歪の影響を考慮した基準点を取得するパイロット信号処理部と、
前記パイロット信号処理部から得られる前記基準点を用いて対数尤度比を計算し、該対数尤度比を示す高階層信号を生成する高階層用の対数尤度比計算部と、
前記高階層信号に対して、高階層用として予め定めた誤り訂正復号処理を施し、前記高階層信号の復号ビットを生成する高階層用の誤り訂正復号部と、
前記高階層信号として示される前記対数尤度比の計算に用いた、受信したLDMシンボル毎の前記パイロット信号から得られた各基準点に対するユークリッド距離の情報を所定シンボル数分、更新しながら一時蓄積するユークリッド距離蓄積部と、
前記高階層用の誤り訂正復号部によって前記高階層信号について復号したLDMシンボル毎に、前記高階層信号の復号ビットに基づいて、前記ユークリッド距離蓄積部に蓄積した各基準点のユークリッド距離のうち低階層信号の復号に用いる基準点のユークリッド距離を選択するユークリッド距離選択部と、
前記ユークリッド距離選択部によって前記低階層信号の復号用に選択した前記ユークリッド距離を用いて、前記高階層信号に対応する受信したLDMシンボルに対する対数尤度比を計算し、該対数尤度比を示す低階層信号を生成する低階層用の対数尤度比計算部と、
前記低階層信号に対して、低階層用として予め定めた誤り訂正復号処理を施し、前記低階層信号の復号ビットを生成する低階層用の誤り訂正復号部と、
を備えた受信装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送信装置及び受信装置に関し、特に階層分割多重(LDM:Layered Division Multiplexing)方式を用いた衛星放送システムに用いられる送信装置及び受信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
周波数利用効率の向上を目的とした無線伝送方式の一つに、異なる2つの変調信号を異なる電力で多重化し、同一周波数帯で伝送する階層分割多重方式(以下、「LDM方式」という)がある。地上デジタル放送においてもLDM方式の利用が検討されており、LDM方式を用いて新たな地上波放送方式を現行の地上波放送に多重するシステムが検討されている(非特許文献1、非特許文献2等)。
【0003】
LDM方式は、送信側では、一般的に電力の高い変調波をUL(Upper Layer)、電力の低い変調波をLL(Lower Layer)とし、IL(Injection Level)で定める電力差を付けて両者を多重する。受信側では、初めにUL信号を復調し、誤り訂正復号し、ULに割り当てられるサービスを取得する。次に、UL信号の復号結果を用いて再変調によりUL信号のレプリカを生成し、受信信号からこのレプリカ信号を減算することでLL信号を取り出し、誤り訂正復号によりLLに割り当てられるサービスを取得する。このような受信処理は、SIC(Successive Interference Cancellation)と称され、LDM方式で一般的に用いられるULとLLの分離処理である。
【0004】
LDM方式を用い、例えば、ULで標準サービスを提供するため受信耐性の高い伝送パラメータを使い、LLで拡張サービスを提供するため高いビットレートを実現可能な伝送パラメータを使うことで、受信環境に応じて柔軟なサービス提供が可能となる。
【0005】
一方、衛星放送では、衛星中継器で生じる非線形歪の影響を考慮する必要がある。非線形歪が生じる衛星伝送路において、良好な伝送特性を実現するための手法の一つとしてARIB STD-B44(非特許文献3)で規定する「伝送信号点配置信号」(以下、「パイロット信号」という)が挙げられる。パイロット信号を用いることで、誤り訂正復号における対数尤度比(Log-likelihood ratio;以下、「LLR」という)計算の基準点を、非線形歪を考慮したものに差替えることが可能となり、非線形伝送路における誤り訂正性能を向上することが可能である。主信号と同じ変調方式で既知のシンボルパターンを持つ変調シンボルをパイロット信号として用いることで、衛星伝送路で主信号が受ける非線形歪の影響を誤り訂正復号処理に反映することが可能である。
【0006】
衛星放送システムへの適用を想定したLDM方式の白色ガウス雑音伝送路における伝送特性を計算機シミュレーションにより評価した例が非特許文献4に記載されている。非特許文献4では、UL信号の復号手法として、GD(Gaussian Detection), JD(Joint Detection)の2通の手法が提示され、ILをパラメータとして、それぞれの復号性能を評価すると、ILを小さく設定したときGDの復号性能がJDより劣化することが示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】佐藤明彦、外11名,“次世代地上放送に向けたLDMの適用に関する一検討”,映像情報メディア学会技術報告,vol.41,no.6,BCT2017-34,pp.45-48,2017年2月
【非特許文献2】岡田寛正、外6名,“地上デジタル放送に対するLDM適用時の諸問題改善に関する一考察 ~新放送方式受信エリア拡大手法と同期方式に関する検討~”,映像情報メディア学会技術報告,vol.42,no.28,BCT2018-76,pp.13-16,2018年9月
【非特許文献3】高度広帯域衛星デジタル放送の伝送方式(ISDB-S3),ARIB STD―B44 2.1,2016年3月25日
【非特許文献4】小泉雄貴、亀井雅,“LDM方式を適用した衛星放送システムの検討-Injection levelに応じたUL信号の復号手法の評価”,電子情報通信学会技術研究報告SAT衛星通信,vol.122, no.137, SAT2022-26, p.52-56,2022年7月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述した一般的な信号分離手法であるSICは、誤り訂正復号におけるLLR計算の基準点として、送信信号点に基づく基準点を用いている。非線形歪の影響を受けた受信信号からSICによりLL信号を取り出した際、UL信号の復号結果に応じて、LL信号が受けている非線形歪の方向が異なる。
しかし、SICではそれらLL信号を復号する際、非線形歪方向がそれぞれ異なるLL信号に対して一律にLLの変調方式に基づく基準点を適用するため、非線形歪の影響を考慮した復号を行うことができず復号性能が劣化してしまう。
【0009】
本発明は、LDM方式を適用した衛星放送システムの誤り訂正復号において、非線形歪に対して良好な伝送特性を実現する送信装置及び受信装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1) 本発明に係る第1の態様は、2系統の伝送路符号化方式の変調信号をそれぞれ高階層及び低階層とし、2系統の前記変調信号を異なるレベルで電力を調整し合成して、主信号として出力する主信号生成部と、
ARIB STD―B44に準拠した手法で高階層用パイロット信号及び低階層用パイロット信号を生成し、前記高階層用パイロット信号と前記低階層用パイロット信号とを合成して、パイロット信号として出力するパイロット信号生成部と、
前記主信号と前記パイロット信号とを同一周波数帯で直交変調し、時分割多重する直交変調/時分割多重部と、
を備えた送信装置である。
【0011】
(2) 上記(1)に記載の送信装置において、前記主信号生成部は、入力された高階層用伝送情報及び低階層用伝送情報をそれぞれ誤り訂正符号化する高階層用及び低階層用の誤り訂正符号化部と、誤り訂正符号化された、前記高階層用伝送情報及び前記低階層用伝送情報を、それぞれ設定した変調方式でマッピングする高階層用及び低階層用のマッピング部と、マッピングされた、前記高階層用伝送情報及び前記低階層用伝送情報を、インジェクションレベルに応じて電力比を調整する高階層用及び低階層用の電力調整部と、電力比が調整された、前記高階層用伝送情報及び前記低階層用伝送情報を合成して前記主信号として出力する合成部と、を備えてもよい。
【0012】
(3) 本発明に係る第2の態様は、高階層用と低階層用の2系統の伝送路符号化方式の変調信号を異なる電力で合成した主信号と、高階層用パイロット信号及び低階層用パイロット信号を合成したパイロット信号とを同一周波数帯で直交変調したLDM信号を受信し、該LDM信号に直交復調処理を施してLDMシンボル及びパイロット信号を抽出する直交復調部と、
前記LDMシンボルについて、高階層用のシンボルとみなし、前記LDMシンボルが取りうる全てのシンボル位置又は高階層用として予め定めた変調方式に従うシンボル位置を示す基準点を用いて対数尤度比を計算し、該対数尤度比を示す高階層信号を生成する、高階層用の対数尤度比計算部と、
前記高階層信号に対して、高階層用として予め定めた誤り訂正復号処理を施し、前記高階層信号の復号ビットを生成する、高階層用の誤り訂正復号部と、
前記パイロット信号を取得し、平均処理を施し、非線形歪の影響を考慮した基準点を取得するパイロット信号処理部と、
前記高階層信号の復号ビットに基づいて、前記パイロット信号から得られた前記基準点から、受信した前記LDMシンボルにおける低階層用のシンボルが取りうるシンボル位置を示す基準点を選択することにより、前記高階層信号の復号ビットに応じて低階層復号用の対数尤度比の計算に用いる基準点を決定する基準点選択部と、
前記基準点選択部により決定した前記基準点に基づいて、前記高階層信号に対応する受信した前記LDMシンボルに対する対数尤度比を計算し、該対数尤度比を示す低階層信号を生成する低階層用の対数尤度比計算部と、
前記低階層信号に対して、低階層用として予め定めた誤り訂正復号処理を施し、前記低階層信号の復号ビットを生成する低階層用の誤り訂正復号部と、
を備えた受信装置である。
【0013】
(4) 上記(3)に記載の受信装置において、前記基準点選択部は、高階層用の誤り訂正復号部によって、先に復号された前記復号ビットに基づいて、前記低階層復号用の対数尤度比計算における基準点を前記パイロット信号より得られる基準点から選択し、前記低階層用の対数尤度比計算部へ通知してもよい。
【0014】
(5) 本発明に係る第3の態様は、高階層用と低階層用の2系統の伝送路符号化方式の変調信号を異なる電力で合成した主信号と、高階層用パイロット信号及び低階層用パイロット信号を合成したパイロット信号とを同一周波数帯で直交変調したLDM信号を受信し、該LDM信号に直交復調処理を施してLDMシンボル及び前記パイロット信号を抽出する直交復調部と、
前記パイロット信号を取得し、平均処理を施し、非線形歪の影響を考慮した基準点を取得するパイロット信号処理部と、
前記パイロット信号処理部から得られる前記基準点を用いて対数尤度比を計算し、該対数尤度比を示す高階層信号を生成する高階層用の対数尤度比計算部と、
前記高階層信号に対して、高階層用として予め定めた誤り訂正復号処理を施し、前記高階層信号の復号ビットを生成する高階層用の誤り訂正復号部と、
前記高階層信号として示される前記対数尤度比の計算に用いた、受信したLDMシンボル毎の前記パイロット信号から得られた各基準点に対するユークリッド距離の情報を所定シンボル数分、更新しながら一時蓄積するユークリッド距離蓄積部と、
前記高階層用の誤り訂正復号部によって前記高階層信号について復号したLDMシンボル毎に、前記高階層信号の復号ビットに基づいて、前記ユークリッド距離蓄積部に蓄積した各基準点のユークリッド距離のうち低階層信号の復号に用いる基準点のユークリッド距離を選択するユークリッド距離選択部と、
前記ユークリッド距離選択部によって前記低階層信号の復号用に選択した前記ユークリッド距離を用いて、前記高階層信号に対応する受信したLDMシンボルに対する対数尤度比を計算し、該対数尤度比を示す低階層信号を生成する低階層用の対数尤度比計算部と、
前記低階層信号に対して、低階層用として予め定めた誤り訂正復号処理を施し、前記低階層信号の復号ビットを生成する低階層用の誤り訂正復号部と、
を備えた受信装置である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、一般的に用いられる信号分離手法であるSICと比較して、非線形伝送路における復号性能を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に係る衛星放送システムの第1実施形態の構成を示す説明図である。
図2】第1実施形態における送信装置の一構成例を示すブロック図である。
図3】第1実施形態における送信装置の動作を示すフローチャートである。
図4】第1実施形態における受信装置の一構成例を示すブロック図である。
図5】第1実施形態における受信装置の動作を示すフローチャートである。
図6】LDM受信信号、ULとLLを合成した変調方式から成る基準点、パイロット信号から得られる基準点を示す図である。
図7】パイロット信号を用いたLLの復号処理を示すブロック図である。
図8】第1実施形態の手法を用いたときの非線形伝送路におけるLL信号のC/N対BER特性を示す図である。
図9】本発明の第2実施形態における受信装置の一構成例を示すブロック図である。
図10】第2実施形態における受信装置の動作を示すフローチャートである。
図11】受信装置における、UL信号の復号における基準点としてパイロット信号を用いる手法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明する。
(第1実施形態)
図1は本発明に係る衛星放送システムの第1実施形態の構成を示す説明図である。
図1に示す衛星放送システム10は、送信アンテナを含む送信装置100と、受信アンテナを含む受信装置200、及び衛星中継器300を備えている。
衛星放送システム10は、衛星中継器300を介して、送信装置100と受信装置200との間で、階層分割多重(LDM)方式の信号伝送を行う。衛星中継器300は、地上の送信装置100からLDM信号を受信し電力増幅して中継し、地上の受信装置200に向けてLDM信号を放射する。
以下、送信装置100及び受信装置200の構成及び動作について説明する。
【0018】
(送信装置100)
図2は送信装置の一構成例を示すブロック図である。図2では、シングルキャリア伝送に係る構成を示すが、かかる構成はマルチキャリアによるOFDM伝送にも適用可能である。図2に示す送信装置100は、高階層(Upper Layer;以下、「UL」という)用と低階層(Lower Layer;以下、「LL」という)用の2系統の伝送路符号化方式の変調信号を異なる電力で合成した主信号と、高階層用パイロット信号及び低階層用パイロット信号を合成したパイロット信号と、を同一周波数帯で直交変調したLDM信号を送信する。
【0019】
図2に示すように、送信装置100は、主信号生成部110、パイロット信号生成部120、及び直交変調/時分割多重部130を備えている。
主信号生成部110は、LDM方式に対応した送信機能部であり、UL用及びLL用の誤り訂正符号化部111,112、UL用及びLL用のマッピング部113,114、UL用及びLL用の電力調整部115,116、及び合成部117を備えている。
UL用の誤り訂正符号化部111は、入力されたUL用伝送情報を誤り訂正符号化し、UL用のマッピング部113は、誤り訂正符号化されたUL用伝送情報を、設定した変調方式でマッピングする。UL用の電力調整部115は、マッピングされたUL用伝送情報を、インジェクションレベル(Injection Level;以下、「IL」という)に応じて電力比を調整する。
LL用の誤り訂正符号化部112は、入力されたLL用伝送情報を誤り訂正符号化し、LL用のマッピング部114は、誤り訂正符号化されたLL用伝送情報を、設定した変調方式でマッピングする。LL用の電力調整部116は、マッピングされたLL用伝送情報を、ILに応じて電力比を調整する。
合成部117は、電力比が調整されたUL用伝送情報と、電力比が調整されたLL用伝送情報と合成して、主信号として出力する。
【0020】
パイロット信号生成部120は、ULパイロット信号生成部121、LLパイロット信号生成部122、及び合成部123を備えている。
ULパイロット信号生成部121は、設定したULの変調方式とILとに基づき、既知のシンボル遷移を持つ信号を生成した後、ARIB STD―B44に準拠した手法で既知のシンボル遷移を拡散して、ULパイロット信号を生成する。
LLパイロット信号生成部122は、設定したLLの変調方式とILとに基づき、既知のシンボル遷移を持つ信号を生成した後、ARIB STD―B44に準拠した手法で既知のシンボル遷移を拡散して、LLパイロット信号を生成する。
合成部123は、生成された、ULパイロット信号とLLパイロット信号とを合成して、パイロット信号として出力する。
【0021】
直交変調/時分割多重部130は、主信号生成部110の合成部117から出力された主信号及びパイロット信号生成部120の合成部123から出力されたパイロット信号をそれぞれ同一周波数帯で直交変調した後、時分割多重してLDM信号としてアンテナによって送信する。
【0022】
以下、送信装置100の動作を、フローチャートを用いて説明する。図3は送信装置100の動作を示すフローチャートである。
【0023】
ステップS11において、主信号生成部110は、入力されたUL用伝送情報を誤り訂正符号化し、誤り訂正符号化されたUL用伝送情報を、設定した変調方式でマッピングし、マッピングされたUL用伝送情報について、ILに応じて電力比を調整する。
【0024】
ステップS12において、主信号生成部110は、入力されたLL用伝送情報を誤り訂正符号化し、誤り訂正符号化されたLL用伝送情報を、設定した変調方式でマッピングし、マッピングされたLL用伝送情報について、ILに応じて電力比を調整する。ステップS12はステップS11の前に行われてもよく、ステップS11と並行して行われてもよい。
【0025】
ステップS13において、主信号生成部110は、電力比が調整されたUL用伝送情報と、電力比が調整されたLL用伝送情報とを合成する。
【0026】
ステップS14において、パイロット信号生成部120は、設定したULの変調方式とILとに基づき、既知のシンボル遷移を持つ信号を生成した後、ARIB STD―B44に準拠した手法で既知のシンボル遷移を拡散して、ULパイロット信号を生成する。また、パイロット信号生成部120は、設定したLLの変調方式とILとに基づき、既知のシンボル遷移を持つ信号を生成した後、ARIB STD―B44に準拠した手法で既知のシンボル遷移を拡散して、LLパイロット信号を生成する。ULパイロット信号の生成と、LLパイロット信号を生成との前後の順番は問わず、ULパイロット信号の生成と、LLパイロット信号を生成とは並行して行われてもよい。
【0027】
ステップS15において、パイロット信号生成部120は、生成された、ULパイロット信号とLLパイロット信号とを合成する。
【0028】
ステップS16において、直交変調/時分割多重部130は、主信号生成部110の合成部117から出力された合成信号(主信号)及びパイロット信号生成部120の合成部123から出力された合成信号(パイロット信号)をそれぞれ同一周波数帯で直交変調した後、時分割多重してLDM信号としてアンテナによって送信する。
【0029】
本実施形態の送信装置では、パイロット信号を加えたLDM信号を送信することで、衛星中継器の特性等に生ずる非線形歪みの補償が可能となる。
【0030】
(受信装置200)
図4は受信装置の一構成例を示すブロック図である。
受信装置200は、直交復調部210、LLR計算部220、誤り訂正復号部230、パイロット信号処理部240、基準点選択部250、LLR計算部260、及び誤り訂正復号部270を備えている。受信信号の復号順序は一般的なLDM受信システムに従い、始めUL信号を復号し、ULの復号結果をフィードバックしてLL信号を復号する。
【0031】
直交復調部210は、パイロット信号を含み、ULとLLが合成されたLDM信号を、アンテナを介して受信して直交復調し、LDMシンボルとパイロット信号を抽出する。
【0032】
LLR計算部220は、基準点に、UL又はULとLLを合成した変調方式(非特許文献4参照)のいずれかを用いてUL信号のLLRを計算し、計算したLLRを示すUL信号を生成する。
UL用の誤り訂正復号部230は、算出したLLRを用いて、UL信号を誤り訂正復号する。
非特許文献4には、UL信号の復号手法として、JD(Joint Detection)、GD(Gaussian Detection)の2通の手法が提示されている。JDはLLR計算の基準点をUL,LLを合成したLDM信号の信号点配置とする手法であり、GDは、LLR計算用の基準点をULの変調方式に合わせて設定する手法である。LLR計算部220は、JD又はGDを用い、LDMシンボルについて、UL用のシンボルとみなし、LDMシンボルが取りうる全てのシンボル位置又はUL用として予め定めた変調方式に従うシンボル位置を示す基準点を用いてLLRを計算する。
【0033】
パイロット信号処理部240は、ARIB STD-B44(非特許文献3参照)に従い、受信したパイロット信号のシンボル遷移の逆拡散後、シンボル毎に平均化処理を行い、非線形歪の影響を含んだ基準点を得て、基準点選択部250に出力する。
【0034】
基準点選択部250は、誤り訂正復号部230から出力される、UL信号の復号結果(復号ビット)に応じて、LL信号のLLR計算に用いる基準点を選択する。その際、基準点は非線形歪の影響を考慮したものを用いるため、パイロット信号処理部240で生成した基準点から選択する。一般的に用いられるSICによる受信処理では、LL信号のLLR計算に用いる基準点は、LL信号の変調方式を用いることしかできなかったが、本実施形態では非線形歪の影響を考慮した信号点配置を持つ基準点をLL信号の誤り訂正復号に利用することが可能となる。
【0035】
LLR計算部260では、基準点選択部250で選択された基準点を用いてLL信号のLLRをし、計算したLLRを示すLL信号を生成する。この基準点は、前述したように、受信シンボル毎に前述の処理によりパイロット信号から得られる非線形歪を考慮した基準点である。
LL用の誤り訂正復号部270は、LLR計算部260で算出したLLRを用いて、LL信号を誤り訂正復号する。
【0036】
以下、受信装置200の動作を、フローチャートを用いて説明する。図5は受信装置200の動作を示すフローチャートである。
【0037】
ステップS21において、直交復調部210は、パイロット信号を含み、ULとLLが合成されたLDM信号を、アンテナを介して受信して直交復調し、LDMシンボルとパイロット信号を抽出する。
【0038】
ステップS22において、LLR計算部220は、基準点に、UL又はULとLLを合成した変調方式(非特許文献4)のいずれかを用いてUL信号のLLRを計算し、計算したLLRを示すUL信号を生成し、UL用の誤り訂正復号部230は算出したLLRを用いて、UL信号を誤り訂正復号する。
【0039】
ステップS23において、パイロット信号処理部240は、ARIB STD-B44(非特許文献3)に従い、受信したパイロット信号のシンボル遷移の逆拡散後、シンボル毎に平均化処理を行い、非線形歪の影響を含んだ基準点を得る。ステップS23は、ステップS22の前に行われてもよく、ステップS22と並行して行われてもよい。
【0040】
ステップS24において、基準点選択部250は、誤り訂正復号部230から出力される、UL信号の復号結果に応じて、パイロット信号処理部240で生成した基準点からLL信号のLLR計算に用いる基準点を選択する。
【0041】
ステップS25において、LLR計算部260は、基準点選択部250で選択された基準点を用いてLL信号のLLRを計算し、計算したLLRを示すLL信号を生成し、LL用の誤り訂正復号部270は、LLR計算部260で算出したLLRを用いて、LL信号を誤り訂正復号する。
【0042】
以下、衛星放送システムの具体的な動作について説明する。
以下の説明では、衛星放送によるシングルキャリアのLDM伝送の例について示す。ULの変調方式をQPSK、LLの変調方式を8PSK、ILを1.5dB、誤り訂正符号はARIB STD-B44(ISDB-S3)に準拠したLDPC符号化率1/2、3/4をUL、LLにそれぞれ適用したときの受信性能を計算機シミュレーションで評価したときの結果を示す。
【0043】
送信装置100において、誤り訂正符号化部111,112は、それぞれUL、LLで伝送する情報ビットから、ISDB-S3に準拠したLDPC符号のパリティ検査行列を用いて符号化率1/2、3/4にそれぞれ誤り訂正符号化する。マッピング部113、114は、符号化後のLDPCブロックを、ULについてQPSK変調し、LLについて8PSK変調する。電力調整部115、116は、ULおよびLLの電力がIL=1.5dBとなるよう調整し、合成部117は電力が調整されたUL信号と、電力が調整されたLL信号とを合成する。直交変調/時分割多重部130によって、UL、LL信号を合成した主信号とパイロット信号がそれぞれ同一周波数帯で直交変調された後、時分割多重されたLDM信号が送信される。伝送路は衛星中継器を模擬した非線形伝送路とする。
【0044】
受信装置200で扱う信号として、パイロット信号から得られる基準点、ULとLLを合成した変調方式から成る基準点を図6にそれぞれ示す。図6において、4つの階調の濃淡で示すドッドはLDM受信信号、黒四角はULとLLとを合成した変調方式からなる基準点、白丸はパイロット信号から得られる基準点を示している。図6に示すように、パイロット信号から得られる基準点の方が、ULとLLを合成した変調方式から成る基準点より、ドットで示したLDM受信信号の中心を捉える数が多く、非線形歪の傾向を基準点に反映できることが分かる。
【0045】
受信装置200において、直交復調部210は、受信したLDM信号を直交復調する。始めに、LLR計算部220と誤り訂正復号部230は、ULの復号を行う。LLR計算部220は、基準点にUL信号、又はULとLLを合成した変調方式(非特許文献4参照)のいずれかを用いる。そして、LLR計算部220は、ULに対するLDPCブロック内の各ビットのLLRを計算し、計算したLLRを示すUL信号を生成する。誤り訂正復号部230は、算出されたLLRを用いて、ULの情報ビットを復号する。
【0046】
次に、基準点選択部250、LLR計算部260及び誤り訂正復号部270は、パイロット信号を用いたLLの復号処理を行う。図7は、パイロット信号を用いたLLの復号処理を示すブロック図である。基準点選択部250は、誤り訂正復号部230から入力された復号ビット(UL)に基づき、パイロット信号処理部240で求めれた基準点から、LL信号の復号に必要な基準点を選択する。例えば、復号ビット(UL)が00であった場合、基準点選択部250は、パイロット信号から得られる基準点のうち第一象限の基準点を選択する。そして、基準点選択部250は、選択した基準点をLLR計算部260へ通知し、LLR計算部260は、第一象限の8つの基準点からLL信号の復号用LLRを計算し、計算したLLRを示すLL信号を生成する。誤り訂正復号部270は、算出したLLRを用いて、LL信号を誤り訂正復号する。
【0047】
SICによる受信処理では、UL信号の復号結果をLL信号の誤り訂正復号部に通知して非線形歪の方向を考慮したパイロット信号を基準点として選択する処理ができないため、復号性能の劣化が生じる。
本実施形態では、衛星放送システムの受信装置において、UL信号の復号結果に応じて、非線形歪を考慮した基準点を用いてLL信号の復号をすることが可能となり、非線形伝送路における復号性能を向上できる。
衛星放送は降雨減衰の影響を受けやすいが、本実施形態では、LDM方式を衛星放送システムに適用することにより、降雨エリアは受信耐性の高いULにより標準サービスを可能な限り継続しつつ、晴天エリアは標準サービスにLLで拡張サービスを加えることで、提供するサービス品質又はコンテンツ内容を向上することができる。このように受信環境に応じて、受信装置で動的にサービス品質やコンテンツ内容の切り替えが可能となる。
【0048】
図8に第1実施形態の手法を用いたときの非線形伝送路におけるLL信号のC/N対BER特性を示す。比較として一般的な信号分離手法SICの評価結果も示す。ここでは、第1実施形態を用いた例について説明するが、第2実施形態でも同様な特性を得ることができる。
疑似エラーフリーはBER=1E-11とし、その時のC/Nを所要C/Nとする。非線形歪の影響は、衛星中継器に搭載される増幅器の動作点をOBO(Output Back-Off)で示す。OBO値が小さい程、増幅器を入出力特性の飽和付近で動作させることとなり、非線形歪の影響が大きくなる。今回はOBO=1.6から2.2dB(0.2dBステップ)における本実施形態とSICによるLL信号の復号性能を計算機シミュレーションで比較した。図8においては、OBO値は1.6~2.2dBとしているが、この範囲は一例であって、この範囲外に設定してもよい。
各手法におけるOBOごとの所要C/Nを表1に示す。
【表1】
各OBO値に対して本実施形態がSICの復号性能を上回ることが確認できる。また、非線形歪の影響が大きくなる(OBOが小さくなる)程、本実施形態の効果が大きく表れることが確認できた。
以上より、本実施形態では、衛星伝送路などの非線形特性を有する伝送路において、一般的に用いられるSICよりLDMシステムの復号性能を改善することが可能であることが分かった。
【0049】
(第2実施形態)
本実施形態では、衛星放送システムにおける受信装置の構成が異なる例について説明する。本実施形態の衛星放送システムは、受信装置200が受信装置201に置き換わっている点を除いて第1実施形態の衛星放送システム10の構成と同じである。
図9は第2実施形態における受信装置の一構成例を示すブロック図である。図9において図4に示した構成部材と同一構成部材については同一符号を付する。図9ではUL信号の復号にパイロット信号から得られる基準点を用いる例を示す。図9に示す受信装置201は受信装置200と比べて、UL,LL信号の復号機能は同等であるが、LLR計算に用いるユークリッド距離の計算処理に係る受信機構成が異なる。
【0050】
受信装置201は、直交復調部210、UL用のLLR計算部221、UL用の誤り訂正復号部230、パイロット信号処理部240、ユークリッド距離蓄積部280、ユークリッド距離選択部290、LL用のLLR計算部261、及びLL用の誤り訂正復号部270を備えている。受信装置201は、受信装置200と比べ、受信装置200のLLR計算部220、LLR計算部260がLLR計算部221、LLR計算部261に置き換わり、基準点選択部250が削除され、ユークリッド距離蓄積部280、ユークリッド距離選択部290が追加されている点が異なる。以下の説明では、LLR計算部221、LLR計算部261、ユークリッド距離蓄積部280、及びユークリッド距離選択部290についてのみ説明する。
【0051】
LLR計算部221は、UL信号の復号用LLRを計算するが、その際、パイロット信号処理部240から得られる基準点を用いる。図4に示したLLR計算部(UL)220は、基準点に、UL又はULとLLを合成した変調方式(非特許文献4参照)のいずれかを用いていたが、LLR計算部221は、この基準点をパイロット信号処理部241から得られる基準点に差し替えて、UL信号のLLRを計算する。これにより非線形歪を考慮したULとLLを合成した変調方式から成る基準点を用いることが可能となる。また、LLR計算部221は、LLR計算過程で求めた受信信号とパイロット信号から得られた基準点とから求めたユークリッド距離を所定シンボル数分、更新しながらユークリッド距離蓄積部280にストアする(一時蓄積する)。
【0052】
次に、ユークリッド距離選択部290は、誤り訂正復号部230によってUL信号について復号したLDMシンボル毎に、誤り訂正復号部230から入力される復号ビット(UL)に応じて、ユークリッド距離蓄積部280からLL信号の復号に用いるユークリッド距離を選択し、LLR計算部261へ出力する。
LLR計算部261は、入力されたユークリッド距離からLLRを計算し、計算したLLRを示すLL信号を生成する。誤り訂正復号部270は、LLR計算部261で算出したLLRを用いて、LL信号を誤り訂正復号する。このように、パイロット信号から得られる基準点から求めたユークリッド距離を選択して、LL信号の復号に用いることで、LL信号においても非線形歪を考慮した復号が可能となる。
【0053】
以下、受信装置201の動作を、フローチャートを用いて説明する。図10は受信装置201の動作を示すフローチャートである。
【0054】
ステップS31において、直交復調部210は、パイロット信号を含み、ULとLLが合成されたLDM信号を、アンテナを介して受信して直交復調し、LDMシンボルとパイロット信号を抽出する。
【0055】
ステップS32において、パイロット信号処理部240は、ARIB STD-B44(非特許文献3)に従い、受信したパイロット信号のシンボル遷移の逆拡散後、シンボル毎に平均化処理を行い、非線形歪の影響を含んだ基準点を得る。
【0056】
ステップS33において、LLR計算部221は、パイロット信号処理部240から得られる基準点を用いて、UL信号の復号用LLRを計算し、LLR計算過程で求めた受信信号とパイロット信号から得られた基準点とから求めたユークリッド距離をユークリッド距離蓄積部280にストアする。
ステップS34において、ユークリッド距離選択部290は、誤り訂正復号部230から入力される復号ビット(UL)に応じて、ユークリッド距離蓄積部280からLL信号の復号に用いるユークリッド距離を選択し、LLR計算部261へ出力する。
【0057】
ステップS35において、LLR計算部261は、入力されたユークリッド距離からLLRを計算し、計算したLLRを示すLL信号を生成する。誤り訂正復号部270は、LLR計算部261で算出したLLRを用いて、LL信号を誤り訂正復号する。
【0058】
以下、受信装置201の具体的な動作について説明する。LDM伝送の方式、送信装置100の構成及び受信装置201が受信するLDM信号等の、受信装置201以外の条件は第1実施形態と同じなので説明を省略する。
図11は、受信装置201における、UL信号の復号における基準点としてパイロット信号を用いる手法を示す図である。
始めに、LLR計算部221と誤り訂正復号部230は、UL信号の復号を行うが、その際、LLR計算部221は、UL信号のLLRを計算するための基準点としてパイロット信号処理部240で得られる基準点を用いる。ここでは、LLR計算部221は、受信シンボルあたり32個の基準点から32通りのユークリッド距離を求める。LLR計算部221は、求めたユークリッド距離からUL信号の復号用LLRを求めて、誤り訂正復号部230に出力するとともに、ユークリッド距離蓄積部280に受信シンボル毎の32通りのユークリッド距離をストアする。
【0059】
次に、ユークリッド距離選択部290、LLR計算部261、及び誤り訂正復号部270は、LL信号の復号を行う。ユークリッド距離選択部290は、誤り訂正復号部230から出力される、UL信号の復号結果(復号ビット)に応じて、ユークリッド距離蓄積部280にストアされている32通りのユークリッド距離から8つのユークリッド距離を選択する。例えば、UL信号の復号結果が00であった場合、ユークリッド距離選択部290は、第一象限の基準点から求めた8つのユークリッド距離を選択することができる。ユークリッド距離選択部290は、同様に、復号ビット(UL)が10、復号ビット(UL)が11、及び復号ビット(UL)が01の場合は、それぞれ第ニ象限、第三象限及び第四象限の基準点から求めたユークリッド距離を選択する。このようにユークリッド距離選択部290は、UL復号結果に応じて、LLR計算部221で求めたユークリッド距離を選択することで、改めてLL復号用にユークリッド距離を計算する処理を省略することが可能となり、受信処理を軽減させることが可能である。
LLR計算部261は、入力されたユークリッド距離からLLRを計算し、計算したLLRを示すLL信号を生成する。誤り訂正復号部270は、算出されたLLRを用いて、LL信号を誤り訂正復号する。
本実施形態においても、図8を用いて説明したと同様な結果を得た。
【0060】
以上説明した第1の実施形態及び第2の実施形態の衛星放送システムでは、LDM方式を適用することで受信環境に応じた柔軟なサービス提供が可能となり、さらにパイロット信号を用いることでLDM方式を適用した衛星放送システム全体の受信性能が向上する。
【0061】
本実施形態では、送信装置及び受信装置の構成と動作について説明したが、本発明はこれに限られず、送信装置及び受信装置の構成を備えた衛星放送システム、又は送信装置又は受信装置の処理を実行するプログラムとして構成されてもよい。
【0062】
さらに、図2及び図3を用いて説明した送信装置の機能、図4図5及び図7を用いて説明した受信装置の機能、又は図9図11を用いて説明した受信装置の機能を実現するためのプログラムをコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することによって実現してもよい。
【0063】
ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器などのハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータで読み取り可能な記録媒体」とは、光磁気ディスク、ROM、CD-ROMなどの可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスクなどの記憶装置のことをいう。
【0064】
さらに「コンピュータで読み取り可能な記録媒体」とは、インターネットなどのネットワークや電話回線などの通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時刻の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時刻プログラムを保持しているものも含んでもよい。また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよく、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよい。
【符号の説明】
【0065】
10 衛星放送システム
100 送信装置
110 主信号生成部
111 UL用の誤り訂正符号化部
112 LL用の誤り訂正符号化部
113 UL用のマッピング部
114 LL用のマッピング部
115 UL用の電力調整部
116 LL用の電力調整部
117 合成部
120 パイロット信号生成部
121 ULパイロット信号生成部
122 LLパイロット信号生成部
123 合成部
130 直交変調/時分割多重部
200 受信装置
210 直交復調部
220、221 UL用のLLR計算部
230 UL用の誤り訂正復号部
240 パイロット信号処理部
250 基準点選択部
260、261 LL用のLLR計算部
270 LL用の誤り訂正復号部
280 ユークリッド距離蓄積部
290 ユークリッド距離選択部
300 衛星中継器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11