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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024162125
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】表面弾性波デバイス用複合基板
(51)【国際特許分類】
   H03H 9/25 20060101AFI20241114BHJP
   H10N 30/853 20230101ALI20241114BHJP
【FI】
H03H9/25 C
H10N30/853
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023077370
(22)【出願日】2023-05-09
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100135758
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 高志
(74)【代理人】
【識別番号】100154391
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康義
(74)【代理人】
【識別番号】100140844
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 正利
(72)【発明者】
【氏名】丹野 雅行
(72)【発明者】
【氏名】秋山 昌次
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 寛和
【テーマコード(参考)】
5J097
【Fターム(参考)】
5J097AA13
5J097EE08
5J097GG03
5J097GG04
(57)【要約】
【課題】フィルタの通過帯域のロスが小さく、スプリアスが少ない、優れた高性能で信頼性が高い表面弾性波デバイス用複合基板を提供する。
【解決手段】圧電単結晶薄膜と、支持基板と、圧電単結晶薄膜と支持基板の間に設けられた少なくとも1種の介在層と、を備える複合基板であって、介在層は圧電単結晶薄膜と接しており、介在層の合計厚みは、表面弾性波の波長の2倍の厚み以下であり、かつ介在層をブリリュアン振動法により40GHz~60GHzの周波数で算出した縦波の減衰が8×10-2(nm-1・THz-2)以下である表面弾性波デバイス用複合基板である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電単結晶薄膜と、支持基板と、前記圧電単結晶薄膜と前記支持基板の間に設けられた少なくとも1層の介在層と、を備える複合基板であって、
前記介在層は前記圧電単結晶薄膜と接しており、前記介在層の合計厚みは、表面弾性波の波長の2倍の厚み以下であり、かつブリリュアン振動法により40GHz~60GHzの周波数で算出した前記介在層の縦波の減衰が8×10-2(nm-1・THz-2)以下である表面弾性波デバイス用複合基板。
【請求項2】
前記介在層の横波の音速は、前記圧電単結晶薄膜の遅い横波の音速より速い請求項1に記載の表面弾性波デバイス用複合基板。
【請求項3】
前記圧電単結晶薄膜は、鉄を120ppm以下含み、
前記圧電単結晶薄膜の体積抵抗率は2×1011Ω・cm以下である請求項1又は2に記載の表面弾性波デバイス用複合基板。
【請求項4】
前記介在層は、SiOx(1.8<x<2.05)、及びSiOyNz(0.02<z/(y+z)<0.1)のいずれかである請求項1又は2に記載の表面弾性波デバイス用複合基板。
【請求項5】
前記圧電単結晶薄膜の主成分が、タンタル酸リチウムもしくはニオブ酸リチウムである請求項1又は2に記載の表面弾性波デバイス用複合基板。
【請求項6】
前記支持基板が、シリコン基板、サファイア基板、アルミナ基板、炭化ケイ素基板、窒化アルミニウム基板、窒化ケイ素基板、及び水晶基板のいずれかである請求項1又は2に記載の表面弾性波デバイス用複合基板。
【請求項7】
前記支持基板は、Si単結晶とSi単結晶上に形成したポリシリコン層からなる請求項1又は2に記載の表面弾性波デバイス用複合基板。
【請求項8】
前記介在層中のLiイオンの含有量が、1×1017atom/cm以下である請求項1又は2に記載の表面弾性波デバイス用複合基板
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電単結晶薄膜と支持基板とを含んで構成される表面弾性波デバイス用複合基板に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話等には、周波数調整・選択用の部品として、圧電基板上に表面弾性波を励起するための櫛形電極(IDT:Inter digital Transducer)が形成された表面弾性波(SAW:surface acoustic wave)デバイスが用いられている。表面弾性波デバイスには、小型で挿入損失が小さく、不要波を通さない性能が要求され、タンタル酸リチウム(LiTaO;LT)やニオブ酸リチウム(LiNbO;LN)などの圧電材料が用いられている。
【0003】
一方で、第四世代以降の携帯電話の通信規格のもとでは、表面弾性波デバイスに用いられる圧電材料は、その温度による特性変動を十分小さくする必要がある。また、バンド間に余計なノイズがはみ出ないように、フィルタやデュプレクサ、マルチプレクサは挿入損失が限りなく小さく、またフィルタの肩特性は極めて急峻である必要があり、フィルタを構成する共振子は高いQ値(Quality Factor)が求められる。また、フィルタは用いるバンドにより広帯域に対応できることも要求される。
【0004】
このような表面弾性波デバイスに用いられる材料に関して、圧電材料と他の材料からなる複合基板が検討されている。例えば、特許文献1には圧電膜を有する弾性波装置であって、支持基板と、前記支持基板上に形成されており、前記圧電膜を伝搬する弾性波音速より伝搬するバルク波音速が高速である高音速膜と、前記高音速膜上に積層されており、前記圧電膜を伝搬するバルク波音速より伝搬するバルク波音速が低速である低音速膜と、前記低音速膜上に積層された前記圧電膜と、前記圧電膜の一方面に形成されているIDT電極とを備える、弾性波装置が開示されている。
【0005】
さらに、特許文献2には支持基板と、前記支持基板上に積層された媒質層と、前記媒質層上に積層されており、バルク波が伝搬する圧電体と、前記圧電体の一方面に形成されているIDT電極とを備え、前記媒質層が、前記圧電体を伝搬する弾性波の音速よりも、前記弾性波の主成分であるバルク波と同じバルク波の伝搬速度が低速である低速媒質と、前記圧電体を伝搬する前記弾性波の音速よりも、前記弾性波の主成分であるバルク波と同じバルク波の伝搬速度が高速である高速媒質とを含んでおり、前記高速媒質で該媒質層を形成した場合の主振動モードの音速をVH、前記低速媒質で該媒質層を形成した場合の主振動モードの音速をVL、としたとき、前記媒質層が形成された弾性波装置における主振動モードの音速が、VL<主振動モードの音速<VH、となるように、前記媒質層が形成されており、前記媒質層の厚みが、IDTの周期をλとしたときに、1λ以上である、ことを特徴とする、弾性波装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5713025号公報
【特許文献2】特許第5861789号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1または特許文献2の複合基板を用いて表面弾性波フィルタを作製した場合、圧電体から低速媒質への弾性波のエネルギーが漏れ出し滞在するため、表面弾性波フィルタの通過帯域内、若しくは、より高い周波数にスプリアス若しくはリップルと呼ばれるノイズが発生するという問題がある。このノイズは、圧電結晶膜と支持基板の接合界面における波の反射や、圧電結晶膜と支持基板間の介在層に弾性波動がトラップされることにより生じ、表面弾性波フィルタの周波数特性を悪化させたり、フィルタの通過帯域のロスが増大する原因となったりするため好ましくない。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、フィルタの通過帯域のロスが小さく、スプリアスが少ない、優れた高性能で信頼性が高い表面弾性波デバイス用複合基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討の結果、圧電単結晶薄膜と、支持基板と、圧電単結晶薄膜と支持基板との間に少なくとも1層の介在層と、を備え、介在層の合計厚み、及び、縦波の減衰を規定することで、フィルタの通過帯域のロスが小さく、高い信頼性が得られることを見出し、本発明を完成させた。本発明の要旨は、以下のとおりである。
[1]圧電単結晶薄膜と、支持基板と、前記圧電単結晶薄膜と前記支持基板の間に設けられた少なくとも1層の介在層と、を備える複合基板であって、前記介在層は前記圧電単結晶薄膜と接しており、前記介在層の合計厚みは、表面弾性波の波長の2倍の厚み以下であり、かつブリリュアン振動法により40GHz~60GHzの周波数で算出した前記介在層の縦波の減衰が8×10-2(nm-1・THz-2)以下である表面弾性波デバイス用複合基板。
[2]前記介在層の横波の音速は、前記圧電単結晶薄膜の遅い横波の音速より速い[1]に記載の表面弾性波デバイス用複合基板。
[3]前記圧電単結晶薄膜は、鉄を120ppm以下含み、前記圧電単結晶薄膜の体積抵抗率は2×1011Ω・cm以下である[1]又は[2]に記載の表面弾性波デバイス用複合基板。
[4]前記介在層は、SiOx(1.8<x<2.05)、及びSiOyNz(0.02<z/(y+z)<0.1)のいずれかである[1]~[3]のいずれか1つに記載の表面弾性波デバイス用複合基板。
[5]前記圧電単結晶薄膜の主成分が、タンタル酸リチウムもしくはニオブ酸リチウムである[1]~[4]のいずれか1つに記載の表面弾性波デバイス用複合基板。
[6]前記支持基板が、シリコン基板、サファイア基板、アルミナ基板、炭化ケイ素基板、窒化アルミニウム基板、窒化ケイ素基板、及び水晶基板のいずれかである[1]~[5]のいずれか1つに記載の表面弾性波デバイス用複合基板。
[7]前記支持基板は、Si単結晶とSi単結晶上に形成したポリシリコン層からなる[1]~[5]のいずれか1つに記載の表面弾性波デバイス用複合基板。
[8]前記介在層中のLiイオンの含有量が、1×1017atom/cm以下である[1]~[7]のいずれか1つに記載の表面弾性波デバイス用複合基板
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、フィルタ通過帯域のロスが小さく、高い信頼性が得られる表面弾性波デバイス用複合基板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、SiO1.7薄膜のブリリュアン振動のスペクトルの一例を示す図である。
図2図2は、薄膜内の超音波(縦波)による反射光のみをフーリエ変換した波形を示す図である。
図3図3は、薄膜のLSAW音速と、薄膜厚を超音波の波長で規格化した値(薄膜厚/波長)との異存性の関係、及び、有限要素法により求めた弾性波の音速計算結果を示す図である。
図4図4は、弾性波がSiO1.7薄膜/(111)Si基板構成の薄膜表層にエネルギーが集中している波動の変位分布計算結果例を示す図である。
図5図5は、実施例1で製造した複合基板の断面TEM観察写真例を示す図である。
図6図6は、表面にAl微細電極を形成した複合基板を示す図である。
図7図7は、実施例1で得られたSAWの共振波形(入力インピーダンス(Zin)とQ値)を示す図である。
図8図8は、実施例2で得られたSAWの共振波形(入力インピーダンス(Zin)とQ値)を示す図である。
図9図9は、比較例1で得られたSAWの共振波形(入力インピーダンス(Zin)とQ値)を示す図である。
図10図10は、比較例2で得られたSAWの共振波形(入力インピーダンス(Zin)とQ値)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の表面弾性波デバイス用複合基板について詳細に説明するが、本発明は、当該実施形態に限定されるものではない。また、記号「~」を用いて限定された数値範囲は「~」の両端(上限及び下限)の数値を含むものとする。
【0013】
[表面弾性波デバイス用複合基板]
本発明の表面弾性波デバイス用複合基板は、圧電単結晶薄膜と、支持基板と、圧電単結晶薄膜と支持基板の間に設けられた少なくとも1層の介在層と、を備える複合基板であって、介在層は圧電単結晶薄膜と接しており、介在層の合計厚みは、表面弾性波の波長の2倍の厚み以下であり、かつブリリュアン振動法により40GHz~60GHzの周波数で算出した介在層の縦波の減衰が8×10-2(nm-1・THz-2)以下である。
【0014】
(圧電単結晶薄膜)
本発明の一実施形態における表面弾性波デバイス複合基板における圧電単結晶薄膜は、圧電体膜として使用することができれば特に制限されないが、主成分が、タンタル酸リチウム(LiTaO:LT)、又は、ニオブ酸リチウム(LiNbO:LN)であることが好ましい。圧電単結晶薄膜の主成分を上記成分とすることで、電気機械結合が大きな弾性波デバイスとすることができる。
なお、本願発明において、圧電単結晶薄膜の主成分が、タンタル酸リチウム、又はニオブ酸リチウムであるとは、圧電単結晶薄膜を構成する成分のうち、50質量%以上が、タンタル酸リチウム、又はニオブ酸リチウムであることをいう。また、圧電単結晶薄膜の成分として、タンタル酸リチウム及びニオブ酸リチウム以外の成分として、鉄,マグネシウム等を含有することができる。
【0015】
また、圧電単結晶薄膜中に、鉄が120ppm以下含まれていることが好ましい。圧電単結晶薄膜中に鉄を微少量含むことで、圧電単結晶薄膜の分極が破壊される電界、すなわち、抗電界が上昇するため、分極が破壊されにくくすることができる。上記の点から、鉄の含有量は、10ppm以上120ppm以下であることがより好ましく、50ppm以上100ppm以下であることがさらに好ましい。
【0016】
また、圧電単結晶薄膜の初期の体積抵抗率が2×1011Ω・cm以下であることが好ましい。圧電単結晶薄膜の初期の体積抵抗率が、2×1011Ω・cm以下であることで、本発明の表面弾性波デバイス用複合基板の恒温耐性を向上させることができる。圧電単結晶薄膜の初期の体積抵抗率は、2×1010Ω・cm以上2×1011Ω・cm以下であることがより好ましく、2×1010Ω・cm以上1×1011Ω・cm以下であることがさらに好ましい。
【0017】
(支持基板)
本発明の一実施形態における表面弾性波デバイス複合基板における支持基板は、シリコン基板、サファイア基板、アルミナ基板、炭化ケイ素基板、窒化アルミニウム基板、窒化ケイ素基板、水晶基板のいずれかを用いることができる。
支持基板として、上記の基板を用いた表面弾性波デバイス用複合基板を用いて製造された表面弾性波共振子は、Q値が高く、帯域外のスプリアスがさらに抑制され、さらに、温度特性が優れた表面弾性波デバイスを得ることができる。
【0018】
また、支持基板としては、Si単結晶と、Si単結晶上に形成したポリシリコン層からなる支持基板を用いることができる。
支持基板として、ポリシリコン層の厚みを適宜調整することで、帯域外のスプリアスをさらに抑制することができる。
ポリシリコン層の厚みは、0.2μm以上2μm以下であることが好ましく、0.5μm以上1.9μm以下であることがより好ましく、0.5μm以上1.2μm以下であることがさらに好ましい。
【0019】
(介在層)
本発明の表面弾性波デバイス用複合基板は、上記の圧電単結晶薄膜と、支持基板との間に介在層を備え、介在層は、圧電単結晶薄膜と接して設けられている。本発明の一実施形態における表面弾性波デバイス複合基板における介在層は、SiOx(1.8<x<2.05)、及びSiOyNz(0.02<z/(y+z)<0.1)のいずれかであることが好ましい。
また、本発明の表面弾性波デバイス用複合基板は、少なくとも1層の介在層を備えている。介在層は1層であっても良く、2層以上であってもよく、2層以上の場合は、各層を同じ材料で構成しても良く、異なる材料で構成しても良い。
【0020】
また、介在層中のLiイオンの含有量は、1×1017atom/cm以下であることが好ましい。Liイオンは、主に、圧電単結晶薄膜から介在層に拡散するが、介在層中のLiイオンの含有量が、介在層中のLiイオンの含有量が、1×1017atom/cm以下とすることで、介在層の軟化を防止することができ、帯域内及び帯域外のスプリアスを抑制することができる。
【0021】
さらに、介在層の厚みは、介在層が1層の場合はその厚み、2層以上の場合は、その合計厚みが、介在層の表面弾性波の波長の2倍の厚み以下である。介在層の厚みが介在層の表面弾性波の波長の2倍の厚みを超えると、介在層内に弾性波がトラップされやすくなり、帯域外のスプリアスが大きくなる問題が生じる。介在層の合計厚みは、表面弾性波の波長の2倍の厚み以下であることが好ましく、1倍以下であることがより好ましい。
【0022】
また、ブリリュアン振動法により40GHz~60GHzの周波数で算出した介在層の縦波の減衰が、8×10-2(nm-1・THz-2)以下である。
介在層の縦波の音波減衰が大きい場合は、介在層内に弾性波がトラップされやすくなる。この場合、本発明の表面弾性波デバイス用複合基板からなる表面弾性波共振子は、帯域外のスプリアスが大きくなる問題が生じる。介在層の縦波の減衰を8×10-2(nm-1・THz-2)以下とすることで、表面弾性波共振子のQ値が高く、帯域外のスプリアスをさらに抑制することができる。介在層の縦波の減衰は、2×10-2(nm-1・THz-2)以下であることが好ましく、0.5×10-2(nm-1・THz-2)以下であることがより好ましい。
【0023】
また、介在層の横波の音速は、圧電単結晶薄膜の遅い横波の音速より速いことが好ましい。介在層の横波(バルク波)の速度が圧電単結晶薄膜の遅い横波(バルク波)より速くすることで、表面弾性波デバイス用複合基板を用いて得られる表面弾性波フィルタの通過帯域のロスを改善することができる。介在層の横波の速度が圧電単結晶薄膜の遅い横波より遅いと、介在層内に弾性波がトラップされやすくなることが懸念される。なお、圧電単結晶薄膜は、異方性を有する材料であるので,圧電単結晶薄膜の横波には速い横波と遅い横波の2つの横波が存在する。
【0024】
例えば、圧電単結晶薄膜の一例としてのLiTaOにおいて、46°回転YカットのLiTaOの遅い横波は3330m/sである。また、介在層の一例としてのSiO1.85、あるいはSiO1.940.06において、SiO1.85、あるいはSiO1.940.06の横波の音速は、夫々3850m/s、及び3750m/sと高音速である。SiO1.85、あるいはSiO1.940.06の横波の音速は、詳しくは後述するが、例えば、Tatsuya Omori1, Kensuke Sakamoto, Satoshi Suzuki , Jun-ichi Kushibiki, Satoru Matsuda , and Ken-ya Hashimoto , “Characterization of Elastic Properties of SiO2 Thin Films by Ultrasonic Microscopy”,に記載されている直線収束ビーム超音波顕微鏡による圧電単結晶薄膜のLSAWの横波音速測定値と有限要素法による解析より求めることができる。
介在層をSiO1.85、あるいはSiO1.940.06とし、圧電単結晶薄膜をLiTaOとすることで、介在層の横波の音速が、圧電単結晶薄膜の遅い横波の音速より速くすることができる。
【0025】
また、ブリリュアン振動法により40GHz~60GHzの周波数で算出した介在層の縦波の減衰を求めたところ、SiO1.85は、該減衰が1.2×10-2(nm-1・THz-2)、SiO1.940.06は該減衰が0.1×10-2(nm-1・THz-2)であり、縦波の減衰を8×10-2(nm-1・THz-2)以下とすることができる。
【0026】
ここで、ブリリュアン振動法としては、H.Ogi et.al, “Elastic constant and Brillouin oscillations in sputtered vitreous SiO2 thin films”, PHISICAL REVIEW B 78,13204 (2008),に記載の方法を用いることができる。図1に、介在層の組成がSiO1.7である場合、介在層と同一組成かつ同一製法によるSiO1.7薄膜のブリリュアン振動のスペクトルの一例を示す。
【0027】
図1の測定に用いたSiO1.7薄膜(以下、単に「薄膜」ともいう。)は、介在層と同一組成かつ同一製法によるSiO1.7薄膜を1055nmの厚さ(前記厚さをdとする)でSi基板上に形成し、さらにSiO1.7薄膜上にAl膜を10nm形成した。薄膜の製法は、特に限定されないが例えばCVD法であってもよい。このAl膜とSiO1.7薄膜とSi基板からなる構造体に極短パルス光を入射して超高周波の超音波を発生させる。さらに、参照用波長(λ)が400nmの遅延パルス光を照射する。薄膜内で超音波によって回折される光を検出することにより、薄膜の縦波音速を求めることが出来る。
【0028】
この時、薄膜の密度と400nmでの屈折率を予め求めておく。プリズムカプラー法により薄膜の400nmでの屈折率(n)は、1.728であった。
また、薄膜の密度(ρ)はXPS(X線光電子分光法)によって求めたところ、2300kg/mであった。図1に示すブリリュアンスペクトルの前半部位は、薄膜内の超音波(縦波)による回折による反射光強度を示している。薄膜内の超音波(縦波)による反射光のみをフーリエ変換すると、図2に示す薄膜内の超音波(縦波)の周波数が得られる。図2から前記の薄膜内の超音波(縦波)の周波数(f)は、54.5GHzと算出できる。
【0029】
この時、薄膜内の超音波(縦波)の音速vlは、以下の式(1)により求めることができる。
vl=f×λ/(2×n) ・・・・・・式(1)
式(1)により求めた図2に示す薄膜内の超音波(縦波)の音速は6325m/sであった。また、薄膜の弾性定数C11はvl=√(C11/ρ)より算出でき、薄膜の弾性定数C11は92GPaとなった。
【0030】
次に、SiO1.7膜の横波の音速を直線収束ビーム超音波顕微鏡および有限要素法により求める方法を説明する。
まず、例えば、上述したTatsuya Omori1, Kensuke Sakamoto, Satoshi Suzuki , Jun-ichi Kushibiki, Satoru Matsuda , and Ken-ya Hashimoto , “Characterization of Elastic Properties of SiO2 Thin Films by Ultrasonic Microscopy”,に記載されている直線収束ビーム超音波顕微鏡により、薄膜のLSAW音速を、周波数を160MHz~275MHzと変化させて、薄膜厚を超音波の波長で規格化した値(薄膜厚/波長)の異存性を求めた。関係図を図3に示す。
【0031】
図3の直線収束ビーム超音波顕微鏡によるLSAW音速(縦軸)は、介在層と同一組成かつ同一製法によるSiO1.7薄膜を2830nmの厚さでSi(111)方位の基板上に形成し、直線収束ビーム超音波顕微鏡の直線収束ビームがSi基板面内の(110)方向から、薄膜側から見て時計回りに45度ずらした方向となるようにカップラントの純水を介してSiO1.7薄膜/Si基板構成の表層にLSAW伝搬させることにより得た。
【0032】
一方、2次元の有限要素法を用いてSiO1.7薄膜/(111)Si基板構成の薄膜表層に、電極周期と比べ十分薄いZnO膜とAl電極を配置して、薄膜付きSi基板のSiの<110>方向から、時計回りに45度ずらした方向に弾性波を励振させ、電極周期により決まる波長を有限要素法の計算のモデル上で変化させてSiO1.7薄膜/(111)Si基板構成の弾性波音速と波長で規格化した介在層の関係を計算した。この時、SiO1.7薄膜の弾性定数C12が未知数となっている為、C12は仮の値を入力し、図3の直線収束ビーム超音波顕微鏡によるLSAW音速の測定結果と合致するように、C12を決定した。それ以外の定数(C11,ρ)は、前記の値を計算に用いた。
【0033】
前記により求めたC12は、20GPaとなった。さらに、SiO1.7薄膜の弾性定数C12が20GPaである場合の有限要素法による弾性波の音速計算結果を図3に付記した。
また、一例として弾性波波長が18μmの場合の有限要素法による計算モデルにおいて弾性波がSiO1.7薄膜/(111)Si基板構成の薄膜表層にエネルギーが集中している波動の変位分布計算結果例を図4に示した。
【0034】
上記の検討から、SiO1.7薄膜単体の横波音速Vs(=√((C11-C12)/ρ))を求めた結果、Vs=3960m/sが得られた。上記の本願有限要素法による計算モデルでは、Si基板、ZnO膜、Al膜の弾性定数は弾性表面波データブック(財団法人 日本電子工業興業会編集),(p.66(ZnO),p.165(Si)、p.172(Al))に記載の値を用いた。
【0035】
また、本願の検討では、本願独自の試みとして、図1に示すブリリュアンスペクトルの前半部位である薄膜層内の超音波(縦波)による回折による反射光強度が時間とともに指数関数的に減衰していることに着目した。すなわち、図1に点線で示した反射光強度の包絡線において、時間が0psecのときの振幅強度をA0、超音波がSiに達した時刻における振幅強度をAとすると、式(2)により、薄膜内の超音波(縦波)の減衰定数(β)を記述する。
A=A0・exp(-β・f・d) ・・・・・・式(2)
図2の場合、A0は0.03、Aは0.004であった。前記より減衰定数βを式(3)より求める。
β=-1/(f・d)・In(A/A0) ・・・・式(3)
図2の場合 βは 10.8×10-2(nm-1・THz-2)であった。
【0036】
上述した種々の介在層について、上記と同様の方法で、ブリリュアン振動法により40GHz~60GHzの周波数で算出した縦波の減衰を求めた。
介在層の縦波の音波減衰が大きい場合は、介在層内に弾性波がトラップされやすくなる。この場合、表面弾性波デバイス用複合基板からなる表面弾性波共振子は、帯域外のスプリアスが大きくなる問題が生じることを確認した。
一方、本願発明による介在層が高音速でかつ縦波の減衰が少ないと、介在層に極端に弾性波が集中することができずに、圧電単結晶薄膜に波動エネルギーを集中させることができる。このため、本願発明の表面弾性波デバイス用複合基板を用いた表面弾性波共振子のQ値が高く、帯域外のスプリアスがさらに抑圧され好ましい。
【実施例0037】
以下、実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0038】
(実施例1)
直径150mmの(111)方位の高抵抗シリコン基板の表層にポリシリコン層を1.7μm形成した。
【0039】
次に、コングルーエント組成のタンタル酸リチウム結晶に含まれるリチウム量を基準としてリチウムの量を減らした組成の融液を調整して、該調整した組成の融液から鉄置換タンタル酸リチウム結晶を成長させた。
鉄の添加量を、鉄置換タンタル酸リチウム結晶中の鉄の含有量が95質量ppmになるように調整して得られた6inchの鉄含有42°Yカットのタンタル酸リチウム(LT)基板を準備した。鉄含有42°Yカットのタンタル酸リチウム(LT)基板は、還元処理を施すことにより体積抵抗率を2.2×1010Ω・cmに調整した。
【0040】
次に、6inchの鉄含有タンタル酸リチウム(LT)基板の接合予定面側から水素分子イオンを注入した。このときのドーズ量は9×1016atm/cmで、加速電圧は160KeVであった。
続いて、水素分子イオンを注入した6inchの鉄含有タンタル酸リチウム(LT)基板イオン注入面に0.4μm厚の組成がSiO1.85である介在層をCVD法により形成した。
続いて、上記のポリシリコン層を形成したシリコン基板と、0.4μm厚のSiO1.85を用いた介在層を有する鉄含有LT基板をプラズマ処理により表面活性化処理を行った。さらに、ポリシリコン層を形成したシリコン基板と、0.4μm厚のSiO1.85を用いた介在層を介在させて鉄含有LT基板と、を貼り合せて接合体とした。
【0041】
続いて、接合体を貼り合わせ界面のずれによる結晶欠陥導入を防ぐため窒素下において350℃で熱処理をおこなった。続いて熱処理後の接合体を110℃に加熱して、鉄含有タンタル酸リチウム(LT)基板のイオン注入部の一端にクサビを打ち込んで、シリコン基板に接合された鉄含有タンタル酸リチウム(LT)圧電単結晶薄膜層と残りの鉄含有タンタル酸リチウム(LT)基板とに分離した。
分離後のシリコン基板に接合された鉄含有タンタル酸リチウム(LT)圧電単結晶薄膜層の厚みを分光光度計により測定したところ、0.52μmの厚みであった。次に、このシリコン基板に接合された鉄含有タンタル酸リチウム(LT)圧電単結晶薄膜層からなる複合基板を500℃で6時間加熱した。
【0042】
さらに、複合基板の鉄含有タンタル酸リチウム(LT)圧電単結晶薄膜表層を20nm研磨して、シリコン基板に接合された鉄含有タンタル酸リチウム(LT)圧電単結晶薄膜層の厚みを分光光度計により測定したところ、0.5μmの厚みであった。
図5は、上記の方法で製造した実施例1の複合基板の断面TEM観察写真例を示す図であり、図5(b)は図5(a)の一部をさらに拡大した写真である。
【0043】
上記の方法で製造した複合基板の介在層(SiO1.85層)内のLi量を二次イオン質量分析(SIMS、 Secondary Ion Mass Spectrometry)により測定したところ、SiO1.85層内のLi量は,最大で2×1016atom/cmであった。また、介在層(SiO1.85層)の組成比は、X線光電子分光法(XPS)により求めた。
【0044】
さらに、介在層(SiO1.85層)の密度をXPS(X線光電子分光法)によって求めたところ、2240g/cmであった。また、ブリリュアン振動法により介在層(SiO1.85層)の縦波音速と減衰を求めた。結果、介在層(SiO1.85層)の縦波音速は6200m/s、音波減衰率は、55GHzで1.2×10-3(nm-1・THz-2)であった。
また、介在層(SiO1.85層)単体の横波音速を直線収束ビーム超音波顕微鏡と有限要素法解析を組み合わせて求めたところ、介在層(SiO1.85層)単体の横波音速は3850m/sであった。
【0045】
次に、上記で得られた複合基板表面に、Al膜を0.14μmの厚みでスパッタし、レジストを塗布したのちi線露光で約0.5μm線幅のレジストパタンを形成した。次いでドライエッチングによりAlをエッチングして1ポートのSAW共振子の1層目を形成した。この時、弾性表面波の波長は2μmであり、介在層(SiO1.85層)の厚みは0.2波長である。
さらに、上記の複合基板に、リフトオフ法によりAl膜0.6μm厚の2層目のパッド部を形成した。図6に、表面にAl微細電極を形成した複合基板を示す。
【0046】
次に、上記で作成したシリコン基板に接合された鉄含有タンタル酸リチウム(LT)圧電単結晶薄膜基板上の1ポートSAW共振子の電気特性をネットワークアナライザにて測定した。得られたSAWの共振波形(入力インピーダンス(Zin)とQ値)を図7に示す。
また、SAW共振子の共振周波数(fr)、反共振周波数(fa),電気機械結合係数(k)、Qの最大値(Qmax)、入力インピーダンスの振幅(ΔZ)、比帯域の値(比帯域=(反共振周波数-共振周波数)/共振周波数)、2400~2800MHz間のスプリアス強度を表1に示す。
【0047】
【表1】
【0048】
次に、上記で作成した1ポートSAW共振子のパタンが付いたシリコン基板に接合された鉄含有タンタル酸リチウム(LT)圧電単結晶薄膜基板を、10分間、350℃に加熱してあるホットプレート上に乗せ、その後室温の冷却板に乗せて冷やして再度1ポートSAW共振子の電気特性をネットワークアナライザにて測定した。その結果、特性は表1と同様であった。さらに、この350℃のホットプレート加熱と冷却と測定について、350℃のホットプレート加熱の累積時間で計4時間繰り返したところ各累積時間加熱後の1ポートSAW共振子の電気特性は表1と変わらなかった。
【0049】
(実施例2)
実施例1において0.4μm厚で組成がSiO1.85である介在層の代わりに、0.3μm厚で組成がSiO1.940.06である介在層を用いた以外は実施例1と同様にしてシリコン基板に接合された鉄含有タンタル酸リチウム(LT)圧電単結晶薄膜からなる複合基板を作成した。
【0050】
シリコン基板に接合された鉄含有タンタル酸リチウム(LT)圧電単結晶薄膜基板の介在層(SiO1.940.06層)の層内のLi量を二次イオン質量分析(SIMS、 Secondary Ion Mass Spectrometry)により測定したところ、SiO1.940.06層内のLi量は,1×1014atom/cm以下であった。また、前記の介在層(SiO1.940.06層)の組成比は、X線光電子分光法(XPS)により求めた。
【0051】
また、シリコン基板に接合された鉄含有タンタル酸リチウム(LT)圧電単結晶薄膜からなる複合基板のLT層を除去して、X線反射率測定法(XRR, X-ray Reflection)により介在層(SiO1.940.06層)の密度を求めた。結果、介在層(SiO1.940.06層)の密度は、2210g/cmであった。また、前記のシリコン基板に接合された鉄含有タンタル酸リチウム(LT)圧電単結晶薄膜基板のLT層を除去し、ブリリュアン振動法により介在層(SiO1.940.06層)の縦波音速と減衰を求めた。結果、介在層(SiO1.940.06層)の縦波音速は6190m/s、音波減衰率は、55GHzで1.2×10-3(nm-1・THz-2)であった。
また、介在層であるSiO1.940.06層単体の横波音速を、前述した直線収束ビーム超音波顕微鏡と有限要素法解析を組み合わせて求めたところ、SiO1.940.06層単体の横波音速は3750m/sであった。
【0052】
次に、上記で作成したシリコン基板に接合された鉄含有タンタル酸リチウム(LT)圧電単結晶薄膜基板上の1ポートSAW共振子の電気特性をネットワークアナライザにて測定した。得られたSAWの共振波形(入力インピーダンス(Zin)とQ値)を図8に示す。この時、弾性表面波の波長は2μmであり、介在層(SiO1.940.06層)の厚みは0.15波長である。
また、SAW共振子の共振周波数(fr)、反共振周波数(fa),電気機械結合係数(k)、Qの最大値(Qmax)、入力インピーダンスの振幅(ΔZ)、比帯域の値、2400~2800MHz間のスプリアス強度を表1に示す。
【0053】
【表2】
【0054】
次に、実施例1と同様の方法で作成した1ポートSAW共振子のパタンが付いたシリコン基板に接合された鉄含有タンタル酸リチウム(LT)圧電単結晶薄膜基板を、10分間、350℃に加熱してあるホットプレート上に乗せ、その後室温の冷却板に乗せて冷やして再度1ポートSAW共振子の電気特性をネットワークアナライザにて測定した。その結果、特性は表2と同様であった。さらに、この350℃のホットプレート加熱と冷却と測定について、350℃のホットプレート加熱の累積時間で計4時間繰り返したところ各累積時間加熱後の1ポートSAW共振子の電気特性は表2と変わらなかった。
【0055】
(比較例1)
直径150mmの(111)方位の高抵抗シリコン基板の表層にポリシリコン層を1.7μm形成した。
【0056】
次に、コングルーエント組成のタンタル酸リチウム結晶に含まれるリチウム量を基準としてリチウムの量を減らした組成の融液に調整して、該調整した組成の融液から鉄置換タンタル酸リチウム結晶を成長させた。
鉄の添加量を、鉄置換タンタル酸リチウム結晶中の鉄の含有量が95質量ppmになるように添加して得られた6inchの鉄含有42°Yカットのタンタル酸リチウム(LT)基板を準備した。鉄含有42°Yカットのタンタル酸リチウム(LT)基板は、還元処理を施すことにより体積抵抗率を2.2×1010Ω・cmに調整した。
【0057】
次に、6inchの鉄含有タンタル酸リチウム(LT)基板の接合予定面側から水素分子イオンを注入した。このときのドーズ量は9×1016atm/cmで、加速電圧は160KeVであった。
続いて、水素分子イオンを注入した6inchの鉄含有タンタル酸リチウム(LT)基板イオン注入面に0.4μm厚の組成がSiO1.7である介在層をCVD法により形成した。
続いて、上記のポリシリコン層を形成したシリコン基板と、0.4μm厚のSiO1.7を用いた介在層を有する鉄含有LT基板をプラズマ処理により表面活性化処理を行った。さらに、上記のポリシリコン層を形成したシリコン基板と0.4μm厚のSiO1.7を用いた介在層を介在させて鉄含有LT基板を貼り合せて接合体とした。
【0058】
続いて、接合体を貼り合わせ界面のずれによる結晶欠陥導入を防ぐため窒素下において350℃で熱処理をおこなった。続いて熱処理後の接合体を110℃に加熱して、鉄含有タンタル酸リチウム(LT)基板のイオン注入部の一端にクサビを打ち込んで、支持基板に接合された鉄含有タンタル酸リチウム(LT)圧電単結晶薄膜層と残りの鉄含有タンタル酸リチウム(LT)基板とに分離した。
分離後のシリコン基板に接合された鉄含有タンタル酸リチウム(LT)圧電単結晶薄膜層の厚みを分光光度計により測定したところ、0.52μmの厚みであった。次にこのシリコン基板に接合された鉄含有タンタル酸リチウム(LT)圧電単結晶薄膜からなる複合基板を500℃で6時間加熱した。
【0059】
さらに、複合基板の鉄含有タンタル酸リチウム(LT)圧電単結晶薄膜表層を20nm研磨して、シリコン基板に接合された鉄含有タンタル酸リチウム(LT)圧電単結晶薄膜層の厚みを分光光度計により測定したところ、0.5μmの厚みであった。
【0060】
上記の方法で製造した複合基板の介在層(SiO1.7層)内のLi量を二次イオン質量分析(SIMS、 Secondary Ion Mass Spectrometry)により測定したところ、SiO1.7層内のLi量は,最大で2×1017atom/cmであった。介在層(SiO1.7層)の組成比は、X線光電子分光法(XPS)により求めた。
【0061】
また、介在層(SiO1.7層)の密度をXPS(X線光電子分光法)によって求めたところ、2240g/cmであった。また、ブリリュアン振動法により介在層(SiO1.7層)の縦波音速と減衰を求めた。結果、介在層(SiO1.7層)の縦波音速は6325m/s、音波減衰率は、55GHzで10.8×10-2(nm-1・THz-2)であった。
また、介在層(SiO1.7層)単体の横波音速を直線収束ビーム超音波顕微鏡と有限要素法解析を組み合わせて求めたところ、介在層(SiO1.7層)単体の横波音速は3960m/sであった。
【0062】
次に、上記で得られた複合基板表面に、Al膜を0.14μmの厚みでスパッタし、レジストを塗布したのちi線露光で約0.5μm線幅のレジストパタンを形成した。次いでドライエッチングによりAlをエッチングして1ポートのSAW共振子の1層目を形成した。
さらに、上記の複合基板に、リフトオフ法によりAl膜0.6μm厚の2層目のパッド部を形成した。この時、弾性表面波の波長は2μmであり、介在層(SiO1.7層)の厚みは0.2波長である。
【0063】
次に、上記で作成したシリコン基板に接合された鉄含有タンタル酸リチウム(LT)圧電単結晶薄膜基板上の1ポートSAW共振子の電気特性をネットワークアナライザにて測定した。得られたSAWの共振波形(入力インピーダンス(Zin)とQ値)を図9に示す。
また、SAW共振子の共振周波数(fr)、反共振周波数(fa),電気機械結合係数(k)、Qの最大値(Qmax)、入力インピーダンスの振幅(ΔZ)、比帯域の値、2400~2800MHz間のスプリアス強度を表3に示す。
【0064】
【表3】
【0065】
次に、上記で作成した1ポートSAW共振子のパタンが付いたシリコン基板に接合された鉄含有タンタル酸リチウム(LT)圧電単結晶薄膜基板を、10分間、350℃に加熱してあるホットプレート上に乗せ、その後室温の冷却板に乗せて冷やして再度1ポートSAW共振子の電気特性をネットワークアナライザにて測定した。その結果、特性は表3と同様であった。さらに。この350℃のホットプレート加熱と冷却と測定について、350℃のホットプレート加熱の累積時間で計4時間繰り返したところ各累積時間加熱後の1ポートSAW共振子の電気特性は表3と変わらなかった。
【0066】
(比較例2)
直径150mmの高抵抗シリコン基板の表層にポリシリコン層を1.7μm形成した。
【0067】
次にコングルーエント組成のタンタル酸リチウム結晶に鉄非含有のタンタル酸リチウム結晶を成長させた。
鉄非含有のタンタル酸リチウム結晶を加工し、6inchの鉄非含有42°Yカットのタンタル酸リチウム(LT)基板を準備した。鉄非含有42°Yカットのタンタル酸リチウム(LT)基板は、還元処理を施すことにより体積抵抗率を2.2×10Ω・cmに調整した。
【0068】
次に、6inchの鉄非含有タンタル酸リチウム(LT)基板の接合予定面側から水素分子イオンを注入した。このときのドーズ量は9×1016atm/cmで、加速電圧は160KeVであった。
【0069】
次に、6inchの鉄非含有タンタル酸リチウム(LT)基板イオン注入面に0.4μm厚の組成がSiOである介在層をCVD法により形成した。
続いて、上記のポリシリコン層を形成したシリコン基板と、0.4μm厚のSiOを用いた介在層を有する鉄非含有LT基板をプラズマ処理により表面活性化処理を行った。さらに、上記のポリシリコン層を形成したシリコン基板と0.4μm厚のSiOを用いた介在層を介在させて鉄非含有LT基板を貼り合せて接合体とした。
【0070】
続いて、研削と研磨により、接合体(接合基板)の表層を削った。
薄化後のシリコン基板に接合された鉄非含有タンタル酸リチウム(LT)圧電単結晶薄膜層の厚みを分光光度計により測定したところ、0.5μmの厚みであった。
【0071】
上記の方法で製造した複合基板の介在層(SiO層)内のLi量を二次イオン質量分析(SIMS、 Secondary Ion Mass Spectrometry)により測定したところ、SiO層内のLi量は,最大で5×1019atom/cmであった。介在層(SiO層)の組成比は、X線光電子分光法(XPS)により求めた。
【0072】
また、上記の方法で製造した複合基板のLT層を除去して、X線反射率測定法(XRR, X-ray Reflection)により介在層(SiO層)の密度を求めた。結果、介在層(SiO層)の密度は、2100g/cmであった。また、複合基板のLT層を除去し、ブリリュアン振動法により介在層(SiO層)の縦波音速と減衰を求めた。結果、介在層(SiO層)の縦波音速は5400m/s、音波減衰率は、55GHzで5×10-1(nm-1・THz-2)であった。
また、介在層であるSiO層単体の横波音速を、前述した直線収束ビーム超音波顕微鏡と有限要素法解析を組み合わせて求めたところ、前記のSiO層単体の横波音速は3150m/sであった。
【0073】
次に、上記で作成したシリコン基板に接合された鉄を含まないタンタル酸リチウム(LT)圧電単結晶薄膜基板上の1ポートSAW共振子の電気特性をネットワークアナライザにて測定した。得られたSAWの共振波形(入力インピーダンス(Zin)とQ値)を図10に示す。
また、SAW共振子の共振周波数(fr)、反共振周波数(fa),電気機械結合係数(k)、Qの最大値(Qmax)、入力インピーダンスの振幅(ΔZ)、比帯域の値、2400~2800MHz間のスプリアス強度を表4に示す。この時、弾性表面波の波長は2μmであり、介在層(SiO層)の厚みは0.2波長である。
【0074】
【表4】
【0075】
次に、上記で作成した1ポートSAW共振子のパタンが付いたシリコン基板に接合された鉄非含有タンタル酸リチウム(LT)圧電単結晶薄膜基板を、10分間、350℃に加熱してあるホットプレート上に乗せ、その後室温の冷却板に乗せて冷やして再度1ポートSAW共振子の電気特性をネットワークアナライザにて測定した。その結果、特性は表4と同様であった。さらに、この350℃のホットプレート加熱と冷却と測定について、350℃のホットプレート加熱の累積時間で計4時間繰り返したところ、加熱の累計時間が計1時間の頃から、電気機械結合係数(k)が、表3の値から減少し始めて、加熱の累計時間が計4時間後においては、電気機械結合係数(k)は5%まで減少していた。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10