(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024162212
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】プロトン透過電極及びそれを用いた水素ガスの製造装置及び水素化反応装置
(51)【国際特許分類】
C25B 11/054 20210101AFI20241114BHJP
C25B 11/065 20210101ALI20241114BHJP
C25B 9/63 20210101ALI20241114BHJP
C25B 9/23 20210101ALI20241114BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20241114BHJP
C25B 1/04 20210101ALI20241114BHJP
C25B 3/26 20210101ALI20241114BHJP
C25B 3/03 20210101ALI20241114BHJP
C25B 1/01 20210101ALI20241114BHJP
【FI】
C25B11/054
C25B11/065
C25B9/63
C25B9/23
C25B9/00 A
C25B1/04
C25B9/00 G
C25B3/26
C25B3/03
C25B1/01 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023077547
(22)【出願日】2023-05-10
(71)【出願人】
【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
(72)【発明者】
【氏名】池田 勝佳
【テーマコード(参考)】
4K011
4K021
【Fターム(参考)】
4K011AA23
4K011DA01
4K011DA11
4K021AA01
4K021AB25
4K021AC02
4K021BA02
4K021BA17
4K021CA01
4K021CA02
4K021DB18
4K021DB31
4K021DB46
4K021DB53
4K021DC03
4K021DC15
(57)【要約】
【課題】
例えば水素ガス製造では水蒸気との分離が不要であり、二酸化炭素還元に利用する場合は、電解質相と接していない電極裏面に対して、原料である二酸化炭素を直接供給できるため、電解質に溶解させる必要が無いプロトン透過電極等を提供すること。
【解決手段】
2次元形状の物質2により構成され、2次元形状の一方面の表面2aに触媒ナノ粒子3が担持され、プロトン透過能を有して陰極11とすることができる、プロトン透過電極1であって、2次元形状の物質2は好ましくはグラフェン2´である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気伝導性を有し、自身の触媒活性は低い2次元形状の物質により構成され、前記2次元形状の一方面の表面に触媒ナノ粒子が担持され、プロトンに対する透過能を有して、そのプロトンの透過速度を電位で制御できる陰極とすることができる、プロトン透過電極。
【請求項2】
前記電気伝導性を有し、自身の触媒活性は低い2次元形状の物質はグラフェンである請求項1に記載のプロトン透過電極。
【請求項3】
前記グラフェンは銅の枠で機械的に支持されたグラフェンである請求項2に記載のプロトン透過電極。
【請求項4】
所定槽と、前記所定槽に入れられたプロトン供給源である電解質相と、前記電解質相に前記2次元形状の他方面の表面で接触する請求項1~3に何れか1項に記載のプロトン透過電極と、前記電解質相に接触する陽極電極と、を備える、水素及び/又は水素ガスの製造装置。
【請求項5】
前記プロトン透過電極はさらにプロトン輸送層又は透水性のある多孔質膜によって機械的に支持されてもよい、請求4に記載の水素及び/又は水素ガスの製造装置。
【請求項6】
請求項4に記載の製造装置による二酸化炭素の還元装置。
【請求項7】
請求項5に記載の製造装置による二酸化炭素の還元装置。
【請求項8】
請求項4に記載の製造装置による水素及び/又は水素ガスの製造方法。
【請求項9】
請求項5に記載の製造装置による水素及び/又は水素ガスの製造方法。
【請求項10】
請求項4に記載の製造装置による二酸化炭素及び/又は窒素の還元方法。
【請求項11】
請求項5に記載の製造装置による二酸化炭素及び/又は窒素の還元方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロトン透過電極及びそれを用いた水素ガスの製造装置及び水素化反応装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水を原料とする水素燃料の製造、二酸化炭素と水を原料とする炭化水素燃料や窒素と水を原料とする窒化水素の製造における装置や製造技術に対する高いニーズが存在する。
【0003】
特許文献1には、導電性基材の表面上に少なくとも白金を含有する触媒層を有する陰極であって、導電性基材が、ニッケルを含む金属を含有する金属線から構成されるメッシュであり、触媒層の目付量は、6.0g/m2以上40.0g/m2以下であり、かつ、白金の目付量は、5.5g/m2以上25.0g/m2以下である陰極が記載されている。
また、特許文献2には、電極の表面にカーボンナノチューブ等の線状炭素の構造体を形成した修飾電極を用いて水を電気分解し、水素を製造する水素製造方法、また陽極と陰極とを有し、水を電解質として水素を製造する装置であって、その修飾電極が、陽極及び陰極のうちの少なくとも一方を構成している水素製造装置が記載されている。
【0004】
非特許文献1には、グラフェンの量子的プロトン透過能が記載されている。より具体的には、単層グラフェンやhBN膜の両側にそれぞれ積層するナフィオン膜と、そのナフィオン膜の両側にそれぞれ積層するパラジウム膜(パラジウム電極)からなる構造では、一方面側から他方面側にプロトンが透過することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2018/151228
【特許文献2】特開2002-173787号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】A.K. Geim et al., Nature 516, 227-230 (2014)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の電気化学的なエネルギー変換(例えば水電解による水素ガス製造や二酸化炭素還元による炭化水素燃料製造)では、電極と電解質の界面で反応が進行することから、反応生成物は必ず電解質相内に生じ、これを分離精製する工程が必要である。すなわち水素ガスが水溶液電解質内で生成する為、取り出したガスから水蒸気を除去する工程が不可欠であるという問題があった。そこで、本発明においては、例えば水素ガス製造では水蒸気との分離が不要であり、二酸化炭素還元または窒素還元に利用する場合は、電解質相と接していない電極裏面に対して、原料である二酸化炭素または窒素を直接供給できるため、電解質に溶解させる必要が無いプロトン透過電極等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明は以下の通りである。
[1]電気伝導性を有し、自身の触媒活性は低い2次元形状の物質により構成され、前記2次元形状の一方面の表面に触媒ナノ粒子が担持され、プロトンに対する透過能を有して、そのプロトンの透過速度を電位で制御できる陰極とすることができる、プロトン透過電極である。
「自身の触媒活性は低い」とは、例えば触媒ナノ粒子と対比した場合にその触媒活性が低いことを意味する。
[2]前記電気伝導性を有し、自身の触媒活性は低い2次元形状の物質はグラフェンである[1]に記載のプロトン透過電極である。
[3]前記グラフェンは銅の枠で機械的に支持されたグラフェンである[2]に記載のプロトン透過電極である。
[4]所定槽と、前記所定槽に入れられたプロトン供給源である電解質相と、前記電解質相に前記2次元形状の他方面の表面で接触する[1]~[3]の何れか1つに記載のプロトン透過電極と、前記電解質相に接触する陽極電極と、を備える、水素及び/又は水素ガスの製造装置である。
「水素及び/又は水素ガス」とは、水素及び水素ガスの何れか1種類の化学種のことを意味する。
[5]前記プロトン透過電極はさらにプロトン輸送層又は透水性のある多孔質膜によって機械的に支持されてもよい、[4]に記載の水素及び/又は水素ガスの製造装置である。
[6][4]に記載の製造装置による二酸化炭素の還元装置である。
[7][5]に記載の製造装置による二酸化炭素の還元装置である。
[8][4]に記載の製造装置による水素及び/又は水素ガスの製造方法である。
[9][5]に記載の製造装置による水素及び/又は水素ガスの製造方法である。
[10][4]に記載の製造装置による二酸化炭素及び/又は窒素の還元方法である。
[11][5]に記載の製造装置による二酸化炭素及び/又は窒素の還元方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によるプロトン透過電極によれば、担持した触媒ナノ粒子の電極触媒能によってプロトン透過速度を印加電位で制御可能となり、電解質相と接していない電極裏面でのみ電極反応が進行する。例えば水素ガス製造では水蒸気との分離が不要であり、二酸化炭素還元に利用する場合は、電解質相と接していない電極裏面に対して、原料である二酸化炭素を直接供給できるため、電解質に二酸化炭素を溶解させることが不必要となる。更に、電解質相と接していない電極裏面に触媒ナノ粒子が担持されているため、触媒ナノ粒子の電解質相への溶出に伴う活性低下が起こらない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】(a)本発明の一つの実施形態である(a)プロトン透過2次元膜(プロトン透過電極)と、それによるプロトン量子トンネル効果を、(b)水素及び/又は水素ガスを製造する製造装置を、それぞれ模式的に示す図である。
【
図2】(a)現状の通常の水電解装置と、それによる水分解の化学反応を、(b)H(水素)―Pt(Pt陰極)の他方面の表面との距離に応じた、液相中の水素イオン(H
+
liq)と電子が供給されたPt(e
-)(Pt陰極)間等の自由エネルギー変化を、それぞれ模式的に示す図である。
【
図3】(a)別の現状の電気化学メンブレンリアクターを、(b)H(水素)―パラジウム(Pd)の他方面の表面との距離に応じた、液相中のプロトン(H
+
liq)と電子が供給されたパラジウム陰極(Pd(e
-))間等の自由エネルギー変化を、(c)H(水素)―パラジウム陰極(Pd)の一方面の表面との距離に応じた、パラジウム(Pd)とパラジウム(Pd)に吸着した水素H
ad(Pd/H
ad)間等の自由エネルギー変化を、それぞれ模式的に示す図である。
【
図4】(a)本発明の水素及び/又は水素ガスを製造する製造装置を、(b)H(水素)―Gr(グラフェン)陰極の他表面の表面との距離に応じた、液相中のプロトン(H
+
liq)とPt触媒を担持した電子が供給されたグラフェン陰極(H
+
liq/Gr(e
-)/Pt)間等の自由エネルギー変化を、それぞれ模式的に示す図である。
【
図5】どちらの電解質にも溶存酸素がない場合であって、(a)ナフィオン211が接合した単層グラフェンの場合の模式的な電気化学測定(3電極系)を、(b)(a)で接合面でない単層グラフェンの表面に白金ナノ粒子が担持された単層グラフェンの場合の電気化学測定(3電極系)、(c)(a)、(b)により得られたポテンシャルと電流密度の関係を、それぞれ示す図である。
【
図6】(a)ナフィオン211が接合した単層グラフェンであって、接合面でない単層グラフェンの表面に白金ナノ粒子が担持され、電解質に溶存酸素がない場合の模式的な電気化学測定(3電極系)を、(b)(a)で電解質に溶存酸素がある場合の電気化学測定(3電極系)、(c)(a)、(b)により得られたポテンシャルと電流密度の関係を、それぞれ示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、変更、修正、改良を加え得るものである。
【0012】
図1(a)に示すように、電気伝導性を有し、自身の触媒活性は低い2次元形状の物質2により構成された、プロトン透過2次元膜すなわちプロトン透過電極1は、触媒ナノ粒子3が担持されている2次元形状の一方面の表面2aと、触媒ナノ粒子3が担持されていない2次元形状の他方面の表面2bを有している。そして、一方面の表面2aは気相7に接触し、他方面の表面2bは液相5に接触している。
プロトン透過2次元膜(プロトン透過電極)1に電源からの電子e
-(4)が供給されると、プロトン透過能を有する陰極11となり、プロトン透過2次元膜1は液相5に含まれたH
+(6:プロトン)を、H
+のプロトンの量子トンネル効果によって、H
+をそのままプロトン透過2次元膜1中を移動させ、触媒ナノ粒子3の触媒能によって気相7でH
2(9:水素ガス)とすることができる。
【0013】
図1(b)には、電気伝導性を有し、自身の触媒活性は低い2次元形状の物質2を例えばグラフェンとして、本発明の一つの実施形態である、水素及び/又は水素ガスを製造する製造装置20を示す。その製造装置20は、所定槽(不図示)と、2次元形状のグラフェン陰極11´と、陽極16と、プロトン供給源である電解質相(液相)5と、電源18を備える。電気伝導性を有し、自身の触媒活性は低い2次元形状のグラフェン2´により構成されたプロトン透過性2次元グラフェン膜1´はその一方面の表面2´aに触媒ナノ粒子3が担持されている。陽極16は液相(電解質相)5に接触し(浸漬され)、プロトン透過性2次元グラフェン膜1´は、触媒ナノ粒子3が担持されていない2次元形状の他方面の表面2´bが液相(電解質相)5に接触している。そして、陽極16は電源18の正極側に、プロトン透過性2次元グラフェン膜1´は電源18の負極側に、それぞれ電気的に接続され、プロトン透過性2次元グラフェン膜1´はグラフェン陰極11´となる。
【0014】
グラフェン2´は、銅(Cu)の枠で機械的に支持されたグラフェン2´´(不図示)とすることができる。銅(Cu)の枠で機械的に支持されたグラフェンは、例えばCu表面にグラフェンを成膜したのち、そのままCu板の中心部分だけをエッチングで除去し、Cuの枠で機械的に支持されたグラフェンが確保でき、なおかつ電極との導通もそのままとなる。なお、一般に単層グラフェンの合成では、Cu等の金属板にCVD成膜したのち、Nafion(ナフィオン)やPMMA等のポリマーをコーティング(または接着)してグラフェンを機械的に補強し、Cuをエッチングで除去する。また、PMMAで補強したグラフェンを他の基板上に乗せてからPMMAを溶解すればグラフェンの転写ができる。したがって、グラフェンが大面積の場合は、透水性のある多孔質膜またはプロトン伝導性のあるNafionで機械的に補強してからCuをエッチングで除去してもよい。後出する実施例では補強にNafionを用いたNafion/グラフェンをそのまま使用した。
【0015】
電源18の電位印加により、液相(電解質相)5の水は、陽極16で酸化されて分解し、陽極16に電子e-を与えて酸素ガス(1/2O2)とプロトン(H+)が生成し、一方、グラフェン陰極11´には電子e-(4)が供給される。ここで、グラフェン陰極11´は量子的プロトン透過能を有するため、プロトン(H+)は、グラフェン陰極11´の他方面の表面2´bから、グラフェン陰極11´の内部を通って一方面の表面2´aにトンネル輸送される。したがって、プロトン透過2次元グラフェン膜1´は電気伝導性を有し、自身の触媒活性は低い2次元形状であって、量子的プロトン透過能を有する他の材料であってもよい。すなわちプロトン透過2次元グラフェン膜1´は、プロトン透過電極の一例である。
【0016】
電気伝導性を有し、自身の触媒活性は低い2次元形状のプロトン透過2次元グラフェン膜1´は、炭素が六角形の編み目のように結びつき、非常に薄いシート状であって、好ましくは次のようである。1原子厚さの2次元材料である単層グラフェンの場合、炭素間距離は1.42Åであり、厚みは0.33nm程度である。
【0017】
図2(a)に示すように、現状の通常の水電解装置25による水素ガス(H
2)の製造では、陽極16は電源18の正極側に、Pt陰極12は電源18の負極側に、それぞれ電気的に接続して印加する。そうすると、陽極16では水が酸化されて酸素(1/2O
2)と水素イオン(2H
+)が発生し、Pt陰極12では、水素イオン(2H
+)が還元されて水素分子(H
2)すなわち水素ガスが液相(電解質相)5中に生成する。そのため、生成した水素ガスは水蒸気を含むことになり、水素ガスの製造としては水蒸気との分離が必要となる。一方、二酸化炭素還元による炭化水素燃料製造では、電解質へのCO
2の溶解に限界があるため、水の電気分解の反応速度が遅くなるといった問題がある。
【0018】
図2(b)において、H
+
liqは液相5中に含まれるH
+を、H
ad/PtはPt陰極12に吸着したHを、H
2,gasは液相5中に生成される(H
2、水素ガス)をそれぞれ表す。そのため、同図(b)に示す凹曲線b11は、水素(H)とPt陰極(Pt)の他方面の表面12bとの距離(水素―Pt距離)に応じた、液相5中のプロトン(H
+
liq)と電子が供給された陰極(Pt(e
-))間の自由エネルギー変化(H
+
liq/(Pt(e
-))を示す。凹曲線b12は、同様な距離に応じたPt陰極12に吸着したH(H
ad)とPt陰極(Pt)間の自由エネルギー変化(H
ad/Pt)を示す。また、凹曲線b13は、同様な距離に応じた、液相5中の1/2水素分子、水素ガス(1/2H
2,gas)とPt陰極(Pt)間の自由エネルギーの変化(1/2H
2,gas/Pt)を示す。これらから液相に浸漬された陰極表面で水素発生反応が進行することが分かる。
【0019】
図3(a)に示すように、別の現状の電気化学メンブレンリアクター30によって水素ガスを製造する場合について説明する。水電解装置25と同様に電気化学メンブレンリアクター30では、陽極16は電源18の正極側に、Pd陰極22は電源18の負極側に、それぞれ電気的に接続して印加する。そうすると、陽極16では水が酸化されて酸素(1/2O
2)と水素イオン(2H
+)が発生し、Pd陰極22側では、水素イオン(2H
+)が還元されて水素分子(H
2)すなわち水素ガスが生成する。
【0020】
ところが、電気化学メンブレンリアクター30では水電解装置25と異なり、陰極はPd陰極すなわちパラジウム陰極である。水素原子(H)はPd中を水素化物として拡散輸送されるためすなわちパラジウム陰極は水素化物拡散型の水素透過膜であるため、水素イオン(2H+)を気相7中に水素分子(H2)すなわち水素ガスとして取り出すことができる。その結果、水素ガスの製造としては水蒸気との分離が不要となる。しかし、水素原子のPd陰極との水素化物生成とPd陰極内部への拡散が律速となり、またPdの水素化物が生成することによってパラジウム陰極が脆化するといった問題がある。
【0021】
図3(b)において、凹曲線b21は、水素(H)とパラジウム電極(Pd)の他方面の表面22bとの距離(水素―パラジウム距離、H―Pd距離)に応じた、液相5中のプロトン(H
+
liq)と電子が供給されたパラジウム陰極(Pd(e
-))22間の自由エネルギーの変化(H
+
liq/Pd(e
-))を示す。また、凹曲線b22は、同様な距離に応じた、パラジウム陰極22に吸着したH
adとパラジウム陰極(Pd陰極)22間の自由エネルギーの変化(H
+
ad/Pd)を示す。一方、水素(H)がパラジウム陰極中を拡散輸送されると、パラジウム陰極22中でのパラジウムの水素化物はPd
1-xH
xで表される。そして、同図(c)に示すように、凹曲線c11は、水素(H)とパラジウム電極(Pd)の一方面の表面22aとの距離(水素―パラジウム距離、H―Pd距離)応じた、パラジウム(Pd)とパラジウム陰極22に吸着したH(H
ad)との自由エネルギーの変化(Pd/H
ad)を示す。凹曲線c12は、同様な距離に応じた、パラジウム(Pd)と水素ガス(1/2H
2,gas)との自由エネルギーの変化(Pd/1/2H
2,gas)を示す。
外部から印加した電位で制御できるのは同図(b)の過程だけであり、電位で制御できないHの拡散輸送と後続の(c)が反応律速となる。
【0022】
図4(a)は、
図1(b)に示すようにグラフェン陰極を使用した、本発明の水素及び/又は水素ガスを製造する製造装置40である。
同図(b)において、凹曲線b31は、水素(H)とグラフェン陰極(Gr)11´の他方面の表面2´bとの距離(水素―グラフェン距離、H―Gr距離)に応じた、液相5中のプロトン(H
+
liq)と、Pt触媒を担持する電子が供給されたグラフェン陰極(Gr(e
-)/Pt)間の自由エネルギー変化(H
+
liq/Gr(e
-)/Pt)を示す。凹曲線b32は、水素(H)とグラフェン陰極(Gr)11´の一方面の表面2´aとの距離(H―Gr距離)に応じた、Pt触媒を担持するグラフェン陰極(Gr/Pt)とその陰極に吸着した水素(H
ad)との自由エネルギーの変化(Gr/Pt/H
ad)を示す。凹曲線b33は、同様な距離に応じた、Pt触媒を担持するグラフェン陰極(Gr/Pt)と水素ガス(1/2H
2,gas)との自由エネルギーの変化(Gr/Pt/1/2H
2,gas)を示す。凹曲線b31と凹曲線b33の障壁をトンネル効果で通り抜けるのがプロトンの量子トンネル効果である。Pt触媒はグラフェン陰極と等電位であるため、電位印加によってb31とb33の障壁高さを変えることができ、プロトンの透過速度を制御できる。
【0023】
触媒ナノ粒子の材質は、例えば上記Ptのような公知の材質を使用することができる。例えばPtの場合、その大きさ(粒径)は、Pt使用料削減の観点から1~10nm程度の粒径のナノ粒子が好ましい。また、プロトン透過2次元膜(プロトン透過電極)1の一方面の表面2aにおける担持の状態は、反応場であるグラフェン/Pt/気相の3相界面が出来るだけ多くなるようにナノ粒子が単分散されていることが好ましい。
【実施例0024】
図5(a)に示すように、電流-電位曲線測定装置50により、グラフェン陰極を構成する単層グラフェン膜32のプロトン透過能を評価した。電流-電位曲線測定装置50は所定容器の中に満たされた0.5MH
2SO
4電解質溶液(溶存酸素除去済み)35の中に、対極34、参照極(RHE)38及びホルダー51が浸漬されている。ホルダー51には、ナフィオン211(42)に支持された単層グラフェン膜32に作用極39が接触している。ポテンショスタット52により、対極34では水の酸化反応が起こり、作用極39の還元作用により水素イオン(2H
+)が還元されて水素分子(H
2)になる。
ここで、ナフィオン211(42)は、グラフェン陰極とする単層グラフェン膜32を機械的に支持するプロトン輸送層の一例である。そのため、そのようなプロトン輸送層であれば、他のプロトン輸送層であってもよい。また、プロトン輸送層の代わりに透水性のある多孔質膜で機械的に支持してもよい。なお、電極面積が小さい等単層グラフェン膜32の機械的な支持が不要な場合には、プロトン輸送層または多孔質膜は無くてもよい。
【0025】
単層グラフェン膜32はプロトン(H+)透過2次元膜として使用され、膜厚は0.33nm、大きさは約1cm四方であって、裏面(一方面の表面32a)にPt触媒は担持されていなかった。単層グラフェン膜32を支持するナフィオン211(42)はプロトン(H+)輸送膜であって、その膜厚は25.4μmであった。ナフィオン211(42)を使用した理由は、単層グラフェン膜32をホルダーに配置する際の取り扱い易さ向上のためである。
【0026】
図5(b)では、単層グラフェン膜32の代わりに、その裏面(一方面の表面32a)にPt触媒が担持された単層グラフェン膜31を使用した。担持された触媒33は、Ptイオンを含む水溶液内で単層グラフェン表面に電位を印加することで、Ptナノ粒子を還元析出させたものであった。
【0027】
図5(c)には、単層グラフェン32の場合と、裏面(一方面の表面32a)にPt触媒33が担持された単層グラフェン膜31の場合に対する、ポテンシャル(V)(vs.RHE)と電流密度(mA/cm
3)の関係(電流-電位曲線)を示した。
実験データ(電流-電位曲線)は、作用極39に流れる電流の電位依存性を表しており、負の電流値が大きくなるほど、大きな還元反応(この場合は水素発生)が起こっていることを意味する。したがって、触媒有の方が、水素発生が効率よく起こっていることが分かった。通常、触媒は電解質溶液と接している必要があるが、グラフェンのプロトン透過能により、触媒が溶液と接していないにもかかわらず活性向上に寄与していた。
【0028】
なお、気相側での水素発生は、市販の水素可視化シートを使って次のようにして確認した。0.4%以上の濃度の水素ガスに触れると透明になるシートで、気相に設置したシートが電位印加に伴い透明化する様子を目視することで確認した。なお、単層グラフェン膜32では水素可視化シートは透明にならなかった。
【0029】
図6(a)では、
図5(b)において、0.5MH
2SO
4電解質溶液(溶存酸素除去済み)35を、溶存酸素除去を行わず、溶存酸素が存在する0.5MH
2SO
4電解質溶液36としたものであった。同図(c)には、0.5MH
2SO
4電解質溶液(溶存酸素除去済み)35の場合と、溶存酸素がある0.5MH
2SO
4電解質溶液36の場合に対する、ポテンシャルV(vs.RHE)と電流密度(mA/cm
3)の関係(電流-電位曲線)を示した。その結果より、酸素の還元反応は水素の還元反応より起こりやすいので、グラフェンの溶液側で酸素還元が起きる条件では、プロトン透過が抑制されてしまうことを表していた。これもプロトン透過現象特有の現象である。なお、水への飽和濃度1.2 ×10
-6mol・cm
-3であるため、溶存酸素が存在するとは、その飽和濃度を上限として電解質溶液に酸素が存在することになる。