IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日清製粉株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024162361
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】麺類又はベーカリー食品用小麦粉
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/10 20160101AFI20241114BHJP
   A23L 7/109 20160101ALI20241114BHJP
   A21D 2/36 20060101ALI20241114BHJP
   A21D 2/18 20060101ALI20241114BHJP
   A21D 13/00 20170101ALI20241114BHJP
   A23L 29/206 20160101ALI20241114BHJP
   A21D 13/44 20170101ALN20241114BHJP
【FI】
A23L7/10 Z
A23L7/109 A
A21D2/36
A21D2/18
A21D13/00
A23L29/206
A21D13/44
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023077785
(22)【出願日】2023-05-10
(71)【出願人】
【識別番号】301049777
【氏名又は名称】日清製粉株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村上 浩二
(72)【発明者】
【氏名】津田 恭征
(72)【発明者】
【氏名】塚本 一民
(72)【発明者】
【氏名】針谷 康平
(72)【発明者】
【氏名】熊澤 衛二郎
(72)【発明者】
【氏名】菊池 洋介
(72)【発明者】
【氏名】大谷 彩夏
(72)【発明者】
【氏名】岡 千尋
(72)【発明者】
【氏名】井川 豪志
(72)【発明者】
【氏名】豊田 一希
【テーマコード(参考)】
4B023
4B032
4B041
4B046
【Fターム(参考)】
4B023LC05
4B023LE26
4B023LG06
4B023LK08
4B032DB02
4B032DB10
4B032DG02
4B032DK15
4B032DP01
4B041LC03
4B041LD01
4B041LH02
4B041LK23
4B041LP01
4B046LA02
4B046LB01
4B046LB04
4B046LC01
4B046LG29
(57)【要約】
【課題】麺類又はベーカリー食品用原料として優れた性質を有する高アミロース小麦粉。
【解決手段】コンカナバリンA法で分析された総澱粉中のアミロース含有量が40質量%以上、かつヨウ素解離率が9.0~10.5%である、麺類又はベーカリー食品用小麦粉。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
麺類又はベーカリー食品用小麦粉であって、
コンカナバリンA法で分析された総澱粉中のアミロース含有量が40質量%以上、かつヨウ素解離率が9.0~10.5%であり、
該ヨウ素解離率が下記手順1~10により測定される、小麦粉:
1.対照アミロースを40mg、被験小麦粉を100mgそれぞれ試験管に秤量する;
2.各試験管に1mLの95%エタノール、9mLの1N NaOHを添加して混合する;
3.次いで、各試験管を100℃の恒温槽で10分インキュベート後、25℃(±2℃)で放冷する;
4.放冷後の溶液を純水で100mLに定容し、対照アミロース溶液は100μL、200μL、300μL、400μL、及び500μL分取し(それぞれ分取数=5)、被験小麦粉溶液は500μL分取する(分取数=5);
5.分取した溶液に1N酢酸及びヨード液を下記の量で添加し、純水で10mLに定容してサンプル溶液とし、該サンプル溶液を20分間25℃(±2℃)で静置し、ついで該サンプル溶液の620nmにおける吸光度を測定する;
分取溶液 1N酢酸 ヨード液
対照アミロース溶液 100μL 20μL 200μL
200μL 40μL 200μL
300μL 60μL 200μL
400μL 80μL 200μL
500μL 100μL 200μL
被験小麦粉溶液 500μL 100μL 200μL

6.前記5.で測定した前記対照アミロースを含む各サンプル溶液から得られた吸光度の値から、検量線を作成する;
7.前記6.で作成した検量線を用いて、前記5.で得られた被験小麦粉を含むサンプル溶液のアミロース濃度(A)を、前記5.で測定したその吸光度に基づき算出する;
8.前記被験小麦粉を含むサンプル溶液を40℃の恒温槽でさらに5分間インキュベートし、インキュベート終了から20秒以内に再度該サンプル溶液の620nmにおける吸光度を測定する;
9.前記6.で作成した検量線を用いて、前記8.で得られた加温後のサンプル溶液のアミロース濃度(B)を、前記8.で測定したその吸光度に基づき測定する;
10.以下の式により、被験小麦粉のヨウ素解離率を計算する;
ヨウ素解離率(%)={(A-B)/A}×100。
【請求項2】
SBEIIaの活性が低い改変小麦由来の小麦粉である、請求項1記載の小麦粉。
【請求項3】
平均粒径が20~110μmである、請求項1記載の小麦粉。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項記載の小麦粉を含有するベーカリー食品。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか1項記載の小麦粉を含有する麺類。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか1項記載の小麦粉を用いるベーカリー食品の製造方法。
【請求項7】
請求項1~3のいずれか1項記載の小麦粉を用いる麺類の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、麺類又はベーカリー食品用の、改良された性質を有する高アミロース小麦粉に関する。
【背景技術】
【0002】
穀粉の代わりに食物繊維素材を配合した麺類が提供されている。特許文献1~4には、穀粉とは別に難消化性澱粉や難消化性デキストリンを配合した低糖質な麺類が開示されている。特許文献5には、水不溶性食物繊維(IDF)と水溶性高分子食物繊維(HSDF)の総量が5質量%以下であり、水溶性低分子食物繊維(LSDF)の量が25質量%以上である加工澱粉からなる水溶性食物繊維強化剤、これをベーカリー食品や麺に使用すること、及び該食物繊維強化剤を添加した食品の食感が良好であることが記載されている。しかし、穀粉の代わりに難消化性澱粉や難消化性デキストリンを配合した麺類は、生地の作業性や保形性が悪く、食感も低下しがちである。
【0003】
穀物に含まれる澱粉にはアミロースとアミロペクチンが含まれる。アミロースは、消化酵素による消化性が悪く、そのため、ヒトの消化酵素で消化されない難消化性成分、すなわち食物繊維として機能し得、難消化性澱粉に分類される。高アミロース澱粉としては、高アミロース型トウモロコシ由来の高アミロースコーンスターチがよく知られている。また近年、澱粉合成に関連する酵素に変異を有することでアミロース含有量を増加させた高アミロース小麦が開発されている(非特許文献1、2)。特許文献6~9には、澱粉分枝酵素SBEIIaの遺伝子の点変異を有し、SBEIIaの活性が低下しており、穀粒に含まれる澱粉のアミロース含有量が高い高アミロース小麦が開示されている。しかし一方で、アミロースは食品がパサついたり硬くなったりする原因でもある。例えば、前述の非特許文献2には、高アミロース小麦から製造したパンが、通常の小麦を使用したものと比べて膨らみが悪く品質に劣っていたこと、一方で、高アミロース小麦粉の配合によりパスタのようなテクスチャーの中華麺が得られたことが記載されている。そのため、ベーカリー食品や麺類では、食品の食感をソフトで口当たりのよいものにしたい場合、アミロース含有量の低い穀粉が利用されることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-2000号公報
【特許文献2】特開2017-23050号公報
【特許文献3】特開平10-313804号公報
【特許文献4】国際公開公報第2018/216706号
【特許文献5】特開2009-95316号公報
【特許文献6】特表2007-504803号公報
【特許文献7】特表2008-526690号公報
【特許文献8】特表2015-504301号公報
【特許文献9】特表2019-527054号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】J Jpn Assoc Dietary Fiber Res, 2003, 7(1):20-25
【非特許文献2】Trends in Food Science and Technology, 2006, 17:448-456
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
高アミロース小麦粉は有望な食物繊維素材の1つである。本発明は、麺類又はベーカリー食品用原料として優れた性質を有するように改良された高アミロース小麦粉に関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、特定の性質の澱粉成分を含有する高アミロース小麦粉により、良好な食感を有する麺類又はベーカリー食品を製造することができることを見出した。
【0008】
本発明の代表的実施形態として、以下を提供する。
〔1〕麺類又はベーカリー食品用小麦粉であって、
コンカナバリンA法で分析された総澱粉中のアミロース含有量が40質量%以上、かつヨウ素解離率が9.0~10.5%であり、
該ヨウ素解離率が下記手順1~10により測定される、小麦粉:
1.対照アミロースを40mg、被験小麦粉を100mgそれぞれ試験管に秤量する;
2.各試験管に1mLの95%エタノール、9mLの1N NaOHを添加して混合する;
3.次いで、各試験管を100℃の恒温槽で10分インキュベート後、25℃(±2℃)で放冷する;
4.放冷後の溶液を純水で100mLに定容し、対照アミロース溶液は100μL、200μL、300μL、400μL、及び500μL分取し(それぞれ分取数=5)、被験小麦粉溶液は500μL分取する(分取数=5);
5.分取した溶液に1N酢酸及びヨード液を下記の量で添加し、純水で10mLに定容してサンプル溶液とし、該サンプル溶液を20分間25℃(±2℃)で静置し、ついで該サンプル溶液の620nmにおける吸光度を測定する;
分取溶液 1N酢酸 ヨード液
対照アミロース溶液 100μL 20μL 200μL
200μL 40μL 200μL
300μL 60μL 200μL
400μL 80μL 200μL
500μL 100μL 200μL
被験小麦粉溶液 500μL 100μL 200μL

6.前記5.で測定した前記対照アミロースを含む各サンプル溶液から得られた吸光度の値から、検量線を作成する;
7.前記6.で作成した検量線を用いて、前記5.で得られた被験小麦粉を含むサンプル溶液のアミロース濃度(A)を、前記5.で測定したその吸光度に基づき算出する;
8.前記被験小麦粉を含むサンプル溶液を40℃の恒温槽でさらに5分間インキュベートし、インキュベート終了から20秒以内に再度該サンプル溶液の620nmにおける吸光度を測定する;
9.前記6.で作成した検量線を用いて、前記8.で得られた加温後のサンプル溶液のアミロース濃度(B)を、前記8.で測定したその吸光度に基づき測定する;
10.以下の式により、被験小麦粉のヨウ素解離率を計算する;
ヨウ素解離率(%)={(A-B)/A}×100。
〔2〕SBEIIaの活性が低い改変小麦由来の小麦粉である、〔1〕記載の小麦粉。
〔3〕平均粒径が20~110μmである、〔1〕又は〔2〕記載の小麦粉。
〔4〕〔1〕~〔3〕のいずれか1項記載の小麦粉を含有するベーカリー食品。
〔5〕〔1〕~〔3〕のいずれか1項記載の小麦粉を含有する麺類。
〔6〕〔1〕~〔3〕のいずれか1項記載の小麦粉を用いるベーカリー食品の製造方法。
〔7〕〔1〕~〔3〕のいずれか1項記載の小麦粉を用いる麺類の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明で提供される高アミロース小麦粉を用いることで、従来の高アミロース小麦粉と比べて、より良好な食感を有する麺類又はベーカリー食品を製造することができる。また本発明の高アミロース小麦粉を用いて製造された麺類又はベーカリー食品は、老化耐性に優れ、冷凍保存後にも食感を良好に維持することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において、高アミロース小麦粉とは、アミロース含有量が、好ましくは40質量%以上、より好ましくは43質量%以上、さらに好ましくは47質量%以上の小麦粉をいう。小麦粉のアミロース含有量とは、該小麦粉に含まれる総澱粉中のアミロース含有量をいう。本明細書における小麦粉のアミロース含有量は、コンカナバリンA(ConA)法により分析された値として定義され、例えば、該小麦粉をMegazyme社のアミロース/アミロペクチン分析キット(AMYLOSE/AMYLOPECTIN ASSAY KIT)で分析することで測定することができる。従来一般的なアミロース含有量の分析方法としては、(1) アミロースのヨウ素に対する結合能の高さを利用した方法(ヨウ素親和力測定法;例えば電流滴定法、比色定量法、AACC61-03法など)、(2) アミロペクチンとConAが特異的に結合することを利用した方法(ConA法)が知られている。しかし(1)を利用した方法ではアミロース量がより高く算出される傾向がある。例えば、非特許文献1や非特許文献2に記載されるSGP-1遺伝子の機能欠失型変異(null変異)を有する高アミロース小麦粉のアミロース含有量は、ヨウ素親和力測定法では37質量%程度であるが、ConA法では31質量%程度である。なお、従来一般的な小麦粉のアミロース含有量は、ヨウ素親和力測定法では32質量%未満、ConA法では28質量%未満である。
【0011】
高アミロース小麦粉の原料小麦の例としては、澱粉分枝酵素SBEIIaの活性が低い改変小麦が挙げられる。そのような改変小麦の例としては、特許文献6~9に記載される、SBEIIaの遺伝子の変異を有し、SBEIIaの活性が低下している高アミロース小麦が挙げられる。より具体的な例としては、穀粒中のSBEIIaタンパク質の量又は活性が野生型小麦穀粒中の量又は活性の2%よりも低い高アミロース小麦、1つ以上、例えば1つ又は2つのSBEIIa遺伝子のnull変異を有する高アミロース小麦、などが挙げられる。
【0012】
本発明は、麺類又はベーカリー食品用原料として優れた性質を有する高アミロース小麦粉を提供する。本発明の高アミロース小麦粉は、特定の性質を有する澱粉成分を含有するものであり、後述する方法で測定されるヨウ素解離率が9.0~10.5%であることを特徴とする。
【0013】
ヨウ素解離率は、ヨウ素に結合したアミロースのうち、所定の条件での加熱によりヨウ素と解離するものの割合を表す。アミロースはヨウ素と結合する性質を有し、アミロースの含有量を測定する際にもヨウ素との結合性が利用されることがある(例えば前述のヨウ素親和力測定法)。一方で、各種穀粉に含まれるアミロースのヨウ素との結合性は一様ではなく、該結合性の違いはヨウ素解離率に反映される。本発明者は、高アミロース小麦粉のヨウ素解離率が、該小麦粉から製造される麺類又はベーカリー食品の食感に影響することを見出した。本発明の高アミロース小麦粉は、ヨウ素解離率が前記の範囲にあることで、加熱時に澱粉の構造が緩み、膨潤しやすいと考えられ、これにより、本発明の高アミロース小麦粉は、従来の高アミロース小麦粉と比べて、しっとりとした又は柔らかな食感に優れ、かつ老化耐性が向上した麺類又はベーカリー食品を提供することができると考えられる。
【0014】
本明細書における小麦粉のヨウ素解離率の測定方法を以下に述べる。
<ヨウ素解離率の測定方法>
(材料)
対照アミロース:馬鈴薯由来アミロースを使用する。市販の馬鈴薯由来アミロースを使用することができる。
ヨード液:純水100mLに対し、ヨウ素0.2g、ヨウ化カリウム2.0gを添加した溶液を用いる。
【0015】
(手順)
1.対照アミロース40mg及び測定対象の小麦粉(以下、被験小麦粉という)100mgを試験管に秤量する。
2.各試験管に1mLの95%エタノール、9mLの1N NaOHを添加してボルテックスミキサーなどで混合する。
3.次いで、各試験管を100℃の恒温槽で10分インキュベート後、25℃(±2℃)で放冷する。
4.放冷後の溶液を純水で100mLに定容する。対照アミロース溶液は100μL、200μL、300μL、400μL、及び500μL分取する(それぞれ分取数=5)。被験小麦粉溶液は500μL分取する(分取数=5)。
5.分取した溶液に1N酢酸及びヨード液を下記の量で添加し、純水で10mLに定容してサンプル溶液とする。該サンプル溶液を20分間25℃(±2℃)で静置し、次いで、該サンプル溶液の620nmにおける吸光度を測定する。
サンプル溶液 1N酢酸 ヨード液
対照アミロース 100μL 20μL 200μL
200μL 40μL 200μL
300μL 60μL 200μL
400μL 80μL 200μL
500μL 100μL 200μL
被験小麦粉 500μL 100μL 200μL

6.前記5.で測定した前記対照アミロースを含む各サンプル溶液から得られた吸光度の値から、サンプル溶液のアミロース濃度に関する検量線を作成する。
7.前記6.で作成した検量線を用いて、前記5.で得られた被験小麦粉を含むサンプル溶液のアミロース濃度(A)を、前記5.で測定したその吸光度に基づき算出する。
8.前記被験小麦粉を含むサンプル溶液を40℃の恒温槽でさらに5分間インキュベートし、インキュベート終了から20秒以内に再度該サンプル溶液の620nmにおける吸光度を測定する。
9.前記6.で作成した検量線を用いて、前記8.で得られた加温後のサンプル溶液のアミロース濃度(B)を、前記8.で測定したその吸光度に基づき測定する。
10.以下の式により、被験小麦粉のヨウ素解離率を計算する;
ヨウ素解離率(%)={(A-B)/A}×100。
なお、上記の手順1~10は、アミロース濃度(A)及び(B)の測定、及びそれらに基づくヨウ素解離率の算出ができる限り、必ずしもこの順番で行う必要はない。
【0016】
本発明の高アミロース小麦粉は、好ましくは平均粒径が20~110μm、より好ましくは60~100μmである。本明細書における平均粒径とは、レーザー回折・散乱法により算出された粒子の体積平均径(MV)をいい、市販のレーザー回折・散乱式粒度分布計測装置(例えば、マイクロトラックMT3000II;マイクロトラックベル株式会社)を用いて測定することができる。
【0017】
本発明で使用される高アミロース小麦粉は、該高アミロース小麦の穀粒の胚乳画分のみを実質的に含む小麦粉であってもよく、又は、該高アミロース小麦の穀粒の胚乳画分に加えてさらに胚芽やふすま画分を含む小麦粉(例えば全粒粉)であってもよい。
【0018】
本発明の高アミロース小麦粉は、前述した高アミロース小麦の穀粒を通常の方法に従って製粉することによって製造することができる。このとき、製粉工程、例えばブレーキング工程、グレーディング工程、ピュリフィケーション工程、及びリダクション工程の条件や回数を調整することにより、前述のヨウ素解離率を有する高アミロース小麦粉を調整することができる。このとき、特に、目の細かいブレーキロールを通過させることにより、前述のヨウ素解離率の小麦粉を得やすくなる。また、前記のとおり製粉工程を調整したり、粉砕物を分級することによって、所望の粒径の穀粉を得ることができる。あるいは、製粉後の穀粉を分級して粒度が前述の範囲となるように取り分けることで、穀粉の粒度を調整することができる。
【0019】
本発明の高アミロース小麦粉は、食品原料として好適である。本発明の高アミロース小麦粉を用いて製造される食品は、小麦粉を使用して製造することができる食品であればよく、特に限定されない。好ましくは、本発明の高アミロース小麦粉は、麺類又はベーカリー食品の原料粉として使用することができる。
【0020】
一実施形態において、本発明の高アミロース小麦粉はベーカリー食品用小麦粉である。本発明で提供されるベーカリー食品は、原料粉として高アミロース小麦粉を用いる以外は、通常の手順に従って製造することができる。製造されるベーカリー食品の種類としては、パン、ケーキ、クッキー、パンケーキ、ホットケーキ、クレープ、ワッフル、マフィン、ドーナツ、蒸しパン(中華まん等)、お好み焼き、たこ焼き、大判焼、たい焼きなどが挙げられ、特に限定されない。製造方法の一例においては、本発明の高アミロース小麦粉を含有する原料粉と、水分、油脂などとを混合して生地を調製する。該原料粉には、本発明の高アミロース小麦粉以外に、ベーカリー食品原料として使用可能なその他の成分、例えば他の穀粉、澱粉、卵粉、紛乳、食塩、糖類、油脂、蛋白質、膨張剤などが含まれていてもよい。水分としては、水、乳、液卵などを使用することができる。油脂としてはバター、サラダ油、ショートニングなどが挙げられる。原料の配合は、製造するベーカリー食品の種類に合わせて適宜調整することができる。必要に応じて、調製した生地を発酵させてもよい。得られた生地を、必要に応じて分割又は成形し、加熱(例えば、焼成、蒸し、揚げ等)してベーカリー食品を製造することができる。本発明の高アミロース小麦粉を用いて製造されたベーカリー食品は、しっとり感に優れた良好な食感を有する。
【0021】
好ましくは、本発明で提供されるベーカリー食品は、発酵ベーカリー食品である。発酵ベーカリー食品としては、パン、及びワッフル、イーストドーナツ等の発酵菓子類が挙げられる。好ましくは、本発明の発酵ベーカリー食品は、調製された生地を、一次発酵、成形、及び二次発酵させ、次いで焼成することで製造される。本発明による発酵ベーカリー食品の製造は、ストレート法、中種法、速成法、液種法、冷凍生地法等の各種常法に従って行うことができる。必要に応じて、調製した生地を、そのまま、又は発酵もしくは成形した状態で冷蔵又は冷凍保存し、必要に応じて解凍した後、該生地を加熱して本発明のベーカリー食品を製造してもよい。
【0022】
別の一実施形態において、本発明の高アミロース小麦粉は麺類用小麦粉である。本発明で提供される麺類は、原料粉として高アミロース小麦粉を用いる以外は、通常の手順に従って製造することができる。製造方法の一例においては、本発明の高アミロース小麦粉を含有する原料粉と練水とを混捏して生地を調製する。該原料粉には、本発明の高アミロース小麦粉以外に、麺類の原料として使用可能なその他の成分、例えば他の穀粉、澱粉、蛋白質などが含まれていてもよい。練水としては、水、塩水、かん水、ガス含有水(炭酸水等)などを使用することができる。原料粉や練水の配合は、製造する麺類の種類に合わせて適宜調整することができる。次いで、調製した生地を成形して生麺を製造する。麺生地の成形の方法は、圧延、複合や切出し等の工程を含むロール製麺、押出し製麺、それらの組み合わせなど、特に限定されない。得られた生麺に対して、さらに常法に従って、乾燥、調理、凍結、冷蔵、それらの組み合わせなどの処理を施してもよい。製造される麺類の種類としては、うどん、そば、そうめん、ひやむぎ、中華麺、パスタ、麺皮などが挙げられ、特に限定されない。本発明の高アミロース小麦粉を用いて製造された麺類は、柔らかさに優れた良好な食感を有する。
【実施例0023】
以下、実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
【0024】
1)高アミロース小麦粉の調製
高アミロース小麦(SBEIIa変異遺伝子を有するSBEIIaの発現量の低い小麦)を調質後、製粉した。製粉の際にブレーキング工程、グレーディング工程、ピュリフィケーション工程、及びリダクション工程を調整することにより高アミロース小麦粉(HAW No.1~7)を製造した。製造した小麦粉の平均粒径は、マイクロトラックMT3000II(マイクロトラックベル株式会社)により体積平均径(MV)を測定したところ、70~95μmであった。また製造した小麦粉のアミロース含量を、アミロース/アミロペクチン分析キット(Megazyme社)により測定した。
【0025】
2)ヨウ素解離率の測定
得られた小麦粉のヨウ素解離率を前記の手順に従って測定した。測定に用いた試薬は以下のとおりであった。
・エタノール(純正化学 試薬特級 17065-0382)
・水酸化ナトリウム(純正化学 試薬特級 39155-0301)
・酢酸(富士フィルム和光 試薬特級 017-00256)
・ヨウ素(富士フィルム和光 試薬特級 092-05422)
・ヨウ化カリウム(富士フィルム和光 試薬特級 168-03975)
各試薬は所定の濃度に調整して使用した。純水100mLに対し、ヨウ素0.2g、ヨウ化カリウム2.0gを添加してヨード液を調製した。対照アミロースには、Amylose from potato(Sigma A0512-1G)を用いた。
【0026】
調製した高アミロース小麦粉を表1に示す。
【0027】
【表1】
【0028】
試験例1 うどん
中力粉50質量部と表1記載のHAW50質量部からなる原料粉100質量部に対し、食塩3質量部を添加した水35~42質量部を加え、ミキシングして麺生地を調製した。該生地を製麺ロールで圧延して麺帯を作製し、切り刃(#10角)で切り出してうどんの麺線を製造した(麺厚2.8mm)。得られた麺線を歩留(対紛)約300%となるように茹で、水洗冷却して茹でうどんを製造した。得られた茹でうどんの食感を訓練されたパネラー10人により下記評価基準に従って評価し、10名の評価の平均点を求めた。評価結果を表2に示す。
<評価基準>
5点:対照に比べ、非常に柔らかである
4点:対照に比べ、柔らかである
3点:対照に比べ、やや柔らかである
2点:対照と同等の食感である
1点:対照に比べ、柔らかさに欠ける
【0029】
【表2】
【0030】
試験例2 パンケーキ
ボウルに、表1記載のHAWからなる原料粉100質量部、ベーキングパウダー5質量部を投入して混合し、次いで全卵液25質量部、牛乳75質量部、適量の水を加え、ホイッパーを用いて120回/分の回転数で撹拌して品温25℃でのB型粘度計による粘度が8~12Pa・sの範囲にある生地を調製した。水の添加量は、生地の粘度が前記範囲になるように調整した。得られた生地を10分間寝かした後、加熱温度180℃に設定したグリドル上に該生地を55g流し込み、片面を3分間焼成した後、該生地を上下反転させて反対側の面を3分間焼成し、パンケーキを製造した。得られたパンケーキの老化耐性を評価するため、該パンケーキの粗熱をとったのち、-30℃のショックフリーザーで急速凍結させ、-20℃で2日間冷凍保管した。冷凍保管後のパンケーキを、常温で約2時間程度自然解凍した後、その食感を訓練されたパネラー10人により下記評価基準に従って評価し、10名の評価の平均点を求めた。評価結果を表3に示す。
<評価基準>
5点:対照に比べ、非常にしっとりしている
4点:対照に比べ、しっとりしている
3点:対照に比べ、ややしっとりしている
2点:対照と同等のしっとりさである
1点:対照に比べ、しっとりさに欠ける
【0031】
【表3】
【0032】
試験例3 パン
強力粉70質量部と表1記載のHAW30質量部からなる原料粉を調製した。該原料粉を用いてストレート法により食パンを製造した。パン生地の配合、及び製造工程は下記のとおりとした。
〔生地配合:質量部〕
小麦粉(強力粉70、HAW30) 100
イースト 3
食塩 2
上白糖 6
脱脂粉乳 2
油脂(ショートニング) 5
水 74~79
〔工程〕
ミキシング 低速7分→中高速10分
捏上温度 27.5℃
フロアタイム(27℃・75%) 60分
分割重量 450g
ベンチタイム 20分
ホイロ(38℃・85%) 60分
焼成(200℃/230℃) 25分
【0033】
製造したパンを5℃で24時間保管した後、その食感を訓練されたパネラー10人により下記評価基準に従って評価し、10名の評価の平均点を求めた。評価結果を表4に示す。
<評価基準>
5点:対照に比べ、非常にしっとりしている
4点:対照に比べ、しっとりしている
3点:対照に比べ、ややしっとりしている
2点:対照と同等のしっとりさである
1点:対照に比べ、しっとりさに欠ける
【表4】