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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024162381
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】加熱装置
(51)【国際特許分類】
   H05B 6/10 20060101AFI20241114BHJP
【FI】
H05B6/10 311
H05B6/10 301
H05B6/10 321
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023077825
(22)【出願日】2023-05-10
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(71)【出願人】
【識別番号】390013815
【氏名又は名称】学校法人金井学園
(71)【出願人】
【識別番号】596150529
【氏名又は名称】テクノ電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】麻 寧緒
(72)【発明者】
【氏名】中尾 一成
(72)【発明者】
【氏名】中道 正紀
(72)【発明者】
【氏名】門馬 修一
【テーマコード(参考)】
3K059
【Fターム(参考)】
3K059AA08
3K059AB28
3K059AD03
3K059CD52
(57)【要約】
【課題】熱コンダクタンスの向上を実現できる加熱装置を提供する。
【解決手段】加熱装置(100)は、交流電流が流れる導電線(31)と、前記導電線を囲うように形成された導電性薄膜(33)とを備える開放型コイル(3)と、前記通電部の外部に配置された導電性の外部部品(1a、2)と、を備え、前記通電部から漏れ出た磁束で前記外部部品を誘導加熱する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器に収容された被処理物を加熱する加熱装置であって、
交流電流が流れる導電線と、前記導電線を囲うように形成された導電性薄膜とを備える通電部と、
前記通電部の外部に配置された導電性の外部部品と、を備え、
前記通電部から漏れ出た磁束で前記外部部品を誘導加熱する、加熱装置。
【請求項2】
前記外部部品は、ドラフトチューブおよび前記容器の壁を含み、
前記通電部は、前記ドラフトチューブと前記壁との間に配置される、請求項1に記載の加熱装置。
【請求項3】
前記通電部は、前記容器内において螺旋状に巻回するコイルである、請求項1に記載の加熱装置。
【請求項4】
前記導電性薄膜は、前記導電線を少なくとも部分的に被覆する、請求項1に記載の加熱装置。
【請求項5】
前記導電性薄膜の厚さは2mm未満である、請求項1に記載の加熱装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器に収容された被処理物を加熱するための加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、容器に設けられた通電部に高周波電流を供給することにより、容器に収容された被処理物を加熱する加熱装置が知られている。例えば、特許文献1は、通電部と、当該通電部に固定された導体である撹拌翼とを備え、通電部に高周波電流を供給することにより撹拌翼を誘導加熱し、誘導加熱された撹拌翼を容器内で回転させることにより被処理物を加熱する加熱装置を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6927510号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の従来技術では、通電部に固定された導体である撹拌翼が被処理物を加熱する加熱部として誘導加熱される。しかしながら、上述の従来技術は、加熱部と被処理物との間の熱コンダクタンスの観点において、改善の余地がある。
【0005】
本発明の一態様は、熱コンダクタンスの向上を実現できる加熱装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の態様1に係る加熱装置は、容器に収容された被処理物を加熱する加熱装置であって、交流電流が流れる導電線と、前記導電線を囲うように形成された導電性薄膜とを備える通電部と、前記通電部の外部に配置された導電性の外部部品と、を備え、前記通電部から漏れ出た磁束で前記外部部品を誘導加熱する。
【0007】
本発明の態様2に係る加熱装置では、上記態様1において、前記外部部品は、ドラフトチューブおよび前記容器の壁を含み、前記通電部は、前記ドラフトチューブと前記壁との間に配置されてもよい。
【0008】
本発明の態様3に係る加熱装置では、上記態様1または2において、前記通電部は、前記容器内において螺旋状に巻回するコイルであってもよい。
【0009】
本発明の態様4に係る加熱装置では、上記態様1から3において、前記導電性薄膜は、前記導電線を少なくとも部分的に被覆してもよい。
【0010】
本発明の態様5に係る加熱装置では、上記態様1から4において、前記導電性薄膜の厚さは2mm未満であってもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によれば、熱コンダクタンスを向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施形態1に係る加熱装置の構成を概略的に示す断面図である。
図2】開放型コイルおよび密閉型コイルの断面を詳細に示す拡大断面図である。
図3】高周波電流の供給時における、容器内の磁界の分布を示す図である。
図4】導電性薄膜の厚さと、各加熱部における損失電力との関係を示すグラフである。
図5】高周波電流の周波数と、各加熱部における損失電力との関係を示すグラフである。
図6】導電性薄膜の厚さと、開放型コイルによる全損失電力との関係を示すグラフである。
図7】導電性薄膜の厚さと、開放型コイルへの損失電力の割合との関係を示すグラフである。
図8】実施形態2に係る加熱装置の構成を概略的に示す上面図および断面図である。
図9】実施形態3に係る加熱装置の構成を概略的に示す上面図および断面図である。
図10】実施形態4に係る加熱装置の構成を概略的に示す上面図および断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
〔実施形態1〕
(本発明の一態様の特徴点について)
本発明の一態様に係る加熱装置は、容器に収容された被処理物を加熱するための加熱装置であって、被処理物を加熱する加熱部と被処理物との間の熱コンダクタンスhAを向上させることを目的とする。ここで、熱コンダクタンスhAは、熱伝達率hと伝熱面積Aとの積であり、加熱部から被処理物への熱の伝わりやすさを表す。加熱部における損失電力W(すなわち、加熱部から被処理物に供給される単位時間あたりの熱量)は、この熱コンダクタンスhAを用いて、W=(hA)ΔTで表される。ここで、ΔTは、加熱部の表面温度Twから被処理物の温度Tsを引いた値である。
【0014】
熱コンダクタンスhAを向上させることは、以下のような利点を有する。すなわち、温度差ΔTが一定の場合、熱コンダクタンスhAが大きいほど損失電力Wは増大する。したがって、熱コンダクタンスhAを向上させることにより、被処理物を加熱するのに要する運転時間を短縮でき、製造に係る省エネルギー化および低コスト化を実現できる。また、損失電力Wが一定の場合、熱コンダクタンスhAが大きいほどΔT(すなわち、加熱部の表面温度Tw)は低減する。したがって、熱コンダクタンスhAを向上させることにより、被処理物の焦げ付きを低減し、製品の高品質化および高歩留まりを実現できる。また、加熱部の表面温度Twを均一にしやすくなり、効率よく被処理物を加熱することができる。
【0015】
本発明者らは、後述する通電部(開放型コイル3、コイル内蔵ドラフトチューブ2C)を容器の内部に設けることにより、伝熱面積Aを増大させて、熱コンダクタンスhAを向上できることを見出した。このような開放型コイルを備える加熱装置(加熱装置100,100A,100B,100C)の構成の様々な例について以下に説明する。
【0016】
(加熱装置100の概略構成)
図1は、一実施形態に係る加熱装置100の構成を概略的に示す断面図である。図1は、加熱装置100の縦断面を示している。図1に示すように、加熱装置100は、容器1、ドラフトチューブ2、開放型コイル3、および密閉型コイル4を備える。また、加熱装置100は、開放型コイル3および密閉型コイル4に高周波電流を供給する給電部(不図示)を備える。図2は、開放型コイル3および密閉型コイル4の断面を詳細に示す拡大断面図である。
【0017】
加熱装置100は、容器1の内部に収容された被処理物を加熱するための装置である。被処理物は、液体、気体、固体(粉体、粒体等)およびこれらの混合物のいずれにも適用可能である。
【0018】
容器1は、被処理物を収容する円筒部材である。ドラフトチューブ2は、容器1の内部を外筒部A1と内筒部A2とに仕切る、容器1と同軸の円筒部材である。容器1の壁1a(側壁および底壁)およびドラフトチューブ2は、導電性を有する。
【0019】
開放型コイル3は、開放型コイル3から漏れ出た磁束で、開放型コイル3の外部に配置された導電性の外部部品を誘導加熱する。本実施形態では、外部部品は、容器1の壁1aおよびドラフトチューブ2を含む。開放型コイル3は、容器1の壁1a(図1に示す一例では側壁)とドラフトチューブ2との間(すなわち、外筒部A1)に配置される。開放型コイル3は、容器1内において(図1に示す一例では、容器1の軸方向に沿って)螺旋状に巻回するコイルである。
【0020】
図2に示すように、開放型コイル3は、交流電流が流れる導電線31と、導電線31を囲うように形成された導電性薄膜33とを備える。本実施形態では、開放型コイル3は、導電線31の周囲を絶縁層32(内側から第1絶縁層32-1および第2絶縁層32-2)で被覆している。そして、導電性薄膜33は、第1絶縁層32-1と第2絶縁層32-2との間に設けられる。
【0021】
導電線31は、銅リッツ線またはホローコンダクタ等である。絶縁層32は、例えばセラミック系の耐熱絶縁材料を含み、開放型コイル3の強度を保持する。導電性薄膜33は、銅、アルミニウム、またはステンレス鋼(SUS304)などの導電性材料を含む。導電線31に高周波電流を流すと、導電性薄膜33は誘導加熱される。開放型コイル3は、このような自己誘導加熱による発熱にて被処理物を加熱する。
【0022】
導電性薄膜33の厚さ(薄膜厚さδ)は、2mm未満であればよい。これにより、導電線31に高周波電流を流したとき、導電線31にて発生する磁束は、導電性薄膜33を透過し、外部部品を十分に誘導加熱できる。好ましくは、薄膜厚さδは、0.8mm以下である。後述する図6図7で示されるように、薄膜厚さδを0.8mm以下とすることにより、同じ高周波電流を流したときに全損失電力を大きくでき、かつ、外部部品への電力分配率を10%以上とすることができる。
【0023】
密閉型コイル4は、導電線41と、導電線41の周囲を被覆する絶縁層42と、絶縁層42の周囲を被覆する導体層43とを備える。導電線41は、銅リッツ線またはホローコンダクタ等である。導体層43は、銅、アルミニウム、またはステンレス鋼(SUS304)などの導電性材料を含む。導電線41に高周波電流を流すと、導体層43は誘導加熱される。密閉型コイル4は、このような自己誘導加熱による発熱にて被処理物を加熱する。
【0024】
導体層43の厚さは2mmより大きい。高周波電流の供給時に導電線41が生成する磁束は、このような導体層43に吸収され外部に漏れ出ない。すなわち、密閉型コイル4は、外部部品を誘導加熱しない。
【0025】
以上のように、密閉型コイル4は、自己誘導加熱による発熱のみにて被処理物を加熱する。一方、開放型コイル3は、自己誘導加熱による発熱に加えて、誘導加熱による外部部品の発熱にて、被処理物を加熱する。加熱装置100は、このような開放型コイル3を備えることにより、伝熱面積Aを増大させ、熱コンダクタンスhAを向上できる。本実施形態において、被処理物を加熱する加熱部は、容器1の壁1a、ドラフトチューブ2、開放型コイル3、および密閉型コイル4である。
【0026】
加熱装置100は、容器1の軸方向に沿った回転軸(不図示)を備えてもよい。回転軸の一端は、モータの駆動軸に連結される。また、回転軸は、ドラフトチューブ2、開放型コイル3、および/または密閉型コイル4に接続される。モータによって回転軸を回転駆動させることにより、ドラフトチューブ2、開放型コイル3、および/または密閉型コイル4が回転する。これにより、ドラフトチューブ2、開放型コイル3、および/または密閉型コイル4は、被処理物を撹拌できる(すなわち、撹拌翼として機能する)。特に、ドラフトチューブ2が回転することにより、ドラフトチューブ2の表面付近における、被処理物の温度が変化する境界層を削り、当該境界層を薄くすることができる。したがって、ドラフトチューブ2から被処理物への熱伝達率hを大きくすることができる。また、さらなる撹拌性の向上のため、開放型コイル3は、シングルヘリカルリボン構造を有し、密閉型コイル4は、ダブルヘリカルリボン構造を有してもよい。
【0027】
加熱装置100は、図2に示した開放型コイル3が螺旋状に巻回するシングルヘリカル構造体の代わりに、開放型コイル3と通電されない撹拌翼(金属翼)とが交互に螺旋状に巻回するダブルヘリカル構造体を備えてもよい。この場合、容器1の壁1aおよびドラフトチューブ2に加え、当該金属翼も開放型コイル3から漏れ出た磁束で誘導加熱される(すなわち、外部部品に含まれる)。これにより、加熱装置100における開放型コイル3の導電線31および絶縁層32が占める容積率は低減される。したがって、伝熱面積Aをより増大させ、その結果、熱コンダクタンスhAのさらなる向上が実現できる。また、加熱装置100は、径の細い金属翼を複数備えることにより、さらなる伝熱面積Aの増大(すなわち熱コンダクタンスhAの向上)を図れる。また、このようなダブルヘリカル構造体を上述の回転軸により回転させることにより、容器1内の循環流れを促進できる。また、加熱装置100における開放型コイル3の導電線31が占める容積率は低減されるため、加熱装置100を軽量化できる。
【0028】
導電性薄膜33は、導電線31を少なくとも部分的に被覆してもよい。言い換えると、導電性薄膜33は、少なくとも1つ以上の貫通孔(スリットまたは孔)を有していてもよい。貫通孔の内部には、絶縁層32が配置されている。貫通孔により、開放型コイル3からの磁束の漏れを促進できる。導電性薄膜33の開口率は、例えば20~70%であればよい。
【0029】
壁1aまたはドラフトチューブ2のいずれかが導電性を有していればよい。すなわち、誘導加熱される外部部品は、壁1aまたはドラフトチューブ2のいずれかであってもよい。
【0030】
開放型コイル3および密閉型コイル4の断面形状は、図1および図2に示すように円形であってもよいし、円形以外の形状(例えば矩形)であってもよい。
【0031】
(実施例1)
実施形態1で示した加熱装置100において、開放型コイル3および密閉型コイル4に高周波電流を流したときの、容器1内の磁界の分布および加熱部における損失電力をシミュレーションした。以下、導電性薄膜33の構成等に係る各種条件と、当該各種条件に対応するシミュレーション結果とについて、図3図5を用いて説明する。
【0032】
本シミュレーションにおいて、容器1の外径は216.3mm、高さは350mmとした。また、容器1の壁1aの厚さは4mmとした。また、ドラフトチューブ2の厚さは3mmとした。また、開放型コイル3の断面形状は円形であり、開放型コイル3の直径は20mm、導電線31の直径は16mmとした。また、密閉型コイル4の断面形状は円形であり、密閉型コイル4の直径は20mm、導電線41の直径は14mm、絶縁層42の厚さは1.5mm、導体層43の厚さは1.5mmとした。容器1の壁1aと開放型コイル3との間の距離は6.15mm、開放型コイル3とドラフトチューブ2との間の距離は3mm、ドラフトチューブ2と密閉型コイル4との間の距離は3mmとした。開放型コイル3の薄膜厚さ、材料、および開口率については、本シミュレーションの条件として適宜変更した。
【0033】
本シミュレーションにおいて、開放型コイル3および密閉型コイル4に供給する高周波電流の大きさは100Aとした。開放型コイル3に供給する高周波電流の周波数は、本シミュレーションの条件として100Hz~40kHzの範囲で適宜変更した。密閉型コイル4に供給する高周波電流の周波数は、40kHzとした。
【0034】
図3は、高周波電流の供給時における、容器1内の磁界の分布を示す図である。図3の符号3001,符号3002,符号3003は、導電性薄膜33がそれぞれ銅、アルミニウム、SUS304を含み、導電性薄膜33が貫通孔を有している場合の、容器1内の磁界の分布を示す。図3の符号3004,符号3005,符号3006はそれぞれ、導電性薄膜33が銅、アルミニウム、SUS304を含み、導電性薄膜33が貫通孔を有していない場合の磁束の漏れを示す。いずれの場合も、薄膜厚さは0.01mmとし、高周波電流の周波数は40kHzとした。
【0035】
図3に示すように、高周波電流の供給時に導電線31が生成する磁束は、開放型コイル3から漏れ出している。そして、このような磁束は、導電性を有する容器1の壁1aおよびドラフトチューブ2に鎖交している。これにより、容器1の壁1aおよびドラフトチューブ2に誘導電流(渦電流)が誘起され、損失電力が発生する。
【0036】
また、開放型コイル3から漏れ出す磁界の大きさは、SUS304、アルミニウム、銅の順に大きい。これは、SUS304、アルミニウム、銅の抵抗率(それぞれ70,2.65,1.7[μΩ・cm])の大きさに対応している。
【0037】
また、導電性薄膜33に貫通孔を設けた場合、貫通孔を設けていない場合と比較し、開放型コイル3から漏れ出す磁界の大きさは大きい。すなわち、開放型コイル3に貫通孔を設けることにより、開放型コイル3からの磁束の漏れを促進できることが分かる。
【0038】
図4は、薄膜厚さδと、各加熱部における損失電力との関係を示すグラフである。図4の符号4001、符号4002、符号4003はそれぞれ、ドラフトチューブ2、開放型コイル3、容器1の壁1aにおける損失電力を示す。ここで、図4におけるグラフ4A、4C、4Eは、導電性薄膜33に貫通孔を設けた場合の上記グラフであり、図4におけるグラフ4B、4D、4Fは、導電性薄膜33に貫通孔を設けなかった場合の上記グラフである。いずれの場合も、導電性薄膜33の材料はSUS304とし、高周波電流の周波数は40kHzとした。
【0039】
図4の符号4001、符号4003に示すように、薄膜厚さδが小さいほど、外部部品における損失電力は大きくなる。これは、薄膜厚さδが小さいほど、開放型コイル3から漏れ出す磁界が大きくなることを示す。一方、図4の符号4002に示すように、開放型コイル3における損失電力は、特定の薄膜厚さδにおいてピークを有する。
【0040】
図4の符号4001、符号4003に示すように、いずれの薄膜厚さにおいても、導電性薄膜33に貫通孔を設けることにより、外部部品における損失電力は大きくなる。これは、導電性薄膜33に貫通孔を設けることにより、開放型コイル3からの磁界の漏れを促進できることを示す。一方、図4の符号4002に示すように、特定の薄膜厚さの範囲において、導電性薄膜33に貫通孔を設けることにより、開放型コイル3における損失電力は小さくなる。
【0041】
なお、図4には示していないが、導電性薄膜33の材料が銅およびアルミニウムであった場合も、薄膜厚さδと、各加熱部における損失電力との関係について同様の傾向を示した。
【0042】
図5は、高周波電流の周波数と、各加熱部における損失電力との関係を示すグラフである。図5の符号5001~符号5006は、導電性薄膜33の材料および厚さを図5に示すように設定したときの、各加熱部における損失電力を示す。
【0043】
図5に示すように、高周波電流の周波数が大きいほど開放型コイル3における損失電力は大きくなる。一方、高周波電流の周波数が5kHzより大きい範囲において、外部部品における損失電力はほとんど変化しない。これは、高周波電流の周波数を調整することにより、容器1の壁1a、ドラフトチューブ2、開放型コイル3における損失電力の合計(開放型コイル3による全損失電力)に対する開放型コイル3における損失電力の割合(開放型コイル3への電力分配率)を調整できることを示す。
【0044】
また、高周波電流の周波数と、導電性薄膜33の材料がSUS304、アルミニウム、銅のときの各加熱部における損失電力との関係はそれぞれ、薄膜厚さδが導電性薄膜33の材料の抵抗率の比となるとき(例えば、薄膜厚さδが0.2mm、0.01mm、0.006mmのとき)、同様の傾向を示す。
【0045】
(実施例2)
次に、容器1、ドラフトチューブ2、開放型コイル3、および密閉型コイル4の寸法を上述の実施例1から3倍にスケールアップしたモデルにて、損失電力の薄膜厚さ依存性をシミュレーションした。以下、損失電力の薄膜厚さ依存性について、図6図7を用いて説明する。
【0046】
図6は、薄膜厚さδと、開放型コイル3による全損失電力との関係を示すグラフである。図6に示すように、導電性薄膜33の材料がSUS304の場合、全損失電力はδ=0.1mm前後にピークを有する。なお、図6には示していないが、導電性薄膜33の材料が銅およびアルミニウムであった場合、全損失電力はδ=0.01mm前後にピークを有する。
【0047】
図7は、薄膜厚さδと、開放型コイル3への電力分配率との関係を示すグラフである。図7に示すように、高周波電流の周波数を高くするほど開放型コイル3への電力分配率は増加する。また、導電性薄膜33の材料がSUS304の場合、開放型コイル3への電力分配率は、δ=2mm前後にピークを有する。薄膜厚さδが2mmから減少または増加するにつれて、開放型コイル3への電力分配率は低下する(すなわち、外部部品への電力分配率は増加する)。
【0048】
図7に示すように、薄膜厚さδが2mm未満の範囲において、薄膜厚さδおよび高周波電流の周波数を制御することにより開放型コイル3への電力分配率を可変制御可能である。開放型コイル3への電力分配率を調整することにより、外部部品への電力分配率を制御できるため、熱コンダクタンスhAの最大化が可能である。例えば、薄膜厚さδを0.02mm、高周波電流の周波数を40kHzと設定することにより、開放型コイル3への電力分配率を78.8%(外部部品への電力分配率を21.2%)とすることができる。
【0049】
〔実施形態2〕
本発明の他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0050】
図8は、一実施形態に係る加熱装置100Aの構成を概略的に示す上面図(符号8001)および断面図(符号8002)である。符号8001中の矢印は、部材の回転方向を示す。加熱装置100Aは、容器1の内部に収容された被処理物を加熱するための装置である。加熱装置100Aは、密閉型コイル4の代わりに通電されない撹拌翼5を有する点で加熱装置100と相違する。撹拌翼5は、例えばダブルヘリカルコイルである。
【0051】
加熱装置100Aでは、開放型コイル3を容器1の壁1aとドラフトチューブ2との間に配置している。したがって、開放型コイル3に高周波電流を供給することにより、開放型コイル3への自己誘導加熱に加えて、容器1の壁1aおよびドラフトチューブ2への誘導加熱が可能である。
【0052】
ドラフトチューブ2、開放型コイル3、および撹拌翼5は、容器1の軸を中心に回転する。開放型コイル3および撹拌翼5は同じ向き(図8に示す一例では反時計回り)に回転し、ドラフトチューブ2は開放型コイル3および撹拌翼5とは逆向き(図8に示す一例では時計回り)に回転する。これにより、ドラフトチューブ2の表面付近における、被処理物の温度が変化する境界層をより薄くすることができる。なお、ドラフトチューブ2は、開放型コイル3および撹拌翼5と同じ向きに回転してもよい。
【0053】
〔実施形態3〕
本発明の他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0054】
図9は、一実施形態に係る加熱装置100Bの構成を概略的に示す上面図(符号9001)および断面図(符号9002)である。符号9001中の矢印は、部材の回転方向を示す。加熱装置100Bは、容器1の内部に収容された被処理物を加熱するための装置である。加熱装置100Bは、加熱装置100Aに対して、開放型コイル3と撹拌翼5との位置を入れ替えたものである。
【0055】
加熱装置100Bでは、開放型コイル3をドラフトチューブ2より内側に配置している。したがって、開放型コイル3に高周波電流を供給することにより、開放型コイル3への自己誘導加熱に加えて、ドラフトチューブ2への誘導加熱が可能である。
【0056】
〔実施形態4〕
本発明の他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0057】
図10は、一実施形態に係る加熱装置100Cの構成を概略的に示す上面図(符号10001)および断面図(符号10002)である。符号10001中の矢印は、部材の回転方向を示す。加熱装置100Cは、容器1の内部に収容された被処理物を加熱するための装置である。加熱装置100Cは、開放型コイル3および密閉型コイル4の代わりに撹拌翼5を有し、ドラフトチューブ2の代わりにコイル内蔵ドラフトチューブ2Cを有する点で加熱装置100と相違する。
【0058】
コイル内蔵ドラフトチューブ2Cは、ドラフトチューブ2と同様に、容器1の内部を外筒部と内筒部とに仕切る、容器1と同軸の円筒部材である。コイル内蔵ドラフトチューブ2Cは、交流電流が流れる導電線31Cと、導電線31Cが巻回した巻回体を内蔵する絶縁体32Cと、導電線31Cを囲うように形成された導電性薄膜33Cとを備える。
【0059】
導電線31Cは、銅リッツ線またはホローコンダクタ等である。絶縁体32Cは、例えばセラミック系の耐熱絶縁材料である。導電性薄膜33Cは、銅、アルミニウム、ステンレス鋼(SUS304)などの導電性材料を含む。
【0060】
導電線31Cに高周波電流を流すと、導電性薄膜33Cは誘導加熱される。コイル内蔵ドラフトチューブ2Cは、このような自己誘導加熱による発熱にて被処理物を加熱する。また、導電線31Cに高周波電流を流したとき、導電線31Cにて発生する磁束は、導電性薄膜33Cを透過し、外部部品(撹拌翼5)を誘導加熱する。すなわち、コイル内蔵ドラフトチューブ2Cに導電線31Cおよび導電性薄膜33Cを含ませることにより、コイル内蔵ドラフトチューブ2Cへの自己誘導加熱に加えて、ドラフトチューブ2の周りの撹拌翼5への誘導加熱が可能である。
【0061】
図10に示すように、導電性薄膜33Cは、絶縁体32Cの表面を被覆するように形成されてもよい。また、導電性薄膜33Cは、絶縁体32Cの内部において、導電線31Cが巻回した巻回体を囲うように形成されてもよい。また、導電性薄膜33Cは、導電線31Cの周囲を被覆する絶縁層の周囲に形成されてもよい。すなわち、コイル内蔵ドラフトチューブ2Cは、絶縁体32Cに開放型コイル3を内蔵するものであってもよい。
【0062】
なお、加熱装置100Cにおいて、一方の撹拌翼5を導電体の筒に置き換えてもよい。この場合、コイル内蔵ドラフトチューブ2Cへの自己誘導加熱に加えて、導電体の筒への誘導加熱が可能である。
【0063】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0064】
1 容器
1a 壁
2 ドラフトチューブ
2C コイル内蔵ドラフトチューブ(通電部)
3 開放型コイル(通電部)
31、31C 導電線
33、33C 導電性薄膜
100、100A、100B、100C 加熱装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10