IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

2024-162463フッ化物イオン電池用の固体電解質材料及びその製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024162463
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】フッ化物イオン電池用の固体電解質材料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0562 20100101AFI20241114BHJP
   C01F 17/36 20200101ALI20241114BHJP
   H01M 10/05 20100101ALI20241114BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
H01M10/0562
C01F17/36
H01M10/05
H01B1/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023077989
(22)【出願日】2023-05-10
(71)【出願人】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100138863
【弁理士】
【氏名又は名称】言上 惠一
(74)【代理人】
【識別番号】100131808
【弁理士】
【氏名又は名称】柳橋 泰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100145104
【弁理士】
【氏名又は名称】膝舘 祥治
(72)【発明者】
【氏名】畑 翔馬
【テーマコード(参考)】
4G076
5G301
5H029
【Fターム(参考)】
4G076AA05
4G076AA18
4G076AB04
4G076AB07
4G076BA09
4G076BA13
4G076BA24
4G076BA42
4G076BC01
4G076BD02
4G076CA02
4G076DA30
5G301CD01
5H029AJ06
5H029AM11
5H029CJ02
5H029HJ02
5H029HJ14
(57)【要約】
【課題】高いフッ化物イオンのイオン伝導度を有するフッ化物イオン電池用の固体電解質材料を提供する。
【解決手段】ランタノイド金属原子、アルカリ土類金属原子及びフッ素原子を含む金属複合フッ化物を含むフッ化物イオン電池用の固体電解質材料である。金属複合フッ化物は、赤外吸収スペクトルにおいて、400cm-1以上450cm-1以下の波数範囲における吸収の最大値に対する3150cm-1以上3250cm-1以下の波数範囲における吸収の最大値の比が0.10以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ランタノイド金属原子、アルカリ土類金属原子及びフッ素原子を含む金属複合フッ化物を含み、
前記金属複合フッ化物は、赤外吸収スペクトルにおいて、400cm-1以上450cm-1以下の波数範囲における吸収の最大値に対する3150cm-1以上3250cm-1以下の波数範囲における吸収の最大値の比が0.10以下であるフッ化物イオン電池用の固体電解質材料。
【請求項2】
前記金属複合フッ化物は、セシウム原子を更に含む請求項1に記載の固体電解質材料。
【請求項3】
前記金属複合フッ化物は、L色空間におけるLの値が70以上である請求項1又は2に記載の固体電解質材料。
【請求項4】
前記金属複合フッ化物は、炭素の総含有量が200ppm以下である請求項1又は2に記載の固体電解質材料。
【請求項5】
前記金属複合フッ化物は、前記ランタノイド金属原子、前記アルカリ土類金属原子及び前記セシウム原子の合計モル数に対する、
前記ランタノイド金属原子のモル数の比が0を超えて0.6未満であり、
前記アルカリ土類金属原子のモル数の比が0.4以上1.0未満であり、
前記セシウム原子のモル数の比が0を超えて0.38未満である組成を有する請求項2に記載の固体電解質材料。
【請求項6】
前記金属複合フッ化物は、下記式(1)で表される組成を有する請求項1に記載の固体電解質材料。
Ln(1-x―y)Cs (1)
(式(1)中、Lnはランタノイド金属原子を示し、Mはアルカリ土類金属原子を示す。x、y及びzは、0<x<1、0≦y<1、0<x+y<1、及び1.87<z<3を満たす)
【請求項7】
前記式(1)におけるxおよびyは、0.4≦x<1、0.4<x+y<1、及び0<y<0.38を満たす請求項6に記載の固体電解質材料。
【請求項8】
ランタノイド金属原子、アルカリ土類金属原子及びフッ素原子を含む第1金属複合フッ化物を準備することと、
前記第1金属複合フッ化物をフッ素含有物質の存在下で熱処理して第2金属複合フッ化物を得ることと、を含むフッ化物イオン電池用の固体電解質材料の製造方法。
【請求項9】
第1金属複合フッ化物は、前記アルカリ土類金属原子の含有量に対する前記ランタノイド金属原子の含有量の比が、0を超えて1.5以下である組成を有する請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記第1金属複合フッ化物は、セシウム原子を更に含む請求項8に記載の製造方法。
【請求項11】
前記第1金属複合フッ化物は、前記ランタノイド金属原子、前記アルカリ土類金属原子及び前記セシウム原子の合計モル数に対する、
前記ランタノイド金属原子のモル数の比が0を超えて0.6未満であり、
前記アルカリ土類金属原子のモル数の比が0.4以上1.0未満であり、
前記セシウム原子のモル数の比が0を超えて0.38未満である組成を有する請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記第2金属複合フッ化物を得ることにおける熱処理は、100℃以上650℃以下の温度範囲で行う請求項8から11のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項13】
前記フッ素含有物質は、F、CHF、CF、NHHF、HF、SiF、KrF、XeF、XeF及びNFからなる群より選択される少なくとも1種を含む請求項8から11のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、フッ化物イオン電池用の固体電解質材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高電圧で高エネルギー密度を有する電池として、フッ化物イオンの反応を利用するフッ化物イオン固体電池が知られている。フッ化物イオン電池は、例えば150℃以上の高温で動作するが、低温状態では固体電解質のイオン伝導度が低く動作しないという課題があった。これに関連して、例えば特許文献1には、タイソナイト構造を有する固体電解質材料が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-77992号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示の一態様は、高いフッ化物イオンのイオン伝導度を有するフッ化物イオン電池用の固体電解質材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の第1態様は、ランタノイド金属原子、アルカリ土類金属原子及びフッ素原子を含む金属複合フッ化物を含むフッ化物イオン電池用の固体電解質材料である。前記金属複合フッ化物は、赤外吸収スペクトルにおいて、400cm-1以上450cm-1以下の波数範囲における吸収の最大値に対する3150cm-1以上3250cm-1以下の波数範囲における吸収の最大値の比が0.10以下である。
【0006】
第2態様は、ランタノイド金属原子、アルカリ土類金属原子及びフッ素原子を含む第1金属複合フッ化物を準備することと、前記第1金属複合フッ化物をフッ素含有物質の存在下で熱処理して第2金属複合フッ化物を得ることと、を含むフッ化物イオン電池用の固体電解質材料の製造方法である。
【発明の効果】
【0007】
本開示の一態様によれば、高いフッ化物イオンのイオン伝導度を有するフッ化物イオン電池用の固体電解質材料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。また組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。さらに本明細書に記載される数値範囲の上限及び下限は、数値範囲として例示された数値をそれぞれ任意に選択して組み合わせることが可能である。以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。ただし、以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体化するための、フッ化物イオン電池用の固体電解質材料及びその製造方法を例示するものであって、本発明は、以下に示すフッ化物イオン電池用の固体電解質材料及びその製造方法に限定されない。
【0009】
フッ化物イオン電池用の固体電解質材料
フッ化物イオン電池用の固体電解質材料(以下、単に「固体電解質材料」ともいう)は、ランタノイド金属原子、アルカリ土類金属原子及びフッ素原子を含む金属複合フッ化物を含む。固体電解質材料を構成する金属複合フッ化物は、赤外吸収スペクトルにおいて、400cm-1以上450cm-1以下の波数範囲における吸収の最大値に対する3150cm-1以上3250cm-1以下の波数範囲における吸収の最大値の比(以下、「特定比」ともいう)が0.10以下である。
【0010】
ランタノイド金属原子、アルカリ土類金属原子及びフッ素原子を含む金属複合フッ化物を含む固体電解質材料は、赤外吸収スペクトルにおける3200cm-1付近の吸収ピークが小さいことで、高いフッ化物イオンのイオン伝導度を示すことができる。これは例えば以下のように考えることができる。3200cm-1付近の吸収ピークは例えば水酸基の伸縮振動に由来する吸収ピークであると考えられる。水酸基の伸縮振動に由来する吸収ピーク強度が小さいことは、固体電解質材料を構成する金属複合フッ化物におけるフッ素原子の欠陥が少ないことを意味すると考えられ、これにより高いフッ化物イオンのイオン伝導度を示すことができると考えられる。
【0011】
ランタノイド金属原子、アルカリ土類金属原子及びフッ素原子を含む金属複合フッ化物は、赤外吸収スペクトルにおいて、400cm-1以上450cm-1以下の波数範囲に強い吸収ピークを有する。固体電解質材料においては、この強い吸収ピークの吸収の最大値を基準として、3150cm-1以上3250cm-1以下の波数範囲における吸収の最大値が評価される。固体電解材料における400cm-1以上450cm-1以下の波数範囲における吸収の最大値に対する3150cm-1以上3250cm-1以下の波数範囲における吸収の最大値の比(特定比)は、0.1以下、0.05以下、0.03以下、又は0.02以下であってよい。特定比は例えば0.001以上、又は0.01以上であってよい。固体電解質材料の赤外吸収スペクトルは、フーリエ変換赤外分光装置を用いて全反射測定法(ATR法)で測定される。
【0012】
特定比が特定の範囲である固体電解質材料は、高い白色度を示す。白色度は、例えば、L色空間におけるLの値(明度)で評価することができる。固体電解質材料におけるLの値は、例えば70以上であってよく、80以上、85以上、又は90以上であってよい。L色空間におけるLの値は、固体電解質材料を30kNで圧粉成形したペレットについて、分光測色計を用いて測定される。
【0013】
固体電解質材料は、その製造方法に由来して炭素原子を含んでいてもよい。炭素原子の由来は、製造方法に用いられる有機溶剤、大気中の二酸化炭素等が考えられる。固体電解質材料が炭素原子を含む場合、炭素の含有量(以下、「TC」ともいう)は、例えば200ppm以下であってよく、150ppm以下、100ppm以下、又は80ppm以下であってよい。TCが前述した範囲より少ない場合、不純物が少ないことによってフッ化物イオン電導性がより向上する傾向がある。また、炭素原子の含有量(TC)は、例えば10ppm以上、20ppm以上、又は30ppm以上であってよい。固体電解質材料における炭素原子の含有量は、例えばCHN元素分析装置を用いて、熱処理により発生した二酸化炭素を定量することで測定される。
【0014】
固体電解質材料は、高いフッ化物イオンのイオン伝導度を示す。固体電解質材料におけるフッ化物イオンのイオン伝導度は、例えば25℃において10-7(S/cm)以上であってよく、好ましくは10-6(S/cm)以上、又は10-5(S/cm)以上であってよい。固体電解質材料のイオン伝導度は、高周波インピーダンス測定装置を用いて交流インピーダンス法によって測定される。
【0015】
固体電解質材料を構成する金属複合フッ化物は、フッ素原子、ランタノイド金属原子及びアルカリ土類金属原子を含む蛍石構造を含んでいてよい。一般に蛍石構造は、アルカリ土類金属イオンとフッ化物イオンとが1:2の比で構成するイオン性結晶構造である。金属複合フッ化物における蛍石構造においては、アルカリ土類金属イオン及びフッ化物イオンに加えて、ランタノイド金属イオンが固溶している。蛍石構造にランタノイド金属イオンが固溶することで、イオン伝導度が向上する。これは例えば、以下のように考えることができる。ランタノイド金属イオンが固溶することで、蛍石構造中のフッ化物イオンの含有比が大きくなり、格子間位置にフッ化物イオンが存在するようになる。この格子間位置に存在するフッ化物イオンと通常サイトに存在するフッ化物イオンを押し出し玉突きで移動する準格子間拡散の伝導機構によりフッ化物イオンが格子間を伝導するようになるためと考えることができる。
【0016】
固体電解質材料を構成する金属複合フッ化物は、ランタノイド金属原子及びアルカリ土類金属原子に加えて、アルカリ土類金属イオンよりも大きなイオン半径を有する付加イオンを形成し得る付加成分を含んでいてよい。金属複合フッ化物が付加成分を含む場合、金属複合フッ化物は、フッ化物イオン、ランタノイド金属イオン及びアルカリ土類金属イオンを含む蛍石構造中に、アルカリ土類金属イオンよりも大きなイオン半径を有する付加イオンを含有する結晶構造(以下、「特定結晶構造」ともいう)を主相として有していてよい。これにより、高いイオン伝導度を示すことができる。これは例えば、アルカリ土類金属イオンよりも大きなイオン半径を有する付加イオンが結晶構造中に含まれることで金属複合フッ化物の結晶の格子定数が大きくなるため、イオン伝導を担うフッ化物イオンの結晶内での移動が容易になるためと考えることができる。
【0017】
金属複合フッ化物が特定結晶構造を主相として含む場合、金属複合フッ化物の結晶相における特定結晶構造の含有率は、例えば60モル%以上であってよい。金属複合フッ化物の結晶相における特定結晶構造の含有率は、好ましくは80モル%以上、又は100モル%であってよい。
【0018】
金属複合フッ化物が、ランタノイド金属原子、アルカリ土類金属原子及び付加成分を組成に含むことは、例えば金属複合フッ化物を誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析することで、それらの含有比も含めて確認することができる。一般に蛍石構造はイオン性結晶であることから、ランタノイド金属原子、アルカリ土類金属原子及び付加成分がICP発光分光分析によって検出されることは、これらが金属複合フッ化物の結晶構造内にイオンとして存在していることを示すと考えることができる。
【0019】
金属複合フッ化物の組成においては、ランタノイド金属原子、アルカリ土類金属原子及び付加成分の合計モル数(以下、「総陽イオンモル数」ともいう)に対するフッ素原子のモル数の比が1.87を超えて3未満であってよい。金属複合フッ化物の組成における総陽イオンモル数に対するフッ素原子のモル数の比は、好ましくは1.9以上、又は2以上であってよく、より好ましくは2を超えていてもよい。また好ましくは2.8以下、又は2.6以下であってよく、より好ましくは2.3以下であってよい。フッ素原子のモル数の比が前記範囲内であると、イオン伝導性がより向上する傾向がある。なお、金属複合フッ化物の組成に含まれるフッ素原子のモル数は、ICP発光分光分析法によって定量される金属イオン量に基づいて、ランタノイド金属イオン、アルカリ土類金属イオン及び付加イオンの合計モル数を1として、それぞれの価数を考慮して算出される。
【0020】
例えば、ICP発光分光分析法により、ランタノイド金属イオンであるLa3+、アルカリ土類金属イオンであるBa2+および付加イオンであるCsがモル数の比でそれぞれ、1:1:1で検出されたとする。この場合、ランタンイオン、バリウムイオン及びセシウムイオンの合計モル数を1とすると、ランタンイオン、バリウムイオン及びセシウムイオンの検出量はモル基準でそれぞれ1/3となる。ランタンイオンの価数を3、バリウムイオンの価数を2、及びセシウムイオンの価数を1として、金属複合フッ化物の組成に含まれるフッ化物イオンのモル数は、(1/3)×3+(1/3)×2+(1/3)×1=2であると算出される。
【0021】
固体電解質材料を構成する金属複合フッ化物が含むランタノイド金属原子としては、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)等が挙げられる。ランタノイド金属原子は、好ましくは、少なくともランタンを含み、セリウム、サマリウム等をさらに含んでいてよく、より好ましくは少なくともランタンを含んでいてよい。金属複合フッ化物が含むランタノイド金属原子の総モル数に対するランタンのモル数の比は、例えば0.5以上であってよく、好ましくは0.7以上、又は0.9以上であってよい。ランタンのモル数の比は、例えば1以下であってよい。
【0022】
金属複合フッ化物の組成におけるランタノイド金属原子のモル数の比は、ランタノイド金属原子、アルカリ土類金属原子及び付加成分の合計モル数に対して、例えば0を超えて0.8未満であってよい。ランタノイド金属原子のモル数の比は、好ましくは0.05以上、又は0.1以上であってよく、また好ましくは0.6以下、又は0.4以下であってよい。ランタノイド金属原子のモル数の比が前記範囲内であると、金属複合フッ化物の主相が蛍石構造をとることできる。
【0023】
固体電解質材料を構成する金属複合フッ化物が含むアルカリ土類金属原子としては、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)等が挙げられる。アルカリ土類金属原子は、好ましくは、少なくともバリウムを含み、さらにストロンチウム、カルシウム等を含んでいてよく、より好ましくは少なくともバリウムを含んでいてよい。金属複合フッ化物が含むアルカリ土類金属原子の総モル数に対するバリウムのモル数の比は、例えば0.5以上であってよく、好ましくは0.7以上、又は0.9以上であってよい。バリウムのモル数の比は、例えば1以下であってよい。
【0024】
金属複合フッ化物の組成におけるアルカリ土類金属原子のモル数の比は、ランタノイド金属原子、アルカリ土類金属原子及び付加成分の合計モル数に対して、例えば0.2以上1未満であってよい。アルカリ土類金属原子のモル数の比は、好ましくは0.4以上であってよく、0.8以下であってよい。アルカリ土類金属原子のモル数の比が前記範囲内であると、金属複合フッ化物の主相が蛍石構造をとることできる。
【0025】
金属複合フッ化物の組成におけるアルカリ土類金属原子のモル数に対するランタノイド金属原子のモル数の比は、例えば0を超えて4以下であってよい。アルカリ土類金属原子のモル数に対するランタノイド金属原子のモル数の比は、好ましくは0.1以上、又は0.3以上であってよく、また好ましくは1.5以下、又は1.0以下であってよい。
【0026】
金属複合フッ化物が含む付加成分から形成される付加イオンは、金属複合フッ化物が主相として含む結晶構造中に固溶していてよく、金属複合フッ化物が主相として含む結晶構造の全体に略均一に分布していてよい。ここで、金属複合フッ化物が主相として含む結晶構造中に、付加イオンが固溶するとは、金属複合フッ化物が主相として含む結晶構造を構成する陽イオンの一部が付加イオンに置換されていることを意味する。
【0027】
金属複合フッ化物が含む付加成分は、金属複合フッ化物に含まれる蛍石構造を構成するアルカリ土類金属イオンよりも大きなイオン半径を有するカチオンを形成し得るものであればよい。付加成分から形成されるカチオンは、金属イオン等の無機イオンであっても、有機カチオンであってもよい。ここで、カチオンのイオン半径は、金属イオンの場合は文献公知の値を採用することができる。また、有機カチオンのイオン半径は密度汎関数理論(DFT)等のシミュレーション計算によって求められる。例えばこの方法で求められるテトラメチルアンモニウムイオンのイオン半径は、0.18nmから0.27nm程度である。付加イオンとして具体的には、セシウム(Cs)イオン、ルビジウム(Rb)、アンモニウムイオン等の無機イオン、メチルアンモニウムイオン、ジメチルアンモニウムイオン、トリメチルアンモニウムイオン、テトラメチルアンモニウムイオン、エチルアンモニウムイオン、ジエチルアンモニウムイオン、トリエチルアンモニウムイオン、テトラエチルアンモニウムイオン等の有機カチオンを挙げることができる。付加イオンは、セシウム(Cs)イオン、メチルアンモニウムイオン、ジメチルアンモニウムイオン、トリメチルアンモニウムイオン、テトラメチルアンモニウムイオン、エチルアンモニウムイオン、ジエチルアンモニウムイオン、トリエチルアンモニウムイオン及びテトラエチルアンモニウムイオンからなる群から選択される少なくとも1種を含んでいてよく、好ましくは少なくともセシウムイオンを含んでいてよい。
【0028】
金属複合フッ化物が含む付加成分の総モル数に対するセシウムのモル数の比は、例えば0.5以上であってよく、好ましくは0.6以上、0.8以上、又は0.98以上であってよい。セシウムのモル数の比は、例えば1以下であってよい。
【0029】
付加イオンは、アルカリ土類金属イオンよりも大きなイオン半径を有する。アルカリ土類金属イオンのイオン半径に対する付加イオンのイオン半径の比は、例えば1を超えて3以下であってよい。アルカリ土類金属イオンに対する付加イオンのイオン半径の比は、好ましくは1.05以上、又は1.1以上であってよく、また好ましくは2以下であってよい。
【0030】
金属複合フッ化物の組成における付加成分のモル数の比は、ランタノイド金属原子、アルカリ土類金属原子及び付加成分の合計モル数に対して、例えば0を超えて0.38未満であってよい。付加成分のモル数の比は、好ましくは0.05以上、又は0.2以上であってよく、また好ましくは0.35以下、又は0.3以下であってよい。
【0031】
金属複合フッ化物の組成における付加成分のモル数の比は、アルカリ土類金属原子のモル数に対して、例えば0を超えて1未満であってよい。アルカリ土類金属原子のモル数に対する付加成分のモル数の比は、好ましくは0.1以上、又は0.4以上であってよく、また好ましくは0.9以下、又は0.7以下であってよい。また、金属複合フッ化物の組成における付加成分のモル数の比は、ランタノイド金属原子のモル数に対して、例えば0を超えて1.5以下であってよい。ランタノイド金属原子のモル数に対する付加成分のモル数の比は、好ましくは0.1以上、又は0.3以上であってよく、また好ましくは1.2以下、又は1.0以下であってよい。
【0032】
金属複合フッ化物は、下記式(1)で表される組成を有していてもよい。
Ln(1-x―y) (1)
【0033】
式(1)中、Lnはランタノイド金属原子を示し、Mはアルカリ土類金属原子を示し、Aは付加成分を示す。x、y及びzは、0<x<1、0<y<1、0<x+y<1、及び1.87<z<3を満たしていてよい。x及びyは、好ましくは0.4≦x<1、0.4<x+y<1、及び0<y<0.38を満たしていてよい。zは、好ましくは2≦z≦2.6を満たしていてよい。x及びyは、より好ましくは0.4≦x<0.8、0.4<x+y<1、及び0.05<y≦0.35を満たしていてよい。zは、好ましくは2<z≦2.3を満たしていてよい。
【0034】
また、金属複合フッ化物は、下記式(1a)で表される組成を有していてもよい。
Ln(1-x―y)Cs (1a)
【0035】
式(1)中、Lnはランタノイド金属原子を示し、Mはアルカリ土類金属原子を示す。x、y及びzは、0<x<1、0<y<1、0<x+y<1、及び1.87<z<3を満たしていてよい。x及びyは、好ましくは0.4≦x<1、0.4<x+y<1、及び0<y<0.38を満たしていてよい。zは、好ましくは2≦z≦2.6を満たしていてよい。x及びyは、より好ましくは0.4≦x<0.8、0.4<x+y<1、及び0.05<y≦0.35を満たしていてよい。zは、好ましくは2<z≦2.3を満たしていてよい。
【0036】
式(1)及び(1a)におけるランタノイド金属成分、アルカリ土類金属成分及び付加成分の詳細については記述の通りである。
【0037】
固体電解質材料は、CuKα線を用いて測定されるX線回折(XRD)測定において、2θ=25.3°±1°、29.3°±1°、41.9°±1°、49.6°±1°等の位置にピークを有していてよい。好ましくはこれらのピークのうち少なくとも2つを同時に有していてよく、より好ましくはこれらのピークのうち少なくとも3つを同時に有していてよく、更に好ましくはこれらのピークのうち4つを同時に有していてよい。上記の位置にピークを有していることで、固体電解質材料が蛍石構造を含んでいるとみなすことができる。
【0038】
固体電解質材料の体積平均粒径は、例えば1nm以上100μm以下であってよく、好ましくは20nm以上10μm以下であってよい。固体電解質材料の体積平均粒径は、体積基準の累積粒度分布において、小径側からの体積累積50%に対応する粒径として求められる。なお、体積基準の累積粒度分布は、例えばレーザー回折式粒度分布測定装置を用いて測定される。
【0039】
フッ化物イオン電池用の固体電解質材料の製造方法
フッ化物イオン電池用の固体電解質材料の製造方法は、ランタノイド金属原子、アルカリ土類金属原子及びフッ素原子を含む第1金属複合フッ化物を準備する第1工程と、第1金属複合フッ化物をフッ素含有物質の存在下で熱処理して第2金属複合フッ化物を得る第2工程と、を含む。固体電解質材料は、第2工程で得られる第2金属複合フッ化物を含んでいてよく、第2金属複合フッ化物からなるものであってよい。
【0040】
第1金属複合フッ化物をフッ素含有物質の存在下で熱処理することで、例えば第1金属複合フッ化物に含まれるフッ素原子の欠陥が低減される。これにより、フッ化物イオン電池を構成する場合に高いフッ化物イオンのイオン伝導度を達成することができる。
【0041】
第1工程
第1工程では、ランタノイド金属原子、アルカリ土類金属原子及びフッ素原子を含む第1金属複合フッ化物を準備する。第1金属複合フッ化物は譲り受け等で準備してもよいし、所望の構成を有する第1金属複合フッ化物を製造して準備してもよい。準備される第1金属複合フッ化物の組成は、既述の固体電解質材料に含まれる金属複合フッ化物と同様であってよい。
【0042】
第1金属複合フッ化物は、例えば以下のような第1の製造方法によって製造してもよい。第1金属複合フッ化物の第1の製造方法は、ランタノイド金属源及びアルカリ土類金属源を含み、必要に応じて付加成分を含む混合物を準備する準備工程と、混合物を所定の温度で熱処理して第1金属複合フッ化物を得る熱処理工程とを含んでいてよい。得られる第1金属複合フッ化物は、ランタノイド金属イオン及びアルカリ土類金属イオンを含む蛍石構造中に付加イオンを含有する結晶構造を主相として有していてよい。また、付加イオンはアルカリ土類金属イオンよりも大きなイオン半径を有していてよく、少なくともセシウムイオンを含んでいてよい。ランタノイド金属源、アルカリ土類金属源及び付加成分の少なくとも1種はフッ化物イオンを含んでいてよい。
【0043】
準備工程では、ランタノイド金属源及びアルカリ土類金属源を含み、必要に応じて付加成分を含む混合物を準備する。ランタノイド金属源に含まれるランタノイド金属、アルカリ土類金属源に含まれるアルカリ土類金属及び付加成分の詳細については、それぞれ既述の通りである。
【0044】
一態様において、ランタノイド金属源はランタノイド金属フッ化物を含んでいてよく、アルカリ土類金属源はアルカリ土類金属フッ化物を含んでいてよく、付加成分は付加イオンのフッ化物を含んでいてよい。混合物におけるランタノイド金属フッ化物、アルカリ土類金属フッ化物及び付加イオンのフッ化物の含有比は、ランタノイド金属フッ化物に含まれるランタノイド金属イオンの含有量をpmol、アルカリ土類金属フッ化物に含まれるアルカリ土類金属イオンの含有量をqmolおよび付加イオンのフッ化物に含まれる付加イオンの含有量をrmol、付加イオンの価数をnとするときに、1.87<(3p+2q+nr)/(p+q+r)<3を満たすような含有比であってよい。混合物がこのような含有比でランタノイド金属フッ化物、アルカリ土類金属フッ化物及び付加イオンのフッ化物を含むことで、得られる第1金属複合フッ化物の組成におけるフッ化物イオンのモル数の比が、ランタノイド金属イオン、アルカリ土類金属イオン及び付加イオンの合計モル数に対して1.87を超えて3未満となる。前記(3p+2q+nr)/(p+q+r)は、好ましくは1.9以上、又は2以上であってよく、より好ましくは2を超えていてよい。また好ましくは2.8以下、又は2.6以下であってよく、より好ましくは2.3以下であってよい。
【0045】
一態様において、混合物は、ランタノイド金属源が含むランタノイド金属原子のモル数、アルカリ土類金属源が含むアルカリ土類金属原子のモル数及び付加イオンを形成し得る付加成分のモル数の合計を1とする場合に、混合物が含むフッ化物イオンのモル数の比が1.87を超えて3未満である組成を有していてよい。混合物におけるフッ化物イオンのモル数の比は、好ましくは1.9以上、又は2以上であってよく、より好ましくは2を超えていてよい。また好ましくは2.8以下、又は2.6以下であってよく、より好ましくは2.3以下であってよい。
【0046】
混合物に含まれるランタノイド金属源としては、ランタノイド金属フッ化物、ランタノイド金属塩化物、ランタノイド金属水酸化物、ランタノイド金属酸化物等を挙げることができる。前記ランタノイド金属イオン源は水和物であってよい。ランタノイド金属イオン源は、好ましくは少なくともランタノイド金属フッ化物を含んでいてよい。ランタノイド金属源の総モル数に対するランタノイド金属フッ化物のモル数の比は、ランタノイド金属のモル数を基準として例えば0.2以上であってよく、好ましくは0.8以上であってよい。ランタノイド金属フッ化物のモル数の比は、例えば1以下であってよい。
【0047】
ランタノイド金属源の純度は、例えば50%以上であってよく、好ましくは80%以上であってよい。また、ランタノイド金属源の純度は、例えば100%以下であってよい。
【0048】
混合物に含まれるアルカリ土類金属源としては、アルカリ土類金属フッ化物、アルカリ土類金属塩化物、アルカリ土類金属水酸化物、アルカリ土類金属酸化物等を挙げることができる。前記アルカリ土類金属源は水和物であってよい。アルカリ土類金属源は、好ましくは少なくともアルカリ土類金属フッ化物を含んでいてよい。アルカリ土類金属源の総モル数に対するアルカリ土類金属フッ化物のモル数の比は、アルカリ土類金属のモル数を基準として例えば0.2以上であってよく、好ましくは0.8以上であってよい。アルカリ土類金属フッ化物のモル数の比は、例えば1以下であってよい。
【0049】
アルカリ土類金属源の純度は、例えば50%以上であってよく、好ましくは80%以上であってよい。また、アルカリ土類金属源の純度は、例えば100%以下であってよい。
【0050】
混合物に含まれる付加成分としては、付加イオンのフッ化物、付加イオンの塩化物、付加イオンの水酸化物、付加イオンの酸化物等を挙げることができる。付加成分は水和物であってよい。付加成分は、好ましくは少なくとも付加イオンのフッ化物を含んでいてよい。付加成分の総モル数に対する付加イオンのフッ化物のモル数の比は、付加イオンのモル数を基準として例えば0.2以上であってよく、好ましくは0.8以上であってよい。付加イオンのフッ化物のモル数の比は、例えば1以下であってよい。付加成分はセシウム原子を含んでいてよく、付加イオンはセシウムイオンであってよい。
【0051】
付加成分の純度は、例えば50%以上であってよく、好ましくは80%以上であってよい。また、付加成分の純度は、例えば100%以下であってよい。
【0052】
混合物におけるランタノイド金属源、アルカリ土類金属源及び付加成分の混合比は、ランタノイド金属源に含まれるランタノイド金属原子、アルカリ土類金属源に含まれるアルカリ土類金属原子及び付加成分に含まれる付加イオンの合計モル数(総陽イオンモル数)に対する、ランタノイド金属源に含まれるランタノイド金属原子のモル数の比が、例えば0を超えて0.8モル未満であってよい。総陽イオンモル数に対するランタノイド金属原子のモル数の比は、好ましくは0.05以上、又は0.1以上であってよく、また好ましくは0.6以下、又は0.4以下であってよい。また、総陽イオンモル数に対するアルカリ土類金属原子のモル数の比は、例えば0.2以上1未満であってよい。総陽イオンモル数に対するアルカリ土類金属原子のモル数の比は、好ましくは0.4以上であってよく、また好ましくは0.8以下であってよい。また、総陽イオンモル数に対する付加イオンのモル数の比は、例えば0を超えて0.38未満であってよい。総陽イオンモル数に対する付加イオンのモル数の比は、好ましくは0.05以上、又は0.2以上であってよく、また好ましくは0.35以下、又は0.3以下であってよい。
【0053】
また、混合物におけるアルカリ土類金属原子に対するランタノイド金属原子の含有量のモル比は、例えば0を超えて4以下、又は0を超えて1.5以下であってよい。アルカリ土類金属原子に対するランタノイド金属原子の含有量のモル比は、好ましくは0.1以上、又は0.3以上であってよく、また好ましくは1.4以下、1.2以下、又は1.0以下であってよい。
【0054】
混合物は、ランタノイド金属源及びアルカリ土類金属源と、必要に応じて含まれる付加成分とをそれぞれ所望の配合比になるように計量した後、ボールミルなどを用いる混合方法、ヘンシェルミキサー、V型ブレンダーなどの混合機を用いる混合方法などにより混合することで調製することができる。混合は、乾式混合で行ってもよいし、溶媒等を加えて湿式混合で行ってもよい。混合物は、乾燥処理されたものであってもよい。乾燥処理としては、例えば熱乾燥、減圧乾燥、凍結乾燥等で行うことができ、これらを組み合わせて行ってもよい。熱乾燥の条件は、例えば30℃以上200℃以下で0.5時間以上24時間以下であってよい。
【0055】
混合物は、好ましくはランタノイド金属源及びアルカリ土類金属源と、必要に応じて含まれる付加成分とのメカニカルミリング処理物であってよい。すなわち、混合物はランタノイド金属源及びアルカリ土類金属源と、必要に応じて含まれる付加成分とを、メカニカルミリング処理により混合して得られるものであってよい。メカニカルミリング処理は、例えば遊星ボールミル、ビーズミル、ボールミル、ジェットミル等を用いて行うことができる。メカニカルミリング処理の条件としては、例えば遊星ボールミルを用いる場合、0.5時間以上48時間以下であってよく、好ましくは5時間以上24時間以下であってよい。
【0056】
熱処理工程では、準備した混合物を所定の第1熱処理温度で熱処理して第1金属複合フッ化物を得る。熱処理工程における第1熱処理温度は、例えば200℃以上1000℃以下であり、好ましくは300℃以上、又は400℃以上であってよく、また好ましくは700℃以下、又は600℃以下であってよい。
【0057】
熱処理は、所定の第1熱処理温度まで昇温することと、その第1熱処理温度を保持することと、その第1熱処理温度から降温することとを含んでいてよい。第1熱処理温度までの昇温速度は、例えば室温からの昇温速度として、1℃/分以上20℃/分以下であってよく、好ましくは5℃/分以上であってよく、また好ましくは10℃/分以下であってよい。第1熱処理温度を保持する熱処理時間は、例えば1時間以上であってよく、好ましくは5時間以上であってよい。また、熱処理時間は、例えば48時間以下であってよく、好ましくは20時間以下、又は10時間以下であってよい。第1熱処理温度からの降温速度は、例えば室温までの降温速度として、1℃/分以上20℃/分以下であってよい。
【0058】
熱処理工程における雰囲気は、例えば不活性ガス雰囲気であってよい。不活性ガスとしては窒素ガス、アルゴン等の希ガスが挙げられる。不活性ガス雰囲気は、不活性ガスの含有率が、例えば90体積%以上であってよく、好ましくは95体積%、又は98体積%以上であってよく、実質的に不活性ガスが100体積%であってよい。ここで実質的にとは、不可避的に混入する不活性ガス以外の気体の存在を排除しないことを意味する。不活性ガス以外の気体の含有率は、例えば1体積%以下であってよい。
【0059】
熱処理工程の雰囲気における圧力は、例えばゲージ圧として0MPa以上1MPa以下であってよい。混合物の熱処理は、例えば管状炉、炉底昇降炉等を用いて行うことができる。
【0060】
熱処理工程で得られる第1金属複合フッ化物は、ランタノイド金属原子、アルカリ土類金属原子及び付加イオンの合計モル数に対する、ランタノイド金属原子のモル数の比が0を超えて0.6未満であり、アルカリ土類金属原子のモル数の比が0.4以上1.0未満であり、付加イオンのモル数の比が0を超えて0.38未満である組成を有していてよい。
【0061】
また、第1金属複合フッ化物は以下のような第2の製造方法によって製造してもよい。第1金属複合フッ化物の第2の製造方法は、前駆体を準備する前駆体準備工程と、前駆体を熱処理して第1金属複合フッ化物を得る前駆体熱処理工程とを含んでいてよい。得られる第1金属複合フッ化物は、ランタノイド金属イオン及びアルカリ土類金属イオンを含む蛍石構造中に付加イオンを含有する結晶構造を主相として有していてよい。また、付加イオンはアルカリ土類金属イオンよりも大きなイオン半径を有していてよく、少なくともセシウムイオンを含んでいてよい。
【0062】
前駆体準備工程では、ランタノイド金属原子、アルカリ土類金属原子及びフッ素原子を含み、必要に応じて付加イオンを含む前駆体を準備する。ランタノイド金属原子、アルカリ土類金属原子及び付加イオンの詳細については、それぞれ既述の通りである。
【0063】
ランタノイド金属原子、アルカリ土類金属原子及びフッ素原子を含む前駆体は、例えば以下のようにして準備することができる。ランタノイド金属イオンを含む第1水溶液と、アルカリ土類金属イオンを含む第2水溶液と、フッ化物イオンを含む第3水溶液とを混合して、ランタノイド金属原子及びアルカリ土類金属原子を含むフッ化物として前駆体を調製することができる。第1水溶液、第2水溶液及び第3水溶液の混合によって生成した前駆体は、固液分離(例えば、ろ過)によって回収することができる。
【0064】
混合は、例えば第1水溶液及び第2水溶液の混合物と、第3水溶液とを混合することで行うことができる。あるいは第3水溶液に第1水溶液及び第2水溶液を加えて混合してもよい。混合における温度は、例えば0℃以上100℃以下であってよく、好ましくは10℃以上80℃以下であってよい。混合時の雰囲気は、例えば大気雰囲気であってよい。混合時間は、例えば1時間以上72時間以下であってよく、好ましくは10時間以上24時間以下であってよい。ここで混合時間は、各水溶液の混合比が所望の範囲になった時点から、次の処理(例えば、ろ過処理)を開始するまでの時間である。
【0065】
第1水溶液はランタノイド金属源の水溶液であってよい。第1水溶液を構成するランタノイド金属源としては、ランタノイド金属の無機酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩等を挙げることができる。無機酸塩には硝酸塩、硫酸塩、ハロゲン酸塩等が含まれる。ランタノイド金属源の純度は、例えば50%以上であってよく、好ましくは80%以上であってよい。また、ランタノイド金属源の純度は、例えば100%以下であってよい。第1水溶液におけるランタノイド金属イオンの濃度は、例えば1mmol/kg以上1000mol/kg以下であってよく、好ましくは10mmol/kg以上、又は100mmol/kg以上であってよく、また好ましくは100mol/kg以下、又は10mol/kg以下であってよい。
【0066】
第2水溶液はアルカリ土類金属源の水溶液であってよい。第2水溶液を構成するアルカリ土類金属源としては、アルカリ土類金属の無機酸塩、酢酸塩類、シュウ酸塩類を挙げることができる。無機酸塩には硝酸塩、硫酸塩、ハロゲン酸塩等が含まれる。アルカリ土類金属源の純度は、例えば50%以上であってよく、好ましくは80%以上であってよい。また、アルカリ土類金属源の純度は、例えば100%以下であってよい。アルカリ土類金属源の水溶液におけるアルカリ土類金属イオンの濃度は、例えば1mmol/kg以上1000mol/kg以下であってよく、好ましくは10mmol/kg以上、又は100mmol/kg以上であってよく、また好ましくは100mol/kg以下、又は10mol/kg以下であってよい。
【0067】
第3水溶液はフッ化物イオン源の水溶液であってよい。第3水溶液を構成するフッ化物イオン源としては、フッ化アンモニウム、フッ化水素酸、フッ化メチルアンモニウム等を挙げることができる。フッ化物イオン源の純度は、例えば50%以上であってよく、好ましくは80%以上であってよい。また、フッ化物イオン源の純度は、例えば100%以下であってよい。フッ化物イオンを含む水溶液におけるフッ化物イオンの濃度は、例えば1mmol/kg以上1000mol/kg以下であってよく、好ましくは10mmol/kg以上、100mmol/kg以上、又は1mol/kg以上であってよく、又好ましくは100mol/kg以下、又は50mol/kg以下であってよい。
【0068】
前駆体準備工程における第1水溶液と第2水溶液の混合比は、第1水溶液に含まれるアルカリ土類金属イオンに対する第2水溶液に含まれるランタノイド金属イオンのモル比として、例えば0を超えて4以下、又は0を超えて1.5以下であってよい。アルカリ土類金属イオンに対するランタノイド金属イオンのモル比は、好ましくは0.1以上、0.3以上、又は0.5以上であってよく、また好ましくは1.4以下、1.2以下、1.0以下、又は0.8以下であってよい。また第3水溶液の混合比は、ランタノイド金属イオンとアルカリ土類金属イオンの総モル数に対する第3水溶液に含まれるフッ化物イオンのモル比として、例えば0.8以上5以下であってよく、好ましくは1.2以上、1.5以上、又は3以上であってよく、4.5以下、又は4以下であってよい。
【0069】
第1水溶液、第2水溶液及び第3水溶液の混合によって得られる前駆体は、第1水溶液、第2水溶液及び第3水溶液の混合によって生成する沈殿物に含まれていてよい。前駆体を含む沈殿物は、固液分離によって反応母液から回収することができる。固液分離によって得られる沈殿物に対しては洗浄処理を行ってもよい。洗浄処理は、例えば水を含む液媒体を用いて行うことができる。洗浄処理は、例えば沈殿物を漏斗等に保持して液媒体を通液しておこなってもよく、沈殿物と液媒体の混合物を固液分離して行ってもよい。洗浄処理は沈殿物から分離される液媒体の電気伝導度が、例えば1mS/cm以下、好ましくは0.5mS/cm以下、又は0.1mS/cm以下になるまで行ってよい。
【0070】
以上のようにして得られるランタノイド金属、アルカリ土類金属及びフッ素原子を含む前駆体に対しては乾燥処理を行ってもよい。乾燥処理は、例えば前駆体を熱処理することで行うことができる。乾燥処理における温度は、例えば50℃以上300℃以下であってよく、好ましくは100℃以上、又は200℃以下であってよい。また、乾燥処理は減圧下で行ってもよい。乾燥処理を減圧下で行う場合の気圧は、例えば10Pa以下であってよく、好ましくは0.01Pa以下であってよい。
【0071】
前駆体は、ランタノイド金属、アルカリ土類金属及びフッ素原子に加えて付加成分に由来する付加イオンを更に含んでいてもよい。付加イオンは、少なくともセシウムイオンを含んでいてよく、実質的にセシウムイオンであってよい。付加イオンを含む前駆体は、ランタノイド金属及びアルカリ土類金属を含むフッ化物と付加イオンを生成する付加成分とを混合することで調製することができる。具体的には、付加成分及び液媒体を含む付加成分の溶液又は分散液と、ランタノイド金属及びアルカリ土類金属を含むフッ化物とを混合することで、付加イオンを含む前駆体を得ることができる。得られる付加イオンを含む前駆体からは、液媒体の少なくとも一部が除去されていてもよい。
【0072】
溶液又は分散液に含まれる付加成分としては、付加イオンのフッ化物、付加イオンの塩化物、付加イオンの水酸化物、付加イオンの酸化物、付加イオンの炭酸物、付加イオンの水素化物等を挙げることができる。付加成分の詳細については既述の通りである。付加成分の溶液又は分散液を構成する液媒体は、少なくとも水を含んでいてよく、実質的に水であってよい。また、液媒体は水以外の液体を含んでいてもよい。液媒体が水以外の液体を含む場合、水以外の液体としては、炭素数1から8のアルコール、メタノール、エタノール等の有機溶剤を挙げることができる。付加成分の溶液又は分散液における付加成分の含有量は、例えば50質量%以上99.99質量%以下であってよく、好ましくは90質量%以上99質量%以下であってよい。
【0073】
ランタノイド金属及びアルカリ土類金属を含むフッ化物と付加成分の混合比は、ランタノイド金属及びアルカリ土類金属を含むフッ化物に対する付加成分に含まれる付加イオンのモル比として、例えば0.1以上0.5以下であってよく、好ましくは0.2以上、又は0.3以下であってよい。
【0074】
また、ランタノイド金属及びアルカリ土類金属を含むフッ化物と付加成分との混合比は、目的とする付加イオンを含む前駆体の組成に応じて適宜設定してもよい。例えば、付加成分が付加イオンのフッ化物である場合、ランタノイド金属及びアルカリ土類金属を含むフッ化物と、付加イオンのフッ化物との混合比は、フッ化物に含まれるランタノイド金属の含有量をpmol、アルカリ土類金属イオンの含有量をqmolおよび付加イオンのフッ化物に含まれる付加イオンの含有量をrmol、付加イオンの価数をnとするときに、1.87<(3p+2q+nr)/(p+q+r)<3を満たすような混合比であってよい。(3p+2q+nr)/(p+q+r)は、好ましくは1.9以上、又は2以上であってよく、より好ましくは2を超えていてよい。また好ましくは2.8以下、又は2.6以下であってよく、より好ましくは2.3以下であってよい。
【0075】
付加イオンを含む前駆体におけるランタノイド金属原子、アルカリ土類金属原子及び付加イオンの含有量は、ランタノイド金属原子、アルカリ土類金属原子及び付加イオンの合計モル数(総陽イオンモル数)に対する、ランタノイド金属原子のモル数の比が、例えば0を超えて0.8モル未満であってよい。総陽イオンモル数に対するランタノイド金属原子のモル数の比は、好ましくは0.05以上、又は0.1以上であってよく、また好ましくは0.6以下、又は0.4以下であってよい。また、総陽イオンモル数に対するアルカリ土類金属原子のモル数の比は、例えば0.2以上1未満であってよい。総陽イオンモル数に対するアルカリ土類金属原子のモル数の比は、好ましくは0.4以上であってよく、また好ましくは0.8以下であってよい。また、総陽イオンモル数に対する付加イオンのモル数の比は、例えば0を超えて0.38未満であってよい。総陽イオンモル数に対する付加イオンのモル数の比は、好ましくは0.05以上、又は0.2以上であってよく、また好ましくは0.35以下、又は0.3以下であってよい。
【0076】
以上のようにして得られる前駆体を熱処理することで第1金属複合フッ化物を得ることができる。前駆体の熱処理の温度(以下、第2熱処理温度ともいう)は、例えば200℃以上1000℃以下であり、好ましくは300℃以上、400℃以上、又は500℃以上であってよく、また好ましくは800℃以下、又は700℃以下であってよい。
【0077】
前駆体の熱処理は、所定の第2熱処理温度まで昇温することと、その第2熱処理温度を保持することと、その第2熱処理温度から降温することとを含んでいてよい。第2熱処理温度までの昇温速度は、例えば室温からの昇温速度として、1℃/分以上20℃/分以下であってよく、好ましくは5℃/分以上であってよく、また好ましくは10℃/分以下であってよい。第2熱処理温度を保持する熱処理時間は、例えば1時間以上であってよく、好ましくは5時間以上であってよい。また、熱処理時間は、例えば48時間以下であってよく、好ましくは20時間以下、又は15時間以下であってよい。第2熱処理温度からの降温速度は、例えば室温までの降温速度として、1℃/分以上20℃/分以下であってよい。
【0078】
前駆体の熱処理における雰囲気は、例えば不活性ガス雰囲気であってよい。不活性ガスとしては窒素ガス、アルゴン等の希ガスが挙げられる。不活性ガス雰囲気は、不活性ガスの含有率が、例えば90体積%以上であってよく、好ましくは95体積%、又は98体積%以上であってよく、実質的に不活性ガスが100体積%であってよい。ここで実質的にとは、不可避的に混入する不活性ガス以外の気体の存在を排除しないことを意味する。不活性ガス以外の気体の含有率は、例えば1体積%以下であってよい。
【0079】
また、前駆体の熱処理における雰囲気は、フッ素含有物質を含む雰囲気であってもよい。その場合、結晶構造におけるフッ素原子欠損の低減、不純物の低減といった効果が期待される。熱処理の雰囲気におけるフッ素含有物質としては、例えばF、CHF、CF、PF、PH、BF、NHHF、HF、SiF、AsF、KrF、XeF、XeF、NF、SF、C、C、SiF、SF、CFC、HCFC、HFC、C、C、C、NOF等が挙げられる。前駆体の熱処理における雰囲気がフッ素含有物質を含む場合、雰囲気中のフッ素含有物質の濃度は、例えば、3体積%以上35体積%以下であってよく、好ましくは5体積%以上、又は10体積%以上であってよく、また好ましくは30体積%以下、又は25体積%以下であってよい。さらに前駆体の熱処理における雰囲気がフッ素含有物質を含む場合、フッ化物イオン電池用の固体電解質材料の製造方法は、後述する第2工程を含んでいてもよく、含まなくてもよい。
【0080】
前駆体の熱処理の雰囲気における圧力は、例えばゲージ圧として0MPa以上1MPa以下であってよい。混合物の熱処理は、例えば管状炉、炉底昇降炉等を用いて行うことができる。
【0081】
前駆体の熱処理で得られる第1金属複合フッ化物は、ランタノイド金属原子、アルカリ土類金属原子及び付加イオンの合計モル数に対する、ランタノイド金属原子のモル数の比が0を超えて0.6未満であり、アルカリ土類金属原子のモル数の比が0.4以上1.0未満であり、付加イオンのモル数の比が0を超えて0.38未満である組成を有していてよい。
【0082】
第2工程
第2工程では、第1金属複合フッ化物をフッ素含有物質の存在下で熱処理して第2金属複合フッ化物を得る。第2工程では、第1金属複合フッ化物をフッ素含有物質と接触させた状態で熱処理して第2金属複合フッ化物を得てよい。得られる第2金属複合フッ化物は、目的とする固体電解質材料であってよい。
【0083】
第1金属複合フッ化物を、フッ素含有化合物と接触させた状態で熱処理することで、第1金属複合フッ化物の結晶構造中でフッ素原子が不足している領域にフッ素原子が供給されて、結晶構造の欠陥がより低減される第2金属複合フッ化物が得られると考えられる。これにより固体電解質材料において高いフッ化物イオンのイオン伝導度を達成することができると考えられる。また、固体電解質材料の耐久性が向上すると考えられる。
【0084】
第2工程で用いられるフッ素含有物質は、常温で固体状態、液体状態又は気体状態のいずれであってもよい。固体状態又は液体状態のフッ素含有物質としては、例えば、NHF等が挙げられる。また、気体状態のフッ素含有物質としては、例えば、F、CHF、CF、PF、PH、BF、NHHF、HF、SiF、AsF、KrF、XeF、XeF、NF、SF、C、C、SiF、SF、CFC、HCFC、HFC、C、C、C、NOF等が挙げられる。フッ素含有物質は、F、CHF、CF、NHHF、HF、SiF、KrF、XeF、XeF及びNFからなる群から選択される少なくとも1種を含んでいてよく、好ましくはF及びHFからなる群から選択される少なくとも1種を含んでいてよい。
【0085】
フッ素含有物質が、常温で固体状態又は液体状態のものである場合、第1金属複合フッ化物とフッ素含有物質と混合することで、これらを接触させた状態とすることができる。第1金属複合フッ化物は、例えば、第1金属複合フッ化物とフッ素含有物質の合計量100質量%に対して、フッ素原子の質量換算で1質量%以上20質量%以下、好ましくは2質量%以上10質量%以下のフッ素含有物質と混合してよい。
【0086】
第1金属複合フッ化物とフッ素含有物質を混合する際の温度は、例えば20℃以上400℃未満の温度であってもよく、より好ましくは150℃以上の温度であってもよい。第1金属複合フッ化物と常温で固体状態又は液体状態のフッ素含有物質とを接触させる温度が20℃以上200℃未満の場合は、第1金属複合フッ化物とフッ素含有物質とを接触させてから200℃以上の温度で第2工程の熱処理を行なってよい。
【0087】
フッ素含有物質が気体である場合には、フッ素含有物質を含む雰囲気中に第1金属複合フッ化物を配置して接触させてもよい。フッ素含有物質を含む雰囲気は、フッ素含有物質に加えて希ガス、窒素等の不活性ガスを含んでいてもよい。この場合、雰囲気中のフッ素含有物質の濃度は、例えば、3体積%以上35体積%以下であってよく、好ましくは5体積%以上、又は10体積%以上であってよく、また好ましくは30体積%以下、又は25体積%以下であってよい。
【0088】
第2工程における熱処理は、第1金属複合フッ化物とフッ素含有物質とを接触させた状態で、第3熱処理温度を所定時間に亘って保持することで実施してよい。第3熱処理温度は、例えば100℃以上650℃以下であってよく、好ましくは400℃以上、425℃以上、450℃以上、又は480℃以上であってよい。第3熱処理温度は、好ましくは600℃未満、580℃以下、550℃以下、又は520℃以下であってよい。
【0089】
第3熱処理温度が前記下限値以上であると、第1金属複合フッ化物に十分にフッ素原子が供給され、得られる固体電解質材料におけるフッ化物イオンのイオン伝導度がより向上する傾向がある。また第3熱処理温度が前記上限値以下であると、得られる第1金属複合フッ化物の分解がより効果的に抑制され、得られる固体電解質材料におけるフッ化物イオンのイオン伝導度がより向上する傾向がある。
【0090】
第2工程の熱処理における熱処理時間、すなわち、第3熱処理温度を保持する時間は、例えば、1時間以上40時間以下であってよく、好ましくは2時間以上又は3時間以上であってよく、また好ましくは30時間以下、10時間以下又は8時間以下であってよい。第3熱処理温度での熱処理時間が前記範囲内であれば、液媒体と接触後の第1金属複合フッ化物に、十分にフッ素原子を供給することができる。これにより第2金属複合フッ化物の結晶構造がより安定となり、フッ化物イオンのイオン伝導度が高い固体電解質材料が得られる傾向がある。
【0091】
第2工程の熱処理における圧力は、大気圧(0.101MPa)であってもよく、大気圧を超えて5MPa以下でもよく、大気圧を超えて1MPa以下でもよい。
【0092】
固体電解質材料の製造方法は、第2工程後に得られる第2金属複合フッ化物に解砕、粉砕、分級操作等の処理を組合せて行う整粒工程を含んでいてもよい。整粒工程により所望の粒径の粉末を得ることができる。
【0093】
本開示に係る発明は、例えば以下の態様を包含してよい。
[1] ランタノイド金属原子、アルカリ土類金属原子及びフッ素原子を含む金属複合フッ化物を含み、前記金属複合フッ化物は、赤外吸収スペクトルにおいて、400cm-1以上450cm-1以下の波数範囲における吸収の最大値に対する3150cm-1以上3250cm-1以下の波数範囲における吸収の最大値の比が0.10以下であるフッ化物イオン電池用の固体電解質材料。
【0094】
[2] 前記金属複合フッ化物は、セシウム原子を更に含む[1]に記載の固体電解質材料。
【0095】
[3] 前記金属複合フッ化物は、前記ランタノイド金属原子、前記アルカリ土類金属原子及び前記セシウム原子の合計モル数に対する、
前記ランタノイド金属原子のモル数の比が0を超えて0.6未満であり、
前記アルカリ土類金属原子のモル数の比が0.4以上1.0未満であり、
前記セシウム原子のモル数の比が0を超えて0.38未満である組成を有する[2]に記載の固体電解質材料。
【0096】
[4] 前記金属複合フッ化物は、L色空間におけるLの値が70以上である[1]から[3]のいずれかに記載の固体電解質材料。
【0097】
[5] 前記金属複合フッ化物は、炭素の総含有量が200ppm以下である[1]から[4]のいずれかに記載の固体電解質材料。
【0098】
[6] 前記金属複合フッ化物は、下記式(1)で表される組成を有する[1]から[5]のいずれかに記載の固体電解質材料。
Ln(1-x―y)Cs (1)
(式(1)中、Lnはランタノイド金属原子を示し、Mはアルカリ土類金属原子を示す。x、y及びzは、0<x<1、0≦y<1、0<x+y<1、及び1.87<z<3を満たす)
【0099】
[7] 前記式(1)におけるxおよびyは、0.4≦x<1、0.4<x+y<1、及び0<y<0.38を満たす[6]に記載の固体電解質材料。
【0100】
[8] ランタノイド金属原子、アルカリ土類金属原子及びフッ素原子を含む第1金属複合フッ化物を準備することと、
前記第1金属複合フッ化物をフッ素含有物質の存在下で熱処理して第2金属複合フッ化物を得ることと、を含むフッ化物イオン電池用の固体電解質材料の製造方法。
【0101】
[9] 第1金属複合フッ化物は、前記アルカリ土類金属原子の含有量に対する前記ランタノイド金属原子の含有量の比が、0を超えて1.5以下である組成を有する[8]に記載の製造方法。
【0102】
[10] 前記第1金属複合フッ化物は、セシウム原子を更に含む[8]又は[9]に記載の製造方法。
【0103】
[11] 前記第1金属複合フッ化物は、前記ランタノイド金属原子、前記アルカリ土類金属原子及び前記セシウム原子の合計モル数に対する、
前記ランタノイド金属原子のモル数の比が0を超えて0.6未満であり、
前記アルカリ土類金属原子のモル数の比が0.4以上1.0未満であり、
前記セシウム原子のモル数の比が0を超えて0.38未満である組成を有する[10]に記載の製造方法。
【0104】
[12] 前記第2金属複合フッ化物を得ることにおける熱処理は、100℃以上650℃以下の温度範囲で行う[8]から[11]のいずれかに記載の製造方法。
【0105】
[13] 前記フッ素含有物質は、F、CHF、CF、NHHF、HF、SiF、KrF、XeF、XeF及びNFからなる群より選択される少なくとも1種を含む[8]から[12]のいずれかに記載の製造方法。
【実施例0106】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0107】
実施例1
複合フッ化物造工程
複合フッ化物は、以下のようにして調製した。硝酸バリウム(Ba(NO)と、硝酸ランタン(La(NO・6HO)と、フッ化アンモニウム(NHF)と、をそれぞれ別々の純水1kg中に加え、室温の大気雰囲気下で撹拌して溶解し、0.2mol/kgの硝酸バリウム水溶液、1mol/kgの硝酸ランタン水溶液及び10mol/kgのフッ化アンモニウム水溶液をそれぞれ調製した。
【0108】
反応槽に硝酸バリウム水溶液(0.2mol/kg)を600g、硝酸ランタン水溶液(1mol/kg)を80g加えて大気雰囲気下、室温で混合した。その後、フッ化アンモニウム水溶液(10mol/kg)を72g加えて、20時間撹拌を行った。
【0109】
上記反応溶液をろ過して得られたろ取物を、ろ液の電気伝導度が0.1mS/cm以下になるまで純水で洗浄を行って沈殿物を得た。沈殿物を120℃、真空下で12時間熱処理して、第1金属複合フッ化物の前駆体を得た。得られた前駆体のBa:Laの組成比は、ICP分析によりBa:La=0.6:0.4である事を確認した。
【0110】
上記得られた第1金属複合フッ化物の前駆体9.28g対して、フッ化セシウム(CsF)1.92gを水0.1gに分散させた分散物を添加して混合した後、200℃で6時間熱処理することで乾固させ、さらに600℃で10時間、アルゴン雰囲気下で熱処理を行い、第1金属複合フッ化物を得た。第1金属複合フッ化物の組成は、仕込み比でBa0.48La0.32Cs0.22.12であった。
【0111】
上記得られた第1金属複合フッ化物を管状炉に入れ、フッ素ガス20体積%、窒素ガス80体積%の雰囲気下で、500℃で8時間の熱処理を行うことで第2金属複合フッ化物として、実施例1に係る固体電解質材料を得た。
【0112】
比較例1
実施例1で得られた第1金属複合フッ化物を比較例1に係る固体電解質材料とした。
【0113】
組成分析
上記で得られた固体電解質材料について誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析により、固体電解質材料の組成を求めた。具体的には、前処理方法として、アルカリ溶融後、塩酸加熱溶解をして誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析装置(ICP-AES;Optima8300:Perkin Elmer社製)を用いて、金属イオンの組成量を測定し、金属イオンの組成量の合計を1として組成におけるフッ化物イオンのモル比を決定した。結果を表1に示す。
【0114】
イオン伝導度測定
上記で得られた固体電解質材料について、以下のようにして固体電解質層試料を作製した。固体電解質材料を200mg秤量し、380MPaプレスして固体電解質層試料を得た。
【0115】
上記で得られた固体電解質層試料について、高周波インピーダンス測定システム(Keysight社製インピーダンスアナライザE4990A型)を用いて、交流インピーダンス法(測定温度:25℃、印加電圧500mV、測定周波数領域:120MHzから20Hz)による測定を行い、固体電解質層試料の厚さおよびCole-Coleプロットの実軸上の抵抗値から、フッ化物イオンのイオン伝導度を算出した。結果を表1に示す。
【0116】
明度の測定
上記得られた固体電解質材料を30kNで加圧して、直径10mm、厚さ22mmの圧粉成型体を作製し、コニカミノルタ株式会社製の分光測色計CM-700dを用いて、L値(明度)を測定した。結果を表1に示す。
【0117】
赤外吸収スペクトル
得られた固体電解質材料について、フーリエ変換赤外分光装置(製品名:NicoletiS50、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を用いて、ATR法による赤外吸収スペクトルを測定し、400cm-1以上450cm-1以下の波数範囲における吸収の最大値に対する3150cm-1以上3250cm-1以下の波数範囲における吸収の最大値の比(特定比)を求めた。結果を表1に示す。ATR-IRを用いた赤外吸収スペクトルは、波数分解能を4.0cm-1とし、積算回数を32回として測定した。
【0118】
固体電解質材料を1g精秤し、CHN元素分析装置を用いて大気雰囲気下900℃で熱処理を行い、発生した二酸化炭素を定量することで、試料に含まれる炭素の質量割合を総炭素量(TC;ppm)として求めた。結果を表1に示す。
【0119】
【表1】
【0120】
表1に示すように、実施例1に係る固体電解質材料は、高いイオン伝導度を示す。