(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024162567
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】成膜方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/34 20060101AFI20241114BHJP
C23C 14/14 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
C23C14/34 K
C23C14/14 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023078196
(22)【出願日】2023-05-10
(71)【出願人】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110000305
【氏名又は名称】弁理士法人青莪
(72)【発明者】
【氏名】松崎 淳介
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 大
(72)【発明者】
【氏名】磯部 辰徳
【テーマコード(参考)】
4K029
【Fターム(参考)】
4K029AA09
4K029AA24
4K029BA08
4K029BC03
4K029BD02
4K029CA05
4K029DA04
4K029DA08
4K029DC03
4K029DC16
4K029DC24
4K029DC34
4K029DC46
4K029EA01
4K029EA08
4K029JA06
(57)【要約】
【課題】低抵抗で平滑性の良好な銅膜を比較的厚い膜厚で成膜することができる成膜方法を提供することをその課題とする。
【解決手段】本発明の成膜方法は、真空チャンバ1内に設けたステージ2に基板Swを吸着し、真空雰囲気の真空チャンバ内が所定の圧力領域に保持されるようにスパッタガスを導入し、基板に対向配置された銅製のターゲットTg1~Tg6に電力投入し、基板とターゲットとの間の空間にプラズマ雰囲気を形成し、各ターゲットをスパッタリングすることで基板表面に1μm以上の膜厚で銅膜を成膜する。スパッタリング中、ステージとの熱交換で基板を所定温度以下に保持し、このとき、基板とステージとの間の熱伝達率係数を50W/m
2・K以上とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空チャンバ内に設けたステージに成膜処理すべき基板を吸着し、
真空雰囲気の前記真空チャンバ内が所定の圧力領域に保持されるようにスパッタガスを導入し、
前記基板に対向配置された銅製のターゲットに電力投入し、前記基板と前記ターゲットとの間の空間にプラズマ雰囲気を形成して前記ターゲットをスパッタリングすることで前記基板表面に1μm以上の膜厚で銅膜を成膜する成膜工程を含む成膜方法であって、
前記ターゲットのスパッタリング中、前記ステージとの熱交換で前記基板を所定温度以下に保持する保持工程を含むものにおいて、
前記基板と前記ステージとの間の熱伝達率係数を50W/m2・K以上としたことを特徴とする成膜方法。
【請求項2】
前記銅製のターゲットに電力投入している間、当該ターゲットのスパッタ面に400G以上の最大水平磁場強度を持つ漏洩磁場を作用させ、スパッタリング中の放電電圧を550V以下としたことを特徴とする請求項1の成膜方法。
【請求項3】
前記保持工程に、前記ステージに吸着された前記基板裏面にアシストガスを供給する工程を含み、
前記成膜工程にて成膜速度を0.5μm/min以上に設定することを特徴とする請求項1または請求項2記載の成膜方法。
【請求項4】
前記基板は、少なくとも一辺が1m以上の長さを有するものであり、前記ターゲットは、複数枚のターゲットを並設して構成され、各ターゲットにスパッタ電源から負の電位を持つ直流電力が投入されることを特徴とする請求項3記載の成膜方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜方法に関し、特に、スパッタリング法により銅膜を1μm以上の膜厚で成膜するものに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、次世代ディスプレイとして、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイと比較して消費電力が小さく、高コントラストや高輝度が得られるといったデバイス特性の優位性から、回路基板の画素内に微小なLEDチップを実装したマイクロLEDディスプレイやミニLEDディスプレイの開発が進められている。LEDチップを駆動する回路基板としては、ガラス基板、石英基板やサファイア基板といった透光性のある基板とその表面に形成したTFTとを備えるものが挙げられ、マイクロLEDやその他の回路を駆動させるための配線には例えば銅が使用される(特許文献1参照)。このことから、例えば、少なくとも1辺が1mm以上の比較的面積の大きいガラス基板表面に1μm~10μmの範囲内の膜厚で銅(配線)膜を形成する技術についても需要が高まることが予想される。
【0003】
このような銅膜の形成には、銅製のターゲットを用いたマグネトロン方式のスパッタリング装置を使用することが考えられる(例えば、特許文献2参照)。この種のスパッタリング装置は、一般に、真空雰囲気の形成が可能な真空チャンバを有し、真空チャンバの上部には銅製のターゲットが配置され、ターゲットに正対させて真空チャンバ内の下部には成膜しようとする基板が設置されるステージが設けられている。ステージは、基台とこの基台の上面に設けたチャックプレートとを有し、チャックプレートには、静電チャック用の電極が埋設されている。そして、電極にチャック電源から直流電圧を印加することで、成膜面を上に向けた姿勢で載置された基板をチャックプレート上面に静電吸着できるようにしている。
【0004】
基台には、チラーユニットから供給される冷媒を循環させる冷媒循環路が形成され、ターゲットのスパッタリング中、ステージとの熱交換でチャックプレート上面に吸着された基板を所定温度以下に保持できるようにしている。このとき、チャックプレートに静電吸着された基板の裏面にアシストガス(例えば、ArガスやHeガス)を供給することで、ステージと基板との間の熱伝達率係数を高めることができる。そして、ステージに基板を静電吸着した状態で真空雰囲気の真空チャンバ内に希ガスを導入し、ターゲットに例えば負の電位を持った直流電力や所定周波数の交流電力を投入する。これにより、真空チャンバ内にプラズマ雰囲気が形成され、プラズマ中で電離した希ガスのイオンがターゲットに衝突してターゲットがスパッタリングされ、ターゲットから飛散したスパッタ粒子が基板表面に付着、堆積して、銅膜が成膜される。
【0005】
上記スパッタリング装置によりガラス基板表面に1μm以上の膜厚で銅膜を成膜する場合、生産性などを考慮すると、0.5μm/min以上、好ましくは、1μm/min程度の成膜レートが必要になるが、これには、ターゲットへの投入電力を高めるだけでなく、成膜時間も長くならざるを得えない。このため、成膜中、プラズマからの基板への入熱量が多くなることが予想される。このような場合、スパッタリング中の基板温度が高くなると、銅の粒成長が過度に促進され、成膜した銅膜の表面が凸凹状になってその表面平滑性が損なわれる一方で、スパッタリング中の基板温度が低く過ぎると、銅膜の結晶粒の粒径が小さくなって比抵抗値が高くなってしまうことが一般に知られている。他方で、基板が大型で板厚の薄いのもの(厚さが0.5mm~0.7mm)であるような場合、スパッタリング中の基板温度の上昇に伴って基板に反りが生じ、これに起因して成膜された銅膜の表面の平滑性が局所的に損なわれることがある。このときの反り量は、少なくとも一辺が1m以上である基板の場合、顕著に大きくなる傾向がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2022-36709号公報
【特許文献2】国際公開第2020/136964号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上の点に鑑みなされたものであり、低抵抗で平滑性の良好な銅膜を比較的厚い膜厚で成膜することができる成膜方法を提供することをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の成膜方法は、真空チャンバ内に設けたステージに成膜処理すべき基板を吸着し、真空雰囲気の前記真空チャンバ内が所定の圧力領域に保持されるようにスパッタガスを導入し、前記基板に対向配置された銅製のターゲットに電力投入し、前記基板と前記ターゲットとの間の空間にプラズマ雰囲気を形成して前記ターゲットをスパッタリングすることで前記基板表面に1μm以上の膜厚で銅膜を成膜する成膜工程を含み、前記ターゲットのスパッタリング中、前記ステージとの熱交換で前記基板を所定温度以下に保持する保持工程を更に含み、前記基板と前記ステージとの間の熱伝達率係数を50W/m2・K以上としたことを特徴とする。
【0009】
ここで、本願発明者らは、スパッタリングによる成膜時における単位長さあたりの反り量に着目して鋭意研究を重ね、成膜中の基板温度を制御することによって、単位長さ(m)あたりの反り量を1mm以下に保持できれば、平滑性の良好な銅膜を成膜できることを知見するのに至った。そして、所定板厚を持つガラス基板に所定膜厚の銅膜を成膜したときの膜応力と熱応力とを求め、これを基にストーニーの式と基板温度とから基板の反り量を算出したところ、成膜中の基板温度を100℃以下に保持できれば、反り量を1mm以下にでき、これには、基板と前記ステージとの間の熱伝達率係数を50W/m2・K以上にすればよいことを見出した。
【0010】
以上によれば、生産性を維持するために成膜レートを0.5μm/min以上にしたとしても、基板温度を100℃以下に維持できることで、平滑性の良好な銅膜を成膜でき、その上、銅の粒成長が過度に促進され、成膜した銅膜の表面が凸凹状になってその表面平滑性が損なわれるといった不具合も生じない。なお、熱伝達率係数の上限については、銅膜中の結晶粒の粒径が小さくなって比抵抗値が高くならない範囲で適宜設定される。この場合、熱伝達率係数を100W/m2・Kであるとき、約2μΩcmの低い比抵抗値が得られることが確認された。
【0011】
本発明においては、前記銅製のターゲットに電力投入している間、当該ターゲットのスパッタ面に400G以上の最大水平磁場強度を持つ漏洩磁場を作用させ、スパッタリング中の放電電圧を550V以下とすることが好ましい。これによれば、比抵抗値がより低い銅膜を成膜することができることが確認された。
【0012】
なお、本発明においては、前記保持工程に、前記ステージに吸着された前記基板裏面にアシストガスを導入する工程を含み、前記成膜工程にて成膜速度を0.5μm/min以上に設定することが好ましく、また、前記基板は、少なくとも一辺が1m以上の長さを有するものであり、前記ターゲットは、複数枚のターゲットを並設して構成され、各ターゲットにスパッタ電源から負の電位を持つ直流電力が投入されることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本実施形態の成膜方向を実施できるスパッタリング装置の模式断面図。
【
図2】基板温度と基板反り量との関係を示すグラフ。
【
図3】基板温度と熱伝達率係数との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、基板をフラットパネルディスプレイの製作に利用される大面積で板厚の薄いガラス基板(以下「基板Sw」という)、ターゲットを所定純度の銅製のものとし、スパッタガスとしてアルゴンガスを用いてスパッタリング法により基板Sw表面に1μm~10μmの範囲内の膜厚で銅膜を成膜する場合を例に、本発明の成膜方法の実施形態を説明する。以下において、上、下といった方向を示す用語は、
図1を基準とする。
【0015】
図1を参照して、本実施形態の成膜方法を実施できるスパッタリング装置Smは、所謂マグネトロン方式でマルチカソードタイプのものであり、アース接地された真空チャンバ1を備える。真空チャンバ1には、排気管11を介して真空ポンプ12が接続され、真空チャンバ1内を所定圧力(真空度)に真空排気することができる。真空チャンバ1の側壁には、アルゴンガスのガス源に連通し、マスフローコントローラ13aが介設されたガス管14aが接続されている。そして、各マスフローコントローラ13aで流量制御されたアルゴンガスを所定流量で真空雰囲気の真空チャンバ1内に導入することができる。
【0016】
真空チャンバ1内にはステージ2が設けられている。ステージ2は、真空チャンバ1の底面内側に絶縁体Ipを介して配置される金属製の基台21と、基台21の上面に設けられる静電チャック22とを有する。基台21には、冷却水などの冷媒を流通させる冷媒通路21aが形成され、チラーユニットChから所定温度の冷媒を流通させて基台21を冷却できるようにしている。一方、静電チャック22としては、成膜開始当初に絶縁体としての基板Swをその成膜面Sw1を上に向けた姿勢で且つその全面に亘って密着した状態で吸着できると共に、成膜面Sw1に導電性の銅膜が成膜されてきた状態でも全面に亘って密着した状態を維持できるものであれば、特に制限はない。このような静電チャック22としては、例えば、静電気力またはジョンソン・ラーベック力が支配的な吸着力と、グラディエント力が支配的な吸着力との双方を発現することが可能な公知のもの(例えば、特許6511212号公報)が利用できるため、ここでは詳細な説明を省略する。なお、
図1に示すように、静電チャック22の上面に下方に凹入する凹部22aを形成し、凹部22aにマスフローコントローラ13bが介設されたガス管14bを接続して、静電チャック22に吸着された基板Swの裏面にアシストガス(例えば、ArガスやHeガス)を供給することで、ステージ2と基板Swとの間の熱伝達率係数を高めるようにしてもよい。
【0017】
真空チャンバ1には、ステージ2に正対させてカソードユニットScが設けられている。カソードユニットScは、各々がスパッタ面Tgsを下方に向けた姿勢で設置されると共に、ステージ2で吸着される基板Swの成膜面Sw1に平行なXY平面内にてX軸方向に等間隔で並設される6枚の銅製ターゲットTg1~Tg6を備える。各ターゲットTg1~Tg6は、平板状に成形された同一の形態のものであり、ターゲットTg1~Tg6を並設した領域が基板Swの輪郭より一回り大きくなるように各ターゲットTg1~Tg6のX軸方向の幅やY軸方向長さが定寸されている。各ターゲットTg1~Tg6のスパッタ面Tgsと基板Swとの間のTS間距離は、150mm~400mmの範囲に設定される。なお、並設されるターゲットの枚数はこれに限定されるものではなく、基板Swのサイズ(面積)等に応じて適宜設定することができる。各ターゲットTg1~Tg6には、バッキングプレート31がインジウムやスズ等のボンディング材(図示せず)を介して接合され、各バッキングプレート31が単一の支持板32に互いに電気的に絶縁した状態で夫々取り付けられている。支持板32には、各ターゲットTg1~Tg6の周囲を夫々囲うようにしてアノードとして機能するシールド板33が取り付けられている。各ターゲットTg1~Tg6にはまた、直流電源Psからの出力が夫々接続され、負の電位を持つ所定電力が投入される。
【0018】
各ターゲットTg1~Tg6のバッキングプレート31上方には、磁石ユニットMu1~Mu6が夫々設けられている。各磁石ユニットMu1~Mu6は、同一の形態を有し、基板Swの成膜面Sw1に平行に配置される磁性材料製のヨーク41を備える。ヨーク41は、各ターゲットTg1~Tg6の略全長に亘る長さを有し、ヨーク41の下面中央には、Y軸方向にのびる中央磁石42と、中央磁石42の周囲を囲う周辺磁石43とがターゲットTg1~Tg6側の極性を変えて配置されている。これにより、各ターゲットTg1~Tg6のスパッタ面Tgsと基板Swとの間の空間に釣り合った閉ループの漏洩磁場が作用する。本実施形態では、各ターゲットTg1~Tg6のスパッタ面Tgsに400G以上の最大水平磁場強度を持つ漏洩磁場が作用するように中央磁石42と周辺磁石43とが設計されている。各磁石ユニットMu1~Mu6はまた、直動モータやエアーシリンダ等の駆動手段5の駆動軸51に連結され、スパッタリングによる成膜中、各磁石ユニットMu1~Mu6をX軸方向に所定のストローク値で一体に往復動することができる。
【0019】
基板Swの成膜面Sw1に銅膜を成膜する場合、基板Swを図外の搬送ロボットにより真空チャンバ1に搬送し、成膜面Sw1を上方に向けた姿勢でステージ2(静電チャック22)の上面に載置する。基板Swが載置されると、静電チャック22の電極(図示せず)に直流電圧を印加し、例えば、グラディエント力が支配的な吸着力を発現させ、基板Swをその全面に亘って密着させた状態で吸着する。このとき、チラーユニットChから所定温度の冷媒を流通させて基台21の冷却を開始する。そして、真空チャンバ1内が所定圧力に達すると、マスフローコントローラ13aで流量調整されたアルゴンガスを導入する。真空チャンバ1内に導入するアルゴンガスの流量は100sccm~1000sccm(一定の排気速度で真空排気される真空チャンバ1内の圧力は、0.1Pa~1Paの範囲に維持される)に設定される。併せて、直流電源Psにより各ターゲットTg1~Tg6に負の電位を持つ直流電力を投入する。
【0020】
投入電力は、例えば、1μm/minの範囲の成膜レートが得られるように設定されるが、放電電圧が150V~550Vの範囲に設定される。放電電圧が150Vより低いと、高い成膜レートが得られず、生産性が悪い。一方、550Vより高くなると、銅膜の表面の平滑性が局所的に損なわれてしまう。すると、真空チャンバ1内で各ターゲットTg1~Tg6と基板Swとの間の空間にプラズマが形成される。これにより、プラズマ中のアルゴンガスのイオンにより各ターゲットTg1~Tg6のスパッタ面Tgsが夫々スパッタリングされ、各ターゲットTg1~Tg6から所定の余弦則に従って飛散したスパッタ粒子が基板Sw表面に付着、堆積して銅膜が成膜され、1μm~10μmの範囲内の膜厚で銅膜が成膜されるまでのスパッタ時間だけこれが継続される(成膜工程)。そして、各ターゲットTg1~Tg6のスパッタリング中、ステージ2との熱交換で基板Swが所定温度以下に保持される(保持工程)。なお、スパッタリング中には、スパッタ面Tgsを略均等に侵食させるため、駆動手段5によって各磁石ユニットMu1~Mu6がX軸方向に所定のストローク値で往復動される。また、基板Swの成膜面Sw1に銅膜が成膜されてくると、例えば、静電チャック22の他の電極(図示せず)に直流電圧を印加して静電気力が支配的な吸着力を発現させ、常時、一定の吸着力で基板Swが静電チャック22に吸着(密着)した状態を維持させるようにする。
【0021】
ここで、スパッタリングによる成膜時、単位長さ(m)あたりの基板Swの反り量に着目し、平滑性の良好な銅膜を成膜するには反り量を1mm/m以下に保持する必要がある。この場合、板厚0.5mmのガラス基板に4.5μmの膜厚で銅膜を成膜したときの膜応力と熱応力とを算出し、これらを基に公知のストーニーの式から基板Sw温度と基板Swの単位長さ(m)あたりの反り量との関係をグラフ化すると、
図2のようになる。これによれば、成膜中の基板Sw温度を100℃以下に保持できれば、反り量を1mm/m以下にできることが判る。そして、成膜レートを1μm/minに設定したときのプラズマからの入熱量、基板Sw下面の輻射率(0.9)、静電チャック22の基板吸着面の輻射率(0.8)並びに冷媒温度(25℃)を加味して、基板Swとステージ2との間の熱伝達率係数(W/m
2・K)と基板Sw温度との関係をグラフ化すると、
図3のようになる。これによれば、熱伝達率係数が50W/m
2・K以上であれば、成膜レートを1μm/minに設定した場合でも基板の反り量を1mm/m以下にできることが判った。本実施形態では、チラーユニットChから冷媒通路21aに流通させる冷媒の温度や流量を制御し、熱伝達率係数が50W/m
2・K以上となるようにした。
【0022】
以上によれば、生産性を維持するために成膜レートを0.5μm/min以上、好ましくは、1μm/min以上にしたとしても、基板温度を100℃以下に維持できることで、平滑性の良好な銅膜を成膜でき、その上、銅の粒成長が過度に促進され、成膜した銅膜の表面が凸凹状になってその表面平滑性が損なわれるといった不具合も生じない。しかも、スパッタリング中、ターゲットTg1~Tg6のスパッタ面Tgsに400G以上の最大水平磁場強度を持つ漏洩磁場を作用させ、スパッタリング中の放電電圧を550V以下とすることで、より低い比抵抗値の銅膜を成膜することができる。なお、熱伝達率係数の上限については、銅膜中の結晶粒の粒径が小さくなって比抵抗値が高くならない範囲で適宜設定される。
【0023】
上記効果を確認するため、上記スパッタリング装置Smを用いて以下の実験を行った。本実験では、基板Swを所謂G8.5ガラス基板に50nmの膜厚で密着層としてのTi膜が成膜されたものとした(密着層としては、MoやCrを用いることもでき、また、膜厚は、5~100nmの範囲で適宜設定することできる)。スパッタ条件として、スパッタ面Tgsに260Gの最大水平磁場強度を持つ漏洩磁場(弱磁場)が作用するように各磁石ユニットMu1~Mu6を構成し、また、TS間距離を57mm、各ターゲットTg1~Tg6に投入する負の電位を持つ直流電力を7.5kWに設定すると共に、真空チャンバ1内の圧力が0.3Paの維持されるようにアルゴンガスの導入量を設定し、4分のスパッタ時間で銅膜を成膜した(このときの成膜レートは、約1μm/minであった)。そして、発明実験1では、成膜中、ステージ2と基板Swとの熱交換の際に熱伝達率係数が70W/m2・KになるようにチラーユニットChを制御する一方で、比較実験では、チラーユニットChを停止して基板Swの冷却を行わずに成膜した。
【0024】
比較実験では、スパッタ時間が経過するまでに基板温度が100℃を優に超え、成膜後の銅膜の単位面積(5μm2)あたりの表面粗さ(Ra)を測定すると、12.9nmであった。また、銅膜の比抵抗値を測定すると、2.3μΩcmであった。それに対して、発明実験1では、スパッタ時間が経過するまでの間、基板温度が85℃以下に保持され、成膜後の銅膜の単位面積(5μm2)あたりの表面粗さ(Ra)を測定すると、7.1nmに低下し、平滑性が向上していることが確認された。また、銅膜の比抵抗値を測定すると、2.4μΩcmであり、銅膜中の結晶粒の粒径は然程小さくなっていないことが確認された。
【0025】
次に、発明実験2として、スパッタ面Tgsに450Gの最大水平磁場強度を持つ漏洩磁場(強磁場)が作用するように各磁石ユニットMu1~Mu6を構成し、これ以外の条件を上記発明実験1と同様にして銅膜を成膜した。これによれば、スパッタ時間が経過するまでの間、基板温度が85℃以下に保持され、成膜後の銅膜の単位面積(5μm2)あたりの表面粗さ(Ra)を測定すると、6.7nmに更に低下し、平滑性が更に向上していることが確認された。また、銅膜の比抵抗値を測定すると、2.0μΩcmであり、更に低い比抵抗値を持つものにできることが確認された。なお、熱伝達率係数を100W/m2・Kに設定した場合でも、約2μΩcmの低い比抵抗値が得られることが確認された。
【0026】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の技術思想の範囲を逸脱しない限り、種々の変形が可能である。上記実施形態では、本発明の成膜方法を実施するスパッタリング装置として、平板状のターゲットTg1~Tg6の複数枚を並設したものを例に説明したが、これに限定されるものではなく、例えば、筒状のターゲットを有する公知の所謂ロータリーカソードを利用することができる。
【符号の説明】
【0027】
Sm…スパッタリング装置、Sw…基板、Ch…チラーユニット、Tg1~Tg6…ターゲット、Mu1~Mu6…磁石ユニット、1…真空チャンバ内、2…ステージ、14…スパッタガスの導入管。