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特開2024-162625回転体の運動を解析する方法、および回転体の運動を解析する方法を実行するためのコンピュータ用のプログラム
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  • 特開-回転体の運動を解析する方法、および回転体の運動を解析する方法を実行するためのコンピュータ用のプログラム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024162625
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】回転体の運動を解析する方法、および回転体の運動を解析する方法を実行するためのコンピュータ用のプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01H 17/00 20060101AFI20241114BHJP
【FI】
G01H17/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023078331
(22)【出願日】2023-05-11
(71)【出願人】
【識別番号】000000239
【氏名又は名称】株式会社荏原製作所
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】100118500
【弁理士】
【氏名又は名称】廣澤 哲也
(74)【代理人】
【氏名又は名称】渡邉 勇
(74)【代理人】
【識別番号】100174089
【弁理士】
【氏名又は名称】郷戸 学
(74)【代理人】
【識別番号】100186749
【弁理士】
【氏名又は名称】金沢 充博
(72)【発明者】
【氏名】中村 慎策
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 裕輔
(72)【発明者】
【氏名】井上 剛志
(72)【発明者】
【氏名】部矢 明
(72)【発明者】
【氏名】後藤 大輝
【テーマコード(参考)】
2G064
【Fターム(参考)】
2G064AB01
2G064AB02
2G064BA02
2G064BA08
2G064CC13
2G064CC43
2G064CC47
(57)【要約】
【課題】回転体に入力される外力を測定することなく、回転体の振れ回りを含む回転体の運動を解析することができる技術を提供する。
【解決手段】回転体1の運動を解析する方法は、回転体1のx方向の振動データと、回転体1のy方向の振動データを生成し、x方向の振動データからxx方向相互相関関数を作成し、x方向の振動データとy方向の振動データからxy方向相互相関関数を作成し、xx方向相互相関関数を実部、xy方向相互相関関数を虚部に持つ複素相互相関関数を作成し、複素相互相関関数をフーリエ変換して、複素関数で表される疑似周波数応答関数を決定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転体の運動を解析する方法であって、
前記回転体のx方向の振動データと、前記回転体の、前記x方向とは異なるy方向の振動データを生成し、
前記x方向の振動データからxx方向相互相関関数を作成し、
前記x方向の振動データと前記y方向の振動データからxy方向相互相関関数を作成し、
前記xx方向相互相関関数を実部、前記xy方向相互相関関数を虚部に持つ複素相互相関関数を作成し、
前記複素相互相関関数をフーリエ変換して、複素関数で表される疑似周波数応答関数を決定する、方法。
【請求項2】
前記方法は、前記疑似周波数応答関数の絶対値と周波数との関係を示すゲイン特性グラフと、前記疑似周波数応答関数の偏角と周波数との関係を示す位相特性グラフを作成することをさらに含み、
前記ゲイン特性グラフと前記位相特性グラフのそれぞれは、前記回転体の回転方向と同じ方向に前記回転体が振れ回りする前向きモードを示す前向きモード区分と、前記回転体の回転方向とは反対方向に前記回転体が振れ回りする後ろ向きモードを示す後ろ向きモード区分を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記前向きモード区分にカーブフィッティングを実行することで、前記回転体の前記前向きモードを表す前向き数理モデルを決定し、
前記後ろ向きモード区分にカーブフィッティングを実行することで、前記回転体の前記後ろ向きモードを表す後ろ向き数理モデルを決定することをさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記回転体の固有振動数および減衰比を前記前向き数理モデルおよび前記後ろ向き数理モデルから決定することをさらに含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
回転体のx方向の振動データと、前記回転体の、前記x方向とは異なるy方向の振動データを取得するステップと、
前記x方向の振動データからxx方向相互相関関数を作成するステップと、
前記x方向の振動データと前記y方向の振動データからxy方向相互相関関数を作成するステップと、
前記xx方向相互相関関数を実部、前記xy方向相互相関関数を虚部に持つ複素相互相関関数を作成するステップと、
前記複素相互相関関数をフーリエ変換して、複素関数で表される疑似周波数応答関数を決定するステップを、コンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項6】
前記プログラムは、前記疑似周波数応答関数の絶対値と周波数との関係を示すゲイン特性グラフと、前記疑似周波数応答関数の偏角と周波数との関係を示す位相特性グラフを作成するステップをコンピュータにさらに実行させるように構成され、
前記ゲイン特性グラフと前記位相特性グラフのそれぞれは、前記回転体の回転方向と同じ方向に前記回転体が振れ回りする前向きモードを示す前向きモード区分と、前記回転体の回転方向とは反対方向に前記回転体が振れ回りする後ろ向きモードを示す後ろ向きモード区分を含む、請求項5に記載のプログラム。
【請求項7】
前記前向きモード区分にカーブフィッティングを実行することで、前記回転体の前記前向きモードを表す前向き数理モデルを決定するステップと、
前記後ろ向きモード区分にカーブフィッティングを実行することで、前記回転体の前記後ろ向きモードを表す後ろ向き数理モデルを決定するステップをコンピュータにさらに実行させるように構成されている、請求項6に記載のプログラム。
【請求項8】
前記回転体の固有振動数および減衰比を前記前向き数理モデルおよび前記後ろ向き数理モデルから決定するステップをコンピュータにさらに実行させるように構成されている、請求項7に記載のプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、羽根車などの回転体の運動を解析する技術に関し、特に回転体がその軸心を中心に回転しながら、回転体が振れ回るモードを解析する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
羽根車などの回転体の運動を解析することは、その回転体を含む回転機械を安全に運転する上で重要である。回転体は、その軸心を中心に回転するのがその典型的な運動の態様であるが、回転軸に支持された回転体は、その軸心を中心に回転しながら、回転体は楕円軌道を描いて振れ回る。したがって、回転体の運動を解析するためには、回転体の振れ回りを解析することが必要とされる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】「回転機械の力学」,山本敏男,石田幸男 著,2001年,コロナ社
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
回転体の運動を解析する技術として、回転体に入力される外力と、その外力に対する回転体の応答との関係を表す周波数応答関数を算定する技術がある。周波数応答関数を用いることにより、外力に対する回転体の応答の特性を評価することが可能である。しかしながら、この周波数応答関数を算定するためには、回転体に入力される外力を測定する必要がある。外力の測定は、回転機械の構造によっては困難であり、周波数応答関数を用いた従来の技術は、汎用性が低いという問題があった。
【0005】
そこで、本発明は、回転体に入力される外力を測定することなく、回転体の振れ回りを含む回転体の運動を解析することができる技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一態様では、回転体の運動を解析する方法であって、前記回転体のx方向の振動データと、前記回転体の、前記x方向とは異なるy方向の振動データを生成し、前記x方向の振動データからxx方向相互相関関数を作成し、前記x方向の振動データと前記y方向の振動データからxy方向相互相関関数を作成し、前記xx方向相互相関関数を実部、前記xy方向相互相関関数を虚部に持つ複素相互相関関数を作成し、前記複素相互相関関数をフーリエ変換して、複素関数で表される疑似周波数応答関数を決定する、方法が提供される。
【0007】
一態様では、前記方法は、前記疑似周波数応答関数の絶対値と周波数との関係を示すゲイン特性グラフと、前記疑似周波数応答関数の偏角と周波数との関係を示す位相特性グラフを作成することをさらに含み、前記ゲイン特性グラフと前記位相特性グラフのそれぞれは、前記回転体の回転方向と同じ方向に前記回転体が振れ回りする前向きモードを示す前向きモード区分と、前記回転体の回転方向とは反対方向に前記回転体が振れ回りする後ろ向きモードを示す後ろ向きモード区分を含む。
一態様では、前記方法は、前記前向きモード区分にカーブフィッティングを実行することで、前記回転体の前記前向きモードを表す前向き数理モデルを決定し、前記後ろ向きモード区分にカーブフィッティングを実行することで、前記回転体の前記後ろ向きモードを表す後ろ向き数理モデルを決定することをさらに含む。
一態様では、前記方法は、前記回転体の固有振動数および減衰比を前記前向き数理モデルおよび前記後ろ向き数理モデルから決定することをさらに含む。
【0008】
一態様では、回転体のx方向の振動データと、前記回転体の、前記x方向とは異なるy方向の振動データを取得するステップと、前記x方向の振動データからxx方向相互相関関数を作成するステップと、前記x方向の振動データと前記y方向の振動データからxy方向相互相関関数を作成するステップと、前記xx方向相互相関関数を実部、前記xy方向相互相関関数を虚部に持つ複素相互相関関数を作成するステップと、前記複素相互相関関数をフーリエ変換して、複素関数で表される疑似周波数応答関数を決定するステップを、コンピュータに実行させるためのプログラムが提供される。
【0009】
一態様では、前記プログラムは、前記疑似周波数応答関数の絶対値と周波数との関係を示すゲイン特性グラフと、前記疑似周波数応答関数の偏角と周波数との関係を示す位相特性グラフを作成するステップをコンピュータにさらに実行させるように構成され、前記ゲイン特性グラフと前記位相特性グラフのそれぞれは、前記回転体の回転方向と同じ方向に前記回転体が振れ回りする前向きモードを示す前向きモード区分と、前記回転体の回転方向とは反対方向に前記回転体が振れ回りする後ろ向きモードを示す後ろ向きモード区分を含む。
一態様では、前記プログラムは、前記前向きモード区分にカーブフィッティングを実行することで、前記回転体の前記前向きモードを表す前向き数理モデルを決定するステップと、前記後ろ向きモード区分にカーブフィッティングを実行することで、前記回転体の前記後ろ向きモードを表す後ろ向き数理モデルを決定するステップをコンピュータにさらに実行させるように構成されている。
一態様では、前記プログラムは、前記回転体の固有振動数および減衰比を前記前向き数理モデルおよび前記後ろ向き数理モデルから決定するステップをコンピュータにさらに実行させるように構成されている。
【発明の効果】
【0010】
xx方向相互相関関数にxy方向相互相関関数を組み合わせることで得られる複素相互相関関数は、回転体のx方向およびy方向の位置情報のみならず、回転体の前向きモードおよび後ろ向きモードの両方の情報を含む。したがって、xx方向相互相関関数にxy方向相互相関関数を組み合わせた複素相互相関関数から得られる疑似周波数応答関数に基づいて、回転体の前向きモードの特性および後ろ向きモードの特性の両方を別々に推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】回転体の運動を解析するための解析システムの一実施形態を示す模式図である。
図2図1のA-A線から見た図である。
図3】回転体のx方向の振動データの一例を示す図である。
図4】回転体の振れ回りを説明する模式図である。
図5】複素数平面上の疑似周波数応答関数のある周波数に対する応答情報の一例を示す図である。
図6】データ解析部によって作成されたゲイン特性グラフと位相特性グラフの一例を示す図である。
図7図6に示すゲイン特性グラフおよび位相特性グラフの前向きモード区分および後ろ向きモード区分にカーブフィッティングを実行することで得られた前向き数理モデルおよび後ろ向き数理モデルの例を示す図である。
図8】回転体の運動を解析する方法の一実施形態を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。図1は、回転体の運動を解析するための解析システムの一実施形態を示す模式図であり、図2は、図1のA-A線から見た図である。図1に示すように、回転体1は、回転軸2に保持されており、回転軸2は回転体1の両側で軸受5,6により回転可能に支持されている。回転軸2は、図示しない駆動源(例えば電動機)に連結され、駆動源によって回転体1と回転軸2は一体に回転される。
【0013】
回転体1の例としては、液体または気体などの流体を移送するポンプに使用される羽根車、電動機のモータロータが挙げられる。また、軸受5,6に支持された回転軸2と、回転軸2に保持された回転体1を含む回転機械の例としては、ポンプおよび電動機が挙げられる。ただし、回転体1およびそれを含む回転機械は、これらの例に限定されない。
【0014】
解析システム7は、回転体1のx方向の振動データを生成するx方向振動測定器8と、回転体1のy方向の振動データを生成するy方向振動測定器9を備えている。x方向振動測定器8およびy方向振動測定器9は、回転体1の外周面を向いて配置されている。x方向およびy方向は、回転体1の中心軸線と垂直な平面(想像上の面)内の異なる方向である。x方向は、回転体1に対する相対的な方向であり、水平方向、鉛直方向、または斜め方向であってもよい。y方向は、x方向とは異なる。x方向の向きおよびy方向の向きは、特に限定されない。例えば、x方向の向きおよびy方向の向きの少なくとも一方は、回転体1に向かう方向、または回転体1から離れる方向であってもよい。本実施形態では、図2に示すように、x方向とy方向は互いに垂直である。なお、x方向振動測定器8とy方向振動測定器9は、回転体1を直接計測する以外の手段として、回転機械のケーシング位置で直交2方向の振動を計測してもよい。
【0015】
x方向振動測定器8およびy方向振動測定器9の例としては、変位センサ、速度センサ、加速度センサ、およびこれらの組み合わせが挙げられる。本実施形態では、x方向振動測定器8およびy方向振動測定器9に変位センサが使用されている。x方向振動測定器8は、回転体1のx方向の変位(移動距離)を時間軸に沿って測定し、回転体1のx方向の変位の時系列データであるx方向の振動データを生成するように構成されている。同様に、y方向振動測定器9は、回転体1のy方向の変位(移動距離)を時間軸に沿って測定し、回転体1のy方向の変位の時系列データであるy方向の振動データを生成するように構成されている。
【0016】
回転体1のx方向の振動データおよび回転体1のy方向の振動データを生成するとき、回転体1は、一定の回転速度で回転される。一実施形態では、回転体1の回転速度を準静的に変えつつ回転体1の振動を計測してもよい。
【0017】
解析システム7は、x方向振動測定器8およびy方向振動測定器9によって生成されたx方向の振動データおよびy方向の振動データを処理して、回転体1の運動を解析するデータ解析部11を備えている。データ解析部11は、x方向振動測定器8およびy方向振動測定器9に有線または無線で接続されており、x方向の振動データおよびy方向の振動データをx方向振動測定器8およびy方向振動測定器9から取得する。
【0018】
データ解析部11は、プログラムが格納された記憶装置11aと、プログラムに含まれる命令に従って演算を実行する演算装置11bを備えている。データ解析部11は、少なくとも1台のコンピュータから構成される。記憶装置11aは、ランダムアクセスメモリ(RAM)などの主記憶装置と、ハードディスクドライブ(HDD)、ソリッドステートドライブ(SSD)などの補助記憶装置を備えている。演算装置11bの例としては、CPU(中央処理装置)、GPU(グラフィックプロセッシングユニット)が挙げられる。ただし、データ解析部11の具体的構成はこれらの例に限定されない。
【0019】
図3は、回転体1のx方向の振動データの一例を示す図である。図3において、縦軸は回転体1のx方向の変位を表し、横軸は時間を表している。図3に示すように、回転体1が回転しているとき、回転体1はx方向に振動する。この振動は、回転体1のその軸心を中心とする回転と、以下に説明する回転体1の振れ回りに起因する。回転体1のy方向の振動データの図示は省略するが、回転体1は、その軸心を中心とする回転と回転体1の振れ回りに起因して、y方向にも同様に振動する。
【0020】
図4は、回転体1の振れ回りを説明する模式図である。回転体1は、図1に示す軸受5,6により支持された回転軸2とともに回転する。回転体1の回転中、回転軸2はわずかに撓み、図4に示すように、回転体1はその軸心を中心に回転しながら、楕円軌道を描いて振れ回る。この回転体1の振れ回りは、回転体1の回転方向と同じ方向に回転体1が振れ回りする前向きモードと、回転体1の回転方向とは反対方向に回転体1が振れ回りする後ろ向きモードに分解することができる。
【0021】
回転体1のx方向の振動データおよびy方向の振動データは、回転体1のx方向およびy方向の位置情報のみならず、回転体1の前向きモードおよび後ろ向きモードの両方の情報を含む。そこで、解析システム7は、回転体1のx方向の振動データおよびy方向の振動データを分析して、回転体1の前向きモードと後ろ向きモードを分離し、回転体1の前向きモードと後ろ向きモードをそれぞれ別々に数理モデルで表すように構成される。以下、回転体1の運動を解析する一実施形態について説明する。
【0022】
解析システム7のデータ解析部11は、x方向の振動データから、以下の式(1)で表されるxx方向相互相関関数Cxx(τ)を作成する。
【数1】
ここで、Tはデータの時間ステップを表し、x(kT)は時間kTにおける回転体1のx方向の変位を表し、τTは時間差を表し、x(kT+τT)は時間kT+τTにおける回転体1のx方向の変位を表す。
【0023】
データ解析部11は、x方向の振動データおよびy方向の振動データから、以下の式(2)で表されるxy方向相互相関関数Cxy(τ)を作成する。
【数2】
ここで、Tはデータの時間ステップを表し、x(kT)は時間kTにおける回転体1のx方向の変位を表し、τTは時間差を表し、y(kT+τT)は時間kT+τTにおける回転体1のy方向の変位を表す。
【0024】
データ解析部11は、xx方向相互相関関数Cxx(τ)を実部、xy方向相互相関関数Cxy(τ)を虚部に持つ複素相互相関関数Gxy(τ)を作成する。具体的には、データ解析部11は、xy方向相互相関関数Cxy(τ)に虚数単位jを乗算して得られた項と、xx方向相互相関関数Cxx(τ)とを加算することにより、以下に表される複素相互相関関数Gxy(τ)を作成する。
Gxy(τ)=Cxx(τ)+j・Cxy(τ) (3)
【0025】
データ解析部11は、複素相互相関関数Gxy(τ)をフーリエ変換することで、疑似周波数応答関数Gxy(jω)を決定する。ωは角速度であり、jは虚数単位である。疑似周波数応答関数Gxy(jω)は、以下のように複素関数で表される。
Gxy(jω)=Cxx(jω)+j・Cxy(jω)
=a+b・j (4)
ここで、aは疑似周波数応答関数Gxy(jω)の実部を表し、bは疑似周波数応答関数Gxy(jω)の虚部を表す。
【0026】
次に、データ解析部11は、疑似周波数応答関数Gxy(jω)の絶対値と周波数との関係を示すゲイン特性グラフと、疑似周波数応答関数Gxy(jω)の偏角と周波数との関係を示す位相特性グラフを作成する。疑似周波数応答関数Gxy(jω)の絶対値は、回転体1に入力された未知の外力に対する回転体1の変位(あるいは振幅)の比であるゲイン[dB]に相当し、疑似周波数応答関数Gxy(jω)の偏角は、回転体1に入力された未知の外力と回転体1との間の位相[度]の差に相当する。
【0027】
図5に示すように、疑似周波数応答関数Gxy(jω)の絶対値は、実軸と虚軸を座標軸に持つ複素数平面上の疑似周波数応答関数Gxy(jω)を表すベクトルの長さ√(a+b)で表される。疑似周波数応答関数Gxy(jω)の偏角は、複素数平面上の疑似周波数応答関数Gxy(jω)を表すベクトルの偏角θ(=tan-1(b/a))で表される。したがって、データ解析部11は、上記式(4)で表される疑似周波数応答関数Gxy(jω)から、疑似周波数応答関数の絶対値(ゲイン)および偏角(位相または位相差)を算定することができる。
【0028】
図6は、データ解析部11によって作成されたゲイン特性グラフと位相特性グラフの一例を示す図である。図6に示す例は、回転体1がある回転速度で回転しているときのゲイン特性グラフと位相特性グラフである。図6に示すように、ゲイン特性グラフは、回転体1の前向きモードを示す前向きモード区分と、回転体1の後ろ向きモードを示す後ろ向きモード区分を含んでいる。すなわち、周波数0Hzの右側のグラフは前向きモード区分であり、周波数0Hzの左側のグラフは後ろ向きモード区分である。
【0029】
回転体1が前向きモードで振れ回りしているときのゲイン、すなわち回転体1に入力された外力に反応した回転体1の振幅は、図6のゲイン特性グラフの前向きモード区分から推定できる。回転体1が後ろ向きモードで振れ回りしているときのゲイン、すなわち回転体1に入力された外力に反応した回転体1の振幅は、図6のゲイン特性グラフの後ろ向きモード区分から推定できる。
【0030】
同様に、位相特性グラフも、回転体1の前向きモードを示す前向きモード区分と、回転体1の後ろ向きモードを示す後ろ向きモード区分を含んでいる。すなわち、周波数0Hzの右側のグラフは前向きモード区分であり、周波数0Hzの左側のグラフは後ろ向きモード区分である。
【0031】
回転体1が前向きモードで振れ回りしているときの位相、すなわち回転体1に入力された外力と回転体1との位相の差は、図6の位相特性グラフの前向きモード区分から推定できる。回転体1が後ろ向きモードで振れ回りしているときの位相、すなわち回転体1に入力された外力と回転体1との位相の差は、図6の位相特性グラフの後ろ向きモード区分から推定できる。
【0032】
疑似周波数応答関数Gxy(jω)は、上記式(3)および式(4)から分かるように、xx方向相互相関関数Cxx(τ)とxy方向相互相関関数Cxy(τ)を含む複素相互相関関数Gxy(τ)から求められる。複素相互相関関数Gxy(τ)は、回転体1のx方向およびy方向の位置情報のみならず、回転体1の前向きモードおよび後ろ向きモードの両方の情報を含む。したがって、疑似周波数応答関数Gxy(jω)に基づいて、回転体1の前向きモードの特性および後ろ向きモードの特性の両方を別々に推定することができる。
【0033】
データ解析部11は、ゲイン特性グラフおよび位相特性グラフの前向きモード区分にカーブフィッティングを実行することで、回転体1の前向きモードを表す前向き数理モデルを決定する。同様に、データ解析部11は、ゲイン特性グラフおよび位相特性グラフの後ろ向きモード区分にカーブフィッティングを実行することで、回転体1の後ろ向きモードを表す後ろ向き数理モデルを決定する。
【0034】
図7は、図6に示すゲイン特性グラフおよび位相特性グラフの前向きモード区分および後ろ向きモード区分にカーブフィッティングを実行することで得られた前向き数理モデルおよび後ろ向き数理モデルの例を示す図である。カーブフィッティングを適用して数理モデルを作成する技術には、公知の技術を採用することができる。
【0035】
図6では、疑似周波数応答関数Gxy(jω)は、ゲイン特性グラフと位相特性グラフの2つに分けて表現されているが、疑似周波数応答関数Gxy(jω)は上記式(4)に示すように、1つの複素関数として表されるので、図7に示すゲインと位相の前向き数理モデルは1つの数理モデルで表すことができる。同じく、図7に示すゲインと位相の後ろ向き数理モデルも1つの数理モデルで表すことができる。本実施形態によれば、回転体1の前向きモードは前向き数理モデルによって数学的に表現することができ、回転体1の後ろ向きモードは後ろ向き数理モデルによって数学的に表現することができる。
【0036】
データ解析部11は、図7に示す前向き数理モデルおよび後ろ向き数理モデルから、回転体1の固有振動数および減衰比を決定することができる。具体的には、図7に示すように、データ解析部11は、ゲイン特性グラフ上の2つのピークP1,P2を前向き数理モデルおよび後ろ向き数理モデルから決定し、ピークP1,P2の周波数である回転体1の固有振動数C1,C2を決定する。さらに、データ解析部11は、ピークP1,P2の尖鋭度を表す回転体1の減衰比を算定する。減衰比の算定には公知の技術を使用することができる。
【0037】
上述したように、疑似周波数応答関数Gxy(jω)は、前向き数理モデルと後ろ向き数理モデルに分離して表現される。したがって、羽根車などの回転体1を含む回転機械を運転するに際して、回転体1の動きや共振を予測することができる。本発明は、回転機械を安全に運転することに寄与する。
【0038】
図8は、回転体1の運動を解析する方法の一実施形態を説明するフローチャートである。
ステップ1では、x方向振動測定器8は回転体1のx方向の振動データを生成し、y方向振動測定器9は回転体1のy方向の振動データを生成する。データ解析部11は、x方向の振動データおよびy方向の振動データをx方向振動測定器8およびy方向振動測定器9から取得する。
【0039】
ステップ2では、データ解析部11は、上記式(1)で表されるxx方向相互相関関数をx方向の振動データから作成する。
ステップ3では、データ解析部11は、上記式(2)で表されるxy方向相互相関関数をx方向の振動データとy方向の振動データから作成する。ステップ3はステップ2の前に実行してもよいし、あるいはステップ2とステップ3は同時に行ってもよい。
【0040】
ステップ4では、データ解析部11は、xx方向相互相関関数を実部、xy方向相互相関関数を虚部に持つ、上記式(3)で表される複素相互相関関数を作成する。
ステップ5では、データ解析部11は、複素相互相関関数をフーリエ変換して、上記式(4)で表される疑似周波数応答関数を決定する。
ステップ6では、データ解析部11は、疑似周波数応答関数から、ゲイン特性グラフと位相特性グラフを作成する。より具体的には、データ解析部11は、疑似周波数応答関数の絶対値と周波数との関係を示すゲイン特性グラフと、疑似周波数応答関数の偏角と周波数との関係を示す位相特性グラフを作成する(図6参照)。
【0041】
ステップ7では、データ解析部11は、ゲイン特性グラフと位相特性グラフの前向きモード区分にカーブフィッティングを実行することで、回転体1の前向きモードを表す前向き数理モデルを決定し、ゲイン特性グラフと位相特性グラフの後ろ向きモード区分にカーブフィッティングを実行することで、回転体1の後ろ向きモードを表す後ろ向き数理モデルを決定する(図7参照)。
ステップ8では、データ解析部11は、回転体1の固有振動数および減衰比を前向き数理モデルおよび後ろ向き数理モデルから決定する。
【0042】
データ解析部11は、記憶装置11aに電気的に格納されたプログラムに含まれる命令に従って上記ステップを実行する。これらステップをデータ解析部11に実行させるためのプログラムは、非一時的な有形物であるコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録され、記録媒体を介してデータ解析部11に提供される。または、プログラムは、インターネットまたはローカルエリアネットワークなどの通信ネットワークを介してデータ解析部11に入力されてもよい。
【0043】
上述した実施形態は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が本発明を実施できることを目的として記載されたものである。上記実施形態の種々の変形例は、当業者であれば当然になしうることであり、本発明の技術的思想は他の実施形態にも適用しうる。したがって、本発明は、記載された実施形態に限定されることはなく、特許請求の範囲によって定義される技術的思想に従った最も広い範囲に解釈されるものである。
【符号の説明】
【0044】
1 回転体
2 回転軸
5,6 軸受
7 解析システム
8 x方向振動測定器
9 y方向振動測定器
11 データ解析部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8