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2024-162696フッ素含有イットリウム焼結体及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024162696
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】フッ素含有イットリウム焼結体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/553 20060101AFI20241114BHJP
   C23C 14/34 20060101ALI20241114BHJP
   C04B 35/50 20060101ALI20241114BHJP
   C22C 28/00 20060101ALI20241114BHJP
   C22C 1/04 20230101ALI20241114BHJP
【FI】
C04B35/553
C23C14/34 A
C04B35/50
C22C28/00 A
C22C1/04 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023078500
(22)【出願日】2023-05-11
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】原 浩之
(72)【発明者】
【氏名】松永 修
(72)【発明者】
【氏名】召田 雅実
【テーマコード(参考)】
4K018
4K029
【Fターム(参考)】
4K018AA40
4K018AB10
4K018AC01
4K018BA20
4K018BB04
4K018BC12
4K018BD09
4K018EA01
4K018EA11
4K018EA21
4K018JA34
4K018KA29
4K018KA63
4K029AA08
4K029AA24
4K029BA42
4K029BC01
4K029CA05
4K029DC05
4K029DC09
4K029DC24
4K029DC34
(57)【要約】
【課題】
フッ素ガスを必須とすることなく、DC放電を用いたスパッタリング法によるオキシフッ化イットリウム膜の成膜が可能である、オキシフッ化イットリウム膜の成膜材料及びその製造方法、スパッタリングターゲット及びオキシフッ化イットリウム膜付き基板の製造方法の少なくともいずれかを提供する。
【解決手段】
フッ素の含有量が10質量%以上30質量%以下、イットリウムの含有量が70質量%以上90質量%以下である組成を有し、相対密度が90%以上であり、なおかつ、Y相及びYF相を含む結晶相からなるフッ素含有イットリウム焼結体。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素の含有量が10質量%以上30質量%以下、イットリウムの含有量が70質量%以上90質量%以下である組成を有し、相対密度が90%以上であり、なおかつ、Y相及びYF相を含む結晶相からなるフッ素含有イットリウム焼結体。
【請求項2】
体積抵抗率が1.0Ω・cm以下である請求項1に記載のフッ素含有イットリウム焼結体。
【請求項3】
抗折強度が50MPa以上である請求項1又は請求項2に記載のフッ素含有イットリウム焼結体。
【請求項4】
イットリウム(Y)粉末を25質量%以上75質量%以下、フッ化イットリウム(YF)粉末を25質量%以上75質量%以下の割合で、イットリウム(Y)粉末及びフッ化イットリウム(YF)粉末の合計が100質量%となるように混合し、原料粉末を得る混合工程、及び、該原料粉末を不活性雰囲気、700℃以上で加圧焼成する熱処理工程、を有する請求項1又は請求項2に記載のフッ素含有イットリウム焼結体の製造方法。
【請求項5】
請求項1又は請求項2に記載のフッ素含有イットリウム焼結体を備えるスパッタリングターゲット。
【請求項6】
請求項5に記載のスパッタリングターゲットを用いて、スパッタリング法により基板上にオキシフッ化イットリウム膜を形成してオキシフッ化イットリウム膜付き基板を製造する、オキシフッ化イットリウム膜付き基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、フッ素含有イットリウム焼結体、特にオキシフッ化イットリウム成膜用スパッタリングターゲットに適したフッ素含有イットリウム焼結体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス等の製造工程において、高密度プラズマを用いたドライエッチングによる微細加工が行われている。ドライエッチングでは半導体デバイスの加工に伴い、治具等の加工部材自体もエッチングの影響を受ける。そのため、加工部材にはドライエッチングの影響を受けにくい材料が求められており、このような材料としてオキシフッ化イットリウムが注目されている。
【0003】
一般的に、ドライエッチング用の加工部材は、石英等からなる基材の表面にオキシフッ化イットリウム膜を成膜することで製造されている。例えば、オキシフッ化イットリウム(YOF)を成膜用材料とし、RF放電を用いたスパッタリング法により、オキシフッ化イットリウム膜を成膜された部材が知られている。また、特許文献1では、イットリウム(Y)を成膜材料とし、酸素及びフッ素ガスを導入しながらスパッタリング法により、オキシフッ化イットリウム膜を形成する工業プロセスが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2022-84788号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、オキシフッ化イットリウムは絶縁物であるためDC放電を用いたスパッタリング法によるオキシフッ化イットリウム膜の成膜はできない。イットリウムを成膜材料とするDC放電を用いたスパッタリング法では、フッ素ガスの導入が必須であり、その除害設備が必要になる等、成膜装置が大掛かり、かつ、高価になりやすいため、工業的な適用が非常に困難である。
【0006】
本開示は、フッ素ガスを必須とすることなく、DC放電を用いたスパッタリング法によるオキシフッ化イットリウム膜の成膜が可能である、オキシフッ化イットリウム膜の成膜材料及びその製造方法、スパッタリングターゲット及びオキシフッ化イットリウム膜付き基板の製造方法の少なくともいずれかを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、DC放電法を用いたスパッタリング法による成膜を可能とする成膜材料について検討を行った。その結果、イットリウム(Y)とフッ素含有イットリウム化合物を特定の割合で複合化することで、成膜材料の導電性を制御することができることに着目し、その組成を制御することにより、DC放電を用いたスパッタリング法により、オキシフッ化イットリウム膜が成膜を可能とする導電性を有する成膜材料が得られることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は特許請求の範囲に記載の通りであり、また、本開示の要旨は以下の通りである。
[1] フッ素の含有量が10質量%以上30質量%以下、イットリウムの含有量が70質量%以上90質量%以下である組成を有し、相対密度が90%以上であり、なおかつ、Y相及びYF相を含む結晶相からなるフッ素含有イットリウム焼結体。
[2] 体積抵抗率が1.0Ω・cm以下である[1]に記載のフッ素含有イットリウム焼結体。
[3] 抗折強度が50MPa以上である[1]又は[2]に記載のフッ素含有イットリウム焼結体。
[4] イットリウム(Y)粉末を25質量%以上75質量%以下、フッ化イットリウム(YF)粉末を25質量%以上75質量%以下の割合で、イットリウム(Y)粉末及びフッ化イットリウム(YF)粉末の合計が100質量%となるように混合し、原料粉末を得る混合工程、及び、該原料粉末を不活性雰囲気、700℃以上で加圧焼成する熱処理工程、を有する[1]~[3]のいずれかひとつに記載のフッ素含有イットリウム焼結体の製造方法。
[5] [1]~[3]のいずれかひとつに記載のフッ素含有イットリウム焼結体を備えるスパッタリングターゲット。
[6] [5]に記載のスパッタリングターゲットを用いて、スパッタリング法により基板上にオキシフッ化イットリウム膜を形成してオキシフッ化イットリウム膜付き基板を製造する、オキシフッ化イットリウム膜付き基板の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本開示により、フッ素ガスを必須とすることなく、DC放電を用いたスパッタリング法によるオキシフッ化イットリウム膜の成膜が可能である、オキシフッ化イットリウム膜の成膜材料及びその製造方法、スパッタリングターゲット及びオキシフッ化イットリウム膜付き基板の製造方法の少なくともいずれかを提供することすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示について詳細に説明する。しかしながら、以下に記載する構成要件の説明は本開示の実施形態の一例であり、本開示はこれらの内容に限定されるものではない。
[フッ素含有イットリウム焼結体]
本実施形態は、フッ素の含有量が10質量%以上30質量%以下、イットリウムの含有量が70質量%以上90質量%以下である組成を有し、相対密度が90%以上であり、なおかつ、Y相及びYF相を含む結晶相からなるフッ素含有イットリウム焼結体、である。このようなフッ素含有イットリウム焼結体(以下、「本実施形態の焼結体」ともいう。)は、DC放電を用いたスパッタリング法によりオキシフッ化イットリウム膜を製造することを可能とするスパッタリングターゲット以下、単に「ターゲット」ともいう。)として使用することができる。
【0011】
本実施形態の焼結体は、フッ素含有イットリウム焼結体であり、フッ素(F)及びイットリウム(Y)を構成元素とする成分をマトリックスとする焼結体であり、イットリウム-フッ化イットリウム焼結体であることが好ましい。
【0012】
本実施形態の焼結体は、フッ素の含有量が10質量%以上30質量%以下、イットリウムの含有量が70質量%以上90質量%以下である組成を有する。フッ素の含有量が10質量%未満であると、DC放電を用いたスパッタリング法によるオキシフッ化イットリウム膜の成膜が困難であり、フッ素の含有量が30質量%を超えると焼結体の体積抵抗率が上昇し、DC放電を行うことができない。フッ素の含有量は15質量%以上30質量%以下であることが好ましく、15質量%以上25質量%以下であることがより好ましい。イットリウムの含有量は70質量%以上85質量%以下であることが好ましく、75質量%以上85質量%以下であることがより好ましい。
【0013】
本実施形態の焼結体において、フッ素の含有量及びイットリウムの含有量は、以下の式から求められる。
【0014】
フッ素の含有量 =b/(a+b)
イットリウムの含有量=(a+b)/(a+b)
上式中、aは焼結体に含まれるイットリウムの質量[g]、bは焼結体に含まれるフッ化イットリウムの質量[g]、bはフッ化イットリウムに含まれるイットリウムの質量[g]、bはフッ化イットリウムに含まれるフッ素の質量[g]である。
【0015】
なお、本実施形態の焼結体は、フッ素及びイットリウムで100質量%となる組成を有していることが好ましいが、その効果を奏する範囲であれば、不可避不純物を含んでいてもよい。不可避不純物として、例えば、ケイ素(Si)、アルミニウム(Al)、カルシウム(Ca)及び鉄(Fe)の群から選ばれる1以上の金属元素若しくはこれらの化合物が挙げられる。不可避不純物の含有量は0質量ppm以上5,000質量ppm以下であることが例示でき、この場合、本実施形態の焼結体は、フッ素、イットリウム及び不可避不純物で100質量%となる組成を有していてもよい。
【0016】
本実施形態の焼結体の相対密度は90%以上であり、95%以上又は97%以上であることが好ましい。このような相対密度を有することで、焼結体の抗折強度が高くなりやすく、DC放電中のスパッタリングターゲットの割れを抑制することができる。相対密度は高いほど好ましいが100%以下又は100%未満であることが挙げられる。相対密度は95%以上100%以下であることが好ましく、97%以上100%以下であることがより好ましい。
【0017】
本実施形態において、「相対密度」は、真密度(d)[g/cm]に対する嵩密度(d’)[g/cm]の割合[%]である。嵩密度d’[g/cm]は、アルキメデス法により測定される体積[cm]、及び、乾燥質量[g]から求められる。真密度は、以下の式(A)から求まる値である。
d=(a+b)/{(a/d)+(b/dYF3)} (A)
【0018】
上式において、aは焼結体に含まれるイットリウム(Y)の質量[g]、bは焼結体に含まれるフッ化イットリウムの質量[g]である。dはイットリウムの真密度(4.470g/cm)及びdYF3はフッ化イットリウム(YF)の真密度(5.063g/cm)である。
【0019】
本実施形態の焼結体の結晶相は、Y相及びYF相を含み、Y相(イットリウム相)及びYF相(フッ化イットリウム相)からなることが好ましい。結晶相がY相及びYF相を含むことにより、イットリウム由来の導電性を残したまま焼結体内にフッ素を含有することができる。
【0020】
本実施形態の焼結体の体積抵抗率は1.0Ω・cm以下であることが好ましい。これにより、本実施形態の焼結体をターゲットとして使用した場合に、DC放電によるスパッタ成膜が可能となる。体積抵抗率は、1.0×10-1Ω・cm以下、1.0×10-2Ω・cm以下又は1.0×10-3Ω・cm以下であることが好ましい。体積抵抗率は低いほど好ましいが、本実施形態の焼結体の体積抵抗率の下限は、1.0×10-6Ω・cm以上又は1.0×10-5Ω・cm以上が例示できる。
【0021】
本実施形態の焼結体の体積抵抗率は、焼結体を縦10mm×横20mm×厚さ1mmの板状に加工し、測定プローブの接触点(4点)に銀ペーストを塗布して、一般的な抵抗率計(例えば、装置名:ロレスターHP MCP-T410、三菱化学社製)を用いて、JIS K 7194に準拠する方法により4端子法で測定することができる。
【0022】
本実施形態の焼結体の抗折強度は50MPa以上であることが好ましく、70MPa以上、100MPa以上であることが好ましい。これにより、本実施形態の焼結体をターゲットとして使用した場合に、DC放電によるスパッタリング時のターゲットの割れが生じにくくなる。抗折強度は高いほど好ましいが、本実施形態の焼結体の抗折強度の上限は500MPa以下、300MPa以下、又は200MPa以下であることが例示できる。
【0023】
本実施形態の焼結体の抗折強度は、JIS R 1601に準拠する方法により測定することができる。
【0024】
試験方法 :三点曲げ試験
支点間距離 :30mm
試料サイズ :3×4×40mm
ヘッド速度 :0.5mm/分
【0025】
[スパッタリングターゲット]
本実施形態の焼結体は、フッ素含有イットリウムの公知の用途に使用することができるが、スパッタリングターゲットとして使用することが好ましく、スパッタリングターゲット用焼結体として使用することがより好ましい。
【0026】
本実施形態の焼結体を備えたスパッタリングターゲット(以下、「本実施形態のターゲット」ともいう。)は、本実施形態の焼結体からなっていてもよく、バッキングプレート及び本実施形態の焼結体を備えたターゲットであってもよい。
【0027】
以下、バッキングプレート及び本実施形態の焼結体を備えたスパッタリングターゲットを一例に挙げ、本実施形態のターゲットについて説明する。
【0028】
バッキングプレートは、スパッタリング時の通電及び放熱ができる材料からなっていればよく、例えば、銅(Cu)及びアルミニウム(Al)、チタン(Ti)及びSUSの群から選ばれる1以上からなるバッキングプレートが挙げられる。
【0029】
本実施形態のターゲットにおいて、本実施形態の焼結体はバッキングプレートと接合している。本実施形態の焼結体とバッキングプレートとは、直接接合していてもよく、接合材を介して接合していてもよい。接合材は公知の材料であってよく、例えば、インジウム(In)が挙げられる。
【0030】
本実施形態のターゲットにおいて、その形状は、スパッタリングに適した形状であればよく、例えば、板状、柱状及び円筒状の群から選ばれる1以上が挙げられる。
【0031】
成膜面積を広くするため、本実施形態のターゲットのスパッタ面の面積は200cm以上、350cm以上又は800cm以上であることが好ましい。スパッタ面の面積は、例えば、1500cm以下又は1200cm以下であることが挙げられる。
【0032】
[焼結体の製造方法]
本実施形態の焼結体の製造方法は任意であるが、好ましい製造方法として、イットリウム(Y)粉末を25質量%以上75質量%以下、フッ化イットリウム(YF)粉末を25質量%以上75質量%以下の割合で、イットリウム(Y)粉末及びフッ化イットリウム(YF)粉末の合計が100質量%となるように混合し、原料粉末を得る混合工程、及び、該原料粉末を不活性雰囲気、700℃以上で加圧焼成する熱処理工程を有する、フッ素含有イットリウム焼結体の製造方法、が挙げられる。
【0033】
混合工程では、イットリウム粉末を25質量%以上75質量%以下、フッ化イットリウム粉末を25質量%以上75質量%以下の割合で、イットリウム粉末及びフッ化イットリウム粉末の合計が100質量%となるように混合し、原料粉末を得る。これにより、イットリウム及びフッ化イットリウムを含む原料粉末が得られる。イットリウム粉末が75質量%を超える割合であると、DC放電を用いたスパッタリング法によるオキシフッ化イットリウム膜の成膜が困難であり、イットリウム粉末が25質量%未満の割合であると、焼結体の体積抵抗率が上昇し、DC放電を行うことができない。
【0034】
イットリウム粉末は25質量%以上65質量%以下であることが好ましく、35質量%以上65質量%以下であることがより好ましい。フッ化イットリウム粉末は35質量%以上75質量%以下であることが好ましく、35質量%以上65質量%以下であることがより好ましい。
【0035】
イットリウム粉末の平均粒径は、1000μm以下又は800μm以下であり、また、150μm以上又は300μm以上であればよい。
【0036】
フッ化イットリウム粉末の平均粒径は100μm以下又は50μm以下であり、また、1μm以上又は5μm以上であればよい。
【0037】
イットリウムの純度は3N以上又は4N以上であることが好ましい。好ましいイットリウム源として、金属イットリウムが挙げられる。また、フッ化イットリウムの純度は3N以上又は4N以上であることが好ましい。
【0038】
混合方法は乾式混合であればよく、ボールミル、ジェットミル、ロールミル、ディスクミル、気流式粉砕及びビーズミルの群から選ばれる1以上の粉砕方法が挙げられる。粉砕は不活性雰囲気で行うことが好ましく、窒素雰囲気、及びアルゴン雰囲気の群から選ばれる1以上の雰囲気での粉砕が好ましい。
【0039】
熱処理工程では、前記混合粉末を不活性雰囲気、700℃以上で加圧焼成する。これにより、本実施形態の焼結体が得られる。焼成方法は加圧焼結であればよく、具体的な加圧焼結としてホットプレス処理、熱間静水圧プレス(HIP)処理及び放電プラズマ焼成処理の群から選ばれる1以上が挙げられ、ホットプレス処理が好ましい。
【0040】
熱処理工程の処理温度は700℃以上である。上記の温度未満であると、焼結体の密度が低下する。得られる焼結体の密度が向上しやすくなるため、処理温度は800℃以上であることが好ましく、900℃以上であることがより好ましい。処理温度の上限は1200℃以下、又は1100℃以下であることが例示できる。また、加圧焼成時の圧力50MPa又は30MPa以下であることが例示できる。圧力の下限は10MPa以上又は20MPa以上であることが例示できる。
【0041】
熱処理時間は、熱処理炉の性能などにより適宜調整すればよく、例えば、1時間以上15時間以下が挙げられる。
【0042】
熱処理工程における雰囲気は不活性雰囲気であればよく、窒素雰囲気、ヘリウム雰囲気及びアルゴン雰囲気の群から選ばれる1以上の雰囲気が好ましい。
【0043】
上述の熱処理工程により得られる焼結体をそのまま本実施形態のターゲットとしてもよく、また、所望のサイズに加工することで本実施形態のターゲットとしてもよい。また、上述の焼結体をバッキングプレートにボンディングすることで本実施形態のターゲットとしてもよい。
【実施例0044】
以下、本開示について実施例により説明する。しかしながら、本開示はこれらに限定されるものではない。
【0045】
(相対密度)
焼結体の相対密度(%)は、JIS R 1634に準拠し、焼結体の真密度(d)に対する焼結体の嵩密度(d’)として、以下の式より求めた。
相対密度[%] = (d’/d)×100
【0046】
焼結体の嵩密度d’[g/cm]は、アルキメデス法により測定される体積[cm]、及び焼結体の乾燥質量[g]から求めた。
【0047】
焼結体の真密度d[g/cm]は、以下(A)式から求めた。
d=(a+b)/{(a/d)+(b/dYF3)} (A)
【0048】
上式中、aは焼結体に含まれるイットリウムの質量[g]、bは焼結体に含まれるフッ化イットリウムの質量[g]dはイットリウムの真密度(4.470g/cm)及びdYF3はフッ化イットリウムの真密度(5.063g/cm)である。
【0049】
焼結体に含まれるイットリウム及びフッ化の含有量は、それぞれ、以下の式により求めた。
フッ素の含有量 =b/(a+b)
イットリウムの含有量=(a+b)/(a+b)
【0050】
上式中、aは焼結体に含まれるイットリウムの質量[g]、bは焼結体に含まれるフッ化イットリウムの質量[g]、bはフッ化イットリウムに含まれるイットリウムの質量[g]、bはフッ化イットリウムに含まれるフッ素の質量[g]である。
【0051】
(抗折強度)
焼結体の抗折強度は、JIS R 1601に準拠する方法により、以下の条件で測定した。
【0052】
試験方法 :三点曲げ試験
支点間距離 :30mm
試料サイズ :3×4×40mm
ヘッド速度 :0.5mm/分
【0053】
(結晶相)
焼結体に含まれる結晶相は、粉末X線回折(以下、「XRD」ともいう。)パターンから同定した。XRD装置(装置名:RINT Ultima III、リガク社製)を使用し、以下の測定により焼結体のXRDパターンを得た。
【0054】
加速電流・電圧 : 40mA・40kV
線源 : CuKα線(λ=1.5405Å)
測定モード : 連続スキャン
スキャン条件 : 2°/分
測定範囲 : 2θ=20°から80°
発散縦制限スリット: 10mm
発散/入射スリット: 1/2°
受光スリット : 0.3mm
得られたXRDパターンとICDDのデータベースとを対比することで、焼結体の結晶相を同定した。
【0055】
(体積抵抗率)
焼結体を縦10mm×横20mm×厚さ1mmの板状に加工し、測定プローブの接触点(4点)に銀ペーストを塗布して、抵抗率計(装置名:ロレスターHP MCP-T410、三菱化学社製)を用いて、JIS K 7194に準拠する方法により、4端子法で測定を行った。
補正係数:3.923
プローブ:TFP
【0056】
(実施例1)
イットリウム(Y)粉末が54.9質量%、フッ化イットリウム(YF)粉末が45.1質量%となるように、市販のイットリウム粉末(純度:99.9%、平均粒径:700±100μm、製品名:Yメタル粉末、日本イットリウム社製)及び市販のフッ化イットリウム粉末(純度:99.9%、平均粒径:9.4μm、製品名:フッ化イットリウム粉末、日本イットリウム社製)を秤量した後、これをアルゴン雰囲気下、ナイロンボール(15mmφ)を使用したボールミル混合により1時間乾式混合し、イットリウム及びフッ化イットリウムの混合粉末を得た。
【0057】
当該混合粉末をカーボン製の型(プレスダイ:直径15.2cm)に入れ、以下の条件のホットプレス法により焼成して、直径15.2cm×厚さ7mmである円板状の本実施例の焼結体を得た。
【0058】
焼成方法 :ホットプレス
昇温速度 :200℃/時間
焼成雰囲気:アルゴン
焼成温度 :1050℃
焼成圧力 :40MPa
焼成時間 :3時間
本実施例の焼結体は、結晶相にイットリウム(Y)及びフッ化イットリウム(YF)を含み、イットリウムの含有量が82.4質量%、フッ素の含有量が17.6質量%である焼結体であった。
【0059】
(実施例2)
以下の焼成条件で焼成したこと以外は実施例1と同様な方法で本実施例の焼結体を作製した。
焼成方法 :ホットプレス
昇温速度 :200℃/時間
焼成雰囲気:アルゴン
焼成温度 :900℃
焼成圧力 :20MPa
焼成時間 :3時間
【0060】
(実施例3)
以下の焼成条件で焼成したこと以外は実施例1と同様な方法で本実施例の焼結体を作製した。
焼成方法 :ホットプレス
昇温速度 :200℃/時間
雰囲気 :アルゴン
焼成温度 :800℃
圧力 :20MPa
焼成時間 :3時間
【0061】
(実施例4)
イットリウム(Y)粉末が71.8質量%、フッ化イットリウム(YF)粉末が28.2質量%となるようにイットリウム(Y)粉末及びフッ化イットリウム(YF)粉末を秤量し、これを混合したこと以外は実施例1と同様な方法で本実施例の焼結体を作製した。
【0062】
(実施例5)
イットリウム(Y)粉末が51.4質量%、フッ化イットリウム(YF)粉末が48.6質量%となるようにイットリウム(Y)粉末及びフッ化イットリウム(YF)粉末を秤量し、これを混合したこと以外は実施例1と同様な方法で本実施例の焼結体を作製した。
【0063】
(実施例6)
イットリウム(Y)粉末が28.0質量%、フッ化イットリウム(YF)粉末が72.0質量%となるようにイットリウム(Y)粉末及びフッ化イットリウム(YF)粉末を秤量し、これを混合したこと、並びに、以下の焼成条件で焼成したこと以外は実施例1と同様な方法で本実施例の焼結体を作製した。
焼成方法 :ホットプレス
昇温速度 :200℃/時間
焼成雰囲気:アルゴン
焼成温度 :1050℃
焼成圧力 :20MPa
焼成時間 :3時間
【0064】
(比較例1)
市販のフッ化イットリウム粉末(純度:99.9%、平均粒径:9.4μm、製品名:フッ化イットリウム粉末、日本イットリウム社製)をカーボン製の型(プレスダイ:直径15.2cm)に入れ、以下の焼成条件でホットプレス法により焼成し、本比較例の焼結体を作製した。
【0065】
焼成方法 :ホットプレス
昇温速度 :200℃/時間
焼成雰囲気:アルゴン
焼成温度 :1050℃
焼成圧力 :40MPa
焼成時間 :3時間
これにより、直径15.2cm×厚さ7mmである円板状の焼結体を得、これを本比較例の焼結体とした。
【0066】
(比較例2)
以下の焼成条件で焼成したこと以外は実施例1と同様な方法で本比較例の焼結体を作製した。
焼成方法 :ホットプレス
昇温速度 :200℃/時間
雰囲気 :アルゴン
焼成温度 :650℃
圧力 :20MPa
焼成時間 :3時間
【0067】
(比較例3)
イットリウム(Y)粉末が16.0質量%、フッ化イットリウム(YF)粉末が84.0質量%となるようにイットリウム及びフッ化イットリウムを混合したこと、及び以下の条件で焼成したこと以外は実施例1と同様な方法で本比較例の焼結体を作製した。
焼成方法 :ホットプレス
昇温速度 :200℃/時間
雰囲気 :アルゴン
焼成温度 :1050℃
圧力 :20MPa
焼成時間 :3時間
実施例及び比較例で得られた焼結体の評価結果を表1に示す。
【0068】
【表1】
【0069】
本実施形態の焼結体は、いずれも体積抵抗率が1.0Ω・cm以下であり、DC放電によるスパッタリング法の適用可能な電気伝導性を有していることが確認できた。また、本実施形態の焼結体は抗折硬度が50MPa以上、更には100MPa以上であり、スパッタリング時に割れが生じにくい強度を有していることが確認できた。