(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024162788
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】製造方法、成膜装置及び成膜方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/50 20060101AFI20241114BHJP
H01L 21/683 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
C23C14/50 A
H01L21/68 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023078683
(22)【出願日】2023-05-11
(71)【出願人】
【識別番号】591065413
【氏名又は名称】キヤノントッキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】纐纈 直行
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 克栄
【テーマコード(参考)】
4K029
5F131
【Fターム(参考)】
4K029CA01
4K029DA03
4K029JA01
5F131AA03
5F131AA33
5F131BA01
5F131CA18
5F131CA32
5F131EA02
5F131EB11
5F131EB53
(57)【要約】
【課題】静電チャックによる基板の保持に有利な新たな技術を提供する。
【解決手段】電子デバイスを製造する製造方法であって、基板の第1面に膜を形成する第1工程と、前記第1工程の後に前記膜を封止する第2工程と、前記第1工程の後、且つ、前記第2工程の前に、前記第1工程で前記膜が形成された基板を、前記基板の前記第1面が重力の方向を向くように、第1静電チャックで保持した状態において、前記膜の厚さを計測する第3工程と、を有し、前記第1静電チャックは、前記基板を、前記基板の前記第1面とは反対側の第2面で保持する第1保持面を含み、前記第1保持面は、重力の方向の側に、凸形状となる表面形状を有する、ことを特徴とする製造方法を提供する。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子デバイスを製造する製造方法であって、
基板の第1面に膜を形成する第1工程と、
前記第1工程の後に前記膜を封止する第2工程と、
前記第1工程の後、且つ、前記第2工程の前に、前記第1工程で前記膜が形成された基板を、前記基板の前記第1面が重力の方向を向くように、第1静電チャックで保持した状態において、前記膜の厚さを計測する第3工程と、
を有し、
前記第1静電チャックは、前記基板を、前記基板の前記第1面とは反対側の第2面で保持する第1保持面を含み、
前記第1保持面は、重力の方向の側に、凸形状となる表面形状を有する、
ことを特徴とする製造方法。
【請求項2】
前記第3工程では、前記膜を形成するための成膜室から搬出された前記基板を受け渡すための受渡室において、前記膜の厚さを計測する、ことを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記第1工程では、前記基板を、前記基板の前記第1面が重力の方向を向くように、前記第1静電チャックとは異なる第2静電チャックで保持した状態において、前記基板の前記第1面に前記膜を形成する、ことを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記第2静電チャックは、前記基板を、前記基板の前記第1面とは反対側の第2面で保持する第2保持面を含む、ことを特徴とする請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記基板は、重力の方向の側に、凸形状となる撓み形状を有し、
前記第1静電チャックの前記第1保持面は、前記第2静電チャックの前記第2保持面よりも、前記基板の撓み形状に近い表面形状を有する、
ことを特徴とする請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記第1静電チャックの前記第1保持面には、静電気力により前記基板の前記第2面を吸着する領域が前記第1保持面の全面をカバーするように設けられている、ことを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項7】
前記第1静電チャックの前記第1保持面には、静電気力により前記基板の前記第2面を吸着する複数の領域がマトリクス状に設けられている、ことを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項8】
前記膜は、有機膜を含み、
前記電子デバイスは、有機EL素子を含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項9】
電子デバイスを製造する製造方法であって、
基板の第1面に膜を形成する第1工程と、
前記第1工程の後に前記膜を封止する第2工程と、
前記第1工程の後、且つ、前記第2工程の前に、前記第1工程で前記膜が形成された基板を、前記基板の前記第1面が重力の方向を向くように、第1静電チャックで保持した状態において、前記膜の厚さを計測する第3工程と、
を有し、
前記第1工程では、前記基板を、前記基板の前記第1面が重力の方向を向くように、前記第1静電チャックとは異なる第2静電チャックで保持した状態において、前記基板の前記第1面に前記膜を形成し、
前記基板は、重力の方向の側に、凸形状となる撓み形状を有し、
前記第1静電チャックは、前記基板を、前記基板の前記第1面とは反対側の第2面で保持する第1保持面を含み、
前記第2静電チャックは、前記基板を、前記基板の前記第1面とは反対側の第2面で保持する第2保持面を含み、
前記第1静電チャックの前記第1保持面は、前記第2静電チャックの前記第2保持面よりも、前記基板の撓み形状に近い表面形状を有する、
ことを特徴とする製造方法。
【請求項10】
基板の第1面に膜を形成するための成膜室と、
前記基板の前記第1面が重力の方向を向くように、前記基板を保持する静電チャックと、
前記基板の前記第1面に形成された前記膜を封止する前に、前記基板を前記静電チャックで保持した状態において、前記基板の前記第1面に形成された前記膜の厚さを計測する計測部と、
を有し、
前記静電チャックは、前記基板を、前記基板の前記第1面とは反対側の第2面で保持する保持面を含み、
前記保持面は、重力の方向の側に、凸形状となる表面形状を有する、
ことを特徴とする成膜装置。
【請求項11】
基板の第1面に膜を形成する第1工程と、
前記第1工程の後に前記膜を封止する第2工程と、
前記第1工程の後、且つ、前記第2工程の前に、前記第1工程で前記膜が形成された基板を、前記基板の前記第1面が重力の方向を向くように、静電チャックで保持した状態において、前記膜の厚さを計測する第3工程と、
を有し、
前記静電チャックは、前記基板を、前記基板の前記第1面とは反対側の第2面で保持する保持面を含み、
前記保持面は、重力の方向の側に、凸形状となる表面形状を有する、
ことを特徴とする成膜方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製造方法、成膜装置及び成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL表示装置(有機ELディスプレイ)は、スマートフォン、テレビ、自動車用ディスプレイに加えて、VR HMD(Virtual Reality Head Mount Display)などにも適用されてきている。有機EL表示装置を製造する際には、有機EL表示装置を構成する有機発光素子(有機EL素子:OLED)を形成する必要がある。
【0003】
このような有機EL表示装置の製造設備として、基板を成膜室に搬送して基板に対する成膜(成膜処理)を行う装置(成膜装置)を備える成膜ラインが提案されている(特許文献1参照)。特許文献1には、搬送室から複数の成膜室のそれぞれに基板を順次搬送し、各成膜室で基板に対する成膜処理を行うクラスタ型の成膜装置が提案されている。また、特許文献1では、搬送室において、成膜処理が行われた基板を静電チャックで保持(吸着)した状態で、基板上に形成された膜(有機膜や金属膜)の厚さ、即ち、膜厚を計測している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願第2021/0226183号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来技術のように、成膜処理が行われた基板を静電チャックで保持する際に、基板に撓み(例えば、下凸形状となる反り(変形))が発生していると、静電チャックによる基板の保持に影響を与えてしまう場合がある。例えば、基板が撓むことで、静電チャックが基板に対して十分な保持力(吸着力)を作用させることができず、基板をチャック面(平面)に倣わせることができない。
【0006】
このように、基板に撓みが発生している場合には、かかる基板に対して十分な保持力を作用させるために、例えば、静電チャックに印加する電圧を高くすることが考えられる。但し、基板の撓みが大きくなると、静電チャックに最大電圧を印加したとしても、基板を吸着することができず、静電チャックで基板を保持すること自体が困難となる。また、静電チャックに高い電圧を印加することで、基板上の素子を形成すべき素子形成領域(アクティブ領域)がダメージを受けてしまう懸念がある。更には、静電チャックに印加した高い電圧(帯電)を除電するのに時間を要し、1つの製品の製造にかかる時間、即ち、タクト時間の長時間化につながる。
【0007】
本発明は、このような従来技術の課題に鑑みてなされ、静電チャックによる基板の保持に有利な新たな技術を提供することを例示的目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の一側面としての製造方法は、電子デバイスを製造する製造方法であって、基板の第1面に膜を形成する第1工程と、前記第1工程の後に前記膜を封止する第2工程と、前記第1工程の後、且つ、前記第2工程の前に、前記第1工程で前記膜が形成された基板を、前記基板の前記第1面が重力の方向を向くように、第1静電チャックで保持した状態において、前記膜の厚さを計測する第3工程と、を有し、前記第1静電チャックは、前記基板を、前記基板の前記第1面とは反対側の第2面で保持する第1保持面を含み、前記第1保持面は、重力の方向の側に、凸形状となる表面形状を有する、ことを特徴とする。
【0009】
本発明の更なる目的又はその他の側面は、以下、添付図面を参照して説明される実施形態によって明らかにされるであろう。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、例えば、静電チャックによる基板の保持に有利な新たな技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一側面としての成膜装置を有する成膜システムの構成を模式的に示す図である。
【
図4】基板に設けられるアライメントマークの一例を示す図である
【
図5】膜厚計測部による計測処理の原理を説明するための図である。
【
図6】撓みが生じた基板を基板保持部で保持している状態を示す図である。
【
図7】本実施形態における基板保持部の構成を示す図である。
【
図8】成膜システムにおける膜厚制御系の構成を模式的に示す図である。
【
図9】電子デバイスとしての有機EL表示装置を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。更に、添付図面においては、同一もしくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0013】
図1は、本発明の一側面としての成膜装置を有する成膜システム100の構成(レイアウト)を模式的に示す図である。成膜システム100は、搬入される基板に対して成膜処理を行い、成膜処理が行われた基板を搬出するシステムである。成膜システム100は、例えば、電子デバイスの製造ラインとして構成され、複数の成膜システム100が並べて設置されていてもよい。なお、以下の各図において、矢印Zは、上下方向(重力の方向)を示し、矢印X及び矢印Yは、互いに直交する水平方向を示す。
【0014】
成膜システム100(成膜装置)は、特に、OLEDなどの有機発光素子、有機薄膜太陽電池などの有機光電変換素子を製造するシステムとして好適である。電子デバイスとしては、例えば、発光素子、光電変換素子、タッチパネルなどが挙げられる。本実施形態において、電子デバイスは、発光素子を備えた表示装置(例えば、有機EL表示装置)や照明装置(例えば、有機EL照明装置)、光電変換素子を備えたセンサ(例えば、有機COMSイメージセンサ)などを含む。
【0015】
成膜システム100は、本実施形態では、スマートフォン用の有機EL表示装置の表示パネル、或いは、VR HMD用の有機EL表示装置の表示パネルを製造するシステムとして具現化される。スマートフォン用の表示パネルを製造する場合、4.5世代の基板(約700mm×約900mm)や6世代のフルサイズの基板(約1500mm×約1850mm)又はハーフカットサイズの基板(約1500mm×約925mm)が用いられる。このような基板に、有機EL素子を形成するための成膜を行い、かかる基板を切り抜いて複数の小さいサイズのパネルを製造する。また、VR HMD用の表示パネルを製造する場合、所定のサイズのシリコンウエハ(例えば、300mm)が用いられる。このようなシリコンウエハに、有機EL素子を形成するための成膜を行い、素子形成領域の間の領域(スクライブ領域)に沿ってシリコンウエハを切り抜いて複数の小さいサイズのパネルを製造する。但し、基板のサイズや種類は、特に限定されるものではなく、適宜設定可能である。
【0016】
成膜システム100は、
図1に示すように、複数のクラスタ型ユニット(以下、単に「ユニット」とも称する)CU1~CU3が連結室を介して連結された構造を有する。ここで、クラスタ型ユニットとは、基板搬送部としての基板搬送ロボットの周囲に複数の成膜装置が配置された構成の成膜ユニットを意味する。なお、本実施形態では、成膜システム100は、3つのユニットCU1~CU3を有しているが、ユニットの数は限定されるものではない。以下、全てのユニットに共通する説明及びユニットを特定しない説明では、「CUx」のように数字の代わりに「x」で表記した参照符号を用い、個別のユニットについての説明では、「CU1」のように数字を表記した参照符号を用いるものとする。また、ユニット以外の構成に付した参照符号についても同様である。
【0017】
なお、
図1では、電子デバイスの製造ラインの全体のうち、成膜装置を含む一部分である成膜システム100を示している。成膜システム100(成膜装置)の上流には、例えば、基板のストッカ、加熱装置、洗浄装置などの前処理装置などが設けられてもよい。また、成膜システム100(成膜装置)の下流には、例えば、封止装置、加工装置、処理が行われた基板のストッカなどが設けられてもよい。
【0018】
ユニットCUxは、中央に配置された搬送室TRxと、搬送室TRxの周囲に配置された複数の成膜室EVx1~EVx4(成膜装置)及びマスク室MSx1~MSx2と、を有する。隣接する2つのユニットCUxとCUx+1との間は、連結室CNxで連結されている。ユニットCUxにおいて、搬送室TRx、成膜室EVx1~EVx4、マスク室MSx1~MSx2、及び、連結室CNxは、空間的につながっており、その内部は、真空又は窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気に維持されている。本実施形態において、ユニットCUx及び連結室CNxを構成する各室は、真空ポンプ(不図示)に接続されており、各室を独立に真空排気することが可能となっている。それぞれの室は、「真空チャンバ」、又は、単に「チャンバ」とも称される。本実施形態において、「真空」(状態)とは、大気圧よりも低い圧力の気体で満たされた状態、即ち、減圧状態を意味する。
【0019】
搬送室TRxには、基板S及びマスクMを搬送する搬送部として、搬送ロボットRRxが設けられている。搬送ロボットRRxは、例えば、多関節アームに、基板SやマスクMを保持するロボットハンドが取り付けられた構造を有する多関節ロボットである。ユニットCUxにおいて、基板Sは、基板Sの膜が形成される成膜面S1(第1面)が重力の方向(-Z方向(下方向))を向いた水平状態を維持したまま、搬送ロボットRRxや搬送ロボットRCxなどの搬送部によって搬送される。搬送ロボットRRxや搬送ロボットRCxを構成するロボットハンドは、例えば、基板Sの成膜面S1の周縁領域を保持する。搬送ロボットRRxは、上流側のパス室PSx-1と、成膜室EVx1~EVx4と、下流側のバッファ室BCxとの間で基板Sの搬送を行う。また、搬送ロボットRRxは、マスク室MSx1と成膜室EVx1及びEVx2との間でマスクMの搬送、及び、マスク室MSx2と成膜室EVx3及びEVx4との間でマスクMの搬送を行う。搬送ロボットRRxや搬送ロボットRCxを構成するロボットハンドは、搬送制御部に格納されたプログラムに従って、それぞれが所定の動作を行うように構成されている。所定の動作は、複数の基板Sに対して、複数の成膜室やユニットにおいて順次に、或いは、同時並行的に成膜処理を行う際に、複数の基板Sが効率的に搬送されるように設定される。なお、搬送経路上における基板Sの位置は、例えば、多関節アームのしなり具合の変動などに起因するロボットハンドの動作の誤差によって、理想的な搬送位置からずれてくる場合がある。このような場合には、ロボットハンドの動作を制御するプログラムを必要に応じて修正して、ロボットハンドの動作を微調整すればよい。
【0020】
マスク室MSx1~MSx2は、成膜処理に用いられるマスクM、及び、成膜処理に用いられたマスクMのそれぞれを収容するマスクストッカが設けられた室である。マスク室MSx1には、例えば、成膜室EVx1及びEVx3で用いられるマスクMが収容され、マスク室MSx2には、例えば、成膜室EVx2及びEVx4で用いられるマスクMが収容されている。マスクMとしては、例えば、多数の開口が形成されたメタルマスクが用いられる。
【0021】
成膜室EVx1~EVx4は、基板Sの成膜面S1に蒸着物質を蒸着(付着)させて膜(材料層)を形成する処理、即ち、成膜処理(蒸着処理)を行うための室である。本実施形態において、成膜室EVx1と成膜室EVx3とは、同一の機能を有する室(同一の成膜処理を実施可能な室)であり、成膜室EVx2と成膜室EVx4とは、同一の機能を有する室である。これにより、成膜室EVx1から成膜室EVx2の第1ルートでの成膜処理と、成膜室EVx3から成膜室EVx4の第2ルートでの成膜処理とを並列に実施することができる。
【0022】
連結室CNxは、ユニットCUxとユニットCUx+1とを連結(接続)し、ユニットCUxで成膜処理が行われた基板Sを後段のユニットCUx+1に受け渡す機能を有している。本実施形態において、連結室CNxは、上流側から順に、バッファ室BCx、旋回室TCx及びパス室PSxで構成される。このような連結室CNxの構成は、成膜装置の生産性やユーザビリティの観点で有利となる。但し、連結室CNxは、このような構成に限定されるものではなく、バッファ室BCx又はパス室PSxのみで連結室CNxが構成されていてもよい。
【0023】
バッファ室BCxは、ユニットCUxに設けられた搬送ロボットRRxと、連結室CNxに設けられた搬送ロボットRCxとの間で、基板Sの搬送(受け渡し)を行うための室である。バッファ室BCxは、ユニットCUxと後段のユニットCUx+1の間に処理速度の差がある場合、又は、下流側のトラブルの影響で基板Sを搬送することができない場合などにおいて、複数の基板Sを一時的に収容する。これにより、バッファ室BCxは、後段のユニットCUx+1に対する基板Sの搬入速度や搬入タイミングを調整する機能を実現する。このような機能を有するバッファ室BCxを連結室CNxに設けることで、高い生産性を実現しながら、種々の層構成の積層成膜に対応可能な高い柔軟性を実現することができる。例えば、バッファ室BCxには、複数の基板Sを、基板Sの成膜面S1が重力の方向(-Z方向(下方向))を向いた水平状態を維持したまま収容可能な多段構造を有する基板収容棚(「カセット」とも称される)が設けられていてもよい。また、バッファ室BCxには、基板Sを搬入又は搬出する段を搬送位置に整合させるために基板収容棚を昇降させる昇降機構が更に設けられていてもよい。
【0024】
旋回室TCxは、基板Sの向きを180度回転させるための室である。旋回室TCxには、バッファ室BCxからパス室PSxに基板Sを搬送する(受け渡す)ための搬送ロボットRCxが設けられている。ここで、基板Sの上流側の端部を「後端」と称し、下流側の端部を「前端」と称するものとする。搬送ロボットRCxは、バッファ室BCxで受け取った基板Sを保持した状態で180度旋回してパス室PSxに引き渡すことで、バッファ室BCxとパス室PSxとの間で基板Sの前端と後端が入れ替わるようにする。これにより、成膜室に対して基板Sを搬入する際の向きが、上流側のユニットCUxと下流側のユニットCUx+1とで同じ向きになるため、基板Sに対する成膜処理のスキャン方向やマスクMの向きを各ユニットCUxで一致させることができる。従って、各ユニットCUxにおいて、マスク室MSx1~MSx2にマスクMを設置する向きを揃えることが可能となり、マスクMの管理を簡易化してユーザビリティを高めることができる。
【0025】
パス室PSxは、連結室CNxに設けられた搬送ロボットRCxと、下流側のユニットCUx+1に設けられた搬送ロボットRRx+1との間で、基板Sの搬送(受け渡し)を行うための室(受渡室)である。本実施形態では、パス室PSxにおいて、基板Sのアライメント(位置合わせ)処理と、基板Sの成膜面S1に形成された膜の厚さ(膜厚)を計測する計測処理が行われる。従って、基板Sのアライメント処理を行うためのアライメント機構と、計測処理を行う膜厚計測部とは、同一のチャンバ(パス室PSx)に設けられている。
【0026】
成膜室EVx1~EVx4と、マスク室MSx1~MSx2と、搬送室TRxと、バッファ室BCxと、旋回室TCxと、パス室PSxとの間には、開閉可能な扉(ドアバルブ又はゲートバルブ)が設けられていてもよいし、常に開放されていてもよい。
【0027】
図2は、成膜室EVx1~EVx4に設けられる成膜装置200の構成を模式的に示す図である。成膜装置200は、蒸着源から放出される蒸着物質を基板Sの成膜面S1に蒸着物質を蒸着させて膜を形成する成膜処理を行う真空蒸着装置として具現化される。成膜装置200は、基板Sに対して、マスクMを介して、所定のパターンの蒸着物質の薄膜を形成することが可能である。基板Sは、本実施形態では、矩形形状を有する。基板Sの材質としては、ガラス、樹脂、金属などを適宜選択可能であり、特に、ガラス上にポリイミドなどの樹脂層が形成されたものが好適である。蒸着物質としては、有機材料や無機材料(例えば、金属、金属酸化物)などが用いられる。
【0028】
成膜装置200は、
図2に示すように、マスクMを保持するマスク保持部201と、基板Sを保持する基板保持部202と、蒸着源ユニット203と、移動機構204と、成膜レートモニタ205と、成膜制御部206と、を有する。マスク保持部201、基板保持部202、蒸着源ユニット203、移動機構204及び成膜レートモニタ205は、真空チャンバ207に収容されている。成膜装置200は、マスク保持部201及び基板保持部202の少なくとも一方を移動させ、マスク保持部201に保持されたマスクMと基板保持部202に保持された基板Sのアライメント処理を行うアライメント機構(不図示)を更に有する。
【0029】
基板保持部202は、基板Sの膜が形成される成膜面S1(第1面)が重力の方向(-Z方向(下方向))を向くように、基板Sを保持する。基板保持部202は、本実施形態では、静電気力により基板Sを吸着する静電チャック(第2静電チャック)として構成されている。基板保持部202に保持された基板Sは、マスク保持部201によって水平状態に保持されているマスクMの上面に、成膜面S1を下にして載置される。但し、基板SとマスクMとが十分に密着する構成であれば、基板SをマスクMの上面に載置しなくてもよい。また、基板Sの成膜面S1とは反対側の裏面S2(第2面)に近接させて磁石(不図示)を配置し、かかる磁石の磁力によって、マスクM(のマスク箔)を基板Sに引き付けることで、基板SへのマスクMの密着性を高めてもよい。
【0030】
マスクMの下方には、蒸着源ユニット203が設けられている。蒸着源ユニット203は、例えば、蒸着物質を収容する容器(坩堝)や容器に収容された蒸着材料を加熱するヒータなどを含む。また、蒸着源ユニット203は、必要に応じて、容器に収容された蒸着材料に対する加熱効率を高めるためのリフレクタ、伝熱部材、シャッタなどを更に含む。
【0031】
移動機構204は、蒸着源ユニット203を支持して、基板Sの成膜面S1に平行な方向(Y方向)に移動(スキャン)させるユニットである。移動機構204は、本実施形態では、1軸の移動機構として構成されているが、2軸以上の移動機構として構成されてもよい。
【0032】
また、本実施形態では、
図2に示すように、蒸着源ユニット203を1つとしているが、複数の蒸着源ユニット(蒸着物質を収容する容器)を並べて配置し、それらを一体として移動させる構成としてもよい。かかる構成によれば、蒸着源ユニット(容器)ごとに異なる蒸着物資を収容して放出させることができるため、基板Sの成膜面S1に混合膜や積層膜を形成することができる。
【0033】
成膜レートモニタ205は、基板Sの成膜面S1に形成(成膜)される薄膜の成膜速度をモニタするためのセンサである。成膜レートモニタ205は、例えば、水晶発振式成膜レートモニタで構成され、蒸着源ユニット203とともに移動する水晶振動子を含む。成膜レートモニタ205は、蒸着源ユニット203から放出された蒸着物質が水晶振動子の表面に堆積すること(質量が付与されこと)による共振周波数(固有振動数)の変化量に基づいて、成膜レート(蒸着レート)を推定する。成膜レートは、単位時間あたりに基板Sに付着する蒸着物質の付着量[Å/s]である。
【0034】
成膜制御部206は、成膜装置200の各構成要素(の動作)を制御する。成膜制御部206は、例えば、CPUに代表されるプロセッサ、RAM、ROMなどのメモリ及び各種インタフェースを含むコンピュータ(情報処理装置)で構成される。成膜制御部206は、ROMに記憶されたプログラムをRAMに読み出して実行することで、成膜装置200における各種の動作や処理を実現する。
【0035】
成膜制御部206は、成膜レートモニタ205で推定された成膜レート[Å/s]や膜厚計測部310で計測された膜の厚さ(膜厚)に基づいて、基板Sの成膜面S1に形成される膜の厚さが目標値になるように、成膜時間[s]を調整(制御)する。成膜時間の調整は、移動機構204による蒸着源ユニット203の移動速度(スキャン速度)を変更することにより行われる。但し、蒸着源ユニット203におけるヒータ温度やシャッタ開度などを変更することで、蒸着材料の放出量(蒸発量)を調整(制御)して、基板Sの成膜面S1に形成される膜の厚さが目標値になるようにしてもよい。また、成膜制御部206は、成膜時間の調整と放出量の調整とを組み合わせて、基板Sの成膜面S1に形成される膜の厚さが目標値になるようにしてもよい。換言すれば、成膜制御部206は、蒸着源ユニット203のスキャン速度、ヒータ温度及びシャッタ開度のうちの少なくとも1つを調整(制御)することで、基板Sの成膜面S1に形成される膜の厚さを目標値にする。
【0036】
図3は、パス室PSxの構成を模式的に示す図であって、
図1に示すA-A断面に対応する。パス室PSxには、上述したように、基板Sのアライメント処理を行うためのアライメント機構が設けられている。搬送室TRxや旋回室TCxを経てパス室PSxに搬送される基板Sは、基板Sの搬送に用いたロボットの位置精度などに起因したばらつき(位置ずれ)を有している。本実施形態では、パス室PSxに設けられたアライメント機構によって、基板Sの位置ずれを低減(抑制)することができる。アライメント機構は、真空チャンバ300に設けられた基板保持部301をX方向、Y方向及びθ方向(Z軸周りの回転方向)に駆動するための駆動部302と、カメラ305と、アライメント制御部306と、を含む。カメラ305は、真空チャンバ300の下部(底面)に設けられた窓303を介して、基板S(のアライメントマーク304)を撮像して画像データを取得する。アライメント制御部306は、カメラ305で取得された画像データに基づいて、真空チャンバ300に配置された基板Sの位置情報(位置ずれ)を求める。また、アライメント制御部306は、基板Sの位置情報に基づいて、駆動部302を介して基板Sを移動させる。
【0037】
基板保持部301は、
図3に示すように、基材3011(本体部材)と、保持部3012と、を含み、基板Sの成膜面S1が重力の方向(-Z方向(下方向))を向くように、基板Sを保持する。基材3011は、平面視で矩形形状を有し、保持部3012を支持する。保持部3012は、基板Sを、基板Sの成膜面S1とは反対側の裏面S2で保持する保持面3012A(第1保持面)を含む部材である。保持部3012は、本実施形態では、静電気力により基板Sを吸着する静電チャック(第1静電チャック)として構成されている。
【0038】
旋回室TCxに設けられた搬送ロボットRCxによって基板Sが基板保持部301に保持されると、カメラ305によって基板Sのアライメントマーク304を撮像して画像データを取得する。アライメント制御部306は、カメラ305で取得された画像データからアライメントマーク304の位置及び傾きを検知することで、基板Sの位置ずれ量及び回転ずれ量を求める。そして、アライメント制御部306は、駆動部302を制御して、基板Sの位置ずれ量及び回転ずれ量が低減するように基板Sを移動させることで、基板Sのアライメント処理を行う。
【0039】
ここで、成膜室EVx1~EVx4で基板Sに対して成膜処理を行う際には、基板SとマスクMとを高精度にアライメントする必要がある。従って、成膜室EVx1~EVx4では、基板Sに対して、ファインアライメントと称される超高精度なアライメント処理が行われる。本実施形態では、上述したように、パス室PSxにおいて基板Sのアライメント(ラフアライメント)を事前に行うことで、後段のユニットCUx+1の成膜室に基板Sを搬送した際の初期の位置ずれを抑えている。これにより、成膜室で行われるファインアライメントに要する時間を短縮することができる。
【0040】
図4は、基板Sに設けられるアライメントマーク304の一例を示す図である。アライメントマーク304は、例えば、基板Sの後端側の2つのコーナーのそれぞれに設けられる。但し、アライメントマーク304は、基板Sの前端側のコーナーに設けてもよいし、対角の2つのコーナー又は4つのコーナーに設けてもよいし、基板Sのコーナーではなく、基板Sのエッジに沿った位置に設けてもよい。また、アライメントマーク304の数は、限定されるものではなく、任意である。なお、基板Sに設けられたアライメントマーク304の代わりに、基板Sのエッジやコーナーを検知することで、基板Sの位置ずれ量及び回転ずれ量を求めることも可能である。
【0041】
また、パス室PSxには、基板Sの成膜面S1に形成された膜の厚さ(膜厚)を計測する計測処理を行うための膜厚計測部310も設けられている。本実施形態では、
図3に示すように、膜厚計測部310を1つとしているが、複数の膜厚計測部310を設けてもよい。複数の膜厚計測部310により複数の箇所の膜厚を一度に計測することで、基板面内における膜厚のばらつきを評価したり、複数の成膜室で形成された複数の膜をまとめて評価したりすることが可能となる。
【0042】
膜厚計測部310は、本実施形態では、光学センサを用いて基板Sの表面の反射率を検出することで、基板Sに形成された膜の厚さを計測する。膜厚計測部310は、例えば、
図3に示すように、膜厚評価ユニット311と、センサヘッド312と、センサヘッド312と膜厚評価ユニット311とを接続する光ファイバ313と、を含む。センサヘッド312は、真空チャンバ300に設けられた基板保持部301の下方に配置され、真空チャンバ300の下部(底面)に取り付けられた真空フランジ314を介して光ファイバ313に接続されている。センサヘッド312は、光ファイバ313を経由して導かれた光の照射エリアを所定のエリアに設定する機能を有し、光ファイバ及びピンホールやレンズなどの光学部品を用いて構成されている。
【0043】
図5は、膜厚計測部310による計測処理の原理を説明するための図である。膜厚評価ユニット311は、光源320と、分光器321と、計測制御部322と、を含む。光源320は、例えば、重水素ランプ、キセノンランプ又はハロゲンランプなどを含み、200nmから1μmの範囲の波長を有する計測光を出力するデバイスである。分光器321は、センサヘッド312から入力される、基板S(に形成された膜)からの反射光を分光してスペクトル(波長ごとの強度)を検出するデバイスである。分光器321は、例えば、分光素子(グレーティング、プリズムなど)や光電変換を行うディテクタなどで構成される。計測制御部322は、光源320の制御や分光器321で検出されたスペクトルに基づいて膜厚を求めるための演算などを行う。
【0044】
光源320から出力された計測光は、光ファイバ313を経由してセンサヘッド312に導かれ、センサヘッド312から基板Sに照射される。基板Sで反射された反射光(計測光)は、センサヘッド312から光ファイバ313を経由して分光器321に入力される。ここで、基板Sの成膜面S1に形成された膜の表面で反射した光と、かかる膜とその下地層との界面で反射した光とは、互いに干渉する。このように、基板Sの成膜面S1に形成された膜による干渉(及び吸収)の影響を受けることで、反射光のスペクトルは、光路長差、即ち、基板Sの成膜面S1に形成された膜の厚さ(膜厚)の影響を受ける。従って、計測制御部322において、分光器321で検出された反射光のスペクトルを解析することによって、基板Sの成膜面S1に形成された膜の厚さ(膜厚)を求めることができる。
【0045】
このような反射分光方式による膜厚の計測(評価)は、数nmから数100nmの厚さを有する有機膜に対しても短時間で、且つ、高精度に行うことが可能であるため、有機EL表示装置などの有機膜(有機層)にも有用である。ここで、有機膜の材料として、αNPD:α-ナフチルフェニルビフェニルジアミンなどの正孔輸送材料、Ir(ppy)3:イリジウム-フェニルピリミジン錯体などの発光材料が挙げられる。また、有機膜の材料として、Alq3:トリス(8-キノリノラト)アルミニウムやLiq:8-ヒドロキシキノリノラト-リチウム)などの電子輸送材料も挙げられる。なお、反射分光方式による膜厚の計測は、上述した材料の混合膜にも適用することができる。
【0046】
また、膜厚計測部310は、本実施形態では、
図4に示すように、膜厚計測領域330に形成された膜厚計測用の膜、即ち、計測用パッチ331の厚さ(膜厚)を計測する。基板S(の成膜面S1)には、表示パネルなどの電子デバイスが形成される素子形成領域340とは異なる位置、例えば、基板Sの前端部に膜厚計測領域330が設けられている。各成膜室において成膜処理を行う際に、素子形成領域340に対する成膜と並行して、膜厚計測領域330(の所定箇所)に対する成膜も行うことで、膜厚計測領域330に膜厚計測用の膜である計測用パッチ331が形成される。これは、各成膜室で用いられるマスクMに、計測用パッチ331を形成するための開孔を形成しておくことによって、容易に実現することができる。
【0047】
膜厚計測領域330は、複数の計測用パッチ331を形成可能な面積に設定され、膜厚の計測対象となる膜単位で計測用パッチ331の形成位置を変えるとよい。例えば、1つの成膜室で形成された膜(単一膜又は複数の膜が積層された積層膜)の厚さ(膜厚)を計測したい場合には、計測用パッチ331として、1つの成膜室で形成される膜(単一膜又は積層膜)のみを膜厚計測領域330に成膜する。また、複数の成膜室を経て形成された積層膜の厚さ(膜厚)を計測したい場合には、計測用パッチ331として、計測対象である積層膜と同一の積層膜を膜厚計測領域330に成膜する。このように、計測対象となる膜ごとに計測用パッチ331を異ならせる(形成する)ことによって、計測対象となる膜の厚さ(膜厚)を正確に計測することができる。
【0048】
ここで、上述したように、パス室PSxにおいて、基板保持部301で基板Sを保持した状態(
図3)において、基板Sに形成された膜の厚さを膜厚計測部310で計測する場合について考える。成膜処理が行われた基板Sは、重力の方向の側に、凸形状となる撓み形状を有していることがある。静電チェックの保持力(吸着力)は、静電チャックと保持対象(基板)との距離に依存する。静電チャックと基板との距離が広いと、基板を保持(吸着)する保持力が小さく、基板を保持することが難しくなる。撓み形状を有する基板Sを基板保持部301の保持部3012で保持すると、
図6に示すように、基板Sに対して十分な保持力(吸着力)を作用させることができない。このような場合、基板Sを保持部3012の保持面3012Aに倣わせるためには、基板Sの端から徐々に保持面3012Aに吸着させることが必要となり、時間を要してしまう。更に、基板Sを保持すること自体ができなくなる可能性もある。
図6は、撓みが生じた基板Sを基板保持部301(保持部3012)で保持している状態を示す図である。
【0049】
そこで、本実施形態では、
図7(A)及び
図7(B)に示すように、保持部3012において、重力の方向の側に凸形状となる撓み形状を有する基板Sに応じて、重力の方向の側に凸形状となる表面形状を有する保持面3012Aを規定する。例えば、保持部3012において、成膜室(成膜装置200)に設けられた基板保持部202に規定される保持面202A(第2保持面)よりも(即ち、保持面202Aと比較して)、基板Sの撓み形状に近い表面形状を有する保持面3012Aを規定する。より好ましくは、保持部3012において、基板Sが有する撓み形状に一致する表面形状を有する保持面3012Aを規定する。
このような表面形状を有する保持面3012Aを規定することで、
図7(A)及び
図7(B)に示すように、基板Sと静電チャック(保持面3012A)との距離が近くなり、基板Sに対して十分な保持力(吸着力)を作用させることが可能となる。これにより、基板Sが撓み形状を有していても、短時間で(素早く)、基板Sを保持面3012Aに倣わせることができる。従って、本実施形態では、パス室PSxにおいて、基板保持部301によって、基板Sを確実に低電圧で素早く保持することが可能となる。
図7(A)及び
図7(B)は、本実施形態における基板保持部301の構成を示す図である。
【0050】
保持部3012は、上述したように、静電気力により基板Sを吸着する静電チャックとして構成されている。具体的には、
図7(A)に示すように、保持部3012として機能する、静電気力により基板Sの裏面S2を吸着するチャック領域CR(静電チャック)を、保持面3012A(基材3011)の全面をカバーするように設けてもよい。また、
図7(B)に示すように、保持部3012として機能する、静電気力により基板Sの裏面S2を吸着する複数のチャック領域CRを、保持面3012Aにマトリクス状に設けてもよい。
【0051】
このように、本実施形態では、基板保持部301の保持部3012において、重力の方向の側に、凸形状となる表面形状を有する保持面3012Aを規定する。これにより、重力の方向の側に凸形状となる撓み形状を有する基板Sであっても、静電チャックに印加する電圧を高くすることなく、基板保持部301(保持部3012)で保持することが可能となる。従って、静電チャックに印加される高電圧によって、表示パネルなどの電子デバイスが形成される素子形成領域340がダメージを受けることもなく、また、除電するのに時間を要することもないため、タクト時間で有利となる。
【0052】
なお、基板Sに形成された膜の厚さを計測する計測処理においては、基板Sからの反射光を膜厚計測部310で検出(モニタ)することができればよい。従って、基板保持部301の保持部3012により規定される保持面3012Aは、基板Sの撓み形状に近い表面形状を有していてもよい。一方、成膜処理においては、基板Sに形成される膜の厚さの均一性が担保される範囲において、基板Sを保持する基板保持部202に代えて、基板保持部301を適用してもよい。換言すれば、基板保持部202に規定される保持面202Aを、基板Sに形成される膜の厚さの均一性が担保される範囲において、重力の方向の側に、凸形状となる表面形状を有するようにしてもよい。
【0053】
また、基板保持部301の保持部3012の保持面3012Aとして規定すべき表面形状、即ち、基板Sの撓み形状については、基板Sに膜を形成する成膜処理を予め試験的に行うことやシミュレーションなどにより求めることが可能である。基板Sの撓み形状は、基板Sに形成する膜の種類(材料)や厚さ、成膜条件、基板Sの種類や厚さなどに応じて異なるため、それぞれに応じて求める必要がある。
【0054】
各成膜室(成膜装置200)では、上述したように、成膜レートモニタ205を用いて形成される膜の厚さ(成膜レート)が目標値の成膜レートになるように制御されている。但し、成膜レートモニタ205は、基板Sに形成される膜の厚さを直接計測するものではなく、基板Sとは別の位置に配置された水晶振動子によって成膜レートを間接的に計測するものである。従って、水晶振動子に堆積する蒸着物質の堆積量や水晶振動子の温度などの様々な誤差要因によって、成膜レートモニタ205の水晶振動子に堆積する膜の膜厚と基板Sに堆積する膜の膜厚が異なる場合がある。また、成膜レートモニタ205で推定される成膜レート自体に誤差が生じる場合がある。このような場合、基板Sに形成される膜に膜厚のばらつきが生じ、品質の低下や歩留まりの低下につながることになる。
【0055】
そこで、本実施形態では、膜厚計測部310によって、基板S(膜厚計測領域330)に形成された計測用パッチ331の厚さを計測し、その計測結果に基づいて各成膜室における成膜条件を制御することで高精度な膜厚制御を実現する。ここで、成膜条件は、例えば、蒸着源ユニット203のスキャン速度、ヒータ温度及びシャッタ開度などを含む。成膜条件を制御する際には、成膜レートモニタ205で推定される成膜レートと、膜厚計測部310で得られる計測結果の両方を用いてもよい。水晶振動子に堆積する蒸着物質の堆積量を評価する成膜レートモニタ205と、基板Sに形成される膜の厚さを光学的に評価する膜厚計測部310とは、計測原理が異なるため、外乱や環境や成膜状態の変動などに対して得られる評価結果が異なる。このような異なる評価結果を組み合わせることで、より信頼性の高い膜厚制御が可能となる。
【0056】
図8は、成膜システム100における膜厚制御系の構成を模式的に示す図である。膜厚制御部350は、膜厚計測部310の計測結果に基づいて、各成膜室の成膜制御部206に対して、成膜条件を制御するための制御指令を送信する。成膜条件の制御は、フィードバック制御と、フィードフォワード制御と、に大別される。フィードバック制御は、膜厚制御部350が膜厚計測部310よりも上流側の成膜室における成膜条件を制御することで、後続の基板Ssに形成される膜の厚さ(膜厚)を調整する制御である。フィードフォワード制御は、膜厚制御部350が膜厚計測部310よりも下流側の成膜室における成膜条件を制御することで、後続の成膜処理により基板Sに形成される膜の厚さ(膜厚)を調整する制御である。膜厚制御部350は、フィードバック制御及びフィードフォワード制御のうち、一方の制御のみを実施してもよいし、両方の制御を実施してもよい。また、成膜室ごと又はユニットごとに、フィードバック制御を実施するのか、或いは、フィードフォワード制御を実施するのかを設定してもよい。
【0057】
次に、本実施形態における成膜装置200(を有する成膜システム100)を用いて、電子デバイスを製造する製造方法について説明する。ここでは、電子デバイスとして、有機EL表示装置を例に説明する。
【0058】
まず、有機EL表示装置について説明する。
図9(A)は、有機EL表示装置50の全体的な構成を示す図である。
図9(B)は、有機EL表示装置50の1つの画素の断面構造を示す図である。
【0059】
図9(A)に示すように、有機EL表示装置50は、複数の発光素子を含む画素52がマトリクス状に配置された表示領域51を有する。後述するように、複数の発光素子のそれぞれは、一対の電極に挟まれた有機層(有機膜)を備えた構造を有する。なお、本実施形態において、画素とは、表示領域51において所定の色の表示を可能とする最小単位を意味するものとする。例えば、有機EL表示装置50では、互いに異なる色の表示を可能とする第1発光素子52R、第2発光素子52G及び第3発光素子52Bの組み合わせによって、画素52が構成されている。画素52は、一般的には、赤色発光素子、緑色発光素子及び青色発光素子の組み合わせで構成されているが、これに限定されるものではない。例えば、黄色発光素子、シアン発光素子及び白色発光素子の組み合わせで構成されてもよく、少なくとも1色以上の発光素子で構成されていればよい。
【0060】
図9(B)は、
図9(A)に示すA-B線における部分断面図である。画素52は、基板53の上に、陽極54と、正孔輸送層55と、発光層56R、56G及び56Bのいずれかと、電子輸送層57と、陰極58と、を有する有機EL素子からなる。これらのうち、正孔輸送層55、発光層56R、56G及び56B、及び、電子輸送層57が有機層に相当する。また、本実施形態において、発光層56Rは、赤色を発する有機EL層であり、発光層56Gは、緑色を発する有機EL層であり、発光層56Bは、青色を発する有機EL層である。発光層56R、56G及び56Bは、それぞれ、赤色、緑色及び青色を発する発光素子(有機EL素子と記載する場合もある)に対応するパターンに形成されている。また、陽極54は、発光素子ごとに分離して形成されている。正孔輸送層55、電子輸送層57及び陰極58は、複数の発光層56R、56G及び56Bと共通で形成されていてもよいし、発光素子ごとに形成されていてもよい。なお、陽極54と陰極58とが異物によってショートすることを抑制するために、電極間には絶縁層59が設けられている。更に、有機EL層は、水分や酸素によって劣化するため、水分や酸素から有機EL素子を保護するための保護層PLが設けられている。
【0061】
図9(B)では、正孔輸送層55や電子輸送層57が1つの層として示されているが、有機EL素子の構造によって、正孔ブロック層や電子ブロック層を含む複数の層で形成されていてもよい。また、陽極54と正孔輸送層55との間には、陽極54から正孔輸送層55への正孔の注入が円滑に行われるようにするためのエネルギーバンド構造を有する正孔注入層が形成されていてもよい。同様に、陰極58と電子輸送層57との間には、電子注入層が形成されていてもよい。
【0062】
以下、有機EL表示装置の製造方法を説明する。
【0063】
まず、有機EL表示装置を駆動するための回路(不図示)及び陽極54が形成された基板53を準備する。
【0064】
次いで、陽極54が形成された基板53の上にアクリル樹脂をスピンコートで形成し、リソグラフィ法によって、アクリル樹脂の陽極54が形成された部分に開口が形成されるようにパターニングして絶縁層59を形成する。かかる開口は、発光素子が実際に発光する発光領域に相当する。
【0065】
絶縁層59がパターニングされた基板53を、成膜システム100の成膜装置200(第1成膜室)に搬入し、表示領域51の陽極54の上に、正孔輸送層55を共通する層として成膜する。正孔輸送層55は、例えば、真空蒸着によって成膜される。正孔輸送層55は、実際には、表示領域51よりも大きさサイズで形成されるため、高精細なマスクは不要である。
【0066】
次いで、正孔輸送層55までが形成された基板53を、成膜装置200(第2成膜室)に搬入する。基板53とマスクとのアライメントを行い、マスクを介して、基板53の赤色を発する発光素子を形成する部分に、赤色を発する発光層56Rを成膜する。
【0067】
発光層56Rの成膜と同様に、成膜装置200(第3成膜室)において、緑色を発する発光層56Gを成膜し、更に、成膜装置200(第4成膜室)において、青色を発する発光層56Bを成膜する。発光層56R、56G及び56Bを成膜したら、成膜装置200(第5成膜室)において、表示領域51の全体に電子輸送層57を成膜する。電子輸送層57は、3つの発光層56R、56G及び56Bに共通する層として形成される。
【0068】
次いで、電子輸送層57まで形成された基板53を、成膜装置200(第6成膜室)に搬入し、陰極58を成膜する。
【0069】
そして、陰極58まで形成された基板53を封止装置に搬入し、プラズマCVDによって保護層PLを成膜して(封止処理)、有機EL表示装置50が完成する。ここでは、保護層PLをCVD法によって形成しているが、これに限定されるものではない。例えば、ALD法やインクジェット法によって保護層PLを成膜してもよい。
【0070】
なお、絶縁層59がパターニングされた基板53を成膜装置200に搬入してから保護層PLを成膜するまでの間に、かかる基板53が水分や酸素を含む雰囲気に晒されると、有機EL材料からなる発光層が劣化してしまう可能性がある。従って、成膜装置間における基板53の搬入や搬出は、真空雰囲気下、或いは、不活性ガス雰囲気下で行われることが好ましい。
【0071】
発明は上記実施形態に制限されるものではなく、発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、発明の範囲を公にするために請求項を添付する。
【符号の説明】
【0072】
CU1、CU2、CU3:クラスタ型ユニット EV11~EV14、EV21~EV24、EV31~EV34:成膜室 RR1、RR2、RR3:搬送ロボット CN1、CN2:連結室 PS1、PS2:パス室 S:基板 100:成膜システム 200:成膜装置 301:基板保持部 3012:保持部 3012A:保持面