(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024162835
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 23/00 20060101AFI20241114BHJP
C08L 67/04 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
C08L23/00
C08L67/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023078761
(22)【出願日】2023-05-11
(71)【出願人】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】521067751
【氏名又は名称】ニューライト テクノロジーズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(72)【発明者】
【氏名】千葉 俊輔
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002BB121
4J002CF182
4J002GA00
4J002GG00
4J002GL00
4J002GN00
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】高い剛性を有しつつ、成形体の表面に付与される樹脂膜の密着性に優れた、表面に樹脂膜が付与される成形体用の樹脂組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】表面に樹脂膜が付与される成形体用の樹脂組成物は、オレフィン系重合体Aと、ポリヒドロキシアルカノエート系重合体Bと、を含む。オレフィン系重合体A及びポリヒドロキシアルカノエート系重合体Bの合計100質量部に対して、オレフィン系重合体Aの含有量は51~99.9質量部であり、ポリヒドロキシアルカノエート系重合体Bの含有量は0.1~49質量部である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレフィン系重合体Aと、ポリヒドロキシアルカノエート系重合体Bと、を含み、
前記オレフィン系重合体A及び前記ポリヒドロキシアルカノエート系重合体Bの合計100質量部に対して、前記オレフィン系重合体Aの含有量は51~99.9質量部であり、前記ポリヒドロキシアルカノエート系重合体Bの含有量は0.1~49質量部である、表面に樹脂膜が付与される成形体用の樹脂組成物。
【請求項2】
前記オレフィン系重合体A及び前記ポリヒドロキシアルカノエート系重合体Bの合計100質量部に対して、前記オレフィン系重合体Aの含有量は60.1~99.9質量部であり、前記ポリヒドロキシアルカノエート系重合体Bの含有量が0.1~39.9質量部である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリヒドロキシアルカノエート系重合体Bがポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系重合体である、請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記重合体Aがプロピレン系重合体である請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の樹脂組成物の射出成形体。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の樹脂組成物の押出成形体。
【請求項7】
樹脂組成物成形体と、前記樹脂組成物成形体の表面上に設けられた樹脂膜とを備える、物品であって、
前記樹脂組成物成形体は、オレフィン系重合体Aと、ポリヒドロキシアルカノエート系重合体Bと、を含み、
前記オレフィン系重合体A及び前記ポリヒドロキシアルカノエート系重合体Bの合計100質量部に対して、前記オレフィン系重合体Aの含有量は51~99.9質量部であり、前記ポリヒドロキシアルカノエート系重合体Bの含有量は0.1~49質量部である、物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、生分解特性を有する樹脂成形体として、脂肪族ポリエステル系フィルムが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の脂肪族ポリエステル系フィルムにおいては、フィルム表面に付与される樹脂膜の密着性においてなお改善の余地があった。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みて成されたものであり、高い剛性を有しつつ、成形体の表面に付与される樹脂膜の密着性に優れた、表面に樹脂膜が付与される成形体用の樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1] オレフィン系重合体Aと、ポリヒドロキシアルカノエート系重合体Bと、を含み、
前記オレフィン系重合体A及び前記ポリヒドロキシアルカノエート系重合体Bの合計100質量部に対して、前記オレフィン系重合体Aの含有量は51~99.9質量部であり、前記ポリヒドロキシアルカノエート系重合体Bの含有量は0.1~49質量部である、表面に樹脂膜が付与される成形体用の樹脂組成物。
[2] 前記オレフィン系重合体A及び前記ポリヒドロキシアルカノエート系重合体Bの合計100質量部に対して、前記オレフィン系重合体Aの含有量は60.1~99.9質量部であり、前記ポリヒドロキシアルカノエート系重合体Bの含有量が0.1~39.9質量部である、[1]に記載の樹脂組成物。
[3] 前記ポリヒドロキシアルカノエート系重合体Bがポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系重合体である、[1]~[2]のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
[4] 前記重合体Aがプロピレン系重合体である[1]~[3]のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
[5] [1]~[4]のいずれか一項に記載の樹脂組成物の射出成形体。
[6] [1]~[4]のいずれか一項に記載の樹脂組成物の押出成形体。
[7] 樹脂組成物成形体と、前記樹脂組成物成形体の表面上に設けられた樹脂膜とを備える、物品であって、
前記樹脂組成物成形体は、オレフィン系重合体Aと、ポリヒドロキシアルカノエート系重合体Bと、を含み、
前記オレフィン系重合体A及び前記ポリヒドロキシアルカノエート系重合体Bの合計100質量部に対して、前記オレフィン系重合体Aの含有量は51~99.9質量部であり、前記ポリヒドロキシアルカノエート系重合体Bの含有量は0.1~49質量部である、物品。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、高い剛性を有しつつ、成形体の表面に付与される樹脂膜の密着性に優れた、表面に樹脂膜が付与される成形体用の樹脂組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】一実施形態にかかる、樹脂膜付与樹脂組成物成形体の模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明のいくつかの実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0010】
(表面に樹脂膜が付与される成形体用の樹脂組成物)
本発明にかかる樹脂組成物は、オレフィン系重合体Aと、ポリヒドロキシアルカノエート系重合体Bと、を含む。
【0011】
<オレフィン系重合体A>
オレフィン系重合体Aとは、炭素原子数2以上10以下のオレフィンに由来する構造単位を50質量%以上含有する重合体である(ただし、オレフィン系重合体の全量を100質量%とする)。炭素原子数2以上10以下のオレフィンの例は、エチレン、プロピレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセンである。
【0012】
オレフィン系重合体Aは、炭素原子数2以上10以下のオレフィン以外の単量体に由来する構造単位を含有していてもよい。炭素原子数2以上10以下のオレフィン以外の単量体の例は、スチレンなどの芳香族ビニル単量体;アクリル酸、メタクリル酸などの不飽和カルボン酸;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチルなどの不飽和カルボン酸エステル;酢酸ビニルなどのビニルエステル化合物;1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン(イソプレン)などの共役ジエン;及び、ジシクロペンタジエン、5-エチリデン-2-ノルボルネンなどの非共役ジエンである。
【0013】
オレフィン系重合体Aは、エチレン系重合体、プロピレン系重合体、及びブテン系重合体からなる群から選択される少なくとも1つであることができ、これらの内の任意の2種以上の組み合わせであってもよい。
【0014】
エチレン系重合体とは、エチレンに由来する構造単位を50質量%以上含有する重合体であり、その例は、エチレン単独重合体、エチレン-1-ブテン共重合体、エチレン-1-ヘキセン共重合体、エチレン-1-オクテン共重合体、及び、エチレン-1-ブテン-1-ヘキセン共重合体である。エチレン系重合体は、2以上のエチレン系重合体の組み合わせであってもよい。
【0015】
プロピレン系重合体とは、プロピレンに由来する構造単位を50質量%以上含有する重合体であり、その例は、プロピレン単独重合体、プロピレン-エチレン共重合体、プロピレン-1-ブテン共重合体、プロピレン-1-ヘキセン共重合体、プロピレン-1-オクテン共重合体、プロピレン-エチレン-1-ブテン共重合体、プロピレン-エチレン-1-ヘキセン共重合体、及び、プロピレン-エチレン-1-オクテン共重合体である。プロピレン系重合体は、2種以上のプロピレン系重合体の組み合わせであってもよい。オレフィン系重合体Aがプロピレン系重合体であることは好適である。
【0016】
ブテン系重合体とは、1-ブテンに由来する構造単位を50質量%以上含有する重合体であり、その例は、1-ブテン単独重合体、1-ブテン-エチレン共重合体、1-ブテン-プロピレン共重合体、1-ブテン-1-ヘキセン共重合体、1-ブテン-1-オクテン共重合体、1-ブテン-エチレン-プロピレン共重合体、1-ブテン-エチレン-1-ヘキセン共重合体、1-ブテン-エチレン-1-オクテン共重合体、1-ブテン-プロピレン-1-ヘキセン共重合体、及び、1-ブテン-プロピレン-1-オクテン共重合体である。ブテン系重合体は、2種以上のブテン系重合体の組み合わせであってもよい。
【0017】
上記のオレフィン系重合体Aは、公知の重合用触媒を用いた公知の重合方法を用いて製造することができる。
【0018】
JIS K7210-2014に従って温度230℃又は190℃、荷重2.16kgfの条件で測定されるオレフィン系重合体Aのメルトマスフローレート(MFR)は、好ましくは0.1g/10分以上200g/10分以下である。
【0019】
<ポリヒドロキシアルカノエート系重合体B>
ポリヒドロキシアルカノエート系重合体とは、ヒドロキシアルカン酸のポリエステルである。ヒドロキシアルカン酸の例は、2-ヒドロキシアルカン酸、3-ヒドロキシアルカン酸、4-ヒドロキシアルカン酸である。
【0020】
2-ヒドロキシアルカン酸の例は、グリコール酸、乳酸、2-ヒドロキシ酪酸である。2-ヒドロキシアルカン酸のポリエステル、すなわち、ポリ(2-ヒドロキシアルカノエート)系重合体の例は、ポリグリコール酸、及び、ポリ乳酸である。
【0021】
3-ヒドロキシアルカン酸の例は、3-ヒドロキシ酪酸、3-ヒドロキシプロピオン酸、3-ヒドロキシペンタン酸、3-ヒドロキシヘキサン酸である。3ヒドロキシアルカン酸のポリエステル、すなわち、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系重合体については、後で詳述する。
【0022】
4-ヒドロキシアルカン酸の例は、4-ヒドロキシ酪酸、4-ヒドロキシペンタン酸、4-ヒドロキシヘキサン酸である。
【0023】
ポリヒドロキシアルカノエート系重合体は、ヒドロキシアルカン酸の単独重合体でもよく、2種以上のヒドロキシアルカン酸の重合体でもよい。
【0024】
(ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系重合体)
ポリヒドロキシアルカノエート系重合体Bはポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系重合体であることができる。
【0025】
ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系重合体とは、ポリヒドロキシアルカノエートすなわちヒドロキシアルカン酸の重縮合体(ポリエステル)であって、かつ、(1)式で示される3-ヒドロキシアルカノエートの繰り返し単位を必ず含む。(1)式中、Rは水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~15のアルキル基、シアノ基、炭素原子数1~11のアミノ基、炭素原子数1~11のアルコキシ基(アルキルオキシ基)、炭素原子数2~20のアミド基、炭素原子数6~12のアリール基、又は、炭素原子数1~9の1価の複素環基である。これらの基は、置換基を有していてもよい。特に、組成物に含まれるポリヒドロキシアルカノエート系重合体B以外の成分(例えば、オレフィン系重合体A)との相溶性の観点から、Rは、炭素原子数1~8のアルキル基、炭素原子数1~20のアミド基、又は、炭素原子数6~8のアリール基が好ましい。
【0026】
[-O-CHR-CH2-CO-]…(1)
【0027】
ハロゲン原子の例は、F、Cl、Br、及びIである。
【0028】
炭素原子数1~15のアルキル基は直鎖状でも分岐状でもよい。アルキル基の炭素原子数は、1~8が好ましく、1~4がより好ましい。アルキル基の例は、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル墓、ペンチル基、イソペンチル基、2-メチルブチル基、1-メチルブチル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、3-メチルペンチル基、2-メチルペンチル基、1-メチルペンチル基、ヘプチル基、オクチル基、イソオクチル基、2-エチルヘキシル基、3,7-ジメチルオクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル墓である。
【0029】
炭素原子数1~18のアミノ基の例は、アミノ基、アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アリールアミノ基、アルキルアリールアミノ基、ベンジルアミノ基、ジベンジルアミノ基である。
【0030】
アルキルアミノ基の例は、メチルアミノ基、エチルアミノ基、プロピルアミノ基、ブチルアミノ基、ペンチルアミノ基、ヘキシルアミノ基、ヘプチルアミノ基、オクチルアミノ基、ノニルアミノ基、デシルアミノ基、ドデシルアミノ基、イソプロピルアミノ基、イソブチルアミノ基、イソペンチルアミノ基、sec-ブチルアミノ基、tert-ブチルアミノ基、sec-ペンチルアミノ基、tert-ペンチルアミノ基、tert-オクチルアミノ基、ネオペンチルアミノ基、シクロプロピルアミノ基、シクロブチルアミノ基、シクロペンチルアミノ基、シクロヘキシルアミノ基、シクロヘプチルアミノ基、シクロオクチルアミノ基、1-アダマンタミノ基、2-アダマンタミノ基である。
【0031】
ジアルキルアミノ基の例は、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジプロピルアミノ基、ジブチルアミノ基、ジペンチルアミノ基、ジイソプロピルアミノ基、ジイソブチルアミノ基、ジイソペンチルアミノ基、メチルエチルアミノ基、メチルプロピルアミノ基、メチルブチルアミノ基、メチルイソブチルアミノ基、ジシクロプロピルアミノ基、ピロリジノ基、ピペリジノ基、ピペラジノ基である。
【0032】
アリールアミノ基の例としては、アニリノ基、1-ナフチルアミノ基、2-ナフチルアミノ基、o-トルイジノ基、m-トルイジノ基、p-トルイジノ基、1-フルオレンアミノ基、2-フルオレンアミノ基、2-チアゾールアミノ基、p-ターフェニルアミノ基である。
【0033】
アルキルアリールアミノ基としては、N-メチルアニリノ基、N-エチルアニリノ基、N-プロピルアニリノ基、N-ブチルアニリノ基、N-イソプロピルアニリノ基、N-ペンチルアニリノ基である。
【0034】
炭素原子数1~11のアルコキシ基の例は、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基、シクロプロポキシ基、シクロブトキシ基、シクロペントキシ基である。
【0035】
「アミド基」とは、カルボン酸アミドから窒素原子に結合した水素原子1個を除いた基を意味する。炭素原子数1~20のアミド基の例は、ホルムアミド基、アセトアミド基、プロピオンアミド基、ブチルアミド基、ベンズアミド基、トリフルオロアセトアミド基、ペンタフルオロベンズアミド基等の-NH-C(=O)-RAで表される基(ただし、RAは、水素原子、又は、1価の有機基)、及び、ジホルムアミド基、ジアセトアミド基、ジプロピオアミド基、ジブチロアミド基、ジベンズアミド基、ジトリフルオロアセトアミド基、ジペンタフルオロベンズアミド基のように-N(-C(=O)-RA)(-C(=O)-RB)で表される基(ただし、RA
、RBはそれぞれ独立に、水素原子、又は、1価の有機基)である。有機基は、ハロゲン原子で置換されていてもよい、アルキル基、アルコキシ基、アリール基であることができる。なかでも、アミド基は、ホルムアミド基、アセトアミド基、プロピオンアミド基、ブチロアミド基、ベンズアミド基が好ましい。
【0036】
炭素原子数6~12のアリール基の例は、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、ビフェニル基であり、なかでも、フェニル基、トリル基、キシリル基がより好ましい。
【0037】
炭素原子数1~9の1価の複素環基のヘテロ原子の例は、N、O、及び、Sであり、飽和していても不飽和であってもよく、ヘテロ原子が単数であっても複数であっても異種のヘテロ原子を有していてもよい。このような複素環基の例は、チエニル基、ピロリル基、フリル基、ピリジル基、ピペリジニル基、キノリニル基、イソキノリニル基、ピリミジニル基、トリアジニル基、チアゾリル基が挙げられる。
【0038】
ポリヒドロキシアルカノエート系重合体Bの繰り返し単位は、1又は複数種の(1)式で示される3-ヒドロキシアルカノエートのみからなってもよく、1又は複数種の(1)式で示される3-ヒドロキシアルカノエート、及び、1又は複数種の他のヒドロキシアルカノエートを有してもよい。
【0039】
ポリヒドロキシアルカノエート系重合体Bは、(1)式で示される3-ヒドロキシルカノエートの繰り返し単位を、ヒドロキシアルカノエートの全繰り返し単位(100モル%)に対して50モル%以上含むものが好ましく、より好ましくは70モル%以上である。
【0040】
(1)式で示される3-ヒドロキシアルカノエートの例は、Rが水素原子またはCnH2n+1で表されるアルキル基であって、nは1~15の整数である場合、n=1である3-ヒドロキシブチレート(以降、3HBと記載することがある)、n=2である3-ヒドロキシバリレート(以降、3HVと記載することがある)、n=3である3-ヒドロキシヘキサノエート(以降、3HHと記載することがある)、n=5の3-ヒドロキシオクタネート、n=15である3-ヒドロキシオクタデカネート、Rが水素原子である3-ヒドロキシプロピオネートである。
【0041】
(1)式で表される1種の繰り返し単位のみを有する重合体Bの例は、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)(以降、P3HBと記載することがある)である。
【0042】
(1)式で表される複数種の繰り返し単位のみを有する重合体Bの例は、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート)(以下、P3HB3HHと記載することがある。)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシバリレート)(以下、P3HB3HVと記載することがある)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシプロピオネート(以下P3HB3HPと記載することがある)である。
【0043】
(1)式で示される3-ヒドロキシアルカノエート以外の他のヒドロキシアルカノエートの例は、(2)式で示される繰り返し単位(式中、R1は水素原子またはCnH2n+1で表されるアルキル基で、nは1以上15以下の整数であり、mは、2~10の整数である。)である。
【0044】
[-O-CHR1-CmH2m+1-CO-]…(2)
【0045】
(1)式および(2)式の繰り返し単位を含む重合体Bの例は、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-4-ヒドロキシブチレート)(例えば下式(P3HB4HB))である。
【0046】
融点を高くする観点から、ポリヒドロキシアルカノエート系重合体Bの繰り返し単位が、(1)式で示される3-ヒドロキシアルカノエートの中でも3-ヒドロキシブチレートを少なくとも含むことが好ましい。
【0047】
ポリヒドロキシアルカノエート系重合体Bは、3-ヒドロキシブチレートの繰り返し単位を、ヒドロキシアルカノエートの全繰り返し単位(100モル%)に対して50モル%以上含むものが好ましく、より好ましくは70モル%以上である。
【0048】
ポリヒドロキシアルカノエート系重合体Bは2種以上のエステルの繰り返し単位を有してもよく、例えば、上記のように2種の繰り返し単位を有するジ-ポリマー、3種の繰り返し単位を有するトリ-コポリマー、及び、4種の繰り返し単位を有するテトラ-コポリマーであってもよい。
【0049】
例えば、トリ-コポリマーの例は、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバリレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)(以下、(P3HB3HV3HH)と記載することがある。)である。
【0050】
上述のように、ポリヒドロキシアルカノエート系重合体Bは、(1)式で示される3-ヒドロキシアルカノエートの繰り返し単位の中でも3-ヒドロキシブチレートを含むことが好ましい。全ヒドロキシアルカノエートのエステル繰り返し単位100モルに対して、3-ヒドロキシブチレートの繰り返し単位の割合XXは、90モル%以上であることが好ましく、95モル%以上であることがより好ましく、98.0モル%以上であることが更に好ましい。
【0051】
割合XXは、通常、100モル%以下であり、99.9モル%以下であることが好ましく、99.8モル%以下であることが好ましい。
【0052】
コポリマーの配列の様式は、ランダム共重合体、交替共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体等のいずれの様式でもよい。
【0053】
ポリヒドロキシアルカノエート系重合体Bは、(1)式及び(2)式以外の他のエステル繰り返し単位を有してもよいが、当該他のエステル繰り返し単位の主鎖は芳香族炭化水素構造を含まない。すなわち、ポリヒドロキシアルカノエート系重合体Bは脂肪族ポリエステルである。ただし、当該他のエステル繰り返し単位の主鎖の炭素に芳香族炭化水素基を有する基が結合していることは可能である。
【0054】
ポリヒドロキシアルカノエート系重合体Bにおける繰り返し単位の構成比は、L.Tripathi.,M.C.Factories,11,44(2012)に記載されているように、1H-NMRや13C-NMR等のNMR測定結果から算出して求めることができる。
【0055】
また、ポリヒドロキシアルカノエート系重合体Bは、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系重合体の2種以上の重合体の混合物であってもよい。
【0056】
ポリヒドロキシアルカノエート系重合体Bの重量平均分子量(Mw)は、1万~100万であることができ、2万~80万であることが好ましく、より好ましくは3万~60万である。重量平均分子量(Mw)を1万以上とすることにより、衝撃強度及び引張伸びに優れた成形体を得ることが可能となる。また、重量平均分子量を50万以下にすることにより、オレフィン系重合体A中での分散性が良好となる。重量平均分子量は、40万以下でもよく、30万以下でもよく、20万以下でもよく、10万以下でもよい。なお本明細書において、重量平均分子量(Mw)は、GPCにより、標準ポリスチレンを分子量標準物質として用いて測定される。
【0057】
ポリヒドロキシアルカノエート系重合体Bは、熱可塑性樹脂であり、結晶性であってよい。
【0058】
JIS K7210-2014に従って、温度190℃又は170℃および荷重2.16kgfの条件で測定されるポリヒドロキシアルカノエート系重合体Bのメルトマスフローレート(MFR(B))は、好ましくは0.1g/10分以上、200g/10分以下である。MFR(B)は、1g/10分以上でもよく、3g/10分以上でもよく、5g/10分以上でもよく、7g/10分以上でもよく、8g/10分以上でもよく、10g/10分以上でもよく、20g/10分以上でもよい。MFR(B)は、150g/10分以下でもよく、100g/10分以下でもよい。
【0059】
ポリヒドロキシアルカノエート系重合体Bの融点(Tm)は150℃以上であることが好ましく、155℃以上、160℃以上、165℃以上、170℃以上、または、175℃以上であってもよい。重合体Bの融点(Tm)は、220℃以下であることができ、200℃以下であってもよく、190℃以下であってもよい。
【0060】
ポリヒドロキシアルカノエート系重合体Bの融点(Tm)は、JIS K7121に準拠した示差走査熱量計(DSC)測定により求められる結晶の融解に基づく主ピークの位置により測定される。
【0061】
ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系重合体は、微生物が生産したものであってもよいし、石油または植物原料から誘導された化合物(例えば環状ラクトンなど)由来のものであってもよい。
【0062】
ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系重合体は、微生物から生産されたもののようにヒドロキシアルカノエートの各繰り返し単位がD体(R体)のみからなってもよいが、D体(R体)及びL体(S体)の混合物から誘導されたもののようにヒドロキシアルカノエートの繰り返し単位がD体(R体)及びL体(S体)を両方含むものでもよい。
【0063】
微生物から生産されたポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系重合体において、(1)式の繰り返し単位は下式のように表すことができる。(BI-1)式中、nは重合度を表す。
【0064】
【0065】
そして、例えば、微生物から生産されたポリ-(3-ヒドロキシブチレート)は以下のような構造を有する。(BI-2)式中、nは重合度を表す。
【0066】
【0067】
また、微生物から生産されたポリ-(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート)は以下のような構造を有する。(BI-3)式中、m及びnは重合度を表す。
【0068】
【0069】
また、微生物から生産されたポリ-(3-ヒドロキシブチレート-co-4-ヒドロキシブチレート)は以下のような構造を有する。(BI-4)式中、m及びnは重合度を表す。
【0070】
【0071】
ポリヒドロキシアルカノエート系重合体Bは、生分解性を有することができる。
【0072】
例えば、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系重合体は、AlcaligeneseutrophusにAeromonascaviae由来のPHA合成酵素遺伝子を導入したAlcaligeneseutrophus AC32株(ブダペスト条約に基づく国際寄託、国際寄託当局:独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6)、原寄託日:平成8年8月12日、平成9年8月7日に移管、受託番号FERMBP-6038(原寄託FERMP-15786より移管))(J.Bacteriol.,179,4821(1997))等の微生物によって産生することができる。
【0073】
<樹脂組成物の組成>
樹脂組成物は、オレフィン系重合体A及びポリヒドロキシアルカノエート系重合体Bの合計100質量部に対して、オレフィン系重合体Aの含有量は51~99.9質量部であり、ポリヒドロキシアルカノエート系重合体Bの含有量は0.1~49質量部である、
【0074】
樹脂組成物が、オレフィン系重合体A及びポリヒドロキシアルカノエート系重合体Bの合計100質量部に対して、オレフィン系重合体Aの含有量が60.1~99.9質量部かつポリヒドロキシアルカノエート系重合体Bの含有量が0.1~39.9質量部であることができ、オレフィン系重合体Aの含有量が70~99.9質量部かつポリヒドロキシアルカノエート系重合体Bの含有量が0.1~30質量部であることができ、オレフィン系重合体Aの含有量が75~99.9質量部かつポリヒドロキシアルカノエート系重合体Bの含有量が0.1~25質量部であることができる。
【0075】
樹脂組成物が、オレフィン系重合体A及びポリヒドロキシアルカノエート系重合体Bの合計100質量部に対して、オレフィン系重合体Aの含有量が80~99.9質量部かつポリヒドロキシアルカノエート系重合体Bの含有量が0.1~20質量部、オレフィン系重合体Aの含有量が85~99.9質量部かつポリヒドロキシアルカノエート系重合体Bの含有量が0.1~15質量部、オレフィン系重合体Aの含有量が90~99.9質量部かつポリヒドロキシアルカノエート系重合体Bの含有量が0.1~10質量部であってもよい。
【0076】
樹脂組成物の全体に占める、オレフィン系重合体Aとポリヒドロキシアルカノエート系重合体Bの合計の割合は50質量%以上であることができ、60質量%以上であることが好適であり、70質量%以上であることがさらに好適である。
【0077】
樹脂組成物において、ポリヒドロキシアルカノエート系重合体Bが分散相を形成していてもよく、形成していなくてもよい。ポリヒドロキシアルカノエート系重合体Bが分散相を形成しているとは、樹脂組成物が、オレフィン系重合体Aを連続相(海部)とし、ポリヒドロキシアルカノエート系重合体Bを分散相(島部)とする海島構造を有しているということである。分散相(島部)の平均円相当径は、10nm~400μmであることができる。
【0078】
(添加剤)
樹脂組成物は、必要に応じて、添加剤を含んでもよい。添加剤としては、安定剤、防菌剤、防黴剤、分散剤、可塑剤、難燃剤、粘着付与剤、着色剤、金属粉末、有機粉末、無機繊維、有機繊維、有機及び無機の複合繊維、無機ウィスカー、及び、充填剤からなる群から選択される少なくとも一種であることができる。
【0079】
安定剤の例は、滑剤、老化防止剤、熱安定剤、耐光剤、耐候剤、金属不活性剤、紫外線吸収剤、光安定剤、及び、銅害防止剤からなる群から選択される少なくとも一種である。耐光剤の例はヒンダードアミン系耐光剤である。
【0080】
着色剤の例は、酸化チタン、カーボンブラック及び有機顔料からなる群から選択される少なくとも一種である。金属粉末の例はフェライトである。
【0081】
有機粉末の例はタンパク質である。無機繊維の例は、ガラス繊維及び金属繊維である。有機繊維の例は、炭素繊維及びアラミド繊維である。無機ウィスカーの例はチタン酸カリウムウィスカーである。
【0082】
充填剤の例は、ガラスビーズ、ガラスバルーン、ガラスフレーク、アスベスト、マイカ、炭酸カルシウム、タルク、シリカ、ケイ酸カルシウム、ハイドロタルサイト、カオリン、けい藻土、グラファイト、軽石、エボ粉、コットンフロック、コルク粉、硫酸バリウム、フッ素樹脂、セルロースパウダー、及び、木粉からなる群から選択される少なくとも一種である。
【0083】
樹脂組成物は、上記の添加剤を1種のみ含んでもよく、2種以上の組み合わせを含んでもよい。
【0084】
樹脂組成物において、添加剤は、オレフィン系重合体Aとポリヒドロキシアルカノエート系重合体Bのいずれに含まれていてよい。添加剤は、オレフィン系重合体Aの連続相中に、ポリヒドロキシアルカノエート系重合体Bとは別の分散相を形成していてもよい。
【0085】
(樹脂組成物の製造方法)
樹脂組成物は、オレフィン系重合体A、ポリヒドロキシアルカノエート系重合体B、及び、必要に応じて添加される添加剤を、溶融混練して得ることができる。混練温度(混練機の設定温度)を150~300℃とすることが好ましく、170℃~280℃とすることがより好ましい。また、オレフィン系重合体A及びポリヒドロキシアルカノエート系重合体Bの各一部を溶融混練して予備混練物を得て、続いて、オレフィン系重合体Aとポリヒドロキシアルカノエート系重合体Bの残りを予備混練物に加えてさらに溶融混練して組成物を得ることもできる。
【0086】
(樹脂組成物の属性及び用途)
本実施形態に係る樹脂組成物は、得られる成形体の剛性が高い上に、成形後に成形体の表面に樹脂膜を付与した際に、成形体と樹脂膜との密着性に優れる。
その理由は明らかではないが、本実施形態に係る樹脂組成物は、ポリヒドロキシアルカノエート系重合体Bを適切な量含むことに起因すると考えられる。
【0087】
本実施形態の樹脂組成物の用途は、表面に樹脂膜が付与される成形体用である。
【0088】
(樹脂組成物の成形体)
上記の樹脂組成物を用いて、公知の方法で成形体を得ることができる。
【0089】
具体的には、得られた樹脂組成物を、射出成形法、押出成形法、真空成形法、圧空成形法、プレス成形法、発泡成形法、ブロー成形法、回転成形法などの公知の樹脂の成形方法を用いて、所要の形状を有する成形体を得ることができる。
【0090】
成形体の表面に付与される樹脂膜の密着性、すなわち、塗装性・印刷性の観点から、成形方法として、射出成形法、押出成形法、ブロー成形法、回転成形法が好ましく、より好ましくは、射出成形法、押出成形法であり、射出成形体、押出成形体を得ることが出来る。押出成形法によれば、フィルム、板、繊維などを形成することが出来る。
【0091】
成形体の表面に付与される樹脂膜の密着性、すなわち、塗装性・印刷性の観点から、本発明の組成物の成形体を得るための加熱成形加工時の最大せん断速度は1~10000sec-1が好ましく、より好ましくは10~5000sec-1、さらにより好ましくは15~3000sec-1である。
【0092】
また、上記の組成物を、他の樹脂、金属、紙、皮革等の他の材料と張り合わせ、多層構造体を得ることができる。
【0093】
本発明の組成物の成形体の表面には、表面処理を施してもよい。表面処理の方法としては、エンボス処理、コロナ放電処理、火炎処理、プラズマ処理、オゾン処理等の方法が挙げられる。
【0094】
樹脂組成物の成形体の形状は特に限定されず、例えば、板,フィルム,維維,布,不織布,容器,管等を挙げることができ、また、射出成形などにより任意の複雑形状の成形体を製造することができる。
【0095】
(樹脂組成物成形体と、樹脂膜と、を備える物品)
図1に示すように、樹脂組成物成形体10の表面の少なくとも一部に対して、塗料による塗装またはインキによる印刷等の樹脂膜の付与を行うことにより、樹脂組成物成形体10と、樹脂組成物成形体10の表面の少なくとも一部に塗膜又はインキ膜などの樹脂膜20が付与された、樹脂膜付与樹脂組成物成形体(物品)100が得られる。
樹脂膜20の厚みに特に限定はないが、0.01~100μmとすることができる。
【0096】
樹脂膜20は、樹脂を含有する膜を含む。樹脂膜20は、樹脂組成物成形体10の表面と接触するプライマー層22を有することが好適である。
【0097】
プライマー層22の材料に特に限定はないが、例えば、塩素化ポリエチレン及び塩素化ポリプロピレンなどの塩素化ポリオレフィン樹脂、ポリエチレン樹脂及び塩素化ポリオレフィン樹脂等をマレイン酸で変性したマレイン化ポリオレフィン樹脂を含むことができる。
【0098】
樹脂膜20は、プライマー層22の上に、上塗層23を有することが好適である。上塗層23は単層でもよく、複数の層を有していてもよい。例えば、上塗層23は、プライマー層22側から順に、
図1に示すように、ベース層24、および、クリア層26を含んでいてよく、このような上塗層の構成は塗膜と呼ばれることがある。
【0099】
ベース層24の材料に特に限定はないが、例えば、メタクリル酸エチル系樹脂、メタクリル酸メチル系樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、エステル系樹脂、オレフィン系樹脂、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂、スチレン系樹脂、メラミン系樹脂などの樹脂;アルミニウムなどの金属粒子およびマイカなどの鉱物粒子などの顔料;および各種添加剤を含むことができる。
【0100】
クリア層26の材料に特に限定はないが、例えば、メタクリル酸エチル系樹脂、メタクリル酸メチル系樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、エステル系樹脂、オレフィン系樹脂、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂、スチレン系樹脂、メラミン系樹脂などの樹脂;および、各種添加剤を含むことができる。
【0101】
このような樹脂膜付与樹脂組成物成形体を得るには、上記の樹脂組成物成形体の表面に、プライマー層形成液(プライマー用樹脂が溶媒(トルエン、イソプロピルアルコールなど)に溶解/分散した液体)を塗布して乾燥させ、次に、プライマー層上にベース層形成用塗料を塗布して乾燥させ、次に、ベース層上にクリア層形成用塗料を塗布して乾燥させることで、製造できる。
【0102】
上塗層23がベース層24及びクリア層26を有する場合、ベース層24が複数あってもよく、クリア層26が複数あってもよい。また、上塗層23は、ベース層24及びクリア層26の内のいずれか一方のみを有していてもよい。
【0103】
上塗層23のベース層24は、樹脂、ならびに、染料及び顔料から成る群から選択される着色材を含むことができ、このようなベース層24はインキ膜と呼ばれることがある。上塗層23は、樹脂及び着色剤を含むベース層24を単数含んでもよく、複数含んでいてもよく、クリア層26を有しても有さなくてもよい。
【0104】
樹脂及び着色材を含むベース層の樹脂の例は、メタクリル酸エチル系樹脂、メタクリル酸メチル系樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、エステル系樹脂、オレフィン系樹脂、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂、スチレン系樹脂、メラミン系樹脂である。
【0105】
染料及び顔料の例は、カーボンブラック、亜鉛華、鉛白、リトポン、二酸化チタン、沈降性硫酸バリウムおよびバライト粉、鉛丹、酸化鉄赤、黄鉛、亜鉛黄1種、亜鉛黄2種、ウルトラマリン青、フェロシアン化鉄カリ、YInMnブルー、有機顔料、多環顔料、アゾ顔料、レーキ顔料、蛍光顔料である。
【0106】
染料の例は、酸性染料、塩基性染料、直接染料、硫化染料、建染染料、ナフトール染料、反応染料、分散染料などが挙げられ、従来カラーフィルタ用途として公知の染料などから選択できる。染料としては、例えば、特開昭64-90403号公報、特開昭64-91102号公報、特開平1-94301号公報、特開平6-11614号公報、特登2592207号、米国特許第4,808,501号明細書、米国特許第5,667,920号明細書、米国特許第5,059,500号明細書、特開平5-333207号公報、特開平6-35183号公報、特開平6-51115号公報、特開平6-194828号公報等に記載の色素が挙げられる。染料の化学構造としては、ピラゾールアゾ系、アニリノアゾ系、アリールアゾ系、ピラゾロトリアゾールアゾ系、ピリドンアゾ系、トリフェニルメタン系、アントラキノン系、アンスラピリドン系、ベンジリデン系、オキソノール系、シアニン系、ポリメチン系、フェノチアジン系、ピロロピラゾールアゾメチン系、キサンテン系、フタロシアニン系、キノフタロン系、ベンゾピラン系、インジゴ系、ジオキサジン系、クマリン系、スクアリリウム系、が挙げられ、好ましくはピラゾールアゾ系、アニリノアゾ系、ピラゾロトリアゾールアゾ系、ピリドンアゾ系、アントラキノン系、アンスラピリドン系、フタロシアニン系、ジオキサジン系、キノフタロン系、キサンテン系が挙げられ、より好ましくはピラゾールアゾ系、ピリドンアゾ系、フタロシアニン系、キノフタロン系、キサンテン系などである。
【0107】
このような樹脂膜20は、樹脂組成物成形体の表面に、プライマー層形成液(プライマー用樹脂が溶媒(トルエン、イソプロピルアルコールなど)に溶解/分散した液体)を塗布して乾燥させ、次に、プライマー層上に、樹脂、着色剤及び溶媒を含有するインキ原料を印刷し、乾燥させることにより得ることが出来る。
【0108】
樹脂膜20の厚みに特に限定はないが、0.01~100μmとすることができる。プライマー層22の厚みは0.001~50μmであってよい。
【0109】
(樹脂組成物成形体の表面状態)
上述の樹脂組成物の成形体は、以下の要件(i)~(vi)の少なくとも1つを満たすことができる。
【0110】
(i):X線光電子分光法によって求められる樹脂組成物成形体の表面の酸素原子量が0.01atom%以上8.5atom%以下である。当該酸素原子量は、0.05atom%以上でもよく、0.10atom%以上でもよく、0.20atom%以上でもよい。当該酸素原子量は、8.0atom%以下でもよく、5.0atom%以下でもよく、3atom%以下でもよく、2.0atom%以下でもよく、1.0atom%以下でもよい。
【0111】
(ii):樹脂組成物成形体の表面のぬれ張力が25mN/m以上45mN/m以下である。本明細書においてぬれ張力とは、JIS K6768 1999に規定されるぬれ張力である。このぬれ張力は、27mN/m以上であってよく、29mN/m以上であってよく、30mN/m以上であってよい。ぬれ張力は、40mN/m以下であってよく、37mN/m以下であってよい。
【0112】
要件(i)及び/又は要件(ii)を満たす場合、表面の酸素原子量、及び/又は、表面のぬれ張力が適切であることで、より一層、高い剛性を有しつつ、樹脂組成物成形体の表面に付与される樹脂膜の密着性を高くできる。
【0113】
その理由は明らかではないが、以下の理由が考えられる。
表面の酸素原子量が少なすぎると、プライマー層厚みが低下し、樹脂膜との密着性が低下する。表面の酸素原子量が多すぎると、樹脂組成物成形体表面の強度が低下しやすい。
【0114】
表面のぬれ張力が高すぎると、プライマー層厚みが低下し、樹脂膜との密着性が低下する。表面のぬれ張力が低すぎると、プライマー層の厚みの均一性が低下しやすく、樹脂膜の密着均一性が低下しやすい。
【0115】
(iii):赤外分光光度計によって求められる樹脂組成物成形体の表面の赤外吸収スペクトルにおける、C-H結合の伸縮振動のピーク強度RCHに対するC=O結合の伸縮振動のピーク強度RCOの比RCO/RCHが0.05以上である。この比RCO/RCHは、0.07以上であってよく、0.10以上であってよく、0.12以上であってよい。この比RCO/RCHの上限は特にないが、1.0以下であってよく、0.8以下であってよく、0.5以下であってよい。
【0116】
ピーク強度RCOは、2700~3000cm-1の範囲でベース補正した樹脂組成物成形体の表面のIR吸収スペクトルにおいて、2700~3000cm-1に観測されるピークの最大吸光度であり、カルボニルのC=O伸縮振動強度に対応する。
【0117】
ピーク強度RCHは、1600~1800cm-1の範囲でベース補正した樹脂組成物成形体の表面のIR吸収スペクトルにおいて、1600~1800cm-1に観測されるピークの最大吸光度であり、アルカンのC-H伸縮振動ピーク強度に対応する。
【0118】
樹脂組成物成形体の表面のIRスペクトルは、FTIR装置を用い、減衰全反射法[Attenuated Total Reflection(ATR)法]により取得できる。
【0119】
RCO/RCH比が0.05以上であることは、樹脂組成物成形体の表面にC=O結合がある程度以上存在することを意味する。O-H結合よりもC=O結合が、樹脂膜との密着性に寄与すると考えられ、(iii)式を満たすことによりより一層樹脂膜の密着性がより向上すると考えられる。
【0120】
(物品の用途)
本発明の物品の用途としては、繊維材、外構部材、家具及び室内装飾部材、家部材、玩具部材、園芸部材、自動車部材、包装材が挙げられる。繊維材として、例えば、衣料用ファブリック部材、インテリア用ファブリック部材、産業用繊維部材などが挙げられ、外構部材として、例えば、カーポート部材、フェンス部材、門扉部材、門柱部材、ポスト部材、サイクルポート部材、デッキ部材、サンルーム部材、屋根部材、テラス部材、手すり部材、シェード部材、オーニング部材などが挙げられ、家具及び室内装飾部材として、例えば、ソファ部材、テーブル部材、チェア部材、ベッド部材、タンス部材、キャブネット部材、ドレッサー部材などが挙げられ、家電部材として、例えば、時計用部材、携帯電話部材、白物家電部材、などが挙げられ、玩具部材として、例えば、プラモデル部材、ジオラマ部材、ビデオゲーム本体部材などが挙げられ、園芸部材として、例えば、プランター部材、花瓶部材、植木鉢用部材などが挙げられ、自動車部材として、例えば、バンパー材、インパネ材、エアバッグカバー材などが挙げられ、包装材としては、例えば、食品用包装材、繊維用包装材、雑貨用包装材などが挙げられる。さらに、その他の用途としては、例えば、モニター用部材、オフィスオートメーション(OA)用機器部材、医療用部材、排水パン、トイレタリー部材、ボトル、コンテナー、除雪用品部材、各種建築用部材などが挙げられる。
【実施例0121】
以下、本発明について実施例及び比較例を用いて説明する。実施例及び比較例で使用したオレフィン系重合体Aとポリヒドロキシアルカノエート系重合体Bを下記に示す。
【0122】
(1)オレフィン系重合体A
(A-1)プロピレン単独重合体
MFR(230℃、2.16kg荷重):20g/10分
融点(Tm):163℃
【0123】
(2)ポリヒドロキシアルカノエート系重合体B
(B-1)ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)
構造式:(BI-3)式
コモノマー(3HH)成分の含有量(モル%):0.2モル%
重量平均分子量(Mw):104000
MFR(190℃、2.16kg荷重):7.8g/10分
融点(Tm):175℃
【0124】
各重合体及び組成物の物性は下記に示した方法に従って測定した。
【0125】
(1)メルトマスフローレート(MFR、単位:g/10分)
JIS K7210-2014に規定された方法に従って測定した。測定温度は230℃又は190℃、荷重は2.16kgとした。
【0126】
(2)重量平均分子量(Mw)
重量平均分子量(Mw)を、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)の測定結果に基づき算出した。GPCの測定において、測定装置としてウォーターズ社製GPC-150Cを用い、ポリマー濃度0.05重量%のオルトジクロロベンゼン溶液を用い、カラムとして混合ポリスチレンゲルカラム(東ソー(株)社製PSKgelGMH6-HT)を使用し、測定温度を135℃とした。
【0127】
(3)重合体の融点(Tm)
JIS K7121に規定された方法に従って、測定した。測定温度は-50℃~200℃もしくは、-50℃~250℃で、昇温速度は10℃/分で測定した。
【0128】
(4)ポリヒドロキシアルカノエート系重合体Bのコモノマー成分の含有量
コモノマー成分の含有量は、重合体Bのヒドロキシアルカノエートの全エステル繰り返し単位の数に対する、3-ヒドロキシブチレート以外の他の繰り返し単位(3-ヒドロキシヘキサノエート(3HH)又は4-ヒドロキシブチレート(4HB))のモル比のことである。
【0129】
コモノマー成分の含有量は、L.Tripathi.,M.C.Factories,11,44(2012)に記載されている1H-NMRスペクトルを使用する方法で求めた。
〔測定条件〕
機種:Bruker AVANCE600
プローブ:10mmクライオプローブ
測定温度:135℃
パルス繰り返し時間:1秒
パルス幅:45°
積算回数:700回
磁場強度:600MHz
【0130】
(5)組成物のTgの測定
粘弾性装置(SIIナノテクノロジー社;DMS200)により、組成物の温度-貯蔵弾性率カーブを得て、ピークの数を数えた。
【0131】
(6)樹脂組成物成形体の表面の酸素原子量
樹脂組成物成形体の表面の酸素原子量の測定には島津製作所/KRATOS社製のX線光電子分光法装置、AXIS ULTRA DLDを用いた。測定時の装置内真空度は10-8~10-9torrの範囲とした。また、X線源は単色化したAl Kα(1486.6eV)を励起光とし、出力は管電流:10mA、管電圧:15kVとし、光電子取り出し角度0°とした。炭素1s準位の結合エネルギー(1486.6eV)に基づく帯電補正を行った後、Shirley法によりスペクトルのバックグラウンドを除去した。得られた炭素1sナロースペクトルに対し、Gauss-Lorentz複合関数(Lorentz関数の割合:30%)を用い、酸素原子成分にピーク分離を実施した。
〔測定条件〕
装置:X線光電子分光法装置(島津/KRATOS社製AXIS ULTRA DLD)
光源:単色化Al Kα(1486.6eV)
管電流:10mA
管電圧:15kV
装置内真空度:10-8~10-9toor
中和銃:使用
スポットサイズ:300μm×700μm
スキャンモード(元素):ナロー(C1s,O1s,P2p)
パスエネルギー:20eV
Step:0.1eV
Dwell time:260ms(C1s)、332(O1s)、426 (P2p)
積算回数:5回(C1s)、10回(O1s)、20回(P2p)
帯電補正:炭素1s準位の結合エネルギー(284.6eV)
バックグラウンド:Shirley法
【0132】
(7)比RCO/RCH
赤外分光光度計JASCO FT/IR 6200を用いて、以下に記載の測定手順で、樹脂組成物成形体の表面に対して減衰全反射法[Attenuated Total Reflection(ATR)法]による赤外分光スペクトル測定を行い、得られたIRスペクトルから、式XXXにより求めた。
〔測定条件〕
測定モード:ATR法
プリズム:ダイヤモンド
測定波長:600~4000cm-1
積算回数:64回
RCO/RCH=2700~3000cm-1の範囲でベース補正したIRスペクトルにおいて、2700~3000cm-1に観測されるピークの最大吸光度(カルボニルのC=O伸縮振動強度)/1600~1800cm-1の範囲でベース補正したIRスペクトルにおいて、1600~1800cm-1に観測されるピークの最大吸光度(アルカンのC-H伸縮振動ピーク強度) …XXX
【0133】
(9)ぬれ張力
ぬれ張力は、樹脂組成物成形体の表面に、各種ぬれ張力を有する濡れ試薬(ぬれ張力試験用混合液、和光純薬工業(株)製)を滴下し、その濡れ試薬を綿棒で広げ、試薬の広がりを目視観察することによって行った。具体的には、最初に、ぬれ張力が65mN/mのぬれ張力試験用混合液No.65.0を、成形体表面に滴下して綿棒で広げた。広げてから20秒経過後における試薬の状態を目視で観察した。試薬が弾かれていれば、1段階ずつ小さなぬれ張力を有するぬれ張力試験用混合液を用いて、試薬が弾かれなくなるまで、同様の手順で試験を繰り返した。弾かれなくなったときに用いた試薬のぬれ張力を、ぬれ張力の値とした。
【0134】
(10)初期密着
<塗装条件>
初期密着は、樹脂組成物成形体の表面に、低圧スプレーガン(アネスト岩田社製LPH101-S34)によりエア圧:0.1MPaの条件で、プライマー(関西ペイント社製プラスチックプライマー(NE))をスプレー塗装(乾燥膜6μm)し、60℃で3分間乾燥した。その後、スプレーガン(アネスト岩田製W101)で、水性ベース塗料(関西ペイント社製202サンメタリック)をエア圧:0.25MPaの条件で、スプレー塗装(乾燥膜厚10μm)し、60℃で3分間乾燥した。その上に、スプレーガン(アネスト岩田製W101)で、クリヤー塗料(関西ペイント社製HSクリヤーベース主剤と関西ペイント社製HSクリヤーG硬化剤と、関西ペイント社製シンナー30からなるもの)を、エア圧:0.15MPaの条件でスプレー塗装(乾燥膜厚15μm)した。その後、60℃で60分間乾燥し、複層樹脂膜を形成した。
【0135】
<評価条件>
塗装条件に従って複層樹脂膜を形成した樹脂組成物成形体の樹脂膜にカミソリ刃にて2mm角のゴバン目100個(10縦×10横)を刻み、その上に24mm幅のセロハンテープ〔登録商標〕(ニチバン株式会社製)を指で圧着した後、その端面をつかんで一気に引きはがした時に残存したゴバン目の数を残率(%)として評価した。
【0136】
<曲げ弾性率>
射出成形機として、型締力30トンの東洋機械金属製PLASTAR Si30を用い、成形温度210℃、射出速度20mm/sec、金型温度50℃の条件で、80mm×10mm×4mm厚さの短冊状の射出成形体を作製し、JIS K7203に従い、曲げ弾性率を測定した。具体的には、スパン長さ64mm、果汁速度は2.0mm/分で、測定温度は23℃で曲げ弾性率を測定した。
【0137】
(実施例1)
5.0質量%の重合体(B-1)と、95質量%の重合体(A-1)とを混合し、15mm二軸押出機KZW15-45MG(テクノベル製)を用いて、シリンダ設定温度:210℃、スクリュー回転数:500rpm、押出量:約4kg/時間の条件で、溶融混練し樹脂組成物(Q-1)を得た。前記樹脂組成物(Q-1)原料を220ton射出成形機(IS220EN、東芝機械社製)を用いて、シリンダ設定温度:210℃、射出速度:31mm/秒、厚み:2mm、長さ:150mm、幅:70mmの条件で板状に成形し、樹脂組成物成形体を得た。
【0138】
(実施例2)
10質量%の重合体(B-1)と、90質量%の重合体(A-2)とを用いる以外は、実施例1と同様にした。
【0139】
(比較例1)
100質量%の重合体(A-1)のみを用いる以外は、実施例1と同様とした。
【0140】
(比較例2)
重合体(A-1)を15mm二軸押出機KZW15-45MG(テクノベル製)を用いて、シリンダ設定温度:210℃、スクリュー回転数:500rpm、押出量:約4kg/時間の条件で、溶融混練し樹脂組成物(Q-1)を得た。前記樹脂組成物(Q-1)原料を220ton射出成形機(IS220EN、東芝機械社製)を用いて、シリンダ設定温度:210℃、射出速度:31mm/秒、厚み:2mm、長さ:150mm、幅:70mmの条件で成形し、樹脂組成物成形体を得た。得られた樹脂組成物成形体に、NVC-103(日放電子製)を用いて、酸素ガス含有アルゴンガス雰囲気、100W、5分の条件でプラズマ処理を行った。
【0141】
結果を表1に示す。
【0142】