(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024163264
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】蓄電池監視装置
(51)【国際特許分類】
G01R 31/392 20190101AFI20241114BHJP
G01R 31/382 20190101ALI20241114BHJP
G01R 31/385 20190101ALI20241114BHJP
G01R 31/387 20190101ALI20241114BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
G01R31/392
G01R31/382
G01R31/385
G01R31/387
H02J7/00 Y
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024153107
(22)【出願日】2024-09-05
(62)【分割の表示】P 2020175045の分割
【原出願日】2020-10-16
(71)【出願人】
【識別番号】000005382
【氏名又は名称】古河電池株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】手塚 渉
(72)【発明者】
【氏名】中村 秀人
(72)【発明者】
【氏名】可知 純夫
(57)【要約】
【課題】 劣化ストリングのSOHが比較的高くても確実にストリングの劣化を診断でき、ストリングの劣化進行を抑制する対処を早期に促すことができ、さらに、種々の電池型式のストリングについて容易に劣化判断できる蓄電池監視装置を提供する。
【解決手段】 蓄電システム1は、多並列蓄電アレイ4、蓄電池監視装置5、交直変換装置6およびブレーカ7を備えて構成される。蓄電池監視装置5を構成するBMU5aのMPUは、測定部で測定された各ストリングStについての放電電流値の時間変化を算出する算出部と、算出部の算出結果から、複数の時間変化の中で特異な時間変化を呈するストリングStは劣化した鉛蓄電池4aを含む劣化ストリングStと判定する判定部として、機能する。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の蓄電池が直列に接続されたストリングが複数並列に接続された多並列蓄電池アレイに含まれる各前記ストリングの状態を検知する蓄電池監視装置であって、
各前記ストリングから放電される放電電流を測定する測定部と、
前記測定部で測定された放電電流の電流変化率を各前記ストリング毎に算出する算出部と、
前記算出部で算出された各前記ストリングについての複数の前記電流変化率の中で特異な前記電流変化率を呈する前記ストリングは劣化した前記蓄電池を含むものと判定する判定部と、を備え、
前記算出部は、各前記ストリングの放電開始時から所定時間経過後に前記電流変化率を算出し、
前記判定部は、前記算出部で算出される前記電流変化率を基に特異な前記電流変化率を検出する
ことを特徴とする蓄電池監視装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多並列蓄電池アレイを構成するストリングの劣化状態を検出する機能を備える蓄電システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の蓄電システムでは、例えば、特許文献1に開示された充放電監視制御システムによってストリングの劣化状態が検出されていた。
【0003】
この充放電監視制御システムでは、並列接続されている各ストリング毎に放電電流Id
Nを測定する。そして、測定した放電電流Id
Nから求めた全ストリングの平均放電電流IAVEと特定ストリングの放電電流Id
Nとの差(IAVE-Id
N)が、予め設定した電流差dIdよりも大きく、下記の(1)式が成立するか判断する。
(IAVE-Id
N)>dId … (1)
【0004】
さらに、その差(IAVE-Id
N)が、測定した放電電流から算出した標準偏差σ1に係数A1を乗じた数よりも大きくて、下記の(2)式が成立するか判断する。
(IAVE-Id
N)>σ1・A1 … (2)
【0005】
そして、(1)式および(2)式が成立するストリングは、劣化した鉛蓄電池を含む状態にあると診断する。全ストリングの平均放電電気量WAVEと特定ストリングの放電電気量Wd
Nとの差(WAVE-Wd
N)についても、予め設定した電気量差dWdと、測定した放電電気量から算出した標準偏差σWに係数AWを乗じた数とについて、同様に比較されることで、ストリングが劣化した鉛蓄電池を含む状態にあるか否か診断される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記従来の蓄電システムが備える充放電監視制御システムにおいては、劣化した鉛蓄電池の、初期の満充電容量に対する劣化時の満充電容量に対する割合であるSOH(State of Health)が、40%や30%程度に著しく低い場合には、平均放電電流IAVEと特定ストリングの放電電流Id
Nとの差(IAVE-Id
N)が認識し易いため、上記の各式によってストリングの劣化診断が可能となる。しかしながら、劣化した鉛蓄電池のSOHが80%や70%程度に比較的高い場合には、平均放電電流IAVEと特定ストリングの放電電流Id
Nとの差(IAVE-Id
N)が小さくなり、上記の各式によってストリングの劣化を診断するのが難しくなる可能性がある。
【0008】
また、SOHが40%や30%程度に劣化した鉛蓄電池を上記従来の蓄電システムが備える充放電監視制御システムによって検出できたとしても、劣化した鉛蓄電池による熱暴走などを回避するため、その蓄電システムは運用を停止せざるを得ない。蓄電システムにおける蓄電池監視装置には、SOHが70%~90%程度に劣化した鉛蓄電池を早期に検出して、多並列蓄電池アレイへの入出力電力の抑制などといったシステム運用条件の変更や、劣化した鉛蓄電池の早期交換といった、劣化した鉛蓄電池を含むストリング(以下、劣化ストリングと呼ぶ)の劣化進行を抑制する対処を蓄電システム管理者へ早期に促す役目が期待される。
【0009】
また、上記の充放電監視制御システムを備えた従来の蓄電システムで、(1)式を算出するには、蓄電システムの導入前に電流差dIdの値を試験によって求めて、電流差dIdの値を予め充放電監視制御システムに設定しておく必要がある。ストリングを構成する鉛蓄電池の電池型式が同じ電池型式の場合には、ストリングを代えても電流差dIdの値を流用可能であるが、電池型式が電流差dIdの値を設定した鉛蓄電池と異なる電池型式の場合には、その都度、電流差dIdの値を試験によって求める必要が生じる。このため、上記の充放電監視制御システムを備えた従来の蓄電システムでは、種々の電池型式の鉛蓄電池から構成されるストリングについて、容易に劣化判断を行うことができない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明はこのような課題を解決するためになされたもので、
複数の蓄電池が直列に接続されたストリングが複数並列に接続された多並列蓄電池アレイに含まれる各ストリングの状態を検知する蓄電池監視装置であって、
各ストリングから放電される放電電流を測定する測定部と、測定部で測定された放電電流の電流変化率を各ストリング毎に算出する算出部と、算出部で算出された各ストリングについての複数の電流変化率の中で特異な電流変化率を呈するストリングは劣化した蓄電池を含むものと判定する判定部と、を備え、算出部が、各ストリングの放電開始時から所定時間経過後に電流変化率を算出し、判定部が、算出部で算出される電流変化率を基に特異な電流変化率を検出することを特徴とする。
【0011】
本構成によれば、測定部で測定された放電電流の電流変化率が算出部によって各ストリング毎に算出され、算出部で算出された各ストリングについての複数の電流変化率の中で特異な電流変化率を呈するストリングが、判定部により、劣化した蓄電池を含むストリングと判定される。したがって、劣化した蓄電池を含むストリングは、従来のように、全ストリングの平均放電電流IAVEと特定ストリングの放電電流IdNとの差を算出することなく、検出される。このため、劣化した蓄電池のSOHが比較的高くて、全ストリングの平均放電電流IAVEと特定ストリングの放電電流IdNとの差が小さくなる場合にも、確実にストリングの劣化を診断することが可能になる。
【0012】
また、各ストリングについての放電電流の複数の電流変化率の中で特異な電流変化率を呈するストリングを判定することで、劣化ストリングを検出することができるので、SOHが著しく低下する前に、劣化ストリングを早期に検出することが可能になる。このため、多並列蓄電池アレイへの入出力電力の抑制などといったシステム運用条件の変更や、劣化した蓄電池の早期交換といった、ストリングの劣化進行を抑制する対処を、蓄電システム管理者へ早期に促すことが可能になる。
【0013】
また、従来のように、蓄電システムの導入前に電流差dIdの値を試験によって求めて、電流差dIdの値を予めシステムに設定しておく必要がないので、種々の電池型式の鉛蓄電池から構成されるストリングについて、容易に劣化判断を行うことが可能になる。
また、各ストリングの放電開始時から所定時間は、蓄電池の劣化とは関係なく、各ストリング間において放電電流の電流変化率がばらつくことが、本発明者らによって確認されている。本構成によれば、各ストリングの放電開始時から所定時間経過後において算出される放電電流の電流変化率を基に、特異な電流変化率が検出される。このため、各ストリング間における放電電流の特異な電流変化率は正確に検出される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、劣化したストリングのSOHが比較的高くても確実にストリングの劣化を診断でき、また、ストリングの劣化進行を抑制する対処を蓄電システム管理者へ早期に促すことができ、さらに、種々の電池型式の蓄電池から構成されるストリングについて容易に劣化判断を行うことができる蓄電池監視装置を備えた蓄電システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態による蓄電システムの概略構成を示すブロック図である。
【
図2】
図1に示す蓄電システムについて行った第1の電流挙動検証実験で得られた各ストリングについての放電電流の放電時間特性を示すグラフである。
【
図3】
図1に示す蓄電システムについて行った第2の電流挙動検証実験で得られた各ストリングについての放電電流の放電時間特性を示すグラフである。
【
図4】第2の電流挙動検証実験における標準蓄電池および劣化蓄電池についての放電電圧の放電時間特性を示すグラフである。
【
図5】
図1に示す蓄電システムについて行った第3の電流挙動検証実験で得られた各ストリングについての放電電流の放電時間特性を示すグラフである。
【
図6】第3の電流挙動検証実験における標準蓄電池および劣化蓄電池についての放電電圧の放電時間特性を示すグラフである。
【
図7】
図1に示す蓄電システムを構成する蓄電池監視装置によって行われる劣化ストリング特定処理の概略を表すフローチャートである。
【
図8】
図1に示す蓄電システムを構成する蓄電池監視装置の劣化ストリング検知アルゴリズムに2つの異なる劣化ストリング検知手法を併用した場合に、低電圧警報が発せられるまでの時間を測定した測定結果を示す表図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明の一実施の形態による蓄電システムを実施するための形態について説明する。
【0017】
図1は、本発明の一実施形態による蓄電システム(ESS: Energy Storage System)1の概略構成を示すブロック図である。
【0018】
通常、電力供給部2からの交流電力を直流電力に変換して多並列蓄電アレイ4に供給して充電し、多並列蓄電アレイ4に蓄電された直流電力を放電させ、或いは、交直変換装置6で交流電力に変換して、負荷3へ給電する。多並列蓄電アレイ4は、ストリングStが複数並列に接続されて構成されている。ストリングStは、サイクルユースの複数の鉛蓄電池4aが直列に接続されて構成されている。本実施形態では、多並列蓄電アレイ4は10個のストリングSt1~St10が並列に接続され、各ストリングSt1~St10は複数個の鉛蓄電池4aが直列に接続されて構成されている。
【0019】
蓄電システム1は、このような多並列蓄電アレイ4と、蓄電池監視装置5と、交直変換装置(PCS: Power Conditioning System)6と、回路保護用のブレーカ7とを備えて構成される。蓄電池監視装置5は、BMU(Battery Monitoring Unit)5aと、各鉛蓄電池4a毎に設けられたセルセンサ5bと、各ストリングSt1~St10毎に設けられたユニットセンサ5cとにより構成され、各ストリングSt1~St10の状態を検知する。各セルセンサ5bは、それが設けられた鉛蓄電池4aの端子間電圧および温度を測定する。各ユニットセンサ5cは、それが設けられたストリングSt1~St10それぞれの端子間電圧およびストリングSt1~St10それぞれを流れる電流を測定する。これらユニットセンサ5cは、各ストリングSt1~St10から放電される放電電流の値を測定する測定部を構成する。
【0020】
蓄電池監視装置5を構成するBMU5aは、マイクロプロセッサ(MPU)およびメモリを備えて構成され、複数並列に接続された各ストリングSt1~St10や、各ストリングSt1~St10を構成する鉛蓄電池4aを監視・管理する。メモリに記憶されるコンピュータプログラムの手順にしたがってMPUが動作することより、MPUは、測定部で測定された放電電流値の時間変化を算出する算出部と、算出部の算出結果から劣化ストリングStを判定する判定部と、判定部で劣化ストリングStが判定された場合に劣化ストリング検出信号を出力する警告部として、機能する。本実施形態では、MPUは、さらに、検出した劣化ストリングStの放電電気量を基に劣化ストリングの放電開始前のSOHを算出するSOH算出部としても、機能する。なお、算出部、判定部、警告部およびSOH算出部は、コンピュータプログラムの手順にしたがったMPUの動作に限らず、電子回路のハードウエア構成によっても同様に実現することができる。
【0021】
算出部では、測定部で測定された放電電流値の時間変化が、放電電流の電流変化率として、各ストリングSt1~St10毎に算出される。判定部では、算出部で算出された各ストリングSt1~St10についての放電電流の複数の時間変化の中で、特異な時間変化を呈するものが、劣化した鉛蓄電池4aを含むストリングSt、つまり、劣化ストリングStとして判定される。各ストリングSt1~St10を構成する鉛蓄電池4aは、組電池としての電圧が同じになるように構成されているが、各鉛蓄電池4a間の固有の小さな電圧差や電池状態差によって、各ストリングSt1~St10の端子間電圧は若干異なる。この小さな電圧差や電池状態差が放電電流の電流挙動に影響を及ぼす。特にストリングStに劣化した鉛蓄電池4aが含まれる場合には、その放電電流の電流挙動に後述するような顕著な影響を及ぼす。警告部では、いずれかのストリングStが劣化ストリングStと判定部で判定された場合に、劣化ストリング検出信号が交直変換装置6へ出力される。
【0022】
交直変換装置6は、通常、電力供給部2からの交流電力を直流電力に変換して多並列蓄電アレイ4に供給して充電し、多並列蓄電アレイ4に蓄電された直流電力を放電させ、或いは、交直変換装置6で交流電力に変換して、負荷3へ給電する。この際、多並列蓄電アレイ4は放電動作をすることになるが、交直変換装置6は、BMU5aから劣化ストリング検出信号の警報を入力すると、多並列蓄電アレイ4に蓄電された電力の負荷3への放電を停止させる。交直変換装置6のこの放電停止動作により、多並列蓄電アレイ4を構成する劣化ストリングStがさらに放電動作を継続することで、劣化ストリングStの劣化がさらに進行するのが抑制される。
【0023】
判定部におけるこの劣化ストリングStの判定は、本実施形態では、各ストリングSt1~St10についての放電電流値の複数の時間変化の中で、他の大方のストリングStと異なって放電電流値が減少する特異な時間変化を呈するストリングStが、劣化ストリングStとされて、行われる。
【0024】
劣化ストリングStのこのような検知アルゴリズムは、多並列蓄電アレイ4について行った以下の電流挙動検証実験から、得られた。
【0025】
図2に示すグラフは、SOHの値がそれぞれ100[%]の各ストリングSt1~St10から構成される10並列の多並列蓄電アレイ4について行った第1の電流挙動検証実験の結果を示す。この検証実験は、放電電流0.11[C
10A]および放電時間6時間の放電条件で、各ストリングSt1~St10を放電して行った。同グラフは、この際に各ストリングSt1~St10について得られた、放電電流の放電時間特性を示し、グラフの横軸は放電時間[h]、縦軸は放電電流[C
10A]を表す。なお、放電電流の単位[C
10A]は、各ストリングSt1~St10の10時間率容量に対する比である。また、SOHは電池の健康状態を表す指標であり、次の(3)式で表される。
SOH=
(ストリングStの放電可能容量/ストリングStの定格容量)×100[%] …(3)
【0026】
SOHの値が大きいほどストリングStの劣化が少ないことを示し、SOHの値が小さいほどストリングStの劣化が進行していることを示す。鉛蓄電池では、一般的に、定格容量に対して70[%]の容量しか放電できないSOH=70[%]の状態が、劣化状態と判断されている。
【0027】
図2に示すグラフから、放電開始初期には放電電流の大小のバラツキが確認されるが、放電開始から3時間目付近では、放電電流のばらつきがなくなって放電電流が収束していることが確認される。すなわち、放電開始から3時間目付近以降では、放電電流の時間変化は各ストリングSt1~St10についてほぼ同様になっていることが確認される。
【0028】
図3に示すグラフは、ストリングSt4にSOHの値が50[%]に劣化した蓄電池を混入させ、その他のストリングSt1~3,St5~10はSOHの値がそれぞれ100[%]の蓄電池から構成される10並列の多並列蓄電アレイ4について行った第2の電流挙動検証実験の結果を示す。この検証実験でも、上記の第1の検証実験と同じ、放電電流0.11[C
10A]および放電時間6時間の放電条件で、実験を行った。
図3に示すグラフの横軸および縦軸は
図2に示すグラフと同じものを表す。
【0029】
図3に示すグラフから、放電開始初期における各ストリングSt1~St10についての放電電流の挙動は、
図2に示すグラフと同様にばらつき、3時間目付近でばらつきがなくなって放電電流が収束していることが確認される。しかし、4.2時間目付近以降から、ストリングSt4を除くストリングSt1~3,St5~10についての各放電電流は大きくなる傾向を示す一方で、ストリングSt4についての放電電流は急激に小さくなる傾向を示すことが確認される。
【0030】
図4は、1つの鉛蓄電池が6つのセルにより構成されるモノブロック型の場合についての放電特性を示すグラフであり、上記第2の電流挙動検証実験におけるストリングSt4を構成している標準蓄電池(SOH=100%)と劣化蓄電池(SOH=50%)とについての、放電電圧の放電時間特性を示すグラフである。同グラフの横軸は放電時間[h]、縦軸は各蓄電池の端子間電圧[V]を表す。同グラフから、SOHの値が100[%]の標準蓄電池は、その端子間電圧が緩やかに小さくなる傾向を示すことが確認される。その一方で、SOHの値が50[%]に劣化した劣化蓄電池は、その放電電流が急激に小さくなる4.2時間目付近において、SOHの値が0[%]のときの端子間電圧である10.8[V]に近い11.2[V]を示していることが確認される。このことから、劣化蓄電池の充電状態がSOC(State of Charge)=0[%]程度近くの小さな値のSOCになると、放電電流の急激な変化がみられることが確認される。例えば、ストリングSt4を構成するいずれかの蓄電池の端子間電圧が11.2[V]になると、その蓄電池の過放電を防止するため、BMU5aを構成する警報部によって交直変換装置6へ劣化ストリング検出信号が出力され、低電圧警報が発せられる。
【0031】
図5に示すグラフは、ストリングSt4にSOHの値が30[%]に劣化した蓄電池を混入させ、その他のストリングSt1~3,St5~10はSOHの値がそれぞれ100[%]の蓄電池から構成される10並列の多並列蓄電アレイ4について行った第3の電流挙動検証実験の結果を示す。この検証実験でも、上記の第1の検証実験と同じ、放電電流0.11[C
10A]および放電時間6時間の放電条件で、実験を行った。
図5に示すグラフの横軸および縦軸は
図2に示すグラフと同じものを表す。
【0032】
図5に示すグラフから、放電開始初期からストリングSt4についての放電電流の挙動は、他のストリングSt1~3,St5~10についてのものと異なり、小さな放電電流値で推移している。また、3.2時間目付近以降から、ストリングSt4についての放電電流は急激に小さくなる傾向を示すことが確認される。他のストリングSt1~3,St5~10についての放電電流の挙動は、
図2および
図3に示すグラフと同様、放電開始初期においてばらつき、3時間目付近でばらつきがなくなって放電電流が収束していることが確認される。
【0033】
図6は、1つの鉛蓄電池が6つのセルにより構成されるモノブロック型の場合についての放電特性を示すグラフであり、上記第3の電流挙動検証実験におけるストリングSt4を構成している標準蓄電池(SOH=100%)と劣化蓄電池(SOH=30%)とについての、放電電圧の放電時間特性を示すグラフである。同グラフは、
図4に示すグラフと同様、横軸は放電時間[h]、縦軸は各蓄電池の端子間電圧[V]を表す。同グラフから、SOHの値が100[%]の標準蓄電池は、
図4に示すグラフと同様、その端子間電圧が緩やかに小さくなる傾向を示すことが確認される。その一方で、SOHの値が30[%]に劣化した劣化蓄電池は、その放電電流が急激に小さくなる3.2時間目付近において、SOCの値が0[%]のときの端子間電圧である10.8[V]に近い11.2[V]を示し、3.2時間目以降から急激に端子間電圧が低下していることが確認される。このことからも、劣化蓄電池の充電状態がSOC=0[%]程度近くの小さな値のSOCになると、放電電流の急激な変化がみられることが確認される。
【0034】
本実施形態による蓄電システム1では、上記の第1,第2および第3の各電流挙動検証実験の結果から、上述したように、蓄電池アレイ4を構成する各ストリングSt1~St10についての放電電流値の複数の時間変化の中で、他の大方のストリングStと異なって放電電流値が減少する特異な時間変化を呈するストリングSt、例えばストリングSt4が、劣化した鉛蓄電池4aを含む劣化ストリングStと判定される。劣化ストリングStを構成する鉛蓄電池4aの中に1つでも劣化した鉛蓄電池4aが含まれると、その劣化ストリングStの放電電流値の時間変化は、他の健全なストリングStと異なって放電電流値が減少する特異な時間変化を呈する。また、複数のストリングStにおいて劣化した鉛蓄電池4aが含まれていても、これら各ストリングStの放電電流の挙動は、同様な挙動を示す。
【0035】
また、BMU5aにおける判定部は、各ストリングSt1~St10の放電開始時から放電電流が収束する所定時間経過後、例えば2時間経過後に算出部で算出される時間変化を基に、特異な時間変化を検出する。また、判定部は、各ストリングSt1~St10の放電開始時から所定時間経過後における予め特定した秒オーダーの期間中の放電電流値の時間変化を基に、特異な時間変化を検出する。本実施形態では、この特異な時間変化は、放電電流値の放電時間に対する変化を表す例えば上記の各グラフに示すような放電電流特性線の傾きが算出部によって放電電流値の時間変化として算出され、算出部で算出された特性線の傾きの正負を基に判定部によって検出される。
【0036】
具体的に本実施形態では、算出部は、特性線の傾きの基本測定期間を10[sec]間、サンプリング時間を100[msec]として、各ストリングSt1~St10の放電電流特性線の傾きを測定する。したがって、1回の基本測定では、10[sec]/100[msec]=100データの傾きが算出され、それらの平均値がその基本測定期間における特性線の傾きとされる。放電電流値の時間変化特性は、上記の各グラフに示されるように、電流測定精度の関係からギザギザとばらついて測定される。また、放電電流にノイズが重畳して測定されることもある。
【0037】
このため、本実施形態では、これらのストリングStの劣化に起因しない特性線の傾きを排除するため、算出部は、10秒間の基本測定を3回繰り返して合計30秒間の秒オーダーの期間、各ストリングSt1~St10の放電電流特性線の傾きを測定する。そして、0秒目、10秒目、20秒目および30秒目に算出される4点の傾きから、特性線の傾きの近似線を求める。なお、0秒目に算出される傾きは測定データがないため、ゼロとなる。判定部は、各ストリングSt1~St10について求めた放電電流特性線の傾きの近似線を各ストリングSt1~St10間で比較し、放電電流値の時間変化が特異な時間変化を呈するストリングStを劣化ストリングStとして判定する。すなわち、算出された特性線の傾きの正負を基に、各ストリングSt1~St10についての特性線の傾きの中で特異な傾き、本実施形態では正の傾きを呈するストリングStが、判定部により、劣化した鉛蓄電池4aを含むストリングであると判定される。
【0038】
SOH算出部は、各ストリングSt1~St10の放電開始時から、劣化蓄電池の端子間電圧が10.8(=1.8[V]/cell×6cell)[V]に達するまでの時間T、つまり、放電時間に対して放電電流の減少が検知されるまでの時間T、および、劣化ストリングStについて時間T中に測定部によって測定される放電電流値の積算値Iから、劣化ストリングStの放電電気量Q(=I×T)を算出する。そして、算出した放電電気量Qをその劣化ストリングStが放電可能な容量として、前述した(3)式から劣化ストリングStの放電前のSOHを算出する。
【0039】
図7は、BMU5aを構成するMPUによって行われる劣化ストリングStの特定処理を示すフローチャートである。
【0040】
この劣化ストリングStの特定処理では、最初に、蓄電池アレイ4が交直変換装置6の制御によって放電動作状態にあるか否かが、MPUによって判断される(ステップ101参照)。ステップ101の判断はその判断結果がYesになるまで行われる。蓄電池アレイ4が放電動作状態にあることがステップ101で判断され、各ストリングSt1~St10について放電が開始されたことがMPUに認識されると、次に、算出部において、各ストリングSt1~St10の放電電流値が測定されると共に、放電開始からの放電電流値の積算値が各ストリングSt1~St10毎に算出される(ステップ102参照)。ステップ102の処理は、後述するステップ111の処理でSOHが算出されるまで継続される。
【0041】
次に、放電開始から例えば2時間の所定時間が経過したか否かがMPUによって判断される(ステップ103参照)。放電開始から所定時間が経過しておらず、ステップ103の判断結果がNoの場合、処理はステップ102に戻ってステップ102および103の処理が繰り返される。一方、放電開始から所定時間が経過し、ステップ103の判断結果がYesになると、次に、算出部において、100[msec]の所定のサンプリング時間間隔で、各ストリングSt1~St10毎に放電電流値の時間変化、すなわち、放電電流の電流変化率が特性線の傾きとして算出される(ステップ104参照)。次に、合計30秒間の秒オーダーの特定期間が経過したか否かがMPUによって判断される(ステップ105参照)。具体的には、各ストリングSt1~St10毎に特性線の傾きの近似線が求められたかが判断される。
【0042】
30秒間の特定期間が経過していなくてステップ105の判断結果がNoの場合、処理はステップ104に戻ってステップ104および105の処理が繰り返される。
【0043】
一方、30秒間の特定期間が経過してステップ105の判断結果がYesの場合、次に、測定部によって測定された放電電流の電流変化率の中で符号が正のもの、つまり、
図3および
図5に示す各グラフにおけるストリングSt4のように、放電電流の特性線の傾きが右肩上がりの正の傾きで、放電電流値が減少する減少を呈するストリングStがあるか否かが、判定部によって判定される(ステップ106参照)。測定された放電電流の電流変化率の中で符号が正のものがなく、全ストリングSt1~St10についての特性線の傾きが右肩下がりの負の傾きで、ステップ106の判断結果がNoの場合、蓄電池アレイ4を構成する各ストリングSt1~St10の中には劣化ストリングStが無いものとされて、劣化ストリングStの特定処理は終了する。
【0044】
一方、測定された電流変化率の中に符号が正のものがあってステップ106の判断結果がYesの場合、次に、電流変化率が正のストリングStが判定部によって劣化ストリングStと特定される(ステップ107参照)。
【0045】
次に、各ストリングSt1~St10について均等充電が実施されているか否か、MPUによって判断される(ステップ108参照)。この均等充電により、各ストリングSt1~St10の端子間電圧が均一に揃えられる。ステップ108の判断はその判断結果がYesになるまで行われる。
【0046】
劣化ストリングStが特定された後、各ストリングSt1~St10について均等充電が実施されたことがステップ108で判断された場合、次に、均等充電後におけるその劣化ストリングStの放電中に、交直変換装置6によってその劣化ストリングStに対して充電が行われたか否かがMPUによって判断される(ステップ109参照)。均等充電後におけるその劣化ストリングStの放電中に充電が行われていてステップ109の判断結果がNoの場合、劣化ストリングStの特定処理は終了する。
【0047】
一方、均等充電後におけるその劣化ストリングStの放電中に充電が行われていなくてステップ109の判断結果がYesの場合、次に、測定部によって測定される劣化ストリングStの各鉛蓄電池4aの端子間電圧が10.8(=1.8[V]/cell×6cell)[V]にまで低下したか否かがMPUによって判断される(ステップ110参照)。劣化ストリングStの各鉛蓄電池4aの端子間電圧が10.8[V]にまで低下していなくてステップ110の判断結果がNoの場合、ステップ110の処理が繰り返される。劣化ストリングStの各鉛蓄電池4aの端子間電圧が10.8[V]にまで低下してステップ110の判断結果がYesの場合、劣化ストリングStのSOCが0[%]になったものと判断されて、次に、SOH算出部によって劣化ストリングStの放電前のSOHが算出される(ステップ111)。ステップ111の処理が済むと、劣化ストリングStの特定処理は終了する。
【0048】
なお、上記の実施形態による蓄電システム1は、各ストリングSt1~St10の放電電流の挙動から、劣化ストリングStを特定して検知する場合について説明した。しかし、他の実施の形態として、放電電流の挙動からストリングStの劣化を検知する本手法に加えて、セルセンサ5bで検知される鉛蓄電池4aの端子間電圧から、ストリングStの劣化を検知する手法を併用するように構成してもよい。
【0049】
セルセンサ5bを用いた劣化ストリングStの検知手法では、いずれかのストリングStを構成する鉛蓄電池4aの端子間電圧が10.8[V]に到達するのがセルセンサ5bで検知されると、BMU5aの警報部から交直変換装置6へ劣化ストリング検出信号が出力されて、低電圧警報が発せられる。
【0050】
図8に示す表図は、
図1に示す蓄電池監視装置5におけるBMU5aの劣化ストリング検知アルゴリズムとして、これら2つの劣化ストリング検知手法を併用し、ストリングSt1にSOHが30[%]に劣化した蓄電池を混入させた場合に、各ストリングSt1~St10の放電開始時から低電圧警報が発せられるまでの時間を5回測定した測定結果を示す。測定は、前述した第1,第2および第3の挙動電流検証実験と同様に、放電電流0.11[C
10A]および放電時間6時間の放電条件で、鉛蓄電池4aが36個それぞれ直列に接続された、10並列の各ストリングSt1~St10を放電して行った。
【0051】
図8に示す表図から、放電電流の挙動による劣化ストリング検知手法では、セルセンサ5bによる劣化ストリング検知手法よりも平均46.9秒遅く、低電圧警報が発せられることが確認された。セルセンサ5bによる劣化ストリング検知手法では、鉛蓄電池4aの端子間電圧をセルセンサ5bが直接測定してBMU5aへ出力しているため、低電圧警報が発せられるまでの時間が約60秒と短い時間になっている。
【0052】
一方で、放電電流の挙動による劣化ストリング検知手法では、放電電流値に重畳するノイズ成分の除去処理や、放電電流値の時間変化がストリングStの劣化に起因するものであるかの判定処理等の、MPUによるいくつかの検証処理に時間を要するため、平均で108秒で低電圧警報が発せられている。
【0053】
しかし、放電電流の挙動による劣化ストリング検知手法による低電圧警報出力の、セルセンサ5bによる劣化ストリング検知手法による低電圧警報出力との約46.9秒の時間差は、ストリングStの劣化を増進させる程のレベルではなく、放電電流の挙動による劣化ストリング検知手法によって正常に劣化ストリングStが検知されることが確認された。
【0054】
セルセンサ5bによる劣化ストリング検知手法では、鉛蓄電池4aの異常時などに起こるセルセンサ5bの故障やBMU5aとの通信異常により、劣化ストリングStが正常に検出されないことがある。また、鉛蓄電池4aの温度を測定することで、鉛蓄電池4aの過放電や過充電時の温度上昇を検出できるが、熱容量の大きな鉛蓄電池4aの場合、その温度上昇までに時間を要するため、セルセンサ5bによってタイムリーに鉛蓄電池4aの温度上昇による異常を検出できない場合がある。
【0055】
しかし、上記のように、蓄電池監視装置5におけるBMU5aの劣化ストリング検知アルゴリズムに上記の2つの劣化ストリング検知手法を併用することで、セルセンサ5bの故障やBMU5aとの通信異常が起きた場合にも、放電電流の挙動による劣化ストリング検知手法によって劣化ストリングStを早期に特定して検出することができる。また、セルセンサ5bが正常に起動している場合においては、セルセンサ5bによる劣化ストリング検知と放電電流の挙動による劣化ストリング検知との二つの検知手法で劣化ストリングStが検出されるので、より高い精度で、劣化ストリングStの有無を把握することができる。このため、劣化ストリングStを検出できずに、鉛蓄電池4aが過放電したり、転極したりすることによって早期に鉛蓄電池4aが劣化するのを防止することが可能になる。
【符号の説明】
【0056】
1:蓄電システム(ESS)
2:電力供給部
3:負荷
4:多並列蓄電アレイ
4a:鉛蓄電池
5:鉛蓄電池監視装置
5a:BMU
5b:セルセンサ
5c:ユニットセンサ
6:交直変換装置(PCS)
7:ブレーカ
St1~St10:ストリング