(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024163267
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】3-ヒドロキシプロピオン酸の2段階製造方法
(51)【国際特許分類】
C12P 7/52 20060101AFI20241114BHJP
C12N 1/21 20060101ALN20241114BHJP
C12N 1/15 20060101ALN20241114BHJP
C12N 1/19 20060101ALN20241114BHJP
C12N 5/10 20060101ALN20241114BHJP
【FI】
C12P7/52 ZNA
C12P7/52
C12N1/21
C12N1/15
C12N1/19
C12N5/10
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024155129
(22)【出願日】2024-09-09
(62)【分割の表示】P 2022579093の分割
【原出願日】2021-07-30
(31)【優先権主張番号】10-2020-0096238
(32)【優先日】2020-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(71)【出願人】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100122161
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 崇
(72)【発明者】
【氏名】ジェ・ヒョン・キム
(72)【発明者】
【氏名】ドンギョン・カン
(72)【発明者】
【氏名】キュン・ムク・イ
(57)【要約】
【課題】本発明は、3-ヒドロキシプロピオン酸(3-hydroxypropionic acid;3-HP)を製造する方法および/または3-HPの生産能を向上する方法に関し、より詳細には、細胞を高濃度に培養する第1段階および前記高濃度培養された細胞を触媒として利用して3-HPを生産する第2段階の2段階製造方法に関する。
【解決手段】本発明は、(1)3-ヒドロキシプロピオン酸(3-hydroxypropionic acid;3-HP)生産菌株を高濃度細胞培養する段階;および(2)前記高濃度培養された細胞を分離して3-ヒドロキシプロピオン酸生産用培地に接種して3-ヒドロキシプロピオン酸を生産する段階;を含む、3-ヒドロキシプロピオン酸(3-hydroxypropionic acid;3-HP)の製造方法および/または3-HPの生産能向上方法に関し、3-HPの生産能と収率を向上させることができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)3-ヒドロキシプロピオン酸(3-hydroxypropionic acid;3-HP)生産菌株を高濃度細胞培養する段階;および
(2)前記高濃度培養された細胞を分離して3-ヒドロキシプロピオン酸生産用培地に接種して3-ヒドロキシプロピオン酸を生産する段階;を含み、
前記(2)段階は、細胞の増殖が行われないものである、
3-ヒドロキシプロピオン酸(3-hydroxypropionic acid;3-HP)の製造方法。
【請求項2】
前記(1)段階は、流加培養(fed-batch culture)方法で行われ、前記(2)段階は、発酵培養(fermentation)で行われるものである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記(1)段階は、葡萄糖(glucose)を炭素源として含む培地で行われるものである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記(1)段階は、グリセロールを炭素源として含まない培地で行われるものである、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記(2)段階は、グリセロール(glycerol)を炭素源として含む培地で行われるものである、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記(2)段階は、葡萄糖を炭素源として含まない培地で行われるものである、請求項1、2、4および5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記3-HP生産菌株は、グリセロール脱水酵素(glycerol dehydratase)およびアルデヒド脱水素酵素(aldehyde dehydrogenase)からなる群より選択される一つ以上の蛋白質をコードする遺伝子を含むものである、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記3-ヒドロキシプロピオン酸の収率は、80%以上である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記3-ヒドロキシプロピオン酸の生産能は、2g/L/h以上である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記(2)段階を29時間行った時の3-ヒドロキシプロピオン酸の生産量が41g/L以上である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
3-ヒドロキシプロピオン酸を45g/L以上の濃度で含む、3-ヒドロキシプロピオン酸生産菌株の培養液。
【請求項12】
アセテートおよび乳酸からなる群より選択された副産物の濃度が0.1%(w/v)以下である、請求項11に記載の培養液。
【請求項13】
請求項11または12に記載の培養液を含む3-ヒドロキシプロピオン酸製造用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願(ら)との相互引用
本出願は、2020年7月31日付大韓民国特許出願第10-2020-0096238号に基づいた優先権の利益を主張し、当該大韓民国特許出願の文献に開示された全ての内容は本明細書に一部として組み含まれる。
【0002】
本発明は、3-ヒドロキシプロピオン酸(3-hydroxypropionic acid;3-HP)を製造する方法および/または3-HPの生産能を向上する方法に関し、より詳細には、細胞を高濃度に培養する第1段階および前記高濃度培養された細胞を触媒として利用して3-HPを生産する第2段階の2段階製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
3-ヒドロキシプロピオン酸は、アクリル酸(acrylic acid)、アクリル酸メチル(methyl acrylate)、アクリルアミド(acrylamide)などの多様な化学物質に転換可能なプラットホーム化合物である。2004年に米国のエネルギー省(Department of Energy、DOE)からTop 12 value-added bio-chemicalとして選定された後、学界と産業界で活発に研究されている。
【0004】
3-HPの生産は、大きく化学的方法と生物学的方法の二つの方法から行われるが、化学的方法の場合、初期物質が高価である点、生産過程中に毒性物質が生成される点などにより環境にやさしくないという指摘があり、環境にやさしいバイオ工程が脚光を浴びている。
【0005】
微生物を利用した3-HP生合成のための基質としては、葡萄糖(glucose)とグリセロール(glycerol)が主に利用されており、現在3-HP生産と細胞の増殖が同時に起こる1段階発酵方式の研究が主に進められている。
【0006】
しかし、前記のような1段階生産時、3-HP生産用基質が細胞の増殖にも使用されて、アセテート(acetate)や乳酸(lactate)のような副産物が発生し、これによって3-HPの収率および生産能が低下するという問題点がある。このような低い収率および生産能により3-HPの可能性にもかかわらず、まだ商用化には至っていない実情である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本出願の一例は、(1)3-ヒドロキシプロピオン酸(3-hydroxypropionic acid;3-HP)生産菌株を高濃度細胞培養する段階;および(2)前記高濃度培養された細胞を分離し、3-ヒドロキシプロピオン酸生産用培地に接種および/または3-ヒドロキシプロピオン酸生産用培地で培養して3-ヒドロキシプロピオン酸を生産する段階;を含む、3-ヒドロキシプロピオン酸(3-hydroxypropionic acid;3-HP)の製造方法および/または3-HPの生産能向上方法を提供する。
【0008】
前記2段階製造方法を通じて細胞の成長または副産物発生による3-HP生産能低下を改善することができる。
【0009】
他の例は、3-ヒドロキシプロピオン酸を高濃度で含む3-ヒドロキシプロピオン酸生産菌株の培養液を提供する。一例において、前記培養液は先に説明した2段階製造方法により生産されたものであり得る。前記培養液は、3-ヒドロキシプロピオン酸の生産用途で使用することができる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
一例は、
(1)3-ヒドロキシプロピオン酸(3-hydroxypropionic acid;3-HP)生産菌株を高濃度細胞培養する段階;および
(2)前記高濃度培養された細胞を分離し、3-ヒドロキシプロピオン酸生産用培地に接種および/または3-ヒドロキシプロピオン酸生産用培地で培養して3-ヒドロキシプロピオン酸を生産する段階
を含む、3-ヒドロキシプロピオン酸(3-hydroxypropionic acid;3-HP)の製造方法および/または3-HPの生産能向上方法を提供する。
他の例は、3-ヒドロキシプロピオン酸を高濃度で含む3-ヒドロキシプロピオン酸生産菌株の培養液を提供する。前記培養液は、3-ヒドロキシプロピオン酸生産の用途で使用することができる。前記培養液は、前記の製造方法により生産されたものであり得る。
【0011】
以下、本発明をより詳細に説明する。
【0012】
2段階の3-HP生産
(1)3-HP生産菌株の高濃度培養段階
本明細書で提供される3-HPの製造方法および/または3-HPの生産能向上方法は、(1)3-ヒドロキシプロピオン酸生産菌株を高濃度培養する段階を含む。
【0013】
3-ヒドロキシプロピオン酸生産菌株は、3-ヒドロキシプロピオン酸生産が可能な全ての天然または遺伝子組み換えとなった組み換え微生物の中から選択され得る。一例において、前記微生物は、エスケリキア(Escherichia)属(例えば、大腸菌など)、シュードモナス(Pseudomonas)属、エンテロバクテリア(Enterobacteria)属、ブレビバクテリウム(Brevibacterium)属、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、クレブシエラ(Klebsiella)属、シトロバクター(Citrobacter)属、クロストリジウム(Clostridium)属、ストレプトマイセス(Streptomyces)属、バチルス(Bacillus)属、ラクトバチルス(Lactobacillus)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、サッカロマイセス(Saccharomyces)属およびアスペルギルス(Aspergillus)属からなる微生物から選択され得るが、これに制限されない。一具体例において、3-ヒドロキシプロピオン酸生産菌株は、大腸菌であり得る。
【0014】
3-ヒドロキシプロピオン酸生産菌株は、グリセロール脱水酵素(glycerol dehydratase)およびアルデヒド脱水素酵素(aldehyde dehydrogenase)からなる群より選択される一つ以上または前記2種の蛋白質をコードする遺伝子を含むものであり得る。一例において、3-HP生産菌株は、グリセロール脱水酵素再活性酵素(GdrAB)をコードする遺伝子(gdrAB)を追加的に含むことができる。一例において、3-HP生産菌株は、追加的にビタミンB12を生合成することができる菌株であり得る。
【0015】
グリセロール脱水酵素(glycerol dehydratase)は、dhaB(GenBank accession no. U30903.1)遺伝子によりコードされるものであり得るが、これに制限されない。dhaB遺伝子は、クレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumonia)に由来する酵素であり得るが、これに制限されない。グリセロール脱水酵素をコードする遺伝子は、dhaB1、dhaB2および/またはdhaB3をコードする遺伝子を含むことができる。グリセロール脱水酵素蛋白質およびこれをコードする遺伝子は、グリセロールを3-ヒドロキシプロパナール(3-hydroxypropanal、3-HPA)と水(H2O)に分解する酵素活性を維持する範囲内で遺伝子および/またはアミノ酸配列の変異を含むことができる。
【0016】
アルデヒド脱水素酵素(aldehyde dehydrogenase;ALDH)をコードする遺伝子(aldH)は、例えば、大腸菌(Escherichia coli)またはE.coli K12 MG1655細胞株に由来するaldH(GenBank Accession no. U00096.3;EaldH)遺伝子、クレブシエラ・ニューモニエ(K. pneumonia)に由来するpuuC遺伝子、および/またはアゾスピリルム・ブラジレンセ(Azospirillum brasilense)由来のKGSADH遺伝子であり得るが、これに制限されない。アルデヒド脱水素酵素蛋白質およびこれをコードする遺伝子は、3-HPAから3-HPを生産するための活性を維持する範囲内で遺伝子および/またはアミノ酸配列の変異を含むことができる。
【0017】
グリセロール脱水酵素再活性酵素(GdrAB)をコードする遺伝子は、クレブシエラ・ニューモニエ(K. pneumonia)由来のgdrAB遺伝子であり得る。
【0018】
3-HP生産菌株は、グリセロール脱水酵素、アルデヒド脱水素酵素、およびグリセロール脱水酵素再活性酵素からなる群より選択される1種以上、2種以上または3種全ての蛋白質をコードする遺伝子を含む組み換えベクターを含むことができる。
【0019】
前記組み換えベクターは、グリセロール脱水酵素、アルデヒド脱水素酵素、およびグリセロール脱水酵素再活性酵素からなる群より選択される1種以上、2種以上または3種全ての蛋白質をコードする遺伝子を細胞内で発現するための目的範囲でプロモーター、調節部位を当業界に知られた方法で置き換えて使用することができる。
【0020】
高濃度培養は、3-HP生産菌株を大量で確保するための目的範囲で当業界に知られた方法を制限なしに使用して行うことができ、一例において、前記培養は、流加培養(fed-batch culture)で行われるものであり得る。
【0021】
一例において流加培養は、pH-stat方式、定速(continuous feeding)培養方式、またはこれらの組み合わせで行われ得る。一具現例においてpH-stat方式の流加培養が行われる場合、葡萄糖が1~5g/L濃度で添加され得るが、これに制限されない。一具現例において定速培養方式の流加培養が行われる場合、葡萄糖が10~20g/L/h速度で注入され得るが、これに制限されない。
【0022】
一例において、前記高濃度培養時のpHは、5~7.5、5~7、5.5~7.5、5.5~7、6~7.5または6.5~6で維持され得るが、これに制限されない。
【0023】
一例において高濃度培養時の炭素源は、高濃度培養のための目的範囲で単糖類、二糖類および/または多糖類を制限なしに選択して使用することができる。例えば、前記炭素源は、葡萄糖(glucose)、果糖(fructose)、ガラクトース(galactose)、マンノース(mannose)、アラビノース(arabinose)、キシロース(xylose)、リボース(ribose)、蔗糖(sucrose)、麦芽糖(maltose)、乳糖(lactose)、およびセロビオース(cellobiose)からなる群より選択される1種以上、2種以上、3種以上、4種以上、5種以上、10種以上、または前記11種全ての組み合わせであり得る。高濃度培養時に使用される培地は、炭素源としてグリセロールを含まないものであり得る。このように高濃度培養時に使用される培地がグリセロールを含まないことによって高濃度培養段階で3-HP生産が起こらないこともある。
【0024】
一例において高濃度培養後の細胞濃度は、OD600値を基準に、10以上、30以上、50以上、70以上、100以上、または110以上であり得、例えば、10以上、50以上、100以上、150以上、200以上、20時間培養時、OD600値が10~500、10~400、10~300、10~250、10~200、10~150、30~500、30~400、30~300、30~250、30~200、30~150、50~500、50~400、50~300、50~250、50~200、50~150、70~500、70~400、70~300、70~250、70~200、70~150、100~500、100~400、100~300、100~250、100~200、100~150、110~500、110~400、110~300、110~250、110~200、または110~150であり得、例えば、120であり得るが、これに制限されない
【0025】
一例において高濃度培養後の細胞濃度は、培地1L当たりの細胞乾燥重量(g)を基準に、10~100g/L、10~80g/L、10~50g/L、10~40g/L、10~35g/L、15~100g/L、15~80g/L、15~50g/L、15~40g/L、15~35g/L、20~100g/L、20~80g/L、20~50g/L、20~40g/L、20~35g/L、25~100g/L、25~80g/L、25~50g/L、25~40g/L、または25~35g/Lであり得るが、これに制限されない。
【0026】
(2)3-HP生産段階
本明細書で提供される3-HPの製造方法および/または3-HPの生産能向上方法は、(2)前記高濃度培養された細胞を分離し、3-ヒドロキシプロピオン酸生産用培地に接種および/または培養して3-ヒドロキシプロピオン酸を生産する段階を含む。
【0027】
高濃度培養された細胞の分離は、細胞を遠心分離する段階、上清液を除去する段階、およびペレット(pellet)をバッファーで再懸濁する段階からなる群より選択される一つ以上、二つ以上または前記段階の全てにより行われ得る。一例において前記バッファーは、PBS(Phosphate buffered saline)であり得るが、これに制限されない。
【0028】
3-ヒドロキシプロピオン酸生産用培地は、3-HP生産菌株の追加増殖が起こらないと共に、前記菌株が3-HPを生産することができるようにするための目的範囲で制限なしに使用することができる。
【0029】
一例において、3-ヒドロキシプロピオン酸生産用培地の炭素源は、グリセロールであり得るが、これに制限されない。一例において、前記生産用培地は、ビタミンB12を追加的に含むことができる。3-ヒドロキシプロピオン酸生産用培地は、炭素源として葡萄糖を含まないものであり得る。
【0030】
一例において前記培地は、合成培地(synthetic media)または半合成培地(semisynthetic media)であり得るが、これに制限されない。
【0031】
高濃度培養された細胞の接種は、3-HP生産の目的範囲で通常の技術者が適切に細胞接種濃度に変更することができる。一例において、接種時の細胞濃度(培地1L当たりの乾燥細胞重量(Dry cell weight、DCW)基準)は、1~20g/L、1~16g/L、1~12g/L、1~9g/L、2~20g/L、2~16g/L、2~12g/L、2~9g/L、4~20g/L、4~16g/L、4~12g/L、または4~9g/Lであり得るが、これに制限されない。
【0032】
3-ヒドロキシプロピオン酸を生産する段階は、3-HPを生産するための目的範囲で当業界に知られた培養方法を制限なしに選択して使用することができ、一例において、前記培養段階は、発酵培養(fermentation)で行われるものであり得る。
【0033】
3-HP生産段階では、接種された細胞の増殖が起こらないものであり得る。一例において、生産段階の終了時の細胞の数は、生産段階の開始時に接種された細胞の数の150%以下、130%以下、100%以下、90%以下、80%以下、50~150%、50~130%、50~100%、50~90%、50~80%、70~150%、70~130%、70~100%、70~90%、または70~80%であり得るが、これに制限されない。
【0034】
本明細書で提供される3-HPの製造方法および/または3-HPの生産能向上方法の3-HP収率は、例えば、29時間培養(3-HP生産)を基準に、80%以上、85%以上、90%以上、93%以上、または95%以上であり得るが、これに制限されない。3-HP収率は、前記(2)段階で培地内のグリセロール使用量(モル数)に対する培地内の3-HP生産量で計算され得、一例において下記数式1のように計算され得る。
【0035】
[数式1]
収率(yield、%)=(最終3-HP(g))/{(発酵前グリセロール(Glycerol)(g))-(発酵後に残ったグリセロール(Glycerol)(g))}
【0036】
本明細書で提供される3-HP製造方法および/または3-HPの生産能向上方法の3-HP生産能(1時間および培地1L当たりの3-HP生産量(g))は、2.0g/L/h以上、2.5g/L/h以上、2.0~30g/L/h、2.0~20g/L/h、2.0~10g/L/h、2.0~5g/L/h、2.5~30g/L/h、2.5~20g/L/h、2.5~10g/L/h、または2.5~5g/L/hであり得るが、これに制限されない。
【0037】
一具現例において、本発明の2段階3-HP製造方法で3-HPを製造した結果、生産能は2.94g/L/hと測定され、これは現在まで文献に報告された数値の中で最も高かった。
【0038】
本明細書で提供される3-HP製造方法および/または3-HPの生産能向上方法の3-HP生産量は、例えば、20~30時間(例えば、20時間、21時間、22時間、23時間、24時間、25時間、26時間、27時間、28時間、29時間、または30時間)培養(3-HP生産)時に培地1L当たりの3-HP含有量(g)を基準に、40g/L以上、41g/L以上、42g/L以上、43g/L以上、44g/L以上、45g/L以上、46g/L以上、47g/L以上、48g/L、49g/L以上、50g/L以上、51g/L以上、52g/L以上、または53g/L以上であり得る(上限値は60~1000g/Lの中で特別な制限なしに選択され得、例えば、1000g/L、500g/L、100g/L、90g/L、80gL、70g/L、または60g/Lであり得るが、これに制限されない)。
【0039】
本発明が提供する3-HP製造方法および/または3-HPの生産能向上方法は、3-HP生産による副産物を生産しないものであり得る。副産物は、アセテート(acetate)および/または乳酸(lactate)であり得る。一例において副産物は、全体培養液内の濃度が1%(w/v)以下、0.5%(w/v)以下、0.1%(w/v)以下、0.01%(w/v)以下、0.001%(w/v)以下、0.0001%(w/v)、または0.00001%(w/v)以下生産されたり(この時、副産物濃度の下限値は0~0.000001(w/v)より選択され得るが、これに制限されるのではない)、0%(w/v)の濃度で生産(副産物が検出可能な濃度で生成されない)され得る。
【0040】
本明細書で提供される2段階3-HP製造方法は、細胞増殖および3-HP生産が同時に起こる1段階発酵方式に比べて、3-HP収率(%)が1.05倍以上または1.1倍以上高くてもよく、例えば、1.05~10倍、1.05~5倍、1.05~2倍、1.05~1.7倍、1.05~1.5倍、1.05~1.2倍、1.1~10倍、1.1~5倍、1.1~2倍、1.1~1.7倍、1.1~1.5倍または1.1~1.2倍高くてもよく、例えば約1.13倍高くてもよい。
【0041】
本発明が提供する2段階3-HP製造方法は、前記1段階発酵方式に比べて3-HP生産能(g/L/h)が1.1倍以上、1.3倍以上、または1.5倍以上高くてもよく、例えば、1.1~10倍、1.1~5倍、1.1~3倍、1.1~2.5倍、1.1~2倍、1.3~10倍、1.3~5倍、1.3~3倍、1.3~2.5倍、1.3~2倍、1.5~10倍、1.5~5倍、1.5~3倍、1.5~2.5倍、1.5~2倍、1.9~3倍、1.9~2.5倍または1.9~2倍高くてもよく、例えば、約1.96倍高くてもよい。
【0042】
本発明が提供する2段階3-HP製造方法は、(2)高濃度培養された細胞を分離し、3-ヒドロキシプロピオン酸生産用培地に接種および/または培養して3-ヒドロキシプロピオン酸を生産する段階の後に、前記培養液から3-ヒドロキシプロピオン酸を分離、回収、および/または精製する段階を追加的に含むことができる。
【0043】
3-HPを含む培養液
本出願の他の例は、3-ヒドロキシプロピオン酸を高濃度で含む3-ヒドロキシプロピオン酸生産菌株の培養液を提供する。培養液は、細胞(3-ヒドロキシプロピオン酸生産菌株)を含まないかまたは含むものであり得る。前記培養液は、葡萄糖を含まないものであり得る。
【0044】
3-ヒドロキシプロピオン酸生産菌株は、先に説明したとおりである。
培養液は、高濃度細胞培養した3-ヒドロキシプロピオン酸生産菌株を3-ヒドロキシプロピオン酸生産用培地に接種して得られた細胞(菌注)を含むかまたは細胞を含まない培養液であり得、3-ヒドロキシプロピオン酸生産用培地および/または培養液は、葡萄糖を含まないものであり得る。高濃度細胞培養は、前記の(1)段階で説明したとおりである。
【0045】
一例において、培養液は、先に説明した(1)段階および(2)段階により得られるものであり得る。
【0046】
培養液は、3-ヒドロキシプロピオン酸の濃度が41g/L以上、42g/L以上、43g/L以上、44g/L以上、45g/L以上、46g/L以上、47g/L以上、48g/L、49g/L以上、50g/L以上、51g/L以上、52g/L以上、または53g/L以上であり得る(上限値は60~1000g/Lの中で特別な制限はなしに選択され得、例えば、1000g/L、500g/L、100g/L、90g/L、80g/L、70g/L、または60g/Lであり得るが、これに制限されない)。前記培養液は、アセテートおよび乳酸からなる群より選択された副産物の濃度が1%(w/v)以下、0.5%(w/v)以下、0.1%(w/v)以下、0.01%(w/v)以下、0.001%(w/v)、0.0001%(w/v)、または0.00001%(w/v)以下(この時、副産物濃度の下限値は0~0.000001(w/v)より選択され得るが、これに制限されない)であるか、または0%(w/v)であり得る。
【0047】
前記培養液は、3-ヒドロキシプロピオン酸生産用途で使用することができる。
【0048】
他の例は、前記培養液を含む3-ヒドロキシプロピオン酸生産用組成物を提供する。
【0049】
他の例は、前記3-ヒドロキシプロピオン酸生産用組成物から3-ヒドロキシプロピオン酸を分離、回収、および/または精製する段階を含む3-ヒドロキシプロピオン酸生産方法を提供する。
【発明の効果】
【0050】
本発明が提供する2段階3-HP生産方法は、1段階培養に比べて3-HP生産能と収率が顕著に向上して、-HPの商用化に有用に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【
図1】本発明の一実施例による3-HP生産菌株の高濃度細胞培養を行った結果、時間の変化に応じたOD変化を示すグラフである。
【
図2】本発明の一実施例により高濃度培養された3-HP生産菌株を3-HP生産用培地に接種した後(0h)、時間の経過により3-HP(3HP)、グリセロール(Glycerol)、アセテート(Acetate)、および乳酸(Lactate)の濃度を測定した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0052】
以下、本発明を実施例に基づいてより詳細に説明する。しかし、下記の実施例は本発明の内容を例示するものに過ぎず、本発明の権利範囲は下記の実施例により制限されない。
【0053】
本明細書で特別な言及がない限り、温度は全て摂氏温度を基準とし、核酸配列は特別な事情がない限り、5’末端から3’末端方向に記載されている。
【実施例0054】
実施例1.3-HP生産菌株の高濃度細胞培養
1-1.3-HP生産菌株の製造
【0055】
グリセロールを基質として使用して3-ヒドロキシプロピオン酸(3-hydroxypropionic acid、3-HP)を生産することが知られているグリセロール脱水酵素(Glycerol dehydratase)およびアルデヒド脱水素酵素(Aldehyde dehydrogenase)をコードする遺伝子を導入した組み換えベクターを製造した。前記製造された組み換えベクターを大腸菌(E. coli)W3110菌株に導入して3-HP生産菌株を製作した。
【0056】
具体的に、グリセロール脱水酵素をコーディングする遺伝子(dhaB)、アルデヒド脱水素酵素をコーディングする遺伝子(aldH)およびグリセロール脱水酵素再活性酵素をコーディングする遺伝子(gdrAB)をプラスミドpCDFにクローニングして3HP生産用組み換えベクター(pCDF_J23101_dhaB_gdrAB_J23100_aldH)を製作した。
【0057】
前記組み換えベクターの製作に使用されたpCDFDuetJ23ベクターは、pCDFDuet-1ベクターのプロモーター部分をJ23101とJ23100プロモーターに置き換えたベクターである。前記ベクターに挿入されるdhaB(U30903.1;約2.7kb;dhaB1、dhaB2およびdhaB3を含む)とgdrAB遺伝子(約2.2kb;gdrA、gdrB)は、クレブシエラ・ニューモニエ(ATCC 25955)の染色体で、下記表1のプライマーを使用して増幅した。クレブシエラ・ニューモニエの染色体上にdhaB123とgdrA遺伝子が並んで位置していて共に増幅し、gdrBはdhaB123、gdrAと反対方向に位置しているため、gdrBだけ別に増幅した。
【0058】
aldH遺伝子は、下記表1の配列番号5および配列番号6の核酸配列からなるプロモーター対を利用してE. coli K12 MG1655菌株の遺伝体から増幅して分離した。下記表1に各遺伝子増幅に使用されたプライマーの核酸配列を表し、名称中の「-F」は正方向プロモーターを、「-R」は逆方向プロモーターを意味する。
【0059】
【0060】
各遺伝子の増幅後、dhaB123、gdrA遺伝子は制限酵素EcoRIとHindIIIを、gdrB遺伝子は制限酵素HindIIIとAflIIを利用して前記pCDFDuetaJ23ベクターのJ23101プロモーターの下流にクローニングした。aldHは、制限酵素KpnIとNdeIを利用してJ23108プロモーターの下にクローニングした。各遺伝子のクローニング方法は、当業界に知られた方法で行われた。
前記プラスミドをE.coli W3110(KCCM 40219)に電気穿孔法で導入して、3HP生産菌株を製造した。
【0061】
1-2.細胞の高濃度培養
前記製造された3-HP生産菌株は、流加培養(fed-batch culture)方法で、5L発酵機(Working volume 2L)で高濃度細胞培養を行った。
【0062】
具体的に、MR培地(1L当たりのKH2PO4 6.67g、(NH4)2HPO4 4g、MgSO4・7H2O 0.8g、クエン酸(citric acid)0.8g、およびトレースメタル溶液(trace metal solution)5mL;ここで、トレースメタル溶液(trace metal solution)は1L当たりの5M HCl 5mL、FeSO4・7H2O 10g、CaCl2 2g、ZnSO4・7H2O 2.2g、MnSO4・4H2O 0.5g、CuSO4・5H2O 1g、(NH4)6Mo7O2・4H2O 0.1g、およびNa2B4O2・10H2O 0.02g)に葡萄糖(Glucose)20g/L、選別のための抗生剤(ストレプトマイシン)25mg/Lを添加して細胞培養培地として使用し、摂氏35度の温度を維持した。pHはアンモニア水を利用して6.95に維持し、溶存酸素量(DO)は攪拌速度を段階的に900rpmまで高めながら20%を維持し、通気量(aeration)は1vvmを維持した。
【0063】
流加培養は、pH-stat feeding方式を利用し、葡萄糖を3g/Lで添加した。
【0064】
培養時間の経過によりUV-スペクトロメーター(UV-Spectrometer)を利用して吸光度(Optical Density、OD)を測定して細胞濃度を測定した。
図1に時間経過によるOD
600数値の変化グラフを示した。培養開始後20時間目にOD
600は約120(乾燥細胞重量30g/L)を示した。
【0065】
前記20時間の高濃度細胞培養を終えた後、細胞培養液を、6,000rpm、摂氏4度で10分間遠心分離して細胞を回収した。回収された細胞はPBS(phosphate-buffered saline)で懸濁して以降の段階に使用した。
【0066】
実施例2.3-HP生産段階
3-HP生産用培地は、葡萄糖(Glucose)を含まないM9培地にグリセロール(Glycerol)70g/L、ビタミンB12 50マイクロMを添加して準備した。3-HP生産用培地に前記実施例1-2で準備した細胞懸濁液を細胞接種量5g/L(乾燥細胞重量基準)になるように接種し、5L発酵機(Working volume 2L)で3-HP生産段階を行った。
【0067】
3-HP生産のための培養条件は、温度摂氏35℃、攪拌速度300rpm、通気量(aeration)は1vvmを維持し、Ca(OH)2を利用してpHを7.0に維持した。
【0068】
前記3-HP生産過程で時間の経過による3-HP、グリセロール(Glycerol)、アセテート(acetate)、および乳酸(lactate)の濃度を高圧液体クロマトグラフィー(High Pressure;HPLC)で測定して、その結果を下記表2および
図2に示した。表2は3-HP生産用培養段階(2段階培養)で接種後、発酵時間の経過に応じた3-HP、グリセロール(Glycerol)、アセテート(Acetate)、および乳酸(Lactate)の濃度(g/L)を測定した結果である。
【0069】
【0070】
図2で確認されるように、3-HP生産用培地に菌株接種後、17時間経過時に3-HP濃度が50.0g/L以上であることが示され、生産能は2.94g/L/hであること確認されて、現在まで文献に報告された数値の中で最も高い3-HP生産能が確認された。
【0071】
接種後29時間が経過した時、最終3-HP濃度は53.3g/Lであることが確認され、収率(yield)は約95.7%という非常に優れた収率と3-HP生産能を示した一方で、3-HP生産による副産物である乳酸とアセテートは29時間が経過するまでほとんど生成されなかった。
【0072】
比較例1.1段階3-HP生産方式と比較
本出願で提供される葡萄糖を含まない3-HP生産用培地を使用する2段階生産方式の3-HP生産能を既存の1段階生産方式と比較するために、前記実施例1-1で製造された3-HP生産菌株を流加培養(fed-batch culture)方法で培養し、培養培地に細胞成長に必要な葡萄糖と基質であるグリセロールを同時に添加して細胞増殖と3-HP生産を同時に進行した(1段階生産方式)。
【0073】
比較のために行われた1段階生産過程を、以下でより具体的に説明する。培養培地は、実施例1-2のMR培地に葡萄糖(Glucose)20g/Lおよび選別のための抗生剤(ストレプトマイシン、streptomycin)25mg/Lを添加して使用し、摂氏35度の温度を維持した。pHはアンモニア水を利用して6.95に維持し、溶存酸素量(DO)は攪拌速度を段階的に900rpmまで高めながら20%を維持し、通気量(aeration)は1vvmを維持した。
【0074】
培養培地内の初期に添加された葡萄糖が全て消耗すると定速(continuous feeding)培養方式で葡萄糖を3g/Lを添加し、グリセロールを培養後20時間後に70g/Lで添加した。以降の過程は実施例2と同一に行った。
【0075】
前記3-HP生産過程を通じて製造された3-HP収率および生産能を、高圧液体クロマトグラフィー(High Pressure;HPLC)で測定した。このように得られた3-HP収率および生産能の結果を、実施例1および2を実施した2段階3-HP生産過程を通じた3-HP収率および生産能と比較して、下記表3に示した。
【0076】
【0077】
前記表3で確認されるように2段階3-HP生産方式が既存の1段階生産方式に比べて3-HP収率および生産能に優れている。また、2段階3-HP生産方式では1段階生産方式とは異なり、副産物であるアセテート(acetate)および乳酸(lactate)が生産されないことから、3-HPの2段階生産方式が優れていることを確認した。