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特開2024-163340容器入り液状又はペースト状食品組成物、その製造方法及びその用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024163340
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】容器入り液状又はペースト状食品組成物、その製造方法及びその用途
(51)【国際特許分類】
   A23L 29/00 20160101AFI20241114BHJP
   A23L 23/00 20160101ALI20241114BHJP
【FI】
A23L29/00
A23L23/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024160045
(22)【出願日】2024-09-17
(62)【分割の表示】P 2024507952の分割
【原出願日】2024-01-29
(31)【優先権主張番号】P 2023041949
(32)【優先日】2023-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】713011603
【氏名又は名称】ハウス食品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130443
【弁理士】
【氏名又は名称】遠藤 真治
(72)【発明者】
【氏名】増子 瞳
(57)【要約】
【課題】本発明は、水とともに加熱調理して、粘性を有する液状食品を調製することができる澱粉を含む容器入り液状又はペースト状食品組成物であって、前記水として湯を用いる必要がなく、少ない回数の撹拌で、溶け残りやダマの発生を抑制することができる前記容器入り液状又はペースト状食品組成物を提供する。
【解決手段】本発明の一以上の実施形態は、α化架橋澱粉及び水を含み、水性である、液状又はペースト状食品組成物、並びに、前記液状又はペースト状食品組成物を収容する容器、を備える、容器入り液状又はペースト状食品組成物に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
α化架橋澱粉及び水を含み、水性である、液状又はペースト状食品組成物、並びに、
前記液状又はペースト状食品組成物を収容する容器、
を備える、容器入り液状又はペースト状食品組成物。
【請求項2】
前記α化架橋澱粉が、α化ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉、α化アセチル化アジピン酸架橋澱粉、α化リン酸架橋澱粉及びα化アセチル化リン酸架橋澱粉からなる群から選択される1以上である、請求項1に記載の容器入り液状又はペースト状食品組成物。
【請求項3】
前記α化架橋澱粉の、前記液状又はペースト状食品組成物の全量に対する含有量が、0.1質量%以上50質量%以下である、請求項1又は2に記載の容器入り液状又はペースト状食品組成物。
【請求項4】
前記水の、前記液状又はペースト状食品組成物の全量に対する含有量が、10質量%以上70質量%未満である、請求項1~3のいずれか1項に記載の容器入り液状又はペースト状食品組成物。
【請求項5】
前記液状又はペースト状食品組成物が、α化していない澱粉及び増粘剤から選択される1以上を更に含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の容器入り液状又はペースト状食品組成物。
【請求項6】
前記液状又はペースト状食品組成物が、前記α化架橋澱粉100質量部に対して200質量部以下の前記α化していない澱粉を含む、請求項5に記載の容器入り液状又はペースト状食品組成物。
【請求項7】
前記液状又はペースト状食品組成物が、前記α化架橋澱粉100質量部に対して100質量部以下の前記増粘剤を含む、請求項5又は6に記載の容器入り液状又はペースト状食品組成物。
【請求項8】
前記液状又はペースト状食品組成物が、1質量%以上40質量%以下の油脂を更に含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の容器入り液状又はペースト状食品組成物。
【請求項9】
前記液状又はペースト状食品組成物が、110℃以下の温度で加熱殺菌されたものである、請求項1~8のいずれか1項に記載の容器入り液状又はペースト状食品組成物。
【請求項10】
請求項9に記載の容器入り液状又はペースト状食品組成物の製造方法であって、
(a)前記液状又はペースト状食品組成物を製造すること、並びに、
(b1)前記(a)において製造された前記液状又はペースト状食品組成物を110℃以下の温度において加熱殺菌処理すること、及び
(c1)前記(b1)において加熱殺菌処理された前記液状又はペースト状食品組成物を前記容器に収容し密封すること、
或いは、
(b2)前記(a)において製造された前記液状又はペースト状食品組成物を前記容器に収容し密封すること、及び
(c2)前記(b2)において密封された前記容器中の前記液状又はペースト状食品組成物を110℃以下の温度において加熱殺菌処理すること、
を含む方法。
【請求項11】
粘性を有する液状食品の製造方法であって、
請求項1~9のいずれか1項に記載の容器入り液状又はペースト状食品組成物から前記液状又はペースト状食品組成物を取り出すこと、
前記液状又はペースト状食品組成物と水とを混合すること、及び、
前記液状又はペースト状食品組成物と前記水との混合物を加熱すること、
を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器入り液状又はペースト状食品組成物、その製造方法及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
スープ、ソース等の粘性を有する液状食品の基材として用いられる、澱粉を含む液状又はペースト状食品組成物が従来から知られている。当該組成物を水と混合し加熱することにより、適度な粘性を有する液状食品が得られる。
【0003】
特許文献1では、ホテルパン等の容器中で、澱粉を含むルウ等のペースト状食品基材を水に分散させ、必要に応じて具材を更に加え、スチームコンベクションオーブンにより加熱調理する場合に、加熱調理中の撹拌ができないことから均一な粘性を発現することができず沈殿が発生し易いという問題があることが記載されている。そこで特許文献1では、スチームコンベクションオーブンによる加熱調理に適したペースト状食品基材として、前記基材の全量あたり45~55質量%の油脂分、及び、固形分を含み、前記油脂分が、前記基材の全量あたり、20~45質量%の液体油脂、及び、10~30質量%の固体油脂を含み、前記固形分が、前記基材の全量あたり、5~15質量%の生デンプン、及び、0.05~25質量%の水溶性の、水に溶けて粘性を発現できる粘性剤を含むことを特徴とするペースト状食品基材が開示されている。特許文献1では、前記ペースト状食品基材は、湯を加えることで均一に分散することができ、スチームコンベクションオーブンによる加熱調理により均一な粘性を発現することができることが記載されている。特許文献1では、前記粘性剤としてα化デンプン、ガム質、パルプ等が記載されており、前記α化デンプンとしてα化アセチル化アジピン酸架橋澱粉等が例示されている。
【0004】
特許文献2では、澱粉、水及び糖質を含有し、更に塩を含んでもよい容器入りペースト状ルウの製造方法が記載されている。特許文献1では、前記澱粉が、α化澱粉と未α化澱粉との混合物である場合に、未α化澱粉のみからなる場合よりもペースト状ルウ中における澱粉の沈降分離が生じにくいことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2022-146727号公報
【特許文献2】特開2002-233339号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
澱粉を含む液状又はペースト状食品組成物と水を含み、必要に応じて具材を更に含む混合物を加熱調理して、スープ、ソース等の粘性を有する液状食品を製造する場合、前記澱粉を含む液状又はペースト状食品組成物の溶け残りや、糊化した澱粉の凝集物(ダマ)の発生を抑制するためには、加熱調理の前及び途中に、前記混合物を十分に撹拌して均一化することが有効である。しかしながら、飲食店、宿泊施設で用いられる業務用の鍋は大型であるため、鍋の中で前記混合物を頻繁に撹拌することは容易ではない場合がある。
【0007】
特許文献1に記載のペースト状食品基材は油脂を連続相として含む油性組成物であるため、前記ペースト状食品基材を湯に加えたとき油脂が溶解して固形分が均一に分散した混合物が生じる。特許文献1によれば、湯を用いて得られた均一な前記混合物を加熱調理することにより、加熱調理中に撹拌しなくとも均一な粘性を有する液状食品を提供することができる。しかしながら、特許文献1に記載のペースト状食品基材を利用するためには、湯を別途用意することが望ましく、利用範囲が制限される場合がある。
【0008】
そこで本明細書では、水とともに加熱調理して粘性を有する液状食品を調製することができる澱粉を含む容器入り液状又はペースト状食品組成物であって、前記水として常温よりも温度の高い水(すなわち湯)を用いる必要がなく、少ない回数の撹拌操作により、溶け残りや、糊化した澱粉の凝集物(ダマ)の発生を抑制することができる前記容器入り液状又はペースト状食品組成物を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは下記の本発明の一以上の実施形態に係る容器入り液状又はペースト状食品組成物は、それを水と混合し加熱調理して粘性を有する液状食品を調製する際に、少ない回数の撹拌操作により、溶け残りや、糊化した澱粉の凝集物の発生が抑制できること、並びに、前記水としては常温よりも温度が高い水(湯)を用いる必要がないことを見出した。本発明の一以上の実施形態に係る容器入り液状又はペースト状食品組成物は下記の特徴を有することができる。
【0010】
(1)α化架橋澱粉及び水を含み、水性である、液状又はペースト状食品組成物、並びに、
前記液状又はペースト状食品組成物を収容する容器、
を備える、容器入り液状又はペースト状食品組成物。
(2)前記α化架橋澱粉が、α化ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉、α化アセチル化アジピン酸架橋澱粉、α化リン酸架橋澱粉及びα化アセチル化リン酸架橋澱粉からなる群から選択される1以上である、(1)に記載の容器入り液状又はペースト状食品組成物。
(3)前記α化架橋澱粉の、前記液状又はペースト状食品組成物の全量に対する含有量が、0.1質量%以上50質量%以下である、(1)又は(2)に記載の容器入り液状又はペースト状食品組成物。
(4)前記水の、前記液状又はペースト状食品組成物の全量に対する含有量が、10質量%以上70質量%未満である、(1)~(3)のいずれかに記載の容器入り液状又はペースト状食品組成物。
(5)前記液状又はペースト状食品組成物が、α化していない澱粉及び増粘剤から選択される1以上を更に含む、(1)~(4)のいずれかに記載の容器入り液状又はペースト状食品組成物。
(6)前記液状又はペースト状食品組成物が、前記α化架橋澱粉100質量部に対して200質量部以下の前記α化していない澱粉を含む、(5)に記載の容器入り液状又はペースト状食品組成物。
(7)前記液状又はペースト状食品組成物が、前記α化架橋澱粉100質量部に対して100質量部以下の前記増粘剤を含む、(5)又は(6)に記載の容器入り液状又はペースト状食品組成物。
(8)前記液状又はペースト状食品組成物が、1質量%以上40質量%以下の油脂を更に含む、(1)~(7)のいずれかに記載の容器入り液状又はペースト状食品組成物。
(9)前記液状又はペースト状食品組成物が、110℃以下の温度で加熱殺菌されたものである、(1)~(8)のいずれかに記載の容器入り液状又はペースト状食品組成物。
(10)(9)に記載の容器入り液状又はペースト状食品組成物の製造方法であって、
(a)前記液状又はペースト状食品組成物を製造すること、並びに、
(b1)前記(a)において製造された前記液状又はペースト状食品組成物を110℃以下の温度において加熱殺菌処理すること、及び
(c1)前記(b1)において加熱殺菌処理された前記液状又はペースト状食品組成物を前記容器に収容し密封すること、
或いは、
(b2)前記(a)において製造された前記液状又はペースト状食品組成物を前記容器に収容し密封すること、及び
(c2)前記(b2)において密封された前記容器中の前記液状又はペースト状食品組成物を110℃以下の温度において加熱殺菌処理すること、
を含む方法。
(11)粘性を有する液状食品の製造方法であって、
(1)~(9)のいずれかに記載の容器入り液状又はペースト状食品組成物から前記液状又はペースト状食品組成物を取り出すこと、
前記液状又はペースト状食品組成物と水とを混合すること、
前記液状又はペースト状食品組成物と前記水との混合物を加熱すること、
を含む方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一以上の実施形態に係る容器入り液状又はペースト状食品組成物は、前記液状又はペースト状食品組成物を水と混合し加熱調理して粘性を有する液状食品を調製する際に、少ない回数の撹拌により、溶け残りや、糊化した澱粉の凝集物の発生を抑制することができる。
また、前記加熱調理前に、本発明の一以上の実施形態に係る容器入り液状又はペースト状食品組成物と混合する水は、常温よりも温度が高い水(湯)である必要がない。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<容器入り液状又はペースト状食品組成物>
本発明の一以上の実施形態に係る容器入り液状又はペースト状食品組成物は、
α化架橋澱粉及び水を含み、水性である、液状又はペースト状食品組成物、並びに、
前記液状又はペースト状食品組成物を収容する容器、
を備えることを特徴とする。
【0013】
本発明の一以上の実施形態に係る容器入り液状又はペースト状食品組成物は、前記液状又はペースト状食品組成物を水と混合し加熱調理して粘性を有する液状食品を調製する際に、少ない回数の撹拌により、溶け残りや、糊化した澱粉の凝集物(ダマ)の発生を抑制することができる。典型的には、水との混合から加熱調理完了までの間全く撹拌を行わなくとも、加熱調理完了後に穏やかに撹拌するだけで、溶け残りや、ダマの発生を抑制することができる。このため、本実施形態に係る容器入り液状又はペースト状食品組成物は、頻繁に撹拌することが容易ではない業務用の大型の鍋を用いて粘性を有する液状食品を調製する用途に特に好適に利用することができる。また、加熱調理前に、本実施形態に係る容器入り液状又はペースト状食品組成物と混合する水は、常温よりも温度が高い水(湯)、例えば40℃以上100℃以下の水、である必要がないため、簡便な操作で前記液状食品の調製が可能である。前記水としては、温度を制御していない水道水などの、5~20℃の温度の水を用いることができる。
【0014】
典型的には、本実施形態に係る容器入り液状又はペースト状食品組成物を、容器から取り出し、5~20℃の3倍量の水に加えたとき、水中で沈殿し、そのまま撹拌せずに加熱すると糊化した沈殿が形成されるが、加熱後に穏やかに撹拌することにより前記沈殿は分散して、粘性を有する液状食品が形成される。この現象は、α化架橋澱粉の代わりに、架橋されていないα化澱粉や、α化されていない澱粉のみを用いた場合には生じない驚くべき現象である。
【0015】
本実施形態に係る容器入り液状又はペースト状食品組成物は、水とともに加熱することにより、カレーソース、シチューソース、デミグラスソース等のソース類、ポタージュスープ等のスープ類等の、粘性を有する液状食品を製造するための基材として利用することができる。
【0016】
本実施形態に係る容器入り液状又はペースト状食品組成物における容器は、液状又はペースト状食品組成物を収容し密封し取り出すことができる容器であれば特に限定されないが、液状又はペースト状食品組成物を絞り出すことが可能な柔軟性容器が好ましく、例えばチューブ状容器、パウチ等が利用できる。
【0017】
本実施形態に係る容器入り液状又はペースト状食品組成物の内容物である液状又はペースト状食品組成物(以下「本実施形態に係る食品組成物」と称する場合がある)の特徴について説明する。
【0018】
本実施形態に係る食品組成物は、α化架橋澱粉及び水を含み、且つ、水性である組成物である。ここで「水性である」食品組成物とは、前記水及び前記水により溶解又は膨潤した成分が連続相である食品組成物を指す。前記水により溶解又は膨潤した成分としては、前記水により膨潤したα化架橋澱粉や、後述する他の澱粉、糖質等が例示できる。本実施形態に係る食品組成物は、後述するように油脂や、その他の疎水性成分を含むことができるが、それらは分散相として、前記水及び前記水により溶解又は膨潤した成分を含む連続相中に分散して存在する。
【0019】
本実施形態に係る食品組成物においてα化架橋澱粉は、α化(糊化)されており且つ架橋された澱粉である。α化架橋澱粉における架橋の種類は、食品として許容されるものであれば特に限定されず、α化ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉、α化アセチル化アジピン酸架橋澱粉、α化リン酸架橋澱粉、α化アセチル化リン酸架橋澱粉及びα化リン酸モノエステル化リン酸架橋澱粉からなる群から選択される1以上が好ましく、α化ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉、α化アセチル化アジピン酸架橋澱粉、α化リン酸架橋澱粉及びα化アセチル化リン酸架橋澱粉からなる群から選択される1以上が特に好ましい。α化架橋澱粉の起源植物は、食品として許容されるものであれば特に限定されず、例えば馬鈴薯、タピオカ、トウモロコシ、コムギが例示できる。起源の異なる2種以上のα化架橋澱粉を混合して用いてもよい。
【0020】
本実施形態に係る食品組成物におけるα化架橋澱粉の含有量は、目的とする希釈倍率や液状食品の粘性に応じて適宜調節することができるが、本実施形態に係る食品組成物の全量に対して、上限は好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは30質量%以下、最も好ましくは20質量%以下であり、下限は好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは1質量%以上、より好ましくは5質量%以上である。すなわち、本実施形態に係る食品組成物におけるα化架橋澱粉の含有量は、食品組成物の全量に対して、好ましくは0.1質量%以上50質量%以下、より好ましくは1質量%以上40質量%以下、更に好ましくは5質量%以上30質量%以下、最も好ましくは5質量%以上20質量%以下であることができる。α化架橋澱粉の含有量がこの範囲である場合に、溶け残りやダマの発生を抑制する効果が特に高い。
【0021】
本実施形態に係る食品組成物における水の含有量は、目的とする希釈倍率に応じて適宜調節することができるが、本実施形態に係る食品組成物の全量に対して、上限は好ましくは70質量%未満、より好ましくは60質量%以下、更に好ましくは40質量%以下、最も好ましくは30質量%以下であり、下限は好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上である。すなわち、本実施形態に係る食品組成物における水の含有量は、食品組成物の全量に対して、好ましくは10質量%以上70質量%未満、より好ましくは10質量%以上60質量%以下、更に好ましくは15質量%以上40質量%以下、最も好ましくは15質量%以上30質量%以下であることができる。水の含有量がこの範囲である場合に、溶け残りやダマの発生を抑制する効果が特に高い。
【0022】
本実施形態に係る食品組成物は、澱粉としてα化架橋澱粉のみを含んでもよいし、α化していない澱粉(「未α化澱粉」又は「未糊化澱粉」と称する場合がある)及び架橋していないα化澱粉(「α化未架橋澱粉」と称する場合がある)から選択される1以上を更に含んでもよい。また、本実施形態に係る食品組成物は増粘剤を更に含んでもよい。本実施形態に係る食品組成物が、α化架橋澱粉に加えて、α化していない澱粉及び増粘剤から選択される1以上を含む態様は、α化架橋澱粉が有する結着性が、α化架橋澱粉と、α化していない澱粉及び/又は増粘剤とが混合されることにより抑制されるため、生産が容易になるという点で好ましい。本明細書において、α化架橋澱粉、α化していない澱粉、及び、架橋していないα化澱粉の量は、これらの澱粉が、タンパク質等の澱粉以外の成分を含む澱粉(例えば小麦粉)として配合される場合には、前記澱粉以外の成分も含む澱粉素材としての量を指す。
【0023】
本実施形態に係る食品組成物が、α化していない澱粉を更に含む態様では、前記α化していない澱粉の、前記α化架橋澱粉100質量部に対する含有量(α化していない澱粉が複数の場合は合計の含有量)は、上限が好ましくは200質量部以下、より好ましくは150質量部以下、更に好ましくは100質量部以下、特に好ましくは82質量部以下、最も好ましくは80質量部以下であり、下限が好ましくは10質量部以上、より好ましくは30質量部以上、特に好ましくは50質量部以上であることができる。すなわち、本実施形態に係る食品組成物における、前記α化していない澱粉の、前記α化架橋澱粉100質量部に対する含有量は、好ましくは10質量部以上200質量部以下、より好ましくは10質量部以上150質量部以下、更に好ましくは30質量部以上100質量部以下、特に好ましくは30質量部以上82質量部以下、最も好ましくは50質量部以上80質量部以下であることができる。α化していない澱粉を、α化架橋澱粉100質量部に対して10質量部以上含有する本実施形態に係る食品組成物は、生産性が特に良好である。また、α化していない澱粉の含有量をα化架橋澱粉100質量部に対して200質量部以下とすることで、本実施形態に係る食品組成物を水とともに加熱調理する際の、溶け残りやダマの発生を抑制する効果が特に高い。α化していない澱粉を含む食品組成物は、水中での加熱調理により好ましい粘性又は風味を発現する一方で、溶け残りやダマの発生が課題であった。α化架橋澱粉とともにα化していない澱粉を含む本態様の食品組成物は、この課題を解決することができる。α化していない澱粉は、未加工の澱粉及び加工澱粉から選択される1以上であってよい。未加工の澱粉としては、例えば馬鈴薯、タピオカ、トウモロコシ及びコムギから選択される1以上の起源植物からの澱粉が使用でき、小麦粉のようにタンパク質等の他の成分を含有する澱粉も使用できる。加工澱粉としては、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉、アセチル化アジピン酸架橋澱粉、リン酸架橋澱粉、アセチル化リン酸架橋澱粉、リン酸モノエステル化リン酸架橋澱粉、アセチル化酸化澱粉、オクテニルコハク酸澱粉ナトリウム、酢酸澱粉、酸化澱粉、ヒドロキシプロピル澱粉及びリン酸化澱粉からなる群から選択される1以上が使用できる。加工澱粉の起源植物もまた、特に限定されず、例えば馬鈴薯、タピオカ、トウモロコシ及びコムギから選択される1以上であることができる。
【0024】
本実施形態に係る食品組成物が、増粘剤を更に含む態様では、前記増粘剤の、前記α化架橋澱粉100質量部に対する含有量(増粘剤が複数の場合は合計の含有量)は、上限が好ましくは100質量部以下、より好ましくは50質量部以下、特に好ましくは10質量部以下であり、下限が好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは1質量部以上、特に好ましくは2質量部以上であることができる。すなわち、本実施形態に係る食品組成物における、前記増粘剤の、前記α化架橋澱粉100質量部に対する含有量は、好ましくは0.1質量部以上100質量部以下、より好ましくは1質量部以上50質量部以下、更に好ましくは2質量部以上10質量部以下であることができる。増粘剤を、α化架橋澱粉100質量部に対して0.1質量部以上含有する本実施形態に係る食品組成物は、生産性が特に良好である。また、増粘剤の含有量をα化架橋澱粉100質量部に対して100質量部以下とすることで、本実施形態に係る食品組成物を水とともに加熱調理する際の、溶け残りやダマの発生を抑制する効果が特に高い。増粘剤としては、キサンタンガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、寒天、タラガム、ジェランガム、ペクチン、グアーガム及びゼラチンからなる群から選択される1以上が例示できる。
【0025】
本実施形態に係る食品組成物が、架橋していないα化澱粉を更に含む態様では、前記架橋していないα化澱粉の、前記α化架橋澱粉100質量部に対する含有量(架橋していないα化澱粉が複数の場合は合計の含有量)は、上限が好ましくは200質量部以下、より好ましくは150質量部以下、更に好ましくは100質量部以下、特に好ましくは82質量部以下、最も好ましくは80質量部以下であり、下限は好ましくは10質量部以上、より好ましくは30質量部以上、特に好ましくは50質量部以上である。すなわち、本実施形態に係る食品組成物における、前記架橋していないα化澱粉の、前記α化架橋澱粉100質量部に対する含有量は、好ましくは10質量部以上200質量部以下、より好ましくは10質量部以上150質量部以下、更に好ましくは30質量部以上100質量部以下、特に好ましくは30質量部以上82質量部以下、最も好ましくは50質量部以上80質量部以下であることができる。架橋していないα化澱粉としては、馬鈴薯、タピオカ、トウモロコシ及びコムギから選択される1以上の起源植物からの澱粉をα化したものや、アセチル化酸化澱粉、オクテニルコハク酸澱粉ナトリウム、酢酸澱粉、酸化澱粉、ヒドロキシプロピル澱粉及びリン酸化澱粉からなる群から選択される1以上の加工澱粉をα化したものが使用できる。
【0026】
本実施形態に係る食品組成物は、好ましくは油脂を更に含む。上記のように本実施形態に係る食品組成物は水性であるが、油脂は分散相として含まれ得る。油脂の含有量は特に限定されないが、本実施形態に係る食品組成物の全量に対して、上限は好ましくは40質量%以下、より好ましくは35質量%以下であり、下限は好ましくは1質量%以上、より好ましくは5質量%以上、更に好ましくは10質量%以上、最も好ましくは20質量%以上であることができる。すなわち、本実施形態に係る食品組成物における油脂の含有量は、食品組成物の全量に対して、好ましくは1質量%以上40質量%以下、より好ましくは5質量%以上35質量%以下、更に好ましくは20質量%以上35質量%以下であることができる。本実施形態に係る食品組成物において、油脂としては、豚脂、牛脂等の動物性油脂、パーム油、ヤシ油、菜種油、コーン油、大豆油、キャノーラ油、綿実油、米油等の植物性油脂が使用でき、2種以上の油脂を含んでもよい。
【0027】
本実施形態に係る食品組成物は、3倍の質量の水と混合(4倍希釈)し撹拌せずに、45分間かけて90℃まで昇温し、昇温後2分間撹拌して均一化したのち、60℃まで降温した時点で測定した粘度が400mPa・s以上であることが好ましく、前記粘度が600mPa・s以上であることがより好ましく、前記粘度の上限は特に限定されず、例えば4000mPa・s以下であることができる。すなわち、前記粘度は好ましくは400mPa・s以上4000mPa・s以下、より好ましくは600mPa・s以上4000mPa・s以下であることができる。ここで粘度の測定方法は、実験1及び実験2に記載のB型粘度計を用いた方法が採用できる。
【0028】
本実施形態に係る食品組成物は、目的に応じて、1以上の他の食品成分を更に含むことができる。他の食品成分としては、糖質、デキストリン、カレーパウダー、香辛料、旨味調味料、野菜エキス、野菜ペースト、肉エキス、乳製品、酸味料、抗酸化剤、増粘剤等が例示できる。
【0029】
<容器入り液状又はペースト状食品組成物の製造方法>
本発明の一以上の実施形態に係る容器入り液状又はペースト状食品組成物は、液状又はペースト状食品組成物(本実施形態に係る食品組成物)を製造し、それを容器に収容することにより製造することができる。
【0030】
本実施形態に係る食品組成物の製造方法は特に限定されず、目的とする食品組成物に応じた方法により製造することができる。
【0031】
本実施形態に係る食品組成物を加熱殺菌処理した後に、容器に収容し密封して、更に加熱殺菌処理してもよいし、本実施形態に係る食品組成物を未殺菌のまま容器に収容し密封したのちに加熱殺菌処理してもよい。加熱殺菌処理する場合の温度は、上限が110℃以下、より好ましくは100℃以下、下限は好ましくは60℃以上、より好ましくは70℃以上、更に好ましくは75℃以上である。すなわち、加熱殺菌処理温度は、好ましくは60℃以上110℃以下、より好ましくは70℃以上110℃以下、75℃以上100℃以下であることができる。このような温度で加熱殺菌することにより、特に120℃以上の温度で加熱殺菌する、いわゆるレトルト殺菌処理の場合と比べて、食品組成物の粘度上昇を抑制して容器から取り出しやすく、加熱殺菌によるダメージを抑えて水と混合したときに風味のよい液状食品を調製できる。
【0032】
加熱殺菌された容器入り液状又はペースト状食品組成物は、好ましくは、
(a)前記液状又はペースト状食品組成物を製造すること、
(b1)前記(a)において製造された前記液状又はペースト状食品組成物を110℃以下の温度において加熱殺菌処理すること、及び
(c1)前記(b1)において加熱殺菌処理された前記液状又はペースト状食品組成物を前記容器に収容し密封すること、
を含む方法、或いは、
(a)前記液状又はペースト状食品組成物を製造すること、
(b2)前記(a)において製造された前記液状又はペースト状食品組成物を前記容器に収容し密封すること、及び
(c2)前記(b2)において密封された前記容器中の前記液状又はペースト状食品組成物を110℃以下の温度において加熱殺菌処理すること、
を含む方法により、製造することができる。
【0033】
前記(b1)又は(c2)における温度は、更に好ましくは、加熱殺菌処理の温度とし説明した上記の温度範囲であることができる。
【0034】
前記(a)は、α化架橋澱粉及び水、並びに、必要に応じて上記で説明した1以上の更なる成分を、好ましくは100℃以下、より好ましくは70℃未満、特に好ましくは60℃未満の温度、例えば4℃以上110℃以下、好ましくは4℃以上70℃未満、特に好ましくは4℃以上60℃未満の温度、において混合することを含むことができる。前記(a)をこのような温度条件で行うことにより、粘度上昇が抑制され、容器への充填及び容器からの取り出しに適した粘度を有する前記液状又はペースト状食品組成物が得ることができる。
【0035】
<容器入り液状又はペースト状食品組成物を用いた粘性を有する液状食品の製造方法>
本発明の一以上の実施形態に係る容器入り液状又はペースト状食品組成物は、上記で説明したような、粘性を有する液状食品の製造に用いることができる。
【0036】
具体的には、粘性を有する液状食品の製造方法は、
本発明の一以上の実施形態に係る容器入り液状又はペースト状食品組成物の容器から、液状又はペースト状食品組成物を取り出すこと、
前記液状又はペースト状食品組成物と水とを混合すること、及び、
前記液状又はペースト状食品組成物と前記水との混合物を加熱すること、
を含むことができる。
【0037】
前記水の量は適量であればよく、例えば前記食品組成物に対して1~10倍量(質量基準)の水を前記食品組成物と混合することができる。
【0038】
前記混合物を加熱することにより、粘性を発現させて、粘性を有する液状食品を製造することができる。液状又はペースト状食品組成物と水に加えて、必要に応じて野菜や肉等の具材を加えることができる。前記水は温水である必要はなく、温度を制御していない水道水などの、5~20℃の温度の水を用いることができる。また、上述の通り、水との混合から加熱調理完了までの間全く撹拌を行わなくとも、加熱調理完了後に穏やかに撹拌するだけで、溶け残りや、ダマの発生を抑制することができる。
【実施例0039】
1.実験1
1-1.原料組成
下記表に示す原料を50℃程度の温度で混合し、柔軟なパウチに密封して、実施例1-1及び比較例1-1の容器入りペースト状食品組成物を製造した。
【0040】
【表1】
【0041】
1-2.粘性ソースの調製
容量3Lの容器に、前記パウチから取り出した実施例1-1又は比較例1-1のペースト状食品組成物600gと、それに対し3倍の質量の約20℃の水とを加えた。前記容器中の内容物を、45分間で90℃に昇温するように加熱し、昇温完了後にレードルを用いて2分間穏やかに撹拌して、粘性ソースを調製した。前記内容物は、前記容器への材料の添加時、昇温前及び昇温中には撹拌しなかった。90℃の前記粘性ソースを、目開き2mmメッシュのふるいに通し、ふるい上の残留物の質量を測定し、使用したペースト状食品組成物に対する残留物の割合を算出した。加熱撹拌後の前記粘性ソースの温度を60℃に調整し、B型粘度計(ローターNo.3、回転数12rpm)を使用して粘度を測定した。
【0042】
実施例1-1及び比較例1-1のペースト状食品組成物から調製した粘性ソースの前記残留物の質量、ペースト状食品組成物に対する前記残留物の割合及び粘度を下記の表に示す。
【0043】
【表2】
【0044】
澱粉質として、α化(糊化)していない澱粉を含み、α化した澱粉を含まない、比較例1-1のペースト状食品組成物から調製した粘性ソースは、分散しない凝集物(ダマ)を多く含むため残留物の割合が7.0%と高く、粘度は390mPa・sと低値であった。
【0045】
これに対し、澱粉質として、α化架橋澱粉とα化未架橋澱粉とを含む、実施例1-1のペースト状食品組成物から調製した粘性ソースは、ダマが少ないため残留物の割合が1.9%と小さく、粘度は810mPa・sと高値であった。
【0046】
2.実験2
2-1.原料組成
下記表に示す原料を、50℃程度の温度で混合し、柔軟なパウチに密封し、加熱殺菌処理して、実施例2-1~2-2-6及び比較例2-1~2-2の容器入りペースト状食品組成物を製造した。前記加熱殺菌処理は、密封された前記パウチを85℃の温水中で40分間加熱して殺菌する処理であった。
【0047】
【表3】
【0048】
【表4】
【0049】
【表5】
【0050】
2-2.粘性ソースの調製
容量3Lの容器に、前記パウチから取り出した各実施例、比較例のペースト状食品組成物600gと、約20℃の水1800g(3倍量)とを加えた。前記容器中の内容物を、30分間~40分間程度で約90℃に昇温するように加熱し、昇温完了後に泡立て器を用いて2分間穏やかに撹拌して、粘性ソースを調製した。前記内容物は、前記容器への材料の添加時、昇温前及び昇温中には撹拌しなかった。90℃の前記粘性ソースを、目開き2mmメッシュのふるいに通し、ふるい上の残留物の質量を測定し、使用したペースト状食品組成物600gに対する残留物の割合を算出した。加熱撹拌後の前記粘性ソースの温度を60℃に調整し、B型粘度計(ローターNo.3、回転数12rpm)を使用して粘度を測定した。
【0051】
各実施例、比較例のペースト状食品組成物から調製した粘性ソースの前記残留物の質量、ペースト状食品組成物に対する前記残留物の割合及び粘度を下記の表に示す。
【0052】
【表6】
【0053】
澱粉質として、α化未架橋澱粉と、α化していない澱粉(小麦粉)とを含む、比較例2-1及び2-2のペースト状食品組成物から調製した粘性ソースは、分散しない凝集物(ダマ)を多く含むため残留物の割合がそれぞれ12.3%、13.7%と高く、粘度は313mPa・s、363mPa・sと低値であった。
【0054】
これに対し、澱粉質として、α化架橋澱粉と、α化していない澱粉(小麦粉)とを含む、実施例2-1~2-6のペースト状食品組成物から調製した粘性ソースは、ダマが少ないため残留物の割合が2.4%と小さく、粘度は1313~2800mPa・sという高値であった。この結果から、α化架橋澱粉を配合したペースト状食品組成物を水に希釈し加熱して調製された粘性ソースは、α化架橋澱粉の架橋の種類及び起源植物に関わらず、ダマが少なく、且つ、十分な粘性を有することが示された。
【0055】
3.実験3
実施例2-1~2-6と同じ原料を、それぞれ、50℃程度の温度で混合した後、100℃に加熱して殺菌処理した後に、容器に収容し密封して、実施例3-1~3-6のペースト状食品組成物を得た。
【0056】
得られた実施例3-1~3-6のペースト状食品組成物を、上記の「2-2.粘性ソースの調製」に記載の手順により水に希釈し加熱して粘性ソースを調製した。
【0057】
実施例3-1~3-6のペースト状食品組成物から調製した粘性ソースは、α化架橋澱粉の架橋の種類及び起源植物に関わらず、ダマが少なく、且つ、十分な粘性を有するものであった。