(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024163418
(43)【公開日】2024-11-22
(54)【発明の名称】低温液化ガス爆発試験用耐圧容器、及び低温液化ガス爆発試験装置
(51)【国際特許分類】
G01N 25/54 20060101AFI20241115BHJP
G01N 33/22 20060101ALI20241115BHJP
【FI】
G01N25/54
G01N33/22 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023078997
(22)【出願日】2023-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】320011650
【氏名又は名称】大陽日酸株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127845
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 壽彦
(72)【発明者】
【氏名】水野 全
【テーマコード(参考)】
2G040
【Fターム(参考)】
2G040AA02
2G040AB04
2G040BA04
2G040BA24
2G040CA02
2G040CA03
2G040EA08
2G040EA11
2G040EA13
2G040EB01
2G040EB02
2G040EC09
2G040FA01
2G040FA06
2G040GA03
2G040GB02
2G040GC01
2G040HA01
2G040HA11
2G040HA16
2G040ZA08
(57)【要約】
【課題】低温の液化ガスの爆発試験として鋼管試験を実施するための低温液化ガス爆発試験用耐圧容器、及び低温液化ガス爆発試験装置を提供する。
【解決手段】本発明に係る低温液化ガス爆発試験用耐圧容器10は、低温の液化ガスの爆発試験として鋼管試験を実施するために用いるものであって、鋼管1に貯留された低温の液化ガスの爆発を受け止める容器本体11と、容器本体11内に設置され、容器本体11内に導入された気体状ガスを液化して鋼管1内に液化ガスを貯留するために、容器本体11外部から冷熱の供給を受けて鋼管1を冷却する液化コールドベース13と、容器本体11内において液化コールドベース13の周囲に配設され、鋼管1の外部で液化した液化ガスを気化させる気化コールドベース15と、液化コールドベース13と気化コールドベース15との間に配設されて熱移動を抑制する伝熱抵抗部17と、を備えたものである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
低温の液化ガスの爆発試験として鋼管試験を実施するために用いる低温液化ガス爆発試験用耐圧容器であって、
有底の鋼管に貯留された前記液化ガスの爆発を受け止める容器本体と、
前記容器本体内に設置され、前記鋼管を保持するとともに、前記容器本体内に導入される気体状ガスを液化して前記鋼管内に前記液化ガスを貯留するために、前記容器本体の外部から冷熱の供給を受けて前記鋼管を冷却する液化コールドベースと、
前記容器本体内において前記液化コールドベースの周囲に配設され、前記鋼管の外部で液化した前記液化ガスを気化させる気化コールドベースと、
前記液化コールドベースと前記気化コールドベースとの間に配設され、前記液化コールドベースと前記気化コールドベースとの間の熱移動を抑制する伝熱抵抗部と、を備えたことを特徴とする低温液化ガス爆発試験用耐圧容器。
【請求項2】
前記液化コールドベースは、前記容器本体における底部側の中央に配設され、
前記気化コールドベースは、前記液化コールドベースの同心円状に配設されていることを特徴とする請求項1に記載の低温液化ガス爆発試験用耐圧容器。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の低温液化ガス爆発試験用耐圧容器を備えた低温液化ガス爆発試験装置であって、
前記低温液化ガス爆発試験用耐圧容器を内部に設置し、該低温液化ガス爆発試験用耐圧容器への熱の侵入を抑制する真空断熱槽と、
前記容器本体に設けられ、該容器本体内に前記液化ガスの気体状ガスを導入する気体状ガス導入口と、
前記液化コールドベースを前記液化ガスが液化する温度以下の温度に調節する液化コールドベース温度調節部と、
前記気化コールドベースを前記液化ガスが液化する温度以上の温度に調節する気化コールドベース温度調節部と、
前記気体状ガスが液化して前記鋼管内に貯留された前記液化ガスを爆発させるための着火装置と、を有することを特徴とする低温液化ガス爆発試験装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低温の液化ガスの爆発試験として鋼管試験を実施するための低温液化ガス爆発試験用耐圧容器、及び低温液化ガス爆発試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
常温で固体や液体の爆発性物質の爆発特性を評価する爆発試験として、鋼管(又は鉄管)に爆発性物質を装填して起爆する鋼管試験(鉄管試験)が知られている(例えば、特許文献1、非特許文献1~3参照)。鋼管試験は、爆発性物質の感度(起爆性、伝爆性)や爆速を数値化することを主目的とする爆発試験であるが、爆発性物質の爆発により破裂した鋼管の破片の大きさや形状等から爆発の威力を定性的ではあるが評価することが可能であるとされている(非特許文献1)。そして、爆発の威力を評価するために、非特許文献1、2によれば、爆発試験の目的に応じて種々の鋼管(材質、径、肉厚等)を用いることが重要であるとされている。また、非特許文献3には、鋼管試験における爆発特性と鋼管の破損状況を比較した例が示されている。
【0003】
鋼管試験においては、通常、爆発により生じた鋼管の破片は爆発の威力が大きいほど細かくなるとされている。そして、既存の爆発性物質の鋼管試験と同じ材質で径と肉厚が同じ鋼管を用いて爆発性物質の鋼管試験を実施し、鋼管の破片を比べることで、既存の爆発性物質を基準とする爆発の威力を見積もることができる。
爆発性物質の爆発威力を見積もるための尺度として、TNTの爆発威力と比較したTNT換算率を採用することは一般的であり、爆発威力を他の爆発性物質と比較換算することは、爆発性物質の利用や、爆発事故時の被害を推定する上で重要である。
【0004】
また、爆発試験は常温で固体や液体の爆発性物質を対象としたものに限らず、常温で気体状の可燃性ガス(例えばCH4ガス)と支燃性ガス(例えばO2ガス)の混合ガスを低温環境下で液化した液化ガスについても行われている。そして、例えば特許文献2、3には、低温液化ガスの爆発試験を実施するための耐圧容器及び試験装置が開示されている。また、特許文献4には、常温で気体状のガスを冷却して低温容器内で液化ガスを製造する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭63-98562号公報
【特許文献2】特許6178645号公報
【特許文献3】特許6322103号公報
【特許文献4】特開昭64-56153号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】飯田、工業火薬協会誌, Vol.24, No.6,(1963), p.329.
【非特許文献2】岡崎、安全工学, Vol.5, No.3(1966), p.178.
【非特許文献3】「化学物質の爆発安全情報データベース」、[online]、[令和5年4月20日検索]、インターネット<URL:http://explosion-safety.jp/INFOMATION/shoubou_2_1_5.htm>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
可燃性ガスと支燃性ガスを混合した液化ガスを安全に利用するには、液化ガスの鋼管試験により爆発威力を評価することが重要である。そして、液化ガスの爆発威力を評価するためには、標準とする他の爆発性物質の爆発威力を評価する鋼管試験と同じ条件下で鋼管試験を実施することが必要となる。
【0008】
従来の鋼管試験は、前述したように、常温で固体状や液体状の爆発性物質を鋼管に装填して爆発させるものであった。これに対し、液化ガスは一般に常圧において極めて低温であるので(例えばO2-CH4液化ガスでは約90K-110K)、液化ガスの鋼管試験を実施するためには、規定の組成と量の液化ガスを低温環境下で鋼管に貯留する必要がある。さらに、鋼管に貯留した液化ガスの組成や温度が長時間にわたって安定し、周囲の気相と十分な平衡状態を保つことが要求される。このような、低温の液化ガスの爆発威力をTNT等の他の爆発性物質の爆発威力と比較して評価するためには、他の爆発性物質の鋼管試験と温度を除いて同一の条件で液化ガスの鋼管試験を実施することが必要であった。
【0009】
しかしながら、特許文献2及び3に開示されている低温液化ガスの爆発試験に関する技術や特許文献4に開示されている液化ガスの製造に関する技術は、密閉系の液化容器内に気体状のガスを導入して冷却することで液化ガスを貯留するものである。そのため、常温で固体や液体の爆発性物質の爆発威力を評価する従来の鋼管試験のように、上部が解放した鋼管と温度を除いて同一条件で爆発試験を実施することはできなかった。
【0010】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、常温で固体や液体の爆発性物質の鋼管試験と温度を除いて同一の条件で低温液化ガスの鋼管試験を実施することができる低温液化ガス爆発試験用耐圧容器、及び低温液化ガス爆発試験装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)本発明に係る低温液化ガス爆発試験用耐圧容器は、低温の液化ガスの爆発試験として鋼管試験を実施するために用いるものであって、
有底の鋼管に貯留された前記液化ガスの爆発を受け止める容器本体と、
前記容器本体内に設置され、前記鋼管を保持するとともに、前記容器本体内に導入される気体状ガスを液化して前記鋼管内に前記液化ガスを貯留するために、前記容器本体の外部から冷熱の供給を受けて前記鋼管を冷却する液化コールドベースと、
前記容器本体内において前記液化コールドベースの周囲に配設され、前記鋼管の外部で液化した前記液化ガスを気化させる気化コールドベースと、
前記液化コールドベースと前記気化コールドベースとの間に配設され、前記液化コールドベースと前記気化コールドベースとの間の熱移動を抑制する伝熱抵抗部と、を備えたことを特徴とするものである。
【0012】
(2)上記(1)に記載のものにおいて、
前記液化コールドベースは、前記容器本体における底部側の中央に配設され、
前記気化コールドベースは、前記液化コールドベースの同心円状に配設されていることを特徴とするものである。
【0013】
(3)本発明に係る低温液化ガス爆発試験装置は、上記(1)又は(2)に記載の低温液化ガス爆発試験用耐圧容器を備えたものであって、
前記低温液化ガス爆発試験用耐圧容器を内部に設置し、該低温液化ガス爆発試験用耐圧容器への熱の侵入を抑制する真空断熱槽と、
前記容器本体に設けられ、該容器本体内に前記液化ガスの気体状ガスを導入する気体状ガス導入口と、
前記液化コールドベースを前記液化ガスが液化する温度以下の温度に調節する液化コールドベース温度調節部と、
前記気化コールドベースを前記液化ガスが液化する温度以上の温度に調節する気化コールドベース温度調節部と、
前記気体状ガスが液化して前記鋼管内に貯留された前記液化ガスを爆発させるための着火装置と、を有することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明においては、規定の量及び組成の低温の液化ガスを鋼管内に再現性良く貯留することができるとともに、貯留した低温の液化ガスの組成及び温度が長時間にわたって安定させることができる。これにより、標準となる爆発性物質と温度を除いて同一条件で低温の液化ガスの鋼管試験を実施することができ、標準とした爆発性物質の爆発の威力を基準として液化ガスの爆発の威力を評価することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施の形態に係る低温液化ガス爆発試験用耐圧容器の具体的な構成の一例を示す斜視図である。
【
図2】本発明の実施の形態に係る低温液化ガス爆発試験装置の具体的な構成の一例を示す図である。
【
図3】実施例において、低温の液化ガスの一例としたO
2-CH
4混合ガスの気液平衡線図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施の形態に係る低温液化ガス爆発試験用耐圧容器、及び低温液化ガス爆発試験装置について説明するに先立ち、本発明において鋼管試験の試験対象とする液化ガスと、鋼管試験に用いる鋼管について説明する。
なお、本願の図面は、特徴を分かりやすくするために、便宜上特徴となる部分が拡大して示されている場合があるが、各構成要素の寸法や比率、形状等が実際と同じであるとは限らない。
【0017】
<液化ガス>
本発明で試験対象とする液化ガスは、可燃性ガスと支燃性ガス(例えばO2ガス)とが混合したものであり、例えば可燃性ガスとしては、メタン、エタン、エタン、エチレン、プロパン、プロピレン、ブタン等が例示できる。
本発明は、低温の液化ガスの鋼管試験を実施するためのものであるが、可燃性ガスと支燃性ガスとを混合した液化ガスは、標準となる爆発性物質(例えばTNT)の鋼管試験と爆発の威力が同程度であるものとする。
【0018】
<鋼管>
鋼管試験は、前述した非特許文献2に示すように、鋼管上部をキャップで封止した密閉系で実施する場合と、鋼管上部を開放した開放系で実施する場合とがあるが、本発明は、開放系で実施する鋼管試験を対象とする。
鋼管試験に用いられる鋼管の種類は特に規定はないが、市販の炭素鋼鋼管が用いられることが多く、鋼管の寸法に関しては、例えば、外径27.2mm、肉厚2.8mm、長さ100mm~500mmのものが用いられる。そして、鋼管の種類(材質)や寸法は、液化ガスの爆発威力に対して適切となるように適宜選択すればよい。
【0019】
<低温液化ガス爆発試験用耐圧容器>
本実施の形態に係る低温液化ガス爆発試験用耐圧容器10は、一例として
図1に示すように、低温の液化ガスの爆発試験として鋼管試験を実施するために用いるものであって、容器本体11と、液化コールドベース13と、気化コールドベース15と、伝熱抵抗部17と、を備えたものである。
【0020】
≪容器本体≫
容器本体11は、液化ガスが貯留される有底の鋼管1が内部に設置されるものであり、鋼管1内に貯留された液化ガスの爆発を受け止めるものである。本実施の形態において、容器本体11は、上部に設けられて容器本体11を密閉する蓋部11aと、下部の底部11bと、を有する。
【0021】
液化ガスの爆発を受け止めるために、容器本体11は、液化ガスが爆発したときの衝撃波を含む圧力と、破裂した鋼管1の破片の衝突に十分耐え得る強度と強度を有するものであればよい。
【0022】
さらに、容器本体11は、鋼管1に導入した液化ガスへの大気の混入を防ぎ、かつ液化ガスの爆発時には燃焼排ガスを系外に即時排出する圧力解放機構41(後述する
図2参照)が蓋部11aに設けられ半密閉であることが好ましい。
【0023】
≪液化コールドベース≫
液化コールドベース13は、容器本体11内に設置され、鋼管1を保持するとともに、容器本体11内に導入される気体状ガスを液化して鋼管1内に液化ガスを貯留するために、容器本体11の外部から冷熱の供給を受けて鋼管1を冷却するものである。
【0024】
本実施の形態において、液化コールドベース13は、
図1に示すように、その下面から連続して容器本体11の底部11bを貫通するコールドロッド131が接続されている。そして、液化コールドベース13は、コールドロッド131を介して、容器本体11の外部から冷熱の供給を受け、気体状ガスが液化する温度にすることが可能である。
【0025】
また、本実施の形態において、液化コールドベース13の上部にはネジ加工が施されたネジ部13aが設けられ、鋼管1に形成されたネジ部1aとともにソケット13bをすることで鋼管1を固定している。これにより、液化コールドベース13はソケット13bを介して鋼管1を冷却することができる。
なお、鋼管1の径を変更する場合には、例えば、液化コールドベース13のネジ部13aのネジ径と鋼管1のネジ径を変換する異径ソケットを用いるとよい。
【0026】
本発明において、液化コールドベース13及びコールドロッド131には、熱伝導性の金属材料を好ましく適用することができ、銅は最良の金属材料である。
【0027】
≪気化コールドベース≫
気化コールドベース15は、容器本体11内において液化コールドベース13の周囲に配設され、鋼管1の外部で液化した液化ガスを気化させるものである。
【0028】
本実施の形態において、気化コールドベース15は、
図1に示すように、その下面から連続して容器本体11の底部11bを貫通するコールドロッド151が接続されている。そして、気化コールドベース15は、コールドロッド151を介して容器本体11の外部から冷熱の供給を受けることで、液化ガスが液化しない程度の温度(例えば、試験圧力での対象となる液化ガスの沸点以上の温度)にすることが可能である。
【0029】
気化コールドベース15及びコールドロッド151は、熱伝導性の良い金属材料を適用することが好ましく、このような金属材料として銅は最良である。
【0030】
≪伝熱抵抗部≫
伝熱抵抗部17は、液化コールドベース13と気化コールドベース15との間に配設され、液化コールドベース13と気化コールドベース15との間の熱移動を抑制するものである。これにより、異なる温度に設定された液化コールドベース13と気化コールドベース15との間に温度差を確保することができる。
伝熱抵抗部17には、熱伝導率の低い金属材料を好ましく適用することができ、このような金属材料としてステンレスは最良である。
【0031】
<低温液化ガス爆発試験装置>
本実施の形態に係る低温液化ガス爆発試験装置20は、低温の液化ガスの爆発試験として鋼管試験を実施するために前述した本実施の形態に係る低温液化ガス爆発試験用耐圧容器10を備えたものである。そして、低温液化ガス爆発試験装置20は、
図2に一例として示すように、真空断熱槽21と、気体状ガス導入口23と、液化コールドベース温度調節部25と、気化コールドベース温度調節部27と、着火装置29と、を有するものである。
以下、低温の液化ガスとしてメタンCH
4と酸素O
2の混合ガスを試験対象とする場合について、本実施の形態に係る低温液化ガス爆発試験装置20を説明する。
【0032】
≪真空断熱槽≫
真空断熱槽21は、低温液化ガス爆発試験用耐圧容器10を内部に備え、低温液化ガス爆発試験用耐圧容器10への熱の侵入を抑制するものである。
【0033】
≪気体状ガス導入口≫
気体状ガス導入口23は、容器本体11に設けられ、液化ガスの気体状ガスの供給を受けて容器本体11の内部に導入するものである。
【0034】
本実施の形態において、気体状ガス導入口23は、
図2に例示すように、所定の組成に調整された気体状ガスが貯蔵されたガス容器35と開閉弁37を介して接続され、回分操作によりガス容器35から気体状ガスの供給を受けて容器本体11内に導入する。
【0035】
≪液化コールドベース温度調節部≫
液化コールドベース温度調節部25は、液化コールドベース13を容器本体11に導入された気体状ガスが液化する温度以下の温度に調節するものである。
【0036】
本実施の形態において、液化コールドベース温度調節部25は、
図2に例示するように、He冷凍機251と、ヒーター253と、温度検出端255と、温度調節計257と、により構成されたものである。
He冷凍機251は、ブロック133を介してコールドロッド131と接続され、ヒーター253と温度検出端255はブロック133に接続されている。さらに、温度調節計257は、ヒーター253及び温度検出端255と配線接続されている。なお、温度検出端255には、例えば熱電対を用いることができる。
【0037】
なお、気体状ガスが液化する温度とは、鋼管試験の試験条件である圧力において気体状ガスが凝縮して液化する温度であり、鋼管試験において目的とする液化ガスの組成と圧力に応じて決定される。また、試験対象とする液化ガスは前述のとおり可燃性ガスと支燃性ガスの混合物であるため、気体状ガスが液化する温度により液化ガスの組成が変動する。そのため、液化コールドベース温度調節部25により調節する液化コールドベース13の温度は留意する必要がある。このことに関しては、後述する実施例にて説明する。
【0038】
≪気化コールドベース温度調節部≫
気化コールドベース温度調節部27は、気化コールドベース15を液化ガスが液化する温度以上の温度に調節するものである。
【0039】
本実施の形態において、気化コールドベース温度調節部27は、
図2に例示するように、He冷凍機271と、ヒーター273と、温度検出端275と、温度調節計277と、により構成されたものである。
【0040】
He冷凍機271は、ブロック153を介してコールドロッド151と接続され、ヒーター273と温度検出端275はブロック153に接続されている。さらに、温度調節計277は、ヒーター273及び温度検出端275と配線接続されている。なお、温度検出端275には、例えば熱電対を用いることができる。
【0041】
気化コールドベース温度調節部27による気化コールドベース15の温度調節において、液化ガスの沸点とは、鋼管試験の試験条件である圧力において液化ガスが気化する温度である。また、液化ガスは前述のとおり可燃性ガスと支燃性ガスの混合物であるため、気化コールドベース15の温度によっては鋼管1の外部で液化した液化ガスの一部を気化しなかったり、容器本体11に導入した気体状ガスの一部が液化してしまう恐れがある。そのため、気化コールドベース温度調節部27により調節する温度についても留意する必要がある。このことに関しては、後述する実施例にて説明する。
【0042】
≪着火装置≫
着火装置29は、鋼管1内に貯留された液化ガスを爆発させるためのものである。本実施の形態において、着火装置29は、
図2に例示するように、液化ガス3の液面以下となる位置に設置した溶断線291と、溶断線291に配線された着火電源293と、を有する。
【0043】
本発明において、着火装置29はこれに限定されるものではなく、例えば、常温において固体又は液体の爆発性物質と同様、容器本体11の蓋部11aを貫通させる配線を介して接続されて鋼管1内に設置する雷管や点火玉等であってもよい。
【0044】
次に、本実施の形態に係る低温液化ガス爆発試験装置により鋼管試験を行うための運転方法について説明する。
【0045】
まず、液化コールドベース13と気化コールドベース15をそれぞれ所定の温度に調節する。液化コールドベース13は試験対象とする液化ガスの液化する温度以下に調節し、気化コールドベース15は液化ガスの沸点以上の温度に調節する。
【0046】
次に、O2ボンベ31とCH4ボンベ33からO2ガスとCH4ガスの供給を受けて所定の組成に調整された気体状ガス(O2-CH4混合ガス)が貯蔵されたガス容器35から、開閉弁37を介して気体状ガス導入口23より容器本体11の内部に回分操作により導入する。
【0047】
次に、液化コールドベース13と気化コールドベース15の温度を一定に保持し、容器11本体内において気体状ガスを液化させて鋼管1内に貯留させる。
【0048】
続いて、鋼管に貯留された液化ガスと容器本体11内の気体状ガスとが十分に平衡に達して液化ガスの貯留が完了したら、着火装置29により液化ガスを着火し、爆発させる。
そして、液化ガスが爆発した後、容器本体11を開放し、鋼管1の破片状況を観察する。
【0049】
以上、本実施の形態に係る低温液化ガス爆発試験用耐圧容器10及び低温液化ガス爆発試験装置20においては、容器本体11内に気体状ガスを導入すると、鋼管1の内外面で気体状ガスが結露し、鋼管1の内面で結露した液化ガスを鋼管1内に貯留し、鋼管1の外面で結露した液化ガスは気化コールドベース15により気化させることができる。
そして、液化コールドベース13と気化コールドベース15との間に伝熱抵抗部17が設置されていることにより、液化コールドベース13と気化コールドベース15との間の熱移動が抑制されて温度差を維持することができる。その結果、鋼管1の外面で結露した液化ガスが気化して鋼管1の内面で結露して貯留されるという循環を促進し、最終的に、容器本体11に導入した蒸気圧分を除く全ての気体状ガスが鋼管1内に液化ガスとして貯留することができる。
【0050】
また、低温液化ガス爆発試験用耐圧容器10及び低温液化ガス爆発試験装置20によれば、鋼管1内の液化ガスと鋼管1周囲の気体状ガスの比率、圧力、温度が長時間にわたり安定して十分な平衡状態を保ち、かつ再現性よく制御できることができる。これにより、標準となる爆発性物質と温度を除いて同一条件で低温の液化ガスの鋼管試験を実施することができ、標準とした爆発性物質の爆発の威力を基準として低温の液化ガスの爆発の威力を評価することが可能となる。
【0051】
さらに、低温液化ガス爆発試験用耐圧容器10及び低温液化ガス爆発試験装置20において、液化コールドベース13は、鋼管1を着脱可能に保持するものであるため、材質や寸法が異なる種々の仕様の鋼管1に容易に付け替えが可能である。これにより、爆発の威力が同程度の爆発性物質の鋼管試験と同じ条件で低温液化ガスの鋼管試験を適宜に実施することができる。
【0052】
なお、低温液化ガス爆発試験用耐圧容器10においては、
図1に示すように、液化コールドベース13は、容器本体11における底部11b側の中心に配設され、気化コールドベース15は、液化コールドベース13を中心とする同心円状に配設されていることが好ましい。この理由は、以下のとおりである。
【0053】
まず、液化コールドベース13が容器本体11における底部11b側の中心に設置されていることにより、鋼管1を容器本体11内の中心に設置することが可能となる。これにより、鋼管1内に貯留された低温の液化ガスの爆発時に容器本体11の内面が受ける鋼管1由来の破片の衝突と衝撃波が均等となり、容器本体11の損傷を減らすことができる。
【0054】
また、容器本体11の内壁温度と鋼管1の温度との間には温度差があり、鋼管1が容器本体11の中心に設置されていない場合、容器本体11内の温度分布が均等にならず、鋼管1の温度精度と安定性が低下する。
【0055】
そこで、液化コールドベース13は容器本体11の中心に設置し、気化コールドベース15は液化コールドベース13を中心とする同心円状に配設することで、容器本体11内の温度分布を均等にすることができ、鋼管1の温度精度と安定性が向上することが期待できる。
【0056】
なお、低温液化ガス爆発試験用耐圧容器10において、容器本体11の内部に設置される鋼管1は、その上部が開放している開放型の容器であるため、容器本体11内に気体状ガスを直接導入し、鋼管1内で凝縮させて液化するものである。
そのため、容器本体11内においては、鋼管1周囲に液化ガスと平衡な組成の気体状ガスが存在するので、鋼管1内に貯留した液化ガスを着火して爆発させると気体状ガスも爆発(燃焼)する。
【0057】
もっとも、液化ガスの爆速(反応速度)は、気体状ガスの爆速より非常に速いため(例えば30%-CH4/O2の液化ガスの爆速は約5000m/secであるのに対し、気体状ガスの爆速は約2500m/sec)。そのため、破裂した鋼管の破片の大きさや形状等に対する気体状ガスの爆発の影響は小さい。
【0058】
また、低温液化ガス爆発試験用耐圧容器10において、容器本体11、液化コールドベース13、気化コールドベース15及び伝熱抵抗部17相互の接合には、銀ロウ等を用いた溶接が好ましい。この接合加工の容易さから、容器本体11、液化コールドベース13、気化コールドベース15及び伝熱抵抗部17は、全て金属材料を用いて製作することが好ましい。もっとも、伝熱抵抗部17は、液化コールドベース13及び気化コールドベース15と接合可能であり、かつ爆発時の衝撃に耐えられるものであれば、セラミック材料等を使用してもよい。
【0059】
なお、本実施の形態に係る低温液化ガス爆発試験装置20は、
図2に示すように、圧力解放機構41と、サイトグラス43と、耐圧容器温度調節部45と、を有するものであってもよい。
【0060】
圧力解放機構41は、爆発した液化ガスの燃焼ガスを排出させるためのものである。
サイトグラス43は、鋼管1内における液化ガス3の貯留状況や、気化コールドベース15に凝縮した液化ガスの有無を目視で確認するものである。
【0061】
耐圧容器温度調節部45は、容器本体11の蓋部11aから容器本体11を介して侵入する熱を遮断するためのものであり、
図2に示すように、He冷凍機451と、ヒーター453と、温度検出端455と、温度調節計457と、を有する。
耐圧容器温度調節部45は、例えば、He冷凍機451を出力一定で運転してブロック47を介して容器本体11に冷熱を供給するとともに、ヒーター453、温度検出端455、温度調節計457と、により、容器本体11を所定温度に調節する。
【0062】
なお、液化コールドベース温度調節部25の温度検出端255により計測される温度と、耐圧容器温度調節部45の温度検出端455により計測される温度の差が小さい場合、気化コールドベース15を冷却するHe冷凍機271は必ずしも要するものではない。
また、容器本体11内に侵入する熱が少ない場合、耐圧容器温度調節部45は設けなくてもよい。
【実施例0063】
本発明の作用効果を検証するための実験を行ったので、以下、これについて説明する。
実験では、前述した本実施の形態に係る低温液化ガス爆発試験装置20(
図2)を用いて、低温液化ガス爆発試験用耐圧容器10の容器本体11に気体状ガスを導入し、鋼管1内に液化ガス3を貯留した。
【0064】
<実施例1>CH
4ガスの液化
実施例1では、気体状ガスとしてCH
4ガスを用いた。
まず、CH
4ガスをガス容器35に貯留した。そして、
図2に示す圧力解放機構41を動作させない状態で、気化コールドベース15の温度を115Kに調節した。そして、ガス容器35から容器本体11にCH
4を回分操作で導入し、液化コールドベース13の温度を種々変更し、容器本体11内の圧力が大気圧から-10kPaGに収束する液化コールドベースの温度を探査した。
その結果、液化コールドベース13の温度が110Kのとき、ガス容器35からCH
4を容器本体11に複数回導入しても、容器本体11内の圧力は常に大気圧から-10KPaGの間であった。
【0065】
そして、容器本体11の蓋部11aに設置したサイトグラス43から容器本体11内を目視で観察したところ、鋼管1内においてCH4が凝縮して液化メタンが貯留されており、また、気化コールドベース15には凝縮物質が存在しないことが確認された。
【0066】
<実施例2>O2-CH4混合ガスの液化
実施例2では、気体状ガスとしてO2-CH4混合ガスを用いた。
まず、ガス容器35に約30%-CH4/O2ガス(混合ガス)を貯蔵し、実施例1と同様、開閉弁37及び気体状ガス導入口23を経て容器本体11に導入した。
【0067】
そして、液化コールドベース13の温度をT
1=93K、気化コールドベース15の温度をT
2=112Kに調節し、容器本体11に導入した気体状ガスの冷却操作をおこなった。
液化コールドベース13の温度及び気化コールドベース15の温度は、それぞれ、次のように決定した。
図3に、O
2-CH
4混合ガスの気液平衡曲線を示す。
混合ガスの液化ガスは液化する温度によって組成が異なり、30%-CH
4/O
2混合ガスが液化する温度は、
図3に示すように、大気圧で約93.5Kである。そのため、液化ガス中のCH
4組成を30%に調製するためには、液化コールドベース13の温度T
1を93.5Kより少し低めの93Kに調節した。
一方、気化コールドベース15の温度は、100%-CH
4の沸点(=111.6K)以下の温度に設定すると、気化コールドベース15上で希薄なCH
4/O
2混合液ガスが液化してしまう。そのため、気化コールドベース15の温度は100%-CH
4の沸点以上の温度(=112K)に調節した。
【0068】
このように液化コールドベース13と気化コールドベース15との温度差を設けてそれぞれの温度を調節し、伝熱抵抗部17により液化コールドベース13と気化コールドベース15との間での熱移動を抑制にしたことにより、目的の組成の液化ガスを安定して鋼管1内に貯留できることが実証された。