(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024163451
(43)【公開日】2024-11-22
(54)【発明の名称】熱硬化型シリコーン粘着剤組成物およびその硬化物
(51)【国際特許分類】
C09J 183/06 20060101AFI20241115BHJP
C09J 4/02 20060101ALI20241115BHJP
C09J 7/38 20180101ALI20241115BHJP
【FI】
C09J183/06
C09J4/02
C09J7/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023079052
(22)【出願日】2023-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安東 優太郎
(72)【発明者】
【氏名】北川 太一
(72)【発明者】
【氏名】松本 展明
(72)【発明者】
【氏名】石田 一馬
(72)【発明者】
【氏名】小材 利之
(72)【発明者】
【氏名】坂本 晶
【テーマコード(参考)】
4J004
4J040
【Fターム(参考)】
4J004AA10
4J004AA11
4J004AB01
4J004CA01
4J004CA07
4J004CA08
4J004CB03
4J004CD08
4J004CE01
4J004EA06
4J004FA05
4J004FA08
4J040EK081
4J040FA011
4J040FA241
4J040GA01
4J040GA09
4J040HB41
4J040JA09
4J040JB09
4J040LA11
4J040MB01
4J040NA19
4J040NA20
4J040PA20
4J040PA23
4J040PA33
(57)【要約】 (修正有)
【課題】仮固定剤として優れた粘着性を有する硬化物を与える熱硬化型シリコーン粘着剤組成物を提供すること。
【解決手段】(A)式(1)
(R
1はC
1-20の一価炭化水素基、R
2は酸素原子等、R
3はアクリロイルオキシアルキル基等、pは0~10、aは1~3を満たす数、波線を付した線は結合手を表す。)
で示される基を1分子中に2個有するオルガノポリシロキサン
(B)シロキサン構造を含まない単官能(メタ)アクリレート化合物
(C)特定の化学構造式で示される3種類の単位を特定の割合で有するオルガノポリシロキサンレジン
(D)有機過酸化物
を含有し、非架橋性のオルガノポリシロキサンレジンを含まない組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記一般式(1)
【化1】
(式中、R
1は、互いに独立して、炭素原子数1~20の一価炭化水素基を表し、R
2は、酸素原子または炭素原子数1~20のアルキレン基を表し、R
3は、互いに独立して、アクリロイルオキシアルキル基、メタクリロイルオキシアルキル基、アクリロイルオキシアルキルオキシ基、またはメタクリロイルオキシアルキルオキシ基を表し、pは、0≦p≦10を満たす数を表し、aは、1≦a≦3を満たす数を表す。波線を付した線は、結合手を表す。)
で示される基を1分子中に2個有するオルガノポリシロキサン:100質量部、
(B)シロキサン構造を含まない単官能(メタ)アクリレート化合物:1~200質量部、
(C)(a)下記一般式(2)
【化2】
(式中、R
1、R
2、R
3、aおよびpは、前記と同じ意味を表す。)
で示される単位、(b)R
4
3SiO
1/2単位(式中、R
4は、炭素原子数1~10の一価炭化水素基を表す。)および(c)SiO
4/2単位からなり、(a)単位および(b)単位の合計と(c)単位とのモル比が0.4~1.2:1の範囲にあるオルガノポリシロキサンレジン:1~1,000質量部、および
(D)有機過酸化物:0.01~5質量部
を含有し、非架橋性のオルガノポリシロキサンレジンを含まないことを特徴とする熱硬化型シリコーン粘着剤組成物。
【請求項2】
(E)シリカを、(A)成分100質量部に対して1~200質量部含む請求項1記載の熱硬化型シリコーン粘着剤組成物。
【請求項3】
(F)帯電防止剤を、(A)成分100質量部に対して0.001~10質量部含む請求項1記載の熱硬化型シリコーン粘着剤組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項記載の熱硬化型シリコーン粘着剤組成物の硬化物。
【請求項5】
厚さ2.0mmでの引っ張り強度(JIS-K6249)が1MPa以上である請求項4記載の硬化物。
【請求項6】
請求項4記載の硬化物からなる粘着剤。
【請求項7】
請求項4記載の硬化物からなる粘着シート。
【請求項8】
請求項4記載の硬化物からなる微小構造体転写用スタンプ。
【請求項9】
少なくとも1つの凸状構造を有する請求項8記載の微小構造体転写用スタンプ。
【請求項10】
請求項8記載の微小構造体転写用スタンプを備えた微小構造体転写装置。
【請求項11】
請求項9記載の微小構造体転写用スタンプを備えた微小構造体転写装置。
【請求項12】
請求項4記載の硬化物からなる粘着剤層を有する微小構造体保持基板。
【請求項13】
請求項12記載の微小構造体保持基板を備えた微小構造体転写装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化型シリコーン粘着剤組成物およびその硬化物に関し、さらに詳述すると、物体を移送するための仮固定材に好適に使用できる、熱硬化型シリコーン粘着剤組成物およびその硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スマートフォン、液晶ディスプレー、車載部品等に代表されるようなエレクトロニクス機器には、高性能化のみならず、省スペース化、省エネルギー化も同時に求められている。そのような社会的要請に応じて、搭載される電気電子部品も益々小型化・微細化しており、その組立工程も年々複雑化し、困難になっている。
【0003】
このような微細化した素子や部品を選択的かつ一度に移送可能な技術が近年開発され、注目を浴びている。この技術は、マイクロ・トランスファー・プリンティング技術と呼ばれ、エラストマーの粘着力で微細な部品を一遍にピックアップし、所望の場所に移送させるという技術である。
【0004】
マイクロ・トランスファー・プリンティング材料としては、シリコーン粘着剤組成物を基材等の上で硬化・成型した粘着性物品が利用される。
【0005】
この用途に用いる粘着材料としてシリコーンエラストマーが知られており、付加加熱硬化型のシリコーン系粘着剤(特許文献1)および紫外線硬化型のシリコーン系粘着剤(特許文献2、3)が提案されている。
【0006】
しかし、付加反応により硬化が進行する熱硬化型のシリコーン粘着剤を用いると、加熱硬化後に室温まで冷却した際に硬化物が収縮してしまい、パターンの寸法誤差が大きくなってしまう場合がある。
さらに、付加硬化型のシリコーン粘着剤は、材料塗布面からの硬化阻害を受けることがあり、材料成型時に硬化不良を引き起こすなど、材料周辺の環境によって使用が制限される場合がある。
【0007】
一方、紫外線硬化型シリコーン粘着剤は、寸法精度に優れ、かつ材料塗布面からの硬化阻害を受けないが、紫外線照射を可能とする設備を必要とする点で使用が制限される場合がある。
さらに、紫外線硬化型シリコーン粘着剤は、酸素硬化阻害の影響を強く受けるため、大気下での硬化が難しく、真空または窒素雰囲気下での紫外線照射が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2021-123620号公報
【特許文献2】特許第7131631号公報
【特許文献3】特許第7156392号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、加熱により短時間で硬化可能であり、材料周辺の環境からの硬化阻害を受けず、仮固定材として優れた粘着性を有する硬化物を与える熱硬化型シリコーン粘着剤組成物およびその硬化物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、特定の(メタ)アクリロイルオキシ含有基を有するオルガノポリシロキサン、シロキサン構造を含まない単官能(メタ)アクリレート化合物、ラジカル発生剤として働くパーオキサイド、および所定の(メタ)アクリロイルオキシ含有基を有するオルガノポリシロキサンレジンを用いることにより、加熱により硬化し、かつ非架橋性レジンを含まなくとも良好な粘着性とゴム強度を有する硬化物を与える熱硬化型シリコーン組成物が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は、
1. (A)下記一般式(1)
【化1】
(式中、R
1は、互いに独立して、炭素原子数1~20の一価炭化水素基を表し、R
2は、酸素原子または炭素原子数1~20のアルキレン基を表し、R
3は、互いに独立して、アクリロイルオキシアルキル基、メタクリロイルオキシアルキル基、アクリロイルオキシアルキルオキシ基、またはメタクリロイルオキシアルキルオキシ基を表し、pは、0≦p≦10を満たす数を表し、aは、1≦a≦3を満たす数を表す。波線を付した線は、結合手を表す。)
で示される基を1分子中に2個有するオルガノポリシロキサン:100質量部、
(B)シロキサン構造を含まない単官能(メタ)アクリレート化合物:1~200質量部、
(C)(a)下記一般式(2)
【化2】
(式中、R
1、R
2、R
3、aおよびpは、前記と同じ意味を表す。)
で示される単位、(b)R
4
3SiO
1/2単位(式中、R
4は、炭素原子数1~10の一価炭化水素基を表す。)および(c)SiO
4/2単位からなり、(a)単位および(b)単位の合計と(c)単位とのモル比が0.4~1.2:1の範囲にあるオルガノポリシロキサンレジン:1~1,000質量部、および
(D)有機過酸化物:0.01~5質量部
を含有し、非架橋性のオルガノポリシロキサンレジンを含まないことを特徴とする熱硬化型シリコーン粘着剤組成物、
2. (E)シリカを、(A)成分100質量部に対して1~200質量部含む1記載の熱硬化型シリコーン粘着剤組成物、
3. (F)帯電防止剤を、(A)成分100質量部に対して0.001~10質量部含む1記載の熱硬化型シリコーン粘着剤組成物、
4. 1~3のいずれかに記載の熱硬化型シリコーン粘着剤組成物の硬化物、
5. 厚さ2.0mmでの引っ張り強度(JIS-K6249)が1MPa以上である4記載の硬化物、
6. 4記載の硬化物からなる粘着剤、
7. 4記載の硬化物からなる粘着シート、
8. 4記載の硬化物からなる微小構造体転写用スタンプ、
9. 少なくとも1つの凸状構造を有する8記載の微小構造体転写用スタンプ、
10. 8記載の微小構造体転写用スタンプを備えた微小構造体転写装置、
11. 9記載の微小構造体転写用スタンプを備えた微小構造体転写装置、
12. 4記載の硬化物からなる粘着剤層を有する微小構造体保持基板、
13. 12記載の微小構造体保持基板を備えた微小構造体転写装置
を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の粘着性熱硬化型シリコーンゴム組成物は、加熱による硬化性が良好で、かつその硬化物は仮固定材として優れた粘着性およびゴム強度を有するとともに、材料塗布面からの硬化阻害を受けず、非架橋性レジンを含まないため、糊移りも抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の微小構造体転写用スタンプの一例を示す概略図である。
【
図2】本発明の微小構造体転写用スタンプの他の例を示す概略図である。
【
図3】本発明の微小構造体転写用スタンプの製造方法の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について具体的に説明する。
本発明に係る熱硬化型シリコーン粘着剤組成物は、(A)下記一般式(1)で示される基を1分子中に2個有するオルガノポリシロキサン:100質量部、(B)シロキサン構造を含まない単官能(メタ)アクリレート化合物:1~200質量部、(C)(a)下記一般式(2)で示される単位、(b)R4
3SiO1/2単位(式中、R4は、炭素原子数1~10の一価炭化水素基を表す。)および(c)SiO4/2単位からなり、(a)単位および(b)単位の合計に対する(c)単位のモル比が0.4~1.2:1の範囲にあるオルガノポリシロキサンレジン:1~1,000質量部、および(D)パーオキサイド:0.01~5質量部を含有し、非架橋性のオルガノポリシロキサンレジンを含まないことを特徴とする。
【0015】
(A)オルガノポリシロキサン
本発明に使用される(A)成分は、本組成物の架橋成分であり、下記一般式(1)で示される基を1分子中に2個有し、主鎖が実質的にジオルガノシロキサン単位の繰り返しからなるオルガノポリシロキサンである。
【0016】
【0017】
式(1)において、R1は、互いに独立して、炭素原子数1~20の一価炭化水素基、好ましくは、脂肪族不飽和基を除く、炭素原子数1~10、より好ましくは1~8の一価炭化水素基を表し、R2は、酸素原子または炭素原子数1~20、好ましくは1~10、より好ましくは1~5のアルキレン基を表し、R3は、互いに独立して、アクリロイルオキシアルキル基、メタクリロイルオキシアルキル基、アクリロイルオキシアルキルオキシ基、またはメタクリロイルオキシアルキルオキシ基を表し、pは、0≦p≦10を満たす数を表し、aは、1≦a≦3を満たす数を表す。
【0018】
式(1)において、R1の炭素原子数1~20の一価炭化水素基は、直鎖、分岐、環状のいずれでもよく、その具体例としては、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、n-ヘキシル、シクロヘキシル、n-オクチル、2-エチルヘキシル、n-デシル基等のアルキル基;ビニル、アリル(2-プロペニル)、1-プロペニル、イソプロペニル、ブテニル基等のアルケニル基;フェニル、トリル、キシリル、ナフチル基等のアリール基;ベンジル、フェニルエチル、フェニルプロピル基等のアラルキル基などが挙げられる。
また、これら一価炭化水素基の炭素原子に結合した水素原子の一部または全部は、塩素、フッ素、臭素等のハロゲン原子や、シアノ基等のその他の置換基で置換されていてもよく、その具体例としては、クロロメチル、ブロモエチル、トリフルオロプロピル基等のハロゲン置換炭化水素基や、シアノエチル基等のシアノ置換炭化水素基などが挙げられる。
これらの中でも、R1としては、炭素原子数1~5のアルキル基、フェニル基が好ましく、メチル基、エチル基、フェニル基がより好ましい。
【0019】
また、R2の炭素原子数1~20のアルキレン基は、直鎖、分岐、環状のいずれでもよく、その具体例としては、メチレン、エチレン、プロピレン、トリメチレン、テトラメチレン、イソブチレン、ペンタメチレン、ヘキサメチレン、ヘプタメチレン、オクタメチレン、ノナメチレン、デシレン基等が挙げられる。
これらの中でも、R2としては、酸素原子、メチレン、エチレン、トリメチレン基が好ましく、酸素原子またはエチレン基がより好ましい。
【0020】
さらに、R3のアクリロイルオキシアルキル基、メタクリロイルオキシアルキル基、アクリロイルオキシアルキルオキシ基、またはメタクリロイルオキシアルキルオキシ基におけるアルキル(アルキレン)基の炭素原子数としては、特に限定されるものではないが、1~10が好ましく、1~5がより好ましい。これらアルキル基の具体例としては、上記R1で例示した基のうち、炭素原子数1~10のものが挙げられる。
R3の具体例としては、下記式で示されるものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0021】
【化4】
(式中、bは、1≦b≦4を満たす数を表し、R
5は、炭素原子数1~10のアルキレン基を表す。波線を付した線は、結合手を表す。)
【0022】
上記pは、0≦p≦10を満たす数を表すが、0≦p≦5を満たす数が好ましく、0または1が好ましく、aは、1≦a≦3を満たす数を表すが、1または2が好ましい。
【0023】
本発明で用いる(A)成分のオルガノポリシロキサン分子中における上記一般式(1)で示される基の結合位置は、分子鎖末端であっても、分子鎖非末端(すなわち、分子鎖途中または分子鎖側鎖)であっても、あるいはこれらの両方であってもよいが、硬化物の柔軟性の面では末端のみに存在することが望ましい。
【0024】
(A)成分のオルガノポリシロキサン分子中において、上記一般式(1)で示される基以外のケイ素原子に結合した基は、例えば、上記R1と同様の基が挙げられ、特に、脂肪族不飽和基を除く炭素原子数1~12、好ましくは1~10の一価炭化水素基である。
これらの具体例としては、上記R1で例示した基と同様のものが挙げられるが、合成の簡便さから、アルキル基、アリール基、ハロゲン化アルキル基が好ましく、メチル基、フェニル基、トリフルオロプロピル基がより好ましい。
【0025】
また、(A)成分の分子構造は、基本的に、主鎖がジオルガノシロキサン単位の繰り返しからなる直鎖状または分岐鎖状(主鎖の一部に分岐を有する直鎖状を含む)であり、特に、分子鎖両末端が上記一般式(1)で示される基で封鎖された直鎖状のジオルガノポリシロキサンが好ましい。
(A)成分は、これらの分子構造を有する単一の重合体、これらの分子構造からなる共重合体、またはこれらの重合体の2種以上の混合物であってもよい。
【0026】
(A)成分のオルガノポリシロキサンの25℃における粘度は、組成物の作業性や硬化物の力学特性をより向上させることを考慮すると、10~100,000mPa・sが好ましく、10~50,000mPa・sがより好ましい。この粘度範囲は、通常、直鎖状オルガノポリシロキサンの場合、数平均重合度で、約10~2,000、好ましくは約50~1,100程度に相当するものである。なお、本発明において、粘度は回転粘度計(例えば、BL型、BH型、BS型、コーンプレート型、レオメーター等)により測定できる(以下、同様)。
本発明において、重合度(または分子量)は、例えば、トルエン等を展開溶媒として、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)分析におけるポリスチレン換算の数平均重合度(または数平均分子量)として求めることができる(以下、同様)。
【0027】
(A)成分のオルガノポリシロキサンの具体例としては、下記式(3)~(5)で示されるものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0028】
【化5】
(式中、R
1、R
5、およびbは、上記と同じ意味を表し、Meはメチル基を表し、nは、上記オルガノポリシロキサンの粘度を上記値とする数であるが、1~800の数が好ましく、50~600の数がより好ましい。)
【0029】
このようなオルガノポリシロキサンは、公知の方法で製造することができる。例えば、上記式(3)で表されるポリシロキサンは、両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体とクロロジメチルシランとのヒドロシリル化反応物に2-ヒドロキシエチルアクリレートを反応させて得ることができる。
上記式(4)で表されるオルガノポリシロキサンは、両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体と3-(1,1,3,3-テトラメチルジシロキサニル)プロピルメタクリラート(CAS No.96474-12-3)とのヒドロシリル化反応物として得られる。
上記式(5)で表されるオルガノポリシロキサンは、両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体とジクロロメチルシランとのヒドロシリル化反応物に2-ヒドロキシエチルアクリレートを反応させて得ることができる。
【0030】
(B)シロキサン構造を含まない単官能(メタ)アクリレート化合物
シロキサン構造を含まない単官能(メタ)アクリレート化合物(B)の具体例としては、イソアミルアクリレート、ラウリルアクリレート、ステアリルアクリレート、エトキシ-ジエチレングリコールアクリレート、メトキシ-トリエチレングリコールアクリレート、2-エチルヘキシル-ジグリコールアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、フェノキシジエチレングリコールアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、イソボルニルアクリレート等が挙げられ、これらは単独で用いても2種以上混合して用いてもよい。
これらの中でも、特にイソボルニルアクリレートが好ましい。
【0031】
本発明において、上記(B)成分の単官能(メタ)アクリレート化合物の添加量は、(A)成分100質量部に対して、1~200質量部の範囲である。(B)成分の添加量が(A)成分100質量部に対して1質量部未満であると、組成物の硬化性、硬化物の強度や粘着性が不足する。一方、(B)成分の添加量を増やすことにより組成物全体の粘度を調整することができるが、添加量が(A)成分100質量部に対して200質量部を超えると、所望の粘着性が得られなくなる。
特に、(B)成分の添加量は、(A)成分100質量部に対し、5~100質量部が好ましく、10~60質量部がより好ましい。
【0032】
(C)オルガノポリシロキサンレジン
(C)成分は、本組成物の架橋成分の一つであり、(a)下記一般式(2)で示される単位(MA単位)、(b)R4
3SiO1/2単位(M単位)および(c)SiO4/2単位(Q単位)からなる(メタ)アクリロイルオキシ含有基を有するオルガノポリシロキサンレジンである。なお、R4は、炭素原子数1~10の一価炭化水素基を表す。
【0033】
【化6】
(式中、R
1、R
2、R
3、aおよびpは、上記と同じ意味を表す。)
【0034】
R4は、互いに独立して、炭素原子数1~10の一価炭化水素基である。R4の炭素原子数1~10の一価炭化水素基の具体例としては、上記R1で例示した基のうち、炭素原子数1~10のものが挙げられるが、中でもメチル、エチル、n-プロピル、n-ブチル基等の炭素原子数1~5のアルキル基;ビニル基等のアルケニル基;フェニル、トリル基等の炭素原子数6~10のアリール基が好ましく、メチル基、エチル基、ビニル基、フェニル基がより好ましい。
なお、上記R4の一価炭化水素基も、R1と同様に、炭素原子に結合した水素原子の一部または全部が、上述したその他の置換基で置換されていてもよい。
【0035】
本発明の(C)成分では、(a)上記一般式(2)で示される単位(MA単位)、(b)R4
3SiO1/2単位(M単位)および(c)SiO4/2単位(Q単位)のモル比が、MA単位+M単位:Q単位=0.4~1.2:1である。MA単位+M単位のモル比が0.4未満になると、組成物の粘度が非常に高くなり、1.2を超えると硬化物の力学的特性が低下する。
組成物の粘度、および硬化物の力学的特性をより適切な範囲とすることを考慮すると、MA単位+M単位とQ単位のモル比は、MA単位+M単位:Q単位=0.6~1.2:1が好ましく、0.7~1:1がより好ましい。
【0036】
また、MA単位とM単位のモル比により、硬化物のゴム物性を調節できる。硬化物の強度の観点から、MA単位:M単位=0.01~1:1が好ましく、MA単位:M単位=0.05~0.5:1がより好ましく、0.05~0.3:1がさらに好ましい。
【0037】
MA単位の含有量は、(C)成分のオルガノポリシロキサンレジン中の全シロキサン単位に対し、1~30モル%が好ましく、3~10モル%がより好ましい。このような範囲であると、硬化物の機械物性が良好となる。
【0038】
なお、(C)成分は、R1SiO3/2(R1は、上記と同じ意味を表す。)で表される三官能性シロキサン単位(即ち、オルガノシルセスキオキサン単位)を構成単位として含んでいてもよく、この場合、R1SiO3/2単位およびSiO4/2単位の合計の含有量は、好ましくは(C)成分のオルガノポリシロキサンレジン中の全シロキサン単位の10~90モル%であり、より好ましくは20~80モル%である。
【0039】
(C)成分の数平均分子量は、500~30,000が好ましく、1,000~20,000がより好ましく、1,000~10,000がさらに好ましい。このような範囲であると、組成物の作業性が良好となる。なお、上記数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)による標準ポリスチレン換算値である。
【0040】
(C)成分の具体例としては、上記式(2)においてR1がメチル基、R2がエチレン基、R3がメタクリロイルオキシアルキル基であり、pが1である単位と、ViMe2SiO1/2単位と、Me3SiO1/2単位と、SiO2単位とからなるオルガノポリシロキサンレジン等が挙げられる。なお、Meはメチル基、Viはビニル基を表す。
【0041】
(C)成分のオルガノポリシロキサンレジンの添加量は、上記(A)成分100質量部に対して、1~1,000質量部の範囲であるが、好ましくは5~500質量部であり、より好ましくは10~200質量部であり、さらに好ましくは20~150質量部である。1質量部未満であると硬化物のゴム強度が低くなり、1,000質量部を超えると粘着力が低下する。
なお、(C)成分は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0042】
(D)有機過酸化物
有機過酸化物としては、特に限定されないが、1時間分解半減期温度(以下、「T1」ともいう。)が50~150℃であるものが好ましく、例えば、アクリル系官能基の熱硬化に使用されるものとして公知のものをいずれも使用することができる。具体例としては、クミルペロキシネオデカノエート(55.0)、ジ-n-プロピルペルオキシジカルボネート(57.7)、ジイソプロピルペルオキシジカルボネート(56.2)、ジ-sec-ブチルペルオキシジカルボネート(57.4)、1,1,3,3-テトラメチルブチルペルオキシネオデカノエート(57.5)、ジ(4-t-ブチルシクロヘキシル)ペルオキシジカルボネート(57.5)、ジ(2-エチルヘキシル)ペルオキシジカルボネート(59.1)、t-ヘキシルペルオキシネオデカノエート(62.8)、t-ブチルペルオキシネオデカノエート(64.8)、t-ブチルペルオキシネオヘプタノエート(68.2)、t-ヘキシルペルオキシピバレート(71.3)、t-ブチルペルオキシピバレート(72.7)、ジ(3,5,5-トリメチルヘキサノイル)パーオキサイド(76.8)、ジラウロイルパーオキサイド(79.5)、1,1,3,3-テトラメチルブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート(84.4)、ジコハク酸パーオキサイド(87.0)、2,5-ジメチル-2,5-ジ(2-エチルヘキサノイルペルオキシ)ヘキサン(83.4)、t-ヘキシルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート(90.1)、ジ(4-メチルベンゾイル)パーオキサイド(89.3)、t-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート(92.1)、ジ(3-メチルベンゾイル)パーオキサイド-ベンゾイル(3-メチルベンゾイル)パーオキサイド-ジベンゾイルパーオキサイド混合物(91.9)、ジベンゾイルパーオキサイド(92.0)等が挙げられる。
これらの中でも、2,5-ジメチル-2,5-ジ(2-エチルヘキサノイルペルオキシ)ヘキサン、クミルペロキシネオデカノエート、ジ-n-プロピルペルオキシジカルボネート、ジイソプロピルペルオキシジカルボネート、ジ-sec-ブチルペルオキシジカルボネート、1,1,3,3-テトラメチルブチルペルオキシネオデカノエート、ジ(4-t-ブチルシクロヘキシル)ペルオキシジカルボネート、ジ(2-エチルヘキシル)ペルオキシジカルボネート、t-ヘキシルペルオキシネオデカノエート、t-ブチルペルオキシネオデカノエートが好ましく、より好ましくは、2,5-ジメチル-2,5-ジ(2-エチルヘキサノイルペルオキシ)ヘキサン、ジ(4-t-ブチルシクロヘキシル)ペルオキシジカルボネートであり、さらに好ましくは2,5-ジメチル-2,5-ジ(2-エチルヘキサノイルペルオキシ)ヘキサンである。なお、上記化合物名に続く括弧内に、それぞれのT1(単位:℃)を示す。
有機過酸化物は商業的にも入手でき、例えば、日油株式会社から入手することができる。具体的には、パークミルND、パーロイルNPP、パーロイルIPP、パーロイルSBP、パーオクタND、パーロイルTCP、パーロイルOPP、パーヘキシルND、パーブチルND、パーヘキサ25О等がある。
【0043】
有機過酸化物の1時間半減期温度(T1)は、50~150℃が好ましく、55~100℃がより好ましい。このような範囲であれば、組成物の保存安定性に優れ、硬化性が良好なものとなる。
有機過酸化物の配合量は、(A)成分100質量部に対して0.01~5質量部であり、本発明に所望される反応性と硬化性の面から好ましくは0.1~3質量部であり、さらに好ましくは1~3質量部である。配合量が、0.01質量部未満の場合、反応が十分に進行しない。5質量部を超える場合、得られる硬化物が透明性、接着性、高温における耐久性を有しないものとなる。
なお、(D)成分は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0044】
(E)シリカ
(E)成分のシリカは、主に組成物の粘度を調整する任意成分であり、ヒュームドシリカ(乾式シリカ)や沈殿シリカ(湿式シリカ)が挙げられるが、ヒュームドシリカ(乾式シリカ)が好ましい。また、(E)成分を配合することで硬化物の硬度をさらに高め、部品等を移送する際の位置ずれを抑制する効果もある。
(E)成分の比表面積は、特に限定されるものではないが、50~400m2/gが好ましく、100~350m2/gがより好ましい。比表面積が50m2/g未満であると、組成物のチクソ性が不十分となる場合があり、また400m2/gを超えると、組成物の粘度が過剰に高くなり、作業性が悪くなる場合がある。なお、比表面積は、BET法による測定値である。
この(E)成分のシリカは、1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
これらのシリカは、そのまま用いても構わないが、表面疎水化処理剤で処理したものを用いてもよい。
この場合、予め表面処理剤で処理したシリカを用いても、シリカの混練時に表面処理剤を添加し、混練と表面処理を同時に行ってもよい。
これら表面処理剤は、アルキルアルコキシシラン、アルキルクロロシラン、アルキルシラザン、シランカップリング剤等が挙げられ、これらは、1種単独で用いても、2種以上を同時に、または異なるタイミングで用いてもよい。
【0046】
本発明の組成物において、(E)成分を用いる場合、その添加量は、上記(A)成分100質量部に対して1~200質量部が好ましく、1~150質量部がより好ましく、1~100質量部がより一層好ましく、1~10質量部がさらに好ましい。
【0047】
(F)帯電防止剤
(F)成分の帯電防止剤は、表面抵抗率を低下させ、材料に帯電防止性を付与する役割を有する任意成分である。帯電防止剤としては、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の塩、イオン液体等が挙げられる。ここで、イオン液体とは、室温(25℃)で液体である溶融塩であり、常温溶融塩とも呼ばれるものであり、特に融点が50℃以下のものをいう。好ましくは-100~30℃、より好ましくは-50~20℃のものをいう。このようなイオン液体は、蒸気圧がない(不揮発性)、高耐熱性、不燃性、化学的安定である等の特性を有するものである。
【0048】
アルカリ金属またはアルカリ土類金属の塩としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属の塩;カルシウム、バリウム等のアルカリ土類金属の塩などが挙げられる。これらの具体例としては、LiClO4、LiCF3SO3、LiN(CF3SO2)2、LiAsF6、LiCl、NaSCN、KSCN、NaCl、NaI、KI等のアルカリ金属塩;Ca(ClO4)2、Ba(ClO4)2等のアルカリ土類金属塩などが挙げられる。
これらの中でも、低抵抗値と溶解度の点から、LiClO4、LiCF3SO3、LiN(CF3SO2)2、LiAsF6、LiCl等のリチウム塩が好ましく、LiCF3SO3、LiN(CF3SO2)2が特に好ましい。
【0049】
イオン液体は、4級アンモニウムカチオンとアニオンとからなる。この4級アンモニウムカチオンは、イミダゾリウム、ピリジニウムまたは式:R6
4N+[式中、R6は、互いに独立して、水素原子または炭素原子数1~20の有機基である。]で表されるカチオンのいずれかの形態である。
【0050】
上記R6で表される有機基の具体例としては、炭素原子数1~20の一価炭化水素基、アルコキシアルキル基等が挙げられ、より具体的には、メチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル基等のアルキル基;フェニル、トリル、キシリル、ナフチル基等のアリール基;ベンジル、フェネチル基等のアラルキル基;シクロペンチル、シクロへキシル、シクロオクチル基等のシクロアルキル基;エトキシエチル基(-CH2CH2OCH2CH3)等のアルコキシアルキル基などが挙げられる。なお、R6で表される有機基のうちの2個が結合して環状構造を形成してもよく、この場合には2個のR6が一緒になって2価の有機基を形成する。この2価の有機基の主鎖は、炭素のみで構成されていてもよいし、その中に酸素原子、窒素原子等のヘテロ原子を含んでいてもよい。具体的には、例えば、2価炭化水素基[例えば、炭素原子数3~10のアルキレン基]、式:-(CH2)c-O-(CH2)d-[式中、cは1~5の整数であり、dは1~5の整数であり、c+dは4~10の整数である。]などが挙げられる。
【0051】
上記R6
4N+で表されるカチオンの具体例としては、メチルトリn-オクチルアンモニウムカチオン、エトキシエチルメチルピロリジニウムカチオン、エトキシエチルメチルモルホリニウムカチオン等が挙げられる。
【0052】
上記アニオンとしては、特に制限はないが、例えば、AlCl4
-、Al3Cl10
-、Al2Cl7
-、ClO4
-、PF6
-、BF4
-、CF3SO3
-、(CF3SO2)2N-、(CF3SO2)3C-が好ましく、PF6
-、BF4
-、CF3SO3
-、(CF3SO2)2N-がより好ましい。
【0053】
上記帯電防止剤は、1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
(F)成分を用いる場合、その配合量は、帯電防止性および耐熱性の観点から、上記(A)成分100質量部に対して、好ましくは0.001~10質量部、より好ましくは0.005~10質量部である。
【0054】
本発明の熱硬化型シリコーン粘着剤組成物から得られる硬化物の帯電防止性能としては、スタチックオネストメーター(シシド静電気(株)製)を用いて、硬化物の表面にコロナ放電により静電気を6kVチャージした後、その帯電圧が半分になる時間(半減期)が、2分以内であることが好ましく、1分以内がより好ましい。
【0055】
なお、上述のとおり、本発明の組成物は、非架橋性のオルガノポリシロキサンレジンを含まないものである。
このようなオルガノポリシロキサンレジンとしては、一般的に硬化物に粘着性を付与する成分として用いられる、(d)R4
3SiO1/2単位(R4は、上記と同じ意味を表す。)と(e)SiO4/2単位とからなり、(d)単位と(e)単位のモル比が0.4~1.2:1の範囲にあるオルガノポリシロキサンレジン等が挙げられる。
【0056】
また、本発明の組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、色材(顔料または染料)、シランカップリング剤、接着助剤、重合禁止剤、酸化防止剤、光安定化剤等の添加剤を配合することができる。
さらに、本発明の組成物はその他の樹脂組成物と適宜混合して使用することもできる。
【0057】
本発明の熱硬化型シリコーン粘着剤組成物は、上記(A)~(D)成分、ならびに必要に応じて(E)成分、(F)成分およびその他の成分を、任意の順序で混合し、撹拌等して得ることができる。撹拌等の操作に用いる装置は特に限定されないが、擂潰機、3本ロール、ボールミル、プラネタリーミキサー等を用いることができる。また、これら装置を適宜組み合わせてもよい。
【0058】
本発明の熱硬化型シリコーン粘着剤組成物の粘度は、塗布時の成型性や作業性の観点から、回転粘度計を用いて23℃で測定した粘度が10,000mPa・s以下が好ましく、5,000mPa・s以下がより好ましく、4,000mPa・s以下がより一層好ましく、3,500mPa・s以下がさらに好ましい。10,000mPa・sを超えると作業性が著しく悪くなる場合がある。なお、下限値は特に制限されないが、100mPa・s以上が好ましく、500mPa・s以上がより好ましい。
【0059】
本発明の熱硬化型シリコーン粘着剤組成物は、加熱することにより速やかに硬化する。硬化条件は、特に制限されるものではなく、公知の硬化性シリコーン組成物と同様の条件とすることができる。室温硬化でも、加熱硬化でもよく、好ましくは20~180℃、より好ましくは50~150℃の温度にて、好ましくは0.1~3時間、より好ましくは0.5~2時間反応させて硬化させる。
【0060】
また、本発明の熱硬化型シリコーン粘着剤組成物は、各種基材に塗布して加熱硬化させることにより、粘着性物品として利用することができる。
基材としては、プラスチックフィルム、ガラス、金属等が挙げられ、特に制限なく使用できる。
プラスチックフィルムとしては、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエステルフィルム、ポリイミドフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリ塩化ビニリデンフィルム、ポリビニルアルコールフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリスチレンフィルム、エチレン-酢酸ビニル共重合体フィルム、エチレン-ビニルアルコール共重合体フィルム、トリアセチルセルロースフィルム等が挙げられる。
ガラスについても、厚みや種類などについて特に制限はなく、化学強化処理などをしたものでもよい。
なお、基材と粘着剤層の密着性を向上させるために、基材に予めプライマー処理、プラズマ処理等を施したものを用いてもよい。
【0061】
塗工方法は、例えば、スピンコーター、コンマコーター、リップコーター、ロールコーター、ダイコーター、ナイフコーター、ブレードコーター、ロッドコーター、キスコーター、グラビアコーター等を用いる方法、スクリーン塗工、浸漬塗工、キャスト塗工等の公知の塗工方法から適宜選択して用いることができる。
【0062】
本発明の熱硬化型シリコーン粘着剤組成物は、無溶剤型であるため、硬化物の作製方法としては、型を用いたポッティングも可能である。
ポッティングにおける型へ流し込む際に気泡を巻き込むことがあるが、減圧により脱泡することができる。型としては、例えば、シリコンウエハー上にフォトレジストにより所望の凹凸をつけたレジスト型を用いることができる。
硬化後、型から硬化物を取り出したい場合には、組成物を流し込む前に容器に離型剤処理を施すことが好ましい。離型剤としてはフッ素系、シリコーン系等のものが使用可能である。
【0063】
なお、本発明の熱硬化型シリコーン粘着剤組成物は、通常、そのまま使用するが、ハンドリング性、基材への塗布性などの改善が必要な場合には、本発明の特性を損なわない範囲において有機溶剤により希釈してから使用することも許容される。
【0064】
本発明の熱硬化型シリコーン粘着剤組成物の硬化物は、成型時やマイクロトランスファープリンティング材料として用いた際の素子等の微細部品の移送時に凝集破壊を起こさないようにすることを考慮すると、厚さ2.0mmでの引張強度(JIS-K6249:2003)は、1MPa以上が好ましく、2MPa以上がより好ましい。
【0065】
次に、本発明に係る微小構造体転写用スタンプの一実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1,2に示されるように、本発明の熱硬化型シリコーン粘着剤組成物の硬化物は、微小な素子や部品等を移送するための微小構造体転写用スタンプ100,101として利用することができる。
【0066】
図1において、微小構造体転写用スタンプ100は、基材200上に本発明の熱硬化型シリコーン粘着剤組成物の硬化物層300を有して構成されている。この場合、硬化物層300の大きさは、基材200に収まる大きさであればよく、全く同じ大きさでもよい。基材の大きさは特に制限されず、従来公知の範囲から適宜選択することができる。
基材200の材質には特に制限はなく、その具体例としては、プラスチックフィルム、ガラス、合成石英、金属等が挙げられる。厚みや種類などについても特に制限はなく、化学強化処理などをしたものでもよい。なお、基材と粘着剤層の密着性を向上させるために、基材に予めプライマー処理、プラズマ処理等を施したものを用いてもよい。微小構造体移送時の位置ずれを抑制し、移送精度を高めるためには、平坦度の高い合成石英を使用することが好ましい。
【0067】
基材200上の硬化物300を作製する方法にも特に制限はなく、例えば、基材200上に未硬化の熱硬化型シリコーン粘着剤組成物を直接塗布して硬化させる方法、基材200上に熱硬化型シリコーン粘着剤組成物のシート状硬化物を貼り合せる方法等のいずれでもよい。
基材200上に熱硬化型シリコーン粘着剤組成物を直接塗布して硬化させる方法では、基材200上へシリコーン粘着剤組成物を塗布後、熱により硬化させることで微小構造体転写用スタンプ100を得ることができる。
塗布方法としては、例えば、スピンコーター、コンマコーター、リップコーター、ロールコーター、ダイコーター、ナイフコーター、ブレードコーター、ロッドコーター、キスコーター、グラビアコーター等を用いる方法、スクリーン塗工、浸漬塗工、キャスト塗工等の公知の塗工方法から適宜選択して用いることができる。
また、これらの方法でシリコーン粘着剤組成物を基材に塗布後、プレス成型やコンプレッション成型等を行いながら加熱により硬化させることで、平坦性の高い微小構造体転写用スタンプ100を得ることができる。
【0068】
基材200上に熱硬化型シリコーン粘着剤組成物のシート状硬化物を貼り合せる方法では、材料をシート状に成型後、基材200に貼り合せることで微小構造体転写用スタンプ100を得ることができる。
【0069】
熱硬化型シリコーン粘着剤組成物をシート状に成型する方法としては、例えば、ロール成型、プレス成型、トランスファー成型、コンプレッション成型等の成型方法から適宜選択して用いることができる。シート状硬化物は、ホコリ等の付着防止や硬化時の酸素阻害抑制のために、プラスチックフィルムに挟み込む形で成型することが好ましい。また、得られたシート状硬化物が所望よりも大きい場合、所望の大きさにカットすることも可能である。
また、シート状硬化物と基材200との密着性を上げるため、これらのいずれか、または両方の貼り合せ面にプラズマ処理、エキシマ処理、化学処理等を施してもよい。さらに、貼り合せ強度を向上させるために、粘着剤、接着剤等を使用してもよい。粘着剤、接着剤としては、シリコーン系、アクリル系、エポキシ系等のものが使用可能である。
貼り合せ方法としては、ロール貼り合せ、真空プレス等を用いることができる。
【0070】
微小構造体転写用スタンプ100中のシリコーン粘着剤硬化物層300の厚さは、成型性や平坦性の観点から1μm~1cmが好ましく、10μm~5mmがより好ましい。
【0071】
一方、
図2において、微小構造体転写用スタンプ101は、基材201上に本発明の熱硬化型シリコーン粘着剤組成物の硬化物層310を有して構成される。基材201としては、基材200と同様のものを使用できる。シリコーン粘着剤硬化物層310は、表面に凸状構造311を有している。また、凸状構造311の下部には、ベース層312が設けられていてもよい。
基材201上に硬化物層310を作製する方法に特に制限はなく、例えば、基材201上にモールド成型等により直接硬化物層310を成型する方法、基材201上に凸状構造311を有するシート状硬化物を貼り合せる方法等が挙げられる。
【0072】
基材201上にモールド成型により直接シリコーン粘着剤硬化物層310を成型する方法では、例えば、
図3に示されるように、基材201と型401の間に本発明のシリコーン粘着剤組成物を満たし、加熱照射により硬化させた後、型401を脱型することで微小構造体転写用スタンプ101を得ることができる。
型401としては、例えば、シリコンウエハーや石英基板上にフォトレジストにより所望の凹凸をつけたレジスト型、熱硬化型樹脂にパターン露光して凹凸をつけた樹脂型等を用いることができる。樹脂型の場合、基材として各種プラスチックフィルムを用いることができる。
基材201と型401の間にシリコーン粘着剤組成物を満たす方法としては、基材201と型401のいずれか一方、もしくは両方にシリコーン粘着剤組成物を塗布してからこれらを貼り合せる方法等が挙げられる。塗布方法や貼り合せ方法は上述の方法を用いることができる。塗布時に型401に微小な気泡が残る可能性があるが、真空貼り合せや減圧による脱泡により解決できる。
これらの方法でシリコーン粘着剤組成物を基材に塗布後、プレス成型、コンプレッション成型、ロールプレス成型等を行いながら加熱により硬化させることで、微小構造体転写用スタンプ101を得ることができる。
【0073】
また、別の方法として、シリコーン粘着剤組成物を所望のパターンを有するメッシュを用いてスクリーン印刷した後、加熱により硬化させる方法でも微小構造体転写用スタンプ101を得ることができる。この際、本発明のシリコーン粘着剤組成物は形状保持性に優れるため、塗布後から硬化するまでに所望のパターン形状を損なうことはない。
【0074】
基材201上に凸状構造311を有するシリコーン粘着剤シート状硬化物を貼り合せる方法では、シリコーン粘着剤組成物を、凸状構造311を有するシート状硬化物に成型後、基材201に貼り合せることで、微小構造体転写用スタンプ101を得ることができる。
熱硬化型シリコーン粘着剤組成物を凸状構造311を有するシート状硬化物に成型する方法としては、型401と同様な凹凸を有する型を用いたロール成型、プレス成型、トランスファー成型、コンプレッション成型等の成型方法から適宜選択して用いることができる。
シート状硬化物は、ホコリ等の付着防止や硬化時の酸素阻害抑制のために、プラスチックフィルム等に挟み込んで成型することが好ましい。また、得られたシート状硬化物が所望よりも大きい場合、所望の大きさにカットすることも可能である。
さらに、シート状硬化物と基材201との密着性を上げるため、これらの貼り合せ面にプラズマ処理、エキシマ処理、化学処理等を施してもよい。また、貼り合せ強度を向上させるために、上述した各種粘着剤、接着剤等を使用してもよい。
貼り合せ方法としては、ロール貼り合せ、真空プレス等を用いることができる。
【0075】
凸状構造311の大きさや配列は、移送対象の微小構造体の大きさや所望の配置に合わせて設計可能である。
凸状構造311の上面は平坦であり、また、その面形状に制限はなく、円形、楕円形、四角形等が挙げられる。四角形等の場合、エッジに丸みをつけても問題ない。凸状構造311の上面の幅は、0.1μm~1cmが好ましく、1μm~1mmがより好ましい。
また、凸状構造311の側面の形態にも制限はなく、垂直面、斜面等を問わない。
凸状構造311の高さは、0.1μm~1cmが好ましく、1μm~1mmがより好ましい。
空間を隔てて隣り合う凸状構造311同士のピッチ距離は、0.1μm~10cmが好ましく、0.1μm~1cmがより好ましく、1μm~1mmがさらに好ましい。
また、ベース層312の厚さは、0.1μm~1cmが好ましく、1μm~5mmがより好ましい。
【0076】
以上のような微小構造体転写用スタンプは、装置へ取り付けて微小構造体転写装置として利用できる。装置への取り付け方法に制限はないが、真空チャック、粘着剤シート等が挙げられる。微小構造体転写装置は、素子等の微小構造体を微小構造体転写用スタンプの粘着性によりピックアップし、所望の位置へ移動後、リリースすることで、微小構造体の移送を達成することが可能である。
【0077】
微小構造体の転写の具体例としては、レーザー光を用いて半導体素子のサファイア基板をGaN系化合物結晶層から剥離するレーザーリフトオフ(laser lift off、LLO)プロセスの際に、剥離した半導体素子の位置ずれが生じないように仮固定するための保持基板(ドナー基板)として、本発明の微小構造体転写用スタンプ100または101を使用することができる。この際、基材200および201としては、平坦度の高い合成石英を使用することが好ましい。
さらに、上記保持基板上に仮固定された半導体素子を選択的にピックアップするために、上記保持基板よりも粘着力の大きい微小構造体転写用スタンプ100または101を用いることができる。ここでピックアップした半導体素子を実装先基板上の所望の位置へ移動後、はんだ付けを行って半導体素子と実装先基板とを接合し、微小構造体転写用スタンプを半導体素子から剥離することにより、半導体素子の転写および基板への実装が達成される。
【0078】
移送物の剥離性と保持性とのバランスを考慮すると、上記保持基板(ドナー基板)における硬化物層300,310の粘着力は、0.001~2MPaが好ましく、0.002~1MPaがより好ましい。また、素子ピックアップ用としての上記微小構造体転写用スタンプにおける硬化物層300,310の粘着力は、上記保持基板の粘着力よりも大きいことが好ましく、0.01MPa以上が好ましく、より好ましくは0.1MPa以上である。なお、上記粘着力の測定方法は、実施例に記載したとおりである。
【実施例0079】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
なお、実施例で使用した各成分の化合物は以下のとおりである。下記式中、Meはメチル基を表し、Phはフェニル基を表し、Viはビニル基を表す。(G)、(H)成分の粘度は、回転粘度計により測定した値である。
【0080】
(A)成分
【化7】
(式中、括弧内のシロキサン単位の配列順は任意である。)
【0081】
(B)成分
(B-1)イソボルニルアクリレート(共栄社化学(株)製ライトアクリレートIB-XA)
【0082】
(C)成分
(C-1)下記式(6)で表されるメタクリロイルオキシ基含有単位、ViMe2SiO1/2単位、Me3SiO1/2単位およびSiO2単位を含有し、メタクリロイルオキシ基含有単位/(ViMe2SiO1/2単位)/(Me3SiO1/2単位)/(SiO2単位)のモル比が0.07/0.10/0.67/1.00であるオルガノポリシロキサンレジン(数平均分子量5,700)の50質量%キシレン溶液
(C-2)下記式(6)で表されるメタクリロイルオキシ基含有単位、ViMe2SiO1/2単位、Me3SiO1/2単位およびSiO2単位を含有し、メタクリロイルオキシ基含有単位/(ViMe2SiO1/2単位)/(Me3SiO1/2単位)/(SiO2単位)のモル比が0.11/0.06/0.67/1.00であるオルガノポリシロキサンレジン(数平均分子量6,000)の50質量%キシレン溶液
【0083】
【0084】
(D)成分
(D-1)2,5-ジメチル-2,5-ビス(2-エチルヘキサノイルパーオキシ)へキサン(ベンゼン中における1時間半減期温度83.4℃)を50質量%含有する炭化水素溶液(日油(株)製、パーヘキサ25О)
(E)成分
(E-1)乾式シリカ((株)トクヤマ製レオロシールDM-30S、比表面積230m2/g)
(F)成分
(F-1)LiN(SO2CF3)2を20質量%含有するアジピン酸エステル
【0085】
比較成分
(G)成分
(G-1)(ViMe2SiO1/2)2(Me2SiO2/2)300で表される、25℃の粘度が1Pa・sのオルガノポリシロキサン
(H)成分
(H-1)(Me2SiO1/2)2(Me2SiO2/2)17(MeHSiO2/2)45で表される、25℃の粘度が50mPa・sのオルガノハイドロジェンポリシロキサン
(I)成分
(I-1)白金含有量が0.5質量%である、Karstedt触媒(白金-1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン錯体)のトルエン溶液
(J)成分
(J-1)白金族金属触媒毒としての効果を有する3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン
(K)成分
(K-1)付加反応制御剤としての効果を有するエチニルメチルデシルカルビノール
【0086】
[実施例1~8および比較例1,2]
上記(A)、(C)成分を表1の組成で混合し、減圧下にて100℃でキシレンを留去した後、上記(B)、(D)成分、場合により(E)、(F)成分およびその他の成分を配合・混合し、表1記載の各シリコーン組成物を調製した。なお、表1における組成物の粘度は回転粘度計を用いて23℃で測定した値である。
調製したシリコーン組成物を、120℃で30分間プレス硬化し、さらに120℃のオーブン中で30分間加熱した。なお、シートの厚みは2.0mmとした。硬化物の硬度、引張強度はJIS-K6249:2003に準じて測定した。
硬化物の粘着力は、(株)島津製作所製小型卓上試験機EZ-SXにより測定した。具体的には、1mm厚の硬化物に1mm角SUS製プローブを1MPaで15秒間押し付けた後、200mm/分の速度で引っ張った際にかかる負荷を測定した値である。
硬化物の帯電防止性は、スタチックオネストメーター(シシド静電気(株)製)を用いて、2mm厚硬化物シート表面に、それぞれコロナ放電により静電気を6kVチャージした後、その帯電圧が半分になる時間(半減期)を測定した。
【0087】
【0088】
表1に示されるように、実施例1~8で調製した熱硬化型シリコーン粘着剤組成物は、適度な粘度を有していることがわかる。また、その硬化物は、優れた粘着性と引張強度を有しており、素子等の微細部品を移送するための仮固定材として有用であることがわかる。また、実施例7は、(F-1)成分を配合したことにより、帯電防止性に優れる。
一方、(C-1)成分が本発明の範囲を外れて多すぎる比較例1では、組成物が固形化して取り扱いが困難となることがわかる。また、付加反応により硬化が進行する比較例2では、触媒毒となる(J-1)成分の硬化阻害を受けるため硬化せず、仮固定材に相応しくないことがわかる。
このように、実施例1~8の熱硬化型シリコーン粘着剤組成物は、加熱により簡便に硬化可能であり、かつ硬化阻害を受けないため基材を選ばずに仮固定材を作製することができ、多くの技術分野において利用価値が高い。
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。