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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024163495
(43)【公開日】2024-11-22
(54)【発明の名称】窒化ガリウム単結晶基板
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/38 20060101AFI20241115BHJP
   H01L 21/20 20060101ALI20241115BHJP
   H01L 21/205 20060101ALI20241115BHJP
   C30B 25/20 20060101ALN20241115BHJP
【FI】
C30B29/38 D
H01L21/20
H01L21/205
C30B25/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023079178
(22)【出願日】2023-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100187632
【弁理士】
【氏名又は名称】橘高 英郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 隆
(72)【発明者】
【氏名】藤本 哲爾
(72)【発明者】
【氏名】北村 寿朗
(72)【発明者】
【氏名】柴田 真佐知
【テーマコード(参考)】
4G077
5F045
5F152
【Fターム(参考)】
4G077AB01
4G077AB09
4G077BE15
4G077DB05
4G077EA02
4G077EA03
4G077EB01
4G077ED06
4G077FG11
5F045AB14
5F045AC03
5F045AC12
5F045AF04
5F045AF13
5F045BB12
5F152LL03
5F152LM08
5F152LN10
5F152LN18
5F152NN09
5F152NP09
5F152NP27
(57)【要約】
【課題】窒化ガリウム単結晶基板上に作製したデバイス特性を向上させる。
【解決手段】50mm以上の直径を有し、主面に最も近い低指数の結晶面が(0001)面である窒化ガリウム単結晶基板であって、主面に対して、アルカリ系エッチング液によるエッチングを施した際に形成されるエッチピットの密度が1×10cm-2未満であり、エッチピットの径のヒストグラムに現れるピークのうち、最も径が小さい側に現れる第1ピークの径をaとしたとき、径が4aを超えるエッチピットの総数が、第1ピークを構成するエッチピットの数の1/1000以下である、窒化ガリウム単結晶基板。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
50mm以上の直径を有し、主面に最も近い低指数の結晶面が(0001)面である窒化ガリウム単結晶基板であって、
前記主面に対して、アルカリ系エッチング液によるエッチングを施した際に形成されるエッチピットの密度が1×10cm-2未満であり、
前記エッチピットの径のヒストグラムに現れるピークのうち、最も径が小さい側に現れる第1ピークの径をaとしたとき、径が4aを超えるエッチピットの総数が、前記第1ピークを構成するエッチピットの数の1/1000以下である、窒化ガリウム単結晶基板。
【請求項2】
径が2a以上のエッチピットの総数が、前記第1ピークを構成するエッチピットの数の1/10以下である、請求項1に記載の窒化ガリウム単結晶基板。
【請求項3】
前記第1ピークを構成するエッチピットの数が、全体の50%以上である、請求項1に記載の窒化ガリウム単結晶基板。
【請求項4】
前記第1ピークの度数をAとしたとき、前記ヒストグラムに現れる、度数がA/10以上のピークは、前記第1ピークを含めて2つである、請求項1に記載の窒化ガリウム単結晶基板。
【請求項5】
径がa超2a未満の範囲に第2ピークを有し、前記第2ピークを構成するエッチピットの数は、前記第1ピークを構成するエッチピットの数より少ない、請求項1に記載の窒化ガリウム単結晶基板。
【請求項6】
前記エッチピットの密度およびヒストグラムは、面積が1mm以上の領域から計測したものである、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の窒化ガリウム単結晶基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化ガリウム単結晶基板に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、III族窒化物半導体の単結晶からなり、鏡面化された主面を有し、主面に対して最も近い低指数の結晶面が(0001)面である下地基板を準備する工程と、(0001)面が露出した頂面を有するIII族窒化物半導体の単結晶を下地基板の主面上に直接的にエピタキシャル成長させ、(0001)面以外の傾斜界面で構成される複数の凹部を頂面に生じさせ、下地基板の主面の上方に行くにしたがって該傾斜界面を徐々に拡大させ、(0001)面を頂面から消失させ、表面が傾斜界面のみで構成される第1層を成長させる第1工程と、第1層上にIII族窒化物半導体の単結晶をエピタキシャル成長させ、傾斜界面を消失させ、鏡面化された表面を有する第2層を成長させる第2工程と、を有し、第1工程では、単結晶の頂面に複数の凹部を生じさせ、(0001)面を消失させることで、第1層の表面に、複数の谷部および複数の頂部を形成する窒化ガリウム単結晶基板の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-33211号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、窒化ガリウム単結晶基板上に作製したデバイスの特性を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様によれば、
50mm以上の直径を有し、主面に最も近い低指数の結晶面が(0001)面である窒化ガリウム単結晶基板であって、
前記主面に対して、アルカリ系エッチング液によるエッチングを施した際に形成されるエッチピットの密度が1×10cm-2未満であり、
前記エッチピットの径のヒストグラムに現れるピークのうち、最も径が小さい側に現れる第1ピークの径をaとしたとき、径が4aを超えるエッチピットの総数が、前記第1ピークを構成するエッチピットの数の1/1000以下である、窒化ガリウム単結晶基板が提供される。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、窒化ガリウム単結晶基板上に作製したデバイスの特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る窒化ガリウム単結晶基板の製造方法を示すフローチャートである。
図2図2(a)~(c)は、本発明の一実施形態に係る窒化ガリウム単結晶基板の製造方法の一部を示す概略断面図である。
図3図3(a)、(b)は、本発明の一実施形態に係る窒化ガリウム単結晶基板の製造方法の一部を示す概略断面図である。
図4図4(a)、(b)は、本発明の一実施形態に係る窒化ガリウム単結晶基板の製造方法の一部を示す概略断面図である。
図5図5は、本発明の一実施形態に係る窒化ガリウム単結晶基板の主面に形成されるエッチピットの一例を示すSEM像である。
図6図6(a)は、実施例1に係るエッチピットの径のヒストグラムであり、図6(b)は、図6(a)を縦軸方向に拡大したものである。
図7図7(a)は、実施例2に係るエッチピットの径のヒストグラムであり、図7(b)は、図7(a)を縦軸方向に拡大したものである。
図8図8(a)は、比較例に係るエッチピットの径のヒストグラムであり、図8(b)は、図8(a)を縦軸方向に拡大したものである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<発明者の得た知見>
まず、発明者らの得た知見について説明する。
【0009】
窒化ガリウム(GaN)単結晶基板のc面に対して、例えば、アルカリ系エッチング液によるエッチングを施した場合、転位に対応するエッチピットが形成されることが知られている。そして、エッチピットのサイズ(径)によって、転位の種類(刃状、混合、螺旋)を特定する方法も当業者に知られているが、この方法は必ずしも汎用的に適用できるとは限らない。アルカリ系のエッチングで形成されるエッチピットのサイズは、転位芯の周りの結晶格子の歪みの大きさに対応する。したがって、エッチピットのサイズは、転位の種類以外に、その転位にトラップされている不純物や転位上の析出物、近接する他の転位との距離等によっても左右されるからである。
【0010】
上述の理由から、エッチピットのサイズにより、転位の種類(刃状、混合、螺旋)を特定することは困難であるが、サイズの大きなエッチピットを形成する転位は、転位芯の周りの歪場も大きいということは言える。大きな歪場を有する転位は、大きなバーガースベクトルを有している可能性が高く、そのような転位は、転位芯が中空状(ホローコア)のマイクロパイプ欠陥のようになって、不純物の異常拡散経路になりやすい。発明者らは、この大きな歪場を有する転位が、窒化ガリウム単結晶基板上に作製したデバイスの特性に悪影響を及ぼすことを見出した。
【0011】
エッチピットのサイズは、エッチング条件にも大きく依存する。このため、エッチピットのサイズの絶対値を議論することは意味がない。しかしながら、エッチングで検出される大きさの異なる何種類かのエッチピットのうち、最もサイズの小さいエッチピットは、転位芯の周りの歪場が最も小さな刃状転位に対応している可能性が極めて高い。そこで、発明者らは、エッチピットの径のヒストグラムを調べ、このヒストグラムに現れるピークのうち、最も径が小さいピークの径を基準とし、他のエッチピットの径および数を調べることで、窒化ガリウム単結晶基板上に作製したデバイスの特性に悪影響を及ぼす転位欠陥の有無を把握する技術を見出した。そして、基準となるエッチピットの径をaとしたとき、径が4aを超えるエッチピットは、上述の大きな歪みを蓄積した転位に対応し、このような転位がデバイス特性に悪影響を及ぼす可能性が高いことを知見した。
【0012】
さらに発明者らは、上記のような大きな歪みを蓄積した転位を低減する(または無くす)方法について鋭意研究を行った。その結果、特許文献1に記載されているような、傾斜界面を成長面として成長させる工程(後述の第1工程)において、傾斜界面成長領域に高濃度にゲルマニウム(Ge)をドープすることで、アルカリ系エッチング液によるエッチングを施した際、径が4aを超える大きなエッチピットがほぼ無い(つまり、デバイス特性に悪影響を及ぼす可能性が高い大きな歪みを蓄積した転位が実質的に無い)窒化ガリウム単結晶基板を製造できることを見出した。
【0013】
<本発明の一実施形態>
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0014】
(1)窒化ガリウム単結晶基板の製造方法
図1図4を用い、本実施形態に係る窒化ガリウム単結晶基板の製造方法について説明する。図1は、本実施形態に係る窒化ガリウム単結晶基板の製造方法を示すフローチャートである。図2(a)~(c)、図3(a)、(b)、図4(a)、(b)は、本実施形態に係る窒化ガリウム単結晶基板の製造方法の一部を示す概略断面図である。また、図3(b)において、細実線sは、成長途中の結晶面を示し、図2(c)、図3(a)、(b)、図4(a)、(b)において、点線は、転位を示している。
【0015】
図1に示すように、本実施形態に係る窒化ガリウム単結晶基板の製造方法は、例えば、下地基板準備工程S100と、第1工程S200と、第2工程S300と、スライス工程S400と、研磨工程S500と、を有している。
【0016】
(S100:下地基板準備工程)
図2(a)に示すように、下地基板準備工程S100では、窒化ガリウム単結晶からなる下地基板10を準備する。本実施形態の下地基板準備工程S100では、市販の窒化ガリウム単結晶基板(テンプレートではなく、自立基板)を下地基板10として用いることができる。また、特許文献1に記載のVAS(Void-Assisted Separation)法により、窒化ガリウム単結晶からなる下地基板10を作製してもよい。
下地基板10としては、Geドープ、Siドープ、アンドープのいずれでもよいが、特にGeドープGaN層とすることが好ましい。これにより、下地基板10と、後述する第1層30とのGe濃度差を低減することができる。
【0017】
なお、以下では、ウルツ鉱構造を有するGaN結晶において、<0001>軸を「c軸」といい、(0001)面を「c面」という。なお、(0001)面を「+c面(ガリウム極性面)」といい、(000-1)面を「-c面(窒素(N)極性面)」ということがある。また、<1-100>軸を「m軸」といい、{1-100}面を「m面」という。なお、m軸は<10-10>軸と表記してもよい。また、<11-20>軸を「a軸」といい、{11-20}面を「a面」という。
【0018】
(S200:第1工程(第1層成長工程))
下地基板準備工程S100において準備した下地基板10上に、図2(b)に示すように、c面30cが露出した頂面30uを有するGaNの単結晶を、例えば、HVPE法により、加熱された下地基板10に対してGaClガスおよびNHガスを供給することで、下地基板10の主面10s上に直接的にエピタキシャル成長させる。これにより、第1層30を成長させる。
【0019】
このとき、c面以外の傾斜界面30iで囲まれて構成される複数の凹部30pを単結晶の頂面30uに生じさせ、下地基板10の主面10sの上方に行くにしたがって、該傾斜界面30iを徐々に拡大させ、c面30cを徐々に縮小させる。これにより、c面30cを頂面30uから消失させる。その結果、図2(c)に示すような、表面が傾斜界面30iのみで構成される第1層30が成長する。
【0020】
すなわち、第1工程S200では、下地基板10の主面10sをあえて荒らすように、第1層30を単結晶のまま3次元成長させる。
【0021】
第1工程S200では、例えば、所定の第1成長条件下で、第1層30を成長させる。本実施形態の第1成長条件としては、例えば、第1工程S200での成長温度を、後述の第2工程S300での成長温度よりも低くする。具体的には、第1工程S200での成長温度を、例えば、980℃以上1,020℃以下、好ましくは1,000℃以上1,020℃以下とする。
【0022】
また、本実施形態の第1成長条件として、例えば、第1工程S200でのIII族原料ガスとしてのGaClガスの供給レートに対する窒化剤ガスとしてのNHガスの供給レートの比率(以下、「V/III比」ともいう)を、後述の第2工程S300でのV/III比よりも大きくしてもよい。具体的には、第1工程S200でのV/III比を、例えば、2以上20以下、好ましくは、2以上15以下とする。
【0023】
本実施形態では、第1成長条件において、第1層30(特に、後述する傾斜界面成長領域70)に高濃度にGeをドープする。これにより、後述の第2層40の表面において、大きな歪みを蓄積した転位を減らし、効果的に歪場の小さな転位の存在比率を大きくすることができる。Geドープは、例えば、テトラクロロゲルマン(GeCl)ガスを用いて行う。GeClガスは、例えば、ボンベから供給するか、原料容器を5℃程度に保持した恒温槽中に置き、GeClを液体にした状態でキャリアガスを用いてバブリングすることで供給する。キャリアガスはHガスまたはNガスのどちらか、もしくは両方を用いることができる。いずれの場合もマスフローコントローラによりGeClガスの分圧が0.3~30Paとなるように流量制御を行うことで、第1層30(特に傾斜界面成長領域70)のGe濃度が3×1018~9×1020cm-3となるように適宜調整することが好ましい。
【0024】
なお、本実施形態の第1成長条件のうちの他の条件は、例えば、以下のとおりである。
成長圧力:90~105kPa、好ましくは、90~95kPa
GaClガスの分圧:1.5~15kPa
ガスの流量/Hガスの流量:0~1
GeClガスの分圧:0.3~30Pa
【0025】
ここで、本実施形態の第1工程S200は、例えば、第1層30の成長中の形態に基づいて、2つの工程に分類される。具体的には、本実施形態の第1工程S200は、例えば、傾斜界面拡大工程S220と、傾斜界面維持工程S240と、を有している。これらの工程により、第1層30は、例えば、傾斜界面拡大層32と、傾斜界面維持層34と、を有することとなる。
【0026】
(S220:傾斜界面拡大工程)
まず、図2(b)に示すように、GaNの単結晶からなる第1層30の傾斜界面拡大層32を、上述の第1成長条件下で、下地基板10の主面10s上に直接エピタキシャル成長させる。
【0027】
傾斜界面拡大層32が成長する初期段階では、下地基板10の主面10sの法線方向(c軸に沿った方向)に、c面30cを成長面として傾斜界面拡大層32が成長する。
【0028】
第1成長条件下で傾斜界面拡大層32を徐々に成長させることで、図2(b)に示すように、傾斜界面拡大層32のうちc面30cを露出させた頂面30uに、c面以外の傾斜界面30iで構成される複数の凹部30pを生じさせる。c面以外の傾斜界面30iで構成される複数の凹部30pは、当該頂面30uにランダムに形成される。これにより、c面30cとc面以外の傾斜界面30iとが表面に混在する傾斜界面拡大層32が形成される。
【0029】
なお、ここでいう「傾斜界面30i」とは、c面30cに対して傾斜した成長界面のことを意味し、c面以外の低指数のファセット、c面以外の高指数のファセット、または面指数で表すことができない傾斜面を含んでいる。なお、c面以外のファセットは、例えば、{11-2m}、{1-10n}などである。ただし、mおよびnは0以外の整数である。
【0030】
第1成長条件下で傾斜界面拡大層32をさらに成長させることで、図2(b)に示すように、下地基板10の上方に行くにしたがって、傾斜界面拡大層32において、c面以外の傾斜界面30iを徐々に拡大させ、c面30cを徐々に縮小させる。なお、このとき、下地基板10の上方に行くにしたがって、該下地基板10の主面10sに対する、傾斜界面30iがなす傾斜角度が徐々に小さくなっていく。これにより、最終的に、傾斜界面30iのほとんどが、m≧3の{11-2m}面となる。
【0031】
さらに傾斜界面拡大層32を成長させていくと、図2(c)に示すように、傾斜界面拡大層32のc面30cは頂面30uから消失し、傾斜界面拡大層32の表面は傾斜界面30iのみで構成される。これにより、錐体を連続的に結合させた山脈状の傾斜界面拡大層32が形成されることとなる。
【0032】
本実施形態では、傾斜界面拡大層32が成長する初期段階において、下地基板10の主面10s上に、傾斜界面30iを生じさせずにc面30cを成長面として傾斜界面拡大層32を所定の厚さで成長させた後、傾斜界面拡大層32の表面に、c面以外の傾斜界面30iを生じさせる。これにより、複数の谷部30vは、下地基板10の主面10sから上方に離れた位置に形成されることとなる。この際、Geドープした下地基板10を使用する場合には、下地基板10とc面30cを成長面として成長した領域とのGe濃度差が、例えば、1×1018cm-3以下となるように調整することが好ましい。
【0033】
以上のような傾斜界面拡大層32の成長過程により、転位は、以下のように屈曲して伝播する。具体的には、図2(c)に示すように、下地基板10内においてc軸に沿った方向に延在していた複数の転位は、下地基板10から傾斜界面拡大層32のc軸に沿った方向に向けて伝播する。傾斜界面拡大層32のうちc面30cを成長面として成長した領域では、下地基板10から傾斜界面拡大層32のc軸に沿った方向に向けて転位が伝播する。しかしながら、傾斜界面が拡大し、c軸に沿った方向に伝播していた転位の成長面が、傾斜界面30iに変化すると、当該転位は、該傾斜界面30iに対して略垂直な方向に向けて屈曲して伝播する。すなわち、転位は、c軸に対して傾斜した方向に屈曲して伝播する。これにより、傾斜界面拡大工程S220以降の工程において、傾斜界面30iで構成される複数の凹部30pの略中央において、局所的に転位が集められることとなる。凹部30pの略中央に集められた転位のうち、互いに相反するバーガースベクトルを有する転位同士は、会合時に消失する。また一部は、転位ループを形成し、c軸に沿った方向に伝搬することが抑制される。その結果、後述の第2層40の表面における転位密度を低減させることができる。一方で、他の転位と会合しない転位はそのまま伝搬を維持し、一部の転位は他の転位と会合し、さらに大きなバーガースベクトルを形成しながら進行する。
【0034】
このとき、傾斜界面拡大層32には、成長過程での成長面の違いに基づいて、c面30cを成長面として成長した第1c面成長領域60と、c面以外の傾斜界面30iを成長面として成長した傾斜界面成長領域70(図中灰色部)とが形成される。
【0035】
また、このとき、第1c面成長領域60では、傾斜界面30iが発生した位置に凹部60aを形成し、c面30cが消失した位置に凸部60bを形成する。また、第1c面成長領域60では、凸部60bを挟んだ両側に、c面30cと傾斜界面30iとの交点の軌跡として、一対の傾斜部60iを形成する。
【0036】
(S240:傾斜界面維持工程)
傾斜界面拡大層32の表面からc面30cを消失させた後に、図3(a)に示すように、表面が傾斜界面30iのみで構成された状態を維持しつつ、所定の厚さに亘って第1層30の成長を継続させる。これにより、傾斜界面拡大層32上に、c面を有さず傾斜界面30iのみを表面に有する傾斜界面維持層34を形成する。傾斜界面維持層34を形成することで、第1層30の表面全体に亘って確実にc面30cを消失させることができる。
【0037】
このとき、傾斜界面維持工程S240での成長条件を、傾斜界面拡大工程S220と同様に、上述の第1成長条件で維持する。これにより、傾斜界面30iのみを成長面として傾斜界面維持層34を成長させることができる。
【0038】
また、このとき、第1成長条件下で、傾斜界面30iを成長面として傾斜界面維持層34を成長させることで、上述のように、傾斜界面拡大層32において傾斜界面30iが露出した位置で、c軸に対して傾斜した方向に向けて屈曲して伝播した転位は、傾斜界面維持層34においても同じ方向に伝播し続ける。
【0039】
また、このとき、傾斜界面維持層34は、傾斜界面30iを成長面として成長することで、傾斜界面維持層34の全体が、傾斜界面成長領域70の一部となる。
【0040】
傾斜界面成長領域70では、第1c面成長領域60と比較して、酸素を取り込みやすい。このため、傾斜界面成長領域70中の酸素濃度は、第1c面成長領域60中の酸素濃度よりも高くなる。なお、傾斜界面成長領域70中に取り込まれる酸素は、例えば、HVPE装置内に意図せずに混入する酸素、またはHVPE装置を構成する部材(石英部材等)から放出される酸素等である。傾斜界面成長領域70に酸素が取り込まれることで、格子定数が大きくなり、結晶が凸側に変形する。VAS法で製造されたGaN基板のc面形状は、一般的に凹型に湾曲している。下地基板10にVAS法で製造されたGaN基板を用いると、最初は凹型であったc面形状が、傾斜界面成長領域70が厚く成長していくことで徐々に凸側に変形し、平面に近づくためc軸分布が小さくなる。これにより、後述の本成長層44のc面40cの曲率半径を大きくすることができる。
【0041】
なお、第1c面成長領域60中の酸素濃度は、例えば、5×1016cm-3以下、好ましくは3×1016cm-3以下である。一方で、傾斜界面成長領域70中の酸素濃度は、例えば、3×1018cm-3以上5×1019cm-3以下である。
【0042】
ここで、傾斜界面成長領域70に高濃度にGeをドープすることで、後述の第2層40の表面において、大きな歪みを蓄積した転位を減らすことができる。Geには転位の移動を妨げる効果(ピン止め効果、ピンニング)があり、また、歪場の大きな転位ほど、コットレル効果により転位芯に不純物を集めやすいという性質がある。前述の通り、凹部30pには集められた転位が会合して大きなバーガースベクトルを形成した転位が存在している。傾斜界面30i(特に傾斜界面成長領域70)に高濃度にGeをドープすることで、集められた転位のうち、特に歪場の大きな転位がGeによりピンニングされる。ピンニングされた転位は他のすべり面への進行が妨げられるため、そのままの形態で伝搬を維持することが困難になり、伝搬を維持するために2本以上の転位に分解して進行する確率が高まる。分解した個々の転位はこれまでよりも歪場の小さな転位となるため、第2層40の表面において、歪場の小さな転位の存在比率を大きくすることができる。歪場の大きな転位を分解することで、転位の数は増加するが、元々歪場の大きな転位の絶対数は少ないので、傾斜界面30iの凹部30pの略中央に集められて減少する転位の数に比べて、上記の分解で増加する転位の数は無視できるほど少ない。これにより、デバイス特性に悪影響を及ぼす歪場の大きな転位を、選択的に減少させることができる。
【0043】
c面30cを成長面として成長した第1c面成長領域60に比べて、c面以外の傾斜界面30iを成長面として成長した傾斜界面成長領域70には、酸素と同様にGeも取り込まれ易い。そのため、傾斜界面30iが形成されるタイミングで、Geをドーピングし始めると、c面30cに比べて傾斜界面30iのGe濃度が高くなる。さらに傾斜界面30iでは、転位はc軸に対して傾斜した方向に屈曲し、凹部30pの略中央に集められるため、傾斜界面30iが形成されるタイミングでGeをドープすることで、効果的に歪場の大きな転位を減少させることができる。
【0044】
傾斜界面成長領域70のGe濃度は3×1018~9×1020cm-3であることが好ましい。傾斜界面成長領域70のO濃度やGe濃度は、例えば、2次イオン質量分析(SIMS)により測定することができる。歪場の小さな転位の存在比率を大きくする効果は、傾斜界面成長領域70のGe濃度が5×1018cm-3を超えたあたりから顕著に表れ始め、5×1019cm-3付近で極大を持つ。傾斜界面成長領域70のGe濃度が5×1021cm-3を超えると、結晶が異常成長(例えば多結晶化)してしまう。
【0045】
以上の第1工程S200により、傾斜界面拡大層32および傾斜界面維持層34を有する第1層30が形成される。
【0046】
本実施形態の第1工程S200では、下地基板10の主面10sから第1層30の頂部30tまでの高さ(第1層30の厚さ方向の最大高さ、以下、第1層30の厚さともいう)を、例えば、0.5mm以上3mm以下とすることが好ましい。第1層30の厚さが0.5mm未満では、第2層40の表面において、歪場の小さな転位の存在比率を大きくする効果が充分に得られない可能性がある。これに対し、第1層30の厚さを0.5mm以上とすることで、歪場の小さな転位の存在比率を大きくする効果を充分に得ることができる。一方、第1層30の厚さが3mmを超えると、第2層40の表面において、歪場の小さな転位の存在比率を大きくする効果が飽和してしまう可能性が高く、生産コスト的に不利が生じる。これに対し、第1層30の厚さを3mm以下とすることで、歪場の小さな転位の存在比率を大きくする効果を効率よく得ることができる。
【0047】
(S300:第2工程(第2層成長工程))
c面30cを消失させた第1層30を成長させたら、図3(b)および図4(a)に示すように、第1層30上に、GaNの単結晶をさらにエピタキシャル成長させる。
【0048】
このとき、下地基板10の主面10sの上方に行くにしたがって、傾斜界面40iを徐々に縮小させ、c面40cを徐々に拡大させる。これにより、第1層30の表面に形成されていた傾斜界面30iを消失させる。その結果、鏡面化された表面を有する第2層40を成長させる。
【0049】
第2工程S300では、例えば、所定の第2成長条件下で、第2層40を成長させる。本実施形態の第2成長条件としては、第2工程S300での成長温度を、例えば、第1工程S200での成長温度よりも高くする。具体的には、第2工程S300での成長温度を、例えば、990℃以上1,120℃以下、好ましくは1,020℃以上1,100℃以下とする。
【0050】
また、本実施形態の第2成長条件として、第2工程S300でのV/III比を調整してもよい。例えば、第2工程S300でのV/III比を、第1工程S200でのV/III比よりも小さくしてもよい。具体的には、第2工程S300でのV/III比を、例えば、1以上10以下、好ましくは、1以上5以下とする。
【0051】
本実施形態の第2工程S300は、例えば、第2層40の成長中の形態に基づいて、2つの工程に分類される。具体的には、本実施形態の第2工程S300は、例えば、c面拡大工程S320と、本成長工程S340と、を有している。これらの工程により、第2層40は、例えば、c面拡大層42と、本成長層44と、を有することとなる。
【0052】
なお、本実施形態の第2成長条件のうちの他の条件は、例えば、以下のとおりである。
成長圧力:90~105kPa、好ましくは、90~95kPa
GaClガスの分圧:1.5~15kPa
ガスの流量/Hガスの流量:1~20
【0053】
(S320:c面拡大工程)
図3(b)に示すように、第1層30上に、上述の第2成長条件で、GaNの単結晶からなる第2層40のc面拡大層42をエピタキシャル成長させる。
【0054】
このとき、第1層30の上方に行くにしたがって、c面40cを拡大させつつ、c面以外の傾斜界面40iを縮小させる。
【0055】
具体的には、第2成長条件下での成長により、c面拡大層42は、傾斜界面維持層34の傾斜界面30iから、傾斜界面40iを成長面としてc軸に垂直な方向に沿った方向(すなわち沿面方向または横方向)に成長する。c面拡大層42を横方向成長させていくと、傾斜界面維持層34の頂部30tの上方で、c面拡大層42のc面40cが再度露出し始める。これにより、c面40cとc面以外の傾斜界面40iとが表面に混在するc面拡大層42が形成される。
【0056】
さらにc面拡大層42を横方向成長させていくと、c面40cが徐々に拡大し、c面拡大層42の傾斜界面40iが徐々に縮小する。これにより、第1層30の表面において複数の傾斜界面30iにより構成された凹部30pが徐々に埋め込まれる。
【0057】
その後、さらにc面拡大層42を成長させると、c面拡大層42の傾斜界面40iが完全に消失し、第1層30の表面において複数の傾斜界面30iにより構成された凹部30pが完全に埋め込まれる。これにより、c面拡大層42の表面が、c面40cのみにより構成される鏡面(平坦面)となる。
【0058】
このとき、第1層30およびc面拡大層42の成長過程で、転位を局所的に集めることで、転位密度を低減させることができる。具体的には、第1層30においてc軸に対して傾斜した方向に向けて屈曲して伝播した転位は、c面拡大層42においても同じ方向に伝播し続ける。これにより、c面拡大層42のうち、一対の頂部30t間での略中央の上方において、隣接する傾斜界面40iの会合部で、局所的に転位が集められる。c面拡大層42において隣接する傾斜界面40iの会合部に集められた複数の転位のうち、互いに相反するバーガースベクトルを有する転位同士は、会合時に消失する。また、隣接する傾斜界面40iの会合部に集められた複数の転位の一部は、ループを形成し、c軸に沿った方向(すなわち、c面拡大層42の表面側)に伝播することが抑制される。なお、c面拡大層42において隣接する傾斜界面40iの会合部に集められた複数の転位のうちの他部は、その伝播方向をc軸に対して傾斜した方向からc軸に沿った方向に再度変化させ、第2層40の表面側まで伝播する。このように複数の転位の一部を消失させたり、複数の転位の一部をc面拡大層42の表面側に伝播することを抑制したりすることで、第2層40の表面における転位密度を低減することができる。また、転位を局所的に集めることで、第2層40のうち、転位がc軸に対して傾斜した方向に向けて伝播した部分の上方に、低転位密度領域を形成することができる。
【0059】
ここで、c面拡大工程S320においても、第2層40(特にc面拡大層42)に高濃度にGeをドーピングすることが好ましい。c面拡大層42のうち、傾斜界面40iが成長している間は、傾斜界面成長領域70と同様に高濃度にGeをドープすることで、第2層40のc面40cにおいて、大きな歪みを蓄積した転位の増加を抑制することができる。また、傾斜界面40iが成長している間に、高濃度にGeをドープすることで、大きな歪を蓄積した転位をさらに減らすことができる。c面拡大層42にGeをドープする場合、傾斜界面成長領域70にドープしたGeと同じ濃度でドープしても良いし、異なる濃度でドープしても良い。傾斜界面成長領域70とは異なる濃度でドープする場合、第2層40の成長中に、連続的にGe濃度を変化させることが好ましい。このとき、GeClガスの分圧は0.3~40Paの範囲で調整することが好ましい。
【0060】
また、このとき、c面拡大層42では、c面40cが徐々に拡大することで、c面40cを成長面として成長した後述の第2c面成長領域80が、厚さ方向の上方に行くにしたがって徐々に拡大しながら形成される。
【0061】
c面拡大工程S320では、c面拡大層42の表面がc面40cのみにより構成される鏡面となるため、c面拡大層42の厚さ方向の高さ(厚さ方向の最大高さ)は、例えば、傾斜界面維持層34の谷部30vから頂部30tまでの高さ以上となる。
【0062】
(S340:本成長工程(c面成長工程))
c面拡大層42において傾斜界面40iが消失し、表面が鏡面化されたら、図4(a)に示すように、c面拡大層42上に、c面40cを成長面として所定の厚さに亘って本成長層44を形成する。これにより、傾斜界面40iを有さずc面40cのみを表面に有する本成長層44を形成する。
【0063】
このとき、本成長工程S340での成長条件を、c面拡大工程S320と同様に、上述の第2成長条件で維持する。これにより、c面40cを成長面として本成長層44をステップフロー成長させることができる。
【0064】
本成長工程S340では、所定の成長温度に加熱された下地基板10に対して、GaClガス、NHガスおよびn型ドーパントガスとしてのジクロロシラン(SiHCl)ガスを供給することで、第2層40として、シリコン(Si)ドープGaN層をエピタキシャル成長させてもよいし、n型ドーパントガスとして、SiHClガスの代わりに、GeClガスなどを供給することで、GeドープGaN層をエピタキシャル成長させてもよい。なお、第2層40として、鉄(Fe)、マンガン(Mn)、炭素(C)等をドープしたGaN層をエピタキシャル成長させてもよい。
【0065】
本成長工程S340において、第2層40にGeをドープする場合、c面拡大工程S320においてc面拡大層42にドープしたGeと同じ濃度でドープしても良いし、異なる濃度でドープしてもよい。c面拡大工程S320とは異なる濃度でドープする場合、本成長工程S340の成長中に、連続的にGe濃度を変化させることが好ましい。このとき、GeClガスの分圧は0.3~50Paの範囲で調整することが好ましい。また、本成長工程S340において、Ge以外のドーパント(例えば、Si)をドープする場合、本成長工程S340の成長中に、徐々にGe濃度を減らし、Ge濃度がSIMSによる検出下限程度になってから、Ge以外のドーパント濃度を徐々に増やしていくことが好ましい。
【0066】
また、このとき、傾斜界面成長領域70に酸素が取り込まれることで結晶の格子が伸び、第2層40のc軸分布は小さくなるため、その上に成長する本成長層44のc面40cの曲率半径を、下地基板10のc面10cの曲率半径よりも大きくすることができる。これにより、本成長層44のうち表面の法線に対するc軸のオフ角のばらつきを、下地基板10のうち主面10sの法線に対するc軸10caのオフ角のばらつきよりも小さくすることができる。
【0067】
また、このとき、傾斜界面40iを露出させることなく、c面40cのみを成長面として、本成長層44を成長させることで、本成長層44の全体が、後述の第2c面成長領域80となる。
【0068】
本成長工程S340では、本成長層44の厚さを、例えば、300μm以上10mm以下とする。本成長層44の厚さを300μm以上とすることで、後述のスライス工程S400において、本成長層44から少なくとも1枚以上の基板50をスライスすることができる。一方で、本成長層44の厚さを10mm以下とすることで、最終的な厚さを650μmとし、700μm厚の基板50を本成長層44からスライスする場合に、カーフロス200μm程度を考慮しても、少なくとも10枚の基板50を得ることができる。
【0069】
以上の第2工程S300により、c面拡大層42および本成長層44を有する第2層40が形成される。その結果、本実施形態の積層構造体90が形成される。
【0070】
なお、以上の第1工程S200から第2工程S300までの工程を、下地基板10を大気暴露することなく、同一のチャンバ内で連続的に行う。これにより、第1層30と第2層40との間の界面に、意図しない高酸素濃度領域(傾斜界面成長領域70よりも過剰に高い酸素濃度を有する領域)が形成されることを抑制することができる。
【0071】
(S400:スライス工程)
次に、図4(b)に示すように、例えば、本成長層44の表面と略平行な切断面に沿ってワイヤーソーにより本成長層44をスライスする。これにより、アズスライス基板としての窒化ガリウム単結晶基板50(基板50ともいう)を少なくとも1つ形成する。このとき、基板50の厚さを、例えば、300μm以上700μm以下とする。
【0072】
このとき、本成長層44から切り出した基板50のc面50cの曲率半径は、上述の理由で下地基板10のc面10cの曲率半径よりも大きくなる。これにより、基板50の主面50sの法線に対するc軸50caのオフ角θのばらつき(基板面内のオフ角θの最大最小差)を、下地基板10のc軸10caのオフ角のばらつきよりも小さくすることができる。
【0073】
(S500:研磨工程)
次に、研磨装置により基板50の両面を研磨する。なお、このとき、最終的な基板50の厚さを、例えば、250μm以上650μm以下とする。
【0074】
以上の工程により、本実施形態に係る基板50が製造される。
【0075】
(半導体積層物の作製工程および半導体装置の作製工程)
基板50が製造されたら、例えば、基板50上にIII族窒化物半導体からなる半導体機能層をエピタキシャル成長させ、半導体積層物を作製してもよい。半導体積層物を作製したら、さらに半導体積層物上に電極等を形成し、半導体積層物をダイシングし、所定の大きさのチップを切り出す。これにより、半導体装置を作製してもよい。基板50の表面に存在する大きな歪みを蓄積した転位を減らしたことで、基板50上に作製した半導体装置(デバイス)の特性を向上させることができる。
【0076】
(2)窒化ガリウム単結晶基板(窒化物半導体自立基板、窒化物結晶基板)
次に、本実施形態に係る窒化ガリウム単結晶基板50について説明する。
【0077】
本実施形態において、上述の製造方法によって得られる基板50は、GaNの単結晶からなる自立基板である。
【0078】
基板50の直径は、例えば、50mm以上である。また、基板50の厚さは、例えば、300μm以上1mm以下である。
【0079】
基板50の導電性は特に限定されるものではないが、基板50を用いて縦型のショットキーバリアダイオード(SBD)としての半導体装置を製造する場合には、基板50は例えばn型であり、基板50中のn型不純物は例えばSiまたはゲルマニウム(Ge)であり、基板50中のn型不純物濃度は例えば1.0×1018cm-3以上1.0×1020cm-3以下である。
【0080】
基板50は、例えば、エピタキシャル成長面となる主面50sを有している。本実施形態において、主面50sに対して最も近い低指数の結晶面は、例えば、c面50cである。
【0081】
なお、基板50の主面50sは、例えば、鏡面化されており、基板50の主面50sの二乗平均粗さRMSは、例えば、1nm未満である。
【0082】
また、本実施形態において、上述の製造方法によって得られる基板50中の不純物濃度は、フラックス法またはアモノサーマル法などによって得られる基板よりも低くなっている。
【0083】
具体的には、基板50中の水素濃度は、例えば、1×1017cm-3未満、好ましくは5×1016cm-3以下である。
【0084】
また、本実施形態では、基板50は、c面40cを成長面として成長した本成長層44をスライスすることで形成されるため、傾斜界面30iまたは傾斜界面40iを成長面として成長した傾斜界面成長領域70を含んでいない。すなわち、基板50の全体は、低酸素濃度領域により構成されている。
【0085】
具体的には、基板50中の酸素濃度は、例えば、5×1016cm-3以下、好ましくは3×1016cm-3以下である。
【0086】
(c面の湾曲、およびオフ角のばらつき)
本実施形態では、基板50のc面50cの曲率半径は、例えば、上述した基板50の製造方法で用いる下地基板10のc面10cの曲率半径よりも大きくなっている。
【0087】
具体的には、基板50のc面50cの曲率半径は、例えば、23m以上、好ましくは30m以上、さらに好ましくは40m以上である。
【0088】
本実施形態では、基板50のc面50cの曲率半径の上限値は、大きければ大きいほどよいため、特に限定されるものではない。基板50のc面50cが略平坦となる場合は、該c面50cの曲率半径が無限大であると考えればよい。
【0089】
また、本実施形態では、基板50のc面50cの曲率半径が大きいことにより、基板50の主面50sの法線に対するc軸50caのオフ角θのばらつきを、下地基板10のc軸10caオフ角のばらつきよりも小さくすることができる。
【0090】
具体的には、基板50の(0002)面のX線ロッキングカーブ測定を行い、該(0002)面の回折ピーク角度に基づいて、主面50sの法線に対するc軸50caのオフ角θを測定したときに、主面50sの中心から直径29.6mm内におけるオフ角θの大きさの最大最小差で求められるばらつきは、例えば、0.075°以下、好ましくは0.057°以下、さらに好ましくは0.043°以下である。
【0091】
本実施形態では、基板50のc軸50caのオフ角θのばらつきの下限値は、小さければ小さいほどよいため、特に限定されるものではない。基板50のc面50cが略平坦となる場合は、基板50のc軸50caのオフ角θのばらつきが0°であると考えればよい。
【0092】
また、本実施形態では、基板50の主面50sに対して等方的にc面50cの湾曲が小さくなるため、c面50cの曲率半径には、方向依存性が小さい。
【0093】
具体的には、上述の測定方法で求められるa軸に沿った方向におけるc面50cの曲率半径と、m軸に沿った方向におけるc面50cの曲率半径との差は、例えば、これらのうち大きいほうの曲率半径の50%以下、好ましくは20%以下である。
【0094】
(転位密度)
本実施形態では、上述の製造方法により、第2層40の表面における転位密度が、下地基板10の主面10sにおける転位密度よりも低減されている。これにより、第2層40をスライスして形成される基板50の主面50sにおいても、転位が低減されている。
【0095】
VAS法により作製された高純度のGaN単結晶からなる下地基板10を用いて基板50を製造した場合、基板50中に、異物または点欠陥を起因とした非発光中心が少ない。したがって、多光子励起顕微鏡等により本願の基板50の主面を観察したときに観察される暗点の95%以上(好ましくは99%以上)は、異物または点欠陥を起因とした非発光中心ではなく、転位に対応している。なお、「多光子励起顕微鏡」とは、二光子励起蛍光顕微鏡と呼ばれることもある。
【0096】
本実施形態では、転位の集中に起因した特段に転位密度が高い領域が形成されておらず、転位密度が低い領域が均一に形成されている。
具体的には、本実施形態では、多光子励起顕微鏡により視野250μm角で基板50の主面50sを観察して暗点密度から転位密度を求めたときに、転位密度が1×10cm-2を超える領域が存在せず、転位密度が5×10cm-2未満である領域が主面50sの80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上存在する。
【0097】
言い換えれば、本実施形態では、基板50の主面50s全体を平均した転位密度は、例えば、1×10cm-2未満であり、好ましくは、5.5×10cm-2未満であり、より好ましくは3×10cm-2以下である。
【0098】
(エッチピットヒストグラム)
基板50の主面50sに対して、アルカリ系エッチング液によるエッチングを施すと、図5に示すようなエッチピットが形成される。本実施形態では、水酸化カリウム(KOH)と水酸化ナトリウム(NaOH)を1:1で混合して融液(温度470℃)としたものの中に基板50を20分間浸漬させ、エッチングを行った。そして、エッチング後の基板50の主面50sを、SEMを用いて観察し、画像解析により、各エッチピットの径を算出し、得られたエッチピットの径のデータから、エッチピットの径のヒストグラムを作成した。なお、エッチピットの径とは、画像解析した各エッチピット領域の最大径としてもよいし、円相当径としてもよい。本実施形態では、エッチピットの径のヒストグラムに現れるピークのうち、最も径が小さい側に現れるピーク(以下、第1ピークともよぶ)の径をaとして規格化し、横軸の階級(刻み幅)は0.1a刻みとした。縦軸は計測領域内のエッチピットの個数(度数)である。
【0099】
本実施形態の基板50の主面50sに対して、上述の条件でエッチングを施した際に形成されるエッチピットの密度(単位面積当たりの個数)は、ほぼ転位密度に相当する。エッチピットの大きさは、エッチング条件によって変化させることができるが、あまり高密度に存在すると、隣接するエッチピット同士が重なって、エッチピットの径を計測することが難しくなるため、有意に測定を行うためには、エッチピットの密度は1×10cm-2未満が好ましく、より好ましくは、5.5×10cm-2未満であり、さらには3×10cm-2以下であることが好ましい。なお、エッチピットの密度およびエッチピットの径のヒストグラムは、面積が1mm以上の領域から計測することが好ましい。
【0100】
本実施形態の基板50は、第1ピークの径をaとしたとき、径が4aを超えるエッチピットの総数(合計数)が、第1ピークを構成するエッチピットの数の1/1000以下である。これは、径が4aを超えるエッチピットが実質的に存在しないと言い換えることもできるが、基板50上の傷や異物によって、大きなエッチピットが形成されることがあるため、1/1000以下と表現する。このような基板50は、デバイス特性を悪化させるような、大きい歪みを蓄積した転位が実質的に無いと言える。したがって、基板50上に作製したデバイス特性を向上させることができる。
【0101】
本実施形態の基板50は、径が2a以上のエッチピットの総数が、第1ピークを構成するエッチピットの数の1/10以下であることが好ましく、1/100以下であることがより好ましい。径が2a以上のエッチピットは、基板50のデバイス特性に影響を及ぼすような転位に対応している可能性があるため、径が2a以上のエッチピットの総数を、第1ピークを構成するエッチピットの数の1/10以下(より好ましくは1/100以下)とすることで、基板50上に作製したデバイス特性をさらに向上させることができる。
【0102】
本実施形態の基板50は、第1ピークを構成するエッチピットの数が、全体の50%以上(より好ましくは70%以上)であることが好ましい。上述したように、第1工程S200において、傾斜界面成長領域70に高濃度にGeをドープすることで、歪場の小さな転位の存在比率を大きくしているため、第1ピークを構成するエッチピットの数を増加させることができる。歪場の小さな転位は、基板50のデバイス特性に大きな影響を及ぼさないため、第1ピークを構成するエッチピットの割合が高いということは、基板50上に作製したデバイス特性が良好であることを意味する。
【0103】
本実施形態の基板50は、第1ピークの度数をAとしたとき、径のヒストグラムに現れる、度数がA/10以上のピークは、第1ピークを含めて2つであることが好ましい。エッチピットのヒストグラムに現れるピークの数は、エッチピットに対応する転位欠陥の構成種の数に対応していると言える。ピークがたくさん観測される結晶は、単純な刃状、混合といった転位だけでなく、それらと複合的に結びついた不純物や点欠陥のバリエーションが多い、即ち、不純物準位や欠陥準位が多く発生している可能性の高い結晶であり、デバイスを作製した時の特性のばらつきが大きい、言い換えるとデバイス歩留まりの悪い可能性の高い結晶であると言える。これに対し、ヒストグラムに現れる、度数がA/10以上のピークが第1ピークを含めて2つである結晶は、結晶中に存在している転位が単純な刃状転位と混合転位の2種類だけであることを示唆しており、即ち、デバイスを作製した時の特性のばらつきが小さく、デバイス歩留まりの良い結晶であると言える。
また、本実施形態の基板50は、径がa超2a未満の範囲に第2ピークを有し、第2ピークを構成するエッチピットの数は、第1ピークを構成するエッチピットの数より少ないことが好ましい。第2ピークを形成するエッチピットの径がa超2a未満の範囲にあるということは、それが単純な混合転位に対応している可能性の高いことを意味しており、第2ピークを構成するエッチピットの数が少ないこと、言い換えると第1ピークを構成するエッチピットの数が多いことは、結晶中の転位が転位芯の周りの歪の少ない転位によって主に構成されていることを示している。これらの特徴は、基板50上に作製したデバイス特性が良好であることを意味する。
【0104】
<他の実施形態>
以上、本発明の実施形態を具体的に説明した。しかしながら、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0105】
上述の実施形態では、下地基板10が市販の窒化ガリウム単結晶基板、または、VAS法により作製したGaN自立基板である場合について説明したが、下地基板10は、VAS法により作製したGaN自立基板に限らず、例えば、他の方法により作製したGaN自立基板であってもよい。
【0106】
上述の実施形態では、主に基板50がn型である場合について説明したが、基板50はp型であったり、または半絶縁性を有していたりしてもよい。例えば、基板50を用いて高電子移動度トランジスタ(HEMT)としての半導体装置を製造する場合には、基板50は、半絶縁性を有していることが好ましい。
【0107】
上述の実施形態では、第1工程S200において、第1成長条件として主に成長温度を調整する場合について説明したが、成長温度以外の成長条件を調整したり、成長温度と成長温度以外の成長条件とを組み合わせて調整したりしてもよい。
【0108】
上述の実施形態では、第2工程S300において、第2成長条件として主に成長温度を調整する場合について説明したが、成長温度以外の成長条件を調整したり、成長温度と成長温度以外の成長条件とを組み合わせて調整したりしてもよい。
【0109】
上述の実施形態では、傾斜界面維持工程S240での成長条件を、傾斜界面拡大工程S220と同様に、上述の第1成長条件で維持する場合について説明したが、傾斜界面維持工程S240での成長条件が第1成長条件を満たせば、該傾斜界面維持工程S240での成長条件を、傾斜界面拡大工程S220での成長条件と異ならせてもよい。
【0110】
上述の実施形態では、本成長工程S340での成長条件を、c面拡大工程S320と同様に、上述の第2成長条件で維持する場合について説明したが、本成長工程S340での成長条件が第2成長条件を満たせば、該本成長工程S340での成長条件を、c面拡大工程S320での成長条件と異ならせてもよい。
【0111】
上述の実施形態では、スライス工程S400において、ワイヤーソーを用い、本成長層44をスライスする場合について説明したが、例えば、外周刃スライサー、内周刃スライサー、放電加工機等を用いてもよい。
【0112】
上述の実施形態では、基板50を製造したら、製造工程を終了する場合について説明したが、当該基板50を下地基板10として用い、工程S200~S500を再度行ってもよい。これにより、さらに転位密度を低減させた基板50を得ることができる。また、さらにc軸50caのオフ角θのばらつきを小さくした基板50を得ることができる。また、さらに大きな歪みを蓄積した転位を低減した基板50を得ることができる。また、基板50を下地基板10として用いた工程S200~S500を1サイクルとして、当該サイクルを複数回繰り返してもよい。これにより、サイクルを繰り返す回数に応じて、基板50の転位密度を徐々に低減させていくことができる。また、サイクルを繰り返す回数に応じて、基板50におけるc軸50caのオフ角θのばらつきも徐々に小さくしていくことができる。また、サイクルを繰り返す回数に応じて、大きな歪みを蓄積した転位を低減した基板50を得ることができる。
【実施例0113】
次に、本発明に係る実施例を説明する。これらの実施例は本発明の一例であって、本発明はこれらの実施例により限定されない。
【0114】
(1)窒化ガリウム単結晶基板の作製
以下のようにして、実施例1、実施例2、および比較例の窒化ガリウム単結晶基板を作製した。
【0115】
[実施例1の窒化ガリウム単結晶基板の作製条件]
(下地基板)
材質:GaN
作製方法:VAS法
直径:2インチ
厚さ:400μm
主面に対して最も近い低指数の結晶面:c面
主面に対するマスク層等のパターン加工なし。
主面の二乗平均粗さRMS:2nm
主面のオフ角:m方向に0.4°
XRC測定での(10-10)面回折のFWHM:100arcsec
(第1層)
材質:GaN
成長方法:HVPE法
第1成長条件:
成長温度を980℃以上1,020℃以下とし、V/III比を2以上20以下とした。また、以下の条件で傾斜界面成長領域にGeをドープした。
Geドープ方法:GeClガス
GeClガスの分圧:0.35Pa
傾斜界面成長領域のGe濃度:5×1018cm-3
下地基板の主面から第1層の表面までの厚さ:1mm
(第2層)
材質:GaN
成長方法:HVPE法
第2成長条件:
成長温度を1,050℃以上1080℃以下とし、V/III比を2以上5以下とした。c面拡大工程S320ではGeをドープせず、本成長工程S340において以下のc面Ge濃度となるようにGeをドープした。
下地基板の主面から第2層の表面までの厚さ:2mm
c面のGe濃度:3×1019cm-3
なお、第1層から第2層にかけて、各層のGe濃度が変わる場合は、Geドープ量を徐々に増減させることで、各層のGe濃度差が、1×1018cm-3以下となるように調整した。
(スライス条件)
窒化ガリウム単結晶基板の厚さ:400μm
カーフロス:200μm
【0116】
[実施例2の窒化ガリウム単結晶基板の作製条件]
(下地基板)
実施例1と同じ。
(第1層)
傾斜界面成長領域のGe濃度:5×1019cm-3
上記以外は実施例1と同じ。
(第2層)
c面拡大工程S320において傾斜界面40iのGe濃度:5×1019cm-3となるようにGeをドープした。
上記以外は実施例1と同じ。
(スライス条件)
実施例1と同じ。
【0117】
[比較例の窒化ガリウム単結晶基板の作製条件]
(下地基板)
実施例1と同じ。
(第1層)
Geのドープを行わないこと以外は実施例1と同じ。
(第2層)
実施例1と同じ。
(スライス条件)
実施例1と同じ。
【0118】
(2)エッチピットヒストグラムの評価
実施例1、実施例2、および比較例の窒化ガリウム単結晶基板の主面に対して、以下の条件でアルカリ系エッチング液によるエッチングを施し、エッチピットを形成した。
エッチング液:500gのKOHと500gのNaOHからなるアルカリ融液
融液温度:470℃
浸漬時間:20分間
【0119】
エッチピットを形成した窒化ガリウム単結晶基板の主面を、SEM(日立ハイテク社製、SU5000)を用いて観察した。測定視野は127μm×95.3μm(倍率1000倍)とし、横9枚×縦11枚(計99枚)のSEM像を結合した画像(1143μm×1048μm)を画像解析してエッチピットを計測した。具体的には、画像処理ソフトウェア(Image J)を用いて、画像の二値化を行い、エッチピット領域を塗りつぶし、エッチピット領域の幅と高さのうち大きい方をエッチピットの径として算出した。なお、エッチピット領域を塗りつぶした際に、小さなゴミを示す領域や加工傷等に起因する線状のピット領域は除去した。
【0120】
得られたエッチピットの径のデータから、エッチピットの径のヒストグラムを作成した。本実施例では、エッチピットの径のヒストグラムに現れるピークのうち、最も径が小さい側に現れるピーク(第1ピーク)の径を1として規格化し、横軸の階級は0.1刻みとした。
【0121】
図6(a)、(b)に実施例1のヒストグラムを、図7(a)、(b)に実施例2のヒストグラムを、図8(a)、(b)に比較例のヒストグラムをそれぞれ示す。図6(a)、(b)、図7(a)、(b)、図8(a)、(b)において、横軸は規格化されたエッチピット径を示し、縦軸は計測領域内のエッチピットの個数(度数)を示している。なお、図6(b)、図7(b)、図8(b)は、図6(a)、図7(a)、図8(a)のヒストグラムをそれぞれ縦軸(度数)方向に拡大したものである。また、表1に実施例1、実施例2、比較例のヒストグラムにおいて観測された、第1ピークを構成するエッチピットの数、径が2未満のエッチピットの数、径が2以上4未満のエッチピットの数、および、径が4以上のエッチピットの数をまとめて示す。
【0122】
【表1】
【0123】
図8(a)、(b)および表1に示すように、第1層(傾斜界面成長領域)にGeをドープしなかった比較例の基板においては、径が4を超えるエッチピットが僅かに計測された。これに対し、図6(a)、(b)、図7(a)、(b)、および表1に示すように、傾斜界面成長領域に高濃度にGeをドープした実施例1および実施例2の基板においては、径が4を超えるエッチピットは実質的に計測されなかった(径が4を超えるエッチピットの総数が、第1ピークを構成するエッチピットの数の1/1000以下であった)。
【0124】
以上より、第1層(傾斜界面成長領域)に高濃度にGeをドープすることで、エッチピットの径のヒストグラムにおける第1ピークの径をaとしたとき、径が4aを超えるエッチピットの総数を低減できる(第1ピークを構成するエッチピットの数の1/1000以下にできる)ことを確認した。つまり、実施例1および実施例2の窒化ガリウム単結晶基板は、デバイス特性の悪化につながるような、大きい歪みを蓄積した転位が実質的に無いと言えるため、デバイス特性を向上させることができる。
【0125】
また、表1に示すように、実施例1の基板では、第1ピークを構成するエッチピットの数が3890で、径が2以上のエッチピットの総数は352であった。つまり、実施例1の基板では、径が2以上のエッチピットの総数は、第1ピークを構成するエッチピットの数の1/10以下であることを確認した。実施例2の基板では、第1ピークを構成するエッチピットの数が3582で、径が2以上のエッチピットの総数は22であった。つまり、実施例2の基板では、径が2以上のエッチピットの総数は、第1ピークを構成するエッチピットの数の1/100以下であることを確認した。一方、比較例の基板では、第1ピークを構成するエッチピットの総数が4192で、径が2以上のエッチピットの総数は435であった。
【0126】
また、実施例1の基板では、第1ピークを構成するエッチピットの数が、全体の59%であり、実施例2の基板では、第1ピークを構成するエッチピットの数が、全体の64%であった。つまり、実施例1および実施例2の基板では、第1ピークを構成するエッチピットの数が、全体の50%以上であることを確認した。
【0127】
また、図6(a)、図7(a)から、実施例1および実施例2の基板では、第1ピークの度数をAとしたとき、径のヒストグラムに現れる、度数がA/10以上のピークは、第1ピークを含めて2つであることを確認した。
【0128】
また、図6(a)、図7(a)から、実施例1および実施例2の基板では、径が1超2未満の範囲に第2ピークを有し、第2ピークを構成するエッチピットの数は、第1ピークを構成するエッチピットの数より少なくなっていることを確認した。
【0129】
<本発明の好ましい態様>
以下、本発明の好ましい態様について付記する。
【0130】
(付記1)
50mm以上の直径を有し、主面に最も近い低指数の結晶面が(0001)面である窒化ガリウム単結晶基板であって、
前記主面に対して、アルカリ系エッチング液によるエッチングを施した際に形成されるエッチピットの密度が1×10cm-2未満であり、
前記エッチピットの径のヒストグラムに現れるピークのうち、最も径が小さい側に現れる第1ピークの径をaとしたとき、径が4aを超えるエッチピットの総数が、前記第1ピークを構成するエッチピットの数の1/1000以下である、窒化ガリウム単結晶基板。
【0131】
(付記2)
径が2a以上のエッチピットの総数が、前記第1ピークを構成するエッチピットの数の1/10以下である、付記1に記載の窒化ガリウム単結晶基板。
より好ましくは、径が2a以上のエッチピットの総数が、前記第1ピークを構成するエッチピットの数の1/100以下である。
【0132】
(付記3)
前記第1ピークを構成するエッチピットの数が、全体の50%以上である、付記1に記載の窒化ガリウム単結晶基板。
より好ましくは、前記第1ピークを構成するエッチピットの数が、全体の70%以上である。
【0133】
(付記4)
前記第1ピークの度数をAとしたとき、前記ヒストグラムに現れる、度数がA/10以上のピークは、前記第1ピークを含めて2つである、付記1に記載の窒化ガリウム単結晶基板。
【0134】
(付記5)
径がa超2a未満の範囲に第2ピークを有し、前記第2ピークを構成するエッチピットの数は、前記第1ピークを構成するエッチピットの数より少ない、付記1に記載の窒化ガリウム単結晶基板。
【0135】
(付記6)
前記エッチピットの密度およびヒストグラムは、面積が1mm以上の領域から計測したものである、付記1から付記5のいずれか1つに記載の窒化ガリウム単結晶基板。
【符号の説明】
【0136】
10 下地基板
30 第1層
32 傾斜界面拡大層
34 傾斜界面維持層
40 第2層
42 c面拡大層
44 本成長層
50 窒化ガリウム単結晶基板(基板)
60 第1c面成長領域
70 傾斜界面成長領域
80 第2c面成長領域
90 積層構造体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8