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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024163583
(43)【公開日】2024-11-22
(54)【発明の名称】全固体二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/60 20060101AFI20241115BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20241115BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20241115BHJP
   H01M 10/0565 20100101ALI20241115BHJP
【FI】
H01M4/60
H01M10/052
H01M10/0562
H01M10/0565
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023079330
(22)【出願日】2023-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】000000387
【氏名又は名称】株式会社ADEKA
(72)【発明者】
【氏名】撹上 健二
(72)【発明者】
【氏名】竹之内 宏美
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ03
5H029AJ05
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL16
5H029AM12
5H029AM16
5H050AA07
5H050AA08
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB26
5H050EA10
5H050EA23
5H050EA28
(57)【要約】
【課題】充放電容量が大きく、サイクル特性等の充放電特性に優れた全固体二次電池を提供すること。
【解決手段】正極活物質を含む正極層と、負極活物質を含む負極層と、前記正極層と前記負極層との間に、固体電解質層とを有する全固体二次電池において、前記負極活物質として、有機硫黄系電極活物質を使用することにより、充放電容量が大きくなるとともに、充放電サイクル特性が向上し、充放電を繰り返しても充放電容量が下がりにくい全固体二次電池を提供できる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質を含む正極層と、負極活物質を含む負極層と、前記正極層と前記負極層との間に、固体電解質層とを有する全固体二次電池であって、前記負極活物質が有機硫黄系電極活物質である全固体二次電池。
【請求項2】
前記有機硫黄系電極活物質が硫黄変性ポリアクリロニトリル化合物である請求項1に記載の全固体二次電池。
【請求項3】
前記正極活物質がリチウム遷移金属酸化物又はリチウム含有遷移金属リン酸化合物である請求項1又は2に記載の全固体二次電池。
【請求項4】
前記固体電解質層の固体電解質が硫化物系固体電解質又はポリマー系固体電解質である請求項1又は2に記載の全固体二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、二次電池として汎用的に使用されているリチウムイオン二次電池は、イオンを移動させるための媒体である電解液に溶媒として有機溶媒が使用されている。このためリチウムイオン二次電池では、電解液が漏出するという危険性があり安全性の高い電池が求められている。二次電池の安全性を高めるための一つの対策として、液体電解液に代えて固体電解質を電解質として用いた全固体二次電池の開発が進められている。しかしながら全固体二次電池は、液体電解質を用いた二次電池に比べて、サイクル特性等の充放電特性が劣り、二次電池としてはまだまだ満足できるものではなかった。
【0003】
硫黄変性ポリアクリロニトリル化合物等の有機硫黄系電極活物質は、充放電容量が大きく、液体電解液を使用したリチウムイオン二次電池の正極活物質(例えば、特許文献1~2を参照)又は負極活物質(例えば、特許文献3~4を参照)として検討されている。有機硫黄系電極活物質は、全固体二次電池においても正極活物質(例えば、特許文献5~6を参照)として検討されているが、全固体二次電池の負極活物質としては知られていなかった。
【0004】
有機硫黄系電極活物質の硫黄含量は、充放電容量の点からは多い方が好ましい(例えば、特許文献2を参照)が、硫黄含量が多い有機硫黄系電極活物質を正極活物質として使用した場合、サイクル特性等の充放電特性が低下するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2010/044437号
【特許文献2】国際公開第2013/001693号
【特許文献3】特開2014-096326号公報
【特許文献4】国際公開第2019/225588号
【特許文献5】国際公開第2015/030053号
【特許文献5】国際公開第2021/075440号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、充放電容量が大きく、サイクル特性等の充放電特性に優れた全固体二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を行なった結果、全固体二次電池の負極活物質として、有機硫黄系電極活物質を使用することにより、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成させた。即ち、本発明は、正極活物質を含む正極層と、負極活物質を含む負極層と、前記正極層と前記負極層との間に、固体電解質層とを有する全固体二次電池であって、前記負極活物質が有機硫黄系電極活物質である全固体二次電池である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、有機硫黄系電極活物質を負極活物質とすることにより充放電容量が大きく、サイクル特性等の充放電特性に優れた全固体二次電池を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
〔A.固体電解質層〕
本発明の全固体二次電池は、固体電解質層に、硫化物系固体電解質、酸化物系固体電解質、ポリマー系固体電解質、錯体水素化物系固体電解質、リン酸系固体電解質及び有機分子結晶系固体電解質からなる群から選択される固体電解質を含む全固体二次電池である。固体電解質は、結晶性材料であってもよく、非晶質(アモルファス)材料であってもよい。硫化物系固体電解質は酸化物系固体電解質に比べて柔らかく、界面抵抗が小さくできることから、本発明の全固体二次電池の固体電解質は、硫化物系固体電解質又はポリマー系固体電解質であることが好ましい。
【0010】
硫化物系固体電解質としては、LiS-P系化合物、LiS-SiS系化合物、LiS-GeS系化合物、LiS-B系化合物、LiS-P系化合物、LiI-SiS-P、LiI-LiS-P、LiI-LiPO-P、Li10GeP12等が挙げられる。なお、硫化物系固体電解質を指す「系化合物」という表現は、「系化合物」の前に記載した「LiS」「P」などの原料を主として含む固体電解質の総称として用いる。例えば、LiS-P系化合物には、LiSとPとを含み、さらに他の原料を含む固体電解質が含まれる。また、LiS-P系化合物には、LiSとPとの混合比を異ならせた固体電解質も含まれる。
【0011】
LiS-P系化合物としては、LiS-P、LiS-P-LiI、LiS-P-LiCl、LiS-P-LiBr、LiS-P-LiO、LiS-P-LiO-LiI、LiS-P-Z(Zは、Ge、Zn又はGa。m、nは正の数)等が挙げられる。
【0012】
LiS-SiS系化合物としては、LiS-SiS、LiS-SiS-LiI、LiS-SiS-LiBr、LiS-SiS-LiCl、LiS-SiS-B-LiI、LiS-SiS-P-LiI、LiS-SiS-LiPO、LiS-SiS-LiSO、LiS-SiS-LiMO(Mは、P、Si、Ge、B、Al、Ga又はIn。x、yは正の数)等が挙げられる。
【0013】
LiS-GeS系化合物としては、LiS-GeS、LiS-GeS-P等が挙げられる。
【0014】
酸化物系固体電解質としては、ペロブスカイト型酸化物、ナシコン(Nasicon)型酸化物、リシコン(Lisicon)型酸化物、ガーネット型酸化物、ホウ酸系化合物及びβアルミナ等が挙げられる。
【0015】
ペロブスカイト型酸化物としては、例えば、LiLa1-aTiO等のように表されるLi‐La‐Ti系ペロブスカイト型酸化物、LiLa1-bTaO等のように表されるLi‐La‐Ta系ペロブスカイト型酸化物、LiLa1-cNbO等のように表されるLi‐La‐Nb系ペロブスカイト型酸化物等が挙げられる(但し、0<a<1、0<b<1、0<c<1)。
【0016】
ナシコン型酸化物としては、例えば、Lid+lAlTi2-d(PO等に代表される結晶を主晶とするLi(Xは、B、Al、Ga、In、C、Si、Ge、Sn、Sb又はSe;Yは、Ti、Zr、Ge、In、Ga、Sn又はAl。0≦d≦1、e、f、g、p、h及びjは、正の数)で表される酸化物等が挙げられる。具体例として、LiTi(POが挙げられる。
【0017】
リシコン型酸化物としては、例えば、LiXO‐LiYO(Xは、Si、Ge又はTi。Yは、P、As又はV)で表される酸化物等が挙げられる。
【0018】
ガーネット型酸化物としては、例えば、LiLaZr12等に代表されるLi‐La‐Zr系酸化物及びその誘導体等が挙げられる。
【0019】
ホウ酸系化合物としては、例えば、LiBO、LiBO-LiSO、LiBO-LiSO-LiCO等が挙げられる。
【0020】
ポリマー系固体電解質としては、例えば特開2010-262860号公報に開示されているように、フッ素樹脂、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリロニトリル、ポリアクリレート、ポリスチレンスルホン酸及びこれらの誘導体等の、ポリマー電解質として用いられる材料が挙げられる。
【0021】
ポリマー系固体電解質であるフッ素樹脂としては、例えば、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレンや、これらの誘導体等を構成単位として含むポリマーが挙げられる。具体的には、ポリフッ化ビニリデン、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン等のホモポリマー;フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンのコポリマー等が挙げられる。
【0022】
ポリマー系固体電解質は、支持電解質を含有してもよい。支持電解質としては、リチウムイオンを含有する塩が挙げられる。具体的には、本発明の分野で常用されているものが挙げられ、LiClO、LiBF、LiPF、LiAlCl、LiSbF、LiN(CFSO、LiN(CSO、LiN(SOF)、LiSCN、LiCFSO、LiCFCO、LiAsF、LiB10Cl10、低級脂肪族カルボン酸リチウム、LiCl、LiBr、LiI、LiBCl、ホウ酸塩類、イミド塩類などが挙げられる。
【0023】
錯体水素化物系固体電解質としては、Li(CB10)、Li(CB1112)、Li(B1212)、Li(BH)、LiBH-LiI、Li(NH)、Li(AlH)、Li(AlH)、LiBH-Li(NH)、Li(BH)-Li(NH)、Li(CB10)-Li(CB1112)、Li(BH)-KI、Li(BH)-P、Li(BH)-P、Li(NH)、Li(BH)-GdCl、Li(BH)-NaI、Li(BH)-Li(NH)等が挙げられる。
【0024】
リン酸系固体電解質としては、LiPO、LiPON、Li2.9PO3.30.46等が挙げられる。有機分子結晶系固体電解質としては、Li{N(SOF)}-NCCHCHCN等が挙げられる。
【0025】
固体電解質の粒子径は緻密な層が形成できることから、平均粒子径(D50)が0.1μm~50.0μmが好ましい。本発明において、平均粒子径とは、レーザー回折光散乱法により測定された50%粒子径をいう。粒子径は体積基準の直径であり、レーザー回折光散乱法では、二次粒子の直径が測定される。
【0026】
固体電解質層には、固体電解質同士を結着させ可塑性を発現させるため、結着剤を含有さてもよい。そのような結着剤としては、後述する正極層や負極層に使用する結着剤等を例示することができる。ただし、あまりに結着剤の含有量が多いと電池の充放電容量が下がることから、固体電解質層の結着剤の含有量は5質量%以下であることが好ましい。
【0027】
固体電解質層の厚さは、サイクル特性やレート特性の点から、1μm~500μmであることが好ましい。固体電解質層を形成する方法としては、固体電解質を含む固体電解質材料の粉末を加圧成形する加圧成形法、固体電解質を含む固体電解質材料を媒体に分散又は溶解させた組成物を塗布し乾燥する溶媒キャスト法等が挙げられる。固体電解質材料の粉末を加圧成形する場合のプレス圧は、通常、1MPa~1,000MPa程度である。溶媒キャスト法により固体電解質層を形成する場合は、固体電解質材料を含む組成物を、直接、正極層又は負極層に塗布し乾燥してもよいし、支持体に塗布し乾燥してフィルム状の固体電解質層を作製してもよい。溶媒キャスト法に使用する支持体としては、ガラス板、ポリエチレンテレフタレートフィルム等が挙げられる。
【0028】
〔B.正極層〕
正極層は正極活物質を含む層である。正極活物質としては、例えば、リチウム遷移金属複合酸化物、リチウム含有遷移金属リン酸化合物、リチウム含有ケイ酸塩化合物、リチウム含有遷移金属硫酸化合物等が挙げられる。前記リチウム遷移金属複合酸化物の遷移金属としてはバナジウム、チタン、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅等が好ましい。
【0029】
リチウム遷移金属複合酸化物としては、LiCoO等のリチウムコバルト複合酸化物、LiNiO等のリチウムニッケル複合酸化物、LiMnO、LiMn、LiMnO等のリチウムマンガン複合酸化物、これらのリチウム遷移金属複合酸化物の主体となる遷移金属原子の一部をアルミニウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、リチウム、ニッケル、銅、亜鉛、マグネシウム、ガリウム、ジルコニウム等の他の金属で置換したもの等が挙げられる。主体となる遷移金属原子の一部を他の金属で置換したリチウム遷移金属複合酸化物としては、例えば、Li1.1Mn1.8Mg0.1、Li1.1Mn1.85Al0.05、LiNi0.5Co0.2Mn0.3、LiNi0.8Co0.1Mn0.1、LiNi0.5Mn0.5、LiNi0.80Co0.17Al0.03、LiNi0.80Co0.15Al0.05、LiNi1/3Co1/3Mn1/3、LiNi0.6Co0.2Mn0.2、LiMn1.8Al0.2、LiNi0.5Mn1.5、LiMnO-LiMO(M=Co,Ni,Mn)等が挙げられる。
【0030】
リチウム含有遷移金属リン酸化合物の遷移金属としては、バナジウム、チタン、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル等が好ましい。リチウム含有遷移金属リン酸化合物としては、例えば、LiFePO、LiMxFe1-xPO(M=Co,Ni,Mn)等のリン酸鉄化合物類、LiCoPO等のリン酸コバルト化合物類、これらのリチウム遷移金属リン酸化合物の主体となる遷移金属原子の一部をアルミニウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、リチウム、ニッケル、銅、亜鉛、マグネシウム、ガリウム、ジルコニウム、ニオブ等の他の金属で置換したもの、Li(PO等のリン酸バナジウム化合物類等が挙げられる。
【0031】
リチウム含有ケイ酸塩化合物としては、LiFeSiO等が挙げられる。リチウム含有遷移金属硫酸化合物としては、LiFeSO、LiFeSOF等が挙げられる。
【0032】
正極層は、イオン電導性が向上することから、更に固体電解質を含むことが好ましい。正極層の固体電解質としては、〔A.固体電解質層〕で例示した固体電解質を挙げることができる。正極層の固体電解質は、固体電解質層の固体電解質と同一であってもよく、異なっていてもよい。正極層における正極活物質と固体電解質との割合は、正極層の形状が維持でき、かつ、必要なイオン伝導性が確保できる範囲内であれば有機硫黄系電極活物質の割合が高い方が好ましい。例えば、重量比で正極活物質:固体電解質=9:1~2:8の範囲内であることが好ましく、8:2~4:6であることがより好ましい。
【0033】
正極層は、必要に応じて、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、グラフェン等の導電助剤;ポリアルキレングリコール、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、エチレン-ビニルアルコール共重合体、スチレン-ブタジエンゴム等の結着剤を含んでいてもよい。
【0034】
正極層の厚さは、正極層として機能する限り特に限定されないが、1μm~1,000μmであることが好ましく、10μm~200μmであることがより好ましい。
【0035】
正極層は、正極層の集電を行うための集電体を有してもよい。集電体としては、集電機能を有する導電性材料であれば特に限定されず、例えば、ステンレス、アルミニウム、ニッケル、鉄、チタン、導電性樹脂、およびカーボン等が挙げられる。集電体は、緻密質集電体であってもよく、多孔質集電体であってもよい。集電体は、密着性や電気特性が向上することから、表面処理が施されていてもよい。
【0036】
正極層を形成する方法としては、正極活物質を含む正極層材料の粉末を加圧成形する加圧成形法、正極層材料の粉末を媒体に分散させたスラリーを集電体に塗布し乾燥させる集電体塗布法等が挙げられる。正極層材料の粉末を加圧成形する場合のプレス圧は、通常、1MPa~500MPa程度である。また、集電体塗布法により正極層を形成する場合は、正極層材料を含むスラリーの塗布、乾燥を複数回行ってもよいし、正極層材料を含むスラリーを塗布、乾燥した後に、固体電解質の溶液を含浸させて乾燥を行ってもよい。
【0037】
[C.負極層]
本発明の全固体二次電池では、負極層の負極活物質として、有機硫黄系電極活物質を使用することに特徴がある。本発明おいて有機硫黄系電極活物質とは、アルカリ金属イオンを吸蔵及び放出することが可能で、二次電池の電極活物質として使用可能な化合物であって、炭素原子および硫黄原子を有する化合物をいう。有機硫黄系活物質としては、一般式(CS(xは0.5~2でmは4以上の数である。)で表されるポリ硫化カーボン、一般式(C(yは2.5~50でnは2以上の数である。)で表される有機ポリスルフィド、熱変性有機硫黄化合物等が挙げられる。熱変性有機硫黄化合物は、有機化合物と単体硫黄との混合物を非酸化性雰囲気下で熱処理することで得られる化合物であり、例えば、例えば、硫黄変性ポリアクリロニトリル、硫黄変性エラストマー、硫黄変性多核芳香環化合物、硫黄変性ピッチ、ポリチエノアセン化合物、硫黄変性ポリエーテル、硫黄変性ポリアミド媒、硫黄変性脂肪族炭化水素酸化物等が挙げられる。
【0038】
硫黄変性ポリアクリロニトリル化合物は、ポリアクリロニトリル化合物と単体硫黄を、非酸化性雰囲気中で加熱処理して得られる化合物である。ポリアクリロニトリル化合物は、アクリロニトリルのホモポリマーであるか、アクリロニトリルと他のモノマーとのコポリマーである。ポリアクリロニトリル化合物におけるアクリロニトリルの含量が低くなると電池性能が低くなり、更に、炭化が比較的容易で炭化物が比較的高い導電性を示し、そのため活物質の利用率が向上して高容量化を図ることができるという観点から、アクリロニトリルと他のモノマーとのコポリマーにおけるアクリロニトリルの含量は少なくとも90質量%であることが好ましく、ポリアクリロニトリルホモポリマーが更に好ましい。他のモノマーとしては、例えば、アクリル酸、酢酸ビニル、N-ビニルホルムアミド、N,N’-メチレンビス(アクリルアミド)が挙げられる。加熱処理の温度は、250℃~550℃が好ましく、硫黄変性ポリアクリロニトリルの硫黄含量は、大きな充放電容量が得られることから、硫黄変性ポリアクリロニトリル100質量部に対して、25質量部~60質量部であることが好ましく、30質量部~55質量部であることがより好ましい。
なお、有機硫黄系電極活物質の硫黄含量は、硫黄及び酸素が分析可能なCHN分析装置を用いた分析結果から算出できる。
【0039】
硫黄変性エラストマー化合物は、ゴムと単体硫黄の混合物を、不活性ガス雰囲気中で加熱処理して得られる化合物である。ゴムとしては、例えば、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム及びアクリロニトリルブタジエンゴム等が挙げられる。これらのゴムは1種を単独で使用することができ、2種以上を組合せて使用することができる。原料のゴムは、加硫ゴムでも加硫前のゴムでも構わない。加熱処理の温度は、250℃~550℃が好ましく、硫黄変性エラストマー化合物の硫黄含量は、大きな充放電容量が得られることから、硫黄変性エラストマー化合物100質量部に対して、40質量部~70質量部であることが好ましい。45質量部~60質量部であることがより好ましい。
【0040】
硫黄変性ピッチ化合物は、ピッチ類と単体硫黄との混合物を、不活性ガス雰囲気中で加熱処理して得られる化合物である。ピッチ類としては、石油ピッチ、石炭ピッチ、メソフェーズピッチ、アスファルト、コールタール、コールタールピッチ、縮合多環芳香族炭化水素化合物の重縮合で得られる有機合成ピッチ、及び、ヘテロ原子含有縮合多環芳香族炭化水素化合物の重縮合で得られる有機合成ピッチ等が挙げられる。ピッチ類は様々な化合物の混合物であり、縮合多環芳香族を含む。ピッチ類に含まれる縮合多環芳香族は、1種である場合があり、複数種である場合もある。この縮合多環芳香族は、環の中に、炭素と水素以外にも、窒素や硫黄を含んでいる場合がある。加熱処理の温度は、300℃~500℃が好ましく、硫黄変性ピッチ化合物の硫黄含量は、大きな充放電容量が得られることから、硫黄変性ピッチ化合物100質量部に対して、25質量部~70質量部であることが好ましい30質量部~60質量部であることがより好ましい。
【0041】
硫黄変性多核芳香環化合物は、例えば、ナフタレン、アントラセン、テトラセン、ペンタセン、フェナントレン、クリセン、ピセン、ピレン、ベンゾピレン、ペリレン、コロネン等のベンゼン系芳香環化合物と単体硫黄の混合物を、不活性ガス雰囲気中で加熱処理して得られる化合物である。また、ベンゼン系芳香環化合物の一部が5員環となった芳香族環化合物、又はこれらの炭素原子の一部が硫黄、酸素、窒素などに置き換わったヘテロ原子含有複素芳香環化合物が挙げられる。更に、これらの多核芳香環化合物は、炭素数1~12の鎖状又は分岐状アルキル基、アルコキシル基、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、アミノカルボニル基、アミノチオ基、メルカプトチオカルボニルアミノ基、カルボキシアルキルカルボニル基などの置換基を有していても構わない。加熱処理の温度は、250℃~550℃が好ましく、硫黄変性ピッチ化合物の硫黄含量は、大きな充放電容量が得られることから、硫黄変性多核芳香環化合物100質量部に対して、40質量部~70質量部であることが好ましい。45質量部~60質量部であることがより好ましい。
【0042】
硫黄変性脂肪族炭化水素酸化物は、脂肪族アルコール、脂肪族アルデヒド、脂肪族ケトン、脂肪族エポキシド、脂肪酸等の脂肪族炭化水素酸化物と単体硫黄を、不活性ガス雰囲気中で加熱処理して得られる化合物である。加熱処理の温度は、300℃~500℃が好ましい。硫黄変性脂肪族炭化水素酸化物の硫黄含量は、大きな充放電容量が得られることから、硫黄変性脂肪族炭化水素酸化物100質量部に対して、45質量部~75質量部であることが好ましい。50質量部~70質量部であることがより好ましい。
【0043】
硫黄変性ポリエーテル化合物は、ポリエーテル化合物と単体硫黄を不活性ガス雰囲気中で加熱処理して得られる化合物である。ポリエーテル化合物としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレンオキシド/プロピレンオキシドコポリマー、ポリテトラメチレングリコール等が挙げられる。ポリエーテル化合物は、末端がアルキルエーテル基、アルキルフェニルエーテル基、アシル基であっても構わないし、グリセリン、ソルビトール等のポリオールのエチレンオキシド付加物であっても差し支えない。加熱処理の温度は、250℃~500℃が好ましい。硫黄変性ポリエーテル化合物の硫黄含量は、大きな充放電容量が得られることから、硫黄変性ポリエーテル化合物100質量部に対して、30質量部~75質量部であることが好ましい。40質量部~70質量部であることがより好ましい。
【0044】
ポリチエノアセン化合物は、下記一般式(1)で表される、硫黄を含むポリチエノアセン構造を有する化合物である。
【0045】
【化1】
【0046】
(式中、*は結合手を表す。)
【0047】
ポリチエノアセン化合物は、ポリエチレン等の直鎖構造を有する脂肪族のポリマーや、ポリチオフェン等のチオフェン構造を有するポリマーと、単体硫黄とを不活性ガス雰囲気中で加熱処理して得られる化合物である。加熱処理の温度は、300℃~600℃が好ましい。ポリチエノアセン化合物の硫黄含量は、大きな充放電容量が得られることから、ポリチエノアセン化合物100質量部に対して、30質量部~80質量部であることが好ましい。40質量部~70質量部であることがより好ましい。
【0048】
硫黄変性ポリアミド化合物は、アミド結合を有するポリマー由来の炭素骨格を有する有機硫黄系電極活物質であり、具体的には、アミノカルボン酸化合物と単体硫黄、又はポリアミン化合物とポリカルボン酸化合物と単体硫黄を、不活性ガス雰囲気中で加熱処理して得られる化合物である。加熱処理の温度は、250℃~600℃が好ましい。硫黄変性ポリアミド化合物の硫黄含量は、大きな充放電容量が得られることから、硫黄変性ポリアミド化合物100質量部に対して、40質量部~70質量部であることが好ましい。45質量部~60質量部であることがより好ましい。
【0049】
熱変性有機硫黄化合物は、前記加熱処理時に、前記材料に加えて、天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛等の黒鉛系炭素材料、カーボンブラック、ナノカーボン、活性炭、カーボンファイバー、コークス、ソフトカーボン、ハードカーボン等の炭素材料や、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィド、テトラキス(2-エチルへキシル)チウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド等の加硫促進剤を用いることができる。
【0050】
有機硫黄系電極活物質の粒子径は、平均粒子径(D50)が、0.5μm~100μmであることが好ましく、1μm~50μmであることがより好ましく、1μm~20μmであることが更に好ましい。
【0051】
有機硫黄系電極活物質は、サイクル特性やレート特性に優れることから硫黄変性ポリアクリロニトリル化合物が好ましい。有機硫黄系電極活物質は、1種のみを使用してもよいし、2種以上の有機硫黄系電極活物質を組み合わせて使用してもよい。また、有機硫黄系電極活物質は、他の硫黄系電極活物質、例えば、単体硫黄、硫黄-炭素複合材料等と組み合わせて使用してもよい。
【0052】
負極層は、イオン電導性が向上することから、更に固体電解質を含むことが好ましい。負極層の固体電解質としては、〔A.固体電解質層〕で例示した固体電解質を挙げることができる。負極層の固体電解質は、固体電解質層や正極層の固体電解質と同一であってもよく、異なってもよい。負極層における負極活物質と固体電解質との割合は、負極の形状が維持でき、かつ、必要なイオン伝導性が確保できる範囲内であれば負極活物質の割合が高い方が好ましい。例えば、重量比で負極活物質:固体電解質=9:1~2:8の範囲内であることが好ましく、8:2~4:6であることがより好ましい。
【0053】
負極層は、必要に応じて、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、グラフェン等の導電助剤;ポリアルキレングリコール、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、エチレン-ビニルアルコール共重合体、スチレン-ブタジエンゴム等の結着剤を含んでいてもよい。
【0054】
負極層の厚さは、負極層として機能する限り特に限定されないが、1μm~1000μmであることが好ましく、10μm~200μmであることがより好ましい。
【0055】
負極層は、負極層の集電を行うための負極集電体を有してもよい。負極集電体としては、集電機能を有する導電性材料であれば特に限定されず、例えば、ステンレス、銅、アルミニウム、ニッケル、鉄、導電性樹脂、カーボン等が挙げられる。負極集電体は、緻密質集電体であってもよく、多孔質集電体であってもよい。負極集電体は、密着性や電気特性が向上することから、表面処理が施されていてもよい。
【0056】
負極層を形成する方法としては、有機硫黄系電極活物質を含む負極層材料の粉末を加圧成形する加圧成形法、負極層材料の粉末を媒体に分散させたスラリーを集電体に塗布し乾燥させる集電体塗布法等が挙げられる。負極層材料の粉末を加圧成形する場合のプレス圧は、通常、1MPa~500MPa程度である。また、集電体塗布法により負極層を形成する場合は、負極層材料を含むスラリーの塗布、乾燥を複数回行ってもよいし、負極層材料を含むスラリーを塗布、乾燥した後に、固体電解質の溶液を含浸させて乾燥を行ってもよい。
【0057】
〔形状〕
本発明の全固体二次電池の形状は、コイン型、ラミネート型、円筒型、角型等が挙げられ、中でも角型、ラミネート型が好ましく、特にラミネート型が好ましい。
【0058】
〔その他〕
本開示においては、以下の態様が挙げられる。
[1]正極活物質を含む正極層と、負極活物質を含む負極層と、前記正極層と前記負極層との間に、固体電解質層とを有する全固体二次電池であって、前記負極活物質が有機硫黄系電極活物質である全固体二次電池。
[2]前記有機硫黄系電極活物質が硫黄変性ポリアクリロニトリル化合物である[1]に記載の全固体二次電池。
[3]前記正極活物質がリチウム遷移金属酸化物又はリチウム含有遷移金属リン酸化合物である[1]又は[2]に記載の全固体二次電池。
[4]前記固体電解質層の固体電解質が硫化物系固体電解質又はポリマー系固体電解質である[1]~[3]のいずれか1項に記載の全固体二次電池。
【実施例0059】
以下に、実施例及び比較例により本発明を更に詳細に説明する。ただし、以下の実施例等により本発明は何ら制限されるものではない。尚、有機硫黄系電極活物質における硫黄含量は、硫黄及び酸素が分析可能なCHN分析装置を用いた分析結果から算出した。
【0060】
〔製造例1:硫黄変性ポリアクリロニトリル化合物SPAN1〕
特開2013-054957の製造例に準じた方法で硫黄変性ポリアクリロニトリルを製造した。即ち、ポリアクリロニトリル粉末(シグマアルドリッチ製、平均粒径200μm)10質量部及び硫黄粉末(シグマアルドリッチ製、平均粒径200μm)30質量部を、乳鉢を用いて混合した。この混合物20gを外径45mm、長さ120mmの有底円筒状ガラス管に収容したのち、ガラス管の開口部にガス導入管及びガス排出管を有するシリコーン栓を取り付けた。ガラス管内部の空気を窒素で置換した後、ガラス管の下部をルツボ型電気炉に入れ、ガス導入管から窒素を導入して発生する硫化水素を除去しながら400℃で1時間加熱した。なお、硫黄蒸気はガラス管の上部又は蓋部で凝結して還流する。得られた中間生成物を260℃のガラスチューブオーブンに入れ、減圧し20hPaで3時間加熱して硫黄を除去した。得られた硫黄変性生成物を、ボールミルを用いて粉砕後、ふるいで分級し平均粒子径が10μmの硫黄変性ポリアクリロニトリル化合物SPAN1を得た。SPAN1は有機硫黄系電極活物質であり、SPAN1の100質量部あたりの硫黄含量は42.3質量部であった。
【0061】
〔製造例2:硫黄変性ポリアクリロニトリル化合物SPAN2〕
製造例1において、中間生成物からの硫黄除去の条件を、260℃、減圧20hPaで3時間から、窒素気流下、260℃、常圧で24時間に変更した以外は製造例1と同様の操作を行い、硫黄変性ポリアクリロニトリル化合物SPAN2を得た。SPAN2は有機硫黄系電極活物質であり、SPAN2の100質量部あたりの硫黄含量は50.0質量部であった。
【0062】
以下の評価では、以下の略号を用いた。
〔正極活物質〕
NCM:LiNbOでコートしたLiNi1/3Co1/3Mn1/3
LFP:LiFePO
〔負極活物質(負極層)〕
InLi:インジウム-リチウム合金箔
LiM:リチウム金属箔
〔固体電解質〕
LPS:LiPS(NEI Corporation製)
LGPS:Li10GeP12(パイオトレック株式会社製)
PEO:ポリエチレンオキシド系固体電解質(NEI Corporation製、商品名:NANOMYTE H-Polymer)
〔導電助剤〕
AB:アセチレンブラック(デンカ株式会社製)
〔結着剤〕
PVDF:ポリフッ化ビニリデン(クレハ株式会社製、商品名:KFポリマー)
CMC:カルボキシメチルセルロースナトリウム(ダイセルミライズ株式会社製)
SBR:スチレン-ブタジエンゴム(40質量%水分散液、日本ゼオン製)
〔集電体〕
SUS:ステンレス箔(厚さ10μm)
CAL:カーボンコートアルミニウム箔
【0063】
〔全固体二次電池:硫化物系固体電解質〕
〔正極層MA1〕
正極活物質としてリチウム遷移金属酸化物であるNCM、導電助剤としてAB、固体電解質として硫化物系固体電解質であるLPSを用い、質量比で正極活物質:導電助剤:固体電解質=50:5:45となるよう秤量した後、アルゴン雰囲気下でボールミルを用いて混合し、プレス処理により成形して正極層MA1を作製した。
【0064】
〔正極層MA2〕
正極層MA1において、固体電解質をLPSから硫化物系固体電解質であるLGPSに変更した以外は正極層MA1と同様の操作を行い、正極層MA2を作製した。
【0065】
〔負極層MB1〕
負極活物質として有機硫黄系電極活物質であるSPAN1、導電助剤としてAB、及び固体電解質として硫化物系固体電解質であるLPSを用い、質量比で負極活物質:導電助剤:固体電解質=50:5:45となるよう秤量した後、アルゴン雰囲気下でボールミルを用いて混合し、プレス処理を用いて成形して負極層MB1を作製した。
【0066】
〔負極層MB2〕
負極層MB1において、負極活物質をSPAN1からSPAN2に変更した以外は負極層MB1と同様の操作を行い、負極層MB2を作製した。
【0067】
〔負極層MB3〕
負極層MB1において、固体電解質をLPSから硫化物系固体電解質であるLGPSに変更した以外は負極層MB1と同様の操作を行い、負極層MB3を作製した。
【0068】
〔負極層MB4〕
負極層MB2において、固体電解質をLPSから硫化物系固体電解質であるLGPSに変更した以外は負極層MB2と同様の操作を行い、負極層MB4を作製した。
【0069】
〔固体電解質層MC1〕
固体電解質としてLPSを用い、LPSをプレス処理により成形し、直径10mmの円形の固体電解質層MC1を作製した。
【0070】
〔固体電解質層MC2〕
固体電解質層MC1において、固体電解質をLPSからLGPSに変更した以外は固体電解質層MC1と同様の操作を行い、固体電解質層MC2を作製した。
【0071】
〔実施例1〕
集電体SUS/正極層MA1/固体電解質層MC1/負極層MB1/集電体SUSの順で積層し、プレス圧255MPaでプレス成型し、全固体電池評価セル(宝泉株式会社製、型式KP-SolidCell)内に密閉することで、実施例1の全固体二次電池を作製した。
【0072】
〔実施例2〕
実施例1において、負極層をMB1からMB2に変更した以外は、実施例1と同様の操作を行い、実施例2の全固体二次電池を作製した。
【0073】
〔実施例3〕
集電体SUS/正極層MA2/固体電解質層MC2/負極層MB3/集電体SUSの順で積層し、プレス圧255MPaでプレス成型し、全固体電池評価セル(宝泉株式会社製、型式KP-SolidCell)内に密閉することで、実施例3の全固体二次電池を作製した。
【0074】
〔実施例4〕
実施例3において、負極層をMB3からMB4に変更した以外は、実施例3と同様の操作を行い、実施例4の全固体二次電池を作製した。
【0075】
〔比較例1〕
集電体SUS/正極層MA1/固体電解質層MC1/負極InLi/集電体SUSの順で積層し、プレス圧255MPaでプレス成型し、全固体電池評価セル(宝泉株式会社製、型式KP-SolidCell)内に密閉することで、比較例1の全固体二次電池を作製した。
【0076】
〔比較例2〕
集電体SUS/正極層MA2/固体電解質層MC2/負極InLi/集電体SUSの順で積層し、プレス圧255MPaでプレス成型し、全固体電池評価セル(宝泉株式会社製、型式KP-SolidCell)内に密閉することで、比較例2の全固体二次電池を作製した。
【0077】
〔全固体二次電池:ポリマー系固体電解質〕
〔正極層PA1〕
正極活物質としてLFP、導電助剤としてAB、結着剤としてPVDFを用い、質量比で正極活物質:導電助剤:結着剤=90:5:5となるよう秤量した後、溶剤としてN-メチルピロリドンを添加し、自転・公転ミキサーを用いて混合し、正極形成用組成物を調製した。この正極形成用組成物を集電材CALに塗布、乾燥した後、更に固体電解質PEOのアセトニトリル溶液を含侵させ、乾燥することにより正極層PA1を作製した。
【0078】
〔負極層PB1〕
負極活物質として有機硫黄系電極活物質であるSPAN1、導電助剤としてAB、及び結着剤としてSBR及びCMCを用い、固形分換算の質量比で正極活物質:導電助剤:結着剤SBR:結着剤CMC=90:5:3:2となるよう秤量した後、溶剤として水を添加し、自転・公転ミキサーを用いて混合し、負極形成用スラリーを調製した。このスラリーを集電材CALに塗布、乾燥した後、更に固体電解質PEOのアセトニトリル溶液を含侵させ、乾燥することにより負極層PB1を作製した。
【0079】
〔負極層PB2〕
負極層PB1において、負極活物質として有機硫黄系電極活物質であるSPAN1の代わりにSPAN2を用いた以外は、負極層PB1と同様の操作を行い、負極層PB2を作製した。
【0080】
〔固体電解質層PC1〕
固体電解質PEOのアセトニトリル溶液をポリエチレンテレフタレート製の支持体上に塗布し、溶媒キャスト法によりフィルム状の固体電解質層PC1を作製した。
【0081】
〔実施例5〕
正極層PA1/固体電解質層PC1/負極層PB1の順で積層した後、電池ケースに収容し、かしめ機を用いてに密閉して、直径20mm及び厚み3.2mmのコイン型の実施例5の全固体二次電池を作製した。
【0082】
〔実施例6〕
実施例5において、負極層PB1の代わりに負極層PB2を用いた以外は、実施例5と同様の操作を行い、実施例6の全固体二次電池を作製した。
【0083】
〔比較例3〕
実施例5において、負極層PB1の代わりに、負極としてリチウム金属を使用した以外は、実施例5と同様の操作を行い、比較例3の全固体二次電池を組み立てた。
【0084】
表1に、実施例1~6及び比較例1~3の全固体二次電池の、正極層の正極活物質と固体電解質、固体電解質層の固体電解質、並びに負極層の負極活物質と固体電解質を示す。
【表1】
【0085】
〔サイクル特性の評価〕
実施例1~6及び比較例1~3の全固体二次電池について、以下の方法により充放電試験を行い、容量維持率を算出した。結果を表2に示す。なお、容量維持率が高いほどサイクル特性が優れていることを示す。
【0086】
〔充放電試験方法〕
全固体二次電池を60℃の恒温槽に入れ、充電レート0.1C、放電レート0.1Cの充放電試験を50サイクル行った。5サイクル目の放電容量に対する、50サイクル目の放電容量の割合(%)を容量維持率とした。なお、二次電池に使用される正極活物質及び負極活物質は同一でないことから、各全固体二次電池の充電終止電圧及び放電終止電圧は表2のとおりとした。
【0087】
【表2】
【0088】
負極活物質として有機硫黄系電極活物質である硫黄変性ポリアクリロニトリルを使用した実施例1~6の全固体二次電池の容量維持率がほぼ100%でありインジウム-リチウム合金箔又はリチウム金属箔を使用した比較例1~3の全固体二次電池の容量維持率よりも高い。これは、全固体二次電池の負極活物質として有機硫黄系電極活物質を使用することにより、優れたサイクル特性が得られることを示す。