(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024163585
(43)【公開日】2024-11-22
(54)【発明の名称】電極の継ぎ足し方法、及び、電気炉の操業方法
(51)【国際特許分類】
H05B 7/14 20060101AFI20241115BHJP
C22B 9/00 20060101ALI20241115BHJP
F27B 3/10 20060101ALI20241115BHJP
F27D 11/08 20060101ALI20241115BHJP
【FI】
H05B7/14 B
C22B9/00
F27B3/10
F27D11/08 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023079332
(22)【出願日】2023-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】前場 和也
【テーマコード(参考)】
4K001
4K045
4K063
【Fターム(参考)】
4K001AA07
4K001AA19
4K001FA11
4K001GA13
4K045AA04
4K045BA03
4K045DA09
4K045RB02
4K063AA04
4K063AA12
4K063BA03
4K063CA05
4K063FA53
4K063FA63
4K063FA74
4K063FA76
(57)【要約】
【課題】ニッケルやコバルト等の非鉄金属製錬において用いられる小型の電気炉において、大規模な設備を要することなく、「消耗電極」に対して、「継ぎ足し用電極」を容易、且つ、正確に継ぎ足すこと。
【解決手段】継ぎ足し用電極水平移動手順と、継ぎ足し用電極降下手順と、継ぎ足し用電極螺合手順と、を含んでなり、継ぎ足し用電極降下手順は、継ぎ足し用電極14Aを人力で昇降させることができる手動チェーンブロックによって行われ、継ぎ足し用電極螺合手順においては、継ぎ足し用電極14Aと消耗電極14Bとが、同軸上にあることを目視で確認して手動により必要な微調整を行いながら、継ぎ足し用電極14Aを手動で回転させて、消耗電極14Bに螺合させる、電極の継ぎ足し方法とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直径200mm以下で重量が100kg以下の略円柱状の黒鉛電極が炉蓋から炉内に挿入されている電気炉における、電極の継ぎ足し方法であって、
継ぎ足し用電極を、消耗電極の真上の水平位置に水平移動させる継ぎ足し用電極水平移動手順と、
前記継ぎ足し用電極を、前記消耗電極と同心円上において前記消耗電極の直上位置に降下させる継ぎ足し用電極降下手順と、
前記継ぎ足し用電極を前記直上位置において手動で回転させることによって前記消耗電極の上端に形成されている第2の螺合構造部と前記継ぎ足し用電極の下端に形成されている第1の螺合構造部とを螺合させる、継ぎ足し用電極螺合手順と、
を含んでなり、
前記継ぎ足し用電極降下手順は、前記継ぎ足し用電極を人力で昇降させることができる手動チェーンブロックによって行われ、
前記継ぎ足し用電極螺合手順においては、前記継ぎ足し用電極と前記消耗電極とが、同軸上にあることを目視で確認して手動により必要な微調整を行いながら、前記継ぎ足し用電極を手動で回転させて、前記消耗電極に螺合させる、
電極の継ぎ足し方法。
【請求項2】
スラグ融点が1400℃以上である非鉄金属の製錬に用いられる電気炉の操業方法であって、
前記電気炉内に熔湯を保持したままの状態で、請求項1に記載の電極の継ぎ足し方法によって、電極の継ぎ足し作業を行う、
電気炉の操業方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極の継ぎ足し方法、及び、電気炉の操業方法に関する。本発明は、詳しくは、黒鉛電極を用いる電気炉であって、この黒鉛電極の消耗時に、交換用の黒鉛電極を継ぎ足す方法、及び、このような継ぎ足し作業を伴う電気炉の操業方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有価金属を得るための三相交流式の電気炉の操業においては、操業を継続するに従い、電気炉に設けられている黒鉛電極(以下、単に「電極」とも言う)が消耗する。このため、「電極」が所定の長さまで短くなった時点において、この消耗して短くなった電極(本明細書において「消耗電極」とも言う)の上端部に、例えば、黒鉛製のニップルを介して、新しい電極(本明細書において、「継ぎ足し用電極」とも言う)を継ぎ足す作業が行われている。特に、ニッケルやコバルト等の非鉄金属製錬において用いられている小型の電気炉においては、このようにして電極を継ぎ足す作業は、電気炉内に高融点の熔湯を保持した状態で行われるため、容易、且つ、正確に行うことが求められる。
【0003】
特許文献1では、大型の電気炉に装着されている大型の電極(通常、直径が200mmを超え、且つ、重量が100kgを超える電極)に対して、上記のように「継ぎ足し用電極」を継ぎ足す場合に、横に寝た状態の「継ぎ足し用電極」を、接続装置に容易にセットできるようにする「電極接続装置」が開示されている。特許文献1に開示されている「電極接続装置」によれば、大型の「継ぎ足し用電極」を横向きに寝た状態のまま容易に「電極接続装置」セットすることができるので、上記のような大型の電極を備える電気炉において、作業者にかかる負担を軽減することができる。
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示されている技術は、主として鉄鋼製錬等において用いられる大型の電気炉への適用が想定されており、例えば、ニッケルやコバルト等の非鉄金属の製錬において主に用いられている、サイズの小さい黒鉛電極(直径が200mm以下であり、且つ、重量が100kg以下程度である電極)を用いる小型の電気炉においては、同文献に開示されているような大規模な設備を必須の構成とする「電極接続装置」は、設置場所に係る物理的な制約や経済性の面で導入が困難である場合が多かった。
【0005】
主として、ニッケルやコバルト等の非鉄金属製錬において用いられる小型の電気炉において、大規模な設備の導入を要せずに、「消耗電極」に対して、「継ぎ足し用電極」を容易、且つ、正確に継ぎ足す技術が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ニッケルやコバルト等の非鉄金属製錬において用いられる小型の電気炉において、大規模な設備を要することなく、「消耗電極」に対して、「継ぎ足し用電極」を容易、且つ、正確に継ぎ足す技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上述の電気炉における電極の継ぎ足し作業において、「継ぎ足し用電極」を「消耗電極」と同心円上において消耗電極の直上位置に降下させる工程を、手動のチェーンブロックを用いて行うようにすることによって、上記課題を解決し得ることに想到し、本発明を完成するに至った。本発明は、具体的には、以下のものを提供する。
【0009】
(1) 直径200mm以下で重量が100kg以下の略円柱状の黒鉛電極が炉蓋から炉内に挿入されている電気炉における、電極の継ぎ足し方法であって、継ぎ足し用電極を、消耗電極の真上の水平位置に水平移動させる継ぎ足し用電極水平移動手順と、前記継ぎ足し用電極を、前記消耗電極と同心円上において前記消耗電極の直上位置に降下させる継ぎ足し用電極降下手順と、前記継ぎ足し用電極を前記直上位置において手動で回転させることによって前記消耗電極の上端に形成されている第2の螺合構造部と前記継ぎ足し用電極の下端に形成されている第1の螺合構造部とを螺合させる、継ぎ足し用電極螺合手順と、を含んでなり、前記継ぎ足し用電極降下手順は、前記継ぎ足し用電極を人力で昇降させることができる手動チェーンブロックによって行われ、前記継ぎ足し用電極螺合手順においては、前記継ぎ足し用電極と前記消耗電極とが、同軸上にあることを目視で確認して手動により必要な微調整を行いながら、前記継ぎ足し用電極を手動で回転させて、前記消耗電極に螺合させる、電極の継ぎ足し方法。
【0010】
(1)の電極の継ぎ足し方法によれば、ニッケルやコバルト等の非鉄金属製錬において用いられる小型の電気炉において、大規模な設備を要することなく、「消耗電極」に対して、「継ぎ足し用電極」を容易、且つ、正確に継ぎ足すことができる。
【0011】
(2) スラグ融点が1400℃以上である非鉄金属の製錬に用いられる電気炉の操業方法であって、前記電気炉内に熔湯を保持したままの状態で、(1)に記載の電極の継ぎ足し方法によって、電極の継ぎ足し作業を行う、電気炉の操業方法。
【0012】
(2)の電気炉の操業方法によれば、高融点の非鉄金属製錬に用いられる電気炉において、(1)に記載の電極の継ぎ足し方法によって、電極の継ぎ足し作業を行うことによって、電気炉内に高融点の熔湯を保持したままの状態で、電極の継ぎ足し作業を、容易、且つ、正確に行うことができる。これにより、上記の電気炉の稼働率の向上に寄与して製錬プロセスの生産性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ニッケルやコバルト等の非鉄金属製錬において用いられる小型の電気炉において、大規模な設備を要することなく、「消耗電極」に対して、「継ぎ足し用電極」を容易、且つ、正確に継ぎ足すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の電極の継ぎ足し方法の適用対象なる電気炉の一例について、その基本的構造を模式的に示す断面模式図である。
【
図2】本発明の電極の継ぎ足し方法の実施態様を模式的に示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の電極の継ぎ足し方法、及び、電気炉の操業方法の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という)について説明する。尚、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において種々の変更が可能である。
【0016】
<電気炉>
図1は、本発明の電極の継ぎ足し方法の適用対象なる三相交流式電気炉の一例(電気炉1)について、その基本的構造を模式的に示す断面模式図である。
図1においては、電気炉1において、耐火物層(炉壁)11の内部(炉内)において、原料が熔融してスラグ層12とメタル層13とに分離した状態が示されている。又、電気炉1においては、略円柱状の黒鉛電極である3本の電極14が、電気炉1の天面側の炉蓋111から炉内に挿入される態様で装着されている。
【0017】
本発明を適用して電極の継ぎ足し作業を行う電気炉1においては、電極14が、直径が200mm以下であり、且つ、重量が100kg以下、好ましくは、直径150mm以下あり、且つ、重量が30kg以下の小型の黒鉛電極であることが想定されている。そして、電気炉1において、これらの電極14は、炉蓋111の下部に設けられていて内側にパッキンが設けられたシール筒(図示省略)の中を昇降可能な態様で、炉蓋111に接合されている。
【0018】
又、電極14の両端には、電極14の継ぎ足し作業を行うときに、継ぎ足し用電極14Aと消耗電極14Bを螺合させるための螺合構造(雄ねじ、又は、雌ねじ)が形成されている。この螺合構造は、継ぎ足し用電極14Aの下端に形成されている第1の螺合構造部141Aと、これに対応する構造であって消耗電極14Bの上端に形成されている第2の螺合構造部141Bとからなる一対の螺合構造である。この螺合構造は、何れか一方の螺合構造が雄ねじであって他方の螺合構造がそれに螺合可能な雌ねじであればよい。
【0019】
電極14の継ぎ足し作業を行うときに、継ぎ足し用電極14Aと消耗電極14Bを螺合させるための上記の螺合構造は、予め使用される全ての電極14の両端に雌ねじを設けておき、電極14の継ぎ足し作業を行うときは、両側に雄ねじが設けられた黒鉛製のニップルを用いて、継ぎ足し用電極14Aと消耗電極14Bの上記の各雌ねじ部を相互に螺合させる螺合構造を構成するようにすることが好ましい(
図2参照)。
【0020】
尚、上記の構成からなる電気炉1においては、電極14からスラグ層12へと電流が流れてスラグ層12が発熱する。電極14に近い部位ほど温度が高くなり、耐火物層(炉壁)11に近くなるほど温度は低くなる。メタル層13は、その上部に位置するスラグ層12からの伝熱により加熱される。
【0021】
電気炉1に投入される原料としては、ニッケルやコバルトを酸化物として含有する廃リチウムイオン電池を含む原料を具体例の1つとして挙げることができる。電気炉1においては、例えば、上記の廃リチウムイオン電池を含む原料を装入して還元熔融処理を行うことによって、ニッケルやコバルト等の有価金属から構成されるメタル(合金)と、不純物成分により構成されるスラグとからなる熔体(熔融物)を生成することができる。尚、ニッケルやコバルト等を酸化物として含有する廃リチウムイオン電池の還元熔融処理を行う際には、電気炉1の操業温度は1500℃以上の高温になるため、電極14(黒鉛電極)の損耗も大きくなり、通常、半日から数日に一回の頻度で、電極14の継ぎ足し作業が必要となる。
【0022】
<電極の継ぎ足し方法>
図2は、本発明の電極の継ぎ足し方法(以下、単に「電極継ぎ足し方法」とも言う)の実施態様を模式的に示す概念図である。同図に示すように、「電極継ぎ足し方法」は、略円柱状の黒鉛電極である電極14が炉蓋111から炉内に挿入されている電気炉1において、消耗電極14B(
図2における二点鎖線部分が消耗部分である)に、継ぎ足し用電極14Aを上方から継ぎ足す作業を行うための作業方法である。
【0023】
図2に示すように、この「電極継ぎ足し方法」は、継ぎ足し用電極14Aを水平方向(XY方向)に移動させることが可能な水平移動手段と、継ぎ足し用電極14Aを鉛直方向(Z方向)に沿って昇降させることができる昇降手段との組合せにより構成される電極接続機構10によって行うことができる(
図2参照)。
【0024】
そして、「電極継ぎ足し方法」は、継ぎ足し用電極14Aを、上述の水平移動手段によって、消耗電極14Bの真上の水平位置に水平移動させる「継ぎ足し用電極水平移動手順」、継ぎ足し用電極14Aを、消耗電極14Bと同心円上において消耗電極14Bの直上位置に降下させる「継ぎ足し用電極降下手順」、及び、継ぎ足し用電極14Aを上述の直上位置において手動で回転させることによって消耗電極14Bの上端に形成されている第2の螺合構造部141Bと継ぎ足し用電極14Aの下端に形成されている第1の螺合構造部141Aとを螺合させる、「継ぎ足し用電極螺合手順」と、が順次行われるプロセスである。
【0025】
又、「電極継ぎ足し方法」は、電極14として、直径200mm以下で重量が100kg以下、より好ましくは、直径150mm以下で重量が30kg以下の略円柱状の小型の黒鉛電極が電極14として用いられている電気炉を適用対象とするプロセスである。仮に、電極の継ぎ足し作業中に、電極14の姿勢が鉛直方向から逸れたとしても、例えば、特許文献1に開示されているような大型の電極であれば、電極自体の自重によってその姿勢は鉛直方向に向けて自動的にその姿勢が修正されるが、上記のように小型の黒鉛電極(重量30kg以下の軽量な電極)を用いる電気炉1においては、電極14の姿勢が上記のように鉛直方向から逸れた場合に、その姿勢が自重によっては修正されない場合が多く、特に電気炉1の炉内で電極14の下端が熔体に触れている状態においては、そのような自重による姿勢の自動的な修正はまず期待することができない。従って、上記のように小型の黒鉛電極を用いる電気炉1において電極の継ぎ足し作業を実施する際には、電極14の姿勢の修正作業が必須となりやすい。「電極継ぎ足し方法」は、このような軽量の電極の継ぎ足し作業を行うための方法として特に好ましく用いることができるプロセスである。
【0026】
又、この「電極継ぎ足し方法」は、スラグ融点が、好ましくは1400℃以上、より好ましくは1500℃以上である非鉄金属の製錬に用いられる三相交流式電気炉に対して用いることができるプロセスである。スラグ融点が1400℃以上である非鉄金属の製錬に用いられる電気炉において、「電極継ぎ足し方法」を行いながら実施する「電気炉の操業方法」も本発明の好ましい実施態様の1つである。
【0027】
[継ぎ足し用電極水平移動手順]
「継ぎ足し用電極水平移動手順」は、継ぎ足し用電極14Aを、消耗電極14Bの真上の水平位置に水平移動させる手順である。電気炉1において、電極14が消耗し、電極の継ぎ足し作業を行う際には、先ず、消耗電極14Bを、継ぎ足し作業が行い易いように適切な高さまで上昇させた後、継ぎ足し用電極14Aを、消耗電極14Bの真上の水平位置まで水平移動させる。
【0028】
上記のように、継ぎ足し用電極14Aを所定の水平位置にまで水平移動させるためには、先行して一定の高さにまで吊り上げる必要があるが、その吊り上げ作業については、一例として、以下に詳細を説明する「継ぎ足し用電極降下手順」を行うための「手動チェーンブロック」を吊っている「電動ホイスト」によって行うことができる。
【0029】
そして、上記の吊り上げ後の、所定の水平位置、即ち、消耗電極14Bの真上の位置への継ぎ足し用電極14Aの水平移動は、手動天井クレーンを用いて行うことが好ましい。
【0030】
仮に、継ぎ足し用電極14Aの水平移動を、手動天井クレーンではなく、電動天井クレーンを用いて行った場合には、最終的な位置合わせはインチングにより行われることになる。ところが、インチングによって天井クレーンは、ある一定以上の移動を行ってしまう。このため、継ぎ足し用電極14Aを適切に水平移動させて、精度良く、消耗電極14Bの真上の位置に停止させることは困難であった。これに対して、継ぎ足し用電極14Aの水平移動を、手動天井クレーンを用いて行うことにより、電動天井クレーンを用いる場合とは異なり、継ぎ足し用電極14Aを適切に水平移動させて、精度良く、消耗電極14Bの真上の位置に停止させることができる。手動天井クレーンは、作業者が移動用チェーンを引っ張る長さに完全に比例して、天井クレーンが作業者の意図した距離だけ移動するからである。
【0031】
[継ぎ足し用電極降下手順]
「継ぎ足し用電極降下手順」は、継ぎ足し用電極14Aを、消耗電極14Bと同心円上において消耗電極の直上位置に降下させる手順である。「直上位置」とは、消耗電極14Bの上端に近接する高さであって、継ぎ足し用電極螺合手順を行うために最適な鉛直方向における位置(或いはそのような高さ範囲)のことを言う。
【0032】
そして、本発明の「電極継ぎ足し方法」においては、継ぎ足し用電極降下手順は、人力によって継ぎ足し用電極14Aを昇降させることができる手動チェーンブロックによって行われる。継ぎ足し用電極14Aを降下させる作業は、その降下の過程の一部においては電動ホイストを使用してもよい。尚、本発明の技術的範囲には、このように両者を使用する実施態様も含まれる。
【0033】
継ぎ足し用電極14Aの降下の全過程を電動ホイストで行った場合にも、最終的な位置合わせは上記同様にインチングにより行われることになるが、この場合も上記同様、継ぎ足し用電極14Aを適切に降下させて、精度良く、消耗電極14Bの上端に近接する最適な位置に停止させることは困難であった。これに対して、継ぎ足し用電極14Aの降下を、手動チェーンブロックを用いて行うことにより、電動ホイストのみを用いる場合とは異なり、継ぎ足し用電極14Aを適切に降下させて、精度良く、消耗電極14Bの真上(同心円上)の適切な位置に停止させることができる。手動チェーンブロックによれば、継ぎ足し用電極14Aを作業者が移動用チェーンを引っ張る長さに完全に比例して(例えばmm単位の精度で)移動させることができるからである。
【0034】
[継ぎ足し用電極螺合手順]
「継ぎ足し用電極螺合手順」は、継ぎ足し用電極14Aを、消耗電極14Bと同心円上で回転させて、消耗電極14Bの上端に形成されている第2の螺合構造部141Bと継ぎ足し用電極14Aとの下端に形成されている第1の螺合構造部141Aとを螺合させる手順である。
【0035】
例えば、電極14が、直径が200mm以下であり、重量が100kg以下の略円柱状の黒鉛電極である場合、電極自体の重量が軽いため、電極の下端が電気炉1の内部の熔体(スラグ層12)に触れている状態では、自重による姿勢の修正が期待できない。このため、継ぎ足し用電極14Aが、消耗電極14Bに対して、同軸から外れた場合、シール筒に傾いた状態で入っていることにより、電極14がこのシール塔に引っ掛かった状態となり、昇降ができなくなってしまう。このような状態となると、継ぎ足し用電極14Aを継ぎ足した後に、この電極14の周囲を、例えば、グラインダー等を使用して、削る作業が必要となり、保守作業者の作業負担が増加してしまう。
【0036】
これに対して、本発明の「電極継ぎ足し方法」における継ぎ足し用電極螺合手順においては、作業者が、継ぎ足し用電極14Aと消耗電極14Bとが、同軸上にあることを目視で確認して手動により必要な微調整を行いながら、継ぎ足し用電極14Aを手動で回転させて、消耗電極に螺合させる。継ぎ足し用電極14Aを作業者が手で回しながら、継ぎ足すことで、継ぎ足し用電極14Aが、消耗電極14Bに対して、精度良く、同軸上にあることを、容易、且つ、確実に確かめることができる。
【0037】
<電気炉の操業方法>
本発明の電気炉の操業方法は、(以下、単に「電気炉の操業方法」とも言う)は、スラグ融点が、1400℃以上、好ましくは1500℃以上である非鉄金属の製錬に用いられる電気炉の操業方法であって、電気炉内に熔湯を保持したままの状態で、上述の「電極継ぎ足し方法」によって、電極の継ぎ足し作業を行う、電気炉の操業方法である。尚、本発明の適用対象として好適な電気炉としては三相交流式電気炉が想定されている。尚、そのような非鉄金属の製錬に用いられる電気炉は、通常、直径が200mm以下であり、重量が100kg以下の比較的軽量の小型の電極が用いられているものである場合が多く、「電気炉の操業方法」は、そのような小型の電極が用いられている三相交流式電気炉の操業方法として特に好ましく用いることができるプロセスである。
【0038】
スラグ融点が1400℃以上である非鉄金属の製錬に用いられる電気炉においては、電極の継ぎ足し作業を行う際の停電時に、温度低下により電気炉1の内部で、スラグ層12の固化、或いは、粘性の増加が起こりやすい。この場合、軽量の電極14の姿勢が自重により修正されることは、ほぼ期待できないところ、「電気炉の操業方法」によれば、上述の「電極継ぎ足し方法」によって、電極14の姿勢が自重により修正されることに依存せずに、電気炉1の内部に高融点の熔湯を保持したままの状態で、容易、且つ、正確に電極の継ぎ足し作業を行うことができる。これにより、「電気炉の操業方法」によれば、電気炉の稼働率の向上に寄与して製錬プロセスの生産性を向上させることができる。
【0039】
「電気炉の操業方法」において、電気炉1に投入される原料としては、ニッケルやコバルトを酸化物として含有する廃リチウムイオン電池を含む原料を具体例の1つとして挙げることができる。「電気炉の操業方法」によれば、電気炉1において、例えば、上記の廃リチウムイオン電池を含む原料を装入して還元熔融処理を行うことによって、ニッケルやコバルト等の有価金属から構成されるメタル(合金)と、上記の廃リチウムイオン電池に含まれるリチウムやアルミニウム等の成分とフラックスとして添加するカルシウム等の成分により構成される「スラグ」からなる熔体(熔融物)を高い生産性の下で生産することができる。尚、本明細書における「スラグ融点」とは、電気炉においてスラグとして分離される熔体(一例として上記の「スラグ」)の融点のことをいう。
【実施例0040】
以下、実施例を示して、本発明を、より具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0041】
[実施例]
直径が100mmであり、且つ、重量が15kgの略円柱状の電極(黒鉛電極)が、炉蓋に接続されているシール筒の中を昇降可能に設置されている三相交流式電気炉を、実施例の電気炉として試験操業を行った。上記の各電極の両端には雌ねじを設けておき、「継ぎ足し用電極」を継ぎ足す際には、「消耗電極」の上端部の雌ねじに、両側に雄ねじが設けられた黒鉛製のニップルを接続し、この「消耗電極」を所定の作業高さ位置にまで上昇させた後、「継ぎ足し用電極」を、手動チェーンブロックを吊っている電動ホイストを使用して吊り上げ、上記の「消耗電極」の真上の水平位置まで手動天井クレーンを使用して移動させた後、手動チェーンブロックを用いて「消耗電極」の直上位置まで使用して降下させ、この状態において、継ぎ足し用電極を作業者が手で回しながら、且つ、消耗電極の上端に設けたニップルに対して「継ぎ足し用電極」の中心軸が同軸上にあることを確認しながら、電極の継ぎ足し作業(螺合)を行った。
【0042】
[比較例]
継ぎ足し用電極を、消耗電極の真上付近への水平移動を電動天井クレーンを用いて行い、継ぎ足し用電極の降下を電動チェーンブロックを用いて行ったことを除き、実施例と同様にして電極の継ぎ足し作業(螺合)を行った。
【0043】
実施例においては、電気炉において、継ぎ足し用電極を容易に継ぎ足すことができ、電極の昇降も円滑に行うことができた。一方、比較例においては、継ぎ足し用電極を継ぎ足した後、通電途中に電極の昇降がしにくい状況となり、シール筒の接触している付近を中心に黒鉛電極を削る作業を行わざるを得なかった。
【0044】
上記結果より、本発明の電極の継ぎ足し方法は、ニッケルやコバルト等の非鉄金属製錬において用いられる小型の電気炉において、大規模な設備を要することなく、電気炉に装着されている「消耗電極」に対して、「継ぎ足し用電極」を容易、且つ、正確に継ぎ足すことができる技術的手段であることが分かる。