(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024163720
(43)【公開日】2024-11-22
(54)【発明の名称】液体貯留マイクロチップ
(51)【国際特許分類】
G01N 35/08 20060101AFI20241115BHJP
G01N 37/00 20060101ALI20241115BHJP
【FI】
G01N35/08 A
G01N37/00 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023079567
(22)【出願日】2023-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】000224101
【氏名又は名称】ZACROS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】阿部 真人
(72)【発明者】
【氏名】小山田 千秋
(72)【発明者】
【氏名】細川 和也
【テーマコード(参考)】
2G058
【Fターム(参考)】
2G058CC05
2G058CC08
2G058CC19
2G058DA07
(57)【要約】 (修正有)
【課題】内部に液体を安定的に貯留及び封入し、使用時に該液体に対して通液することで簡便に検査等に使用可能なマイクロチップを提供する。
【解決手段】流路を形成する溝と、前記溝の一部に設けられ前記液体貯留部を形成する窪みと、前記流路の前記液体貯留部の上流側及び/又は下流側に相当する位置において前記液体貯留部から前記流路への前記液体の流出を遮る壁部と、が設けられた基材と、前記基材の接合面に貼り合わされ前記溝および窪みを覆うことにより前記流路及び前記液体貯留部を形成するフィルムと、前記接合面のうち前記溝と前記窪みとを除く領域に塗布され、前記基材の前記接合面と前記フィルムとを接着するための接着剤または粘着剤、および前記壁部の端面と前記フィルムとの間に存在し加圧によって前記壁部の端面と前記フィルムとが剥離することにより液体を通液させる接着剤または粘着剤により形成される接着部と、を備えるマイクロチップ。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に流路と、液体を貯留した液体貯留部を有する液体試料分析用マイクロチップであって、
前記流路を形成する溝と、前記溝の一部に設けられ、前記液体貯留部を形成する窪みと、前記流路の前記液体貯留部の上流側及び/又は下流側に相当する位置において、前記液体貯留部から前記流路への前記液体の流出を遮る壁部と、が設けられた接合面を有する基材と、
前記基材の接合面に貼り合わされ、前記溝および窪みを覆うことにより前記流路及び前記液体貯留部を形成するフィルムと、
前記接合面のうち前記溝と、前記窪みとを除く領域に塗布され、前記基材の前記接合面と前記フィルムとを接着するための接着剤または粘着剤、および前記壁部の端面と前記フィルムとの間に存在し加圧によって前記壁部の端面と前記フィルムとが剥離することにより液体を通液させる接着剤または粘着剤により形成される接着部と、
を備えるマイクロチップ。
【請求項2】
前記基材または前記フィルムは、前記基材と前記フィルムとを貼り合せて形成される前記流路の両端の位置に、液体を加圧導入するための流入口、および前記液体又は空気が流出するための流出口となる貫通孔を有する、
請求項1に記載のマイクロチップ。
【請求項3】
前記液体は、検体と反応させる反応試薬を含む液体、細胞懸濁液のいずれかである、
請求項1に記載のマイクロチップ。
【請求項4】
前記液体貯留部には増粘剤を含む液体が貯留されている、
請求項1に記載のマイクロチップ。
【請求項5】
前記液体貯留部には2~20%のポリビニルアルコール(PVA)を含む液体が貯留され
ている、
請求項1に記載のマイクロチップ。
【請求項6】
前記基材はシクロオレフィンポリマー(COP)樹脂またはシクロオレフィンコポリマー(COC)樹脂を素材とする、
請求項1に記載のマイクロチップ。
【請求項7】
前記フィルムは水蒸気透過性が1.5g/m2・day以下の防湿性を有するフィルムである、
請求項1に記載のマイクロチップ。
【請求項8】
本発明の第一の態様は、内部に流路と、液体を貯留した液体貯留部を有する液体試料分析用マイクロチップであって、
前記流路を形成する溝と、前記溝の一部に設けられ、前記液体貯留部を形成する窪みと、が設けられた接合面を有する基材と、
前記基材の接合面に貼り合わされ、前記溝および窪みを覆うことにより前記流路及び前記液体貯留部を形成するフィルムと、
前記接合面のうち前記溝と、前記窪みとを除く領域に塗布され、前記基材の前記接合面と前記フィルムとを接着するための接着剤または粘着剤により形成される接着部と、
を備え、前記液体貯留部には増粘剤を含む液体が貯留されている、マイクロチップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部に液体を貯留し、封入した液体貯留部を有するマイクロチップに関する。
【背景技術】
【0002】
液体試料をマイクロチップ内の流路に導入し、流路の途中に設けられた反応部で抗体などの試薬と反応させて液体試料中の成分を分析することが知られている。このような分析に使用されるマイクロチップとしては、あらかじめ反応部に乾燥試薬が載置されており、使用前に水などの液体を導入して試薬を溶解させることで反応部に反応液をさせて使用されるマイクロチップが一般的である。
しかしながら、反応液の調製に手間がかかり、血液検査など迅速な検査が求められる場合などのために、あらかじめ反応液を貯留したマイクロチップが求められている。
【0003】
あらかじめ反応液を貯留したマイクロチップとしては、ブリスターをチップに接合して内部に液体を封入したマイクロ流体チップがある(非特許文献1)。
しかし、ブリスターの形成および接合には複雑な作業が必要であり、簡便に液体を貯留したマイクロチップが求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Proceedings Volume 9705, Microfluidics, BioMEMS, and Medical Microsystems XIV; 97050F (2016)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、内部に液体を安定的に貯留し、使用時に通液することで簡便に検査等に使用可能なマイクロチップを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討を行った。その結果、流路を形成する溝と、前記溝の一部において設けられ、液体貯留部を形成する窪みと、前記液体貯留部から前記流路への液体の流出を遮る壁部と、が設けられた接合面を有する基材を用意し、前記基材の前記接合面に貼り合わされ、前記溝および窪みを覆うことにより流路および液体貯留部を形成するフィルムを用意し、前記接合面のうち前記溝と前記窪みとを除く領域に接着剤や粘着剤を塗布して前記基材と前記フィルムとを接着することで内部に液体を安定的に貯留(封入)したマイクロチップを簡便に製造でき、得られたマイクロチップは、流路から加圧通液することにより前記壁部の端面と前記フィルムとの接着を剥離させ、前記液体貯留部へ簡易に通液できることを見出した。
さらに、前記液体貯留部に液体を貯留させる際に、ポリビニルアルコールを加えることで、液体貯留部に貯留された微量の液体が輸送などの振動などで飛び散ることを防ぎ、安定に保存可能であることを見出した。
さらに、前記フィルムを防湿性のフィルムとすることで、貯留した液体の蒸発を防ぐことができることを見出した。
以上の知見に基づき、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明の第一の態様は、内部に流路と、液体を貯留した液体貯留部を有する液体試料分析用マイクロチップであって、
前記流路を形成する溝と、前記溝の一部に設けられ、前記液体貯留部を形成する窪みと、前記流路の前記液体貯留部の上流側及び/又は下流側に相当する位置において、前記液体貯留部から前記流路への前記液体の流出を遮る壁部と、が設けられた接合面を有する基材と、
前記基材の接合面に貼り合わされ、前記溝および窪みを覆うことにより前記流路及び前記液体貯留部を形成するフィルムと、
前記接合面のうち前記溝と、前記窪みとを除く領域に塗布され、前記基材の前記接合面と前記フィルムとを接着するための接着剤または粘着剤、および前記壁部の端面と前記フィルムとの間に存在し加圧によって前記壁部の端面と前記フィルムとが剥離することにより液体を通液させる接着剤または粘着剤により形成される接着部と、
を備えるマイクロチップである。
【0008】
本発明の第一の態様は、内部に流路と、液体を貯留した液体貯留部を有する液体試料分析用マイクロチップであって、
前記流路を形成する溝と、前記溝の一部に設けられ、前記液体貯留部を形成する窪みと、が設けられた接合面を有する基材と、
前記基材の接合面に貼り合わされ、前記溝および窪みを覆うことにより前記流路及び前記液体貯留部を形成するフィルムと、
前記接合面のうち前記溝と、前記窪みとを除く領域に塗布され、前記基材の前記接合面と前記フィルムとを接着するための接着剤または粘着剤により形成される接着部と、
を備え、前記液体貯留部には2~20%ポリビニルアルコール(PVA)などの粘度を与
える物質(増粘剤)を含む液体が貯留されている、マイクロチップである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、内部に液体を安定した状態で貯留し、使用時に加圧することで簡易に液体貯留部に通液し、検査や細胞培養等に使用することができるマイクロチップを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】接着剤塗布前のマイクロチップの基材を示す図である。
【
図2】接着剤塗布後のマイクロチップの基材を示す図である。
【
図3】基材にフィルムを貼り合わせたマイクロチップの完成図である。
【
図4】マイクロチップのA-A断面の一部を示す図である。
【
図5】接着剤が剥離して液体貯留部に通液された状態のマイクロチップを示す図である。
【
図6】液体貯留部に通液されたマイクロチップのB-B断面の一部を示す図である。
【
図7】接着剤が剥離して液体貯留部から下流側流路に通液された状態のマイクロチップを示す図である。
【
図8】液体貯留部から下流側流路に通液されたマイクロチップのB-B断面の一部を示す図である。
【
図9】基材にフィルムを貼り合せた実施例1に用いたマイクロチップの完成図である。
【
図10】基材にフィルムを貼り合せた実施例2に用いたマイクロチップの完成図である。
【
図11】基材にフィルムを貼り合せた実施例3に用いたマイクロチップの完成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一態様は、流路と、流路の一部に形成され、反応液や培地等の液体を貯留した
液体貯留部と、前記流路と前記液体貯留部とを遮る壁部を有する基材並びに基材を覆うフィルムおよび壁部の端面に塗布される接着剤によって、保管時には液体貯留部内の液体を密封し、使用時に加圧によって前記壁部の端面とフィルムとを剥離させることで、液体貯留部へ液体試料や細胞懸濁液等の液体を通液させ、化学反応や生体反応を起こして検査等に使用したり、細胞等の培養等に使用することができるマイクロチップである。
【0012】
具体的には、
内部に流路と、液体を貯留した液体貯留部を有する液体試料分析用マイクロチップであって、
前記流路を形成する溝と、前記溝の一部に設けられ、前記液体貯留部を形成する窪みと、前記流路の前記液体貯留部の上流側及び/又は下流側に相当する位置において、前記液体貯留部から前記流路への前記液体の流出を遮る壁部と、が設けられた接合面を有する基材と、
前記基材の接合面に貼り合わされ、前記溝および窪みを覆うことにより前記流路及び前記液体貯留部を形成するフィルムと、
前記接合面のうち前記溝と、前記窪みとを除く領域に塗布され、前記基材の前記接合面と前記フィルムとを接着するための接着剤または粘着剤、および前記壁部の端面と前記フィルムとの間に存在し加圧によって前記壁部の端面と前記フィルムとが剥離することにより液体を通液させる接着剤または粘着剤により形成される接着部と、
を備えるマイクロチップ、が挙げられる。
【0013】
マイクロチップ内の流路の一部には、液体を貯留する領域である液体貯留部が形成され、液体は、あらかじめ液体貯留部に貯留されている。
【0014】
貯留部に貯留される液体は、好ましくは、マイクロチップが生体試料等の検体の分析に用いられるものである場合、分析対象試料中に含まれる分析対象物質と反応する試薬(反応物質)の溶液又は懸濁液である。ここで反応としては生体反応や化学反応などが挙げられ、生体反応には結合反応も含まれる。
試薬としては、抗体、酵素、受容体などのタンパク質(ペプチド含む)、DNAやRNAなどの核酸、糖鎖、生体成分に結合する低分子化合物などが例示されるが、特に限定されない。これらの物質は蛍光物質等で標識されていてもよいし、担体等に固定化されていてもよい。例えば、検体中の目的(検出対象)物質に特異的に結合する抗体などの物質や、目的物質を基質とする酵素タンパク質やPT試薬などの血液凝固因子などが挙げられる。また、目的物質が核酸の場合、反応物質は、核酸プローブや核酸を増幅するポリメラーゼ(核酸増幅酵素)などでもよい。
【0015】
また、マイクロチップが細胞や微生物を培養したり分析したりするものである場合、貯留部に貯留される液体は細胞や微生物用の培地でもよい。
【0016】
液体貯留部と流路の間に設けられた壁部は、壁部の端面に塗布された接着剤または粘着剤がフィルムと接着することにより、マイクロチップ保管時には、貯留部から流路への液体の流出を遮る。本発明の一態様に係るマイクロチップは、このように、壁部と接着剤または粘着剤によって液体を封入する液体封入構造を有することにより、保管時は液体を安定的に貯留させることができる。
【0017】
使用時には、加圧して流路(上流側流路)内に液体を導入することで、前記壁部の端面とフィルムとが剥離し、液体は流路から貯留部に通液される。これにより、導入された液体試料と液体貯留部にあらかじめ貯留された液体が混合され、反応等を生じさせることができる。ここで反応物等を検出することで、液体試料の分析を行うこともできる。
【0018】
また、細胞を含む液体(細胞懸濁液)を流路内に導入し、あらかじめ液体貯留部に収容された培地と混合することで細胞の培養を行うこともできる。
【0019】
そして、ある使用態様では、流路から導入された液体と液体貯留部にあらかじめ収容された液体との混合液の量が液体貯留部の収容量を超えると、混合液の圧力により液体貯留部の下流側の壁部の端面とフィルムとが剥離し、混合液は液体貯留部から下流側流路に流出する。その後洗浄液などを流路から液体貯留部に導入し洗浄を行った後、検出反応を行うこともできる。
【0020】
上記のように、本発明の一態様に係るマイクロチップによれば、液体試料、細胞懸濁液(細胞含有試料)、洗浄液などの液体を、簡易な操作で液体貯留部に導入することができ、反応や培養などを簡便に行うことができ、その後の洗浄や検出なども操作も容易である。このため、マイクロピペットなどを用いて手作業で液体を流路内に導入するといった煩雑な操作は軽減される。
【0021】
以下、図面を参照して本発明の液体貯留マイクロチップについて説明する。ただし、以下はあくまでも一例にすぎず、本発明のマイクロチップは以下の態様に限定されない。
【0022】
図1から
図3は、マイクロチップ100の製造過程における形態例を示す概念図である。
図1は、接着剤塗布前のマイクロチップ100の基材110を示す図である。
図2は、接着剤塗布後のマイクロチップ100の基材110を示す図である。
図3は、基材110にフィルム120を貼り合わせたマイクロチップ100の完成図である。
【0023】
図1は、マイクロチップ100の流路111を形成する溝111aが表面に掘られた基材110の平面図を示す。溝111aの一部において、液体を貯留する領域である液体貯留部116となる窪みが設けられている。液体貯留部116と、溝111aの間には、上流側及び下流側それぞれに、液体の流出を遮る壁部114が設けられている。壁部114のうち、貼り合わされるフィルム120に対向する面は、端面114aおよび114bとも称される。溝111aが掘られた表面は、フィルム120と貼り合わされる面であり、接合面115とも称される。なお、下流側流路は設けず、壁部は上流側流路と液体貯留部の接続部にのみ設けられてもよい(
図1の114a)。この場合、液体貯留部の上部を覆うフィルムの一部に孔(通気口)が設けられ、該通気口が、通気性が有り液体を通過させないフィルターで封鎖された態様であってもよい。
【0024】
壁部114よりも液体貯留部116側の溝111aの一端には、液体を加圧するための流入口112となる貫通孔が設けられており、他端には液体または空気が流出するための流出口113(流出口)となる貫通孔が設けられている。流入口から液体試料等を導入する際には、例えば、マイクロシリンジまたはポンプなどを使用して流入口から加圧通液により流路内により液体試料等が導入される。なお、流入口112を塞いだ指での押圧によっても、液体試料等の加圧導入は可能である。
【0025】
なお、流路111は2つ以上設けられてもよい。流路111の形状は問わず、直線状でも曲線状でもよい。また、流路111は分岐を有していてもよい。その場合、流入口112、液体貯留部116、壁部114、および/または流出口113は2つ以上存在してもよい。
【0026】
なお、流入口112および流出口113は、基材110とフィルム120のどちら側に設けられてもよい。例えば、基材110上には流路111となる溝111aを設け、溝111aの両端に重なる位置に貫通孔を有するフィルム120を用意して基材110に貼り合わせてもよい。また、流入口112および流出口113となる貫通孔は、一方が基材1
10に、他方がフィルム120に設けられてもよい。
【0027】
流路111となる溝111aの断面形状は、凹字状、U字状、V字状等任意である。また、流路111となる溝111aの深さは10~500μmであることが好ましく、幅は10μm~3mmであることが好ましい。壁部114の厚み(流路111の長手方向の長さ)を含む流路111に相当する部分の長さは、例えば3mm~5cmである。また、溝111aの幅は一定でもよいが、変化してもよい。また、溝111aの深さも一定でもよいが、変化してもよい。
【0028】
溝111aの幅(流路111の幅)は、壁部114の幅より狭くなるようにしてもよい。壁部114の幅を流路111の幅よりも幅広くすることで、壁部114の端面114aとフィルム120との隙間を通過する液体の流量が増加し、液体は流れやすくなる。
【0029】
液体貯留部116となる窪みは、所望の量の液体を収容するのに十分な大きさであればよく、その形状も特に制限されないが、例えば、円柱状または角柱状であり、面積と深さを大きくすることで、より多くの液体を貯留可能である。窪みの面積は例えば0.1~50mm2であり、円形の液体貯留部116の場合その直径は例えば0.2~6mmである。ただし、面積は溝の深さに応じて変化してもよく、例えばすり鉢状の窪みでもよい。窪みの深さは流路となる溝の深さより深いことが好ましく、例えば20μm~3mmである。
【0030】
液体貯留部には、反応液や培地などの液体が貯留されている。
貯留される液体は目的に応じて適宜選択され、目的に応じて必要な成分を含むことができる。また、反応性物質を担持した担体を含む懸濁液であってもよい。
なお、液体を安定的に貯留するために、粘度を与える物質(増粘剤)を含んでもよい。増粘剤としては、ポリビニルアルコール(PVA)、グァーガム、ヒアルロン酸Na、アラ
ビアゴム、タマリンドガム、カルボキシメチルセルロース(CMC)、カルボキシメチルデキ
ストリン(CMD)、マルトデキストリン、デキストリン、でんぷん分解物、還元でんぷん分
解物、ポリビニルアルコール、ポリ(ビニルメチルエーテル)などが挙げられる。PVAなど
を添加することで、液体貯留部に微量の液体が、輸送などの振動などで液体が飛び散ることを防ぐことが可能になる。
粘性物質にPVAを用いる場合の濃度は2~20%が好ましい。
液体貯留部への液体の貯留量は特に制限されず、液体貯留部を満たす量であってもよいが、流路から導入された液体とあらかじめ液体貯留部に貯留された液体が液体貯留部で混合されて反応や培養等が行われるように、あらかじめ液体貯留部に貯留される液体は、液体貯留部の容積の10~90%であることが好ましい。
なお、液体貯留部には、混合液を撹拌するために撹拌子が設置されていてもよい。
【0031】
壁部114は、液体貯留部116に収容した液体が流路111に流出するのを遮るために設けられる。壁部114の端面114a、114bと、壁部114の端面114a、114bを覆うフィルム120との隙間は、端面114a、114bに塗布される接着剤117bにより密封される。接着剤117bで密封された状態では、液体貯留部116内の液体は、流路111へは流出しない。
【0032】
壁部114の厚み(流路111の長手方向の長さ)は、加圧された液体(上流側は流路から導入された液体であり、下流側は貯留部内の液体)が、壁部114の端面114aとフィルム120とを剥離させ、流路111から液体貯留部116に通液されるような厚みであればよい。壁部114の厚みは一定でもよいが、変化してもよい。
壁部114の高さは、接合面115と略同じ高さに形成されてもよいし、接合面115より低く形成されてもよい。
【0033】
壁部114の端面114a、114bとフィルム120との剥離は、接着剤117b層の凝集破壊であってもよいし、壁部114の端面114a、114bと接着剤117b層との界面剥離であってもよいし、接着剤117b層とフィルム120との界面剥離であってもよい。
【0034】
流入口112となる貫通孔の大きさは、マイクロシリンジまたはアダプタで接続されたポンプなどを使用して、液体貯留部116の液体を加圧できるような大きさであればよい。流入口112となる貫通孔の大きさは、例えば、直径0.2~10mmである。流出口113となる貫通孔の大きさは、液体試料の流出口として機能する大きさであればよく特に制限されない。流出口113となる貫通孔の大きさは、例えば、直径0.2~3mmである。
【0035】
マイクロチップ100の材質は、金属、ガラスやプラスチック、シリコーン等が使用できるが、反応を発光や発色または目視で検出する観点からは透明な材質が好ましく、透明なプラスチックがより好ましい。マイクロチップ100の材質は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、シクロオレフィンポリマー(COP)、シクロオレフィンコポリマー(COC)、ポリフェニレンオキサイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂、ポリ2-メトキシエチルアクリレート(PMEA)樹脂などが挙げられる。
この中ではCOPまたはCOCが特に好ましい。COPまたはCOCを用いることで、チップからの溶出又は液体成分の吸着を抑制することが可能である。
【0036】
なお、マイクロチップ100の基材110に設けられる溝111aや貫通孔は、刃物やレーザー光線で掘ることもできるが、マイクロチップ100の材質がプラスチックである場合は、射出成型で形成することもできる。射出成型で形成すると、マイクロチップ100は、一定した品質で効率よく作製できるので好ましい。
【0037】
液体への加圧によって剥離する接着剤117bが塗布される壁部の端面114a、114b、およびフィルム120の端面114a、114bを覆う部分は、接着剤117bの接着力を低下させる表面処理が施されてもよい。
【0038】
接着力を低下させる表面処理(疎水化処理)としては、疎水化試薬の塗布またはプラズマ処理によるフッ素膜コーティングが好ましい。疎水化試薬は、例えば、フロロサーフFS-1610C-4.0(株式会社フロロテクノロジー)、撥水撥油フッ素コーティング剤GF03(ガストジャパン株式会社)、ガードサーフAZ-6000(株式会社ハーベス)、フッ素コーティング剤INTシリーズ(株式会社野田スクリーン)などが挙げられる。具体的条件としては、壁部の端面の水接触角が、例えば110°以上となる条件が挙げられる。
【0039】
液体の流れの向きを制御するため、フィルム120および/または基材110の一部は親水化されてもよい。例えば、基材110の流路111となる溝111a、フィルム120の流路111を覆う部分、壁部114の両側の壁面などが親水化される。また、親水化処理は、液体貯留部116となる窪みおよびフィルム120の液体貯留部116を覆う部分に施されてもよい。
【0040】
親水化処理としては、親水化試薬の塗布またはプラズマ処理が好ましい。親水化試薬は、例えば、S-1570(ショ糖脂肪酸エステル:三菱ケミカルフーズ株式会社)、LW
A-1570(ショ糖ラウリン酸エステル:三菱ケミカルフーズ株式会社)、ポエムDL-100(ジグリセリン モノラウレート:理研ビタミン株式会社)、リケマールA(シ
ョ糖脂肪酸エステル:理研ビタミン株式会社)などの非イオン性界面活性剤、セラアクアNS235-N1(島貿易株式会社)、アミノイオン(日本乳化剤株式会社)、LAMBIC-771W(大阪有機化学工業株式会社)、LAMBIC-1000W(大阪有機化学工業株式会社)、SPRA-101(東京応化工業株式会社)、SPRA-202(東京応化工業株式会社)などが挙げられる。具体的条件としては、基材表面の水接触角が、例えば55°以下となる条件が挙げられる。
【0041】
フィルム120の素材としては透明なプラスチックが好ましく、例えば、シクロオレフィンポリマー(COP)樹脂、シクロオレフィンコポリマー(COC)樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリスチレン(PS)樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリメチルメタクリレート(PMMA)樹脂が使用できる。
また、フィルムとして防湿性のフィルムを用いることで、貯留した液体の蒸発を防ぐことができるので好ましい。防湿性の程度は、例えば、水蒸気透過性が1.5g/m2・day以
下であり、水蒸気透過性が0.25~1.5g/m2・dayであることが好ましく、0.25
~0.5g/m2・dayであることがより好ましい。防湿性フィルムとしては、ポリテトラフ
ルオロエチレン(PCTFE)単体もしくは、PCTFEを含む多層構造のフィルムでも、蒸着フィルムでもよく、PCTFEを含む多層構造のフィルムとしては、例えば、最外層からPCTFE、無水マレイン酸変性ポリエチレン(MAPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LL)、シクロオレフィンポリマー(COP)樹脂から成る4層のフィルム、最外層からPCTFE、MAPE、エチレンビニルアルコール共重合樹脂(EVOH)、MAPE、COPから成る5層のフィルムなどが挙げら
れる。防湿性を得るためには、PCTFE層の厚みは、10μm以上であることが好ましく、
20μmであることがより好ましい。
蒸着フィルムの例としては、ポリエチレンテフタレート(PET)にアルミを蒸着したフ
ィルム、アルミナを蒸着したフィルム、シリカを蒸着したフィルム、ナイロンにアルミを蒸着したフィルム、アルミナを蒸着したフィルム、シリカを蒸着したフィルム等が挙げられる。
アルミは単体で用いてもよい。
防湿性フィルムは上記に限定されず、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロアルコキシアルカン(PFE)などのフィルムの1種または2種以上を含む多層構造のフィルムであっても良い。
フィルム120の総厚みは例えば10~200μmが好ましく、100~200μmがより好ましい。
【0042】
フィルム120を基材110上に貼り合わせるためには接着剤および/または粘着剤、
溶着技術を用いることができる。接着剤としては、(メタ)アクリル樹脂系接着剤、天然ゴム接着剤、ウレタン樹脂系接着剤、エチレン-酢酸ビニル樹脂エマルジョン接着剤、エチレン-酢酸ビニル樹脂系接着剤、エポキシ樹脂系接着剤、塩化ビニル樹脂溶剤系接着剤、クロロプレンゴム系接着剤、シアノアクリレート系接着剤、シリコーン系接着剤、スチレン-ブタジエンゴム溶剤系接着剤、ニトリルゴム系接着剤、ニトロセルロース系接着剤、フェノール樹脂系接着剤、変性シリコーン系接着剤、ポリエステル系接着剤、ポリアミド系接着剤、ポリイミド系接着剤、オレフィン樹脂系接着剤、酢酸ビニル樹脂エマルジョン系接着剤、ポリスチレン樹脂溶剤系接着剤、ポリビニルアルコール系接着剤、ポリビニルピロリドン樹脂系接着剤、ポリビニルブチラール系接着剤、ポリベンズイミダゾール接着剤、ポリメタクリレート樹脂溶剤系接着剤、メラミン樹脂系接着剤、ユリア樹脂系接着剤、レゾルシノール系接着剤等が挙げられる。接着剤は、1種単独または2種以上を混合して使用することができる。
【0043】
また、フィルム120を基材110上に貼り合わせるために、接着剤の一種である粘着
剤が用いられてもよい。粘着剤としては、例えば、ゴム系粘着剤、(メタ)アクリル系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ビニルアルキルエーテル系粘着剤、ポリビニルアルコール系粘着剤、ポリビニルピロリドン系粘着剤、ポリアクリルアミド系粘着剤、セルロース系粘着剤等を挙げることができる。このような粘着剤は、単独で使用してもよいし、または2種以上を混合して使用してもよい。
【0044】
接着剤または粘着剤としては、光硬化型(ラジカル反応性でもカチオン重合性でもよい)であることが好ましく、紫外線硬化型(UV硬化型)であることがより好ましい。UV硬化型接着剤あるいは粘着剤であれば、塗布工程後に、UVを照射することで速やかに硬化反応が開始され接合することが可能である。UV硬化型接着剤は、例えばUVX-8204(デンカ株式会社製)、UVX-8400(デンカ株式会社)、SX-UV100A(セメダイン株式会社製)、SX-UV200(セメダイン株式会社製)、BBX-UV300(セメダイン株式会社製)、U-1340(ケミテック株式会社)、U-1455B(ケミテック株式会社)、U-1558B(ケミテック株式会社)、アロニックスUV-3000(東亞合成株式会社)、TB3094(株式会社スリーボンド)、ヒタロイド7975D(日立化成株式会社)などのアクリル系UV硬化型接着剤がより好ましい。UV硬化型粘着剤は、例えばUV-3630ID80(三菱ケミカル株式会社)、UX-3204(日本化薬株式会社)、ファインタックRX-104(DIC株式会社)などのアクリル系UV硬化型粘着剤がより好ましい。アクリル系UV硬化型接着剤および粘着剤であれば、幅広いプラスチック材料に対して良好な接着性を示し、UV照射後は速やかな強度発現を得ることができる。フィルム120を基材110上に貼り合わせるために用いる接着剤および粘着剤の粘度は、例えば2,000~31,000mPa・sが好ましい。
【0045】
例えば、基材110を用意し、スクリーン印刷等により接合面115に接着剤117aおよび接着剤117bを塗布することができる。接着剤117aおよび接着剤117bは、総称して接着剤117とも称される。なお、接着剤の一種である粘着剤によってフィルム120が基材110に貼り合わされる場合、粘着剤は、接着剤117と同様にして基材110に塗布されればよい。
図2は、接着剤塗布後のマイクロチップ100の基材110を示す図である。
【0046】
以下、接着剤を例に説明するが、接着剤の代わりに粘着剤を使用する場合も同様である。したがって、「接着剤」の記載は「接着剤および/または粘着剤」と読み替えることができる。
【0047】
接着剤117aおよび接着剤117bは、同時に塗布されてもよいし、個別に塗布されてもよい。接着剤117aは、基材110の接合面115に設けられた溝111aと、液体貯留部116と、壁部114の端面114aとを除く領域に塗布される。接着剤117bは、壁部114の端面114aに塗布される。接着剤117aと接着剤117bとは、同じ種類の接着剤であってもよく、異なる種類の接着剤であってもよい。
【0048】
接着剤117aおよび接着剤117bを、それぞれの塗布領域により正確に塗布するため、接着剤117は、印刷技術により塗布されることが好ましく、接着剤117aおよび接着剤117bが同じ種類の接着剤である場合においては、特にスクリーン印刷によって塗布されることが好ましい。スクリーン印刷を用いることで、基材110の全面にあたる領域のスクリーン印刷版に接着剤117を充填した場合においても、スクリーン印刷版と接する塗布領域には接着剤117が転写されるが、接しない溝111aおよび貯留部116となる窪みには、接着剤117は転写されることはない。よって、接着剤117aおよび接着剤117bは、それぞれの塗布領域に良好に塗布することが可能となる。
基材110への接着剤117のその他の塗布方法として、インクジェット印刷やグラビア印刷、ディペンサーなどにより、接着剤117aおよび接着剤117bを、それぞれの
塗布領域に精密に塗布することも可能である。
【0049】
基材110に塗布される接着剤117の膜厚は5~15μmになることが好ましい。接着剤117の膜厚制御のためには、スクリーンの1インチあたりのメッシュ数は、例えば500~730が好ましい。メッシュのオープニング率は、例えば39~47%が好ましい。メッシュの厚みは、例えば15~28μmが好ましい。それにより、塗布した接着剤117の膜厚は、5~15μmとなることが好ましい。
【0050】
接着剤117aは、基材110の接合面115に設けられた溝111aと、液体貯留部116と、壁部114の端面114aとを除く領域を親水化処理してから塗布されてもよい。
親水化処理としては、プラズマ処理またはコロナ処理が好ましい。基材110は接着剤117aをはじくことなく、接着剤117aは基材110上でぬれ広がって溝111aには流れ込まないように親水化処理をすることで、基材110とフィルム120とは、良好に貼り合わせることが可能である。
【0051】
また、フィルム120を基材110上に貼り合わせるために、基材110の全体もしくは一部に、溶着技術が用いられてもよい。溶着技術としては、例えば、レーザー溶着、超音波溶着、ヒートシール(熱溶着ともよばれる)などが挙げられ、ヒートシールを用いることが特に好ましい。ヒートシールであれば、加圧機構とヒーターから成る簡易な装置により、効率的な溶着が可能である。
ヒートシールによる貼り合わせのためには、基材110とフィルム120の素材は、基材110およびフィルム120のガラス転移点の差が、フィルム120の方が高くなるように0~20℃以内の素材であることが好ましく、同一の素材であることがより好ましい。
【0052】
基材110の貼り合せたい領域のみを正確にヒートシールするためには、貼り合せたい領域と同一の凸形状を有するステンレスもしくはアルミ製の治具を用いることが好ましい。治具の凸形状の上にはフィルム120を設置し、その上から、基材110は接合面115がフィルム120側に向くように設置し、温度制御が可能なプレス機により、高温加熱処理することで、凸形状領域のみの接合が可能である。加圧方向は、フィルム側からであっても基材側からであっても、両側からであっても良く、特に限定されない。
圧力は、接合する素材にもよるが、2MPa以上であることが好ましく、上限は基材もしくは凸形状を有する治具が損傷しない程度であれば特に限定されない。
接合時の温度は、接合する素材にもよるが、基材110は常温もしくは基材110のガラス転移点の0.1~10℃以下とし、フィルム120はガラス転移点の0.1~10℃以上の温度を設定することで、貼り合せることが可能である。
高温加熱処理に要する時間は、貼り合わせが成され、流路形状が変形しない程度であれば特に限定されないが、例えば、30~120秒が好ましい。
【0053】
次に、
図3を参照して、フィルム120を用意し、接着剤を用いて、窪みに液体を貯留した基材110にフィルム120を貼り合わせる工程について説明する。
図3は、基材110にフィルム120を貼り合わせたマイクロチップの完成図である。
図3は、基材110の溝111aおよび液体貯留部116が掘られた接合面115と、フィルム120とを貼り合わせて得られるマイクロチップ100の平面図を示す。マイクロチップ100の内部に形成される流路111は、破線で示される。
【0054】
フィルム120を基材110上に積層して貼り合わせることで、溝111aおよび液体貯留部116となる窪みの上部がフィルム120で覆われ、液体が通過する流路111、および液体貯留部116が形成される。接着剤117aおよび接着剤117bは、UV照
射によって硬化し、接着部を形成する。このようにスクリーン印刷によって接着剤(117a、117b)を所定の塗布領域に塗布し、フィルム120を基材110上に積層して貼り合わせることで、基材110とフィルム120との接合と液体の流出を遮る構造の形成を同じ工程で実現することができる。
【0055】
また、基材110の貫通孔は、フィルム120を積層することで、接合面115側で封止され、接合面115と反対側の面のみが流入口となる。これにより、基材110の貫通孔は、流入口112および流出口113として機能する。
【0056】
以下、
図3~8を参照して、液体貯留部116に収容されている液体に対する通液について説明する。
図4は、
図3に示すマイクロチップ100のA-A断面の一部を示す図である。
【0057】
例えば、液体試料中の目的物質に反応する試薬の溶液が液体貯留部116に収容されている(
図3および
図4)。基材110にフィルム120が貼り合わされ、壁部114の端面114a、114bとフィルム120との間の隙間は、接着剤117bで埋められている。液体貯留部116に収容された液体は、壁部114および接着剤117bによって密封されており、流路111には流出しない。
【0058】
そして、使用時に、流入口112から液体試料をシリンジ等で加圧導入することにより、液体試料は流路を通過して液体貯留部の手前の壁部に到達する。ここで、加圧により壁部114の端面114aと前記フィルムとが剥離し、液体試料は液体貯留部内に通液され、液体貯留部内にあらかじめ収容された反応液と混合される(
図5および
図6)。
ここで、
図6は、壁部114の端面114aとフィルム120とが剥離し、液体試料が流路111を通過して液体貯留部116内に通液された図に示すマイクロチップ100のB-B断面の一部を示す図である。
【0059】
これにより、液体試料内の物質と反応液内の反応物質(試薬)が反応し、この反応を検出することにより、液体試料を分析することができる。試料中の目的物質は、当該反応を観察または検出することで測定することができる。反応は発色反応、発光反応、増幅反応、凝集反応などが例示されるが特に限定はされない。
【0060】
なお、液体試料は、血液や尿などの生体から得られる液体試料またはその希釈液、植物や動物などの生体からの抽出液、河川や海や降雨などの天然に存在する水、洗浄液、廃液等が挙げられる。試料中の成分(目的の測定対象物質)も特には制限されず、例えば、タンパク質、核酸、低分子化合物、糖などが例示される。
【0061】
反応後、さらに加圧通液することで、液体貯留部と下流側流路を隔てる下流側の壁部114bを剥離させ、液体貯留部内の液体(混合液)を下流側流路に流出させることができる(
図7および
図8)。
図8は、
図7に示すマイクロチップ100のA-A断面の一部を示す図である。流入口112からさらに液体を加圧導入することにより、液体貯留部116内の液体は、端面114bとフィルム120とを剥離させて、端面114bとフィルム120との間の隙間を通って、流路111の下流側に通液される。流出した液体は下流側流路を通過し、流出口113から排出させることができる。なお、下流側流路の一部に排出された液体を貯留する廃液貯留部を設けてもよい。
なお、液体を液体貯留部から排出する必要がない場合には、下流側流路及び流出口は設けなくともよい。
【0062】
基材110とフィルム120は、溶着技術により接合されてもよい。溶着技術により接合される箇所は、基材110の全体もしくは一部であってもよい。例えば、基材110の
接合面115に設けられた壁部114の端面114aおよび端面114bのみは接着剤により貼り合わせ、接合面115のそれ以外の領域は、ヒートシールにより貼り合せることができる。これにより、貯留部116に収容されている液体に対する接着剤由来の溶出物を抑制することができる。さらに、流入口112から加圧する際には、端面114bとフィルム120のみを確実に剥離させることができ、予期しない箇所の決壊を抑制することができる。
【0063】
以下、本発明を実施例を参照して具体的に説明するが、本発明は以下の態様には限定されない。
【実施例0064】
<マイクロチップの作製1>
図9に示す基板201(MCCアドバンスドモールディングス株式会社製射出成型品:COP樹脂)(サイズ 59.4×26.2mm、厚さ3mm)を用意した。基板201においては、流路211の長さは33mm、深さは80μm、幅は流入部1.2mm、狭窄部0.3mmとし、試薬貯留部212の長さは16mm、深さは2.2mm、幅は20mmとした。
また、基板201においては、流入口213となる穴は内径2mmの断面円形の貫通孔とした。一方、試薬貯留部に設けられた空気穴214となる穴は内径0.5mmの断面円形の貫通孔とした。
【0065】
試薬貯留部212には、マイクロピペットを用いて蒸留水350μlを注入した。
【0066】
基板201と貼り合せるフィルムには、COPフィルム(日本ゼオン株式会社;ZF14-100)(厚み100μm)、ポリスチレンフィルム(サンディック株式会社;#5
10)(厚み130μm)、水蒸気透過性が0.35g/m2・dayの防湿性フィルム(厚み
110μm)を、それぞれ使用した。基板201とフィルムの貼り合わせには、接着剤を用いた。接着剤は、溶剤を含まないラジカル反応性のアクリル系UV硬化型接着剤であるUVX-8204とした。基板201の流路201が設けられた面に、スクリーン印刷により接着剤を塗布した。使用したスクリーン版においては、メッシュ数は500、オープニング率は47%とし、接着剤の塗布厚みは約13μmとした。
【0067】
基板201の接着剤塗布面はフィルムと積層し、UV-LED光源を用い、波長365nmの紫外線を10-20秒間照射することで、接着剤の硬化反応を開始し、基板201上にフィルムを接合した。
【0068】
<マイクロチップの評価1>
作製したチップは、微量天秤にて重量を測定し、50℃に設定した恒温槽に入れ、48時間後に再び重量を測定し、試薬貯留部212に注入した蒸留水の減少量と減少率を計算することで、防湿性の確認を行った。
【0069】
COPフィルムを貼り合せたチップに封入した蒸留水の48時間後の減少量は、約0.125gであり、減少率は36.3%であった。ポリスチレンフィルムを貼り合せたチップに封入した蒸留水の48時間後の減少量は、0.223gであり、減少率は63.3%であった。防湿性フィルムを貼り合わせたチップに封入した蒸留水の48時間後の減少量は、約0.018gであり、減少率は5.2%であった。これらの結果から、チップの貼り合せに防湿性フィルムを使用することにより、チップに設けられた試薬貯留部の液体の蒸発を防止する効果が得られることが分かった。
基板310の接着剤塗布面はフィルム319と積層し、UV-LED光源を用い、波長365nmの紫外線を10-20秒間照射することで、接着剤の硬化反応を開始し、基板201上にフィルムを接合した。