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特開2024-163766単結晶製造方法および単結晶製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024163766
(43)【公開日】2024-11-22
(54)【発明の名称】単結晶製造方法および単結晶製造装置
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/36 20060101AFI20241115BHJP
   C30B 19/04 20060101ALI20241115BHJP
【FI】
C30B29/36 A
C30B19/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023079638
(22)【出願日】2023-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古川 大希
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 貴史
(72)【発明者】
【氏名】高尾 健太
(72)【発明者】
【氏名】田中 謙弥
【テーマコード(参考)】
4G077
【Fターム(参考)】
4G077AA02
4G077BE08
4G077CG02
4G077CG07
4G077EC08
4G077ED06
4G077EG02
4G077EG18
4G077EH07
4G077HA12
4G077QA04
(57)【要約】
【課題】坩堝の使用可能時間を延ばす。
【解決手段】(a)炭素を含有する材料からなる坩堝12に、珪素を含む溶液20を収容し、坩堝12を加熱することで、坩堝12の表面と溶液20との接触面のうち、第1箇所の坩堝12を優先的に溶融させる工程、(b)(a)工程の後、当該接触面のうち、第1箇所とは高さが異なる第2箇所の坩堝12を優先的に溶融させる工程、(c)(a)工程の後、先端部に種結晶が取り付けられた軸を下方向に移動させることにより、種結晶の下面を炭素と珪素とを含む溶液20に接触させる工程、(d)(b)工程および(c)工程の後、種結晶の下面に炭化珪素単結晶40を成長させる工程、を有する単結晶製造方法を用いる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)炭素を含有する材料からなる坩堝に、珪素を含む溶液を収容し、前記坩堝を加熱することで、前記坩堝の表面と前記溶液との接触面のうち、第1箇所の前記坩堝を優先的に溶融させる工程、
(b)前記(a)工程の後、前記接触面のうち、前記第1箇所とは高さが異なる第2箇所の前記坩堝を優先的に溶融させる工程、
(c)前記(a)工程の後、先端部に種結晶が取り付けられた軸を下方向に移動させることにより、前記種結晶の下面を炭素と珪素とを含む前記溶液に接触させる工程、
(d)前記(b)工程および前記(c)工程の後、前記種結晶の前記下面に炭化珪素からなる単結晶を成長させる工程、
を有する、単結晶製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の単結晶製造方法において、
前記(b)工程は、前記(c)工程の前に行う、単結晶製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の単結晶製造方法において、
前記(a)工程では、前記坩堝の外側に配置された第1加熱部を用いて前記坩堝を加熱することで、前記第1箇所に接する前記溶液の温度を高め、これにより前記第1箇所の前記坩堝を優先的に溶融させ、
前記(b)工程では、前記坩堝の外側において前記第1加熱部とは異なる高さに配置された第2加熱部を用いて前記坩堝を加熱することで、前記第2箇所に接する前記溶液の温度を高め、これにより前記第2箇所の前記坩堝を優先的に溶融させる、単結晶製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載の単結晶製造方法において、
前記(a)工程では、前記坩堝の外側に配置された第3加熱部を用いて前記坩堝を加熱することで、前記第1箇所に接する前記溶液の温度を高め、これにより前記第1箇所の前記坩堝を優先的に溶融させ、
前記(b)工程では、前記坩堝に対する前記第3加熱部の高さを変更し、前記第3加熱部を用いて前記坩堝を加熱することで、前記第2箇所に接する前記溶液の温度を高め、これにより前記第2箇所の前記坩堝を優先的に溶融させる、単結晶製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載の単結晶製造方法において、
前記第1箇所は、前記接触面のうち、前記坩堝の内側の底面に位置し、
前記第2箇所は、前記接触面のうち、前記坩堝の内側の側面に位置する、単結晶製造方法。
【請求項6】
(a)先端部に種結晶が取り付けられた軸を下方向に移動させることにより、前記種結晶の下面を、炭素を含有する材料からなる坩堝に収容された、炭素と珪素とを含む溶液に接触させる工程、
(b)前記(a)工程の後、前記種結晶の前記下面に炭化珪素からなる単結晶を成長させる工程、
(c)前記(a)工程の後、前記坩堝と接する前記溶液の最高温度点を、前記坩堝の表面のうち、第1箇所と接する位置から、前記第1箇所とは異なる高さの第2箇所と接する位置へ連続的に移動させる工程、
(d)前記(b)工程および前記(c)工程の後、前記単結晶を前記溶液から離間させる工程、
を備えた、単結晶製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の単結晶製造方法において、
前記(c)工程は、
(c1)前記坩堝の外側に配置された第1加熱部に電力を供給して前記坩堝を加熱する工程、
(c2)前記坩堝の外側において、前記第1加熱部とは異なる高さに配置された第2加熱部に供給する電力を徐々に高めて前記坩堝を加熱することで、前記坩堝と接する前記溶液の前記最高温度点を、前記第1箇所と接する位置から前記第2箇所と接する位置へ連続的に移動させる、単結晶製造方法。
【請求項8】
請求項6に記載の単結晶製造方法において、
(c1)前記坩堝の外側に配置された第3加熱部に電力を供給して前記坩堝を加熱する工程、
(c2)前記坩堝に対する前記第3加熱部の相対的な高さを徐々に変更しながら前記第3加熱部を用いて前記坩堝を加熱することで、前記坩堝と接する前記溶液の前記最高温度点を、前記第1箇所と接する位置から前記第2箇所と接する位置へ連続的に移動させる、単結晶製造方法。
【請求項9】
請求項6に記載の単結晶製造方法において、
前記第1箇所は、前記溶液と前記坩堝との接触面のうち、前記坩堝の内側の底面に位置し、
前記第2箇所は、前記溶液と前記坩堝との接触面のうち、前記坩堝の内側の側面に位置する、単結晶製造方法。
【請求項10】
炭素と珪素を含む溶液を収容し、炭素を含有する材料からなる坩堝を配置可能な単結晶製造装置であって、
前記坩堝を加熱する第1加熱部と、
先端部に種結晶を取り付け可能な軸と、
前記第1加熱部に供給する電力、および、前記軸の上下方向の動作を制御する制御部と、
を備え、
前記坩堝の表面のうち、前記溶液と接触する第1面は、第1箇所と、前記第1箇所と高さが異なる第2箇所とを有し、
前記制御部は、
前記坩堝の前記第1箇所と接する前記溶液の温度を前記坩堝の前記第2箇所と接する前記溶液の温度よりも高くするように、前記第1加熱部を制御する第1動作と、
前記坩堝の前記第2箇所と接する前記溶液の温度を前記坩堝の前記第1箇所と接する前記溶液の温度よりも高くするように、前記第1加熱部を制御する第2動作と、
前記軸を下方向に移動させることにより、前記種結晶の下面を、前記第1動作および前記第2動作により過熱された前記溶液に接触させる第3動作と、
を行う、単結晶製造装置。
【請求項11】
請求項10に記載の単結晶製造装置において、
前記制御部は、
前記軸を上方向に移動させることにより、前記種結晶の下面の下に単結晶を成長させる第4動作と、
前記軸を上方向に移動させることにより、前記単結晶と前記溶液とを離間させる第5動作と、
前記種結晶の下面または前記単結晶が前記溶液に接している間、前記坩堝の前記第1箇所と接する前記溶液の温度と前記坩堝の前記第2箇所と接する前記溶液の温度との大小関係を維持するよう、前記第1加熱部に供給する電力を調整する第6動作と、
をさらに行う、単結晶製造装置。
【請求項12】
請求項10に記載の単結晶製造装置において、
前記第1加熱部は、
前記坩堝を加熱する第2加熱部と、
前記坩堝を加熱し、前記第2加熱部と異なる高さに位置する第3加熱部と、
を備え、
前記制御部は、
前記坩堝の前記第1箇所と接する前記溶液の温度を前記坩堝の前記第2箇所と接する前記溶液の温度よりも高くするように、前記第2加熱部に供給する電力と前記第3加熱部に供給する電力とを調整する前記第1動作と、
前記坩堝の前記第2箇所と接する前記溶液の温度を前記坩堝の前記第1箇所と接する前記溶液の温度よりも高くするように、前記第2加熱部に供給する電力と前記第3加熱部に供給する電力とを調整する前記第2動作と、
を行う、単結晶製造装置。
【請求項13】
請求項10に記載の単結晶製造装置において、
前記第1加熱部は、前記坩堝に対する相対的な高さを前記制御部による制御によって変更可能であり、
前記制御部は、
前記坩堝の前記第1箇所と接する前記溶液の温度を前記坩堝の前記第2箇所と接する前記溶液の温度よりも高くするように、前記第1加熱部の前記坩堝に対する相対的な高さを調整する前記第1動作と、
前記坩堝の前記第2箇所と接する前記溶液の温度を前記坩堝の前記第1箇所と接する前記溶液の温度よりも高くするように、前記第1加熱部の前記坩堝に対する相対的な高さを調整する前記第2動作と、
を行う、単結晶製造装置。
【請求項14】
請求項10に記載の単結晶製造装置において、
前記第1箇所は、前記坩堝の内側の底面に位置し、
前記第2箇所は、前記坩堝の内側の側面に位置する、単結晶製造装置。
【請求項15】
炭素と珪素を含む溶液を収容し、炭素を含有する材料からなる坩堝を配置可能な単結晶製造装置であって、
前記坩堝を加熱する第1加熱部と、
先端部に種結晶を取り付け可能な軸と、
前記第1加熱部に供給する電力、および、前記軸の動作を制御する制御部と、
を備え、
前記坩堝の表面のうち、前記溶液と接触する第1面は、第1箇所と、前記第1箇所と高さが異なる第2箇所とを有し、
前記制御部は、
前記軸を下方向に移動させることにより、前記種結晶の下面を前記溶液に接触させる第1動作と、
前記種結晶の前記下面が前記溶液に接触している状態で、前記坩堝と接する前記溶液の最高温度点を、前記第1箇所から前記第2箇所へ連続的に移動させる第2動作と、
を行う、単結晶製造装置。
【請求項16】
請求項15に記載の単結晶製造装置において、
前記第1加熱部は、
前記坩堝を加熱する第2加熱部と、
前記坩堝を加熱し、前記第2加熱部と異なる高さに位置する第3加熱部と、
を備え、
前記制御部は、前記第2動作において、前記第3加熱部に供給する電力に対する、前記第2加熱部に供給する電力の比が徐々に大きくなるよう、前記第2加熱部に供給する電力および前記第3加熱部に供給する電力を連続的に調整することで、前記坩堝と接する前記溶液の最高温度点を、前記第1箇所と接する位置から前記第2箇所と接する位置へ連続的に移動させる、単結晶製造装置。
【請求項17】
請求項15に記載の単結晶製造装置において、
前記第1加熱部は、前記坩堝に対する相対的な高さを前記制御部による制御によって変更可能であり、
前記制御部は、前記第2動作において、前記坩堝の前記第2箇所と接する前記溶液の温度を前記坩堝の前記第1箇所と接する前記溶液の温度よりも高くするように、前記第1加熱部の前記坩堝に対する相対的な高さを調整することで、前記坩堝と接する前記溶液の最高温度点を、前記第1箇所と接する位置から前記第2箇所と接する位置へ連続的に移動させる、単結晶製造装置。
【請求項18】
請求項15に記載の単結晶製造装置において、
前記第1箇所は、前記坩堝の内側の底面に位置し、
前記第2箇所は、前記坩堝の内側の側面に位置する、単結晶製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化珪素からなる単結晶の製造技術および単結晶製造装置に関し、例えば、溶液法による単結晶の製造技術に適用して有効な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、比較的高い耐圧を要求されるパワー半導体素子に使用する材料として、炭化珪素が注目されている。炭化珪素からなる単結晶(以下、炭化珪素単結晶と呼ぶ)は、例えば、溶液法を使用することにより製造される。溶液法とは、軸の先端部に取り付けた種結晶を坩堝に収容されている炭素と珪素とを含む溶液に接触させることにより、種結晶に炭化珪素単結晶を成長させながら、軸を引き上げて、炭化珪素単結晶を製造する方法である。
【0003】
国際公開第2013/065204号(特許文献1)には、溶液中の温度勾配を単結晶の成長中に切り替えることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2013/065204号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
溶液法では溶液中の高温領域で、溶液に接する坩堝の内壁が溶解し、低温領域で結晶が生成する。坩堝の内壁の溶解は主に溶液と接する坩堝の内壁の最高温領域で進行する。坩堝の内壁が局所的に溶解されて坩堝に穴が開くと溶液が漏れ出るため、それ以上の育成が不可能となる。したがって、溶液法においては、坩堝の使用可能時間を延ばす観点から、坩堝の内壁を局所的ではなく全体的に溶解させる工夫が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一実施の形態における単結晶製造方法は、(a)炭素を含有する材料からなる坩堝に、珪素を含む溶液を収容し、前記坩堝を加熱することで、前記坩堝の表面と前記溶液との接触面のうち、第1箇所の前記坩堝を優先的に溶融させる工程、(b)前記(a)工程の後、前記接触面のうち、前記第1箇所とは高さが異なる第2箇所の前記坩堝を優先的に溶融させる工程、(c)前記(a)工程の後、先端部に種結晶が取り付けられた軸を下方向に移動させることにより、前記種結晶の下面を炭素と珪素とを含む前記溶液に接触させる工程、(d)前記(b)工程および前記(c)工程の後、前記種結晶の前記下面に炭化珪素からなる単結晶を成長させる工程、を有するものである。
【0007】
一実施の形態における単結晶製造装置は、炭素と珪素を含む溶液を収容し、炭素を含有する材料からなる坩堝を配置可能な単結晶製造装置である。単結晶製造装置は、前記坩堝を加熱する第1加熱部と、先端部に種結晶を取り付け可能な軸と、前記第1加熱部に供給する電力、および、前記軸の上下方向の動作を制御する制御部と、を備えている。ここで、前記坩堝の表面のうち、前記溶液と接触する第1面は、第1箇所と、前記第1箇所と高さが異なる第2箇所とを有する。また、前記制御部は、前記坩堝の前記第1箇所と接する前記溶液の温度を前記坩堝の前記第2箇所と接する前記溶液の温度よりも高くするように、前記第1加熱部を制御する第1動作と、前記坩堝の前記第2箇所と接する前記溶液の温度を前記坩堝の前記第1箇所と接する前記溶液の温度よりも高くするように、前記第1加熱部を制御する第2動作と、前記軸を下方向に移動させることにより、前記種結晶の下面を、前記第1動作および前記第2動作により過熱された前記溶液に接触させる第3動作と、を行う。
【発明の効果】
【0008】
一実施の形態によれば、坩堝の使用可能時間を延ばすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施の形態1における単結晶製造装置の構成を示す図である。
図2】単結晶製造装置の動作を説明するための図である。
図3】単結晶製造装置の動作を説明するための図である。
図4】実施の形態1における加熱部の構成を示すブロック図である。
図5】実施の形態1、2における溶液の温度分布を示す図である。
図6】実施の形態1、2における溶液の温度分布を示す図である。
図7】実施の形態1の変形例1における加熱部の動作および溶液の温度分布を示す図である。
図8】実施の形態1の変形例1における加熱部の動作および溶液の温度分布を示す図である。
図9】実施の形態1の変形例1における加熱部の動作および溶液の温度分布を示す図である。
図10】実施の形態2における単結晶製造装置の構成を示す図である。
図11】実施の形態2における溶液の温度分布を示す図である。
図12】実施の形態2の変形例3における加熱部の動作および溶液の温度分布を示す図である。
図13】実施の形態2の変形例3における加熱部の動作および溶液の温度分布を示す図である。
図14】実施の形態2の変形例3における加熱部の動作および溶液の温度分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施の形態を説明するための全図において、同一の部材には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。なお、図面を分かり易くするために平面図であってもハッチングを付す場合がある。
【0011】
(実施の形態1)
以下では、炭化珪素単結晶を溶液法で成長させる際に、坩堝の加熱箇所を切り替えることで、育成開始前の温度分布と育成開始後の温度分布を変えることについて説明する。
【0012】
<改善の検討>
炭化珪素単結晶を溶液法で成長させる場合、結晶を析出させるために、溶液に過飽和状態を作り出す必要がある。したがって、炭化珪素単結晶を成長させる溶液法では、過飽和状態を作り出すために、溶液に温度勾配を形成することが行われている。この場合、溶液には、高温領域と低温領域とが形成され、低温領域において過飽和状態が実現される。このことから、種結晶と接する溶液の領域を過飽和状態が実現される低温領域とするように、溶液に温度勾配を形成することにより、種結晶に結晶を成長させることができる。
【0013】
ここで、溶液中の高温領域では、溶液に接する坩堝の内壁が溶解し、低温領域で結晶が生成する。坩堝の内壁の溶解は主に溶液と接する坩堝の内壁の最高温領域で進行する。溶液温度が上昇するほど溶液の炭素溶解度が増加するため、溶液の炭素溶解量が飽和するまで坩堝の内壁は溶解する。単結晶の育成中は溶液中の炭素が結晶の成長に使用され、減少した分だけ炭素を供給するため、坩堝の内壁が溶解する。坩堝の内壁が局所的に溶解されて坩堝に穴が開くと溶液が漏れ出るため、それ以上の育成が不可能となる。短時間の使用で坩堝に穴が開く場合、単結晶の育成時間が短時間に限られるため、炭化珪素単結晶の製造コストが増大する。
【0014】
したがって、溶液法においては、坩堝の使用可能時間(寿命)を延ばす観点から、坩堝の内壁を局所的ではなく全体的に溶解させる工夫を施すことが望ましい。以下では、この工夫を施した本実施の形態における技術的思想について説明する。
【0015】
<実施の形態における基本思想>
上述したように、炭化珪素単結晶(以下、単に単結晶と呼ぶ場合がある)を溶液法で成長させる技術では、結晶を析出させるために、溶液に過飽和状態を作り出す必要があり、この過飽和状態を作り出すために、溶液に温度勾配を形成することが行われている。
【0016】
そこで本発明者らは、坩堝の内壁(内側の側面および底面底面)の全体を均一に加熱するのではなく、坩堝の内壁と接触する箇所の溶液の最高温度点の位置を、単結晶の育成開始の前後で変更することにより、坩堝の内壁の溶解する箇所を切り替える着想を得た。本発明者らは、これにより、坩堝の内壁が溶解する箇所を一か所に集中させず、坩堝の内壁をより均等に溶解させ、これにより坩堝の使用可能時間を延ばすための基本思想を想到したので、以下に、この基本思想を説明する。
【0017】
本実施の形態における基本思想は、坩堝に収容されている溶液の高温領域と低温領域とを、単結晶の育成を開始する前と後とで切り替えることにより、坩堝の内壁が溶解する箇所を変化させて、坩堝の内壁が局所的に溶解することを防ぐ思想である。
【0018】
具体的に、本実施の形態における基本思想は、坩堝に溶液を収容し、坩堝の表面と溶液との接触面のうち第1箇所の坩堝を、第1箇所とは異なる高さの他の箇所より優先的に溶融させる工程と、その後、接触面のうち、第1箇所とは高さが異なる第2箇所の坩堝を他の箇所より優先的に溶融させる工程と、その後、単結晶を成長させる工程とを行う思想ということができる。
【0019】
ここでは、例えば坩堝の内側の底面の一部である第1箇所の坩堝を優先的に溶解させるために、坩堝の外側に配置された第1加熱部を用いて坩堝を加熱する。そして、例えば坩堝の内側の側面の一部である第2箇所の坩堝を優先的に溶解させるために、坩堝の外側に配置され、第1加熱部より上に配置された第2加熱部を用いて坩堝を加熱する。これにより、坩堝の内壁に接する溶液の最高温度点の切り替えを行う。本願でいう内壁とは、例えば底部を有する有底筒状体の容器である坩堝の内側の底面および側面を含む。
【0020】
この基本思想によれば、単結晶の育成を行うための坩堝の昇温(予熱)の開始から単結晶の育成が完了する一連の加熱工程において、坩堝の内壁が他の箇所に比べて優先的に溶解する箇所が時間帯によって別の箇所に変わる。このため、基本思想によれば、坩堝の内壁が局所的に溶解することを防ぐことができ、その結果、坩堝の使用可能時間を延ばせる。以下では、この基本思想を具現化した単結晶製造技術について説明する。
【0021】
<単結晶製造装置の構成>
図1は、本実施の形態における単結晶製造装置100の構成を示す図である。
【0022】
図1において、単結晶製造装置100は、容器10を有している。この容器10の内部空間には、例えば、アルゴンガスが充填されている。また、容器10の内部には、断熱部材13cが設けられており、断熱部材13cで囲まれた内側に水平方向に回転可能な台座11が配置されている。容器10は、例えば、SUSなどの鉄系材料から構成される。坩堝12の外側の底面に接触するように断熱部材13a、13bが設けられている。平面視において、断熱部材13aは坩堝12の底面の中央と重なっており、断熱部材13bは、断熱部材13aの周囲に設けられている。
【0023】
なお、アルゴンガスの充填構造としては、例えば、断熱部材13cとコイル14aとの間および断熱部材13cとコイル14bの間に石英管を通し、石英管の上下端をフランジで密閉することにより、アルゴンガスを充填する構造を採用することもできる。
【0024】
次に、台座11上には、坩堝12が配置されている。坩堝12は、例えば平面形状が円形である底部を有し、その円形の底部の周縁部の上に筒状の側壁を備えている。つまり、容器である坩堝12の形状は、有底筒状体である。坩堝12は、例えば、黒鉛(グラファイト)から構成されている。つまり、坩堝12は炭素を含む材料からなる。また、坩堝12の内部には、珪素(Si)を含む高温の溶液20が収容されている。具体的に、坩堝12は、炭素と珪素とを含む溶液20を収容可能な本体部(有底筒状体)と、本体部の底部から下側へ突出する伝熱部12aとを備える。
【0025】
このように構成されている坩堝12は、伝熱部12aが「足部」としても機能することから、伝熱部12aは、坩堝12を安定して直立させる副次的な機能も有しているといえる。伝熱部12aは、坩堝12を配置可能な台座11と接触するように構成されている。
【0026】
台座11は、台座11を保持する坩堝保持軸18と接続されている。この坩堝保持軸18は、上下方向に移動可能に構成されているとともに、時計回り、あるいは、反時計回りのいずれにも回転することができるように構成されている。これにより、坩堝保持軸18に取り付けられた台座11および台座11上に配置される坩堝12は、坩堝保持軸18によって上下方向に移動させることができるとともに水平方向に回転させることができる。なお、坩堝保持軸18は、内部が中空構造となっており、熱電対または放射温度計などを挿入して温度測定が可能なように構成されている。
【0027】
そして、単結晶製造装置100の断熱部材13cの外周部には、高周波電流が流れるコイルが設けられており、コイルを流れる高周波電流に基づく誘導加熱によって坩堝12は加熱されるようになっている。具体的に、単結晶製造装置100は、互いに異なる高さに位置する加熱部25aと加熱部25bを有している。コイルに流す高周波電流の周波数は、例えば2~10kHzである。加熱部25aは、坩堝12の内側の側面と対向する位置に設けられたコイル14aに高周波電流を流すことによって生じる誘導加熱現象で坩堝12を加熱するように構成されている。つまり、コイル14aは、坩堝12を加熱する加熱部25aとして機能することから、図1では、コイル14aに対して、加熱部25aも併記している。
【0028】
一方、加熱部25bは、坩堝12を支持する台座11と対向する位置に設けられたコイル14bに高周波電流を流すことによって生じる誘導加熱現象で台座11を加熱するように構成されている。そして、加熱された台座11からの熱伝導によって坩堝12が加熱されることになる。詳細には、加熱部25bによって加熱された台座11から伝熱部12aに熱が伝わり、続いて、伝熱部12aから坩堝12(本体部)の底部に熱が伝わって坩堝12が加熱される。これにより、坩堝12の底部の平面視における中心が加熱される。
【0029】
すなわち、加熱部25bは、坩堝12を支持する台座11と対向する位置に設けられたコイル14bに高周波電流を流すことによって生じる誘導加熱現象で台座11を介して間接的に坩堝12を加熱するように構成されている。このことから、コイル14bは、坩堝12を加熱する加熱部25bとして機能することから、図1では、コイル14bに対して、加熱部25bも併記している。なお、図1では図示していないが、コイル14bおよびコイル14aは、内部に冷却水を流すことができるように構成されている。
【0030】
このように、単結晶製造装置100では、加熱部25aで坩堝12自体を加熱するだけでなく、加熱部25bで加熱された台座11からの熱伝導によっても坩堝12が加熱されるように構成されており、坩堝12の伝熱部12aは、加熱部25bによって加熱された台座11からの熱を本体部に熱伝導させる機能を有しているといえる。
【0031】
ここで、加熱部25bによって、台座11を加熱し易くするため、台座11の厚さは、コイル14bと対向する部分が大きくなるように厚くなっている。この台座11は、坩堝12と一体化することも可能であるが、坩堝12は炭化珪素単結晶を製造するたびに取り替える必要性および一体物の製造コストが高いことを考慮すると、台座11と坩堝12は別体として構成することが望ましい。台座11と坩堝12を別体として構成する場合、坩堝12の伝熱部12aを台座11上に配置するだけの構成でもよいし、伝熱部12aを台座11に嵌め込むことが可能なように台座11を構成することもできる。
【0032】
これらの加熱部25aおよび加熱部25bは、制御部50によって制御される。すなわち、単結晶製造装置100は、加熱部25aに供給する電力と加熱部25bに供給する電力を制御する制御部50を有する。例えば、加熱部25aに電力を供給する電源と、加熱部25bに電力を供給する電源とは、別電源となっており、制御部50は、電源の異なる加熱部25aと加熱部25bとをそれぞれ制御できるように構成されている。
【0033】
加熱部25aおよび加熱部25bによって加熱される坩堝12に収容されている溶液20は、高温となっており、坩堝12を構成する炭素(C)が溶け出すことから、溶液20は、炭素と珪素を含むことになる。坩堝12には、坩堝用蓋15が取り付けられており、この坩堝用蓋15は、筒状部材15aと、筒状部材15aと接続される接続部材15bを有している。この接続部材15bは、筒状部材15aを固定して支持する機能を有し、例えば、坩堝12と接触可能に構成されている。
【0034】
次に、単結晶製造装置100には、上下方向に移動可能な結晶保持軸16が設けられている。この結晶保持軸16も坩堝保持軸18と同様に、時計回り、あるいは、反時計回りに回転できるように構成されていてもよい。つまり、結晶保持軸16および坩堝保持軸18において、回転機構の有無は任意である。
【0035】
結晶保持軸16の先端部には、炭化珪素からなる種結晶が取り付けられている。図1では、種結晶と、その下面に成長した結晶とを、区別して図示していない。また、結晶保持軸16には、結晶保持軸16の延在方向と交差するように取り付けられたフィン構造体16aを有している。さらに、結晶保持軸16の内部は中空構造となっており、結晶保持軸16の内部に種結晶近傍の温度を測定するための熱電対17が挿入されている。種結晶近傍の温度測定は、熱電対17を挿入する代わりに、結晶保持軸16の上端に結晶保持軸16の内径よりも小さな測定径を有する放射温度計を配置することによっても可能である。
【0036】
そして、単結晶製造装置100の制御部50は、フィン構造体16aを有する結晶保持軸16を上下方向に移動させるように制御するようにも構成されている。具体的に、この制御部50は、フィン構造体16aを有する結晶保持軸16が筒状部材15aの内部を通って上下方向に移動するように結晶保持軸16を制御するように構成されている。制御部50は、先端部に種結晶が取り付けられた結晶保持軸16を下方向に移動させることにより、種結晶の下面を坩堝12に収容された溶液20の表面に接触させるように構成されているとともに、種結晶の下面を溶液20の表面に接触させた後、結晶保持軸16を上方向に移動させることにより、種結晶の下面に炭化珪素からなる単結晶を成長させることができるように構成されている。例えば、図1では、種結晶の下面に成長している炭化珪素単結晶40が図示されている。なお、種結晶は、溶液20に接触させればよいが、特に、溶液20の表面に接触させることが望ましい。
【0037】
なお、結晶保持軸16を上方向に移動させることにより、種結晶の下面に炭化珪素からなる単結晶を成長させることができるように構成することは一例であり、例えば、結晶保持軸16を停止(維持)した状態で、種結晶の下面に炭化珪素からなる単結晶を成長させるように構成してもよいし、結晶保持軸16を下方向に移動させることにより、種結晶の下面に炭化珪素からなる単結晶を成長させるように構成することもできる。この構成は、例えば、溶液20の蒸発によって、溶液20の表面が下がる場合もあることを考慮したものである。すなわち、溶液20の蒸発によって、溶液20の表面が後退する場合、結晶保持軸16を下方向に移動させながら、単結晶を成長させることにより、確実に種結晶に単結晶を成長させることができる。
【0038】
以上のようにして、単結晶製造装置100が構成されている。
【0039】
<単結晶製造装置の動作(単結晶製造方法)>
続いて、単結晶製造装置100の動作を説明する。
【0040】
図2および図3は、単結晶製造装置100の動作を説明するための図である。
【0041】
図2において、まず、制御部50は、先端部に種結晶30が取り付けられた結晶保持軸16を下降させる。これにより、結晶保持軸16に取り付けられた種結晶30は、坩堝用蓋15に備わる筒状部材15aの内部を通過した後、坩堝12に収容された炭素と珪素とを含む溶液20の表面に接触する。このとき、結晶保持軸16に取り付けられたフィン構造体16aは、筒状部材15aの内壁と対向する位置に配置される。
【0042】
次に、図3において、制御部50は、結晶保持軸16をゆっくり上昇させる。これにより、引き上げられる種結晶30の下面に炭化珪素単結晶40が成長する。このとき、結晶保持軸16に取り付けられたフィン構造体16aは、筒状部材15aの内壁との対向を維持しながら移動する。その後、結晶成長を継続する場合、結晶保持軸16の引き上げ動作を継続する。一方、結晶成長を終了する場合、制御部50は、結晶保持軸16をさらに引き上げて、炭化珪素単結晶40と溶液20とを隔離させる。これにより、炭化珪素単結晶40の成長を終了させる。このとき、結晶保持軸16に取り付けられたフィン構造体16aは、筒状部材15aの内壁と対向する位置に配置されている状態が維持されている。
【0043】
以上のようにして、単結晶製造装置100を動作させることにより、炭化珪素単結晶を製造することができる。なお、結晶保持軸16をさらに引き上げて、炭化珪素単結晶40と溶液20とを隔離させることによって、結晶成長を終了すると記載したが、これに限らず、例えば、結晶保持軸16を引き上げる替わりに、坩堝保持軸18を引き下げることにより、炭化珪素単結晶40と溶液20とを隔離させて、結晶成長を終了することもできる。
【0044】
<制御部による動作>
図4は、本実施の形態における加熱部の構成を示すブロック図である。図4には、加熱部25aおよび加熱部25bの構成例が示されている。
【0045】
図4において、加熱部25aは、第1AC/DCコンバータ201aと、第1インバータ202aと、第1変圧器203aと、コイル14aとを備え、制御部50によって制御されるように構成されている。このように構成されている加熱部25aでは、まず、制御部50に目標出力電力<<P1>>とする信号(すなわち、目標出力信号)が入力される。すると、制御部50は、第1AC/DCコンバータ201aに対して、第1インバータ202aへの入力電力PAを実現するための目標インバータ電圧<<Vi1>>を出力する。次に、第1AC/DCコンバータ201aでは、制御部50から入力した目標インバータ電圧<<Vi1>>に基づいて、第1商用電源200aからの交流電力を直流電力に変換する。これにより、第1AC/DCコンバータ201aから第1インバータ202aへの入力電力PAが出力される。続いて、第1インバータ202aでは、第1AC/DCコンバータ201aから出力された入力電力PAを入力して、出力電力<P1>を出力する。具体的には、第1AC/DCコンバータ201aで変換された直流電流を第1インバータ202aで高周波電流(例えば、10kHz)に変換する。そして、第1インバータ202aからの出力電圧は、第1変圧器203aで減圧された後、コイル14aに高周波電流(出力電力<P1>)が供給される。すなわち、加熱炉内で漏電やアークの発生を防ぐため、第1変圧器203a(トランス)で電圧を減圧し、その分の大電流をコイル14aに流して、加熱炉を加熱する。そして、コイル14aでは、供給された出力電力<P1>に基づいて、坩堝12への誘導加熱が行われる。このようにして、加熱部25aによって、坩堝12が加熱される。制御部50は、第1インバータ202aのオン/オフを制御する。
【0046】
次に、加熱部25bは、第2AC/DCコンバータ201bと、第2インバータ202bと、第2変圧器203bと、コイル14bを備え、制御部50によって制御されるように構成されている。このように構成されている加熱部25bでは、まず、制御部50に目標出力電力<<P2>>とする信号が入力される。すると、制御部50は、第2AC/DCコンバータ201bに対して、第2インバータ202bへの入力電力PBを実現するための目標インバータ電圧<<Vi2>>を出力する。次に、第2AC/DCコンバータ201bでは、制御部50から入力した目標インバータ電圧<<Vi2>>に基づいて、第2商用電源200bからの交流電力を直流電力に変換する。これにより、第2AC/DCコンバータ201bから第2インバータ202bへの入力電力PBが出力される。続いて、第2インバータ202bでは、第2AC/DCコンバータ201bから出力された入力電力PBを入力して、出力電力<P2>を出力する。具体的には、第2AC/DCコンバータ201bで変換された直流電流を第2インバータ202bで高周波電流(例えば、10kHz)に変換する。そして、第2インバータ202bからの出力電圧は、第2変圧器203bで減圧された後、コイル14bに高周波電流(出力電力<P2>)が供給される。すなわち、加熱炉内で漏電やアークの発生を防ぐため、第2変圧器203b(トランス)で電圧を減圧し、その分の大電流をコイル14bに流して、加熱炉を加熱する。そして、コイル14bでは、供給された出力電力<P2>に基づいて、台座11への誘導加熱が行われる。このようにして、加熱部25bによって、台座11が加熱される。制御部50は、第2インバータ202bのオン/オフを制御する。
【0047】
上述したように、図1に示す単結晶製造装置100では、「溶液法」によって炭化珪素単結晶が製造される。
【0048】
本実施の形態において、制御部50は、坩堝12の表面と溶液20との接触面のうち、坩堝12の内側の底面の一部である第1箇所の坩堝12を、第1箇所とは異なる高さの他の箇所より優先的に溶融させる第1動作を行う。また、制御部50は、当該接触面のうち、坩堝12の内側の側面の一部である第2箇所の坩堝12を、第2箇所とは異なる高さの他の箇所より優先的に溶融させる第2動作を行う。制御部50は、単結晶の育成開始の前後で第1動作から第2動作へ切り替えを行う。単結晶の育成開始とは、制御部50が種結晶の取り付けられた結晶保持軸16を下方向に移動させることにより、種結晶の下面を溶液20に接触させた時点をいう。
【0049】
このように、制御部50は、先端部に種結晶が取り付けられた結晶保持軸16を下方向に移動させることにより、種結晶の下面を坩堝12に収容された溶液20の表面に接触させる第3動作を行う。これにより開始された単結晶の育成中は、制御部50は、結晶保持軸16を上方向に徐々に移動させることにより、種結晶の下面の下に単結晶を成長させる第4動作を行う。単結晶の育成を終了させる際には、制御部50は、結晶保持軸16を上方向にさらに移動させることにより、種結晶の下面を溶液20の表面から離間させる第5動作を行う。単結晶の育成に要する時間は、例えば24時間である。ここでは、単結晶の育成開始から終了までの時間(少なくとも10時間以上)、第2動作の状態を維持する。
【0050】
具体的には、種結晶の下面を溶液20に接触させる前の、溶液20の昇温の時点で第1動作を行うことで、坩堝12の内側の底面(第1箇所)に接する溶液20を優先的に加熱する。このとき、溶液20の最高温度点は、円形である当該底面の中央に接する箇所に位置する。また、種結晶の下面を溶液20に接触させた後、つまり単結晶の育成中に第2動作を行うことで、坩堝12の内側の側面(第2箇所)に接する溶液20を優先的に加熱する。これにより、溶液20の最高温度点は、当該側面と溶液20との接触面の上端に隣接する箇所に位置が変わる。
【0051】
第1動作および第2動作のそれぞれにおける坩堝12の溶融量の大小関係は、育成時間によって変わる。単結晶の成長初期は第1動作の溶融量が第2動作の溶融量より大きいが、育成を続けると逆転して、第2動作の溶融量が第1動作の溶融量より大きくなる。
【0052】
ここでは、第1動作から第2動作への切り替えを、種結晶の下面を溶液20に接触させる前に行う。
【0053】
第1動作から第2動作への切り替えは、種結晶を溶液20に接触させる前の溶液20の最高温度点の位置と、種結晶を溶液20に接触させた後の溶液20の最高温度点の位置とを変化させるものである。第2動作で加熱部25bに供給する電力に対する、第1動作で加熱部25aに供給する電力の比が小さくなるよう、加熱部25a、25bのそれぞれに供給する電力の調整を行う。その結果、加熱中の坩堝12内における溶液20の最高温度点を、坩堝12の表面に沿って移動する。これにより、第2動作で第2箇所(例えば側面の一部)における坩堝12の厚さの単位時間当たりの減少割合に対する、第1動作で第1箇所(例えば底面の一部)における坩堝12の厚さの単位時間当たりの減少割合の比は、単結晶の育成開始前に比べて育成開始後の方が小さくなる。
【0054】
図4を用いて制御部50の動作を説明すると、制御部50は、第1動作において、コイル14aに出力電力<P1>を出力し、コイル14bに出力電力<P2>を出力した後、第2動作において、コイル14aに出力電力<P3>(図示しない)を出力し、コイル14bに出力電力<P4>(図示しない)を出力する。このとき、出力電力<P2>は出力電力<P1>より大きく、出力電力<P3>は出力電力<P4>より大きい。すなわち、第1動作では加熱部25b(コイル14b)による加熱を優先的に行い、第2動作では加熱部25a(コイル14a)による加熱を優先的に行う。これにより、優先的に加熱される箇所が、第1動作での第1箇所から、第2動作での第2箇所へと変化する。
【0055】
なお、坩堝12は有底筒状体であり、加熱部25a、25bは平面視において坩堝12の周囲を一定の距離を保って囲んでいるのだから、坩堝12は平面視において周囲から均等に加熱される。その結果、第1箇所および第2箇所は、当該箇所が坩堝12の内側の底面の平面視における中央部である場合を除き、サークル状(環状)となっていることが考えられる。
【0056】
<本実施の形態の効果>
改善の検討で説明したように、溶液法による単結晶の育成においては、溶液中の高温領域が局所的かつ移動しない場合、坩堝の内壁が局所的に溶解されて坩堝に穴が開く場合がある。このことは坩堝の使用可能時間の短縮の原因となり、炭化珪素単結晶の製造コストの増大に繋がる。
【0057】
そこで、本実施の形態では、単結晶の育成開始前と育成開始後とで坩堝12内における溶液20の最高温度点を、坩堝12の表面に沿って移動させるよう、単結晶の育成開始前に加熱部25a、25bの出力を切り替えている。これによる温度分布の変化を、図5および図6を用いて説明する。
【0058】
図5は、第1動作によって実現される溶液20の温度分布をシミュレーションした結果を示す図である。図6は、第2動作によって実現される溶液20の温度分布をシミュレーションした結果を示す図である。なお、シミュレーションには、「CGSim|STR Japan 株式会社<結晶成長解析シミュレーションソフトウェア>(str-soft.co.jp)」というソフトウェアを使用した。
【0059】
図5において、坩堝12の内側の底面と接する溶液20の温度(K)を坩堝12の内側の側面と接する溶液20の温度(K)よりも高くする温度分布が実現されていることが分かる。このとき、坩堝12の内側の底面(特に、平面視における中央部)と接する溶液20の温度は高いため、溶液20と坩堝12との接触面のうち、坩堝12の内側の底面が、坩堝12の他の箇所に比べて優先的に溶融される。
【0060】
一方、図6において、坩堝12の内側の側面と接する溶液20の温度(K)を坩堝12の内側の底面と接する溶液20の温度(K)よりも高くする温度分布が実現されていることが分かる。このとき、坩堝12の内側の側面と接する溶液20の温度は高いため、溶液20と坩堝12との接触面のうち、坩堝12の内側の側面が、坩堝12の他の箇所に比べて優先的に溶融される。
【0061】
すなわち、加熱中の坩堝12内における溶液20の最高温度点を一か所に留めるのではなく、坩堝12の表面に沿って移動させることで、坩堝12と溶液20との接触面における坩堝12の局所的な溶解を抑制できる。
【0062】
その結果、より長時間の単結晶の育成が可能となる。昇温中(育成開始前)と育成中で坩堝の内壁の最高温度点を異なる位置とすることで、坩堝の内壁の局所的な溶解を低減することができ、長時間の単結晶の育成が可能となる。たとえば、溶液の昇温中は坩堝の底面が高温となるような条件で坩堝の内側の底面を溶解させ、単結晶の育成中は坩堝の側面が高温となる条件で坩堝の内側の側面を溶解させる。これにより、昇温中および育成中共に、高温となる領域が昇温中も育成中も一定である場合と比較して、坩堝の表面をより均一に溶解させられる。よって、坩堝に貫通穴が開くまでの時間が長期化し、長時間の結晶育成が可能となる。理想的には、坩堝12と溶液20との接触面における坩堝12の表面をまんべんなく溶解させられる。
【0063】
ここでは、単結晶の育成開始前に坩堝12の底面側を加熱し、単結晶の育成開始後に坩堝12の側面側を加熱することについて説明したが、この順序は逆でもよい。すなわち、種結晶の下面を溶液20に接触させる前の、溶液20の昇温の時点で第1動作を行うことで、坩堝12の内側の側面(第1箇所)に接する溶液20を優先的に加熱する。このとき、溶液20の最高温度点は、当該側面と溶液20との接触面の上端に隣接する箇所に位置する。また、種結晶の下面を溶液20に接触させた後、つまり単結晶の育成中に第2動作を行うことで、坩堝12の内側の底面(第2箇所)に接する溶液20を優先的に加熱する。これにより、溶液20の最高温度点は、円形である当該底面の中央に接する箇所に位置が変わる。この第2動作では、加熱部25bによって台座11が過熱される。この場合、溶液20の温度分布は、図6および図5の順に移行する。
【0064】
<変形例1>
図1を用いた上記実施の形態では、コイルを上下で2つ用意し、それら2つのコイルの出力をそれぞれ変更することについて説明したが、1つのコイルのみを用い、当該コイルを上下方向に移動させることで、溶液の温度分布を変えてもよい。
【0065】
図7に、本変形例における単結晶製造装置の構成を示す。図7に示す単結晶製造装置101は、図1の単結晶製造装置100に比べ、加熱部25cが1つのコイル14cのみからなる点で異なり、その他の構造は同様である。
【0066】
加熱部25c(コイル14c)は、制御部50により、上下方向の移動が制御可能である。つまり、制御部50は、坩堝12に対する加熱部25cの相対的な高さを制御(調整、変更)可能である。
【0067】
本変形例ではまず、図7に示すように、制御部50は、先端部に種結晶30が取り付けられた結晶保持軸16を下降させて種結晶30を溶液20の表面に接触させる前に、坩堝12の第1箇所と接する溶液20の温度を坩堝12の第2箇所と接する溶液20の温度よりも高くするように、加熱部25cの坩堝12に対する相対的な高さを調整する第1動作を行う。このとき、種結晶30と溶液20とは互いに離間している。ここで、第1箇所および第2箇所は坩堝12と溶液20との接触面に存在し、互いに高さが異なる箇所である。ここでは、坩堝12の外側に配置された加熱部25cを用いて坩堝12を加熱することで、第1箇所に接する溶液20の温度を高め、これにより第1箇所の坩堝12を、第1箇所とは異なる高さの他の箇所(第2箇所を含む)より優先的に溶融させる。
【0068】
次に、図8および図9に示すように、制御部50は、坩堝12の第2箇所と接する溶液20の温度を坩堝12の第1箇所と接する溶液20の温度よりも高くするように、加熱部25cの坩堝12に対する相対的な高さを調整する第2動作を行う。すなわち、加熱部25cを上下方向(ここでは上方向)に移動させる。これにより、坩堝12を加熱する箇所を切り替える。ここでは、高さを変更した加熱部25cを用いて坩堝12を加熱することで、第2箇所に接する溶液20の温度を高め、これにより第2箇所の坩堝12を、第2箇所とは異なる高さの他の箇所(第1箇所を含む)より優先的に溶融させる。
【0069】
次に、制御部50は結晶保持軸16を下方向に移動させることにより、種結晶30の下面を溶液20に接触させる。これにより、単結晶の育成を開始する。その後、単結晶の育成が終了するまでは、第2動作で加熱する位置(第2箇所)を維持する。つまり、単結晶の育成中において、再び第1動作で加熱する位置(第1箇所)へ加熱部25cを移動させることはない。
【0070】
このように、1つのコイルのみを用いて、単結晶の育成開始の前後で坩堝の溶解箇所(量)を制御してもよい。本変形例では、坩堝の内側の底面の中央が最高温度点にはならないが、坩堝の側面の下方から上方へ溶出箇所を移せる。
【0071】
ここでは、単結晶の育成開始前に坩堝12の底面側を加熱し、単結晶の育成開始後に坩堝12の側面側を加熱することについて説明したが、この順序は逆でもよい。つまり、第1箇所と第2箇所はどちらが高い位置にあってもよく、第1動作から第2動作への切り替え時に加熱部25cが動く方向は上下のどちらでもよい。また、2つ以上のコイル14cを例えば上下方向に並べて配置し、それらを制御することで第2箇所を移動させてもよい。
【0072】
<変形例2>
図1に示す単結晶製造装置100では、台座11を加熱する加熱部25bは、コイル14bに高周波電流を流すことによって生じる誘導加熱現象を利用する例を示しているが、台座11を加熱する加熱部25bは、これに限らず、例えば、台座11の下方に設けられた抵抗加熱ヒータから構成されていてもよい。
【0073】
ただし、加熱部25bを抵抗加熱ヒータから構成する場合、抵抗加熱ヒータを通電するために使用される一対の配線を引き回すため、断熱材に「孔」を設ける必要がある。特に、坩堝12自体を回転させる構成の場合、一対の配線を引き回すため、断熱材には、円周状の開口部を設ける必要がある。この結果、坩堝12の高温保持特性を確保することが難しくなるおそれがある。したがって、断熱材の断熱効果を高める観点および単結晶製造装置100の構成を簡略化する観点からは、台座11を加熱する加熱部25bは、図1に示すような誘導加熱現象を利用した誘導加熱ヒータから構成することが望ましい。
【0074】
(実施の形態2)
上記実施の形態1では、単結晶の育成開始の前後で加熱する位置を切り替えることについて説明したが、単結晶の育成開始後に、加熱する位置を連続的に移動させてもよい。そのような実施の形態について、以下に図10および図11を用いて説明する。
【0075】
図10に示すように、本実施の形態の単結晶製造装置102の構成は、図1を用いて説明した単結晶製造装置100と同様である。
【0076】
<制御部による動作>
単結晶製造装置102では、「溶液法」によって炭化珪素単結晶が製造される。
【0077】
本実施の形態において、まず、加熱部25a若しくは25bまたはその両方に電力を供給することで、坩堝12および坩堝12に収容されている溶液20を昇温する。このとき、坩堝12と接する溶液20の最高温度点は、坩堝12と溶液20との接触面の一部である第1箇所(例えば坩堝12の内側の底面)と接する箇所に位置する。このようにして昇温を行った状態で、制御部50は、先端部に種結晶が取り付けられた結晶保持軸16を下方向に移動させることにより、種結晶の下面を坩堝12に収容された溶液20の表面に接触させる第1動作を行う。
【0078】
次に、種結晶の下面が溶液20に接触している状態で、坩堝12と接する溶液20の最高温度点を、第1箇所から第2箇所(例えば坩堝12の内側の側面)へ連続的に移動させる第2動作を行う。制御部50は、第2動作において、加熱部25bに供給する電力に対する、加熱部25aに供給する電力の比が徐々に大きくなるよう、加熱部25a、25bに供給する電力を連続的に調整する。つまり、加熱部25bとは異なる高さに配置された加熱部25aに供給する電力を徐々に高めて坩堝12を加熱する。これにより、坩堝12と接する溶液20の最高温度点を、第1箇所と接する位置から第2箇所と接する位置へ連続的に移動させる。この第2動作は、単結晶を成長させる工程中に行う。
【0079】
次に、制御部50は、結晶保持軸16を上方向に移動させることにより、成長させた単結晶を溶液20から離間させる第3動作を行う。単結晶の育成中に、溶液20の最高温度点を第2箇所に接する位置に対し第1箇所側に連続的に移動するよう、加熱部25a、25bに供給する電力を調整してもよい。
【0080】
単結晶の育成に要する時間は、例えば24時間である。ここでは、溶液20の最高温度点を、第1箇所と接する位置から第2箇所と接する位置へ、例えば10時間以上かけて連続的に移動させる。
【0081】
ここでは、種結晶の下面を溶液20に接触させた後、溶液20を優先的に加熱する箇所を、坩堝12の内側の底面(第1箇所)に接する位置から、坩堝12の内側の側面(第2箇所)に接する位置へ徐々に移動させる。これにより、坩堝12が優先的に溶解する箇所を、坩堝12の内側の底面(第1箇所)から、坩堝12の内側の側面(第2箇所)へ徐々に移動させる。第2動作では、第2箇所(例えば側面の一部)における坩堝12の厚さの単位時間当たりの減少割合に対する、第1箇所(例えば底面の一部)における坩堝12の厚さの単位時間当たりの減少割合の比が、徐々に小さくなる。
【0082】
<本実施の形態の効果>
本実施の形態では、図7図11および図9の順に溶液20の温度分布が変化する。図11は、図7図9と同様に、溶液20の温度分布をシミュレーションした結果を示す図であり、図7から図9への移行途中の温度分布を示すものである。図7図11および図9に示すように、溶液20の最高温度点は、坩堝12と溶液20との接触面のうち、坩堝12の内側の底面の中央部(第1箇所)から、当該接触面に沿って移動し、坩堝12の内側の側面(第2箇所)へと移る。
【0083】
このようにして、加熱中の坩堝12内における溶液20の最高温度点を一か所に留めるのではなく、坩堝12と溶液20との接触面に沿って連側的に移動させることにより、坩堝12と溶液20との接触面における坩堝12の表面をまんべんなく溶解させられる。
【0084】
その結果、より長時間の単結晶の育成が可能となる。坩堝の内壁の最高温度点を徐々に変更することで、坩堝の内壁の局所的な溶解を低減することができ、長時間の単結晶の育成が可能となる。これにより、昇温中および育成中共に、高温となる領域が昇温中も育成中も一定である場合と比較して、坩堝の表面をより均一に溶解させられる。よって、坩堝に貫通穴が開くまでの時間が長期化し、長時間の結晶育成が可能となる。
【0085】
<変形例3>
図1を用いた上記実施の形態では、コイルを上下で2つ用意し、それら2つのコイルの出力をそれぞれ変更することについて説明したが、1つのコイルのみを用い、当該コイルを上下方向に移動させることで、溶液の温度分布を変えてもよい。
【0086】
以下に、図12図13および図14を用いて、本変形例における単結晶製造装置の構成を示す。本変形例における単結晶製造装置103の構成は、実施の形態1の変形例1で説明したものとほぼ同様である。ただし、実施の形態1の変形例1では単結晶の育成の開始の前に加熱する箇所を変更したのに対し、本変形例では、単結晶の育成の開始後に、長時間をかけて徐々に加熱する箇所を移動させる。
【0087】
加熱部25c(コイル14c)は、制御部50により、上下方向の移動が制御可能である。つまり、制御部50は、坩堝12に対する加熱部25cの相対的な高さを制御(調整、変更)可能である。
【0088】
本変形例ではまず、図12に示すように、制御部50は、坩堝12の第1箇所と接する溶液20の温度を坩堝12の第2箇所と接する溶液20の温度よりも高くするように、加熱部25cの坩堝12に対する相対的な高さを調整する。つまり、ここでは比較的低い位置に加熱部25cを配置して坩堝12の加熱を行う。坩堝12の外側に配置された加熱部25cを用いて坩堝12を加熱することで、第1箇所に接する溶液20の温度を高め、これにより第1箇所の坩堝12を、第1箇所とは異なる高さの他の箇所(第2箇所を含む)より優先的に溶融させる。このようにして昇温を行った状態で、制御部50は、先端部に種結晶30が取り付けられた結晶保持軸16を下方向に移動させることにより、種結晶30の下面を坩堝12に収容された溶液20の表面に接触させる第1動作を行う。これにより、単結晶の育成を開始する。
【0089】
次に、図13および図14に示すように、制御部50は、坩堝12の第2箇所と接する溶液20の温度を坩堝12の第1箇所と接する溶液20の温度よりも高くするように、加熱部25cの坩堝12に対する相対的な高さを連続的に調整する第2動作を行う。溶液20の温度分布は、図13図14の順に変化する。すなわち、加熱部25cを上下方向(ここでは上方向)に徐々に移動させる。これにより、坩堝12を加熱する箇所を移動させる。ここでは、加熱部25cの高さを変えながら坩堝12を加熱することで、第2箇所に接する溶液20の温度を高めている。これにより、坩堝12が優先的に溶融される箇所を、第1箇所から第2箇所へと移動させる。その後、溶液20の最高温度点が第2箇所に接する位置である状態を維持したまま、単結晶を溶液20から離間させることで育成を完了させる。
【0090】
このように、1つのコイルのみを用いて、単結晶の育成中の坩堝の溶解箇所(量)を制御してもよい。本変形例では、坩堝の内側の底面の中央が最高温度点にはならないが、坩堝の側面の下方から上方へ溶出箇所を移せる。
【0091】
ここでは、単結晶の育成開始前に坩堝12の底面側を加熱し、単結晶の育成開始後に坩堝12の側面側を加熱することについて説明したが、この順序は逆でもよい。つまり、第1箇所と第2箇所はどちらが高い位置にあってもよく、第2動作において加熱部25cが動く方向は上下のどちらでもよい。
【0092】
<変形例4>
実施の形態1の変形例2は、本実施の形態にも適用可能である。つまり、図10に示す単結晶製造装置102では、台座11を加熱する加熱部25bが、コイル14bに高周波電流を流すことによって生じる誘導加熱現象を利用する例を示しているが、台座11を加熱する加熱部25bは、これに限らず、例えば、台座11の下方に設けられた抵抗加熱ヒータから構成されていてもよい。
【0093】
以上、本発明者らによってなされた発明をその実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0094】
10 容器
11 台座
12 坩堝
12a 伝熱部
13a、13b、13c 断熱部材
14a、14b、14c コイル
15 坩堝用蓋
15a 筒状部材
15b 接続部材
16 結晶保持軸
16a フィン構造体
17 熱電対
18 坩堝保持軸
20 溶液
25a、25b、25c 加熱部
30 種結晶
40 炭化珪素単結晶
50 制御部
100、101、102、103 単結晶製造装置
201a 第1AC/DCコンバータ
201b 第2AC/DCコンバータ
202a 第1インバータ
202b 第2インバータ
203a 第1変圧器
203b 第2変圧器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14