(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024163828
(43)【公開日】2024-11-22
(54)【発明の名称】フォトニック結晶窒化ガリウム発光素子の製造方法、及び照明装置
(51)【国際特許分類】
H01L 33/32 20100101AFI20241115BHJP
H01L 33/22 20100101ALI20241115BHJP
F21V 9/35 20180101ALI20241115BHJP
【FI】
H01L33/32
H01L33/22
F21V9/35
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023112958
(22)【出願日】2023-07-10
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-07-11
(31)【優先権主張番号】P 2023079463
(32)【優先日】2023-05-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】500221563
【氏名又は名称】ナイトライド・セミコンダクター株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000004112
【氏名又は名称】株式会社ニコン
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村本 宜彦
(72)【発明者】
【氏名】西根 達郎
【テーマコード(参考)】
5F241
【Fターム(参考)】
5F241AA06
5F241CA04
5F241CA05
5F241CA14
5F241CA22
5F241CA40
5F241CA65
5F241CA74
5F241CA75
5F241CA76
5F241CA88
5F241CB15
5F241CB36
5F241FF11
(57)【要約】
【課題】発光素子を構成するGaN層に対してフォトニック結晶を効率的に形成することで、フォトニック結晶GaN発光素子を得る。
【解決手段】本方法は、サファイア基板10上に順次、n型GaN層12、MQW層14、p型GaN層16をエピタキシャル成長させてエピタキシャル構造を形成するステップと、p型GaN層16上にp型電極、金属基板及び支持基板を形成するステップと、エピタキシャル構造の上下を反転させるステップと、サファイア基板10を剥離してn型GaN層12を表面に露出させるステップと、表面に露出したn型GaN層12の表面に、電子ビーム描画及び誘導結合プラズマ反応性イオンエッチングを用いてフォトニック結晶を形成するステップと、n電極24を形成するステップを備える。
【選択図】
図1J
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サファイア基板上に順次、n型窒化ガリウム層、多重量子井戸層、p型窒化ガリウム層をエピタキシャル成長させてエピタキシャル構造を形成するステップと、
前記p型窒化ガリウム層上にp型電極を形成するステップと、
前記p型電極上に金属基板及び支持基板を形成するステップと、
前記支持基板が下に、前記サファイア基板が上になるように前記エピタキシャル構造の上下を反転させるステップと、
前記反転のステップにより最上部に位置する前記サファイア基板を剥離して前記n型窒化ガリウム層を表面に露出させるステップと、
表面に露出した前記n型窒化ガリウム層をエッチングして膜厚を調整するステップと、
エッチングされた前記n型窒化ガリウム層の表面に、電子ビーム描画及び誘導結合プラズマ反応性イオンエッチングを用いてフォトニック結晶を形成するステップと、
前記n型窒化ガリウム層上にn型電極を形成するステップと、
前記支持基板を剥離するステップと、
を備える、フォトニック結晶窒化ガリウム発光素子の製造方法。
【請求項2】
前記フォトニック結晶を形成するステップは、
前記n型窒化ガリウム層の表面に疎水化処理を行うステップと、
前記n型窒化ガリウム層の表面にレジストを塗布するステップと、
電子ビームを前記レジストに照射して描画するステップと、
誘導結合プラズマ反応性イオンエッチングにより塩素ガスで前記レジストを除去するステップと、
を備える、請求項1に記載のフォトニック結晶窒化ガリウム発光素子の製造方法。
【請求項3】
前記サファイア基板上に前記n型窒化ガリウム層を成長させる前に、前記サファイア基板上に、順次バッファ層、アンドープ窒化ガリウム層を成長させるステップ
を備える、請求項1に記載のフォトニック結晶窒化ガリウム発光素子の製造方法。
【請求項4】
前記フォトニック結晶窒化ガリウム発光素子の発光波長は、380nm~390nmである、請求項1~3のいずれかに記載のフォトニック結晶窒化ガリウム発光素子の製造方法。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか一項に記載の製造方法で製造されたフォトニック結晶窒化ガリウム発光素子と、
前記フォトニック結晶窒化ガリウム発光素子からの光を対象物に照射する照射光学系と、
を備える照明装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトニック結晶窒化ガリウム発光素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化ガリウム(GaN)を用いた発光素子(LED)チップから出た光の指向角を狭める場合、LEDデバイスにレンズを搭載して集光し、指向角を絞ることが検討されている。
【0003】
しかし、レンズの場合、指向性を少しでも変更する場合には金型を変える必要があり、コストが増大してしまう。また紫外線や深紫外線の場合、レンズの吸収を考慮して石英レンズが用いられることから、レンズも高額となってしまう。
【0004】
そこで、LEDデバイスにレンズを搭載せずに集光して指向性を狭める方法として、LEDチップ表面へ数100nmオーダのホールを数100nmピッチでフォトニック結晶を形成することが検討されている。
【0005】
特許文献1には、窒化ガリウム系フォトニック結晶及びその製造方法に関する発明が記載されている。すなわち、エピタキシャル成長において広い領域で転位密度が低減され結晶性が良好な窒化物半導体を得て、高性能の窒化ガリウム系半導体素子、窒化ガリウム系半導体基板、窒化ガリウム系フォトニック結晶を高い歩留まりで提供することを課題として、基板上に窒化ガリウム系半導体層を形成する工程と、当該窒化ガリウム系半導体層に複数のトレンチを配列して形成する工程と、窒素を含む雰囲気中で熱処理を行い、前記複数のトレンチのうち少なくとも2つ以上の互いに隣接するトレンチを変形させ、変形させた当該トレンチの位置に対応して前記窒化ガリウム系半導体層の内部に連続した空洞を形成し、当該空洞を有する前記窒化ガリウム系半導体層の上に窒化ガリウム系半導体の素子を形成する工程を具備することが記載されている。
【0006】
また、特許文献2には、長期に亘って劣化しにくく、エネルギー効率及び発光効率の高いフォトニック結晶発光ダイオードを提供することを課題として、第1半導体層、活性層、第2半導体層の3層がこの順に積層され、第1電極が第1半導体層に、第2電極が第2半導体層に、それぞれ電気的に接続された構造を有する発光ダイオードにおいて、3層のうち少なくとも第1半導体層と活性層を貫通する空孔が、フォトニック結晶構造を形成するように2次元周期的に配置されると共に、第1電極が、第1半導体層の、空孔と空孔を囲う第1非電流注入領域とを除いた領域を覆っているフォトニック結晶発光ダイオードが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004-111766号公報
【特許文献2】特開2011-54828号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、LED等の発光素子を窒化ガリウム(GaN)で構成する場合において、GaN層へのフォトニック結晶を形成する技術は未だ確立されていない。
【0009】
本発明の目的は、発光素子を構成するGaN層に対してフォトニック結晶を効率的に形成することで、フォトニック結晶GaN発光素子を得る方法、及び照明装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、サファイア基板上に順次、n型窒化ガリウム層、多重量子井戸層、p型窒化ガリウム層をエピタキシャル成長させてエピタキシャル構造を形成するステップと、前記p型窒化ガリウム層上にp型電極を形成するステップと、前記p型電極上に金属基板及び支持基板を形成するステップと、前記支持基板が下に、前記サファイア基板が上になるように前記エピタキシャル構造の上下を反転させるステップと、前記反転のステップにより最上部に位置する前記サファイア基板を剥離して前記n型窒化ガリウム層を表面に露出させるステップと、表面に露出した前記n型窒化ガリウム層をエッチングして膜厚を調整するステップと、エッチングされた前記n型窒化ガリウム層の表面に、電子ビーム描画及び誘導結合プラズマ反応性イオンエッチングを用いてフォトニック結晶を形成するステップと、前記n型窒化ガリウム層上にn型電極を形成するステップと、前記支持基板を剥離するステップと、を備える、フォトニック結晶窒化ガリウム発光素子の製造方法である。
【0011】
本発明の1つの実施形態では、前記フォトニック結晶を形成するステップは、前記n型窒化ガリウム層の表面に疎水化処理を行うステップと、前記n型窒化ガリウム層の表面にレジストを塗布するステップと、電子ビームを前記レジストに照射して描画するステップと、誘導結合プラズマ反応性イオンエッチングにより塩素ガスで前記レジストを除去するステップと、を備える。
【0012】
本発明の他の実施形態では、前記サファイア基板上に前記n型窒化ガリウム層を成長させる前に、前記サファイア基板上に、順次バッファ層、アンドープ窒化ガリウム層を成長させるステップを備える。
【0013】
本発明のさらに他の実施形態では、前記フォトニック結晶窒化ガリウム発光素子の発光波長は、380nm~390nmである。
【0014】
また、本発明は、上記の製造方法で製造されたフォトニック結晶窒化ガリウム発光素子と、前記フォトニック結晶窒化ガリウム発光素子からの光を対象物に照射する照射光学系とを備える照明装置である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、窒化ガリウム(GaN)発光素子を構成するGaN層にフォトニック結晶を確実に形成することができる。これにより、発光素子から射出する光の指向性を狭めることができる。また、窒化ガリウム発光素子の発光効率を増大させ得る。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1A】実施形態の製造方法を示す模式的断面図(その1)である。
【
図1B】実施形態の製造方法を示す模式的断面図(その2)である。
【
図1C】実施形態の製造方法を示す模式的断面図(その3)である。
【
図1D】実施形態の製造方法を示す模式的断面図(その4)である。
【
図1E】実施形態の製造方法を示す模式的断面図(その5)である。
【
図1F】実施形態の製造方法を示す模式的断面図(その6)である。
【
図1G】実施形態の製造方法を示す模式的断面図(その7)である。
【
図1H】実施形態の製造方法を示す模式的断面図(その8)である。
【
図1I】実施形態の製造方法を示す模式的断面図(その9)である。
【
図1J】実施形態の製造方法を示す模式的断面図(その10)である。
【
図2】実施形態の照明装置及び露光装置の構成を示す図である。
【
図4】実施形態の電子ビーム描画後のSEM画像である。
【
図5】実施形態の誘導結合プラズマ反応性イオンエッチングによるエッチング後のSEM画像であり、(a)はホール内側の径のSEM画像であり、(b)はホール外側の径のSEM画像である。
【
図9】リファレンスチップのプローブ測定結果を示す図である。
【
図10】実施形態のLEDチップ(PhC形成チップ)のプローブ測定結果を示す図である。
【
図11】リファレンスとPhC形成チップの積分球測定結果を示す図である。
【
図12】リファレンスとPhC形成チップの発光スペクトル図である。
【
図13】リファレンスとPhC形成チップのI-V特性図である。
【
図14】リファレンスとPhC形成チップのI-L特性図である。
【
図15】リファレンスの指向特性測定結果を示す図である。
【
図16】PhC形成チップの指向特性測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面に基づき本発明の実施形態について説明する。
【0018】
本実施形態の基本原理は、GaN発光素子を構成するGaN層にフォトニック結晶を形成する際に、電子ビーム(EB)描画し、誘導結合プラズマ反応性イオンエッチングしたGaN層のエッチングレートが基板、GaN層の構造や結晶性の違いにより大きく異なることを考慮し、Si基板等にGaN層を成長させるのではなく、サファイア基板上にGaN層を成長させ、このようにして成長させたGaN層を対象として電子ビーム(EB)描画及び誘導結合プラズマ反応性イオンエッチングによりフォトニック結晶を形成させるものである。
【0019】
本願発明者等は、Si基板上に成長させたGaN層に比べ、サファイア基板上に成長させたGaN層の方が、電子ビーム(EB)描画及び誘導結合プラズマ反応性イオンエッチングによるエッチングレートが顕著に大きく、極めて効率的にGaN層の表面に所望間隔及び所望の径でホールを形成し、フォトニック結晶を形成できることを見出した。
【0020】
図1A~
図1Jは、本実施形態におけるフォトニック結晶GaN発光素子(LED)を製造する方法を模式的に示す断面図である。
【0021】
図1Aに示すように、有機金属気相成長(MOCVD)装置を用いてサファイア基板10上に低温バッファ層(不図示)及びアンドープGaN(u-GaN)層(不図示)を積層し、その上にn-GaN層(n型GaN層)12、多重量子井戸(MQW)層14、及びp-GaN層(P型GaN層)16を順次積層して、385nm(380~390nm)で発光するエピタキシャル構造を成長させる。
【0022】
ここで、n-GaN層12は、より詳細には(AlInGaN)/(InGaN;Si)n―SLS(超格子構造)層及び(GaN;Si)コンタクト層から構成される。ここで、例えば(GaN;Si)は、SiがドープされたGaNであることを示す。
【0023】
また、多重量子井戸(MQW)層14は、(InGaN/AlGaN)のMQW層から構成される。
【0024】
また、p-GaN層16は、より詳細にはp-GaN(GaN;Mg)コンタクト層及び(AlGaN;Mg/GaN;Mg)p-SLS(超格子構造)層から構成される。
【0025】
本実施形態における「GaN層」は、必ずしもGaNの組成の単層を意味するものではなく、GaNを含むAlInGaN、InGaN、AlGaN等の組成の単層あるいは複数層を意味するものである。要するに、GaNを主成分とする単層あるいは複数層を意味する。
【0026】
なお、本実施形態のエピタキシャル層の発光波長は385nmであるが、それより長い波長とする場合、基本的なエピタキシャル構造は同じであるが、バンドギャップエネルギの関係から385nmの方がそれより長い波長に比べて(InGaN/AlInGaN)MQW発光層14のAl含有量を多く、In含有量を少なくする。
【0027】
次に、
図1Bに示すように、385nmで発光するエピタキシャル構造層の上にp-電極(p型電極:ITO等)及び金属反射膜(Ag等)を蒸着する。
図1Bでは、p-電極と金属反射膜をまとめてp-電極及び反射膜18として示す。
【0028】
次に、
図1Cに示すように、p-電極及び金属反射膜18の上に金属基板(CuW、CuMo等)20をボンディングする。
【0029】
次に、
図1Dに示すように、金属基板20の上に支持基板(サファイア、Si基板等)22をボンディングする。
図1Dに示す積層構造は、下から順に、
サファイア基板10/n―GaN層12/MQW層14/p-GaN層16/p-電極及び反射膜18/金属基板20/支持基板22
である。
【0030】
次に、
図1Eに示すように、
図1Dのエピタキシャル構造を上下に180°反転させ、
サファイア基板10が最上部に位置するように配置して、サファイア基板10をレーザで剥がし(リフトオフ)、n-GaN層12を表面に露出させる。すなわち、
図1Dのエピタキシャル構造を上下に180°反転させた積層構造は、下から順に、
支持基板22/金属基板20/p-電極及び反射膜18/p-GaN層16/MQW層14/n-GaN層12/サファイア基板10
であり、このうち一番上のサファイア基板10(及びバッファ層)を剥がす(リフトオフ)ことでn-GaN層12を一番上の表面に露出させる。
【0031】
次に、
図1Fに示すように、表面のn-GaN層12のエッチングを行う。具体的には、エピタキシャル構造の合計膜厚が1050umになるようにドライエッチングにて調整する。なお、エピタキシャル構造の合計膜厚はこれに限定されるものではなく、発光波長により最適化され得る。
【0032】
次に、
図1Gの一点鎖線領域で示すように、ドライエッチングで膜厚調整されたn-GaN層12の表面にフォトニック結晶(PhC)を形成する。これについては、さらに後述する。
【0033】
次に、
図1Hに示すように、n-GaN層12の表面から金属基板20に達するまでトレンチを形成してエピタキシャル構造を分離する。
【0034】
次に、
図1Iに示すように、分離したそれぞれの領域のn-GaN層12の上にn-電極(n型電極)24を形成する。
【0035】
最後に、
図1Jに示すように、支持基板22を剥がし、ダイシングしてLEDチップ(Vチップ構造LEDチップ:電極を垂直構造で配置した垂直型LEDチップ)が製造される。
【0036】
ここで、
図1Gに示されるフォトニック結晶の製造方法について、より詳細に説明する。
【0037】
フォトニック結晶(PhC)は、電子ビーム(EB)描画によりレジストにパターンを現像し、その後、誘導結合プラズマ反応性イオンエッチングによりエッチングすることで形成される。従って、フォトニック結晶を形成するに先立って、EB描画条件と誘導結合プラズマ反応性イオンエッチングによるエッチング条件を設定する必要がある。
【0038】
<エッチング条件>
Si基板やサファイア基板等に積層される基板の違い、GaNの構造や結晶性の違いによりエッチングレートが異なり得る。
【0039】
そこで、サファイア基板上に成長させた発光波長385nmのGaNウェハをリンス洗浄後、120℃で2分乾燥させた。その後、GaNウェハ表面を疎水性にするための処理(HMDS処理)を行い、スピンコータでUVレジストを950nm塗布し、その後、90℃で90secプリベークを行った。
【0040】
次に、高速マスクレス露光装置で100um×100umのパターンを150mJ/cm2で形成し、ポストベークを110℃×90sec行い、現像した。
【0041】
UVレジストを形成したGaNウェハを用い、誘導結合プラズマ反応性イオンエッチング装置にて塩素ガス(30sccm)で10minエッチングを行った。UV触針式段差計で深さを計測した結果、深さ789.05nmが確認された。エッチングレートは78.9nm/minであった。
【0042】
他方で、Si基板上に成長させた発光波長385nmのGaNウェハを用い、同様の方法でエッチングレートを確認した結果、エッチングレートは16nm/minであった。すなわち、
サファイア基板上に成長したGaN層:エッチングレート=78.9nm/min
Si基板上に成長したGaN層:エッチングレート=16nm/min
であり、Si基板を用いたGaN層ではフォトニック結晶を形成することは相対的に困難であるが、サファイア基板上に成長させたGaN層、つまり、本実施形態のように、まずサファイア基板10上にGaN層を成長させ、その後上下を反転させてサファイア基板10を取り除き、金属基板20上のGaN層を処理対象として誘導結合プラズマ反応性イオンエッチングによりエッチングすることで、顕著に高いエッチングレートで効率的にGaN層にフォトニック結晶が形成され得ることが確認された。
【0043】
次に、
図2及び
図3を参照して、上記の実施形態に示した製造方法にて製造されたGaN発光素子を備える照明装置並びに照明装置を備えた露光装置について説明する。
【0044】
図2は、上述の実施形態にかかる製造方法で製造されたGaN発光素子を光源とした照明装置IUを備えた露光装置の構成を概略的に示す図である。
図3(A)は、照明装置IUに露光光を供給する光源ユニット120の構成を概略的に示す平面図であり、
図3(B)は光源ユニット120及び出力光学系130の内部構成を概略的に示す図である。
【0045】
図2において、照明装置IUは、出力光学系130を介した光源ユニット120からの露光光を集光する第1集光光学系140と、第1集光光学系140からの露光光が入射するフライアイレンズFELと、フライアイレンズFELからの露光光を集光して被照射面としてのレチクルREIを照明する第2集光光学系160とを備える。
【0046】
また、露光装置は、照明装置IUと、照明装置IUによって照明されたレチクル上パターン像を被露光基板としてのウェハに形成する投影光学系POとを備えている。
【0047】
次に、
図3を参照して、光源ユニット120及び出力光学系130について説明する。
【0048】
図3(A)において、光源ユニット120は、例えば基板121上に配列された複数(
図3(A)では、5×5)のLED(Light Emitting Diode)チップ123を備える。これらのLEDチップは、上述した実施形態の製造方法で製造されたGaN発光素子である。なお、LEDチップ123の個数は必要に応じて適宜変更してもよい。複数のLEDチップ123のそれぞれは、発光部231を有し、この発光部231から射出される光のピーク波長は380~390nmの範囲内にある。すなわち、発光部231は、紫外線LED(UVLED)である。発光部231から射出され光のピーク波長は385nmであることがより好ましい。発光部231の発光面は正方形であってもよく、長方形や六角形等の多角形であってもよい。なお、LEDチップ123は、基板上ではなく、例えばヒートシンク上に配列されていてもよい。
【0049】
図3(B)を参照して、光源ユニット120及び出力光学系130の構成について説明する。
図3(B)において、LEDチップ123が配列された2方向を、X方向及びY方向とする。X方向とY方向とは直交している。また、X方向及びY方向に直交する方向をZ方向とする。Z方向は、発光部231から射出される光の進行方向とほぼ一致している。なお、
図3(B)では、図面の明瞭化のために、Y方向に沿って一列に並んだ4つのLEDチップ123だけを示している。
【0050】
図3(B)に示すように、出力光学系130は、各LEDチップ123の発光部231の拡大像をそれぞれ形成するための複数の拡大光学系を備えている。それぞれの拡大光学系は、LEDチップ123の配列と対応するように配列されており、発光部231を、拡大倍率のもとで拡大投影する両側テレセントリックな光学系である。なお、
図3(b)では、出力光学系130の各拡大光学系を2枚の正レンズで図示しているが、拡大光学系を構成するレンズ枚数は2枚に限定されない。また、拡大光学系を反射系又は反射屈折系で構成してもよい。そして、出力光学系130は、拡大光学系に代えて、或いは加えて、等倍光学系、縮小光学系を備えていてもよい。
【0051】
図2及び
図3に示す実施形態では、出力光学系130の各拡大光学系は、出力光学系130の最終光学部材の近傍に、発光部231の拡大像を形成する。これにより、出力光学系130の最終光学部材の近傍には、密に配列された複数の光源像が位置する。
【0052】
図2に戻って、照明装置IUの各構成要件について説明する。
【0053】
第1集光光学系140は、光源ユニット120及び出力光学系130によって形成される光源像の位置またはその近傍に前側焦点が位置するように配置され、フライアイレンズFELの入射面をケーラー照明する。
【0054】
フライアイレンズFELは、たとえば正の屈折力を有する複数のレンズエレメントをその光軸が基準光軸AXと平行になるように縦横に且つ稠密に配列することによって構成されている。フライアイレンズFELを構成する各レンズエレメントは、レチクルREI上において形成すべき照野の形状(ひいてはウェハW上において形成すべき露光領域の形状)と相似な矩形状の断面を有する。
【0055】
したがって、フライアイレンズFELに入射した光束は複数のレンズエレメントにより波面分割され、各レンズエレメントの後側焦点面(射出面)またはその近傍には1つの光源像がそれぞれ形成される。すなわち、フライアイレンズFELの後側焦点面(射出面)またはその近傍には、複数の光源像からなる実質的な面光源すなわち二次光源が形成される。
【0056】
ここで、フライアイレンズFELの1つのレンズエレメントに着目すると、この1つのレンズエレメントの後側焦点面(射出面)またはその近傍には、光源ユニット120及び出力光学系130によって形成された複数の光源像の像が形成され、これら複数の光源像の像は、複数のLEDチップ123が配列されている領域と相似形状の領域に分布する。このため、複数のLEDチップ123が配列されている領域とフライアイレンズFELの各レンズエレメントの断面とは互いに相似形状であってもよい。
【0057】
さて、フライアイレンズFELの後側焦点面(射出面)またはその近傍に形成された二次光源からの光束は、その近傍に配置された開口絞り150に入射する。なお、本実施形態においてフライアイレンズFELの後側焦点面(射出面)と、光源ユニット120のLEDチップ配列面とは、光学的に共役である。
【0058】
開口絞り150は、投影光学系POの入射瞳面と光学的にほぼ共役な位置に配置され、二次光源の照明に寄与する範囲を規定するための可変開口部を有する。開口絞り150を介した二次光源からの露光光は、第2集光光学系160の集光作用を受けた後、所定のパターンが形成されたレチクルREIを重畳的に照明する。
【0059】
そして、照明装置IUによって照明されたレチクルREIからの露光光(レチクルREI上の照野内に位置するパターンを介した露光光)は、投影光学系POに入射し、被露光基板としてウェハW上にレチクルREIのパターン像を形成する。これにより、ウェハWの露光領域にはレチクルREIのパターンが露光される。なお、投影光学系POの投影倍率は、縮小倍率であっても拡大倍率であっても等倍であってもよい。また、投影光学系POは、屈折光学系であっても反射光学系であっても反射屈折光学系であってもよい。
【実施例0060】
発光波長385nmのGaNウェハをリンス洗浄後、120℃で2min乾燥させた。その後、ウェハ表面を疎水性にするための処理(HMDS処理)を行い、スピンコータでEBレジストを500nm塗布し、その後、180℃3minでプリベークを行った。
【0061】
次に高速高精度電子ビーム描画装置を用い、露光量(Dose量(μC/cm2))を変えて9条件で露光した。9条件のDose量(μC/cm2)は、それぞれ150、160、170、180、190、200、210、220、230であった。
【0062】
現像後に、走査型電子顕微鏡(SEM)にてホール径を確認した。その結果、露光量(Dose量)とホール径との対応関係は、
Dose量:150→293.3nm
Dose量:160→296.00nm
Dose量:170→309.33nm
Dose量:180→314.67nm
Dose量:190→320.00nm
Dose量:200→325.33nm
Dose量:210→330.67nm
Dose量:220→338.67nm
Dose量:230→352.00nm
であった。露光量とホール径との間に正の相関があることが確認された。
【0063】
以上のEB描画条件出しの結果から、高速高精度電子ビーム描画装置を用い140μC/cm2で露光し、現像後にSEMにてホール径を確認した。
【0064】
図4は、現像後のSEM画像を示す。ホール径が286-292nmの範囲で形成できている事が確認された。
【0065】
次に、誘導結合プラズマ反応性イオンエッチング装置にて塩素ガス(30sccm)でエッチングを行い、EBレジスト剥離後にSEMにてホール径を確認した。その結果、外側の径が262~269nm、内側の径が213~220nmであり、テーパ角が70度~80度と十分に抑制されていることが確認された。
【0066】
図5は、誘導結合プラズマ反応性イオンエッチング装置でエッチング後のSEM画像を示す。
図5(a)は内側の径のSEM画像であり、
図5(b)は外側の径のSEM画像である。GaNウェハの表面に数100nmオーダのホールが数100nmピッチで形成され、フォトニック結晶が形成されていることが確認された。
【0067】
図6は、誘導結合プラズマ反応性イオンエッチング装置でエッチング後のGaNウェハの断面のSEM画像を示す。フォトニック結晶を構成するホールのテーパ角は70度~80度である。LEDチップから射出される光の指向角を狭めるためにはフォトニック結晶を構成するホールのテーパがない、すなわちテーパ角が90度であることが望ましいところ、本実施形態ではテーパ角が70度~80度と良好な結果が得られた。
【0068】
図7は、フォトニック結晶が形成されたGaNウェハの外観斜視図を示す。また、
図8は、その一部拡大図を示す。フォトニック結晶が形成された部位に、GaNウェハを照らす照明光(部屋の蛍光灯及び顕微鏡のハロゲン光)が閉じ込められて他の部位に比べて光っていることが確認された。
【0069】
図9及び
図10は、それぞれリファレンスチップと本実施形態のLEDチップ(PhC形成チップ)のプローバーによる電気特性測定結果を示す。ここで、
図9に示すリファレンスチップは、GaN層にフォトニック結晶が形成されていないLEDチップであり、互いにウェハ上の位置が異なるA1~A10の合計10個のLEDチップである。また、
図10に示す本実施形態のLEDチップは、GaN層にフォトニック結晶(PhC)が形成されたLEDチップであり、互いにウェハ上の位置が異なるB1~B11の合計11個のLEDチップである。リファレンスチップ及びPhC形成チップともに良好な電気特性が得られているが、例えばリファレンスチップA1とPhCチップの半値幅(WH)及び光出力(Po)を比較すると、
<リファレンスチップA1>
半値幅WH=16.87(nm)
光出力Po=166.86(mW)
<PhC形成チップB1>
半値幅WH=11.55(nm)
光出力Po=445.70(mW)
であり、本実施形態のLEDチップはリファレンスチップと比較して半値幅が大幅に減少するとともに光出力が大幅に増大しており、平均して半値幅WHは約5.9nm減少し、光出力Poは約2.68倍増大していた。
【0070】
図11は、リファレンスチップと本実施形態のLEDチップ(PhC形成チップ)の積分球測定結果を示す。それぞれのチップをアルミ基板に実装して積分球にて特性を測定した結果である。
図11(A)は順方向電流IF=500mAでの測定結果であり、
図11(B)はIF=700mAでの測定結果である。
【0071】
リファレンスチップ(A1~A3)とPhC形成チップ(B4~B6)を比較すると、本実施形態のLEDチップはリファレンスチップと比較して、
図9、
図10に示すプローバーによる測定結果と同様の結果が得られた。
【0072】
図12、
図13、及び
図14は、それぞれリファレンスチップ(A1~A3)とPhC形成チップ(B4~B6)の発光スペクトル、I-V特性、及びI-L特性を示す。
図12(A)は、リファレンスチップ(A1~A3)の発光スペクトルを示し、
図12(B)はPhC形成チップ(B4~B6)の発光スペクトルを示す。
図13、
図14も同様である。なお、
図14のI-L特性では、IF(100mA)の強度を1としてグラフ化している。
図12に示すように、発光スペクトルはリファレンス及びPhC形成チップでほぼ同様である。また、
図13に示すように、I-V特性はリファレンス及びPhC形成チップともに良好な特性である。
【0073】
他方で、
図14に示すように、I-L特性はリファレンスと比較してPhC形成チップでは電流増加時の出力低下が抑制されていた。これは、外部量子効率(EQE)の向上により発熱が小さいためと考えられる。
【0074】
図15及び
図16は、それぞれリファレンスチップ(A1~A3)及びPhC形成チップ(B4~B6)の指向特性測定結果を示す。指向特性を持たせる事を確認し、本実施形態では、PhC形成チップでは4方向に分散して強度が増大する傾向が観測された。
【0075】
以上説明したように、本実施形態によれば、サファイア基板上に成長させたGaN層の表面に数100nmオーダのホールを数100nmピッチで形成することでフォトニック結晶を製造することができる。これにより、レンズを使用せずにLEDチップ単体で指向性を持たせる事が可能となり、金型を作る必要がなくコストを削減できる。また、LEDチップの発光効率をフォトニック結晶を形成しない場合と比べて2倍以上に増大させ得るとともに、電流増加時の出力低下を抑制することができ、仕様変更にも柔軟に対応し得る。