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特開2024-163899標識付けのためのマイクロニードルパッチ及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024163899
(43)【公開日】2024-11-22
(54)【発明の名称】標識付けのためのマイクロニードルパッチ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 90/94 20160101AFI20241115BHJP
   A61M 37/00 20060101ALI20241115BHJP
【FI】
A61B90/94
A61M37/00 505
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024077565
(22)【出願日】2024-05-10
(31)【優先権主張番号】P 2023079702
(32)【優先日】2023-05-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【弁理士】
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【弁理士】
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【弁理士】
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100219265
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 崇大
(74)【代理人】
【識別番号】100203208
【弁理士】
【氏名又は名称】小笠原 洋平
(74)【代理人】
【識別番号】100216839
【弁理士】
【氏名又は名称】大石 敏幸
(74)【代理人】
【識別番号】100228980
【弁理士】
【氏名又は名称】副島 由加里
(74)【代理人】
【識別番号】100151448
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 孝博
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【弁理士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】金 範▲ジュン▼
(72)【発明者】
【氏名】朴 チョンホ
【テーマコード(参考)】
4C267
【Fターム(参考)】
4C267AA71
4C267BB02
4C267BB03
4C267BB04
4C267BB11
4C267BB12
4C267BB19
4C267BB20
4C267BB24
4C267BB48
4C267BB63
4C267CC01
4C267GG02
4C267GG43
4C267HH11
(57)【要約】      (修正有)
【課題】パターンを有するマイクロニードルアレイ又はマイクロニードルパッチを効率的に製造する方法および製造するために用いる雌型モールドを製造する方法を提供する。
【解決手段】パターンを有する雌型モールドを製造する方法は、(a)複数の空洞を有する雌型ベースモールドを提供する工程、(b)前記雌型ベースモールドに、複数の針構造体を有するプラグを差し込む工程であって、当該複数の針構造体は、前記雌型ベースモールドの一部の空洞に挿入され、(c)前記針構造体が挿入されていない空洞を、雌型ベースモールドを構成する樹脂と同じ又は類似の樹脂Aを含む溶液で充填する工程、及び(d)前記樹脂Aを硬化させ、その後、前記プラグを除去する工程を含む。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パターンを有する雌型モールドを製造する方法であって、
(a)複数の空洞を有する雌型ベースモールドを提供する工程、
(b)前記雌型ベースモールドに、複数の針構造体を有するプラグを差し込む工程であって、当該複数の針構造体は、前記雌型ベースモールドの一部の空洞に挿入され、
(c)前記針構造体が挿入されていない空洞を、雌型ベースモールドを構成する樹脂と同じ又は類似の樹脂Aを含む溶液で充填する工程、及び
(d)前記樹脂Aを硬化させ、その後、前記プラグを除去する工程
を含み、
前記複数の針構造体は、前記プラグにおいて、前記雌型モールドが有するパターンと同様なパターンで配置されており、
前記パターンを有する雌型モールドは、マイクロニードルアレイ又はマイクロニードルパッチを製造するために用いられる、
当該製造方法。
【請求項2】
前記プラグは、支持層、前記支持層の上に設けられた複数の針構造体、及び前記支持層と前記針構造体の間に支柱を備える、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の製造方法により得られるパターンを有する雌型モールド。
【請求項4】
パターンを有する雌型モールドを製造する方法であって、
(A)複数の空洞を有する雌型ベースモールドを提供する工程、及び
(B)パターンを有する雌型モールドを得る工程であって、以下の(a1)又は(b1)の工程;
(a1)前記雌型ベースモールド上にフォトレジスト層を形成し、フォトマスクを通して前記フォトレジスト層を部分的に露光し、露光した前記フォトレジスト層を現像液に浸漬けさせて、パターンを有する雌型モールドを得る工程、
(b1)以下の(i)~(iii)を含む工程:
(i)前記雌型ベースモールド上にフォトレジスト層を形成し、フォトマスクを通して前記フォトレジスト層を部分的に露光し、露光した前記フォトレジスト層を現像液に浸漬けさせて、パターンを有する雌型モールドAを得ること、
(ii)前記パターンを有する雌型モールドAの空洞の部分に、雌型ベースモールドを構成する樹脂と同じ又は類似の樹脂Aを含む溶液を充填し、前記樹脂Aを硬化させること、及び
(iii)溶媒を用いてフォトレジストを溶解させることにより、パターンを有する雌型モールドを得ること
を含み、
前記パターンを有する雌型モールドは、マイクロニードルアレイ又はマイクロニードルパッチを製造するために用いられる、
当該製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の製造方法により得られるパターンを有する雌型モールド。
【請求項6】
パターンを有するマイクロニードルアレイを製造する方法であって、
(1)複数の空洞を有する雌型ベースモールドを提供する工程、
(2)前記雌型ベースモールドに、複数の針構造体を有するプラグを差し込む工程であって、当該複数の針構造体は、前記雌型ベースモールドの一部の空洞に挿入され、
(3)前記針構造体が挿入されていない空洞を、雌型ベースモールドを構成する樹脂と同じ又は類似の樹脂Aを含む溶液で充填する工程、
(4)前記樹脂Aを硬化させ、その後、前記プラグを除去することにより、パターンを有する雌型モールドを得る工程、
(5)生体溶解性材料を含む溶液又は懸濁液を、工程(4)で得られた雌型モールドに注入する工程、及び
(6)前記溶液又は懸濁液を乾燥し、乾燥後に、パターンを有するマイクロニードルアレイを前記雌型モールドから取り出す工程、
を含み、
前記複数の針構造体は、前記プラグにおいて、前記雌型モールドが有するパターンと同様なパターンで配置されている、
当該製造方法。
【請求項7】
パターンを有するマイクロニードルパッチを製造する方法であって、
(1)複数の空洞を有する雌型ベースモールドを提供する工程、
(2)前記雌型ベースモールドに、複数の針構造体を有するプラグを差し込む工程であって、当該複数の針構造体は、前記雌型ベースモールドの一部の空洞に挿入され、
(3)前記針構造体が挿入されていない空洞を、雌型ベースモールドを構成する樹脂と同じ又は類似の樹脂Aを含む溶液で充填する工程、
(4)前記樹脂Aを硬化させ、その後、前記プラグを除去することにより、パターンを有する雌型モールドを得る工程、
(5)生体溶解性材料を含む溶液又は懸濁液を、工程(4)で得られた雌型モールドに注入する工程、及び
(6a)前記溶液又は懸濁液を乾燥し、乾燥後に、パターンを有するマイクロニードルアレイを支持用シートに取り付けて取り出す工程、
を含み、
前記複数の針構造体は、前記プラグにおいて、前記雌型モールドが有するパターンと同様なパターンで配置されている、
当該製造方法。
【請求項8】
パターンを有するマイクロニードルパッチを製造する方法であって、
(1)複数の空洞を有する雌型ベースモールドを提供する工程、
(2)前記雌型ベースモールドに、複数の針構造体を有するプラグを差し込む工程であって、当該複数の針構造体は、前記雌型ベースモールドの一部の空洞に挿入され、
(3)前記針構造体が挿入されていない空洞を、雌型ベースモールドを構成する樹脂と同じ又は類似の樹脂Aを含む溶液で充填する工程、
(4)前記樹脂Aを硬化させ、その後、前記プラグを除去することにより、パターンを有する雌型モールドを得る工程、
(5)生体溶解性材料を含む溶液又は懸濁液を、工程(4)で得られた雌型モールドに注入する工程、及び
(6)前記溶液又は懸濁液を乾燥し、乾燥後に、パターンを有するマイクロニードルパッチを前記雌型モールドから取り出す工程、
を含み、
前記複数の針構造体は、前記プラグにおいて、前記雌型モールドが有するパターンと同様なパターンで配置されている、
当該製造方法。
【請求項9】
生体溶解性材料を含む溶液は、染料及び/又は顔料を含む、請求項6から8のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項10】
前記プラグは、支持層、前記支持層の上に設けられた複数の針構造体、及び前記支持層と前記針構造体の間に支柱を備える、請求項6から8のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項11】
パターンを有する雌型モールドを製造するために用いられるプラグであって、
支持層、前記支持層の上に設けられた複数の針構造体、及び前記支持層と前記針構造体の間に支柱を備え、
前記複数の針構造体は、前記プラグにおいて、前記雌型モールドが有するパターンと同様なパターンで配置されている、
当該プラグ。
【請求項12】
3Dプリンターで製造される請求項11に記載のプラグ。
【請求項13】
パターンを有するマイクロニードルアレイを製造する方法であって、
(A)複数の空洞を有する雌型ベースモールドを提供する工程、
(B)パターンを有する雌型モールドを得る工程であって、以下の(a1)又は(b1)の工程;
(a1)前記雌型ベースモールド上にフォトレジスト層を形成し、フォトマスクを通して前記フォトレジスト層を部分的に露光し、露光した前記フォトレジスト層を現像液に浸漬けさせて、パターンを有する雌型モールドを得る工程、
(b1)以下の(i)~(iii)を含む工程:
(i)前記雌型ベースモールド上にフォトレジスト層を形成し、フォトマスクを通して前記フォトレジスト層を部分的に露光し、露光した前記フォトレジスト層を現像液に浸漬けさせて、パターンを有する雌型モールドAを得ること、
(ii)前記パターンを有する雌型モールドAの空洞の部分に、雌型ベースモールドを構成する樹脂と同じ又は類似の樹脂Aを含む溶液を充填し、前記樹脂Aを硬化させること、及び
(iii)溶媒を用いてフォトレジストを溶解させることにより、パターンを有する雌型モールドを得ること
(C)生体溶解性材料を含む溶液又は懸濁液を、工程(2)で得られたパターンを有する雌型モールドに注入する工程、及び
(D)前記溶液又は懸濁液を乾燥し、乾燥後に、パターンを有するマイクロニードルアレイを前記雌型モールドから取り出す工程、
を含む、
当該製造方法。
【請求項14】
パターンを有するマイクロニードルパッチを製造する方法であって、
(A)複数の空洞を有する雌型ベースモールドを提供する工程、
(B)パターンを有する雌型モールドを得る工程であって、以下の(a1)又は(b1)の工程;
(a1)前記雌型ベースモールド上にフォトレジスト層を形成し、フォトマスクを通して前記フォトレジスト層を部分的に露光し、露光した前記フォトレジスト層を現像液に浸漬けさせて、パターンを有する雌型モールドを得る工程、
(b1)以下の(i)~(iii)を含む工程:
(i)前記雌型ベースモールド上にフォトレジスト層を形成し、フォトマスクを通して前記フォトレジスト層を部分的に露光し、露光した前記フォトレジスト層を現像液に浸漬けさせて、パターンを有する雌型モールドAを得ること、
(ii)前記パターンを有する雌型モールドAの空洞の部分に、雌型ベースモールドを構成する樹脂と同じ又は類似の樹脂Aを含む溶液を充填し、前記樹脂Aを硬化させること、及び
(iii)溶媒を用いてフォトレジストを溶解させることにより、パターンを有する雌型モールドを得ること
(C)生体溶解性材料を含む溶液又は懸濁液を、工程(2)で得られたパターンを有する雌型モールドに注入する工程、及び
(D1)前記溶液又は懸濁液を乾燥し、乾燥後に、パターンを有するマイクロニードルアレイを支持用シートに取り付けて取り出す工程、
を含む、
当該製造方法。
【請求項15】
パターンを有するマイクロニードルパッチを製造する方法であって、
(A)複数の空洞を有する雌型ベースモールドを提供する工程、
(B)パターンを有する雌型モールドを得る工程であって、以下の(a1)又は(b1)の工程;
(a1)前記雌型ベースモールド上にフォトレジスト層を形成し、フォトマスクを通して前記フォトレジスト層を部分的に露光し、露光した前記フォトレジスト層を現像液に浸漬けさせて、パターンを有する雌型モールドを得る工程、
(b1)以下の(i)~(iii)を含む工程:
(i)前記雌型ベースモールド上にフォトレジスト層を形成し、フォトマスクを通して前記フォトレジスト層を部分的に露光し、露光した前記フォトレジスト層を現像液に浸漬けさせて、パターンを有する雌型モールドAを得ること、
(ii)前記パターンを有する雌型モールドAの空洞の部分に、雌型ベースモールドを構成する樹脂と同じ又は類似の樹脂Aを含む溶液を充填し、前記樹脂Aを硬化させること、及び
(iii)溶媒を用いてフォトレジストを溶解させることにより、パターンを有する雌型モールドを得ること
(C)生体溶解性材料を含む溶液又は懸濁液を、工程(2)で得られたパターンを有する雌型モールドに注入する工程、及び
(D)前記溶液又は懸濁液を乾燥し、乾燥後に、パターンを有するマイクロニードルパッチを前記雌型モールドから取り出す工程、
を含む、
当該製造方法。
【請求項16】
生体溶解性材料を含む溶液は、染料及び/又は顔料を含む、請求項13から15のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項17】
生体溶解性ポリマー及び不溶性物質を含む、パターンを有する微細針構造、及び
生体適合性ポリマー又は生体溶解性ポリマーを含む支持用シートを有し、
眉毛又は頭皮の特定部位にタトゥーを入れるために用いられる、マイクロニードルパッチ。
【請求項18】
生体溶解性ポリマー及び不溶性物質を含む、パターンを有する微細針構造、及び
生体適合性ポリマー又は生体溶解性ポリマーを含む支持用シートを有する、
2つのマイクロニードルパッチを備え、
各々のマイクロニードルパッチが有する微細針構造のパターンはシンメトリーである、
眉毛又は頭皮の特定部位にタトゥーを入れるために用いられるマイクロニードルパッケージ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、標識付けのためのマイクロニードルパッチ及びその製造方法に関わる。より具体的には、本発明は、パターンを有するマイクロニードルパッチを製造する方法、かかるマイクロニードルパッチを製造するために用いる雌型モールドを製造する方法、及びパターンを有するマイクロニードルパッチに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、人間と動物が共に生きていける社会を目指すために動物の習性をよく知ったうえで適正に取り扱うことが求められている。特に、動物の管理において、個体の識別とそれによる情報管理のために、産業用動物と家庭動物(ペット)に識別用標識付けを行うことが関連法律により義務づけられている。また、実験用動物においても、実験中、個体やグループの管理のためにも標識付けが必須となっている。
【0003】
従来の動物個体を識別する方法では、体外または体内に標識を取り付けることを利用している。例えば、別の標識用タグを特定部位に固定する方法(例:耳標)、特定部位に穴あけで穴を開ける方法(例えば、耳パンチ)、針パンチで入れ墨を入れる方法(例えば、針を有する入れ墨器)、簡易手術でマイクロチップを体内に埋め込む方法(例えば、RFID(Radio Frequency Identification)チップの皮下埋め込み)がある。
【0004】
しかしながら、これらの方法では、別途規格によるタグの作製と準備を要したり、外部道具を用いる、それによる道具の滅菌や消毒が必須であったり、資格を持つ専門家(獣医師)による施術と道具や後処理にかかわる2次感染の対策が必要である。それらの準備のために、時間も労力も要し、金銭的にも追加費用が発生する。また、動物においても身体的・精神的な負担と苦痛を与える可能性もある。
【0005】
ところで、近年、マイクロニードル、マイクロニードルアレイ又はマイクロニードルアレイパッチと呼ばれる、マイクロ寸法(長さ1ミリメートル程度以下)の針構造体のアレイが注目されている。マイクロニードルは、生体適合性材料から構成されており、低侵襲で、ほぼ無痛での経皮薬物送達が可能であり、誰でも簡単に使用可能であるという特徴を有する。
【0006】
このような体内に溶ける材質で構成されている微細針構造体を有するマイクロニードルパッチを用いて動物の皮膚にパッチを貼付することより標識付けを行うことが検討されている(特許文献1)。
しかしながら、多くの動物個体の識別を効率的に行うには、様々なパターンや模様を標識として動物の皮膚に施す必要があるが、これを有効に実現できる方法はいまだ見出されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】WO2019/018301A1
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Bao, L., Park, J., Bonfante, G. et al. Recent advances in porous microneedles: materials, fabrication, and transdermal applications. Drug Deliv. and Transl. Res. 12, 395-414 (2022).
【非特許文献2】Yeu-Chun Kim, Jung-Hwan Park, Mark R. Prausnitz, Microneedles for drug and vaccine delivery, Advanced Drug Delivery Reviews, Volume 64, Issue 14, 2012, Pages 1547-1568,
【発明の概要】
【発明が解決すべき課題】
【0009】
本発明は、パターンを有するマイクロニードルアレイ又はマイクロニードルパッチを効率的に製造する方法を提供することを目的とする。また、本発明は、かかるマイクロニードルアレイ又はマイクロニードルパッチを製造するために用いる雌型モールドを製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
マイクロニードルパッチの製造において、均一なパッチ製品を大量に生産するために、通常、マイクロモールディング法が用いられる。マイクロモールディング法では、最終製品と同等な外形を持つマスタモールドから雌型モールド、鋳型、の作製が必須である。つまり、雌型モールドを用いてこそ、パッチ製品の大量生産が可能となる(図1を参照)。
ここで、1種類の雌型モールドを作製するにあたって、それのための1つのマスタモールドから、1つのメスモールドしか得られない。マスタモールドは強度確保のため、強度が高い金属材料と特殊加工によって作製する。よって、異なる雌型モールドを作製する毎に作製時間及び高い加工費用がかかる。
したがって、異なるパターンを有するマイクロニードルアレイを作製するためには、マスタモールドの新規作製が必須である。また、適用部位によってデザイン変更を要するマイクロニードルパッチを製造する場合、新規モールドの作製が数多く必要となる。
【0011】
本発明者らは、本発明の課題を解決するにあたり、上記の問題点について鋭意検討したところ、特定の構造を有するプラグを用いることにより、パターンを有するマイクロニードルパッチを効率的に製造できることを見出し、本発明を完成した。
また、本発明者らは、更に検討を続け、フォトリソグラフィプロセスを用いたフォトレジストのパターニングによっても、パターンを有するマイクロニードルパッチを効率的に製造できることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
即ち、本発明は以下の構成を有するものである。
[1]パターンを有する雌型モールドを製造する方法であって、
(a)複数の空洞を有する雌型ベースモールドを提供する工程、
(b)前記雌型ベースモールドに、複数の針構造体を有するプラグを差し込む工程であって、当該複数の針構造体は、前記雌型ベースモールドの一部の空洞に挿入され、
(c)前記針構造体が挿入されていない空洞を、雌型ベースモールドを構成する樹脂と同じ又は類似の樹脂Aを含む溶液で充填する工程、及び
(d)前記樹脂Aを硬化させ、その後、前記プラグを除去する工程
を含み、
前記複数の針構造体は、前記プラグにおいて、前記雌型モールドが有するパターンと同様なパターンで配置されており、
前記パターンを有する雌型モールドは、マイクロニードルアレイ又はマイクロニードルパッチを製造するために用いられる、
当該製造方法。
[2]前記プラグは、支持層、前記支持層の上に設けられた複数の針構造体、及び前記支持層と前記針構造体の間に支柱を備える、[1]に記載の製造方法。
[3][1]又は[2]に記載の製造方法により得られるパターンを有する雌型モールド。
[4]パターンを有する雌型モールドを製造する方法であって、
(A)複数の空洞を有する雌型ベースモールドを提供する工程、及び
(B)パターンを有する雌型モールドを得る工程であって、以下の(a1)又は(b1)の工程;
(a1)前記雌型ベースモールド上にフォトレジスト層を形成し、フォトマスクを通して前記フォトレジスト層を部分的に露光し、露光した前記フォトレジスト層を現像液に浸漬けさせて、パターンを有する雌型モールドを得る工程、
(b1)以下の(i)~(iii)を含む工程:
(i)前記雌型ベースモールド上にフォトレジスト層を形成し、フォトマスクを通して前記フォトレジスト層を部分的に露光し、露光した前記フォトレジスト層を現像液に浸漬けさせて、パターンを有する雌型モールドAを得ること、
(ii)前記パターンを有する雌型モールドAの空洞の部分に、雌型ベースモールドを構成する樹脂と同じ又は類似の樹脂Aを含む溶液を充填し、前記樹脂Aを硬化させること、及び
(iii)溶媒を用いてフォトレジストを溶解させることにより、パターンを有する雌型モールドを得ること
を含み、
前記パターンを有する雌型モールドは、マイクロニードルアレイ又はマイクロニードルパッチを製造するために用いられる、
当該製造方法。
[5][4]に記載の製造方法により得られるパターンを有する雌型モールド。
[6]パターンを有するマイクロニードルアレイを製造する方法であって、
(1)複数の空洞を有する雌型ベースモールドを提供する工程、
(2)前記雌型ベースモールドに、複数の針構造体を有するプラグを差し込む工程であって、当該複数の針構造体は、前記雌型ベースモールドの一部の空洞に挿入され、
(3)前記針構造体が挿入されていない空洞を、雌型ベースモールドを構成する樹脂と同じ又は類似の樹脂Aを含む溶液で充填する工程、
(4)前記樹脂Aを硬化させ、その後、前記プラグを除去することにより、パターンを有する雌型モールドを得る工程、
(5)生体溶解性材料を含む溶液又は懸濁液を、工程(4)で得られた雌型モールドに注入する工程、及び
(6)前記溶液を乾燥し、乾燥後に、パターンを有するマイクロニードルアレイを前記雌型モールドから取り出す工程、
を含み、
前記複数の針構造体は、前記プラグにおいて、前記雌型モールドが有するパターンと同様なパターンで配置されている、
当該製造方法。
[7]パターンを有するマイクロニードルパッチを製造する方法であって、
(1)複数の空洞を有する雌型ベースモールドを提供する工程、
(2)前記雌型ベースモールドに、複数の針構造体を有するプラグを差し込む工程であって、当該複数の針構造体は、前記雌型ベースモールドの一部の空洞に挿入され、
(3)前記針構造体が挿入されていない空洞を、雌型ベースモールドを構成する樹脂と同じ又は類似の樹脂Aを含む溶液で充填する工程、
(4)前記樹脂Aを硬化させ、その後、前記プラグを除去することにより、パターンを有する雌型モールドを得る工程、
(5)生体溶解性材料を含む溶液又は懸濁液を、工程(4)で得られた雌型モールドに注入する工程、及び
(6a)前記溶液を乾燥し、乾燥後に、パターンを有するマイクロニードルアレイを支持用シートに取り付けて取り出す工程、
を含み、
前記複数の針構造体は、前記プラグにおいて、前記雌型モールドが有するパターンと同様なパターンで配置されている、
当該製造方法。
[8]パターンを有するマイクロニードルパッチを製造する方法であって、
(1)複数の空洞を有する雌型ベースモールドを提供する工程、
(2)前記雌型ベースモールドに、複数の針構造体を有するプラグを差し込む工程であって、当該複数の針構造体は、前記雌型ベースモールドの一部の空洞に挿入され、
(3)前記針構造体が挿入されていない空洞を、雌型ベースモールドを構成する樹脂と同じ又は類似の樹脂Aを含む溶液で充填する工程、
(4)前記樹脂Aを硬化させ、その後、前記プラグを除去することにより、パターンを有する雌型モールドを得る工程、
(5)生体溶解性材料を含む溶液又は懸濁液を、工程(4)で得られた雌型モールドに注入する工程、及び
(6)前記溶液を乾燥し、乾燥後に、パターンを有するマイクロニードルパッチを前記雌型モールドから取り出す工程、
を含み、
前記複数の針構造体は、前記プラグにおいて、前記雌型モールドが有するパターンと同様なパターンで配置されている、
当該製造方法。
[9]生体溶解性材料を含む溶液は、染料及び/又は顔料を含む、[6]~[8]のいずれか1項に記載の製造方法。
[10]前記プラグは、支持層、前記支持層の上に設けられた複数の針構造体、及び前記支持層と前記針構造体の間に支柱を備える、[6]~[9]のいずれか1項に記載の製造方法。
[11]パターンを有する雌型モールドを製造するために用いられるプラグであって、
支持層、前記支持層の上に設けられた複数の針構造体、及び前記支持層と前記針構造体の間に支柱を備え、
前記複数の針構造体は、前記プラグにおいて、前記雌型モールドが有するパターンと同様なパターンで配置されている、
当該プラグ。
[12]3Dプリンターで製造される[11]に記載のプラグ。
[13]パターンを有するマイクロニードルアレイを製造する方法であって、
(A)複数の空洞を有する雌型ベースモールドを提供する工程、
(B)パターンを有する雌型モールドを得る工程であって、以下の(a1)又は(b1)の工程;
(a1)前記雌型ベースモールド上にフォトレジスト層を形成し、フォトマスクを通して前記フォトレジスト層を部分的に露光し、露光した前記フォトレジスト層を現像液に浸漬けさせて、パターンを有する雌型モールドを得る工程、
(b1)以下の(i)~(iii)を含む工程:
(i)前記雌型ベースモールド上にフォトレジスト層を形成し、フォトマスクを通して前記フォトレジスト層を部分的に露光し、露光した前記フォトレジスト層を現像液に浸漬けさせて、パターンを有する雌型モールドAを得ること、
(ii)前記パターンを有する雌型モールドAの空洞の部分に、雌型ベースモールドを構成する樹脂と同じ又は類似の樹脂Aを含む溶液を充填し、前記樹脂Aを硬化させること、及び
(iii)溶媒を用いてフォトレジストを溶解させることにより、パターンを有する雌型モールドを得ること
(C)生体溶解性材料を含む溶液又は懸濁液を、工程(2)で得られたパターンを有する雌型モールドに注入する工程、及び
(D)前記溶液又は懸濁液を乾燥し、乾燥後に、パターンを有するマイクロニードルアレイを前記雌型モールドから取り出す工程、
を含む、
当該製造方法。
[14]パターンを有するマイクロニードルパッチを製造する方法であって、
(A)複数の空洞を有する雌型ベースモールドを提供する工程、
(B)パターンを有する雌型モールドを得る工程であって、以下の(a1)又は(b1)の工程;
(a1)前記雌型ベースモールド上にフォトレジスト層を形成し、フォトマスクを通して前記フォトレジスト層を部分的に露光し、露光した前記フォトレジスト層を現像液に浸漬けさせて、パターンを有する雌型モールドを得る工程、
(b1)以下の(i)~(iii)を含む工程:
(i)前記雌型ベースモールド上にフォトレジスト層を形成し、フォトマスクを通して前記フォトレジスト層を部分的に露光し、露光した前記フォトレジスト層を現像液に浸漬けさせて、パターンを有する雌型モールドAを得ること、
(ii)前記パターンを有する雌型モールドAの空洞の部分に、雌型ベースモールドを構成する樹脂と同じ又は類似の樹脂Aを含む溶液を充填し、前記樹脂Aを硬化させること、及び
(iii)溶媒を用いてフォトレジストを溶解させることにより、パターンを有する雌型モールドを得ること
(C)生体溶解性材料を含む溶液又は懸濁液を、工程(2)で得られたパターンを有する雌型モールドに注入する工程、及び
(D1)前記溶液又は懸濁液を乾燥し、乾燥後に、パターンを有するマイクロニードルアレイを支持用シートに取り付けて取り出す工程、
を含む、
当該製造方法。
[15]パターンを有するマイクロニードルパッチを製造する方法であって、
(A)複数の空洞を有する雌型ベースモールドを提供する工程、
(B)パターンを有する雌型モールドを得る工程であって、以下の(a1)又は(b1)の工程;
(a1)前記雌型ベースモールド上にフォトレジスト層を形成し、フォトマスクを通して前記フォトレジスト層を部分的に露光し、露光した前記フォトレジスト層を現像液に浸漬けさせて、パターンを有する雌型モールドを得る工程、
(b1)以下の(i)~(iii)を含む工程:
(i)前記雌型ベースモールド上にフォトレジスト層を形成し、フォトマスクを通して前記フォトレジスト層を部分的に露光し、露光した前記フォトレジスト層を現像液に浸漬けさせて、パターンを有する雌型モールドAを得ること、
(ii)前記パターンを有する雌型モールドAの空洞の部分に、雌型ベースモールドを構成する樹脂と同じ又は類似の樹脂Aを含む溶液を充填し、前記樹脂Aを硬化させること、及び
(iii)溶媒を用いてフォトレジストを溶解させることにより、パターンを有する雌型モールドを得ること
(C)生体溶解性材料を含む溶液又は懸濁液を、工程(2)で得られたパターンを有する雌型モールドに注入する工程、及び
(D)前記溶液又は懸濁液を乾燥し、乾燥後に、パターンを有するマイクロニードルパッチを前記雌型モールドから取り出す工程、
を含む、
当該製造方法。
[16]生体溶解性材料を含む溶液は、染料及び/又は顔料を含む、[13]から[15]のいずれか1項に記載の製造方法。
[17]生体溶解性ポリマー及び不溶性物質を含む、パターンを有する微細針構造、及び
生体適合性ポリマー又は生体溶解性ポリマーを含む支持用シートを有し、
眉毛又は頭皮の特定部位にタトゥーを入れるために用いられる、マイクロニードルパッチ。
[18]生体溶解性ポリマー及び不溶性物質を含む、パターンを有する微細針構造、及び
生体適合性ポリマー又は生体溶解性ポリマーを含む支持用シートを有する、
2つのマイクロニードルパッチを備え、
各々のマイクロニードルパッチが有する微細針構造のパターンはシンメトリーである、
眉毛又は頭皮の特定部位にタトゥーを入れるために用いられるマイクロニードルパッケージ。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、1つのマスタモールドに対して、プラグを追加作製することにより、様々なパターン入りの複数の種類の雌型モールドを作製することが可能である。
また、マイクロニードルパッチのデザイン変更によるマスタモールドの再作製が不要となり、費用と時間の節約ができる。
また、パターンの自由作製が可能であるため、多様なパターン入りのマイクロニードルパッチを作製することが可能であり、異なる形のマイクロニードルパッチの作製も可能となる。
また、本発明により得られるマイクロニードルパッチは、パターンを有する微細針構造を緻密に形成することができるため、左右シンメトリーなパターンを有する微細針構造を提供することができることから、例えば、眉毛や頭皮の特定部位にタトゥーを入れる場合に好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】従来の雌型モールドによるマイクロニードルパッチの作製プロセスの概略図を示す。
図2】本発明の雌型モールドの製造方法、及び、当該雌型モールドを用いたパターンを有するマイクロニードルパッチの製造方法を示す。
図3】本発明のプラグの概略図を示す。
図4】本発明のプラグの非限定的例の概略図を示す。
図5】本発明のマイクロニードルパッチの非限定的例の概略図を示す。
図6】実施例1で作製した微細針構造体が形成された標識付け用マイクロニードルパッチを示す。
図7】実施例2における貼付実験を行った結果を示す。
図8】実施例1で作製した文字パターンを有する標識付け用マイクロニードルパッチを用いて実験動物(ラット)の皮膚への文字パターンの注入を検証した結果を示す。
図9】本発明のマイクロニードルアレイの製造方法Bの非限定的な模式図を示す。
図10】実施例4で得られたパターン入りのマイクロニードルパッチの写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
1.パターンを有する雌型モールドを製造する方法
(1-1)本発明の雌型モールドの製造方法1
本発明の1つの実施態様は、パターンを有する雌型モールドを製造する方法であって、
(a)複数の空洞を有する雌型ベースモールドを提供する工程、
(b)前記雌型ベースモールドに、複数の針構造体を有するプラグを差し込む工程であっ
て、当該複数の針構造体は、前記雌型ベースモールドの一部の空洞に挿入され、
(c)前記針構造体が挿入されていない空洞を、雌型ベースモールドを構成する樹脂と同じ又は類似の樹脂Aを含む溶液で充填する工程、及び
(d)前記樹脂を硬化させ、その後、前記プラグを除去する工程
を含み、
前記複数の針構造体は、前記プラグにおいて、前記雌型モールドが有するパターンと同様なパターンで配置されており、
前記パターンを有する雌型モールドは、マイクロニードルアレイ又はマイクロニードルパッチを製造するために用いられる、
当該製造方法(以下「本発明の雌型モールドの製造方法1」とも言う)。
【0016】
本明細書において、マイクロニードルパッチは、個々のマイクロニードルまたはマイクロニードルアレイが、ある大きさかつ柔軟性を持つ基板の上に取り付けられた形(接着、溶着、融着など)でできているものを言う。
また、マイクロニードルアレイは、複数のマイクロニードルが特定の配列を持って形成されている状態を意味し、単なる配列の状態であっても(基板がついてない状態でも)よい。また、マイクロニードルアレイには、複数のマイクロニードルがマイクロニードルと同じか異なる材料から構成されるベース要素(マイクロニードル基板)に一体的に形成されて立設したものも含まれる。
【0017】
本明細書において、雌型ベースモールドとは、マイクロモールディング法で通常使用される雌型のマイクロモールド(金型)を意味する。
雌型ベースモールドは、多数の微小針からなる金属マスタモールドから調製される。雌型ベースモールドの材質としては、好ましくはポリジメチルシロキサン(PDMS)、SUS等が用いられる。金属マスタモールドの微小針の形状及び大きさは、目的とするマイクロニードルの形状及び大きさに合わせて適宜定めることができる。
【0018】
雌型ベースモールドは、その表面に、調製しようとするマイクロニードルの鋳型形状に対応する複数の空洞のみを有していてもよい。
また、雌型ベースモールドは、所定の深さのくぼみ部分を全面に有し、当該くぼみ部分の底部に複数の空洞を有していてもよい。この場合は、当該くぼみ部分はマイクロニードル基板の形状に対応するため、複数のマイクロニードルがマイクロニードル基板(ベース要素)に接合して立設したマイクロニードルアレイを効率的に得ることができる。
雌型ベースモールドは、所望の数の空洞を有することができる。また、空洞は、縦横に適宜設けることができる。その空洞間の間隔としては、500~5000μmが好ましい。
【0019】
本発明の雌型モールドの製造方法1の概略図を図2に示す。
【0020】
上記した雌型ベースモールドを準備し(図2の(a))、この雌型ベースモールドに、複数の針構造体を有するプラグを差し込む(図2の(b))。この時、プラグが有する複数の針構造体は、雌型ベースモールドが有する全ての空洞の一部の空洞のみに挿入される。
【0021】
このプラグは、パターン作製用のプラグである。本発明の雌型モールドの製造方法で使用するこのプラグを、「本発明のプラグ」とも言う。
本発明のプラグにおいて、複数の針構造体は、雌型ベースモールドに付与しようとするパターンと同様なパターンで配置されている。図3に本発明のプラグの概略図を示す。
図3の(a)の図では、複数の針構造体は、雌型ベースモールドに対して「A1」の文字パターンを付与できるように配列されている。この場合、雌型ベースモールドが有する空洞は、「A1」の文字パターンに対応するように針構造体が挿入される。
【0022】
本発明のプラグの非限定的例の概略図を図4に示す。
本発明のプラグは、好ましくは、支持層、支持層の上に設けられた複数の針構造体、及び、支持層と針構造体の間に支柱を備える構造を有する。
【0023】
即ち、本発明のプラグの1つの好ましい態様は、パターンを有する雌型モールドを製造するために用いられるプラグであって、
支持層、前記支持層の上に設けられた複数の針構造体、及び、支持層と針構造体の間に支柱を備え、
前記複数の針構造体は、前記プラグにおいて、前記雌型モールドが有するパターンと同様なパターンで配置されている、当該プラグである。
ここで、上記パターンを有する雌型モールドは、マイクロニードルアレイ又はマイクロニードルパッチを製造するために用いられる。
【0024】
支持層は、下部にある支柱を固定する役割を有する。プラグ支柱の歪みを防止するため、支持層の厚みは、3mm以上が好ましく、3~5mm程度がより好ましい。
【0025】
プラグの先端部の針構造体は、雌型ベースモールドの空洞にはめ込めるように当該空洞と同様の形状およびサイズを有する。
プラグの針構造体は、マスタモールドと同様の形をとり、その寸法はマスタモールドの設計値から10%程度引いた値で設計するのが好ましい。これは、マスタモールドから作ったメス型マスタモールドにおいて、先端形状からできた溝にプラグの先端がそのまま入るようにするためである。
【0026】
プラグの支柱は、後述する樹脂を含む溶液を充填する際に、空間を作るための役割を有する。また、プラグをメス型マスタモールドに差し込んだ際、横からの溶液注入のスペースを確保するため、支柱の長さは5~10mm程度であることが好ましい。
【0027】
また、プラグのサイズが大きい場合は、先端部に針構造体を有さない支柱のみを有することが好ましい。
【0028】
本発明のプラグは、好ましくは、3Dプリンターを用いて製造される。3Dプリンターを用いて製造することで、安価で簡便に製造することが可能である。
より好ましくは、本発明のプラグは、設計した図面を用いて光造形式の3Dプリンター又は熱溶解積層方式の3Dプリンターを用いて作製する。ここで、雌型ベースモールドの空洞にはめ込めるマイクロ寸法を持つプラグの先端部の精度、プラグによって形成される空洞の壁面の粗さを考慮すると、光造形式を用いるのが更に好ましい。
また、光造形式の3Dプリンターから作製した後、表面の残留物の洗浄および、後処理としてのUV照射を行い、不完全なUV硬化による残留物を除去することが好ましい。これにより、空洞を、樹脂Aを含む溶液で充填する際、入れる樹脂との化学反応を事前に防止することができる。
【0029】
本発明のプラグを製造するのに用いられる材料として3Dプリンターで使用できる樹脂、例えば、405nmの波長で硬化できるエポキシ系樹脂、またはアクリレート系樹脂や両方の混合樹脂等が使用できる。
【0030】
また、本発明の雌型モールドの製造方法1において、粘度が高い樹脂溶液を使用する場合、プラグ壁面への溶液の付着防止のために、プラグの表面に疎水性の撥水膜のコーティング処理をすることも有効である。
【0031】
プラグを雌型ベースモールドに乗せて差し込んだ後、100g程度の重り(またはキャプトンテープ等を用いて)で固定することが好ましい。これにより、密着が向上し、後述する溶液を充填した際に針構造体を挿入した空洞への侵入を防止することができる。
【0032】
本発明の雌型モールドの製造方法1の(c)の工程では、針構造体が挿入されていない空洞を、雌型ベースモールドを構成する樹脂と同じ又は類似の樹脂Aを含む溶液(以下「溶液A」とも言う)で充填する。
このような樹脂Aとしては、ポリジメチルシロキサン(PDMS)が好ましい。樹脂Aのポリジメチルシロキサンの種類、分子量などは、雌型ベースモールドを構成するポリジメチルシロキサンと同一でもよく、類似であってポリジメチルシロキサンと架橋されるポリマーであれば、よりよい。
また、当該溶液には、架橋剤(硬化剤)を含むことが好ましい。
本発明において使用できる主剤と硬化剤の組み合わせとしては、例えば、ダウコーニング社製のSILPOT184の名称(海外の場合はSYLGARD184の名称)で販売されている室温硬化型の主剤(PDMS)と硬化剤のセット(白金を触媒とし、主剤にSi-H結合を添加する反応を起こす)が挙げられる。
溶液Aにおける樹脂と硬化剤の割合は、雌型ベースモールドを製造する際における樹脂と硬化剤の割合と同程度にするのが好ましい。
【0033】
溶液Aは、粘度を下げるために、好ましくは、溶媒も含む。溶媒としては、上記の樹脂を溶解するものであれば任意のものを使用できるが、例えば、シクロヘキサン、トルエン、tert-ブチルアルコール、クロロホルム、デカメチルシクロペンタシロキサン等が挙げられる。
【0034】
溶液Aにおける樹脂(PDMS主剤)と硬化剤と溶媒の割合は、好ましくは、PDMS主剤:硬化剤:溶媒=10:1:10(質量比)が好ましい。
【0035】
空洞を溶液Aで充填する際に、均一に充填できるように雌型ベースモールドに超音波振動をかけることが好ましい。
【0036】
本発明の雌型モールドの製造方法の(c)の工程では、樹脂を硬化させ、その後、前記プラグを除去する。
硬化は、50~60℃程度に設定したホットプレートなどの上で所定時間(例えば、1時間程度)加熱し、完全に硬化させる。その後、プラグを除去することにより、パターンを有する雌型モールドを得ることができる。
【0037】
(1-2)本発明の雌型モールドの製造方法2
本発明者らは、更に検討を行い、フォトリソグラフィプロセスを用いたフォトレジストのパターニングによっても、本発明の雌型モールドの製造方法1と同様に、パターンを有する雌型モールドを製造できることを見出した。即ち、本発明のもう1つの実施態様は、パターンを有する雌型モールドを製造する方法であって、
(A)複数の空洞を有する雌型ベースモールドを提供する工程、及び
(B)パターンを有する雌型モールドを得る工程であって、以下の(a1)又は(b1)の工程;
(a1)前記雌型ベースモールドにフォトレジスト層を形成し、フォトマスクを通して前記フォトレジスト層を部分的に露光し、露光した前記フォトレジスト層を現像液に浸漬けさせて、パターンを有する雌型モールドを得る工程、
(b1)以下の(i)~(iii)を含む工程:
(i)前記雌型ベースモールド上にフォトレジスト層を形成し、フォトマスクを通して前記フォトレジスト層を部分的に露光し、露光した前記フォトレジスト層を現像液に浸漬けさせて、パターンを有する雌型モールドAを得ること、
(ii)前記パターンを有する雌型モールドAの空洞の部分に、雌型ベースモールドを構成する樹脂と同じ又は類似の樹脂Aを含む溶液を充填し、前記樹脂Aを硬化させること、及び
(iii)溶媒を用いてフォトレジスト層を溶解させることにより、パターンを有する雌型モールドを得ること
を含み、
前記パターンを有する雌型モールドは、マイクロニードルアレイ又はマイクロニードルパッチを製造するために用いられる、
当該製造方法である(以下「本発明の雌型モールドの製造方法2」とも言う)。
【0038】
本発明の雌型モール00370037ドの製造方法2においては、従来の半導体作製技術である微細パターン作製が可能なフォトリソグラフィを使用することによって、プラグを用いる本発明の雌型モールドの製造方法1に比べてより精密なパターンを作製することができ、これにより微細なパターンを有するモールドを作製することが可能である。
【0039】
ここで、本発明の雌型モールドの製造方法2には、上記の(B)の工程において、(a1)の工程を用いる態様(「本発明の雌型モールドの製造方法2a」とも言う)、及び(b1)の工程を用いる態様(「本発明の雌型モールドの製造方法2b」とも言う)がある。
【0040】
本発明の雌型モールドの製造方法2の工程(A)は、本発明の雌型モールドの製造方法1における工程(a)に対応しており、その詳細については、本発明の雌型モールドの製造方法1で説明した通りである。
【0041】
本発明の雌型モールドの製造方法2aでは、(B)の工程において、(a1)の工程を用いるが、当該工程は、雌型ベースモールド上にフォトレジスト層を形成すること(ステップ1)、フォトマスクを通して前記フォトレジスト層を部分的に露光すること(ステップ2)、露光した前記フォトレジスト層を現像液に浸漬けさせて、パターンを有する雌型モールドを得ること(ステップ3)を含む。
【0042】
ステップ1で用いるフォトレジストとしては、ネガタイプ、ポジタイプのいずれも適用することができる。
フォトレジストとしては種々のものを使用できるが、例えば、AZシリーズフォトレジスト(MicroChemical社)、S1800シリーズ(Micro resist technology社)、OFPR/TSMRシリーズ(東京応化工業社)、SU8/KMPRシリーズ(Kayaku Advanced Materials社)等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0043】
雌型ベースモールド上にフォトレジスト層を形成するには、雌型ベースモールド上にフォトレジストを塗布し、その後、ベーク(通常、100℃前後で1~10秒程度で加熱)して、溶媒を蒸発させレジストを硬化させて行うことができる。フォトレジストの塗布は、通常、スピンコート(1000~4000rpm/60s)により行うことができる。
フォトレジスト層の厚みとしては、特に限定されないが、1.5~50μm程度、好ましくは1.5~10μm程度である。
【0044】
ステップ2で用いるフォトマスクは、パターンを有しており、使用するフォトレジストがポジタイプであるかネガタイプであるかにより、作製しようとする雌型モールドのパターンに応じてパターンを選定する。例えば、ポジタイプのフォトレジストを使用する場合は、露光部のレジストの溶解性が増大し、その後の現像の工程で溶解し空洞を有することとなり、一方、非露光部のレジストは残るため空洞が埋まったパターンが形成される。
他方、ネガタイプのフォトレジストを使用する場合は、露光部のレジストの溶解性が低下し、その後の現像の工程で露光部が残るため空洞が埋まり、一方、非露光部のレジストは溶解するため空洞を有するパターンが形成される。
【0045】
露光は、パターン入りのフォトマスクをフォトレジスト層の表面に接触させてから、通常50~350mJ/cmのエネルギーで紫外線を照査して行う。
【0046】
現像液としては、ネガ型現像剤は、有機溶媒現像剤、例えば、ケトン、エステル、エーテル、炭化水素、及びそれらの混合物から選択される溶媒である。ポジ型現像剤は、塩基性成分の水溶液、例えば、水酸化カリウム、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、及びそれらの混合物から選択される溶媒である。
【0047】
本発明の雌型モールドの製造方法2bでは、(B)の工程において(b1)の工程を用い、当該工程は(i)~(iii)のステップを含む。
(i)のステップは、前記雌型ベースモールド上にフォトレジスト層を形成し、フォトマスクを通して前記フォトレジスト層を部分的に露光し、露光した前記フォトレジスト層を現像液に浸漬けさせて、パターンを有する雌型モールドAを得ることであり、これは、本発明の雌型モールドの製造方法2aでの(a1)の工程と基本的に同じである(得られるパターンを有する雌型モールドを区別するため、「パターンを有する雌型モールドA」と記載している)。
ここで、(b1)の工程で形成するフォトレジスト層の厚みとしては、前記した(a1)の工程で形成するフォトレジスト層の厚みよりも厚膜にすることが好ましく、例えば、5~20μm程度にすることが好ましい。(b1)の工程では、後述する(ii)のステップにおいて、(i)で得られたパターンを有する雌型モールドAの空洞の部分に、雌型ベースモールドを構成する樹脂と同じ又は類似の樹脂Aを含む溶液を充填するため、空洞の部分とフォトレジスト層のある部分との境界をより明確にするのが好ましいためである。フォトレジストをより低い回転数(例えば、100~500rpm/60s)でスピンコートすることで、フォトレジスト層を厚膜化することが可能である。
【0048】
(ii)のステップでは、パターンを有する雌型モールドAの空洞の部分に、雌型ベースモールドを構成する樹脂と同じ又は類似の樹脂Aを含む溶液を充填し、樹脂Aを硬化させる。ここで、雌型ベースモールドを構成する樹脂と同じ又は類似の樹脂Aを含む溶液(溶液A)は、本発明の雌型モールドの製造方法1における工程(c)で用いるものと同じであり、その詳細については、本発明の雌型モールドの製造方法1で説明した通りである。
【0049】
(iii)のステップでは、溶媒を用いてフォトレジスト層を溶解させることにより、パターンを有する雌型モールドを得る。ここで、使用する溶媒は、フォトレジストを溶解させるのに通常使用されるものでよく、例えば、アセトンやフォトレジストリムーバー(AZ remover 100、MicroChemicals社製)を用いることができる。
また、(iii)のステップでは、溶媒を用いてフォトレジストを溶解させることによって、フォトレジスト層の上に形成されている溶液Aの固化物(PDMS等を含む)も同時に除去する(リフトオフ)ことができる。
【0050】
2.パターンを有するマイクロニードルアレイ又はマイクロニードルパッチを製造する方法
(2-1)本発明のもう1つの実施態様は、パターンを有するマイクロニードルアレイを製造する方法であって、
(1)複数の空洞を有する雌型ベースモールドを提供する工程、
(2)前記雌型ベースモールドに、複数の針構造体を有するプラグを差し込む工程であって、当該複数の針構造体は、前記雌型ベースモールドの一部の空洞に挿入され、
(3)前記針構造体が挿入されていない空洞を、雌型ベースモールドを構成する樹脂と同じ又は類似の樹脂Aを含む溶液で充填する工程、
(4)前記樹脂を硬化させ、その後、前記プラグを除去することにより、パターンを有する雌型モールドを得る工程、
(5)生体溶解性材料を含む溶液又は懸濁液を、工程(4)で得られた雌型モールドに注入する工程、及び
(6)前記溶液を乾燥し、乾燥後に、パターンを有するマイクロニードルアレイを前記雌型モールドから取り出す工程、
を含み、
前記複数の針構造体は、前記プラグにおいて、前記雌型モールドが有するパターンと同様なパターンで配置されている、
当該製造方法である(以下「本発明のマイクロニードルアレイの製造方法A」とも言う)。
【0051】
本発明のマイクロニードルアレイの製造方法における(1)~(4)の工程は、上記で説明した本発明の雌型モールドの製造方法の(a)~(d)の工程と同じである。
【0052】
本発明のマイクロニードルアレイの製造方法における(5)の工程では、生体溶解性材料を含む溶液又は懸濁液(以下「溶液B又は懸濁液B」とも言う)を、(4)の工程で得られたパターンを有する雌型モールドに注入する。
【0053】
本明細書において、生体溶解性材料は、体内の体液と接した際、化学反応(主に加水分解)により材料が体内へ溶け出して(溶解)最後には周りの組織などにすべて吸収される材料を意味する。本発明のマイクロニードルに使用される生体溶解性材料は、生体適合性、即ち、材料が生体内の組織と接した際、副反応や異物の生成や反応が生じない特性も有することが好ましい。このような生体溶解性材料としては、ヒアルロン酸、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン及びカルボキシメチルセルロースからなる群から選択される少なくとも1つである。
【0054】
溶液B又は懸濁液Bは、生体溶解性材料を水又は有機溶媒に溶解、あるいは分散している液を意味する、
溶液Bは、生体溶解性材料を水又は有機溶媒に溶解させることにより得ることができる。有機溶媒としては、生分解性材料を溶解する溶媒であれば、特に限定されないが、例えば、ジクロロメタン、アセトン等が挙げられる。
懸濁液Bは、生体溶解性材料を水に分散(任意に界面活性剤を添加してもよい)させることにより得ることができる。
【0055】
溶液B又は懸濁液Bは、好ましくは、染料、顔料を含有する。
皮膚をマーキングするための染料は、色素沈着した皮膚を透過し、光退色に耐性があり、マイクロニードルが適用される対象に対して安全であり、比較的高い量子収率を持ち、負荷量が高く、バックグラウンドノイズが低く、かつ/または in vivo環境での温度、pH、または酸化の変動に対して、少なくとも1年、2年、3年、4年、5年、またはより長いことが好ましい。
染料は、不溶性物質であることが好ましい。
染料としては、無機ナノ結晶、ランタニドベースの染料、他のフルオロフォア、および非蛍光造影剤からなる群から選択される。
【0056】
顔料としては、不溶性で、かつ、体内での安全性が認められている有機または無機顔料が好ましい。
本発明のマイクロニードルを用いてタトゥーのパターンを形成する場合は、不溶性の顔料が通常使用される。
【0057】
本発明の1つの態様において、顔料は、炭素またはタトゥーインク、または化粧用インクである。
黒にはカーボン(すすや灰)がよく使用される。
顔料として使用される他の元素には、アンチモン、ヒ素、ベリリウム、カルシウム、銅、リチウム、セレン、および硫黄が含まれる。
タトゥーインクのメーカーは通常、製造コストを削減するために、重金属顔料をブレンドしたり、軽量化剤(鉛やチタンなど)を使用したりする。
一部の顔料には、黄土色などの無機材料が含まれている。また、ヘナなどの天然素材を使用してもよい。
【0058】
本発明のマイクロニードルアレイの製造方法における(6)の工程では、溶液Bを乾燥し、乾燥後に、パターンを有するマイクロニードルアレイを前記雌型モールドから取り出す。
乾燥は、例えば、相対湿度が5~10%程度の環境下で24~30時間程度で行う。
【0059】
本発明のもう1つの側面は、本発明の雌型モールドの製造方法1により別途作製されたパターンを有する雌型モールドを用いて、本発明のマイクロニードルアレイを製造する方法である。
即ち、本発明のもう1つの態様は、パターンを有するマイクロニードルアレイを製造する方法であって
(0)本発明の雌型モールドの製造方法1により作製されたパターンを有する雌型モールドを提供する工程、
(5)生分解性材料を含む溶液を、前記パターンを有する雌型モールドに注入する工程、及び
(6)前記溶液を乾燥し、乾燥後に、パターンを有するマイクロニードルアレイを前記雌型モールドから取り出す工程、
を含む、
当該製造方法である(以下「本発明のマイクロニードルアレイの製造方法A2」とも言う)。
【0060】
また、本発明のもう1つの態様は、本発明のマイクロニードルアレイの製造方法A又は本発明のマイクロニードルアレイの製造方法A2により得られるマイクロニードルアレイである(以下「本発明のマイクロニードルアレイA」とも言う)。
【0061】
本発明のマイクロニードルアレイは、複数のマイクロニードルが特定の配列を持って形成されている状態、即ち、単なる配列の状態であっても(基板がついてない状態でも)よい。
また、本発明のマイクロニードルアレイAは、複数のマイクロニードルがマイクロニードルと同じか異なる材料から構成されるマイクロニードル基板に一体的に形成されて立設したものでもよい。例えば、雌型ベースモールドが、所定の深さのくぼみ部分を全面に有し、当該くぼみ部分の底部に複数の空洞を有している場合は、当該くぼみ部分はマイクロニードル基板の形状に対応するため、複数のマイクロニードルがマイクロニードル基板(ベース要素)に接合して立設したマイクロニードルアレイを得ることができる。
【0062】
また、本発明のもう1つの態様は、パターンを有するマイクロニードルパッチを製造する方法であって、
(1)複数の空洞を有する雌型ベースモールドを提供する工程、
(2)前記雌型ベースモールドに、複数の針構造体を有するプラグを差し込む工程であって、当該複数の針構造体は、前記雌型ベースモールドの一部の空洞に挿入され、
(3)前記針構造体が挿入されていない空洞を、雌型ベースモールドを構成する樹脂と同じ又は類似の樹脂Aを含む溶液で充填する工程、
(4)前記樹脂Aを硬化させ、その後、前記プラグを除去することにより、パターンを有する雌型モールドを得る工程、
(5)生体溶解性材料を含む溶液又は懸濁液を、工程(4)で得られた雌型モールドに注入する工程、及び
(6a)前記溶液を乾燥し、乾燥後に、パターンを有するマイクロニードルアレイを支持用シートに取り付けて取り出す工程、
を含み、
前記複数の針構造体は、前記プラグにおいて、前記雌型モールドが有するパターンと同様なパターンで配置されている、
当該製造方法である(以下「本発明のマイクロニードルパッチの製造方法A1」とも言う)。
【0063】
また、本発明のもう1つの態様は、パターンを有するマイクロニードルパッチを製造する方法であって、
(1)複数の空洞を有する雌型ベースモールドを提供する工程、
(2)前記雌型ベースモールドに、複数の針構造体を有するプラグを差し込む工程であって、当該複数の針構造体は、前記雌型ベースモールドの一部の空洞に挿入され、
(3)前記針構造体が挿入されていない空洞を、雌型ベースモールドを構成する樹脂と同じ又は類似の樹脂Aを含む溶液で充填する工程、
(4)前記樹脂Aを硬化させ、その後、前記プラグを除去することにより、パターンを有する雌型モールドを得る工程、
(5)生体溶解性材料を含む溶液又は懸濁液を、工程(4)で得られた雌型モールドに注入する工程、及び
(6)前記溶液を乾燥し、乾燥後に、パターンを有するマイクロニードルパッチを前記雌型モールドから取り出す工程、
を含み、
前記複数の針構造体は、前記プラグにおいて、前記雌型モールドが有するパターンと同様なパターンで配置されている、
当該製造方法(以下「本発明のマイクロニードルパッチの製造方法A2」とも言う)。
【0064】
本発明のマイクロニードルパッチの製造方法A1及びA2における、工程(1)~(6)の詳細については、本発明のマイクロニードルアレイの製造方法Aで詳述した通りである。
【0065】
また、本発明のマイクロニードルパッチの製造方法A1及びA2の1つの異なる態様において、本発明のマイクロニードルアレイの製造方法A2と同様に、夫々、工程(1)~(4)に代えて、工程(0)として、本発明の雌型モールドの製造方法により作製されたパターンを有する雌型モールドを提供する工程を、工程(5)の前に設けることができる。これらの態様を、それぞれ、「本発明のマイクロニードルパッチの製造方法A1b」、「本発明のマイクロニードルパッチの製造方法A2b」とも言う。
【0066】
本発明のもう1つの態様は、本発明のマイクロニードルパッチの製造方法A1、A1b、A2又はA2bにより得られるマイクロニードルパッチである(以下「本発明のマイクロニードルパッチA」とも言う)。
【0067】
本発明のマイクロニードルパッチAは、個々のマイクロニードルまたはマイクロニードルアレイが、ある大きさかつ柔軟性を持つ基板(支持用シート)の上に取り付けられた形(接着、溶着、融着など)で構成されている。
支持用シートは、マイクロニードルと同様の生体溶解性材料で形成されていてもよく、あるいは、他の生体適合性を有する材料で構成されていてもよい。
生体適合性材料としては、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ(ラクチド-co-グリコリド)共重合体、PEG共重合体、ポリヒドロキシ酪酸、エチルセルロースなどが挙げられる。
【0068】
本発明のマイクロニードルパッチAにおける支持用シートは、別途作製したシート状のものを貼り合わせてもよい。このようなマイクロニードルパッチは、本発明のマイクロニードルパッチの製造方法A1又はA1bにより製造される。この場合、工程(6a)で、パターンを有するマイクロニードルアレイを雌型モールドから取り出す際に、当該マイクロニードルアレイを別途準備した支持用シートに貼り合わせて取り出すことで、パターンを有するマイクロニードルパッチを得ることができる。
【0069】
本発明のマイクロニードルパッチAにおいて、マイクロニードルと支持用シートを同じ材料で作製する場合は、本発明のマイクロニードルパッチの製造方法A2又はA2bにより製造される。
具体的には、工程(5)において、生体溶解性材料を含む溶液又は懸濁液を雌型モールドに注入する際に、支持用シートの厚さに相当する分だけ溶液又は懸濁液の量を多く充填し、これを乾燥し、乾燥後に、雌型モールドから取り出すことにより、本発明のマイクロニードルパッチを得ることができる。
また、工程(5)において、生体溶解性材料を含む溶液又は懸濁液を雌型モールドに注入する際に、雌型モールドの空洞の部分だけに、生体溶解性材料、染料及び/又は顔料を含む溶液又は懸濁液を注入し、支持用シートの厚さに相当する分については、生体溶解性材料を含むが、染料及び/又は顔料を含まない溶液又は懸濁液溶液又は懸濁液を充填し、これを乾燥し、乾燥後に、雌型モールドから取り出すことにより、本発明のマイクロニードルパッチを得ることができる。
【0070】
また、支持用シートが他の生体適合性を有する材料で構成されている本発明のマイクロニードルパッチAは、本発明のマイクロニードルパッチの製造方法A2又はA2bの工程(5)において、生体溶解性材料を含む溶液又は懸濁液を雌型モールドに注入する際に、雌型モールドの空洞の部分だけに、生体溶解性材料、染料及び/又は顔料を含む溶液又は懸濁液を注入し、支持用シートの厚さに相当する分については、他の生体適合性を有する材料を含む溶液又は懸濁液溶液又は懸濁液を充填し、これを乾燥し、乾燥後に、雌型モールドから取り出すことにより得ることもできる。このようなマイクロニードルパッチの製造方法も本発明の範囲内である。
【0071】
本発明のマイクロニードルパッチAの非限定的例の概略図を図5に示す。
本発明のマイクロニードルパッチは、生体溶解性ポリマーと、好ましくは不溶性物質で構成されるパターンを有する微細針構造を有する。
また、本発明のマイクロニードルパッチは、生体適合性ポリマー又は生体溶解性ポリマーで構成される支持用シートを有する。
【0072】
(2-2)本発明者らは、更に検討を行い、フォトリソグラフィプロセスを用いたフォトレジストのパターニングによっても、本発明のマイクロニードルアレイの製造方法A、本発明のマイクロニードルパッチの製造方法A等と同様に、パターンを有するマイクロニードルアレイ又はマイクロニードルパッチを製造できることを見出した。即ち、本発明のもう1つの実施態様は、パターンを有するマイクロニードルアレイを製造する方法であって、
(A)複数の空洞を有する雌型ベースモールドを提供する工程、
(B)パターンを有する雌型モールドを得る工程であって、以下の(a1)又は(b1)の工程;
(a1)前記雌型ベースモールド上にフォトレジスト層を形成し、フォトマスクを通して前記フォトレジスト層を部分的に露光し、露光した前記フォトレジスト層を現像液に浸漬けさせて、パターンを有する雌型モールドを得る工程、
(b1)以下の(i)~(iii)を含む工程:
(i)前記雌型ベースモールド上にフォトレジスト層を形成し、フォトマスクを通して前記フォトレジスト層を部分的に露光し、露光した前記フォトレジスト層を現像液に浸漬けさせて、パターンを有する雌型モールドAを得ること、
(ii)前記パターンを有する雌型モールドAの空洞の部分に、雌型ベースモールドを構成する樹脂と同じ又は類似の樹脂Aを含む溶液を充填し、前記樹脂Aを硬化させること、及び
(iii)溶媒を用いてフォトレジストを溶解させることにより、パターンを有する雌型モールドを得ること
(C)生体溶解性材料を含む溶液又は懸濁液を、工程(2)で得られたパターンを有する雌型モールドに注入する工程、及び
(D)前記溶液又は懸濁液を乾燥し、乾燥後に、パターンを有するマイクロニードルアレイを前記雌型モールドから取り出す工程、
を含む、
当該製造方法である(以下「本発明のマイクロニードルアレイの製造方法B」とも言う)。
【0073】
本発明のマイクロニードルアレイの製造方法Bにおいて、(A)~(B)の工程は、本発明の雌型モールドの製造方法2の(A)~(B)の工程と同じであり、その詳細は、本発明の雌型モールドの製造方法2で説明した通りである。
また、本発明のマイクロニードルアレイの製造方法Bの(C)~(D)の工程は、本発明のマイクロニードルアレイの製造方法Aにおける(5)~(6)の工程と実質的に同じであり、その詳細は、本発明のマイクロニードルアレイの製造方法Aで説明した通りである。
【0074】
本発明のマイクロニードルアレイの製造方法Bの非限定的な模式図を図9に示す。
図9において、上段の(a)~(d)の工程からなる方法は、上記(B)の工程で(a1)の工程を用いる本発明のマイクロニードルアレイの製造方法Bの非限定的な模式図を表す。
また、図9において、(a)、(b)、(c’)~(e’)及び(f’)の工程からなる方法は、上記(B)の工程で(b1)の工程を用いる本発明のマイクロニードルアレイの製造方法Bの非限定的な模式図を表す。
【0075】
本発明のもう1つの側面は、本発明の雌型モールドの製造方法2により別途作製されたパターンを有する雌型モールドを用いて、本発明のマイクロニードルアレイを製造する方法である。
即ち、本発明のもう1つの態様は、パターンを有するマイクロニードルアレイを製造する方法であって
(0’)本発明の雌型モールドの製造方法2により作製されたパターンを有する雌型モールドを提供する工程、
(C)生分解性材料を含む溶液又は懸濁液を、前記パターンを有する雌型モールドに注入する工程、及び
(D)前記溶液又は懸濁液を乾燥し、乾燥後に、パターンを有するマイクロニードルアレイを前記雌型モールドから取り出す工程、
を含む、
当該製造方法である(以下「本発明のマイクロニードルアレイの製造方法B2」とも言う)。
【0076】
また、本発明のもう1つの態様は、本発明のマイクロニードルアレイの製造方法B又は本発明のマイクロニードルアレイの製造方法B2により得られるマイクロニードルアレイである(以下「本発明のマイクロニードルアレイB」とも言う)。
【0077】
本発明のマイクロニードルアレイBは、複数のマイクロニードルが特定の配列を持って形成されている状態、即ち、単なる配列の状態であっても(基板がついてない状態でも)よい。
また、本発明のマイクロニードルアレイBは、複数のマイクロニードルがマイクロニードルと同じか異なる材料から構成されるマイクロニードル基板に一体的に形成されて立設したものでもよい。例えば、雌型ベースモールドが、所定の深さのくぼみ部分を全面に有し、当該くぼみ部分の底部に複数の空洞を有している場合は、当該くぼみ部分はマイクロニードル基板の形状に対応するため、複数のマイクロニードルがマイクロニードル基板(ベース要素)に接合して立設したマイクロニードルアレイを得ることができる。
【0078】
また、本発明のもう1つの態様は、パターンを有するマイクロニードルパッチを製造する方法であって、
パターンを有するマイクロニードルパッチを製造する方法であって、
(A)複数の空洞を有する雌型ベースモールドを提供する工程、
(B)パターンを有する雌型モールドを得る工程であって、以下の(a1)又は(b1)の工程;
(a1)前記雌型ベースモールドにフォトレジスト層を塗布し、フォトマスクを通して前記フォトレジスト層を部分的に露光し、露光した前記フォトレジスト層を現像液に浸漬けさせて、パターンを有する雌型モールドを得る工程、
(b1)以下の(i)~(iii)を含む工程:
(i)前記雌型ベースモールドにフォトレジスト層を塗布し、フォトマスクを通して前記フォトレジスト層を部分的に露光し、露光した前記フォトレジスト層を現像液に浸漬けさせて、パターンを有する雌型モールドAを得ること、
(ii)前記パターンを有する雌型モールドAの空洞の部分に、雌型ベースモールドを構成する樹脂と同じ又は類似の樹脂Aを含む溶液を充填し、前記樹脂Aを硬化させること、及び
(iii)溶媒を用いてフォトレジストを溶解させることにより、パターンを有する雌型モールドを得ること
(C)生体溶解性材料を含む溶液又は懸濁液を、工程(2)で得られたパターンを有する雌型モールドに注入する工程、及び
(D1)前記溶液又は懸濁液を乾燥し、乾燥後に、パターンを有するマイクロニードルアレイを支持用シートに取り付けて取り出す工程、
を含む、
当該製造方法である(以下「本発明のマイクロニードルパッチの製造方法B1」とも言う)。
【0079】
また、本発明のもう1つの態様は、パターンを有するマイクロニードルパッチを製造する方法であって、
(A)複数の空洞を有する雌型ベースモールドを提供する工程、
(B)パターンを有する雌型モールドを得る工程であって、以下の(a1)又は(b1)の工程;
(a1)前記雌型ベースモールドにフォトレジスト層を塗布し、フォトマスクを通して前記フォトレジスト層を部分的に露光し、露光した前記フォトレジスト層を現像液に浸漬けさせて、パターンを有する雌型モールドを得る工程、
(b1)以下の(i)~(iii)を含む工程:
(i)前記雌型ベースモールドにフォトレジスト層を塗布し、フォトマスクを通して前記フォトレジスト層を部分的に露光し、露光した前記フォトレジスト層を現像液に浸漬けさせて、パターンを有する雌型モールドAを得ること、
(ii)前記パターンを有する雌型モールドAの空洞の部分に、雌型ベースモールドを構成する樹脂と同じ又は類似の樹脂Aを含む溶液を充填し、前記樹脂Aを硬化させること、及び
(iii)溶媒を用いてフォトレジストを溶解させることにより、パターンを有する雌型モールドを得ること
(C)生体溶解性材料を含む溶液又は懸濁液を、工程(2)で得られたパターンを有する雌型モールドに注入する工程、及び
(D)前記溶液又は懸濁液を乾燥し、乾燥後に、パターンを有するマイクロニードルパッチを前記雌型モールドから取り出す工程、
を含む、
当該製造方法(以下「本発明のマイクロニードルパッチの製造方法B2」とも言う)。
【0080】
本発明のマイクロニードルパッチの製造方法B1及びB2における、工程(A)~(D)又は(D1)の詳細については、本発明のマイクロニードルアレイの製造方法B、及び、本発明のマイクロニードルパッチの製造方法A1及びA2で詳述した通りである。
【0081】
また、本発明のマイクロニードルパッチの製造方法B1及びB2の1つの異なる態様において、本発明のマイクロニードルアレイの製造方法B2と同様に、夫々、工程(A)~(B)に代えて、工程(0’)として、本発明の雌型モールドの製造方法2により作製されたパターンを有する雌型モールドを提供する工程を、工程(C)の前に設けることができる。これらの態様を、それぞれ、「本発明のマイクロニードルパッチの製造方法B1b」、「本発明のマイクロニードルパッチの製造方法B2b」とも言う。
【0082】
本発明のマイクロニードルアレイの製造方法B等や、本発明のマイクロニードルパッチの製造方法B1及びB2等においては、従来の半導体作製技術である微細パターン作製が可能なフォトリソグラフィを使用することによって、前述したプラグを用いる本発明のマイクロニードルアレイの製造方法A等に比べてより精密なパターンを作製することができ、これにより微細なパターンを有するマイクロニードルアレイ又はマイクロニードルパッチを作製することが可能である。
【0083】
本発明のもう1つの態様は、本発明のマイクロニードルパッチの製造方法B1、B1b、B2又はB2bにより得られるマイクロニードルパッチである(以下「本発明のマイクロニードルパッチB」とも言う)。
【0084】
本発明のマイクロニードルパッチBは、個々のマイクロニードルまたはマイクロニードルアレイが、ある大きさかつ柔軟性を持つ基板(支持用シート)の上に取り付けられた形(接着、溶着、融着など)で構成されている。
支持用シート、生体適合性材料の詳細については、本発明のマイクロニードルパッチAで詳述したのと同様である。
【0085】
本発明のマイクロニードルパッチBにおける支持用シートは、別途作製したシート状のものを貼り合わせてもよい。このようなマイクロニードルパッチは、本発明のマイクロニードルパッチの製造方法B1又はB1bにより製造される。この場合、工程(D1)で、パターンを有するマイクロニードルアレイを雌型モールドから取り出す際に、当該マイクロニードルアレイを別途準備した支持用シートに貼り合わせて取り出すことで、パターンを有するマイクロニードルパッチを得ることができる。
【0086】
本発明のマイクロニードルパッチBにおいて、マイクロニードルと支持用シートを同じ材料で作製する場合は、本発明のマイクロニードルパッチの製造方法B2又はB2bにより製造される。
具体的には、工程(C)において、生体溶解性材料を含む溶液又は懸濁液を雌型モールドに注入する際に、支持用シートの厚さに相当する分だけ溶液又は懸濁液の量を多く充填し、これを乾燥し、乾燥後に、雌型モールドから取り出すことにより、本発明のマイクロニードルパッチBを得ることができる。
また、工程(C)において、生体溶解性材料を含む溶液又は懸濁液を雌型モールドに注入する際に、雌型モールドの空洞の部分だけに、生体溶解性材料、染料及び/又は顔料を含む溶液又は懸濁液を注入し、支持用シートの厚さに相当する分については、生体溶解性材料を含むが、染料及び/又は顔料を含まない溶液又は懸濁液溶液又は懸濁液を充填し、これを乾燥し、乾燥後に、雌型モールドから取り出すことにより、本発明のマイクロニードルパッチBを得ることができる。
【0087】
また、支持用シートが他の生体適合性を有する材料で構成されている本発明のマイクロニードルパッチBは、本発明のマイクロニードルパッチの製造方法B2又はB2bの工程(C)において、生体溶解性材料を含む溶液又は懸濁液を雌型モールドに注入する際に、雌型モールドの空洞の部分だけに、生体溶解性材料、染料及び/又は顔料を含む溶液又は懸濁液を注入し、支持用シートの厚さに相当する分については、他の生体適合性を有する材料を含む溶液又は懸濁液溶液又は懸濁液を充填し、これを乾燥し、乾燥後に、雌型モールドから取り出すことにより得ることもできる。このようなマイクロニードルパッチの製造方法も本発明の範囲内である。
【0088】
本発明のマイクロニードルパッチ(以下では、本発明のマイクロニードルパッチA及びBを含めて「本発明のマイクロニードルパッチ」ともいう)の微細針(即ち、マイクロニードル)の直径は、通常10μm~60μmである。また、基部の径または最大寸法は、例えば50μm~800μm程度である。
また、微細針(マイクロニードル)の高さは、皮内への進入深さを規定する。本発明のマイクロニードルパッチでは、真皮に到達し、かつ痛覚を刺激しないことを考慮して、300μm以上1500μm以下とするのが好ましい。
【0089】
微細針の間隔は、500μm~5000μmの間隔が好ましい。
【0090】
微細針の先端の角度としては、角度が大きいと機械的強度が大きくなるが、大きな先端角度では侵入する際の力が大きくなる。先端の角度が、15~30°であると、マイクロニードルが侵入するのに必要な力が0.2N未満となり、好ましい。
【0091】
本発明のマイクロニードルパッチは、微細な針構造体の配列を有し、これを用いた新しい標識付けの方法を提供することができる。マイクロニードルパッチを貼付することで標識付けの作業が完了するため、従来の標識付け方法に比べて、時間的・金銭的な資源の節約または、それにかかわるロスが減らすことができる。
【0092】
針構造体の構造の面において、その長さと幅はミクロン(1/1000ミリメートル)単位となり、かつ作製工程において長さの調整が可能である。そこで、標識付け方法の対象となる動物の皮膚の厚みを考慮した標識付け用マイクロニードルパッチも作製方法の変更なしで作製することができる。そのため、様々な動物への適応も可能と考えられる。
また、痛覚神経が存在する皮膚層に届かないようにできるため、取り付けの際の痛みを最低限に抑えられる。その結果、従来の標識付けの際に行われる動物の麻酔や拘束が不要となる。更に、皮膚に貼付するのみで標識付けができるため、麻酔と止血のような後処理が不要になることより、医療従事者の同席が必要なく、一般の人でも標識付けの施術ができる。
また、作製工程の完了の際、乾燥状態のパッチ(発明の実施例のパッチ)として仕上げられるため、室温で長期間保管と管理が可能である。
【0093】
材料の面において、針構造体自体が体内で溶けだす生体適合性を有する溶解性材料(カルボキシルメチルセルロース、ヒアルロン酸などを含む生体溶解性ポリマー)でできているため、皮膚への貼付の後、不溶性インクを除いてすべての針構造体が溶け出して体内に吸収される。その結果、最終的にはパッチの支持用シートのみが残るため、標識付け用の道具が要らなくなり、かつ廃棄物の低減が可能となると共に、体液の漏れがないため、従来標識付けの際に注意が必要であった2次感染のリスクもなくなる。
標識付けの際、針構造体に入っている不溶性物質(有機または無機顔料、人工及び天然化合物を含むインク)のみが皮膚内に残る。その際、針構造体の配列を特定の文字又は数字のパターンにデザインすることより、皮膚貼付後、パターンのデザイン通りに不溶性物質が皮膚内に注入される。そこで皮膚の中に注入された不溶性物質は、皮膚層内でマクロファージ細胞によって捕捉と排出が繰り返されるため、不溶性物質の物理的な除去をしない限り、永久的に残存することになる。その結果、マイクロニードルパッチの貼付という一回の施術で簡便に標識付けが可能となり、従来の標識用タグの脱落による再施術の必要性もなくなる。
【0094】
3.本発明のマイクロニードルパッチの適用
上記の通り、本発明のマイクロニードルパッチは、動物(産業用動物と家庭動物(ペット))の識別用標識付けに好適に使用することができる。
【0095】
また、本発明のマイクロニードルパッチは、好ましくは、3Dプリンターを用いて製造されるプラグを使用して、あるいは、フォトリソグラフィを使用して製造されることから、パターンを有する微細針構造を緻密に形成することができる。したがって、本発明により、例えば、微細針構造が左右シンメトリーなパターンを有し、微細針の間隔が狭いマイクロニードルパッチの組(対)を得ることができる。
美容整形の1つである、眉毛や頭皮の特定部位に黒い色素のタトゥー(入れ墨)を入れる場合、現在、皮膚科や美容外科の医師が針を1本1本用いて行っている。したがって、眉毛や頭皮の特定部位にタトゥーを入れるには、高度な熟練した技術が必要であり、左右の眉毛にタトゥーを入れるには、より高い技能が要求される。本発明のマイクロニードルパッチにおいては、左右シンメトリーなパターンを有する微細針構造を提供することができることから、眉毛や頭皮の特定部位にタトゥーを入れる場合に好適に使用することができる。
【0096】
したがって、本発明のもう1つの実施態様は、
生体溶解性ポリマー及び不溶性物質を含む、パターンを有する微細針構造、及び
生体適合性ポリマー又は生体溶解性ポリマーを含む支持用シートを有し、
眉毛又は頭皮の特定部位にタトゥーを入れるために用いられる、マイクロニードルパッチである(以下「本発明のマイクロニードルパッチX」とも言う)。
生体溶解性ポリマー、生体適合性ポリマー、微細針の形状などについては、前項で記載した本発明のマイクロニードルパッチについて記載した通りである。
【0097】
不溶性物質は、有機又は無機顔料を含むインクが好ましく、黒いタトゥーを入れる場合は、カーボン(すすや灰)がよく使用される。
顔料として使用される他の元素には、アンチモン、ヒ素、ベリリウム、カルシウム、銅、リチウム、セレン、および硫黄が含まれる。
タトゥーインクのメーカーは通常、製造コストを削減するために、重金属顔料をブレンドしたり、軽量化剤(鉛やチタンなど)を使用したりする。
一部の顔料には、黄土色などの無機材料が含まれている。また、ヘナなどの天然素材を使用してもよい。
また、黒以外の顔料を用いることで、本発明のマイクロニードルパッチXは眉毛や薄毛部分の染色、カラーリングに使用することもできる。
【0098】
また、本発明のもう1つの態様は、
生体溶解性ポリマー及び不溶性物質を含む、パターンを有する微細針構造、及び
生体適合性ポリマー又は生体溶解性ポリマーを含む支持用シートを有する、
2つのマイクロニードルパッチを備え、
各々のマイクロニードルパッチが有する微細針構造のパターンはシンメトリーである、
眉毛又は頭皮の特定部位にタトゥーを入れるために用いられるマイクロニードルパッケージである。
不溶性物質については、本発明のマイクロニードルパッチXについて記載した通りである。
【0099】
また、本発明のマイクロニードルパッチにおいて、不溶性物質として時効性インクを用いることで、特定時間のみ有効となるタトゥー型パッチを提供することができる。
即ち、本発明のもう1つの態様は、
生体溶解性ポリマー及び時効性インクを含む、パターンを有する微細針構造、及び
生体適合性ポリマー又は生体溶解性ポリマーを含む支持用シートを有する、
タトゥー型マイクロニードルパッチである。
持効性インクとしては、主に植物由来のヘナ又はジャグアタトゥー用インクなどが挙げられる。
ただし、この場合マイクロニードルの長さを300ミクロン程度に調整を行い、皮膚の浅いところの表皮層にこのインクを届けることが必要である。深い真皮層に入るとそのまま残存する可能性があるためである。
【0100】
また、本発明のマイクロニードルパッチは、傷跡を隠すための美容用パッチとしても用いることができる。
即ち、本発明のもう1つの態様は、
生体溶解性ポリマー及び不溶性物質を含む、パターンを有する微細針構造、及び
生体適合性ポリマー又は生体溶解性ポリマーを含む支持用シートを有する、
傷跡を隠すための美容用パッチに用いられる、マイクロニードルパッチである。
傷跡を隠すための美容用パッチの適用部位としては、基本的に皮膚上にできた傷跡にはすべて適用可能であるが、その中でも、マイクロニードルパッチの大きさを考慮すると、顔、首、腕などが挙げられる。
【実施例0101】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0102】
(1)機器
ワイヤー放電加工:製品名Robofil 2030si(シャルミー(CHARMILLES)製)
光造形3Dプリンター:製品名Mars 3(エレグー(ELEGOO)製)
(2)材料
・ポリジメチルシロキサン(PDMS)の主剤と硬化剤の組み合わせ:商品名:SILPOT184(海外での名称はSYLGARD184;ダウコーニング社製造)
雌型ベースモールドの作成、及び、PDMS混合液に上記の主剤と硬化剤の組み合わせを用いた。
・ヒアルロン酸(分子量14kDa;Contipro Inc.社製)
・入れ墨用インク溶液(Carbon black色:World Famous Tattoo Ink社製)
【0103】
1.プラグの作製
(1)設計の詳細
先端:マスタモールドと同様の形をとり、その寸法はマスタモールドの設計値から10%引いた値で設計する。これは、マスタモールドから作ったメス型モールドにおいて、先端形状からできた溝にプラグの先端がそのまま入るようにしたことである。ただし、個々のマイクロニードルの中心間距離はマスタモールドまたは、メス型モールドと同じ寸法にする。
支柱:プラグをメス型モールドに差し込んだ際、横からの混合液注入のスペースの確保のため、5~10mmの範囲で作製(最終デザイン10mm)。
支持層:厚み3~5mm、プラグ支柱の歪みの防止のため。
(2)設計した図面を用いて光造形3Dプリンターを用いて作製する。
上記の設計に基づいて実施例1で用いたプラグを作製した。
【0104】
[実施例1]
特定パターンを有する標識付け用マイクロニードルパッチの作製プロセスを図2に示す。本プロセスにおいて、まず、一定の長さ(ここでは900ミクロン)と形状(ピラミッド)を持つ微細針構造体を有する金属のオス型モールドを機械加工で作製した。それからオス型モールドを型とし、シリコーン樹脂(ポリジメチルシロキサン)を入れて85℃のオーブンで硬化させることにより同様の形状のメス型モールドを作製した(図2(a))。
その後、メス型モールドを、特定パターンを有するマイクロニードルパッチの作製が可能なモールドに加工するために、パターン作製用プラグをメス型モールドに差し込み圧力を加え固定した(図2(b))。ここで、パターン作製用プラグは光造形3Dプリンターを用いて作製した。そのプラグは、メス型モールドにある空洞の中、文字パターンを形成するにあたって不要な部分が埋まるように設計したパターンの形をしている(図3)。
プラグ差し込みの後、有機溶剤で希釈したシリコーン樹脂の混合液を流し込み、硬化させてからプラグを取り外すことより特定の部分が埋まった文字パターン入りのパッチの作製が可能なメス型モールドを作製した(図2(c))。それから不溶性インク(ここでは入れ墨用インク使用)と溶解性ポリマー溶液を混ぜた混合液をモールドに充填し、乾燥させることにより、特定の文字パターンに該当する部分のみに微細針構造体が形成された標識付け用マイクロニードルパッチを作製した((図2(d-f))、図6
【0105】
実施例1のパターンを有するマイクロニードルパッチの作製プロセスの詳細は以下の通りである。
1.ワイヤー放電加工(またはNC加工)を用いて金属でできたマイクロニードルパッチのマスタモールドを作製した。
2.マスタモールドと、シリコーンゴム(ポリジメチルシロキサン,PDMS)の主剤、硬化剤を質量比10:1の割合で混ぜた混合液を容器に入れ、真空引きで脱泡し、85℃のオーブンに入れて1時間加熱硬化した。その後、離型によってメス型のベースモールドが得られた。(a)
3.後述のプラグをベースモールドに乗せ、100gの重り(またはキャプトンテープ等を用いて)で固定した(密着向上によって混合液の溝への侵入を防止するため)。
4.シリコーンゴム(ポリジメチルシロキサン,PDMS)の主剤、硬化剤、ヘキサン(またはDOWSIL(登録商標)、200 Fluid)を質量比10:1:10の割合で混ぜて粘度が低いPDMS混合液を作る。3の混合液を2のモールド内に流し込んだ。(b)
5.60℃設定のホットプレート上で30分加熱し、完全に硬化させてからプラグを除去した。(c)
6.10%のヒアルロン酸(分子量14kDa)溶液と入れ墨用インク溶液(Carbon black色)を体積比7:1に混ぜて混合液を作った。
7.6の混合液を5で作製したパターン入りのモールドに流し込んだ後、5%以下の環境で24時間乾燥した。(e)
8.乾燥が終わったら、パターン入りのマイクロニードルパッチをモールドから取り出した。(f)
【0106】
[実施例2]
不溶性インク混合液から作製した標識付け用マイクロニードルパッチを用いて不溶性インクの皮膚への注入と、長時間にわたっての標識の残存を確認するために動物実験でラットを対象に貼付実験を行った。ここでは、文字パターンなしのマイクロニードルパッチを用いてラットの背中に貼付した後、1日目、1週間目、1ヵ月目の日に、注入された不溶性インクの残存可否を確認した(図7)。その結果、皮膚に入ったインクは1ヵ月後にも残存し、その形状も最初注入したときのままで残っていることが確認できた。
【0107】
[実施例3]
実施例1で作製した文字パターンを有する標識付け用マイクロニードルパッチを用いて実験動物(ラット)の皮膚への文字パターンの注入を検証した(図8)。結果から、パッチの貼付によって不溶性インクが微細針構造を通して、既設計した文字のパターン通りに皮膚に注入され、文字パターンが形成されたことを確認した。
【0108】
[実施例4]
次に、プラグを用いる方法に代えて、フォトリソグラフィプロセスを用いたフォトレジストのパターニングによりパターンを有するマイクロニードルパッチを作製した。
実施例4のパターンを有するマイクロニードルパッチの作製プロセスの詳細は以下の通りである。
【0109】
a)実施例1の2の工程を用いて得られた、全体に空洞があるメスモールドを準備した。
b)メスモールドの表面にフォトレジストをスピンコートで塗布後(この際、4000rpm/60sの条件で実施した)、110℃で5分間ベークした。
フォトレジストはポジティブ(AZ5214E,MicroChemicals社製)を用いた。本実施例では、ポジティブ(ポジ型)のフォトレジストを使用するため、空洞を埋める部分は露光させない。
その後、パターン入りのフォトマスクを表面に接触させてから、230mJ/cmのエネルギーで紫外線を照射した(波長:405nm)。露光の後、現像液に浸漬させ、パターンを形成した(現像液:AZ400K,MicroChemicals社製)。
c)実施例1で用いたマイクロニードルパッチのための有効成分が入っている溶液(10%のヒアルロン酸(分子量14kDa)溶液と入れ墨用インク溶液(Carbon black色)を体積比7:1に混ぜた混合液)を、b)で得られたパターン入りのモールドに流し込んだ後、真空チャンバーに入れて20kPaで1時間、脱気を実施してから常温で24hr乾燥した。
d)乾燥後、パターン入りのマイクロニードルパッチをモールドから取り出した。
【0110】
上記の工程の概略図及び、実施例4で得られたパターン入りのマイクロニードルパッチの写真を図9及び図10に示す。
【0111】
[実施例5]
フォトリソグラフィプロセスを用いた別の方法により、パターンを有するマイクロニードルパッチを以下の手順で行った。
【0112】
a)実施例1の2の工程を用いて得られた、全体に空洞があるメスモールドを準備した。
b)フォトレジストを実施例4より低い回転数(例えば、2000rpm/60s)でスピンコートし、フォトレジストの厚膜を形成した。使用したフォトレジスト、ベークの条件、紫外線の照射条件、現像液の種類は、実施例4と同様であった。
c’)メスモールドの空洞の部分に、実施例1と同様の希釈したPDMS混合液を流し込んだ。その後、PDMSを硬化させた(実施例1と同様に、60℃設定のホットプレート上で30分加熱した)。
d’)アセトンやフォトレジストリムーバー(AZ remover 100、MicroChemicals社製)を用いてフォトレジストを溶解させることによってその上に塗布されているPDMSも同時に除去し(リフトオフ)、パターン入りのメスモールドを作製した。
e’)実施例4の(c)~(d)と同様のプロセスを用いて、パターン入りのマイクロニードルパッチを得た。
【0113】
上記の工程の概略図を図9に示す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10