(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024016398
(43)【公開日】2024-02-07
(54)【発明の名称】電極製造装置、電気化学素子製造装置、液体付与装置、電極製造方法、電気化学素子製造方法および液体付与方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/04 20060101AFI20240131BHJP
B41J 2/18 20060101ALI20240131BHJP
B41J 2/175 20060101ALI20240131BHJP
B05C 5/00 20060101ALI20240131BHJP
B05C 11/10 20060101ALI20240131BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20240131BHJP
H01G 11/86 20130101ALI20240131BHJP
H01G 13/00 20130101ALI20240131BHJP
【FI】
H01M4/04 Z
B41J2/18
B41J2/175 121
B41J2/175 111
B05C5/00 101
B05C11/10
H01M4/139
H01G11/86
H01G13/00 381
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022118473
(22)【出願日】2022-07-26
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100098626
【弁理士】
【氏名又は名称】黒田 壽
(72)【発明者】
【氏名】濱口 昌也
【テーマコード(参考)】
2C056
4F041
4F042
5E078
5E082
5H050
【Fターム(参考)】
2C056EC19
2C056EC20
2C056EC29
2C056EC32
2C056HA46
2C056JC17
2C056KB16
2C056KC16
4F041AA12
4F041AB01
4F041BA01
4F041BA10
4F041BA13
4F041BA32
4F042AA22
4F042AB00
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4F042BA20
4F042CA01
4F042CB02
4F042CB10
4F042CB20
4F042CB26
4F042DH09
5E078AA14
5E078AB06
5E078BB30
5E078LA08
5E082BC38
5E082EE03
5E082EE45
5H050AA19
5H050BA01
5H050BA08
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA07
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5H050CA09
5H050CB01
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050FA02
5H050GA10
5H050GA29
(57)【要約】
【課題】基材に液体組成物を付与する付与部に対して循環される液体組成物の温度に伴う付与部の性能低下を低減するとともに、循環経路内の圧力変動を抑制する。
【解決手段】
液体組成物を付与することで電極素子に機能層を形成する付与部と、前記液体組成物を貯留する貯留タンクと、前記貯留タンクから前記液体組成物が供給される中間タンクと、前記中間タンクから前記付与部へ前記液体組成物を供給する供給経路、および前記付与部から前記中間タンクへ前記液体組成物を排出する排出経路からなる循環経路と、を備え、前記中間タンクは大気開放部を有し、前記貯留タンクには、前記液体組成物の温度を調整する温度調整部が設けられる。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体組成物を付与することで電極素子に機能層を形成する付与部と、
前記液体組成物を貯留する貯留タンクと、
前記貯留タンクから前記液体組成物が供給される中間タンクと、
前記中間タンクから前記付与部へ前記液体組成物を供給する供給経路、および前記付与部から前記中間タンクへ前記液体組成物を排出する排出経路からなる循環経路と、
を備え、
前記中間タンクは大気開放部を有し、
前記貯留タンクには、前記液体組成物の温度を調整する温度調整部が設けられることを特徴とする電極製造装置。
【請求項2】
前記中間タンクには、加熱機能を有さない温度調整部が設けられることを特徴とする請求項1記載の電極製造装置。
【請求項3】
前記付与部周囲における気体の前記貯留タンクへの流入を抑制する抑制部材を備えることを特徴とする請求項1記載の電極製造装置。
【請求項4】
前記貯留タンクと前記中間タンクの間には、前記貯留タンクから前記中間タンクへ前記液体組成物を送る送り路と、前記中間タンクから前記貯留タンクへ前記液体組成物を戻す戻し路が設けられることを特徴とする請求項1記載の電極製造装置。
【請求項5】
前記貯留タンクを第1の貯留タンクとした場合、前記第1の貯留タンクの上流に第2の貯留タンクが設けられ、前記温度調整部を、前記第1の貯留タンクおよび前記第2の貯留タンクの少なくとも一方の貯留タンクに設けることを特徴とする請求項1記載の電極製造装置。
【請求項6】
前記第2の貯留タンクの液体組成物の温度を検知する温度検知手段と、
前記第2の貯留タンクから前記第1の貯留タンクへの液体組成物の送液を規制する規制手段と、
前記温度検知手段の出力に基づき前記規制手段を駆動する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記温度検知手段によって検知された温度が所定範囲内にない場合は前記第2の貯留タンクから前記第1の貯留タンクへの液体組成物の送液を行わず、
前記温度検知手段によって検知された温度が所定範囲内にある場合は前記第2の貯留タンクから前記第1の貯留タンクへの液体組成物の送液が可能となるように、前記規制手段を駆動することを特徴とする請求項5記載の電極製造装置。
【請求項7】
前記抑制部材は断熱性を有する構造体からなることを特徴とする請求項3記載の電極製造装置。
【請求項8】
前記抑制部材は、該抑制部材を境にして前記付与部側、または前記抑制部材を境にして前記温度調整部側を包囲する形状をなすことを特徴とする請求項3記載の電極製造装置。
【請求項9】
前記抑制部材は、前記電極製造装置の筐体を兼ねていることを特徴とする請求項3記載の電極製造装置。
【請求項10】
前記貯留タンクは、前記液体組成物を撹拌する撹拌部材を有する撹拌機構を備え、前記撹拌部材はエアーで動作することを特徴とする請求項1記載の電極製造装置。
【請求項11】
前記付与部は、液体組成物を吐出するノズル、前記ノズルに通じる液室、前記液室に液体組成物を供給する供給流路、および前記液室から液体組成物を回収する回収流路を有する液体吐出ヘッドを備えることを特徴とする請求項1記載の電極製造装置。
【請求項12】
前記電極素子は電極基体を含み、前記機能層は電極合材層を含むことを特徴とする請求項1記載の電極製造装置。
【請求項13】
前記電極素子は、電極基体と、前記電極基体上に設けられた電極合材層とを含み、前記機能層は絶縁層であることを特徴とする請求項1記載の電極製造装置。
【請求項14】
液体組成物を付与することで電極素子に機能層を形成する付与部と、
前記液体組成物を貯留する貯留タンクと、
前記貯留タンクから前記液体組成物が供給される中間タンクと、
前記中間タンクから前記付与部へ前記液体組成物を供給する供給経路、および前記付与部から前記中間タンクへ前記液体組成物を排出する排出経路からなる循環経路と、
を備え、
前記中間タンクは大気開放部を有し、
前記中間タンクには、加熱機能を有さない温度調整部が設けられることを特徴とする電極製造装置。
【請求項15】
請求項1記載の電極製造装置を有することを特徴とする電気化学素子製造装置。
【請求項16】
基材に液体組成物を付与する付与部と、
前記液体組成物を貯留する貯留タンクと、
前記貯留タンクから前記液体組成物が供給される中間タンクと、
前記中間タンクから前記付与部へ前記液体組成物を供給する供給経路、および前記付与部から前記中間タンクへ前記液体組成物を排出する排出経路からなる循環経路と、
を備え、
前記中間タンクは大気開放部を有し、
前記貯留タンクには、前記液体組成物の温度を調整する温度調整部が設けられることを特徴とする液体付与装置。
【請求項17】
電極素子に液体組成物を付与して機能層を形成する付与部と、
前記液体組成物を貯留する貯留タンクと、
前記貯留タンクから前記液体組成物が供給される中間タンクと、
前記中間タンクから前記付与部へ前記液体組成物を供給する供給経路、および前記付与部から前記中間タンクへ前記液体組成物を排出する排出経路からなる循環経路と、
を備え、
前記中間タンクは大気開放部を有し、
前記貯留タンクで温度調整された液体組成物を、前記中間タンクを介して前記循環経路へ供給することを特徴とする電極製造方法。
【請求項18】
前記電極素子は電極基体を含み、前記機能層は電極合材層を含むことを特徴とする請求項17記載の電極製造方法。
【請求項19】
前記電極素子は、電極基体と、前記電極基体上に設けられた電極合材層とを含み、前記機能層は絶縁層であることを特徴とする請求項17記載の電極製造方法。
【請求項20】
請求項17記載の電極製造方法を含むことを特徴とする電気化学素子製造方法。
【請求項21】
基材に液体組成物を付与する付与部と、
前記液体組成物を貯留する貯留タンクと、
前記貯留タンクから前記液体組成物が供給される中間タンクと、
前記中間タンクから前記付与部へ前記液体組成物を供給する供給経路、および前記付与部から前記中間タンクへ前記液体組成物を排出する排出経路からなる循環経路と、
を備え、
前記中間タンクは大気開放部を有し、
前記貯留タンクで温度調整された液体組成物を、前記中間タンクを介して前記循環経路へ供給することを特徴とする液体付与方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極製造装置、電気化学素子製造装置、液体付与装置、電極製造方法、電気化学素子製造方法および液体付与方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、第1インクを収容する第1インク容器と、第2インクを収容する第2インク容器と、第1インク容器に収容された第1インクの温度及び第2インク容器に収容された第2インクの温度の少なくともいずれかを調整する温度調整部と、インクを噴射するノズルと、第1温度調整部および第2温度調整部を制御する制御部と、を備える印字装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、基材に液体組成物を付与する付与部に対して循環される液体組成物の温度に伴う付与部の性能低下を低減するとともに、循環経路内の圧力変動を抑制することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、液体組成物を付与することで電極素子に機能層を形成する付与部と、前記液体組成物を貯留する貯留タンクと、前記貯留タンクから前記液体組成物が供給される中間タンクと、前記中間タンクから前記付与部へ前記液体組成物を供給する供給経路、および前記付与部から前記中間タンクへ前記液体組成物を排出する排出経路からなる循環経路と、を備え、前記中間タンクは大気開放部を有し、前記貯留タンクには、前記液体組成物の温度を調整する温度調整部が設けられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、基材に液体組成物を付与する付与部に対して循環される液体組成物の温度に伴う付与部の性能低下を低減するとともに、循環経路内の圧力変動を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の実施形態に係る液体付与装置の全体構成図。
【
図2】本発明の実施形態に係る液体付与装置の概略平面図。
【
図4】液体吐出ヘッドの流路構成の一例を示す説明図。
【
図5】液体吐出ヘッドの流路構成の一例を示す断面斜視図。
【
図9】本発明の第1実施形態における液体循環系の説明図。
【
図10】本発明の第2実施形態における液体循環系の説明図。
【
図11】本発明の第3実施形態における液体循環系の説明図。
【
図12】本発明の第4実施形態における液体循環系の説明図。
【
図13】本発明の第5実施形態における液体循環系の説明図。
【
図14】本発明の第6実施形態における液体循環系の説明図。
【
図16】電磁弁の制御の一例を示すフローチャート。
【
図17】本発明の第7実施形態における液体循環系の説明図。
【
図18】本発明の第8実施形態における液体循環系の説明図。
【
図21】
図20の印刷部における電極素子の作製工程の一例を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照しながら発明を実施するための形態を説明する。なお、図面の説明において同一要素には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0009】
<液体付与装置の概略>
図1および
図2を用いて液体付与装置の概略を説明する。
図1は本発明の実施形態に係る液体付与装置の全体構成図、
図2はその概略平面図である。
【0010】
例示した液体付与装置は、基材Wの表面に液体組成物を付与して機能層を形成することにより、一次電池、二次電池またはキャパシタ等の電気化学素子に含まれる電極を製造する装置である。
【0011】
電極を製造する装置は、例えば、液体組成物として樹脂層または無機層作製用インクとしての液体インクを用いて、基材Wの一例としての電極素子の表面に樹脂層または無機層を形成するものである。つまり、電極を製造する装置は、樹脂層または無機層作製用インクを用いて、金属箔の表面、または金属箔上に塗工された合材層の表面の少なくともいずれか一方に対し、樹脂層または無機層を形成する。なお、本発明において電極素子とは、電極を製造する装置において液体インクが吐出される対象であり、液体インクが塗布されることで形成される電極の前駆体のことを表す。
【0012】
図1において電極製造装置1000は、供給部200、印刷部400、乾燥部600、巻取部800および制御部900を備える。
【0013】
供給部200は、ロール状に巻かれた基材Wを支持する支持ローラ211と、支持ローラ211から繰り出された基材Wを印刷部400へ搬送するガイドローラ212,213を備える。
【0014】
印刷部400は、供給部200から送られる基材Wを搬送する搬送部410と、搬送部410により搬送される基材Wの表面にインクを吐出するインクジェット部420を備える。また、印刷部400は、印刷部400内の空気を吸引して印刷部400の内部を負圧にする吸気部417を備える。
【0015】
乾燥部600は、印刷部400から送られる基材W表面のインクを乾燥させる乾燥炉610と、乾燥炉610から送り出される基材Wを搬送するガイドローラ611を備える。乾燥炉610は、基材W表面のインクを加熱してインク中の残溶媒を乾燥させたり、インクの硬化を促進したりする機能を有する。
【0016】
巻取部800は、乾燥部600から送られる基材Wを搬送するガイドローラ811,812と、ガイドローラ812から送られる基材Wを巻き取る巻取ローラ813を備える。
【0017】
印刷部400において、インクジェット部420は、基材Wの表面にインクを吐出するヘッド101を複数備えたインクジェットモジュール421を、基材Wの搬送方向に沿って複数備える。
【0018】
搬送部410は、基材Wを搬送するベルト413と、ベルト413を巻き付けて駆動するベルト駆動ローラ411と、ベルト413を張架して連れ回るベルト従動ローラ412を備える。
【0019】
ベルト413は、ベルト駆動ローラ411の回転により循環搬送されるため、基材Wはベルト413が回転する速度とほぼ同速度で搬送される。
【0020】
吸気部417は、印刷部400の内部を負圧にすることで印刷部400内に気流を生じさせて、ヘッド101のインク吐出に伴い発生するインクミストの浮遊を抑制する。
【0021】
図2に示すように、印刷部400の外部には、インクを貯留した貯留タンク430が設置される。貯留タンク430はインクジェットモジュール421に接続され、ヘッド101へインクを供給する。
【0022】
電極製造装置1000は、ヘッド101から吐出されるインクの成分によっては、印刷部400と乾燥部600の間に、紫外線により基材W表面のインク層を樹脂層に硬化させる硬化部(照射部)を備えた構成としてもよい。このようなインクとしては例えばモノマーといった重合性化合物を成分として有するものが挙げられる。
【0023】
基材Wは、図示されたような長尺物の形態に限るものではなく、予め所定のサイズに裁断された形態でもよい。
【0024】
また、電極製造装置1000は、定位置のヘッド101に対して基材Wを移動させ、基材Wにインクを付与する、いわゆるライン型の装置構成を例示したが、ライン型に限るものではない。ヘッド101と基材Wは相対的に移動する構成であればよく、例えば、間欠送りされる基材Wに対してヘッド101を基材Wの搬送方向と直交する方向へ移動させ、基材Wにインクを付与する、いわゆるシリアル型の装置構成でもよい。または、基材載置テーブルに保持された基材に対してヘッド101をXY方向へ移動させ、基材にインクを付与する、いわゆるフラットベッド型の装置構成でもよい。
【0025】
<液体吐出ヘッドの構成>
次に、
図3~
図5を用いて液体吐出ヘッドの構成を説明する。
図3は液体吐出ヘッドの一例を示す概略分解図、
図4は液体吐出ヘッドの流路構成の一例を示す説明図、
図5は液体吐出ヘッドの流路構成の一例を示す断面斜視図である。
【0026】
液体吐出ヘッド101(以下、ヘッドと称する)は、ノズル板10、流路板(個別流路部材)20、振動板部材30、共通流路部材50、ダンパ部材60、フレーム部材80および駆動回路104を実装した基板(フレキシブル配線基板)105などを備える。
【0027】
ノズル板10は、インクを吐出する複数のノズル11を備え、複数のノズル11は、ノズル板短手方向およびこれと直交するノズル板長手方向に二次元状に並んで配置されている。
【0028】
流路板20には、複数のノズル11に各々連通する複数の液室(個別圧力室)21と、複数の液室21に各々通じる複数の供給流路(個別供給流路)22および回収流路(個別回収流路)23とが設けられている。なお、以降の説明では便宜上、1つの液室21と、当該液室21に通じる供給流路22および回収流路23とを併せて個別流路25とも称する。
【0029】
振動板部材30は、液室21の変形が可能な壁面である振動板31を形成し、振動板31には圧電素子40が一体に設けられている。振動板部材30には、供給流路22に通じる供給側開口32と、回収流路23に通じる回収側開口33とが形成されている。圧電素子40は、振動板31を変形させて液室21内のインクを加圧する。
【0030】
なお、流路板20と振動板部材30は、別部材であることに限定されるものではない。例えばSOI(Silicon on Insulator)基板を使用して流路板20および振動板部材30を同一部材で一体に形成することも可能である。
【0031】
つまり、シリコン基板上に、シリコン酸化膜、シリコン層、シリコン酸化膜の順に成膜されたSOI基板を使用し、シリコン基板を流路板20とし、シリコン酸化膜、シリコン層およびシリコン酸化膜で振動板31を形成できる。この構成では、SOI基板のシリコン酸化膜、シリコン層およびシリコン酸化膜の層構成が振動板部材30となる。このように、振動板部材30は流路板20の表面に成膜された材料で構成されるものを含む。
【0032】
共通流路部材50は、2以上の供給流路22に通じる複数の共通供給流路支流52と、2以上の回収流路23に通じる複数の共通回収流路支流53とを、ノズル板長手方向において交互に隣接して形成している。共通流路部材50には、供給流路22の供給側開口32と共通供給流路支流52を通じる供給口54となる貫通孔と、回収流路23の回収側開口33と共通回収流路支流53を通じる回収口55となる貫通孔が形成されている。
【0033】
共通流路部材50は、複数の共通供給流路支流52に通じる1または複数の共通供給流路本流56と、複数の共通回収流路支流53に通じる1または複数の共通回収流路本流57を形成している。
【0034】
ダンパ部材60は、共通供給流路支流52の供給口54と対面する供給側ダンパ62と、共通回収流路支流53の回収口55と対面する回収側ダンパ63を備える。共通供給流路支流52および共通回収流路支流53は、同じ部材である共通流路部材50に交互に並べて配列された溝部を、ダンパ部材60の供給側ダンパ62または回収側ダンパ63で封止することで構成している。なお、ダンパ部材60のダンパ材料としては、有機溶剤に強い金属薄膜または無機薄膜を用いることが好ましい。ダンパ部材60の供給側ダンパ62、回収側ダンパ63の部分の厚みは10μm以下が好ましい。
【0035】
共通供給流路支流52と共通回収流路支流53の内壁面、および共通供給流路本流56と共通回収流路本流57の内壁面には、流路内を流れるインクに対して内壁面を保護するための保護膜が形成されている。例えば、共通供給流路支流52と共通回収流路支流53の内壁面、および共通供給流路本流56と共通回収流路本流57の内壁面は、Si基板が熱処理されることで、表面に酸化シリコン膜が形成される。酸化シリコン膜の上にはインクに対してSi基板の表面を保護するタンタルシリコン酸化膜が形成される。
【0036】
フレーム部材80は、その上部に供給ポート81と排出ポート82を備える。供給ポート81は共通供給流路本流56にインクを供給し、排出ポート82は共通回収流路本流57より排出されるインクを排出する。
【0037】
上述のようにヘッド101は、インクを吐出するノズル11、ノズル11に通じる液室21、液室21にインクを供給する供給流路22、および液室21からインクを回収する回収流路23を有する。ここで、ヘッド101は「付与部」の一例、液室21は「液室」の一例、供給流路22は「供給流路」の一例、回収流路23は「回収流路」の一例である。
【0038】
<電極素子の構成>
次に、
図6を用いて電極素子の構成を説明する。
図6は電極素子の一例を示す断面図である。
【0039】
図6(a)に示された電極素子は、電極製造装置1000において基材Wとして搬送され、電極基体W10の表面に機能層である活物質層X20が形成された電極素子である。活物質層X20は「電極合材層」の一例である。
【0040】
電極基体W10の一方の面W10aにおいて、電極基体W10は、露出部W10mを除いて活物質層X20により被覆される。露出部W10mは、一方の面W10aの法線方向から見た平面視で活物質層X20の外周部X20pの外側に沿って配置されており、環状に配置されていてもよい。電極基体W10および活物質層X20の形状は一例であり、
図6(a)の形状には限定されない。
【0041】
電極基体W10の厚さは、例えば5μmから20μm程度であり、活物質層X20の厚さは、例えば数10μmから100μm程度である。
【0042】
電極基体W10は導電性を有する基体であれば特に制限はない。一般に蓄電デバイスである二次電池、キャパシタ、なかでもリチウムイオン二次電池に好適に用いることができるアルミ箔、銅箔、ステンレス箔、チタニウム箔、およびそれらをエッチングして微細な穴を開けたエッチド箔や、リチウムイオンキャパシタに用いられる穴あき電極基体などが用いられる。
【0043】
また、燃料電池のような発電デバイスで用いられるカーボンペーパ繊維状の電極を不織または織状で平面にしたものや、上記穴あき電極基体のうち微細な穴を有するものも使用できる。
【0044】
さらに、太陽光デバイスの場合、上記電極に加えてガラスやプラスチックスなどの平面基体上に、インジウム・チタン系の酸化物や亜鉛酸化物のような、透明な半導体薄膜を形成したものや、導電性電極膜を薄く蒸着したものを用いることができる。
【0045】
活物質としては、電気化学素子に適用することが可能な正極活物質または負極活物質を用いることができる。
【0046】
正極活物質としては、アルカリ金属イオンを可逆的に吸蔵および放出することが可能であれば特に制限はないが、アルカリ金属含有遷移金属化合物を用いることができる。
【0047】
アルカリ金属含有遷移金属化合物としては、例えば、コバルト、マンガン、ニッケル、クロム、鉄およびバナジウムからなる群より選択される一種以上の元素とリチウムとを含む複合酸化物等のリチウム含有遷移金属化合物が挙げられる。
【0048】
リチウム含有遷移金属化合物としては、例えば、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム等が挙げられる。
【0049】
アルカリ金属含有遷移金属化合物としては、結晶構造中にXO4四面体(X=P、S、As、Mo、W、Si等)を有するポリアニオン系化合物も用いることができる。これらの中でも、サイクル特性の点で、リン酸鉄リチウム、リン酸バナジウムリチウム等のリチウム含有遷移金属リン酸化合物が好ましく、リチウム拡散係数、電気化学素子の入出力特性の点で、リン酸バナジウムリチウムが特に好ましい。なお、ポリアニオン系化合物は、電子伝導性の点で、炭素材料等の導電助剤により表面が被覆されて複合化されていることが好ましい。
【0050】
負極活物質としては、アルカリ金属イオンを可逆的に吸蔵および放出することが可能であれば特に制限はないが、黒鉛型結晶構造を有するグラファイトを含む炭素材料を用いることができる。
【0051】
炭素材料としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、難黒鉛化性炭素(ハードカーボン)、易黒鉛化性炭素(ソフトカーボン)等が挙げられる。
【0052】
炭素材料以外の負極活物質としては、例えば、チタン酸リチウム、酸化チタン等が挙げられる。
【0053】
また、電気化学素子のエネルギー密度の点から、負極活物質として、シリコン、スズ、シリコン合金、スズ合金、酸化シリコン、窒化シリコン、酸化スズ等の高容量材料を用いることが好ましい。
【0054】
図6(b)に示された電極は、
図6(a)とは異なる電極であり、基材Wとして搬送される電極素子(電極基体W10と活物質層W20との積層体)における活物質層W20の表面に、インクを塗布することにより機能層としての絶縁層X30が形成された電極を示す。活物質層W20は「電極合材層」の一例である。
【0055】
電極基体W10の一方の面W10aにおいて、活物質層W20は絶縁層X30により露出することなく全体を被覆され、電極基体W10は、露出部W10nを除いて絶縁層X30により被覆される。露出部W10nは、一方の面W10aの法線方向から見た平面視で絶縁層X30の外周部X30pの外側に沿って配置されており、環状に配置されていてもよい。電極基体W10、活物質層W20および絶縁層X30の形状は一例であり、
図6(b)の形状には限定されない。
【0056】
また、電極基体W10と活物質層W20を含む電極素子としての基材Wは、活物質層W20の密度を上げるためにプレス加工された後に搬送される場合がある。
【0057】
電極基体W10の厚さは、例えば5μmから20μm程度であり、活物質層W20の厚さは、例えば数10μmから100μm程度であり、絶縁層X30の厚さは、例えば0.5μmから20μm程度、好ましくは1~7μm程度である。
【0058】
電極基体W10は導電性を有する基体であれば特に制限はない。一般に蓄電デバイスである二次電池、キャパシタ、なかでもリチウムイオン二次電池に好適に用いることができるアルミ箔、銅箔、ステンレス箔、チタニウム箔および、それらをエッチングして微細な穴を開けたエッチド箔や、リチウムイオンキャパシタに用いられる穴あき電極基体などが用いられる。
【0059】
また、燃料電池のような発電デバイスで用いられるカーボンペーパ繊維状の電極を不織または織状で平面にしたものや、上記穴あき電極基体のうち微細な穴を有するものも使用できる。
【0060】
さらに、太陽光デバイスの場合、上記電極に加えてガラスやプラスチックスなどの平面基体上に、インジウム・チタン系の酸化物や亜鉛酸化物のような、透明な半導体薄膜を形成したものや、導電性電極膜を薄く蒸着したものを用いることができる。
【0061】
また、活物質層W20は活物質を含む。活物質としては、電気化学素子に適用することが可能な正極活物質または負極活物質を用いることができる。
【0062】
正極活物質としては、アルカリ金属イオンを可逆的に吸蔵および放出することが可能であれば特に制限はないが、アルカリ金属含有遷移金属化合物を用いることができる。
【0063】
アルカリ金属含有遷移金属化合物としては、例えば、コバルト、マンガン、ニッケル、クロム、鉄およびバナジウムからなる群より選択される一種以上の元素とリチウムとを含む複合酸化物等のリチウム含有遷移金属化合物が挙げられる。
【0064】
リチウム含有遷移金属化合物としては、例えば、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチ ウム、マンガン酸リチウム等が挙げられる。
【0065】
アルカリ金属含有遷移金属化合物としては、結晶構造中にXO4四面体(X=P、S、As、Mo、W、Si等)を有するポリアニオン系化合物も用いることができる。これらの中でも、サイクル特性の点で、リン酸鉄リチウム、リン酸バナジウムリチウム等のリチウム含有遷移金属リン酸化合物が好ましく、リチウム拡散係数、電気化学素子の入出力特性の点で、リン酸バナジウムリチウムが特に好ましい。なお、ポリアニオン系化合物は、電子伝導性の点で、炭素材料等の導電助剤により表面が被覆されて複合化されていることが好ましい。
【0066】
負極活物質としては、アルカリ金属イオンを可逆的に吸蔵および放出することが可能であれば特に制限はないが、黒鉛型結晶構造を有するグラファイトを含む炭素材料を用いることができる。
【0067】
炭素材料としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、難黒鉛化性炭素(ハードカーボン)、易黒鉛化性炭素(ソフトカーボン)等が挙げられる。
【0068】
炭素材料以外の負極活物質としては、例えば、チタン酸リチウム、酸化チタン等が挙げられる。
【0069】
また、電気化学素子のエネルギー密度の点から、負極活物質として、シリコン、スズ、シリコン合金、スズ合金、酸化シリコン、窒化シリコン、酸化スズ等の高容量材料を用いることが好ましい。
【0070】
また、絶縁層X30を形成するためのインクの成分は、絶縁層として無機層を形成する場合は無機粒子と分散媒とを含み、絶縁層として樹脂層を形成する場合は重合性化合物と溶媒とを含む。以下、インク(液体組成物)について説明する。
【0071】
<無機層形成用液体組成物>
無機粒子としては、絶縁性無機粒子であることが好ましく、例えば、金属酸化物、金属窒化物、その他の金属化合物を材料とする粒子が挙げられる。
【0072】
金属酸化物としては、例えば、Al2O3、TiO2、BaTiO3、ZrO2等が挙げられる。
【0073】
金属窒化物としては、例えば、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等が挙げられる。その他の金属化合物としては、例えば、フッ化アルミニウム、フッ化カルシウム、フッ化バリウム、硫酸バリウム等の難溶性のイオン結晶、ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、ムライト、スピネル、オリビン、セリサイト、ベントナイト等の鉱物資源由来物質またはそれらの人造物等が挙げられる。
【0074】
上記以外の絶縁性無機粒子を構成する材料としては、ガラスセラミックが挙げられる。ガラスセラミックとしては、例えば、ZnO-MgO-Al2O3-SiO2系の結晶化ガラスを用いた結晶化ガラスセラミック、BaO-Al2O3-SiO2系セラミック、Al2O3-CaO-SiO2-MgO-B2O3系セラミック等を用いた非ガラス系セラミックが挙げられる。
【0075】
絶縁性無機粒子は、イオン伝導性を有する元素を含むことが好ましい。イオン伝導性を有する元素としては、例えば、ケイ素元素、アルミニウム元素、ジルコニウム元素等が挙げられる。これらのイオン伝導性を有する元素は、単独で使用してもよく、また二種以上を併用してもよい。
【0076】
絶縁性無機粒子は、Al2O3(アルミナ)粒子であることが好ましい。絶縁性無機粒子としては、アルミナの中でも、融点が高く、熱的に安定なα-アルミナを用いるのが好ましい。
【0077】
分散媒は、水または非水系分散媒を意味する。非水系分散媒としては、例えば、スチレン、トルエン、キシレン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、アセトン、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール(IPA)、n-ブタノール、イソブタノール、ter-ブタノール、n-ペンタノール、n-ヘキサノール、ジアセトンアルコール、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルスルホキシド(DMSO)、N-メチルピロリドン(NMP)、テトラヒドロフラン(THF)等が挙げられる。
【0078】
なお、分散媒は単独で使用することもできるが、複数の分散媒を組み合わせて使用することもできる。
【0079】
<樹脂層形成用液体組成物>
重合性化合物は、重合することにより樹脂を形成し、液体組成物中において重合した場合に多孔質樹脂を形成する。
【0080】
重合性化合物により形成される樹脂は、活性エネルギー線の付与等(例えば、光の照射や熱を加えること等)で形成される網目状の構造体を有する樹脂であることが好ましく、例えば、アクリレート樹脂、メタアクリレート樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、オキセタン樹脂、ビニルエーテル樹脂、およびエン-チオール反応により形成される樹脂が好ましい。
【0081】
また、反応性の高いラジカル重合を利用して構造体を形成することが容易な点から、(メタ)アクリロイル基を有する重合性化合物により形成される樹脂であるアクリレート樹脂、メタアクリレート樹脂、ウレタンアクリレート樹脂や、ビニル基を有する重合性化合物により形成される樹脂であるビニルエステル樹脂が生産性の観点からより好ましい。
【0082】
これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。2種以上を併用する場合、重合性化合の組み合わせとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、柔軟性付与のため、ウレタンアクリレート樹脂を主成分として他の樹脂を混合することが好ましい。なお、本実施形態では、アクリロイル基またはメタクリロイル基を有する重合性化合物を、(メタ)アクリロイル基を有する重合性化合物と称する。
【0083】
なお、活性エネルギー線としては、液体組成物中の重合性化合物の重合反応を進める上で必要なエネルギーを付与できるものであればよく、特に限定されないが、例えば、紫外線、電子線、α線、β線、γ線、X線等が挙げられる。これらの中でも紫外線であることが好ましい。なお、特に高エネルギーな光源を使用する場合には、重合開始剤を使用しなくても重合反応を進めることができる。
【0084】
溶媒(以降の記載において「ポロジェン」とも称する)は、重合性化合物と相溶する液体である。また、溶媒は、液体組成物中において重合性化合物が重合していく過程で重合物(樹脂)と相溶しなくなる(相分離を生じる)液体である。液体組成物中に溶媒が含まれることで、重合性化合物は、液体組成物中において重合した場合に多孔質樹脂を形成する。
【0085】
また、光または熱によってラジカルまたは酸を発生する化合物(例えば、重合開始剤)を溶解可能であることが好ましい。溶媒は、1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。なお、本実施形態において、溶媒は重合性を有さない。
【0086】
ポロジェンの1種単独としての沸点または2種以上を併用した場合の沸点は、常圧において、50°C以上250°C以下であることが好ましく、70°C以上200°C以下であることがより好ましい。
【0087】
沸点が50°C以上であることにより、室温付近におけるポロジェンの気化が抑制されて液体組成物の取り扱いが容易になり、液体組成物中におけるポロジェンの含有量の制御が容易になる。
【0088】
また、沸点が250°C以下であることにより、重合後のポロジェンを乾燥させる工程における時間が短縮されて、多孔質樹脂の生産性が向上する。
【0089】
また、多孔質樹脂の内部に残存するポロジェンの量を抑制することができるので、多孔質樹脂を物質間の分離を行う物質分離層や反応場としての反応層などの機能層として利用する場合に品質が向上する。
【0090】
また、ポロジェンの1種単独としての沸点または2種以上を併用した場合の沸点は、常圧において、120°C以上であることが好ましい。
【0091】
ポロジェンとしては、例えば、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等のエチレングリコール類、γブチロラクトン、炭酸プロピレン等のエステル類、NNジメチルアセトアミド等のアミド類等を挙げることができる。また、テトラデカン酸メチル、デカン酸メチル、ミリスチン酸メチル、テトラデカン等の比較的分子量の大きな液体も挙げることができる。
【0092】
また、アセトン、2-エチルヘキサノール、1-ブロモナフタレン等の液体も挙げることができる。
【0093】
なお、本実施形態では、上記の例示された液体であれば常にポロジェンに該当するわけではない。本実施形態におけるポロジェンとは、上記のとおり重合性化合物と相溶する液体であって、且つ液体組成物中において重合性化合物が重合していく過程で重合物(樹脂)と相溶しなくなる(相分離を生じる)液体である。言い換えると、ある液体がポロジェンに該当するか否かは、重合性化合物および重合物(重合性化合物が重合することにより形成される樹脂)との関係で決まる。
【0094】
また、本実施形態の液体組成物は、重合性化合物との間で上記の特定の関係を有するポロジェンを少なくとも1種類含有していればよいため、液体組成物作製時の材料選択の幅が広がり、液体組成物の設計が容易になる。
【0095】
液体組成物作製時の材料選択の幅が広がることで、多孔質構造の形成以外の観点で液体組成物に求められる特性がある場合に、対応の幅が広がる。
【0096】
例えば、液体組成物をインクジェット方式で吐出する場合、多孔質形成以外の観点として、吐出安定性等を有する液体組成物であることが求められるが、材料選択の幅が広いため、液体組成物の設計が容易になる。
【0097】
なお、本実施形態の液体組成物は、上記のとおり重合性化合物との間で上記の特定の関係を有するポロジェンを少なくとも1種類含有していればよいため、重合性化合物との間で上記の特定の関係を有さない液体(ポロジェンではない液体)を追加的に含有していてもよい。
【0098】
なお、電極素子として電極基体および電極合材層の積層体に対して絶縁層形成用インクを塗布することで絶縁層を形成する場合について説明したが、これに限るものではない。電極に用いられる層であれば特に限りはなく、例えば、電極合材層上に固体電解質層形成用インクを塗布することで固体電解質層を形成してもよい。
【0099】
図7は、電極素子の作製工程の一例を示す説明図である。一例として
図6(b)に示した電極素子を
図1に示した電極製造装置1000で作製する場合を説明する。
【0100】
電極製造装置1000において、インクジェット部420で形成されるインク層は単層とは限らず、ヘッド101毎に、ヘッド101から吐出されるインクを異ならせ、1パスで2層以上のインク層を形成する構成としてもよい。その場合、例えば
図7(a)に示された工程(1)~(3)、または
図7(b)に示された工程(1´),(2´)によって電極基体W10上に活物質層W20(X20)と絶縁層X30を形成することが可能になる。
【0101】
図7(a)に示された作製工程の場合、まず工程(1)において活物質層用のインクを吐出するヘッド101を用いて、搬送される電極基体W10に対してインクを付与し、電極基体W10上に活物質層W20(X20)を形成する。
【0102】
次に、工程(2)において絶縁層用のインクを吐出するヘッド101を用いて、搬送される電極基体W10に対してインクを付与し、電極基体W10上に形成された活物質層W20(X20)の周囲に絶縁層X30を形成する。
【0103】
次に、工程(3)において絶縁層用のインクを吐出するヘッド101を用いて、搬送される電極基体W10に対してインクを付与し、電極基体W10上の活物質層W20(X20)および絶縁層X30の上に更に絶縁層X30を形成する。
【0104】
工程(2)で用いるヘッドと工程(3)で用いるヘッドは、予め異なるヘッドに分担してあり、工程(3)で用いるヘッドを、工程(2)で用いるヘッドに対して電極基体W10の搬送方向下流側に配置することで実現される。
【0105】
また、例えば1つのヘッドで活物質層用のインクと絶縁層用のインクを吐出可能にしたヘッドを用いることで、
図7(b)に示す作製工程も可能となる。
【0106】
図7(b)の場合、工程(1´)において、搬送される電極基体W10に対して活物質層用のインクと絶縁層用のインクを付与し、電極基体W10上に活物質層W20(X20)および絶縁層X30を形成する。
【0107】
次に、工程(2´)において、絶縁層用のインクを吐出するヘッド101を用いて、搬送される電極基体W10に対してインクを付与し、電極基体W10上の活物質層W20(X20)および絶縁層X30の上に絶縁層X30を形成する。
【0108】
上記のような作製工程により電極基体W10への活物質層W20(X20)および絶縁層X30の形成が行われる。
【0109】
<比較例>
次に、
図8を用いて比較例の構成について説明する。
図8は比較例における液体循環系の説明図である。
【0110】
電極製造装置は、貯留タンク430、加圧タンク440、中間タンク450、減圧タンク460、加圧マニホールド470、減圧マニホールド480およびヘッド101を備える。
【0111】
貯留タンク430は、液体組成物の一例である液体インク(以下、インクと称する)を貯留する。貯留タンク430には送液ポンプ431が設けられており、送液ポンプ431によって貯留タンク430内のインクは中間タンク450へ送られる。
【0112】
中間タンク450は、液面センサ451、大気開放弁452、送液ポンプ453,454、および温度調整部(温度調整装置455および熱交換構造体456)を備える。
【0113】
液面センサ451は、中間タンク450内のインクの液面を検知し、例えば、中間タンク450内のインクの液面が最大量に達したことを検知すると、貯留タンク430の送液ポンプ431を停止させる。これにより、貯留タンク430から中間タンク450へインクは送られなくなる。
【0114】
大気開放弁452は、中間タンク450内の圧力を調整する。大気開放弁452は「大気開放部」の一例である。大気開放弁452により、中間タンク450内の圧力が大気圧と同程度になる。
【0115】
例えば、送液ポンプ453を用いて中間タンク450から加圧タンク440へインクを送液する際、中間タンク450内部の気圧が負圧となるが、同時に大気開放弁452より中間タンク450内に空気が吸い込まれる。このため、中間タンク450内の圧力は大気圧と同等になる。また、送液ポンプ454を用いて減圧タンク460より中間タンク450へインクが送液される場合は、中間タンク450内部が加圧されるが、同時に余分な圧力が中間タンク450内から大気開放弁452より排出される。
【0116】
このような中間タンク450に大気開放部を設けることにより、循環経路内の圧力変動を抑制することができる。循環経路内の圧力変動を抑制することで、例えば加圧が大きすぎる場合に生じるヘッドでのインク漏れの抑制や、負圧が大きすぎる場合に生じる気泡巻き込みを抑制することができる。なお、溶剤を含むインクを用いる場合は、大気開放弁452にフィルタを備えることにより、溶剤を含む気体から、溶剤部分を吸収させることができ、機外には溶剤の含有量を減少させた空気を排出することができる。
【0117】
送液ポンプ453は、中間タンク450から加圧タンク440へインクを送り出す。
【0118】
送液ポンプ454は、減圧タンク460から中間タンク450へインクを送り出す。
【0119】
温度調整部(温度調整装置455および熱交換構造体456)は、中間タンク450の温度を調整する。温度調整部を構成する温度調整装置455は、加熱機能と冷却機能を備え、貯留タンク430から送られたインクの温度が印刷に使用可能な温度領域よりも低いときは、加熱機能によってインク温度を上げる。また、貯留タンク430から送られたインクの温度が印刷に使用可能な温度領域よりも高いときは、冷却機能によってインク温度を下げる。温度調整部を構成する熱交換構造体456は、温度調整装置455に接続されるとともに、中間タンク450の周囲を覆うように配置され、温度調整装置455の出力に応じた熱を中間タンク450へ伝える。
【0120】
加圧タンク440は、加圧タンク440内のインクの液面を検知する液面センサ441、および加圧ポンプ442を備える。
【0121】
液面センサ441は、例えば、加圧タンク440内のインクの液面が最大量に達したことを検知すると、中間タンク450の送液ポンプ453を停止させる。これにより中間タンク450から加圧タンク440へインクは送られなくなる。
【0122】
加圧ポンプ442は、加圧タンク440内を加圧し、加圧タンク440内のインクを加圧マニホールド470へ供給する。
【0123】
加圧マニホールド470に供給されたインクはヘッド101へ供給され、その一部は、ヘッド101から基材W(
図1参照)へ吐出され、基材Wに塗布される。ヘッド101から吐出されなかったインクは、減圧マニホールド480を経て、減圧タンク460に排出(回収)される。
【0124】
減圧タンク460は、液面センサ461、および減圧ポンプ462を備える。液面センサ461は、例えば、減圧タンク460内のインクの液面が最大量に達したことを検知する。減圧ポンプ462は、減圧タンク460内を減圧する。
【0125】
液面センサ461が、減圧タンク460内のインクの液面が最大量に達したことを検知すると、送液ポンプ454が駆動され、余分なインクが減圧タンク460から中間タンク450へ送られる。
【0126】
上記構成により、ヘッド101に対しては、加圧タンク440と減圧タンク460との差圧によるインクの供給および排出が行われる。印刷動作でのインク消費に伴い、中間タンク450のインク量は減るため、液面センサ451が最小量を検知した場合は、貯留タンク430の送液ポンプ431が作動し、貯留タンク430から中間タンク450へインクが補充される。
【0127】
ここで、中間タンク450→加圧タンク440→加圧マニホールド470→ヘッド101→減圧マニホールド480→減圧タンク460→中間タンク450の経路は、「循環経路」の一例である。
【0128】
また、上記循環経路のうち半分の経路、つまり、中間タンク450→加圧タンク440→加圧マニホールド470→ヘッド101の経路は、「供給経路」の一例である。
【0129】
また、上記循環経路のうち残り半分の経路、つまり、ヘッド101→減圧マニホールド480→減圧タンク460→中間タンク450の経路は、「排出経路」の一例である。
【0130】
ところで比較例の場合、インクの温度を調整するための温度調整部(温度調整装置455,熱交換構造体456)は中間タンク450に設けられている。貯留タンク430から中間タンク450へ送られるインクの温度は、印刷に使用可能な温度領域よりも低温(または高温)になっている場合がある。貯留タンク430から送られるインクの温度が、印刷に使用可能な温度領域から大きく外れていると、循環経路を循環していた既存のインクに対して低温(または高温)のインクが混ざり、循環経路内のインク温度が変動する。
【0131】
インク温度が変動した状態で、インクを循環経路内で循環させた場合、ヘッド101のノズル面において圧力バランスを保つために必要なインク粘度を得ることができない場合があり、ヘッド101のインク吐出性能が低下する。また、中間タンク450の温度調整部でインク温度を印刷に使用可能な温度領域に調整してから循環する場合、中間タンク450での温度調整に時間がかかり生産性が低下する。
【0132】
また、インクとして有機溶剤を含むインクを用いる場合、大気開放部を有する中間タンク450内で有機溶剤等の揮発成分が揮発することでインクの成分比率が変動する恐れがあり、インクの成分比率が変動した場合、インク吐出性能が低下する懸念がある。熱源となり得る部材としては、例えば、温度調整部に備えられるヒータや電装部品等が挙げられる。
【0133】
<第1実施形態>
図9は、本発明の第1実施形態における液体循環系の説明図である。なお、比較例と同等の機能を有する部材には同一の符号を付し、その説明は省略する。
【0134】
第1実施形態は、概略として、温度調整部が貯留タンク430に設けられている点が比較例と異なる。
【0135】
第1実施形態における温度調整部は、温度調整装置435と熱交換構造体436を備える。熱交換構造体436は、例えば、貯留タンク430の外周に沿うように中空パイプを螺旋状に巻いた構造となっている。中空パイプ内には、温度調整用の媒体としての気体もしくは液体を循環させることが可能であり、温度調整装置435は中空パイプ内を循環させる気体もしくは液体の温度を調整する。そして、熱交換構造体436内に気体もしくは液体を循環させて貯留タンク430との間で熱交換を行うことで、貯留タンク430内のインク温度が一定に保たれる。
【0136】
上記のような構造を有する熱交換構造体436は、一般にジャケットタンクなどとも呼ばれ、ジャケットタンクにチラー装置(chiller)を接続することによって実現される。この場合、温度調整装置435がチラー装置に相当する。本実施形態においてチラー装置は、中空パイプ内に通す気体もしくは液体を冷却するだけでなく、加熱することも可能であり、加熱に用いるヒータ(熱源)が備えられている。
【0137】
また、貯留タンク430と中間タンク450の間には、貯留タンク430から中間タンク450へインクを送るための送り路434aと、中間タンク450から貯留タンク430へインクを戻すための戻し路434bが設けられる。つまり、貯留タンク430と中間タンク450との間でもインク循環を可能にしている。なお、貯留タンク430と中間タンク450の間には、貯留タンク430から中間タンク450へインクを送るための送り路434aのみが設けられる構成であってもよい。
【0138】
加圧マニホールド470に達したインクは、ヘッド101の供給ポート81(
図3参照)からヘッド101内部に送られる。ヘッド101内部に送られたインクは、供給流路本流56→供給流路支流52→個別流路25→回収流路支流53→回収流路本流57(
図4参照)を進み、排出ポート82からヘッド101の外部に送り出される。基材Wに対するインクの付与は、個別流路25を構成する液室21内のインクがノズル11から吐出されることによって行われる。排出ポート82から送り出されたインクは、減圧マニホールド480へ送られる。減圧マニホールド480へ送られたインクは、減圧タンク460を介して中間タンク450へ送られる。
【0139】
貯留タンク430は、中間タンク450に対して水頭差で下方に位置するように配置されており、これにより中間タンク450のインクは、戻し路434bを通り、貯留タンク430へ送られる。この時のインクの流速は、戻し路434bの内径によって調整が可能である。
【0140】
中間タンク450内のインクが規定量を下回った場合は、送り路434aに設けられた送液ポンプ431によって貯留タンク430から中間タンク450へインクが供給される。貯留タンク430から供給されるインクは、温度調整装置435および熱交換構造体436によって温度調整され、中間タンク450に対して温度管理されたインクが送られる。
【0141】
使用者が、電極製造装置が有する経路内にインクを供給するためのインク供給口は貯留タンク430に設けられることが好ましい。インク供給口が貯留タンク430に設けられることで、循環経路内のインク温度の変動を抑制することができる。
【0142】
また、
図3~
図5で説明したように、ヘッド101はインクを吐出するノズル11、ノズル11に通じる液室(圧力室)21、液室21にインクを供給する供給流路22、および液室21からインクを回収する回収流路23を有する。これにより、ヘッド101内部の、特にノズル11に近い部分のインクも循環によって温度をほぼ一定に保つことが可能になる。
【0143】
したがって、電極製造装置1000内を循環するインクの温度(粘度)をほぼ一定に保つことが可能となり、ヘッド101の性能低下を低減することができる。
【0144】
<第2実施形態>
図10は、本発明の第2実施形態における液体循環系の説明図である。
【0145】
第2実施形態は、第1実施形態に対して、貯留タンク430と循環経路の間に抑制部材402を設けた点が異なる。
【0146】
抑制部材402は、例えば金属製の板材からなり、循環経路側(ヘッド101を設置した側)と温度調整部側(貯留タンク430、温度調整装置435および熱交換構造体436を設置した側)の間で、相互に気体の流入を抑制(遮断)する。なお、抑制部材402は、相互の気体の流入を完全に抑制する構成であることが好ましいが、効果を奏する範囲内であれば完全に抑制しない構成であってもよい。
【0147】
送り路434aおよび戻し路434bは、それぞれ一端側は貯留タンク430に接続され、他端側は、抑制部材402を貫通し、中間タンク450に接続される。抑制部材402を貫通した部位においては、抑制部材402、送り路434aおよび戻し路434bに隙間が生じぬよう、シール剤などで密封するのが好ましい。
【0148】
本実施形態において、抑制部材402は、循環経路を包囲する構成として例示されているが、抑制部材402の形状や構成はこれに限るものではない。抑制部材402は、循環経路側および温度調整部側間における相互の気体の流入を抑制する構成であればよく、種々の変更が考えられる。
【0149】
例えば、抑制部材402は、循環経路を包囲するのではなく、破線で示すように貯留タンク430、温度調整装置435および熱交換構造体436を抑制部材402で包囲する構成としてもよい。
【0150】
あるいは、抑制部材402は、循環経路全体を包囲するのではなく、一点鎖線で示すように加圧タンク440、中間タンク450および減圧タンク460を包囲し、温度調整部とヘッド101とが隔離されるように構成してもよい。
【0151】
また、抑制部材402は、対象とする部位を包囲する構造にする必要はなく、例えば、1枚の壁面によって構成されてもよい。
【0152】
また、抑制部材402は、循環経路および温度調整部のそれぞれを別の抑制部材により包囲する構成としてもよい。この場合は、循環経路を包囲する抑制部材および温度調整部を包囲する抑制部材の2つを総称して抑制部材と呼ぶものとする。
【0153】
また、抑制部材402は、電極製造装置1000の筐体の一部もしくは全部を兼ねてもよい。例えば、
図1および
図2に示した電極製造装置1000において、印刷部400の筐体が抑制部材402の一部もしくは全部をなしてもよい。
【0154】
印刷部400の筐体が抑制部材402の一部をなすとき、抑制部材402は、循環経路と温度調整部の間に配置されることが好ましい。また、印刷部400の筐体が抑制部材402の全部をなすとき、循環経路と温度調整部の間の位置における印刷部400の筐体による抑制効果は、他の位置における印刷部400の筐体による抑制効果よりも高くなるように、印刷部400が構成されることが好ましい。
【0155】
印刷部400の筐体による抑制効果の差としては、例えば筐体における1つ以上の貫通孔の有無、または貫通孔が設けられる量、もしくは1つ以上の貫通孔の断面積により調整することができる。このとき、印刷部400の筐体における循環経路と温度調整部の間に配置される部分の貫通孔が、他の位置に配置される部分の貫通孔よりも少ない場合、もしくは貫通孔の断面積が小さい場合、当該抑制効果を高くすることができる。
【0156】
なお、温度調整装置435が、上述のチラー装置となる場合は、熱交換構造体436(ジャケットタンク)と温度調整装置435(チラー装置)との間が空間的に遮断されるように抑制部材402を設置することが好ましい。これにより、チラー装置自身が発する熱が貯留タンク430に伝わりにくくなり、貯留タンク430の温度を安定させることができる。
【0157】
<<第2実施形態における評価結果>>
第2実施形態において、温度調整装置435の設定温度を25°C±0.2°Cとした場合に、8時間の作業時間の間にヘッド101におけるインク温度が25°C±1.5°Cの範囲で調整可能かを検討した。その結果、少なくとも8時間の間に25°C±1.5°Cの範囲で温度調整が可能であることが確認された。
【0158】
また、使用前後のインク温度の変化を調べた。その際、温度調整装置435の設定温度を25°C±0.2°Cとした。これによれば、貯留タンク430におけるインク温度が25°C±1.0°C、ヘッド101におけるインク温度が25°C±1.3°Cの範囲で温度調整が可能であることが確認された。
【0159】
<第3実施形態>
図11は、本発明の第3実施形態における液体循環系の説明図である。
【0160】
第3実施形態は、第1実施形態に対して、貯留タンク430に加えて中間タンク450にも温度調整部が設けられている点が異なる。但し、貯留タンク430の温度調整部は冷却機能と加熱機能を備えているのに対し、中間タンク450の温度調整部(温度調整装置457、熱交換構造体458)は冷却機能のみを備え、加熱機能を有さない。
【0161】
第3実施形態によれば、例えば、送り路434a内を流れるインクが、送り路434aの内壁との摩擦によりインク温度が上昇した場合でも、中間タンク450の温度調整部によってインク温度を下げることが可能になる。しかも、中間タンク450の温度調整部には加熱機能がなく、加熱を行うための熱源を備えないため、有機溶剤を含むインクを用いた場合であっても、有機溶剤等の揮発成分の揮発によるインクの成分比率の変動、および当該変動に伴うインク吐出性能の低下を抑制することができる。
【0162】
なお、本実施形態においては、貯留タンク430に加えて中間タンク450にも温度調整部が設けられている構成について説明したが、これに限るものではない。例えば、貯留タンク430には温度調整部を設けず、中間タンク450に冷却機能のみを備え、加熱機能を有さない温度調整部を設けた構成としてもよい。上記構成においても、送り路434aの内壁との摩擦によりインク温度が上昇した場合、中間タンク450の温度調整部によってインク温度を下げることが可能になる。また、中間タンク450の温度調整部は加熱機能を有さないため、有機溶剤を含むインクを用いた場合であっても、有機溶剤等の揮発成分の揮発によるインクの成分比率の変動、および当該変動に伴うインク吐出性能の低下を抑制することができる。
【0163】
<第4実施形態>
図12は、本発明の第4実施形態における液体循環系の説明図である。
【0164】
第4実施形態は、第3実施形態に対して、抑制部材402が追加された点が異なる。抑制部材402は、循環経路内において、加圧タンク440、中間タンク450および減圧タンク460が並ぶタンク部と、ヘッド101との間に設けられる。
【0165】
第4実施形態によれば、中間タンク450および貯留タンク430のそれぞれの温度調整部が有する電装部品に、ヘッド101から吐出されたインク中の溶媒が付着することによる装置の劣化を物理的に防ぐことができる。
【0166】
なお、第4実施形態において抑制部材402は1枚の板材で壁面を形成する構成として例示されているが、抑制部材402の形状や構成はこれに限るものではない。抑制部材402は、ヘッド101および温度調整部間における相互の気体の流入を抑制する構成であればよく、種々の変更が考えられる。
【0167】
例えば、抑制部材402は、
図12において抑制部材402を境にして右側、つまりヘッド101の周囲を包囲する形状としてもよい。あるいは、
図12において抑制部材402を境にして左側、つまり温度調整部を含む貯留タンク430,加圧タンク440,中間タンク450および減圧タンク460の周囲を包囲する形状としてもよい。
【0168】
<第5実施形態>
図13は、本発明の第5実施形態における液体循環系の説明図である。
【0169】
第5実施形態は、第4実施形態に対して、排気ダクト406が追加された点が異なる。第5実施形態は、第4実施形態と同様に抑制部材402を設けるとともに、抑制部材402に対してヘッド101が設置された側の領域内に排気ダクト406を備える。
【0170】
排気ダクト406は、ヘッド101が設置された側の領域内を負圧の状態にして、ヘッド101周囲の空気を外部へ送り出す。なお、排気ダクト406によって外部へ送られる空気は、エアフィルタ等によって浄化された上で、大気に排出される。
【0171】
第5実施形態によれば、中間タンク450および貯留タンク430のそれぞれの温度調整部が有する電装部品に、ヘッド101から吐出されたインク中の溶媒が付着することによる装置の劣化を気圧差で防ぐことができる。
【0172】
また、このとき抑制部材402には貫通孔が設けられていてもよい。貫通孔を設けることで、上述した気圧差により、中間タンク450および貯留タンク430周辺の空気をヘッド101周辺ないしは外部側に送り出すことができるため、ヘッド101から吐出されたインク中の溶媒が付着することによる装置の劣化を防ぐことができる。
【0173】
<第6実施形態>
図14は、本発明の第6実施形態における液体循環系の説明図である。
【0174】
第6実施形態は、貯留タンクを複数備えた点がこれまでの実施形態と異なる。つまり、第6実施形態は、貯留タンク430の上流に、送液路492を介して別の貯留タンク490を直列に接続した構成となっている。貯留タンク430は「第1の貯留タンク」の一例であり、貯留タンク490は「第2の貯留タンク」の一例である。
【0175】
第6実施形態において温度調整部(温度調整装置495および熱交換構造体496)は、貯留タンク490に設けられている。また、使用者が、電極製造装置が有する経路内にインクを供給するためのインク供給口は、貯留タンク490に設けられる。貯留タンク490内のインク温度は、貯留タンク490に設けた温度センサ491が検知し、温度センサ491の検知結果をもとに、送液路492に設けた電磁弁493の開閉が制御される。温度センサ491は「温度検知手段」の一例であり、電磁弁493は「規制手段」の一例である。
【0176】
第6実施形態によれば、印刷動作などのインク吐出動作でインクが消費した場合も、貯留タンク490に新しいインクを投入してインク温度の調整を行いつつ、貯留タンク430のインクを用いることが可能になる。なお、貯留タンク430は、貯留タンク490よりもインクを保持する容量が小さいことが温度調整効率および小型化の点から望ましい。
【0177】
<<第6実施形態における評価結果>>
第6実施形態において、連続印刷における停止時間の評価を行った。従来は、インク消費によって新しいインクを電極製造装置に投入した場合、インク温度が使用可能な範囲になるまでの間、インクを加熱(または冷却)する必要があった。例えば、10°Cで保管されていた20リットルのインクを電極製造装置に投入した場合、インク温度を25°Cにするには50分の加熱時間が必要となっていた。この50分の間は印刷を行うことができない停止時間となる。
【0178】
これに対し本実施形態の場合は、貯留タンク490に新しいインクを投入したとしても、インク温度の調整にかかる50分の間、もう一方の貯留タンク430のインクを用いて印刷を続けることが可能となるため、停止時間は発生しなかった。
【0179】
<<電磁弁の制御について>>
次に、
図15および
図16を用いて第6実施形態における電磁弁の開閉制御について説明する。
図15は、電磁弁の制御に係わる部分のブロック図、
図16は、電磁弁の制御の一例を示すフローチャートである。
【0180】
印刷部400は、温度センサ491、制御部900、電磁弁493を開閉駆動する電磁弁駆動部910、および温度調整装置495を駆動する温度調整駆動部920を備える。
【0181】
温度センサ491は、
図14に示したように貯留タンク490に設けられ、貯留タンク490内のインクの温度を検知する。
【0182】
制御部900は、温度センサ491が検知したインク温度に基づき、電磁弁駆動部910を制御して電磁弁493の開閉動作を制御する。また、制御部900は、温度センサ491が検知したインク温度に基づき、温度調整駆動部920を制御して温度調整装置495によるインクの温度調整を制御する。
【0183】
温度調整装置495の出力は、熱交換構造体496、貯留タンク490および貯留タンク490に収容されたインクを介して温度センサ491にインク温度情報となって入力される。
【0184】
上記の構成において、温度センサ491は、貯留タンク490内のインクの温度を検知する(ステップS1)。
【0185】
温度センサ491の出力は制御部900に送信され、温度センサ491の出力を受信した制御部900は、インク温度が所定範囲内(印刷に使用可能な範囲内)かを判断する(ステップS2)。
【0186】
ステップS2において、制御部900がYes(インク温度は所定範囲内である)と判断した場合は、制御部900は、電磁弁493を開放可能な状態にする(ステップS3)。
【0187】
そして、ステップS3の状態において、制御部900から電磁弁駆動部910が送液の指示を受信した場合は、電磁弁駆動部910は電磁弁493を開放する。これにより、貯留タンク490内のインクは貯留タンク430に送られる(ステップS4)。
【0188】
ステップS2において、制御部900がNo(インク温度は所定範囲内でない)と判断した場合は、制御部900は、電磁弁493を閉鎖状態にする(ステップS5)。
【0189】
次に、制御部900から温度調整駆動部920が温度調整の実施の指示を受信した場合は、温度調整駆動部920は温度調整装置495を駆動する(ステップS6)。ステップS6での結果はステップS2へ返され、インク温度が所定範囲内になるまでステップS5,S6が繰り返される。
【0190】
上述のように、第6実施形態は、貯留タンク490のインクの温度を検知する温度センサ491と、貯留タンク490から貯留タンク430へのインクの送液を規制する電磁弁493と、温度センサ491の出力に基づき電磁弁493を駆動する900と、を備え、制御部900は、温度センサ491によって検知された温度が所定範囲内にない場合は貯留タンク490から貯留タンク430へのインクの送液を停止し、温度センサ491によって検知された温度が所定範囲内にある場合は貯留タンク490から貯留タンク430へのインクの送液が可能となるように、電磁弁493を駆動する。
【0191】
これにより、貯留タンク430に投入されたインクの内容量を一定に保つことが可能になるだけでなく、温度センサ491により、貯留タンク490内のインク温度が目標温度範囲に収まるまでは、電磁弁493を開放しない制御が可能となる。
【0192】
<第7実施形態>
図17は、本発明の第7実施形態における液体循環系の説明図である。
【0193】
第7実施形態は、温度調整部を複数の貯留タンクに備えた点が第6実施形態と異なる。つまり、2つの貯留タンク430,490のうち、循環経路から遠い側に配置した貯留タンク490には温度調整装置495および熱交換構造体496を含む温度調整部を備え、循環経路から近い側に配置した貯留タンク430には温度調整装置435および熱交換構造体436を含む温度調整部を備える。
【0194】
第7実施形態によれば、第6実施形態に比べて、より効果的に、かつ大容量のインク温度管理が可能になる。
【0195】
また、第7実施形態においても、第6実施形態と同様の電磁弁の開閉制御が可能である。すなわち、貯留タンク490のインクの温度を検知する温度センサ491と、貯留タンク490から貯留タンク430へのインクの送液を規制する電磁弁493と、温度センサ491の出力に基づき電磁弁493を駆動する900と、を備え、制御部900は、温度センサ491によって検知された温度が所定範囲内にない場合は貯留タンク490から貯留タンク430へのインクの送液を停止し、温度センサ491によって検知された温度が所定範囲内にある場合は貯留タンク490から貯留タンク430へのインクの送液が可能となるように、電磁弁493を駆動する。
【0196】
これにより、貯留タンク430に投入されたインクの内容量を一定に保つことが可能になるだけでなく、温度センサ491により、貯留タンク490内のインク温度が目標温度範囲に収まるまでは、電磁弁493を開放しない制御が可能となる。
【0197】
<<第7実施形態における評価結果>>
第7実施形態において、ヘッド101におけるインク温度と、貯留タンク430におけるインク温度の安定性を調べた。本実施形態の場合、インクの温度範囲が、ヘッド101において25°C±1.0°Cと、より精密に管理できるようになることが確認された。
【0198】
また、温度管理が可能なインク量についても、第6実施形態に比べて20リットル増量しても管理することができるようになった。
【0199】
また、貯留タンク490内に新しいインクを投入した際に、電磁弁493を開放しない状態でインク温度を25°Cまで調整し、その後、電磁弁493を開放することによって、印刷中に動作を停止させることなく、かつインク温度の安定性を高いレベル(25°C±0.5°C)で保たれることが確認された。
【0200】
<第8実施形態>
図18は、本発明の第8実施形態における液体循環系の説明図である。
【0201】
第8実施形態は、抑制部材の材質を変更した点が異なる。第8実施形態では、抑制部材を、断熱性を備えた構造体404に変えている。
【0202】
金属材料で作られることの多い抑制部材に対し、構造体404は、構造体404によって包囲された領域内部の空気と外気との熱交換効率を低下させることが可能になる。構造体404において一部または全部に断熱性を付与する材料としては、例えばグラスウール、ロックウール、セルロースファイバー、ウールブレス、炭化コルク、ポリスチレンフォーム、硬質ウレタンフォーム、フェノールフォームなどが挙げられる。断熱性を備えた構造体404としては、一部または全体平均の熱抵抗値が0.4m2・K/W以上であることが好ましい。
【0203】
上述のように、本実施形態において、抑制部材は断熱性を有する構造体404である。これにより、構造体404によって包囲された領域内部は温度の変動が抑制され、外乱の影響が減少する。
【0204】
なお、第8実施形態(
図18)は、第7実施形態(
図17)の構成に対して抑制部材を変更し説明したが、構造体404は第8実施形態の場合に限るものではない。上述の実施形態2,4,5,6に示した構造体402を、断熱性を備えた構造体404に置き換えてもよい。
【0205】
<<第8実施形態における評価結果>>
第8実施形態において、ヘッド101におけるインク温度を調べた。第8実施形態によれば、ヘッド101におけるインク温度は25°C±0.8°Cと、より精密に制御できることが確認された。
【0206】
また、抑制部材で覆われた領域内において、ヘッド101近傍、加圧タンク440近傍、減圧タンク460近傍、およびヘッド101内部におけるインク温度を熱電対で測定した。全ての測定箇所において、温度は27°Cから30°Cの温度範囲であり、温度は測定に用いた引火性の液体の引火点(50°C)よりも低いことが確認された。
【0207】
なお、第8実施形態において、抑制部材404は、循環経路を包囲する構成として例示されているが、抑制部材404の形状や構成はこれに限るものではない。抑制部材404は、循環経路側および温度調整部側間における相互の気体の流入を抑制する構成であればよく、上述のように種々の変更が可能である。
【0208】
<第9実施形態>
図19は、本発明の第9実施形態の説明図である。
【0209】
上述した全ての実施形態において、貯留タンク430は、その内部に、インクを撹拌する撹拌機構433を備えた構成としてもよい。撹拌機構433は、貯留タンク430内で回転する撹拌部材433a、および撹拌部材433aを回転させる駆動部433b等を含む。
【0210】
駆動部433bは、電気モータの他に、コンプレッサ等による圧縮空気の力で回転するエアーモータを用いる構成としてもよい。これにより、インク温度の均一化に要する時間を短縮することができる。
【0211】
なお、撹拌機構433は、貯留タンク430に限らず、貯留タンク490、または貯留タンク430,490の両方に設けてもよい。また、駆動部433bをエアーモータで構成した場合は、循環経路内の各タンク450,460,470に撹拌機構を備えてもよい。
【0212】
<変形例>
以下、実施形態の変形例について説明する。
【0213】
<<印刷部の変形例>>
上述の電極製造装置1000では、印刷部400の構成として、ヘッド101から吐出されるインクを直接、基材Wに付与する方式としたが、間接的にインクを基材に付与する方式でもよい。間接的にインクを付与する方式としては、例えば、転写工程を介してインクを基材に付与する方式(転写方式)がある。転写方式の例を、
図20を用いて説明する。
【0214】
図20は、印刷部の変形例を示す説明図であり、
図20(a)はドラム状の中間転写体を用いた印刷部、
図20(b)は無端ベルト状の中間転写体を用いた印刷部を示している。
【0215】
図20(a)に示した印刷部400´は、中間転写体4001を介して基材(電極基体)W10に液体組成物を転写することで基材W10の表面に機能層を形成するインクジェットプリンタである。
【0216】
印刷部400´は、インクジェット部420、転写ドラム4000、前処理ユニット4002、吸収ユニット4003、加熱ユニット4004および清掃ユニット4005を備える。
【0217】
インクジェット部420は、複数のヘッド101を保持したヘッドモジュール422を備える。ヘッド101は、転写ドラムに4000に支持された中間転写体4001にインクを吐出し、中間転写体4001上にインク層を形成する。各ヘッド101はラインヘッドであり、使用可能な最大サイズの基材W10の記録領域の幅をカバーする範囲にノズルが配列されている。
【0218】
ヘッド101は、その下面に、ノズルが形成されたノズル面を有しており、ノズル面は、微小間隙を介して中間転写体4001の表面と対向している。本実施形態の場合、中間転写体4001は円軌道上を循環移動する構成であるため、複数のヘッド101は、放射状に配置される。
【0219】
転写ドラム4000は、圧胴621と対向し、転写ニップ部を形成する。前処理ユニット4002は、ヘッド101によるインクの吐出前に、例えば、中間転写体4001上に、インクの粘度を高めるための反応液を付与する。吸収ユニット4003は、転写前に、中間転写体4001上のインク層から液体成分を吸収する。
【0220】
加熱ユニット4004は、転写前に、中間転写体4001上のインク層を加熱する。インク層を加熱することで、インク層中の樹脂が溶融し、基材W10への転写性が向上する。清掃ユニット4005は、転写後に中間転写体4001上を清掃し、中間転写体4001上に残留したインクやごみ等の異物を除去する。
【0221】
圧胴621の外周面は、中間転写体4001に圧接しており、圧胴621と中間転写体4001との転写ニップ部を基材W10が通過するときに、中間転写体4001上のインク層が基材W10に転写される。なお、圧胴621は、その外周面に基材W10の先端部を保持するグリップ機構を少なくとも1つ備えた構成としてもよい。
【0222】
図20(b)に示した印刷部400´´は、中間転写ベルト4006を介して基材W10に液体組成物を転写することで基材(電極基体)W10の表面に機能層を形成するインクジェットプリンタである。
【0223】
印刷部400´´は、インクジェット部420に設けた複数のヘッド101からインク滴を吐出して、中間転写ベルト4006の外周表面上にインク層を形成する。中間転写ベルト4006に形成されたインク層は、乾燥ユニット4007によって乾かされ、インク層は中間転写ベルト4006上で膜化する。
【0224】
中間転写ベルト4006が転写ローラ622と対向する転写ニップ部において、中間転写ベルト4006上の膜化したインク層は基材W10に転写される。転写後の中間転写ベルト4006の表面は、清掃ローラ4008によって清掃される。
【0225】
中間転写ベルト4006は、駆動ローラ4009a、対向ローラ4009b、複数(本例では4つ)の形状維持ローラ4009c,4009d,4009e,4009f、および複数(本例では4つ)の支持ローラ4009gに架け渡され、図中矢印方向に移動する。ヘッド101に対向して設けられる支持ローラ4009gは、ヘッド101からインク滴が吐出される際の中間転写ベルト4006の引張状態を維持する。
【0226】
なお、
図20(a)に示された中間転写体4001、および
図20(b)に示された中間転写ベルト4006に形成されるインク層は単層とは限らず、複数のヘッド101毎にインクを異ならせ、1パスで2層以上のインク層を形成する構成としてもよい。
【0227】
その場合、例えば
図21に示された工程(1)~(3)によって電極基体W10上に活物質層W20(X20)と絶縁層X30を形成することが可能になる。
【0228】
中間転写方式の場合、最終的に電極基体W10にインク層を転写する段階で、インク層の上下が反転する。そのため、工程(1)では、絶縁層用のインクを吐出するヘッド101を用いて、中間転写体4001(中間転写ベルト4006)に対してインクを付与し、中間転写体4001(中間転写ベルト4006)上に絶縁層X30を形成する。
【0229】
次に、工程(2)において、中間転写体4001(中間転写ベルト4006)に対し活物質層用のインクおよび絶縁層用のインクを付与する。そして、中間転写体4001(中間転写ベルト4006)上の絶縁層X30の上に更に活物質層W20(X20)および絶縁層X30を形成する。
【0230】
工程(2)における活物質層W20(X20)および絶縁層X30の作製は、活物質層用のインクと絶縁層用のインクを吐出可能な1つのヘッドにより1工程で作製してもよい。また、活物質層用のインクを吐出するヘッドと、絶縁層用のインクを吐出するヘッドを用いて2工程で作製してもよい。
【0231】
中間転写体4001(中間転写ベルト4006)上に作製されたインク層は、工程(3)において中間転写体4001(中間転写ベルト4006)から電極基体W10に転写される。中間転写方式の場合には、上記のような工程により電極基体W10への活物質層W20(X20)および絶縁層X30の作製が行われる。
【0232】
<<液体吐出ヘッドの変形例>>
上述の電極製造装置1000では、ヘッド101の構成として、ノズル板10のノズル面(ノズル11が形成された面)の形状は長方形としたが、ノズル板10は台形、ひし形、平行四辺形など、長方形以外の形状であってもよい。平行四辺形状のノズル板を備えたヘッドの例を、
図22および
図23を用いて説明する。
【0233】
図22は液体吐出ヘッドの変形例を示す説明図、
図23は、
図22の液体吐出ヘッドを複数並べた場合の説明図である。
【0234】
ヘッド1Rは、ノズル板短手方向に対して角度θ傾斜した外形(稜線)を有し、ヘッド1Rの液体吐出部101Rおよびノズル板10Rもこの稜線に沿う形状に形成されている。つまり、液体吐出部101Rは、外形形状が平行四辺形をしたノズル板10Rを有し、ノズル板10Rには複数のノズル11Rが規則的に二次元状に配列されている。
【0235】
ノズル11Rの配列は、例えば、N個のノズル11Rによって1列のノズル列11Nが構成され、このノズル列11Nを、上述の稜線と平行に、且つノズル板短手方向と直交するノズル板長手方向に複数列設けた配列となっている。
【0236】
上記構成のヘッド1Rは、
図23に示すように複数のヘッド1Ra,1Rbをノズル板長手方向に1列に並べることが可能であり、これにより、使用する基材の記録幅に合わせて、所望の長さのラインヘッドを得ることができる。
【0237】
<適用例>
本実施形態に係る電極製造装置1000は、必要に応じて印刷部400の前段または後段に各種工程を実行する装置を備えることで電気化学素子製造装置としてもよい。
【0238】
電気化学素子製造装置は、基材Wに液体を付与する電極製造装置1000に加え、例えば、液体組成物に活性エネルギー線を照射する照射部、液体組成物に含まれる溶媒を除去する除去部、基材をセル化に向けて加工する基材加工部などを含む。
【0239】
<照射部>
照射部は、例えば、液体組成物に対して熱、光などの活性エネルギー線を照射することにより重合性化合物を重合させる光照射装置と、重合不活性気体を循環させる重合不活性気体循環装置とを有する。光照射装置は、印刷部400により形成された液体組成物に重合性化合物が含まれる場合、重合不活性気体存在下において光を照射し絶縁層を形成させる。
【0240】
光照射装置は、液体組成物層に含まれる光重合開始剤の吸収波長に応じて適宜選択され、液体組成物層中の化合物の重合を開始および進行させられるものならば特に限定はなく、例えば、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、熱陰極管、冷陰極管、LED(Light Emitting Diode)等の紫外線光源が挙げられる。ただし、短波長の光ほど一般に深部に到達しやすい傾向を持つため、形成する多孔質膜の厚みに応じて光源を選択することが好ましい。
【0241】
重合不活性気体循環装置は、大気中に含まれる重合活性な酸素濃度を低下させ、液体組成物層の表面近傍の重合性化合物の重合反応を阻害されることなく進行させる役割を担う。そのため、用いられる重合不活性気体は上記機能を満たすものならば特に制限はなく、例えば窒素や二酸化炭素やアルゴンなどが挙げられる。
【0242】
また、重合不活性気体の流量としては阻害低減効果が効果的に得られることを考慮して、O2濃度が20%未満(大気よりも酸素濃度が低い環境)であることが好ましく、0%以上15%以下であることがより好ましく、0%以上5%以下であることが更に好ましい。また、重合不活性気体循環装置は安定した重合進行条件を実現させるために、温度を調節できる温度調整手段が設けられていることが好ましい。
【0243】
照射部において照射工程がおこなわれるときは、十分な重合反応を進行させることが可能となる理由から、基材Wの搬送速度は比較的遅いことが好ましい。
【0244】
照射部によって行われる照射工程は、例えば、電極製造装置1000による液体付与工程において付与されたインクに対して活性エネルギー線を照射する工程である。特に、重合誘起相分離を起こす液体組成物の場合は、照射工程は、最終的に製造される多孔質樹脂の空隙率を向上させ、これにより、例えば、多孔質樹脂における液体または気体などの流体の取込性を向上させる。具体的には、液体組成物に対して活性エネルギー線を照射することにより、空隙率の高い多孔質樹脂を形作る上で基礎となる多孔質構造を有する多孔質前駆体を形成する。
【0245】
なお、活性エネルギー線としては、重合性化合物の重合反応を進める上で必要なエネルギーを付与できるものであればよく、特に限定されないが、例えば、紫外線、電子線、α線、β線、γ線、X線等が挙げられる。これらの中でも紫外線であることが好ましい。なお、特に高エネルギーな光源を使用する場合には、重合開始剤を使用しなくても重合反応を進めることができる。
【0246】
<除去部>
除去部は、例えば、加熱装置を有し、形成した機能膜に残存する溶媒を、加熱装置により加熱して乾燥させて除去する。除去部は、溶媒除去工程を減圧下で実施してもよい。なお、除去部は、機能膜に残存する光重合開始剤を、加熱装置により加熱して乾燥させて除去してもよい。
【0247】
加熱装置は、上記機能を満たすものならば特に制限はなく、例えば赤外線ヒータや温風ヒータなどが挙げられる。また、加熱温度や加熱時間に関しては、機能膜に含まれる溶媒の沸点や形成膜厚に応じて適宜選択可能である。
【0248】
除去部において除去工程が行われるときは、十分な量の溶媒除去が可能となる理由から、基材Wの搬送速度は比較的遅いことが好ましい。
【0249】
除去部によって行われる除去工程は、例えば、液体組成物から溶媒または分散液を除去する工程である。溶媒または分散液を除去する方法としては特に限定されず、例えば、加熱することにより多孔質樹脂から溶媒または分散液を除去する方法が挙げられる。このとき、減圧下で加熱することで溶媒または分散液の除去がより促進され、形成される絶縁層における溶媒または分散液の残存を抑制できるので好ましい。
【0250】
<基材加工部>
基材加工部は、印刷部400よりも下流において、機能膜が形成された基材Wを加工する。基材加工部は、裁断、折り畳み、および貼り合わせの少なくとも1つを実施してもよい。基材加工部は、例えば、基材Wを裁断し、基材積層体を作製することができる。基材加工部は、基材Wを巻回または積層することができる。絶縁層が融点またはガラス転移点を有する材料を含む場合、基材加工部では、例えば、一の基材積層体と他の基材積層体は、加熱により少なくとも一部が接着される。
【0251】
基材加工部は、例えば、基材加工装置を有し、基材Wの裁断や基材Wのつづら折り、積層や巻回、積層や巻回後の基材間の熱接着等を目的の電池形態に応じて実施する。基材加工部において基材の加工が行われるときは、加工後の基材にシワ等のダメージを低減させることが可能となる理由から、基材Wの搬送速度は比較的遅いことが好ましい。
【0252】
基材加工部によって行われる基材加工工程は、例えば、印刷部400よりも下流において、機能膜が形成された基材Wを加工する工程である。基材加工工程は、裁断工程、折り畳み工程、および貼り合わせ工程の少なくとも1つを含んでもよい。
【0253】
以上説明したものは一例であり、本発明は次の態様毎に特有の効果を奏する。
【0254】
[態様1]
態様1は、液体組成物を付与することで電極素子に機能層を形成する付与部(例えばヘッド101)と、前記液体組成物を貯留する貯留タンク(例えば貯留タンク430)と、前記貯留タンクから前記液体組成物が供給される中間タンク(例えば中間タンク450)と、前記中間タンクから前記付与部へ前記液体組成物を供給する供給経路、および前記付与部から前記中間タンクへ前記液体組成物を排出する排出経路からなる循環経路(例えば、中間タンク450→加圧タンク440→加圧マニホールド470→ヘッド101→減圧マニホールド480→減圧タンク460→中間タンク450の経路)と、を備え、前記中間タンクは大気開放部(例えば、大気開放弁452)を有し、前記貯留タンクには、前記液体組成物の温度を調整する温度調整部(例えば温度調整装置435,熱交換構造体436)が設けられることを特徴とするものである。
【0255】
[態様2]
態様2は、態様1において、前記中間タンク(例えば中間タンク450)には、加熱機能を有さない温度調整部(例えば温度調整装置457,熱交換構造体458)が設けられることを特徴とするものである。
【0256】
[態様3]
態様3は、態様1または態様2において、前記付与部(例えばヘッド101)周囲における気体の前記貯留タンク(例えば貯留タンク430)への流入を抑制する抑制部材(例えば抑制部材402)を備えることを特徴とするものである。
【0257】
[態様4]
態様4は、態様1乃至態様3のいずれかにおいて、前記貯留タンク(例えば貯留タンク430)と前記中間タンク(例えば中間タンク450)の間には、前記貯留タンクから前記中間タンクへ前記液体組成物を送る送り路(例えば送り路434a)と、前記中間タンクから前記貯留タンクへ前記液体組成物を戻す戻し路(例えば戻し路434b)が設けられることを特徴とするものである。
【0258】
[態様5]
態様5は、態様1乃至態様4のいずれかにおいて、前記貯留タンク(例えば貯留タンク430)を第1の貯留タンクとした場合、前記第1の貯留タンクの上流に第2の貯留タンク(例えば貯留タンク490)が設けられ、前記温度調整部(例えば温度調整装置435,495、熱交換構造体436,496)を、前記第1の貯留タンクおよび前記第2の貯留タンクの少なくとも一方の貯留タンクに設けることを特徴とするものである。
【0259】
[態様6]
態様6は、態様5において、前記第2の貯留タンク(例えば貯留タンク490)の液体組成物の温度を検知する温度検知手段(例えば温度センサ491)と、前記第2の貯留タンクから前記第1の貯留タンク(例えば貯留タンク430)への液体組成物の送液を規制する規制手段(例えば電磁弁493)と、前記温度検知手段の出力に基づき前記規制手段を駆動する制御部(例えば制御部900)と、を備え、前記制御部は、前記温度検知手段によって検知された温度が所定範囲内にない場合は前記第2の貯留タンクから前記第1の貯留タンクへの液体組成物の送液を行わず、前記温度検知手段によって検知された温度が所定範囲内にある場合は前記第2の貯留タンクから前記第1の貯留タンクへの液体組成物の送液が可能となるように、前記規制手段を駆動することを特徴とするものである。
【0260】
[態様7]
態様7は、態様3乃至態様6のいずれかにおいて、前記抑制部材は断熱性を有する構造体(例えば構造体404)からなることを特徴とするものである。
【0261】
[態様8]
態様8は、態様3乃至態様7のいずれかにおいて、前記抑制部材(例えば抑制部材402、構造体404)は、該抑制部材を境にして前記付与部側(例えばヘッド101の周囲)、または前記抑制部材を境にして前記温度調整部側(例えば温度調整部を含む貯留タンク430,加圧タンク440,中間タンク450および減圧タンク460の周囲)を包囲する形状をなすことを特徴とするものである。
【0262】
[態様9]
態様9は、態様3乃至態様8のいずれかにおいて、前記抑制部材(例えば抑制部材402、構造体404)は、前記電極製造装置の筐体を兼ねていることを特徴とするものである。
【0263】
[態様10]
態様10は、態様1乃至態様9のいずれかにおいて、前記貯留タンク(例えば貯留タンク430)は、前記液体組成物を撹拌する撹拌部材を有する撹拌機構(例えば撹拌機構433)を備え、前記撹拌部材はエアーで動作することを特徴とするものである。
【0264】
[態様11]
態様11は、態様1乃至態様10のいずれかにおいて、前記付与部(例えばヘッド101)は、液体組成物を吐出するノズル(例えばノズル11)、前記ノズルに通じる液室(例えば液室21)、前記液室に液体組成物を供給する供給流路(例えば供給流路22)、および前記液室から液体組成物を回収する回収流路(例えば回収流路23)を有する液体吐出ヘッドを備えることを特徴とするものである。
【0265】
[態様12]
態様12は、態様1乃至態様11のいずれかにおいて、前記電極素子は電極基体(例えば電極基体W10)を含み、前記機能層は電極合材層(例えば活物質層X20)を含むことを特徴とするものである。
【0266】
[態様13]
態様13は、態様1乃至態様12のいずれかにおいて、前記電極素子は、電極基体(例えば電極基体W10)と、前記電極基体上に設けられた電極合材層(例えば活物質層W20)とを含み、前記機能層は絶縁層X30であることを特徴とするものである。
【符号の説明】
【0267】
1000 電極製造装置
101 ヘッド
400 印刷部
402 抑制部材
406 排気ダクト
430 貯留タンク
431 送液ポンプ
432 液面検知センサ
433 撹拌機構
434a 送り路
434b 戻し路
435 温度調整装置
436 熱交換構造体
440 加圧タンク
441 液面検知センサ
442 加圧ポンプ
450 中間タンク
451 液面検知センサ
452 大気開放弁
453 送液ポンプ
454 送液ポンプ
457 温度調整装置
458 熱交換構造体
460 減圧タンク
461 液面検知センサ
462 減圧ポンプ
470 加圧マニホールド
480 減圧マニホールド
490 貯留タンク
491 温度センサ
492 送液路
493 電磁弁
495 温度調整装置
496 熱交換構造体
900 制御部
W 基材