(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024016448
(43)【公開日】2024-02-07
(54)【発明の名称】研磨用組成物
(51)【国際特許分類】
C09K 3/14 20060101AFI20240131BHJP
C09G 1/02 20060101ALI20240131BHJP
B24B 37/00 20120101ALI20240131BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20240131BHJP
【FI】
C09K3/14 550Z
C09G1/02
B24B37/00 H
H01L21/304 622D
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022118579
(22)【出願日】2022-07-26
(71)【出願人】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】中貝 雄一郎
【テーマコード(参考)】
3C158
5F057
【Fターム(参考)】
3C158AA07
3C158CB01
3C158CB03
3C158CB10
3C158DA12
3C158DA17
3C158EA01
3C158EA11
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3C158ED21
3C158ED26
5F057AA14
5F057AA28
5F057BA15
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5F057EA09
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5F057EA22
5F057EA25
5F057EA28
5F057EA32
(57)【要約】
【課題】本発明は、研磨性能を向上させつつ、砥粒の沈降を防止し、砥粒の再分散性を向上させる手段を提供する。
【解決手段】本発明は、砥粒と、酸化剤と、水和金属イオンのpKaが7.0より小さい金属カチオンと、アニオンとの塩である金属塩Aと、層状化合物と、分散媒と、を含み、金属塩Aを8mM以上含む、研磨用組成物に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
砥粒と、酸化剤と、水和金属イオンのpKaが7.0より小さい金属カチオンと、アニオンとの塩である金属塩Aと、層状化合物と、分散媒と、を含み、
前記金属塩Aを8mM以上含む、研磨用組成物。
【請求項2】
前記層状化合物は、層状ケイ酸塩化合物である、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項3】
前記砥粒の平均二次粒子径が1.8μm以下である、請求項1または2に記載の研磨用組成物。
【請求項4】
前記酸化剤は、過マンガン酸類である、請求項1または2に記載の研磨用組成物。
【請求項5】
前記研磨用組成物は半導体基板の研磨に用いられる研磨用組成物であって、前記半導体基板は、化合物半導体基板である、請求項1または2に記載の研磨用組成物。
【請求項6】
請求項1または2に記載の研磨用組成物を用いて半導体基板を研磨する工程を含む、研磨方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にシリコンウェハ、炭化ケイ素等の半導体基板の研磨においては、半導体デバイスの高性能化および高集積密度化に伴う表面品質の向上はもちろんのこと、近年の需要増加に対応するための製造効率の向上が重要な課題とされている。この課題を解決するための技術として、例えば特許文献1には、酸化還元電位が0.5V以上の遷移金属を含む酸化剤と、平均二次粒子径が0.5μm以下の酸化セリウム粒子と、分散媒とを含有することを特徴とする研磨剤が開示されている。
【0003】
しかしながら、上記特許文献1に記載の研磨用組成物は、砥粒の分散性が悪いため、研磨性能(例えば、研磨除去速度や研磨対象物の表面粗さ)が安定せず、また研磨用組成物の製造中や使用中に、配管やスラリー供給チューブ内に砥粒が沈降し、配管等を閉塞させてしまうという問題があった。さらに長期保存後の砥粒の再分散性も悪いという問題があった。そして、炭化ケイ素等の硬度の高い材料に対する研磨除去速度の向上が強く求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、研磨性能を向上しつつ、砥粒の沈降を防止し、砥粒の再分散性を向上させる手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決すべく、本発明者は鋭意研究を積み重ねた。その結果、砥粒、酸化剤、水和金属イオンのpKaが7.0より小さい金属カチオンと、アニオンとの塩である金属塩A、層状化合物、および分散媒を含み、金属塩Aを8mM以上含む研磨用組成物により、上記課題が解決されうることを見出した。そして、上記知見に基づいて、本発明を完成するに至った。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、研磨性能を向上させつつ、砥粒の沈降を防止することができ、砥粒の再分散性を向上させる手段が提供されうる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の研磨用組成物の構成について、詳細に説明する。
【0009】
[砥粒]
本発明の研磨用組成物は、砥粒を含む。砥粒は、研磨対象物を機械的に研磨する作用を有する。
【0010】
本発明で用いられる砥粒の具体的な例としては、例えば、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化ケイ素(シリカ)、酸化セリウム(セリア)、酸化ジルコニウム、酸化チタン(チタニア)、酸化マンガン等の金属酸化物;炭化ケイ素、炭化チタン等の金属炭化物;窒化ケイ素、窒化チタン等の金属窒化物;ホウ化チタン、ホウ化タングステン等の金属ホウ化物;などが挙げられる。該砥粒は、単独でもまたは2種以上混合して用いてもよい。また、該砥粒は、市販品を用いてもよいし合成品を用いてもよい。
【0011】
これら砥粒の中でも、様々な粒子径を有するものが容易に入手でき、優れた研磨除去速度が得られるという観点から、金属酸化物および金属炭化物からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、酸化アルミニウムがより好ましい。
【0012】
砥粒の平均二次粒子径は、0.01μm以上であることが好ましく、0.05μm以上であることがより好ましく、0.1μm以上であることがさらに好ましく、0.2μm以上が特に好ましい。砥粒の平均二次粒子径が大きくなるにつれて、研磨対象物の研磨除去速度が向上する。また、砥粒の平均二次粒子径は、10.0μm以下であることが好ましく、5.0μm以下であることがより好ましく、3.0μm以下であることがさらに好ましく、1.8μm以下であることが一層好ましく、1.5μm以下であることがより一層好ましく、1.0μm以下が特に好ましく、0.5μm以下が最も好ましい。砥粒の体積平均粒子径が小さくなるにつれて、低欠陥で粗度の小さな表面を得ることが容易となる。上記より、砥粒の平均二次粒子径は、0.01μm以上10.0μm以下であることが好ましく、0.05μm以上5.0μm以下であることがより好ましく、0.1μm以上3.0μm以下であることがさらに好ましく、0.2μm以上1.0μm以下であることが特に好ましい。
【0013】
なお、本明細書における砥粒の平均二次粒子径は、特記しない限り、レーザー回析散乱法に基づき測定される。測定は、具体的には、株式会社堀場製作所製のレーザー回析/散乱式粒度分布測定装置(商品名「LA-950」)を用いて行うことができる。
【0014】
研磨用組成物中の砥粒の含有量は、0.001質量%以上であることが好ましく、0.005質量%以上であることがより好ましく、0.01質量%以上であることがさらに好ましい。砥粒の含有量が多くなるにつれて、研磨除去速度が上昇する。研磨用組成物中の砥粒の含有量は、0.05質量%以上であってもよく、0.1質量%以上であってもよい。
【0015】
また、研磨用組成物中の砥粒の含有量は、30質量%以下であることが好ましく、25質量%以下であることがさらに好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。砥粒の含有量が少なくなるにつれて、研磨用組成物の製造コストが低減するのに加えて、研磨用組成物を用いた研磨により傷等の欠陥が少ない表面を得ることが容易となる。研磨用組成物中の砥粒の含有量は、8質量%以下であってもよく、7質量%以下であってもよい。
【0016】
上記より、研磨用組成物中の砥粒の含有量は、0.001質量%以上30質量%以下であることが好ましく、0.005質量%以上25質量%以下であることがより好ましく、0.01質量%以上10質量%以下であることがさらに好ましい。また、研磨用組成物中の砥粒の含有量は、0.05質量%以上8質量%以下であってもよく、0.1質量%以上7質量%以下であってもよい。
【0017】
[酸化剤]
本発明の研磨用組成物は、酸化剤を含む。酸化剤は、研磨過程において基板表面との間で酸化反応を起こし、当該表面の硬度を低くし、当該表面を脆弱にし得る。酸化剤を用いることにより、研磨除去速度を効果的に向上することができる。
【0018】
酸化剤は、基板表面を酸化する作用を発揮するのに十分な酸化還元電位を有する物質であれば特に限定されない。例えば、酸化剤は、研磨を実施するpHにおいて、基板材料の酸化還元電位より高い酸化還元電位を有する物質であり得る。ここで、上記研磨を実施するpHは、通常、研磨用組成物のpHと同じである。なお、基板材料の酸化還元電位は、当該材料の粉末を水に分散させてスラリーにし、そのスラリーを研磨用組成物と同じpHに調整した後、市販の酸化還元電位計を用いて当該スラリーの酸化還元電位(液温25℃における標準水素電極に対する酸化還元電位)を測定した値が採用される。なお、本明細書における酸化剤には、後述する金属塩Aは含まれない。
【0019】
酸化剤の具体例としては、過酸化水素等の過酸化物;硝酸鉄、硝酸銀、硝酸アルミニウム等の硝酸類;ペルオキソ一硫酸、ペルオキソ二硫酸等の過硫酸等の過硫酸類;塩素酸等の塩素酸類;過塩素酸等の過塩素酸類;臭素酸等の臭素酸類;ヨウ素酸等のヨウ素酸類;過ヨウ素酸類;鉄酸カリウム等の鉄酸類;過マンガン酸ナトリウム、過マンガン酸カリウム等の過マンガン酸類;クロム酸カリウム、二クロム酸カリウム等のクロム酸類;バナジン酸アンモニウム、バナジン酸ナトリウム、バナジン酸カリウム等のバナジン酸類;過ルテニウム酸またはその塩等のルテニウム酸類;モリブデン酸、その塩であるモリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸二ナトリウム等のモリブデン酸類;過レニウム酸またはその塩等のレニウム酸類;タングステン酸、その塩であるタングステン酸二ナトリウム等のタングステン酸類;が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく2種以上を適宜組み合わせて用いてもよい。
【0020】
いくつかの好ましい態様では、研磨用組成物は、酸化剤として複合金属酸化物を含む。上記複合金属酸化物としては、硝酸類、鉄酸類、過マンガン酸類、クロム酸類、バナジン酸類、ルテニウム酸類、モリブデン酸類、レニウム酸類、タングステン酸類が挙げられる。なかでも、鉄酸類、過マンガン酸類、クロム酸類がより好ましく、過マンガン酸類がさらに好ましい。複合金属酸化物は1種を単独で用いてもよく2種以上を適宜組み合わせて用いてもよい。
【0021】
ここに開示される研磨用組成物は、上記複合金属酸化物以外の酸化剤をさらに含んでもよく、含まなくてもよい。ここに開示される技術は、酸化剤として上記複合金属酸化物以外の酸化剤(例えば過酸化水素)を実質的に含まない態様で好ましく実施され得る。
【0022】
研磨用組成物中の酸化剤の含有量は、0.001mol/L以上とすることが適当である。研磨除去速度向上の観点から、いくつかの態様において、酸化剤の含有量は、上記濃度は0.005mol/L以上が好ましく、0.01mol/L以上がより好ましく、0.05mol/L以上がさらに好ましい。いくつかの好ましい態様では、酸化剤の含有量は、0.10mol/L以上であり、0.15mol/L以上であってもよく、0.20mol/L以上であってもよく、例えば0.25mol/L以上である。また、研磨後の面品質の観点から、上記酸化剤の含有量は、10mol/L以下とすることが適当であり、5mol/L以下とすることが好ましく、3mol/L以下(例えば2.5mol/L以下、あるいは2mol/L以下)とすることがより好ましい。いくつかの態様において、酸化剤の含有量は、2mol/L未満であってもよく、1.5mol/L以下であってもよく、1.5mol/L未満であってもよい。
【0023】
上記より、研磨用組成物中の酸化剤の含有量は、0.001mol/L以上10mol/L以下が適当であり、0.005mol/L以上5mol/L以下が好ましく、0.01mol/L以上3mol/L以下であることがより好ましい。いくつかの態様において、研磨用組成物中の酸化剤の含有量は、0.05mol/L以上2.5mol/L以下であってもよく、0.10mol/L以上2mol/L以下であってもよい。また、いくつかの好ましい態様では、研磨用組成物中の酸化剤の含有量は、0.15mol/L以上2mol/L未満であってもよく、0.20mol/L以上1.5mol/L以下であってもよく、0.20mol/L以上1.5mol/L未満であってもよい。
【0024】
[金属塩A]
本発明の研磨用組成物は、金属塩Aを含有する。金属塩Aは、水和金属イオンのpKaが7.0より小さい金属カチオンと、アニオンとの塩である。なお、本明細書において、金属カチオンとは、金属を含むカチオンを意味する。すなわち、上記金属カチオンは、金属のみから構成されるカチオンであってもよく、金属および非金属から構成されるカチオンであってもよい。金属塩Aは、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。炭化ケイ素の研磨に用いられる研磨用組成物に、酸化剤に加えて金属塩Aを含有させることにより、研磨除去速度と貯蔵安定性とが向上する。
【0025】
理論により拘束されることを望むものではないが、かかる効果が得られる理由は、例えば以下のように考えられる。すなわち、炭化ケイ素により構成された表面を有する研磨対象物に酸化剤を含む研磨用組成物を供給して行われる研磨(ポリシング)において、該研磨用組成物に含まれる酸化剤は、炭化ケイ素の表面を酸化して脆くすることで研磨除去速度の向上に寄与し得る。しかし、上記酸化は、研磨対象物に供給された研磨用組成物のpHを上昇させる要因となり得る。これにより、研磨対象物に供給された研磨用組成物のpHが、該研磨対象物の研磨中に初期pH(すなわち、上記研磨対象物に供給される研磨用組成物のpH)から上昇して適正なpH範囲から外れると、上記研磨対象物上において研磨用組成物の化学的研磨性能が低下することとなる。酸化剤を含む研磨用組成物に、水和金属イオンのpKaが7.0より小さい金属カチオンを含む金属塩Aを含有させると、該金属塩Aが緩衝作用を発揮することで研磨用組成物のpH上昇が抑制されて適正なpH範囲に維持され、これにより研磨用組成物の化学的研磨性能が維持されることにより研磨除去速度が向上するものと考えられる。また、該金属塩Aの緩衝作用が貯蔵安定性の向上に寄与しているものと考えられる。ただし、以上の考察は本発明の範囲を限定するものではない。
【0026】
いくつかの態様において、金属塩Aとしては、水和金属イオンのpKaが6.5以下の金属カチオンと、アニオンとの塩を好ましく採用し得る。水和金属イオンのpKaが6.5以下である金属カチオンとしては、例えばAl3+(水和金属イオンのpKaが5.0)、Cr3+(水和金属イオンのpKaが4.2)、In3+(水和金属イオンのpKaが4.0)、Ga3+(水和金属イオンのpKaが2.6)、Fe3+(水和金属イオンのpKaが2.2)、Hf4+(水和金属イオンのpKaが0.2)、Zr4+(水和金属イオンのpKaが-0.3)、Ce4+(水和金属イオンのpKaが-1.1)、Ti4+(水和金属イオンのpKaが-4.0)が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの態様において、上記水和金属イオンのpKaは、6.5未満であってもよく、6.0以下であってもよく、6.0未満であってもよく、5.5以下であってもよく、5.0以下であってもよく、4.5以下でもよく、4.0以下でもよく、3.5以下でもよく、3.0以下でもよい。また、上記水和金属イオンのpKaは、凡そ-5.0以上であることが適当であり、-1.5以上であってもよく、-0.5以上であってもよく、0.0以上であることが好ましく、0.5以上であることがより好ましく、1.0以上でもよく、1.5以上でもよく、2.0以上でもよく、2.5以上でもよい。金属塩Aにおける上記金属カチオンの価数は、例えば2価~4価であり得る。いくつかの態様において、3価の金属を含むカチオンと、アニオンとの塩である金属塩Aを好ましく採用し得る。
【0027】
上記より、上記水和金属イオンのpKaは、-5.0以上6.5以下であってもよく、-1.5以上6.5未満であってもよく、-1.5以上6.0以下であってもよく、-0.5以上6.0未満であってもよく、-0.5以上5.5以下であってもよい。
【0028】
金属塩Aにおける上記金属カチオンは、例えば周期表の第3~16族に属する金属を含むカチオンであってよく、周期表の第4~14族に属する金属を含むカチオンであることが好ましく、周期表の第6~14族に属する金属を含むカチオンであることがより好ましい。ここに開示される技術は、例えば周期表の第13族に属する金属を含むカチオンとアニオンとの塩である金属塩Aを用いる態様で好ましく実施することができる。
【0029】
いくつかの態様において、金属塩Aとしては、pHを2.5~5.5(例えば3.0~4.5)に緩衝するものを好ましく採用し得る。金属塩Aが緩衝するpHは、該金属塩Aの水溶液を水酸化ナトリウムで滴定することにより把握することができる。
【0030】
金属塩Aは、無機酸塩であってもよく、有機酸塩であってもよい。無機酸塩の例としては、塩酸、臭化水素酸、フッ化水素酸等のハロゲン化水素酸や、硝酸、硫酸、炭酸、ケイ酸、ホウ酸、リン酸等の塩が挙げられる。有機酸塩の例としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、安息香酸、グリシン酸、酪酸、クエン酸、酒石酸、トリフルオロ酢酸等のカルボン酸;メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸等の有機スルホン酸;メチルホスホン酸、ベンゼンホスホン酸、トルエンホスホン酸等の有機ホスホン酸;エチルリン酸等の有機リン酸;等の塩が挙げられる。なかでも、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸の塩が好ましく、塩酸、硝酸、硫酸の塩がより好ましい。ここに開示される技術は、例えば、金属塩Aとして、Al3+、Cr3+、Fe3+、In3+、Ga3+およびZr4+からなる群から選択されるカチオンと、硝酸イオン(NO3-)、塩化物イオン(Cl-)、硫酸イオン(SO4
2-)および酢酸イオン(CH3COO-)からなる群から選択されるアニオンとの塩を用いる態様で好ましく実施され得る。
【0031】
金属塩Aは、好ましくは水溶性の塩である。水溶性の金属塩Aを用いることにより、スクラッチ等の欠陥の少ない良好な表面を効率よく形成し得る。
【0032】
研磨用組成物における金属塩Aの濃度(含有量)は、特に限定されず、該研磨用組成物の使用目的や使用態様に応じて、所望の効果が達成されるように適切に設定され得る。研磨用組成物における金属塩Aの濃度は、例えば凡そ1000mM以下であってよく、500mM以下でもよく、300mM以下でもよい。研磨除去速度と貯蔵安定性を効果的に両立しやすくする観点から、いくつかの態様において、研磨用組成物における金属塩Aの濃度は、200mM以下とすることが適当であり、100mM以下とすることが好ましく、50mM以下とすることがより好ましく、40mM以下でもよく、30mM以下でもよく、20mM以下でもよく、10mM以下でもよい。研磨用組成物における金属塩Aの濃度は、例えば0.1mM以上であってよく、金属塩Aの使用効果を適切に発揮する観点から8mM以上とすることが必要であり、10mM以上とすることが好ましく、15mM以上(例えば20mM以上)とすることがより好ましい。ここに開示される技術は、例えば、研磨用組成物における金属塩Aの濃度が25mM以上または30mM以上である態様でも好ましく実施され得る。なお、1mM=1mmol/Lである。
【0033】
上記より、研磨用組成物における金属塩Aの濃度は、0.1mM以上1000mM以下であってもよく、8mM以上500mM以下であってもよく、10mM以上300mM以下であってもよい。いくつかの態様において、研磨用組成物における金属塩Aの濃度は、15mM以上200mM以下とすることが適当であり、20mM以上100mM以下とすることが好ましく、15mM以上50mM以下とすることがより好ましく、20mM以上40mM以下であってもよく、20mM以上30mM以下であってもよい。さらに、いくつかの態様において、研磨用組成物における金属塩Aの濃度は、0.1mM以上20mM以下であってもよく、0.1mM以上10mM以下であってもよい。
【0034】
特に限定されるものではないが、酸化剤を含む研磨用組成物に金属塩Aを含有させることによる効果をより良く発揮させる観点から、研磨用組成物における金属塩Aの濃度(複数の金属塩Aを含む場合には、それらの合計濃度)C2[mM]と、酸化剤の濃度(複数の酸化剤を含む場合には、それらの合計濃度)C1[mM]との比(C2/C1)は、凡そ0.0002以上とすることが適切であり、好ましくは0.0005以上、より好ましくは0.0007以上であり、0.001以上でもよく、0.003以上でもよく、0.005以上でもよい。研磨除去速度をより向上させる観点から、いくつかの態様において、C2/C1は、例えば0.073以上であってよく、0.01以上であることが好ましく、0.015以上でもよく、0.02以上でもよい。C2/C1は特に限定されないが、概ね200以下であることが適当であり、100以下でもよく、75以下でもよく、50以下でもよい。いくつかの好ましい態様において、C2/C1は、20以下でもよく、10以下でもよく、5以下でもよく、1以下でもよく、0.6以下でもよく、0.5以下でもよく、0.3以下でもよく、0.2以下でもよい。このような金属塩Aと酸化剤の濃度比(C2/C1)において、金属塩Aによる研磨除去速度向上は好ましく実現され得る。
【0035】
上記より、C2/C1は、好ましくは0.0002以上200以下、より好ましくは0.0005以上100以下であり、0.007以上75以下であってもよく、0.001以上50以下であってもよい。いくつかの態様において、C2/C1は、例えば0.003以上20以下であってもよく、0.005以上10以下であってもよく、0.007以上5以下であってもよく、0.01以上1以下であってもよく、0.015以上0.6以下であってもよく、0.02以上0.5以下であってもよく、0.02以上0.3以下であってもよく、0.02以上0.2以下であってもよい。
【0036】
[層状化合物]
本発明の研磨用組成物において、層状化合物は、砥粒との化学結合(例えば、共有結合、イオン結合、配位結合、水素結合等)は形成しておらず、また、砥粒に対して物理的な付着がされているものでもなく、砥粒に担持されているものでもない。つまり、層状化合物は、砥粒との分子間力の作用や静電的な作用等により、砥粒粒子と引き合う弱い相互作用を形成し、砥粒粒子の間に立体障害となるような状態で存在しうる。これにより、砥粒の凝集が抑えられるため、研磨性能を維持しつつ沈降を防止させたりや再分散性を向上させたりする本発明の効果が得られると考えられる。
【0037】
また、研磨用組成物を調整後、所定温度で所定期間保管することにより、上記の層状化合物と砥粒粒子との弱い相互作用が促進され、砥粒の沈降防止の効果や再分散性向上の効果がさらに向上すると考えられる。
【0038】
なお、上記メカニズムは推測に基づくものであり、その正誤が本発明の技術的範囲に影響を及ぼすものではない。
【0039】
本発明で用いられる層状化合物としては、上記の効果を発現するものであれば特に限定されないが、例えば、層状ケイ酸塩化合物に代表される粘土鉱物、NbO6八面体ユニットから成る二次元シート状構造を有する層状ニオブ酸塩化合物、TiO5の三角両錐体が平面的につながった層構造やTiO6八面体ユニットから成る二次元シート状構造を有する層状チタン酸塩化合物、層間にリン酸のOH基が存在している金属リン酸塩、2価と3価の金属イオンを含む水酸化物層と層間に陰イオンが存在している層状複水酸化物、金属原子を正八面体型または三角プリズム型にカルコゲン原子が囲んだ構造を有する金属カルコゲン化合物、強く結合した原子層が積層した構造の窒化ホウ素、天然グラファイト、人工グラファイト等のグラファイト等が挙げられる。
【0040】
より具体的には、例えば、層状ニオブ酸塩化合物としてはK4Nb6O17、KNb3O8、HNb3O8、NaNbO3、LiNbO3、Cs4Nb6O17等、層状チタン酸塩化合物としてはNa2Ti3O7、K2Ti4O9、K2Ti2O5、Cs2Ti5O11、Cs2Ti6O13等、金属リン酸塩としてはα-Zr(HPO4)2、γ-ZrPO4・H2PO4等の層状リン酸ジルコニウム、層状複水酸化物としてはハイドロタルサイト等、金属カルコゲン化合物としてはMoS2、WS2、TaS2、NbS2等が挙げられる。これら層状化合物は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。上記の層状化合物の中でも、本発明の効果が安定的に且つ効率よく得られるという観点から、層状ケイ酸塩化合物が好ましい。以下、層状ケイ酸塩化合物について説明する。
【0041】
(層状ケイ酸塩化合物)
層状ケイ酸塩化合物は、ケイ酸四面体が平面的につながっている構造が基本となり、単位構造の中にケイ酸四面体シート1枚または2枚と、アルミナまたはマグネシア八面体シート1枚とを含むことを特徴とする構造体である。その層間(単位構造間)においては、ナトリウム、カリウム、カルシウム等の陽イオンが存在する。また、該層状ケイ酸塩化合物は、結晶が薄く剥がれる性質を有する物質である。
【0042】
本発明で用いられる層状ケイ酸塩化合物は、天然物であってもよく、合成品であってもよく、市販品であってもよく、これらの混合物であってもよい。層状ケイ酸塩化合物の合成方法としては、例えば、水熱合成反応法、固相反応法、溶融合成法等が挙げられる。
【0043】
該層状ケイ酸塩化合物の具体的な例としては、タルク、パイロフィライト、スメクタイト(サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、スティブンサイト、ベントナイト、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト等)、バーミキュライト、雲母(金雲母、黒雲母、チンワルド雲母、白雲母、パラゴナイト、セラドナイト、海緑石等)、緑泥石(クリノクロア、シャモサイト、ニマイト、ペナンタイト、スドーアイト、ドンバサイト等)、脆雲母(クリントナイト、マーガライト等)、スーライト、蛇紋石(アンチゴライト、リザーダイト、クリソタイル、アメサイト、クロンステダイト、バーチェリン、グリーナライト、ガーニエライト等)、カオリン(カオリナイト、ディッカイト、ナクライト、ハロイサイト等)等が挙げられる。
【0044】
これら層状ケイ酸塩化合物は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。中でも、チキソ性や膨潤性に優れており、砥粒の沈降防止性や再分散性をより向上させやすいという観点から、スメクタイト(サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、スティブンサイト、ベントナイト、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト等)が好ましく、ヘクトライト(ナトリウムヘクトライト)、ベントナイト(ナトリウムベントナイト)がより好ましい。
【0045】
層状ケイ酸塩化合物の粒子径の下限は、0.01μm以上であることが好ましく、0.02μm以上であることがより好ましく、0.05μm以上であることがさらに好ましい。層状ケイ酸塩化合物の粒子径が大きくなるにつれて、砥粒の沈降防止性や再分散性が向上する。また、層状ケイ酸塩化合物の粒子径の上限は、10μm以下であることが好ましく、8μm以下であることがより好ましく、5μm以下であることがさらに好ましい。層状ケイ酸塩化合物の粒子径が小さくなるにつれて、面精度が向上する。上記より、層状ケイ酸塩化合物の粒子径は、0.01μm以上10μm以下であることが好ましく、0.02μm以上8μm以下であることがより好ましく、0.05μm以上5μm以下であることがさらに好ましい。
【0046】
なお、本明細書において、層状ケイ酸塩化合物の粒子径は、電子顕微鏡を用いて求めた値と定義する。より具体的には、層状ケイ酸塩化合物の粒子径は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0047】
研磨用組成物中の層状化合物の含有量は、0.01質量%以上であることが好ましく、0.02質量%以上であることがより好ましい。砥粒の沈降防止および分散性向上の観点から、いくつかの態様において、研磨用組成物中の層状化合物の含有量は、0.05質量%以上であってもよく、0.08質量%以上であってもよく、0.1質量%以上であってもよい。また、研磨用組成物中の層状化合物の含有量は、5質量%以下であることが好ましく、2質量%以下であることがより好ましい。このような範囲であれば、上記本発明の効果が効率よく得られる。研磨用組成物中の層状化合物の含有量は、1質量%以下であってもよく、0.5質量%以下であってもよい。
【0048】
上記より、研磨用組成物中の層状化合物の含有量は、0.01質量%以上5質量%以下であることが好ましく、0.02質量%以上2質量%以下であることがより好ましい。いくつかの態様において、研磨用組成物中の層状化合物の含有量は、0.05質量%以上1質量%以下であってもよく、0.08質量%以上0.5質量%以下であってもよく、0.1質量%以上0.5質量%以下であってもよい。
【0049】
特に限定されるものではないが、研磨用組成物に層状化合物を含有させることによる効果をより良く発揮させる観点から、研磨用組成物における層状化合物の濃度(複数の層状化合物を含む場合には、それらの合計濃度)D[質量%]と、砥粒の濃度(複数の砥粒を含む場合には、それらの合計濃度)A[質量%]との比(D/A)は、0.008以上とすることが適切であり、0.01以上とすることが好ましく、例えば0.03以上、0.04以上、0.05以上とすることができる。D/Aは特に限定されないが、5.0以下とすることが適切であり、2.0以下とすることが好ましく、例えば1.0以下、0.5以下、0.2以下とすることができる。上記より、D/Aは、0.008以上5.0以下とすることが適切であり、0.01以上2.0以下とすることが好ましく、例えば0.03以上1.0以下、0.04以上0.5以下、0.05以上0.2以下とすることができる。
【0050】
[分散媒]
本発明に係る研磨用組成物は、各成分を分散するための分散媒を含む。分散媒としては水が好ましい。他の成分の作用を阻害することを抑制するという観点から、不純物をできる限り含有しない水が好ましく、具体的には、イオン交換樹脂にて不純物イオンを除去した後、フィルタを通して異物を除去した純水や超純水、または蒸留水が好ましい。
【0051】
[研磨用組成物のpH]
本発明の研磨用組成物のpHの下限は、特に制限されないが、1.0以上であることが好ましい。研磨用組成物のpHは、例えば、1.0超であってもよく、1.5以上であってもよく、1.5超であってもよく、2.0以上であってもよい。また、pHの上限は、特に制限されないが、8.0以下であることが好ましく、8.0未満であることがより好ましく、7.0以下であることがさらに好ましく、7.0未満であることが特に好ましい。金属塩Aの緩衝作用向上の観点から、pHの上限は、6.5以下であってもよく、6.0以下であってもよい。上記より、本発明の研磨用組成物のpHは、1.0以上8.0以下であってもよく、1.0超8.0未満であってもよく、1.5以上7.0以下であってもよく、1.5超7.0未満であってもよく、2.0以上6.5以下であってもよい。
【0052】
研磨用組成物のpHは、下記で説明する酸またはその塩や、塩基またはその塩の添加により調整することができる。
【0053】
[他の成分]
本発明の研磨用組成物は、必要に応じて、pHを調整する酸またはその塩もしくは塩基またはその塩、金属塩A以外の金属塩B、研磨対象物の表面や砥粒表面に作用する水溶性高分子、研磨対象物の腐食を抑制する防食剤やキレート剤、その他の機能を有する防腐剤、防黴剤等の他の成分をさらに含んでもよい。
【0054】
酸としては、無機酸および有機酸のいずれも用いることができる。無機酸の例としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、フッ酸、ホウ酸、炭酸、次亜リン酸、亜リン酸、およびリン酸等が挙げられる。また、有機酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、2-メチル酪酸、n-ヘキサン酸、3,3-ジメチル酪酸、2-エチル酪酸、4-メチルペンタン酸、n-ヘプタン酸、2-メチルヘキサン酸、n-オクタン酸、2-エチルヘキサン酸、安息香酸、グリコール酸、サリチル酸、グリセリン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、マレイン酸、フタル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、乳酸、ジグリコール酸、2-フランカルボン酸、2,5-フランジカルボン酸、3-フランカルボン酸、2-テトラヒドロフランカルボン酸、メトキシ酢酸、メトキシフェニル酢酸、フェノキシ酢酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、スルホコハク酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、フェニルホスホン酸、ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸等が挙げられる。さらに、塩としては、第1族元素塩、第2族元素塩、アルミニウム塩、アンモニウム塩、アミン塩、および第四級アンモニウム塩等が挙げられる。これら酸またはその塩は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。これらの中でも、硝酸、硫酸が好ましい。
【0055】
研磨用組成物中の酸またはその塩の含有量は、上記のpHの範囲となるように適宜調整すればよい。
【0056】
塩基またはその塩の例としては、脂肪族アミン、芳香族アミン等のアミン、水酸化第四アンモニウム等の有機塩基、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等の第2族元素の水酸化物、およびアンモニア等が挙げられる。
【0057】
研磨用組成物中の塩基またはその塩の含有量は、上記のpHの範囲となるように適宜調整すればよい。
【0058】
金属塩Bとしては、例えば、アルカリ土類金属塩(第2族元素塩)を挙げることができる。金属塩Bは、1種のアルカリ土類金属塩を単独で用いてもよく、2種以上のアルカリ土類金属塩を組み合わせて用いてもよい。金属塩Bは、アルカリ土類金属に属する元素として、Mg、Ca、Sr、Baのうちのいずれか1種または2種以上を含むことが好ましい。なかでもCa、Srのうちのいずれかが好ましく、Caがより好ましい。
【0059】
金属塩Bにおける塩の種類は特に限定されず、無機酸塩であっても有機酸塩であってもよい。無機酸塩の例としては、塩酸、臭化水素酸、フッ化水素酸等のハロゲン化水素酸や、硝酸、硫酸、炭酸、ケイ酸、ホウ酸、リン酸等の塩が挙げられる。有機酸塩の例としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、安息香酸、グリシン酸、酪酸、クエン酸、酒石酸、トリフルオロ酢酸等のカルボン酸;メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸等の有機スルホン酸;メチルホスホン酸、ベンゼンホスホン酸、トルエンホスホン酸等の有機ホスホン酸;エチルリン酸等の有機リン酸;等の塩が挙げられる。
【0060】
金属塩Bの選択肢となり得るアルカリ土類金属塩の具体例としては、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化ストロンチウム、塩化バリウム等の塩化物;臭化マグネシウム等の臭化物;フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム、フッ化ストロンチウム、フッ化バリウム等のフッ化物;硝酸マグネシウム、硝酸カルシウム、硝酸ストロンチウム、硝酸バリウム等の硝酸塩;硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸ストロンチウム、硫酸バリウム等の硫酸塩;炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウム等の炭酸塩;酢酸カルシウム、酢酸ストロンチウム、安息香酸カルシウム、クエン酸カルシウム等のカルボン酸塩;等が挙げられる。
【0061】
水溶性高分子の例としては、ポリアクリル酸等のポリカルボン酸、ポリホスホン酸、ポリスチレンスルホン酸等のポリスルホン酸、キタンサンガム、アルギン酸ナトリウム等の多糖類、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等のセルロース誘導体、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ソルビタンモノオレエート、単一種または複数種のオキシアルキレン単位を有するオキシアルキレン系重合体等が挙げられる。また、上記の化合物の塩も水溶性高分子として好適に用いることができる。
【0062】
防食剤の例としては、アミン類、ピリジン類、テトラフェニルホスホニウム塩、ベンゾトリアゾール類、トリアゾール類、テトラゾール類、安息香酸等が挙げられる。キレート剤の例としては、グルコン酸等のカルボン酸系キレート剤、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリメチルテトラアミン等のアミン系キレート剤、エチレンジアミン四酢酸、ニトリロ三酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、トリエチレンテトラミン六酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸等のポリアミノポリカルボン系キレート剤、2-アミノエチルホスホン酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、エタン-1,1-ジホスホン酸、エタン-1,1,2-トリホスホン酸、メタンヒドロキシホスホン酸、1-ホスホノブタン-2,3,4-トリカルボン酸等の有機ホスホン酸系キレート剤、フェノール誘導体、1,3-ジケトン等が挙げられる。
【0063】
防腐剤の例としては、次亜塩素酸ナトリウム等が挙げられる。防黴剤の例としてはオキサゾリジン-2,5-ジオン等のオキサゾリン等が挙げられる。
【0064】
[研磨対象物]
本発明に係る研磨対象物は特に限定されない。例えば、本発明に係る研磨対象物は、半導体材料により構成された表面を有する基板、すなわち半導体基板である。半導体基板の構成材料の例としては、例えば、シリコン、ゲルマニウム等の第14族元素からなる半導体;SiC、SiGe、ZnS、ZnSe、InP、AlN、GaAs、GaN、AlGaAs、InGaAs、GaP、ZnTe、CdTd等の化合物半導体;等が挙げられる。これらの中でも、化合物半導体基板が好ましく、SiC(炭化ケイ素)基板がより好ましい。
【0065】
また、本発明に係る研磨対象物に含まれる材料は、例えば、500Hv以上のビッカース硬度を有する。上記ビッカース硬度は、好ましくは700Hv以上であり、例えば1000Hv以上、あるいは1500Hv以上である。研磨対象物に含まれる材料のビッカース硬度は、1800Hv以上であってもよく、2000Hv以上でもよく、2200Hv以上でもよい。研磨対象物に含まれる材料のビッカース硬度の上限は特に限定されず、例えば凡そ7000Hv以下であってよく、5000Hv以下でもよく、3000Hv以下でもよい。なお、本明細書において、ビッカース硬度は、JIS R 1610:2003に基づいて測定することができる。上記JIS規格に対応する国際規格は、ISO 14705:2000である。
【0066】
上記より、本発明に係る研磨対象物に含まれる材料のビッカース硬度は、700Hv以上7000Hv以下であってもよく、1000Hv以上5000Hv以下であってもよく、1500Hv以上3000Hv以下であってもよい。いくつかの態様において、研磨対象物に含まれる材料のビッカース硬度は、1800Hv以上3000Hv以下であってもよく、2000Hv以上3000Hv以下であってもよい。
【0067】
1500Hv以上のビッカース硬度を有する材料としては、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化チタン、窒化ガリウム等が挙げられる。ここに開示される技術における研磨対象物は、機械的かつ化学的に安定な上記材料の単結晶表面を有するものであり得る。なかでも、研磨対象物表面は、炭化ケイ素および窒化ガリウムのうちのいずれかから構成されていることが好ましく、炭化ケイ素から構成されていることがより好ましい。炭化ケイ素は、電力損失が少なく耐熱性等に優れる化合物半導体基板材料として期待されており、研磨除去速度の向上により生産性を改善することの実用上の利点は特に大きい。ここに開示される技術は、炭化ケイ素の単結晶表面の研磨に対して特に好ましく適用され得る。
【0068】
[研磨用組成物の製造方法]
本発明の研磨用組成物の製造方法は、特に制限されず、例えば、砥粒、酸化剤、金属塩A、層状化合物、および必要に応じて他の成分を、分散媒中で攪拌混合することにより得ることができる。
【0069】
各成分を混合する際の温度は特に制限されないが、10℃以上40℃以下が好ましく、溶解速度を上げるために加熱してもよい。また、混合時間も特に制限されない。
【0070】
層状化合物と砥粒粒子との弱い相互作用の形成を促進させて、砥粒の沈降をさらに抑制し、砥粒の再分散性をさらに向上させるという観点から、本発明の研磨用組成物を製造した後、所定温度で所定期間保管し、この保管後の研磨用組成物を用いて研磨対象物である半導体基板を研磨することが好ましい。
【0071】
具体的には、保管温度の下限は10℃以上が好ましく、40℃以上がより好ましい。また、保管温度の上限は特に制限されないが、80℃以下が好ましく、60℃以下がより好ましい。
【0072】
さらに、保管期間の下限は20日以上が好ましく、60日以上がより好ましい。また、保管期間の上限は特に制限されない。
【0073】
[研磨方法]
上述のように、本発明の研磨用組成物は、半導体基板の研磨に好適に用いられる。
【0074】
本発明の研磨用組成物を用いて研磨対象物を研磨する際には、通常の研磨に用いられる装置や条件を用いて行うことができる。一般的な研磨装置としては、片面研磨装置や、両面研磨装置があり、片面研磨装置では、テンプレートと呼ばれる保持具を用いて研磨対象物(好ましくは基板状の研磨対象物)を保持し、研磨用組成物を供給しながら研磨対象物の片面に研磨布を貼付した定盤を押しつけて定盤を回転させることにより、研磨対象物の片面を研磨する。両面研磨装置では、キャリアと呼ばれる保持具を用いて研磨対象物を保持し、上方より研磨用組成物を供給しながら、研磨対象物の対向面に研磨布が貼付された定盤を押しつけ、それらを相対方向に回転させることにより研磨対象物の両面を研磨する。このとき、研磨パッドおよび研磨用組成物と、研磨対象物との摩擦による物理的作用と、研磨用組成物が研磨対象物にもたらす化学的作用とによって研磨される。
【0075】
本発明の研磨用組成物を用いた研磨方法で使用される研磨パッドは、例えば、ポリウレタンタイプ、発泡ポリウレタンタイプ、不織布タイプ、スウェードタイプ等の材質の違いの他、その硬度や厚み等の物性の違い、さらに砥粒を含むもの、砥粒を含まないもの等、種々あるが、これらを制限なく使用することができる。
【0076】
本発明の研磨用組成物を用いて研磨対象物を研磨する際には、一度研磨に使用された研磨用組成物を回収し、再度研磨に使用することができる。研磨用組成物の再使用する方法の一例として、研磨装置から排出された研磨用組成物をタンク内に回収し、再度研磨装置内へ循環させて使用する方法が挙げられる。研磨用組成物を循環使用することは、廃液として排出される研磨用組成物の量を減らすことで環境負荷が低減できる点と、使用する研磨用組成物の量を減らすことで研磨対象物の研磨にかかる製造コストを抑制できる点で有用である。
【0077】
本発明の研磨用組成物を循環使用する際には、研磨により消費・損失された砥粒、酸化剤、金属塩A、層状化合物、およびその他の添加剤の一部または全部を組成物調整剤として循環使用中に添加することができる。この場合、組成物調整剤としては、砥粒、酸化剤、金属塩A、層状化合物、およびその他の添加剤の一部または全部を任意の混合比率で混合したものとしてもよい。組成物調整剤を追加で添加することにより、研磨用組成物が再利用されるのに好適な組成物に調整され、研磨が好適に維持される。組成物調整剤に含有される砥粒、酸化剤、金属塩A、層状化合物、およびその他の添加剤の濃度は任意であり、特に限定されないが、循環タンクの大きさや研磨条件に応じて適宜調整されるのが好ましい。
【0078】
本発明の研磨用組成物は一液型であってもよいし、二液型をはじめとする多液型であってもよい。また、本発明の研磨用組成物は、研磨用組成物の原液を水等の希釈液を使って、例えば、10倍以上に希釈することによって調製されてもよい。
【0079】
本発明の実施形態を詳細に説明したが、これは説明的かつ例示的なものであって限定的ではなく、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によって解釈されるべきであることは明らかである。
【0080】
本発明は、下記態様および形態を包含する。
【0081】
1.砥粒と、酸化剤と、水和金属イオンのpKaが7.0より小さい金属カチオンと、アニオンとの塩である金属塩Aと、層状化合物と、分散媒と、を含み、前記金属塩Aを8mM以上含む、研磨用組成物:
2.前記層状化合物は、層状ケイ酸塩化合物である、上記1.に記載の研磨用組成物:
3.前記砥粒の平均二次粒子径が1.8μm以下である、上記1.または2.に記載の研磨用組成物:
4.前記酸化剤は、過マンガン酸類である、上記1.~3.のいずれかに記載の研磨用組成物:
5.前記研磨用組成物は半導体基板の研磨に用いられる研磨用組成物であって、前記半導体基板は、化合物半導体基板である、上記1.~4.のいずれかに記載の研磨用組成物:
6.上記1.~5.のいずれかに記載の研磨用組成物を用いて半導体基板を研磨する工程を含む、研磨方法。
【実施例0082】
本発明を、以下の実施例および比較例を用いてさらに詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。
【0083】
[実施例1~10、比較例1~3]
(研磨用組成物の調製)
砥粒(平均二次粒子径0.4μm)が1.0質量%の含有量となるように水で希釈し、層状化合物を下記表1に示す含有量となるように加え、さらに酸化剤、および金属塩Aを下記表1に示す含有量となるように加えて室温(25℃)で攪拌し、実施例1~10および比較例1~3の研磨用組成物を得た。なお、実施例1~10および比較例2~3の研磨用組成物のpHは3.7であり、比較例1の研磨用組成物のpHは硝酸を使用して3.0に調整した。
【0084】
<砥粒>
酸化アルミニウム(アルミナ):平均二次粒子径は、株式会社堀場製作所製のレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置LA-950を用いて測定した。
【0085】
<層状化合物>
ベントナイト:粒子径0.15μm
ヘクトライト:粒子径4.0μm、または1.3μm
なお層状化合物の粒子径は、以下の測定により求めたものである。すなわち、株式会社日立ハイテクノロジーズ製の走査型電子顕微鏡“SU8000”を用いて100個の層状ケイ酸塩化合物粒子を観察し、それぞれの粒子画像に外接する最小の長方形を描く。そして、粒子画像に対して描かれたそれぞれの長方形について、その長辺の長さを測定し、それを平均した値を層状化合物の粒子径とした。
【0086】
(砥粒の沈降防止性の評価)
調製した後に、25℃で1~2日保管した後の研磨用組成物を用いて、容量100mlの比色管(アズワン株式会社製)に研磨用組成物を100mlの目盛りまで入れてから2時間静置した。静置後に、砥粒層と上澄み液との界面の嵩の目盛りを読み取り、下記基準により判定した。評価C以上が合格である:
A:40mlより多い
B:30mlより多く40ml以下
C:20mlより多く30ml以下
D:20ml以下。
【0087】
(砥粒の再分散性の評価)
調製した後に、25℃で1~2日保管した後の研磨用組成物を用いて、容量1000mlのPP容器(アズワン株式会社製)に、研磨用組成物を800mlの目盛りまで入れ、72時間静置した。静置後、PP容器を上下に振り混ぜ、砥粒の沈殿が再分散してなくなるまでの回数を測定し、下記基準により判定した。評価A~Cが合格である:
A:1~3回
B:4~6回
C:7~9回
D:10回以上。
【0088】
(研磨の評価)
調製した後に、25℃で1~2日保管した後の研磨用組成物を用いて、下記の研磨条件で研磨を行い、研磨除去速度を求めた。また、研磨後の各研磨対象物の表面粗さを下記方法により測定した:
<研磨条件>
研磨装置:EJ-380IN(日本エンギス株式会社製)
研磨パッド:SUBA800(ニッタ・デュポン株式会社製)
研磨荷重:300g/cm2
定盤回転数:80rpm
研磨時間:30min
<研磨対象物>
SiC基板:2インチN型 4H-SiC 4°off ビッカース硬度2000~2400Hv。
【0089】
<研磨除去速度>
研磨前後の研磨対象物の質量の差から研磨除去速度を算出した。得られた各例の研磨除去速度を、比較例1の結果を100とした相対値で示す。
【0090】
<表面粗さRa>
研磨後の研磨対象物の表面粗さRaを、原子間力顕微鏡(パークシステムズ社製、NX-HDM)を用いて測定した。なお、表面粗さRaは、粗さ曲線の高さ方向の振幅の平均を示すパラメーターであって、一定視野内での研磨対象物表面の高さの算術平均を示す。
【0091】
<貯蔵安定性>
上記で調製した研磨用組成物につき、60℃の環境下で保存する加速試験を行うことにより貯蔵安定性を評価した。具体的には、透明なポリエチレン樹脂製容器に各例に係る研磨用組成物を満たして密封し、該容器を60℃の環境下に静置して、容器内の研磨用組成物のpHが2以上高くなるまでの日数を貯蔵安定性として記録した。なお、60℃で保存する加速試験において貯蔵安定性が19日であることは、アレニウス則に基づく換算により、25℃での保存における貯蔵安定性が概ね12か月であることに相当する。下記表1に示す値は、60℃で保存する加速試験における日数である。
【0092】
実施例1~10および比較例1~3の研磨用組成物の組成および評価結果を、下記表1に示す。なお、下記表1中の「-」は、その成分を添加しなかったことを表す。
【0093】
【0094】
上記表1から明らかなように、層状化合物を含む実施例の研磨用組成物を用いた場合、砥粒の沈降防止性および再分散性、ならびに研磨性能において良好な結果が得られた。特に、層状化合物を添加していない比較例1と比べて、研磨除去速度やRa等の研磨性能を維持しつつ、砥粒の沈降防止性および再分散性が向上することが分かった。また、他の分散剤を用いた比較例2、3と比べて、研磨除去速度やRa等の研磨性能を維持しつつ、砥粒の再分散性が向上することがわかった。