(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024164541
(43)【公開日】2024-11-27
(54)【発明の名称】加熱装置、定着装置、画像形成装置
(51)【国際特許分類】
G03G 15/20 20060101AFI20241120BHJP
G03G 21/00 20060101ALI20241120BHJP
【FI】
G03G15/20 555
G03G21/00 370
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023080102
(22)【出願日】2023-05-15
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100207181
【弁理士】
【氏名又は名称】岡村 朋
(72)【発明者】
【氏名】松田 諒平
(72)【発明者】
【氏名】山口 嘉紀
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸 隆
(72)【発明者】
【氏名】吉永 洋
(72)【発明者】
【氏名】杉山 龍平
【テーマコード(参考)】
2H033
2H270
【Fターム(参考)】
2H033AA23
2H033BA25
2H033BA31
2H033BA32
2H033BB03
2H033BB05
2H033BB06
2H033BB13
2H033BB14
2H033BB15
2H033BB18
2H033BB21
2H033BB29
2H033BB30
2H033BB39
2H033BC02
2H033BC03
2H033BE00
2H033CA03
2H033CA04
2H033CA05
2H033CA19
2H033CA30
2H033CA40
2H270LA71
2H270LA80
2H270MA35
2H270MC44
2H270MD12
2H270MH05
2H270ZC04
(57)【要約】
【課題】本発明では、潤滑剤の偏りを抑制することを課題とする。
【解決手段】無端状の定着ベルト21と、定着ベルト21の長手方向両端部を保持するベルト保持部材27と、定着ベルト21の内面と摺動する摺動シート30と、ベルト保持部材27に付着する液状または半固体状の潤滑性を有する物質と、を備えた定着装置20であって、定着ベルト21は、用紙Pを搬送する搬送方向へ回転する正回転動作、および、当該正回転動作とは逆方向の回転動作である逆回転動作が可能に設けられ、逆回転動作を実施する定着ベルト21の温度を50℃以上に設定することを特徴とする。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無端状のベルト部材と、
前記ベルト部材の長手方向両端部を保持するベルト保持部材と、
前記ベルト部材の内面と摺動する摺動部材と、
前記ベルト保持部材に付着する液状または半固体状の潤滑性を有する物質と、を備えた加熱装置であって、
前記ベルト部材は、記録媒体を搬送する搬送方向へ回転する正回転動作、および、当該正回転動作とは逆方向の回転動作である逆回転動作が可能に設けられ、
前記逆回転動作を実施する前記ベルト部材の温度を50℃以上に設定することを特徴とする加熱装置。
【請求項2】
前記逆回転動作を実施する前記ベルト部材の温度を100℃以上に設定する請求項1記載の加熱装置。
【請求項3】
前記逆回転動作を実施する前記ベルト部材の温度を100℃以上205℃以下に設定する請求項2記載の加熱装置。
【請求項4】
前記逆回転動作を実施する前記ベルト部材の温度を100℃以上200℃以下に設定する請求項2記載の加熱装置。
【請求項5】
前記逆回転動作を実施する前記ベルト部材の温度を100℃以上185℃以下に設定する請求項2記載の加熱装置。
【請求項6】
前記逆回転動作が、前記ベルト部材の累計走行距離あるいは前記加熱装置を通過して加熱された記録媒体の累計枚数に応じて実施される請求項1記載の加熱装置。
【請求項7】
請求項1から6いずれか1項に記載の加熱装置を備え、熱により記録媒体に画像を定着させる定着装置。
【請求項8】
請求項7記載の定着装置を備えた画像形成装置。
【請求項9】
前記逆回転動作は、定着装置の温度調整空回転時あるいは画像形成装置の調整動作時における定着装置の空回転時に行われる請求項8記載の画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱装置、定着装置および画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
複写機又はプリンタなどの画像形成装置に搭載される加熱装置の一例として、用紙などの記録媒体を加熱して記録媒体上の未定着画像を記録媒体に定着させる定着装置が知られている。
【0003】
このような定着装置においては、定着ベルトなどのベルト部材に対して相対的に摺動する摺動部材及びベルト保持部材(例えば、下記特許文献1参照)などの部材とベルト部材との間に生じる摺動抵抗を低減するため、一般的にオイルあるいはグリースなどの液状または半固体状の潤滑性を有する物質(以下、「潤滑剤」という。)が用いられている。ベルト部材の摺動抵抗を減らすために、ベルト部材と摺動部材あるいはベルト保持部材との間に潤滑剤を適切に保持させることが必要になる。なお、潤滑性を有する物質とは、部品と部品の間に介在することで、それら部品間の摩擦抵抗を減少させる物質のことを指す。
【0004】
例えば特許文献1(特開2015-138113号公報)では、定着ベルトを逆回転させることにより、定着ベルトの長手方向の正回転時と逆方向へ潤滑剤を移動させ、長手方向の潤滑剤の偏りを抑制する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のように逆回転動作を行っても、潤滑剤の粘度が高い場合には潤滑剤が長手方向へ移動しづらく、潤滑剤の偏りを十分に抑制できないという問題があった。
【0006】
このような事情から、本発明では、潤滑剤の偏りを抑制することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明は、無端状のベルト部材と、前記ベルト部材の長手方向両端部を保持するベルト保持部材と、前記ベルト部材の内面と摺動する摺動部材と、前記ベルト保持部材に付着する液状または半固体状の潤滑性を有する物質と、を備えた加熱装置であって、前記ベルト部材は、記録媒体を搬送する搬送方向へ回転する正回転動作、および、当該正回転動作とは逆方向の回転動作である逆回転動作が可能に設けられ、前記逆回転動作を実施する前記ベルト部材の温度を50℃以上に設定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、潤滑剤の偏りを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態に係る画像形成装置の概略構成図である。
【
図2】本実施形態に係る定着装置の中央部断面図である。
【
図4】摺動シートの網目の方向と定着ベルトの正回転動作時の潤滑剤の移動方向を示す図である。
【
図5】定着ベルトの逆回転動作時の潤滑剤の移動方向を示す図である。
【
図6】定着ベルトの温度と潤滑剤の粘度の関係を示す図である。
【
図7】画像形成装置の制御構成を示す機能ブロック図である。
【
図8】本発明を適用可能な他の定着装置の構成を示す断面図である。
【
図9】
図8に示される定着装置の分解斜視図である。
【
図10】本発明を適用可能なさらに別の定着装置の構成を示す断面図である。
【
図12】本発明を適用可能なさらに別の定着装置の構成を示す断面図である。
【
図14】本発明を適用可能なさらに別の定着装置の構成を示す断面図である。
【
図15】
図14に示される定着装置を定着ベルトの長手方向に沿って切断した断面図である。
【
図16】本発明を適用可能なさらに別の定着装置の構成を示す断面図である。
【
図18】本発明を適用可能なさらに別の定着装置の構成を示す断面図である。
【
図19】
図18に示される加圧ローラの保持構造を示す断面図である。
【
図20】本発明を適用可能なさらに別の定着装置の構成を示す断面図である。
【
図22】乾燥装置を備えるインクジェット式画像形成装置の一形態を示す図である。
【
図24】潤滑剤の温度と微粒子の発生濃度との関係を示す図である。
【
図26】従来の定着装置を定着ベルトの長手方向に沿って切断した端部側の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付の図面に基づき、本発明について説明する。なお、本発明を説明するための各図面において、同一の機能もしくは形状を有する部材及び構成部品などの構成要素については、判別が可能な限り同一符号を付すことにより一度説明した後ではその説明を省略する。
【0011】
図1は、本発明の実施の一形態に係る画像形成装置の概略構成図である。ここで、本明細書中における「画像形成装置」には、プリンタ、複写機、ファクシミリ、印刷機、又は、これらのうちの二つ以上を組み合わせた複合機などが含まれる。また、以下の説明で使用する「画像形成」とは、文字及び図形などの意味を持つ画像を形成するだけでなく、パターンなどの意味を持たない画像を形成することも意味する。まず、
図1を参照して、本実施形態に係る画像形成装置の全体構成及び動作について説明する。
【0012】
図1に示されるように、本実施形態に係る画像形成装置100は、用紙などのシート状の記録媒体に画像を形成する画像形成部200と、記録媒体に画像を定着させる定着部300と、記録媒体を画像形成部200へ供給する記録媒体供給部400と、記録媒体を装置外へ排出する記録媒体排出部500を備えている。
【0013】
画像形成部200には、作像ユニットとしての4つのプロセスユニット1Y,1M,1C,1Bkと、各プロセスユニット1Y,1M,1C,1Bkが備える感光体2に静電潜像を形成する露光装置6と、記録媒体に画像を転写する転写装置8が設けられている。
【0014】
各プロセスユニット1Y,1M,1C,1Bkは、カラー画像の色分解成分に対応するイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの異なる色のトナー(現像剤)を収容している以外、基本的に同じ構成である。具体的に、各プロセスユニット1Y,1M,1C,1Bkは、表面に画像を担持する像担持体としての感光体2と、感光体2の表面を帯電させる帯電部材3と、感光体2の表面に現像剤としてのトナーを供給してトナー画像を形成する現像装置4と、感光体2の表面を清掃するクリーニング部材5を備えている。
【0015】
転写装置8は、中間転写ベルト11と、一次転写ローラ12と、二次転写ローラ13を備えている。中間転写ベルト11は、無端状のベルト部材であり、複数の支持ローラによって張架されている。一次転写ローラ12は、中間転写ベルト11の内側に4つ設けられている。各一次転写ローラ12が中間転写ベルト11を介して各感光体2に接触することにより、中間転写ベルト11と各感光体2との間に一次転写ニップが形成されている。二次転写ローラ13は、中間転写ベルト11の外周面に接触し、二次転写ニップを形成している。
【0016】
定着部300においては、画像が転写された記録媒体を加熱する加熱装置としての定着装置20が設けられている。定着装置20は、記録媒体上の画像を加熱する定着ベルト21と、定着ベルト21に接触してニップ部(定着ニップ)を形成する加圧ローラ22などを備えている。
【0017】
記録媒体供給部400には、記録媒体としての用紙Pを収容する給紙カセット14と、給紙カセット14から用紙Pを送り出す給紙ローラ15が設けられている。以下、「記録媒体」を「用紙」として説明するが、「記録媒体」は紙(用紙)に限定されない。「記録媒体」は、紙(用紙)だけでなくOHPシート又は布帛、金属シート、プラスチックフィルム、あるいは炭素繊維にあらかじめ樹脂を含浸させたプリプレグシートなども含む。また、「用紙」には、普通紙以外に、厚紙、はがき、封筒、薄紙、塗工紙(コート紙及びアート紙など)、トレーシングペーパなども含まれる。
【0018】
記録媒体排出部500には、用紙Pを画像形成装置外に排出する一対の排紙ローラ17と、排紙ローラ17によって排出された用紙Pを載置する排紙トレイ18が設けられている。
【0019】
次に、
図1を参照しつつ本実施形態に係る画像形成装置100の印刷動作について説明する。
【0020】
画像形成装置100において印刷動作が開始されると、各プロセスユニット1Y,1M,1C,1Bkの感光体2及び転写装置8の中間転写ベルト11が回転を開始する。また、給紙ローラ15が、回転を開始し、給紙カセット14から用紙Pが送り出される。送り出された用紙Pは、一対のタイミングローラ16に接触することにより静止し、用紙Pに転写される画像が形成されるまで用紙Pの搬送が一旦停止される。
【0021】
各プロセスユニット1Y,1M,1C,1Bkにおいては、まず、帯電部材3によって、感光体2の表面が均一な高電位に帯電される。次いで、原稿読取装置によって読み取られた原稿の画像情報、あるいは端末からプリント指示されたプリント画像情報に基づいて、露光装置6が、各感光体2の表面(帯電面)を露光する。これにより、露光された部分の電位が低下して各感光体2の表面に静電潜像が形成される。そして、この静電潜像に対して現像装置4がトナーを供給し、各感光体2上にトナー画像が形成される。各感光体2上に形成されたトナー画像は、各感光体2の回転に伴って一次転写ニップ(一次転写ローラ12の位置)に達すると、回転する中間転写ベルト11上に順次重なり合うように転写される。かくして、中間転写ベルト11上にフルカラーのトナー画像が形成される。なお、各プロセスユニット1Y,1M,1C,1Bkのいずれか一つを使用して単色画像を形成したり、いずれか2つ又は3つのプロセスユニットを用いて2色又は3色の画像を形成したりすることもできる。また、中間転写ベルト11へトナー画像が転写された後は、クリーニング部材5によって各感光体2上の残留トナーなどが除去される。
【0022】
中間転写ベルト11上に転写されたトナー画像は、中間転写ベルト11の回転に伴って二次転写ニップ(二次転写ローラ13の位置)へ搬送され、タイミングローラ16によって搬送されてきた用紙P上に転写される。その後、用紙Pは、定着装置20へと搬送され、定着ベルト21と加圧ローラ22によって用紙P上のトナー画像が加熱及び加圧され、トナー画像が用紙Pに定着される。そして、用紙Pは、記録媒体排出部500へ搬送され、排紙ローラ17によって排紙トレイ18へ排出される。これにより、一連の印刷動作が終了する。
【0023】
続いて、
図2及び
図3に基づき、本実施形態に係る定着装置の基本構成について説明する。
図2は、本実施形態に係る定着装置を、定着ベルト21の長手方向中央部M(
図3参照)において切断した中央部断面図である。なお、ここでいう定着ベルトの「長手方向」とは、
図3中の矢印Xにて示される方向である。
【0024】
図2及び
図3に示されるように、本実施形態に係る定着装置20は、定着ベルト21及び加圧ローラ22のほか、ヒータ23と、ニップ形成部材24と、ステー25と、反射部材26(
図2参照)と、ベルト保持部材27(
図3参照)と、温度センサ28(
図2参照)、分離部材31(
図2参照)とを備えている。
図2の紙面に直交する方向は定着ベルト21、加圧ローラ22、ヒータ23、ニップ形成部材24、ステー25、反射部材26等、そして定着装置20の長手方向であり、以下、この方向を単に長手方向とも呼ぶ。なお、この長手方向は搬送される用紙の幅方向、定着ベルト21のベルト幅方向、そして、加圧ローラ22の軸方向でもある。
図2に示す矢印A1が用紙搬送方向(記録媒体搬送方向)、矢印A2が定着ベルト21の正回転方向である。
【0025】
定着ベルト21は、用紙Pの未定着トナー担持面に接触して未定着トナー(未定着画像)を用紙Pに定着させるベルト部材(第一回転体又は定着部材)である。
【0026】
具体的に、定着ベルト21は、内周面側から外周面側に向かって順に、基材、弾性層、離型層が積層される無端状のベルトにより構成される。基材は、層厚が30~50μmであって、ニッケル、ステンレスなどの金属材料、あるいはポリイミドなどの樹脂材料により形成される。弾性層は、層厚が100~300μmであって、シリコーンゴム、発泡性シリコーンゴム、フッ素ゴムなどのゴム材料により形成される。定着ベルト21が弾性層を有していることにより、ニップ部における定着ベルト21の表面に微小な凹凸が形成されなくなるため、用紙P上のトナー画像に熱が均一に伝わりやすくなる。離型層は、層厚が10~50μmであって、PFA(テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、ポリイミド、ポリエーテルイミド、PES(ポリエーテルサルファイド)などの材料により形成される。定着ベルト21が、離型層を有していることにより、トナー(トナー画像)に対する離型性(剥離性)が確保される。また、定着ベルト21は、小型化及び低熱容量化のため、その全体の厚さが1mm以下、直径が30mm以下であることが好ましい。
【0027】
加圧ローラ22は、定着ベルト21の外周面に対向して配置される加圧部材(第二回転体又は対向部材)である。
【0028】
具体的に、加圧ローラ22は、中実の鉄製芯材と、この芯材の外周面に設けられる弾性層と、弾性層の外周面に設けられる離型層により構成される。芯材は、中空の部材であってもよい。弾性層は、シリコーンゴム、又は発泡性シリコーンゴム、あるいはフッ素ゴムなどにより形成される。離型層は、PFA又はPTFEなどのフッ素樹脂により形成される。
【0029】
ヒータ23は、定着ベルト21を加熱する加熱体である。本実施形態においては、ヒータ23として、ハロゲンヒータが用いられている。また、ヒータ23は、ハロゲンヒータのほか、カーボンヒータ又はセラミックヒータなどの他の輻射熱式のヒータであってもよいし、電磁誘導加熱方式の加熱源であってもよい。また、本実施形態においては、ヒータ23が、定着ベルト21の内側に2つ配置されているが、ヒータ23の数は、1つであってもよいし、3つ以上であってもよい。
【0030】
ニップ形成部材24は、定着ベルト21の内側に配置され、加圧ローラ22の加圧力を受けて定着ベルト21と加圧ローラ22との間にニップ部Nを形成する部材である。ニップ形成部材24は、ベースパッド29と、摺動部材としての摺動シート30を有している。
【0031】
ベースパッド29は、定着ベルト21の長手方向Xへ連続して配置され、ステー25に固定されている。ベースパッド29が加圧ローラ22の加圧力を受けることにより、ニップ部Nの形状が決定される。ベースパッド29の材料としては、耐熱温度が200℃以上の耐熱性部材が用いられることが好ましい。例えば、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、液晶ポリマー(LCP)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリアミドイミド(PAI)、又は、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)などの一般的な耐熱性樹脂が挙げられる。このような耐熱性材料をベースパッド29の材料として用いることにより、定着温度域におけるベースパッド29の熱変形を防止でき、ニップ部Nの形状を安定させることができる。ニップ部Nの形状は、
図2に示されるような凹形状のほか、平坦状、あるいはそれ以外の形状であってもよい。
【0032】
摺動シート30は、ベースパッド29と定着ベルト21の内周面との間に介在する低摩擦性の部材である。摺動シート30が、ベースパッド29と定着ベルト21との間に介在していることにより、ベースパッド29に対する定着ベルト21の摺動抵抗が低減される。摺動シート30は耐熱性および摺動性に優れた材料により形成され、例えばPTFEやPFAなどが用いられる。なお、ベースパッド29自体が低摩擦性の部材で形成されている場合は、摺動シート30を有しない構成であってもよい。この場合、ベースパッド29に後述の網目に相当する溝部が形成される。
【0033】
ステー25は、ニップ形成部材24を加圧ローラ22側とは反対側から支持する支持部材である。ステー25がニップ形成部材24を支持することにより、加圧ローラ22の加圧によるニップ形成部材24の撓み(特に定着ベルト21の長手方向に渡る撓み)が抑制される。これにより、均一な幅のニップ部Nが得られる。ステー25の材料としては、剛性を確保するため、SUS又はSECCなどの鉄系金属材料が好ましい。
【0034】
反射部材26は、ヒータ23から放射される輻射熱(赤外線)を反射する部材である。ヒータ23から放出される輻射熱が、反射部材26によって定着ベルト21へ反射されることにより、定着ベルト21が効率良く加熱される。また、反射部材26は、ステー25とヒータ23との間に介在して、ステー25への熱伝達を抑制する機能も兼ねる。これにより、定着に直接寄与しない部材への熱の流動を抑制できるため、エネルギー消費の効率化を図れる。反射部材26の材料としては、アルミニウム又はステンレスなどの金属材料を用いることができる。特に、反射部材26が、アルミニウム製の基材の表面に反射率の高い銀を蒸着して構成されている場合は、加熱効率がより一層向上する。
【0035】
ベルト保持部材27は、定着ベルト21を回転可能に保持する一対の回転体保持部材である。
図3に示されるように、ベルト保持部材27は、定着ベルト21の長手方向両端部においてその内側に挿入され、定着ベルト21を内側から回転可能に保持する。なお、ここでいう定着ベルト21の「長手方向両端部」、及び以下の説明中における定着ベルト21の「長手方向端部」は、定着ベルト21の長手方向の最も端の端縁のみを意味する場合に限らない。「長手方向両端部」及び「長手方向端部」には、定着ベルト21の長手方向の最も端の端縁のほか、定着ベルト21を長手方向に三等分した場合の端縁から三分の一の長さの範囲内における任意の位置も含まれる。従って、ベルト保持部材27は、定着ベルト21の長手方向の最も端の端縁を含む領域(長手方向端部)を保持する場合のほか、定着ベルト21の端縁を含まない領域(長手方向端部)を保持する場合であってもよい。
【0036】
具体的に、ベルト保持部材27は、定着ベルト21の長手方向端部内に挿入される断面C字状の挿入部27aと、挿入部27aよりも大きい外径に形成された規制部27bと、後述の側板に固定される固定部27cを有している。規制部27bは、少なくとも定着ベルト21の外径よりも大きく形成されており、定着ベルト21に長手方向Xの寄り(長手方向への移動)が生じた場合にその寄りを規制する。挿入部27aは、定着ベルト21の長手方向端部内に挿入されることにより、定着ベルト21を内側から回転可能に保持する。
【0037】
温度センサ28は、定着ベルト21の温度を検知する温度検知部材である。本実施形態においては、温度センサ28として、定着ベルト21の外周面に対して非接触に配置される非接触式の温度センサが用いられている。この場合、温度センサ28は、定着ベルト21の外周面近傍の雰囲気温度を定着ベルト21の表面温度として検知する。また、温度センサ28は、非接触式のセンサに限らず、定着ベルト21に接触して表面温度を検知する接触式のセンサであってもよい。温度センサ28としては、例えば、サーモパイル、サーモスタット、サーミスタ又はNCセンサなどの公知の温度センサを用いることが可能である。
【0038】
分離部材31は定着ニップNの用紙搬送方向下流側に設けられ、定着ニップNを通過した用紙Pを定着ベルト21の表面から分離する。なお、以降の他の定着装置の例では分離部材の記載を省略しているが、同様にニップ部の下流側に分離部材を設けることができる。
【0039】
本実施形態に係る定着装置20は、次のように動作する。
【0040】
画像形成装置本体に設けられている駆動源の駆動によって加圧ローラ22が
図2中の矢印方向へ回転すると、加圧ローラ22の回転に伴って定着ベルト21が従動回転する。また、ヒータ23が発熱し、ヒータ23によって定着ベルト21が加熱される。このとき、温度センサ28によって検知された定着ベルト21の温度に基づいてヒータ23の発熱量が制御されることにより、定着ベルト21の温度が所定の定着温度(画像定着可能な温度)となるように制御される。そして、定着ベルト21の温度が定着温度となった状態において、未定着画像を担持する用紙Pが、定着ベルト21と加圧ローラ22との間(ニップ部N)へ搬送されると、定着ベルト21と加圧ローラ22によって用紙Pが加熱及び加圧され、用紙P上の画像が用紙Pに定着される。
【0041】
ここで、上記のようなニップ形成部材24を備える定着装置においては、定着ベルト21が回転すると、ニップ形成部材24に対して定着ベルト21が摺動するため、定着ベルト21とニップ形成部材24との間において摺動抵抗が発生する。このときの摺動抵抗を低減するため、定着ベルト21とニップ形成部材24との間には、一般的に、シリコーンオイル、シリコーングリース、フッ素グリース、フッ素オイルなどの潤滑剤が介在するように塗布されている。潤滑剤は、例えば、ニップ形成部材24のベースパッド29と定着ベルト21の内周面との間に配置される摺動シート30(
図2参照)に含ませられ、摺動シート30から潤滑剤が染み出すことにより、ニップ形成部材24と定着ベルト21との間に潤滑剤が介在する。この潤滑剤は、液状または半固体状の潤滑性を有する物質である。
【0042】
また、上記のように、一対のベルト保持部材27によって定着ベルト21を保持する構成においては、定着ベルト21が回転すると、各ベルト保持部材27に対して定着ベルト21が摺動する。このとき、各ベルト保持部材27と定着ベルト21との間においても摺動抵抗が生じるため、その摺動抵抗を低減する目的で、各ベルト保持部材27と定着ベルト21との間においても、上記のような潤滑剤を介在させている。
【0043】
このように、ニップ形成部材24及びベルト保持部材27などを備える構成においては、定着ベルト21の摺動性を向上させるため、一般的に、シリコーンオイル、シリコーングリース、フッ素グリース、フッ素オイルなどの潤滑剤が用いられている。
【0044】
図4に示すように、摺動シート30は、定着ベルト21の正回転方向A2の上流側から下流側へ向けて、長手方向の一方側(
図4の左側)では長手方向他方側(
図4の右側)へ、長手方向の他方側では長手方向一方側へ向けた網目が形成される。これにより、定着ベルト21が矢印A2方向へ回転すると、摺動シート30の表面上の潤滑剤は摺動シート30の網目に沿って長手方向中央側へ移動する。これにより、摺動シート30の長手方向端部側から潤滑剤が漏れ出すことを防止できる。
【0045】
しかし一方で、定着ベルト21の正回転動作のみを続けることにより、摺動シート30と定着ベルト21との間の潤滑剤は常に長手方向中央側へ移動する力を受け、潤滑剤が長手方向中央側へ偏ってしまう。また、ベルト保持部材27と定着ベルト21との間に介在する潤滑剤は、定着ベルト21の回転により、その一部が粘性が低くなって漏れ出したり、加熱によって枯渇したりして減少する。これにより、ベルト保持部材27と定着ベルト21との摺動抵抗が増加し、定着ベルト21の摩耗が進んでしまう。またベルト保持部材27と定着ベルト21との間に摩耗粉が発生する。この摩耗粉が残った状態で定着ベルト21が回転することにより、定着ベルト21に微振動が与えられて共振を引き起こし、振動音が発生してしまうという問題がある。
【0046】
これに対して本実施形態では、
図5に示すように、定着ベルト21を、定着動作時とは反対方向である矢印A5方向(
図2の時計回りの方向)へ回転させる逆回転動作を実施することにより、潤滑剤を正回転動作時とは逆方向である長手方向の端部側へ移動させることができる。これにより、定着ベルト21の正回転動作による潤滑剤の長手方向の偏りを打ち消すことができ、定着ベルト21における潤滑剤の長手方向の偏りを抑制できる。また摺動シート30と定着ベルト21との間に介在する潤滑剤をベルト保持部材27へ供給することができ、ベルト保持部材27と定着ベルト21との間に十分な量の潤滑剤を保持させることができる。従って、定着ベルト21の摩耗や振動音の発生を抑制できる。
【0047】
上記の逆回転動作は、定着ベルト21が逆方向へ回転するため、画像形成動作時(定着動作時)に実施することはできず、非画像形成時に行われる。
【0048】
しかし、潤滑剤の粘度が高い状態で逆回転動作を実施しても、潤滑剤が長手方向に移動しづらく、潤滑剤の長手方向の偏りを十分に解消することができない。そこで本実施形態では、定着ベルト21の逆回転動作を、定着ベルト21があらかじめ設定した所定の温度以上で実施させる。この所定の温度は、潤滑剤が十分な粘度を有する温度に設定する。
【0049】
図6は温度ごとの潤滑剤の粘度を示した図であり、図の横軸が温度〔℃〕、縦軸が粘度〔CS(センチストークス)〕である。潤滑剤としてシリコーンオイルとフッ素グリースの結果を示している。また横軸の温度は定着ベルトの温度を示したものである。
【0050】
図6に示すように、シリコーンオイル、フッ素グリースともに温度が高くなるほど粘度が小さくなっている。特に、シリコーンオイルは50℃以上、フッ素グリースは100℃以上で一定以下の粘度になる。
【0051】
そこで本実施形態では、潤滑剤としてシリコーンオイルを使用し、定着ベルト21の逆回転動作を、定着ベルト21の温度が50℃以上の時に実施するように設定する。これにより、逆回転動作時の潤滑剤の粘度を一定以上に保つことができ、潤滑剤を長手方向端部側へ移動させ、潤滑剤の長手方向の偏りを抑制できる。また摺動シート30と定着ベルト21との間に介在する潤滑剤をベルト保持部材27へ供給することができ、ベルト保持部材27と定着ベルト21との間に十分な量の潤滑剤を保持させることができる。従って、定着ベルト21の摩耗や振動音の発生を抑制できる。
【0052】
また潤滑剤としてフッ素グリースを使用することがある場合には、定着ベルト21の逆回転動作を、定着ベルト21の温度が100℃以上の時に実施するように設定することが好ましい。これにより、潤滑剤を長手方向端部側へ移動させ、潤滑剤の長手方向の偏りを抑制できる。また摺動シート30と定着ベルト21との間に介在する潤滑剤をベルト保持部材27へ供給することができ、ベルト保持部材27と定着ベルト21との間に十分な量の潤滑剤を保持させることができる。従って、定着ベルト21の摩耗や振動音の発生を抑制できる。
【0053】
ところで、定着装置の温度上昇に伴い潤滑剤の低分子の一部の成分が揮発し、大気で冷やされることにより凝集すると、微粒子が発生するため、定着装置から微粒子が放出される虞がある。ここで、「微粒子」とは、後述の
図24に示される関係を調べるための測定条件により測定される微粒子及び超微粒子(以下、「FP/UFP」という。)であり、粒径が5.6nm~560nmの粒子である。
【0054】
近年、環境問題に対する意識の高まりから、製品から放出されるFP/UFPの発生を抑制する対策が望まれており、画像形成装置においてもFP/UFPの発生が少ない製品の開発が求められている。
【0055】
そこで、本発明者らは、定着装置からのFP/UFPの発生を抑制する対策を検討するにあたって、まず、潤滑剤として用いられるシリコーンオイル及びフッ素グリースの温度上昇と、これらの潤滑剤から生じるFP/UFPの発生濃度(1cm
3あたりのFP/UFPの発生個数)との関係を調べる試験を行った。その結果を、
図24に示す。
【0056】
本試験は、JIS A 1901に準拠した1立米チャンバー(換気回数:5回)内で、サンプル容器内の液状又は半固体状の潤滑性物質を加熱した。
図25に示されるように、サンプル容器1000は、50mm×50mm×5mmのアルミ板に、φ22mmで深さ2mmの窪み1000aを設けたものを使用し、この窪み1000aにサンプルを配置する。サンプルが配置されたサンプル容器1000を加熱装置(アズワン製クリーンホットプレートMH-180CS、アズワン製コントローラMH-3CS)のホットプレート上に置き、設定温度250℃でサンプルを加熱した。ホットプレートの温度をモニターしながら、チャンバー内のFP/UFP個数濃度を測定装置(高速応答型パーティクルサイザーFMPS : Fast Mobility Particle Sizer, TSI; Model 3091)を用いて測定した(Export時のUse Averaging Interval:30秒)。潤滑剤としては、フッ素グリースと、シリコーンオイルを用いサンプル量は36μlとした。
図24における実線が、フッ素グリースから生じるFP/UFPの個数濃度を示し、同図中の一点鎖線が、シリコーンオイルから生じるFP/UFPの個数濃度を示す。また、
図24においては、横軸にホットプレートの温度が示されているが、ホットプレートの温度上昇と潤滑剤の温度上昇はほぼ同期して変化するため、ここでは、ホットプレートの温度を潤滑剤の温度とみなす。
【0057】
図24に示されるように、実線にて示されるフッ素グリースにおいては、温度が185℃に達したあたりからFP/UFPが発生し始め、温度が194℃を超えたあたりから発生するFP/UFPの個数濃度が急激に上昇した。一方、一点鎖線にて示されるシリコーンオイルにおいては、温度が200℃に達したあたりからFP/UFPが発生し始め、温度が210℃を超えたあたりから発生するFP/UFPの個数濃度が急激に上昇した。この急激に濃度が上昇する温度を微粒子発生温度とし、チャンバー内のFP/UFP個数濃度が4000個/cm
3以上となる温度とした。
【0058】
このように、フッ素グリースにおいては温度が185℃に達するとFP/UFPが発生し、シリコーンオイルにおいては温度が200℃に達するとFP/UFPが発生することから、200℃を超える温度となり得る定着装置においては、潤滑剤からFP/UFPが発生する虞がある。
【0059】
しかしながら、これまで、FP/UFPが定着装置のどの部分から多く発生しているかについて特定できていなかった。そのため、本発明者らは、FP/UFPの主な発生源についての鋭意検討を行い、その結果、主にベルト保持部材に付着する潤滑剤から多くのFP/UFPが発生することが分かった。その理由及び発生のメカニズムについて以下説明する。
【0060】
図26は、従来の定着装置における定着ベルトの長手方向端部側の構成を示す断面図である。
【0061】
図26に示されるように、従来の定着装置は、上記本発明の実施形態に係る定着装置と同じように、定着ベルト210の長手方向端部を保持するベルト保持部材270を備えている。ベルト保持部材270の外周面には、定着ベルト210の摺動抵抗を低減するために潤滑剤が塗布されている。なお、ベルト保持部材270の外周面に潤滑剤が積極的に塗布されていない場合であっても、定着ベルトとニップ形成部材との間に介在する潤滑剤が、定着ベルトの回転に伴って流動することにより、ベルト保持部材270の外周面に付着することもある。
【0062】
ここで、従来の定着装置において、複数の用紙が連続通紙されて定着処理が続けて行われると、最大幅の用紙が通過する最大通紙領域(最大記録媒体通過領域)Wよりも外側の非通紙領域においては、通紙に伴う熱の消費がされにくいため、蓄熱により定着ベルト210が温度上昇する。そして、その定着ベルト210の熱が、定着ベルト210の長手方向端部を保持するベルト保持部材270に伝達されると、ベルト保持部材270が定着ベルト210の熱の影響を受けて温度上昇する。また、
図26に示されるように、ヒータ230の発熱部Hが最大通紙領域Wの外側まで延長されている構成においては、非通紙領域における定着ベルト210の温度上昇がより顕著となるため、ベルト保持部材270の温度上昇も顕著となる傾向にある。このように、従来の定着装置においては、定着ベルト210の非通紙領域である長手方向端部側の温度上昇に伴い、その長手方向端部側を保持するベルト保持部材270の温度が過剰に上昇する。
【0063】
そして本実施形態において、定着ベルト21の温度が高い状態で定着ベルト21を逆回転させて長手方向端部側へ潤滑剤を供給すると、FP/UFPの発生を促進させてしまうおそれがある。
【0064】
このため、定着ベルト21の逆回転動作は、定着ベルト21の温度が205℃以下で実施するように設定することが好ましい。これにより、
図24に示すように、潤滑剤としてシリコーンオイルからFP/UFPが発生しにくい温度で逆回転動作を実施でき、FP/UFPの発生を抑制できる。また、定着ベルト21の逆回転動作は、定着ベルト21の温度が200℃以下で実施するように設定することがより好ましい。これにより、潤滑剤としてシリコーンオイルを使用した場合のFP/UFPの発生をより抑制できる。また定着ベルト21の逆回転動作は、定着ベルト21の温度が185℃以下で実施するように設定することがより好ましい。これにより、シリコーンオイルだけでなく、潤滑剤としてフッ素グリースを使用した場合のFP/UFPの発生を抑制できる。
【0065】
本実施形態の定着ベルト21の逆回転動作は、非画像形成時に行われる。また、この逆回転動作は、定着ベルト21が別の目的で回転動作を必要とする際に行うことが好ましい。これにより、定着ベルト21の回転量を増やすことなく逆回転動作を実施できる。これにより、逆回転動作により定着装置20の寿命を縮めることを防止できる。この定着ベルト21の回転動作を必要とするタイミングとしては、通紙後、つまり一連の定着動作終了後の定着ベルト21の熱を均熱化するための後回転や定着装置の温度調整空回転時あるいは画像形成装置の調整動作時、印刷準備時の回転動作、ウォームアップ時、復帰時の加熱回転動作などがある。特に、この逆回転動作を、定着装置の温度調整空回転時あるいは画像形成装置の調整動作時に行うことが好ましい。これにより、画像不良を生じることなく逆回転動作を実施できる。ここで言う空回転とは、記録媒体としての用紙を定着装置に通紙せずに定着ベルト21を回転させる動作のことである。
【0066】
また本実施形態の定着ベルト21の逆回転動作は、ベルト保持部材27の潤滑剤が不足するタイミングで実施することが好ましい。このため、本実施形態では、定着ベルト21の走行距離が所定の値以上になった時、あるいは、定着装置(画像形成装置)への通紙枚数が所定の枚数以上になった時に定着ベルト21の逆回転動作を実施する。
【0067】
図7は、画像形成装置の制御構成を示す機能ブロック図である。
図7に示すように、画像形成装置100は制御部101を有する。制御部101はカウント部102と記憶部103とを有する。カウント部102は、画像形成装置の通紙枚数、つまり、定着装置への通紙枚数と、定着ベルト21の走行距離をカウントする。記憶部103は、カウント部102がカウントした累計の通紙枚数あるいは定着ベルト21の累計の走行距離を記憶する。定着ベルト21の走行距離は、例えば定着ベルト21を従動回転させる加圧ローラ22の回転時間により算出できる。つまり、この加圧ローラ22を回転させるモータ104の駆動時間により算出できる。
【0068】
記憶部103が記憶した数値が定められた所定の値以上になった場合には、制御部101が、モータ104を逆回転方向へ駆動させる。これにより、加圧ローラ22が逆回転し、定着ベルト21が従動回転して定着ベルト21の逆回転動作が行われる。ただし、この逆回転動作は、前述した定着ベルト21の逆回転動作が可能なタイミングで行われる。また、逆回転動作を実施した後には、記憶部103に記憶した値をリセットする。
【0069】
また、定着装置20内の温度センサ28の検知した温度が制御部101へ伝達される。制御部101は、この温度が前述した定着ベルト21の逆回転動作が可能な温度である場合のみ、モータ104を逆回転方向へ駆動させる。また制御部101は、温度センサ28の検知温度に基づいてヒータ23への通電制御を行う。
【0070】
また以上の説明では、ニップ形成部材24が有する摺動シート30(
図2参照)に、
図4に示す網目が設けられる場合を例示した。しかし、摺動部材としてのベースパッド29に同様の方向の溝部が形成され、摺動シートが設けられない構成であってもよい。この点は以下に示す種々の定着装置においても同様であるため、以下の説明では、摺動シートあるいはニップ形成部材、あるいはこれら相当する部材に、
図4に示す方向の網目や溝部が形成される場合について説明する。
【0071】
また本発明は、上記のような構成の定着装置に限らず、種々の構成の定着装置にも適用可能である。以下に、本発明を適用可能な定着装置の構成をいくつか例示する。
【0072】
図8及び
図9に示される定着装置40は、ベルト部材としての定着ベルト41と、加圧部材としての加圧ローラ42と、摺動部材あるいは加熱体としてのヒータ43と、加熱体保持部材としてのヒータホルダ44と、支持部材としての加圧ステー45と、温度検知部材としてのサーミスタ48と、ベルト保持部材としてのフランジ47(
図9参照)を備えている。
【0073】
図8に示される定着ベルト41と加圧ローラ42の機能及び構成は、上記
図2に示される定着ベルト21及び加圧ローラ22と基本的に同じである。
【0074】
ヒータ43は、板状基板と、その基板上に設けられた抵抗発熱体を有するセラミックヒータであり、抵抗発熱体への通電により発熱する。ヒータ43は、定着ベルト41の内周面に接触するように配置されており、ヒータ43が発熱すると、定着ベルト41が内側から加熱される。また、ヒータ43は、加圧ローラ42との間に定着ベルト41を挟んでニップ部Nを形成するニップ形成部材としての機能も兼ねる。
【0075】
ヒータホルダ44は、ヒータ43を保持する加熱体保持部材である。ヒータホルダ44は、例えば耐熱性の樹脂により構成されている。この場合、ヒータホルダ44が定着ベルト41の内周面に沿って半円弧状の断面に形成されていることにより、ヒータホルダ44によって定着ベルト41の回転軌道が規制される。
【0076】
加圧ステー45は、ヒータホルダ44を支持する支持部材である。加圧ステー45がヒータホルダ44を支持していることにより、加圧ローラ42の加圧によるヒータホルダ44及びヒータ43の撓みが抑制され、加圧ローラ42と定着ベルト41との間に均一な幅のニップ部Nが形成される。加圧ステー45は、剛性を確保するため、ステンレス(SUS)などの金属材料により構成されることが好ましい。
【0077】
また、加圧ステー45には、温度検知部材としてのサーミスタ48が設けられている。サーミスタ48は、定着ベルト41の内周面に対して接触又は非接触に対向することにより定着ベルト41の温度を検知する。
【0078】
フランジ47は、上記ベルト保持部材27と同じように、定着ベルト41の長手方向両端部を保持する一対の保持部材である。このフランジ47も、定着ベルト41内に挿入される挿入部としてのバックアップ部47aと、定着ベルト41の長手方向の移動を規制する規制部としてのフランジ部47bとを有している。この場合、各フランジ47は、バネなどの付勢部材によって定着ベルト41の各端部に向かって付勢されることにより、定着ベルト41内に挿入された状態で保持される。
【0079】
このような構成の定着装置40においても、定着ベルト41とヒータ43,あるいは、定着ベルト41とフランジ47との間に潤滑剤が保持される。従って、
図8及び
図9に示される定着装置40においても本発明を適用することにより、潤滑剤の偏りを抑制できる。
【0080】
次に、
図10及び
図11に示される定着装置50は、上記
図8及び
図9に示される定着装置40と同じように、セラミックヒータ(ヒータ53)を備える定着装置である。具体的に、
図10及び
図11に示される定着装置50は、ベルト部材としての定着ベルト51と、加圧部材としての加圧部材52と、加熱体としてのヒータ53と、加熱体保持部材としてのヒータホルダ54と、支持部材としての補強部材55と、ベルト保持部材としてのベルト保持部57(
図11参照)と、温度検知部材としての感熱体58(
図11参照)と、カバー部材59(
図11参照)を備えている。
【0081】
図10及び
図11に示される定着ベルト51、加圧部材52、ヒータ53、ヒータホルダ54、補強部材55、ベルト保持部57のそれぞれの機能及び構成は、上記
図8及び
図9に示される定着ベルト41、加圧ローラ42、ヒータ43、ヒータホルダ44,加圧ステー45、フランジ47と基本的に同じである。
【0082】
感熱体58は、ヒータホルダ54のヒータ53を保持する面とは反対側に設けられ、ヒータホルダ54を介してヒータ53の温度を検知する。感熱体58の検知温度に基づいてヒータ53の発熱が制御されることにより、定着ベルト51が所定の定着温度に維持される。
【0083】
カバー部材59は、耐熱樹脂製の箱状の部材である。カバー部材59が、定着ベルト51内において感熱体58を介してヒータホルダ54と対向するように配置されることにより、対応する感熱体58がカバー部材59によって覆われる。
【0084】
このように、本発明が適用される定着装置は、ヒータ53の温度を検知する感熱体58と、感熱体58を覆うカバー部材59を備えるものであってもよい。
【0085】
続いて、
図12及び
図13に示される定着装置60は、上記
図2及び
図3に示される定着装置20と同じように、加熱体としてハロゲンヒータ(ヒータ63)を備える定着装置である。具体的に、
図12及び
図13に示される定着装置60は、ベルト部材としての定着ベルト61と、加圧部材としての加圧ローラ62と、加熱体としてのヒータ63と、ニップ形成部材64と、支持部材としての支持部65と、反射部材としての反射板66と、ベルト保持部材としての保持枠67(
図13参照)と、リング68(
図13参照)を備えている。
【0086】
図12及び
図13に示される定着ベルト61、加圧ローラ62、ヒータ63、ニップ形成部材64、支持部65、反射板66、保持枠67のそれぞれの機能及び構成は、
図2及び
図3に示される定着ベルト21、加圧ローラ22、ヒータ23、ニップ形成部材24、ステー25、反射部材26、ベルト保持部材27と基本的に同じである。なお、ニップ形成部材64は、金属製のベースパッド640と、ベースパッド640と定着ベルト61の内周面との間に介在するフッ素樹脂製の摺動シート641を有している。摺動シート641は本実施形態の摺動部材である。
【0087】
リング68は、定着ベルト61内に挿入される保持枠67の挿入部としての筒状部67aの外周面に装着され、定着ベルト61の長手方向端縁と保持枠67の規制部としての固定プレート67bとの間に介在する。定着ベルト61が回転すると、定着ベルト61と一緒にリング68が連れ回りする、あるいは、定着ベルト61が低摩擦性のリング68に対して摺動することにより、定着ベルト61と保持枠67との間において生じる摺動抵抗が低減される。
【0088】
このように、本発明が適用される定着装置は、リング68を備えるものであってもよい。
【0089】
続いて、
図14及び
図15に示される定着装置70は、上記
図2及び
図3に示される定着装置20と同じように、加熱体としてハロゲンヒータ73を備える定着装置である。具体的に、
図14及び
図15に示される定着装置70は、ベルト部材としての定着ベルト71と、加圧部材としての加圧ローラ72と、加熱体としてのハロゲンヒータ73と、摺動部材としてのニップ形成部材74と、反射部材76と、ベルト保持部材としてのベルト支持部材77(
図15参照)と、温度検知部材としての温度センサ78と、ガイド部材79を備えている。
【0090】
図14及び
図15に示される定着ベルト71、加圧ローラ72、ハロゲンヒータ73、ニップ形成部材74、反射部材76、ベルト保持部材としてのベルト支持部材77、温度センサ78は、
図2及び
図3に示される定着ベルト21、加圧ローラ22、ヒータ23、ニップ形成部材24、反射部材26、ベルト保持部材27、温度センサ28と基本的に同じ機能を有する。
【0091】
ただし、ニップ形成部材24は、定着ベルト71との摺動面に
図4のような方向の溝部が形成され、定着ベルト71との間に潤滑剤を保持する。また
図14及び
図15に示される反射部材76は、ハロゲンヒータ73から放出される輻射熱(赤外線)を定着ベルト71ではなく、主にニップ形成部材74に反射する。反射部材76は、ハロゲンヒータ73の外側を覆うように断面U字形に形成されており、反射部材76のハロゲンヒータ73と対向する内側の面76aが反射率の高い反射面となっている。このため、ハロゲンヒータ73から輻射熱が放出されると、輻射熱が反射部材76の反射面76aによってニップ形成部材74へ反射される。
【0092】
これにより、ニップ形成部材74は、ハロゲンヒータ73からニップ形成部材74に向かって放出される輻射熱と、反射部材76によってニップ形成部材74へ反射される輻射熱によって加熱される。そして、ニップ形成部材74の熱は、ニップ部Nにおいて定着ベルト21へ伝達される。すなわち、この場合、ニップ形成部材74は、ニップ部Nを形成するほか、ニップ部Nにおいて熱を定着ベルト71へ伝達する伝熱部材としても機能する。このため、ニップ形成部材74は、熱伝導率の良い銅又はアルミニウムなどの金属材料によって構成されている。
【0093】
また、反射部材76は、ニップ形成部材74を支持する支持部材(ステー)としての機能も兼ねる。反射部材76が、定着ベルト71の長手方向に渡ってニップ形成部材74を支持することにより、ニップ形成部材74の撓みが抑制され、定着ベルト71と加圧ローラ72との間に均一な幅のニップ部Nが形成される。反射部材76は、支持部材としての機能を確保するため、SUS、SECCなどの剛性の高い金属材料により構成されることが好ましい。
【0094】
ガイド部材79は、定着ベルト71の内側に配置され、回転する定着ベルト71を内側からガイドする部材である。ガイド部材79は、定着ベルト71の内周面に沿って湾曲するガイド面79aを有しており、定着ベルト71がこのガイド面79aに沿ってガイドされることにより、定着ベルト71が大きな変形を伴うことなく円滑に回転する。
【0095】
このように、本発明が適用される定着装置は、熱伝導性の良いニップ形成部材74を介してハロゲンヒータ73の熱を伝達し、定着ベルト71を加熱する構成であってもよい。
【0096】
続いて、
図16及び
図17に示される定着装置80は、上記
図8及び
図9に示される定着装置40と同じように、加熱体としてセラミックヒータ(ヒータ83)を備える定着装置である。具体的に、
図16及び
図17に示される定着装置80は、ベルト部材としての定着ベルト81と、加圧部材としての加圧ローラ82と、加熱体としてのヒータ83と、加熱体保持部材としての保持部材84と、支持部材としてのステー85と、ベルト保持部材としての円弧状ガイド87(
図17参照)と、摺動部材あるいは熱伝達部材である熱拡散部材88と、断熱部材としての保熱板89を備えている。
【0097】
図16及び
図17に示される定着ベルト81、加圧ローラ82、ヒータ83、保持部材84、ステー85、円弧状ガイド87は、
図8及び
図9に示される定着ベルト41、加圧ローラ42、ヒータ43、ヒータホルダ44,加圧ステー45、フランジ47と基本的に同じ機能を有する。なお、保持部材84は、ヒータ83のほか、熱拡散部材88と保熱板89を重ねた状態で保持する。
【0098】
熱拡散部材88は、ステンレス、アルミニウム合金、鉄などの金属材料により構成されている。熱拡散部材88は、定着ベルト81の内周面に接触するように配置されており、ヒータ83から生じる熱を定着ベルト81へ伝達すると共に、定着ベルト81を介して加圧ローラ82に接触し、ニップ部Nを形成する。また、ヒータ83と熱拡散部材88との間に熱伝導グリースが塗布されており、ヒータ83から熱拡散部材88への熱伝達効率を向上させている。一方、保熱板89は、ヒータ83の熱が保持部材84とステー85に伝達されるのを抑制するため、ヒータ83の熱拡散部材88側の面とは反対側に配置されている。
【0099】
定着ベルト81が回転すると、熱拡散部材88に対して定着ベルト81が摺動するため、定着ベルト81と熱拡散部材88との間には摺動性を向上させる潤滑剤が塗布されている。また、定着ベルト81に対して接触する熱拡散部材88の摺動面には、低摩擦で耐摩耗性を有するガラスコーティング又は硬質クロムメッキなどの表面層が形成されている。
【0100】
このような定着装置においても、定着ベルト81と熱拡散部材88との間、あるいは、定着ベルト81と円弧状ガイド87との間に潤滑剤が保持される。従って、
図16及び
図17に示される定着装置80においても本発明を適用することにより、潤滑剤の偏りを抑制できる。
【0101】
続いて、
図18及び
図19に示される定着装置90は、ベルト部材としての無端状のベルト91と、加熱部材としての加熱ローラ96と、加熱体としてのヒータ93と、加圧部材としての加圧ローラ92と、ニップ形成部材94と、支持部材95と、ガイド部材98と、潤滑剤供給部材としての潤滑剤塗布部材99と、ベルト保持部材としての軸受97(
図19参照)を備える定着装置である。
【0102】
図18に示されるように、ベルト91は、加熱ローラ96とニップ形成部材94とガイド部材98に巻きかけられている。加熱ローラ96がバネなどによりニップ形成部材94に対して離れる方向に付勢されていることにより、ベルト91に所定の張力が付与されている。この状態で、加圧ローラ92が回転駆動することにより、ベルト91が従動回転する。
【0103】
ニップ形成部材94は、押圧部材940と、押圧部材940とベルト91の内周面との間に介在する低摩擦性の摺動シート941を有している。摺動シート941は本実施形態の摺動部材である。押圧部材940が支持部材95によって支持されていることにより、押圧部材940が加圧ローラ92の加圧力を受け、ニップ部Nが形成される。
【0104】
ヒータ93は、ハロゲンヒータなどであり、加熱ローラ96内に配置されている。ヒータ93が発熱すると、加熱ローラ96が加熱され、加熱ローラ96の熱がベルト91へ伝達される。
【0105】
潤滑剤塗布部材99は、ベルト91の内周面に接触し、ベルト91の内周面に対して摺動性を向上させる潤滑剤を供給する。ベルト91の内周面に供給された潤滑剤は、ベルト91の回転に伴って、ガイド部材98とベルト91との間、及びニップ形成部材94とベルト91との間に介在し、ベルト91が円滑に回転できるようになる。
【0106】
ここで、加熱ローラ96は、回転可能となるように、一般的にすべり軸受又はボールベアリングなどの軸受97によって保持される。このようなベルト保持部材としての軸受97は、加熱ローラ96の軸方向両端部(長手方向両端部)に装着されており、軸受には加熱ローラ96が回転する際の摺動抵抗又は回転トルクを低減する潤滑剤が塗布されている。
【0107】
従って、
図18あるいは
図19に示される定着装置90においても本発明を適用することにより、潤滑剤の偏りを抑制できる。
【0108】
また、本発明は、
図20及び
図21に示されるような構成の定着装置110にも適用可能である。
【0109】
図20及び
図21に示される定着装置110は、ベルト部材としての定着ベルト111と、定着ローラ116と、加圧部材としての加圧ローラ112と、加熱体としてのヒータ113と、摺動部材としての加圧パッド114と、ガイド部材115と、支持部材117と、温度検知部材としての温度センサ118と、熱伝達部材119と、ベルト保持部材としてのベルト保持部材122(
図21参照)を備えている。
【0110】
図20に示される定着ベルト111は、定着ローラ116と、加圧パッド114と、ガイド部材115と、熱伝達部材119に巻きかけられている。定着ローラ116は、加圧ローラ112が回転駆動することにより、従動回転する。
【0111】
ヒータ113は、セラミックヒータなどの面状又は板状のヒータであり、熱伝達部材119に設けられている。熱伝達部材119は、ヒータ113と定着ベルト111の間に介在し、ヒータ113の熱を定着ベルト111へ伝達する部材である。また、熱伝達部材119は、支持部材117に取り付けられたバネ120によって定着ベルト111の内周面に接触するように付勢されている。
【0112】
加圧パッド114は、支持部材117に取り付けられた別のバネ121によって定着ベルト111の内周面に接触するように付勢されている。これにより、加圧パッド114は、定着ベルト111を介して加圧ローラ112に圧接され、定着ベルト111と加圧ローラ112との間にニップ部Nが形成される。
【0113】
ガイド部材115は、支持部材117に取り付けられて支持されている。また、ガイド部材115には、温度センサ118が取り付けられており、温度センサ118によって定着ベルト111の温度が検知される。
【0114】
定着ベルト111はその両端部をベルト保持部材122により保持される。
【0115】
図20に示されるような定着装置110においても、定着ベルト111と加圧パッド114、あるいは、定着ベルト111とベルト保持部材122との間に潤滑剤が保持される。従って、このような定着装置110においても、本発明を適用することにより、上記各実施形態と同じように、FP/UFPの発生を効果的に抑制することが可能である。
【0116】
また、本発明は、上記のような電子写真方式の画像形成装置に搭載される定着装置に適用される場合に限らない。例えば、本発明は、インクジェット方式の画像形成装置に搭載され、用紙に塗布されたインクなどの液体を乾燥させる乾燥装置など、定着装置以外の加熱装置に対しても適用可能である。
【0117】
図22に、乾燥装置を備えるインクジェット式画像形成装置の一形態を示す。
【0118】
図22に示されるインクジェット式画像形成装置2000は、画像読取装置202と、画像形成部203と、シート供給装置204と、乾燥装置206と、シート排出部207を備えている。また、インクジェット式画像形成装置2000の横には、シート揃え装置3000が配置されている。
【0119】
このインクジェット式画像形成装置2000においては、印刷動作開始の指示があると、シート供給装置204から記録媒体としての用紙などのシートが給送される。シートが画像形成部203に搬送されると、画像読取装置202によって読み取られた原稿の画像情報、あるいは端末からプリント指示されたプリント情報に基づき画像形成部203の液体吐出ヘッド214からシートにインクが吐出され、シート上に画像が形成される。
【0120】
画像が形成されたシートは、乾燥装置206を通過する搬送路222か、乾燥装置206を通過しない搬送路223かへ、選択的に案内される。シートが乾燥装置206へ案内された場合は、乾燥装置206によってシート上のインクの乾燥が促進され、シートがシート排出部207かシート揃え装置3000へ案内される。一方、シートが乾燥装置206を通過しない搬送路223へ案内された場合は、そのままシートがシート排出部207かシート揃え装置3000へ案内される。また、シートがシート揃え装置3000に案内された場合は、シートが揃えて載置される。
【0121】
図23に示されるように、上記乾燥装置206は、ベルト部材としての加熱ベルト291と、加圧部材としての加熱ローラ292と、加熱ベルト291を加熱する加熱体としての第一ヒータ293と、加熱ローラ292を加熱する加熱体としての第二ヒータ294と、ニップ形成部材295と、支持部材としてのステー296と、反射部材297と、加熱ベルト291を回転可能に保持するベルト保持部材としてのベルト保持部材298を備えている。ニップ形成部材295は摺動部材としての摺動シートを有する。
【0122】
ニップ形成部材295は、加熱ベルト291を介して加熱ローラ292の外周面に接触し、加熱ベルト291と加熱ローラ292との間にニップ部Nを形成する。
図23に示されるように、画像(インクI)を担持するシート250が乾燥装置206のニップ部Nへ搬送されると、図中の矢印方向へ回転する加熱ベルト291と加熱ローラ292によってシート250が搬送されながら加熱される。これにより、シート250上のインクIの乾燥が促進される。
【0123】
図23に示される乾燥装置206において、加熱ベルト291とニップ形成部材295が有する摺動シート、あるいは、加熱ベルト291とベルト保持部材298との間に潤滑剤が保持される。従って、このような乾燥装置206においても、本発明を適用することにより、上記各実施形態と同じように、潤滑剤の長手方向の偏りを抑制できる。
【0124】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加え得ることは勿論である。
【0125】
記録媒体としては、用紙P(普通紙)の他、厚紙、はがき、封筒、薄紙、塗工紙(コート紙やアート紙等)、トレーシングペーパ、OHPシート、プラスチックフィルム、プリプレグ、銅箔等が含まれる。
【0126】
以上の説明では、ベルト部材の逆回転動作を実施する温度の基準としてベルト部材の温度の場合を例示した。しかし、ベルト部材の温度を代替的に測定できる温度であれば、加熱装置内の他の部材の温度に基づいてベルト部材の逆回転動作の実施を判断してもよい。また、摺動部材の摺動面に形成される網目や溝部などの方向は、
図4の方向に限らず、ベルト部材の正方向の回転により、潤滑剤が長手方向に偏る構成であればよい。この場合、ベルト部材の逆回転動作により、潤滑剤の長手方向の偏りを抑制できる。
【0127】
本発明の態様は、例えば以下の通りである。
<1>
無端状のベルト部材と、
前記ベルト部材の長手方向両端部を保持するベルト保持部材と、
前記ベルト部材の内面と摺動する摺動部材と、
前記ベルト保持部材に付着する液状または半固体状の潤滑性を有する物質と、を備えた加熱装置であって、
前記ベルト部材は、記録媒体を搬送する搬送方向へ回転する正回転動作、および、当該正回転動作とは逆方向の回転動作である逆回転動作が可能に設けられ、
前記逆回転動作を実施する前記ベルト部材の温度を50℃以上に設定することを特徴とする加熱装置である。
<2>
前記逆回転動作を実施する前記ベルト部材の温度を100℃以上に設定する<1>記載の加熱装置である。
<3>
前記逆回転動作を実施する前記ベルト部材の温度を205℃以下に設定する<1>または<2>記載の加熱装置である。
<4>
前記逆回転動作を実施する前記ベルト部材の温度を200℃以下に設定する<1>または<2>記載の加熱装置である。
<5>
前記逆回転動作を実施する前記ベルト部材の温度を185℃以下に設定する<1>または<2>記載の加熱装置である。
<6>
前記逆回転動作が、前記ベルト部材の累計走行距離あるいは前記加熱装置を通過して加熱された記録媒体の累計枚数に応じて実施される<1>から<5>いずれか記載の加熱装置である。
<7>
<1>から<6>いずれか記載の加熱装置を備え、熱により記録媒体に画像を定着させる定着装置である。
<8>
<7>記載の定着装置を備えた画像形成装置である。
<9>
前記逆回転動作は、定着装置の温度調整空回転時あるいは画像形成装置の調整動作時における定着装置の空回転時に行われる<8>記載の画像形成装置である。
【符号の説明】
【0128】
20 定着装置(加熱装置)
21 定着ベルト(ベルト部材)
22 加圧ローラ(加圧部材)
23 ヒータ(加熱体)
24 ニップ形成部材
27 ベルト保持部材
30 摺動シート(摺動部材)
100 画像形成装置
A2 ベルト部材の正回転方向
P 用紙(記録媒体)
X 長手方向
【先行技術文献】
【特許文献】
【0129】