(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024164666
(43)【公開日】2024-11-27
(54)【発明の名称】エッチング液、エッチング方法及び半導体素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/308 20060101AFI20241120BHJP
【FI】
H01L21/308 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023080321
(22)【出願日】2023-05-15
(71)【出願人】
【識別番号】000220239
【氏名又は名称】東京応化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】田島 和哉
(72)【発明者】
【氏名】菅原 まい
【テーマコード(参考)】
5F043
【Fターム(参考)】
5F043AA08
5F043BB12
5F043DD07
5F043DD13
5F043DD30
5F043GG10
(57)【要約】
【課題】Siに対するSi
1-xGe
xで表される化合物(xは0超1以下である)のエッチングの選択性が優れるエッチング液、該エッチング液を用いたエッチング方法、及び該エッチング液を用いた半導体素子の製造方法を提供する。
【解決手段】酸化剤と、フッ化物と、下記式(1)で表される化合物と、水とを含み、酸化剤の質量は、エッチング液の質量に対して20質量%以上である、エッチング液。
(式(1)中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、フルオロアルキル基、又はアルコキシ基を表し、R
3及びR
4は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルキル基、フルオロアルキル基、又はアルコキシ基を表す。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化剤と、フッ化物と、下記式(1)で表される化合物と、水とを含み、
前記酸化剤の質量は、エッチング液の質量に対して20質量%以上である、エッチング液。
【化1】
(式(1)中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、フルオロアルキル基、又はアルコキシ基を表し、R
3及びR
4は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルキル基、フルオロアルキル基、又はアルコキシ基を表す。)
【請求項2】
溶媒としてのカルボン酸を含む、請求項1に記載のエッチング液。
【請求項3】
前記R1及びR2は、水素原子である、請求項1に記載のエッチング液。
【請求項4】
前記酸化剤が、硝酸及び過酸化水素の少なくとも一方を含む、請求項1に記載のエッチング液。
【請求項5】
前記フッ化物が、ヘキサフルオロケイ酸及びフッ化水素の少なくとも一方を含む、請求項1に記載のエッチング液。
【請求項6】
前記水の質量が、前記エッチング液の質量に対して20質量%超である、請求項1に記載のエッチング液。
【請求項7】
Si1-xGexで表される化合物(xは0超1以下である)をエッチングするエッチング液である、請求項1に記載のエッチング液。
【請求項8】
Si1-xGexで表される化合物(xは0超1以下である)を含む被処理体のエッチング方法であって、
請求項1~7のいずれか1項に記載のエッチング液を、前記Si1-xGexで表される化合物に接触させることにより、前記Si1-xGexで表される化合物をエッチングする、エッチング工程を有する、エッチング方法。
【請求項9】
前記被処理体が、前記Si1-xGexで表される化合物からなるSiGe領域と、SiからなるSi領域とを含む基板である、請求項8に記載のエッチング方法。
【請求項10】
請求項1~7のいずれか1項に記載のエッチング液を用いて、Si1-xGexで表される化合物(xは0超1以下である)を含む被処理体をエッチングするエッチング工程を含む、半導体素子の製造方法。
【請求項11】
前記半導体素子が、ゲートオールアラウンド型トランジスタである、請求項10に記載の半導体素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エッチング液、エッチング方法及び半導体素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、集積回路内の構成のスケーリングは、半導体チップ上の機能ユニットの高密度化を可能にしてきた。例えば、トランジスタサイズの縮小は、より多くのメモリ素子をチップ上に取り込むことを可能にし、容量が増えた製品の製造につながる。
【0003】
集積回路デバイスのための電界効果トランジスタ(FET)の製造において、シリコン以外の半導体結晶材料としては、Geが用いられている。Geは、高い電荷キャリア(正孔)移動度、バンドギャップオフセット、異なる格子定数、及びシリコンとの合金になって、SiGeの半導体二元合金を生成する能力等、場合によってはシリコンに比べて有利ないくつかの特徴を持つ。
【0004】
Ge材料は、種々の半導体素子、例えば、ゲートオールアラウンド型トランジスタ(GAA(Gate All Around)型FET)で用いられている。ゲートオールアラウンド型トランジスタは、ナノシートやナノワイヤー等のチャネルがゲートで覆われた構造を有し、トランジスタの性能の向上や微細化を進めることができる。
ゲートオールアラウンド型トランジスタを製造する際には、シリコンとシリコンゲルマニウムが交互に積層された構造体から、シリコンゲルマニウムを選択的にエッチングすることで、シリコンゲルマニウムの少なくとも一部を除去する。
このようなエッチングで用いるエッチング液として、酸化剤(A)及び有機酸(B)を含む、シリコンに対してシリコンゲルマニウムを選択的に溶解するエッチング組成物であって、酸化剤(A)が硝酸を含み、有機酸(B)の含有率が、エッチング組成物100質量%中、50質量%以上である、エッチング組成物が開示されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載されているような従来のエッチング液では、シリコンに対するシリコンゲルマニウムのエッチングの選択性が不十分であるという問題があった。
このため、シリコンに対するシリコンゲルマニウムのエッチングの選択性が優れるエッチング液が望まれる。
なお、上記のエッチングの選択性の問題は、ゲートオールアラウンド型トランジスタを製造する際のシリコンゲルマニウムのエッチングに限られず、種々の半導体素子等を製造する際のSi1-xGexで表される化合物(xは0超1以下である)のエッチングにおいても同様に存在する。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、Siに対するSi1-xGexで表される化合物(xは0超1以下である)のエッチングの選択性が優れるエッチング液、該エッチング液を用いたエッチング方法、及び該エッチング液を用いた半導体素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、酸化剤と、フッ化物と、下記式(1)で表される化合物と、水とを含み、酸化剤の質量がエッチング液の質量に対して20質量%以上である、エッチング液により、上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0009】
[1]酸化剤と、フッ化物と、下記式(1)で表される化合物と、水とを含み、
前記酸化剤の質量は、エッチング液の質量に対して20質量%以上である、エッチング液。
【化1】
(式(1)中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、フルオロアルキル基、又はアルコキシ基を表し、R
3及びR
4は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルキル基、フルオロアルキル基、又はアルコキシ基を表す。)
【0010】
[2]溶媒としてのカルボン酸を含む、上記[1]に記載のエッチング液。
【0011】
[3]前記R1及びR2は、水素原子である、上記[1]又は[2]に記載のエッチング液。
【0012】
[4]前記酸化剤が、硝酸及び過酸化水素の少なくとも一方を含む、上記[1]~[3]のいずれか1つに記載のエッチング液。
【0013】
[5]前記フッ化物が、ヘキサフルオロケイ酸及びフッ化水素の少なくとも一方を含む、上記[1]~[4]のいずれか1つに記載のエッチング液。
【0014】
[6]前記水の質量が、前記エッチング液の質量に対して20質量%超である、上記[1]~[5]のいずれか1つに記載のエッチング液。
【0015】
[7]Si1-xGexで表される化合物(xは0超1以下である)をエッチングするエッチング液である、上記[1]~[6]のいずれか1つに記載のエッチング液。
【0016】
[8]Si1-xGexで表される化合物(xは0超1以下である)を含む被処理体のエッチング方法であって、
上記[1]~[7]のいずれか1つに記載のエッチング液を、前記Si1-xGexで表される化合物に接触させることにより、前記Si1-xGexで表される化合物をエッチングする、エッチング工程を有する、エッチング方法。
【0017】
[9]前記被処理体が、前記Si1-xGexで表される化合物からなるSiGe領域と、SiからなるSi領域とを含む基板である、上記[8]に記載のエッチング方法。
【0018】
[10]上記[1]~[7]のいずれか1つに記載のエッチング液を用いて、Si1-xGexで表される化合物(xは0超1以下である)を含む被処理体をエッチングするエッチング工程を含む、半導体素子の製造方法。
【0019】
[11]前記半導体素子が、ゲートオールアラウンド型トランジスタである、上記[10]に記載の半導体素子の製造方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、Siに対するSi1-xGexで表される化合物(xは0超1以下である)のエッチングの選択性が優れるエッチング液、該エッチング液を用いたエッチング方法、及び該エッチング液を用いた半導体素子の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[エッチング液]
エッチング液は、酸化剤と、フッ化物と、下記式(1)で表される化合物と、水とを含む。酸化剤の質量は、エッチング液の質量に対して20質量%以上である。
【0022】
当該エッチング液を用いることにより、Si1-xGexで表される化合物(xは0超1以下である)(以下、「Si1-xGex」ともいう)を良好にエッチングすることができる。なお、xが0超1以下であるので、Si1-xGexは、シリコンゲルマニウムと、ゲルマニウムとを包含する。
また、当該エッチング液は、Siのエッチングはし難い。
このため、Siに対するSi1-xGexのエッチングの選択性が優れる。すなわち、当該エッチング液は、SiのエッチングよりもSi1-xGexのエッチングを優先的に進める。
【0023】
Si1-xGexのエッチングレートERSiGeは、例えば、5nm/分以上であってよく、30nm/分以上であってよく、40nm/分以上であってよい。
SiのエッチングレートERSiは、例えば、0.20nm/分以下であってよく、0.10nm/分以下であってよく、0.05nm/分以下であってよい。
Siに対するSi1-xGexのエッチング選択比(ERSiGe/ERSi)は、例えば、500以上が好ましく、1000以上がより好ましく、2000以上がさらに好ましい。
【0024】
上述のエッチング液を用いる場合に、Siに対するSi1-xGexのエッチングの選択性が優れる理由は定かではないが、以下のように推測される。
上述のエッチング液を、Si1-xGexを含む被処理体と接触させると、酸化剤によりSi1-xGexが酸化される。Si1-xGexの酸化物は、水中のフッ化物に由来するフッ化物イオン(F-)によってエッチングされる。この酸化剤及びフッ化物によるエッチングはSiに対しても機能し得る。しかし、式(1)で表される化合物の作用により、酸化剤及びフッ化物のSiに対するエッチングが抑制される。
【0025】
また、上述のエッチング液は、Siにダメージを与え難いため、エッチング液の接触によるSiの平坦性の低下(表面荒れ)を抑制することができる。
【0026】
一方、エッチング液が上述のエッチング液に該当しない場合、例えば、エッチング液が式(1)で表される化合物を含まない場合は、Siに対するSi1-xGexのエッチングの選択性が劣る。
【0027】
また、エッチング液が式(1)で表される化合物を含まない場合は、Siにダメージを与えるため、エッチング液の接触によるSiの平坦性の低下(表面荒れ)が生じやすい。
【0028】
以下に、エッチング液が含む、必須成分である、酸化剤、フッ化物、式(1)で表される化合物及び水と、溶媒としてのカルボン酸等の任意成分とについて説明する。
【0029】
<酸化剤>
エッチング液は、酸化剤を含む。
酸化剤としては、例えば、過酸化水素、FeCl3、FeF3、Fe(NO3)3、Sr(NO3)2、CoF3、MnF3、オキソン(2KHSO5・KHSO4・K2SO4)、ヨウ素酸、酸化バナジウム(V)、酸化バナジウム(IV,V)、バナジン酸アンモニウム、ペルオキソ一硫酸アンモニウム、亜塩素酸アンモニウム、塩素酸アンモニウム、ヨウ素酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、過ホウ酸アンモニウム、過塩素酸アンモニウム、過ヨウ素酸アンモニウム、過硫酸アンモニウム、次亜塩素酸アンモニウム、次亜臭素酸アンモニウム、タングステン酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、次亜塩素酸ナトリウム、過ホウ酸ナトリウム、次亜臭素酸ナトリウム、ヨウ素酸カリウム、過マンガン酸カリウム、過硫酸カリウム、硝酸、過硫酸カリウム、次亜塩素酸カリウム、亜塩素酸テトラメチルアンモニウム、塩素酸テトラメチルアンモニウム、ヨウ素酸テトラメチルアンモニウム、過ホウ酸テトラメチルアンモニウム、過塩素酸テトラメチルアンモニウム、過ヨウ素酸テトラメチルアンモニウム、過硫酸テトラメチルアンモニウム、ペルオキソ一硫酸テトラブチルアンモニウム、ペルオキソ一硫酸、硝酸第二鉄、過酸化尿素、過酢酸、オルト過ヨウ素酸(H5IO6)、メタ過ヨウ素酸(HIO4)、メチル-1,4-ベンゾキノン(MBQ)、1,4-ベンゾキノン(BQ)、1,2-ベンゾキノン、2,6-ジクロロ-1,4-ベンゾキノン(DCBQ)、トルキノン、2,6-ジメチル-1,4-ベンゾキノン(DMBQ)、クロラニル、アロキサン、N-メチルモルホリンN-オキシド、トリメチルアミンN-オキシド等が挙げられる。
なかでも、酸化剤としては、硝酸や過酸化水素が好ましい。
酸化剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0030】
エッチング液中の酸化剤の質量は、エッチング液の質量に対して、20質量%以上である。酸化剤の含有量が上記範囲内であると、Si1-xGexが酸化されやすく、Si1-xGexのエッチングレートが高い。
エッチング液中の酸化剤の質量は、エッチング液の質量に対して、22質量%以上が好ましく、25質量%以上がより好ましい。エッチング液中酸化剤の質量は、エッチング液の質量に対して、45質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましい。
【0031】
<フッ化物>
エッチング液は、フッ化物を含む。
フッ化物としては、例えば、フッ化水素(HF)、ヘキサフルオロケイ酸(HFSA)、ヘキサフルオロチタン酸、ヘキサフルオロジルコン酸、テトラフルオロホウ酸、トリフルオロメタンスルホン酸テトラブチルアンモニウム、テトラフルオロホウ酸テトラブチルアンモニウム等のテトラフルオロホウ酸テトラアルキルアンモニウム(NR1R2R3R4BF4)、ヘキサフルオロリン酸テトラアルキルアンモニウム(NR1R2R3R4PF6)、フッ化テトラメチルアンモニウム等のフッ化テトラアルキルアンモニウム(NR11R12R13R14F)(その無水物又は水和物)、重フッ化アンモニウム、フッ化アンモニウム(式中、R11、R12、R13、R14は、互いに同じでも、異なっていてもよく、水素原子、直鎖又は分岐鎖の炭素原子数1以上6以下のアルキル基(例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル)、炭素原子数1以上6以下のアルコキシ基(例えば、ヒドロキシエチル、ヒドロキシプロピル)、或いは置換又は非置換のアリール基(例えば、ベンジル)からなる群から選択される。)等が挙げられる。
なかでも、フッ化物としては、フッ化水素やヘキサフルオロケイ酸が好ましい。フッ化水素は、水溶液(フッ化水素酸)として用いることができる。
フッ化物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
なお、本明細書において、「フッ化物」は、式(1)で表される化合物に該当しない化合物である。
【0032】
エッチング液中のフッ化物の質量は、特に限定されないが、例えば、エッチング液の質量に対し、0.02質量%以上10質量%以下が例示され、0.05質量%以上8.0質量%以下が好ましく、0.2質量%以上5.0質量%以下がより好ましい。フッ化物の含有量が上記範囲内であると、Si1-xGexに対するエッチングレートがより向上しやすい。
【0033】
また、エッチング液のフッ素イオン濃度は、特に限定されないが、例えば、0.005~2.50mol/Lが例示され、0.007~1.50mol/Lが好ましく、0.008~1.25mol/Lがより好ましく、0.010~1.00mol/Lがさらに好ましい。フッ素イオン濃度が前記範囲内であると、Si1-xGexに対するエッチングレートがより向上しやすい。
【0034】
<式(1)で表される化合物>
エッチング液は、下記式(1)で表される化合物を含む。
【化2】
(式(1)中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、フルオロアルキル基、又はアルコキシ基を表し、R
3及びR
4は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルキル基、フルオロアルキル基、又はアルコキシ基を表す。)
【0035】
R1及びR2は、同一でも異なっていてもよい。
R1及びR2としてのハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。これらの基の中では、フッ素原子が好ましい。
R1及びR2としてのアルキル基は、直鎖状でも分岐鎖状でもよく、具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基が挙げられる。これらの基の中では、メチル基、及びエチル基が好ましい。
R1及びR2としてのフルオロアルキル基は、アルキル基の水素原子の一部又は全部がフッ素原子に置換された基である。R1及びR2としてのフルオロアルキル基は、直鎖状でも分岐鎖状でもよく、具体例としては、上述のR1及びR2としてのアルキル基の具体例として挙げられた基の水素原子の一部又は全部がフッ素原子に置換された基が挙げられる。
R1及びR2としてのアルコキシ基は、直鎖状でも分岐鎖状でもよく、具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、n-プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、n-ブチルオキシ基、イソブチルオキシ基、sec-ブチルオキシ基、tert-ブチルオキシ基が挙げられる。これらの基の中では、メトキシ基、及びエトキシ基が好ましい。
R1及びR2は、それぞれ独立に水素原子又はアルキル基であることが好ましく、水素原子であることがより好ましい。
【0036】
R3及びR4は、同一でも異なっていてもよい。
R3及びR4としてのハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。これらの基の中では、フッ素原子が好ましい。
R3及びR4としてのアルキル基は、直鎖状でも分岐鎖状でもよく、具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基が挙げられる。これらの基の中では、メチル基、及びエチル基が好ましい。
R3及びR4としてのフルオロアルキル基は、アルキル基の水素原子の一部又は全部がフッ素原子に置換された基である。R3及びR4としてのフルオロアルキル基は、直鎖状でも分岐鎖状でもよく、具体例としては、上述のR1及びR2としてのアルキル基の具体例として挙げられた基の水素原子の一部又は全部がフッ素原子に置換された基が挙げられる。
R3及びR4としてのアルコキシ基は、直鎖状でも分岐鎖状でもよく、具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、n-プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、n-ブチルオキシ基、イソブチルオキシ基、sec-ブチルオキシ基、tert-ブチルオキシ基が挙げられる。これらの基の中では、メトキシ基、及びエトキシ基が好ましい。
R3及びR4は、それぞれ独立に、ヒドロキシ基、アルキル基又はフルオロアルキル基であることが好ましい。
【0037】
式(1)で表される化合物の具体例としては、マロン酸、メチルマロン酸、アセチルアセトン、ヘキサフルオロアセチルアセトンが挙げられる。
式(1)で表される化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0038】
エッチング液中の式(1)で表される化合物の質量は、特に限定されないが、例えば、エッチング液の質量に対し、0.1質量%以上15質量%以下が例示され、0.5質量%以上10質量%以下が好ましく、1.0質量%以上8.0質量%以下がより好ましい。式(1)で表される化合物の含有量が上記範囲内であると、Siに対するSi1-xGexのエッチングの選択性がより向上しやすい。
【0039】
<水>
エッチング液は、水を含む。水は、溶媒として機能する。
水は、不可避的に混入する微量成分を含んでいてもよい。エッチング液が含む水は、蒸留水、イオン交換水、及び超純水(脱イオン水)等の浄化処理を施された水が好ましく、半導体製造に一般的に使用される超純水を用いることがより好ましい。
【0040】
エッチング液中の水の質量は、特に限定されないが、例えば、エッチング液の質量に対し、10質量%以上が例示され、20質量%超でもよく、50質量%超でもよい。エッチング液中の水の質量は、70質量%以下が例示され、65質量%以下が好ましい。水の含有量が上記範囲内であると、Si1-xGexに対するエッチングレートがより向上しやすい。
【0041】
<溶媒としてのカルボン酸>
エッチング液は、溶媒としてのカルボン酸を含んでいてもよい。
溶媒としてのカルボン酸は、室温(25℃)で液体であり、上記式(1)で表される化合物に該当しない化合物である。
溶媒としてのカルボン酸としては、モノカルボン酸が挙げられ、具体例としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸が挙げられる。
溶媒としてのカルボン酸は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0042】
エッチング液が溶媒としてのカルボン酸を含む場合、エッチング液中の溶媒としてのカルボン酸の質量は、特に限定されないが、例えば、エッチング液の質量に対し、5.0質量%以上70質量%以下が例示され、10質量%以上65質量%以下が好ましく、15質量%以上60質量%以下がより好ましい。溶媒としてのカルボン酸の含有量が上記範囲内であると、Si1-xGexに対するエッチングレートがより向上しやすい。
また、エッチング液が溶媒としてのカルボン酸を含む場合、エッチング液中の、溶媒としてのカルボン酸の質量に対する、式(1)で表される化合物の質量の比((式(1)で表される化合物の質量)/(溶媒としてのカルボン酸の質量))は、0.05以上0.30以下であることが好ましく、0.10以上0.25以下であることがより好ましい。
【0043】
<他の成分>
エッチング液は、本発明の効果を損なわない範囲で、上記成分以外の他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、例えば、有機溶媒、リン酸及び/又はその誘導体、pH調整剤、パッシベーション剤、界面活性剤等が挙げられる。
【0044】
・有機溶媒
有機溶媒としては特に限定されず、上述の溶媒としてのカルボン酸以外の極性有機溶媒が挙げられる。
【0045】
・極性有機溶媒
上述の溶媒としてのカルボン酸以外の極性有機溶媒としては、アルコール系溶媒(例えば、メタノール、エタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、フルフリルアルコール、及び2-メチル-2,4-ペンタンジオール等)、ジメチルスルホキシド、エーテル系溶媒(例えば、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル)等が挙げられる。
【0046】
上述の溶媒としてのカルボン酸以外の極性有機溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0047】
・リン酸及び/又はその誘導体
エッチング液は、本発明の効果を損なわない範囲で、溶媒としてリン酸及び/又はその誘導体を含有ししてもよい。リン酸及び/又はその誘導体としては、下記式(2)で表される化合物が挙げられる。
O=P(OR)3 (2)
(式(2)中、各Rはそれぞれ独立に、水素原子又は炭素原子数1以上20以下のアルキル基である。)
【0048】
式(2)中、Rにおける炭素原子数1以上20以下のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、イソトリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、イソヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、上記アルキル基の各異性体等が挙げられる。
なかでも、Rとしては、水素原子又は炭素原子数1以上10以下のアルキル基が好ましく、水素原子がより好ましい。
【0049】
リン酸及び/又はその誘導体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0050】
・pH調整剤
pH調整剤としては、上述の成分に該当しない酸及びその塩からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。具体的には、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、シュウ酸二水和物、クエン酸、酒石酸、ピコリン酸、コハク酸、乳酸、スルホコハク酸、安息香酸、ピルビン酸、マレイン酸、フマル酸、リンゴ酸、アスコルビン酸、マンデル酸、ヘプタン酸、酪酸、吉草酸、グルタル酸、フタル酸、次亜リン酸、サリチル酸、5-スルホサリチル酸、塩酸、エタンスルホン酸、ブタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、ジクロロ酢酸、ジフルオロ酢酸、モノクロロ酢酸、モノフルオロ酢酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸、臭化水素酸(62重量%)、硫酸、酢酸アンモニウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸テトラメチルアンモニウム及び他の酢酸テトラアルキルアンモニウム、酢酸ホスホニウム、酪酸アンモニウム、トリフルオロ酢酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、リン酸、リン酸水素ジアンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素ビス(テトラメチルアンモニウム)、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素ジテトラアルキルアンモニウム、リン酸二水素ジテトラアルキルアンモニウム、リン酸水素ジホスホニウム、リン酸二水素ホスホニウム、ホスホン酸アンモニウム、ホスホン酸テトラアルキルアンモニウム、ホスホン酸ナトリウム、ホスホン酸カリウム、ホスホン酸ホスホニウム、エチドロン酸これらの塩等が挙げられる。
なかでも、酢酸アンモニウム又は硫酸アンモニウムが好ましい。
【0051】
pH調整剤としては、塩基性化合物も挙げられる。このような塩基性化合物としては、塩基性有機化合物及び塩基性無機化合物を用いることができる。塩基性有機化合物としては、有機第四級アンモニウム水酸化物等の四級アンモニウム塩;トリメチルアミン及びトリエチルアミン等のアルキルアミン;アルキルアミンの塩、が好適な例として挙げられる。
また、塩基性無機化合物としては、アルカリ金属若しくはアルカリ土類金属を含む無機化合物が挙げられる。例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム及び水酸化セシウム等が挙げられる。
【0052】
pH調整剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0053】
・パッシベーション剤
エッチング液は、ゲルマニウムのためのパッシベーション剤を含んでいてもよい。
パッシベーション剤としては、アスコルビン酸、L(+)-アスコルビン酸、イソアスコルビン酸、アスコルビン酸誘導体、ホウ酸、二ホウ酸アンモニウム、ホウ酸塩(例えば、五ホウ酸アンモニウム、四ホウ酸ナトリウム及び二ホウ酸アンモニウム)、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン酸、グルタミン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化ルビジウム、臭化マグネシウム、臭化カルシウム、式NR21R22R23R24Br(式中、R21、R22、R23及びR24は、互いに同じであることも、又は異なることもできて、水素、及び分岐鎖又は直鎖の炭素原子数1以上6以下のアルキル(例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル)からなる群から選択される。)を有する臭化アンモニウム等が挙げられる。
【0054】
パッシベーション剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0055】
・界面活性剤
エッチング液は、被処理体に対するエッチング液の濡れ性の調整の目的等のために、界面活性剤を含んでいてもよい。界面活性剤としては、ノニオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、又は両性界面活性剤を用いることができ、これらを併用してもよい。
【0056】
ノニオン界面活性剤としては、例えば、ポリアルキレンオキサイドアルキルフェニルエーテル系界面活性剤、ポリアルキレンオキサイドアルキルエーテル系界面活性剤、ポリエチレンオキサイドとポリプロピレンオキサイドからなるブロックポリマー系界面活性剤、ポリオキシアルキレンジスチレン化フェニルエーテル系界面活性剤、ポリアルキレントリベンジルフェニルエーテル系界面活性剤、アセチレンポリアルキレンオキサイド系界面活性剤等が挙げられる。
【0057】
アニオン界面活性剤としては、例えば、アルキルスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルナフタレンスルホン酸、アルキルジフェニルエーテルスルホン酸、脂肪酸アミドスルホン酸、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸、ポリオキシエチレンアルキルエーテルプロピオン酸、アルキルホスホン酸、脂肪酸の塩等が挙げられる。「塩」としてはアンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、テトラメチルアンモニウム塩等が挙げられる。
【0058】
カチオン界面活性剤としては、例えば、第四級アンモニウム塩系界面活性剤、又はアルキルピリジウム系界面活性剤等が挙げられる。
【0059】
両性界面活性剤としては、例えば、ベタイン型界面活性剤、アミノ酸型界面活性剤、イミダゾリン型界面活性剤、アミンオキサイド型界面活性剤等が挙げられる。
【0060】
これらの界面活性剤は一般に商業的に入手可能である。界面活性剤は、1種を単独で用いてもよく。2種以上を併用してもよい。
【0061】
<エッチング液の製造方法>
エッチング液の製造方法は特に限定されない。エッチング液は、必須成分である酸化剤、フッ化物、式(1)で表される化合物及び水と、必要に応じて含む、溶媒としてのカルボン酸等の任意成分とを、混合することで、製造することができる。
【0062】
[エッチング方法]
上述のエッチング液は、Si1-xGexで表される化合物(xは0超1以下である)のエッチングに用いることができる。具体的には、Si1-xGexで表される化合物(xは0超1以下である)を含む被処理体のエッチングに用いることができる。
このようなエッチング方法は、上述のエッチング液を、Si1-xGexで表される化合物に接触させることにより、Si1-xGexで表される化合物をエッチングする、エッチング工程を有する。
【0063】
<被処理体>
エッチング方法は、Si1-xGexで表される化合物(xは0超1以下である)を含む被処理体をエッチング処理の対象とする。Si1-xGexで表される化合物において、xは、0超1以下であればよく、0.05以上1.00以下でもよく、0.10以上0.40以下でもよい。
被処理体は、被処理体がSi1-xGexで表される化合物を含む限り特に限定さない。被処理体としては、Si1-xGex含有層(Si1-xGexで表される化合物を含有する層)を有する基板等が挙げられる。
上記基板は、特に限定されず、半導体ウエハ、フォトマスク用ガラス基板、液晶表示用ガラス基板、プラズマ表示用ガラス基板、FED(Field Emission Display)用基板、光ディスク用基板、磁気ディスク用基板、光磁気ディスク用基板等の各種基板が挙げられる。基板としては、半導体素子作製のために使用される基板が好ましい。基板は、Si1-xGex含有層及び基板の基材以外に、適宜、種々の層や構造、例えば、金属配線、ゲート構造、ソース構造、ドレイン構造、絶縁層、強磁性層、及び非磁性層等を有していてもよい。また、基板のデバイス面の最上層がSi1-xGex含有層であってもよいが、基板のデバイス面の最上層がSi1-xGex含有層である必要はなく、例えば、多層構造の中間層がSi1-xGex含有層であってもよい。
基板の大きさ、厚さ、形状、層構造等は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択する
ことができる。
【0064】
基板上のSi1-xGex含有層の厚さは、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。Si1-xGex含有層の厚さとしては、例えば、1nm以上200nm以下や1nm以上20nm以下の範囲が挙げられる。
【0065】
被処理体は、Si1-xGexで表される化合物からなるSiGe領域と、SiからなるSi領域とを含む基板であることが好ましい。SiGe領域とSi領域とを含む基板は、SiGe領域を含む層(Si1-xGex含有層)とSi領域を含む層とが積層された積層体を有する基板でもよい。
上述のエッチング液は、Siに対するSi1-xGexのエッチングの選択性が優れるため、SiGe領域とSi領域とを含む基板について、Si1-xGexのエッチングを優先的に進めることができる。
【0066】
エッチング液は、被処理体である基板におけるSi1-xGex含有層の微細加工(例えば、Si1-xGex含有層の少なくとも一部の除去)を行うために用いられてもよく、基板に付着したSi1-xGex含有付着物を除去するために用いられてもよく、表面にSi1-xGex含有層を有する被処理体からパーティクル等の不純物を除去するために用いられてもよい。
【0067】
基板上にSi1-xGex含有層を形成する方法は、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。かかる方法としては、例えば、スパッタリング法、化学気相成長(CVD:Chemical Vapor Deposition)法、エピタキシャル成長(epitaxial growth)法、及び原子層堆積法(ALD:Atomic layer deposition)等が挙げられる。基板上にSi1-xGex含有層を形成する際に用いるSi1-xGex含有層の原料も、特に限定されず、成膜方法に応じて適宜選択することができる。
【0068】
<エッチング工程>
エッチング工程は、上述のエッチング液を、Si1-xGexで表される化合物に接触させることにより、Si1-xGexで表される化合物をエッチングする。
エッチング液を、Si1-xGexで表される化合物に接触させる方法は、特に限定されず、公知のエッチング方法を用いることができる。かかる方法としては、例えば、スプレー法、浸漬法、液盛り法等が例示されるが、これらに限定されない。
スプレー法では、例えば、Si1-xGexで表される化合物を含む被処理体に対して上述のエッチング液を噴射して、Si1-xGexで表される化合物にエッチング液を接触させる。必要に応じて、基板を搬送させながら、又はスピンコーターを用いて基板を回転させながら上述のエッチング液を噴霧してもよい。
浸漬法では、上述のエッチング液に、Si1-xGexで表される化合物を含む被処理体を浸漬して、Si1-xGexで表される化合物にエッチング液を接触させる。
液盛り法では、Si1-xGexで表される化合物を含む被処理体に、上述のエッチング液を盛って、Si1-xGexで表される化合物とエッチング液とを接触させる。
これらのエッチング処理の方法は、Si1-xGexで表される化合物を含む被処理体の構造や材料等に応じて適宜選択することができる。スプレー法、又は液盛り法の場合、被処理体へのエッチング液の供給量は、被処理体における被処理面が、エッチング液で十分に濡れる量であればよい。
【0069】
エッチングを行う温度は、特に限定されず、例えばエッチング液にSi1-xGexで表される化合物が溶解する温度であればよい。エッチングを行う温度とは、エッチング時のエッチング液の温度である。
エッチングの温度としては、例えば、15℃以上60℃以下が挙げられる。スプレー法、浸漬法、及び液盛り法のいずれの場合も、エッチング液の温度を高くすることで、エッチングレートは上昇するが、エッチング液の組成変化を小さく抑えることや、作業性、安全性、コスト等も考慮し、適宜、処理温度を選択することができる。
【0070】
エッチングを行う時間は、エッチング処理の目的、エッチングにより除去されるSi1-xGexで表される化合物の量(例えば、Si1-xGex含有層の厚さ、Si1-xGex付着物の量等)、及びエッチング処理条件に応じて、適宜、選択すればよい。
エッチングを行う時間(エッチング液に接触させる時間)としては、例えば、1分以上60分以下が挙げられる。
【0071】
[半導体素子の製造方法]
上述のエッチング液は、Siに対するSi1-xGexで表される化合物(xは0超1以下である)のエッチングの選択性が優れるため、ゲートオールアラウンド型トランジスタ等の半導体素子の形成に必要なシリコンとシリコンゲルマニウムが交互に積層された構造体に特に好適である。
具体的には、半導体素子の製造方法は、上述のエッチング液を用いて、Si1-xGexで表される化合物(xは0超1以下である)を含む被処理体をエッチングするエッチング工程を含む。
半導体素子の製造方法における被処理体やエッチング工程等は、上述の[エッチング方法]における被処理体やエッチング工程等と同様である。
【0072】
半導体素子の製造方法は、上記エッチング工程に加えて、他の工程を含んでいてもよい。他の工程は、特に限定されず、半導体素子を製造する際に行われる公知の工程が挙げられる。かかる工程としては、例えば、チャネル形成、High-K/メタルゲート形成、金属配線、ゲート構造、ソース構造、ドレイン構造、絶縁層、強磁性層、及び非磁性層等の各構造の形成工程(層形成、上記エッチング工程以外のエッチング、化学機械研磨、変成等)、レジスト膜形成工程、露光工程、現像工程、熱処理工程、洗浄工程、検査工程等が挙げられるが、これらに限定されない。これらの他の工程は、必要に応じ、上記エッチング工程の前又は後に、適宜行うことができる。
【実施例0073】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0074】
[実施例1~7及び比較例1~13]
<エッチング液の調製>
表1に示す種類及び質量%の、酸化剤と、フッ化物と、式(1)で表される化合物又は式(1)に該当しない化合物、及び、表1に示す質量%の水と、酢酸とを混合し、各実施例及び比較例のエッチング液を調製した。なお、実施例7では、酢酸を混合しなかった。また、比較例1では、式(1)で表される化合物又は式(1)に該当しない化合物を混合しなかった。表1において、HFSAはヘキサフルオロケイ酸を意味する。
【0075】
【0076】
表1に記載される、式(1)で表される化合物及び式(1)に該当しない化合物は以下の通りである。
A:マロン酸
B:メチルマロン酸
C:アセチルアセトン
D:ヘキサフルオロアセチルアセトン
E:クロロ酢酸
F:ブロモ酢酸
G:酪酸
H:トリフルオロ酢酸
I:オクタン酸
J:ステアリン酸
K:イソ酪酸
L:ピバル酸
M:トリフルオロプロピオン酸
N:シュウ酸
O:コハク酸
P:グルタル酸
【化3】
【0077】
<被処理体のエッチング処理(1)>
表面にSi0.85Ge0.15の層を有するブランケット基板を、フッ化水素酸(HF:水=100:1(質量比))に浸漬し、基板表面の酸化膜を除去した。その後、基板を脱イオン水(DIW)で洗浄した。水洗後の基板を、窒素気流により乾燥させた。
乾燥後の基板を、25℃にてエッチング液に1分間浸漬して、エッチングを行った。浸漬後、基板を脱イオン水(DIW)で洗浄した。水洗後の基板を窒素気流により乾燥させた。
【0078】
フッ化水素酸に浸漬する前の基板と、エッチング液に浸漬した後の水洗及び乾燥後の基板について、それぞれ表面のSi0.85Ge0.15層の膜厚を、蛍光X線分析(XRF)を用いて測定し、これらの膜厚の差及びエッチング液への浸漬時間から、Si0.85Ge0.15のエッチングレート((膜厚の差[nm])/(エッチング液への浸漬時間[min]))を算出した。結果を表2の「SiGe」欄に示す。
【0079】
<被処理体のエッチング処理(2)>
表面にSi0.85Ge0.15の層を有するブランケット基板の代わりに、SOI基板を用いたことの他は、<被処理体のエッチング処理(1)>と同様の操作を行った。
エッチング液に浸漬する前であってフッ化水素酸に浸漬した後の水洗及び乾燥後の基板と、エッチング液に浸漬した後の水洗及び乾燥後の基板について、それぞれ表面のSi層の膜厚を、分光エリプソメトリーを用いて測定し、これらの膜厚の差及びエッチング液への浸漬時間から、Siのエッチングレート((膜厚の差[nm])/(エッチング液への浸漬時間[min]))を算出した。結果を表2の「Si」欄に示す。
また、表2に、Si0.85Ge0.15のエッチングレート及びSiのエッチングレートから算出したエッチング選択比((Si0.85Ge0.15のエッチングレート)/(Siのエッチングレート))を示す。
【0080】
また、エッチング液に浸漬した後の水洗及び乾燥後の基板について、表面のSi層を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、下記基準で平坦性(表面荒れ)を評価した。なお、エッチング液に浸漬する前の基板の表面のSi層は、平坦であり、表面荒れは、観察されなかった。
A:平坦性の低下(表面荒れ)は、観察されない。
B:平坦性の低下(表面荒れ)が若干観察される。
C:表面全体に平坦性の低下(表面荒れ)が観察されるが、平坦性の低下(表面荒れ)の度合いが浅い。
D:表面全体に平坦性の低下(表面荒れ)が観察され、かつ平坦性の低下(表面荒れ)の度合いが深い。
【0081】
表2に示す結果から、実施例1~7のエッチング液は、比較例1~13のエッチング液と比べて、SiGeエッチング選択比が高く、Siに対するSi1-xGexで表される化合物(xは0超1以下である)のエッチングの選択性が優れることが確認された。また、実施例1~7のエッチング液は、比較例1~13のエッチング液と比べて、Siの平坦性の低下を抑制できることが確認された。
【0082】
【0083】
<被処理体のエッチング処理(3)>
実施例1又は比較例1について、表面にSi0.85Ge0.15の層を有するブランケット基板の代わりに、表面にGeの層を有するブランケット基板を用いたことの他は、<被処理体のエッチング処理(1)>と同様の操作を行った。
フッ化水素酸に浸漬する前の基板と、エッチング液に浸漬した後の水洗及び乾燥後の基板について、それぞれ表面のGe層の膜厚を、蛍光X線分析(XRF)を用いて測定し、これらの膜厚及びエッチング液への浸漬時間から、Geのエッチングレート((膜厚の差[nm])/(エッチング液への浸漬時間[min]))を算出した。結果を表3の「Ge」欄に示す。
また、表3に、Geのエッチングレート及びSiのエッチングレートから算出したエッチング選択比((Geのエッチングレート)/(Siのエッチングレート))を示す。
【0084】
表3に示す結果から、実施例1のエッチング液は、比較例1のエッチング液と比べて、Geエッチング選択比が高く、Siに対するGeのエッチングの選択性が優れることが確認された。
【0085】