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特開2024-164771モリブデンターゲットおよびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024164771
(43)【公開日】2024-11-27
(54)【発明の名称】モリブデンターゲットおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/34 20060101AFI20241120BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20241120BHJP
   C22C 27/04 20060101ALI20241120BHJP
   C22C 1/04 20230101ALI20241120BHJP
   B22F 3/14 20060101ALI20241120BHJP
   B22F 3/15 20060101ALI20241120BHJP
   B22F 1/052 20220101ALI20241120BHJP
【FI】
C23C14/34 A
B22F1/00 P
C22C27/04 102
C22C1/04 D
B22F3/14 D
B22F3/15 M
B22F1/052
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023080476
(22)【出願日】2023-05-15
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-12-07
(71)【出願人】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】100101236
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100166914
【弁理士】
【氏名又は名称】山▲崎▼ 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】中村 亮太
(72)【発明者】
【氏名】大久保 拓
(72)【発明者】
【氏名】坂本 大河
【テーマコード(参考)】
4K018
4K029
【Fターム(参考)】
4K018AA21
4K018BA09
4K018BB04
4K018DA21
4K018DA32
4K018EA01
4K018EA11
4K018KA29
4K018KA63
4K029BA11
4K029DC03
4K029DC09
4K029DC12
(57)【要約】
【課題】パーティクルの発生原因であるポアの生成を抑え、そのサイズと分布を高精度に制御したモリブデンターゲット及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 モリブデン粉末の焼結体で形成されたモリブデンターゲットであって、相対密度が99%以上であり、酸素含有量が25ppm以下であり、炭素含有量が30ppm以下であり、タングステン含有量が10ppm~100ppmであり、前記酸素含有量、前記炭素含有量および前記タングステン含有量を除いたモリブデン含有量が99.999質量%以上であり、0.15mm2の観察領域において、0.01μm2以上0.2μm2未満の大きさのポアが20個以下であり、0.2μm2以上1.8μm2未満の大きさのポアが5個以下であり、1.8μm2以上の大きさのポアが1個以下であるモリブデンターゲット。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モリブデン粉末の焼結体で形成されたモリブデンターゲットであって、
相対密度が99%以上であり、
酸素含有量が25ppm以下であり、炭素含有量が30ppm以下であり、
タングステン含有量が10ppm~100ppmであり、
前記酸素含有量、前記炭素含有量および前記タングステン含有量を除いたモリブデン含有量が99.999質量%以上であり、
0.15mm2の観察領域において、0.01μm2以上0.2μm2未満の大きさのポアが20個以下であり、0.2μm2以上1.8μm2未満の大きさのポアが5個以下であり、1.8μm2以上の大きさのポアが1個以下であるモリブデンターゲット。
【請求項2】
円相当径で計算した平均粒径dAveが20μm以上100μm以下であり、
円相当径で計算した粒径の標準偏差3σと平均粒径dAveとの比(3σ/dAve)が1.2以下である請求項1記載のモリブデンターゲット。
【請求項3】
粒径dの縦横のアスペクト比が1.2未満である請求項2記載のモリブデンターゲット。
【請求項4】
ビッカース硬度の平均値が180以下であり、
ビッカース硬度の標準偏差3σとビッカース硬度の平均値HAveとの比(3σ/HAve)が0.07以下である請求項1~3のいずれか一項記載のモリブデンターゲット。
【請求項5】
レーザー回折・散乱法で得られる平均粒径DAveが2.5~4.0μm、メディアン径D50が2.0~3.5であり、メディアン径D90と前記平均粒径DAveとの比(D90/DAve)が1.7以下であり、メディアン径D95と前記平均粒径DAveとの比(D95/DAve)が2.0以下であるモリブデン粉末を用い、
1400℃以上1500℃以下の温度でホットプレスし、その後、1500℃以上1600℃以下で熱間等方圧プレス法により焼結するモリブデンターゲットの製造方法。
【請求項6】
前記モリブデン粉末は、タングステン含有量が10ppm~100ppmであり、
酸素含有量、炭素含有量および前記タングステン含有量を除いたモリブデン含有量が99.999質量%以上であるものである請求項5記載のモリブデンターゲットの製造方法。
【請求項7】
前記ホットプレスは、高真空下、保持温度1400~1500℃で保持時間360~600分間の条件で行う請求項5又は6記載のモリブデンターゲットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モリブデン粉末の焼結体で形成されたモリブデンターゲットおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体装置の製造分野においては、配線材料あるいは電極材料として、耐熱性および低抵抗特性を有するタングステンが広く用いられている。タングステン膜は、一般的にスパッタリング法で形成されている。タングステン膜のスパッタリングは、プラズマ放電により生成されたアルゴンイオンをタングステンターゲットに衝突させることで、ターゲット表面からタングステン原子を叩き出し、ターゲットに対向して配置された基板上にタングステン原子を堆積させる。このとき、ターゲット表面から発生したパーティクルが基板上に付着し歩留りを低下させることがプロセス上の大きな問題として知られている。このため、タングステンターゲットにおいても、パーティクル発生が極めて少なく、結晶粒が微細かつ均一で、相対密度の高いタングステンターゲットが不可欠となっている。
【0003】
しかしながら、高純度のタングステン膜が形成できたとしても、将来的な更なる低抵抗の要求に対応できない懸念がある。それ故に、タングステンに代わる有望な材料を見出すことが必要である。
これに関して、モリブデン膜は十分に低い電気抵抗値を実現できる可能性があるとして注目されているが、スパッタリング時にパーティクルの発生率が高く、それにより、材料歩留まりが低下するという問題があることも知られている。
【0004】
そこで、スパッタリング時のパーティクルを有効に低減することができるモリブデンスパッタリングターゲットとして、モリブデンの含有量が99.99質量%以上であり、相対密度が98%以上であり、平均結晶粒径が400μm以下であるもの、また、モリブデン粉末を準備する工程と、前記モリブデン粉末に対し、1350℃~1500℃の温度で荷重を作用させてホットプレスを行う工程と、前記ホットプレスにより得られる成形体に対し、1300℃~1850℃の温度で熱間等方圧加圧を行う工程とを含むスパッタリングターゲットの製造方法が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2022-125041号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の手法によっても、モリブデンターゲットから発生するパーティクルの発生が十分に低減できないことがわかった。
特に、モリブデンを用いた配線等の微細化が進むと、モリブデンターゲットから発生するパーティクルが歩留まりに大きく影響を与えることになるので、パーティクルの発生をさらに抑制することが要望されている。
【0007】
そこで、モリブデンターゲットをスパッタリングして成膜する際のパーティクルの要因を研究した結果、上述した製造方法で製造したターゲットは、焼結体の相対密度が100%弱まで達するが、どうしてもポアが存在し、また、その大きさ、分布状態が制御されていないため、パーティクル発生が抑制できず、歩留まり低下の原因となることを知見した。
【0008】
よって、歩留まりを向上させるためには、パーティクルの発生が限りなく少ないモリブデンターゲットが必要であり、そのモリブデンターゲットを得ることができる製造方法が必要となる。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑み、パーティクルの発生原因であるポアの生成を抑え、そのサイズと分布を高精度に制御したモリブデンターゲット及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明の第1の態様は、モリブデン粉末の焼結体で形成されたモリブデンターゲットであって、相対密度が99%以上であり、酸素含有量が25ppm以下であり、炭素含有量が30ppm以下であり、タングステン含有量が10ppm~100ppmであり、前記酸素含有量、前記炭素含有量および前記タングステン含有量を除いたモリブデン含有量が99.999質量%以上であり、0.15mm2の観察領域において、0.01μm2以上0.2μm2未満の大きさのポアが20個以下であり、0.2μm2以上1.8μm2未満の大きさのポアが5個以下であり、1.8μm2以上の大きさのポアが1個以下であるモリブデンターゲットである。
【0011】
本発明の第2の態様は、円相当径で計算した平均粒径dAveが20μm以上100μm以下であり、円相当径で計算した粒径の標準偏差3σと平均粒径dAveとの比(3σ/dAve)が1.2以下である第1の態様のモリブデンターゲットである。
【0012】
本発明の第3の態様は、粒径の縦横のアスペクト比の平均値が1.2未満である第2の態様のモリブデンターゲットである。
【0013】
本発明の第4の態様は、ビッカース硬度の平均値が180以下であり、ビッカース硬度の標準偏差3σとビッカース硬度の平均値HAveとの比(3σ/HAve)が0.07以下である第1~3の態様のモリブデンターゲットである。
【0014】
本発明の第5の態様は、レーザー回折・散乱法で得られる平均粒径DAveが2.5~4.0μm、メディアン径D50が2.0~3.5であり、メディアン径D90と前記平均粒径DAveとの比(D90/DAve)が1.7以下であり、メディアン径D95と前記平均粒径DAveとの比(D95/DAve)が2.0以下であるモリブデン粉末を用い、1400℃以上1500℃以下の温度でホットプレスし、その後、1500℃以上1600℃以下で熱間等方圧プレス法により焼結するモリブデンターゲットの製造方法である。
【0015】
本発明の第6の態様は、前記モリブデン粉末は、タングステン含有量が10ppm~100ppmであり、酸素含有量、炭素含有量および前記タングステン含有量を除いたモリブデン含有量が99.999質量%以上であるものである第5の態様のモリブデンターゲットの製造方法である。
【0016】
本発明の第7の態様は、前記ホットプレスは、高真空下、保持温度1400~1500℃で保持時間360~600分間の条件で行う第5又は第6の態様のモリブデンターゲットの製造方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、パーティクルの発生原因であるポアの生成を抑え、そのサイズと分布を高精度に制御したモリブデンターゲット及びその製造方法を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施例、比較例の0.01~0.2μm2のポアの数とパーティクル数との関係を示す図である。
図2】本発明の実施例、比較例の0.2~1.8μm2のポアの数とパーティクル数との関係を示す図である。
図3】本発明の実施例、比較例の1.8μm2以上のポアの数とパーティクル数との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明のモリブデンターゲットは、モリブデンの純度(含有量)が5N(99.999質量%)以上であり、相対密度が99%以上であり、酸素含有量が25ppm以下であり、炭素含有量が30ppm以下であり、タングステン含有量が10ppm~100ppmであり、0.15mm2の観察領域において、0.01μm2以上0.2μm2未満の大きさのポアが20個以下であり、0.2μm2以上1.8μm2未満の大きさのポアが5個以下であり、1.8μm2以上の大きさのポアが1個以下であるものである。なお、モリブデンの純度5Nは、酸素含有量、炭素含有量およびタングステン含有量を除いたモリブデン含有量が99.999質量%以上であることである。
【0020】
(純度)
比抵抗の低いモリブデン膜を形成するには、モリブデン膜に含まれる不純物を抑える必要があり、そのためモリブデンターゲットの高純度化が不可欠である。具体的には99.999質量%(5N)以上の純度を有することが必要である。
【0021】
(ガス成分)
モリブデンターゲット中に含まれる炭素及び酸素などのガス成分は、モリブデン膜の比抵抗に悪影響を及ぼす。これらのガス成分は、成膜時にモリブデン膜に取り込まれるため、その含有量が多くなるにつれ、モリブデン膜の比抵抗が増加する傾向にある。そのため、モリブデンターゲットに含まれる炭素は、30質量ppm以下であることが好ましく、また、酸素は25質量ppm以下であることが好ましい。
【0022】
(タングステン含有量)
本発明のモリブデンターゲットは、タングステン含有量が10ppm~100ppmであり、好ましくは、20ppm~50ppmである。
【0023】
このようなタングステン含有量とするのは、以下の理由による。
本来であれば、タングステン含有量も不可避含有量まで低減させるものであるが、本発明では、タングステン含有量を所定範囲に設定している。タングステン含有量が低すぎると、焼結時に粒成長が起こり易く、結晶粒径が大きくなり、大きなポアが形成され易くなり、一方、タングステン含有量が高すぎると、焼結性が悪くなり、高密度になり難くなる傾向となる。
【0024】
(結晶粒径)
本発明のモリブデンターゲットは、円相当径で計算した結晶粒径の平均値dAveが20μm以上、100μm以下である。
【0025】
このような結晶粒径の平均値(平均粒径)とするのは、以下の理由による。
モリブデンターゲットの平均粒径が小さいほど、ターゲット表面に存在する各結晶粒の方位差に起因するエロージョン量の差を小さくすることができるため、凹凸に起因する異常放電回数が少なくなり、成膜中のパーティクル発生を抑制することができる。
【0026】
一方、平均粒径が小さくなりすぎると、成膜レートが遅くなりすぎてしまうため、生産性が低下してしまう。
【0027】
また、円相当径で計算した粒径の標準偏差3σと平均粒径dAveとの比(3σ/dAve)が1.2以下である。この比は標準偏差3σを平均粒径で除して求めたものである。
また、粒径の縦横のアスペクト比が1.2未満である。このアスペクト比は「円相当径で計算した粒径」を求める粒子画像の長径を短径で割った値であり、画像解析ソフト「Image-j」を用いて求めた。
【0028】
粒径の標準偏差3σと平均粒径dAveとの比(3σ/dAve)が1.2以下が好ましいのは、以下の理由による。
結晶粒径のばらつきとポアの個数、サイズは相関があり、結晶粒径のばらつきが小さいほどターゲット中のポアの数が少なく、そのサイズが小さくなるため、上記範囲であれば成膜中のパーティクル発生を抑制することができる。
また、粒径の縦横のアスペクト比が1.2未満が好ましいのは、生産に悪影響を及ぼさない程度の安定した成膜レートを得られ、ターゲットを交換しても成膜レートが変わりにくいという理由である。
【0029】
(相対密度)
モリブデンターゲットの相対密度は、99%以上とすることが好ましい。ターゲットの相対密度が99%以上であれば、ターゲット中に含まれるガス成分が少ないため、膜を形成した際に、膜の比抵抗の上昇を抑えることができる。また、ターゲットの相対密度が高いほど、ポアの数が少なくなるため、ターゲット表面の凹凸に起因する異常放電回数が少なくなり、成膜中のパーティクル発生を抑制することができる。
【0030】
(ビッカース硬度)
モリブデンターゲットのビッカース硬度の平均値は、160以上180以下であるのが好ましく、より好ましくは、ビッカース硬度の平均値が165~175である。
【0031】
ビッカース硬度の平均値が上記範囲であることが好ましいのは、以下の理由による。
ビッカース硬度の平均値とターゲット中のポアの個数、大きさには相関があり、ビッカース硬度の平均値が高いほどターゲット中のポアの数が少なく、そのサイズが小さいため、成膜中のパーティクル発生を抑制することができる。
【0032】
一方で、ビッカース硬度の平均値が非常に大きい場合、適切な熱処理条件が施されておらず、モリブデンの内部ひずみが取り除けていない可能性が高い。この内部ひずみが起点となり、ターゲット加工時やスパッタリングによる成膜時の熱応力によって割れてしまう可能性がある。
【0033】
また、ビッカース硬度の標準偏差3σとビッカース硬度の平均値HAveとの比(3σ/HAve)が0.07以下であるのが好ましい。計算方法は標準偏差3σをビッカース硬度の平均値で除して求めた。
【0034】
ビッカース硬度の標準偏差の3倍(3σ)とビッカース硬度の平均値との比が上述した範囲が好ましいのは、以下の理由による。
【0035】
ビッカース硬度のばらつきとポアの個数、サイズは相関があり、ビッカース硬度のばらつきが小さいほどターゲット中のポアの数が少なく、そのサイズが小さくなるため、成膜中のパーティクル発生を抑制することができる。
【0036】
(ポア)
本発明のモリブデンターゲットは、0.15mm2の観察領域において、0.01μm2以上0.2μm2未満の大きさのポアが20個以下であり、0.2μm2以上1.8μm2未満の大きさのポアが5個以下であり、1.8μm2以上の大きさのポアが1個以下である。
【0037】
本発明の大きさと存在数が上述した範囲とした理由は以下の通りである。
ポアの大きさと存在数を制御することによって、ポアに電界が集中し、局所的な溶解と飛散によって発生するパーティクルを抑制することができ、歩留まりを向上することができる。また、パーティクルの発生数がターゲットのライフエンドまで連続して少ないため、安定した生産を実現できる。
【0038】
このように粗大なポアが極めて少なく、モリブデンターゲットの面方向と厚み方向でポアの局在化が抑えられたモリブデンターゲットは、今まで実現されていなかったが、上述したような相対密度、硬度及び結晶粒径の特性を有することで、実現されるものである。また、粗大なポアが極めて少なく、モリブデンターゲットの面方向と厚み方向でポアの局在化が抑えられた本発明のモリブデンターゲットは、後述する製造方法によって実現されるものである。
【0039】
以上説明した本発明のモリブデンターゲットは、上述したように、ポアが小さく且つ少ないものであるので、このモリブデンターゲットを用いることでパーティクルの発生量を大幅に低減でき、高品質なモリブデン膜を安定して成膜することが可能となる。
【0040】
本発明のモリブデンターゲットを製造する一実施形態に係るモリブデンターゲットの製造方法を説明する。
【0041】
本発明のモリブデンターゲットは、レーザー回折・散乱法で得られる平均粒径DAveが2.5~4.0μm、メディアン径D50が2.0~3.5のモリブデン粉末を用いて、1400℃以上1500℃以下の温度でホットプレスし(HP工程)、その後、1500℃以上1600℃以下で熱間等方圧プレス法により焼結する(HIP工程)ことで製造することができる。
【0042】
本発明のスパッタリングターゲットの製造方法は、レーザー回折・散乱法で得られる平均粒径DAveが2.5~4.0μm、好ましくは、2.8~3.7μm、メディアン径D50が2.0~3.5、好ましくは、2.2~3.3μmであるモリブデン粉末を用いるのが第1のポイントとなる。
【0043】
また、本発明のスパッタリングターゲットの製造方法は、メディアン径D90と平均粒径DAveとの比(D90/DAve)が1.7以下、好ましくは1.5以下のモリブデン粉末を用いるのが第2のポイントとなる。
【0044】
また、本発明のスパッタリングターゲットの製造方法は、メディアン径D95と平均粒径DAveと比(D95/DAve)が2.0以下、好ましくは1.8以下のタングステン粉末を用いるのが第3のポイントとなる。
【0045】
このように、本発明では、粒径が所定の範囲の粉末であって、粒度分布の範囲が極めて狭い、すなわち、平均粒径からの粒度のばらつきが小さいモリブデン粉末を用いることにより、ポアが極めて小さく、且つ少ないモリブデンターゲットを実現することができる。本発明では、このような粒度分布が狭い特徴を、メディアン径D90をレーザー回折・散乱法で得られる平均粒径DAveで除した値やメディアン径D95をレーザー回折・散乱法で得られる平均粒径DAveで除した値が所定値以下であるとして規定した。なお、この範囲を外れる粒度分布が広い粉末は、本発明の効果を奏することができない。
【0046】
また、粉末の平均粒径が大きすぎると、所定の密度の焼結体が得られず、小さいとホットプレス(HP)時に密度急上昇して酸化物がトラップされてしまうので、所定の範囲とする必要がある。
【0047】
本発明で用いるモリブデン粉末は、タングステン含有量が10ppm~100ppmであり、酸素含有量、炭素含有量およびタングステン含有量を除いたモリブデン含有量が99.999質量%以上である。
【0048】
なお、酸素含有量は、モリブデンターゲットの酸素含有量に影響を及ぼすため、原料粉末の酸素含有量は例えば3000質量ppm以下とするのが好ましい。酸化物の昇華量が多くなり、ホットプレス装置にダメージを与える可能性がある。
【0049】
本発明のスパッタリングターゲットは、上述したモリブデン粉末を1400℃以上1500℃以下の温度でホットプレスし、その後、1500℃以上1600℃以下で熱間等方圧プレス法により焼結することで製造することができる。
【0050】
高真空領域での真空ホットプレスにより、脱ガスと焼結を促進し、モリブデンターゲットに含まれる酸素の量を低減させながら高密度焼結体を得ることができる。モリブデン粉末の酸素含有量が多い場合、モリブデンターゲット中の酸化物の数が多くなり、パーティクルの発生頻度が増加する。また、厚い表面酸化膜によって焼結が阻害され、高密度焼結体を得ることができない。
【0051】
ここで、高真空とは、1×10-2Pa以下、好ましくは、1×10-3Pa以下、さらに好ましくは、1×10-4Pa以下をいう。
【0052】
また、上述したとおり、モリブデンターゲット中に含まれる炭素及び酸素などのガス成分は、モリブデン膜の比抵抗に悪影響を及ぼすので、モリブデンターゲット中の炭素含有量は、30質量ppm以下が好ましく、また、酸素含有量は25質量ppm以下が好ましい。
【0053】
酸素濃度に関しては、上述したとおり、真空ホットプレスにより達成できる。
【0054】
一方、炭素濃度に関しては、ホットプレスの際、ホットプレス装置を構成するグラファイト製の部材からモリブデン焼結体に炭素が拡散し、炭素含有量増加の原因となる。そのため、ホットプレス温度は低いほど好ましく、1500℃以下であれば安定して30質量ppm以下、好適には20質量ppm以下を達成できる。
【0055】
HP工程では、95%以上の相対密度を有する焼結体が作製される。このような特性を有する焼結体を作製するためのHP温度は1400℃以上1500℃以下であることが好ましい。HP温度が低すぎるとHIP処理が可能な密度まで上がらず、高すぎると急激な粒成長によって粗大なポアが局所的に形成されるため好ましくない。HPによる圧力は低すぎるとHIP処理が可能な密度まで上がらない。高すぎるとHP装置の消耗が激しくなる。例えば、HP処理時の圧力は39.2MPa(400kg/cm2)以上44.1MPa(450kg/cm2)以下である。本工程におけるHPの保持時間は、360分以上600分以下である。HPの保持時間が短すぎるとHIP処理が可能な密度まで上がらず、長すぎても生産性の低下を招く。本発明において、粉末粒径と粒度分布を制御し、HP温度を1400℃以上1500℃以下、HPの保持時間を360分以上600分以下とすることが肝要である。これにより、焼結体中のポアの粗大化を抑え、微細なポアを焼結体中に均一に分散させることができる。
【0056】
HP処理を行った焼結体について、焼結体中のポアを減少させ、高密度化させるために熱間等方圧プレス法(HIP)が適用される。
【0057】
HIP温度は、1500℃以上1600℃以下である。HIP温度が1500℃未満の場合、処理温度が低いため、量産に適した処理時間内で99%以上の高い相対密度を得ることが難しい。特に、本発明では、タングステン含有量が所定範囲のモリブデン粉末を用いているので、1500℃より低温では相対密度99%以上の焼結体を得ることができない。また、HIP温度が1600℃を超えると、処理温度が高いため、結晶粒の急激な粗大化を招き、粗大なポアが局所的に形成されるため好ましくない。圧力は特に限定されず、例えば100以上200MPa以下とされ、本実施形態では176.4MPa(1800kg/cm2)である。
【0058】
以上の製造方法によれば、本願発明の特徴を有するモリブデンターゲットを得ることができる。特に、モリブデンターゲット中におけるポアの数を少なく、そのサイズを小さくし、その局在化を抑制することができる。したがって、本実施形態のスパッタリングターゲットを用いることで、成膜時におけるパーティクル発生を少なくすることが可能となり、高品質なモリブデン膜を安定して形成することが可能となる。
【0059】
スパッタリングターゲット中におけるポアの存在は、原料粉末の大きさとその粒度分布、焼結体の相対密度、ターゲットの結晶粒径の大きさと分布、硬度の大きさと分布に強い相関を有しており、原料粉末の大きさが細かく、その粒度分布の範囲が狭いほど、焼結体の相対密度が高いほど、結晶粒径のばらつき、硬度のばらつきが小さいほど、ポアの発生は極めて低減し、その大きさが非常に小さくなる。
【0060】
一方、結晶粒径が微細であっても、ばらつきが大きいと、粗大なポアの生成が抑えられない。本発明は、原料粉末の大きさと粒度分布、ホットプレス条件、熱間等方圧プレス条件の最適化によって、焼結体の相対密度を高め、結晶粒径のばらつき、硬度のばらつきを抑制した結果、粗大なポアが非常に少なく、ポアの局在化がほとんどない本発明のモリブデンターゲットを製造できることを見いだした。
【0061】
すなわち、本実施形態のモリブデンターゲットの製造方法において、原料粉末は、1400℃以上1500℃以下の温度でホットプレスし、その後、1500℃以上1600℃以下で熱間等方圧プレス法により焼結する。
【0062】
上記モリブデンターゲットの製造方法によれば、ポアが小さく且つ少ないスパッタリングターゲットを得ることができる。例えば、上記製造方法によれば、0.15mm2の観察領域において、0.01μm2以上0.2μm2未満の大きさのポアが20個以下であり、0.2μm2以上1.8μm2未満の大きさのポアが5個以下であり、1.8μm2以上の大きさのポアが1個以下であるモリブデンターゲットを安定して製造することができる。
【0063】
本発明のモリブデンターゲットの製造方法では、相対密度が99%以上であり、ビッカース硬度が180以下、ビッカース硬度の標準偏差3σとビッカース硬度の平均値HAveの比(3σ/HAve)が0.07以下、平均粒径が20μm以上100μm以下、平均粒径の標準偏差3σと平均粒径HAveとの比(3σ/HAve)が1.2以下であるモリブデンターゲットを効率的に安定して製造することができる。
【0064】
これにより、ポアが小さく且つ少ないモリブデンターゲットを製造することができ、このモリブデンターゲットを用いることでパーティクルの発生量を大幅に低減でき、高品質なモリブデン膜を安定して成膜することが可能となる。
【0065】
以上のように作製された焼結体は、加工工程において所定のターゲット形状に加工される。加工方法は特に限定されないが、典型的には、研削、切削等の機械加工法が適用される。加工サイズおよび形状は、ターゲットの仕様に応じて定まり、例えば円形、矩形状に加工される。加工された焼結体は、バッキングプレートに接合されることで、スパッタリングカソードが構成される。
【実施例0066】
以下、実施例、比較例を参照して本発明を説明する。
なお、モリブデン粉末の平均粒径および粒度分布は、マイクロトラックベル社製粒度分布測定装置「LS13320」を用いて求めた。
【0067】
(実施例1-4)
表1に示すように、タングステン含有量が10ppm~100ppmであり、タングステン及びガス含有量を除いたモリブデン含有量が99.999質量%以上(純度5N)、レーザー回折・散乱法で得られる平均粒径DAveが2.5~4.0μm、メディアン径D50が2.0~3.5であり、メディアン径D90と前記平均粒径DAveとの比(D90/DAve)が1.7以下であり、メディアン径D95と前記平均粒径DAveとの比(D95/DAve)が2.0以下であるモリブデン粉末を用い、粉末を、表1に示す温度、1400℃以上1500℃以下の温度でホットプレスし、その後、表1に示す1500℃以上1600℃以下の温度でHIPすることでモリブデン焼結体を得た。得られたモリブデン焼結体を旋盤による研削加工によって所定のターゲット形状(直径440mm、厚み6mm)に仕上げた。
【0068】
(比較例1)
表1に示すように、レーザー回折・散乱法で得られる平均粒径DAveが2.5μmより小さく、メディアン径D50が2.0μmより小さく、メディアン径D90と前記平均粒径DAveとの比(D90/DAve)が1.7以下であり、メディアン径D95と前記平均粒径DAveとの比(D95/DAve)が2.0以下であるモリブデン粉末を用い、表1に示す温度でホットプレスし、モリブデン焼結体を得た。モリブデン粉末の粒径は小さすぎたせいか、密度が急上昇し、酸化物が多量トラップしてしまった。
【0069】
(比較例2)
表1に示すように、レーザー回折・散乱法で得られる平均粒径DAveが2.5~4.0μm、メディアン径D50が2.0~3.5であり、メディアン径D90と前記平均粒径DAveとの比(D90/DAve)が1.7以下であり、メディアン径D95と前記平均粒径DAveとの比(D95/DAve)が2.0以下であるモリブデン粉末を用い、モリブデン粉末を用い、表1に示す温度でホットプレスすることでモリブデン焼結体を得た。HIPを行わなかったので、十分な密度の焼結体は得られなかった。
【0070】
(比較例3-8)
表1に示すように、レーザー回折・散乱法で得られる平均粒径DAveが2.5μmより小さく、メディアン径D50が2.0μmより小さく、メディアン径D90と前記平均粒径DAveとの比(D90/DAve)が1.7以下であり、メディアン径D95と前記平均粒径DAveとの比(D95/DAve)が2.0以下であるモリブデン粉末を用い、表1に示す温度でホットプレスし、その後、HIPすることでモリブデン焼結体を得た。得られたモリブデン焼結体を旋盤による研削加工によって所定のターゲット形状(直径440mm、厚み6mm)に仕上げた。
【0071】
(比較例9)
表1に示すように、レーザー回折・散乱法で得られる平均粒径DAveが2.5~4.0μm、メディアン径D50が2.0~3.5μmであり、メディアン径D90と前記平均粒径DAveとの比(D90/DAve)が1.7以上であり、メディアン径D95と前記平均粒径DAveとの比(D95/DAve)が2.0以上であるモリブデン粉末を用い、表1に示す温度でホットプレスし、その後、HIPすることでモリブデン焼結体を得た。得られたモリブデン焼結体を旋盤による研削加工によって所定のターゲット形状(直径440mm、厚み6mm)に仕上げた。
【0072】
(比較例10)
表1に示すように、レーザー回折・散乱法で得られる平均粒径DAveが4.0μmより大きく、メディアン径D50が2.0~3.5μmであり、メディアン径D90と前記平均粒径DAveとの比(D90/DAve)が1.7以下であり、メディアン径D95と前記平均粒径DAveとの比(D95/DAve)が2.0以上であるモリブデン粉末を用い、表1に示す温度でホットプレスし、その後、HIPすることでモリブデン焼結体を得た。得られたモリブデン焼結体を旋盤による研削加工によって所定のターゲット形状(直径440mm、厚み6mm)に仕上げた。
【0073】
(比較例11-13)
表1に示すように、レーザー回折・散乱法で得られる平均粒径DAveが4.0μmより大きく、メディアン径D50が3.5μmより大きく、メディアン径D90と前記平均粒径DAveとの比(D90/DAve)が1.7以上であり、メディアン径D95と前記平均粒径DAveとの比(D95/DAve)が2.0以上であるモリブデン粉末を用い、表1に示す温度でホットプレスし、その後、HIPすることでモリブデン焼結体を得た。得られたモリブデン焼結体を旋盤による研削加工によって所定のターゲット形状(直径440mm、厚み6mm)に仕上げた。
【0074】
(実施例、比較例)
得られたターゲットについて、相対密度、ビッカース硬度、結晶粒径、タングステン含有量、酸素含有量、炭素含有量、ポアの測定を下記の手順に従い行った。結果は、表2、表3に示す。
【0075】
(相対密度)
得られたモリブデンターゲットの中心部、端部、中心部と端部を結んだ直線の半分の位置から、それぞれ10×10×6mmtのサンプルを採取し、それぞれのサンプルについて、その断面を研磨し、エッチング後、アルキメデス法を用いて、比重を算出し、モリブデンの理論密度(10.23g/cm3)を用いて算出した。各サンプルの相対密度を足し、サンプル数で除して得られた値を本発明にかかるモリブデンターゲットの相対密度とした。
【0076】
(ビッカース硬度)
得られたモリブデンターゲットの中心部、端部、中心部と端部を結んだ直線の半分の位置から、それぞれ10×10×6mmtのサンプルを採取し、それぞれのサンプルについて、その断面を研磨後、ミツトヨ社製ビッカース硬度測定器「HM-200」によって、荷重:1kg、荷重時間:15秒、ターゲットの深さ方向に1mm間隔、3回ずつの硬度測定を行い、得られた値について平均値を算出した。それぞれのサンプルについて算出した平均値を足し、サンプル数で除した値を本発明に係るモリブデンターゲットの硬度とした。さらに、モリブデンターゲットの標準偏差は、それぞれのサンプルから求めた標準偏差を足し、サンプル数で除して得られた値を本発明に係る標準偏差とした。
【0077】
(結晶粒径)
得られたモリブデンターゲットの中心部、端部、中心部と端部を結んだ直線の半分の位置から、それぞれ10×10×6mmtのサンプルを採取し、それぞれのサンプルについて、その断面を研磨、エッチング後、キーエンス社製光学顕微鏡「デジタルマイクロスコープVHX-6000」を用いて、ターゲットの深さ方向に1mm間隔で撮影した画像について、画像解析ソフト「Image-j」を用いて円相当径を求め、平均値を算出した。それぞれの試験片について算出した平均値を足し、サンプル数で除した値を本発明にかかるモリブデンターゲットの平均粒径とした。さらに、モリブデンターゲットの標準偏差は、それぞれのサンプルから求めた標準偏差を足し、サンプル数で除して得られた値を本発明に係る標準偏差とした。
【0078】
(酸素含有量)
モリブデン焼結体をターゲット形状に加工する際、分析サンプルを採取して、成形体の酸素含有量を測定した。酸素含有量の分析には、LECO社製分析装置「TC-600」を使用した。
【0079】
(炭素含有量)
モリブデン焼結体をターゲット形状に加工する際、分析サンプルを採取して、成形体の炭素含有量を測定した。炭素含有量の分析には、堀場製作所社製分析装置「EMIA-320V」を使用した。
【0080】
(ポア)
得られたスパッタリングターゲットの中心部、端部、中心部と端部を結んだ直線の半分の位置から、それぞれ10×10×6mmtのサンプルを採取し、それぞれのサンプルについて、その断面を研磨後、日立ハイテクノロジーズ社製電子顕微鏡「TM4000Plus」を用いて、ターゲットの深さ方向に1mm間隔で、2枚ずつSEM画像を撮影した。撮影したSEM画像について、画像解析ソフト「Image-j」を用いてポアの面積を求め、各サンプルにおけるポアの大きさと数を算出した。それぞれのサンプルについて求めたポアの大きさと個数を足し、サンプル数で除した値を本発明に係るモリブデンターゲットのポアの大きさと個数とした。
【0081】
また、得られた実施例、比較例のターゲットを用いて以下の通り成膜し、膜の比抵抗を以下の通り測定するとともに、パーティクルを以下の通り評価した。
【0082】
実施例1~4および比較例1~13の結果を表3に、また、所定の大きさのポアの数とパーティクルの数との関係を図1図3に示した。なお、比抵抗は11μΩ・cm以下を○、11μΩ・cmを超えたものを×とした。比抵抗が11μΩ・cm以下であれば、低抵抗なLSI配線を成膜できるので、消費電力の低いデバイスを実現することができる。
なお、膜厚分布は2%以下を○、2%を超えたものを×とした。膜厚分布が2%以下であれば、性能・品質のバラつきが少ないデバイスを安定して生産することができる。
【0083】
(比抵抗測定)
得られたモリブデンターゲットをアルミニウム合金製バッキングプレートにIn系ロウ材でボンディングし、スパッタリングカソードを構成した。そのスパッタリングカソードをアルバック社製スパッタリング装置「ENTRON/エントロン(登録商標)」に組付け、直径300mmの半導体ウェーハ上に厚み10nmのモリブデン薄膜を形成した。スパッタ条件は、到達圧力:1×10-5Pa、放電方式:DC、電力:4kW、ガス原料:Ar、ガス流量:150sccm、成膜温度:200℃、スパッタ時間:5秒、ターゲットとウェーハの距離:60mmとした。
【0084】
ウェーハ上のモリブデン薄膜の9点について、TECHNORAYS社製「S-MAT2300」を用いて膜厚を測定すると共に、KLATencor社製「OmniMap RS100」を用いてシート抵抗を測定して、薄膜の比抵抗(μΩ・cm)を算出し、その平均値をモリブデン薄膜の比抵抗とした。
【0085】
(パーティクルの測定)
比抵抗測定に供した厚み10nmのモリブデン薄膜について、TOPCON社製表面検査装置「WM-10」を用いて、直径300mmの半導体ウェーハ上のモリブデン薄膜の表面を検査し、0.065μm以上の大きさのパーティクルの個数を測定した。パーティクルの個数は、70685mm2当たりの個数となり、20個以下のものが好ましいと判断され、15個以下のものがより好ましいと判断される。
【0086】
(膜厚分布の測定)
ウェーハ上のモリブデン薄膜の49点について、TECHNORAYS社製「S-MAT2300」を用いて膜厚を測定し、以下の計算式を用いて算出した。
膜厚分布(%) = (最大値-最小値)/(最大値+最小値)×100
【0087】
【表1】
【0088】
【表2】
【0089】
【表3】
【0090】
実施例1~4に示すように、タングステン含有量が10ppm~100ppmであり、タングステン及びガス含有量を除いたモリブデン含有量が99.999質量%以上(純度5N)、レーザー回折・散乱法で得られる平均粒径DAveが2.5~4.0μm、メディアン径D50が2.0~3.5であり、メディアン径D90と前記平均粒径DAveとの比(D90/DAve)が1.7以下であり、メディアン径D95と前記平均粒径DAveとの比(D95/DAve)が2.0以下であるモリブデン粉末を用い、粉末を1400℃以上1500℃以下の温度でホットプレスし、その後、1500℃以上1600℃以下の温度でHIPすることで、モリブデン焼結体を得た。得られたモリブデン焼結体は、相対密度が99%以上であり、0.15mm2の観察領域において、0.01μm2以上0.2μm2未満の大きさのポアが20個以下であり、0.2μm2以上1.8μm2未満の大きさのポアが5個以下であり、1.8μm2以上の大きさのポアが1個以下であるモリブデンターゲットを得ることができる。このようなモリブデンターゲットを用いることで、パーティクルの発生を抑制することができ、高品質なモリブデン薄膜を安定して製膜することが可能になる。
【0091】
また、実施例1~4では、ホットプレス温度が1500℃以下と低いので、ターゲットの炭素含有量が十分に低く、比抵抗が11μΩ・cm以下と十分に低い薄膜を成膜することができる。
【0092】
比較例1では、粉末が細か過ぎ、酸素含有量が多いため、HP時に密度が急上昇し酸化物がトラップされることになった。また、比較例2では、HIPを実施していないため、密度不足であった。
比較例3、4では、タングステン含有量及び酸素含有量が高いため、比抵抗が高いものとなった。また、原料粉末が細か過ぎるためHP時に密度が急上昇し、さらにHP温度が低いため酸化物が昇華せずに残存した。また、比較例3では、HIP温度が高いので異常粒成長が生じ、比較例4では、HIP温度が低いため低密度であった。
比較例5、6では、タングステン含有量及び酸素含有量が高いため、比抵抗が高いものとなった。また粉末が細か過ぎ且つ酸素含有量が多いため、HP時に密度急上昇し酸化物がトラップした。また、HIP温度が低いため低密度であった。
比較例7では、酸素含有量が高いため、比抵抗が高いものとなり、原料粉末が細か過ぎるためHP時に密度急上昇して酸化物が一部残存した。
比較例8では、酸素含有量が高いため、比抵抗が高いものとなり、原料粉末が細か過ぎるためHP時に密度急上昇して酸化物が一部残存した。また、HIP温度が高いため、異常粒成長が生じ、アスペクト比が大きくなった。
比較例9~11では、原料粉末が粗いため、密度不足となった。また、比較例11では、粒度調整不足のため、粒径がバラつき且つアスペクト比が大きく、密度不足となった。
比較例12では、HIP温度が高いので、異常粒成長が生じ、アスペクト比が大きくなった。また、原料粉末が粗いため密度不足となった。
比較例13では、HP温度が高いため、炭素拡散量が多くなった。また、原料粒度分布調整不足のため、粒径がバラつき且つアスペクト比が大きく、粉末も粗いため密度不足となった。
図1
図2
図3
【手続補正書】
【提出日】2023-09-01
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モリブデン粉末の焼結体で形成されたモリブデンターゲットであって、
相対密度が99%以上であり、
酸素含有量が25ppm以下であり、炭素含有量が30ppm以下であり、
タングステン含有量が10ppm~100ppmであり、
前記酸素含有量、前記炭素含有量および前記タングステン含有量を除いたモリブデン含有量が99.999質量%以上であり、
0.15mm2の観察領域において、0.01μm2以上0.2μm2未満の大きさのポアが20個以下であり、0.2μm2以上1.8μm2未満の大きさのポアが5個以下であり、1.8μm2以上の大きさのポアが1個以下であるモリブデンターゲット。
【請求項2】
円相当径で計算した平均粒径dAveが20μm以上100μm以下であり、
円相当径で計算した粒径の標準偏差3σと平均粒径dAveとの比(3σ/dAve)が1.2以下である請求項1記載のモリブデンターゲット。
【請求項3】
粒径dの縦横のアスペクト比が1.2未満である請求項2記載のモリブデンターゲット。
【請求項4】
ビッカース硬度の平均値が180以下であり、
ビッカース硬度の標準偏差3σとビッカース硬度の平均値HAveとの比(3σ/HAve)が0.07以下である請求項1~3のいずれか一項記載のモリブデンターゲット。
【請求項5】
タングステン含有量が10ppm~100ppmであり、酸素含有量、炭素含有量および前記タングステン含有量を除いたモリブデン含有量が99.999質量%以上であり、レーザー回折・散乱法で得られる平均粒径DAveが2.5~4.0μm、メディアン径D50が2.0~3.5であり、メディアン径D90と前記平均粒径DAveとの比(D90/DAve)が1.7以下であり、メディアン径D95と前記平均粒径DAveとの比(D95/DAve)が2.0以下であるモリブデン粉末を用い、
1400℃以上1500℃以下の温度でホットプレスし、その後、1500℃以上1600℃以下で熱間等方圧プレス法により焼結するモリブデンターゲットの製造方法。
【請求項6】
前記ホットプレスは、高真空下、保持温度1400~1500℃で保持時間360~600分間の条件で行う請求項記載のモリブデンターゲットの製造方法。