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特開2024-164800量子ドット電界発光素子及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024164800
(43)【公開日】2024-11-27
(54)【発明の名称】量子ドット電界発光素子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H10K 50/115 20230101AFI20241120BHJP
   H05B 33/14 20060101ALI20241120BHJP
   H10K 85/50 20230101ALI20241120BHJP
   H10K 50/16 20230101ALI20241120BHJP
   H10K 50/15 20230101ALI20241120BHJP
   H10K 85/60 20230101ALI20241120BHJP
   H10K 71/30 20230101ALI20241120BHJP
   H10K 101/30 20230101ALN20241120BHJP
【FI】
H10K50/115
H05B33/14 Z
H10K85/50
H10K50/16
H10K50/15
H10K85/60
H10K71/30
H10K101:30
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024027766
(22)【出願日】2024-02-27
(31)【優先権主張番号】P 2023080180
(32)【優先日】2023-05-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 1.大久哲、本村玄一、及川凌輔、溝口翔希、千葉貴之、藤崎好英が、2023年9月5日付で、第84回応用物理学会秋季学術講演会 講演予稿集において公開。 2.大久哲、本村玄一、及川凌輔、溝口翔希、千葉貴之、藤崎好英が、2023年9月20日付で、第84回応用物理学会秋季学術講演会において公開。
(71)【出願人】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100164471
【弁理士】
【氏名又は名称】岡野 大和
(74)【代理人】
【識別番号】100119530
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 和幸
(72)【発明者】
【氏名】大久 哲
(72)【発明者】
【氏名】本村 玄一
(72)【発明者】
【氏名】藤崎 好英
【テーマコード(参考)】
3K107
【Fターム(参考)】
3K107AA06
3K107AA07
3K107CC04
3K107CC07
3K107CC12
3K107DD53
3K107DD57
3K107DD59
3K107DD71
3K107DD74
3K107DD78
3K107DD84
3K107GG28
(57)【要約】
【課題】発光効率が高く、色純度の高い光を発することが可能な量子ドット電界発光素子を提供する。
【解決手段】陰極120と、金属酸化物からなる電子輸送層130と、有機材料からなる中間層140と、量子ドットを含む発光層150と、陽極180と、をこの順に具え、前記電子輸送層130が、フッ素処理されていることを特徴とする、量子ドット電界発光素子100である。前記中間層140を構成する有機材料は、ピリジン環を含むことが好ましい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
陰極と、金属酸化物からなる電子輸送層と、有機材料からなる中間層と、量子ドットを含む発光層と、陽極と、をこの順に具え、
前記電子輸送層が、フッ素処理されていることを特徴とする、量子ドット電界発光素子。
【請求項2】
前記中間層を構成する有機材料が、ピリジン環を含む、請求項1に記載の量子ドット電界発光素子。
【請求項3】
前記中間層を構成する有機材料が、トリアジン骨格を有する、請求項1に記載の量子ドット電界発光素子。
【請求項4】
前記発光層が、更に有機材料を含む、請求項1に記載の量子ドット電界発光素子。
【請求項5】
前記発光層が含む有機材料は、最高被占有分子軌道(HOMO)準位が5.5eV以下である、請求項4に記載の量子ドット電界発光素子。
【請求項6】
前記発光層が含む有機材料は、最低空分子軌道(LUMO)準位が3.1eV以下である、請求項5に記載の量子ドット電界発光素子。
【請求項7】
前記発光層が含む有機材料は、下記構造式:
【化1】
で表されるDIC-TRZである、請求項6に記載の量子ドット電界発光素子。
【請求項8】
陰極を形成する工程と、
金属酸化物からなる電子輸送層を形成する工程と、
前記電子輸送層をフッ素処理する工程と、
有機材料からなる中間層を形成する工程と、
量子ドットを含む発光層を形成する工程と、
陽極を形成する工程と、をこの順に含むことを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の量子ドット電界発光素子の製造方法。
【請求項9】
前記電子輸送層をフッ素処理する工程において、当該電子輸送層を、フッ素源の雰囲気下で、酸素プラズマ処理する、請求項8に記載の量子ドット電界発光素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、量子ドット電界発光素子及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ディスプレーの色再現性を高めるため、近年、高色純度発光を示す量子ドット電界発光素子が注目されている。量子ドットは、粒径数nm程度の粒子であり、伝導帯から価電子帯への電子遷移に伴う発光(バンド端発光)を示す。量子ドットは、粒径によって発光色が大きく変化し、粒径が小さい程、より短波長で発光する。一般的に、有機材料は、基底状態と励起状態の構造の差が大きいため、発光スペクトルの線幅が大きいのに対し、量子ドットは、基底状態と励起状態の構造差が小さいため、狭い半値幅の発光を示す。そのため、原理上、有機電界発光素子に比べて、量子ドット電界発光素子は、より色純度の高い発光を示す。
しかしながら、量子ドットの粒子内や表面に欠陥が存在すると、バンド端発光に加えて、欠陥由来の発光が異なる波長で発せられるため、色純度が低下してしまう。また、欠陥上での熱失活も起こるため、発光効率が大きく低下してしまう。更に、量子ドットを含む発光層に隣接するキャリア輸送層に構造欠陥があった場合も、量子ドットを含む発光層/キャリア輸送層界面での副次発光や熱失活が起こるため、同様の問題が起こる。そのため、量子ドット電界発光素子において、高効率の高色純度発光を得るためには、量子ドットとキャリア輸送材料の構造欠陥密度を十分に低下させる必要がある。
【0003】
これに対して、量子ドットの構造欠陥由来の発光や熱失活を抑制するために、量子ドットの表面をシェルで覆ったコアシェル型の量子ドットが広く利用されている(非特許文献1)。該コアシェル型量子ドットにおいては、発光する量子ドットのコアをよりエネルギーギャップの大きいシェルで覆うことで、量子ドット内で生成した励起子をコア内に閉じ込められるため、量子ドット表面の欠陥由来の失活を抑制することができ、高効率な高色純度発光を得ることができる。
しかしながら、量子ドット表面の欠陥を完全に無くすことは困難であり、現在の技術では、ある程度の副次発光成分の発生や励起子の熱失活は免れ得ない。また、近年注目されているペロブスカイト量子ドット電界発光素子は、ペロブスカイト量子ドットがシェル構造を持たないため、代替手段が必要となる(非特許文献2)。
【0004】
一方、逆構造の量子ドット電界発光素子の電子輸送層には、酸化亜鉛(ZnO)が広く用いられているが、構造欠陥が生じ易いといった問題がある。そこで最近、マグネシウムをドープした酸化亜鉛(ZnMgO)が広く用いられるようになっている(非特許文献3)。該ZnMgOを電子輸送層に用いると、ZnOを利用した場合に比べて、バンドギャップが広がるため、構造欠陥の影響を受け難くなり、発光効率が改善する。
しかしながら、電子輸送層にZnMgOを用いても、欠陥の影響を完全に無くすことは、依然として困難である。
【0005】
また、昨今、低環境負荷社会の実現のため、ディスプレーの低消費電力化も望まれている。上述のような電界発光素子において、消費電力を下げるためには、駆動電圧を下げることが有効であり、素子の駆動電圧を下げるために、様々な研究が進められている。かかる研究の中でも、最近、従来の理論限界よりも低い電圧で発光する電界発光素子が注目されている。例えば、下記非特許文献4及び5では、有機電界発光素子において、界面での三重項-三重項消滅を用いたアップコンバージョンを利用することで、超低駆動電圧を実現している。また、下記非特許文献6では、発光層内の再結合で得たエネルギーを電荷キャリアに受け渡すことで、超低電圧で駆動する有機電界発光素子、量子ドット電界発光素子、LED素子を実現している。また、下記非特許文献7では、界面でのAuger再結合のエネルギーを用いたアップコンバージョンにより、超低電圧で発光する緑色発光ペロブスカイト量子ドット電界発光素子を実現しており、該量子ドットのバンドギャップは2.3eVであるのに対し、それを下回る1.7Vでの発光を観測している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】B. O. Dabbousi et al., “(CdSe)ZnS Core-Shell Quantum Dots: Synthesis and Characterization of a Size Series of Highly Luminescent Nanocrystallites”, Journal of Physical Chemistry B, 1997, 101, 9463-9475
【非特許文献2】Cunlong Li et al., “Highly pure green light emission of perovskite CsPbBr3 quantum dots and their application for green light-emitting diodes”, Optics Express, 2016, 24, 15071-15078
【非特許文献3】Di Zhang et al., “3-4: Highly Efficient Green Top-Emission Light-Emitting Diodes Based on Indium-Phosphide Quantum Dots”, SID 2022 DIGEST, 2022, 53, 9-11
【非特許文献4】“Efficient Interfacial Upconversion Enabling Bright Emission at an Extremely Low Driving Voltage in Organic Light-Emitting Diodes”,Advanced Optical Materials, vol. 10, 2101710 (2022)
【非特許文献5】“Blue organic light-emitting diode with a turn-on voltage of 1.47 V”,Nature Communications, vol. 14, 5494 (2023)
【非特許文献6】“Ultralow-voltage operation of light-emitting diodes”,Nature Communications, vol. 13, 3845 (2022)
【非特許文献7】“Pure Formamidinium-Based Perovskite Light-Emitting Diodes with High Efficiency and Low Driving Voltage”,Advanced Materials, vol. 23, 1603826 (2017)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように、既存の方法では、量子ドットやキャリア輸送層の構造欠陥に起因する副次発光成分の発生や発光効率の低下を十分に抑制できていない。
また、上述のように、電界発光素子において、アップコンバージョンを利用することで、バンドギャップ以下での発光が可能となるが、電界発光素子の中でも、量子ドット電界発光素子において実現できている発光開始電圧は依然として高く、更なる低電圧での発光の実現が望まれている。
【0008】
そこで、本発明は、これらの問題点を鑑みて、量子ドットやキャリア輸送層の構造欠陥の影響を抑制し、発光効率が高く、色純度の高い光を発することが可能な量子ドット電界発光素子を提供することを課題とする。
また、本発明は、低電圧で発光することが可能な量子ドット電界発光素子を提供することを更なる課題とする。
更に、本発明は、かかる量子ドット電界発光素子の製造方法を提供することを更なる課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明の量子ドット電界発光素子及びその製造方法の要旨構成は、以下の通りである。
【0010】
[1] 陰極と、金属酸化物からなる電子輸送層と、有機材料からなる中間層と、量子ドットを含む発光層と、陽極と、をこの順に具え、
前記電子輸送層が、フッ素処理されていることを特徴とする、量子ドット電界発光素子。
上記[1]に記載の本発明の量子ドット電界発光素子は、発光効率が高く、色純度の高い光を発することができる。また、上記[1]に記載の量子ドット電界発光素子は、低電圧で発光することも可能である。
【0011】
[2] 前記中間層を構成する有機材料が、ピリジン環を含む、[1]に記載の量子ドット電界発光素子。
上記[2]に記載の量子ドット電界発光素子は、発光効率が更に高く、色純度の更に高い光を発することができる。また、上記[2]に記載の量子ドット電界発光素子は、より低電圧で発光することが可能である。
【0012】
[3] 前記中間層を構成する有機材料が、トリアジン骨格を有する、[1]又は[2]に記載の量子ドット電界発光素子。
上記[3]に記載の量子ドット電界発光素子は、発光効率が更に高く、色純度の更に高い光を発することができる。また、上記[3]に記載の量子ドット電界発光素子は、より低電圧で発光することが可能である。
【0013】
[4] 前記発光層が、更に有機材料を含む、[1]~[3]のいずれか一つに記載の量子ドット電界発光素子。
上記[4]に記載の量子ドット電界発光素子は、より低電圧で発光することが可能である。
【0014】
[5] 前記発光層が含む有機材料は、最高被占有分子軌道(HOMO)準位が5.5eV以下である、[4]に記載の量子ドット電界発光素子。
上記[5]に記載の量子ドット電界発光素子は、更に低電圧での発光が可能である。
【0015】
[6] 前記発光層が含む有機材料は、最低空分子軌道(LUMO)準位が3.1eV以下である、[4]又は[5]に記載の量子ドット電界発光素子。
上記[6]に記載の量子ドット電界発光素子も、更に低電圧での発光が可能である。
【0016】
[7] 前記発光層が含む有機材料は、下記構造式:
【化1】
で表されるDIC-TRZである、[4]~[6]のいずれか一つに記載の量子ドット電界発光素子。
上記[7]に記載の量子ドット電界発光素子は、より一層低電圧での発光が可能である。
【0017】
[8] 陰極を形成する工程と、
金属酸化物からなる電子輸送層を形成する工程と、
前記電子輸送層をフッ素処理する工程と、
有機材料からなる中間層を形成する工程と、
量子ドットを含む発光層を形成する工程と、
陽極を形成する工程と、をこの順に含むことを特徴とする、[1]~[7]のいずれか一つに記載の量子ドット電界発光素子の製造方法。
上記[8]に記載の本発明の量子ドット電界発光素子の製造方法によれば、発光効率が高く、色純度の高い光を発することが可能な量子ドット電界発光素子が得られる。
【0018】
[9] 前記電子輸送層をフッ素処理する工程において、当該電子輸送層を、フッ素源の雰囲気下で、酸素プラズマ処理する、[8]に記載の量子ドット電界発光素子の製造方法。
上記[9]に記載の量子ドット電界発光素子の製造方法によれば、発光効率が更に高く、色純度の更に高い光を発することが可能な量子ドット電界発光素子が得られる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、発光効率が高く、色純度の高い光を発することが可能な量子ドット電界発光素子を提供することができる。
また、本発明によれば、低電圧で発光することが可能な量子ドット電界発光素子を提供することができる。
また、本発明によれば、かかる量子ドット電界発光素子の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の量子ドット電界発光素子の構造の一例を示した概略図である。
図2】従来の量子ドット電界発光素子の一例の発光スキームである。
図3】従来の量子ドット電界発光素子の一例のELスペクトルを示す。
図4】本発明の量子ドット電界発光素子の一例の発光スキームである。
図5】本発明の量子ドット電界発光素子の一例のELスペクトルを示す。
図6】量子ドットと有機材料を含む発光層を具える、量子ドット電界発光素子の一例の発光スキームである。
図7】量子ドットと有機材料を含む発光層を具える、量子ドット電界発光素子の一例のELスペクトルを示す。
図8】サンプル(1)、(2)、(3)に対するXPS分析で得られたF1sスペクトルを示す。
図9】サンプル(1)に対するXPS分析で得られたO1sスペクトルと、O1、O2、O3成分に分解した時のフィッティング結果を示す。
図10】サンプル(2)に対するXPS分析で得られたO1sスペクトルと、O1、O2、O3成分に分解した時のフィッティング結果を示す。
図11】サンプル(3)に対するXPS分析で得られたO1sスペクトルと、O1、O2、O3成分に分解した時のフィッティング結果を示す。
図12】比較例1~5の量子ドット電界発光素子のELスペクトルを示す。
図13】実施例1~3の量子ドット電界発光素子のELスペクトルを示す。
図14】実施例4~6の量子ドット電界発光素子の電流密度-電圧特性を示す。
図15】実施例4~6の量子ドット電界発光素子の輝度-電圧特性を示す。
図16】実施例4~6の量子ドット電界発光素子の外部量子効率-電流密度特性を示す。
図17】実施例4~6の量子ドット電界発光素子のELスペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明の量子ドット電界発光素子及びその製造方法を、その実施形態に基づき、詳細に例示説明する。
【0022】
<量子ドット電界発光素子>
本実施形態の量子ドット電界発光素子は、陰極と、金属酸化物からなる電子輸送層と、有機材料からなる中間層と、量子ドットを含む発光層と、陽極と、をこの順に具える。そして、本実施形態の量子ドット電界発光素子においては、前記電子輸送層が、フッ素処理されていることを特徴とする。
【0023】
本実施形態の量子ドット電界発光素子は、陰極と発光層との間に、金属酸化物からなる電子輸送層を具える。一般に、金属酸化物からなる電子輸送層には、雰囲気中の水が結合して、一定の割合で、表面に金属水酸化物(例えば、金属酸化物がZnOの場合は、ZnOH)が存在し、該金属水酸化物にキャリアがトラップされてしまうため、発光層でのキャリアの再結合が阻害され、また、発光層以外での再結合による副発光成分が生じる原因となる。
これに対して、本実施形態の量子ドット電界発光素子においては、金属酸化物からなる電子輸送層をフッ素処理しておくことで(例えば、金属酸化物がZnOの場合は、ZnOFとしておくことで)、金属水酸化物の生成を抑制する。フッ素処理された金属酸化物(例えば、ZnOF等)は、キャリアをトラップしないため、発光層でキャリアの再結合が十分に行われ、高効率な発光と、副発光成分の抑制とが可能になる。
更に、本実施形態の量子ドット電界発光素子においては、金属酸化物からなる電子輸送層と発光層との間に、有機材料からなる中間層を設けて、電子輸送層と発光層との間に間隔を空けることで、金属酸化物からなる電子輸送層に僅かに残留する欠陥の影響を小さくすることができる。
従って、本実施形態の量子ドット電界発光素子は、発光効率が高く、色純度の高い光を発することができる。
【0024】
次に、本発明の量子ドット電界発光素子の一態様を、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0025】
図1は、本発明の量子ドット電界発光素子の構造の一例を示した概略図である。図1に示す量子ドット電界発光素子100は、基板110上に、陰極120、金属酸化物からなる電子輸送層130、有機材料からなる中間層140、量子ドットを含む発光層150、正孔輸送層160、正孔注入層170及び陽極180を、この順に積層した構成を有する。また、基板110上に設けられた陰極120、電子輸送層130、中間層140、発光層150、正孔輸送層160、正孔注入層170及び陽極180は、封止構造190により封止されている。
【0026】
なお、図1に示す量子ドット電界発光素子100は、下部に配置した陰極120側より電子を注入し、上部に配置した陽極180より正孔を注入する構成となっているが、本発明の量子ドット電界発光素子は、これに限定されるものではなく、上下を逆転した構造であってもよい。
【0027】
また、上述した正孔輸送層160、正孔注入層170は、それぞれ1層ずつでもよいし、それぞれの層が複数の役割を受け持つ構造となっていてもよい。例えば、一つの層で、正孔注入層と正孔輸送層を兼用したりすることも可能である。また、陰極120、電子輸送層130、中間層140、発光層150、正孔輸送層160、正孔注入層170、陽極180の各層の間に、他の層を有する構造となっていてもよい。
【0028】
(基板)
前記基板110は、当該基板110側より光を取り出すボトムエミッション型素子の場合は、透明な材料からなることが好ましい。かかる透明な材料としては、ガラス、石英、プラスチックフィルム等を例示することができる。ここで、プラスチックフィルムの材質としては、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレン、シクロオレフィンポリマー、ポリアミド、ポリエーテルサルフォン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリアリレート等が挙げられる。
一方、上部電極側から光を取り出すトップエミッション型素子の場合には、基板110の材料は、必ずしも透明な材料である必要はない。基板110として、不透明基板を用いる場合、該不透明基板としては、例えば、着色したプラスチックフィルム基板、アルミナのようなセラミックス材料からなる基板、ステンレス鋼のような金属板の表面に酸化膜(絶縁膜)を形成した基板等が挙げられる。
また、基板110として、例えば、プラスチックフィルム等の可撓性基板を用い、その上に量子ドット電界発光素子を形成した場合には、画像表示部を容易に変形することのできるフレキシブル量子ドット電界発光素子とすることができる。
【0029】
前記基板110の平均厚さは、特に限定されるものではないが、0.001~30mmが好ましく、0.01~1mmがより好ましい。
【0030】
(陰極)
前記陰極120は、基板110側より光を取り出すボトムエミッション型素子の場合は、透明で導電性の高い材料からなることが好ましい。この場合、陰極120としては、例えば、インジウム-錫-酸化物(ITO)、インジウム-亜鉛-酸化物(IZO)等の導電性透明酸化物を用いることができる。
一方、上部電極側から光を取り出すトップエミッション型素子の場合には、陰極120の材料は、必ずしも透明な材料である必要はないため、陰極120として、金属電極を用いてもよい。ここで、陰極120の材料としては、仕事関数が比較的小さい金属が好ましい。仕事関数の小さい金属を用いることにより、陰極120から有機層への電子注入障壁を低くすることができ、電子を注入させ易くすることができる。陰極120に用いる金属としては、例えば、Al、Mg、Ca、Ba、Li、Na等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0031】
前記陰極120の平均厚さは、特に限定されるものではないが、10~500nmが好ましく、50~200nmが更に好ましい。
【0032】
(電子輸送層)
前記電子輸送層130は、陰極120からの電子の注入と輸送を容易にする目的で用いる。該電子輸送層130は、金属酸化物からなり、電子輸送層130の材料として、より具体的には、酸化亜鉛(ZnO)、酸化チタン(TiO)、酸化ケイ素(SiO)、酸化スズ(SnO)、酸化タングステン(WO)、酸化タンタル(Ta)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化ハフニウム(HfO)、酸化アルミニウム(Al)、酸化ガリウム(Ga)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化リチウム(LiO)、酸化イットリウム(Y)、マグネシウムを添加した酸化亜鉛(ZnMgO)、アルミニウムを添加した酸化亜鉛(ZnAlO)、リチウムを添加した酸化亜鉛(ZnLiO)、イットリウムを添加した酸化亜鉛(ZnYO)、ガリウムを添加した酸化亜鉛(ZnGaO)等が好ましく、これらの中でも、電子注入性及び電子輸送性の観点から、酸化亜鉛、酸化チタン、マグネシウムを添加した酸化亜鉛、アルミニウムを添加した酸化亜鉛、リチウムを添加した酸化亜鉛、イットリウムを添加した酸化亜鉛、ガリウムを添加した酸化亜鉛が更に好ましく、酸化亜鉛及びマグネシウムを添加した酸化亜鉛が特に好ましい。
【0033】
前記電子輸送層130の形成には、ナノ粒子を用いることが好ましい。該ナノ粒子の粒径は、1nm~100nmが好ましく、1nm~10nmが更に好ましく、1nm~5nmがより一層好ましい。好ましくは、酸化亜鉛ナノ粒子等の金属酸化物のナノ粒子をスピンコート法によって成膜した薄膜を、電子輸送層130として用いることができる。
【0034】
前記電子輸送層130は、フッ素処理されていることを特徴とする。ここで、フッ素処理に用いるフッ素源としては、特に限定されず、例えば、フッ化炭素等が挙げられる。また、フッ素処理の方法としては、特に限定されるものではないが、酸素プラズマ処理が好ましい。該酸素プラズマ処理については、後述の製造方法の項で詳述する。電子輸送層130がフッ素処理されていることで、電子輸送層130を構成する金属酸化物が雰囲気中の水と結合して金属水酸化物となるのを抑制でき、発光層150でのキャリアの再結合が十分に行われ、高効率な発光と、副発光成分の抑制とが可能になる。XPS(X線光電子分光)分析で測定した、電子輸送層130におけるフッ素導入量(フッ素含有量)は、5原子%以上が好ましく、また、20原子%以下が好ましい。
【0035】
前記電子輸送層130の平均厚さは、特に限定されるものではないが、5~200nmが好ましく、10~100nmが更に好ましい。
【0036】
(中間層)
前記中間層140は、有機材料からなる。電子輸送層130と発光層150との間に、有機材料からなる中間層140を設けて、電子輸送層130と発光層150との間に間隔を空けることで、電子輸送層130に僅かに残留する欠陥の影響を小さくすることができる。また、該中間層140として、適切な最低空分子軌道(LUMO)レベルを有する有機材料を用いると、電子輸送層130から中間層140への電子注入障壁が緩和され、中間層140から発光層150への電子注入障壁が緩和される。また、中間層140に用いられる有機材料が適切な最高被占有分子軌道(HOMO)レベルを有する場合、発光層150で再結合せずに対極へ流出する正孔が阻止される。その結果、発光層150内に正孔が閉じ込められて、発光層150内での再結合効率が高められる。
【0037】
また、電子輸送層130と発光層150との間に、有機材料からなる中間層140を設けることで、低電圧で発光することが可能になる。これは、Auger再結合が起こる界面での電荷蓄積と、消光の抑制により、Auger再結合を用いたアップコンバージョンが効率的に行われることに起因する。
以下、図面を参照しながら、電子輸送層と発光層との間に、有機材料からなる中間層を設けることで、低電圧発光が可能になるメカニズムを詳細に説明する。
【0038】
まず、比較として、図2に、本発明に従わない、従来の量子ドット電界発光素子(即ち、Auger再結合を用いたアップコンバージョンが効率良く起こらない場合)の一例の発光スキームを示す。図2に示す従来の量子ドット電界発光素子の構成は、ITO(陰極)/酸化亜鉛(電子輸送層)/ペロブスカイト量子ドット(発光層)/正孔輸送層/酸化モリブデン(正孔注入層)/アルミニウム(陽極)である。陰極から素子内部に電子が注入され、また、陽極から正孔が注入されて、電子輸送層/発光層の界面において、電子と正孔が再結合する。再結合により得られたエネルギーは、赤外光の形で放射される。
【0039】
図3(a)及び(b)に、従来の量子ドット電界発光素子で得られる電界発光(EL)スペクトルを示す。図3(a)は、従来の量子ドット電界発光素子の380nmから775nmまでの波長域のELスペクトルであり、図3(b)は、従来の量子ドット電界発光素子の600nmから1030nmまでの波長域のELスペクトルである。波長531nmのペロブスカイト量子ドット由来の発光に加えて、650nmよりも長波長側に界面再結合による赤外輻射が観測される。
【0040】
次に、図4に、本発明に従う量子ドット電界発光素子(即ち、Auger再結合を用いたアップコンバージョンが効率良く起こる場合)の一例の発光スキームを示す。図4に示す本発明に従う量子ドット電界発光素子の構成は、ITO(陰極)/フッ素処理した(より具体的には、フッ素雰囲気下でプラズマ処理した)酸化亜鉛(電子輸送層)/TmPPPyTz(有機材料からなる中間層、構造式は、以下に掲載する。)/ペロブスカイト量子ドット(発光層)/正孔輸送層/酸化モリブデン(正孔注入層)/アルミニウム(陽極)である。陰極から素子内部に電子が注入され、また、陽極から正孔が注入されて、フッ素処理した電子輸送層/有機材料からなる中間層/量子ドットを含む発光層の界面に電子と正孔が蓄積して、Auger再結合する。ここで、有機材料からなる中間層は、十分に薄いため、電子と正孔のAuger再結合が起こる。該電子と正孔のAuger再結合により得られたエネルギーは、上記界面において蓄積した電子に吸収されて、高エネルギー状態の電子が生成する。生成した高エネルギー状態の電子は、フッ素処理した電子輸送層と量子ドットを含む発光層との間の電子注入障壁を乗り越えて、量子ドットを含む発光層に注入される。電子注入障壁を乗り越えて発光層に注入された電子と、量子ドットを含む発光層に注入された正孔とが、再結合して、発光に至る。通常は、上記電子注入障壁を乗り越えるための電圧印加が必要であるが、本発明に従う量子ドット電界発光素子の発光メカニズムでは、Auger再結合により得たエネルギーを利用できるため、低電圧での発光が可能となる。
【0041】
図5に、本発明に従う量子ドット電界発光素子で得られる電界発光(EL)スペクトルを示す。図3(a)とは異なり、波長531nmのペロブスカイト量子ドット由来の発光のみが観測され、界面でのAuger再結合によるエネルギーが効率よく量子ドットを含む発光層での発光に利用されている事を示している。
【0042】
前記中間層140を構成する有機材料としては、例えば、下記構造式:
【化2】
で表される3TPyMB、TmPPyTz、TmPPPyTzや、トリス-1,3,5-(3’-(ピリジン-3”-イル)フェニル)ベンゼン(TmPyPB)等のピリジン誘導体、(2-(3-(9-カルバゾリル)フェニル)キノリン(mCQ))等のキノリン誘導体、2-フェニル-4,6-ビス(3,5-ジピリジルフェニル)ピリミジン(BPyPPM)等のピリミジン誘導体、ピラジン誘導体、バソフェナントロリン(BPhen)等のフェナントロリン誘導体、2,4-ビス(4-ビフェニル)-6-(4’-(2-ピリジニル)-4-ビフェニル)-[1,3,5]トリアジン(MPT)等のトリアジン誘導体、3-フェニル-4-(1’-ナフチル)-5-フェニル-1,2,4-トリアゾール(TAZ)等のトリアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、2-(4-ビフェニリル)-5-(4-tert-ブチルフェニル-1,3,4-オキサジアゾール)(PBD)等のオキサジアゾール誘導体、2,2’,2”-(1,3,5-ベントリイル)-トリス(1-フェニル-1-H-ベンズイミダゾール)(TPBi)等のイミダゾール誘導体、ナフタレン、ペリレン等の芳香環テトラカルボン酸無水物、ビス[2-(2’-ヒドロキシフェニル)ピリジン]ベリリウム(Bepp)、トリス(8-ヒドロキシキノリナト)アルミニウム(Alq)等に代表される各種金属錯体、2,5-ビス(6’-(2’,2”-ビピリジル))-1,1-ジメチル-3,4-ジフェニルシロール(PyPySPyPy)等のシロール誘導体に代表される有機シラン誘導体、ホウ素含有化合物等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0043】
前記中間層140を構成する有機材料は、ピリジン環を含むことが好ましい。かかるピリジン環を含む有機材料としては、上述の3TPyMB、TmPPyTz、TmPPPyTz、トリス-1,3,5-(3’-(ピリジン-3”-イル)フェニル)ベンゼン(TmPyPB)等のピリジン誘導体が挙げられる。ピリジン環を含む有機材料は、配位能力を有し、例えば、中間層140の上に発光層150を設けた場合において、量子ドット表面の構造欠陥を埋める役割を果たす。そのため、中間層140にピリジン環を含む有機材料を用いることで、金属酸化物からなる電子輸送層に僅かに残留する欠陥の影響と、量子ドット表面の構造欠陥の影響と、の両方を小さくすることができ、発光効率が更に高くなり、また、副発光成分を更に抑制できるため、色純度の更に高い光を発することが可能になる。また、中間層140にピリジン環を含む有機材料を用いることで、電子と正孔のAuger再結合が更に起こり易くなり、Auger再結合を用いたアップコンバージョンがより効率良く起こり、より低電圧での発光が可能となる。
【0044】
前記中間層140を構成する有機材料は、トリアジン骨格を有することが好ましい。かかるトリアジン骨格を有する有機材料としては、上述のTmPPyTz、TmPPPyTz、2,4-ビス(4-ビフェニル)-6-(4’-(2-ピリジニル)-4-ビフェニル)-[1,3,5]トリアジン(MPT)等のトリアジン誘導体が挙げられる。トリアジン骨格を有する有機材料も、配位能力を有し、例えば、中間層140の上に発光層150を設けた場合において、量子ドット表面の構造欠陥を埋める役割を果たす。そのため、中間層140にトリアジン骨格を有する有機材料を用いることで、金属酸化物からなる電子輸送層に僅かに残留する欠陥の影響と、量子ドット表面の構造欠陥の影響と、の両方を小さくすることができ、発光効率が更に高くなり、また、副発光成分を更に抑制できるため、色純度の更に高い光を発することが可能になる。また、中間層140にトリアジン骨格を有する有機材料を用いることで、電子と正孔のAuger再結合が更に起こり易くなり、Auger再結合を用いたアップコンバージョンがより効率良く起こり、より低電圧での発光が可能となる。
【0045】
前記中間層140を構成する有機材料は、ピリジン環を含み且つトリアジン骨格を有することが更に好ましい。かかるピリジン環を含み且つトリアジン骨格を有する有機材料としては、上述のTmPPyTz、TmPPPyTz、2,4-ビス(4-ビフェニル)-6-(4’-(2-ピリジニル)-4-ビフェニル)-[1,3,5]トリアジン(MPT)等が挙げられる。ピリジン環を含み且つトリアジン骨格を有する有機材料は、配位能力が高く、例えば、中間層140の上に発光層150を設けた場合において、量子ドット表面の構造欠陥を埋める効果が高い。そのため、中間層140にピリジン環を含み且つトリアジン骨格を有する有機材料を用いることで、金属酸化物からなる電子輸送層に僅かに残留する欠陥の影響と、量子ドット表面の構造欠陥の影響と、の両方をより一層小さくすることができ、より一層高効率な発光と、副発光成分のより一層の抑制とが可能になる。また、中間層140にピリジン環を含み且つトリアジン骨格を有する有機材料を用いることで、電子と正孔のAuger再結合がより一層起こり易くなり、Auger再結合を用いたアップコンバージョンがより一層効率良く起こり、より一層低電圧での発光が可能となる。
【0046】
前記中間層140の平均厚さは、特に限定されるものではないが、5~200nmが好ましく、10~100nmが更に好ましい。
【0047】
(発光層)
前記発光層150は、量子ドットを含む。なお、発光層150は、必要に応じて、更に有機材料を含んでもよいし、量子ドットのみから形成されていてもよい。
【0048】
前記発光層150では、陽極180から注入された正孔と陰極120から注入された電子とが再結合し、量子ドットからの発光が得られる。発光層150の発光色は、発光層150に含まれる量子ドットの結晶粒径や種類(材質)によって変化させることができる。ここで、量子ドットの結晶粒径は、所望の発光色に応じて選択でき、例えば、1~10nmが好ましい。
【0049】
前記量子ドットとしては、ペロブスカイト量子ドットや、コアシェル型量子ドットが好ましい。
【0050】
前記ペロブスカイト量子ドットとしては、CsPbBrペロブスカイト量子ドットが好ましい。また、CsPbBrのCsの一部をホルムアミジニウム(FA)イオンで交換したFACsPbBrも好ましい。ここで、CsとFAとの交換比率は、特に限定されない。
【0051】
前記コアシェル型量子ドットは、半導体微粒子からなるコアと呼ばれる中心部分と、コアの周りを取り囲むようにシェルと呼ばれる一層または複数層の半導体層と、シェルの表面を覆うリガンドと呼ばれる有機物と、を有することが好ましい。
【0052】
前記量子ドットのコア部分を構成する半導体の例としては、II-VI族の化合物、II-V族の化合物、III-VI族の化合物、III-V族の化合物、IV-VI族の化合物、I-III-VI族の化合物、II-IV-VI族の化合物、及びII-IV-V族の化合物、例えば、ZnS、ZnSe、ZnTe、ZnSeTe、CdS、CdSe、CdTe、InN、InP、InAs、InSb、CuInS等が挙げられる。これらの中でも、量子ドットのコアとしては、合成の容易さ、所望の波長の発光を得るための粒径及び/又は粒径分布の制御のし易さ、発光の量子収率の観点から、CdSe、CdS、InP、ZnSe、ZnTe、ZnSeTeが好ましい。なお、コア部分を構成する半導体において、各元素の比率は、化学量論的であってもよいし、化学量論的でなくてもよい。
【0053】
前記量子ドットのシェル部分を構成する半導体も、コア部分を構成する半導体と同様の組成の半導体を用いることができる。量子ドットのシェルは、被覆するコアに用いられる半導体に応じて選択することが好ましく、シェルとしては、コアよりも大きなバンドギャップを有する半導体を用いることが好ましい。この場合、コアの励起エネルギーが、シェルによって効率よくコア内に閉じ込められる。具体的には、例えば、コアがCdSe、CdS、InPからなる場合、シェルには、より大きなバンドギャップを有するZnS、ZnSeを用いることが好ましい。なお、シェル部分を構成する半導体において、各元素の比率は、化学量論的であってもよいし、化学量論的でなくてもよい。
【0054】
前記量子ドットにおいては、半導体表面を安定化すると共に、半導体微粒子の凝集を抑制するため、半導体微粒子表面をリガンドとよばれる有機配位子によりキャッピングを行うことが好ましい。キャッピングするためのリガンド部分に親油性の長鎖アルキル基等が含まれると有機溶剤に対しての溶解性が向上し、量子ドットを有機溶媒に溶解させた量子ドット溶液を調製することができる。前記リガンド(有機配位子)としては、炭化水素基の結合したアミン、炭化水素基の結合したカルボン酸、炭化水素基の結合したホスフィン、炭化水素基の結合した酸化ホスフィン、炭化水素基の結合したチオール等が挙げられる。前記炭化水素基は、親油性の鎖状炭化水素基であることが好ましい。親油性の鎖状炭化水素基の結合したアミンとしては、ヘキサデシルアミン、オレイルアミン等が挙げられる。親油性の鎖状炭化水素基の結合したカルボン酸としては、オレイン酸等が挙げられる。親油性の鎖状炭化水素基の結合したホスフィンとしては、トリオクチルホスフィン等が挙げられる。親油性の鎖状炭化水素基の結合した酸化ホスフィンとしては、トリ-n-オクチルホスフィンオキシド等が挙げられる。親油性の鎖状炭化水素基の結合したチオールとしては、ドデカンチオール等が挙げられる。
【0055】
前記発光層150は、上述の量子ドットと共に、更に有機材料を含んでもよい。発光層150が量子ドットと有機材料を含むことで、量子ドットの凝集による消光を抑制することができる。ここで、該有機材料としては、電子輸送材料(即ち、電子輸送性を有する有機材料)が好ましい。該電子輸送材料は、陰極120側から発光層150に注入される電子の流れを妨げず、且つ、陽極180側から発光層150に注入される正孔を陰極120側へと通過させない作用(即ち、発光層150から流れ出る正孔電流をブロックする作用)を有するため、漏れ電流を抑制でき、また、発光層150内で、陰極120から注入された電子と、陽極180から注入された正孔と、を効率的に再結合させることができる。発光層150が電子輸送材料を含むことで、該電子輸送材料を介して量子ドットに電荷が注入され、結晶欠陥の発光への影響を抑えることができ、ELスペクトルに見られる欠陥発光を抑制できる。前記電子輸送材料は、例えば、前記量子ドットと混合され、発光層150において、量子ドットの隙間を埋める形で存在することが好ましい。該電子輸送材料は、量子ドットと混合して使用する場合は、量子ドットの分散液に溶解する材料であることが好ましい。
【0056】
なお、従来、量子ドット(特には、ペロブスカイト量子ドット)の薄膜に有機材料(特には、有機芳香族化合物)を混合することは難しかったが、第84回応用物理学会秋季学術講演会予稿集,20p-A307-4,「芳香族配位子置換したFA/CsPbBrナノ結晶の開発と高性能LED」に記載の技術を使うことで、量子ドットの薄膜に有機材料を混合することが容易となる。
【0057】
また、前記発光層150が量子ドットと有機材料を含むことで、より低電圧で発光することが可能になる。以下、図面を参照しながら、発光層に量子ドットと有機材料を含ませることにより、低電圧発光が可能になるメカニズムを詳細に説明する。
【0058】
図6に、量子ドットと有機材料を含む発光層を具える、量子ドット電界発光素子の一例の発光スキームを示す。図6に示す量子ドット電界発光素子の構成は、陰極/フッ素処理した(より具体的には、フッ素雰囲気下でプラズマ処理した)酸化亜鉛(電子輸送層)/TmPPPyTz(有機材料からなる中間層)/ペロブスカイト量子ドットとDIC-TRZ(有機材料)を含む発光層/TCTA(正孔輸送層、構造式は、後述の「正孔輸送層」の項に掲載する。)/正孔注入層/陽極である。各層に用いた材料のエネルギー準位を表1に示す。
【0059】
【表1】
【0060】
発光層に用いたDIC-TRZ(有機材料)は、ペロブスカイト量子ドットよりも低いイオン化ポテンシャルと電子親和力を有する。そのため、正孔輸送層(TCTA)からの正孔注入がより容易となり、低電圧で正孔を注入することができる。注入された正孔は、フッ素処理した電子輸送層(酸化亜鉛)の界面まで移動し、界面再結合して得たエネルギーを界面に蓄積した電子が吸収して高エネルギー状態となる。高エネルギー状態の電子は、DIC-TRZ(有機材料)に注入され、DIC-TRZ(有機材料)に注入された正孔と再結合して、励起状態となる。この励起状態からペロブスカイト量子ドットにエネルギー移動して、発光に至る。本実施形態では、正孔注入に必要な電圧が低下するため、低電圧での発光が可能となる。
【0061】
図7に、量子ドットと有機材料を含む発光層を具える、量子ドット電界発光素子の一例で得られる電界発光(EL)スペクトルを示す。ペロブスカイト量子ドット由来の発光のみが観測され、また、本実施形態の量子ドット電界発光素子では、発光層に有機材料(DIC-TRZ)を混合したことにより、キャリアバランスを制御できるため、発光効率を改善することもできる。
【0062】
前記発光層が含む有機材料は、イオン化ポテンシャルが小さいことが好ましく、具体的には、最高被占有分子軌道(HOMO)準位が5.5eV以下であることが好ましく、5.2eV以下であることが更に好ましい。発光層が量子ドットと共にHOMO準位が5.5eV以下の有機材料を含むことで、発光層の有機材料への正孔注入がより容易になり、正孔注入に必要な電圧が更に低下するため、更に低電圧での発光が可能となる。
なお、本明細書において、HOMO準位は、紫外光電子分光法から得られたイオン化ポテンシャルと同義とする。
【0063】
前記発光層が含む有機材料は、電子親和力が小さいことが好ましく、具体的には、最低空分子軌道(LUMO)準位が3.1eV以下であることが好ましく、2.3eV以下であることが好ましい。また、前記発光層が含む有機材料は、HOMO準位が5.5eV以下で且つLUMO準位が3.1eV以下であることが更に好ましい。発光層が量子ドットと共にLUMO準位が3.1eV以下の有機材料を含むことで、発光層の有機材料への電子注入がより容易になり、更に低電圧での発光が可能となる。
なお、本明細書において、LUMO準位は、紫外光電子分光法で得たHOMO準位に光学吸収スペクトルから得られるバンドギャップを加えた電子親和力と同義とする。
【0064】
前記発光層150に任意選択的に用いる有機材料としては、例えば、3TPyMB、TmPPyTz、TmPPPyTz、トリス-1,3,5-(3’-(ピリジン-3”-イル)フェニル)ベンゼン(TmPyPB)等のピリジン誘導体、2-フェニル-4,6-ビス(3,5-ジピリジルフェニル)ピリミジン(BPyPPM)等のピリミジン誘導体、ピラジン誘導体、ピリダジン誘導体、2,4-ジフェニル-6-ビス(12-フェニルインドロ)[2,3-a]カルバゾール-11-イル)-1,3,5-トリアジン(DIC-TRZ)、2,4-ビス(4-ビフェニル)-6-(4’-(2-ピリジニル)-4-ビフェニル)-[1,3,5]トリアジン(MPT)等のトリアジン誘導体、3-フェニル-4-(1’-ナフチル)-5-フェニル-1,2,4-トリアゾール(TAZ)等のトリアゾール誘導体、2,2’,2”-(1,3,5-ベントリイル)-トリス(1-フェニル-1-H-ベンズイミダゾール)(TPBi)等のイミダゾール誘導体、バソフェナントロリン(BPhen)等のフェナントロリン誘導体、オキサゾール誘導体、2-(4-ビフェニリル)-5-(4-tert-ブチルフェニル-1,3,4-オキサジアゾール)(PBD)等のオキサジアゾール誘導体、ベンゾオキサゾール誘導体、2,2’-(パラ-フェニレンジビニレン)-ビスベンゾチアゾール等のベンゾチアゾール誘導体、ベンゾチアジアゾール誘導体、ベンゾイミダゾール誘導体、(2-(3-(9-カルバゾリル)フェニル)キノリン(mCQ))等のキノリン誘導体、イソキノリン誘導体、キノキサリン誘導体等が挙げられる。これらの中でも、前記発光層150が含む有機材料としては、DIC-TRZが好ましい。DIC-TRZは、HOMO準位が5.1eVで且つLUMO準位が2.1eVであり、上述のHOMO準位が5.5eV以下で且つLUMO準位が3.1eV以下との基準を満たし、正孔注入及び電子注入に必要な電圧がより一層低下するため、より一層低電圧での発光が可能となる。
また、前記発光層150が含む有機材料としては、上記の「有機材料からなる中間層140」の項で説明したような、ピリジン環を含む有機材料や、トリアジン骨格を有する有機材料も好ましい。
前記発光層150における有機材料の添加量は、前記量子ドットに対して質量比で0.05~10の範囲が好ましく、0.5~3の範囲が更に好ましい。
また、前記発光層150における有機材料の添加量は、駆動電圧の低減と外部量子効率の向上とを両立する観点からは、前記量子ドットに対して質量比で0.01~1の範囲が好ましく、0.03~0.3の範囲が更に好ましく、0.05~0.1の範囲がより一層好ましい。
【0065】
前記発光層150の成膜方法としては、特に限定されないが、量子ドットを有機溶媒や水に溶解させた溶液を調製し、スピンコート法、インクジェット法、印刷法等によって成膜することができる。このとき、赤、緑、青に発光する材料を微細に塗分けすることで、カラー表示が可能な表示装置の画素とすることができる。
【0066】
前記発光層150の平均厚さは、特に限定されるものではないが、5~200nmが好ましく、10~50nmが更に好ましい。
【0067】
(正孔輸送層)
前記正孔輸送層160は、陽極180から注入した正孔を発光層150まで輸送するために用いる。正孔輸送層160を構成する材料としては、正孔輸送性の有機材料又は無機材料を用いることができる。正孔輸送層160を構成する材料は、好ましくは正孔輸送性の有機材料であり、例えば、下記構造式:
【化3】
で表される4,4’,4”-トリス(カルバゾール-9-イル)トリフェニルアミン(TCTA)、4,4’,4”-トリメチルトリフェニルアミン、4,4’,4”-トリス(N-3-メチルフェニル-N-フェニルアミノ)トリフェニルアミン(m-MTDATA)等のトリフェニルアミン系化合物の他、2,2’-ビス(N-カルバゾイル)-9,9’-スピロビフルオレン(CFL)、4,4’-ビス(カルバゾール-9-イル)ビフェニル(CBP)、N,N,N’,N’-テトラフェニル-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン、N,N’-ジフェニル-N,N’-ビス(3-メチルフェニル)-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン(TPD1)、N,N’-ジフェニル-N,N’-ビス(4-メトキシフェニル)-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン(TPD2)、N,N,N’,N’-テトラキス(4-メトキシフェニル)-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン(TPD3)、N,N’-ジ(1-ナフチル)-N,N’-ジフェニル-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン(α-NPD)等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。これらの中でも、正孔輸送性の観点から、トリフェニルアミン系化合物が好ましく、4,4’,4”-トリス(カルバゾール-9-イル)トリフェニルアミン(TCTA)が特に好ましい。
【0068】
前記正孔輸送層160の平均厚さは、特に限定されるものではないが、10~500nmであることが好ましく、20~100nmが更に好ましい。
【0069】
(正孔注入層)
前記正孔注入層170は、陽極180からの正孔注入を容易にするために形成する。正孔注入層170には、電荷受容性の高い材料を用いることが好ましく、無機材料、有機材料いずれも用いることができる。正孔注入層170に用いる代表的な無機材料としては、三酸化モリブデン(MoO)、酸化バナジウム(V)、酸化ルテニウム(RuO)、酸化レニウム、酸化タングステン、酸化マンガン等の金属酸化物が挙げられる。また、正孔注入層170に用いる有機材料としては、2,3,6,7,10,11-ヘキサシアノ-1,4,5,8,9,12-ヘキサアザトリフェニレン(HAT-CN)、2,3,5,6-テトラフルオロ-7,7,8,8-テトラシアノ-キノジメタン(F4-TCNQ)、ヘキサフルオロテトラシアノナフトキノジメタン(F6-TNAP)等が挙げられる。正孔注入層170には、これらの1種又は2種以上を用いることができる。これらの中でも、正孔注入層170に用いる材料としては、正孔注入性の観点から、三酸化モリブデン及びHAT-CNが好ましい。
【0070】
前記正孔注入層170の平均厚さは、特に限定されるものではないが、1~500nmが好ましく、3~50nmが更に好ましい。
【0071】
(陽極)
前記陽極180の材料としては、仕事関数が比較的大きい金属が好ましい。仕事関数の大きい金属を用いることにより、陽極から有機層への正孔注入障壁を低くすることができ、正孔を注入させ易くすることができる。また、陽極180に用いる金属としては、可視光線領域で反射率の高い金属が好ましく、例えば、Al、Au、Pt、Ni、W、Cr、Mo、Fe、Co、Cu等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、陽極180に透明な材料を用いると、上部電極から光を取り出すトップエミッション型素子とすることができる。
【0072】
前記陽極180の平均厚さは、特に限定されるものではないが、10~500nmが好ましく、30~150nmが更に好ましい。
【0073】
(封止構造)
封止構造190としては、上述した陰極120、電子輸送層130、中間層140、発光層150、正孔輸送層160、正孔注入層170及び陽極180を封止できる任意の形態を使用でき、例えば、缶封止等の中空封止、薄膜封止、固体封止等、種々の形態を採用することができる。
【0074】
(各層の形成方法)
前記陰極120、電子輸送層130、中間層140、発光層150、正孔輸送層160、正孔注入層170及び陽極180の形成方法は、特に限定されるものではなく、真空蒸着法、電子ビーム法、スパッタリング法、スピンコート法、インクジェット法、印刷法等の方法を用いることができる。また、これらの方法を用いて、前記陰極120、電子輸送層130、中間層140、発光層150、正孔輸送層160、正孔注入層170及び陽極180の厚さを、目的に応じて適宜調整することができる。また、これらの方法は、各層の材料の特性に応じて選択するのが好ましく、層ごとに作製方法が異なっていてもよい。
以上により、図1に示される量子ドット電界発光素子100が完成する。
【0075】
(用途)
本発明の量子ドット電界発光素子は、表示装置等に利用することできる。本発明の量子ドット電界発光素子を組み込んだ表示装置は、発光効率が高く、色純度の高い光を発することが可能な量子ドット電界発光素子を具えるため、発光特性に優れる。
【0076】
<量子ドット電界発光素子の製造方法>
本実施形態の量子ドット電界発光素子の製造方法は、陰極を形成する工程と、金属酸化物からなる電子輸送層を形成する工程と、前記電子輸送層をフッ素処理する工程と、有機材料からなる中間層を形成する工程と、量子ドットを含む発光層を形成する工程と、陽極を形成する工程と、をこの順に含むことを特徴とする。
【0077】
本実施形態の量子ドット電界発光素子の製造方法において、陰極、金属酸化物からなる電子輸送層、有機材料からなる中間層、発光層、陽極の各層の形成方法は、特に限定されず、例えば、上述したような真空蒸着法、電子ビーム法、スパッタリング法、スピンコート法、インクジェット法、印刷法等の方法を用いることができる。また、これらの方法は、各層の材料の特性に応じて選択するのが好ましく、層毎に作製方法が異なっていてもよい。
【0078】
本実施形態の量子ドット電界発光素子の製造方法においては、金属酸化物からなる電子輸送層を形成した後、該電子輸送層をフッ素処理する。該電子輸送層をフッ素処理する工程は、電子輸送層を構成する金属酸化物をフッ素化できる任意の方法で実施することができる。ここで、フッ素処理に用いるフッ素源としては、特に限定されず、例えば、フッ化炭素等が挙げられる。
【0079】
前記電子輸送層をフッ素処理する工程においては、当該電子輸送層を、フッ素源の雰囲気下で、酸素プラズマ処理することが好ましい。フッ素源の雰囲気下で、電子輸送層を酸素プラズマ処理することで、発光効率が更に高く、色純度の更に高い光を発することが可能な量子ドット電界発光素子が得られる。酸素プラズマ処理により、特に優れた効果が奏された理由は必ずしも定かではないが、以下のように考えられる。なお、ここでは、金属酸化物がZnOナノ粒子の場合について、具体的に説明するが、本発明において、電子輸送層を構成する金属酸化物は、ZnOナノ粒子に限られるものではなく、任意の金属酸化物を利用することできる。
【0080】
前記金属酸化物がZnOナノ粒子の場合、効率的な発光を阻害しているのは、ZnOナノ粒子表面に一定の割合で存在するZnOHが原因と考えられる。キャリアがZnOHにトラップされてしまうために、発光層の発光材料(即ち、量子ドット)での再結合を妨げてしまう。また、発光層以外での再結合による副発光成分が生じる原因ともなる。そのため、ZnOHを減らすことが重要となる。
これに対して、酸素プラズマ処理を行うことにより、ZnO膜中に取り込まれた残留溶媒が取り除かれる。残留溶媒はZnOナノ粒子に配位する形で取り込まれているため、酸素プラズマ処理により、ZnOナノ粒子は剥き出しの状態となる。該剥き出しのZnOナノ粒子の表面には、酸素の未結合手が多数存在する。そこで、プラズマ雰囲気中に存在するフッ素が、酸素の未結合手に結合することで、ZnOFが形成される。ここで、後述する実施例においては、フッ素をフッ化炭素の形で導入しているが、該フッ化炭素はプラズマ中で結合が開裂し、フッ素が生成する。形成されたZnOFは、キャリアトラップとしては働かず、高効率な発光及び副発光成分の抑制につながる。ここで、フッ素がない場合、ZnOの表面には、酸素の未結合手が残ったままとなり、雰囲気中の水が結合して、ZnOHが形成されるため、フッ素による表面処理が重要である。
なお、フッ化炭素のみでプラズマ処理を行ってもZnO末端へのフッ素導入の効果は得られるが、ZnO膜自体がドライエッチングで削れてしまう。そのため、フッ素源の雰囲気下で、酸素プラズマ処理することが好ましい。
【0081】
前記酸素プラズマ処理において、酸素の流量、圧力、プラズマ処理のパワーや処理時間等の諸条件は、特に限定されるものではないが、一般に、プラズマ処理のパワー大きい程、また、処理時間が長い程、電子輸送層を構成する金属酸化物の末端をより多く処理できるが、一方で金属酸化物の電子輸送能力が劣化してしまう。そのため、作製する量子ドット電界発光素子毎に最適な条件で酸素プラズマ処理を行うことが好ましい。
【0082】
以上に説明した本実施形態の量子ドット電界発光素子の製造方法によれば、上述した発光効率が高く、色純度の高い光を発することが可能な量子ドット電界発光素子を得ることができる。
【実施例0083】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例においては、金属酸化物として主にZnOを用いたが、ZnMgO等の他の金属酸化物であっても、同様の効果が得られることを確認している。
【0084】
<UVオゾン処理の詳細>
UVオゾン処理には、フィルジェン株式会社製のUVオゾンクリーナーを使用した。電子輸送層(金属酸化物)130が成膜された基板を、UVオゾンクリーナー内に入れた。UVランプと基板の間の距離は3cmとした。酸素を2分間導入後、UV光を20分間照射してオゾンを発生させ、金属酸化物を酸化させた。
その後、窒素ガスを5分間フロー導入して、残存するオゾンを除去した後に、基板を取り出した。
【0085】
<酸素プラズマ処理の詳細>
酸素プラズマ処理には、Samco社製のPC-300プラズマクリーナーを使用した。フッ化炭素膜が成膜された基板をプラズマクリーナー内に入れ、真空引きした後、酸素ガスを10sccmでフロー導入した。背圧は15Paとし、進行波のRFプラズマ100Wで5分間処理をした。
その後、窒素ガスをフローしながら真空引きし、残留ガスを取り除き、窒素ガスの導入により大気圧に戻して、基板を取り出した。この処理により、プラズマクリーナーの内部は、フッ化炭素でコーティングされた。
次に、電子輸送層(金属酸化物)130が成膜された基板をプラズマクリーナー内に入れ、真空引きした後、酸素ガスを10sccmでフロー導入した。背圧は15Paとし、進行波のRFプラズマ50Wで1分間処理をした。
その後、窒素ガスをフローしながら真空引きし、残留ガスを取り除き、窒素ガスの導入により大気圧に戻して、基板を取り出した。
【0086】
<XPS(X線光電子分光)分析によるフッ素導入量の評価>
下記のようにして、XPS評価用のサンプル(1)、(2)、(3)を作製した。
100nmのITO付きガラス基板を洗浄し、続いてUVオゾン処理し、窒素で満たしたグローブボックス中に移動した。20nmの膜厚が得られるように所定の濃度に調整したZnO溶液(溶媒は1-ブタノール)をスピンコーターのスピン台上に固定された基板上に滴下し、2000rpmで40秒間スピン回転させて、ZnOからなる電子輸送層を塗布成膜した。
次に、窒素下、180℃で、20分間の加熱処理を施した。この加熱処理で得られたZnO/ITO付き基板を、サンプル(1)とした。
【0087】
また、前記加熱処理を施したZnO/ITO付き基板(即ち、サンプル(1)と同様)をグローブボックスから取り出し、上記の手順に従ってUVオゾン処理を行った。このUVオゾン処理で得られたZnO/ITO付き基板を、サンプル(2)とした。
【0088】
一方、前記加熱処理を施したZnO/ITO付き基板(即ち、サンプル(1)と同様)をグローブボックスから取り出し、上記の手順に従って酸素プラズマ処理を行った。この酸素プラズマ処理で得られたZnO/ITO付き基板を、サンプル(3)とした。
【0089】
それぞれのサンプル(1)、(2)、(3)について、PHI社製のQuantera II[X線源:単色化Al(1486.6eV)]を用いて、XPSスペクトルを測定した(亜鉛、酸素、フッ素、炭素について測定した)。
図8に、サンプル(1)、(2)、(3)のF1sスペクトルを示す。
【0090】
図8から分かるように、サンプル(1)とサンプル(2)からはフッ素が検出されなかったが、サンプル(3)からはフッ素が検出された。また、亜鉛、酸素、フッ素のXPSスペクトルから、サンプル(3)の金属酸化物膜中のFの割合を計算したところ、13.5原子%であった。
【0091】
次に、図9図11に、サンプル(1)、(2)、(3)の酸素のO1sスペクトルの測定結果及びO1、O2、O3成分に分解した時のフィッティング結果を示す。ここで、O1はZn-O結合状態を、O2はZn-OH、Zn-OF等の結合状態を、O3はC=O、C-O-Cの結合状態を表す。また、表2に、サンプル(1)、(2)、(3)の酸素結合状態の割合を示す。
【0092】
【表2】
【0093】
表2から分かるように、サンプル(1)とサンプル(2)のそれぞれの面積比は、殆ど変わらなかった。これは、UVオゾン処理では、殆ど酸素の結合状態に変化をもたらさないことを表している。
一方、サンプル(3)は、O1が大幅に減り、O2が大幅に増えていた。サンプル(3)には、フッ素が多く含まれていることから、O2の大幅な増大はZnOF結合が生成したためと考えられる。
【0094】
<比較例1~5及び実施例1~3の素子作製プロセスと評価>
100nmのITO付きガラス基板を洗浄し、続いてUVオゾン処理し、窒素で満たしたグローブボックス中に移動した。20nmの膜厚が得られるように所定の濃度に調整したZnO溶液(溶媒は1-ブタノール)をスピンコーターのスピン台上に固定された基板上に滴下し、2000rpmで40秒間スピン回転させて、ZnOからなる電子輸送層を塗布成膜した。
次に、窒素下、180℃で、20分間の加熱処理を施した。
【0095】
次に、基板をグローブボックスから取り出し、比較例3と比較例5の試料にはUVオゾン処理を施し、比較例4と実施例1~3の試料には酸素プラズマ処理を施した。
その後、再び窒素で満たしたグローブボックス中に移動させた。
【0096】
次に、比較例2、比較例5、実施例1~3の試料については、上記の構造式で表される3TPyMB(比較例2、比較例5、実施例1)、TmPPyTz(実施例2)、TmPPPyTz(実施例3)を1mg/mL溶解させたクロロホルム溶液を、スピンコーターのスピン台上に固定された基板上に滴下し、2000rpmで40秒間スピン回転させて、有機材料からなる中間層を塗布成膜した。
次に、窒素下、100℃で、20分間の加熱処理を施した。
【0097】
次に、CsPbBrペロブスカイト量子ドット材料を溶解させたn-オクタン溶液をスピンコーターのスピン台上に固定された基板上に滴下し、2000rpmで40秒間スピン回転させて塗布成膜し、発光層を形成した。
【0098】
次に、真空チャンバー中に基板を移し、Alを1~10Å/秒の成膜レートで100nmの陽極を蒸着成膜した。
【0099】
続いて、真空チャンバー中から窒素で満たしたグローブボックス中に基板を取り出し、乾燥剤付きのガラス管にUV硬化接着剤を素子部にかぶせてUV照射することで中空封止した。作製した素子の面積は9mmである。
【0100】
表3、図12図13に、上記比較例1~5と実施例1~3の量子ドット電界発光素子の電気光学特性の測定結果とELスペクトルを示す。
なお、最大外部量子効率と駆動電圧は、比較例1の量子ドット電界発光素子の値を100とした相対値である。
【0101】
また、副次発光強度については、主発光成分強度を100とした時の波長780nmの強度の百分率を表3に記載した。
【0102】
【表3】
【0103】
図12図13の結果から、比較例1~5の量子ドット電界発光素子に比べて、実施例1~3の量子ドット電界発光素子では、ピーク波長518nmのピークを持つ主発光成分の長波長側にある副次発光成分の強度が抑制されていることが分かる。
また、表3から、実施例1~3の量子ドット電界発光素子は、比較例1~5の量子ドット電界発光素子に比べて、最大外部量子効率も大幅に向上していることが分かる。これは、ZnOの末端がフッ素化されて欠損が埋められたこと、有機材料からなる中間層がZnOと量子ドットの欠陥由来の失活を抑制するのに機能したことを示している、
【0104】
以上の結果から、本発明によれば、従来技術を用いて製造した量子ドット電界発光素子に比べて、高効率で高色純度発光を示す量子ドット電界発光素子を提供できることが分かる。
【0105】
<実施例4~6の素子作製プロセスと評価>
100nmのITO付きガラス基板を洗浄し、続いてUVオゾン処理し、窒素で満たしたグローブボックス中に移動した。20nmの膜厚が得られるように所定の濃度に調整したZnO溶液(溶媒は1-ブタノール)をスピンコーターのスピン台上に固定された基板上に滴下し、2000rpmで40秒間スピン回転させて、ZnOからなる電子輸送層を塗布成膜した。
次に、窒素下、180℃で、20分間の加熱処理を施した。
【0106】
次に、基板をグローブボックスから取り出し、実施例4、5、6の試料に、上記のようにして、フッ素雰囲気下で酸素プラズマ処理を施した。
その後、再び窒素で満たしたグローブボックス中に移動させた。
【0107】
次に、TmPPPyTzを1mg/mL溶解させたクロロホルム溶液を、スピンコーターのスピン台上に固定された基板上に滴下し、2000rpmで40秒間スピン回転させて、有機材料からなる中間層を塗布成膜した。
次に、窒素下、100℃で、20分間の加熱処理を施した。
【0108】
次に、FA0.9Cs0.1PbBrペロブスカイト量子ドット材料を溶解させたn-オクタン溶液(10mg/mL)(実施例4)、
該ペロブスカイト量子ドット材料のn-オクタン溶液に、ペロブスカイト量子ドット材料100質量部に対してDIC-TRZを6質量部混合した溶液(実施例5)、又は
該ペロブスカイト量子ドット材料のn-オクタン溶液に、ペロブスカイト量子ドット材料100質量部に対してDIC-TRZを60質量部混合した溶液(実施例6)を、スピンコーターのスピン台上に固定された基板上に滴下し、2000rpmで40秒間スピン回転させて塗布成膜し、発光層を形成した。
【0109】
次に、真空チャンバー中に基板を移し、Alを1~10Å/秒の成膜レートで100nmの陽極を蒸着成膜した。
【0110】
続いて、真空チャンバー中から窒素で満たしたグローブボックス中に基板を取り出し、乾燥剤付きのガラス管にUV硬化接着剤を素子部にかぶせてUV照射することで中空封止した。作製した素子の面積は9mmである。
【0111】
図14に、実施例4~6の量子ドット電界発光素子の電流密度-電圧特性を示し、図15に、実施例4~6の量子ドット電界発光素子の輝度-電圧特性を示し、図16に、実施例4~6の量子ドット電界発光素子の外部量子効率-電流密度特性を示し、図17に、実施例4~6の量子ドット電界発光素子の電界発光(EL)スペクトルを示す。
なお、電界発光(EL)スペクトルは、コニカミノルタ社製のCS-2000分光放射輝度計で測定した。
【0112】
図16から分かるように、実施例4の量子ドット電界発光素子の最大外部量子効率(EQE)が2.1%であるのに対し、発光層にDIC-TRZを混合した実施例5の量子ドット電界発光素子は、最大EQEが向上し、最大で2.9%を達成した。一方、実施例6の量子ドット電界発光素子では、実施例5に比べて最大EQEが大きく低下したが、これは、キャリアバランスが崩れたためと考えられる。
なお、図17から分かるように、ELスペクトルは、いずれもペロブスカイト量子ドット由来の発光のみを示した。
【0113】
表4に、発光閾電圧付近におけるELスペクトルの波長531nmにおける発光強度の相対値を示す。表4中、実施例4の量子ドット電界発光素子の1.6Vにおける波長531nmにおける発光強度を100として、各量子ドット電界発光素子の各電圧における波長531nmにおける発光強度を、相対値として表記した。
【0114】
【表4】
【0115】
各量子ドット電界発光素子の、ELスペクトルを観測できる発光閾電圧は、それぞれ、1.55V(実施例4)、1.40V(実施例5)、1.30V(実施例6)であった。DIC-TRZを混合した実施例5及び6の量子ドット電界発光素子では、大きく低電圧化しており、これは、正孔輸送層から発光層への正孔注入が容易になったためと考えられる。また、図17から分かるように、DIC-TRZを混合した実施例5及び6のELスペクトルは、DIC-TRZを混合していない実施例4のELスペクトルと変化が無く、これらの結果から、発光層に量子ドットと共にDIC-TRZ(有機材料)を含ませることで、ELスペクトルの形状を変化させずに、駆動電圧を大幅に低電圧化できることが分かる。
【0116】
以上の結果から、発光層が量子ドットと共に有機材料を含むことで、量子ドットのバンドギャップである2.34eVよりも1V低い電圧で発光が得られることが分かる。このように、発光層が量子ドットと共に有機材料を含むことで、超低電圧での発光が可能になることが分かる。
【符号の説明】
【0117】
100:量子ドット電界発光素子
110:基板
120:陰極
130:電子輸送層
140:中間層
150:発光層
160:正孔輸送層
170:正孔注入層
180:陽極
190:封止構造
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17