(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024164812
(43)【公開日】2024-11-27
(54)【発明の名称】ハロゲンフリー樹脂組成物、電線およびケーブル
(51)【国際特許分類】
C08L 23/02 20060101AFI20241120BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20241120BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20241120BHJP
C08L 23/26 20060101ALI20241120BHJP
H01B 7/295 20060101ALI20241120BHJP
【FI】
C08L23/02
C08K3/04
C08K3/22
C08L23/26
H01B7/295
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024069530
(22)【出願日】2024-04-23
(31)【優先権主張番号】P 2023080291
(32)【優先日】2023-05-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(72)【発明者】
【氏名】社内 大介
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 周
(72)【発明者】
【氏名】梶山 元治
(72)【発明者】
【氏名】木部 有
【テーマコード(参考)】
4J002
5G315
【Fターム(参考)】
4J002BB011
4J002BB013
4J002BB021
4J002BB212
4J002DA036
4J002DE047
4J002FD016
4J002FD017
4J002GQ01
5G315CA03
5G315CB02
5G315CD02
5G315CD13
(57)【要約】
【課題】難燃性、耐油性、耐低温性が良好なハロゲンフリー樹脂組成物およびこれを用いた絶縁電線やケーブルを提供する。
【解決手段】電線11と、その外側に設けられたシース12dと、を有するケーブル12であって、シース12dは、ベースポリマと、金属水酸化物と、カーボンブラックと、を含むハロゲンフリー樹脂組成物であって、ベースポリマは、結晶性ポリオレフィンを60~70質量%および無水マレイン酸変性ポリオレフィンを30~40質量%含有し、結晶性ポリオレフィンとして、融点が110℃以上の第1の結晶性ポリオレフィンを含み、ベースポリマ100質量部に対して、金属水酸化物を180~220質量部およびカーボンブラックを1質量部以上10質量部未満含有する、ケーブル12。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースポリマと、金属水酸化物と、カーボンブラックと、含むハロゲンフリー樹脂組成物であって、
前記ベースポリマは、結晶性ポリオレフィンを60~70質量%および無水マレイン酸変性ポリオレフィンを30~40質量%含有し、前記結晶性ポリオレフィンとして、融点が110℃以上の結晶性ポリオレフィンを含み、
前記ベースポリマ100質量部に対して、前記金属水酸化物を180~220質量部および前記カーボンブラックを1質量部以上10質量部未満含有する、架橋性を有するハロゲンフリー樹脂組成物。
【請求項2】
ベースポリマと、金属水酸化物と、カーボンブラックと、含むハロゲンフリー樹脂組成物であって、
前記ベースポリマは、結晶性ポリオレフィンを60~70質量%および無水マレイン酸変性ポリオレフィンを30~40質量%含有し、前記結晶性ポリオレフィンとして、融点が110℃以上の結晶性ポリオレフィンを含み、
前記ベースポリマ100質量部に対して、前記金属水酸化物を180~220質量部および前記カーボンブラックを1質量部以上10質量部未満含有し、
前記ベースポリマが架橋処理された架橋物であるハロゲンフリー樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載のハロゲンフリー樹脂組成物であって、
前記ベースポリマとして、エチレン酢酸ビニル共重合体を含有しない、ハロゲンフリー樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1または2に記載のハロゲンフリー樹脂組成物において、
前記結晶性ポリオレフィンは、融点が110℃以上のポリエチレンである第1の結晶性ポリオレフィンおよび融点が100℃以上のポリオレフィン(ポリエチレンを除く)である第2の結晶性ポリオレフィンを含み、
前記ベースポリマ中に、前記第1の結晶性ポリオレフィンを30質量%以上、前記第2の結晶性ポリオレフィンを20質量%以上含有し、
前記ベースポリマ100質量部に対して、前記金属水酸化物を180~220質量部含有する、ハロゲンフリー樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1または2に記載のハロゲンフリー樹脂組成物であって、
前記結晶性ポリオレフィンは、融解熱が50J/g以上のポリマである、ハロゲンフリー樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1または2に記載のハロゲンフリー樹脂組成物であって、
前記金属水酸化物は、BET比表面積が5.0以上である、ハロゲンフリー樹脂組成物。
【請求項7】
導体と、前記導体の周囲に設けられた絶縁層と、を有する電線であって、
前記絶縁層は、ベースポリマと、金属水酸化物と、カーボンブラックと、含むハロゲンフリー樹脂組成物であって、前記ベースポリマは、融点が110℃以上の第1の結晶性ポリオレフィンを60~70質量%および無水マレイン酸変性ポリオレフィンを30~40質量%を含有し、前記ベースポリマ100質量部に対して、前記金属水酸化物を180~220質量部および前記カーボンブラックを1質量部以上10質量部未満含有する、ハロゲンフリー樹脂組成物から構成される、電線。
【請求項8】
電線と、その外側に設けられた被覆層と、を有するケーブルであって、
前記被覆層は、ベースポリマと、金属水酸化物と、カーボンブラックと、含むハロゲンフリー樹脂組成物であって、前記ベースポリマは、融点が110℃以上の第1の結晶性ポリオレフィンを60~70質量%および無水マレイン酸変性ポリオレフィンを30~40質量%を含有し、前記ベースポリマ100質量部に対して、前記金属水酸化物を180~220質量部および前記カーボンブラックを1質量部以上10質量部未満含有する、ハロゲンフリー樹脂組成物から構成される、ケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハロゲンフリー樹脂組成物ならびにそれを用いた電線およびケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両等に使用される電線やケーブルには、一般的な引張強さや伸びに加え、難燃性、耐油性、耐燃料性、耐低温性等の特性が要求される。
【0003】
電線やケーブルに高い難燃性を付与するために、ポリオレフィンに臭素系難燃剤を添加した材料が用いられている。しかし、臭素等のハロゲンを多く含む材料は、燃焼時に有毒なガスを多量に発生させることから、火災時の安全性や環境負荷低減の観点から、ハロゲンを含まないハロゲンフリー材料を使用した電線、ケーブルが普及してきている。
【0004】
特に、鉄道車両に用いられる電線およびケーブルは、その不具合により事故につながる危険性があることから、EN規格(EN50264、50306等)で、高い難燃性の他、耐油性、耐燃料性、耐低温性が要求されている。
【0005】
例えば、特許文献1(特開2014-24910号公報)には、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)を60~70質量%、メルトフローレイト(MFR)が100以上のエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)を10質量%以上、およびマレイン酸変性ポリオレフィンを10~20質量%含有するベースポリマと、該ベースポリマ100質量部に対して、150~220質量部の割合で添加された金属水酸化物と、カーボンブラックとからなるハロゲンフリー難燃性樹脂組成物を用いることで、難燃性を有し、耐油性、低温特性、耐外傷性を向上させたケーブルが開示されている。
【0006】
また、特許文献2(特開2020-125459号公報)には、ポリオレフィンを60~70質量部、無水マレイン酸変性ポリオレフィンを10~35質量部、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)を5~30質量部、を有するベースポリマと、該ベースポリマ100質量部に対して、150~250質量部の割合で添加された金属水酸化物と、該ベースポリマ100質量部に対して、1~30質量部の割合で添加されたカーボンブラックと、を有し、上記ポリオレフィンの融点は110℃以上であり、架橋後のゲル分率が85%以上であるハロゲンフリー難燃性樹脂組成物を用いることで、難燃性を有し、耐油性、低温特性を向上させたケーブルが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2014-24910号公報
【特許文献2】特開2020-125459号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献1や特許文献2に記載の樹脂組成物は、各種サイズや構造の異なるケーブルに適用したときの難燃性に裕度がないことがわかり、さらなる難燃性の向上が望まれている。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、ハロゲンフリーでありながら、難燃性、耐油性、耐低温性が良好なハロゲンフリー樹脂組成物およびこれを用いた絶縁電線やケーブルを提供することを目的とする。
その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0010】
一実施の形態であるハロゲンフリー樹脂組成物は、ベースポリマと、金属水酸化物と、カーボンブラックと、を含むハロゲンフリー樹脂組成物であって、前記ベースポリマは、結晶性ポリオレフィンを60~70質量%および無水マレイン酸変性ポリオレフィンを30~40質量%含有し、前記結晶性ポリオレフィンとして、融点が110℃以上の第1の結晶性ポリオレフィンを含み、前記ベースポリマ100質量部に対して、前記金属水酸化物を180~220質量部および前記カーボンブラックを1質量部以上10質量部未満含有する。
【0011】
一実施の形態である電線は、その絶縁層が、上記ハロゲンフリー樹脂組成物から構成される。一実施の形態であるケーブルは、そのシース(被覆層)が、上記ハロゲンフリー樹脂組成物から構成される。
【発明の効果】
【0012】
一実施の形態によれば、ハロゲンフリーでありながら、難燃性、耐油性、耐低温性が良好なハロゲンフリー樹脂組成物ならびにそれを用いた電線およびケーブルを得ることができる。
【0013】
上記ハロゲンフリー樹脂組成物を、電線やケーブルの被覆材として用いることにより、難燃性、耐油性、耐低温性が良好なものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】一実施の形態である電線の構造例を示す断面図である。
【
図2】一実施の形態であるケーブルの構造例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の一実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。また、以下の実施の形態では、特に必要なとき以外は同一または同様な部分の説明を原則として繰り返さない。
【0016】
<事前の検討事項>
上記した特許文献1や2に記載の樹脂組成物は、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)をはじめとする結晶性のポリオレフィンにエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)とマレイン酸変性ポリオレフィンを混合して用いている。
【0017】
エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)は、十分な難燃性を確保するために金属水酸化物を多く配合するために必要な成分であると考えられ、さらに、特許文献2では、より難燃性を向上させようとして、カーボンブラックを難燃助剤として用い、その配合量を増加させることを可能としたものである。すなわち、これらの文献記載の発明では、結晶性のポリオレフィンにEVAを加えたベースポリマに、難燃剤として金属水酸化物を配合したものである。
【0018】
ところで、本発明者らは、これら特許文献に記載の樹脂組成物でも、ケーブルのサイズによっては燃焼してしまうことがあることから、各種樹脂組成物とそれを適用したケーブルの燃焼時の形態を検討した。すると、その形態を詳しく観察する中で、樹脂組成物に含まれるEVAの側鎖が脱酢酸を起こすことで、燃焼時に形成される炭化層が発泡し、脆くなることで難燃性が想定より低くなる可能性を発見した。
【0019】
そこで、本発明者らは、電線、ケーブル用途として好適で、さらに難燃性を向上させたハロゲンフリー樹脂組成物について検討し、以下に説明する新規のハロゲンフリー樹脂組成物を見出した。
【0020】
<ハロゲンフリー樹脂組成物>
以下、本実施の形態のハロゲンフリー樹脂組成物について詳述する。
【0021】
本実施の形態に係るハロゲンフリー樹脂組成物は、上記のように、ベースポリマと、金属水酸化物と、カーボンブラックと、含み、ベースポリマは、結晶性ポリオレフィンを60~70質量%および無水マレイン酸変性ポリオレフィンを30~40質量%含有し、結晶性ポリオレフィンとして、融点が110℃以上の第1の結晶性ポリオレフィンを含み、ベースポリマ100質量部に対して、金属水酸化物を180~220質量部およびカーボンブラックを1質量部以上10質量部未満含有する。
【0022】
[ベースポリマ]
本実施の形態で用いるベースポリマは、(1)結晶性ポリオレフィンおよび(2)無水マレイン酸変性ポリオレフィンを含有する。以下、各成分について説明する。
【0023】
(1)結晶性ポリオレフィン
ここで用いる結晶性ポリオレフィンは、結晶性を有するポリオレフィンである。本実施の形態では、結晶性ポリオレフィンとして、110℃以上の融点を有する結晶性ポリオレフィンを含む。本明細書において、融点は、示差走査熱量測定(DSC)法にて求めることができる。このような110℃以上の融点を有するポリオレフィンを用いることで、耐油性を向上させることができる。
【0024】
耐油試験としては、100℃に加熱したIRM902試験油に、試験片を72時間浸漬した後、引張特性を調べ、浸漬後の引張特性が浸漬前の引張特性に対してどの程度変化したかを確認する方法がある。例えば、融点が110℃を下回ると、耐油試験中に結晶が融解し油のベースポリマへの拡散を防ぐことが難しくなり、引張特性の変化率が大きくなる。
【0025】
融点が110℃以上のポリオレフィンとしては、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)等のポリエチレンや、ポリプロピレン(PP)等が挙げられる。ただし、高密度ポリエチレン(HDPE)は結晶化度が高すぎて、破断伸びが低く、ポリプロピレン(PP)は電子線照射等の架橋において崩壊しやすい。特性のバランスを得るには低密度ポリエチレン(LDPE)を用いることが好ましく、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)を用いることがより好ましい。
【0026】
結晶性ポリオレフィンの添加量は、ベースポリマを100質量%としたとき、60~70質量%が好ましい。60質量%未満では耐油性が不十分となるおそれがあり、70質量%より多いと、低温伸びが十分に得られない可能性がある。また、この結晶性ポリオレフィンとして低分子量のポリエチレンを用いる場合、分子の絡み合いが無くなり、伸びが低下するおそれがあるため、MFR(メルトフローレイト、JIS K 7210、190℃、2.16kg荷重)が10g/10min以下のものを用いることが好ましい。
【0027】
また、結晶性ポリオレフィンとして、融点が110℃以上のポリオレフィンとして融点が110℃以上の結晶性ポリエチレン〔第1の結晶性ポリオレフィン〕を含み、さらに、第1の結晶性ポリオレフィンと異なる、融点が100℃以上の結晶性ポリオレフィン(ポリエチレンを除く)〔第2の結晶性ポリオレフィン〕を併せて用いることができる。これにより、耐油性を維持しながら、電線、ケーブルの柔軟性を向上させることができる。
【0028】
上記第2の結晶性ポリオレフィンとしては、例えば、エチレンブロックコポリマ等のオレフィンブロックコポリマ(OBC)、エチレンエチルアクリレートコポリマ(EEA)、エチレンブチルアクリレートコポリマ等が挙げられる。
【0029】
上記した結晶性ポリエチレンは、その融解熱が50J/g以上のポリマであることが好ましく、75J/g以上のポリマであることがより好ましい。この融解熱が50J/g以上であると、耐油性を良好なものとできる。なお、融解熱は、示差走査熱量計(DSC)を用い、温度範囲-50℃~200℃、昇温速度10℃/分で測定して得られた値である。
【0030】
融点が110℃以上のポリエチレンからなる第1の結晶性ポリオレフィンと融点が100℃以上の第2の結晶性ポリオレフィンを併せて用いる場合、第1の結晶性ポリオレフィンは30質量%以上、第2の結晶性ポリオレフィンは20質量%以上にすることで、耐油性と柔軟性の両立が可能になる。すなわち、第1の結晶性ポリオレフィンを、ベースポリマ中に30質量%以上50質量%以下、第2の結晶性ポリオレフィンを、ベースポリマ中に20質量%以上40質量%以下、含むことが好ましい。
【0031】
(2)無水マレイン酸変性ポリオレフィン
ここで用いる無水マレイン酸変性ポリオレフィンは、ポリオレフィンを無水マレイン酸で変性した化合物である。
【0032】
変性する材料として用いられる(変性前の)ポリオレフィンとしては、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)等のポリエチレン、エチレン-メチルアクリレート共重合体、エチレン-エチルアクリレート共重合体、エチレン-ブチルアクリレート共重合体、エチレン-ブテン-1共重合体、エチレン-ヘキセン-1共重合体、エチレン-オクテン-1共重合体等のエチレン-α-オレフィン等を挙げることができる。中でも、エチレン-ブテン-1共重合体、エチレン-ヘキセン-1共重合体、エチレン-オクテン-1共重合体は、結晶が少なく、樹脂組成物においてフィラー受容性に優れるので、無水マレイン酸変性ポリオレフィンの材料として用いることが好ましい。
【0033】
上記変性前のポリオレフィンを、無水マレイン酸で変性する方法は特に限定されず、公知の方法により行うことができ、例えば、加熱による熱のみの反応でも得ることができる。また、無水マレイン酸変性ポリオレフィン中の無水マレイン酸はグラフト共重合していてもよく、ブロック共重合していてもよい。
【0034】
この無水マレイン酸変性ポリオレフィンの配合量は、ベースポリマ100質量%のうち、30~40質量%とする。30質量%よりも少ないと、必要な低温特性、難燃性を満足することができないおそれがあり、40質量%より多いと、フィラーのインタラクションが強くなりすぎ、粘度が増加し、押出成形時の加工性が悪化するおそれがある。
【0035】
[金属水酸化物]
本実施の形態では、ベースポリマに、難燃剤として金属水酸化物を添加する。ここで用いる金属水酸化物として、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等を挙げることができる。
【0036】
中でも、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムを用いることが好ましい。水酸化カルシウムの分解時の吸熱量は、約1000J/gであるのに対して、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムの吸熱量は、1500~1600J/gであり、吸熱量が高い。そのため、水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウムを添加することにより、難燃性が向上する。
【0037】
さらに、水酸化マグネシウムを用いることを選択することが好ましい。水酸化マグネシウムは水酸化アルミニウムより分解温度が高いため、例えば、樹脂組成物の成形時における温度を高くすることができ、成形加工性が向上する。
【0038】
金属水酸化物は、分散性等を良好とするために、シランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、ステアリン酸等の脂肪酸等によって表面処理することもできる。
【0039】
金属水酸化物は、そのBET比表面積が5.0以上であることが好ましい。BET比表面積が5.0以上であることで、ポリマと金属水酸化物の相互作用が強くなり,引張強さが向上する。なお、BET比表面積は、JIS Z 8830:2013の「キャリアガス法」に準拠して、吸着質として窒素ガスを用いて算出できる。
【0040】
この金属水酸化物の配合量は、ベースポリマ100質量部に対し、180~220質量部添加する。180質量部未満であると、十分に難燃性を得ることができず、220質量部より多いと押出成形性が低下する。
【0041】
[カーボンブラック]
ここで用いるカーボンブラックは、着色剤として作用する。添加するカーボンブラックとしては公知のカーボンブラックを、種類を特に限定することなく用いることができるが、破断伸び等を考慮するとFT、MT級カーボンを用いることが好ましい。
【0042】
このカーボンブラックの配合量は、ベースポリマ100質量部に対し、1質量部以上10質量部未満であることが好ましく、1~5質量部であることがより好ましい。本実施の形態では、例えば、特許文献2のように、カーボンブラックを難燃助剤として添加するものではないため、従来公知の着色剤としての配合量程度でよく、かつエチレン酢酸ビニル共重合体を配合していなくても十分な難燃性を確保できる。
【0043】
[その他の添加剤]
ベースポリマに、難燃助剤、架橋剤、架橋助剤、紫外線吸収剤、光安定剤、軟化剤、滑剤、着色剤、補強剤、界面活性剤、無機充填剤、酸化防止剤、可塑剤、金属キレート剤、発泡剤、相溶化剤、加工助剤、安定剤等を添加することができる。
【0044】
難燃助剤として、公知の難燃助剤を用いることができる。なお、赤リン等のリン系難燃助剤やメラミンシアヌレート等のトリアジン系難燃助剤があるが、ホスフィンガスやシアンガスを発生するおそれがあり、取り扱いに注意が必要となる。これら以外の難燃助剤であれば適用可能で、例えば、クレー、シリカ、スズ酸亜鉛、ホウ酸亜鉛、ホウ酸カルシウム、水酸化ドロマイド、シリコーン等を用いることができる。
【0045】
上記配合の樹脂組成物は架橋性を有し、架橋処理を行い架橋物とできる。架橋処理は、有機過酸化物、硫黄化合物あるいはシラン等を用いた化学架橋、電子線または放射線等による照射架橋、その他の化学反応を利用した化学架橋等があり、いずれの架橋方法も適用可能である。中でも電子線を用いた照射架橋は、他の照射架橋よりも汎用的で、化学架橋のように押出成形時のスコーチのリスクが無いため、本実施の形態の架橋処理として用いることが好ましい。
【0046】
<電線>
次に、一実施の形態である電線について
図1を用いて説明する。
図1は、本実施の形態の電線の構成例を示す断面図である。
【0047】
図1に示すように、本実施の形態に係る電線11は、導体11aと、導体11aの外周に形成された絶縁内層11bと、絶縁内層11bの外周に形成された絶縁外層11cとを有する。このように、導体11aを被覆する絶縁層を絶縁内層11bと絶縁外層11cとの2層構造としてもよい。
【0048】
導体11aとしては、例えば、複数本の素線(金属線)が撚り合わされた撚線を用いることができる。素線としては、例えば、銅線、銅合金線の他、アルミニウム線、金線、銀線等を用いることができ、外周に錫やニッケル等の金属めっきを施したものを用いてもよい。
【0049】
絶縁内層11bとしては、例えば、ポリエチレンやポリブチレンテレフタレート等を用いることができる。また、内層材料には、必要に応じて酸化防止剤、シリコーンゴムを含むシランカップリング剤、難燃剤、難燃助剤、架橋剤、架橋助剤、架橋促進剤、加水分解防止剤(例えば、ポリカルボジイミド化合物)、滑剤(例えば脂肪酸金属塩、アマイド系滑剤)、軟化剤、可塑剤、無機充填剤、カーボンブラック、相溶化剤、安定剤、金属キレート剤、紫外線吸収剤、光安定剤、着色剤等の添加剤を添加してもよい。また、絶縁内層11bとしては、シラン水架橋又は電子線照射等によって架橋された組成物を用いてよい。絶縁外層11cとしては、前述したハロゲンフリー樹脂組成物を用いることができる。
【0050】
また、絶縁外層11cとして、ハロゲンフリーの難燃剤を有する他の樹脂組成物を用いてもよい。ハロゲンフリーの難燃剤でも赤リン等のリン系難燃剤やメラミンシアヌレート等のトリアジン系難燃剤を添加しない方が好ましい。絶縁外層11cに適用するポリマは、ハロゲンフリーであれば特に限定しない。例えば、高密度ポリエチレン(HDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)、エチレン-アクリル酸エステル共重合体等のポリオレフィンが挙げられる。ゴム材料も適用可能であり、エチレン-プロピレン共重合体ゴム、エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体ゴム、アクリルゴム、エチレン-アクリル酸エステル共重合体ゴム、エチレン-オクテン共重合体ゴム、エチレン-酢酸ビニル共重合体ゴム、エチレン-ブテン-1共重合体ゴム、ブタジエン-スチレン共重合体ゴム、イソブチレン-イソプレン共重合体ゴム、ポリスチレンブロックを有するブロック共重合体ゴム等が挙げられる。また、エンジニアリングプラスチックも適用することができ、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンエーテル、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリエーテルサルホン等が挙げられ、これらの熱可塑性エラストマを使用することもできる。ベースポリマは単独でも2種類以上のブレンドでもよい。
【0051】
絶縁外層11cにおいて、上記材料で構成された樹脂組成物には、必要に応じて、架橋剤、架橋助剤、難燃助剤、紫外線吸収剤、光安定剤、軟化剤、滑剤、着色剤、補強剤、界面活性剤、無機充填剤、可塑剤、金属キレート剤、発泡剤、相溶化剤、加工助剤、安定剤等を添加することができる。
【0052】
耐油性の点から架橋はしておくべきであり、架橋処理は、有機過酸化物またはシラン化合物等を用いた化学架橋、電子線、放射線等による照射架橋、その他の化学反応を利用した架橋等があるが、いずれの架橋方法も適用可能である。
【0053】
このように2層構造とすることにより、導体11a側の絶縁内層11bにより電気絶縁性を向上させ、最外層である絶縁外層11cにより難燃性等を向上させることができる。
【0054】
なお、
図1では、導体11aを被覆する絶縁層を絶縁内層11bと絶縁外層11cとの2層構造としたが、3層以上の構造としてもよく、また、単層としてもよい。いずれの場合においても、最外層として前述したハロゲンフリー樹脂組成物を用いることで、ハロゲンフリー絶縁電線の特性を向上させることができる。
【0055】
本実施の形態の電線11は、例えば、以下のように製造される。まず、絶縁内層11bおよび絶縁外層11cを形成するための樹脂組成物を用意する。本実施の形態では、その特徴である樹脂組成物として、例えば、ベースポリマとなる結晶性ポリオレフィンおよび無水マレイン酸変性ポリオレフィンと、金属水酸化物と、カーボンブラックとを含む材料を溶融混練し、本実施の形態の樹脂組成物を得る。
【0056】
その後、導体11aを準備する。そして、押出成形機により、導体11aの周囲を被覆するように樹脂組成物を押し出して、絶縁内層11bを形成し、次いで、絶縁内層11bの周囲を被覆するように本実施の形態の樹脂組成物を押出して、絶縁外層11cを形成する。さらに、必要に応じて樹脂組成物を架橋処理することで、電線11を製造することができる。
【0057】
<ケーブル>
次に、一実施の形態であるケーブルについて
図2を用いて説明する。
図2は、本実施の形態のケーブルの構成例を示す断面図である。
【0058】
図2に示すように、本実施の形態に係るケーブル12は、撚り合わせた2本の電線11(撚り合わせコア、
図1参照)と、撚り合わせコアの外側に設けられたセパレータ12bと、このセパレータを覆うように設けられたシールド編組12cと、シールド編組12cを覆う、シース(外被層、被覆層)12dとを有する。シース12dとしては、前述したハロゲンフリー樹脂組成物を用いることで、ハロゲンフリーケーブルの特性を向上させることができる。
【0059】
なお、電線11を1本としてもよく、また、3本以上としてもよい。セパレータ12bの材質は特に限定されず、シールド編組12cの外側に設けてもよい。シールド編組12cは、シールド効果を発揮させるため、金属材料に代表される導体材料から構成される。
【0060】
このような電線およびケーブルの用途に制限はないが、例えば、鉄道車両用の絶縁電線またはケーブルとして用いることができる。
【0061】
本実施の形態のケーブル12は、例えば、以下のように製造される。まず、上述した方法により、電線11を2本製造する。その後、2本の電線11をスフ糸、紙テープ、ジュート等の介在と共に撚り合わせ、その後、これを被覆するように、セパレータ12b、シールド編組12cの順に公知の手法により形成する。さらに、このようにして得られたシールド編組12cの外周に、上記電線の製造方法と同様に本実施の形態の樹脂組成物を押出して、所定厚さのシース12dを形成する。こうすることで、本実施の形態のケーブル12を製造することができる。
【0062】
また、上記では本実施の形態のケーブル12において、上述の電線11を使用した場合を例に説明したが、これに限定されず、汎用の材料を絶縁層に用いた電線を使用することもできる。
【実施例0063】
以下に、本実施の形態のハロゲンフリー樹脂組成物、電線およびケーブルについて、実施例および比較例を参照しながら、さらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0064】
<ハロゲンフリー樹脂組成物の調製>
実施例1~11においては、表1に示す配合で、また、比較例1~5においては、表2に示す配合で、ハロゲンフリー樹脂組成物を製造した。表1、表2の配合量の単位は質量部である。すなわち、表1、表2に示した配合用材料を、加圧ニーダによって混練し、ストランドで押出し、冷却後ペレット状にした。各実施例および各比較例のハロゲンフリー樹脂組成物の配合割合については、後に詳細に説明する。
【0065】
<電線の作製およびケーブルの製造>
まず、電線(
図1参照)を作製した。ここで、導体11aとして、直径0.18mmのスズめっき銅導体を19本用いた。絶縁内層11bとしては、ポリブチレンテレフタレート(三菱エンジニアリングプラスチックス社製、商品名:ノバデュラン5026)を用いた。絶縁外層11cとしては、ポリエチレン(プライムポリマ社製、商品名:ハイゼックス5305E)30質量部、エチレン-アクリル酸エチル-無水マレイン酸3元共重合体(アルケマ社製、商品名:ボンダインLX4110)30質量部、無水マレイン酸変性エチレン-α-オレフィン(三井化学社製、商品名:タフマMA7020)10質量部、エチレン-アクリル酸エチル共重合体(日本ポリエチレン社製、商品名:レクスパールA1150)30質量部、水酸化マグネシウム(協和化学社製、商品名:キスマ5L)150質量部を、14インチオープンロールにて混練し、造粒機でペレット化したものを用いた。絶縁内層11bの厚さが0.1mm、絶縁外層11cの厚さが0.16mmになるように、40mm押出機にて導体11aの外側に2層押出を行い、導体11aを絶縁内層11bおよび絶縁外層11cで被覆した。得られた電線11に電子線を照射し架橋を行った。
【0066】
次いで、上記電線11を用いてケーブル(
図2参照)を製造した。得られた電線11を2本撚り合わせて撚り合わせコアとし、その上に、32μmのポリエチレンテレフタレートのセパレータ12bをラップ巻きし、その上に、0.11mmのスズメッキ銅導体を用いて編組密度80%のシールド編組12cを形成し、コアを形成した。
【0067】
上記コアに表1、表2に示す組成物を厚さ0.7mmになるように、40mm押出機にて押出し、シース12dを形成した。得られたケーブルのシース12dに、表1、表2に示した照射量で電子線を照射し、シース12dを架橋させることにより、ケーブル12を製造した。ケーブル12の製造に関する詳細な操作等は後述する。
【0068】
<評価および判定>
上記得られたケーブル12のシース12dについて、押出成形性、引張強さ、伸び、耐油引張強さ残率、耐油伸び残率、低温伸び、難燃性の各特性について、以下のように試験、評価を行い、その結果を表1、表2にまとめて示した。
【0069】
[押出成形性]
上記シースの押出成形時に、問題なく押出成形ができれば○(良)、ハロゲンフリー樹脂組成物の粘度が高いことにより、押出成形ができない場合×(不可)、とした。
【0070】
[引張試験]
得られたケーブルから撚り合わせコア等を引き抜き、チューブ状のシースを6号ダンベルにより打ち抜き、試験片を得た。室温(25℃)にて、試験片を250mm/minの変位速度で引張り、破断するまでの荷重および伸び後長さ(Lb)を測定した。上記荷重から引張強さ(単位[MPa])を算出した。また、当初長さLaと伸び後長さLbとから破断伸び((Lb-La)/La)×100[%])を算出した。破断伸びが、200%以上のものを◎(優)とし、150%以上200%未満のものを○(良)、150%未満のものを×(不可)とした。
【0071】
[低温試験]
得られたケーブルから撚り合わせコア等を引き抜き、チューブ状のシースを6号ダンベルにより打ち抜き、試験片を得た。試験片を-50℃に保持し、-50℃の雰囲気下において試験片を25mm/minの変位速度で引張り、破断するまでの伸び(L2)を測定した。当初長さL1と伸びL2とから、低温伸び((L2/L1)×100[%])を算出した。低温伸びが、50%以上のものを◎(優)とし、30%以上50%未満のものを○(良)、30%未満のものを×(不可)とした。
【0072】
[耐油試験]
ケーブルから撚り合わせコア等を引き抜き、チューブ状のシースを6号ダンベルにより打ち抜き、試験片を得た。試験片を100℃に熱したIRM902試験油に72時間浸漬した後、試験片を250mm/minの変位速度で引張り、破断するまでの応力および伸びを測定した。試験油に浸漬する前に試験片の引張強さ(A1)、破断伸び(B1)と、試験油に浸漬した後の試験片の引張強さ(A2)、破断伸び(B2)と、から耐油引張強さの残率((A2/A1)×100[%])、耐油破断伸び残率((B2/B1)×100[%])を算出した。
【0073】
耐油引張強さの残率が70~130%に収まれば○(良)、70~130%の範囲外であれば×(不可)とした。なお、特に、85~115%の範囲に収まる場合を◎(優)とした。
【0074】
耐油破断伸び残率が60~140%に収まれば○(良)、60~140%の範囲外であれば×(不可)とした。なお、特に、80~120%の範囲に収まる場合を◎(優)とした。
【0075】
[燃焼試験(難燃性)]
長さ600mmのケーブルを試験片として切出し、試験片を垂直にて保ち、炎を60秒あてた後、炎を取り去った場合に、自己消化したものを◎(優)とした。自己消化しなかったものについて、試験片を変えて、同じ試験を続けて2回行い、3回の試験のうち、ひとつでも自己消火したものを○(良)とした。3回とも自己消火しなかったものについて、60°傾斜をかけて、試験片を保持し炎を60秒あてた後、炎を取り去った場合に、自己消火したものを△(可)とした。この60°傾斜の燃焼試験でも自己消火しないものを×(不可)とした。
【0076】
[総合評価]
総合評価としては、押出成形性以外の上記特性の評価(引張試験(破断伸び)、低温試験(低温伸び)、耐油試験(耐油引張強さ残率、耐油破断伸び残率)、燃焼試験(難燃性))において、全てが◎のものを◎(優)とし、○が含まれるものを○(良)、×が含まれるものを×(不可)、とした。
【0077】
【0078】
【0079】
(実施例1)
結晶性ポリオレフィン1(LLDPE、プライムポリマ社製、商品名:SP1510;融点117℃)60質量部、変性ポリオレフィン1(無水マレイン酸変性ポリオレフィン、三井化学社製、商品名:タフマMH7020)40質量部、金属水酸化物1(水酸化マグネシウム、神島化学工業社製、商品名:マグシーズS4)180質量部、着色剤(カーボンブラック、旭カーボン社製、商品名:アサヒサーマル)2質量部、酸化防止剤1(フェノール系酸化防止剤、BASF社製、商品名:イルガノックス1010)2質量部、酸化防止剤2(複合系酸化防止剤、ADEKA社製、商品名:アデカスタブAO-18)1質量部、滑剤(ステアリン酸亜鉛、堺化学社製、商品名:SZ-P)1質量部、架橋助剤(トリメチロールプロパントリメタクリレート(TMPT)、新中村化学社製)4質量部を混練した、ハロゲンフリー樹脂組成物を調製した。これを、シースの材料として用い上記のようにケーブルを製造した。実施例1では、75kGyで電子線照射した。
【0080】
表1により、実施例1では、全ての特性(押出成形性は除く)が◎であり、総合評価◎となった。
【0081】
(実施例2)
結晶性ポリオレフィン1(LLDPE、プライムポリマ社製、商品名:SP1510;融点117℃)60質量部、変性ポリオレフィン1(無水マレイン酸変性ポリオレフィン、三井化学社製、商品名:タフマMH7020)30質量部、変性ポリオレフィン2(無水マレイン酸変性ポリオレフィン、三井化学社製、商品名:タフマMH5040)10質量部、金属水酸化物2(水酸化アルミニウム、Huber社製、商品名:MARTIANL OL-104C)220質量部、着色剤(カーボンブラック、旭カーボン社製、商品名:アサヒサーマル)2質量部、酸化防止剤1(フェノール系酸化防止剤、BASF社製、商品名:イルガノックス1010)2質量部、酸化防止剤2(複合系酸化防止剤、ADEKA社製、商品名:アデカスタブAO-18)1質量部、滑剤(ステアリン酸亜鉛、堺化学社製、商品名:SZ-P)1質量部、架橋助剤(トリメチロールプロパントリメタクリレート(TMPT)、新中村化学社製)4質量部を混練した、ハロゲンフリー樹脂組成物をシースの材料として用いたケーブルを製造した。実施例2では、125kGyで電子線照射した。表1より、実施例2では、全ての特性が◎または○であり、総合評価○となった。
【0082】
(実施例3~6)
結晶性ポリオレフィン1(LLDPE、プライムポリマ社製、商品名:SP1510;融点117℃)30~40質量部、結晶性ポリオレフィン2(オレフィンブロックコポリマ(OBC)、ダウ・ケミカル社製、商品名:INFUSE9100;融点120℃)30~40質量部、変性ポリオレフィン1(無水マレイン酸変性ポリオレフィン、三井化学社製、商品名:タフマMH7020)30質量部、金属水酸化物1(水酸化マグネシウム、神島化学工業社製、商品名:マグシーズS4)180~200質量部、着色剤(カーボンブラック、旭カーボン社製、商品名:アサヒサーマル)2質量部、酸化防止剤1(フェノール系酸化防止剤、BASF社製、商品名:イルガノックス1010)2質量部、酸化防止剤2(複合系酸化防止剤、ADEKA社製、商品名:アデカスタブAO-18)1質量部、滑剤(ステアリン酸亜鉛、堺化学社製、商品名:SZ-P)1質量部、架橋助剤(トリメチロールプロパントリメタクリレート(TMPT)、新中村化学社製)4質量部を混練した、ハロゲンフリー樹脂組成物をシースの材料として用いたケーブルを製造した。実施例3~6では、125kGyで電線照射した。表1より、実施例3~6では、全ての特性が◎または○であり、総合評価○となった。
【0083】
(実施例7~10)
結晶性ポリオレフィン1(LLDPE、プライムポリマ社製、商品名:SP1510;融点117℃)30~40質量部、結晶性ポリオレフィン2(オレフィンブロックコポリマ(OBC)、ダウ・ケミカル社製、商品名:INFUSE9100;融点120℃)30~40質量部、変性ポリオレフィン2(無水マレイン酸変性ポリオレフィン、三井化学社製、商品名:タフマMH5040)30質量部、金属水酸化物1(水酸化マグネシウム、神島工業社製、商品名:マグシーズS4)180~200質量部、着色剤(カーボンブラック、旭カーボン社製、商品名:アサヒサーマル)2質量部、酸化防止剤1(フェノール系酸化防止剤、BASF社製、商品名:イルガノックス1010)2質量部、酸化防止剤2(複合系酸化防止剤、ADEKA社製、商品名:アデカスタブAO-18)1質量部、滑剤(ステアリン酸亜鉛、堺化学社製、商品名:SZ-P)1質量部、架橋助剤(トリメチロールプロパントリメタクリレート(TMPT)、新中村化学社製)4質量部を混練した、ハロゲンフリー樹脂組成物をシースの材料として用いたケーブルを製造した。実施例7~10では、125kGyで電子線照射した。表1より、実施例7~10では、全ての特性が◎または○であり、総合評価も○となった。
【0084】
(実施例11)
結晶性ポリオレフィン1(LLDPE、プライムポリマ社製、商品名:SP1510;融点117℃)40質量部、結晶性ポリオレフィン3(エチレン-エチルアクリレートコポリマ(EEA)、日本ポリエチレン社製、商品名:A3100;融点104℃)30質量部、変性ポリオレフィン1(無水マレイン酸変性ポリオレフィン、三井化学社製、商品名:タフマMH7020)30質量部、金属水酸化物1(水酸化マグネシウム、神島化学工業社製、商品名:マグシーズS4)180質量部、着色剤(カーボンブラック、旭カーボン社製、商品名:アサヒサーマル)2質量部、酸化防止剤1(フェノール系酸化防止剤、BASF社製、商品名:イルガノックス1010)2質量部、酸化防止剤2(複合系酸化防止剤、ADEKA社製、商品名:アデカスタブAO-18)1質量部、滑剤(ステアリン酸亜鉛、堺化学社製、商品名:SZ-P)1質量部、架橋助剤(トリメチロールプロパントリメタクリレート(TMPT)、新中村化学社製)4質量部を混練した、ハロゲンフリー樹脂組成物をシースの材料として用いたケーブルを製造した。実施例11では、100kGyで電子線照射した。表1より、実施例11では、全ての特性が◎または○であり、総合評価も○となった。
【0085】
(比較例1)
結晶性ポリオレフィン1(LLDPE、プライムポリマ社製、商品名:SP1510;融点117℃)55質量部、結晶性ではない非結晶性ポリオレフィン(エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)、三井・ダウポリケミカル社製、商品名:EV45X)15質量部、変性ポリオレフィン3(無水マレイン酸変性ポリオレフィン、三井化学社製、商品名:タフマMH7010)30質量部、金属水酸化物1(水酸化マグネシウム、神島化学工業社製、商品名:マグシーズS4)180質量部、着色剤(カーボンブラック、旭カーボン社製、商品名:アサヒサーマル)2質量部、酸化防止剤1(フェノール系酸化防止剤、BASF社製、商品名:イルガノックス1010)2質量部、酸化防止剤2(複合系酸化防止剤、ADEKA社製、商品名:アデカスタブAO-18)1質量部、滑剤(ステアリン酸亜鉛、堺化学社製、商品名:SZ-P)1質量部、架橋助剤(トリメチロールプロパントリメタクリレート(TMPT)、新中村化学社製)4質量部を混練した、ハロゲンフリー樹脂組成物をシースの材料として用いたケーブルを製造した。比較例1では、75kGyで電子線照射した。
【0086】
表2より、比較例1では、結晶性ポリオレフィンの含有量が十分でないため、耐油引張強さ残率が70~130%に収まらず、低温伸びが30%を下回り、それぞれ評価が×となったため、総合評価は×となった。
【0087】
(比較例2)
結晶性ポリオレフィン1(LLDPE、プライムポリマ社製、商品名:SP1510;融点117℃)50質量部、結晶性ポリオレフィン3(エチレン-エチルアクリレートコポリマ(EEA)、日本ポリエチレン社製、商品名:A3100;融点104℃)30質量部、変性ポリオレフィン1(無水マレイン酸変性ポリオレフィン、三井化学社製、商品名:タフマMH7020) 20質量部、金属水酸化物1(水酸化マグネシウム、神島化学工業社製、商品名:マグシーズS4)180質量部、着色剤(カーボンブラック、旭カーボン社製、商品名:アサヒサーマル)2質量部、酸化防止剤1(フェノール系酸化防止剤、BASF社製、商品名:イルガノックス1010)2質量部、酸化防止剤2(複合系酸化防止剤、ADEKA社製、商品名:アデカスタブAO-18)1質量部、滑剤(ステアリン酸亜鉛、堺化学社製、商品名:SZ-P)1質量部、架橋助剤(トリメチロールプロパントリメタクリレート(TMPT)、新中村化学社製)4質量部を混練した、ハロゲンフリー樹脂組成物をシースの材料として用いたケーブルを製造した。比較例2では、75kGyで電子線照射した。
【0088】
表2より、比較例2では、変性ポリオレフィンの含有量が十分でないため、低温伸びが30%を下回り、評価が×となったため、総合評価は×となった。
【0089】
(比較例3)
結晶性ポリオレフィン1(LLDPE、プライムポリマ社製、商品名:SP1510;融点117℃)50質量部、変性ポリオレフィン1(無水マレイン酸変性ポリオレフィン、三井化学社製、商品名:タフマMH7020)30質量部、変性ポリオレフィン2(無水マレイン酸変性ポリオレフィン、三井化学社製、商品名:タフマMH7040)20質量部、金属水酸化物3(水酸化アルミニウム、Huber社製、商品名:MARTIANL OL-104C)240質量部、着色剤(カーボンブラック、旭カーボン社製、商品名:アサヒサーマル)2質量部、酸化防止剤1(フェノール系酸化防止剤、BASF社製、商品名:イルガノックス1010)2質量部、酸化防止剤2(複合系酸化防止剤、ADEKA社製、商品名:アデカスタブAO-18)1質量部、滑剤(ステアリン酸亜鉛、堺化学社製、商品名:SZ-P)1質量部、架橋助剤(トリメチロールプロパントリメタクリレート(TMPT)、新中村化学社製)4質量部を混練した、ハロゲンフリー樹脂組成物をシースの材料として用いたケーブルを製造した。比較例3では、75kGyで電子線照射した。
【0090】
表2より、比較例3では、金属水酸化物の添加量が多く、変性ポリオレフィンの量も多いため、破断伸びが150%を下回り、評価が×となったため、総合評価は×となった。
【0091】
(比較例4)
結晶性ポリオレフィン1(LLDPE、プライムポリマ社製、商品名:SP1510;融点117℃)40質量部、結晶性ポリオレフィン3(エチレン-エチルアクリレートコポリマ(EEA)、日本ポリエチレン社製、商品名:A3100;融点104℃)50質量部、変性ポリオレフィン1(無水マレイン酸変性ポリオレフィン、三井化学社製、商品名:タフマMH7020)10質量部、金属水酸化物2(水酸化アルミニウム、Huber社製、商品名:MARTIANL OL-104ZO)160質量部、着色剤(カーボンブラック、旭カーボン社製、商品名:アサヒサーマル)2質量部、酸化防止剤1(フェノール系酸化防止剤、BASF社製、商品名:イルガノックス1010)2質量部、酸化防止剤2(複合系酸化防止剤、ADEKA社製、商品名:アデカスタブAO-18)1質量部、滑剤(ステアリン酸亜鉛、堺化学社製、商品名:SZ-P)1質量部、架橋助剤(トリメチロールプロパントリメタクリレート(TMPT)、新中村化学社製)4質量部を混練した、ハロゲンフリー樹脂組成物をシースの材料として用いたケーブルを作製した。比較例4では、125kGyで電子線照射した。
【0092】
表2より、比較例4では、金属水酸化物の含有量が十分でないため、難燃試験で×となったため、総合評価は×となった。
【0093】
(比較例5)
結晶性ポリオレフィン1(LLDPE、プライムポリマ社製、商品名:SP1510;融点117℃)60質量部、結晶性ではない非結晶性ポリオレフィン(エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)、三井・ダウポリケミカル社製、商品名:EV45X)30質量部、変性ポリオレフィン1(無水マレイン酸変性ポリオレフィン、三井化学社製、商品名:タフマMH7020)10質量部、金属水酸化物2(水酸化アルミニウム、Huber社製、商品名:MARTIANL OL-104ZO)180質量部、着色剤(カーボンブラック、旭カーボン社製、商品名:アサヒサーマル)2質量部、酸化防止剤1(フェノール系酸化防止剤、BASF社製、商品名:イルガノックス1010)2質量部、酸化防止剤2(複合系酸化防止剤、ADEKA社製、商品名:アデカスタブAO-18)1質量部、滑剤(ステアリン酸亜鉛、堺化学社製、商品名:SZ-P)1質量部、架橋助剤(トリメチロールプロパントリメタクリレート(TMPT)、新中村化学社製)4質量部を混練した、ハロゲンフリー樹脂組成物をシースの材料として用いたケーブルを作製した。比較例5では、75kGyで電子線照射した。
【0094】
表2より、比較例5では、変性ポリオレフィンの含有量が十分でないため、低温伸びが30%を下回り、評価が×となったため、総合評価は×となった。
【0095】
以上の結果から、実施例1~11は、すべての評価において良好で、ハロゲンフリーでありながら、耐油性、低温特性を維持しながら、難燃性を向上できる優れたハロゲンフリー樹脂組成物となり、電線の絶縁層や、ケーブルのシース(被覆層)に好適であることがわかった。
【0096】
本発明について、上記実施の形態および実施例により説明したが、本発明は、上記実施の形態および実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
本発明のハロゲンフリー樹脂組成物は、ハロゲンフリーで難燃性の電線やケーブルだけではなく、ハロゲンフリー難燃性が必要なシート、フィルム、パネル、マット、パイプ、保護材、充填剤、繊維、樹脂成型品、樹脂基板、文具、建材、コネクタ、ブッシュ、グロメット、端子台、端子内部絶縁体等に使用可能である。