(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024164910
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】半導体部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/3063 20060101AFI20241121BHJP
H01L 21/308 20060101ALI20241121BHJP
H01L 29/78 20060101ALI20241121BHJP
H01L 21/336 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
H01L21/306 L
H01L21/308 C
H01L29/78 653C
H01L29/78 654A
H01L29/78 652F
H01L29/78 652S
H01L29/78 658G
H01L29/78 652L
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023080631
(22)【出願日】2023-05-16
(71)【出願人】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100187632
【弁理士】
【氏名又は名称】橘高 英郎
(72)【発明者】
【氏名】藤倉 序章
【テーマコード(参考)】
5F043
【Fターム(参考)】
5F043AA03
5F043AA04
5F043AA05
5F043BB07
5F043BB08
5F043BB10
5F043DD08
5F043DD14
5F043DD24
5F043EE14
5F043FF05
(57)【要約】
【課題】半導体素子等に用いられる半導体部材の新規な製造方法を提供する。
【解決手段】半導体部材の製造方法は、導電性の半導体で構成されたウエハ、および、ウエハの上面上に配置されたマスク、を備える処理対象物を準備する工程と、処理対象物をエッチング液に浸漬し、ウエハの前記上面側から光を照射することで、ウエハを光電気化学エッチングする工程と、を有し、ウエハを光電気化学エッチングする工程では、ウエハのマスクの外側部分をエッチングすることで、マスクの下方に凸部を形成し、凸部の互いに対向する第1の側面と第2の側面との間の全幅が空乏するまで、第1の側面および第2の側面をエッチングすることで、第1の側面および第2の側面のエッチングを自動的に停止させる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性の半導体で構成されたウエハ、および、前記ウエハの上面上に配置されたマスク、を備える処理対象物を準備する工程と、
前記処理対象物をエッチング液に浸漬し、前記ウエハの前記上面側から光を照射することで、前記ウエハを光電気化学エッチングする工程と、
を有し、
前記ウエハを光電気化学エッチングする工程では、
前記ウエハの前記マスクの外側部分をエッチングすることで、前記マスクの下方に凸部を形成し、
前記凸部の互いに対向する第1の側面と第2の側面との間の全幅が空乏するまで、前記第1の側面および前記第2の側面をエッチングすることで、前記第1の側面および前記第2の側面のエッチングを自動的に停止させる、
半導体部材の製造方法。
【請求項2】
前記マスクは、線状部分を含み、
前記ウエハを光電気化学エッチングする工程では、最狭部の幅が200nm以上2000nm以下である線状部分を含む前記凸部を形成する、
請求項1に記載の半導体部材の製造方法。
【請求項3】
前記マスクは、島状部分を含み、
前記ウエハを光電気化学エッチングする工程では、最狭部の幅が200nm以上2000nm以下である島状部分を含む前記凸部を形成する、
請求項1に記載の半導体部材の製造方法。
【請求項4】
前記凸部の側面にゲート電圧を印加するゲート電極、前記凸部の上下方向の一方側に配置されるソース電極、および、前記凸部の上下方向の他方側に配置されるドレイン電極、を形成する工程、
をさらに有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の半導体部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体材料に構造が形成された半導体部材は、半導体素子等に広く用いられている。例えば、ゲート部としてフィン構造が形成されたフィン電界効果トランジスタが知られている(例えば特許文献1参照)。例えば半導体素子に用いられる構造は、素子の動作特性に影響するため、精密な形状で形成されることが好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の一目的は、半導体素子等に用いられる半導体部材の新規な製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様によれば、
導電性の半導体で構成されたウエハ、および、前記ウエハの上面上に配置されたマスク、を備える処理対象物を準備する工程と、
前記処理対象物をエッチング液に浸漬し、前記ウエハの前記上面側から光を照射することで、前記ウエハを光電気化学エッチングする工程と、
を有し、
前記ウエハを光電気化学エッチングする工程では、
前記ウエハの前記マスクの外側部分をエッチングすることで、前記マスクの下方に凸部を形成し、
前記凸部の互いに対向する第1の側面と第2の側面との間の全幅が空乏するまで、前記第1の側面および前記第2の側面をエッチングすることで、前記第1の側面および前記第2の側面のエッチングを自動的に停止させる、
半導体部材の製造方法
が提供される。
【発明の効果】
【0006】
半導体素子等に用いられる半導体部材の新規な製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1(a)および
図1(b)は、それぞれ、本発明の実施形態によるFET100を模式的に示す断面図および上面図である。
【
図2】
図2(a)は、実施形態によるPECエッチングにおける処理対象物150を模式的に示す断面図であり、
図2(b)は、実施形態によるPECエッチング装置200を模式的に示す断面図である。
【
図3】
図3(a)~
図3(c)は、実施形態によるPECエッチングにおける、ウエハ10aおよび半導体部材10の、マスク160の近傍部分を示す概略断面図である。
【
図4】
図4(a)および
図4(b)は、それぞれ、第1の変形例によるFET100を模式的に示す断面図および上面図である。
【
図5】
図5は、第2の変形例によるFET100を模式的に示す上面図である。
【
図6】
図6(a)は、ショットキー障壁Φ
Bが1eVである場合の、各キャリア濃度nにおける空乏層幅W
Dの2倍の値の、印加電圧Vに対する依存性を示す表である。
図6(b)は、閾値の許容誤差が±50mVである場合、および、±100mVである場合の、ゲート凸部16の幅Wの許容誤差を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の実施形態による、半導体部材の製造方法について説明する。ここでは、実施形態による半導体部材の例として、半導体素子である電界効果トランジスタ(FET)を挙げて説明を進める。なお、実施形態による半導体部材は、半導体部材のみを有するものであってもよいし、本例のように、半導体部材、および、電極等の他の部材を有するものであってもよい。また、実施形態の製造方法で製造された半導体部材の用途は、FETに限定されなくてよい。
【0009】
実施形態によるFET100の構造および動作について例示的に説明する。
図1(a)および
図1(b)は、それぞれ、実施形態によるFET100を模式的に示す断面図および上面図である。FET100は、半導体部材10と、ゲート電極20と、ソース電極30と、ドレイン電極40と、を有する。なお、FET100は、必要に応じて、絶縁膜等のその他の部材を有してよい。
【0010】
半導体部材10は、n型の導電性不純物(以下単に、不純物とも呼ぶ)を所定濃度含むことで導電性を有する半導体材料で構成される。半導体部材10を構成する半導体材料としては、光電気化学(PEC)エッチングによりエッチングが可能な材料を適宜用いることができ、例えば、窒化ガリウム(GaN)、炭化シリコン(SiC)等が用いられる。なお、GaN等のワイドギャップ半導体に限らず、砒化ガリウム(GaAs)、リン化インジウム(InP)等の従来の化合物半導体が用いられてもよい。ここでは、半導体部材10を構成する半導体材料として、シリコン(Si)等のn型不純物を含有するGaNを例として説明を進める。
【0011】
本例のFET100に用いられる半導体部材10は、基板11と、基板11上にエピタキシャル成長された層12(以下、ドリフト層12と呼ぶ)と、を有する。ドリフト層12に、実施形態による製造方法(加工方法)、具体的にはPECエッチングにより、凸部16(以下、ゲート凸部16と呼ぶ)が形成されている。ゲート凸部16は、幅Wを有する(
図3(c)参照)。詳細は後述するように、ゲート凸部16の幅Wは、ドリフト層12のキャリア濃度によって決定される。換言すると、所定の幅Wが得られるように、ドリフト層12のキャリア濃度が、つまりドリフト層12に添加される不純物濃度が、設定されている。
【0012】
例えば、ドリフト層12のキャリア濃度を1×10
16/cm
3程度とすることで、ゲート凸部16の幅Wを600nmとすることができる(
図6(a)参照)。ドリフト層12のキャリア濃度を低くすることで、ゲート凸部16の幅Wを広げることができ、ドリフト層12のキャリア濃度を高くすることで、ゲート凸部16の幅Wを狭めることができる(
図6(a)参照)。ゲート凸部16の幅W(より具体的には、ゲート凸部16の最狭部の幅W)は、好ましくは200nm以上2000nm以下である。ゲート凸部16の幅Wがこのような範囲となるように、ドリフト層12のキャリア濃度が設定されている。なお、(空乏層の幅が半導体材料の誘電率に依存するので、)用いる半導体材料に応じて、ドリフト層12のキャリア濃度と、ゲート凸部16の幅Wと、の関係性はある程度変動しうる。用いる半導体材料における、ドリフト層12のキャリア濃度と、ゲート凸部16の幅Wと、の精密な関係性は、例えば予備的な実験により求められてよく、求められた精密な関係性に基づいて、ドリフト層12のキャリア濃度が設定されてよい。
【0013】
半導体部材10の上面部、つまりドリフト層12の上面部に、ゲート凸部16が形成されており、ゲート凸部16の(平面視における)外側部分に、凹部15(以下、ゲート凹部15と呼ぶ)が形成されている。
【0014】
ゲート凸部16は、FET100のゲート部として機能する。本例において、FET100はフィンFETであり、
図1(b)に示すように、ゲート凸部16(右上がりのハッチング部)は、フィン状(線状)の形状を有する。
【0015】
ゲート凸部16の高さ(つまりゲート凹部15の深さ)は、適宜設定されてよく、例えば1μm程度である。なお、ゲート凸部16の高さは、ゲート部の電流流れ方向の厚さであり、薄すぎる(低すぎる)と、電流制御の観点で好ましくない。このため、ゲート凸部16の高さは、つまり、ゲート凸部16を形成する際のPECエッチングの深さは、例えば500nm以上であることが好ましい。
【0016】
ゲート凹部15の内面上、少なくともゲート凸部16の側面上に、ゲート電極20が配置されている。ゲート電極20は、ゲート凸部16の側部を両側から挟むように、ゲート凸部16の一方側の側面上と、この側面に対向する他方側の側面上と、に配置されている。ゲート電極20は、半導体部材10の上面上に配置されたゲートパッド21に接続されており、ゲートパッド21を介して外部の回路に接続される。
【0017】
ゲート電極20により、ゲート凸部16の側面にゲート電圧が印加される。ゲート電圧を制御することで、ゲート凸部16内のキャリア分布を変化させてFET100のオン状態とオフ状態とを切り替えることができる。詳細は後述するように、実施形態の製造方法により形成されたゲート凸部16は、全空乏しているため、FET100は、ノーマリーオフ型となる。つまり、ゲート電極20に所定の正電圧を印加するオン動作により、ゲート凸部16内の電子を増加させて、FET100をオン状態とすることができる。
【0018】
なお、
図1(a)および
図1(b)には、ゲート凸部16の側面上にゲート電極20が直接配置されたショットキー型のゲート電極構造を例示しているが、必要に応じて、ゲート凸部16の側面上にゲート絶縁膜を介してゲート電極20が配置されたMOS型のゲート電極構造を用いてもよい。
【0019】
ゲート凸部16の上面上に(ゲート凸部16の上下方向の一方側に)、ソース電極30が配置されている。ソース電極30は、半導体部材10の上面上に配置されたソースパッド31に接続されており、ソースパッド31を介して外部の回路に接続される。半導体部材10の下面上、つまり基板11の下面上に(ゲート凸部16の上下方向の他方側に)、ドレイン電極40が配置されている。
【0020】
ソース電極30とドレイン電極40との間に所定電圧が印加された状態で、ゲート電極20にゲート電圧を印加してFET100をオン状態とすることにより、半導体部材10の厚さ方向(縦方向)にドレイン電流が流れるように、FET100を動作させることができる。
【0021】
FET100の製造方法について例示的に説明する。ゲート凸部16がまだ形成されていない平板状の半導体部材10a(以下、ウエハ10aと呼ぶ)の上面部に(ドリフト層12の上面部に)、ゲート凸部16を形成する。ウエハ10aにゲート凸部16を形成することで、半導体部材10が得られる。実施形態によるFET100の製造方法は、以下詳しく説明するように、ゲート凸部16をPECエッチングにより形成するという特徴を有する。
【0022】
その後、金属膜をパターン形成する公知の技術、絶縁膜をパターン形成する公知の技術、等を適宜用いて、ゲート電極20、ソース電極30、ドレイン電極40、および、絶縁膜等のその他の部材を、半導体部材10上に形成することで、FET100が製造される。
【0023】
ゲート凸部16をPECエッチングにより形成する工程について、詳しく説明する。
図2(a)は、実施形態によるPECエッチングにおける処理対象物150を模式的に示す断面図である。処理対象物150は、ウエハ10aと、マスク160と、を有する。ウエハ10aは、上述のように、基板11と、ドリフト層12と、を有する。マスク160は、ウエハ10aの上面の(ドリフト層12の上面の)、ゲート凸部16が形成されるべき領域上に配置されている。マスク160としては、レジストマスク、ハードマスク等が適宜用いられてよい。マスク160は、後述のPECエッチングで照射される光231を透過させない遮光性であることが好ましい。
【0024】
図2(b)は、実施形態によるPECエッチング装置200を模式的に示す断面図である。容器210にエッチング液(電解液)220が収容され、エッチング液220に処理対象物150が浸漬される。ウエハ10aの下面上に(基板11の下面上に)、処理対象物側電極241が配置され、そして、処理対象物側電極241と、ウエハ10aの下面および側面とが、エッチング液220に露出しないように(エッチング液220に電気的に接触しないように)レジスト等の被覆部材244で覆われた状態で、処理対象物150が、エッチング液220に浸漬される。これにより、ウエハ10aの上面の(ドリフト層12の上面の)マスク160の開口領域が、選択的に、エッチング液220に露出する。
【0025】
エッチング液220としては、ウエハ10aを構成する半導体材料を(より具体的にはドリフト層12を構成する半導体材料を)PECエッチング可能なエッチング液が適宜用いられてよい(水酸化カリウム水溶液、リン酸水溶液、等)。エッチング液220は、必要に応じて、アルカリ性であっても酸性であってもよい。後述のように、エッチング液220のpHは、ゲート凸部16の幅Wに応じて適宜調整され、好適なpHに対応したエッチング液220が用いられる。
【0026】
処理対象物側電極241に、(絶縁被覆された)配線242の一端が接続される。配線242の他端に、エッチング液側電極243が取り付けられ、エッチング液側電極243は、エッチング液220に浸漬される。配線242の途中に、電圧源240が配置される。電圧源240により、処理対象物側電極241とエッチング液側電極243との間に、つまり、ウエハ10aとエッチング液220との間に、PECエッチングを行うための所定のエッチング電圧が印加される。
【0027】
ウエハ10aとエッチング液220との間にエッチング電圧が印加された状態で、光源230から、ウエハ10aの上面、つまり、エッチングされるべき表面であるドリフト層12の上面に、PECエッチングを行うための光231が照射される。このようにして、ウエハ10aに対するPECエッチングが行われる。
【0028】
図3(a)~
図3(c)は、実施形態によるPECエッチングにおける、ウエハ10aおよび半導体部材10の、マスク160の近傍部分を示す概略断面図である。
図3(a)を参照する。エッチング電圧として、ウエハ10a側が正、エッチング液220側が負となる電圧を印加する。光231として、エッチングされる領域であるウエハ10aの上面を構成する半導体材料のバンドギャップよりも大きなエネルギーに対応する波長を有する光を照射する。
【0029】
ウエハ10aの上面に、空乏層10D(右上がりのハッチング部)が形成されている。ウエハ10aの上面への光231の照射による光励起により、当該上面の表層において電子と正孔とが対で生成する。エッチング液220に印加された負電圧により、正孔がウエハ10aの上面側(エッチング液220側)に誘導される。正孔により半導体材料が酸化され、酸化物がエッチング液に溶解されることで、エッチングが進行する。ウエハ10aがGaNで構成される例では、正孔によりGaNがガリウム(Ga)と窒素(N)とに分解され、ガリウムがエッチング液220に含有される酸素により酸化されて酸化ガリウムが生成し、酸化ガリウムが酸性またはアルカリ性のエッチング液220に溶解されることで、エッチングが進行する。正孔と対で生成した電子は、ウエハ10aの下面側に誘導される。
【0030】
図3(b)を参照する。ウエハ10aの(平面視における)マスク160の外側部分をエッチングしてゲート凹部15を形成することで、マスク160の下方にゲート凸部16を形成する(マスク160の下方にゲート凸部16を残す)。ゲート凹部15の底面のエッチングが進む(ゲート凹部15が深くなる)につれ、ゲート凹部15の側面であるゲート凸部16の側面のエッチングも進む。つまり、ゲート凸部16の互いに対向する側面16aおよび側面16bのエッチングが進んで、ゲート凸部16の幅が狭くなる。
【0031】
ゲート凸部16の側面16aおよび側面16bに光231が照射されやすくなるように、光231は、ウエハ10aの上面に対して斜めに入射する光成分を有することが好ましい。また、側面16aおよび側面16bのエッチングにより、ゲート凸部16の幅は、マスク160の幅よりも狭くなる。このため、ゲート凸部16の最終的に得たい幅Wよりも、少々広い幅のマスク160を形成することが好ましい。
【0032】
正孔は、ウエハ10aの空乏していない領域を拡散することで移動する。ゲート凸部16の幅が十分に広い段階、具体的には、ゲート凸部16において、側面16aに形成された空乏層10Dと、側面16bに形成された空乏層10Dとの間に、空乏していない領域が残っている段階では、この領域を正孔が移動することで側面16aおよび側面16bのエッチングが進む。
【0033】
図3(c)を参照する。ゲート凸部16の全幅が空乏層10Dとなるような幅Wまで、ゲート凸部16の幅が狭くなった段階で、正孔が移動できなくなることにより、側面16aおよび側面16bのエッチングが自動的に停止する。
【0034】
ゲート凸部16の幅が幅Wに達して側面16aおよび側面16bのエッチングが停止した後、ゲート凹部15の深さが所定の深さに達するまでエッチングが進んだら、光231の照射を停止することで、PECエッチングを終了させる。
【0035】
本例のFET100はフィンFETであり、マスク160は、(平面視で)線状部分を含む。PECエッチング工程では、(平面視での)最狭部の幅Wが200nm以上2000nm以下である線状部分を含むゲート凸部16を形成する。
【0036】
以上説明したように、PECエッチングによりゲート凸部16を形成する工程は(実施形態による半導体部材10の製造方法は)、処理対象物150を準備する工程と、処理対象物150をエッチング液220に浸漬し、ウエハ10aの上面側から光231を照射することで、ウエハ10aをPECエッチングする工程と、を有する。
【0037】
ウエハ10aをPECエッチングする工程では、ウエハ10aのマスク160の外側部分をエッチングすることで、マスク160の下方にゲート凸部16を形成し、ゲート凸部16の互いに対向する側面16aと側面16bとの間の全幅が空乏するまで、側面16aおよび側面16bをエッチングすることで、側面16aおよび側面16bのエッチングを自動的に停止させる。
【0038】
実施形態により形成されるゲート凸部16の幅Wは、空乏層10Dの幅によって決定される。以下説明するように、空乏層10Dの幅は、半導体部材10の、より具体的にはゲート凸部16が形成される部分(本例ではドリフト層12)のキャリア濃度、および、エッチング液220のpHにより決定される。したがって、マスク160のサイズに誤差があっても、当該キャリア濃度、および、エッチング液220のpHによって、ゲート凸部16の幅Wを精密に制御することができる。
【0039】
フィンFET型のパワーデバイスにおいては、オン・オフを切り替えるための閾値電圧が、ゲート部であるゲート凸部16の幅Wにより決定される。このため、幅Wは、精密に制御されることが好ましい。好ましい幅Wは、以下のように見積もられる。
【0040】
半導体部材10がGaNで構成され、ゲート電極20が金(Au)で構成されているショットキー型のゲート電極構造の態様を例示する。ショットキー接合における空乏層幅W
Dは、
【数1】
と表される。ここで、ε
rはGaNの比誘電率9.5であり、ε
0は真空の誘電率8.85×10
-12F/mであり、Φ
biは内蔵電位であり、Vは印加電圧であり、qは電気素量1.60×10
-19Cであり、nはGaNのキャリア濃度である。
【0041】
内蔵電位Φ
biは、
【数2】
と表される。ここで、Φ
BはGaNとAuとの接触におけるショットキー障壁1eVであり、kはボルツマン定数1.38×10
-23J/Kであり、tは絶対温度300Kであり、N
CはGaNの伝導帯の実効状態密度2.59×10
24/m
3である。
【0042】
空乏層幅W
Dの2倍となるようにゲート凸部16の幅Wが形成されていることで、ゲート電極20に電圧Vが印加された際、ゲート凸部16の全幅が空乏化する。
図6(a)は、ショットキー障壁Φ
Bが1eVである場合の、各キャリア濃度nにおける空乏層幅W
Dの2倍の値(つまり全空乏するゲート凸部16の幅Wの値)の、印加電圧Vに対する依存性を示す表である。
【0043】
キャリア濃度nは、5×1015/cm3、8×1015/cm3、1×1016/cm3、および、2×1016/cm3と変化させている。印加電圧Vは、+0.2Vから-0.35Vまで0.05V(50mV)刻みで変化させている。幅Wはnm単位で示している。キャリア濃度nが5×1015/cm3で2.5kV耐圧、1×1016/cm3で1.5kV耐圧のGaNパワーデバイスを実現できる。
【0044】
特定のキャリア濃度nについて、ゲート凸部16の幅Wがこの表の値の場合に、印加電圧Vにおいて、フィンFETが丁度オフ状態に達する。つまり、この印加電圧Vが閾値となる。例えば、キャリア濃度nが1×1016/cm3であるとき、幅Wが600nmであることにより、印加電圧Vが0において、幅Wの全体が空乏化して、フィンFETがオフ状態となる。
【0045】
印加電圧Vが0で丁度オフ状態となる(ピンチオフする)設計の場合について考える。
図6(b)は、閾値の許容誤差が±50mVである場合、および、±100mVである場合の、ゲート凸部16の幅Wの許容誤差を示す表である。閾値電圧の許容誤差が±50-100mVの場合、ゲート凸部16の幅Wの許容誤差は、±10-50nmとなる。ゲート凸部16の幅Wの許容誤差を、このように低く抑制することは、従来のリソグラフィーでは達成が非常に難しい。
【0046】
実施形態では、上述のように、PECエッチングによりゲート凸部16が形成される。エッチング液220と接触している半導体部材10の障壁高さは、エッチング液220のpHにより制御される。したがって、PECエッチングにおける空乏層幅WDは、つまり形成されるゲート凸部16の幅Wは、エッチング液220のpHにより制御される。
【0047】
より具体的には、作製されるショットキー電極構造におけるショットキー障壁ΦBと同等となるように、エッチング液220のpHを調整することで、PECエッチングにおける空乏層幅WDを、ショットキー電極構造における印加電圧V=0の場合の空乏層幅WDと等しくなるように、調整することができる。このようにして、ショットキー電極構造が形成された際に印加電圧Vが0で丁度オフ状態となるような、幅Wを有するゲート凸部16を、形成することができる。
【0048】
以上説明したように、実施形態によるゲート凸部16の幅Wは、キャリア濃度n、および、エッチング液220のpHにより精密に制御することができる。なお、現状の成長技術では、キャリア濃度nのウエハ面内でのバラツキを、平均±2%程度とすることは可能である。例えば、キャリア濃度nが1×1016/cm3±2%の場合、幅Wのウエハ面内での誤差は、±6nmであり、±10nm以下とすることが可能である。
【0049】
例えば、ステッパーを用いる紫外線リソグラフィーとドライエッチングとを併用してゲート凸部16を形成する比較形態では、素子の歩留は50%程度に留まる。これに対し、上述のような、実施形態のPECエッチングにより形成されるゲート凸部16では、幅Wの誤差を±10nm以下に抑えることができるため、歩留向上が図られる。
【0050】
ドライエッチングを用いる比較形態では、ドライエッチングに伴う半導体結晶へのダメージが懸念される。これに対し、実施形態では、ウェットエッチングであるPECエッチングによりゲート凸部16を形成するので、半導体結晶へのダメージが抑制される。また、実施形態では、幅Wを、ゲート凸部16の幅方向に関するエッチングの自動停止により定めることができる。さらに、実施形態では、全空乏したゲート凸部16を形成することができるため、得られるFET100をノーマリーオフ型とすることができる。
【0051】
次に、上述の実施形態の変形例によるFET100について説明する。
図4(a)および
図4(b)は、それぞれ、第1の変形例によるFET100を模式的に示す断面図および上面図である。
【0052】
上述の実施形態では、ショットキー型(あるいはMOS型)のゲート電極構造を有するFET100を例示した。ゲート電極構造は、これらに限定されない。第1の変形例として、pn型のゲート電極構造を有するFET100を例示する。
【0053】
第1の変形例では、ゲート凹部15内に、ドリフト層12と反対の導電型(つまりp型)の半導体層13(左上がりのハッチング部)が充填されている。ゲート電極20は、半導体層13上に形成されている。ゲート電圧は、半導体層13を介して、半導体層13とゲート凸部16とが形成するpn接合部に印加される。
【0054】
第1の変形例によるFET100の製造方法に関し、ゲート凸部16の形成工程までは、上述の実施形態と同様である。ゲート凸部16を形成した後、例えば再成長により、半導体層13を形成する。なお、必要に応じて、半導体層13を成長させた半導体部材10の上面を平坦化する研磨を行ってもよい。その後、ゲート電極20、ソース電極30、ドレイン電極40、および、絶縁膜等のその他の部材を、半導体部材10上に形成することで、第1の変形例によるFET100が製造される。
【0055】
図5は、第2の変形例によるFET100を模式的に示す上面図である。上述の実施形態では、フィン状(線状)のゲート凸部16を有するFET100を例示した。ゲート凸部16の形状は、これに限定されない。第2の変形例として、ロッド状(島状)のゲート凸部16を有するFET100(ナノロッド・トランジスタ)を例示する。ナノロッド・トランジスタでは、ゲート凸部16の(平面視における)全周を囲むゲート電極20が形成される。
【0056】
第2の変形例によるFET100の製造方法に関し、ゲート凸部16の形成工程が、上述の実施形態と異なる。本例において、マスク160は、(平面視で)島状部分を含む。PECエッチング工程では、(平面視での)最狭部の幅Wが200nm以上2000nm以下である島状部分を含むゲート凸部16を形成する。ゲート凸部16を形成した後に、ゲート電極20、ソース電極30、ドレイン電極40、および、絶縁膜等のその他の部材を、半導体部材10上に形成することで、第2の変形例によるFET100が製造される。
【0057】
第1の変形例および第2の変形例によるFET100についても、上述の実施形態と同様に、全空乏したゲート凸部16をPECエッチングにより形成することで幅Wを精密に制御できる、等の利点は同様である。
【0058】
<本発明の好ましい態様>
以下、本発明の好ましい態様について付記する。
【0059】
(付記1)
導電性の半導体で構成されたウエハ、および、前記ウエハの上面上に配置されたマスク、を備える処理対象物を準備する工程と、
前記処理対象物をエッチング液に浸漬し、前記ウエハの前記上面側から光を照射することで、前記ウエハを光電気化学エッチングする工程と、
を有し、
前記ウエハを光電気化学エッチングする工程では、
前記ウエハの前記マスクの外側部分をエッチングすることで、前記マスクの下方に凸部を形成し、
前記凸部の互いに対向する第1の側面と第2の側面との間の全幅が空乏するまで、前記第1の側面および前記第2の側面をエッチングすることで、前記第1の側面および前記第2の側面のエッチングを自動的に停止させる、
半導体部材の製造方法。
【0060】
(付記2)
前記マスクは、線状部分を含み、
前記ウエハを光電気化学エッチングする工程では、最狭部の幅が200nm以上2000nm以下である線状部分を含む前記凸部を形成する、
付記1に記載の半導体部材の製造方法。
【0061】
(付記3)
前記マスクは、島状部分を含み、
前記ウエハを光電気化学エッチングする工程では、最狭部の幅が200nm以上2000nm以下である島状部分を含む前記凸部を形成する、
付記1に記載の半導体部材の製造方法。
【0062】
(付記4)
前記凸部の側面にゲート電圧を印加するゲート電極、前記凸部の上下方向の一方側に配置されるソース電極、および、前記凸部の上下方向の他方側に配置されるドレイン電極、を形成する工程、
をさらに有する、付記1~3のいずれか1つに記載の半導体部材の製造方法。
【符号の説明】
【0063】
10…半導体部材、10a…ウエハ、10D…空乏層、11…基板、12…ドリフト層、13…半導体層、15…ゲート凹部、16…ゲート凸部、16a…側面、16b…側面、20…ゲート電極、21…ゲートパッド、30…ソース電極、31…ソースパッド、40…ドレイン電極、100…FET、150…処理対象物、160…マスク、200…PECエッチング装置、210…容器、220…エッチング液、230…光源、231…光、240…電圧源、241…処理対象物側電極、242…配線、243…エッチング液側電極、244…被覆部材