IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社日立ハイテクノロジーズの特許一覧

<>
  • 特開-撮影装置、および、撮影方法 図1
  • 特開-撮影装置、および、撮影方法 図2
  • 特開-撮影装置、および、撮影方法 図3
  • 特開-撮影装置、および、撮影方法 図4
  • 特開-撮影装置、および、撮影方法 図5
  • 特開-撮影装置、および、撮影方法 図6
  • 特開-撮影装置、および、撮影方法 図7
  • 特開-撮影装置、および、撮影方法 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024164941
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】撮影装置、および、撮影方法
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/20 20060101AFI20241121BHJP
   H01L 21/66 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
H01J37/20 A
H01L21/66 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023080687
(22)【出願日】2023-05-16
(71)【出願人】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】西岡 明
(72)【発明者】
【氏名】中川 周一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 秀紀
(72)【発明者】
【氏名】柴崎 智隆
(72)【発明者】
【氏名】水落 真樹
(72)【発明者】
【氏名】加藤 孝宜
【テーマコード(参考)】
4M106
5C101
【Fターム(参考)】
4M106AA01
4M106BA02
4M106CA39
4M106DB08
4M106DB20
4M106DH14
4M106DJ02
4M106DJ07
5C101AA03
5C101BB04
5C101EE53
5C101FF02
5C101FF56
5C101GG19
5C101GG22
5C101HH23
5C101HH25
5C101HH42
5C101JJ02
(57)【要約】
【課題】試料の熱膨張の有無に関わらず、試料を精度良く撮影できる撮影装置および撮影方法を提供する。
【解決手段】テーブルと、裏面が前記テーブルに固定され、表面で試料を吸着するチャックと、前記チャックの温度を取得する温度センサと、前記チャックに搭載された前記試料を撮影するカラムと、前記テーブルに設けられるミラーと、前記ミラーにレーザー光を照射し、前記ミラーとの距離を計測するレーザー干渉計と、前記チャックの温度に基づき、撮影箇所の位置補正量を計算する制御部と、を備え、前記制御部は、前記チャックの温度に基づき、前記テーブルの温度を計算し、前記テーブルの温度に基づき、前記テーブルの熱膨張量を計算し、前記チャックの温度に基づき、前記試料の熱膨張量を計算し、前記テーブルの熱膨張量および前記試料の熱膨張量に基づき、前記撮影箇所の位置補正量を計算する。
【選択図】 図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
テーブルと、
裏面が前記テーブルに固定され、表面で試料を吸着するチャックと、
前記チャックの温度を取得する温度センサと、
前記チャックに搭載された前記試料を撮影するカラムと、
前記テーブルに設けられるミラーと、
前記ミラーにレーザー光を照射し、前記ミラーとの距離を計測するレーザー干渉計と、
前記チャックの温度に基づき、撮影箇所の位置補正量を計算する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記チャックの温度に基づき、前記テーブルの温度を計算し、
前記テーブルの温度に基づき、前記テーブルの熱膨張量を計算し、
前記チャックの温度に基づき、前記試料の熱膨張量を計算し、
前記テーブルの熱膨張量および前記試料の熱膨張量に基づき、前記撮影箇所の位置補正量を計算する
ことを特徴とする撮影装置。
【請求項2】
請求項1に記載の撮影装置であって、
前記制御部は、
前記テーブルの温度に基づき、前記ミラーの回転角を計算し、
前記テーブルの熱膨張量、前記試料の熱膨張量および前記ミラーの回転角に基づき、前記位置補正量を計算する
ことを特徴とする撮影装置。
【請求項3】
請求項1に記載の撮影装置であって、
前記制御部は、
撮影した画像から前記撮影箇所の位置補正量を分析し、
分析に基づく前記位置補正量と、計算に基づく前記位置補正量とに基づき、前記チャックに対する相対的な位置が変動しない前記試料上の不動点を推定し、
前記不動点と、前記チャックの温度とに基づき、前記チャックに対する前記試料の滑り量を計算し、
前記テーブルの熱膨張量、前記試料の熱膨張量および前記試料の滑り量に基づき、前記位置補正量を計算する
ことを特徴とする撮影装置。
【請求項4】
請求項3に記載の撮影装置であって、
前記制御部は、前記分析において、複数箇所をそれぞれ撮影した複数の画像から前記撮影箇所の位置補正量を分析する
ことを特徴とする撮影装置。
【請求項5】
請求項1に記載の撮影装置であって、
前記制御部は、
前記チャックの温度と、前記チャックの温度の時間変化速度とに基づき、前記テーブルの温度を計算する
ことを特徴とする撮影装置。
【請求項6】
請求項1に記載の撮影装置であって、
前記テーブルを移動させるステージを備え、
前記ステージは、前記撮影箇所の位置補正量に基づき、前記撮影箇所の位置を予め補正する
ことを特徴とする撮影装置。
【請求項7】
チャックに搭載された試料を撮影する撮影方法であって、
前記チャックの温度に基づき、前記チャックが固定されたテーブルの温度を計算するテーブル温度計算ステップと、
前記テーブルの温度に基づき、前記テーブルの熱膨張量を計算するテーブル熱膨張量計算ステップと、
前記チャックの温度に基づき、前記試料の熱膨張量を計算する試料熱膨張量計算ステップと、
前記テーブルの熱膨張量および前記試料の熱膨張量に基づき、撮影箇所の位置補正量を計算する位置補正量計算ステップと、
前記位置補正量に基づき、前記撮影箇所の位置を補正する位置補正ステップと、
を備えることを特徴とする撮影方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撮影装置、および、撮影方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体製品の集積度は益々向上し、その回路パターンの更なる高精細化が要求されてきている。半導体ウェハに代表される回路パターンが形成される試料において、品質管理、歩留まり向上を目的に様々な検査手段が用いられている。例えば、走査型電子顕微鏡を利用して半導体ウェハを撮影し、得られた画像から回路パターンの検査を行う技術などが知られている。
【0003】
半導体の高集積化においては、回路パターンの線幅を縮小することが図られており、それを撮影して検査するには、高倍率での撮影が必要であり、それに伴って視野範囲を絞り込む必要がある。撮影する視野範囲を狭めるには、それに合った視野位置精度が必要となる。すなわち、視野位置精度が悪くて、位置誤差が視野範囲より大きな場合は、撮影箇所が狙った視野範囲の外になってしまう。よって、高集積回路を検査するための撮影装置にあっては、視野位置精度を高めることが重要となる。
【0004】
走査型電子顕微鏡においては、電子線を走査して撮影を行うため、位置が固定されている試料に対しては、電子線の走査位置を変えることで、撮影箇所を変更することが可能である。このため、一度撮影をして、その画像を分析し、狙った位置と実際に撮影された位置とのずれを調べ、二度目の撮影で、位置ずれ量を補正した上で撮影を行うことで、撮影箇所の位置精度を高めることが可能となる。
【0005】
一方で、半導体製品の製造工程で用いられる撮影装置においては、生産性向上のためにスループットを高めることも求められる。このため、一箇所の撮影を行うのに、二度撮影を行うのではなく、一度の撮影で済ますことで時間短縮を図り、スループットを高めることも期待される。また、二度の撮影を行うにしても、一度目の撮影時の視野位置精度が悪すぎると、高集積化した回路パターンのどこを撮影したのか分からなくなり、位置補正して二度目の撮影を行うということ自体が出来なくなる。このため、撮影された箇所の視野位置を見失わなくするためにも、一度目の撮影をする前段階での位置精度を向上させることが重要となる。
【0006】
撮影箇所の位置誤差が生じる原因には、様々な物理現象が存在していて、それらが複雑に絡み合っている。特に、試料の位置決めを行うステージにおいては、移動機構におけるモータの発熱や、摩擦発熱による発熱要因があり、固体の熱伝導や放射伝熱による熱の広がりや散逸がある。また、ステージは移動に伴って接触箇所が変化することや、周囲の物体との相対距離が変化することによる伝熱状態の変化が常にある中で、温度分布が変化し、それに伴う熱変形が生じる。
【0007】
このような複雑な現象を解きほぐして、撮影箇所の位置精度を高めるためのアプローチとしては、例えば特許文献1がある。特許文献1では、ミラーとレーザー干渉計を用いて位置計測するステージ装置において、温度に応じてミラー形状が変化することを考慮し、これによる位置計測誤差を補正して、ステージ位置を制御する技術が開示されている(段落0023等)。
【0008】
その他にも、特許文献2においては、段落0151に「アライメント処理時と液浸露光時との温度差に起因する基板Pの熱変形量(線膨張の変動量)を予め求め、その変動量を補正するための補正量を求めておき、その補正量に基づいて、重ね合わせ露光するときの基板Pとパターン像との位置関係を補正するようにしてもよい」ことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002-118050号公報
【特許文献2】特開2017-129875号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1や特許文献2の技術では、撮影箇所の位置補正を行うにあって、試料が搭載されるステージ装置や基板の熱膨張のみを考慮しているため、試料自体に熱膨張があった場合に、精度よく撮影を行うことができないという課題があった。
【0011】
そこで、本発明は、試料の熱膨張の有無に関わらず、試料を精度良く撮影できる撮影装置および撮影方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明の撮影装置は、例えば、テーブルと、裏面が前記テーブルに固定され、表面で試料を吸着するチャックと、前記チャックの温度を取得する温度センサと、前記チャックに搭載された前記試料を撮影するカラムと、前記テーブルに設けられるミラーと、前記ミラーにレーザー光を照射し、前記ミラーとの距離を計測するレーザー干渉計と、前記チャックの温度に基づき、撮影箇所の位置補正量を計算する制御部と、を備え、前記制御部は、前記チャックの温度に基づき、前記テーブルの温度を計算し、前記テーブルの温度に基づき、前記テーブルの熱膨張量を計算し、前記チャックの温度に基づき、前記試料の熱膨張量を計算し、前記テーブルの熱膨張量および前記試料の熱膨張量に基づき、前記撮影箇所の位置補正量を計算する。
【0013】
また、本発明の撮影方法は、例えば、チャックに搭載された試料を撮影する撮影方法であって、前記チャックの温度に基づき、前記チャックが固定されたテーブルの温度を計算するテーブル温度計算ステップと、前記テーブルの温度に基づき、前記テーブルの熱膨張量を計算するテーブル熱膨張量計算ステップと、前記チャックの温度に基づき、前記試料の熱膨張量を計算する試料熱膨張量計算ステップと、前記テーブルの熱膨張量および前記試料の熱膨張量に基づき、撮影箇所の位置補正量を計算する位置補正量計算ステップと、前記位置補正量に基づき、前記撮影箇所の位置を補正する位置補正ステップと、を備える。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、試料の熱膨張の有無に関わらず、試料を精度良く撮影できる撮影装置および撮影方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】撮影装置の基本構成図
図2】撮影装置における座標系を説明する図
図3】実施例1における撮影装置の動作フロー図
図4】実施例1におけるステップS4の詳細フロー図
図5】実施例2におけるステップS4の詳細フロー図
図6】実施例3における撮影装置の動作フロー図
図7】実施例3におけるステップS4の詳細フロー図
図8】実施例4におけるステップS4の詳細フロー図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について、図面を参照して詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施例に限定されるものではない。これらの実施例は例示に過ぎず、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した形態で実施することができる。また、以下の説明において使用する各図面において、共通する各装置、各機器には同一の符号を付しており、すでに説明した各装置、機器および動作の説明を省略する場合がある。
【実施例0017】
本実施例における撮影装置100の基本構成を示したのが図1である。図1は、撮影装置100の側面図である。また、本発明で議論の対象となる試料の視野位置誤差(撮影箇所の位置ずれ)を説明するにあたり、位置座標の座標系を説明したのが図2である。図2は、撮影装置100の上面図である。なお、図1は、図2に示す座標系におけるY軸正方向から見た側面図に対応する。
【0018】
<撮影装置100の概略構成>
図1に示す通り、撮影装置100において、XYステージ108(図示なし)の最上段にテーブル105が存在する。なお、XYステージ108は、図2のX軸方向及びY軸方向に移動可能なステージであるが、その他の方向にも移動ができてもよい。さらに、テーブル105の上にチャック103が存在するが、このチャック103は裏面が複数のチャック支柱107を通じてテーブル105上に固定される。なお、複数のチャック支柱107がチャック103に接続する箇所の重心をチャック103の中心に合わせるのが良い。例えば、チャック支柱107が3個の場合、その接続点を正三角形に配置した上で、その三角形の重心をチャック103の中心に合わせる。その上で、チャック中心位置を、テーブル105の中心と見なす。なお、このテーブル105の中心は、この後で計算する撮影箇所201の位置補正量の計算に用いるもので、テーブルの外形から決まる中心のことではない。
【0019】
チャック103は、温度センサ104を内蔵しており、温度センサ104を用いてチャック103の温度を常時計測することが可能である。ここでの温度計測精度は特に重要であり、白金測温抵抗体による温度センサが最も適している。一般的な白金測温抵抗体による温度センサは、0℃の時の電気抵抗が100Ωになるように製作した白金線を用い、その白金線の電気抵抗をブリッジ回路を用いて計測する。これにより、センサと計測器の間の配線の電気抵抗に影響されることなく、白金線の電気抵抗を計測できる。白金線は安定な物質であるため、電気抵抗の変化が、温度変化のみによって生じ、温度と電気抵抗の関係が安定している。このため、電気抵抗と温度の対応を参照することで、精度の高い温度計測が可能となる。また、センサで発生する電圧を計測する方式になどに比べて、電気抵抗計測は、電磁ノイズに強いという特徴も持つ。
【0020】
撮影装置100は、チャック103の上に試料102が搭載され、カラム101を通じて試料102を撮影する。半導体の製造工程で採用される検査装置としては、ここでの試料102は半導体ウェハである。近年は直径300mmのウェハが用いられることが多く、そのウェハの厚さは1mmを下回ることが一般的である。直径300mmウェハを扱う装置では、チャック103の直径も300mm近くとなるが、チャック103の厚さに関しては、ウェハよりもチャック103の方が十分に厚い構造にし、チャック103に高い剛性を持たせる。また、チャック103は静電気力を使って強い力でウェハを表面に吸着させることで、ウェハの平面度をチャック103の平面度に合わせることが可能となる。これにより、ウェハ単体で厚み方向に反りがある場合でも、その反りを解消することが可能になり、一定の平面度を担保できる。
【0021】
電子顕微鏡を用いた撮影装置においては、カラム101がその電子顕微鏡にあたる。カラム101は、その中心に電子線を通すため、カラム101の中心を下した位置が撮影箇所201となる。カラム101は撮影装置100の中で固定されており、試料102の撮影箇所201を大きく動かす時は、XYステージ108が移動して、搭載している試料102を移動させる。また、撮影装置100として走査型電子顕微鏡を用いる場合は、電子線を走査する位置をある程度変えることが出来る。このため、撮影箇所を微小な量だけ動かす時は、逆にXYステージ108を固定しておき、電子線の走査位置を変えるようにする。
【0022】
高倍率での試料撮影を行う際は、撮影箇所201の位置を高精度に把握する必要がある。そのための位置計測として、テーブル105上に設置したミラーと、レーザー干渉計を用いる。具体的には、図2に示すように、テーブル105上にXミラー106とYミラー110を設置する。そして、Xミラー106に対向するようにX軸レーザー干渉計109を設け、Yミラー110に対向するようにY軸レーザー干渉計111を設ける。なお、X軸レーザー干渉計109およびY軸レーザー干渉計111は撮影装置100に固定される。
【0023】
X軸レーザー干渉計109は、Xミラー106に対して照射するレーザー光と、Xミラー106からの反射で戻ってくるレーザー光を干渉させ、干渉縞をカウントすることで、X軸方向に関して高精度な距離計測を行う。これにより、撮影装置100に固定されているX軸レーザー干渉計109とXミラー106の反射面との距離202が高精度に計測される。同様にして、Yミラー110とY軸レーザー干渉計111により、Y軸レーザー干渉計111とYミラー110の反射面との距離203も高精度に計測される。試料102がチャック103に搭載され、吸着された後は、試料102とXミラー106の相対距離、および、試料102とYミラー110の相対距離が固定されるため、撮影箇所201の座標とXミラー106の相対距離、撮影箇所201の座標とYミラー110との相対距離も固定される。このため、Xミラー106およびYミラー110の位置が高精度に把握されれば、試料102上の撮影箇所201の座標も高精度に把握される。
【0024】
後述する撮影箇所201の位置ずれを表現する座標系としては、前述のチャック中心を原点とした図2に示すXY座標系を用いる。この座標系では、X軸およびY軸のそれぞれについてミラーから遠ざかる方向を座標軸のプラス方向としている。なお、試料中心とチャック中心は多少のずれはあるが、ここでは一致しているものとする。また、試料を撮影するカラム101は位置が固定されているため、ステージが座標軸のプラス方向に移動すると、撮影される試料の箇所は、座標軸のマイナス方向にずれた箇所が撮影されることになる。
【0025】
撮影装置100は、図1、2に図示しない制御部を備える。制御部は、X軸レーザー干渉計109と、Y軸レーザー干渉計111から計測結果を取得する。X軸レーザー干渉計109およびY軸レーザー干渉計111の計測結果に基づき、テーブル105の位置を把握し、座標系の中心、すなわちチャック103の中心(=試料102の中心)を把握する。そして、把握した座標系における座標(X,Y)を撮影箇所201とする。以下では、撮影箇所201の座標を(X,Y)とする。
【0026】
また、制御部は、温度センサ104が取得したチャック温度を取得する。そして、制御部は、これらを用いて、後述する位置補正処理を行う。その後、制御部は、カラム101内の電子線の走査位置を制御し、あるいは、XYステージ108を動かすモータ等の移動機構を制御することにより、試料102の撮影箇所を補正する。また、制御部は、カラム101が撮影した画像も取得し、画像を用いて位置補正処理を行ってもよい。以下、撮影装置100の動作を詳細に説明する。
【0027】
図3に、撮影装置100の動作フローを示す。なお、図3に示す処理フローの開始時に試料102がチャック103に搭載される。
【0028】
<ステップS1>
撮影装置100は、ステップS1でアライメントを行う。アライメントとは、XYステージ108に対する試料102の位置を正確に計測するための工程であり、試料102上に形成されているアライメントマークに基づき、XYステージ108に対する試料102の位置を把握する工程である。試料102には、ステップS1よりも前の工程で回路パターンが造形されているとともに、座標の目印とするためのアライメントマークが造形されているものとする。カラム101は、アライメントマークの設計座標、すなわち、アライメントマークが本来あるべき位置が撮影位置となるようにステージ位置を合わせた上で、低倍率でその箇所を撮影し、アライメントマークを撮影する。そして、制御部は、撮影されたアライメントマークの座標を算出し、算出した座標と、アライメントマークの設計座標とのずれを算出することで、XYステージ108に対する試料102の位置を求めることができる。このアライメントマークの撮影を複数箇所で行うと、試料102がXYステージ108に搭載された際の中心のずれや、回転角、および試料温度を反映した膨張/収縮状態も分かる。このように、XYステージ108に対する試料102の相対位置を精度良く計測する工程がアライメントの工程となる。なお、チャック103およびテーブル105はXYステージ108に固定されている。そのため、XYステージ108に対する試料の相対位置を精度良く計測することにより、チャック103およびテーブル105に対する試料102の相対位置も把握することができる。アライメントにより把握した相対位置を用いて撮影箇所201を決定することで、試料102を正確に撮影することができる。
【0029】
例えば、試料102について試料中心から(X,Y)だけ離れた点を撮影したい場合に、チャック中心と試料中心が一致していれば、チャック中心を原点とした図2に示す座標系において、撮影箇所201を(X,Y)と指定すればよい。一方で、チャック103に試料102を搭載した際にチャック中心と試料中心が(X,Y)だけずれた場合を考える。この場合、チャック中心と試料中心がずれているため、チャック中心を原点とした図2に示す座標系で撮影箇所201を(X,Y)と指定しても、試料中心から(X,Y)だけ離れた点を撮影することはできない。このような場合において、アライメントを行うことにより、チャック103に対して試料102が搭載時に(X,Y)だけずれていたことが把握できる。そして、撮影装置100は、チャック中心を原点とした図2に示す座標系において、撮影箇所201を(X-X,Y-Y)と指定することで、試料中心から(X,Y)だけ離れた点を正確に撮影することができる。以下では、アライメントにより把握したチャック103と試料102との相対位置に基づく補正を行った後の座標を用いるものとする。
【0030】
<ステップS2>
ステップS2では、制御部は、温度センサ104が計測したアライメント時のチャック温度と、後述するステップS4bと同様の方法でアライメント時のチャック温度に基づいて計算したアライメント時のテーブル温度を初期温度として記録する。なお、チャック温度とは、チャック103の温度であり、テーブル温度とは、テーブル105の温度のことである。
【0031】
<ステップS3>
ステップS3では、制御部は、XYステージ108を動かすための移動機構を制御して、検査箇所等の試料102における撮影すべき箇所が撮影箇所201となるようにXYステージ108を移動させる。
【0032】
<ステップS4>
撮影装置100は、ステップS3と並行して、ステップS4を行う。なお、本実施例では、ステップS4をステップS3と並行して行うこととしたが、ステップS3と関係なく行ってもよい。例えば、ステップS4は、独自の周期で繰り返し行ってもよい。
【0033】
ステップS4では、撮影箇所201の位置補正量を計算する。具体的には、式(1)、式(2)を用いて、X軸方向の位置補正量ψとY軸方向の位置補正量ψを計算する。
【0034】
【数1】
【0035】
【数2】
【0036】
なお、本明細書内の数式で用いている変数の一覧は表1に示す。
【0037】
【表1】
【0038】
図4に、実施例1におけるステップS4の詳細フローを示す。本実施例におけるステップS4は、ステップS4a~S4eまでを備える。
【0039】
<<ステップS4a>>
ステップS4aでは、温度センサ104がチャック温度を測定する。
【0040】
<<ステップS4b>>
ステップS4bでは、制御部は、チャック温度に基づいてテーブル温度を計算する。例えば、制御部は、温度センサ104から取得したチャック温度Tchuckの時系列データを利用し、式(3)に基づいてテーブル温度Ttableを計算する。
【0041】
【数3】
【0042】
<<ステップS4c>>
ステップS4cでは、制御部は、テーブル105の熱膨張量を計算することにより、試料中心とミラーの相対距離が変化する量を計算する。具体的には、試料中心に対するXミラー106のX軸方向移動量を、テーブル105の中心からXミラー106の反射面までの距離Lに、テーブル材質の線膨張係数Cとテーブルの温度上昇量ΔTtableを掛けることで求める。これは、式(1)の第1項を求めることに等しい。同様にして試料中心に対するYミラー110のY軸方向移動量、すなわち、式(2)の第1項を求める。ここでのテーブル温度上昇量ΔTtableとは、最新のテーブル温度の計算値と、初期(アライメント時)のテーブル温度の計算値との差である。また、テーブル中心は、チャック中心と同じと見なす。これは、テーブルとチャックをつなぐチャック支柱の配置を、接続点の重心がチャック中心と一致するように配置していることに基づいている。元々、テーブル中心はチャック中心と同じと定義しているが、両者がそれぞれの温度で熱膨張したとしても、チャック支柱の重心がチャック中心と一致していれば、熱膨張後も中心の一致が継続すると考える。ステップS4cにより、テーブル105の熱膨張でXミラー106およびYミラー110が移動し、図2に示す距離202および203が変化したことに起因する撮影箇所201の位置ずれ量を把握することができる。なお、テーブル105の温度が上昇した時は、Xミラー106はX軸のマイナス方向に移動し、Yミラー110はY軸のマイナス方向にするため、式1(1)及び式(2)において係数C2の前にマイナスの符号が付いている。なお、テーブル材質としては、金属セラミックス複合材を例示でき、この場合、テーブル材質の線膨張係数Cは、9.0×10-6となる。
【0043】
<<ステップS4d>>
ステップS4dでは、試料102の熱膨張量を計算する。すなわち、本実施例におけるステップS4dでは、式(1)の第2項と、式(2)の第2項を求める。ステップS4dでは、ステップS4aで取得したチャック温度Tchuckが、試料温度に等しいと見なし、チャック温度Tchuckの初期温度と最新温度の温度差ΔTchuckが、試料102の温度上昇量と見なす。通常の熱膨張は等方的に起きおきるため、任意の2点の距離が増加する量を元の距離で割った増加率が、温度上昇量に比例し、かつ、この時の比例係数が材質の線膨張係数となる。また、温度低下による熱収縮が起きる場合も、マイナスの温度上昇に対するマイナスの熱膨張として扱えるため、熱収縮も「熱膨張」として取り扱うことができる。
【0044】
本実施例では、熱膨張時における試料102の不動点(チャック103に対する相対的な位置が変動しない試料102上の点)が試料102の中心になっており、試料102の中心から等方的に放射状の熱膨張が起きるものする。さらに試料102の中心と、チャック103の中心が一致しているものとする。この場合、図2に示す座標系において、試料102の熱膨張によるX方向変位は撮影箇所201のX座標に比例し、Y方向変位は撮影箇所201のY座標に比例する形になる。そのため、ステップS4dでは、試料102のX座標に試料の線膨張係数Cと温度上昇量ΔTchuckを掛けた量を試料102のX軸方向熱膨張量として計算し、試料102のY座標に試料の線膨張係数Cと温度上昇量ΔTchuckを掛けた量を試料102のY軸方向熱膨張量として計算する。ステップS4dにより、試料102の熱膨張に起因する撮影箇所201の位置ずれ量を把握することができる。なお、試料の線膨張係数Cの値は、例えば、3.9×10-6となる。
【0045】
<<ステップS4e>>
ステップS4eでは、式(1)および式(2)に基づき、ステップS4cとステップS4dで算出した位置ずれ量を合成する。このようにして、熱膨張による撮影箇所201の位置ずれ量を位置補正量として計算する。X軸方向の位置補正量ψはXミラーに近付く方向をプラス、Y軸方向の位置補正量ψはYミラーに近付く方向をプラスにして記述している。
【0046】
<ステップS5>
図3に示すステップS5では、ステップS4で計算された位置補正量だけ撮影箇所201をずらして撮影を行う。これにより、位置補正がなされ、位置精度を高めた状態での撮影が可能になる。また、アライメント時からの経過時間が少ない内は、試料102やテーブル105の温度変化量小さいため、熱膨張による位置ずれが小さいことが予め予測できるため、位置補正なしで撮影を行っても良い。なお、試料102に撮影すべき箇所が複数ある場合は、撮影箇所の分だけステップS3~S5を繰り返す。
【0047】
<式(3)の説明>
ここで、式(3)の導出について説明する。式(4)は、熱伝導による伝熱現象をモデル化したものであり、テーブル105からチャック103に伝わる熱量をプラスに取り、両者の温度差に比例して熱が伝わると考え、その比例係数をKとしている。
【0048】
【数4】
【0049】
式(4)は、テーブル温度がチャック温度よりも低い場合も成立し、その場合はテーブル105からチャック103に伝わる熱量がマイナスとなる。
【0050】
式(5)は、テーブル105から伝わった熱量によってチャック温度が上昇する際の関係式である。
【0051】
【数5】
【0052】
実際には、チャック103にはその他の経路を通じた伝熱があるものの、実用的な関係式を構築するため、大胆なモデル化を施している。式(5)はエネルギーの保存則から導かれるものであり、チャック103が得た熱量によってチャック103が温度上昇する際の関係式である。すなわち、チャック温度の時間微分(時間変化速度)と、チャック103の質量、およびその比熱を掛けたものが、チャック103が得た熱量に一致する。現実のチャック103は1つの材質で出来ている訳ではないため、比熱が単純に決まるものではない。また、チャック103が吸着している試料にも、チャック103が得た熱は伝わるため、試料の質量および比熱もここに関係する。よって、式(5)は概念的な意味で記述されている。
【0053】
式(4)、(5)より、熱量の部分が同じものを指しているため、式(6)の関係が導かれる。
【0054】
【数6】
【0055】
これにより、式(7)が導かれ、テーブル温度を計算するための概念式が得られる。式(4)は、テーブル105からチャック103に伝わる熱量をモデル化したものである。
【0056】
【数7】
【0057】
式(3)は、式(7)から導かれるもので、チャック温度の実測データからテーブル温度を計算するための式である。すなわち、チャック温度の時間微分(時間変化速度)に時定数Cを掛けたものをチャック温度に足すことで、テーブル温度を計算することを示している。なお、時定数Cは、式(7)に示される通り、チャック103の質量、比熱、伝熱係数によって形成されるものであるが、個別の物理量から計算するよりも、現実の挙動に合わせ込んで決めるのが良い。時定数Cは、例えば、2500秒となる。なお、チャック温度の実測データを時間微分することは、ノイズの影響を受け易く、値が安定しにくい。元々、高精度の位置決めを行うには、ステージ温度が極力変化しないことが望ましく、ここで対象としているチャック温度およびテーブル温度も微小な温度変化しかしないことを前提にしている。よって、チャック温度の実測データの時間微分を用いてテーブル温度を高精度に予測することは大きな困難を有する。そこで、次に、時間微分の安定化手段について説明する。
【0058】
<<時間微分の安定化手段>>
時系列データがあった場合、単純な時間微分を求めるには、1ステップ前のデータとの差を、その時の時間ステップで割ることで計算できる。しかし、この計算は、小さな量を小さな量で割る計算であるため、わずかな誤差で値が大きく変化し、安定した値が得られにくい。そこで、実測データを平滑化する技術が役に立つ。式(8)は、入力変数uから平滑化した出力変数yを求めるための関係式である。
【0059】
【数8】
【0060】
ここでは変数yの2階微分方程式の形で記述されている。平滑化の考え方は以下の通りである。ノイズ成分は、真の物理量の時間変化に比べて、高周波の成分になっていると想定し、その高周波成分を落とすことで、データの平滑化がなされると、真の物理量が抽出されると考える。式(8)は平滑化される側の変数の微分方程式であるため、平滑化される変数は、入力変数が積分されて決まるような性質になる。この積分過程があることで、プラス/マイナスに短時間で変動するノイズ成分が相殺され、ノイズが取り除かれた物理量が抽出される。式(8)は入力変数uと平滑化された出力変数yで記述しているが、本発明で適用する際は、チャック温度の実測データが入力変数uにあたり、出力変数yは平滑化されたチャック温度にあたる。式(8)左辺第3項と右辺第1項が等号の関係にあることから、入力に対する出力のゲインが1であることが分かる。すなわち、入力データがゆっくり変化する時は、そのままの値が出力データになる。式(8)左辺第1項と第2項の微分項は、角振動数ωと減衰係数ζで規定される。角振動数ωは、式(9)のように平滑化のための時定数τから決めることが出来る。
【0061】
【数9】
【0062】
時定数τの意味は、τより大きい周期のノイズ成分が平滑化処理で除去される。ただし、平滑化されたデータには、元のデータに対して時間遅れが発生し、その遅れ時間がおおよそ時定数τとなる。よって、時定数τを大きく取ると、大きな周期のノイズまで除去でき、強力に平滑化できるものの、平滑化したデータの時間遅れが大きくなる。一方、時間遅れを小さくしようとして時定数τを小さく設定すると、弱い平滑化になり、時間微分の値の変動が大きくなる。このため、対象の物理量の真の時間変化速度を見極めて、適切に時定数τを選択する必要がある。
【0063】
減衰係数ζは、小さい値に設定するほど平滑化に伴う時間遅れを小さくする作用がある。一方で、角振動数ωと同期するノイズ成分を増幅させてしまう作用がある。逆に減衰係数ζを大きくすると、時間遅れが大きくなるものの、ノイズを増幅させることはなくなる。ノイズの増幅がない範囲での、最も小さなζは理論的に求められており、ζ=1/√2(≒0.707)である。このため、減衰係数ζにはこの値を採用する。
【0064】
式(8)を解くにあたり、出力変数の1階微分を新たに変数xと定義し、これを用いて、式(8)を未知変数が2個の連立1階微分方程式(10)(11)に書き換える。
【0065】
【数10】
【0066】
【数11】
【0067】
この方程式に実際のデータを当てはめるため、式(12)から(14)の離散化を行う。
【0068】
【数12】
【0069】
【数13】
【0070】
【数14】
【0071】
ここで、変数の下付き文字に記したものは、データの時系列番号であり、n番目のデータが最新のもの、n-1番目が、その1個前のデータを意味する。式(12)はデータの時間間隔を示しているが、この時間間隔は一定である必要はなく、番号ごとに時間間隔が変わっても良い。式(13)、(14)を展開して解くと、式(15)、(16)が得られる。
【0072】
【数15】
【0073】
【数16】
【0074】
式(15)は、最新の入力変数uと、1つ前の出力変数x、yを用いて、最新の出力変数xが求められることを示している。また、最新のxが求まると、式(16)を用いて最新の出力yが求まる。この後、次の入力が得られた時は、先ほどの最新の値が、1つ前の値となり、最新の入力との組み合わせで、最新の出力が得られる。これを繰り替えすことにより、常に最新の計測データに対する平滑化したデータと、その平滑化したデータの時間微分値が得られる。また、出力変数の初期値は式(17)、(18)の通りにすることで、計算を始めることが可能となる。
【0075】
【数17】
【0076】
【数18】
【0077】
以上の技術を用いると、ノイズが含まれる実測の温度データから、安定した時間微分を求めることができ、それによって、式(3)が実用的に運用可能となり、計測していないテーブルの温度を高精度に把握することが可能になり、これによって実用レベルの精度で熱膨張量を計算することが可能になった。
【0078】
以上説明したように、本実施例では、試料の熱膨張と、ミラーを搭載するテーブルの熱膨張が主要な要素になると判断し、それぞれの要素を定量的に予測する手段を構築した。その上で、試料の温度は、試料を搭載するチャックの温度センサの計測値を用いて把握し、テーブルの温度は、チャックの温度センサの計測値に処理を加えて計算することで把握することにした。一箇所の測定データから2箇所の温度が把握されると、熱膨張を計算するための自由度が二倍になり、より高精度な熱膨張の計算が可能になる。この二点の熱膨張量に基づいて撮影箇所201の位置ずれを予測し、予測量の分だけ位置補正を行うことで、試料を撮影する箇所の位置精度を大きく高めることが可能になる。
【0079】
したがって、本実施例によれば、試料の熱膨張の有無に関わらず、試料を精度良く撮影できる。その結果、狙った箇所と実際に撮影される箇所の位置ずれが縮小され、高倍率での撮影を行っても、検査したい箇所の正確な撮影が可能となり、高スループットで検査作業をすることが可能になる。
【実施例0080】
図5に、実施例2におけるステップS4の詳細フローを示す。大部分は実施例1と同じであるため、ここでは異なる箇所のみ説明する。
【0081】
本実施例のステップS4では、ステップS4fによるミラーの回転角計算が追加され、式(19)、式(20)を用いて、X軸方向の位置補正量ψとY軸方向の位置補正量ψを計算する。
【0082】
【数19】
【0083】
【数20】
【0084】
ステップS4bで最新のテーブル温度の計算がなされると、それに対応するミラー106、110の移動量を計算するため、ステップS4cでテーブル105の熱膨張量を計算しているが、テーブル105の熱変形としては、等方的な熱膨張以外の変形も生じうる。すなわち、等方的な熱膨張では、熱膨張後のテーブル105の形状は、膨張前のテーブル形状と相似形になる。仮に、テーブル105の元の形状が正方形だった場合、等方的な熱膨張では、膨張後も正方形の形状が保たれる。しかし、実際のテーブル105は、その下側に存在するXYステージ108と一体の構造物であるため、様々な材質の部品とつながっていることや、温度分布が生じることで、温度上昇量が一律ではないことが影響し、等方的な熱膨張とは必ずしもならない。このため、仮に、テーブル105を上から見た形状が元は正方形だったとしても、熱変形後のテーブル105は、台形状になったり、ひし形状の形状になったり、それ以外の形状になったりする可能性がある。その場合、そのテーブル105上に設置されているミラー106、110には、膨張による変位に対して、回転変位が付加されることになる。このようなミラーの変位にあっては、Xミラー106の中心がX方向に移動する変位と、Xミラー106の中心を基準にして回転する回転角で、X方向の変位分布を表現することができる。同様に、Yミラー110についても、Yミラー110の中心がY方向に移動する変位と、Yミラー110の中心を基準にして回転する回転角で、Y方向の変位分布を表現できる。
【0085】
温度変化に伴ってテーブルの形状が元の形状の相似形ではなくなることについては、熱膨張が駆動源になっており、熱膨張が様々な拘束を受けての形状変化となる。このため、ミラーの角度変化が起きる変形も、テーブルの温度上昇が駆動源になっていると見なすことができる。よって、ステップS4bで計算したテーブル温度に基づいて、ステップS4fでミラーの回転角を計算するようにする。
【0086】
式(19)の係数Cは、Xミラー106の回転角の温度係数であり、テーブル温度の上昇に比例して、回転角が増加するとした上での比例係数である。係数Cは、例えば、0.2×10-6となる。ここでは、Xミラー106の回転は、ミラー中心をY=0とし、このミラー中心を回転の基準にしているため、Y=0の撮像箇所はXミラー106が回転しても撮像箇所とミラーの相対距離が変わらない。また、ここでの回転角は微小な量であるため、回転変位による円弧の長さとX方向変位が同じと見なせる。よって、係数Cとテーブル105の温度上昇量を掛けることで、Xミラー106の回転角(単位:ラジアン)が計算され、それに半径に相当するY座標を掛けると、X方向変位が計算できる。式(20)における係数CもCと同様の働きをしており、テーブル温度の上昇量に比例してYミラー110が回転する上での比例係数をCとし、Cとテーブル温度の上昇量を掛けることで、Yミラー110の回転角(単位:ラジアン)が求まり、それにX座標を掛けることで、Y方向変位が求まる。係数Cは、例えば、-0.3×10-6となる。
【0087】
つまり、ステップS4fでは、試料102のY座標にXミラー106の回転角の温度係数Cとテーブル温度変化量ΔTtableを掛けて式(19)のC・Y・ΔTtableを求める。また、試料102のX座標にYミラー110の回転角の温度係数Cとテーブル温度変化量ΔTtableを掛けて式(20)のC・X・ΔTtableを求める。式(19)のその他の項については、式(1)と同様であり、式(20)のその他の項については、式(2)と同様である。そして、ステップS4eでは、式(19)および(20)に基づき、ステップS4c、S4d、S4fで計算される位置ずれを合成して、X軸方向の位置補正量ψとY軸方向の位置補正量ψを計算する。
【0088】
本実施例によれば、テーブル105が熱膨張し、ミラーが回転した場合であっても、試料を精度良く撮影できる。
【実施例0089】
図6に、実施例3における撮影装置100の動作フローを示す。図7に、実施例3におけるステップS4の詳細フローを示す。ここでは、実施例2と異なる箇所のみ説明する。
【0090】
実施例1、2では、試料温度が上昇して熱膨張する際、試料中心が不動点になって等方的に膨張することを前提にしていた。このことは、チャック103が試料102を吸着する力をチャック全面で働かせ、均等な摩擦力が発生する場合に成り立つ。すなわち、チャック103と試料102は別材質であるため、線膨張係数が異なっており、両者が同じ温度を保って温度上昇したとしても、熱膨張量は異なってくる。この熱膨張量の差の埋めるには、チャック103と試料102の間で滑りが生じる必要がある。この時の滑り動作に対しては、吸着力に基づく摩擦力が発生する。このため、試料102の滑り動作は、摩擦力による消費エネルギーが最小になるように起きるはずである。試料102とチャック103の相対滑りが最小になるのは、試料102の中心が不動点になって、そこから放射状に滑る場合である。よって、摩擦力がチャック103上で均一に働く場合は、試料102の中心が不動点になるはずである。しかし、現実には、試料102とチャック103の間の吸着力は均一とならず、摩擦係数も一定とは限らない。そのため、試料102とチャック103の間の滑りが生じ、チャック中心とはことなる位置が不動点となる可能性がある。このことを考慮して、位置ずれ量を計算するのが、実施例3である。
【0091】
本実施例の撮影装置100は、ステップS4で試料滑りの不動点を推定するために、図6に示すように、ステップS5の後にステップS6を行う。ステップS6では、ステップS5で撮影した画像に対して制御部が画像分析を行い、撮影箇所201の実際の位置ずれ量を撮影箇所201の実際の位置補正量として分析する。この画像分析は、試料102に形成された回路パターンやアライメントマークに基づいて行ってもよい。また、複数箇所をそれぞれ撮影した複数の画像から撮影箇所201の実際の位置補正量を分析してもよい。なお、ステップS6の分析結果は、次回のステップS4で使用される。
【0092】
また、本実施例のステップS4では、図7に示すように、ステップS4gとステップS4hが追加され、式(21)、式(22)を用いて、X軸方向の位置補正量ψとY軸方向の位置補正量ψを計算する。
【0093】
【数21】
【0094】
【数22】
【0095】
<ステップS4g>
ステップS4gでは、不動点の座標(X,Y)を推定する。式(23)から式(30)までは、試料がチャック上を滑る際の不動点座標を求める手順を示している。この作業を行うにあたり、最初に式(23)(24)を用い、不動点座標が試料中心である場合の撮影箇所201の位置補正量を計算し、これを事前予測値と呼ぶことにする。
【0096】
【数23】
【0097】
【数24】
【0098】
実際に試料102の撮影を行うと、ステージ位置から想定される撮影位置と、実際に撮影された位置との位置ずれ量を評価することができる。そこで、式(25)(26)により、撮影箇所201の位置補正量の事前予測値と実際の撮影によって得られた位置補正量の差を事前予測値の誤差と定義する。なお、実際の撮影によって得られた位置補正量ψ real ψ realは、前回のステップS6で計算した結果を使用する。なお、複数画像から位置補正量ψ real ψ realを計算する場合は、例えば、各画像における位置補正量ψ real ψ realを計算し、これらの平均値を用いてもよい。
【0099】
【数25】
【0100】
【数26】
【0101】
これと式(23)(24)を比較すると、不動点座標を求める式(27)(28)が得られるが、この式で得られる不動点座標は一旦、不動点座標の事前値と称することにする。
【0102】
【数27】
【0103】
【数28】
【0104】
式(27)(28)は、小さな値を小さな値で割って求める式であるため、値が不安定になりやすい。このため、式(29)(30)の操作を行って値を安定させる。
【0105】
【数29】
【0106】
【数30】
【0107】
式(29)(30)の左辺が安定化させた結果の不動点座標である。右辺の最初に来ているのが、最新の不動点座標の事前値であり、もう一つは、前回の不動点座標の安定化値である。また、安定化数mは、1より大きい数を設定する。例えばm=5の場合、最新の不動点座標の事前値が得られた際、それを1/5に薄めて不動点座標の更新につなげることになる。このような操作を入れることで、不動点座標が急激に変化することが避けられる。
【0108】
なお、式(29)、(30)の右辺の不動点座標(X,Y)は、前回値を用いるものとし、初期値は0とする。
【0109】
<ステップS4h>
ステップS4hでは、試料の滑り量を計算する。具体的には、ステップS4gで推定した不動点のX座標Xにチャック103と試料102の線膨張係数差Cとチャック温度変化量ΔTchuckを掛けて式(21)の第3項を求める。また、ステップS4gで推定した不動点のY座標Yにチャック103と試料102の線膨張係数差Cとチャック温度変化量ΔTchuckを掛けて式(22)の第3項を計算する。
【0110】
なお、式(21)、(22)の第3項は、試料102とチャック103の熱膨張量の違いで、試料102がチャック103上を滑る際の不動点座標に関わる項である。この不動点のXY座標を、XとYで記述しているため、不動点が試料中心である場合、XとYが0になり、ここの項は0になる。不動点が試料中心と異なる場合、チャック103が熱膨張する分、不動点座標に比例して不動点が移動することになる。ただし、その膨張が起きる時は、試料102の膨張も起きているため、実質的な移動量はチャック103の熱膨張量から試料102の熱膨張量を相殺した量になる。よって、不動点座標に比例して移動する量の比例係数Cは、チャック材質の線膨張係数と試料材質の線膨張係数の差が当てられる。比例係数Cは、例えば、3.2×10-6となる。
【0111】
<ステップS4e>
ステップS4eでは、式(21)および式(22)に基づき、ステップS4c、S4d、S4f、S4hで算出した位置ずれ量を合成する。なお、式(21)、(22)の第1項および第2項に対して式(25)、(26)を用いると式(31)、(32)が導かれる。ステップS4eでは、式(31)、(32)を用いてもよい。
【0112】
【数31】
【0113】
【数32】
【0114】
本実施例によれば、熱膨張により試料滑りが発生した場合であっても、試料を精度良く撮影できる。
【実施例0115】
図4に、実施例4におけるステップS4の詳細フローを示す。ここでは、実施例3と異なる箇所のみ説明する。
【0116】
本実施例の撮影装置100は、テーブル温度を測定する温度センサをテーブル105に備える。そして、図9に示すように、ステップS4iでテーブル温度を測定し、ステップS4cとS4fでは、ステップS4iで測定したテーブル温度を用いてテーブル105の熱膨張量とミラーの回転角を求める。
【0117】
本実施例によれば、実施例3と同様に、試料がチャック上を滑る際の不動点座標を特定した上で、高精度に撮影箇所の位置補正量を予測することが可能となり、位置補正によって精度を高めて試料の撮影を行うことが可能になる。
【符号の説明】
【0118】
100 撮影装置
101 カラム
102 試料
103 チャック
104 温度センサ
105 テーブル
106 Xミラー
107 チャック支柱
108 XYステージ
109 X軸レーザー干渉計
110 Yミラー
111 Y軸レーザー干渉計
201 撮影箇所
202 X軸ステージ位置計測距離
203 Y軸ステージ位置計測距離
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8